説明

リストバンド

【課題】所定の柔軟性および強靭性を有し、長期間の使用接触によってもかぶれなどの接触性皮膚炎が発症せず、原材料からの加工工程においても必要な酸化防止機能および滑性を保有することができるリストバンドを提供すること。
【解決手段】リストバンドの原材料として、酸化防止剤あるいは脂肪酸アミドなどの添加剤を必要としないとともに、所定の柔軟性および強靱性を備えたエチレンメタクリル酸共重合樹脂を採用することに着目したもので、人体の四肢の少なくともいずれかひとつに巻き付けるとともに、少なくともその人体の個人情報を印字可能なリストバンドであって、人体に接触する接触面18Cを有する接触面層18の素材として、エチレンメタクリル酸共重合樹脂を用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリストバンドにかかるもので、とくに病院などにおいて患者の四肢たとえば手首あるいは足首に環状にゆるく巻き付けて個人情報を表示するためのリストバンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、病院などにおいて患者の診療科、氏名、年齢、血液型などその個人固有の識別データをリストバンドに印字して表示した上で、患者の四肢たとえば手首あるいは足首に環状にゆるく巻き付けて、患者の特定を確実にすることが行われている。
【0003】
このリストバンドは、患者の肌に直接接触するものであるため、入院期間が長期にわたる場合には、その接触部位に蒸れやかぶれ、ないしは接触性皮膚炎(皮膚アレルギー)などの症状が出るおそれがあるという問題がある。
リストバンドとしては、所定の柔軟性および強靭性が要請されるため、その素材としてポリエチレンなどの合成樹脂が採用されているが、ペレット状の原材料からリストバンドとして加工成形する際に加熱した状態で、たとえば押出しラミネーション技術などによってフィルム状に延展する工程を経ることから、何種類かの化学物質を添加することがある。
【0004】
本発明者は、実際に接触性皮膚炎を発症したリストバンドについて検査した結果、原材料の加熱にともなう酸化の防止を行うための酸化防止剤、および原材料の滑性を確保するための脂肪酸アミドが上記接触性皮膚炎の原因物質のひとつとなっていることを確認した。
しかして、酸化防止剤あるいは脂肪酸アミドなどの添加剤は、上記押出しラミネーション技術などによる加工工程における加熱および延展操作を経る以上、リストバンドの原材料の選択次第では必要なものである。
したがって、リストバンドとして使用にあたっての所定の柔軟性および強靭性を有するとともに、患者の長期にわたる使用にあたって接触性皮膚炎などを発症することがないように、その加工工程においてもこれらの添加剤を用いる必要がない原材料が要請されているものである。
【0005】
【特許文献1】特開2005−283992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような諸問題にかんがみなされたもので、所定の柔軟性および強靭性を有するリストバンドを提供することを課題とする。
【0007】
また本発明は、長期間の使用接触によってもかぶれなどの接触性皮膚炎が発症しないようなリストバンドを提供することを課題とする。
【0008】
また本発明は、原材料からの加工工程において必要な酸化防止機能および滑性を保有することができるリストバンドを提供することを課題とする。
【0009】
また本発明は、酸化防止剤あるいは脂肪酸アミドなどの添加剤を必要とせずに、所定の酸化防止機能および滑性を保有することができるリストバンドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、リストバンドの原材料として、各種の材料を試行錯誤した結果、酸化防止剤あるいは脂肪酸アミドなどの添加剤を必要としないとともに、所定の柔軟性および強靱性を備えたエチレンメタクリル酸共重合樹脂を採用することに着目したもので、人体の四肢の少なくともいずれかひとつに巻き付けるとともに、少なくともその人体の個人情報を印字可能なリストバンドであって、上記人体に接触する接触面を有する接触面層の素材として、エチレンメタクリル酸共重合樹脂を用いたことを特徴とするリストバンドである。
【0011】
上記接触面層の上層に、上記接触面層に積層するナイロン樹脂による中間層と、この中間層に積層する上記個人情報を印字可能な情報表示層と、を設けることができる。
【0012】
上記接触面層にエンボス加工を施すことができる。
【0013】
上記エチレンメタクリル酸共重合樹脂は、その重合度を選択することにより、リストバンドとしての使用の形態、状況あるいは条件など、さらには患者の状況に応じて任意の柔軟性および強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるリストバンドにおいては、リストバンドの原材料として、とくに人体に直接接触する接触面についてエチレンメタクリル酸共重合樹脂を採用したので、接触性皮膚炎の原因となり得る酸化防止剤あるいは脂肪酸アミドなどの添加剤を必要とせずに、リストバンドとしての必須特性である柔軟性および強靱性はもとより、とくに皮膚との親和性、および加工上の必要操作とくに加熱をともなう延展操作を実現可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、酸化防止剤あるいは脂肪酸アミドなどの添加剤を必要としないエチレンメタクリル酸共重合樹脂を採用したので、かぶれなどのおそれがない安全なリストバンドを実現した。
【実施例】
【0016】
つぎに本発明の実施例によるリストバンドを図1ないし図3にもとづき説明する。
図1は、リストバンド連続体1の平面図であって、リストバンド連続体1は、細長い矩形状のリストバンド形成片2を破断線などによる接断線3において長手方向に切り取り分離可能に接続した帯状の構成で、ロール状に巻き取った状態で任意の方式のプリンター(図示せず)に装填可能としてある。
それぞれの単一のリストバンド形成片2は、リストバンド4およびそのカス取り部5からなり、リストバンド4の外形線に沿った破断線などによる分離線6においてリストバンド4をカス取り部5から分離することにより、患者の手首などに巻き付ける使用形態とすることができる。
リストバンド連続体1は、これを上記任意のプリンターに装填し、リストバンド4の表面側に患者の個人情報を印字することができる。
【0017】
すなわち、リストバンド4は、他の部分に対して比較的幅広の表示部7と、比較的短い幅狭のバンド固定部8と、比較的長い幅狭の長さ調節部9と、からなる。
表示部7は、印字領域10と、印字領域10以外の非印字領域11と、を有しており、印字領域10には、各種の、たとえば一次元バーコードあるいは二次元コードによるコード印字領域12、および人間の目で視認可能なヒューマン文字や記号により、患者の診療科名、氏名や年齢その他を表示するヒューマン文字印字領域13を設けてある。なお、必要であれば、患者の個人情報に関連して、その病院や病棟の情報さらには看護士に関する情報なども印字しておくこともできる。
【0018】
バンド固定部8には、バンド固定用係止孔14(たとえば1個)を形成し、長さ調節部9には同じ大きさ(孔径)の長さ調節用係止孔15(たとえば8個)を形成し、リストバンド4を患者の手首に巻いたときにその環状の径を調節して任意のバンド固定用係止孔14および長さ調節用係止孔15どうしを固定用クリップ(図示せず)により固定して患者の手首に巻き付け固定可能とする。
【0019】
図2は、リストバンド4(リストバンド連続体1、リストバンド形成片2)の拡大縦断面図であって、上層側から、情報表示層16と、中間層17と、接触面層18と、を有し、それぞれの層をたとえば押出しラミネーション技術により積層する。
【0020】
情報表示層16は、上述した印字領域10および非印字領域11などをその表面に有する個人情報を印字可能な層であって、印字層として必要ならば所定の表面処理を施した合成紙その他の材料を採用する。
【0021】
中間層17は、リストバンド4としての強度(強靭性および曲げおよび引っ張り強度など)を確保するために、たとえばナイロン樹脂その他の材料を採用する。
【0022】
接触面層18は、患者の皮膚に直接接触する層であって、皮膚との接触親和性を保持しておく必要があり、その素材として、本発明においては、エチレンメタクリル酸共重合樹脂(たとえば、三井・デュポンケミカル社製「ニュクレルN1108C」)を採用する。
この接触面層18にエンボス加工を施してあり、多数のエンボス凹部18Aおよびエンボス凸部18Bが交互に形成された表面形態を有し、接触面層18の横方向に水分や汗などの蒸気が拡散しやすいようにしている。
この接触面層18におけるエンボス加工面側が人体の皮膚との間の接触面18Cであり、人体の皮膚の動きに応じてエンボス凹部18Aあるいはエンボス凸部18Bがその皮膚に接触することになる。
【0023】
なお、この接触面層18にはエンボス加工を施すことなく、この接触面層18の開放側を人体の皮膚との接触面18Cとすることもできる。
【0024】
図3は、エチレンメタクリル酸共重合樹脂の化学構造を示す説明図であって、エチレンメタクリル酸共重合樹脂については、必要に応じてその重合度を選択可能である。
【0025】
なお、図示の例では、接触面層18の上層に、中間層17および情報表示層16を設けているが、患者(人体)の皮膚に直接接触する可能性がある接触面層18の材料をエチレンメタクリル酸共重合樹脂とすれば、情報表示層16および中間層17の材料は任意であり、積層構造自体についても単層あるいは複層の任意の形態を採用可能である。
【0026】
こうした構成のリストバンド4(リストバンド連続体1、リストバンド形成片2)を用いることにより、リストバンドとしての必要な諸特性を確保することができるとともに、とくに病院などにおいても長期にわたって安心して使用することができる。
エチレンメタクリル酸共重合樹脂は、その加熱によっても酸化しにくく、また、所定レベルの滑性を保有しており、従来のリストバンドのように酸化防止剤および滑剤(脂肪酸アミドなど)を添加する必要がなく、リストバンド4として人体に長期間にわたって接触して使用しても、既述したような、かぶれないし接触性皮膚炎を発症するおそれは少ないものである。
【0027】
すなわち、本発明のリストバンド4の素材であるエチレンメタクリル酸共重合樹脂は、カルボキシル基間の水素結合により分子間の結合力が強いので、強靭性を有するとともに、エチレン共重合体であるため適度な柔軟性を有する。
さらに、熱に対して比較的安定で押出しラミネーション技術などによる加工工程においても熱安定性を保持することができる。
また、吸湿性がなく、樹脂自体の取扱いが簡単であるとともに、蒸れやかぶれの原因とはなりにくい。
さらに、包装材料としての適正にすぐれ、積層しやすい特性があり、脂肪酸アミドなどの滑剤を必要としない。
もちろん、衛生性にもすぐれ、病院内での使用にあたっての問題はない。
【0028】
したがって、リストバンド4として必要とされる各種の特性、たとえば、柔軟性ないし軟質性、人体の皮膚に対する接触親和性、強靭性や耐久性はもちろん、その加工工程における酸化防止や滑性の保持のための酸化防止剤および脂肪酸アミドなどの添加物を必要とせず、とくに患者の個人情報の表示および確認にあたって、接触性皮膚炎を引き起こすおそれがない。
【0029】
なお本発明によるリストバンドは、上述の説明では、病院における患者への使用に供されるリストバンド4として説明したが、入場チケットをはじめ、任意の個人の識別を可能とする識別用のリストバンドとして応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例によるリストバンド4が連続した構成のリストバンド連続体1の平面図である。
【図2】同、リストバンド4(リストバンド連続体1、リストバンド形成片2)の拡大縦断面図である。
【図3】同、エチレンメタクリル酸共重合樹脂の化学構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 リストバンド連続体(図1)
2 リストバンド形成片
3 切断線
4 リストバンド(実施例、図1、図2)
5 カス取り部
6 分離線
7 リストバンド4の表示部
8 リストバンド4のバンド固定部
9 リストバンド4の長さ調節部
10 表示部7における印字領域
11 表示部7における非印字領域
12 印字領域10におけるコード印字領域
13 印字領域10におけるヒューマン文字印字領域
14 バンド固定部8におけるバンド固定用係止孔
15 長さ調節部長さ9における調節用係止孔
16 情報表示層(図2)
17 中間層
18 接触面層
18A 接触面層18のエンボス凹部(図2)
18B 接触面層18のエンボス凸部(図2)
18C 接触面層18における人体の皮膚との接触面(図2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の四肢の少なくともいずれかひとつに巻き付けるとともに、少なくともその人体の個人情報を印字可能なリストバンドであって、
前記人体に接触する接触面を有する接触面層の素材として、エチレンメタクリル酸共重合樹脂を用いたことを特徴とするリストバンド。
【請求項2】
前記接触面層の上層に、
前記接触面層に積層するナイロン樹脂による中間層と、
この中間層に積層する前記個人情報を印字可能な情報表示層と、を設けたことを特徴とする請求項1記載のリストバンド。
【請求項3】
前記接触面層にエンボス加工を施してあることを特徴とする請求項1記載のリストバンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−176033(P2007−176033A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377714(P2005−377714)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000130581)株式会社サトー (1,153)
【Fターム(参考)】