説明

リスト機器

【課題】小型化しても、受信性能の維持または向上が可能なリスト機器を提供する。
【解決手段】リスト機器としての電子腕時計1は、電波を受信するアンテナ部2と、液晶パネル部4を含む表示部と、少なくとも1枚の配線基板20と、を有し、腕8に装着可能な形態であって、アンテナ部2は、腕8に装着された状態で、液晶パネル部4の腕側に配置され液晶パネル部4に最も近い配線基板20と、腕8と、の間に設けられている、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アンテナの機能を有する装置を内蔵するリスト機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナ機能を内蔵するリスト機器として、特許文献1に示す携帯用受信装置が開示されている。この携帯用受信装置は、表裏両面間に電磁遮蔽層が介挿されたサンドイッチ構造の配線基板の一方の面に、受信回路の一部を構成するデジタル回路部と受信アンテナとを有し、配線基板の他方の面に、配線基板を介して受信アンテナと対向し受信回路の他の一部を構成するアナログ回路部を有している。この構成の携帯用受信装置では、ノイズの影響を受け易いアナログ回路部が、高周波デジタルノイズの発生源となるデジタル回路部に対して、配線基板に介挿された電磁遮蔽層で電磁遮蔽されており、この電磁遮蔽により、デジタル回路部からアナログ回路部へのノイズ成分のリークや混入等が効果的に抑制される。そのため、携帯用受信装置は、デジタル回路部とアナログ回路部とを近接配置して、実装密度を高めて小型化することができ、さらに、ノイズの影響が低減または除去されることにより、受信性能の向上が図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−197662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術においては、デジタル回路部の影響を抑制して、携帯用受信装置の小型化を達成することは可能であるが、更なる小型化を図る場合、特許文献1に示す一般的な構成、即ち受信アンテナの側に液晶パネル等の表示部をフラットケーブルで接続して配置する構成、では、受信アンテナが液晶パネルまたはフラットケーブルの影響を受けて、インピーダンスが変動し放射効率の劣化等が生じる、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例または形態として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例に係るリスト機器は、電波を受信するアンテナ部と、液晶パネル部を含む表示部と、少なくとも1枚の配線基板と、を有し、腕に装着可能であって、前記アンテナ部が、前記腕に装着された状態で、前記表示部の前記腕側に配置され前記表示部に最も近い前記配線基板と、前記腕と、の間に設けられている、ことを特徴とする。
【0007】
本適用例のリスト機器によれば、配線基板は、1枚の場合、表示部に対して腕側に配置されていて、この配線基板より腕側の位置に、アンテナ部が配置されている。また、配線基板が複数枚の場合には、表示部の腕側に配置された配線基板のうち最も表示部に近い配線基板が該当する基板であり、この該当する配線基板に対して腕側の位置に、アンテナ部が配置されている。例えば、該当する配線基板と腕との間に、他基板や部品等が層状に配置されていれば、アンテナ部をそれら層間のいずれかへ挿入する構成である。このような構成のリスト機器は、従来例のようにアンテナ部と表示部とが配線基板の同じ面側に配置されていないため、アンテナ部が表示部または表示部を接続するフラットケーブル等の影響を受け難く、小型化した場合においても、受信性能の維持および向上が可能である。
【0008】
[適用例2]上記適用例に記載のリスト機器において、前記アンテナ部は、前記配線基板および前記表示部と同じ大きさである、ことが好ましい。
【0009】
この構成によれば、表示部がアンテナ部に対して庇状に張り出すような構成になっておらず、これにより、アンテナ部の端部においては、表示部の影響をほとんど受けることがなくなり、電磁界を十分に形成することが可能である。従って、リスト機器は、受信性能を最大限に発揮することが可能である。
【0010】
[適用例3]上記適用例に記載のリスト機器において、前記アンテナ部は、前記電波を受信するための放射電極と、給電がなされる電極であるグランド電極と、前記放射電極および前記グランド電極の間に配置された誘電体層と、を有し、前記放射電極が前記腕の方向へ向いて配置されている、ことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、アンテナ部の放射電極は、腕の方向へ向いて配置されており、これにより、グランド電極は、配線基板の方向へ向いている。アンテナ部では、放射電極の面積を最大にするため、電源供給するためのいわゆる給電点が、電波を受信する放射電極ではなくグランド電極の側に設けられている。この構成では、グランド電極が配線基板の方向へ向いていることになり、グランド電極と、配線基板の例えばグランド端子とが互いに対向しているため、それぞれの接続を容易に行なうことが可能である。この場合、受信すべき電波の一部は、一旦腕で反射し、反射後、アンテナ部の放射電極で受信される。
【0012】
[適用例4]上記適用例に記載のリスト機器において、前記放射電極と前記グランド電極とが同形状である、ことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、放射電極が角型であればグランド電極も角型であり、放射電極が丸型であればグランド電極も丸型である、というように同形状、即ち相似形となっている。放射電極とグランド電極とが、誘電体層を介し且つ互いに同形状であれば、アンテナ部は、効率良く電波を受信することが可能である。なお、この場合、放射電極は、グランド電極と同形状であることに加え、その大きさがグランド電極と同じであるか、または小さいことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】GPSシステムの概要を示す模式図。
【図2】実施形態1の電子腕時計におけるアンテナ部を含む構成を示す断面図。
【図3】a)液晶パネル部の構成を示す平面図、(b)液晶パネル部の構成を示す断面図。
【図4】電子腕時計の回路構成を示すブロック図。
【図5】(a)アンテナ部をグランド電極側から見た平面図、(b)アンテナ部への給電構成を示す断面図、(c)アンテナ部の放電電極における励振モードを示す平面図。
【図6】実施形態2の電子腕時計におけるアンテナ部構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のリスト機器における、好適な一例について、添付図面を参照して説明する。ここでは、位置情報衛星等からの電波による測位用信号等を受信して利用する、通信システムに適応したリスト機器を例にして、その概要について説明する。この通信システムは、いわゆるGPS(Global Positioning System)システムである。
【0016】
図1は、GPSシステムの概要を示す模式図である。図1に示すように、GPS衛星90は、地球の上空の所定の軌道上を周回している位置情報衛星であり、例えば1.57542GHzのマイクロ波に航法メッセージ等を重畳させた、衛星信号を地上に送信している。このGPS衛星90は原子時計を搭載しており、衛星信号には原子時計で計時された極めて正確な時刻情報であるGPS時刻情報が含まれている。そのため、GPS受信機としての機能を備えた電子腕時計(リスト機器)1は、衛星信号を受信して、内部時刻の進みまたは遅れを修正することにより、正確な時刻を表示することができる。この修正は、測時モードとして行なわれる。
【0017】
また、衛星信号にはGPS衛星90の軌道上の位置を示す軌道情報等も含まれている。つまり、電子腕時計1は、測位計算を行なうこともでき、通常、4つ以上のGPS衛星90からそれぞれ送信された衛星信号を受信することによって、それら中に含まれる軌道情報およびGPS時刻情報を使用して測位計算を行なう機能等を有している。測位計算により、電子腕時計1は、現在位置に合わせて時差を修正すること等が容易にでき、この修正は、測位モードとして行なわれる。このほか、衛星信号を利用すれば、現在位置表示、移動距離測定、移動速度計測を行なう等の各種応用が可能であり、電子腕時計1では、これらの情報を、表示部である液晶パネル部4によりデジタル表示することが可能である。
(実施形態1)
【0018】
実施形態1では、GPS受信機能を備えた電子腕時計1について、その構成の一例を説明する。図2は、実施形態1の電子腕時計におけるアンテナ部を含む構成を示す断面図である。図2および図1に示すように、GPS受信機能付きの電子腕時計1は、ステンレス鋼、チタン等の金属やプラスティック等の樹脂で構成され、この場合プラスティック(ポリカーボネート樹脂)で形成された外装ケース11と、外装ケース11を腕8に装着するためのベルト19と、を備えている。外装ケース11は、外観が略円筒状に形成され、時刻等の情報を視認する側である表面側の開口に取り付けられたガラス12と、電子腕時計1が装着される腕8の側である裏面側に取り付けられた裏蓋13と、外装ケース11の側面に設けられたボタン16a,16b,16c(図1)と、を有している。これらボタン16(16a,16b,16c)は、手動操作により、液晶パネル部4への表示の設定等ができるように構成されている。
【0019】
外装ケース11の内部には、時刻を刻む等の処理をするための駆動機構と、情報の処理および処理された情報を表示するための処理機構等と、を有していて、これら各機構等を支持する支持枠15が設けられている。支持枠15は、その表面側から順に、時刻等の諸情報を示すための液晶パネル部4と、図4を参照して後述する受信モジュール30や制御部40等を裏面側に有し不図示の他基板との中で最も液晶パネル部4の側に位置する配線基板20と、受信モジュール30や制御部40等をシールドしているシールド部21と、GPS衛星90からの電波を受信するためのアンテナ部2と、電子腕時計1の電力供給源である電池18と、をそれぞれ支持している。また、電子腕時計1では、アンテナ部2、液晶パネル部4および配線基板20は、ほぼ同じ大きさ、即ち略合同をなす矩形形状であり、外周が略円形状の支持枠15の内側に収容されている。この支持枠15の外周には、外装ケース11との位置合わせ用の突起(不図示)が設けられ、液晶パネル部4が、外装ケース11に対して、所定の位置に設置されるようになっている。なお、アンテナ部2、液晶パネル部4および配線基板20は、同じ大きさ、即ち合同をなしていれば、より好ましい。
【0020】
そして、液晶パネル部4は、配線基板20における、アンテナ部2と反対側である、表面側の面にフレキシブル基板4nを介して接続されている。また、アンテナ部2は、電池18の側から順に、放射電極2a、誘電体層2b、グランド電極2cを有し、グランド電極2cの側に設けられている給電点2dへ、受信モジュール30の給電部70から高周波の給電がなされる構成になっている。この給電点2dには、コネクター25が設けられていて、給電点2dと対向している配線基板20の裏面側に、リード線26によって接続されている。つまり、アンテナ部2は、給電点2dが配線基板20と対向するような配置になっているため、アンテナ部2と配線基板20との接続が容易な構成である、と言える。また、グランド電極2cは、放射電極2aと同じ大きさであることが好ましいが、放射電極2aより大きい設定であっても良い。また、誘電体層2bの外縁壁と外装ケース11との間には、2mmの隙間を設けることが好ましい。なお、このアンテナ部2の詳細構成および受信機能等については、後で図5を参照して詳細に説明する。
【0021】
次に、液晶パネル部4について説明する。図3(a)は、液晶パネル部の構成を示す平面図であり、図3(b)は、液晶パネル部の構成を示す断面図である。図3(b)は、図3(a)のP−P’に沿った断面図である。これら図3(a)および図3(b)において、液晶パネル部4は、透明基板4aと、透明基板4aと対をなす対向基板4bとが、封止材であるシール材4cによって貼り合わされている構成である。つまり、シール材4cは、両基板面内において、閉ざされた空間領域を形成している。
【0022】
そして、液晶パネル部4は、シール材4cによる枠状領域の内側に、モザイク状等をなし透明基板4aの表面に配置されている複数の画素電極(画素)4dと、各画素電極4dをスイッチング制御するTFT(Thin Film Transistor)4eと、対向基板4bにおける透明基板4a側の面に画素電極4dに対向して配置されている平面状の対向電極4fと、画素電極4dおよび対向電極4fを覆うように形成されている配向膜4gと、シール材4cおよび配向膜4gによって区画された領域内に封入保持されている液晶4hと、透明基板4aにおけるTFT4eと反対側に設けられ液晶4hの方向へ向けて白色の光10を発光する光源部4jと、を有している。これら画素電極4d、TFT4e、対向電極4fおよび配向膜4gは、透明な部材により形成されている。液晶4hは、TFT4eによりスイッチング制御された画素電極4dに対応して、光源部4jからの光10を透過または遮断することにより、各種情報の表示をする。即ち、液晶パネル部4は、いわゆる透過型液晶表示装置である。また、液晶パネル部4は、端子部4mを介して、外部との接続用のフレキシブル基板4nを有し、フレキシブル基板4nは、配線基板20(図2)の液晶パネル部4側の面に接続されている。ここでは、光源部4jとして、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)を用いて、画素電極4dを介して液晶4hへ給光している。なお、画素電極4dを廃止することも可能であって、その場合、画素電極4dのあった位置へ有機ELをそれぞれ配置し、これら有機ELを個々にスイッチング制御する構成となる。さらに光源部4jは、例えば光源ランプの光を導光板で液晶4hの全面に対して導く構成のものも考えられる。
【0023】
なお、液晶パネル部4においては、使用する液晶4hの種類、つまり、TN(Twisted Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モード等の動作モードや、ノーマリホワイトモードまたはノーマリブラックモードの別に応じて、位相差板、偏光板等が所定の向きに配置されるが、ここでは図示を省略してある。また、液晶パネル部4をカラー表示用として構成する場合には、対向基板4bにおいて、各画素電極4dに対向する領域に、赤(R)、緑(G)、青(B)のフィルターを設ければよい。さらに、液晶パネル部4において、光源部4jの替わりに透明基板4aの液晶側に反射板を設け、対向基板4b側からの光を反射する構成、いわゆる反射型液晶表示装置の形態、とすることも可能である。
【0024】
次に、GPS受信機能を備えた電子腕時計1の回路構成について説明する。図4は、電子腕時計の回路構成を示すブロック図である。図4に示すように、電子腕時計1は、アンテナ部2と、受信モジュール30と、制御部40を含む表示部80と、電池18と、を含んで構成されている。
【0025】
受信モジュール30は、アンテナ部2が接続されており、SAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波)フィルター35と、RF(Radio Frequency:無線周波数)部50と、ベースバンド部60と、を含んで構成されている。SAWフィルター35は、アンテナ部2が受信した電波から衛星信号を抽出する処理を行う。RF部50は、LNA(Low Noise Amplifier)51と、ミキサー52と、VCO(Voltage Controlled Oscillator)53と、PLL(Phase Locked Loop)回路54と、IF(Intermediate Frequency:中間周波数)アンプ55と、IFフィルター56と、ADC(A/D変換器)57と、を含んで構成されている。
【0026】
SAWフィルター35が抽出した衛星信号は、LNA51で増幅され、ミキサー52でVCO53が出力するクロック信号とミキシングされて中間周波数帯の信号にダウンコンバートされる。PLL回路54は、VCO53の出力クロック信号を分周したクロック信号と基準クロック信号とを位相比較してVCO53の出力クロック信号を基準クロック信号に同期させる。ミキサー52でミキシングされた信号は、IFアンプ55で増幅され、IFフィルター56で高周波信号が除去される。IFフィルター56を通過した信号は、ADC(A/D変換器)57でデジタル信号に変換される。ベースバンド部60は、DSP(Digital Signal Processor)61と、CPU(Central Processing Unit)62と、SRAM(Static Random Access Memory)63と、RTC(リアルタイムクロック)64と、を含んで構成されている。また、ベースバンド部60には、温度補償回路付き水晶発振回路(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator)65やフラッシュメモリー66等が接続されている。
【0027】
温度補償回路付き水晶発振回路(TCXO)65は、温度に関係なくほぼ一定の周波数の基準クロック信号を生成し、フラッシュメモリー66には、現在位置情報や時差情報等が記憶されている。ベースバンド部60は、測時モード等に設定されると、RF部50のADC57が変換したデジタル信号からベースバンド信号を復調する処理を行う。また、ベースバンド部60は、捕捉したGPS衛星90の航法メッセージに含まれる軌道情報やGPS時刻情報等の衛星情報を取得してSRAM63に記憶する。また、受信モジュール30には、アンテナ部2の給電点2d(図2)へ高周波の給電をするための、給電部70が設けられている。
【0028】
そして、表示部80は、制御部40および水晶振動子43等を含んで構成されている。制御部40は、記憶部41と、発振回路42と、駆動回路44とを備え、各種制御を行う。制御部40は、受信モジュール30を制御し、制御信号を受信モジュール30に送り、受信モジュール30の受信動作を制御すると共に、制御部40内の駆動回路44を介して液晶パネル部4の表示を制御する。記憶部41には内部時刻情報をはじめ各種情報が記憶されている。
【0029】
ここで、電子腕時計1に内臓されているアンテナ部2は、複数のGPS衛星90(図1)からの衛星信号を受信する必要がある。GPS衛星90から送信される衛星信号の電波は、いわゆる円偏波であるため、アンテナ部2は、この円偏波を受信するのに適したパッチアンテナであることが望ましく、さらに、電子腕時計1に組み込めるように、コンパクトな形態であることが好ましい。そこで、電子腕時計1では、以下に説明するようなコンパクトな形態のアンテナ部2を、配線基板20と電池18との間に挿入した構成であり、即ち、電子腕時計1は、液晶パネル部4に最も近接している基板である配線基板20と、電子腕時計1を装着すべき腕と、の間にアンテナ部2を設けていることになる。
【0030】
図5(a)は、アンテナ部2をグランド電極側から見た平面図、図5(b)は、アンテナ部2への給電構成を示す断面図、図5(c)は、アンテナ部2の放電電極における励振モードを示す平面図である。図5に示すように、アンテナ部2は、パッチアンテナのパッチ金属板として電波を受信する機能を果たす放射電極2aと、放射電極2aと対向して位置するグランド電極2cと、放射電極2aとグランド電極2cとに挟持された誘電体層2bと、を有している。アンテナ部2のグランド電極2cの側には、誘電体層2bを挿通して放射電極2aと接続されている面である給電点2dが設けられていて、給電点2dは、この場合、1mmの円形であって、グランド電極2cとは絶縁された状態になっている。また、誘電体層2bを挿通する部分は、直径0.5mmの円柱状をなしている。この給電点2dに配置されるコネクター25(図2)は、給電点2dを介して放射電極2aと接続していると共に、グランド電極2cにも接続している。そして、放射電極2aまたはグランド電極2cにそれぞれ接続されたリード線26がコネクター25から延出し、放射電極2aおよびグランド電極2cと、給電部70と、を配線基板20を介して電気的に導通させている。
【0031】
放射電極2aは、1つの角部に三角形状の切欠部2eを有する矩形状(略四角形)であって、通常、銅・アルミニウム・鉄・金・銀・パラジウム・酸化インジュウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)等の導体またはこれらの合金であれば機能するが、この場合、10μmの厚さの銅(Cu)めっきによって形成されている。同時に、誘電体層2bを挿通する部分も、銅(Cu)めっきによって形成されている。そして、放射電極2aにおいては、切欠部2eの近傍の銅(Cu)めっきを部分的に削り取ったトリミング部2fを設けることにより、個別の周波数調整を容易に行なうことが可能である。また、グランド電極2cは、放射電極2aとほぼ同じ矩形状であって、10μmの厚さの銅(Cu)めっきによって、給電点2dを含めて、同時に形成されている。このように、給電点2dがグランド電極2cの側にあれば、電波を受信する放射電極2aの面積を最大限にすることができる。
【0032】
誘電体層2bは、放射電極2aとほぼ同じ大きさの矩形状であって、使用可能な材質としては、アルミナ(Al23)、ムライト(3Al23・2SiO2)、ステアライト(MgO/SiO2)、フォルステライト(2Mg2O/SiO2)、ジルコニア(PSZ)、チタン酸マグネシア(MgTiCO3)等が挙げられる。この誘電体層2bの特性としては、誘電率が8以上22以下が望ましく、誘電正接が0.001以下が望ましい。そこで、これらの特性を得るために、リスト機器における誘電体層2bのサイズは、電子腕時計1のような矩形状の場合には一辺が2cm〜4cmであることが望ましい。参考に、誘電体層2bが円形である場合には直径が2.5cm〜3.5cmであることが望ましい。また、いずれの場合でも、厚さは、0.05mm〜1.5mmであることが望ましい。電子腕時計1において、アンテナ部2の誘電体層2bは、厚さ0.7mm、短辺2.7cmおよび長辺3.2cmの矩形状をなすアルミナ(Al23)を用いていて、この場合のアルミナ(Al23)は、誘電率が17および誘電正接が0.001の特性を有している。また、切欠部2eは、短辺側3mm、長辺側3.5mmに切り欠いた設定である。
【0033】
次に、このような構成のアンテナ部2による、GPS衛星90からの測位用信号を含む電波の受信について説明する。GPS衛星90からの電波は、受信する対象が、移動体のように任意の方向を向いていても受信可能となるように、円偏波が用いられている。円偏波は、時間の経過と共に電界の方向が回転する形態のものである。一般に、アンテナは、電波の電界方向と同じ方向に電流が流れることにより、該電波を受信することができる。従って、円偏波を受信するためには、アンテナに流れる電流を時間の経過と共に、回転させることが肝要である。アンテナに流れる電流が回転するためには、直交する方向に電流を流し90度の位相差を持った励振を発生させれば良い。アンテナ部2では、放射電極2aにおいて、以下に説明するようにして、互いに直交し90度の位相差を持った、2つの励振モードを発生させることにより、円偏波の受信を可能にしている。
【0034】
図5(c)に示すように、アンテナ部2は、給電点2dの部分において給電を受けるピン給電方式である。この方式は、給電系に特別な回路素子等を用いることなく励振モードを発生させることができ、円偏波の受信が容易に行える簡便なものである。このような配置のアンテナ部2において、給電部70から、給電点2dを介して、放射電極2aへ高周波の給電がなされると、放射電極2aには、この場合、長辺方向に電流が流れ励振モードF1が発生し、励振モードF1と直交する方向には、短辺方向に電流が流れ励振モードF2が発生する。逆に言えば、アンテナ部2の構成によって、上記のような励振モードF1,F2が発生するように、給電点2dを設定することが可能である。この時、励振モードF1と励振モードF2との励振は、放射電極2aの矩形状により異なっており、短辺および長辺の長さやトリミング部2fの調整をすることにより、励振モードF1と励振モードF2とを異なる位相とする等の制御が容易に行なえる。
【0035】
また、電子腕時計1において、アンテナ部2は、液晶パネル部4の外形状と同じであって、液晶パネル部4がアンテナ部2に対し外形方向へ張り出していないような構成である。そのため、放射電極2aは、その端部において、液晶パネル部4の影響をほとんど受けることなく、電磁界を形成することができる。これにより、放射電極2aは、受信部としてGPS衛星90からの電波を確実に受信することができる。これは、アンテナ部2が液晶パネル部4の外形状より大きい場合においても、ほぼ同様なことが言える。
【0036】
以上説明したように、実施形態1の電子腕時計1におけるアンテナ部2は、配線基板20が液晶パネル部4に対して腕8の側に配置されていて、この配線基板20より腕8の側の位置に、アンテナ部2が配置されている。このような構成の電子腕時計1は、アンテナ部2と液晶パネル部4とが配線基板20の同じ面側に配置されていないため、アンテナ部2が液晶パネル部4または液晶パネル部4を接続するためのフレキシブル基板4nの影響を受け難く、受信性能の向上が図れる、という利点がある。これにより、電子腕時計1は、小型化された場合においても、受信性能を少なくとも維持することができる。さらに、アンテナ部2は、放射電極2aが電池18の側、即ち腕8の側、を向いていることにより、グランド電極2cの側の給電点2dが配線基板20と対向するような配置である。そのため、アンテナ部2と配線基板20との接続が容易な構成となっている。なお、配線基板が複数枚の場合には、液晶パネル部4に対し腕8の側に配置された配線基板のうち、最も液晶パネル部4に近い配線基板20の腕8の側に、アンテナ部2が配置されることになる。
(実施形態2)
【0037】
次に、アンテナ部2の他の形態について説明する。図6は、実施形態2の電子腕時計におけるアンテナ部構成を示す断面図である。実施形態2におけるアンテナ部2は、放射電極2aおよびグランド電極2cの配置方向が実施形態1の場合とは異なっている。以下では、アンテナ部2を構成する部品において、機能が同一なものには同一符号を付与してあり、実施形態1と異なる部分についてのみ説明する。
【0038】
図6に示すように、電子腕時計1のアンテナ部2は、電池18の側から順に、グランド電極2c、誘電体層2b、放射電極2aを有し、グランド電極2cの側に設けられている給電点2dへ、受信モジュール30の給電部70から高周波の給電がなされる構成になっている。この給電点2dには、コネクター25が設けられていて、給電点2dおよびグランド電極2cのそれぞれとリード線26とが接続されている。アンテナ部2は、リード線26によって、コネクター25から配線基板20まで接続され、配線基板20上で給電部70に接続されている。この構成によれば、実施形態1における構成と比べて、リード線26が長くなるが、アンテナ部2の放射電極2aがガラス12の方向を向いており、ガラス12の方向からの電波を直接受信することができる。
【0039】
実施形態2の電子腕時計1におけるアンテナ部2によれば、配線基板20が液晶パネル部4に対して腕8の側に配置されていて、アンテナ部2が液晶パネル部4またはフレキシブル基板4nの影響を受け難くなっていることにより、受信性能の向上が図れる、という利点に加え、放射電極2aがガラス12の方向を向いていることにより、効率良く電波を受信することが可能である。
【0040】
以上説明したリスト機器である電子腕時計1は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、次に挙げる変形例のような形態であっても、各実施形態のいずれかと同様な効果が得られる。
【0041】
(変形例1)電子腕時計1のアンテナ部2および液晶パネル部4は、矩形状をなしている形態であるが、この形態に限定されることなく、円形や楕円形等をなす形態であっても良く、矩形形状の場合と同様に機能する。
【0042】
(変形例2)アンテナ部2を構成する放射電極2a、誘電体層2bおよびグランド電極2cは、それぞれが直に貼り合わされたような一体構成であることに限定されず、これらのいずれかの間に他の基板等が挿入されている構成であっても良い。これにより、アンテナ部2は、その設置構成に柔軟性を有することになる。
【0043】
(変形例3)アンテナ部2の切欠部2eは、三角形の形状に限定されず、外縁からアンテナ部2の内部方向へ向かって凹状に形成された形状や、外縁から凸状に突起した形状等であっても良い。これにより、アンテナ部2は、電子腕時計1のデザイン形状等に対応して、融通性のある設定が可能である。
【0044】
(変形例4)アンテナ部2が配線基板20と腕8との間にある設定には、アンテナ部2が裏蓋13の外面側、即ち腕8と対向する側の面、に配置されているような構成も含んでいる。
【0045】
(変形例5)リスト機器としては、電子腕時計1に限らず、アンテナ部2を有する、トラベルクロック、懐中時計および携帯型電子機器に付属する時計類も該当し、さらに、時計機能を有していない携帯端末等に適用することも可能である。また、表示部は、液晶パネル部4に限定されるものではなく、液晶以外による表示を用いたものであっても良く、例えば、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)やEPD(Electro Phoretic Display)等が挙げられる。
【符号の説明】
【0046】
1…リスト機器としての電子腕時計、2…アンテナ部、2a…放射電極、2b…誘電体層、2c…グランド電極、2d…給電点、2e…切欠部、2f…トリミング部、4…表示部としての液晶パネル部、4n…フレキシブル基板、8…腕、11…外装ケース、20…配線基板、25…コネクター、30…受信モジュール、40…制御部、70…給電部、90…GPS衛星。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を受信するアンテナ部と、液晶パネル部を含む表示部と、少なくとも1枚の配線基板と、を有し、腕に装着可能なリスト機器であって、
前記アンテナ部は、前記腕に装着された状態で、前記表示部の前記腕側に配置され前記表示部に最も近い前記配線基板と、前記腕と、の間に設けられている、ことを特徴とするリスト機器。
【請求項2】
請求項1に記載のリスト機器において、
前記アンテナ部は、前記配線基板および前記表示部と同じ大きさである、ことを特徴とするリスト機器。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリスト機器において、
前記アンテナ部は、
前記電波を受信するための放射電極と、
給電がなされる電極であるグランド電極と、
前記放射電極および前記グランド電極の間に配置された誘電体層と、を有し、
前記放射電極が前記腕の方向へ向いて配置されている、ことを特徴とするリスト機器。
【請求項4】
請求項3に記載のリスト機器において、
前記放射電極と前記グランド電極とが同形状である、ことを特徴とするリスト機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−61308(P2013−61308A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201462(P2011−201462)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】