説明

リチウム−空気電池

【課題】リチウムイオンの伝導率が高く、かつ割れにくい固体電解質をセパレータとして用いるリチウム−空気電池を提供する。
【解決手段】負極、負極用の有機電解液、陽イオン交換膜、電解液で満たされたセパレータ空間、陰イオン交換膜、空気極用の水溶性電解液および空気極がその順に設けられたリチウム−空気電池であって、負極にはリチウム金属、リチウムカーボン、リチウムシリコン、リチウムシリコン、リチウムアルミニウム、リチウムインジウム、リチウム錫、窒化リチウムの中から選ばれた負極材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な電池構造を有するリチウム−空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近数多くのリチウム−空気電池(或いはリチウム−酸素電池)の提案が報告されている。それらは、リチウム金属/有機電解液/固体電解質/水溶性電解液/触媒担持した多孔質カーボンを組み合わせたリチウム−空気電池に関するものである。
【0003】
このリチウム−空気電池は、電解液として、負極側に有機電解液を、また、空気極側に水溶性電解液をそれぞれ分けて用い、負極側の有機電解液と空気極側の水溶性電解液の間に、リチウムイオンのみを通す固体電解質をセパレータとして使用する。放電反応により負極から溶出したリチウムイオンは固体電解質を介して空気極側の水溶性電解液に至り、ここで、固体の酸化リチウムではなく、水溶性電解液に溶けやすいLiOHが生成する。また、水や酸素などは固体電解質を通ることが出来ないため、これらが負極のリチウム金属と反応する危険性がない。更に、充電せず、負極側にリチウム金属を燃料として加えれば、燃料電池のように連続放電可能なリチウム−空気電池が得られる。
【0004】
しかしながら、このリチウム−空気電池において用いられるガラス性の固体電解質は、振動と衝突により割れやすく、割れた際には、水が金属リチウムと反応し、水素が発生する恐れがある。また、当該固体電解質のリチウムイオンの伝導率は、室温25℃の時に約1×10-4S/cmである。
当該リチウムイオンの伝導率の、室温25℃で1×10-4S/cmという数値は、有機電解液の10-2S/cm、水溶性電解液の10-1S/cmという値より、遥かに小さい。固体電解質の、この小さいリチウムイオンの伝導率は、リチウム−空気電池の充放電性能に大きな影響を及ぼしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 195 (2010) 358-361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のリチウム−空気電池が、固体電解質のリチウムイオンの伝導率が小さいことに起因して、充放電性能が十分ではないという問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、新規な反応システムを利用したリチウム−空気電池について、長年鋭意検討した結果、従来の固体電解質のセパレーターに替えて、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を両側面に配し、これらに囲まれたセパレータ空間を設けることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。当該セパレータ空間を有する、本発明のリチウム−空気電池の構造は、負極材料/有機電解液/陽イオン交換膜/有機電解液或いは水溶性電解液/陰イオン交換膜/水溶性電解液/空気極、となる。
【0008】
上記構成のリチウム−空気電池においては、放電時に、負極から放出されるリチウムイオンは、陽イオン交換膜を通過した後、陰イオン交換膜にブロックされ、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれる空間にとどまり、一方で、空気極に生成するOH-陰イオンは、空気極側から陰イオン交換膜を通過した後、陽イオン交換膜にブロックされ、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれる空間にとどまる。
【0009】
陽イオン交換膜のリチウムイオン伝導率および陰イオン交換膜のOH-陰イオン伝導率は、約10-1〜10-2S/cm程度である。この値は、現在の固体電解質のリチウムイオンの伝導率より遥かに高い。
【0010】
したがって、この構成のリチウム−空気電池は、従来の低いイオンの伝導率の問題を解決することができる。また、OH-陰イオンは陽イオン交換膜によりブロックされるので、これが負極のリチウム金属と反応する危険性がない。更に、放電反応の生成物であるリチウムイオンとOH-陰イオンが、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれた、真ん中のセパレータ空間に集中するので、リチウム燃料電池として使用する時のLiOHの回収に有効となる。
【0011】
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉リチウムイオン電池、或いはリチウム二次電池の負極材料を用いた負極、負極用の電解液、陽イオン交換膜、電解液で満たされたセパレータ空間、陰イオン交換膜、空気極用の電解液および空気極がその順に設けられることを特徴とする、リチウム−空気電池。
〈2〉リチウムイオン電池、或いはリチウム二次電池の負極材料を用いた負極/有機電解液/陽イオン交換膜/有機電解液或いは水溶性電解液/陰イオン交換膜/水溶性電解液/空気極がその順に設けられることを特徴とする、〈1〉に記載のリチウム−空気電池。
〈3〉負極として、リチウム金属、リチウムカーボン、リチウムシリコン、リチウムアルミニウム、リチウムインジウム、リチウム錫、窒化リチウムの中から選ばれた負極材料を用い、負極用電解液が有機電解液であることを特徴とする、〈1〉または〈2〉に記載のリチウム−空気電池。
〈4〉空気極が、白金、貴金属、ペロブスカイト酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅の中から選ばれた触媒が担持された多孔質カーボン或いは微細化カーボンであり、充電可能であることを特徴とする、〈1〉〜〈3〉のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
〈5〉〈1〉〜〈4〉のいずれかに記載したリチウム−空気電池の空気極用の電解液に充電専用の正極を配置していることを特徴とする、充電可能なリチウム−空気電池。
〈6〉空気極用電解液が水溶性電解液であり、当該水溶性電解液はアルカリ性(弱アルカリ性或いは強アルカリ性)であることを特徴とする、〈1〉〜〈5〉のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
〈7〉空気極用電解液がアルカリ性或いは強アルカリ性水を含むゲルであることを特徴とする、〈1〉〜〈6〉のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
〈8〉放電時に、負極から溶出するリチウムイオンが陽イオン交換膜を通過し、陰イオン交換膜にブロックされ、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれる空間にとどまり、一方、空気極において生成したOH-陰イオンが空気極側から陰イオン交換膜を通過し、陽イオン交換膜にブロックされ、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれる空間にとどまることを特徴とする、〈1〉〜〈7〉のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
〈9〉放電と共に、負極の金属リチウムの表面には、Li => Li+ + e-となる溶解反応が、空気極の触媒担持した多孔質カーボン或いは微細化カーボンの表面には、O2 + 2H2O + 4e- => 4OH- なる酸素の溶解反応があり、充電と共に、負極の金属リチウムの表面には、Li+ + e- => Li なる析出反応が、空気極には、4OH- => O2 + 2H2O + 4e- なる反応が生じることを特徴とする、〈1〉〜〈4〉および〈6〉〜〈8〉のいずれかに記載の充電可能なリチウム−空気電池。
〈10〉放電と共に、負極の金属リチウムの表面には、Li => Li+ + e-となる溶解反応が、空気極の触媒担持した多孔質カーボン或いは微細化カーボンの表面には、O2 + 2H2O + 4e- => 4OH- なる酸素の溶解反応があり、充電と共に、負極の金属リチウムの表面には、Li+ + e- => Li なる析出反応が、充電専用の正極電極には、4OH- => O2 + 2H2O + 4e- なる反応が生じることを特徴とする、〈5〉〜〈8〉のいずれかに記載の充電可能なリチウム−空気電池。
〈11〉負極側のリチウム金属が溶解反応により全部消耗するまでは、連続放電可能であることを特徴とする、〈1〉〜〈10〉のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
〈12〉負極側にリチウム金属を燃料として適時に添加し、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれた領域に生成したLiOHの沈殿を電解液から分離することにより、充電せず、連続放電可能であることを特徴とする、〈1〉〜〈11〉のいずれかに記載のリチウム−空気電池或いはリチウム燃料電池。
〈13〉放電することにより陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれる空間においてリチウムイオンと水酸化イオンとから生じた水酸化リチウムを回収し、当該水酸化リチウムから金属リチウムを再生して、その金属リチウムを負極の活物質として再使用することを特徴とする〈1〉〜〈12〉のいずれかに記載のリチウム−空気電池或いはリチウム燃料電池。
〈14〉陽イオン交換膜の有機電解液側にワックスを被覆することを特徴とする、〈1〉〜〈13〉のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウム−空気電池は、従来の固体電解質セパレータの割れやすいという問題を解決するとともに、当該固体電解質を用いたリチウム−空気電池の低いイオンの伝導率の問題を解決することができる。また、OH-陰イオンは陽イオン交換膜によりブロックされるので、これが負極のリチウム金属と反応する危険性がない。更に、放電反応の生成物であるリチウムイオンとOH-陰イオンが、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれた、真ん中のセパレータ空間に集中するので、本発明のリチウム−空気電池をリチウム燃料電池として使う時のLiOHの回収に有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の負極/有機電解液/固体電解質/水溶性電解液/空気極という構造を有するリチウム−空気電池の説明図
【図2】本発明の負極/有機電解液/陽イオン交換膜/セパレータ空間(有機電解液或いは水溶性電解液)/陰イオン交換膜/水溶性電解液/空気極という構造を有するリチウム−空気電池の説明図
【図3】実施例1のリチウム−空気電池の構造図
【図4】実施例1のリチウム−空気電池の放電のプロファイル
【図5】実施例2のリチウム−空気電池の構造図
【図6】実施例2のリチウム−空気電池の放電のプロファイル
【図7】実施例3のリチウム−空気電池の構造図
【図8】実施例3のリチウム−空気電池の放電のプロファイル
【図9】実施例3のリチウム−空気電池の充放電のサイクル特性
【図10】本発明のリチウム−空気電池をリチウム燃料電池として用いる場合の説明図(セパレータ空間に生成したLiOHを電解液から分離し、得られたLiOHからリチウム金属を精製して、燃料として負極側のリチウム金属に添加する)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のリチウム−空気電池は、負極、負極用の電解液、陽イオン交換膜、電解液で満たされたセパレータ空間、陰イオン交換膜、空気極用の電解液および空気極がその順に設けられたリチウム−空気電池であることを特徴としている。
【0015】
リチウム−空気電池においては、放電と共に、負極において、Li => Li+ + e-なるリチウムの溶解反応が、空気極表面において、O2 + 2H2O + 4e- => 4OH- なる酸素の溶解反応が生じ、充電と共に、負極表面において、Li+ + e- => Li なる析出反応が、空気極において、4OH- => O2 + 2H2O + 4e- なる反応が生じる。
【0016】
本発明のリチウム−空気電池は、両側を陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれるセパレータ空間を有することにより、充放電に伴い、負極側のリチウムイオンは負極側の有機電解液から陽イオン交換膜を介して当該セパレータ空間に出入りするが、陰イオン交換膜によりブロックされて、空気極側の水溶性電解液には入れない。一方、空気極側のOH-イオンは空気極側の水溶性電解液から陰イオン交換膜を介してセパレータ空間に出入りするが、陽イオン交換膜によりブロックされ、負極側の有機電解液には入れない。
【0017】
本発明の代表的なリチウム−空気電池を、図2に示す。
図2において、1は負極であるリチウム金属、2は負極側用の有機電解液、3は陽イオン交換膜、4は陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれるセパレータ空間、5は陰イオン交換膜、6は空気極側の水溶性電解液、7は多孔質担体、触媒、およびバインダーからなる空気極を示す。
【0018】
1の負極を形成する材料としては、リチウム金属、リチウムカーボン、リチウムシリコン、リチウムアルミニウム、リチウムインジウム、リチウム錫、窒化リチウムなどが挙げられる。この中でも大容量、サイクル安定性の点からみて、金属リチウムが好ましく使用される。
【0019】
負極域の電解液は特に制限はないが、負極として金属リチウムを用いた場合には、電解液として有機電解液を用いる必要がある。
電解液に含有させる電解質としては、電解液中でリチウムイオンを形成するものであれば特に限定されない。例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiAlCl4、LiCF3 SO3、LiSbF6 等が挙げられる。これら電解質は、単独でもよいが、組み合わせて使用してもよい。
また、電解液の溶媒としては、この種の有機溶媒として公知のものがすべて使用できる。例えば、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、ジエチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもよいが、組み合わせて使用してもよい。
【0020】
3は、陽イオン交換膜である。負極域の有機電解液とセパレータ空間中には、リチウムイオンのほかの陽イオンが存在していないため、リチウムイオンのみが陽イオン交換膜を通過する。
【0021】
4は、セパレータ空間である。セパレータ空間中には、リチウムイオンとOH-イオンの二種類しか存在しない。電解液は有機電解液或いはアルカリ性水溶性電解液を用いる。
【0022】
5は、陰イオン交換膜である。空気極側の水溶性電解液とセパレータ空間中には、OH-イオンのほかの陰イオンが存在していないため、OH-イオンのみが陰イオン交換膜を通過する。
【0023】
6は、空気極側の水溶性電解液である。水溶性電解液はアルカリ性或いは強アルカリ性水あるいは当該水を含むゲルを用いる。
【0024】
7の空気極としては、白金、貴金属、マンガン酸化物、コバルト酸化物、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅から選ばれた触媒を担持する多孔質カーボン或いは微細化カーボンを用いることができる。
【0025】
これに対して、従来の有機電解液/固体電解質/水溶性電解液を用いるリチウム−空気電池を、図1に示す。
図1において、1は負極であるリチウム金属、2は負極側用の有機電解液、3は固体電解質セパレータ(或いは耐強アルカリ性高分子イオン交換膜つけた固体電解質セパレータ)、4は空気極用の水溶性電解液、5は多孔質担体、触媒、およびバインダーからなる空気極を示す。
【0026】
当該従来型のリチウム−空気電池においては、充電と放電に伴い、リチウムイオンが固体電解質を介して、空気極区域から負極区域へ、あるいは、負極区域から空気極区域へと移動する。
すなわち、放電時、負極から負極区域溶液に溶出したLi+は固体電解質を通過して、空気極区域へ移動し、充電時、空気極区域溶液中のLi+は固体電解質を通過して、負極区域へ移動し、負極にリチウムが析出する。
【0027】
本発明のリチウム−空気電池は、従来の固体電解質セパレータを用いたリチウム−空気電池に比べると、以下のメリットを有する。
1)陽イオン交換膜/セパレータ区間/陰イオン交換膜のイオンの電導率は約10-1〜10-2S/cmになり、従来の固体電解質のリチウムイオンの電導率の約1×10-4S/cmに比べて遙かに高い。
これにより、本発明のリチウム−空気電池は、従来のリチウム−空気電池の低いイオンの電導率の問題を解決することができ、優れた充放電性能を得ることができる。
2)陽イオン交換膜と陰イオン交換膜はフレキシブルであり、加工しやすく、かつ、固体電解質のように割れることがない。
3)セパレータ空間にLiOHが集中するので、リチウムを回収しやすく、リチウム燃料電池に展開しやすい。
すなわち、本発明のリチウム−空気電池は、負極側にリチウム金属を燃料として適宜添加し、セパレータ空間に生成したLiOHの沈殿を電解液から分離すれば、燃料電池のように連続放電させることが可能である。
リチウム燃料電池においては、負極側のリチウム金属が溶解反応により全部消耗するまで、連続放電可能である。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明する。
【0029】
実施例1
図3に示される装置において、1の負極として金属リチウムリボンを、2の負極用有機電解液として、1MのLiClO4を溶解した有機電解液(EC/DEC)を、3の陽イオン交換膜としてCMV(旭硝子株式会社製)を、4のセパレータ空間の電解液として、0.5MのLi2SO4と0.5MのLiOH水溶液の混合電解液を、5の陰イオン交換膜としてAMV(旭硝子株式会社製)を、6の空気極用の電解液として、0.5MのLi2SO4と0.5MのLiOH水溶液の混合電解液を、7の空気極として多孔質カーボンに触媒としてMn3O4を担持させ、バインダーとしてPolytetrafluoroethylene (PTFE)を用いて作製した電極を、それぞれ用いて、リチウム−空気電池を作製し、充放電試験を行った。
放電時には、Li => Li+ + e- (負極)、O2 + 2H2O + 4e- => 4OH- (空気極)の電極反応が起こり、負極区域の有機電解液中のLi+が陽イオン交換膜を通過して、セパレータ空間へ移動し、一方で、空気極水溶性電解液中のOH-が陰イオン交換膜を通過して、セパレータ空間へ移動する。
充電時には、Li+ + e- => Li (負極)、4OH- => O2 + 2H2O + 4e- (空気極)、の電極反応が起こり、セパレータ空間のLi+が陽イオン交換膜を通過して、負極区域へ移動し、一方、セパレータ空間のOH-は陰イオン交換膜を通過して、空気極区域へ移動する。
実施例1のリチウム−空気電池の放電のプロファイルを図4に示す。図4に示すように、OCV(=開路電圧)は3.4V(vs Li/Li+)であり、0.5mA/cm2で放電すると、空気電極の重さあたりの容量で、1000mAh/gまでの放電ができることがわかった。
【0030】
実施例2
図5に示される装置において、1の負極として金属リチウムリボンを、2の負極用有機電解液として、1MのLiClO4を溶解した有機電解液(EC/DEC)を、3の陽イオン交換膜としてCMV(旭硝子株式会社製)を、4のセパレータ空間の有機電解液として、1MのLiClO4を溶解した有機電解液(EC/DEC)を、5の陰イオン交換膜としてAMV(旭硝子株式会社製)を、6の空気極用の電解液として、0.5MのLi2SO4と0.5MのLiOH水溶液の混合電解液を、7の空気極として多孔質カーボンに触媒としてMn3O4を担持させ、バインダーとしてPolytetrafluoroethylene (PTFE)を用いて作製した電極を、それぞれ用いて、リチウム−空気電池を作製し、充放電試験を行った。
実施例2のリチウム−空気電池の放電のプロファイルを図6に示す。図6に示すように、OCV(=開路電圧)は3.4V(vs Li/Li+)であり、0.5mA/cm2で放電すると、空気電極の重さあたりの容量で、2500mAh/gまでの放電ができることがわかった。セパレータ空間に有機電解液を用いているため、陽イオン交換膜を通しての僅かの水の浸透もないので、陽イオン交換膜の耐久性が実施例1より良好となる。
【0031】
実施例3
図7に示される装置において、1の負極として金属リチウムリボンを、2の負極用有機電解液として、1MのLiClO4を溶解した有機電解液(EC/DEC)を、3の陽イオン交換膜として、その有機電解液側にパラフィンワックスを塗布してワックス膜を形成させたCMV(旭硝子株式会社製)を、4のセパレータ空間の電解液として、0.5MのLi2SO4と0.5MのLiOH水溶液の混合電解液を、5の陰イオン交換膜としてAMV(旭硝子株式会社製)を、6の空気極用の電解液として、0.5MのLi2SO4と0.5MのLiOH水溶液の混合電解液を、7の空気極として多孔質カーボンに触媒としてMn3O4を担持させ、バインダーとしてPolytetrafluoroethylene (PTFE)を用いて作製した電極を、それぞれ用いて、リチウム−空気電池を作製し、充放電試験を行った。
実施例3のリチウム−空気電池の放電のプロファイルを図6に示す。図8に示すように、OCV(=開路電圧)は3.4V(vs Li/Li+)であり、0.5mA/cm2で放電すると、空気電極の重さあたりの容量で、1500mAh/gまでの放電ができることがわかった。図9に実施例3の電池の充電・放電のサイクル特性を示す。
陽イオン交換膜の有機電解液側にワックス膜を付着させているため、陽イオン交換膜を通しての僅かの水の浸透もないことにより、放電電位が放電時間と共に、徐徐に下がることが改善されるようである。
【0032】
〈本発明のリチウム−空気電池のリチウム燃料電池としての使用形態〉
負極側のリチウム金属を燃料として随時添加するとともに、セパレータ空間に生成したLiOHの沈殿をセパレータ空間の電解液から分離・回収すれば、図10に示すように、充電せず、燃料電池のように連続放電が可能なリチウム−空気電池(或いはリチウム燃料電池)を構成することができる。
すなわち、図10に示すように、セパレータ空間の電解液から分離したLiOHからリチウム金属を精製して、燃料として負極側のリチウム金属に加えれば、燃料電池のように連続放電が可能なリチウム−空気電池(或いはリチウム燃料電池)を構成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池、或いはリチウム二次電池の負極材料を用いた負極、負極用の電解液、陽イオン交換膜、電解液で満たされたセパレータ空間、陰イオン交換膜、空気極用の電解液および空気極がその順に設けられることを特徴とする、リチウム−空気電池。
【請求項2】
リチウムイオン電池、或いはリチウム二次電池の負極材料を用いた負極/有機電解液/陽イオン交換膜/有機電解液或いは水溶性電解液/陰イオン交換膜/水溶性電解液/空気極がその順に設けられることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム−空気電池。
【請求項3】
負極として、リチウム金属、リチウムカーボン、リチウムシリコン、リチウムアルミニウム、リチウムインジウム、リチウム錫、窒化リチウムの中から選ばれた負極材料を用い、負極用電解液が有機電解液であることを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウム−空気電池。
【請求項4】
空気極が、白金、貴金属、ペロブスカイト酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅の中から選ばれた触媒が担持された多孔質カーボン或いは微細化カーボンであり、充電可能であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載したリチウム−空気電池の空気極用の電解液に充電専用の正極を配置していることを特徴とする、充電可能なリチウム−空気電池。
【請求項6】
空気極用電解液が水溶性電解液であり、当該水溶性電解液はアルカリ性(弱アルカリ性或いは強アルカリ性)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
【請求項7】
空気極用電解液がアルカリ性或いは強アルカリ性水を含むゲルであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
【請求項8】
放電時に、負極から溶出するリチウムイオンが陽イオン交換膜を通過し、陰イオン交換膜にブロックされ、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれる空間にとどまり、一方、空気極において生成したOH-陰イオンが空気極側から陰イオン交換膜を通過し、陽イオン交換膜にブロックされ、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれる空間にとどまることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
【請求項9】
放電と共に、負極の金属リチウムの表面には、Li => Li+ + e-となる溶解反応が、空気極の触媒担持した多孔質カーボン或いは微細化カーボンの表面には、O2 + 2H2O + 4e- => 4OH- なる酸素の溶解反応があり、充電と共に、負極の金属リチウムの表面には、Li+ + e- => Li なる析出反応が、空気極には、4OH- => O2 + 2H2O + 4e- なる反応が生じることを特徴とする、請求項1〜4および6〜8のいずれかに記載の充電可能なリチウム−空気電池。
【請求項10】
放電と共に、負極の金属リチウムの表面には、Li => Li+ + e-となる溶解反応が、空気極の触媒担持した多孔質カーボン或いは微細化カーボンの表面には、O2 + 2H2O + 4e- => 4OH- なる酸素の溶解反応があり、充電と共に、負極の金属リチウムの表面には、Li+ + e- => Li なる析出反応が、充電専用の正極電極には、4OH- => O2 + 2H2O + 4e- なる反応が生じることを特徴とする、請求項5〜8のいずれかに記載の充電可能なリチウム−空気電池。
【請求項11】
負極側のリチウム金属が溶解反応により全部消耗するまでは、連続放電可能であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のリチウム−空気電池。
【請求項12】
負極側にリチウム金属を燃料として適時に添加し、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれた領域に生成したLiOHの沈殿を電解液から分離することにより、充電せず、連続放電可能であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のリチウム−空気電池或いはリチウム燃料電池。
【請求項13】
放電することにより陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に囲まれる空間においてリチウムイオンと水酸化イオンとから生じた水酸化リチウムを回収し、当該水酸化リチウムから金属リチウムを再生して、その金属リチウムを負極の活物質として再使用することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のリチウム−空気電池或いはリチウム燃料電池。
【請求項14】
陽イオン交換膜の有機電解液側にワックスを被覆することを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載のリチウム−空気電池。

【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−134628(P2011−134628A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293870(P2009−293870)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】