説明

リチウムイオン二次電池の水分除去方法

【課題】電池の性能向上に貢献しつつ製造コストの削減を図ることができる、リチウムイオン二次電池の水分除去方法を提供する。
【解決手段】正極、負極、セパレータ、電解液から構成されるリチウムイオン二次電池に含まれる水分を除去する方法であって、前記リチウムイオン二次電池に電圧を印加することにより前記リチウムイオン二次電池内部の水分の除去を行う水分除去工程を有し、前記水分除去工程において前記リチウムイオン二次電池に印加する電圧を周期的に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の水分除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器やハイブリッド電気自動車、電気自動車用のバッテリとして、リチウムイオン二次電池が知られている。リチウムイオン二次電池は、例えばニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池といった他の二次電池よりもエネルギー密度が高く、軽量かつ高電圧という特性を持つ。特に自動車産業界においては、クリーンなエネルギー源としての期待が高く、さまざまなタイプのリチウムイオン二次電池が開発されている。
【0003】
典型的な正極の活物質としてはマンガン酸リチウムやコバルト酸リチウムといった遷移金属酸化物があり、負極には例えば銅箔の表面に炭素系材料が用いられる。また、電解液としては、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム (LiPF)等のリチウム塩電解質を有機溶媒中に溶かしたものが知られている。
ところで、リチウムイオン二次電池の電解液中に水分が存在すると、電解液中の残留水分が電解質(LiPF6)と反応してフッ酸(HF)が発生する。このフッ酸(HF)は、電極表面のSEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質界面)被膜(以下、被膜)に影響し抵抗を上昇させるほか、電極活物質とも反応し電池容量が低下する。そこで、予め電解液中の残留水分を除去しておき、含有水分量の低い電解液を電池セル内に注入するという製造工程が知られている。例えば特許文献1には、専用の電解層を用いて電解液中の水分を電気分解除去する技術が開示されている。
【0004】
しかし、この技術では電池セル注液以前の電解液に含まれる水分の電気分解を行っているため、電解液を電池セルに注液する際に水分が混入する可能性がある。また、電解液を電池セルに注液した際に、電池を構成する電極、セパレータ、電池ケース等に含まれている水分が、電解液に混入する場合がある。このため、組立前に電極を真空乾燥することにより、水分を除去しようと試みられているが、乾燥工程にはコストがかかり、小ロットの電池の生産には向いていないという課題がある。
【0005】
そこで、電池セル内で水分除去を行う技術も提案されている。例えば特許文献2には、電解液を容器に注入した後に、電圧を印加することで電池に含まれる水分を電気分解する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−233122号公報
【特許文献2】特開2005−56609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2記載の技術は、電気分解の電極として、容器や蓄電素子を構成する一対の電極とは異なる電極を用いて、電極間で電圧を印加している。このため、電池の製造において電気分解のために部品を追加する必要があり、また、容器を電極として用いる場合には材質が限定される。
【0008】
また、リチウムイオン二次電池の充電方法として、充電開始直後から電池電圧が上限電圧付近になるまでは定電流充電を行い、電池電圧が上限電圧付近に近づいた時点から充電電流を下げながら定電圧充電を行う、定電流/定電圧充電が行われている。リチウムイオン二次電池の製造工程において初回の充電を行う場合(以降、初回充電ともいう)に、上記の定電流/定電圧充電を行うと、電圧の上昇に伴い水の電気分解が生じるとともに、負極被膜の形成が進行する。このため、水分除去が十分に行われる前に、被膜形成の反応が起こることで、電解液内に残留している水分により被膜形成への影響が生じ、さらには電池の性能に影響を及ぼす。一方、このような水分の電気分解操作が被膜に与える影響は、特許文献2では考慮されていない。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、通常の構成を有する電池に対して、電池のさらなる性能向上に貢献しつつ製造コストの削減を図ることができる、リチウムイオン二次電池の水分除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のリチウムイオン二次電池の水分除去方法は
正極、負極、セパレータ、電解液から構成されるリチウムイオン二次電池に含まれる水分を除去する方法であって、前記リチウムイオン二次電池に電圧を印加することにより前記リチウムイオン二次電池内部の水分の除去を行う水分除去工程を有し、前記水分除去工程において前記リチウムイオン二次電池に印加する電圧を周期的に変化させることを特徴としている。
【0011】
また、前記水分除去工程は、水の電気分解電圧以上の電圧であり、且つ、負極被膜形成反応が生じる電圧よりも低い電圧である充電電圧にて充電を行う領域を含む充電ステップと、水の電気分解電圧よりも低い電圧である放電電圧にて放電を行う領域を含む放電ステップを有し、前記充電ステップと前記放電ステップとを交互に行うことが好ましい。
また、前記水分除去工程において、充電開始からの経過時間の増加に伴い、前記充電ステップ開始から次回の充電ステップ開始までの期間を長くすることが好ましい。
【0012】
また、前記水分除去工程において、充電開始からの経過時間の増加に伴い、前記充電電圧を上げることが好ましい。
また、前記水分除去工程において、充電開始からの経過時間の増加に伴い、前記放電電圧を上げることが好ましい。
また、前記充電ステップにおいて、電池電圧が前記充電電圧に達するまでは所定の電流値にて定電流充電を行い、電池電圧が前記充電電圧に達すると前記充電電圧にて定電圧充電を行い、前記放電ステップにおいて、電池電圧が前記放電電圧に達するまでは所定の電流値にて定電流放電を行い、電池電圧が前記放電電圧に達すると前記放電電圧にて定電圧放電を行うことが好ましい。
【0013】
また、前記負極の集電体が銅であり、前記放電電圧は、負極の集電体である銅が溶出する電圧よりも大きい電圧であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池の水分除去方法によれば、水分除去工程においてリチウムイオン二次電池に印加する電圧を周期的に変化させることにより、電池内に含まれる水分を電気分解で効率よく除去することができる。これにより被膜形成への水分の影響を減らすことができ、電池の性能を向上させることができる。また、電極を利用して電気分解を行うことにより、電極に含まれる水分を取り除くことができる。
【0015】
また、充電ステップと放電ステップを交互に繰り返す行うことにより、充電ステップにおいて電極表面に付着したガスを放電ステップにおいて除去できることから、水分除去の効率を高めることができる。
また、本実施形態では、充電の経過時間の増加に伴い充電ステップの周期を長くしていくことで、電解液中に存在する水分を、より電極に引き寄せて反応を行うことが可能になり、また、電極表面に付着したガスを、より減少させることが可能となり、水分除去の効率を高めることができる。
【0016】
初回充電の開始直後では充電電圧を低くし、水分除去が進み、電解液中の水分が少なくなってくるのに伴い充電電圧を上げることで、添加剤の副反応を避けて、効率よく水分除去を行うことが可能になる。
電解液を注入してから時間の経過が短く、集電体の溶出が起こりづらい初回充電工程の初期では低い電圧で放電を行い、時間が経過して集電体が溶出しやすくなるにつれて放電電圧を上げることで、集電体の溶出への影響を少なくして、水分除去を行うことが可能になる。
【0017】
また、定電流充電及び定電流放電を行うことにより、電池電圧値を目標の値に速やかに制御することが可能であり、定電圧充電及び定電圧放電を行うことにより、水分除去とガスの除去に適した電池電圧を保って充放電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法における、電池電圧の変化を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法における、電池電圧の変化を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法における、電池電圧の変化を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の概要を示すフローチャートである
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面により、本発明の実施の形態に係るリチウムイオン二次電池の水分除去方法について説明する。
図1は、リチウムイオン二次電池の製造方法において、水分除去工程と初期充電工程の、電池電圧の変化を示す図である。
図4は、リチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す図である。
図5は、リチウムイオン二次電池の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【0020】
本発明が適用されるリチウムイオン二次電池の製造方法は、リチウムイオン二次電池の組み立てを行い、組み立てられたリチウムイオン二次電池に対して初回充電を行うものである。具体的には、リチウムイオン二次電池を組み立てる組立工程と、リチウムイオン二次電池に電圧を印加することによりリチウムイオン二次電池内部の水分の除去を行う水分除去工程と、負極被膜の形成と充電を行う初期充電工程とを有する方法である。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池の水分除去方法は、上記の水分除去工程に係る方法であり、リチウムイオン二次電池に電圧を印加することにより、リチウムイオン二次電池内部の水分の除去を行う方法である。ここで、リチウムイオン二次電池に印加する電圧を周期的に変化させることにより、電池内の水分を効率よく除去し、充放電に伴う副反応を抑えることを特徴としている。
【0022】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池の水分除去方法は、リチウムイオン二次電池の充電により電池内の水の電気分解を行う充電ステップと、リチウムイオン二次電池の放電により電極の吸着ガスの除去を行う放電ステップを有し、充電ステップと放電ステップとを交互に行うことが好ましい。
【0023】
[1.電池の構成]
本発明が適用されるリチウムイオン二次電池の製造方法により製造される、リチウムイオン二次電池について説明する。
本発明が適用されるリチウムイオン二次電池1は、図4に示すように、正極11、負極14、セパレータ17、電解液18を備え、これらを収容する容器19と、容器19を封止する蓋体20とを有している。蓋体20には、蓋体の開口部を封止するための封口栓21が設けられている。
これらリチウムイオン二次電池の構成要素としては、一般的なリチウムイオン二次電池に使用される各種物質を使用することができる。
【0024】
正極11は、アルミニウム等の導電性の箔状からなる正極集電体12の表面に、リチウム複合酸化物からなる正極活物質層13を設けて構成されている。正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2等の化学式で表わされるリチウム複合酸化物を使用することができる
また、正極集電体12に、正極活物質を結合させるために結着剤(バインダ)を含んでいても良い。結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデンを用いることが出来る。
【0025】
負極14は、銅等の導電性の箔状からなる負極集電体15の表面に負極活物質層16を設けて構成されている。負極活物質としては、例えば炭素材料を用いることが出来る。
また、負極集電体15に、負極活物質を結合させるために結着剤(バインダ)を含んでいても良い。結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることが出来る。
【0026】
なお、正極11および負極14には導電性金属からなるリードが接続されている。このリードは容器19又は蓋体20と導通するよう構成されていてもよい。
セパレータ17は、例えばポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる多孔膜を用いることができる。
電解液18は、リチウム塩と添加剤とを非水系溶媒に溶解してなる。非水系溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状カーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることが出来る。リチウム塩としては、例えばLiPF6、LiBF4等を用いることが出来る。被膜形成のための添加剤として、例えば、ビニレンカーボネート(VC)を用いることができる。
【0027】
容器19は、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属製であってもよく、樹脂製やラミネートフィルムからなるものであってもよい。また、容器の形状は円筒形であってもよく、直方体形状であってもよい。
蓋体20は、アルミニウム、鉄、ステンレス、等の金属等であってもよく、樹脂製からなるものであってもよい。端子部として利用される場合は、適宜極性に適合した素材を選択することができる。
【0028】
[2.製造手順]
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、図5に示すフローチャートに沿って行った。
[2−1.組立工程]
本発明におけるリチウムイオン二次電池1の組立工程は、正極11、負極14、及びセパレータ17を長尺に形成し(ステップS101)、これらを重ね合わせて巻き回し(ステップS102)、巻き回したものを容器19に収納して蓋体20を取り付け(ステップS103)、容器19に電解液18を注入(ステップS104)することで行われる。または、平板上に形成した正極11、負極14、及びセパレータ17を複数積層したものを容器19に収納してもよい(ステップS102)。
【0029】
電池の組立工程の後に、水分除去工程による水分の除去を行い(ステップS105)、同時に水分除去工程により発生したガスが開放され(ステップ106)、その後に電池の封口を行い(ステップ107)、さらに初期充電工程による被膜形成と充電が行われることで(ステップ108)、リチウムイオン二次電池1が製造される。
【0030】
[2−2.水分除去工程]
本発明のリチウムイオン二次電池の水分除去方法における水分除去工程は、リチウムイオン二次電池の正極と負極間に充放電装置で電圧を印加することにより、リチウムイオン二次電池の充電を行うとともに、リチウムイオン二次電池内部の水分の除去を行う工程である。本発明は、水分除去工程において電池に印加する電圧を周期的に変化させることを特徴としている。
【0031】
水分除去工程は、図1(a)に示すように、リチウムイオン二次電池の充電により電池内の水の電気分解を行う充電ステップと(S1、S2)、リチウムイオン二次電池の放電により電極の吸着ガスの除去を行う放電ステップ(S3、S4)とを有することが好ましい。
なお、水分除去工程では、水の電気分解に伴い水素ガス及び酸素ガスが発生するため、水分除去工程のガスの解放後に、封口工程にて電池を密閉する。
この時、ガスを開放する際に電池内に雰囲気中の水分が浸入するのを避けるため、水分除去工程終了時の封口作業は、雰囲気中の水分が少ない環境下で行うことが好ましい。
【0032】
(水分除去工程の充電ステップ)
充電ステップでは、図1(a)に示すように、まず定電流にてリチウムイオン二次電池に充電用電流を供給して充電を行い(ステップ1(S1):定電流充電)、定電流充電によりリチウムイオン二次電池の電池電圧が水の電気分解電圧VW以上に達した後に、充電電流を徐々に低下させ、電池電圧がV2で一定となるよう充電を行う(ステップ2(S2):定電圧充電)ことで、リチウムイオンイオン二次電池内の水分の電気分解を行う。
【0033】
充電ステップは、水の電気分解電圧以上の電圧であり、且つ、負極被膜形成反応が生じる電圧よりも低い電圧である充電電圧にて充電を行う領域を含むことで、添加剤との反応を避けて水分の電気分解を行うことが可能である。
充電ステップでは、正極及び負極の表面において下記式(1)、(2)の反応が生じる。
正極反応 H2O(l)→1/2O2(g)+2H+2e (1)
負極反応 2H+2e→H2(g) (2)
(上記式において、(l)は液体であること、(g)はガスであることを表わす。)
すなわち、電解液中の水の電気分解により、正極においては(1)式の反応により酸素ガスが発生し、負極においては(2)式の反応により水素ガスが発生する。これにより、電解液中の水分が除去される。
【0034】
ステップ1で流す電流値は、一定でもよく、上昇、下降させてもよく、複数の電流値を組み合わせて行うものであってもよい。また、電圧の印加は連続して行うものであってもよく、中断を挟んで断続的に行うものであってもよい。また、電流は充電を行う際の温度にあわせて変更してもよい。ただし、電圧の制御を容易にする観点から、定電流充電であることが好ましい。
【0035】
ステップ1の定電流充電により、電池電圧が水の電気分解電圧VW以上となったら、ステップ2の定電圧充電に移行する。なお、ステップ2への移行のタイミングは、充電装置に備えられたセンサにより電池の電圧を測定し、所定の電圧に達したことが確認された時点とする。また、あらかじめ電流値、電池の容量、電池の種類等の充電状況に応じて、所定の電圧に達するまでに必要な時間を計測し、定電流充電を開始してから、必要な時間が経過した場合にステップ2へ移行させてもよい。
【0036】
ここで、ステップ2の定電圧充電の際の充電電圧V2の下限は、水の電気分解電圧VWにより定まる。すなわち、定電圧充電により水の電気分解を行うため、充電電圧V2は水の電気分解電圧以上であることが好ましい。水の電気分解電圧VWはおよそ1.23[V]であり、過電圧分を考慮して電気分解を効率よく行う観点から、ステップ2の定電圧充電の際の充電電圧V2は通常1.3[V]以上、好ましくは1.6[V]以上である。
【0037】
充電電圧V2の上限は、電解液、電解質、及び添加剤の分解が起こらない電圧であることが好ましい。なお、3.5V以上の電圧を印加した場合、電池内に含まれる添加剤の反応が生じ、電解液内に水分が残存していると、水分と添加剤との反応が生じることで、電池の性能に影響を与える可能性がある。特に電解液内に水分が残存している状態での添加剤による負極被膜形成反応を避ける観点から、充電電圧V2は負極被膜形成反応が生じる電圧(負極皮膜形成電圧)VSより低い電圧であることが好ましい。このため、ステップ2の定電圧充電の際の充電電圧V2は、通常3.5[V]以下である。
【0038】
ステップ2の定電圧充電の際の充電電圧V2は上記範囲であれば、一定でもよく、上昇、下降させてもよく、複数の電圧値を組み合わせて行うものであってもよい。また、電圧の印加は連続して行うものであってもよく、中断を挟んで断続的に行うものであってもよい。また、水の電気分解電圧VWは、温度によって上下することから、充電電圧は充電を行う際の温度にあわせて変更してもよい。ただし、電圧を上記範囲に保ち、副反応を防ぐ観点からは、上記範囲内の電圧で行う定電圧充電であることが好ましい。
【0039】
水分除去工程後の電解液に残存する水分量は、電解液との反応や後述する被膜形成の妨げになる副反応を抑えることができる量であることが好ましく、通常100[ppm]以下、好ましくは10[ppm]以下、より好ましくは5[ppm]以下である。
電極、セパレータ、容器等に含まれる水分は、組立後に電解液に溶出してくることから、電解液中の水分を電気分解することで除去する。また、正極及び負極を用いて電気分解を行うことにより、電極に含まれ、又は付着している水分も効率的に取り除かれる。
【0040】
本発明が適用されるリチウムイオン二次電池の製造方法は、水分除去工程として充電ステップを行った後に、後述する放電ステップを行い、続いて後述する初期充電工程を行うことが好ましい。また、水分除去工程として充電ステップを行った後に、後述する放電ステップを行い、さらに充電ステップと放電ステップを繰り返し行い、その後に後述する初期充電工程を行うことが好ましい。
【0041】
(水分除去工程の放電ステップ)
水分除去工程においては、ステップ1、ステップ2とは逆向きの電流を流す工程、すなわちリチウムイオン二次電池を放電させる放電ステップを行うことが好ましい。
放電ステップでは、図1(a)に示すように、定電流での放電を行い(ステップ3(S3):定電圧放電)、及び定電圧放電によりリチウムイオン二次電池の電池電圧が水の電気分解電圧VWよりも低い値となるよう、放電電流を徐々に低下させ、電池電圧がVで一定となるよう放電を行う(ステップ4(定電圧放電))ことで、電極に吸着したガスを減少することで、電極の反応面積の回復を行う。
【0042】
放電ステップは、水の電気分解電圧よりも低い電圧である放電電圧にて放電を行う領域を含むことで、電極に吸着したガスを減少させることが可能である。
ステップ3、ステップ4における放電は、充放電試験装置等により電池に負荷を与えることで実施される。
ステップ3で流す電流値は、一定でもよく、上昇、下降させてもよく、複数の電流値を組み合わせて行うものであってもよい。また、放電は連続して行うものであってもよく、中断を挟んで断続的に行うものであってもよい。また、電流は放電を行う際の温度にあわせて変更してもよい。ただし、電圧の制御を容易にする観点から、定電流放電であることが好ましい。
【0043】
ステップ3の定電流放電により、電池電圧が水の電気分解電圧VW以下となったら、ステップ4の定電圧放電に移行する。なお、ステップ4への移行のタイミングは、充電装置に備えられたセンサにより電池の電圧を測定し、所定の電圧に達したことが確認された時点とする。また、あらかじめ電流値、電池の容量、電池の種類等の充電状況に応じて、所定の電圧に達するまでに必要な時間を計測し、定電流充電を開始してから、必要な時間が経過した場合にステップ4へ移行させてもよい。
【0044】
ステップ4の定電圧放電では、正極と負極の間に所定の値の電圧を保つようにして放電を行うことで、水の電気分解電圧VWより低い電圧での放電を行う。このステップ4において定電圧放電を行う際の電池電圧を、放電電圧V1とする。
ここで、ステップ4の定電圧放電の際の放電電圧V1は、負極の集電体の溶出を防ぐ電圧以上であることが好ましい。すなわち、定電圧放電の電圧V1は、負極の集電体が溶出する電圧VCよりも大きいことが好ましい。
【0045】
ステップ4の定電圧放電の際の放電電圧Vは上記範囲であれば、一定でもよく、上昇、下降させてもよく、複数の電圧値を組み合わせて行うものであってもよい。また、放電は連続して行うものであってもよく、中断を挟んで断続的に行うものであってもよい。また、電圧は充電を行う際の温度にあわせて変更してもよい。ただし、電圧を上記範囲に保ち、副反応を防ぐ観点からは、上記範囲内の定電圧充電であることが好ましい。
【0046】
ステップ4において、上記範囲以下に電圧が低下する場合には、適宜充電を行ってもよい。即ち、放電電圧を上記範囲に保持させるために、電池の充電と放電を交互に行いながら定電圧放電を行ってもよい。
なお、充電ステップによる水の電気分解に伴い発生したガスの電極への付着と、放電ステップによる電極からのガスの除去を効率よく行うため、水分除去工程において、図1(b)に示すように、充電ステップ(ステップ1、2)と放電ステップ(ステップ3、4)とを繰り返し行うことが好ましい。
【0047】
すなわち、水分除去工程において、リチウムイオン二次電池の充電と電池内の水分の電気分解を行う充電ステップと、リチウムイオン二次電池の放電と電極に付着したガスの減少を行う放電ステップとを交互に行うことで、水分除去の工程と、水分除去に伴い発生し電極に付着したガスを減少させる工程とを共同させることにより、電極における水分除去を効率よく行うことが可能である。
【0048】
充電ステップ(ステップ1、2)と放電ステップ(ステップ3、4)を行う順番は、充電ステップにより電極に付着したガスを、放電ステップにより除去する観点から、先に充電ステップを行い、次に放電ステップを行うことが好ましい。また、充電ステップと放電ステップは交互に行うことが好ましい。また、水分除去工程の最後の工程は、放電ステップを行うことが好ましい。
【0049】
[2−3.初期充電工程]
初期充電工程は、リチウムイオン二次電池の正極と負極間に電圧を印加することによりリチウムイオン二次電池の充電を行うとともに、リチウムイオン二次電池の負極に被膜形成を行う工程である。
初期充電工程は、前述した水分除去工程の終了後に電池を封口していることから、通常の雰囲気下で行うことができる。
【0050】
初期充電工程は、図1(a)及び(b)に示すように、水分除去工程後に、まず定電流にてリチウムイオン二次電池に充電用電流を供給して充電を行う(ステップ5(S5):定電流充電)。定電流充電によりリチウムイオン二次電池の電池電圧が初期上限電圧に達した後に、充電電流を徐々に低下させ、電圧が一定となるよう充電を行う(ステップ6(S6):定電圧充電)ことで、リチウムイオンイオン二次電池の充電と、負極の被膜形成を行う。
【0051】
被膜形成反応とは、負極上で電解液および電解液中の添加剤が反応することで負極表面に被膜を形成する反応である。負極被膜の形成により、電気容量やサイクル特性を向上させることができる。
ステップ5の定電流充電は、ステップ1と同様に、正極と負極の間に所定の値の電流値の電流を流すことにより行う。
【0052】
ステップ5の定電流充電により、電池電圧が初期充電上限電圧V3となったら、ステップ6の定電圧充電に移行する。なお、ステップ6への移行のタイミングは、充電装置に備えられたセンサにより電池の電圧を測定し、所定の電圧に達したことが確認された時点とする。また、あらかじめ電流値、電池の容量、電池の種類等の充電状況に応じて、所定の電圧に達するまでに必要な時間を計測し、定電流充電を開始してから、必要な時間が経過した場合にステップ6へ移行させてもよい。
【0053】
ステップ6の定電圧充電では、ステップ2と同様に、正極と負極の間に所定の値の電圧を保つようにして電流を流すことで、電圧V3の電圧の印加を行う。このステップ6において定電圧充電を行う際の電池電圧を、初期充電上限電圧V3とする。
ここで、ステップ6の定電圧充電の際の充電電圧である初期充電上限電圧V3は、負極被膜形成を行う添加剤の反応が起こる電圧(負極被膜形成電圧)VSより高い電圧であることが好ましい。
【0054】
添加剤の反応時に、電解液中に水分が残存する場合、添加剤の反応と、被膜形成に影響が生じる。このため、被膜の形成を行う前に水分除去を行い、水分を減らしておく必要がある。本発明が適用されるリチウムイオン二次電池の製造方法においては、水分の除去後に、ステップ5及び6において添加剤の反応電圧以上で充電が行われることにより、良好な被膜形成反応が進行する。
【0055】
[3.実施形態]
次に、本発明の詳細な実施形態について説明する。これら実施形態は単独で行ってもよく、適宜組み合わせて行ってもよい。
[実施形態1]
図2(a)は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法による、初回充電における電池電圧の制御を説明する図である。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法においては、上述した構成のリチウムイオン二次電池を、上述した組み立て工程により組み立てを行う。組み立てられたリチウムイオン二次電池に対して、初回充電を行う。
【0056】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の初回充電においては、リチウムイオン二次電池の正極と負極の間に電圧を印加することにより、リチウムイオン二次電池内部の水分の除去を行う水分除去工程と、負極に被膜を形成する初期充電工程とを有し、前記水分除去工程は、初期充電工程の前に独立して行う。
ここで、水分除去工程とは、リチウムイオン二次電池に、水の電気分解電圧以上の電圧であり、且つ、負極被膜形成反応が生じる電圧より低い電圧を印加する工程である。
【0057】
また、初期充電工程とは、リチウムイオン二次電池に、負極被膜形成反応が生じる電圧以上の電圧を印加する工程である。
さらに、水分除去工程後に、負極被膜形成反応が生じる電圧まで継続して電圧を印加することで、初期充電工程を行う。
すなわち、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも高く、負極被膜形成電圧VSよりも低い充電電圧V2となるまで定電流充電を行い(0〜ta1)、電圧値V2に達した後は充電電圧V2により定電圧充電を行う(ta1〜ta2)。次に、電池電圧が負極被膜形成電圧VS以上の初期充電上限電圧V3となるまで定電流充電を行い(ta2〜ta3)、電圧値V3に達した後は初期充電上限電圧V3により定電圧充電を行うものである(ta3〜)。
【0058】
このような初回充電を行うことにより、本実施形態は、水の電気分解電圧以上であり、且つ負極被膜形成電圧以下の電圧を印加することにより、負極被膜形成反応が生じる前に電池内の水分の除去を行い、水分除去を行った後に被膜形成反応を行う。つまり、水分除去工程の水分除去と、初期充電工程の被膜形成とを独立して行っていることにより、水分の存在下での被膜形成によって生じる副反応を防ぐことで、良好な負極被膜を形成させることができ、リチウムイオン二次電池の特性を向上させることができる。また、水分除去工程後に継続して初期充電工程を行うため、初回充電に要する時間を抑えることができる。さらに、充電電圧の制御が容易であるため充電に使用する充電器の構成を簡素にすることができる。
【0059】
[実施形態2]
図2(b)は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法による、初回充電における電池電圧の制御を説明する図である。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法においては、実施例1と同様に、リチウムイオン二次電池の組み立てを行う。さらに、組み立てられたリチウムイオン二次電池に対して、初回充電を行う。
【0060】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の初回充電においては、リチウムイオン二次電池に電圧を印加することによりリチウムイオン二次電池内部の水分の除去を行う水分除去工程と、水分除去工程後に負極に被膜を形成する初期充電工程とを有し、水分除去工程において電池に印加する電圧を変化させる。
ここで、水分除去工程とは、水の電気分解電圧以上の電圧であり、且つ、
負極被膜形成反応が生じる電圧より低い電圧である充電電圧にて充電を行う充電ステップと、水の電気分解電圧より低い電圧である放電電圧にて放電を行う放電ステップを有し、充電ステップと放電ステップとを交互に行う。
【0061】
なお、充電ステップにおいては、電池電圧が充電電圧に達するまでは所定の電流値にて定電流充電を行い、電池電圧が充電電圧に達すると充電電圧にて定電圧充電を行う。また、放電ステップにおいては、電池電圧が放電電圧に達するまでは所定の電流値にて定電流放電を行い、電池電圧が放電電圧に達すると放電電圧にて定電圧放電を行う。
すなわち、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも高く、負極被膜形成電圧VSよりも低い充電電圧V2となるまで定電流充電を行い(0〜tb1)、電池電圧が電圧値V2に達した後は充電電圧V2により定電圧充電を行う(tb1〜tb2)。次に、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも低く、負極の集電体が溶出する電圧VCよりも大きい放電電圧V1となるまで定電流放電を行い(tb2〜tb3)、電圧値V1に達した後は放電電圧V1により定電圧放電を行う(tb3〜tb4)。さらに、同様にして、充電電圧V2による定電圧充電と、放電電圧V1による定電圧放電を繰り返す(tb4〜tb16)。その後に電池電圧が負極被膜形成電圧VS以上の初期充電上限電圧V3となるまで定電流充電を行い(tb16〜tb17)、電圧値V3に達した後は初期充電上限電圧V3により定電圧充電を行うものである(tb17〜)。
【0062】
このような初回充電を行うことにより、本実施形態は、実施形態1と同様に水分除去工程の水分除去と、独立初期充電工程の被膜形成とを独立して行うことができる。また、充電ステップと放電ステップを繰り返す行うことにより、充電ステップにおいて電極表面に付着したガスを放電ステップにおいて除去できることから、水分除去の効率を高めることができる。これにより、良好な負極被膜を形成することができ、リチウムイオン二次電池の特性を向上させることができる。
【0063】
[実施形態3]
図2(c)は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法による、初回充電における電池電圧の制御を説明する図である。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法においては、実施例1と同様に、リチウムイオン二次電池の組み立てを行う。さらに、組み立てられたリチウムイオン二次電池に対して、初回充電を行う。
【0064】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の初回充電においては、実施形態2の初回充電と同様に行い、さらに、充電開始からの経過時間の増加に伴い、定電圧充電及び/又は定電圧放電の時間を長くすることで、充電ステップ開始から次回の充電ステップ開始までの期間を長くする。
すなわち、実施形態2と同様に、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも高く、負極被膜形成電圧VSよりも低い充電電圧V2となるまで定電流充電を行い(0〜tc1)、電圧値Vに達した後は充電電圧V2により定電圧充電を行う(tc1〜tc2)。次に、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも低く、負極の集電体が溶出する電圧VCよりも大きい放電電圧V1となるまで定電流放電を行い(tc2〜tc3)、電圧値V1に達した後は放電電圧V1により定電圧放電を行う(tc3〜tc4)。さらに、同様にして、充電電圧V2による定電圧充電(tc5〜tc6、tc9〜tc10、tc13〜tc14)と、放電電圧Vによる定電圧放電(tc7〜tc8、tc11〜tc12、tc15〜tc16)を繰り返すが(tc4〜tc16)、一度目の充電ステップ及び放電ステップにおける充電時間(tc1〜tc2)又は放電時間(tc3〜tc4)よりも、二度目の充電ステップ及び放電ステップにおける充電時間(tc5〜tc6)又は放電時間(tc7〜tc8)を長くし、以後同様に水分除去工程を繰り返し、充電の経過時間が増加するのに伴い、充電時間及び放電時間を長くする。その後に電池電圧が負極被膜形成電圧VS以上の初期充電上限電圧V3となるまで定電流充電を行い(tc16〜tc17)、電圧値V3に達した後は初期充電上限電圧V3により定電圧充電を行うものである(tc17〜)。
【0065】
このような初回充電を行うことにより、本実施形態は、実施形態1と同様に水分除去工程の水分除去と、初期充電工程の被膜形成とを独立して行うことができる。また、実施形態2と同様に充電ステップと放電ステップを繰り返す行うことにより、充電ステップにおいて電極表面に付着したガスを放電ステップにおいて除去できることから、水分除去の効率を高めることができる。
【0066】
水分除去工程を繰り返し行うことにより電解液に含まれる水分の量が減少してくる。本実施形態では、充電の経過時間の増加に伴い充電時間を長くしていくことで、電解液中に存在する水分を、より電極に引き寄せて反応を行うことが可能になり、水分除去の効率を高めることができる。これにより、良好な負極被膜を形成することができ、リチウムイオン二次電池の特性を向上させることができる。
【0067】
[実施形態4]
図3(a)は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法による、初回充電における電池電圧の制御を説明する図である。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法においては、実施例1と同様に、リチウムイオン二次電池の組み立てを行う。さらに、組み立てられたリチウムイオン二次電池に対して、初回充電を行う。
【0068】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の初回充電においては、実施形態2の初回充電と同様に行い、さらに、充電開始からの経過時間の増加に伴い、充電電圧を上げる。
すなわち、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも高く、負極被膜形成電圧VSよりも低い充電電圧Vd21となるまで定電流充電を行い(0〜td1)、電圧値Vd21に達した後は充電電圧Vd21により定電圧充電を行う(td1〜td2)。次に、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも低く、負極の集電体が溶出する電圧VCよりも大きい放電電圧V1となるまで定電流放電を行い(td2〜td3)、電圧値V1に達した後は放電電圧V1により定電圧放電を行う(td3〜td4)。さらに、同様にして、定電圧充電と、放電電圧Vによる定電圧放電を行うが(td4〜td16)、1回目の充電ステップ(td1〜td2)の充電電圧Vd21よりも、2回目の充電ステップ((td5〜td6)の充電電圧Vd22を大きくし、以降同様に水分除去工程を繰り返し、充電の経過時間が増加するのに伴い、充電ステップの充電電圧を大きくする。その後に電池電圧が負極被膜形成電圧VS以上の初期充電上限電圧V3となるまで定電流充電を行い(td16〜td17)、電圧値Vに達した後は初期充電上限電圧V3により定電圧充電を行うものである(td17〜)。
【0069】
このような初回充電を行うことにより、本実施形態は、実施形態1と同様に水分除去工程の水分除去と、初期充電工程の被膜形成とを独立して行うことができる。また、実施形態2と同様に充電ステップと放電ステップを繰り返す行うことにより、充電ステップにおいて電極表面に付着したガスを放電ステップにおいて除去できることから、水分除去の効率を高めることができる。
【0070】
充電電圧が高いほど、電池に含まれる水分を効率よく飛ばせるものの、初回充電の開始直後では電池内の水分が多いことから、添加剤の副反応が生じるのを避けるため、充電電圧を高くすることはできない。一方で、本実施形態によれば、初回充電の開始直後では充電電圧を低くし、水分除去が進み、電解液中の水分が少なくなってくるのに伴い充電電圧を上げることで、添加剤の副反応を避けて、効率よく水分除去を行うことが可能になる。これにより、良好な負極被膜を形成することができ、リチウムイオン二次電池の特性を向上させることができる。
【0071】
なお、本実施形態においては、水分除去工程を繰り返すことで、電解液に含まれる水分が少なくなってくるため、充電時間の短縮から、充電電圧は負極被膜が形成される電圧まで上げていってもよく、初期上限電圧まで上げていってもよい。
【0072】
[実施形態5]
図3(b)は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法による、初回充電における電池電圧の制御を説明する図である。
【0073】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法においては、実施例1と同様に、リチウムイオン二次電池の組み立てを行う。さらに、組み立てられたリチウムイオン二次電池に対して、初回充電を行う。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の初回充電においては、実施形態2の初回充電と同様に行い、さらに、充電開始からの経過時間の増加に伴い、前記放電電圧を上げる。
【0074】
すなわち、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも高く、負極被膜形成電圧VSよりも低い充電電圧V2となるまで定電流充電を行い(0〜te1)、電圧値V2に達した後は充電電圧V2により定電圧充電を行う(te1〜te2)。次に、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも低く、負極の集電体が溶出する電圧VCよりも大きい放電電圧Ve11となるまで定電流放電を行い(te2〜te3)、電圧値Ve11に達した後は放電電圧Ve11により定電圧放電を行う(te3〜te4)。さらに、同様にして、充電電圧V2による定電圧充電と、定電圧放電を繰り返すが(te4〜te16)、1回目の放電ステップ(te3〜te4)の放電電圧Ve11よりも、2回目の放電ステップ(te7〜te8)の放電電圧Ve12を大きくし、以降同様に水分除去工程を繰り返し、充電の経過時間が増加するのに伴い、水の電気分解電圧VWよりも小さい範囲で放電ステップの放電電圧を大きくする。その後に電池電圧が、負極被膜形成電圧VS以上の初期充電上限電圧V3となるまで定電流充電を行い(te16〜te17)、電圧値V3に達した後は初期充電上限電圧V3により定電圧充電を行うものである(te17〜)。
【0075】
このような初回充電を行うことにより、本実施形態は、実施形態1と同様に水分除去工程の水分除去と、初期充電工程の被膜形成とを独立して行うことができる。また、実施形態2と同様に充電ステップと放電ステップを繰り返す行うことにより、充電ステップにおいて電極表面に付着したガスを放電ステップにおいて除去できることから、水分除去の効率を高めることができる。
【0076】
電池電圧が低い場合には負極の集電体が溶出する場合がある。電池に電解液を注入し、組立工程を終えた直後は集電体の溶出が起こりづらいが、電解液を注入してから、時間経過に伴い集電体が溶出しやすくなる。そこで、本実施形態によれば、電解液を注入してから時間の経過が短く、集電体の溶出が起こりづらい初回充電工程の初期では低い電圧で放電を行い、時間が経過して集電体が溶出しやすくなるにつれて放電電圧を上げることで、集電体の溶出への影響を少なくして、水分除去を行うことが可能になる。これにより、良好な負極被膜を形成することができ、リチウムイオン二次電池の特性を向上させることができる。
【0077】
[実施形態6]
図3(c)は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法による、初回充電における電池電圧の制御を説明する図である。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法においては、実施例1と同様に、リチウムイオン二次電池の組み立てを行う。さらに、組み立てられたリチウムイオン二次電池に対して、初回充電を行う。
【0078】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の初回充電においては、実施形態2の初回充電と同様に行い、さらに、充電開始からの経過時間の増加に伴い、前記充電電圧及び前記放電電圧を上げる。
すなわち、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも高く、負極被膜形成電圧VSよりも低い充電電圧Vf21となるまで定電流充電を行い(0〜tf1)、電圧値Vf21に達した後は充電電圧Vf21により定電圧充電を行う(tf1〜tf2)。次に、電池電圧が、水の電気分解電圧VWよりも低く、負極の集電体が溶出する電圧VCよりも大きい放電電圧Vf11となるまで定電流放電を行い(tf2〜tf3)、電圧値Vf11に達した後は放電電圧Vf11により定電圧放電を行う(tf3〜tf4)。さらに、同様にして、定電圧充電と、定電圧放電を繰り返す(tf4〜tf16)が、1回目の充電ステップ(tf1〜tf2)の充電電圧Vf21よりも、2回目の充電ステップ(tf5〜tf6)の充電電圧Vf22を大きくし、以降同様に水分除去工程を繰り返し、充電の経過時間が増加するのに伴い、充電ステップ充電電圧を大きくする。また、1回目の放電ステップ(tf3〜tf4)の放電電圧Vf11よりも、2回目の充電ステップ(tf7〜tf8)の充電電圧Vf12を大きくし、以降同様に水分除去工程を繰り返し、充電の経過時間が増加するのに伴い、水の電気分解電圧VWよりも小さい範囲で放電ステップにおける放電電圧を大きくする。その後に電池電圧が負極被膜形成電圧VS以上の初期充電上限電圧Vとなるまで定電流充電を行い(tf16〜tf17)、電圧値V3に達した後は初期充電上限電圧V3により定電圧充電を行うものである(tf17〜)。
【0079】
このような初回充電を行うことにより、本実施形態は、実施形態1と同様に水分除去工程の水分除去と、初期充電工程の被膜形成とを独立して行うことができる。また、実施形態2と同様に充電ステップと放電ステップを繰り返す行うことにより、充電ステップにおいて電極表面に付着したガスを放電ステップにおいて除去できることから、水分除去の効率を高めることができる。
【0080】
さらに、実施形態4と同様に添加剤の副反応を避けて、効率よく水分除去を行い、且つ、実施形態5と同様に集電体の溶出への影響を少なくして水分除去を行うことが可能になる。これにより、良好な負極被膜を形成することができ、リチウムイオン二次電池の特性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 リチウムイオン二次電池
11 正極
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 負極
15 負極集電体
16 負極活物質層
17 セパレータ
18 電解液
19 容器
20 蓋体
21 封口栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ、電解液から構成されるリチウムイオン二次電池に含まれる水分を除去する方法であって、
前記リチウムイオン二次電池に電圧を印加することにより前記リチウムイオン二次電池内部の水分の除去を行う水分除去工程を有し、
前記水分除去工程において前記リチウムイオン二次電池に印加する電圧を周期的に変化させる
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池の水分除去方法。
【請求項2】
前記水分除去工程は、
水の電気分解電圧以上の電圧であり、且つ、負極被膜形成反応が生じる電圧よりも低い電圧である充電電圧にて充電を行う領域を含む充電ステップと、
水の電気分解電圧よりも低い電圧である放電電圧にて放電を行う領域を含む放電ステップを有し、
前記充電ステップと前記放電ステップとを交互に行う
ことを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池の水分除去方法。
【請求項3】
前記水分除去工程において、
充電開始からの経過時間の増加に伴い、前記充電ステップ開始から次回の充電ステップ開始までの期間を長くする
ことを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池の水分除去方法。
【請求項4】
前記水分除去工程において、
充電開始からの経過時間の増加に伴い、前記充電電圧を上げる
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のリチウムイオン二次電池の水分除去方法。
【請求項5】
前記水分除去工程において、
充電開始からの経過時間の増加に伴い、前記放電電圧を上げる
ことを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池の水分除去方法。
【請求項6】
前記充電ステップにおいて、電池電圧が前記充電電圧に達するまでは所定の電流値にて定電流充電を行い、電池電圧が前記充電電圧に達すると前記充電電圧にて定電圧充電を行い、
前記放電ステップにおいて、電池電圧が前記放電電圧に達するまでは所定の電流値にて定電流放電を行い、電池電圧が前記放電電圧に達すると前記放電電圧にて定電圧放電を行う
ことを特徴とする請求項2〜5の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池の水分除去方法。
【請求項7】
前記負極の集電体が銅であり、
前記放電電圧は、負極の集電体である銅が溶出する電圧よりも大きい電圧である
ことを特徴とする請求項2〜6の何れか1項に記載のリチウムイオン二次電池の水分除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−204099(P2012−204099A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66581(P2011−66581)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】