説明

リチウムイオン二次電池用の正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法

【課題】本発明は、サイクル特性、レート特性に優れるリチウムイオン二次電池用の正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】Li元素と、Ni、CoおよびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物の表面に、Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子が付着する粒子(II)からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。リチウムイオン二次電池用の正極活物質には、LiCoO、LiNiO、LiNi0.8Co0.2、LiMnO等のリチウムと遷移金属等との複合酸化物が用いられている。特に、正極活物質としてLiCoOを用い、リチウム合金、グラファイト、カーボンファイバー等のカーボンを負極として用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として広く使用されている。しかしながら、近年、携帯型電子機器や車載用のリチウムイオン二次電池として小型化・軽量化が求められ、単位質量あたりの放電容量、または充放電サイクルを繰り返した後に放電容量が低下しない特性(以下、サイクル特性ともいう。)の更なる向上が望まれている。
【0003】
特許文献1には、Li元素のモル量が遷移金属元素の総モル量に対して0.9−1.1倍モルである式Li(0.9≦p1.1)で表わされるリチウム含有複合酸化物と、ジルコニウムを含む水溶液とを撹拌、混合し、酸素雰囲気下450℃以上で高温焼成することにより、酸化ジルコニウムが表面層に被覆されたリチウム含有複合酸化物を得る方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、LiNi0.375Co0.25Mn0.375、LiNi0.1Co0.8Mn0.1、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等のリチウム含有複合酸化物の粒子と、ZrO等の電気化学的不活性な金属酸化物の粒子とを混合する正極活物質の製造方法が記載されている。該方法で得られる正極活物質は、粉体の混合物であり、実際の正極活物質中の金属酸化物の含有割合が多く、金属酸化物を多量に添加する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/102407号
【特許文献2】特表2006−512742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、サイクル特性、レート特性に優れるリチウムイオン二次電池の正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池、および、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を提供する。
[1]Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物の表面に、Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子が付着する粒子(II)からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用の正極活物質。
[2]Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素のモル比(被覆量)が、前記リチウム含有複合酸化物の遷移金属元素の全モル量に対して0.0001〜0.08倍である[1]に記載の正極活物質。
[3]前記金属元素の酸化物(I)の微粒子が、ZrO、TiO、SnO、MgO、BaO、PbO、Bi、Nb、Ta、ZnO、Y、La、Sr、CeO、In、Al、インジウム錫酸化物(ITO)、イットリア安定ジルコニア(YSZ)、チタン酸金属バリウム、チタン酸ストロンチウムおよび錫酸亜鉛から選ばれる少なくとも一種である[1]または[2]に記載の正極活物質。
[4]前記リチウム含有複合酸化物が、下記式(2)で表される化合物である請求項[1]または[2]に記載の正極活物質。
Li(LiMnMe)O (2)
(但し、式(2)において、Meは、Co、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素であり、0.09<x<0.3、0.4≦y/(y+z)≦0.8、x+y+z=1、1.9<p<2.1、0≦q≦0.1である。)
[5][1]〜[4]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用の正極活物質と導電材とバインダーとを含むリチウムイオン二次電池用正極。
[6][5]に記載の正極と負極と非水電解質とを含むリチウムイオン二次電池。
【0008】
[7]Li元素と、Ni、CoおよびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物と、下記組成物(1)とを接触させて、加熱することにより、前記リチウム含有複合酸化物の表面にZr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子が付着する粒子(II)からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
組成物(1):Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子を溶媒に分散させた分散液。
[8]前記酸化物(I)の微粒子が、ZrO、TiO、SnO、MgO、BaO、PbO、Bi、Nb、Ta、ZnO、Y、La、Sr、CeO、In、Al、インジウム錫酸化物(ITO)、イットリア安定ジルコニア(YSZ)、チタン酸金属バリウム、チタン酸ストロンチウムおよび錫酸亜鉛から選ばれる少なくとも一種である[7]に記載の製造方法。
[9]前記加熱を50〜350℃で行う[7]または[8]に記載の製造方法。
[10]前記組成物(1)の溶媒が、水である[7]〜[9]のいずれか一項に記載の製造方法。
[11]前記組成物(1)のpHが、3〜12である[7]〜[10]のいずれか一項に記載の製造方法。
[12]前記リチウム含有複合酸化物と、前記組成物(1)との接触を、撹拌しているリチウム含有複合酸化物に該組成物を添加して、前記リチウム含有複合酸化物と該組成物とを混合することにより行う、[7]〜[11]のいずれか一項に記載の製造方法。
[13]前記リチウム含有複合酸化物と、前記組成物(1)との接触を、スプレーコート法によって該組成物を前記リチウム含有複合酸化物に噴霧することにより行う、[7]〜[12]のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の正極活物質は、サイクル特性、レート特性に優れる。本発明の正極およびリチウムイオン二次電池は、サイクル特性、レート特性に優れる。さらに、本発明の製造方法は、サイクル特性、レート特性に優れる正極活物質、正極およびリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<正極活物質>
本発明の正極活物質は、Li元素と、Ni、CoおよびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物の表面に、Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子が付着する粒子(II)からなることを特徴とする。
【0011】
(リチウム含有複合酸化物)
本発明におけるリチウム含有複合酸化物は、Li元素と、Ni、CoおよびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含むものであって、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍モル超{すなわち、(Li元素のモル量/遷移金属元素の総モル量)>1.2}である。Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超であると、単位質量あたりの放電容量を向上させることができる。
【0012】
Li元素の前記遷移金属元素の総モル量に対する組成比は、単位質量あたりの放電容量をより一層増加させるために1.25〜1.75であることが好ましく、1.25〜1.65であることがより好ましい。
【0013】
遷移金属元素としては、Ni、CoおよびMnから選ばれる少なくとも一種の元素を含むのが好ましく、Mn元素を必須とするのが特に好ましく、Ni、Co、およびMnを含むのがとりわけ好ましい。さらに、遷移金属元素としては、Ni、CoおよびMn以外の元素(以下、他の遷移金属元素と記す。)を必要に応じて含むのが好ましく、該他の遷移金属元素としては、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、およびMg等が挙げられる。
本発明におけるリチウム含有複合酸化物として、下記式(2)で表される化合物が好ましい。下記式(2)で表される化合物は、充放電や活性化等の処理を行う前の組成である。ここで、活性化とは、電池として通常4.4Vもしくは4.6V(vs.Li)より大きな電位で電気化学的に、または、硫酸、塩酸もしくは硝酸のような酸を用いた化学反応により、化学的に、酸化リチウム(LiO)、または、リチウムおよび酸化リチウムを、リチウム含有複合酸化物から取り除くことをいう。
【0014】
Li(LiMnMe)O (2)
式(2)において、Meは、Co、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素である。式(2)においては、0.09<x<0.3、0.4≦y/(y+z)≦0.8、x+y+z=1、1.9<p<2.1、0≦q≦0.1である。Meとしては、Co、Ni、Crが好ましく、Co、Niが特に好ましい。一般式(2)においては、0.1<x<0.25が好ましく、0.11<x<0.22がより好ましく、0.5≦y/(y+z)≦0.8が好ましく、0.55≦y/(y+z)≦0.75がより好ましい。
【0015】
リチウム含有複合酸化物の具体例としては、Li(Li0.130Ni0.26Co0.09Mn0.52)O、Li(Li0.13Ni0.22Co0.09Mn0.56)O、Li(Li0.13Ni0.17Co0.17Mn0.53)O、Li(Li0.15Ni0.17Co0.13Mn0.55)O、Li(Li0.16Ni0.17Co0.08Mn0.59)O、Li(Li0.17Ni0.17Co0.17Mn0.49)O、Li(Li0.17Ni0.21Co0.08Mn0.54)O、Li(Li0.17Ni0.14Co0.14Mn0.55)O、Li(Li0.18Ni0.12Co0.12Mn0.58)O、Li(Li0.18Ni0.16Co0.12Mn0.54)O、Li(Li0.20Ni0.12Co0.08Mn0.60)O、Li(Li0.20Ni0.16Co0.08Mn0.56)O、Li(Li0.20Ni0.13Co0.13Mn0.54)O、Li(Li0.22Ni0.12Co0.12Mn0.54)O、Li(Li0.23Ni0.12Co0.08Mn0.57)O、が好ましく、Li(Li0.16Ni0.17Co0.08Mn0.59)O、Li(Li0.17Ni0.17Co0.17Mn0.49)O、Li(Li0.17Ni0.21Co0.08Mn0.54)O、Li(Li0.17Ni0.14Co0.14Mn0.55)O、Li(Li0.18Ni0.12Co0.12Mn0.58)O、Li(Li0.18Ni0.16Co0.12Mn0.54)O、Li(Li0.20Ni0.12Co0.08Mn0.60)O、Li(Li0.20Ni0.16Co0.08Mn0.56)O、Li(Li0.20Ni0.13Co0.13Mn0.54)O、が挙げられる。
【0016】
本発明におけるリチウム含有複合酸化物が、上記式(2)で表される化合物である場合、Li元素のモル量の前記遷移金属元素の総モル量に対する組成比{すなわち、(1+x)/(y+z)}は1.2倍超であり、1.25〜1.75倍が好ましく、1.25〜1.65倍がより好ましい。該組成比が上記の範囲であれば、単位質量あたりの放電容量を増加させることができる。
【0017】
リチウム含有複合酸化物は、粒子状であることが好ましく、平均粒子径D50は3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましく、5〜20μmが特に好ましい。本発明において、平均粒子径D50とは、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積カーブにおいて、その累積カーブが50%となる点の粒子径である、体積基準累積50%径(D50)を意味する。粒度分布は、レーザー散乱粒度分布測定装置で測定した頻度分布および累積体積分布曲線で求められる。粒子径の測定は、粉末を水媒体中に超音波処理等で充分に分散させて粒度分布を測定する(例えば、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA−950VII、等を用いる)ことで行なわれる。
【0018】
リチウム含有複合酸化物の比表面積は、0.3〜10m/gであることが好ましく、0.5〜5m/gが特に好ましい。該比表面積が、0.3〜10m/gであると容量が高く、緻密な正極電極層が形成できる。なお、比表面積は、窒素を用いたBET法で測定することが好ましい。
本発明におけるリチウム含有複合酸化物は、層状岩塩型結晶構造(空間群R−3m)をとるものであることが好ましい。また、本発明におけるリチウム含有複合酸化物は、遷移金属元素に対するLi元素の比率が高いため、XRD(X線回折)測定では層状LiMnOと同様に2θ=20〜25°の範囲にピークが観察される。
【0019】
(酸化物(I)の微粒子)
本発明における酸化物(I)の微粒子は、Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物である。該酸化物は、電圧での充電(酸化反応)によって生じる電解質の分解によって生じた分解物との接触を防ぐため、分解物と不活性な化合物であることが好ましい。
酸化物(I)の微粒子は、ZrO、TiO、SnO、MgO、BaO、PbO、Bi、Nb、Ta、ZnO、Y、La、Sr、CeO、In、Al、インジウム錫酸化物(ITO)、イットリア安定ジルコニア(YSZ)、チタン酸金属バリウム、チタン酸ストロンチウムおよび錫酸亜鉛等が好ましい。
酸化物(I)の微粒子は、均一な被膜が得られやすく、化学的に安定であることから、Zr元素を含む酸化物が好ましく、特にZrOが好ましい。
【0020】
酸化物(I)の微粒子の形状は、SEM(走査形電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)等の電子顕微鏡により評価することができる。酸化物(I)の微粒子の形状は、粒子状、膜状、塊状等であってもよい。酸化物(I)の微粒子が粒子状である場合、酸化物(I)の微粒子の平均粒子径は、1〜100nmが好ましく、2〜50nmがより好ましく、3〜30nmが特に好ましい。酸化物(I)の微粒子の平均粒子径は、SEM、TEM等の電子顕微鏡より観察される、リチウム含有複合酸化物の表面を被覆している粒子の粒子径の平均である。
【0021】
(粒子(II))
本発明における粒子(II)は、上記リチウム含有複合酸化物の表面に上記酸化物(I)の微粒子が付着するものである。ここで、付着するとは、リチウム含有複合酸化物の表面に、酸化物(I)の微粒子が物理吸着、あるいは化学吸着している状態をいう。前記粒子(II)において、酸化物(I)の微粒子がリチウム含有複合酸化物の表面に付着していることは、例えば、粒子(II)を切断した後に断面を研磨し、X線マイクロアナライザー分析法(EPMA)で元素マッピングを行うことにより評価することができる。該評価方法によって、前記酸化物(I)がリチウム含有複合酸化物の中心(ここで、中心とは、リチウム含有複合酸化物の表面に接していない部分をいい、表面からの平均距離が最長である部分であるのが好ましい。)に対して、表面から100nmの範囲により多く存在することが確認できる。
粒子(II)における酸化物(I)の微粒子の割合は、正極活物質を酸に溶解してICP(高周波誘導結合プラズマ)測定により求めることができる。ICP測定によって酸化物(I)の微粒子の割合を求めることができない場合には、リチウム含有複合粒子と酸化物(I)の微粒子の仕込み量に基づいて算出されうる値である。
【0022】
粒子(II)における酸化物(I)の微粒子の割合は、酸化物(I)の微粒子中のZr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素のモル比(被覆量)がリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素の全モル量に対して0.0001〜0.08倍であることが好ましく、0.0003〜0.04倍であることがより好ましく、0.0005〜0.03倍であることが特に好ましい。上述の範囲であれば、リチウム含有複合酸化物と電解質の分解によって生じた分解物との接触を防ぐことができる。
【0023】
酸化物(I)の微粒子はリチウム含有複合酸化物の表面に付着する。酸化物(I)の微粒子は、リチウム含有複合酸化物の表面の全部を被覆していても、一部を被覆していてもよい。
本発明の正極活物質は、リチウム比率の高いリチウム含有複合酸化物を用いているため放電容量が大きい。また、本発明の正極活物質は、リチウム含有複合酸化物の表面にZr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子が付着している粒子(II)からなるものであるため、特にMn元素の溶出が抑制され、高電圧(特に4.5V以上)で充放電サイクルを行っても容量の低下が少なく、サイクル特性に優れる。
【0024】
<正極活物質の製造方法>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物と、下記組成物(1)とを接触させて、加熱することにより前記リチウム含有複合酸化物の表面にZr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子が付着する粒子(II)からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質を得る方法である。
【0025】
組成物(1):Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子を溶媒に分散させた分散液。
リチウム含有複合酸化物としては、上記のリチウム含有複合酸化物を用いることができ、好ましい態様も同様である。
【0026】
リチウム含有複合酸化物の製造方法としては、共沈法により得られたリチウム含有複合酸化物の前躯体とリチウム化合物を混合して焼成する方法、水熱合成法、ゾルゲル法、乾式混合法、イオン交換法等が挙げられるが、含有される遷移金属元素が均一に混ざることで放電容量が優れるため、共沈法により得られたリチウム含有複合酸化物の前躯体(共沈組成物)とリチウム化合物を混合して焼成する方法が好ましい。
【0027】
組成物(1)は、Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子を溶媒に分散させた分散液である。酸化物(I)の微粒子としては、上記の酸化物(I)の微粒子を用いることができ、好ましい態様も同様である。
【0028】
溶媒としては、金属元素を含む化合物の安定性や反応性の点で水を含む溶媒が好ましく、水と水溶性アルコールおよび/またはポリオールとの混合溶媒がより好ましく、水が特に好ましい。水溶性アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが挙げられる。ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、グリセリンが挙げられる。溶媒中に含まれる水溶性アルコールとポリオールの合計の含有量としては、各溶媒の合計量(溶媒全量)に対して0〜20質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。溶媒が水だけの場合は、安全面、環境面、取扱い性、コストの点で優れているため特に好ましい。
組成物(1)に含まれる酸化物(I)の微粒子の動的光散乱径は、1〜100nmであることが好ましく、2〜50nmであればさらに好ましく、3〜30nmであれば特に好ましい。動的光散乱径とは、動的光散乱法により測定した粒子のメディアン径であり、酸化物(I)の微粒子を溶媒に分散させた状態で測定する(例えば、日機装社製ナノトラックUPAを用いる。)。粒子径が1nm以上であれば、不純物が少なく、安定した分散液が得られやすい。粒子径が100nm以下であれば、リチウム含有複合酸化物の表面に均一に付着されやすい。
【0029】
さらに組成物(1)にはpH調整剤が含まれていても良い。pH調整剤としては、加熱時に揮発または分解するものが好ましい。具体的には、酢酸、クエン酸、乳酸、ギ酸等の有機酸やアンモニアが好ましい。
組成物(1)のpHとしては、3〜12が好ましく、3.5〜12がより好ましく、4〜10が特に好ましい。pHが上記の範囲にあれば、リチウム含有複合酸化物と組成物(1)とを接触させたときのリチウム含有複合酸化物からのLi元素の溶出が少なく、また、pH調整剤等の不純物が少ないため良好な電池特性が得られやすい。
【0030】
組成物(1)を調製する時には、必要に応じて分散処理を行うことが望ましい。分散処理方法としては、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、超音波分散装置等の公知の手法を用いることができる。分散処理によって、酸化物(I)の微粒子の溶媒への分散が容易に進み、安定して分散することができる。
酸化物(I)の微粒子の溶媒への分散性を向上させるために、組成物(1)は高分子分散剤や界面活性剤を含んでいても良い。ただし、高分子分散剤や界面活性剤が正極材に残留すると電池特性に悪影響を及ぼすため、組成物(1)中の高分子分散剤と界面活性剤の合計含有量は、酸化物(I)の微粒子に対して3質量%以下であることが望ましい。1質量%以下であればより好ましく、0〜0.1質量%であれば特に好ましい。
【0031】
本発明で使用される組成物(1)中に含まれる酸化物(I)の微粒子の濃度は、後の工程で加熱により溶媒を除去する必要がある点から高濃度の方が好ましい。しかし、濃度が高すぎると粘度が高くなり、正極活物質を形成する他の元素源と組成物(1)との均一混合性が低下し、組成物(1)中に含まれる酸化物(I)の微粒子の濃度は金属元素の酸化物(I)の微粒子換算で0.5〜30質量%が好ましく、4〜20質量%が特に好ましい。
【0032】
リチウム含有複合酸化物と組成物(1)との接触方法として、例えば、スプレーコート法、湿式方法を適用でき、スプレーコート法により組成物(1)をリチウム含有複合酸化物に噴霧する方法が特に好ましい。湿式方法では接触後にろ過または蒸発により溶媒を除去する必要があるためプロセスが煩雑になる。スプレーコート法の場合はプロセスが簡便であり、かつ酸化物(I)の微粒子をリチウム含有複合酸化物の表面に均一に付着させることができる。
【0033】
リチウム含有複合酸化物に接触させる組成物(1)の量は、リチウム含有複合酸化物に対して1〜50質量%が好ましく、2〜40質量%がより好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。組成物(1)の割合が上記の範囲であればリチウム含有複合酸化物の表面に酸化物(I)の微粒子を均一に付着させやすく、かつリチウム含有複合酸化物に組成物(1)をスプレーコートする際にリチウム含有複合酸化物が塊にならず撹拌しやすい。
【0034】
さらに、本発明の製造方法においては、撹拌しているリチウム含有複合酸化物に組成物(1)を添加して、リチウム含有複合酸化物と組成物(1)とを混合することにより、組成物(1)をリチウム含有複合酸化物に接触させることが好ましい。撹拌装置としては、ドラムミキサーまたはソリッドエアーの低剪断力の撹拌機を用いることができる。撹拌混合しながら組成物(1)とリチウム含有複合酸化物を接触させることで、より均一に酸化物(I)の微粒子がリチウム含有複合酸化物の表面に付着した粒子(II)を得ることができる。
【0035】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法においては、リチウム含有複合酸化物と、組成物(1)とを接触させて、加熱する。リチウム含有複合酸化物と、組成物(1)とを接触させて、加熱することで、リチウム含有複合酸化物の表面に、上記酸化物(I)の微粒子を付着させることができ、かつ、水や有機成分等の揮発性の不純物が除去できる。
【0036】
加熱は、酸素含有雰囲気下で行うことが好ましい。加熱温度は、50〜350℃であることが好ましく、100〜300℃がより好ましい。加熱温度が50℃以上であれば、リチウム含有複合酸化物の表面に、上記酸化物(I)の微粒子を付着させることができ、さらに残留水分等の揮発性の不純物が少なくなってサイクル特性に悪影響を与えない。加熱温度が上記の範囲であれば酸化物(I)の微粒子とリチウムやリチウム含有複合酸化物との反応が進みにくく、酸化物(I)の微粒子がリチウム含有複合酸化物の表面に付着するためサイクル特性が向上する。
【0037】
加熱時間は、0.1〜24時間が好ましく、0.5〜18時間がより好ましく、1〜12時間が特に好ましい。
【0038】
<正極>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、上記の正極活物質、導電材およびバインダーを含む。
リチウムイオン二次電池用正極は、正極集電体上(正極表面)に、本発明の正極活物質を含有する正極活物質層が形成されてなる。リチウムイオン二次電池用正極は、例えば、本発明の正極活物質、導電材およびバインダーを、溶媒に溶解させるか、分散媒に分散させるか、又は溶媒と混練することによって、スラリー又は混錬物を調製し、調製したスラリー又は混錬物を正極集電板に塗布等により担持させることによって、製造することができる。
【0039】
導電材としては、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等の不飽和結合を有する重合体およびその共重合体、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等のアクリル酸系重合体およびその共重合体等が挙げられる。
【0040】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記のリチウムイオン二次電池用正極、負極および非水電解質を含む。
負極は、負極集電体上に、負極活物質を含有する負極活物質層が形成されてなる。例えば、負極活物質を有機溶媒と混錬することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって、製造することができる。
【0041】
負極集電板としては、例えば、ニッケル箔、銅箔等の金属箔を用いることができる。
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であればよく、例えば、リチウム金属、リチウム合金、リチウム化合物、炭素材料、周期表14、15族の金属を主体とする酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタンおよび炭化ホウ素化合物等を用いることができる。
【0042】
リチウム合金およびリチウム化合物としては、リチウムと、リチウムと合金あるいは化合物を形成可能な金属とにより構成されるリチウム合金およびリチウム化合物を用いることができる。
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、フェノール樹脂やフラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化した有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類等を用いることができる。
周期表14族の金属としては、例えば、ケイ素あるいはスズであり、最も好ましくはケイ素である。また、比較的低い電位でリチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であれば、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物およびその他の窒化物等も同様に用いることができる。
【0043】
非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることが好ましい。
非水電解液としては、有機溶媒と電解質とを適宜組み合わせて調製されたものを用いることができる。有機溶媒としては、この種の電池に用いられるものであればいずれも使用可能であり、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いることができる。特に、電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。また、このような有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0044】
また、その他、非水電解質として、電解質塩を含有させた固体電解質、高分子電解質、高分子化合物等に電解質を混合または溶解させた固体状もしくはゲル状電解質等を用いることができる。
固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよく、例えば、無機固体電解質および高分子固体電解質のいずれをも用いることができる。
【0045】
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等を用いることができる。
高分子固体電解質としては、電解質塩と該電解質塩を溶解する高分子化合物を用いることができる。そして、この高分子化合物としては、ポリ(エチレンオキサイド)や同架橋体等のエーテル系高分子、ポリ(メタクリレート)エステル系、アクリレート系等を、単独あるいは分子中に共重合または混合して用いることができる。
【0046】
ゲル状電解質のマトリックスとしては、上記の非水電解液を吸収してゲル化するものであればよく、種々の高分子を用いることができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリ(ビニリデンフルオロライド)、ポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)等のフッ素系高分子等を使用することができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリアクリロニトリルおよびポリアクリロニトリルの共重合体を使用することができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリエチレンオキサイドおよびポリエチレンオキサイドの共重合体、同架橋体等のエーテル系高分子を使用することができる。共重合モノマーとしては、例えば、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等を挙げることができる。
また、酸化還元反応に対する安定性の観点により、上記した高分子のうち、特にフッ素系高分子を用いることが好ましい。
【0047】
上記したような各種の電解質中で用いられる電解質塩は、この種の電池に用いられるものであればいずれも使用可能である。電解質塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、CHSOLi、LiCl、LiBr等を用いることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等の形状を、用途に応じて適宜選択することができる。
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、初回充電(活性化)により不可逆的に変化して、主成分がLiMOであり、残部がLiMnOからなる組成になるものと推定される。主成分のLiMOは、Li化合物とM化合物から直接合成したLiMOよりも放電時に脱離するLi量が多いため、放電容量が高くなる。充放電反応は、下記式(3)で表される式に従い進行すると考えられる。
LiMO→(充電)→Li1−xMO+xLi (3)
式(3)において、xLiは負極に吸蔵される。また、放電は、充電と逆の反応をする。前記正極活物質を構成する式(2)で表されるリチウム含有複合酸化物は、リチウムイオン二次電池を活性化する前の組成を表している。
【実施例】
【0049】
<リチウム含有複合酸化物の合成>
硫酸ニッケル(II)六水和物(140.6g)、硫酸コバルト(II)七水和物(131.4g)、硫酸マンガン(II)五水和物(482.2g)に蒸留水(1245.9g)を加えて均一に溶解させて原料溶液とした。硫酸アンモニウム(79.2g)に蒸留水(320.8g)を加えて均一に溶解させてアンモニア源溶液とした。硫酸アンモニウム(79.2g)に蒸留水(1920.8g)を加えて均一に溶解させて母液とした。水酸化ナトリウム(400g)に蒸留水(600g)を加えて均一に溶解させてpH調整液とした。
【0050】
2Lのバッフル付きガラス製反応槽に母液を入れてマントルヒーターで50℃に加熱し、pHが11.0となるようにpH調整液を加えた。反応槽内の溶液をアンカー型の撹拌翼で撹拌しながら原料溶液を5.0g/分、アンモニア源溶液を1.0g/分の速度で添加し、ニッケル、コバルト、マンガンの複合水酸化物を析出させた。原料溶液を添加している間、反応槽内のpHを11.0に保つようにpH調整溶液を添加した。また、析出した水酸化物が酸化しないように反応槽内に窒素ガスを流量0.5L/分で流した。また、反応槽内の液量が2Lを超えないように連続的に液の抜き出しを行った。
【0051】
得られたニッケル、コバルト、マンガンの複合水酸化物から不純物イオンを取り除くため、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰返して洗浄した。ろ液の電気伝導度が25μS/cmとなった時点で洗浄を終了し、120℃で15時間乾燥させて前駆体とした。
ICPで前駆体のニッケル、コバルト、マンガンの含有量を測定したところ、それぞれ11.6質量%、10.5質量%、42.3質量%であった(モル比でニッケル:コバルト:マンガン=0.172:0.156:0.672)。
【0052】
前駆体(20g)とリチウム含有量が26.9mol/kgの炭酸リチウム(12.6g)を混合して酸素含有雰囲気下800℃で12時間焼成し、実施例のリチウム含有複合酸化物を得た。得られた実施例のリチウム含有複合酸化物の組成はLi(Li0.2Ni0.137Co0.125Mn0.538)Oとなる。実施例のリチウム含有複合酸化物の平均粒子径D50は5.3μmであり、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法を用いて測定した比表面積は4.4m/gであった。
【0053】
(実施例1)<リチウム含有複合酸化物へのジルコニウム被覆>
ジルコニウム含量がZrO換算で30質量%の酸性ジルコニア分散液(堺化学工業社製、SZRジルコニア水分散液)(0.75g)に、蒸留水(24.25g)を加えて、pH3.9のZrO分散液(組成物(1))を調製した。
次に、撹拌している実施例のリチウム含有複合酸化物(15g)に対して、調製したZrO分散液(2.4g)を噴霧して添加し、実施例のリチウム含有複合酸化物とZrO分散液とを混合させながら接触させた。次いで、得られた混合物を、酸素含有雰囲気下300℃で1時間加熱し、リチウム含有複合酸化物の表面にZr元素の酸化物(I)の微粒子が付着する粒子(II)からなる実施例1の正極活物質(A)を得た。
【0054】
正極活物質(A)に含まれる組成物(1)の金属元素(被覆材料)であるジルコニウムは、実施例のリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素であるニッケル、コバルト、マンガンの合計に対して、モル比(被覆量)で{(Zrのモル数)/(Ni、Co、Mnの合計モル数)}0.0013であった。得られた正極活物質(A)の粉末の断面を樹脂で包埋し、酸化セリウム微粒子で研磨し、正極活物質(A)の粒子断面をEPMA(X線マイクロアナライザ)でZrマッピングを行なった結果、粒子内部より、粒子外表面により多くのZrを検出できた。
【0055】
(実施例2)<リチウム含有複合酸化物へのジルコニウム被覆>
ZrO分散液(組成物(1))を調製する際に、酸性ジルコニア分散液(堺化学工業社製、SZRジルコニア水分散液)(3.76g)と蒸留水(21.24g)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極活物質(B)を得た。
正極活物質(B)に含まれる組成物(1)の金属元素(被覆材料)であるジルコニウムは、実施例のリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素であるニッケル、コバルト、マンガンの合計に対して、モル比(被覆量)で{(Zrのモル数)/(Ni、Co、Mnの合計モル数)}0.0063であった。
【0056】
(実施例3)<リチウム含有複合酸化物へのジルコニウム被覆>
ZrO分散液(組成物(1))を調製する際に、酸性ジルコニア分散液(堺化学工業社製、SZRジルコニア水分散液)(11.28g)と蒸留水(13.72g)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極活物質(C)を得た。
正極活物質(C)に含まれる組成物(1)の金属元素(被覆材料)であるジルコニウムは、実施例のリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素であるニッケル、コバルト、マンガンの合計に対して、モル比(被覆量)で{(Zrのモル数)/(Ni、Co、Mnの合計モル数)}0.0189であった。
【0057】
(実施例4)<リチウム含有複合酸化物へのジルコニウム被覆>
ZrO分散液(組成物(1))を調製する際に、酸性ジルコニア分散液(堺化学工業社製、SZRジルコニア水分散液)(22.55g)と蒸留水(2.45g)を用い、ZrO分散液の噴霧量を4.8gとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の正極活物質(D)を得た。
正極活物質(D)に含まれる組成物(1)の金属元素(被覆材料)であるジルコニウムは、実施例のリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素であるニッケル、コバルト、マンガンの合計に対して、モル比(被覆量)で{(Zrのモル数)/(Ni、Co、Mnの合計モル数)}0.063であった。
【0058】
(実施例5)<リチウム含有複合酸化物へのジルコニウム被覆>
ジルコニウム含量がZrO換算で30.8質量%の中性ジルコニア分散液(日産化学工業社製、ZR−30BFジルコニア水分散液)(3.66g)に、蒸留水(21.34g)を加えて、pH6.5のZrO分散液(組成物(1))を調製し、実施例1と同様にして、実施例5の正極活物質(E)を得た。
正極活物質(E)に含まれる組成物(1)の金属元素(被覆材料)であるジルコニウムは、実施例のリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素であるニッケル、コバルト、マンガンの合計に対して、モル比(被覆量)で{(Zrのモル数)/(Ni、Co、Mnの合計モル数)}0.0063であった。
【0059】
(比較例1)<被覆なし>
実施例のリチウム含有複合酸化物に対して被覆処理は行わず、比較例1の正極活物質(F)とした。
【0060】
(比較例2)
ジルコニア粉末(0.108g)と、実施例のリチウム含有複合酸化物(15g)とを、乾燥状態で混合し、比較例2の正極活物質(G)とした。
正極活物質(G)に含まれる金属元素(被覆材料)であるジルコニウムは、実施例のリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素であるニッケル、コバルト、マンガンの合計に対して、モル比(被覆量)で{(Zrのモル数)/(Ni、Co、Mnの合計モル数)}0.0063であった。
【0061】
(比較例3)
ジルコニア粉末(1.08g)と、実施例のリチウム含有複合酸化物(15g)とを、乾燥状態で混合し、比較例2の正極活物質(H)とした。
正極活物質(H)に含まれる金属元素(被覆材料)であるジルコニウムは、実施例のリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素であるニッケル、コバルト、マンガンの合計に対して、モル比(被覆量)で{(Zrのモル数)/(Ni、Co、Mnの合計モル数)}0.063であった。
【0062】
<正極体シートの作製>
正極活物質として、実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3の正極活物質(A)〜(H)をそれぞれ用い、正極活物質とアセチレンブラック(導電材)とポリフッ化ビニリデン(バインダー)を12.1質量%含むポリフッ化ビニリデン溶液(溶媒N−メチルピロリドン)を混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加してスラリーを作製した。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンは質量比で80/12/8とした。スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)にドクターブレードを用いて片面塗工した。120℃で乾燥し、ロールプレス圧延を2回行うことによりリチウム電池用の正極となる実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3の正極体シートを作製した。
【0063】
<電池の組み立て>
前記の実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3の正極体シートを打ち抜いたものを正極に用い、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体に厚さ1mmのステンレス板を使用し、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、さらに電解液には、濃度1(mol/dm)のLiPF/EC(エチレンカーボネート)+DEC(ジエチルカーボネート)(1:1)溶液(LiPFを溶質とするECとDECとの体積比(EC:DEC=1:1)の混合溶液を意味する。)を用いてステンレス製簡易密閉セル型の実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3のリチウム電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。
【0064】
<初期容量の評価><サイクル特性の評価>
前記実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3のリチウム電池について、25℃にて電池評価を行った。
正極活物質1gにつき150mAの負荷電流で4.8Vまで充電し、正極活物質1gにつき37.5mAの負荷電流にて2.5Vまで放電した。4.8〜2.5Vにおける正極活物質の放電容量を4.8V初期容量とする。続いて正極活物質1gにつき150mAの負荷電流で4.3Vまで充電し、正極活物質1gにつき37.5mAの負荷電流にて2.5Vまで放電した。
【0065】
このような充放電を行った実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3のリチウム電池について引き続き充放電正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.5Vまで充電し、正極活物質1gにつき100mAの負荷電流にて2.5Vまで放電する充放電サイクルを100回繰返した。4.5V充放電サイクル1回目の放電容量を4.5V初期容量とする。4.5V充放電サイクル100回目の放電容量を4.5V充放電サイクル1回目の放電容量で割った値をサイクル維持率とする。
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3のリチウム電池について、4.8V初期容量、4.5V初期容量、50サイクル目のサイクル維持率、100サイクル目のサイクル維持率について表1にまとめる。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、実施例1〜実施例5のリチウム電池は、比較例1〜比較例3のリチウム電池と比較して、サイクル維持率が高かった。
また、実施例1〜実施例3では、正極活物質(A)〜(C)に含まれるジルコニウムのモル比(被覆量)を上げると、サイクル維持率が向上した。また、正極活物質(D)に含まれるジルコニウムのモル比(被覆量)が0.063である実施例4は、前記モル比(被覆量)が0.0189である実施例3と比較して、サイクル維持率が低かった。また、正極活物質(E)に含まれるジルコニウムのモル比(被覆量)が0.0063である実施例5は、前記モル比(被覆量)が0.0063である実施例2と比較して、サイクル維持率が高かった。
【0068】
<レート特性の評価>
(実施例6)
4.5V初期容量の評価において、4.5Vから2.5Vまでの放電を正極活物質1gにつき1000mAの負荷電流で行った以外は実施例3の電池評価と同様に行った。
4.5V初期容量は152mAh/gであり、実施例3の4.5V初期容量に対して77%であった。
【0069】
(比較例3)
4.5V初期容量の評価において、4.5Vから2.5Vまでの放電を正極活物質1gにつき1000mAの負荷電流で行った以外は比較例1の電池評価と同様に行った。
4.5V初期容量は98mAh/gであり、比較例1の4.5V初期容量に対して47%であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、小型・軽量、単位質量あたりの放電容量が高く、かつサイクル特性、レート特性に優れるリチウムイオン二次電池用の正極活物質、正極およびリチウムイオン二次電池を得ることができ、携帯電話等の電子機器、車載用のバッテリー等に利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li元素と、Ni、CoおよびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物の表面に、Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子が付着する粒子(II)からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用の正極活物質。
【請求項2】
Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素のモル比(被覆量)が、前記リチウム含有複合酸化物の遷移金属元素の全モル量に対して0.0001〜0.08倍である請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記金属元素の酸化物(I)の微粒子が、ZrO、TiO、SnO、MgO、BaO、PbO、Bi、Nb、Ta、ZnO、Y、La、Sr、CeO、In、Al、インジウム錫酸化物(ITO)、イットリア安定ジルコニア(YSZ)、チタン酸金属バリウム、チタン酸ストロンチウムおよび錫酸亜鉛から選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム含有複合酸化物が、下記式(2)で表される化合物である請求項1または2に記載の正極活物質。
Li(LiMnMe)O (2)
(但し、式(2)において、Meは、Co、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素であり、0.09<x<0.3、0.4≦y/(y+z)≦0.8、x+y+z=1、1.9<p<2.1、0≦q≦0.1である。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用の正極活物質と導電材とバインダーとを含むリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載の正極と負極と非水電解質とを含むリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
Li元素と、Ni、CoおよびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物と、下記組成物(1)とを接触させて、加熱することにより、前記リチウム含有複合酸化物の表面にZr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子が付着する粒子(II)からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
組成物(1):Zr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物(I)の微粒子を溶媒に分散させた分散液。
【請求項8】
前記酸化物(I)の微粒子が、ZrO、TiO、SnO、MgO、BaO、PbO、Bi、Nb、Ta、ZnO、Y、La、Sr、CeO、In、Al、インジウム錫酸化物(ITO)、イットリア安定ジルコニア(YSZ)、チタン酸金属バリウム、チタン酸ストロンチウムおよび錫酸亜鉛から選ばれる少なくとも一種である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記加熱を50〜350℃で行う請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記組成物(1)の溶媒が、水である請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記組成物(1)のpHが、3〜12である請求項7〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記リチウム含有複合酸化物と、前記組成物(1)との接触を、撹拌しているリチウム含有複合酸化物に該組成物を添加して、前記リチウム含有複合酸化物と該組成物とを混合することにより行う、請求項7〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記リチウム含有複合酸化物と、前記組成物(1)との接触を、スプレーコート法によって該組成物を前記リチウム含有複合酸化物に噴霧することにより行う、請求項7〜12のいずれか一項に記載の製造方法。


【公開番号】特開2012−138197(P2012−138197A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288325(P2010−288325)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】