説明

リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法

【課題】充填性に優れ、初期容量が高く、充放電を繰り返した際の容量維持率が高いリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物を主体とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法において、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の粉砕物に、550℃〜900℃の温度で溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物、またはリチウムまたはマンガンと固溶するか反応して溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物を添加し混合して造粒する工程を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、その製造方法及びその正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用正極活物質としては、安全性に優れ、かつ資源も豊富なリチウムマンガン複合酸化物(以下Li−Mn系複合酸化物という。)が注目されている。しかしながら、Li−Mn系複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物(Li−Co系複酸化物と略する。)と比較して活物質当たりの容量が低く、二次粒子内に多くの空隙を含むので、二次粒子が軽く、吸油量が大きいために大きさが制限される電池内に仕込める活物質質量が少なくなってしまう。その結果、単位電池あたりの電気容量が小さいという問題がある。
【0003】
その改善策として、近年、マンガン化合物とリチウム化合物との混合物を500kg/cm2以上の圧力で加圧成形後、加熱処理し解砕を行うことにより、タップ密度(一定の条件で容器を振動させて得られる粉末の見掛け密度)が1.7g/ml以上のLi−Mn複合酸化物を得ようとする提案がある(米国特許第5807646号,特開平9−86933号)。しかしながら、開示されている具体的なタップ密度は、高々1.9g/mlに過ぎず満足のいくレベルではなかった。
【0004】
また、前記公報には、Li−Mn系複合酸化物の1次粒子が凝集した二次粒子の平均粒子径が開示されているが、二次粒子は1次粒子間の相互作用を利用して充填性を向上させても、電極材料の調合工程の際に塗料化(電極ペースト化)する段階でその凝集がなくなり、本質的な改善策になっていない。
【0005】
また、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の製造方法としては、マンガン化合物とリチウム化合物の混合物を高温(例えば250℃から850℃の温度下)で焼成して製造する方法(特開平9−86933号公報)や、マンガン化合物とリチウム化合物にさらにマンガンと置換し得る硼素元素の酸化物を混合し、高温で焼成してMnをBで一部置換したLi−Mn−B系酸化物の正極活物質を製造する方法(特開平4−237970号公報)が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの原料を大気中または酸素ガスフロー中、高温で焼成した場合には、解砕後の二次粒子は、平均空隙率が大きく(15%以上)、タップ密度が低く(1.9g/ml以下)、このため電極に仕込める正極活物質の質量を多くして高容量化を図ることはできない。
【0007】
また、特開平4−14752号公報には、スピネル型リチウムマンガン酸化物に酸化チタンを配合、焼結したマンガン系酸化物の正極活物質への使用が開示されているが、酸化チタンは950℃〜1000℃以上でないとリチウムとマンガンと反応して融液を生成せず、さらには酸化チタンを10質量%も添加しないとタップ密度は1.60g/mlしか得られないとの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−86933号公報
【特許文献2】特開平4−237970号公報
【特許文献3】特開平4−14752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、充填性に優れ、初期容量が高く、充放電を繰り返した時の容量の低下が少ない(容量維持率が高い)リチウムイオン二次電池用正極活物質、その製造方法及びその正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の焼成品を解砕後、これらの粉砕粒子に焼結促進助剤を添加し、造粒及び焼成することにより粒子の緻密化を図ることに成功して前記課題を解決した。
すなわち、本発明は、以下のリチウムイオン二次電池用正極活物質、その製造方法、その正極活物質を含む電極用ペースト及びリチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を提供する。
【0011】
[1]スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物粒子を主体とするリチウムイオン二次電池用正極活物質において、下記式
空隙率(%)=(A/B)×100 (1)
(Aは二次粒子1個の断面に含まれるポアの総断面積であり、Bは二次粒子1個の断面積である。)で示される前記粒子の空隙率の平均値が15%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[2]前記平均空隙率の値が10%以下であり、かつ一次粒子の平均粒子径が0.2〜3μmである前記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[3]正極活物質のタップ密度が、1.9g/ml以上である前記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[4]正極活物質のタップ密度が、2.2g/ml以上である前記[3]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[5]正極活物質の結晶子サイズが、400〜960オングストロームである前記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[6]正極活物質の格子定数が、8.240オングストローム以下である前記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[7]正極活物質が、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物を主体とし、その酸化物が550℃〜900℃の温度で溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物、またはリチウムまたはマンガンと固溶するか反応して溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物からなり、造粒及び焼結されている活物質である前記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[8]550℃〜900℃の温度で溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物、またはリチウムまたはマンガンと固溶するか反応して溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物が、Bi、B、W、Mo、Pbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素または元素を含む化合物、またはB23とLiFを組み合わせた化合物またはMnF2とLiFを組み合わせた化合物である前記[7]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[9]スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物を主体とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法において、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の粉砕物に、550℃〜900℃の温度で溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物、またはリチウムまたはマンガンと固溶するか反応して溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物を添加し混合して造粒する工程を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[10]造粒工程以外に、前記造粒物を焼結する工程を有する前記[9]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[11]造粒工程以外に、前記造粒物を焼結収縮開始温度から少なくとも100℃以上高い温度まで少なくとも100℃/minの速度で昇温してその温度に1分〜10分間保持した後、少なくとも100℃/minの速度で焼結開始温度まで降温して焼結させる工程を有する前記[9]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[12]ロータリーキルンを用いて焼結させる前記[11]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[13]前記焼結工程が、Li−Mn系複合酸化物粒子の表面でBi、B、W、Mo、Pbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素または元素を含む化合物、またはB23とLiFを組み合わせた化合物またはMnF2とLiFを組み合わせた化合物を溶融し焼結して行われる前記[10]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[14]スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の粉砕物の平均粒子径が、5μm以下である前記[9]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[15]スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の粉砕物の平均粒子径が、3μm以下である前記[9]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[16]前記造粒工程が、噴霧造粒方法、撹拌造粒方法、圧縮造粒方法または流動造粒方法で行われる前記[9]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[17]前記造粒工程において、造粒助剤として、アクリル系樹脂、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合物、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリデン、ハイドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、コーンスターチ、ゼラチン、リグニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物を使用する前記[9]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[18]大気中または酸素を含有するガスフロー雰囲気中、300℃〜550℃の温度下で脱脂工程を有する前記[17]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[19]前記[9]乃至[18]のいずれかの項に記載の方法で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[20]前記[1]乃至[8]のいずれかの項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む電極用ペースト。
[21]前記[1]乃至[8]のいずれかの項または前記[19]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含むリチウムイオン二次電池用正極。
[22]前記[21]に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池。
[23]リチウムイオン二次電池が、コイン型電池、巻回型電池、円筒型、角型電池または積層型電池である前記[22]に記載のリチウムイオン二次電池。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明により造粒・焼成・整粒された正極活物質の一例(実施例14)の走査電子顕微鏡写真(×15,000倍)である。
【図2】本発明により造粒・焼成・整粒された正極活物質の一例(実施例14)の粒径分布である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、二次粒子の空隙率を従来品に比べ大きく減少させ15%以下とした、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物正極活物質に関する。また、本発明は、二次粒子の平均空隙率が10%以下であり、従来品と比べそのサイクル特性の特に優れたスピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物に関する。
【0014】
すなわち、本発明におけるスピネル構造を有するリチウム−マンガン(Li−Mn)系複合酸化物の正極活物質は、化学式LiMn24、Li1+xMn2-x4(式中xは0<x<0.2の範囲である。)または前記Mnを、クロム、コバルト、アルミニウム、ニッケル、鉄、マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(化学式ではMと略する)で置換した化学式Li1+xMn2-x-yy4(式中xは0<x<0.2の範囲であり、yは0<y<0.4である。)で示される化合物を総称するものである。
【0015】
本発明においては、リチウムイオン二次電池用正極活物質は、前記スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物を主体とするものであって、二次粒子1個の空隙率が下記式(1)
空隙率(%)=(A/B)×100 (1)
(Aは二次粒子1個の断面に含まれるポアの総断面積であり、Bは二次粒子1個の断面積である。)で算出され、その平均空隙率が15%以下であるものが使用される。
【0016】
また、前記Li−Mn系複合酸化物としては、好ましくは前記正極活物質の平均空隙率は10%以下であって、一次粒子の平均粒子径が0.2〜3μmであるものが使用される。
すなわち、正極活物質としてタップ密度が1.9g/mlを超えるためには、二次粒子の平均空隙率が15%以下であることが必要である。二次粒子の平均空隙率は好ましくは13%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
【0017】
一般的に複合酸化物の製造方法において、焼結温度を高くかつ焼結時間を長くして焼結収縮させて二次粒子の平均空隙率をできるだけ低減しようとすると、一次粒子は焼結収縮に伴い粒成長して大きくなってしまい、この材料を電池正極活物質に使用すると容量維持率が低下する。その結果、電池組立後の電池特性が悪化してしまう。
【0018】
本発明者らは、粒成長を抑制して焼結収縮させる方法を鋭意研究した結果、熱機械試験機(Thermo-mechanical analysis)で測定した焼結収縮開始温度よりも少なくとも100℃以上高い温度まで少なくとも100℃/minの速度で昇温した後、1分〜10分の時間保持後、該焼結収縮開始温度まで少なくとも100℃/minの速度で降温することにより粒成長を抑制して焼結収縮できることを見出した。
【0019】
ここで、焼結収縮開始温度とは、熱機械試験機で求めた収縮開始温度をいう。前記保持温度としては、焼結収縮開始温度よりも少なくとも100℃以上高い温度であることが必要である。保持温度を焼結開始温度よりも100℃未満に高くした程度では、焼結収縮速度が遅いため焼結時間が長く必要となり、その結果粒成長して一次粒子径が0.5μmよりも大きくなってしまう。
【0020】
また、前記焼結工程において該焼結収縮開始温度よりも少なくとも100℃以上の高い温度において、一次粒子径が0.2μm以上、かつ0.5μm以下であって、かつ優れた電池特性が得られる保持時間は、少なくとも1分以上、10分以内である。保持時間が1分未満では熱伝達時間が短すぎて一次粒子径が0.2μm未満と小さく、結晶化も不十分となり、初期容量が小さくなる。保持時間が10分を越えると、焼結収縮後も粒成長が進行するので、一次粒子が大きくなり容量維持率が低下する。
【0021】
本発明においては、好ましくは保持時間は2分から8分、さらに好ましくは2分から5分とする。
焼結開始温度から保持温度までの温度領域において昇温速度と降温速度を少なくとも100℃/分と限定したのは、粒成長が進行する温度領域での保持時間をできるだけ短くすることにより焼結収縮のみを進行させて粒成長を抑制するためである。
また、正極活物質のタップ密度が2.2g/mlを越えるためには、二次粒子の平均空隙率が10%以下であることが必要であり、好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0022】
本発明における前記正極活物質の結晶子サイズは、400〜960オングストロームが好ましい。結晶子サイズが400オングストローム未満の場合では、結晶性が不十分のために電池における初期容量が低く、容量維持率が低くなる。一方、結晶子サイズが960オングストロームを超える場合には、容量維持率の低下が激しくなる。さらに具体的に好ましい結晶子サイズは500〜920オングストロームであり、さらに望ましくは700〜920オングストロームである。
【0023】
また、本発明のスピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の正極活物質は、その格子定数が8.240オングストローム以下であることが好ましい。格子定数が8.240オングストロームを超えると電池の容量維持率の低下が激しくなる。従って、格子定数の好ましい範囲は、8.235オングストローム以下であり、さらに好ましくは8.233オングストローム以下である。
【0024】
スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物を主体とする本発明の正極活物質は、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の焼成品を解砕後、得られる粉砕粒子(これは1次粒子の集合した二次粒子であり、好ましくは平均粒子径が0.5μm以下である。)に焼結促進助剤(造粒促進剤)を添加混合して造粒焼成した緻密な造粒粒子が使用される。ここで、緻密な造粒粒子とは、その酸化物の1次粒子間に空隙がないか、または少ないことを意味する。本発明の正極活物質は前記の緻密な造粒粒子であり、後記する焼結促進助剤を使用して形成される。
【0025】
以下、本発明の正極活物質の製造方法について説明する。
スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の製造方法は、マンガン化合物とリチウム化合物の混合物、またはさらにマンガンと置換し得る異種元素を含む化合物を添加した混合物を大気中または酸素ガスフロー中において、300〜850℃の温度で少なくとも1時間以上焼成すればよい。
【0026】
スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の結晶性については特に制限はなく、未反応のリチウム化合物とマンガン酸化物が残留していてもかまわない。結晶性の高いスピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物を使用する場合、格子定数について特に制約はないが、格子定数が8.240オングストローム以下となる正極活物質に使用すると、容量維持率の低下が抑えられる。
【0027】
スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の原料は、特に制限を受けないが、好ましくは公知のマンガン化合物、例えば二酸化マンガン、三二酸化マンガン、四三酸化マンガン、水和マンガン酸化物、炭酸マンガン、硝酸マンガンなどが使用でき、またリチウム化合物としては水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどが使用できる。
また望ましくは、前記マンガン化合物としては、正極活物質に適応させた時の電池特性が優れているリチウム化合物と低温で反応しやすい炭酸マンガンが好ましい。
【0028】
マンガン置換型のLi1+xMn2-x-yy4で示されるLi−Mn−M(異種元素)系複合酸化物の製造には、前記マンガン化合物と前記リチウム化合物の原料と共にクロム、コバルト、アルミニウム、ニッケル、鉄、マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が使用される。そして、この異種元素Mを含む化合物としては、加熱反応によって前記酸化物を形成し得る化合物なら何でもよく、前記加熱反応の際にリチウム化合物やマンガン化合物と共に添加すればよい。
【0029】
前記のスピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の二次粒子の解砕・粉砕方法については特に制限はなく公知の解砕機や粉砕機が使用できる。例えば、媒体撹拌式粉砕機、ボールミル、ペイントシェーカー、ジェットミル、ローラーミルなどが挙げられる。解砕・粉砕方式は乾式でもよいし、湿式でもよい。湿式の際に使用できる溶媒についても特に制限はなく、例えば水、アルコールなどが使用される。
【0030】
焼結収縮を促進させるという観点から、解砕・粉砕後のスピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の粒度が重要である。
粒度はレーザー式粒度分布測定器で測定した時の平均粒子径が5μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、5μm以上の粗大粒子を含まず平均粒子径が2μm以下のものである。さらに好ましくは、3μmを越える粗大粒子を含まず平均粒子径が1.5μm以下のもの、さらには、0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下、特に好ましくは0.2μm以下のものである。
【0031】
解砕・粉砕したLi−Mn系複合酸化物粒子と焼結促進助剤との混合方法には特に制限はなく、例えば前記した媒体撹拌式粉砕機、ボールミル、ペイントシェーカー、混合ミキサーなどが使用できる。混合方式についても乾式、湿式どちらでもよい。Li−Mn系複合酸化物を解砕・粉砕する際に焼結促進助剤を添加して混合を同時に行ってもよい。
焼結促進助剤は、Li−Mn系複合酸化物粒子の解砕・粉砕粒子を造粒のために焼結できるものであればよく、より好ましくは、900℃以下の温度で溶融する化合物、例えば550℃〜900℃の温度で溶融可能な酸化物または酸化物になり得る前駆体、もしくはリチウムまたはマンガンと固溶するかまたは反応して溶融する酸化物または酸化物になり得る化合物であればよい。
【0032】
焼結促進助剤としては、例えばBi、B、W、Mo、Pbなどの元素を含む化合物が挙げられ、またこれらの化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。また、B23とLiFを組み合わせた化合物またはMnF2とLiFを組み合わせた化合物も使用される。中でも、Bi、B、Wの元素を含む化合物は焼結収縮効果が大きいので好ましい。
【0033】
Bi化合物としては、例えば三酸化ビスマス、硝酸ビスマス、安息臭酸ビスマス、オキシ酢酸ビスマス、オキシ炭酸ビスマス、クエン酸ビスマス、水酸化ビスマスなどが挙げられる。また、B化合物としては、三二酸化硼素、炭化硼素、窒化硼素、硼酸などが挙げられる。W化合物としては、二酸化タングステン、三酸化タングステンなどが挙げられる。
【0034】
焼結促進助剤の添加量は、添加金属元素換算でLi−Mn系複合酸化物中のMn1モルに対して、0.0001〜0.05モルの範囲内が好ましい。添加金属元素換算での添加量が、0.0001モル未満では焼結収縮効果が得られず、0.05モルを超えると活物質の初期容量が小さくなる。好ましい添加量は0.005〜0.03モルである。
【0035】
焼結促進助剤は、粉末状態で使用しても溶媒に溶解した液体状態で使用しても構わない。粉末状態で添加する場合、焼結促進助剤の平均粒子径は50μm以下が好ましく、さらに10μm以下が好ましく、3μm以下が一層好ましい。焼結促進助剤は造粒/焼結前に添加することが好ましいが、造粒後焼結促進助剤が溶融できる温度で造粒物に含浸させ、焼結させても構わない。
【0036】
焼結促進助剤は、焼成後において電池に使用される正極材料中に残存されることが多く、例えば本発明における製造方法において使用される前記焼結促進助剤が正極活物質に残存していることが分析により検知される。
【0037】
次に造粒方法について説明する。
造粒方法としては、前記焼結促進助剤を使用して噴霧造粒方法、流動造粒方法、圧縮造粒方法、撹拌造粒方法などが挙げられ、また媒体流動乾燥や媒体振動乾燥などの併用をしてもよい。
【0038】
本発明においては緻密な二次粒子(造粒粒子も含む)が形成できればよく、特に造粒の形成方法に制約はない。撹拌造粒と圧縮造粒は、二次粒子の密度が高くなるため、また噴霧造粒は造粒粒子形状が真球状となるため特に好ましい。撹拌造粒器の例としては、パウレック(株)社製バーチィカルグラニュレーターや不二パウダル(株)社製スパルタンリューザーなどが挙げられ、圧縮造粒器の例としては、栗本鉄工(株)製ローラーコンパクターMRCP−200型などが挙げられる。噴霧造粒器の例としては、アシザワニロアトマイザー(株)モービルマイナー型スプレードライヤーなどが挙げられる。
【0039】
造粒する二次粒子のサイズには特に制約はない。造粒した二次粒子の平均粒子径が大きすぎる場合には、造粒直後または焼結後に軽く解砕・粉砕し分級する等して整粒し、希望する粒度にすればよい。一般的には、平均粒子径10〜20μmのサイズの二次粒子が好まれる。
【0040】
造粒効率を高めるためには、有機物系の造粒助剤を添加してもよい。
このような造粒助剤としては、アクリル系樹脂、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合体、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリデン、ハイドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、コーンスターチ、ゼラチン、リグニンなどが挙げられる。
【0041】
造粒助剤の添加方法は、粉末状態で添加するよりも、水やアルコールなどの有機溶媒に溶解して噴霧するなどの方法で添加し造粒する方が効率がよい。造粒助剤の添加量としては、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物及び焼結促進助剤100質量部に対して5質量部以下が好ましく、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0042】
次に造粒した二次粒子の焼成方法について説明する。
造粒した粒子の脱脂方法は、大気中または酸素を含有するガスフロー中で300〜550℃の温度範囲で10分以上保持することにより行う。脱脂した造粒物のカーボン残留量は、0.1%以下であることが好ましい。
【0043】
脱脂後の造粒粒子の焼成は、粒成長を抑制して焼結収縮を進行させるために、大気中または酸素を含有するガスフロー中、550℃〜900℃の温度範囲で1分間以上、焼結促進助剤がLi−Mn系複合酸化物粒子表面で溶融した状態で保持して焼結収縮させ二次粒子の緻密化をはかることができる。
【0044】
また、本発明では、脱脂後の造粒粒子の焼成は、粒成長を抑制して焼結収縮を進行させるために大気中または酸素を含有するガスフロー中で熱機械試験機で測定した焼結収縮開始温度よりも、少なくとも100℃高い温度まで、少なくとも100℃/minの速度で昇温して1分〜10分間保持した後、少なくとも100℃/minの速度で焼結収縮開始温度まで降温して焼結収縮させ、二次粒子の緻密化をはかる。常温と焼結収縮開始温度との間の昇温速度と降温速度については、従来通り10℃/min以下でも構わない。
【0045】
また、前述の有機物系の造粒助剤を使用しない造粒物の粒子の焼成も、大気中または酸素を含有するガスフロー雰囲気中で同様に焼結収縮させ、二次粒子の緻密化をはかることができる。
本発明の正極活物質及び本発明の製造方法から得られる正極活物質は、従来のLi−Mn系複合酸化物と同様の方法に準じてリチウムイオン二次電池用正極に加工され、電池の評価に供される。
【0046】
以下、本発明の前記正極活物質を非水二次電池の正極材料として使用する例について説明する。
先ず正極材料は、前記正極活物質とカーボンブラックまたは黒鉛などの導電性付与剤、及びポリフツ化ビニリデンなどのバインダー(結合材)を溶解した溶液(例えば、N−メチルピロリドンなど)を所定割合で混練して、電極ペーストとして集電体に塗布し、次いで乾燥後にロールプレスなどで加圧して製造される。集電体には、アルミニウム、ステンレス、チタン等の公知の金属製集電体が使用される。
【0047】
本発明の非水二次電池において使用される電解液中の電解質塩としては、フッ素を含有する公知のリチウム塩が使用できる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiN(CF3SO22、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC49SO3などが使用できる。非水二次電池の電解液は、前記フッ素を含有する公知のリチウム塩の少なくとも1種の電解質を非水系電解液に溶解して用いる。前記非水系電解液の非水溶媒には、化学的及び電気化学的に安定な非プロトン性のものが使用できる。
【0048】
例えば、炭酸ジメチル、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸メチルエチル、炭酸メチルプロピル、炭酸メチルイソプロピル、炭酸メチルブチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルプロピル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジブチル、炭酸1,2−ブチレン、炭酸エチルイソプロピル、炭酸エチルブチル等の炭酸エステル類が挙げられる。また、トリエチレングリコールメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のオリゴエーテル類、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル等の脂肪族エステル類、ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、スルホラン等の硫黄化合物、N−ビニルピロリドン、N−メチルピロリドン、リン酸エステル類等も例示できる。中でも、炭酸エステル類、脂肪族エステル類、エーテル類が好ましい。
【0049】
本発明の非水二次電池において使用される負極としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出可能な材料であれば特に制限はなく、例えば、リチウム金属、リチウム合金、炭素材料(黒鉛を含む)、金属カルコゲン等が使用できる。
【0050】
次に、電極特性の評価方法について説明する。
正極活物質、導電材としてキャボット製バルカンXC−72、結着剤として四フッ化エチレン樹脂を質量比で、50:34:16の割合で混合し、その混合物をトルエンで12時間膨潤する。膨潤した混合物をアルミニウムエキスバンドメタルからなる集電体上に塗り、2t/cm2で加圧成形し、トルエンを乾燥して正極とする。一方、負極としては、リチウム箔を用いる。
【0051】
電解液としては、炭酸プロピレンと炭酸ジメチルを体積比で1対2の割合で混合した混合液にLiPF6を1モル/リットルの濃度で溶解したものを用いる。セパレーターとしては、ポリプロピレン製のものを用い、負極のデンドライト生成が原因のマイクロショートを防止する目的で、補強材としてシリカ繊維ろ紙(例えば、アドバンテック東洋(株)製のQR−100)をも併用する。これら正極、負極、電解液、セパレーターと補強材を用いて、2016型コイン電池を作製し、60℃に設定した恒温槽内で500回の充電・放電サイクル試験を行う。測定条件は、定電流定電圧充電−定電流放電、充電及び放電レート1C(充電開始から2.5時間で充電休止)、走査電圧3.1V〜4.3Vである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は下記の記載により何ら限定されるものではない。
なお、下記の例及び表1〜3に示す正極活物質の特性は以下の方法により測定した。
1)平均粒子径及び比表面積
レーザー式粒度測定器としてCILAS社製GRANULOMETER(HR850型)を使用して、界面活性剤(花王製デモールP)0.2%水溶液中に超音波で粉体を分散して粒度分布を測定して求めた。
2)タップ密度
(株)蔵持科学機器製作所製タップピングマシン(KRS-409型)を使用して、振幅8mmで2000回タッピング後測定した。
【0053】
3)空隙率
正極活物質と熱硬化性樹脂と混合、硬化することにより正極活物質を樹脂中に埋め込み、ミクロトームで切断し、鏡面研磨して、研磨面を走査電子顕微鏡(SEM)で写真撮影した。得られたSEM写真中の二次粒子1個の断面積Bとその二次粒子断面中に含まれる全ポアの総断面積Aを画像解析装置で計測し、以下の式で二次粒子1個の空隙率C(%)を計算し、ランダムに選択した二次粒子50個の空隙率の平均値を平均空隙率とした。
C(%)=(A/B)×100
4)結晶子サイズ
以下の条件にて測定した(111)面のX線回折ピークからScherrerの式を用いて算出した。
【0054】
すなわち、結晶子の外形が立方体で大きさの分布を持たないと仮定して、結晶子の大きさによる回折線の広がりを半値幅より算出した値を使用した。なお、単結晶シリコンを炭化タングステン製サンプルミルで粉砕後、44μm以下に篩い分けした粉末を外部標準として、装置定数更正曲線を作成した。
【0055】
[測定装置及び方法]
理学電機(株)製Radタイプゴニオメータ、測定モードとして連続測定、解析ソフトには理学電機(株)RINT2000シリーズのアプリケーションソフトを使用し、結晶子の大きさの解析を行った。
測定条件は、X線(CuKα線)、出力50kV、180mA、スリット幅(3ケ所)は1/2゜、1/2゜、0.15mm、スキャン方法には2θ/θ法、スキャン速度は1゜/min、測定範囲(2θ)は17〜20゜、ステップは0.004゜である。なお、この方法で得られる結晶子サイズの精度は、±30オングストロームである。
【0056】
5)格子定数
J. B. Nelson,D. P. Rileyの方法(Proc. Phys. Soc., 57, 160(1945))で求めた。
6)比表面積
BET法で測定した。
7)造粒粒子の形状
正極活物質の造粒品をSEMで写真撮影し、画像解析して、二次粒子の円形度(円形度=4π[面積/(周囲長さ)2])と針状比(針状比=針絶対最大長/対角幅)を求めた。各サンプルについて、それぞれ二次粒子200個を計測し、その平均値を求めた。
【0057】
実施例1
Li/Mn原子比が0.51の組成となるように、比表面積22m2/gの炭酸マンガン(中央電気工業(株)製、C2−10)と炭酸リチウム(本庄ケミカル(株)製、3N)をボールミルで混合し、大気雰囲気中加熱速度200℃/hrで室温から650℃まで昇温してその温度に4時間保持してLi−Mn系複合酸化物を合成した。合成物中には、Li−Mn系複合酸化物以外にごく微量の三二酸化マンガンがX線解析装置(XRD)で検出された。レーザー式粒度分布測定器で測定した合成物の平均粒子径は10μmであり、比表面積は7.7m2/gであった。
【0058】
得られたスピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物をエタノール溶媒に分散して湿式ボールミルで粉砕して、平均粒子径を0.5μmにした。測定の結果、粉砕粉には3μm以上の大きな粒子は含まれておらず、比表面積は27.8m2/gであった。この粉砕粉に、Bi/Mnの原子比が0.0026の割合となるように平均粒子径が2μmの酸化ビスマスを添加混合して、不二パウダル(株)社製スパルタンリューザーRMO−6Hで撹拌造粒した。
【0059】
Li−Mn系複合酸化物と酸化ビスマスの混合粉100質量部に対して造粒助剤としてポリビニルアルコール1.5質量部を水溶液に溶かして添加し、16分間造粒した。得られた造粒物をミキサーで軽く解砕・粉砕し、風力分級機で平均粒子径15μmに整粒した。整粒後の造粒物のタップ密度は1.65g/mlであった。
【0060】
得られた造粒物を大気中500℃で2時間保持して脱脂処理(ポリビニルアルコールを分解)後、大気中200℃/hrで昇温し750℃に20時間保持して正極活物質を得た。ここで製造された正極活物質は、ICP−AES法(誘導結合プラズマ発光分析法)により前記酸化ビスマスのBi元素を仕込み組成比相当含むことが確認された。
【0061】
得られた正極活物質の平均空隙率は11.2%であった。また、正極活物質のタップ密度は1.96g/mlであり、結晶子サイズは880オングストロームであり、格子定数は8.233オングストロームであった。
上記の正極活物質を用いてコイン型電池を次のようにして作製した。正極活物質、導電材であるカーボンブラック、N−メチル−2−ピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデンを質量比で80:10:10の割合で混練し、アルミニウム箔上に塗布し加圧プレスして正極とした。負極としては所定厚みのリチウム箔を用いた。電解液としては、炭酸プロピレンと炭酸ジメチルを体積比で1:2の割合で混合した混合液に、LiPF6を1モル/リットルの濃度で溶解したものを用いた。これらの正極と負極、ポリプロピレン製のセパレーター、電解液及びガラスフィルターを用い、2016型のコイン型電池を作製した。
【0062】
上記方法で作製した電池の60℃での充放電サイクル試験を、充放電レート1C(充電開始から2.5時間で充電休止)、電圧範囲3.0〜4.2Vの条件で100サイクル充放電を繰り返した。初期の放電容量と100サイクル経過後の容量維持率(%)を、他の測定結果と共に表1に示す。
【0063】
実施例2
Li−Mn系複合酸化物合成条件中のマンガン原料を電解二酸化マンガンとしたこと以外は実施例1と同様に操作を行い、二次粒子の空隙率、タップ密度、結晶子サイズ、格子定数、電極特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
実施例3
Li/Mn/Alの原子比が1.02:1.967:0.013の組成となるように、炭酸マンガンと炭酸リチウムと水酸化アルミニウムをボールミルで混合し、大気雰囲気中加熱速度200℃/hrで室温から650℃まで昇温し、650℃に4時間保持して、Li−Mn系複合酸化物を合成した。合成物中には、Li−Mn系複合酸化物以外にごく微量の三二酸化マンガンがXRDで検出された。レーザー式粒度分布測定器で測定した合成物の平均粒子径は10μmであった。
得られたLi−Mn系複合酸化物を平均粒子径0.5μmに粉砕し、B/Mnの原子比が0.0208となるように酸化硼素を添加し造粒した。次に、脱脂後の造粒物を750℃で0.5hr焼成したこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0065】
実施例4
B/Mnの原子比を0.009にしたこと、及び脱脂後の造粒物を760℃で0.5hr焼成したこと以外は、実施例3と同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0066】
実施例5
B/Mnの原子比を0.006にしたこと、及び脱脂後の造粒物を770℃で0.5hr焼成したこと以外は、実施例3と同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0067】
実施例6
脱脂後の造粒物を760℃で20hr焼成したこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0068】
実施例7
酸化ビスマスを三酸化タングステンに変更して、W/Mnの原子比が0.0208の割合で三酸化タングステンを添加したこと、及び脱脂後の造粒物を750℃で20hr焼成したこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0069】
実施例8
実施例1で合成したLi−Mn系複合酸化物を、さらに大気中加熱速度が200℃/hrで室温から750℃まで昇温し、750℃で20hr保持して結晶化した。その後は、実施例1で結晶化したLi−Mn系複合酸化物を使用したこと、酸化ビスマスを酸化硼素に変更して、B/Mnの原子比が0.0208の割合で酸化硼素を添加したこと、及び脱脂後の造粒物を750℃で0.5hr焼成したこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0070】
実施例9
造粒前のLi−Mn系複合酸化物として平均粒子径が3.5μm、比表面積が10m2/gのものを使用したこと以外は、実施例3と同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0071】
実施例10
Li/Mn/Alの原子比が1.03:1.967:0.013の組成となるように、炭酸マンガンと炭酸リチウムと水酸化アルミニウムをボールミルで混合して合成したLi−Mn系複合酸化物を使用したこと以外は、実施例3と同様に実施した。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例11
脱脂後の造粒物を830℃で20hr焼成したこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表2に示す。
【0074】
実施例12
Li/Mn/Alの原子比が0.99:1.967:0.013の組成となるように、炭酸マンガンと炭酸リチウムと水酸化アルミニウムをボールミルで混合して合成したLi−Mn系複合酸化物を使用したこと以外は、実施例3と同様に実施した。その結果を表2に示す。
【0075】
実施例13
造粒後の平均粒子径を65μmに整粒したこと以外は、実施例3と同様に実施した。その結果を表2に示す。
【0076】
実施例14
Bi/Mnの原子比が0.0020の割合にしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表2に示す。ここで得られた造粒・焼成・整粒された正極活物質を走査電子顕微鏡(×15,000倍)で観察した結果、図1に示すように丸い形状の粒子であることがわかった。この粒子の粒度分布を図2に示す。
【0077】
比較例1
造粒前のLi−Mn系複合酸化物の平均粒子径を6.0μmとしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表2に示す。
【0078】
比較例2
Li/Mnの原子比が0.51の配合組成で、平均粒子径が20μmの電解二酸化マンガンと炭酸リチウムをボールミルで混合し、大気中加熱速度100℃/hrで760℃まで昇温し、760℃で24hr保持して正極活物質を合成した。得られた正極活物質について実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0079】
比較例3
焼結促進剤を添加せずに造粒したこと以外は、実施例1と同様に実施した。その結果を表2示す。
【0080】
比較例4
造粒物を750℃で20hr焼成したこと以外は、実施例3と同様に実施した。その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例15
Li/Mn/Alの原子比が1.02:1.967:0.013の組成となるように炭酸マンガンと炭酸リチウムと水酸化アルミニウムをボールミルで混合し、大気雰囲気中加熱速度200℃/hrで室温から650℃まで昇温し、650℃で4時間保持して、Li−Mn系複合酸化物を合成した。合成物中には、Li−Mn系複合酸化物以外にごく微量の三二酸化マンガンがXRDで検出された。レーザー式粒度分布測定器で測定した合成物の平均粒子径は10μmであった。
得られたLi−Mn系複合酸化物に、B/Mnの原子比が0.0208となるように酸化硼素を添加してエタノール溶媒に分散し、湿式ボールミルで粉砕して、平均粒子径を0.3μmにした。得られた粉砕粉を用いて、不二パウダル(株)社製スパルタンリューザーRMO−6Hで撹拌造粒した。
【0083】
Li−Mn系複合酸化物と酸化硼素の粉砕粉100質量部に対して、造粒助剤のポリビニルアルコール1.5質量部を水溶液に溶かして添加し、16分間造粒した。得られた造粒物をミキサーで軽く解砕・粉砕し、風力分級機で平均粒子径15μmに整粒した。整粒後の造粒物のタップ密度は、1.60g/mlであった。
【0084】
得られた造粒物を、大気中500℃で2時間保持して脱脂処理(ポリビニルアルコールを分解)した。脱脂した造粒粉の焼結収縮開始温度を熱機械試験機で測定したところ、660℃であった。
【0085】
次に脱脂した造粒粉を、以下の条件でロータリーキルンを用いて焼結した。
ロータリーキルンの均熱ゾーンの温度を780℃とし、脱脂した造粒粉が均熱ゾーンを3分で通過するように、造粒粉の供給速度、ロタリーキルンの回転数及び傾斜を設定した。造粒粉が投入口から均熱ゾーンに入るまでの所用時間及び均熱ゾーンを出てからロータリーキルン出口までの所用時間は、共に6.3分であった。
【0086】
得られた正極活物質の平均空隙率は、2.1%であった。また、SEM写真より一次粒子500個の最長径を計測したところ、平均粒子径は0.40μmであった。
上記の正極活物質を用いて実施例1と同様にコイン型電池を作製した。
上記方法で作製した電池の60℃での充放電サイクル試験を、充放電レート1C、電圧範囲3.0〜4.2Vの条件で100サイクル充放電を繰り返した。
表3に初期の放電容量と100サイクル経過後の容量維持率(%)を示す。
【0087】
実施例16
ロータリーキルンの均熱ゾーンの温度を780℃とし、脱脂した造粒粉が均熱ゾーンを9分で通過するように、造粒粉の供給速度、ロタリーキルンの回転数及び傾斜を設定したこと以外、実施例15と同様に実施した。その結果を表3に示す。
【0088】
実施例17
Li/Mn/Alの原子比が1.02:1.967:0.013の組成となるように炭酸マンガンと炭酸リチウムと気相法アルミナを混合し、大気雰囲気中加熱速度200℃/hrで室温から650℃まで昇温し、650℃で4時間保持して、Li−Mn系複合酸化物を合成した。合成物中には、Li−Mn系複合酸化物以外に、ごく微量の三二酸化マンガンがXRDで検出された。レーザー式粒度分布測定器で測定した合成物の平均粒子径は、10μmであった。
【0089】
得られたLi−Mn系複合酸化物にB/Mnの原子比が0.0104となるように酸化硼素を添加して、イオン交換水に分散して媒体撹拌式微粉砕機で粉砕して、平均粒子径を0.18μmにした。得られた粉砕スラリーに造粒助剤(イソバン104,クラレ(株)製)をLi−Mn系複合酸化物に対して1.5質量%を添加し、ディスク回転式のスプレードライヤーで乾燥造粒を行った。造粒物は、平均粒子径18.3μmの球状粒子で、タップ密度は1.54g/mlであった。
【0090】
得られた造粒物を大気中500℃で2時間保持して脱脂処理後、ロータリーキルンを用いて実施例15と同じ条件で焼結した。
得られた正極活物質の平均空隙率は、1.7%、平均粒子径は0.27μm、タップ密度は2.40g/ml、BET法で測定した比表面積0.8m2/gであった。この正極活物質を用いて、実施例15と同様な方法で作製したコイン型電池の特性を表3に示す。
【0091】
実施例18
ロータリーキルンの均熱ゾーンの温度を850℃としたこと以外は、実施例15と同様に実施した。その結果を表3に示す。
【0092】
実施例19
ロータリーキルンの均熱ゾーンの温度を850℃としたこと以外は、実施例17と同様に実施した。その結果を表3に示す。
【0093】
比較例5
脱脂後の造粒物を650℃から10℃/minの速度で昇温し、750℃で0.5hr保持して焼結後、650℃まで10℃/minの速度で降温したこと以外は、実施例15と同様に実施した。また、得られた正極活物質を実施例15と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0094】
比較例6
750℃で20hr保持して焼結したこと以外は、比較例5と同様に実施した。結果を表3に示す。
【0095】
比較例7
ロータリーキルンの均熱ゾーンの温度を780℃とし、脱脂した造粒粉が均熱ゾーンを0.5分で通過するように、造粒粉の供給速度、ロタリーキルンの回転数及び傾斜を設定したこと、及び造粒粉が投入口から均熱ゾーンに入るまでの所用時間、及び均熱ゾーンを出てからロータリーキルン出口までの所用時間は共に1.5分であること以外は、実施例15と同様に実施した。その結果を表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
造粒粒子の形状測定結果の解析
表1〜3に示す実施例1〜19及び比較例1〜7で製造された二次粒子の円形度(円形度=4π[面積/(周囲長さ)2])と針状比(針状比=針絶対最大長/対角幅)の測定結果から実施例で製造された正極活物質は、円形度が0.7以上で、かつ針状比が1.35以下に特徴があることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の正極活物質は、従来既知の凝集力を利用する二次粒子と比べ、造粒及び焼結を行っている点で本質的に異なり、従来方法で得られる正極活物質に比較して粒子が緻密でありかつ球状であり、電極への充填性に優れ、また二次電池として高温環境の下においても初期容量及び容量維持率が高くなるという効果を奏する。
【0099】
本発明の正極活物質の製造方法によれば、高温域で融液を生成する焼結促進助剤をLi−Mn系複合酸化物に添加することで、二次粒子の緻密化を図ると共に、従来の方法では初期容量とサイクル特性が悪化してしまうような結晶子サイズに成長させても優れた電池性能が得られる。従来法の二次粒子の緻密化を図る際に一次粒子サイズが0.5μmよりも大きく粒成長してしまい初期容量とサイクル特性が悪化するという問題が、高温域で融液を生成する焼結促進助剤をLi−Mn系複合酸化物に添加する本発明の方法により解決され、高充填性でかつ優れた電池性能を有する正極活物質が得られる。
【0100】
本発明のリチウムイオン二次電池は、充填性に優れた正極活物質を使用しているために、高温での初期容量と容量維持率に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物を主体とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法において、スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の粉砕物に、550℃〜900℃の温度で溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物、またはリチウムまたはマンガンと固溶するか反応して溶融する酸化物または酸化物になり得る元素または元素を含む化合物を添加し混合して造粒する工程を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
造粒工程以外に、前記造粒物を焼結する工程を有する請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
造粒工程以外に、前記造粒物を焼結収縮開始温度から少なくとも100℃以上高い温度まで少なくとも100℃/minの速度で昇温してその温度に1分〜10分間保持した後、少なくとも100℃/minの速度で焼結開始温度まで降温して焼結させる工程を有する請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
ロータリーキルンを用いて焼結させる請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記焼結工程が、Li−Mn系複合酸化物粒子の表面でBi、B、W、Mo、Pbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素または元素を含む化合物、またはB23とLiFを組み合わせた化合物またはMnF2とLiFを組み合わせた化合物を溶融し焼結して行われる請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の粉砕物の平均粒子径が、5μm以下である請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
スピネル構造を有するLi−Mn系複合酸化物の粉砕物の平均粒子径が、3μm以下である請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記造粒工程が、噴霧造粒方法、撹拌造粒方法、圧縮造粒方法または流動造粒方法で行われる請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記造粒工程において、造粒助剤として、アクリル系樹脂、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合物、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリデン、ハイドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、コーンスターチ、ゼラチン、リグニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機化合物を使用する請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
大気中または酸素を含有するガスフロー雰囲気中、300℃〜550℃の温度下で脱脂工程を有する請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−49180(P2011−49180A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247296(P2010−247296)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【分割の表示】特願2001−509101(P2001−509101)の分割
【原出願日】平成12年7月7日(2000.7.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】