説明

リチウムイオン二次電池用負極及びその製造方法

【課題】活物質の集電体からの剥離、脱落を抑制することで優れたサイクル性能を有するリチウムイオン二次電池用負極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】集電体1と、集電体1の表面に固定させた活物質層6とを有するリチウムイオン二次電池用負極において、活物質層6は、活物質2、バインダー5、導電材4、及び緩衝材3を含み、活物質2はSiおよび/またはSnを含み、緩衝材3は球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したシリコーン複合粉体からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化が進み、その電源としてエネルギー密度の高い二次電池が望まれている。二次電池とは、電解質を介した化学反応により正極活物質と負極活物質が持つ化学エネルギーを外部に電気エネルギーとして取り出すものである。このような二次電池において、実用化されているなかで高いエネルギー密度を持つ二次電池はリチウムイオン二次電池である。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、正極の活物質として主にリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム含有金属複合酸化物が用いられ、負極の活物質としてはリチウムイオンの層間への挿入(リチウム層間化合物の形成)及び層間からのリチウムイオンの放出が可能な多層構造を有する炭素材料が主に用いられている。
【0004】
正、負極の極板は、これらの活物質とバインダー樹脂と導電材とを溶剤に分散させてスラリーとしたものを集電体である金属箔上に両面塗布し、溶剤を乾燥除去して合剤層を形成後、これをロールプレス機で圧縮成形して作製されている。
【0005】
また、近年リチウムイオン二次電池の負極活物質として炭素材料の理論容量を大きく超える充放電容量を持つ次世代の負極活物質の開発が進められている。例えばSiやSnなどリチウムと合金化可能な金属を含む材料が期待されている。
【0006】
SiやSnなどを活物質に用いる場合、これらの材料は、充放電時のLiの吸蔵・放出に伴う体積変化が大きいため、集電体との接着状態を良好に維持することが難しい。また、これらの材料はリチウムの挿入、脱離に伴う体積変化率が非常に大きく、充放電サイクルによって膨張、収縮を繰り返し、活物質粒子が微粉化したり、脱離したりするため、サイクル劣化が非常に大きいという欠点がある。
【0007】
サイクル特性を向上させるため、活物質が剥離、脱落しにくくするために様々なバインダー樹脂や活物質の組み合わせが検討されている。
【0008】
特許文献1では、バインダー樹脂としてアルコキシル基含有樹脂を用いる二次電池用電極が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−43678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のように活物質と、それを結着させるバインダー樹脂との組み合わせについて各種検討されているが、サイクル性能向上の余地があり、よりサイクル性能の優れた次世代の活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極が求められている。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、リチウムの吸蔵・放出に伴う体積変化が大きい活物質の集電体からの剥離、脱落をさらに抑制することで優れたサイクル性能を有するリチウムイオン二次電池用負極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等が鋭意検討した結果、活物質層が球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したシリコーン複合粉体からなる緩衝材を含むと優れたサイクル性能を有するリチウムイオン二次電池用負極を提供することが出来ることを見いだした。
【0013】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と前記集電体の表面に固定させた活物質層とを有するリチウムイオン二次電池用負極において、活物質層は、活物質、バインダー、導電材、及び緩衝材を含み、活物質はSiおよび/またはSnを含み、
緩衝材は球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したシリコーン複合粉体からなることを特徴とする。
【0014】
上記シリコーン複合粉体は衝撃吸収性に優れている。そのため、上記活物質層に上記シリコーン複合粉体を緩衝材として含むことにより、充放電時のLiの吸蔵・放出に伴う体積変化を吸収して活物質の剥離、脱落を抑制していると考えられる。
【0015】
バインダーはポリイミド樹脂硬化物あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリイミド樹脂硬化物を含むことが好ましい。バインダーがポリイミド骨格を持つため、バインダーの強度が強く、耐熱性及び耐久性に優れる。
【0016】
アルコキシル基含有シラン変性ポリイミド樹脂硬化物は、樹脂とシリカのハイブリッド体であり、無機成分である集電体や活物質、導電材及び緩衝材とも密着性がよく、集電体に活物質等を強固に保持できる。
【0017】
活物質層の総量を100質量%としたときに、上記緩衝材は1質量%〜20質量%含有されることが好ましい。
【0018】
上記緩衝材を1質量%〜20質量%含有することにより、高容量かつサイクル特性に優れる負極とすることが出来る。緩衝材が20質量%より多く含有されると、活物質の含有量が減り、電池容量が少なくなる。また緩衝材が1質量%より少なく含有されると、サイクル特性が悪くなる。
【0019】
ここで、図1を用いて活物質層を説明する。図1は、活物質2と、緩衝材3と、導電材4とがバインダー5を介して集電体1上に、固定され、集電体1上に活物質層6が形成されている模式図である。
【0020】
この図1に示すように、得られた活物質層6には緩衝材3が分散しており、緩衝材3は充放電時のLiの吸蔵・放出に伴う体積変化を吸収して活物質2の剥離、脱落を抑制していると考えられる。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、集電体の表面に、ポリイミド樹脂あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂からなるバインダー樹脂と、Siおよび/またはSnを含む活物質と、導電材と、球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したシリコーン複合粉体からなる緩衝材とを塗布する塗布工程と、集電体に塗布されたバインダー樹脂を150℃以上300℃以下で硬化して活物質、導電材及び緩衝材を集電体表面に固定する硬化工程と、を有する。
【0022】
バインダー樹脂にポリイミド樹脂あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂を用いることにより、ポリイミド骨格を有するバインダー樹脂とすることが出来る。
【0023】
バインダーがポリイミド骨格を持つため、バインダーの強度が強く耐熱性及び耐久性に優れる。
【0024】
またアルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂は、樹脂とシリカのハイブリッド体であり、無機成分である集電体や活物質、導電材及び緩衝材とも密着性がよい。そのため、アルコキシル基含有シラン変性ポリイミド樹脂硬化物は、集電体に活物質、導電材等を強固に保持できる。
【0025】
上記硬化工程において、バインダー樹脂は150℃以上300℃以下で硬化される。この温度範囲とすることによって、緩衝材を粉体形状としたままでバインダー樹脂を硬化することが出来る。
【0026】
また、バインダー樹脂としてのポリイミド樹脂あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂はアミド酸基を有する。アミド酸基を有するこれらのバインダー樹脂は、150℃以上で加熱されることにより、アミド酸基がイミド化される。この時、硬化温度が、通常アミド酸基で推奨される硬化温度400℃よりも低い範囲の温度であってもバインダー樹脂を硬化させることが出来る。
【0027】
また、緩衝材であるシリコーン複合粉体は−50℃〜300℃の範囲でゴム弾性を示すと考えられる。
【0028】
従って上記硬化工程において温度範囲を150℃以上300℃以下、さらに好ましくは200℃以上300℃以下とすることが、サイクル特性を向上する点で好ましい。
【0029】
このような製造方法によれば、活物質が集電体表面から剥離、脱落するのを抑制できる。そのため、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極を製造することが出来る。
【発明の効果】
【0030】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極とすることによって、優れたサイクル特性を発揮することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のリチウムイオン二次電池用負極を説明する模式図である。
【図2】本発明の実施例1及び比較例1の充放電効率を比較するグラフである。
【図3】本発明の実施例1及び比較例1のサイクル試験結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1および比較例2の電極のSEM写真である。
【図5】ラミネートセルの極板群の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、集電体の表面に固定させた活物質層を有する。活物質層は、活物質、バインダー、導電材、及び緩衝材を含み、活物質はSiおよび/またはSnを含み、緩衝材は球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したシリコーン複合粉体からなる。
【0033】
集電体とは放電或いは充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体のことである。集電体は電子高伝導体で形成された箔、板等の形状となる。目的に応じた形状であれば特に限定されない。例えば、集電体として銅箔やアルミニウム箔などがあげられる。
【0034】
活物質とは、充電反応及び放電反応などの電極反応に直接寄与する物質のことである。本発明の活物質は、リチウムを挿入、脱離可能なSiおよび/またはSnである。
【0035】
SiおよびSnは粉体形状であり、バインダー樹脂を介して集電体の表面に塗布され固定される。SiおよびSnの粉体粒子径は100μm以下が好ましい。また、SiおよびSnの粉体粒子径は、0.05μm以上10μm以下がより好ましい。さらに活物質と緩衝材とが同程度の大きさであることが、活物質の体積変化を緩和するのに好ましいため、SiおよびSnの粉体粒子径は、1μm以上10μm以下がより好ましく、1μm〜5μmが更に好ましい。
【0036】
一般的に負極の活物質に用いられるカーボンの理論容量が372mAhg−1であるのに対し、Siの理論容量は4200mAhg−1、Snは994mAhg−1である。このように従来用いられるカーボンに比べてSi及びSnは大容量の理論容量を有する。
【0037】
ただし、カーボン系材料に比べてSi、Snはリチウムの挿入に伴う体積変化が2倍以上ある。具体的には、Si、Snの場合、リチウムの挿入によって体積はもとの体積の約4倍となる。
【0038】
導電材としては炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチンブラック、カーボンファイバ等を単独で又は二種以上組み合わせて添加することが出来る。
【0039】
緩衝材としては球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したシリコーン複合粉体を用いる。シリコーンとは、シロキサン結合:−Si(R)−O−を骨格とし、これに有機の基R、Rとしてメチル基、ビニル基やフェニル基などが結合している有機珪素化合物のポリマーオルガノポリシロキサンの総称である。シリコーンはその分子量によって低分子量のシリコーン油からシリコーングリース、シリコーンゴム、シリコーンレジンに分類される。
【0040】
球状シリコーンゴム粉体は、直鎖状のジメチルポリシロキサンを架橋した構造を持つシリコーンゴムの微粉末である。他のゴムに比較して耐熱性、耐寒性、耐光性に優れ−50℃〜250℃の広い温度範囲でゴム弾性を示す。
【0041】
直鎖状のジメチルポリシロキサンを架橋した構造として、分子構造式中に一般式:−(RSiO)−で示される線状ポリオルガノシロキサンのブロックが挙げられる。ここでRは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル等のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル等のシクロアルキル基;フェニル、トリル等のアリール基などから選択される一種または二種以上の炭素原子数1〜20からなる一価の有機基あるいはこれらの炭素原子に結合した水素原子の一部をハロゲン原子で置換された一価有機基などから選択されるが、その90モル%以上がメチル基であることが好ましい。またaは5未満では表面平滑性に乏しいものとなり、5,000を超えるものは製造が困難であるので、aは5〜5,000、好ましくは10〜1,000である。
【0042】
本発明に用いられるシリコーン複合粉体は、この球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したものである。
【0043】
シリコーンレジンはSi−O結合が三次元網目状に架橋した構造を持ち、とりわけ耐熱性に優れ、400℃でも重量変化がほとんどなく、熱溶融もせず、多くの有機溶剤に膨潤、溶解しない。このシリコーンレジンとしてポリオルガノシルセスキオキサン樹脂が挙げられる。
【0044】
このポリオルガノシルセスキオキサン樹脂は、一般式:RSiO3/2で示されるシロキサン単位を構成単位とする固形の樹脂重合物である。ここで、Rはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル等のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル等のシクロアルキル基;フェニル、トリル等のアリール基などから選択される一種または二種以上の炭素原子数1〜20からなる一価の有機基あるいはこれらの炭素原子に結合した水素原子の一部をハロゲン原子で置換された一価有機基から選択されるが、その90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0045】
このような球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンが被覆されたシリコーン複合粉体の製法は、例えば球状シリコーンゴム粉体の水分散液をアルカリ性に保持し、シリコーンレジンを加水分解、縮合させることで球状シリコーンゴム粉体の表面にシリコーンレジンを被覆することができる。
【0046】
このようなシリコーン複合粉体は、耐熱性、耐寒性、耐衝撃性、潤滑性に優れている。また、シリコーン複合粉体は、−50℃〜300℃の広い温度範囲でゴム弾性を示すと考えられる。シリコーン複合粉体は、表面をシリコーンレジンで被覆しているため、球状シリコーンゴム粉体に比べて分散性がよく、活物質層に良好に分散できる。また、シリコーンレジンは球状シリコーンゴム粉体に比べて耐熱性が高いため、シリコーン複合粉体はゴム弾性を示す温度範囲が球状シリコーンゴム粉体より上がると考えられる。
【0047】
上記シリコーン複合粉体は、シリコーン複合パウダーの名称でKMP−600、KMP−601、KMP−602、KMP−605、X−52−7030として信越化学工業(株)より市販されている。
【0048】
活物質層の総量を100質量%としたときに、上記緩衝材は1質量%〜20質量%含有されることが好ましい。上記緩衝材を1質量%〜20質量%含有することにより、高容量かつサイクル特性が優れる負極とすることが出来る。
【0049】
また、シリコーン複合粉体の粒径は、望ましくは1μm〜10μm、より望ましくは1μm〜5μmである。SiやSnの体積変化を緩和するためには、シリコーン複合粉体の粒径は、SiやSnと同程度の大きさが望ましい。シリコーン複合粉体の粒径が、SiやSnの粒径よりも小さすぎると緩衝効果が少なくなり、また大きすぎると電極全体にシリコーン複合粉体が行き渡らずに緩衝効果が期待できなくなる。
【0050】
これらの活物質、導電材、緩衝材はバインダーを介して集電体に固定される。
【0051】
バインダーは、特に制限されないが、ポリイミド樹脂硬化物あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリイミド樹脂硬化物を含むことが好ましい。
【0052】
バインダーにポリイミド樹脂硬化物あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリイミド樹脂硬化物を用いることにより、ポリイミド骨格を有するバインダーとすることが出来る。
【0053】
バインダーがポリイミド骨格を持つため、バインダーの強度が強く耐熱性及び耐久性に優れる。また、アルコキシル基含有シラン変性ポリイミド樹脂硬化物は、樹脂とシリカのハイブリッド体であり、無機成分である集電体や活物質、導電材及び緩衝材とも密着性がよく、集電体に活物質等を強固に保持できる。
【0054】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、塗布工程と硬化工程とを有する。
【0055】
塗布するとは集電体にバインダー樹脂、活物質、導電材及び緩衝材を載せることである。塗布方法として、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法など二次電池用電極を作製する際に一般的に用いる塗布方法を用いることが出来る。
【0056】
バインダー樹脂はこれらの活物質、導電材及び緩衝材を集電体に塗布する際の結着剤として用いられる。バインダー樹脂はなるべく少ない量で活物質等を結着させることが求められ、その量は活物質、導電材、緩衝材及びバインダー樹脂を合計したものの0.5wt%〜50wt%が望ましい。
本発明で用いるバインダー樹脂は、ポリイミド樹脂あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂が好ましい。
【0057】
アルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂は樹脂とシリカとのハイブリッド体となっている。樹脂とシリカとのハイブリッド体であることによって無機成分である集電体や活物質及び導電材とも密着性がよく、集電体に活物質や導電材を強固に保持出来る。
【0058】
上記バインダー樹脂は公知の技術によって合成することが出来る。例えば、バインダー樹脂としてアルコキシ基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂とする場合、前駆体であるカルボン酸無水物成分とジアミン成分とからなるポリアミック酸と、アルコキシシラン部分縮合物とを反応させて形成することができる。アルコキシシラン部分縮合物は加水分解性アルコキシシランモノマーを、酸又は塩基触媒、及び水の存在下で部分的に縮合させて得られるものが用いられる。この時、アルコキシシラン部分縮合物はあらかじめエポキシ化合物と反応させ、エポキシ基含有アルコキシシラン部分縮合物としてからポリアミック酸と反応させてアルコキシ基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂を形成してもよい。
【0059】
また、上記のバインダー樹脂は、市販品を好適に用いることが出来る。例えば、アルコキシ基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂である商品名「コンポセランH800」(荒川化学工業社製)の市販品がある。
【0060】
上記商品名「コンポセランH800」(荒川化学工業社製)の基本骨格の化学式を下記に示す。
【0061】
【化1】

【0062】
導電材としては炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチンブラック、カーボンファイバ等を単独で又は二種以上組み合わせて添加することが出来る。
【0063】
塗布工程はバインダー樹脂と活物質と導電材と緩衝材とをあらかじめ混合し、溶媒等を加えてスラリーとしてから集電体に塗布することが出来る。塗布厚みは10μm〜100μmが好ましい。
【0064】
また、バインダー樹脂と活物質と導電材と緩衝材との混合割合は質量部(wt%)で活物質:緩衝材:導電材:バインダー樹脂=79:1:5:15〜60:20:5:15が好ましい。なお、この混合割合は、それぞれの上限および下限を示している。例えば、活物質の場合、上限は79wt%、下限は60wt%である。
【0065】
硬化工程はバインダー樹脂を硬化する工程である。その際、硬化条件は、バインダー樹脂が硬化し、かつシリコーン複合粉体である緩衝材の粉体形状を維持し、シリコーン複合粉体がゴム弾性を示す硬化条件であることが必要である。
【0066】
バインダー樹脂としてポリイミド樹脂あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂を用いた場合は、活物質などを塗布された集電体を150℃以上300℃以下で加熱する。
【0067】
この硬化条件で硬化することによって、複合シリコーン粉体はその形状及びゴム弾性を保持し、緩衝材として機能すると考えられる。
【0068】
またこれらのバインダー樹脂はアミド酸基を有する。アミド酸基は加熱処理することにより、イミド化(脱水重合)してイミド基が形成される。このイミド化反応は150℃程度から開始され、200℃以上で進行しやすい。アミド酸のイミド化率は70%以上が望ましく、具体的には、イミド基とアミド酸基を99:1〜70:30の割合で有するまでイミド化することが好ましい。200℃以上でイミド化率が70%以上となる。
【0069】
従って上記温度範囲内にあれば、バインダーとして十分機能し、負極のサイクル特性を良好に維持出来る。
【実施例】
【0070】
以下、一実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0071】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極を以下のように作製し、評価用モデル電池を用いて充放電効率試験及びサイクル試験を行った。試験は負極を評価極とした、ラミネート型のリチウムイオン二次電池を用いた。
【0072】
<評価用電極作製>
活物質として、Si粉末を用い、バインダー樹脂として[化2]に示した構造を有するアルコキシ含有シラン変性ポリアミック酸樹脂(溶剤組成:N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、硬化残分15.1%、粘度5100mPa・s/25℃、硬化残分中のシリカ、2wt%)を用いて電極を作製した。
【0073】
【化2】

【0074】
この時、緩衝材として平均粒径5μmの粉体であるシリコーン複合パウダー(KMP−600、信越化学工業(株))を用いた。また導電材としてカーボン系導電助剤を用い、具体的にはケッチェンブラックインターナショナル社製のKB(ケッチンブラック)と黒鉛等の2〜3種類を混ぜて用いた。
【0075】
Si粉末は、最大粒子径10μm以下で平均粒子径2μmのSi粒子(福田金属箔粉工業製)をそのまま使用した。
【0076】
実施例1および比較例2として、Si:シリコーン複合パウダー:カーボン系導電助剤:バインダー樹脂(アルコキシ含有シラン変性ポリアミック酸樹脂)=60:5:20:15(wt%)の割合で混合した。比較例1として、緩衝材を用いないで、Si:カーボン系導電助剤:バインダー樹脂(アルコキシ含有シラン変性ポリアミック酸樹脂)=60:25:15(wt%)の割合で混合した。
【0077】
実施例1ではアルコキシ含有シラン変性ポリアミック酸樹脂をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させたペースト15wt%に、Si粉末60wt%及びシリコーン複合パウダー5wt%を入れ、さらにカーボン系導電助剤20wt%を添加し、混合してスラリ−を調製した。比較例1および比較例2も同様の操作でスラリーを調整した。
【0078】
スラリー調整後、厚さ18μmの電解銅箔に上記スラリ−を乗せて、ドクターブレードを用いて銅箔上に成膜した。
【0079】
得られたシートを80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ−ルプレス機により、電解銅箔からなる集電体と上記複合粉体からなる負極層を強固に密着接合させた。
【0080】
これを所定の形状に打ち抜き、実施例1及び比較例1は、200℃で3時間、加熱硬化させて厚さ25μm程度の電極とした。また比較例2は430℃で10分、加熱硬化させて厚さ25μm程度の電極とした。
【0081】
なおシリコーン複合パウダーは、200℃の熱処理ではその形状が変化しない。
【0082】
それを示すために、実施例1の電極のSEM写真と比較例2の電極のSEM写真を図4の(a)(b)に示す。この時、実施例1のアルコキシ含有シラン変性ポリアミック酸樹脂はイミド化率が80%程度であった。
【0083】
図4の(a)に示す実施例1のSEM写真に丸印で示すように、実施例1の200℃熱処理品においてはシリコーン複合パウダーが、形状に変化なく残っていることがわかった。それに対して図4の(b)に示す比較例2の430℃処理品のSEM写真では、シリコーン複合パウダーが消失し、空隙(図4の(b)に示される黒い丸い部分)が観察された。
【0084】
上記で得られた負極の構成を、図5を用いて説明する。図5は、ラミネートセルの極板群の構成を示す説明図であって、上記の手順で作製した負極は図5の電極11に相当する。
【0085】
電極11は、銅箔からなるシート状の集電箔12と、集電箔12の表面に形成された負極活物質層13と、からなる。集電箔12は、矩形状(26mm×31mm)の合材塗付部12aと、合材塗付部12aの隅部から延出するタブ溶接部12bと、を備える。合材塗付部12aの一方の面には、負極活物質層13が形成されている。負極活物質層13は、前述したように、Si粉末、カーボン系導電助材、バインダー、シリコーン複合パウダーを含む。
【0086】
集電箔12のタブ溶接部12bには、ニッケル製のタブ14を抵抗溶接した。さらに、タブ溶接部12bには、樹脂フィルム15を被着した。
【0087】
同様の方法で20μmのアルミニウム箔にLiNi1/3Co1/3Mn1/3を正極活物質としてバインダー樹脂PVdFを用いて固定された電極を作成し、厚さ90μm以下の正極とした。
【0088】
<ラミネート型電池作製>
上記した電極を負極とし、厚み85μmのLiNi1/3Co1/3Mn1/3を正極活物質とした電極を正極とし、1モルのLiPF6/エチレンカ−ボネ−ト(EC)+ジエチルカ−ボネ−ト(DEC)(EC:DEC=1:1(体積比))溶液を電解液として、ラミネート型電池を作製した。
【0089】
ラミネート型電池は、電極11、対極16およびセパレータ19が積層されてなる極板群10と、極板群10を包み込んで密閉するラミネートフィルム(図示せず)と、ラミネートフィルム内に注入される非水電解液と、を備える。ラミネートセルの作製手順を、図5を用いて説明する。
【0090】
電極11の構成は、既に説明した通りにした。対極16には、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3を含む正極を用いた。この正極は、集電体として厚さ20μmのアルミニウム箔が用いられ、容量は3.0mAh/cm、電極密度は2.3g/cmであった。
【0091】
対極16は、電極11と同様に、矩形状(25mm×30mm)の合材塗付部16aと、本体部16aの隅部から延出するタブ溶接部16bと、を備え、いずれもアルミニウム箔からなる構成とした。合材塗付部16aの一方の面には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3を含む正極活物質層を形成した。タブ溶接部16bには、アルミニウム製のタブ17を抵抗溶接した。さらに、タブ溶接部16bには、樹脂フィルム18を被着した。
【0092】
セパレータ19には、ポリプロピレン樹脂からなる矩形状シート(27mm×32mm、厚さ25μm)を用いた。電極11の合材塗付部12a、セパレータ19、対極16の合材塗付部16aの順に、負極活物質層と正極活物質層とがセパレータ19を介して対向するように積層して、極板群10を構成した。
【0093】
次に、極板群10を2枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに所定の非水電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群10および非水電解液が密閉されたラミネートセルを得た。なお、両極のタブ15および17の一部は、外部との電気的接続のため外側へ延出している。
【0094】
<ラミネート型電池評価>
このモデル電池における評価極の評価を次の方法で行った。
【0095】
(充放電効率試験)
下記実施例1及び比較例1の負極を用い、充放電試験を行い充放電効率(%)を計算した。
【0096】
1サイクル目:0.2Cで4.25VまでCCCV充電(定電流定電圧充電)を10時間行った。その後、2.6Vまで0.2Cの一定電流で放電した(0.2C、CC放電(定電流放電))。電流は、4.6mAの定電流とした。
【0097】
2サイクル目:0.2Cで4.25VまでCCCV充電(定電流定電圧充電)を10時間行った。その後、2.6Vまで1Cの一定電流(23mA)で放電した(1C、CC放電(定電流放電))。
【0098】
充放電効率は以下の式を用いて求めた。
【0099】
充放電効率(%)=放電容量/充電容量×100
この時、電気容量を1時間で放電する電流を1C、5時間で放電する電流を0.2Cと表す。従って1Cの電流値は0.2Cの電流値の5倍である。
【0100】
この1サイクル目と2サイクル目の実施例1及び比較例1の電極を用いたモデル電池の充放電効率を比較するグラフを図2に示す。X軸は上記した電流レートを表し、Y軸に充放電効率(%)を表す。
【0101】
図2から見られるように、実施例1の電極は、1サイクル目(0.2C)で充放電効率が99%、2サイクル目(1C)で93%あり、0.2Cの時約1%、1Cの時約3%も比較例1に比べて充放電効率が高い。つまり実施例1の電極は、比較例1の電極と比べて、充電した容量をしっかりと放電出来ていることがわかった。これは上記シリコーン複合パウダーが緩衝材として働き、活物質であるSi粒子の体積変化を吸収して、バインダーの破壊、しいては活物質の剥離、脱落を防ぐことが出来たためと考えられる。また実施例1は比較例1に比べて、0.2Cより1Cのほうが充放電効率の差が大きく、特に急速充放電時に上記効果が大きいことがわかる。
【0102】
(サイクル試験)
充電:0.2Cで4.25VまでCCCV充電(定電流定電圧充電)を10時間行った。放電:2.6Vまで0.2Cの一定電流で放電した(0.2C、CC放電(定電流放電))(1C容量=23mAh)。
【0103】
これを1サイクルとし、繰り返し充放電を行い、放電容量を調べた。
【0104】
実施例1及び比較例1の電極を有するモデル電池について、サイクル数と容量維持率(%)の関係を示すグラフを図3に示す。図3から明らかなように、まず実施例1の電極を評価極とした電池では、比較例1の電極を評価極とした電池に比べて70サイクル目ぐらいから容量の低下率が少なくなった。また比較例1の100サイクル後の容量維持率が55%程度であるのに対し、実施例1では100サイクル後の容量維持率が62%程度維持されていることがわかった。
【0105】
つまり、このサイクル試験結果から実施例1の電極は、比較例1の電極と比べて、サイクル特性が優れていることがわかった。これは上記シリコーン複合パウダーが緩衝材として働き、活物質の剥離、脱落を防ぐことが出来たためと考えられる。また、上記した充放電効率試験結果から、急速充放電時(例えば放電レート1C)の場合にはサイクル試験結果においても、効果がもっと顕著になると思われる。
【0106】
上記実施例、比較例では、バインダー樹脂としてアルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂を用いたが、ポリイミド樹脂でも同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0107】
1:集電体、2:活物質、3:緩衝材、4:導電材、5:バインダー、6:活物質層、
10:極板群、11:電極、16:対極、19:セパレーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と前記集電体の表面に固定させた活物質層とを有するリチウムイオン二次電池用負極において、
前記活物質層は、活物質、バインダー、導電材、及び緩衝材を含み、
前記活物質はSiおよび/またはSnを含み、
前記緩衝材は球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したシリコーン複合粉体からなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記バインダーはポリイミド樹脂硬化物あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリイミド樹脂硬化物を含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記活物質層の総量を100質量%としたときに、前記緩衝材は1質量%〜20質量%含有される請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
集電体の表面に、ポリイミド樹脂あるいはアルコキシル基含有シラン変性ポリアミック酸樹脂からなるバインダー樹脂と、Siおよび/またはSnを含む活物質と、導電材と、球状シリコーンゴム粉体にシリコーンレジンを被覆したシリコーン複合粉体からなる緩衝材とを塗布する塗布工程と、
前記集電体に塗布された前記バインダー樹脂を150℃以上300℃以下で硬化して前記活物質、前記導電材及び前記緩衝材を前記集電体表面に固定する硬化工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−70892(P2011−70892A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220519(P2009−220519)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】