説明

リチウムイオン二次電池用負極活物質及びリチウムイオン二次電池

【課題】負極活物質として黒鉛粒子を含む負極を備えたリチウムイオン二次電池において、負極の非水電解液に対する保液性を向上させることによりサイクル特性やレート特性が改善されたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】黒鉛粒子と、黒鉛粒子の表面に被着されたフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体とを含み、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体が、フッ化ビニリデン単位80〜95質量%及びヘキサフルオロプロピレン単位5〜20質量%を含有し、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の被着量が、黒鉛粒子100質量部に対して0.4〜1.5質量部であるリチウムイオン二次電池用負極活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極活物質及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高容量および高エネルギー密度を有することから、各種機器の電源として広く使用されている。代表的なリチウムイオン二次電池は、正極活物質としてリチウム複合酸化物粒子を含有する正極、負極活物質として黒鉛粒子等の炭素系粒子を含有する負極およびセパレータを含む。
【0003】
負極活物質として用いられる黒鉛粒子は、リチウムイオンの吸蔵能力に優れる反面、非水電解液に対する濡れ性が低い。このような黒鉛粒子の特性により、負極活物質として黒鉛粒子を含む黒鉛系負極は、非水電解液の浸透性や保液性が不十分になり易い。これが、リチウムイオン二次電池のサイクル特性やレート特性等の電池性能のさらなる向上を妨げる原因の1つになっていると考えられている。
【0004】
上記のような問題を解決するために、例えば、下記特許文献1は、非水溶媒としてプロピレンカーボネートを含む非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池において、黒鉛粒子と、黒鉛粒子に添着されたカルボキシメチルセルロース,ポリフッ化ビニリデン,ポリエチレンオキシド,ポリアクリロニトリル及びポリメタクリル酸メチルよりなる群から選ばれる1種以上の高分子材料とを含み、円形度が0.85以上である負極活物質を用いることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−053022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された黒鉛粒子に添着される高分子材料は、プロピレンカーボネートを含む非水電解液に対する浸透性は改善されている。しかし、プロピレンカーボネートを含む非水電解液の保液性は充分ではないために、サイクル特性やレート特性を充分に向上させることができなかった。
【0007】
本発明は、負極活物質として黒鉛粒子を含む負極を備えたリチウムイオン二次電池において、負極の非水電解液に対する保液性を向上させることによりサイクル特性やレート特性が改善されたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、黒鉛粒子と、黒鉛粒子の表面に被着されたフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体とを含み、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体が、フッ化ビニリデン単位80〜95質量%及びヘキサフルオロプロピレン単位5〜20質量%を含有し、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の被着量が、黒鉛粒子100質量部に対して0.4〜1.5質量部であることを特徴とする。
【0009】
上述のようなモノマー組成を有するフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、非水電解液の保液性に優れている。従ってレート特性を向上させることができる。また、上述のようなモノマー組成を有するフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、結着性にも優れているため、充放電を繰り返しても脱落等しにくい。従って、このような負極活物質を用いた負極を備えたリチウムイオン二次電池は、優れたレート特性及びサイクル特性を備える。
【0010】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵及び放出する正極と、上述のような負極活物質を含有する負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水溶媒としてプロピレンカーボネートを含む非水電解液と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サイクル特性及びレート特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る一実施形態であるリチウムイオン二次電池用負極活物質1の構成を示す模式断面図である。
【図2】負極活物質1を含む負極10の構成を示す縦断面模式図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の実施形態におけるリチウムイオン二次電池の一部切欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに、図1を参照して、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極活物質1(以下、単に、負極活物質1とも称する)について説明する。図1は負極活物質1の構成を説明するための模式断面図である。図1に示すように、負極活物質1は、黒鉛粒子2と、黒鉛粒子2の表面に均等に被着された、特定のモノマー組成を有するフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下単に、VDF−HFP共重合体とも称する)からなる膜3とを含む。
【0014】
黒鉛粒子の具体例としては、例えば、天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中では、VDF−HFP共重合体による非水電解液の保液性の向上効果がより高くなる点から天然黒鉛粒子が好ましい。黒鉛粒子の平均粒子径は特に限定されないが、例えば、10〜35μmmさらには15〜25μm程度であることが好ましい。
【0015】
VDF−HFP共重合体は、フッ化ビニリデン単位(以下「VDF単位」とする)とヘキサフルオロプロピレン単位(以下「HFP単位」とする)とを含む。そして、VDF単位の含有割合は、VDF−HFP共重合体全量の80〜95質量%、好ましくは90〜95質量%である。また、HFP単位の含有割合は、VDF−HFP共重合体全量の5〜20質量%、好ましくは5〜10質量%である。VDF−HFP共重合体は、本発明の効果を損なわない限り、これらの構成単位以外の共重合可能な他の重合単位を含んでもよい。
【0016】
VDF−HFP共重合体は非水電解液、特にプロピレンカーボネートを含有する非水電解液に対する保液性が高い。従って、黒鉛粒子の表面にVDF−HFP共重合体を被着させることにより、非水電解液の保液性が向上する。また、VDF−HFP共重合体は結着性にも優れているために、充放電サイクルを繰り返しても脱落しにくい。
【0017】
VDF−HFP共重合体において、VDF単位の含有割合が80質量%未満の場合は、結着性が低下する。また、VDF単位の含有割合が95質量%を超える場合には、非水電解液の保液性が低下する。また、VDF−HFP共重合体において、HFP単位の含有割合が5質量%未満の場合には、非水電解液の保液性が低下する。また、HFP単位の含有割合が20質量%を超える場合には、結着性が低下する。
【0018】
VDF−HFP共重合体の数平均分子量は、例えば、10万〜100万程度であることが好ましい。
【0019】
黒鉛粒子100質量部に対するVDF−HFP共重合体の被着量は0.4〜1.5質量部であり、0.5〜1.0質量部であることが好ましい。このような範囲で黒鉛粒子の表面にVDF−HFP共重合体を被着させることにより、非水電解液の保液性を改善することができる。黒鉛粒子100質量部に対する被着量が0.4質量部未満の場合には、非水電解液の保液性が低下する。また、黒鉛粒子100質量部に対する被着量が1.5質量部を超える場合には、結着材の配合割合を低下させる必要が生じ、この場合には負極活物質層の集電体に対する結着性が低下するおそれがある。
【0020】
本実施形態の負極活物質は、例えば、黒鉛粒子と、VDF−HFP共重合体の有機溶媒溶液とを混合し、得られた混合物を濾過することにより、表面にVDF−HFP共重合体の溶液が被着した黒鉛粒子を分離し、これを乾燥及び必要に応じて粉砕することにより調製できる。VDF−HFP共重合体を溶解する有機溶媒としては後述するリチウムイオン二次電池用の非水溶媒を用いることができる。
【0021】
次に、上述した負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に負極とも称する)について詳しく説明する。図2は、本実施形態の負極10の構成の一例を示す縦断面模式図である。負極10は、負極集電体4の表面に担持された負極活物質層5を含む。そして、負極活物質層5は上述した負極活物質1と結着剤6とを含む。
【0022】
負極集電体としては、多孔質又は無孔の導電性基板を用いることができる。多孔質導電性基板としては、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体等が挙げられる。無孔の導電性基板としては、箔、シート、フィルム等が挙げられる。導電性基板の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅、銅合金等の金属材料が挙げられる。負極集電体の厚みは特に限定されず、好ましくは、例えば1〜50μmである。
【0023】
負極活物質層は、例えば、上述した負極活物質と結着剤とを分散媒に分散させて調製される負極合剤スラリーを負極集電体の表面に塗布し、得られた塗膜を乾燥及び圧延することにより作製される。また、必要に応じてカルボキシメチルセルロース等の増粘剤を分散媒に分散させることも好ましい。
【0024】
結着剤の具体例としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン,ポリテトラフルオロエチレン,ポリヘキサフルオロプロピレン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリアミド,ポリイミド,ポリアミドイミド,ポリアクリロニトリル,ポリアクリル酸,ポリアクリル酸メチル,ポリアクリル酸エチル,ポリアクリル酸ヘキシル,ポリメタクリル酸,ポリメタクリル酸メチル,ポリメタクリル酸エチル,ポリメタクリル酸ヘキシル,ポリ酢酸ビニル,ポリビニルピロリドン,ポリエーテル,ポリエーテルサルフォン等の樹脂系結着剤またはこれらの変性体;スチレンブタジエンゴム,変性アクリルゴム,変性アクリロニトリルゴム等のゴム系結着剤;カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子系結着剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
これらの中では、ゴム系結着剤が特に好ましい。ゴム系結着剤は、負極活物質層21内でVDF−HFP共重合体と混ざり合わないで別個に存在し易い。そのために非水電解液の保液性を充分に維持しながら、負極活物質層の結着性を維持することができる。ゴム系結着剤の中では、特に、水分散性を有するスチレンブタジエンゴムに由来するものが特に好ましい。
【0026】
結着剤の配合割合は上述した負極活物質中の黒鉛粒子100質量部に対して0.3〜1.5質量部、さらには0.6〜1.0質量部であることが好ましい。結着剤の配合割合が少なすぎる場合には、負極集電体に対する負極活物質層の結着性が低下する傾向がある。また、結着剤の配合割合が多すぎる場合には、負極活物質層のイオン伝導性が低下する傾向がある。
【0027】
分散媒としては、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノン等が用いられうる。
【0028】
次に、上述したような負極を備えた本実施形態のリチウムイオン二次電池の一例について図3を参照しながら説明する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池30は、図3に示すように、電極群11と、図略の非水電解質と、電極群11及び図略の非水電解質とを収容する電池缶12とを備える。電極群11は、正極と、上述のような負極と、正極と負極との間に介在するセパレータとを含む積層体を捲回して形成されており、正極には正極リード13が、負極には負極リード14が接続されている。電極群11及び非水電解質を収容した電池缶12は、正極端子を兼ねる封口板16で封口されている。封口板16は、負極端子17を露出させるための開口と、封栓19で塞がれる非水電解質の注液孔と、防爆弁20とを備える。封口板16は、例えば、電池缶12の開口端部に溶接により接合されており、開口からは絶縁ガスケット18で囲まれた負極端子17が外部負極端子として露出している。正極リード13は封口板16の下面に接続され、負極リード14は負極端子17に接続されている。電極群11の上部には、負極リード14との短絡を防ぐための絶縁板15が配置されている。
【0029】
正極は、正極集電体と正極集電体の表面に担持された正極活物質層を含む。
【0030】
正極活物質層は、例えば、正極活物質と結着剤と必要に応じて用いられる導電剤等を分散媒に溶解又は分散させて調製された正極合剤スラリーを正極集電体の表面に塗布し、得られた塗膜を乾燥及び圧延することにより形成される。分散媒としては、負極合剤スラリーの調製に用いた分散媒と同様のものが用いられる。
【0031】
正極集電体の材料の具体例としては、例えば、ステンレス鋼,チタン,アルミニウム,アルミニウム合金等の金属材料が挙げられる。正極集電体の厚みは特に限定されないが、例えば、1〜500μm、さらには5〜50μm程度であることが好ましい。
【0032】
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いうる、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる物質であれば特に限定なく用いることができ、その具体例としては、例えば、リチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸リチウム等が挙げられる。
【0033】
リチウム含有複合酸化物の具体例としては、LiCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixComNi1-m2、LixCom1-mn、LixNi1-mmn、LixMn24、LixMn2-mn4(前記各式中、0<x≦1.2、m=0〜0.9、n=2.0〜2.3であり、AはSc,Y,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Cr,Na,Mg,Zn,Al,Pb,Sb及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を示す。)等が挙げられる。これらのリチウム含有複合酸化物の中でも、LixCom1-mnが特に好ましい。
【0034】
オリビン型リン酸リチウムの具体例としては、例えば、LiMPO4、Li2MPO4、Li2MPO4F(前記各式中、MはCo、Ni、Mn及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)等が挙げられる。なお、前記各式において、リチウムのモル比を示す値は正極活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。正極活物質は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
結着剤としては、負極活物質層の製造に用いられるものと同様の結着剤が用いられうる。
【0036】
導電剤の具体例としては、例えば、天然黒鉛,人造黒鉛等のグラファイト類;アセチレンブラック,ケッチェンブラック,チャンネルブラック,ファーネスブラック,ランプブラック,サーマルブラック等のカーボンブラック類;炭素繊維,金属繊維等の導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム等の金属粉末類;酸化亜鉛ウィスカー等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;フェニレン誘導体等の有機導電性材料;等が挙げられる。
【0037】
上述したような負極と正極との間にセパレータを介在させた積層体を捲回することにより電極群が形成される。セパレータとしては、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン等からなる微多孔膜,織布,不織布等が好ましく用いられる。セパレータの厚みとしては、10〜300μm、さらには10〜40μm程度であることが好ましい。
【0038】
電極群には、非水電解液が含浸される。非水電解液はリチウム塩と非水溶媒とを含み、さらに必要に応じて添加剤を含む。なお、本実施形態における負極活物質に含有されるVDF−HFP共重合体は、特にプロピレンカーボネートを非水溶媒として含む非水電解液に対する保液性に優れている。
【0039】
非水溶媒としては、リチウムイオン二次電池の非水溶媒であれば特に限定なく用いられる。具体的には、例えば、プロピレンカーボネート,エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル;ジエチルカーボネート,エチルメチルカーボネート,ジメチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル;γ−ブチロラクトン,γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル;等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、特に、プロピレンカーボネートを含有する非水溶媒が、VDF−HFP共重合体による負極の保液性がより高い点から好ましい。
【0040】
リチウム塩の具体例としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl4、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。非水電解液中のリチウム塩の濃度は、例えば0.5〜2モル/Lである。
【0041】
必要に応じて非水溶媒に溶解される添加剤の具体例としては、例えば、負極上で分解してリチウムイオン伝導性の高い被膜を形成し、充放電効率を向上させるビニレンカーボネート,1又は2個の炭素数1〜3のアルキル基が置換したビニレンカーボネート,ビニルエチレンカーボネート,ジビニルエチレンカーボネート等のカーボネート化合物;電池の過充電時に分解して電極表面に被膜を形成し、電池を不活性化するシクロヘキシルベンゼン,ビフェニル,ジフェニルエーテル等のベンゼン化合物等が挙げられる。
【0042】
絶縁板及び絶縁ガスケットは、電気絶縁性材料、好ましくは樹脂材料又はゴム材料を所定の形状に成形することにより作製される。電池ケース及び封口板は、鉄,ステンレス鋼等の金属材料を所定の形状に成形することにより作製される。負極リードは、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等の金属材料を所定の形状に成形することにより作製される。正極リードは、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料を所定の形状に成形することにより作製される。
【0043】
本実施形態のリチウムイオン二次電池30としては角型電池を示したが、本発明のリチウムイオン二次電池は、円筒形電池、コイン型電池、ラミネートフィルムパック電池等の各種のリチウムイオン二次電池に限定なく適用できる。
【0044】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例の記載により、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
(1)負極の作製
VDF−HFP共重合体(VDF単位含有割合80質量%、HFP単位含有割合20質量%) 1質量部をN−メチル−2−ピロリドン 99質量部に溶解し、VDF−HFP共重合体溶液を調製した。そして、得られたVDF−HFP共重合体溶液と天然黒鉛粒子(商品名:SG2、BTR(株)製)とを混合し、得られた混合物を濾過し、固形分を分離した。そして、これを乾燥した後、粉砕した。得られた粉砕物を走査型電子顕微鏡で観察したところ、天然黒鉛粒子の表面にVDF−HFP共重合体からなる被覆膜が付着していた。得られた粉砕物の質量から、VDF−HFP共重合体の被覆量は天然黒鉛粒子100質量部に対して0.4質量部であることが分かった。このようにして、天然黒鉛粒子の表面にVDF−HFP共重合体が被着された負極活物質粒子Aを得た。そして、負極活物質粒子Aの天然黒鉛粒子 100質量部に対し、スチレン−ブタジエンゴム(SBR) 0.6質量部(固形分)及び適量の水を混合して負極合剤スラリーを調製した。SBRは、JSR(株)製のSBR含有量 48質量%のSBR水分散液を用いた。
【0046】
そして、調製された負極合剤スラリーを、負極集電体である厚さ10μmの電解銅箔の両面にダイコートして塗布し、110℃で乾燥させることにより負極合剤層の塗膜を形成した。そして、圧延ローラを用いて塗膜を圧延することにより、厚さ145μm、黒鉛粒子の充填密度1.6g/cm3の負極活物質層を形成した。そして、負極活物質層を担持した負極集電体を所定形状に裁断することにより負極を得た。そして、負極の負極活物質層が担持されていない部分に負極リードの一端を溶接した。
【0047】
(2)正極の作製
LiCoO2 100質量部と、ポリフッ化ビニリデン 4質量部と、適量のN−メチル−2−ピロリドンとを混合することにより正極合剤スラリーを調製した。そして、正極合剤スラリーを正極集電体である厚さ15μmのアルミニウム箔の両面にダイコートして塗布し、乾燥させることにより正極合剤層の塗膜を得た。そして、圧延ローラを用いて塗膜を圧延することにより、厚さ 145μmの正極活物質層を形成した。そして、正極活物質層を担持した正極集電体を所定形状に裁断することにより正極を得た。そして、正極の正極活物質層が担持されていない部分に正極リードの一端を溶接した。
【0048】
(3)非水電解質の調製
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:1:1)に1モル/リットルの濃度でLiPF6を溶解させた非水電解質を調製した。
【0049】
(4)リチウムイオン二次電池の作製
上述のように製造した負極及び正極を用いて、図2に示すようなリチウムイオン二次電池を作製した。セパレータとしては、ポリエチレン製微多孔性フィルム(厚さ20μm、セルガード株式会社製のA089(商品名))を用いた。
はじめに、正極と負極との間にセパレータを介在させて積層体を形成し、捲回することにより、断面が略楕円形の電極群11を形成した。そして、厚み約80μmのアルミニウム製の角型の電池缶12に電極群11を収容した。そして、電極群11の上部に絶縁板15を配置した。そして、正極リード13の他端を封口板16の下面に溶接し、負極リード14の多端を負極端子17に溶接した。なお、負極端子17は絶縁ガスケット18で囲まれており、外部負極端子として封口板16の開口から露出する。そして、封口板16を、電池缶12の開口端部に配置し、溶接により接合した。そして、封口板16に設けられた注液孔から、2.5gの非水電解質を電池缶12内に注入した。そして、封口板16の注液孔を封栓19で溶接により塞いだ。このようにして、図3に示すような、高さ50mm、幅34mmで、設計容量850mAhの角型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0050】
(5)評価
得られたリチウムイオン二次電池を用いて下記の評価を行った。結果をまとめて、下記表1に示す。
【0051】
〈非水電解液の保液性〉
得られた負極を裁断し、5cm角の試料を作製した。この試料を、調製された非水電解液100mlに25℃で1分間浸漬し、非水電解液から取り出した後は表面に付着している電解液を拭き取った。非水電解液に浸漬する前の試料の質量(集電体の質量を除く)をX、非水電解液に浸漬した後の試料の質量(集電体の質量を除く)をYとし、非水電解液の保持率(%)を下記の式から求めた。
非水電解液の保持率(%)=[(Y−X)/X]×100
【0052】
〈電池容量〉
リチウムイオン二次電池を、25℃において、下記(a1)〜(a5)の順の充放電サイクルを3回繰返し、3回目の放電容量を求め、電池容量(mAh)とした。
(a1)定電流充電:充電電流値200mA、充電終止電圧4.2V。
(a2)定電圧充電:充電電圧値4.2V、充電終止電流20mA。
(a3)休止時間20分。
(a4)定電流放電:放電電流値200mA、放電終止電圧2.5V。
(a5)休止時間20分。
【0053】
〈サイクル特性〉
リチウムイオン二次電池を、25℃において、下記(b1)〜(b3)の順の充放電サイクルを500回繰り返した。
(b1)定電流充電:充電電流値500mA、充電終止電圧4.2V。
(b2)定電圧充電:充電電圧値4.2V、充電終止電流100mA。
(b3)定電流放電:放電電流値500mA、放電終止電圧3V。
そして、1回目の放電容量に対する500回目の放電容量の百分率を求め、容量維持率(%)とした。
【0054】
〈レート特性〉
リチウムイオン二次電池を、25℃において、下記(c1)〜(c5)の順の充放電サイクルを行った。この時の放電容量を、0.2C容量とする。
(c1)定電流充電:充電電流値0.7C、充電終止電圧4.2V。
(c2)定電圧充電:充電電圧値4.2V、充電終止電流0.05C。
(c3)休止時間20分。
(c4)定電流放電:放電電流値0.2C、放電終止電圧3.0V。
(c5)休止時間20分。
【0055】
続いて、各電池について、25℃において、下記(d1)〜(d5)の順の充放電サイクルを行った。この時の放電容量を、1C容量とする。
(d1)定電流充電:充電電流値0.7C、充電終止電圧4.2V。
(d2)定電圧充電:充電電圧値4.2V、充電終止電流0.05C。
(d3)休止時間20分。
(d4)定電流放電:放電電圧値1C、放電終止電圧3.0V。
(d5)休止時間20分。
【0056】
レート特性は、下記式から算出される。レート特性の値が高いほど、電池内でのリチウムイオン伝導性が良好であると言える。
レート特性=1C容量/0.2C容量
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例2]
VDF−HFP共重合体として、VDF単位含有割合 90質量%及びHFP単位含有割合 10質量%であるVDF−HFP共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例3]
VDF−HFP共重合体として、VDF単位含有割合 95質量%及びHFP単位含有割合 5質量%であるVDF−HFP共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例4]
VDF−HFP共重合体溶液のVDF−HFP共重合体濃度を変更することにより、VDF−HFP共重合体による天然黒鉛粒子の被覆量を、天然黒鉛粒子100質量部に対して1.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1]
VDF−HFP共重合体を被着させた天然黒鉛粒子の代わりにVDF−HFP共重合体を被着させていない天然黒鉛粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例2]
VDF−HFP共重合体として、VDF単位含有割合 75質量%及びHFP単位含有割合 25質量%であるVDF−HFP共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例3]
VDF−HFP共重合体の代わりに、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例4]
VDF−HFP共重合体溶液におけるVDF−HFP共重合体濃度を変更することにより、VDF−HFP共重合体による天然黒鉛粒子の被覆量を、天然黒鉛粒子100質量部に対して2質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例5]
VDF−HFP共重合体の代わりに、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0066】
表1の結果から、実施例1〜4で得られたリチウムイオン二次電池は何れもレート特性に優れており、また、100サイクル後の容量維持率も高かった。一方、VDF−HFP共重合体を被着させていない天然黒鉛粒子を用いた比較例1の場合には、非水電解液の保持率が低かったために、レート特性が低かった。また、HFPの含有割合が高いVDF−HFP共重合体を被着させた天然黒鉛粒子を用いた比較例2の場合には、非水電解液の保持率は高かったが、レート特性が低かった。これは、VDF−HFP共重合体の結着性が低下したためであると思われる。また、HFPを含有しないPVDFを被着させた天然黒鉛粒子を用いた比較例3の場合には、非水電解液の保持率が低いために、レート特性が低かった。また、VDF−HFP共重合体の被着量が多い天然黒鉛粒子を用いた比較例4の場合には、非水電解液の保持率は高かったが、結着剤の量を減らしたためにレート特性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のリチウムイオン二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池と同様の用途に使用でき、特に、電子機器、電気機器、工作機器、輸送機器、電力貯蔵機器等の主電源又は補助電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0068】
1 負極活物質
2 黒鉛粒子
3 VDF−HFP共重合体からなる膜
4 負極集電体
5 負極活物質層
6 結着剤
10 負極
11 電極群
12 電池缶
13 正極リード
14 負極リード
15 絶縁板
16 封口板
17 負極端子
18 絶縁ガスケット
19 封栓
20 防爆弁
30 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子と、前記黒鉛粒子の表面に被着されたフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体とを含み、
前記フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体が、フッ化ビニリデン単位80〜95質量%及びヘキサフルオロプロピレン単位5〜20質量%を含有し、
前記フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の被着量が、前記黒鉛粒子100質量部に対して0.4〜1.5質量部であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記フッ化ビニリデン単位の含有割合が90〜95質量%であり、前記ヘキサフルオロプロピレン単位の含有割合が5〜10質量%である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記黒鉛粒子が天然黒鉛粒子である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質。
【請求項4】
リチウムイオンを吸蔵及び放出する正極と、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質を含有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水溶媒としてプロピレンカーボネートを含む非水電解液と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−51061(P2013−51061A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187230(P2011−187230)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】