説明

リチウムイオン二次電池用負極電極及び該負極電極を用いたリチウムイオン二次電池

【課題】高容量で入出力特性を高く維持し、かつサイクル特性に優れる長寿命のリチウムイオン二次電池を得ること。
【解決手段】リチウムイオン二次電池12の負極電極は、粒子表面に非晶質炭素層sが形成された2種類の異なる粒子形状を有する黒鉛質炭素材を有する。好ましくは、黒鉛質炭素材は、粒子表面に非晶質炭素層sが形成された球状又は楕円球状の粒子形状を有する第1の黒鉛質炭素材Aと、粒子表面に非晶質炭素層sが形成された多面体状又は多角柱集合体状の粒子形状を有する第2の黒鉛質炭素材Bを有しており、第2の黒鉛質炭素材Bの方が第1の黒鉛質炭素材Aよりも粒子径及び比表面積が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極電極及び該負極電極を用いたリチウムイオン二次電池に関し、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)等の動力用電源に用いられるリチウムイオン二次電池のリチウムイオン二次電池用負極電極及び該負極電極を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、負極活物質が、(a)鱗片状の黒鉛粒子、および、(b)非晶質炭素で表面が被覆され且つ鱗片状ではない黒鉛材料の2種類を少なくとも含む炭素材料からなる非水電解液二次電池の技術が示されている。
【0003】
また、特許文献2には、表面被覆されたグラファイトに対して被覆を行なっていないグラファイトを特定範囲で混合された負極材料を有する非水電解液二次電池の技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-138061号公報
【特許文献2】特開2001-185147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黒鉛質炭素材は、表面に非晶質炭素層を有するものであっても、プレス工程によって多少変形して潰れた状態で合剤層として集電箔に密着される。そして、リチウムを挿入・脱離させる反応、すなわち電池での充放電サイクルを繰り返すと、粒子の膨張・収縮を伴い、粒子間の空隙が徐々に広がっていく。そして、粒子間の接触がなくなると、集電箔との導電性が低下し、結果として、入出力が低下し、DCR(直流抵抗成分)の上昇につながる。特に、高率の入出力が求められるときに顕著となる。
【0006】
特許文献1、2では、表面被覆等がなされている黒鉛と表面被覆等がなされていない黒鉛とが組み合わされているため、表面被覆等がなされていない黒鉛は副反応である電解液の分解が進行し入出力特性の低下を抑制できない。
【0007】
また、黒鉛は、高率での充放電サイクルを繰り返すと、膨張・収縮が大きく、粒子間の空隙の広がりによりDCR(直流抵抗成分)が増加する。したがって、入出力特性を高く維持しながらサイクル特性を満足するには問題があった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高容量で入出力特性を高く維持することができ、かつサイクル特性に優れる長寿命のリチウムイオン二次電池を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明のリチウムイオン二次電池用負極電極は、リチウムイオンを挿入脱離可能な正極電極と、リチウムイオンを挿入脱離可能な負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間を電気的に絶縁し、かつリチウムイオンを透過させるセパレータと、リチウムイオンの移動媒体として非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池のリチウムイオン二次電池用負極電極であって、粒子表面に非晶質炭素層が形成された2種類の異なる粒子形状を有する黒鉛質炭素材を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高容量で入出力特性を高く維持でき、サイクル特性に優れる長寿命のリチウムイオン二次電池を提供できる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用されるリチウムイオン二次電池の外観斜視図。
【図2】図1に示すリチウムイオン二次電池の分解斜視図。
【図3】発電要素(電極群)の構成を説明する斜視図。
【図4】負極合剤層の構成を模式的に示す図。
【図5】第1活物質と第2活物質の混合割合と容量維持率との関係を示すグラフ。
【図6】第1活物質と第2活物質の混合割合とDCR変化率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池用負極電極は、粒子表面に非晶質炭素層が形成された2種類の異なる粒子形状を有する黒鉛質炭素材を有することを特徴としている。本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池用負極電極によれば、黒鉛質炭素材の粒子表面の形状の違いにより、粒子間の接触点をより多く確保することができ、充放電により粒子間の空隙が広がるような反応が繰り返し行われても、粒子間および集電箔との導電性を保持することができ、DCRの上昇を抑制できる。したがって、高容量で入出力特性を高く維持でき、サイクル特性に優れる長寿命のリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0013】
リチウムイオン二次電池用負極電極は、粒子表面に非晶質炭素層が形成された球状又は楕円球状の粒子形状を有する第1の黒鉛質炭素材と、粒子表面に非晶質炭素層が形成された多面体状又は多角柱集合体状の粒子形状を有する第2の黒鉛質炭素材を有している。第1の黒鉛質炭素材と第2の黒鉛質炭素材は、第2の黒鉛質炭素材の方が前記第1の黒鉛質炭素材よりも粒子径及び比表面積が小さい。
【0014】
リチウムイオン二次電池として高い寿命特性を得るためには、負極合剤層中の粒子間の空隙が拡がりすぎないように保持することと、より大きな容量を保持できる粒子の崩壊を抑制することが必要である。充放電反応により粒子に対してリチウムイオンの挿入脱離が繰り返されると、粒子が割れて崩壊が発生するが、大きい粒子よりも小さい粒子の方が、崩壊が進行しやすい。
【0015】
そして、球状又は楕円球状の粒子形状を有する黒鉛質炭素材の方が、多面体状又は多角柱集合体状の粒子形状を有する黒鉛質炭素材よりも、高容量特性を有している。そして、多面体状又は多角柱集合体状の粒子形状を有する黒鉛質炭素材の方が、球状又は楕円球状の粒子形状を有する黒鉛質炭素材よりも、接触点を多くすることができる。
【0016】
したがって、第1の黒鉛質炭素材の粒子形状を球状又は楕円球状とし、第2の黒鉛質炭素材の粒子形状を多面体状又は多角柱集合体状の粒子形状とすると共に、第2の黒鉛質炭素材の方が第1の黒鉛質炭素材よりも粒子径及び比表面積を小さくすることによって、出力を大きくすることができる。
【0017】
[リチウムイオン二次電池の全体構成]
次に、本実施の形態に係わるリチウムイオン二次電池の全体構成について説明する。なお、本実施の形態では、リチウムイオン二次電池の例として、角形のリチウムイオン二次電池の場合を例に説明するが、リチウムイオン二次電池の形状は角形に限定されるものではなく、円筒形などの他の形状であってもよい。
【0018】
図1は、本発明が適用されるリチウムイオン二次電池の外観斜視図、図2は、図1に示すリチウムイオン二次電池の分解斜視図、図3は、発電要素(電極群)の構成を説明する斜視図である。
【0019】
リチウムイオン二次電池12は、図1に示すように、電池ケース11と電池蓋部6とをレーザ溶接により溶接し、注液孔8より非水電解液を注入した後に、注液孔8に溶接等で栓をして電池蓋部6を密封することによって完成される。
【0020】
電池蓋部6には、正極外部端子4と負極外部端子5、ガス排出弁7、注液孔8が設けられている。ガス排出弁7は、電池蓋部6よりも厚さが薄い部分を有しており、電池ケース11の内部圧力が予め設定された上限値よりも高くなった際に破断し、内部のガスを放出するように構成されている。正極外部端子4と負極外部端子5は、例えばボルトであり、複数のリチウムイオン二次電池12を接続する際に、接続バー(バスバー)をナット等で固定する。尚、バスバーを溶接により接続することもある。
【0021】
リチウムイオン二次電池12は、図2に示すように、電極群ASSY9を樹脂製の絶縁袋10に入れた後、材質がアルミニウムの電池ケース11内に挿入する。電池ケース11は、有底の角形容器であり、電極群ASSY9を挿入する一面に開口部を有する。この開口部に電極群ASSY9の電池蓋部6が係合する。絶縁袋10も電極群ASSY9を挿入する一面に開口部を有し、開口部以外の底面及び4つの側面によって、電極群ASSY9と電池ケース11との間を電気的に絶縁している。
【0022】
電池蓋部6は、材質がアルミニウムからなり、正極外部端子4と正極集電接続体2が電気的に導通し、また、負極外部端子5と負極集電接続体3も電気的に導通するように溶接等で接続される。電池蓋部6と正極外部端子4との間、及び、電池蓋部6と負極外部端子5との間には、樹脂が介在されて絶縁されている。電極群ASSY9は、電池蓋組立品として作製したものを用いて作製されている。
【0023】
発電要素である電極群1は、図3に示すように、正極電極21と、負極電極22と、セパレータ23を重ね合わせた状態で扁平状に捲回して作製される。正極電極21は、正極集電箔21aの両面に正極合剤層21bが形成されている。正極電極21の捲回軸方向一方側には、正極集電箔21aが露出する箔露出部が設けられている。負極電極22は、負極集電箔22aの両面に負極合剤層22bが形成されている。負極電極22の捲回軸方向他方側には、負極集電箔22aが露出する箔露出部が設けられている。
【0024】
セパレータ23は、正極電極21と負極電極22が直接接触しないように、正極電極21及び負極電極22の合剤層幅よりも幅広の寸法を有したポリエチレン製の微多孔膜によって構成されている。この電極群1に、電池蓋部6の正極集電接続体2と負極集電接続体3が溶接されて、図2に示す電極群ASSY9が構成される。
【0025】
正極集電接続体2と負極集電接続体3は、導通部材であり、材質は、正極集電箔21a、負極集電箔22aの材質と同じものを適宜使用することができる。例えば好適な正極集電箔21aおよび正極集電接続体2の材質としてアルミニウムを、好適な負極集電箔22aおよび負極集電接続体3の材質として銅を挙げることができる。
【0026】
[負極電極の構成]
リチウムイオン二次電池用負極電極は、負極活物質として、第1の黒鉛質炭素材(以下、活物質A)と、第2の黒鉛質炭素材(以下、活物質B)を有している。
【0027】
活物質Aは、核材に高結晶性黒鉛を用い、その粒子表面に非晶質炭素層を有しており、少なくとも二次粒子が球状か楕円球状に近くなるように粒子成形された黒鉛質炭素材である。活物質Aは、粒子径(粒度分布測定におけるD50を平均粒子径とする)が5μm以上25μm以下であり、比表面積が3m2/g以上10m2/g以下の黒鉛質炭素材である。
【0028】
活物質Bは、活物質Aよりも小粒径でかつ低比表面積の黒鉛材料を用い、比表面積が活物質Aよりも小さく、その粒子表面には非晶質炭素層が形成されており、核材の結晶黒鉛層が発達していることに由来する多面体形状、多角柱集合形状を保持する塊状構造をとる。活物質Bは、粒子径が2μm以上15μm以下であり、比表面積が1m2/g以上4m2/g以下の黒鉛質炭素材である。
【0029】
粒子表面に非晶質炭素層を有する黒鉛質炭素材料は、核材となる黒鉛粒子に前駆体を被覆して焼成する方法で得ることができる。加熱温度は、非晶質炭素層の厚みに応じて変化するが、700℃〜1500℃で加熱処理されることで炭素化でき、結晶構造は、未発達の状態で安定化する。
【0030】
図4は、負極合剤層の構成を模式的に示す図である。活物質Aには、表面の凹凸が少ない球状または楕円球状に近い粒子形状の表層に非晶質炭素層sが形成されている黒鉛質炭素材が選択され、活物質Bには、凹凸の多い多面体または多角柱集合体の形状をとる表層に非晶質炭素層sが形成されている黒鉛質炭素材が選択される。
【0031】
活物質Aと活物質Bは、ともに核材に結晶性黒鉛を用いており、かつ表層には非晶質炭素層sが形成されて黒鉛質炭素材を成している。しかし、核材が人造黒鉛の場合、黒鉛化反応の方法や粒子の粉砕または解砕方法により、天然黒鉛の場合、粒子の粉砕または解砕方法や造粒処理により、さらにはそれらの結晶化表面の改質あるいは表面被覆の方法や表面処理量の違いにより活物質粒子の形態や形状は変えることができ、上記のような粒子形状を得ることができる。
【0032】
活物質Bは、図4に示すように、活物質Aよりも粒子径が小さく、負極合剤層22bにおいて活物質Aが充填されて残っている空隙を埋めている。活物質Bは、多面体状又は多角柱集合体状の粒子形状を有しており、活物質Aと比較して表面に凹凸があるので、粒子間の接触点をより多く確保することができ、充放電により空隙が拡がるような反応が繰り返し行われても、導電性を保持することができ、DCRの上昇を抑制できる。
【0033】
また、活物質Bは、比表面積が活物質Aよりも小さくなるように表面被覆処理されているので、通常は、活物質Aよりも硬く電極作製時に圧縮成形しても潰れすぎることなく、負極合剤層22b内に空隙を残すことができ、電解液の浸潤性や保液性を確保することができる。
【0034】
活物質Aは、粒子径が大きくなりすぎて比表面積が小さくなりすぎると入出力特性が得られなくなり、粒子径が小さくなりすぎて比表面積が大きくなりすぎると電極を成形したときの合剤密度が得られにくく、合剤を接着するためのバインダー量が多くなり、DCRの上昇につながる。活物質Aの粒子径(粒度分布測定におけるD50を平均粒子径とする)は、5μm以上25μm以下が望ましく、比表面積は3m2/g以上10m2/g以下が望ましい。
【0035】
活物質Bは、活物質Aの粒子間に埋め込まれて接触面を確保し、十分な導電経路を得るために、活物質Aよりも粒子径が小さく、多角柱集合形状を保持しながら塊状構造をとるような粒子表面を有することが必要とされる。活物質Bの粒子径(粒度分布測定におけるD50を平均粒子径とする)は、2μm以上15μm以下が望ましく、比表面積は1m2/g以上4m2/g以下が望ましい。
【0036】
活物質Aと活物質Bは、活物質Aの方が比表面積が大きく、反応性が高い。したがって、高容量で高エネルギー密度化が実現できる負極電極を得るためには、重量比で活物質Aの方が活物質Bよりも大きいこと(A>B)が必要である。例えば、活物質Bは、活物質Aの5重量%以上であれば、粒子形状を活かして空隙を埋めることができ、また、活物質Aの40重量%以下にすることで容量の低下を抑制することができる。さらに、活物質Bは、活物質Aの20重量%〜30重量%にすることがより好ましい。
【0037】
[正極電極の構成]
次に、正極電極の構成について説明する。
正極電極には、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として用いた。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物は、一般式でLiNiMnCo(1-y-z-w)で示される層状結晶構造を有する複合酸化物である。ここで、一般式中のxは0<x<1.2、で表され、yおよびzはy+z<1を満たす数である。マンガンの(Mn)の割合が大きくなると、単一相のリチウム遷移金属複合酸化物は合成されにくくなるため、z≦0.4とすることが望ましく、また、コバルト(Co)の割合が大きくなると高コストとなり容量も減少するため、1-y-z<y、zとすることが望ましい。
【0038】
さらに容量を得るためにはy>z、y>1-y-zであることが望ましい。さらに、上記一般式中のAは、リチウム遷移金属複合酸化物結晶におけるNi、Mn、Coの一部をLi、Al、Cr、Mg、Ti、Zr、B、F、Wの少なくとも1種類以上の元素で置換又はドープしたことを表し、0≦w<0.01である。
【0039】
一次粒子径が0.3μm(SEMで粒子を観察したときの30個の平均)であり、二次粒子の平均粒子径(粒度分布測定装置で測定したときのD50の値)が6.5μmである正極活物質を使用した。
【0040】
平均粒子径(D50)は、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数又は体積が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径で定義される。測定方法は種々あるが、一次粒子の粒子径においてはSEMにより測定した。粒子の形状が一様でないため、粒径を粒子の輪郭線上の任意の2点間距離のうち、最大の長さとし、平均粒子径は30個から求めた平均値とした。
【0041】
[非水電解液]
注液孔8より注入される非水電解液には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比1:1:1の混合溶媒中に、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.2モル/リットル溶解し、さらに電池特性を安定化させるためにVC(ビニレンカーボネート)とCHB(シクロヘキシルベンゼン)を少量溶解させたものを用いることが好適である。
【0042】
なお、本実施の形態では、非水電解液として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒中に6フッ化リン酸リチウムを溶解したものを例示したが、以下に詳述するように、これらは上述した特許請求の範囲に記載した以外に制限されるものではなく、通常用いられているいずれのものも使用可能である。
【0043】
非水電解液としては、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを有機溶媒に溶解した非水電解液を用いることができる。また、用いられるリチウム塩や有機溶媒も特に制限されるものではない。例えば、電解質としては本例の他に、LiBF、LiB(C、CHSOLi、CFSOLi等やこれらの混合物を用いることができる。
【0044】
また、有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル等又はこれら2種類以上の混合溶媒を用いることができ、混合配合比についても限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
活物質Aとして、天然黒鉛を核材に用いてその粒子表面に非晶質炭素層を有し、二次粒子がほぼ球状化するように粒子成形された、粒子径が13μm、比表面積が5.8m2/gである黒鉛質炭素材料を用いた。活物質Bとして、天然黒鉛を核材に用いてその粒子表面に非晶質炭素層を有し、粒子表面は活物質Aよりも凹凸の多い多面体または多角柱集合体の形状をとるように表面処理されている、平均粒子径5.3μm、比表面積が2.7m2/gである黒鉛質炭素材料を用いた。黒鉛質炭素材の表面層に非晶質炭素層を形成する方法として、例えば特開2006-324237号公報に開示されている方法により得ることができる。
【0046】
上記の2種類の活物質Aと活物質Bを、70/30の重量比で混合し、その混合した活物質98重量%に対して、1重量%のCMC(カルボキシメチルセルロース)を溶解した水溶液と、1重量%のSBR(スチレン−ブタジエンゴム)を分散させて液状化した分散液を加えて均一に混合し、スラリー状の負極合剤塗料を作製した。
【0047】
この負極合剤塗料を厚さ10μmの電解銅箔(負極集電箔)の両面に一定厚みで塗布し、乾燥させることで銅箔両面に実質的に均等かつ均質な負極合剤層を形成した。その後、ロールプレス機で負極合剤層をプレスして銅箔に密着させ、負極合剤密度が1.55g/cmになるように圧縮成形し、所定の幅に裁断して帯状の負極板(負極電極)を得た。負極板の片側端には銅箔が露出している未塗工部が設けられており、かかる負極板を用いて電極群1を構成した場合に、電極群1の捲回軸方向他方側において、負極集電接続体に溶接されて電気的に接続される。
【0048】
正極活物質には、LiNi0.5Mn0.3Co0.20.001を用いた。正極材100質量部に対して、導電材としての鱗片状黒鉛3質量部とアセチレンブラックを2質量部添加し、あらかじめ結着剤として4質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)をN−メチルピロリドン(NMP)に溶解した溶液を加えて混錬して均一に混合し、スラリー状の正極合剤塗料を作製した。
【0049】
この正極合剤塗料を厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電箔)の両面に実質的に均等かつ均質に塗布し、乾燥させることで正極合剤層を形成した。その後、ロールプレス機で正極合剤層をプレスしてアルミニウム箔に密着させ、正極合剤密度が2.80g/cmとなるように圧縮成形し、所定の幅に裁断して帯状の正極板(正極電極)を得た。なお、この正極板の片側端にはアルミニウム箔が露出している箔露出部が設けられており、かかる正極板を用いて電極群1を構成した場合に、電極群1の捲回方向一方側において、正極集電接続体に溶接されて電気的に接続される。
【0050】
[実施例2]
実施例2では、負極活物質Aと負極活物質Bの混合割合を、80/20の比で混合して負極電極を作製した。それ以外は実施例1と同様にして電池を作製した。
【0051】
[実施例3]
実施例3では、負極活物質Aと負極活物質Bの混合割合を、90/10の比で混合して負極電極を作製した。それ以外は実施例1と同様にして電池を作製した。
【0052】
[比較例1]
比較例1では、負極活物質Aだけを用いて負極合剤塗料を作製し、実施例1と同様にして負極合剤層を形成した負極電極を作製した。活物質Aと活物質Bの混合比率は100/0である。それ以外は実施例1と同様にして電池を作製した。
【0053】
[比較例2]
比較例2では、負極活物質Bだけを用いて負極合剤塗料を作製し、実施例1と同様にして負極合剤層を形成した負極電極を作製した。活物質Aと活物質Bの混合比率は0/100である。それ以外は実施例1と同様にして電池を作製した。
【0054】
[比較例3]
比較例3では、負極活物質Aと負極活物質Bの混合割合を、60/40の比で負極電極を作製した。それ以外は実施例1と同様にして電池を作製した。
【0055】
[試験]
以上のように作製した実施例1〜3、および比較例1〜3の各電池について、以下の試験を実施した。
【0056】
各電池を25℃(室温)の雰囲気下にて3時間率(0.33C)で定電流定電圧充電(設定電圧4.1V)を5時間行った後、1時間率(1C)で放電終止電圧2.7Vに至るまで放電し、再度同条件で充電した。次に日本蓄電池工業会規格SBA8503に準じ、放電電流2,4,6Cの各電流値で定電流放電し、10秒目の電圧を測定、このときの電流−電圧特性より電圧勾配をDCRとして計算し、初期のDCRを求めた。
【0057】
サイクル試験は25℃(室温)の雰囲気下で0.33時間率(3C)で定電流定電圧充電(設定電圧4.1V)を1.5時間行った後、0.33時間率(3C)で放電終止電圧2.7Vに至るまで放電することを1サイクルとし、その充放電を1000回繰り返す試験を実施した。充電と放電の間の休止時間、サイクル毎の休止時間はとっていない。DCRの変化を測定するために100サイクル経過毎に上述の方法によりDCRを求めて初期状態と比較した。
【0058】
また、通常入力でのサイクル試験として、25℃(室温)の雰囲気下で1時間率(1C)で定電流定電圧充電(設定電圧4.1V)を2時間行った後、0.33時間率(3C)で放電終止電圧2.7Vに至るまで放電することを1サイクルとし、その充放電を1000回繰り返す試験を実施した。
【0059】
[試験結果]
表1に、実施例1、比較例1、2で作製した電池の容量維持率とDCR変化を示し、表2に、実施例1〜3および比較例3で作製した電池に用いた負極電極の活物質Aと活物質Bの混合割合とサイクル特性とサイクル後のDCR変化を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1に示すように、活物質Aと活物質Bそれぞれを単独で用いた比較例1、2は、急速充電を模擬した条件でのサイクル特性において、容量維持率が35%、20%であり、混合して作製した電極を用いた実施例1(容量維持率60%)と比較して、容量低下が著しく、サイクル後のDCR上昇も、実施例1の135%に対して、比較例1が150%、比較例2が170%であり、顕著に増加した。これにより、入力電流が大きい場合には、速い充電反応が求められ、それに追随できる活物質の有効反応表面積の確保と電流経路を保持するための粒子間の接触を維持することが必要であるが、活物質AとBのいずれかを単独で用いたものでは不十分であることがわかる。
【0063】
表2に示すように、比較例3のように負極合剤層における活物質Bの比率が多くなりすぎると、負極合剤層全体、および電極としての反応表面積は低下することになり、容量が減少しやすくなる。そして、充放電サイクルを繰り返したときに、粒子間の空隙が拡がり、粒子が孤立化してDCR上昇が起こりやすいことがわかる。
【0064】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、本発明の適用可能な構造として、正極電極及び負極電極を捲回式の構造とせず、積層式の構造としたリチウムイオン二次電池にも適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 電極群
2 正極集電接続体
3 負極集電接続体
6 電池蓋部
9 電極群ASSY
10 絶縁袋
11 電池ケース
12 リチウムイオン二次電池
21 正極電極
21a 正極集電箔(正極集電体)
21b 正極合剤層
22 負極電極
22a 負極集電箔(負極集電体)
22b 負極合剤層
23 セパレータ
s 非晶質炭素層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを挿入脱離可能な正極電極と、リチウムイオンを挿入脱離可能な負極電極と、非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池の負極電極であって、
該負極電極は、粒子表面に非晶質炭素層が形成された2種類の異なる粒子形状を有する黒鉛質炭素材を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極電極。
【請求項2】
前記黒鉛質炭素材は、粒子表面に非晶質炭素層が形成された球状又は楕円球状の粒子形状を有する第1の黒鉛質炭素材と、粒子表面に非晶質炭素層が形成された多面体状又は多角柱集合体状の粒子形状を有する第2の黒鉛質炭素材を有し、該第2の黒鉛質炭素材の方が前記第1の黒鉛質炭素材よりも粒子径及び比表面積が小さいことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極電極。
【請求項3】
前記第1の黒鉛質炭素材は、粒子径が5μm以上25μm以下でかつ比表面積が3m2/g以上10m2/g以下であり、
前記第2の黒鉛質炭素材は、平均粒子径2μm以上15μm以下でかつ比表面積が1m2/g以上4m2/g以下であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極電極。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極電極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
一般式LiNiMnCo(1-y-z-w)で表される(y+z<1、y≧z、AはLi、Al、Cr、Mg、Ti、Zr、B、F、Wのうちの少なくとも1種類以上の添加元素、wは1モル%以下)リチウム層状複合酸化物であって、平均粒子径が0.1μm以上10μm以下の一次粒子結晶が凝集した二次粒子を、前記正極電極の正極活物質に用いたことを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−30355(P2013−30355A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165586(P2011−165586)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】