説明

リチウムイオン二次電池

【課題】捲回型電極群を備え、負極活物質が複数の合金系活物質の柱状体からなるリチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性を向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池は、帯状の負極と帯状の正極とを、両電極間に帯状のセパレータを介在させて、両電極の長辺方向に沿って捲回した電極群と、非水電解液とを備える。負極は、帯状の負極集電体と、負極集電体表面に支持された複数の合金系活物質の柱状体からなる帯状の負極活物質層と、負極活物質層表面に被着形成された帯状のリチウムイオン伝導性樹脂膜とを備える。リチウムイオン伝導性樹脂膜は、負極活物質層の長辺方向に沿って負極活物質層の短辺方向中央部にのみ形成されており、短辺方向中央部の幅が、負極活物質層の短辺の全幅に対して20〜50%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金系活物質を負極活物質として含む捲回型電極群を備えたリチウムイオン二次電池に関し、詳しくは、リチウムイオン二次電池の負極活物質層の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高容量で、エネルギー密度が高いことから、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノート型パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、携帯ゲーム機などの携帯型電子機器の電源として用いられている。また、ハイブリッド自動車、電気自動車などの車載用電源、無停電電源などへの開発も進められている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池のさらなる高容量化を図るために、黒鉛に代わる負極活物質として、合金化および脱合金化によってリチウムを吸蔵および放出可能な合金系活物質が用いられている。合金系活物質としては、ケイ素やスズの単体、ケイ素やスズを含む酸化物および合金などが知られている。
【0004】
合金系活物質はリチウムを吸蔵した時に顕著に膨張することから、膨張時の応力によって負極活物質層にクラックを生じさせたり、負極活物質層を負極集電体から剥離したり、負極集電体を変形させたりする傾向がある。そこで、特許文献1は、合金系活物質を負極集電体の表面から突出した柱状体として形成し、複数の柱状体を負極集電体の表面で互いに間隔をあけて配置した負極活物質層を備えたリチウムイオン二次電池を提案している。上記負極活物質層は、隣接する柱状体間に間隙を有しており、この間隙によって合金系活物質の膨張時の応力を緩和させることができる。また、特許文献1は、上述の負極活物質層の表面に、さらにイオン伝導性樹脂層を設けた構成を開示している。イオン伝導性樹脂層は、合金系活物質の膨張により負極活物質層の表面および内部にクラックが生じた場合に、それまで非水電解液と接していなかった負極活物質層の新生面と、非水電解液との接触により、充放電反応以外の副反応が生じて副生成物が析出するのを抑制する。
【0005】
特許文献2は、負極集電体と、負極集電体上に形成された合金系活物質からなる負極活物質層と、負極活物質層の表面に形成された樹脂層とを備えたリチウムイオン二次電池用負極を開示している。この樹脂層は、負極活物質層の表面全面を覆うのではなく、ストライプ状などのパターンからなる開口部を備えており、開口部から負極活物質層の一部が負極表面に露出している。上述の負極によれば、リチウム吸蔵時の負極活物質層の膨張を抑制して、膨張時の応力が負極活物質層に局所的に集中するのを緩和することができる。これにより、負極活物質層にクラックが生じた場合に、合金系活物質が脱落したり、負極集電体から剥離したりするのを防止できる。
【0006】
負極活物質として合金系活物質を用いたリチウムイオン二次電池においては、さらに、帯状の負極および正極を、両電極間にセパレータを介在させて負極および正極の各長辺方向に捲回した捲回型電極群とすることが試みられている。この場合、電極構造を省スペース化して、さらなる高容量化を実現できる。特許文献3に開示の非水電解質二次電池は、上述の捲回型電極群を備えており、負極および正極はいずれも、集電体と、活物質および結着剤ポリマーを含む活物質層とを含み、負極および正極の少なくとも一方はさらに、セパレータとの間に、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのマトリックスポリマーからなる高分子支持体を備えている。この非水電解質二次電池において、高分子支持体を形成するマトリックスポリマーは、非水電解液に対する膨潤性が正極および負極の各活物質層における結着剤ポリマーより高く設定されている。このため、高分子支持体を設けることで、捲回型電極群からの非水電解液の漏洩を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−97843号公報
【特許文献2】特開2009−252547号公報
【特許文献3】特開2008−47402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、帯状の負極と帯状の正極とが両電極間にセパレータが介在するように負極および正極の各長辺方向に沿って捲回された捲回型電極群を備え、かつ、負極表面に負極の長辺方向に沿って形成された帯状の負極活物質層を備え、負極活物質層が複数の合金系活物質の柱状体からなるリチウムイオン二次電池に対して、充放電サイクルを繰り返したときには、負極活物質層の短辺方向における中央の領域において負極活物質層の厚みが顕著に増大することに気付いた。
【0009】
負極活物質層の短辺方向両端部、すなわち捲回型電極群の捲回軸方向両端部は、合金系活物質が膨張して捲回型電極群が締め付けられると、負極および正極間に存在する非水電解液が捲回型電極群の外部へと押し出される傾向がある。このため、負極活物質層の短辺方向両端部は、充放電サイクルを繰り返すと非水電解液の存在量が減少して、電極反応が円滑に進まなくなる。これに対し、負極活物質層の短辺方向中央部、すなわち捲回型電極群の捲回軸方向中央部は、合金系活物質が膨張しても捲回型電極群の内部に非水電解液が残留し、その存在量が維持される。このため、充放電時において、負極活物質層の短辺方向中央部は、両端部よりも優先的に反応して、両端部に比べて充放電容量が大きくなる。さらに、充放電サイクルを繰り返した時に、負極活物質層の短辺方向中央部は、両端部に比べて非水電解液との副反応の程度が多くなるため、活物質の体積膨張が局所的に大きくなる。こうして、負極活物質層の短辺中央部で厚みが顕著に増大するという上述の現象が起こる。
【0010】
また、負極活物質層の局所的な隆起が顕著に成長すると、負極活物質層が負極集電体から剥離して、負極集電体と合金系活物質との電気的な接続が断たれるおそれがある。このような場合には、リチウムイオン二次電池の電池容量や充放電サイクル特性が著しく低下する。
【0011】
そこで本発明は、上記課題を解決して、捲回型電極群を備え、負極活物質層が複数の合金系活物質の柱状体からなるリチウムイオン二次電池について、充放電サイクル特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一局面は、帯状の負極、帯状の正極、および帯状のセパレータを含み、負極および正極の間にセパレータが介在するように負極および正極の各長辺方向に沿って捲回された電極群と、非水電解液と、を備え、負極は、帯状の負極集電体と、負極集電体の表面に支持された合金系活物質からなる負極活物質層と、負極活物質層の表面に被着形成されたリチウムイオン伝導性樹脂膜と、を備え、リチウムイオン伝導性樹脂膜は、負極活物質層の長辺方向に沿って帯状に形成され、かつ、負極活物質層の短辺方向中央部にのみ形成されており、短辺方向中央部の幅は、負極活物質層の短辺の全幅に対して20〜50%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
【0013】
上述のリチウムイオン二次電池において、リチウムイオン伝導性樹脂膜は、ヘキサフルオロプロピレン単位を3〜20モル%の割合で含有するヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体、およびヘキサフルオロプロピレン単位を3〜20モル%の割合で含有するヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体の少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。また、リチウムイオン伝導性樹脂膜は、平均膜厚が0.1〜5μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上述のリチウムイオン二次電池によれば、負極活物質層の短辺方向中央部にのみ被着形成された帯状のリチウムイオン伝導性樹脂膜が、電極反応に対する抵抗層となる。このため、非水電解液が残留しやすい負極活物質層の短辺方向中央部において、局所的に電極反応が過剰に進行するのを抑制することができる。その結果、負極活物質層の短辺方向中央部と両端部とで電極反応の進行が不均一になるのを抑制することができ、電池の充放電サイクル特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回型電極群の概略構成を説明するための斜視図である。
【図2】図1に示す正極の断面模式図である。
【図3】負極集電体の表面構造の一例を示す平面模式図である。
【図4】図3に示す負極集電体と、その表面に支持された複数の柱状体からなる負極活物質層およびイオン伝導性樹脂膜とを示す断面模式図である。
【図5】負極活物質層を形成する装置の一例を示す正面模式図である。
【図6】実施形態に係るリチウムイオン二次電池の概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
はじめに、本発明の一実施形態であるリチウムイオン電池を形成する捲回型電極群について説明する。
図1を参照して、捲回型電極群10は、帯状の負極11と、帯状の正極12と、帯状のセパレータ13(13a,13b)とを含み、これらは、負極11と正極12との間にセパレータ13が介在するようにして、負極11および正極12の各長辺方向14に沿って捲回されている。
【0017】
図2を参照して、負極11は、帯状の負極集電体15と、負極集電体15の表面に支持された複数の合金系活物質の柱状体17からなる帯状の負極活物質層16と、負極活物質層16の表面に被着形成されたリチウムイオン伝導性樹脂膜18と、を備える。以下、本発明の実施形態における負極活物質層として、複数の合金系活物質の柱状体からなる帯状の負極活物質層を例示して説明する。但し、負極活物質層は、負極集電体の表面に支持された合金系活物質からなるものであること以外は特に限定されず、例えば負極集電体の表面に支持された、いわゆるベタ膜状の層であってもよい。また、負極活物質層の形成方法は特に限定されず、合金系活物質からなる負極活物質層の形成方法として公知の各種方法を用いることができる。
【0018】
負極集電体15としては、リチウムイオン二次電池の負極に用い得るものであれば特に限定されない。具体的には、銅箔、銅合金箔などが挙げられ、特に電解銅箔が好ましい。銅箔には、0.2モル%以下の割合で銅以外の成分を含んでいてもよい。負極集電体15の厚みは、5〜50μmの範囲で、リチウムイオン二次電池の容量、サイズなどに合わせて適宜設定することができる。
【0019】
図3を参照して、負極集電体15は、互いに間隔をあけて配置された複数の凸部19を表面に備えることが好ましい。図3に示すような凸部19を備えた負極集電体15を用いて、後述する蒸着手段により合金系活物質を負極集電体15の表面に蒸着させることにより、負極活物質層16を負極集電体15の表面に支持された複数の柱状体17で構成することができる(図4参照)。
【0020】
合金系活物質としては、ケイ素またはスズの単体、または、ケイ素またはスズを含む化合物が挙げられ、特に、ケイ素の単体またはケイ素を含む化合物が好ましい。ケイ素を含む化合物としては、ケイ素合金、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物などが挙げられる。ケイ素酸化物は、一般式:SiOx(0<x<2、好ましくは0.01≦x≦1)で表されるものが好ましく、さらにFe、Al、Ca、Mn、Tiなどの元素を含んでいてもよい。合金系活物質は、2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0021】
図4に示すような負極活物質層16は、例えば図5に示すような蒸着装置40を用いて、負極集電体15の表面に合金系活物質を蒸着することにより形成される。
図5は、蒸着装置40の構成を模式的に示す側面図である。蒸着装置40は、耐圧容器である真空容器41と、真空容器41の内部に配置される、巻出しロール42、複数の搬送ロール43、2本の成膜ロール44a、44b、巻取りロール45、マスク46a、46b、46c、2つの蒸着ソース47a、47b、2本の酸素ノズル48a、48b、および真空ポンプ49と、を含む。図5においては、真空容器41と、その内部に配置される各構成部材とを、それぞれ実線で示した。
【0022】
巻出しロール42には、帯状の負極集電体15が巻き付けられている。複数の搬送ロール43は、巻出しロール42に巻き付けられた負極集電体15を、2本の成膜ロール44a、44bをそれぞれ経由して、巻取りロール45へと搬送する。一方の成膜ロール44aは、一方の蒸着ソース47aと鉛直方向で対向するように設けられ、他方の成膜ロール44bは、他方の蒸着ソース47bと鉛直方向で対向するように設けられる。各成膜ロール44a、44bの内部には図示しない冷却装置が配置され、それぞれ成膜ロールの周面を冷却する。巻取りロール45は、図示しない駆動手段により回転駆動可能に設けられている。巻取りロール45は、負極11を巻き取って保存する。巻出しロール42から負極集電体15の長手方向の一端を図5に示す経路に従って送り出し、巻取りロール45の周面に固定する。
【0023】
各成膜ロール44a、44bの鉛直方向下方には、それぞれ3つのマスク46a、46b、46cが配置されている。第1のマスク46aは、例えば、一方の成膜ロール44aと一方の蒸着ソース47aとの間に配置されており、2つの第2のマスク46b、46cは、それぞれ第1のマスク46aに対して成膜ロール44aの周方向に離れて配置されている。3つのマスク46a、46b、46cを図5に示すように配置することで、蒸着ソース47aから負極集電体15の表面への合金系活物質の照射方向を制御することができる。具体的には、第1のマスク46aによって、負極集電体15の鉛直方向上方からの合金系活物質の照射は遮蔽されており、合金系活物質は、負極集電体15の鉛直線に対して傾斜した方向から、負極集電体15の凸部に向けて照射される。これにより、シャドウイング(遮蔽)効果が得られ、その結果、負極集電体15の凸部に対して確実に合金系活物質を蒸着させることができ、かつ、凸部以外の負極集電体表面に合金系活物質が蒸着するのを抑制できる。なお、ここでは一方の成膜ロール44aと一方の蒸着ソース47aとの間に配置されたマスク46a、46b、46cについて説明したが、他方の成膜ロール44bと他方の蒸着ソース47bとの間に配置されたマスク46a、46b、46cについても同様である。
【0024】
各蒸着ソース47a、47bには、ターゲットとしてシリコン、スズなどの合金系活物質が収容される。ターゲットを加熱することにより合金系活物質の蒸気が発生して、各成膜ロール44a、44bの露出面に向けて上昇する。ターゲットの加熱には、発熱体による加熱、電子ビーム照射による加熱などを利用できる。一方の酸素ノズル48aは、一方の成膜ロール44aと一方の蒸着ソース47aとの間に設けられ、他方の酸素ノズル48bは、他方の成膜ロール44bと他方の蒸着ソース47bとの間に設けられる。各酸素ノズル48a、48bは、それぞれ蒸着ソースで発生して成膜ローラの表面へと蒸着される合金系活物質の蒸気に対して、酸素を供給する。ケイ素またはスズのみからなる負極活物質層を形成する場合は、酸素ノズルからの酸素の供給を停止する。真空ポンプ49は、真空容器41に接続され、真空容器41の内部を真空状態(減圧状態)にする。
【0025】
図5に示す蒸着装置40において、負極集電体15が、マスク46a、46b、46cにより遮断されていない一方の成膜ロール44aの露出面を走行している時には、一方の蒸着ソース47aと対向する負極集電体15の表面に、合金系活物質の蒸気(または合金系活物質の蒸気と酸素との混合物)が蒸着されて、負極集電体15の凸部19に柱状体17が形成される(図4参照)。また、負極集電体15が、マスク46a、46b、46cにより遮断されていない他方の成膜ロール44bの露出面を走行している時には、他方の蒸着ソース47bと対向する負極集電体15の表面であって、一方の蒸着ソース47aから合金系活物質が蒸着されたのとは反対側の表面に、合金系活物質の蒸気(または合金系活物質の蒸気と酸素との混合物)が蒸着されて、負極集電体の凸部に柱状体が形成される。これにより、負極集電体15の両面に、複数の柱状体17を含む負極活物質層16を備えた負極11が得られる。
【0026】
なお、負極活物質層には、不可逆容量に相当する量のリチウムを予め吸蔵させることが好ましい。リチウムを予め吸蔵させる方法としては、例えば、負極活物質層を形成する柱状体に対して金属リチウムを蒸着させる方法が挙げられる。柱状体への金属リチウムの蒸着は、例えば、図5に示す蒸着装置40を用いて行うことができる。この場合、蒸着ソース47a、47bに収容するターゲットとして、合金系活物質に代えて金属リチウムを用いればよい。
【0027】
負極集電体15の凸部19の形状は特に限定されないが、負極集電体15の表面から凸部19の頂部までの高さは、3〜20μmが好ましく、5〜15μmがさらに好ましい。また、柱状体17の形状は特に限定されないが、凸部19の頂部から柱状体17の頂部までの高さは、5〜40μmが好ましく、10〜30μmがさらに好ましい。
【0028】
負極活物質層16の表面の一部には、後述するリチウムイオン伝導性樹脂膜18が被着形成される。なお、負極活物質層16の表面とは、負極活物質層16を形成する複数の柱状体17のそれぞれの先端部分の表面をいう。負極活物質層16には、リチウムイオン伝導性樹脂膜18の形成前に、合金系活物質の不可逆容量に相当する量のリチウムを付与させてもよい。不可逆容量とは、初回充放電時に負極活物質層16に蓄えられ、その後、負極活物質層16から放出されないリチウムの量である。リチウムの付与方法としては、特に限定されず、蒸着、スパッタなどの真空プロセスや、電気化学的ドープといった方法を採用することができる。
【0029】
リチウムイオン伝導性樹脂膜18は、負極活物質層16の長辺方向14に沿って負極活物質層16の短辺方向20の中央部にのみ形成されており、短辺方向20の両端部には形成されていない。リチウムイオン伝導性樹脂膜18の形成領域について、負極活物質層16の短辺方向20の中央部の幅は、負極活物質層16の短辺方向20の全幅に対して20〜50%であり、好ましくは、30〜50%である。リチウムイオン伝導性樹脂膜18の形成領域の短辺方向20における幅が、負極活物質層16の短辺方向20の全幅に対して20%を下回ると、負極活物質層16における電極反応が短辺方向20の中央部において過剰に進行するのを抑制できなくなる。一方、リチウムイオン伝導性樹脂膜18の形成領域の短辺方向20における幅が、負極活物質層16の短辺方向20の全幅に対して50%を上回ると、負極活物質層16における電極反応が過剰に抑制される。その結果、負極活物質層の短辺方向の両端部における反応量が局所的に増加して、電池のサイクル特性が低下する。
【0030】
リチウムイオン伝導性樹脂膜としては、例えば、フッ素樹脂などのハロゲン含有樹脂、ポリエチレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレートなどのアクリル樹脂、これらの誘導体などが用いられ、特に、樹脂膜のリチウムイオン伝導性を高める観点から、フッ素樹脂が好ましい。
【0031】
フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)などのフッ素原子含有オレフィンの重合体や、フッ素原子含有オレフィンまたはその誘導体を構成単位として含む共重合体が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンなどのホモポリマーや、VdFとHFPとの共重合体(P(VdF−HFP))、HFPとTFEとの共重合体(P(HFP−TFE)))などの共重合体が挙げられる。共重合体はフッ素原子含有モノマー同士の共重合体に限定されず、フッ素原子含有モノマーと他の共重合可能なモノマーとの共重合体であってもよい。フッ素樹脂は、リチウムイオン伝導性樹脂膜の耐電圧や化学的安定性を高める観点より、VdF、HFPおよびテトラフルオロエチレンの少なくとも1種をモノマー成分として含むことが好ましく、特に、P(VdF−HFP)やP(HFP−TFE)が好ましい。
【0032】
P(VdF−HFP)やP(HFP−TFE)に含まれるHFP単位の割合は、モノマーのモル量換算で、3〜20モル%が好ましく、5〜15モル%がさらに好ましい。HFP単位の含有割合を3〜20モル%に設定することにより、リチウムイオン伝導性樹脂膜のイオン伝導性を維持しつつ、活物質との密着性を改善することができる。
【0033】
リチウムイオン伝導性樹脂膜は、リチウムイオン伝導性樹脂膜を形成するポリマーを適当な溶媒に溶解または分散させ、こうして得られたポリマー溶液または分散液を負極活物質層の表面に塗布して、乾燥させることにより形成できる。ポリマー溶液または分散液の塗布は、例えば、スクリーン印刷、ダイコート、コンマコート、ローラコート、バーコート、グラビアコート、カーテンコート、スプレーコート、エアーナイフコート、リバースコート、ディップスクイズコート、ディップコートなどの、公知の液状物の塗布方法により実施できる。これらの塗布方法の中でも、ディップコートが好ましい。
【0034】
ポリマーの溶媒または分散媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどのアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類、ジメチルアミンなどのアミン、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの炭酸エステルなどが挙げられる。
【0035】
リチウムイオン伝導性樹脂膜は、電池の組立て後に非水電解液と接触することによって、イオン伝導性を発現する。また、上述のポリマー溶液または分散液中にリチウム塩などの支持電解質を含有させることにより、イオン伝導性樹脂膜の形成時点であらかじめイオン伝導性を発現させることができる。
【0036】
ポリマー溶液または分散液中のポリマーの含有割合は、ポリマー溶液または分散液の全量に対し、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましく、1〜10質量%が特に好ましい。ポリマーの含有割合を0.1〜20質量%に設定することにより、ポリマー溶液または分散液の粘度を適度に調整することができ、柱状体同士の間隙にポリマー溶液または分散液を入り込ませることができる。それゆえ、間隙に入り込んだポリマーによるアンカー効果を発揮させて、負極活物質層とイオン伝導性樹脂膜との密着性をより一層向上させることができる。また、このように負極活物質層とイオン伝導性樹脂膜との密着性が向上することから、万一、負極活物質層の短辺方向中央部で活物質の体積膨張が局所的に大きくなって、クラックが生じたとしても、活物質がばらばらになって負極集電体から剥離したりすることを抑制できる。
【0037】
リチウムイオン伝導性樹脂膜18は、例えば図4に示すように、少なくとも柱状体17の先端部分の表面に被着するように形成される。図4において、リチウムイオン伝導性樹脂膜18は、柱状体17の凸部19側における表面とは接触していない。また、リチウムイオン伝導性樹脂膜18と負極集電体15との間には、空隙が形成されている。しかしながら、リチウムイオン伝導性樹脂膜18は図4に示すような形態に限定されるものではなく、例えば、隣接する柱状体17間の空隙を全て埋めるように形成されていてもよい。リチウムイオン伝導性樹脂膜18と負極集電体15との間に空隙が形成される程度は、例えば、後述するリチウムイオン伝導性樹脂膜18の形成に用いるポリマー溶液または分散液の粘度によって調整することができる。ポリマー溶液または分散液の粘度が高いと、リチウムイオン伝導性樹脂膜18と負極集電体15との間の空隙が大きくなる傾向があり、ポリマー溶液または分散液の粘度が低いと、空隙が小さくなる傾向がある。
【0038】
負極活物質層は、その表面の一部にイオン伝導性樹脂膜を形成した後で、負極活物質層に対する加熱プレス処理を施してもよい。具体的には、負極集電体と負極活物質層とイオン伝導性樹脂膜との積層体を、積層方向の両側から加熱プレスすればよい。このような加熱プレスを施すことにより、合金系活物質とイオン伝導性樹脂膜との間の密着性をさらに向上させることができる。
【0039】
リチウムイオン伝導性樹脂膜の平均膜厚は特に制限されないが、0.1〜5μmが好ましく、0.5〜3μmがさらに好ましい。このような範囲では、イオン伝導性樹脂膜が負極との間でイオン伝導に対する抵抗層として有効に作用するため、負極活物質層の短辺方向において電極反応を均一化させることができる。さらに、リチウムイオン伝導性樹脂膜は、負極活物質層にクラックが生じた場合であっても、負極活物質層の新生面と非水電解液との接触や、これに伴って生じる副反応をより効果的に抑制する。
【0040】
再び図1を参照して、正極12は、帯状の正極集電体21と、正極集電体21の表面に支持された帯状の正極活物質層22と、を備える。
正極集電体21は、リチウムイオン二次電池の正極に用い得るものであれば特に限定されない。具体的には、多孔性または無孔の導電性基板が挙げられ、導電性基板の材質としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、チタンなどが挙げられる。
【0041】
正極活物質層22は、例えば、カーボンブラックなどの導電剤と、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤とを含む正極合剤スラリーを、アルミニウム箔などの正極集電体の表面に塗布して乾燥し、圧延することにより得られる。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が好ましい。リチウム含有遷移金属化合物の代表的な例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiMnO2、LiNi1-yCoy2(0<y<1)、LiNi1-y-zCoyMnz2(0<y+z<1)などが挙げられる。
【0042】
セパレータ13は、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用い得るものであれば、特に限定されない。セパレータ13としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンからなる微多孔性フィルムが挙げられる。セパレータ13の厚みは、例えば10〜30μmである。
【0043】
次に、本発明の一実施形態であるリチウムイオン電池を、図6を参照して説明する。
リチウムイオン二次電池は、円筒型、扁平型、角形など、捲回型電極群を用いる様々な形状の電池に適用可能である。捲回型電極群は、円筒型の電池ケース内に収容された場合において、活物質の体積膨張に伴って締め付けられる程度が特に強くなる。このため、負極活物質層の短辺方向中央部にのみ、長辺方向に沿った帯状のリチウムイオン伝導性樹脂膜を設ける、という本発明の構成により得られる効果は、捲回型電極群を円筒型電池に適用する場合において特に顕著に現れる。
【0044】
図6に示すリチウムイオン二次電池30は、上述の捲回型電極群10を備えている。捲回型電極群10は、図示を省略する非水電解液とともに、電池ケース31内に収容されている。電池ケース31は有底円筒型の部材であって、電池ケース31の開口端は封口板32によって封鎖されている。
【0045】
正極12は、捲回型電極群10の捲回軸方向の一端側において、正極リード33を介して、正極端子34と電気的に接続している。一方、負極11は、捲回型電極群10の捲回軸方向の他端側において、負極リード35を介して、負極端子として兼用される電池ケース31と電気的に接続している。
【0046】
リチウムイオン二次電池30は、次のようにして作製される。まず、捲回型電極群10を電池ケース31内に収容する。このとき、捲回型電極群10の捲回軸方向における一方の端部に正極側絶縁板36を装着し、他方の端部に負極側絶縁板37を装着する。また、正極12に対して正極リード33を電気的に接続させ、負極11に対して負極リード35を電気的に接続させる。次に、電池ケース31内に非水電解液を注入する。非水電解液の量は特に限定されず、リチウムイオン二次電池の分野における技術常識の範囲で適宜設定することができる。
【0047】
その後、電池ケース31の開口部近傍に、封口板32を受けるための段部を形成し、その上に封口板32を配置して、電池ケース31の開口端を封口板32の周縁部にかしめる。これにより、電池ケース31が密封されて、円筒型のリチウムイオン二次電池30を得ることができる。
【0048】
非水電解液は、非水溶媒と、これに溶解するリチウム塩とを含む。非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート類とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類との混合溶媒が挙げられる。また、γ−ブチロラクトンやジメトキシエタンなども用いられる。リチウム塩としては、無機リチウムフッ化物やリチウムイミド化合物などが挙げられる。無機リチウムフッ化物としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6などが挙げられ、リチウムイミド化合物としてはLiN(CF3SO22などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
リチウムイオン二次電池は、角形、円筒形、扁平形など、捲回型電極群を用いる様々な形状の電池に適用可能である。電池の形状は限定されないが、特に角形や円筒形が好ましい。捲回型電極群が角型または円筒型の電池ケースに収容されている場合には、捲回型電極群が可撓性のあるケースに収容されている扁平形電池に比べて、充電時の膨張により捲回型電極群が締め付けられる程度が高い。このため、正極活物質層の長辺に沿った両端部、および負極活物質層の長辺に沿った両端部の少なくとも一方に、樹脂からなる帯状の堰部を設けるという上述の実施形態を、角形電池や円筒形電池に適用することにより、負極活物質層の中央部と両端部とで電極反応の進行が不均一になるのを抑制するという効果をより一層顕著に発揮させることができる。
【実施例】
【0050】
<リチウムイオン二次電池の製造>
(実施例1)
(1)負極の作製
(1−1)負極集電板の作製
直径50mmの鍛鋼製ローラの表面に、レーザ加工により、直径10μm、深さ8μmの円形の凹部を形成することにより、凸部形成用ローラを作製した。凹部は、中心間距離がローラ表面に沿って30μmとなるように、かつ凹部の中心点が二次元三角格子状のパターンとなるように配置した。凸部形成用ローラは、同じものを2本作製して、互いのローラの軸を平行に配置することにより、一対のニップローラとした。
【0051】
一対のニップローラ間に、厚さ20μmの合金銅箔(ジルコニアを全体の0.03質量%含有する銅合金、商品名:HCL−02Z、日立電線(株)製)を通過させて、合金銅箔の表裏両面を加圧した。一対のニップローラ間にかかる荷重は、線圧1000kgf/cm(約9.8kN/cm)とした。こうして、合金銅箔の表裏両面に、高さ約6μm、直径約10μmの凸部が複数形成された負極集電体を得た。隣り合う凸部間の中心間距離は30μmであった。こうして得られた負極集電体を裁断して、幅100mmの帯状部材に成形した。凸部の形状は、走査型電子顕微鏡により確認した。
【0052】
(1−2)負極活物質層の形成
図5に示す蒸着装置40を用いて、負極集電体の表面に負極活物質層を形成した。
純度99.7%の酸素ガスを各酸素ノズル48a、48bから真空容器41内へと供給しながら、スクラップシリコン(純度99.999%)を蒸着源として電子ビーム蒸着を行った。電子ビーム蒸着時の真空容器41内部は、圧力1×10-1Pa(abs)の酸素雰囲気とした。こうして、負極集電体15の両面に、SiOx(xの平均値0.4)からなる柱状体を複数形成した。
【0053】
さらに、図5に示す蒸着装置40を用いて、負極集電体15の表面に形成された負極活物質層に対してリチウムを蒸着した。リチウムの蒸着は、蒸着源として、スクラップシリコンに代えて金属リチウムを用い、ノズルから供給されるガスとして、酸素ガスに代えてアルゴンガスを用い、さらに、電子ビーム蒸着時の真空容器41内部を1×10-1Pa(abs)のアルゴン雰囲気とした。リチウムの蒸着量は、負極活物質層の不可逆容量に相当する量であって、金属リチウムの蒸着膜をベタ膜として形成した場合の厚みで9μmとした。
【0054】
(1−3)リチウムイオン伝導性樹脂膜の形成
ヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとの共重合体(P(HFP−VDF))をジメチルカーボネートに溶解させて、P(HFP−VDF)の濃度が3質量%のポリマー溶液を調製した。P(HFP−VDF)中のヘキサフルオロプロピレン単位の含有割合は12モル%であった。得られたポリマー溶液を70℃に加熱した後、負極活物質層16の表面にディップコートにより塗布した。塗膜を5分間自然乾燥させた後、80℃に加熱してから、1時間真空乾燥させることにより、図1に示すようなリチウムイオン伝導性樹脂膜18を形成した。
【0055】
図1に示すように、リチウムイオン伝導性樹脂膜18は、負極活物質層16の短辺方向中央部にのみ形成し、短辺方向両端部には形成しなかった。リチウムイオン伝導性樹脂膜18の幅は、負極活物質層16の短辺の全幅に対して40%とした。リチウムイオン伝導性樹脂膜18の平均膜厚は2μmであった。
【0056】
こうして得られた負極を裁断して、幅34mm、全長300mmの帯状に成形した。負極の長辺方向の一端に、負極活物質層を取り除いて負極集電体を露出させた領域を設けて、この領域に負極リードを溶接した。
【0057】
(2)正極の作製
コバルト酸リチウム粉末93質量部と、アセチレンブラック4質量部とを混合した。得られた混合粉末と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液(呉羽化学工業(株)製、♯1320)とを、混合粉末とPVDFとの質量比が100:3となるように加えた後、さらに適量のNMPを加えて、正極合剤スラリーを調製した。得られたスラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面にドクターブレード法によって塗布し、85℃で乾燥させた後、全体の厚みが160μmとなるように、ローラプレス機で圧延し、幅32mm、全長280mmの帯状に成形した。こうして得られた正極の長辺方向の一端に、正極活物質層を取り除いてアルミニウム箔を露出させた領域を設け、この領域に正極リードを溶接した。
【0058】
(3)捲回型電極群の作製
セパレータとして、ポリエチレン微多孔膜(厚さ20μm、商品名:ハイポア、旭化成(株)製)を使用した。2枚のセパレータと、正極と、負極とを、正極と負極との間にセパレータが介在するようにして、負極および正極の各長辺方向に捲回することにより、捲回型電極群を得た。
【0059】
(4)非水電解液の調製
エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとの体積比1:1:1の混合溶媒に、1モル/リットルの濃度でLiPF6を溶解させることにより、非水電解液を調製した。非水電解液には、ビニレンカーボネートを3質量%の割合で含有させた。
【0060】
(5)リチウムイオン二次電池の作製
上述の捲回型電極群を用いて、リチウムイオン二次電池を組み立てた。電池ケースはアルミニウム製で、厚さ約80μmの底部および側壁を備え、上部が開口した角型の部材であった。電池ケース内に注入した非水電解液の量は2.5gであった。得られたリチウムイオン二次電池は、幅34mm、高さ50mm、厚さ4.5mmの角型であった。電池の設計容量は850mAhであった。
【0061】
(実施例2および3)
樹脂膜の短辺方向中央部の幅を、負極活物質層の短辺の全幅に対して20%とするか(実施例2)、または50%とした(実施例3)こと以外は、実施例1と同様にして負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。
【0062】
(実施例4および5)
ポリマー溶液の塗布量を変えることにより、樹脂膜の平均膜厚を0.1μmとするか(実施例4)、または5μmとした(実施例5)こと以外は、実施例1と同様にして負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。
【0063】
(実施例6)
ポリマー溶液の塗布量を変えることにより、樹脂膜の平均膜厚を8μmとした(実施例6)こと以外は、実施例1と同様にして負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。
【0064】
(比較例1)
リチウムイオン伝導性樹脂膜を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。
【0065】
(比較例2および3)
樹脂膜の短辺方向中央部の幅を、負極活物質層の短辺の全幅に対して10%とするか(比較例2)、または80%とした(比較例3)こと以外は、実施例1と同様にして負極およびリチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
<リチウムイオン二次電池の評価>
実施例1〜6および比較例1〜3で得られたリチウムイオン二次電池について、サイクル特性を評価し、負極活物質層の膨れ量を測定した。
【0067】
(1)サイクル特性
上述のリチウムイオン二次電池について、20℃環境下で、以下の条件で、充放電を300サイクル繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の割合(容量維持率)を百分率で求めた。
サイクル試験条件
定電流充電:充電電流値595mA、充電終止電圧4.2V
定電圧充電:充電電圧値4.2V、充電終止電流42.5mA
定電流放電:放電電流値850mA、放電終止電圧2.5V
【0068】
(2)電池の膨れの評価
300サイクル目の充電を行った電池を分解して、負極活物質層の短辺方向中央部と端部の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。断面のSEM画像に基づいて、リチウムイオン伝導性樹脂膜を除いた負極の厚み(負極集電体と、負極集電体の両面に形成された負極活物質層との厚みの合計)を求めた。こうして得られた負極の厚みと、負極活物質層の形成時に求めた負極の厚みとから、20℃での充放電サイクル経過後の負極の厚みの変化(膨れ)量[mm]を求めた。
以上の結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
負極活物質層の短辺方向中央部のみにリチウムイオン伝導性樹脂膜を形成した実施例1〜6によれば、充放電を300サイクル繰り返しても、短辺方向の中央部における負極活物質層の厚みの増加を抑制できた。なかでも、リチウムイオン伝導性樹脂膜の厚みが0.1〜5μmである実施例1〜5は、充放電300サイクル経過後の容量維持率が特に良好であった。一方、比較例1のように、リチウムイオン伝導性樹脂膜を形成しない場合は、短辺方向の中央部における負極活物質層の厚みの増加を抑制できなかった。
【0071】
また、負極活物質層の短辺方向中央部において、リチウムイオン伝導性樹脂膜の形成領域が狭すぎる比較例2では、負極活物質層の電極反応が中央部において過剰に進行するのを十分に抑制することができなかった。このため、中央部における負極活物質層の厚みの増加を抑制できず、サイクル特性も低下した。負極活物質層の短辺方向中央部においてリチウムイオン伝導性樹脂膜の形成領域が広すぎる比較例3では、負極活物質層における電極反応が過剰に抑制されたため、両端部における電極反応が相対的に過剰に進行した。その結果、両端部において負極活物質層の厚みが増加し、サイクル特性も低下した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、携帯電話、PDA、ノート型パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、携帯ゲーム機などの携帯型電子機器の電源として有用である。また、ハイブリッド自動車などの車載用電源、無停電電源などの用途にも応用することができる。
【符号の説明】
【0073】
10 捲回型電極群、 11 負極、 12 正極、 13(13a、13b) セパレータ、 14 長辺方向、 15 負極集電体、 16 負極活物質層、 17 柱状体、 18 リチウムイオン伝導性樹脂膜、 19 凸部、 20 短辺方向、 21 正極集電体、 22 正極活物質層、 30 リチウムイオン二次電池、 31 電池ケース、 32 封口板、 33 正極リード、 34 正極端子、 35 負極リード、 36 正極側絶縁板、 37 負極側絶縁板、 40 蒸着装置、 41 真空容器、 42 巻出しロール、 43 搬送ロール、 44a 成膜ロール、 44b 成膜ロール、 45 巻取りロール、 46a 第1のマスク、 46b 第2のマスク、 46c 第2のマスク、 47a 蒸着ソース、 47b 蒸着ソース、 48a 酸素ノズル、 48b 酸素ノズル、 49 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の負極、帯状の正極、および帯状のセパレータを含み、前記負極および前記正極の間に前記セパレータが介在するように前記負極および前記正極の各長辺方向に沿って捲回された電極群と、非水電解液と、を備え、
前記負極は、帯状の負極集電体と、前記負極集電体の表面に支持された合金系活物質からなる負極活物質層と、前記負極活物質層の表面に被着形成されたリチウムイオン伝導性樹脂膜と、を備え、
前記リチウムイオン伝導性樹脂膜は、前記負極活物質層の長辺方向に沿って帯状に形成され、かつ、前記負極活物質層の短辺方向中央部にのみ形成されており、
前記短辺方向中央部の幅は、前記負極活物質層の短辺の全幅に対して20〜50%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウムイオン伝導性樹脂膜が、ヘキサフルオロプロピレン単位を3〜20モル%の割合で含有するヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体、およびヘキサフルオロプロピレン単位を3〜20モル%の割合で含有するヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体の少なくとも1種の樹脂を含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導性樹脂膜の平均膜厚が0.1〜5μmである請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−169071(P2012−169071A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27419(P2011−27419)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】