説明

リチウムイオン二次電池

【課題】自身の内部抵抗の上昇を抑制することができるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池1の電極体40は、正極集電部材11の表面上に塗工された正極合材層13を有する正極10、負極集電部材21の表面上に塗工された負極合材層23を有する負極20、及び、セパレータ30を備える。さらに、電極体40は、正極合材層13の端部上、正極集電部材11の表面上であって正極合材層13の端部に隣り合う位置、負極合材層23の端部上、及び、負極集電部材21の表面上であって負極合材層23の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに、電池1の充電時に膨張する膨張材17を含む膨張合材層15,16が塗工されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯機器の電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として注目されている。リチウムイオン二次電池は、正極集電部材(正極集電箔)の表面上に塗工された正極合材層を有する正極、負極集電部材(負極集電箔)の表面上に塗工された負極合材層を有する負極、及び、セパレータを備える電極体と、電解液と、電極体及び電解液を収容する電池ケースとを有している(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1,2では、電極体として、正極、負極、及び、セパレータを、軸線の周りに捲回してなる捲回型電極体を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−160981号公報
【特許文献2】特開平9−92339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リチウムイオン二次電池では、充放電に伴って、電極体内において、電解液のLiイオン濃度に偏り(ムラ)が生じることがあった。特に、ハイレートの充放電を繰り返し行った場合、電極体内における電解液のLiイオン濃度の偏り(ムラ)が大きくなる傾向にあった。このような現象は、以下のような理由によって生じると考えられる。
【0005】
リチウムイオン二次電池の充電時には、負極合材層の負極活物質の空間にLiが挿入されることに伴って、負極合材層が膨張すると共に、電極体内の空間(電解液を収容する空間)が減少することにより、電極体内から電解液が外部に押し出される。詳細には、電極体内のうち軸線方向端部に含まれている電解液が、電極体の軸線方向端部から電極体外部に流出する。この流出電解液のLiイオン濃度は、初期の電解液(初期状態から電極体内に含まれることなく電池ケース内に収容されている余剰電解液)のLiイオン濃度とは異なる傾向にある。特に、ハイレート充電の場合、流出電解液のLiイオン濃度が余剰電解液のLiイオン濃度と大きく異なる傾向にある。
【0006】
流出電解液は、余剰電解液に混合し、これによって、余剰電解液のLiイオン濃度が変動する。一方、リチウムイオン二次電池の放電時には、負極合材層の負極活物質の空間に挿入されていたLiが脱離することに伴って、負極合材層が収縮すると共に、電極体内の空間(電解液を収容する空間)が復元することにより、流出電解液と混合した余剰電解液が電極体内部(詳細には、電極体内のうち軸線方向端部)に戻るようになる。このとき、電極体の軸線方向端部内に戻る電解液(流出電解液と混合した余剰電解液)のLiイオン濃度は、流出電解液のLiイオン濃度と異なる傾向にある。このため、電極体の軸線方向端部と中央部とで、電解液のLiイオン濃度に差が生じると考えている。
【0007】
従って、充放電を繰り返し行うと、特に、ハイレートの充放電を繰り返し行うと、上述の現象が繰り返し行われ、その結果、電極体内において電解液のLiイオン濃度の偏り(ムラ)が大きくなることがあった。これが原因で、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が大きく上昇してしまうことがあった。
【0008】
これに対し、特許文献1には、リチウムイオン二次電池の両側に位置固定された押圧部材を配置し、押圧部材とリチウムイオン二次電池との間にピエゾ素子を配置した電池システムが開示されている。この電池システムでは、リチウムイオン二次電池の充放電に伴う電極体の膨張収縮に応じて、ピエゾ素子の厚み寸法を増減させて、押圧部材によるリチウムイオン二次電池への押圧力を一定に保つように制御する。これにより、リチウムイオン二次電池の充電時に、電極体内の電解液が外部に流出するのを抑制する。このような制御によれば、上述のような、流出電解液と混合した余剰電解液(濃度変化した電解液)が電極体内部(詳細には、電極体の端部)に戻ることによって、電極体の端部と中央部とで電解液のLiイオン濃度に差が生じる現象を抑制することができると考えられる。
【0009】
しかしながら、特許文献1のシステムでは、ピエゾ素子を作動させるために大きなエネルギーが必要であり、さらには、リチウムイオン二次電池の充放電時には、常に、制御回路によって、電極体の膨張収縮に応じてピエゾ素子の寸法増減の制御を行う必要があるため、システムとして効率が悪かった。さらに、押圧部材、ピエゾ素子、ピエゾ素子を作動させるための高圧電源や高圧ハーネスなどが必要なため、システムが大型であった。
【0010】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、自身の内部抵抗の上昇を抑制することができるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、正極集電部材の表面上に塗工された正極合材層を有する正極、負極集電部材の表面上に塗工された負極合材層を有する負極、及び、セパレータ、を備える電極体と、電解液と、上記電極体及び上記電解液を収容する電池ケースと、を有するリチウムイオン二次電池であって、上記電極体は、上記正極合材層の端部上、上記正極集電部材の表面上であって上記正極合材層の端部に隣り合う位置、上記負極合材層の端部上、及び、上記負極集電部材の表面上であって上記負極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに、上記電池の充電時に膨張する膨張材を含む膨張合材層が塗工されてなるリチウムイオン二次電池である。
【0012】
上述のリチウムイオン二次電池の電極体では、正極合材層の端部上、正極集電部材の表面上であって正極合材層の端部に隣り合う位置、負極合材層の端部上、及び、負極集電部材の表面上であって負極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに、電池の充電時に膨張する膨張材を含む膨張合材層が塗工されている。このため、上述のリチウムイオン二次電池の充電時には、膨張材が膨張する(これによって、正極、負極、及びセパレータの厚み方向に膨張合材層が拡大する)ことにより、正極合材層、負極合材層、及びセパレータの端部やその近傍(すなわち電極体の端部)に圧力をかけることができ(詳細には、正極、負極、及びセパレータの厚み方向に圧力をかける)、その結果、正極合材層、負極合材層、及びセパレータの端部やその近傍(すなわち電極体の端部)を封止することができる。
【0013】
従って、上述のリチウムイオン二次電池では、リチウムイオン二次電池の充電時に、電極体内の電解液が外部に流出するのを抑制することができる。これにより、前述のような、流出電解液と混合した余剰電解液(濃度変化した電解液)が電極体内部(詳細には、電極体の端部)に戻ることによって、電極体の端部と中央部とで電解液のLiイオン濃度に差が生じる現象を抑制することができる。従って、上述のリチウムイオン二次電池では、電極体内において電解液のLiイオン濃度に偏り(ムラ)が生じるのを抑制することができ、ひいては、リチウムイオン二次電池の内部抵抗上昇を抑制することができる。
なお、膨張合材層は、例えば、膨張材と結着剤とを混合して層状にしたものである。
【0014】
このように、上述のリチウムイオン二次電池では、特許文献1のシステムと異なり、ピエゾ素子や押圧部材などを用いることなく、効率良く、リチウムイオン二次電池の充電時に電極体内の電解液が外部に流出するのを抑制することができる。また、電極体内の電解液流出抑制のために、押圧部材、ピエゾ素子、高圧電源、高圧ハーネスなどを必要としないため(リチウムイオン二次電池自身で電極体内の電解液流出を抑制できるので)、特許文献1のような大型なシステムも不要となる。
【0015】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池であって、前記膨張材は、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内の炭素材料であるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0016】
上述のリチウムイオン二次電池では、膨張材として、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内の炭素材料を用いる。このような炭素材料は、リチウムイオン二次電池の充電時に膨張する特性を有している。このため、上述のリチウムイオン二次電池では、充電時に、膨張材(膨張合材層)の膨張により、正極合材層、負極合材層、及びセパレータの端部やその近傍(すなわち電極体の端部)を適切に封止して、電極体内から電解液が外部に流出するのを抑制することができる。
【0017】
なお、炭素層間距離は、XRDによりd002面のピーク位置から求められる炭素層間距離d002の値である。
【0018】
また、前記炭素材料を正極に配置した場合、すなわち、前記炭素材料を含む膨張合材層を正極合材層の端部上、及び、正極集電部材の表面上であって正極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに塗工した場合、電池の充電時に、電解液中の陰イオン(例えば、PF6-)が炭素材料の層間に吸着することで、炭素材料が膨張する。
一方、前記炭素材料を負極に配置した場合、すなわち、前記炭素材料を含む膨張合材層を負極合材層の端部上、及び、負極集電部材の表面上であって負極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに塗工した場合は、電解液中の陽イオン(Li+)が炭素材料の層間に吸着することで、炭素材料が膨張する。
【0019】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池であって、前記電極体は、前記正極合材層の端部上、及び、前記正極集電部材の表面上であって上記正極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに、前記炭素材料を含む前記膨張合材層が塗工されてなるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0020】
前記炭素材料を負極に配置した場合、すなわち、前記炭素材料を含む膨張合材層を負極合材層の端部上、及び、負極集電部材の表面上であって負極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに塗工した場合、炭素材料の表面にSEIの被膜が生成する反応によってLiが消費され、消費されたLiの分だけ、電池容量が低下してしまう。電池容量の低下は、電池にとって好ましいことではない。
【0021】
これに対し、上述のリチウムイオン二次電池では、正極合材層の端部上、及び、正極集電部材の表面上であって正極合材層の端部に隣り合う位置の少なくともいずれかに膨張合材層を塗工している、すなわち、正極に前記炭素材料を含む膨張合材層を塗工しているので、前記炭素材料の表面にSEIの被膜が生成することがない。従って、前記炭素材料の表面にSEIの被膜が生成することに伴って電池容量が低下することがない。
【0022】
なお、膨張合材層を負極に塗工する場合、膨張材として、スズ(Sn)、酸化スズ(SnO、SnO2)、リチウム酸化スズ(Li2SnO3)、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO)などを用いることもできる。これらの膨張材を用いた場合は、これらの結晶中
に電解液中の陽イオン(Li+)が吸着することで、膨張材が膨張することになる。
【0023】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、前記膨張合材層の塗工面積は、前記正極合材層の端部上に当該膨張合材層が塗工されている場合は、当該正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内であり、前記正極集電部材の表面上であって前記正極合材層の端部に隣り合う位置に当該膨張合材層が塗工されている場合は、当該正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内であり、前記負極合材層の端部上に当該膨張合材層が塗工されている場合は、当該負極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内であり、前記負極集電部材の表面上であって前記負極合材層の端部に隣り合う位置に当該膨張合材層が塗工されている場合は、当該負極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内であるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0024】
上述のような割合で膨張合材層を塗工することで、電池の充電時に、膨張材(膨張合材層)の膨張により、電極体内から電解液が外部に流出するのを適切に抑制することができる。従って、上述のリチウムイオン二次電池では、電池の内部抵抗上昇を抑制することができる。
【0025】
なお、膨張合材層の塗工面積が「当該正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内」とは、正極合材層が正極集電部材(例えば、正極集電箔)の両面に塗工されている場合において、片面(1層)の正極合材層の端部上にのみ膨張合材層が塗工されている場合は、膨張合材層が塗工されている片面(1層)の正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内ということである。また、両面(2層)の正極合材層の端部上に膨張合材層が塗工されている場合は、それぞれの膨張合材層について、塗工されているそれぞれの正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内ということになる。負極合材層の場合についても同様である。すなわち、膨張合材層が塗工されている正極合材層(または負極合材層)にのみ着目して、当該正極合材層(または負極合材層)の塗工面積の10〜60%の範囲内ということである。
【0026】
また、正極合材層が正極集電部材(例えば、正極集電箔)の両面に塗工されている場合において、正極集電部材の片面上の正極合材層の端部に隣り合う位置にのみ膨張合材層が塗工されている場合も、膨張合材層が塗工されている片面に位置する1層の正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内ということである。また、正極集電部材の両面上の正極合材層(2層の正極合材層)の端部に隣り合う位置に膨張合材層が塗工されている場合は、それぞれの膨張合材層について、塗工されているそれぞれの正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内ということになる。負極合材層の場合についても同様である。すなわち、膨張合材層が塗工されている正極集電部材(または負極集電部材)の面にのみ着目して、当該面上に位置する正極合材層(または負極合材層)の塗工面積の10〜60%の範囲内ということである。
【0027】
さらに、上記いずれかのリチウムイオン二次電池であって、前記電極体は、前記正極、前記負極、及び、前記セパレータを、軸線の周りに捲回してなる捲回型電極体であり、前記膨張合材層が、前記正極合材層のうち軸線方向にかかる両端部上、前記正極集電部材の表面上であって、上記軸線方向について上記正極合材層の両端部に隣り合う位置、前記負極合材層のうち上記軸線方向にかかる両端部上、及び、前記負極集電部材の表面上であって、上記軸線方向について上記負極合材層の両端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに塗工されてなるリチウムイオン二次電池とすると良い。
【0028】
捲回型電極体を有する従来(例えば、特許文献2)のリチウムイオン二次電池では、電池充電時に、電極体の軸線方向両端部から、電極体内の電解液が電極体外部に流出する虞があった。
【0029】
これに対し、上述のリチウムイオン二次電池のように、膨張合材層を、上述の4カ所の少なくともいずれかの位置に塗工することで、電池充電時に、膨張材(膨張合材層)の膨張により、電極体の軸線方向両端部を封止することができる。従って、上述のリチウムイオン二次電池では、電極体内から電解液が外部に流出するのを抑制して、リチウムイオン二次電池の内部抵抗上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の断面図である。
【図2】同二次電池の正極の断面図である。
【図3】同二次電池の負極の断面図である。
【図4】膨張合材層(膨張材)の作用を説明する図であり、図1の部分拡大図に相当する。
【図5】充放電サイクル数と電池内部抵抗の上昇率との関係を示すグラフである。
【図6】膨張合材層の塗工面積率と電池内部抵抗の上昇率との関係を示すグラフである。
【図7】他の形態にかかる正極の断面図である。
【図8】他の形態にかかる負極の断面図である。
【図9】他の形態にかかる負極の断面図である。
【図10】従来のリチウムイオン二次電池において、充電時に電極体内から電解液が流出する現象を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、図1に示すように、円筒型のリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池1は、捲回型電極体40と、電解液(図示省略)と、捲回型電極体40及び電解液を収容する電池ケース60とを有する。
【0032】
電池ケース60は、円筒型の電池ケースであり、金属板に絞り加工を行って有底筒状に成形した金属製の電池缶61と、円盤状をなす金属製の電池蓋62とを有する(図1参照)。電池蓋62は、電気絶縁性樹脂からなる円環状のガスケット69を電池缶61との間に介在させた状態で、電池缶61の開口部61bでかしめられて、電池缶61を封口している。これにより、電池缶61と電池蓋62との間をガスケット69により電気的に絶縁しつつ、捲回型電極体40を収容した電池缶61と電池蓋62とが一体とされて、電池ケース60をなしている。
【0033】
捲回型電極体40は、正極10と負極20とセパレータ30とを、捲回軸45(軸線AX)の周りに捲回した円筒形状の捲回型電極体である。
【0034】
正極10は、正極集電部材11と、その表面(両面)に塗工された正極合材層13とを有している(図2参照)。詳細には、正極合材層13として、正極集電部材11の第1面11bに塗工されている第1正極合材層13bと、正極集電部材11の第2面11cに塗工されている第2正極合材層13cを有している。
【0035】
本実施形態では、正極集電部材11として、アルミニウム箔を用いている。また、正極合材層13は、正極活物質、導電材、バインダにより構成されている。本実施形態では、正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/32を用いている。また、導電材として、アセチレンブラックを用いている。また、バインダとして、PVdFを用いている。
【0036】
また、本実施形態の正極10は、第2正極合材層13cの軸線AX方向(軸線AXに沿った方向、図2において左右方向)かかる両端部上に、膨張合材層15,16が塗工されている。詳細には、膨張合材層15,16は、第2正極合材層13cの長手方向(図2において紙面に直交する方向)の全体にわたって、軸線AX方向にかかる第2正極合材層13cの両端部(図2において左右端部)に配置されている。
【0037】
膨張合材層15,16は、膨張材17と結着剤とにより構成されている。膨張材17は、リチウムイオン二次電池1の充電時に膨張する特性を有している。本実施形態では、膨張材17として、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距
離が0.36〜0.38nmの範囲内の炭素材料を用いてる。このような炭素材料は、リチウムイオン二次電池1の充電時に膨張する特性を有している。なお、炭素層間距離は、XRDによりd002面のピーク位置から求められる炭素層間距離d002の値である。
【0038】
負極20は、負極集電部材21と、その表面(両面)に塗工された負極合材層23とを有している(図3参照)。詳細には、負極合材層23として、負極集電部材21の第1面21bに塗工されている第1負極合材層23bと、負極集電部材21の第2面21cに塗工されている第2負極合材層23cを有している。
【0039】
本実施形態では、負極集電部材21として、銅箔を用いている。また、負極合材層23は、負極活物質、バインダ、増粘剤により構成されている。本実施形態では、負極活物質として、アモルファスコートグラファイトを用いてる。また、バインダとして、SBRを用いている。また、増粘剤として、CMCを用いている。
【0040】
また、本実施形態では、電解液として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを混合した有機溶媒に、溶質としてLiPF6を添加した非水電解液を用いている。なお、電解液中のLiPF6の濃度は、1.0mol/Lとしている。
【0041】
また、捲回型電極体40の正極合材層未塗工部10b(正極10のうち正極合材層13が塗工されていない部位)は、その端面において、略十字形状の金属板からなる正極集電板71に溶接されている(図1参照)。さらに、正極集電板71は、帯状の金属薄板からなる接続部材53を通じて、電池蓋62に電気的に接続されている。これにより、本実施形態の電池1では、電池蓋62が正極外部端子となる。なお、電池蓋62と正極集電板71との間には、電気絶縁性の樹脂板56を介在させている。
【0042】
また、捲回型電極体40の負極合材層未塗工部20b(負極20のうち負極合材層23が塗工されていない部位)は、その端面において、略円板状の金属板からなる負極集電板72に溶接されている(図1参照)。さらに、負極集電板72は、電池缶61の底部61kに溶接されている。これにより、本実施形態の電池1では、電池缶61の底部61kが負極外部端子となる。
【0043】
ところで、従来(例えば、特許文献2)のリチウムイオン二次電池の充電時には、図10に示すように、負極合材層523の負極活物質の空間にLiが挿入されることに伴って、負極合材層523が膨張すると共に、電極体540内の空間(電解液ESを収容する空間)が減少することにより、電極体540内から電解液ESが外部に押し出されることがあった。詳細には、図10に矢印で示すように、電極体540内のうち軸線方向端部(図10において左右端部)に含まれている電解液ESが、電極体540の軸線方向端部から電極体外部に流出する。この流出した電解液ESのLiイオン濃度は、電極体540内に含まれることなく電池ケース内に収容されている余剰電解液のLiイオン濃度とは異なる傾向にある。特に、ハイレート充電の場合、流出電解液のLiイオン濃度が余剰電解液のLiイオン濃度と大きく異なる傾向にある。
【0044】
流出電解液は、余剰電解液に混合し、これによって、余剰電解液のLiイオン濃度が変動する。一方、リチウムイオン二次電池の放電時には、負極合材層523の負極活物質の空間に挿入されていたLiが脱離することに伴って、負極合材層523が収縮すると共に、電極体540内の空間(電解液を収容する空間)が復元することにより、流出電解液と混合した余剰電解液が電極体540の内部(詳細には、電極体540内のうち軸線方向端部)に戻るようになる。このとき、電極体540の軸線方向端部内に戻る電解液(流出電解液と混合した余剰電解液)のLiイオン濃度は、流出電解液のLiイオン濃度と異なる傾向にある。このため、電極体540の軸線方向端部と中央部とで、電解液のLiイオン濃度に差が生じる。
【0045】
従って、充放電を繰り返し行うと、特に、ハイレートの充放電を繰り返し行うと、上述の現象が繰り返し行われ、その結果、電極体540内において電解液ESのLiイオン濃度の偏り(ムラ)が大きくなることがあった。これが原因で、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が大きく上昇してしまうことがあった。
【0046】
これに対し、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、前述のように、第2正極合材層13cのうち軸線AX方向かかる両端部(図2及び図4において左右端部)上に、膨張合材層15,16を塗工している。詳細には、膨張合材層15,16を、第2正極合材層13cの長手方向(図2及び図4において紙面に直交する方向)の全体にわたって、軸線AX方向にかかる第2正極合材層13cの両端部に配置している。膨張合材層15,16に含まれている膨張材17(炭素材料)は、リチウムイオン二次電池1の充電時に膨張する特性を有している。
【0047】
このため、図4に矢印で示すように、リチウムイオン二次電池1では、充電時に、膨張材17(膨張合材層15,16)が膨張することにより、正極合材層13(第1正極合材層13b及び第2正極合材層13c)、負極合材層23(第1負極合材層23b及び第2負極合材層23c)、及びセパレータ30の軸線方向両端部(図4において左右端部、すなわち捲回型電極体40の軸線方向両端部)に対し、正極10、負極20、及びセパレータ30の厚み方向(図4において上下方向)に圧力Pをかけることができる。これにより、正極合材層13(第1正極合材層13b及び第2正極合材層13c)、負極合材層23(第1負極合材層23b及び第2負極合材層23c)、及びセパレータ30の両端部(すなわち捲回型電極体40の両端部)を封止することができる。
【0048】
従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、充電時に、捲回型電極体40内の電解液ESが外部に流出するのを抑制することができる。これにより、前述のような、流出電解液と混合した余剰電解液(濃度変化した電解液)が電極体内部(詳細には、電極体の端部)に戻ることによって、電極体の端部と中央部とで電解液のLiイオン濃度に差が生じる現象を抑制することができる。従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、捲回型電極体40内において電解液ESのLiイオン濃度に偏り(ムラ)が生じるのを抑制することができ、ひいては、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗上昇を抑制することができる。
【0049】
次に、実施形態にかかるリチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。
まず、正極10を作製する。具体的には、正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)と導電材(アセチレンブラック)とバインダ(PVdF)と溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)とを混合して、スラリー状の正極合材を得た。次いで、この正極合材スラリーを、厚み15μmの正極集電部材11(アルミニウム箔)の両面(第1面11bと第2面11c)に塗布し、乾燥させて、正極合材層13(第1正極合材層13bと第2正極合材層13c)とした。
【0050】
また、膨張材17と結着剤(PVdF)と溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)とを混合して、スラリー状の膨張合材を得た。次いで、この膨張合材スラリーを、第2正極合材層13cのうち軸線AX方向(図2において左右方向)かかる両端部上に塗工し、乾燥させた。その後、ロールプレスで圧延して、正極10を得た。
【0051】
なお、膨張合材スラリーは、第2正極合材層13cの長手方向(図2において紙面に直交する方向)の全体にわたって、軸線AX方向にかかる第2正極合材層13cの両端部(図2において左右端部)上に塗工している。また、本実施形態では、膨張材17として、比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内(例えば、200m2/g)で、且つ、炭素層間距離d002 が0.36〜0.38nmの範囲内(例えば、0.37nm)の炭素材料を用いてる。
【0052】
また、負極20を作製した。具体的には、負極活物質(アモルファスコートグラファイト)とバインダ(SBR)と増粘剤(CMC)と溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)とを混合して、スラリー状の負極合材を得た。次いで、この負極合材スラリーを、厚み10μmの負極集電箔21(銅箔)の両面(第1面21bと第2面21c)に塗布し、乾燥させて、負極合材層23(第1負極合材層23bと第2負極合材層23c)とした。その後、ロールプレスで圧延して、負極20を得た。
【0053】
次に、円筒状の捲回軸45の周りに、セパレータ30、正極10、セパレータ30、負極20、及びセパレータ30を、この順で捲回して、円筒形状の捲回型電極体40を形成する。その後、捲回型電極体40の外周を、電気絶縁性の樹脂フィルム68で被覆する。
【0054】
その後、捲回型電極体40の正極合材層未塗工部10b(正極10のうち正極合材層13が塗工されていない部位)の端面に、略十字形状の金属板からなる正極集電板71を溶接する。さらに、捲回型電極体40の負極合材層未塗工部20b(負極20のうち負極合材層23が塗工されていない部位)の端面に、略円板状の金属板からなる負極集電板72を溶接する。さらに、正極集電板71に、接続部材53を溶接する。
【0055】
次に、正極集電板71及び負極集電板72を溶接した捲回型電極体40を、電池缶61の開口部61bを通じて、電池缶61の内部に収容(挿入)する。その後、負極集電板72を電池缶61の底部61kに溶接する。これにより、電池缶61の底部61kが負極外部端子となる。次いで、電池缶61の全周にわたってビード61gを形成した後、電池缶61の内部に電解液を注入する。なお、電解液の一部は捲回型電極体40の内部に取り込まれ、残りは余剰電解液として電池缶61内(捲回型電極体40の外部)に収容される。
【0056】
次いで、電池缶61の開口部61bに、ガスケット69を介して電池蓋62を組み付ける。なお、電池缶61の開口部61b内に電池蓋62を組み付ける際、電池蓋62に接続部材53を溶接する。これにより、正極集電板71と電池蓋62とが接続部材53を通じて電気的に接続されるので、電池蓋62が正極外部端子となる。
【0057】
その後、電池缶61の開口部61bに対しカシメ加工を行って、電池蓋62により電池缶61を封口する。このとき、電池缶61と電池蓋62との間をガスケット69により電気的に絶縁しつつ、電池缶61と電池蓋62とを一体とした電池ケース60が形成される。その後、上記のようにして組み立てた電池について、初期充放電、エージングなどの処理を行って、実施形態にかかるリチウムイオン二次電池1が完成する。
【0058】
(実施例1)
実施例1のリチウムイオン二次電池1では、膨張材17として、比表面積が200m2/gで、且つ、炭素層間距離d002 が0.37nmの炭素材料を用いた。また、膨張合材層15,16の塗工面積を、第2正極合材層13cの塗工面積の10〜60%の範囲内(詳細には、20%)とした。ここで、第2正極合材層13cの塗工面積とは、正極集電部材11の第2面11cのうち、第2正極合材層13cが塗工されている部分の面積である。膨張合材層15,16の塗工面積とは、第2正極合材層13cの表面13dうち、膨張合材層15,16が塗工されている部分の面積である(図2参照)。
【0059】
(サイクル充放電試験)
次に、実施例1のリチウムイオン二次電池1についてサイクル充放電試験を行い。電池内部抵抗の上昇率を調査した。
また、比較例1のリチウムイオン二次電池として、実施例1のリチウムイオン二次電池1と比較して、膨張合材層15,16を有しない点のみが異なる電池を用意した。この比較例1の電池についても、実施例1の電池と同様にサイクル充放電を行い、電池内部抵抗の上昇率を調査した。
【0060】
まず、実施例1の電池1及び比較例1の電池について、それぞれ、25℃の温度環境下で、パルス充放電サイクルを行った。具体的には、3.0Vの電池電圧値が4.1Vになるまで、10Cの一定電流値で充電を行う。その後、4.1Vの電池電圧値が3.0Vになるまで、10Cの一定電流値で放電を行う。このパルス充放電を1サイクルとして、各電池について9900サイクルのパルス充放電を行った。
【0061】
なお、このサイクル充放電試験では、サイクル充放電を開始する時、及び、サイクル充放電開始から300サイクル経過する毎に、各電池の内部抵抗を測定した。具体的には、各電池をSOC60%に調整した後、1C(放電電流値I)の定電流で10秒間放電させて、この放電期間の電池電圧低下量ΔVを測定する。測定した電池電圧低下量ΔVを放電電流値Iで除して得た値を、各電池の内部抵抗値R(=ΔV/I)とした。これらの結果を図5に示す。
【0062】
なお、図5では、サイクル充放電開始から300サイクル毎に測定した内部抵抗を、サイクル充放電を開始する時(サイクル数0回)の内部抵抗値を基準にした上昇率(%)として示している。例えば、上昇率が20%であるということは、電池の内部抵抗がサイクル充放電の開始時から20%上昇したということである。すなわち、サイクル充放電によって内部抵抗が20%上昇したということである。また、図5では、実施例1の電池のデータを○(白丸)で表し、比較例1の電池のデータを●(黒丸)で表している。
【0063】
図5に示すように、実施例1の電池及び比較例1の電池は、共に、4500サイクルまでは内部抵抗の上昇が小さい。ところが、4500サイクル以降では、比較例1の電池は内部抵抗が急激に上昇する。一方、実施例1の電池は、4500サイクル以降でも、しばらくは内部抵抗の上昇はほとんどなく、6000サイクル以降になって内部抵抗が上昇し始める。しかしながら、その上昇率は、比較例1の電池に比べて遙かに小さい。
【0064】
実施例1の電池と比較例1の電池とは、膨張合材層15,16を有しているか否かのみが異なり、その他については同様とされている。従って、サイクル充放電試験の結果より、実施例1の電池では、第2正極合材層13cの軸線AX方向かかる両端部上に膨張合材層15,16を塗工したことにより、内部抵抗上昇を抑制することができたといえる。
【0065】
その理由は、前述したように、実施例1の電池1では、充電時に、膨張合材層15,16が膨張することによって捲回型電極体40の軸線方向両端部を加圧することで封止し、これによって、捲回型電極体40内の電解液ESが外部に流出するのを抑制することができたためであると考えられる。その結果、捲回型電極体40内において電解液ESのLiイオン濃度に偏り(ムラ)が生じるのを抑制することができ、ひいては、電池1の内部抵抗上昇を抑制することができたと考えられる。
【0066】
次に、膨張合材層15,16の塗工面積率について、好ましい範囲を調査した。具体的には、第2正極合材層13cの塗工面積に対する膨張合材層15,16の塗工面積の比率(この比率を、膨張合材層の塗工面積率という)を異ならせた6種類の電池(サンプル電池A〜F)を用意し、これらのサンプル電池について、前述のサイクル充放電試験を行った。そして、各サンプル電池について、9900サイクル後の内部抵抗値を測定した。なお、内部抵抗値の測定方法は前述の通りである。
【0067】
測定結果を図6に示す。なお、図6では、測定した内部抵抗値を、サイクル充放電を開始する時(サイクル数0回)の内部抵抗値を基準にした上昇率(%)として示している。また、図6には、前述の実施例1(塗工面積率20%)及び比較例1(塗工面積率0%)の内部抵抗上昇率も併せて記載している。
【0068】
なお、サンプル電池A〜Fは、実施例1の電池1と比較して、膨張合材層15,16の塗工面積のみが異なり、その他については同様とされている。具体的には、実施例1の電池1では、膨張合材層15,16の塗工面積率を20%とした。これに対し、サンプル電池Aでは、膨張合材層15,16の塗工面積率を5%としている。サンプル電池Bでは10%、サンプル電池Cでは40%、サンプル電池Dでは60%、サンプル電池Eでは80%、サンプル電池Fでは100%とした。
【0069】
図6に示すように、膨張合材層の塗工面積率を5%としたサンプル電池Aでは、膨張合材層を塗工していない(塗工面積率が0%)比較例1の電池に比べて、抵抗上昇率が小さくなった。具体的には、比較例1の電池では抵抗上昇率が80%であったのに対し、サンプル電池Aでは抵抗上昇率が75%となり、抵抗上昇率を5%低下させることができた。
【0070】
また、膨張合材層の塗工面積率を10〜60%の範囲内とした電池では、膨張合材層を塗工していない比較例1の電池に比べて、抵抗上昇率がかなり小さくなった。具体的には、抵抗上昇率を30〜60%の範囲内に抑制することができた。ところが、膨張合材層の塗工面積率を60%よりも大きく(具体的には、80%と100%)した電池では、膨張合材層を塗工していない比較例1の電池よりも、抵抗上昇率が大きくなってしまった。
【0071】
以上の結果より、膨張合材層の塗工面積を、正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内とすることで、電池の内部抵抗上昇を、効果的に抑制することができるといえる。
【0072】
なお、膨張合材層の塗工面積率を10%よりも小さくしたサンプル電池Aでは、正極合材層、負極合材層、及びセパレータの端部やその近傍(すなわち電極体の端部)を封止する能力が小さくなり、電極体内から電解液が外部に流出するのを抑制する能力が小さかったため、比較例1の電池に対し、抵抗上昇率を5%しか低減できなかったと考えられる。
【0073】
反対に、膨張合材層の塗工面積率を60%よりも大きくしたサンプル電池E,Fでは、膨張材(膨張合材層)の膨張により電極体内の電解液が押し出されるようになり、かえって電解液の流出を助長してしまうために、比較例1の電池よりも抵抗上昇率が大きくなったと考えられる。
【0074】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0075】
例えば、本実施形態では、第2正極合材層13cの軸線AX方向かかる両端部上に、膨張合材層15,16を塗工した。しかしながら、膨張合材層の塗工位置は、これに限定されるものではない。
【0076】
例えば、第1正極合材層13bの軸線AX方向かかる両端部上に、膨張合材層15,16を塗工するようにしても良い。また、第2正極合材層13cの軸線AX方向かかる両端部上に加えて、第1正極合材層13bの軸線AX方向かかる両端部上に、膨張合材層15,16を塗工するようにしても良い。このような位置に膨張合材層を塗工した電池においても、比較例1の電池と比較して、サイクル充放電試験による内部抵抗上昇率を小さくすることができる。特に、膨張合材層の塗工面積を、正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内とすることで、電池の内部抵抗上昇を効果的に抑制することができる。
【0077】
また、図7に示す正極110のように、正極集電部材111の表面(第1面111b及び第2面111c)上であって、電極体の軸線方向(図7において左右方向)について正極合材層13(第1正極合材層13b及び第2正極合材層13c)の両端部に隣り合う位置に、膨張合材層115b、115c、116b、116cを塗工するようにしても良い。このような位置に膨張合材層を塗工した電池においても、比較例1の電池と比較して、サイクル充放電試験による内部抵抗上昇率を小さくすることができる。特に、膨張合材層の塗工面積を、正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内とすることで、電池の内部抵抗上昇を効果的に抑制することができる。
【0078】
また、図8に示す負極220のように、第2負極合材層23cの軸線AX方向(図8において左右方向)かかる両端部上に、膨張合材層215,216を塗工するようにしても良い。また、第1負極合材層23bの軸線AX方向かかる両端部上に、膨張合材層215,216を塗工するようにしても良い。また、第2負極合材層23cの軸線AX方向かかる両端部上に加えて、第1負極合材層23bの軸線AX方向かかる両端部上に、膨張合材層215,216を塗工するようにしても良い。このような位置に膨張合材層を塗工した電池においても、比較例1の電池と比較して、サイクル充放電試験による内部抵抗上昇率を小さくすることができる。特に、膨張合材層の塗工面積を、負極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内とすることで、電池の内部抵抗上昇を効果的に抑制することができる。
【0079】
また、図9に示す負極320のように、負極集電部材321の表面(第1面321b及び第2面321c)上であって、電極体の軸線方向(図9において左右方向)について負極合材層23(第1負極合材層23b及び第2負極合材層23c)の両端部に隣り合う位置に、膨張合材層315b、315c、316b、316cを塗工するようにしても良い。この場合、膨張合材層315b、315c、316b、316cの厚みを、負極合材層23(第1負極合材層23b及び第2負極合材層23c)の厚みよりも厚くするのが好ましい。このような位置に膨張合材層を塗工した電池においても、比較例1の電池と比較して、サイクル充放電試験による内部抵抗上昇率を小さくすることができる。特に、膨張合材層の塗工面積を、負極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内とすることで、電池の内部抵抗上昇を効果的に抑制することができる。
【0080】
また、実施形態では、電極体として、正極10、負極20、及び、セパレータ30を、軸線AXの周りに捲回してなる円筒形状の捲回型電極体40を用いた場合を例示した。しかしながら、本発明は、円筒形状の捲回型電極体に限らず、断面が長円形状をなす扁平形状の捲回型電極体にも適用することができる。また、シート状の正極10、負極20、及び、セパレータ30を積層した積層型の電極体にも適用することができる。これらの電極体を用いた場合でも、正極合材層の端部上、正極集電部材の表面上であって正極合材層の端部に隣り合う位置、負極合材層の端部上、及び、負極集電部材の表面上であって負極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに、膨張材17を含む膨張合材層を塗工することで、実施形態の電池1と同様に、充放電の繰り返しに伴う電池の内部抵抗上昇を抑制することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 リチウムイオン二次電池
10 正極
11 正極集電部材
11b 正極集電部材の第1面(表面)
11c 正極集電部材の第2面(表面)
13 正極合材層
13b 第1正極合材層
13c 第2正極合材層
15,16 膨張合材層
17 膨張材(炭素材料)
20 負極
21 負極集電部材
21b 負極集電部材の第1面(表面)
21c 負極集電部材の第2面(表面)
23 負極合材層
23b 第1負極合材層
23c 第2負極合材層
30 セパレータ
40 捲回型電極体
60 電池ケース
AX 軸線
ES 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電部材の表面上に塗工された正極合材層を有する正極、負極集電部材の表面上に塗工された負極合材層を有する負極、及び、セパレータ、を備える電極体と、
電解液と、
上記電極体及び上記電解液を収容する電池ケースと、を有する
リチウムイオン二次電池であって、
上記電極体は、
上記正極合材層の端部上、上記正極集電部材の表面上であって上記正極合材層の端部に隣り合う位置、上記負極合材層の端部上、及び、上記負極集電部材の表面上であって上記負極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに、上記電池の充電時に膨張する膨張材を含む膨張合材層が塗工されてなる
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記膨張材は、
比表面積が0.1〜1000m2/gの範囲内で、且つ、炭素層間距離が0.36〜0.38nmの範囲内の炭素材料である
リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記電極体は、
前記正極合材層の端部上、及び、前記正極集電部材の表面上であって上記正極合材層の端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに、前記炭素材料を含む前記膨張合材層が塗工されてなる
リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記膨張合材層の塗工面積は、
前記正極合材層の端部上に当該膨張合材層が塗工されている場合は、当該正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内であり、
前記正極集電部材の表面上であって前記正極合材層の端部に隣り合う位置に当該膨張合材層が塗工されている場合は、当該正極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内であり、
前記負極合材層の端部上に当該膨張合材層が塗工されている場合は、当該負極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内であり、
前記負極集電部材の表面上であって前記負極合材層の端部に隣り合う位置に当該膨張合材層が塗工されている場合は、当該負極合材層の塗工面積の10〜60%の範囲内である
リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池であって、
前記電極体は、
前記正極、前記負極、及び、前記セパレータを、軸線の周りに捲回してなる捲回型電極体であり、
前記膨張合材層が、
前記正極合材層のうち軸線方向にかかる両端部上、
前記正極集電部材の表面上であって、上記軸線方向について上記正極合材層の両端部に隣り合う位置、
前記負極合材層のうち上記軸線方向にかかる両端部上、及び、
前記負極集電部材の表面上であって、上記軸線方向について上記負極合材層の両端部に隣り合う位置、の少なくともいずれかに塗工されてなる
リチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−238512(P2012−238512A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107544(P2011−107544)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】