説明

リチウムイオン蓄電池用の炭素含有材料およびリチウムイオン蓄電池

【課題】 リチウムイオン蓄電池用の炭素含有材料およびリチウムイオン蓄電池を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン蓄電池用の炭素含有材料は電気工学に関する。
リチウムイオン蓄電池用の炭素含有材料は分散したグラファイトおよび/またはカーボンナノ構造を有する。当該分散したグラファイトおよび/またはカーボンナノ構造は、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスを媒体とする気体プラズマによって処理され、当該処理は、放電の周波数は13〜40MHzの範囲内にあり、放電電力は0.01〜0.1W/cmであり、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスの圧力は0.2〜1.13Torrの範囲内にあり、処理時間は300〜500秒である。
リチウムイオン蓄電池は、正側電極、負側電極、電解質およびセパレータを備える。複数の電極の1つが上述した炭素含有材料を用いて形成される。
当該炭素含有材料は、純化プロセスおよび製造プロセスについて複雑な技術を必要とせず、リチウムイオン蓄電池の電極の製造に利用することによって、比電気容量が大きく改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気工学に関し、特に本発明はリチウムイオン蓄電池に関する。
【0002】
リチウムイオン蓄電池は近年、携帯用電子機器だけでなくさまざまな交通車両でも電源として利用されるなど、その利用は多岐にわたっている。再充電可能なリチウムイオン蓄電池は、電圧が十分に高く且つ容量も優れており、他種の再充電可能な電池と比較して、比エネルギー容量が非常に優れているという特徴を持つ。
【背景技術】
【0003】
初期の商用リチウムイオン蓄電池は1980年代に登場したが、当初は電極に金属リチウムを使用しており、非常に危険で信頼性も著しく低かった。今日では通常、カソード材料として酸化リチウム(LiCoO、LiMn、LiNiO)が利用されている。またアノードとして、炭素材料(主にグラファイト)が利用されている。さらに電解質として、LiPFと環状カーボネートおよび鎖状カーボネートから成る溶液とを有する。リチウムイオン蓄電池の動作原理を説明すると、中性のリチウム原子がエネルギーを失うことによりLiイオンが形成され当該Liイオンがカソードへと拡散すると、動作時(放電時)にはリチウムがデインターカレートする一方、充電時にはリチウムイオンがアノードにインターカレートする。グラファイトを用いて形成された場合、アノードは確実且つ安全にリチウムイオンを蓄積する。グラファイトから成るアノードの比容量は理論的には、372mAh/gが限界値となり、炭素原子6個に対して1個のリチウム原子がインターカレートすることとなる。つまりLiCとなる。非常に純度が高いグラファイト(99.99パーセント以上)は、確実且つ安全にリチウムイオンを蓄積し(第1番目のサイクルにおいて)、比容量は理論上の限界値に近いものとなり、第1番目のサイクルの放電の効率は90パーセント以上となる。しかし現時点において、商業的に利用可能な通常の電池の比容量は、250〜300mAh/gの範囲にとどまっている。
【0004】
このため、比容量を向上させた(少なくとも、理論上の限界値である372mAh/g近くまで)リチウムイオン蓄電池に対する需要は、確実に大きくなってきている。この需要を反映して、リチウムイオン蓄電池のアノードとして利用可能な材料、特に、カーボンナノ材料を新たに見つけるための努力がなされている。
【0005】
アノードは、リチウムイオン蓄電池の出力特性を決定する構成要素であり、リチウムイオン蓄電池の容量および寿命を最も大きく左右する。リチウムイオン蓄電池の製造者は誰もが、適切なコストで蓄電池の特性を実質的に改善することができるアノード用の炭素含有材料を開発するべく研究を重ねている。
【0006】
非晶質炭素は、第1番目のサイクルにおいて500mAh/g以上を蓄積することができ、大型電池への利用が多いに期待されている(H.Fujimoto、N.Chinnasamy、A.MabuchiおよびT.Kasuh、リチウムイオン電池アノード用材料、In Proc.Electrochemical Society Meeting、2003、IMLB12Meeting)。しかしこのような材料は、第1番目のサイクルにおいて非常に大きな容量損失が発生するので、携帯用電子機器で利用される小型蓄電池への利用については、大きな課題がある。
【0007】
カソード、リチウム塩電解質、および異なる構造を持つカーボンナノファイバー(CNF)を複数用いたアノードを備える、リチウムイオン蓄電池が知られている(米国特許第6,503,660号、IC H01M 10/24、公開日:2003年1月1日)。ここで、カーボンナノファイバーの異なる構造とはいわゆる、ラメラ構造(プレートレットGNF)、ゴム状構造(リボンGNF)および「ヘリングボーン」構造(ヘリングボーンGNF)を持ち、結晶化度が97パーセント以上で、比表面積が20〜120m/gの範囲内にある。
【0008】
上述した公知の蓄電池は、第1番目のサイクルの放電の効率が低いという課題を持つ。
【0009】
新たに開発されたカーボンナノ材料、特に、グラファイト(結晶化度が高い)と非晶質のような炭素(比表面積が高い)の特性を組み合わせたカーボンナノチューブ(CNT)は、リチウムイオン蓄電池のアノード用のより好適な材料として大いに期待されている。
【0010】
このため研究者は、理論的には大きな容量を実現できる単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に注目している。
【0011】
単層カーボンナノチューブを少なくとも80体積パーセント含み、アルカリ金属、具体的にはリチウムのインターカレートを可能とする、リチウムイオン蓄電池用の炭素含有材料が知られている(米国特許第6,280,697号、IC C01B 031/00、公開日:2001年8月28日)。
【0012】
この炭素含有材料によると、純化されたSWCNTを利用しているので、第1番目のサイクルにおけるアノードの放電の比容量を600mAh/g(Li1,6のインターカレーションに対応)まで増加させることができる。しかし、当該材料を生成する際にボールミルにおいて純化されたSWCNTを機械的に研磨しているので、ボールの材料(一般的にはステンレス鋼)によってSWCNTが汚染されてしまい、研磨工程の後に純化作業を再度行わなければならない場合がある。また第1番目のサイクルにおいて放電の効率が低いこと(60パーセント)も問題で、後続の(第1番目より後の)サイクルにおいて容量が大幅に減少してしまう上、材料コストが高いので蓄電池自体のコストが高くなってしまう。
【0013】
電解質およびセパレータと共に複数の電極、例えば、アノードおよびカソードを備え、少なくとも1つの電極が、量にして1.0質量パーセント以下の単層カーボンナノチューブを含む導電材料によって形成されている、リチウムイオン蓄電池が知られている(米国特許出願第20030099883号、IC H01M 4/52、公開日:2003年5月29日)。
【0014】
SWCNTを加えることによって、比容量を265mAh/g(SWCNTなし)から290mAh/g(SWCNTあり)へと向上させることができた。CNTを少量加えるだけなので、従来技術に基づいてCNTを含む蓄電池を製造することができると同時に、1〜5質量パーセントの金属を含有する材料を扱うことが可能となるのでSWCNT材料の純化プロセスに対する要件を低くできる。しかしながら、SWCNTを1.0質量パーセント加えることによって、蓄電池のコストが10〜20パーセント上昇してしまう。
【0015】
現在までのところ、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が最も入手しやすいとされてきたが、その大半は、炭素または酸化炭素の多種多様な分解によって触媒のナノ粒子に成長したMWCNTである。
【0016】
本発明に係る材料に最も近いものは、米国特許第5,879,836号、IC H01M 4/60(公開日:1999年3月9日)に開示されているリチウムイオン蓄電池用の炭素含有材料である。当該材料は、集合体または非集合体として形成されたカーボンフィブリルを含み、粒子サイズが0.1〜100nmの粒子を持ち、壁の厚みが2〜5nmで外径が3.5〜75nmの中空の管状に形成されている。
【0017】
当該公知材料の問題として、黒鉛化度が高いMWCNTを利用しているので、比放電容量が比較的低いことと第1番目の放電の効率が非常に低いことが挙げられる。
【0018】
本発明に係る蓄電池に最も近いものは、米国特許出願第20040131937号、IC H01M 4/58(公開日:2004年6月8日)に開示されているリチウムイオン蓄電池である。当該リチウムイオン蓄電池は、アノード、カソード、電解質およびアノードとカソードを分離する膜状セパレータを備える。当該リチウムイオン蓄電池のアノードは、基板として形成され、その表面に成長した多層カーボンナノチューブを含み、当該多層カーボンナノチューブの外径は10〜100nmとなっている。一方カソードは、LiCONiの組成を持つナノ粒子を多く有しており、粒子サイズは10〜100nmとなっている。
【0019】
当該公知のリチウムイオン蓄電池の問題として、アノード製造プロセスが非常に複雑であることと、蓄電池のコストが高いことが挙げられる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の目的は、純化プロセスおよび製造プロセスに複雑な技術を必要とせず、リチウムイオン蓄電池の電極に使用された場合に、価格を大きく変動させることなく比容量を改善することができる、炭素含有材料および当該材料に基づいて製造されるリチウムイオン蓄電池を開発することである。
【0021】
当該目的は、発明者の一般的な概念によって関連付けられる一連の発明によって達成される。
【0022】
上述の目的のうちは炭素含有材料については、以下のようなリチウムイオン蓄電池用の炭素含有材料によって達成される。当該炭素含有材料は、分散したグラファイトおよび/またはカーボンナノ構造を有し、当該分散したグラファイトおよび/またはカーボンナノ構造は1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスを媒体とする気体プラズマによって処理され、当該処理は、放電の周波数は13〜40MHzの範囲内にあり、放電電力は0.01〜0.1W/cm3であり、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスの圧力は0.2〜1.13Torrの範囲内にあり、処理時間は300〜500秒である。
【0023】
分散したグラファイトとして、球状グラファイトまたはグラファイトファイバが利用され得る。
【0024】
分散したカーボンナノ構造として、単層ナノチューブまたは多層ナノチューブ、ならびに「ナノオニオン」、「ナノホーン」、「ナノコーン」などのナノ構造が利用される。
【0025】
上記の目的はまた、正側電極、負側電極、電解質およびセパレータを備えるリチウムイオン蓄電池によっても達成される。当該リチウムイオン蓄電池は、複数の電極の少なくとも1つが炭素含有材料を用いて形成されており、当該炭素含有材料は、分散したグラファイトおよび/またはカーボンナノ構造を有し、当該分散したグラファイトおよび/またはカーボンナノ構造は1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスを媒体とする気体プラズマによって処理され、当該処理は、放電の周波数は13〜40MHzの範囲内にあり、放電電力は0.001〜0.1W/cmであり、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスの圧力は0.2〜1.13Torrの範囲内にあり、処理時間は300〜500秒である。
【0026】
当該炭素含有材料を用いて、リチウムイオン蓄電池用の正側電極および/または負側電極を形成している。
【0027】
リチウムイオン蓄電池の電極を生成する場合に、分散したグラファイトとして球状グラファイトまたはグラファイトファイバが利用され、分散したカーボンナノ構造として単層ナノチューブまたは多層ナノチューブが利用され得る。
【0028】
リチウムイオン蓄電池は、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスを媒体とする気体プラズマによって処理されたセパレータを含み、当該処理は、放電の周波数は13〜40MHzの範囲内にあり、放電電力は0.01〜0.1W/cmであり、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスの圧力は0.2〜1.13Torrの範囲内にあり、処理時間は300〜500秒である。このような処理をセパレータに対して行うことによって、電解質の吸収が増加し、蓄電池の容量が20〜25パーセント向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明に係る材料は添付図面に示すユニットによって処理されるとしてもよい。添付図面を以下に説明する。
【0030】
【図1】当該ユニットの構成を示す長手方向の断面図である。
【0031】
【図2】当該ユニットの別の構成を示す長手方向の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1に示すプラズマ処理ユニットは、ローディングホッパ2と、ゲート4を持つ受け取りホッパ3とを有するプラズマチャンバ1を備える。プラズマチャンバ1内部には、搬送機構5が設けられており、当該搬送機構5はローラ6に実装されたコンベヤベルト7を有する。ローラ6のうちの1つが、ドライブ(不図示)によって駆動されると、回転する。コンベヤベルト7の上方には平坦電極8が載置され、プラズマチャンバ1の筐体は第2電極9として使用される。電極8および9は高周波発生器10に接続される。電極8のホルダ11は絶縁体12を貫通している。当該プラズマ処理ユニットはさらに、バルブ14を持つ容器13を複数備えており、当該バルブ14は様々な無機ガスを供給する。当該無機ガスの例を挙げると、酸素、窒素、アルゴン、これらの混合ガスなどがある。またバルブ14はプラズマチャンバ1へ空気を供給する。チャンバ1内の圧力を所定のレベルに設定するべく、チャンバ1はバルブ15を介して真空システム16と接続されている。電極8および9は、任意の公知の不活性且つ非磁性の導電材料によって形成されている。そのような導電材料の例を挙げると、銅またはアルミニウムがある。プラズマチャンバ1は、バルブ18を介して水供給システム19へと接続されている噴射部17を持つ。コンベヤベルト7は振動子20を持つ。電極8およびチャンバ1の壁は中空に形成されており、容器22からバルブ21を介して供給されバルブ23を経由して戻される冷却材を中空部分で循環させることによって、電極8およびチャンバ1を冷却する(チャンバ1の壁の空洞に冷却材を供給するパイプラインと電極8の空洞部分から冷却材を戻すためのパイプラインは不図示)。振動子20は、機械振動子、音速振動子、超音速振動子など公知のものであれば、どれを用いてもよい。
【0033】
図2に示すプラズマ処理ユニットは、搬送機構5が溝24として形成されている点が異なる。当該溝24は、ステンレス鋼から形成され、偏心ドライブ25に実装されている。偏心ドライブ25が回転すると、溝24が同時に交互に垂直平面および水平平面内で動く。この結果、処理対象の材料26が反転され受け取りホッパ3に向かって材料26を移動させる。プラズマチャンバ1はさらに、水が充填された容器27を有する。高周波発生器10に接続された溝24は電極9として機能する。
【0034】
本発明に係る、リチウムイオン蓄電池用の材料は以下の方法を用いて製造される。
【0035】
必要であれば、分散したグラファイト(球状グラファイトまたはグラファイトファイバ)またはカーボンナノ構造である初期材料を予め、公知の研磨ユニットにおいて細かくしておく。公知の研磨ユニットは例えば、ボールミル、ディスクミル、振動ミルまたは粉砕機などである。金属ボールまたは金属研磨機が利用される場合、ミリング後に混合物を予め取り除くべく、得られた粉末(または顆粒)を酸(例えば、HClまたはHNO)で洗浄する。続いて当該材料は、乾燥炉または真空デシケータ内で不活性雰囲気中に置かれて乾燥させられ、厚みが1mm以下の均一な層として、プラズマ処理ユニットのプラズマチャンバ1が有するコンベヤベルト7(図1の場合)またはドライブ25を持つ溝24(図2の場合)に載置される。プラズマチャンバ1では、高周波発生器10が電極8よび9に電圧を印加すると、非等軸且つ不均衡な高周波プラズマ放電が発生する。当該材料は、容器13から供給される1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスを媒体として処理される。無機ガスの圧力は0.2〜1.13Torrの範囲内にあり、放電周波数は13〜40MHzの範囲内にあり、放電電力は0.01〜0.1W/cmで、処理時間は300〜500秒である。空気、アルゴン、窒素、ヘリウム、酸素、水素、ネオン、キセノン、二酸化炭素(CO)、二酸化窒素(NO)、塩素またはフッ素を含む気体、水蒸気またはそれらの混合体を無機ガスとして利用してもよい。当該材料の処理時間が300秒未満の場合、特性は変化しない。一方、処理時間が500秒を超えると、当該材料の大半が失われてしまう(焼失する)。
【産業上の利用可能性】
【0036】
例1として、Superior Grafite Co.社(米国)製の「フォーミュラBT SLC 150」というグラファイトをプラズマ放電で処理した。当該プラズマ放電は、COを媒体として、残圧を0.5Torr、放電の比電力を0.1W/cm、周波数を13MHzに設定して発生させた。グラファイトは、プラズマ処理ユニットの技術チャンバのトレイに厚さ約0.5mmの層として載置された。処理時間は400秒であった。このようなプラズマ処理を行った結果得られた材料を用いて、リチウムイオン蓄電池のアノードを形成した。当該蓄電池は、LP−40 MERCK電解質およびMPPF(微孔性ポリプロピレンフィルム)セパレータを用いて形成した。カソードにはLiCoOを用いた。比較を目的として、プラズマ放電処理を行っていない同一のグラファイトで形成されているアノードを持つ蓄電池を生成した。本発明に係る材料によって形成されたアノードを有する蓄電池は、比電気容量が400mAh/gで活動量利用(active−mass utilization)の係数(factor)は98パーセントであったが、処理していないグラファイトから形成したアノードを持つ蓄電池は、比容量が290mAh/gであり活動量利用係数は91パーセントであった。
【0037】
例2において、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を、厚さ0.1〜0.3mmの薄い層として、プラズマ処理ユニットのプラズマチャンバ(図1)内に載置した。チャンバ内の条件は以下のように設定された:気体状の媒体はアルゴンと空気を含み残圧は0.2Torrであった。放電の比電力は0.01W/cmで周波数は27MHzである。比電力値は処理対象の材料の質量(10g)に応じて選択された。単層カーボンナノチューブの各束はそれぞれ、250秒、300秒、480秒、600秒、900秒、1200秒の処理時間で処理された。処理時間が250秒の場合、材料の特性に変化は見られなかった。600秒および900秒の処理を行うと、材料のかなりの部分(70〜90質量パーセント)が失われ、1200秒の処理の後では、材料は完全に無くなってしまった。処理時間を300秒および480秒とした場合、材料の損失は35〜40質量パーセント以下にとどまり、SWCNTの特性は根本的に大きく変化した。具体的には、初期材料は疎水性であったが親水性へと変化、CClの収着は30〜50質量パーセント増加、メタノール収着は40〜80質量パーセント増加した。
【0038】
処理されていない単層カーボンナノチューブを用いて形成されたアノードを有する蓄電池は、比電気容量が980mAh/gで活動量利用係数が92パーセントであった。本発明に係る、プラズマで処理された材料を用いて形成されたアノードを有する蓄電池は、比容量が2010mAh/gで活動量利用係数が98パーセントであった。
【0039】
例3において、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を、厚さ0.3〜0.5mmの薄い層として、プラズマ処理ユニットのプラズマチャンバ内に載置した。チャンバ内の条件は以下のように設定された:気体状の媒体は、アルゴン、酸素、水素、ヘリウムおよびそれらの混合ガスであり、残圧は1.13Torrであった。放電の比電力は0.07W/cmで周波数は40MHz、処理時間は500秒である。ナノチューブの質量の損失は40質量パーセント以下にとどまった。プラズマ処理を行った結果、メタン収着が30質量パーセント増加、水素収着が12質量パーセント増加した。
【0040】
例4においては、長さが100〜200nm、外径が5〜14nm、内径が1.2〜3.5nmという非常に一般的で平均的な寸法の多層カーボンナノチューブを予め、HNOを用いた公知の化学処理に従ってニッケルおよび鉄などの微小な混合物を取り除くことによって純化した。純化された多層カーボンナノチューブは、金属材料を加えることなく粉砕機で乾燥させられ、厚さが0.4〜0.5mmの均質な層としてプラズマ処理ユニットのプラズマチャンバ内に載置される。処理パラメータは以下のように設定された。気体状の媒体はアルゴンと空気から成り、残圧は0.5Torrで、放電の比電力は0.05W/cmで周波数は40MHz、処理時間は450秒である。処理対象の材料は処理後、汚染が生じている可能性があるので汚染を取り除き、達成した特性を保護することを目的として、大気圧で2700秒間ヘリウムとアルゴンで充填される。リチウムイオン蓄電池のアノードをこのように処理された材料を用いて形成した。1つのLP−40 MERCK電解質およびMPPFセパレータを用いて5つの蓄電池を製造した。カソードはLiCoOを利用した。蓄電池のパラメータは、比電気容量が543〜617mAh/gで、活動量利用係数が95〜98パーセントであった。
【0041】
例5においては、例1と同様のプラズマ処理を行った結果得られる材料、つまりSuperior Grafite Co.社(米国)製の「フォーミュラBT SLC 150」のグラファイトを用いて、リチウムイオン蓄電池のアノードおよびカソードを形成した。カソードはLiCoOから成り、さらに上記の材料を20質量パーセントに相当する量だけ含んでいる。当該蓄電池は、LP−40 MERCKの電解質およびMPPF(微孔性ポリプロピレンフィルム)セパレータを用いて形成した。比較を目的として、カソードがLiCoOから形成され、アノードがプラズマ放電によって処理していない上記と同一のグラファイトを用いて形成されている蓄電池を製造した。本発明に係る材料を用いてアノードおよびカソードを形成した蓄電池は、比電気容量が480mAh/gで活動量利用係数が98パーセントであった。一方、アノードが処理されていないグラファイトで形成されカソードがLiCoOで形成された蓄電池は、比容量が290mAh/gで活動量利用係数が91パーセントであった。
【0042】
例6においては、リチウムイオン蓄電池のアノードは、例3に示した方法で処理された多層カーボンナノチューブから成る材料によって形成された。さらに、MPPFセパレータがプラズマ放電によって処理され、この場合の処理条件は、媒体がCO、残圧が0.7Torr、放電の比電力が0.1W/cmで、周波数が27MHz、処理時間は400秒である。
【0043】
当該蓄電池は、LP−40 MERCKを電解質に使用して、カソードにはLiCoOを利用した。このように形成された蓄電池のパラメータは以下の通りである。比電気容量が668mAh/g、活動量利用係数が98パーセントである。プラズマ放電で処理していないセパレータを用いて形成されたリチウムイオン蓄電池と比較して、本例に係る、プラズマ放電で処理したセパレータを有する蓄電池の比電気容量は25パーセント向上した。
【0044】
本発明に係る材料を用いて蓄電池を形成する場合、蓄電池のコストの上昇は10〜15パーセントに過ぎないが、蓄電池の電気パラメータは50〜100パーセント改善する。
【0045】
実際には、蓄電池の製造に当たって製造技術は変更されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン蓄電池用の炭素含有材料であって、
分散したグラファイトおよび/または複数のカーボンナノ構造を有し、
当該分散したグラファイトおよび/または複数のカーボンナノ構造は1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスを媒体とする気体プラズマによって処理され、当該処理は、放電の周波数は13〜40MHzの範囲内にあり、放電電力は0.01〜0.1W/cmであり、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスの圧力は0.2〜1.13Torrの範囲内にあり、処理時間は300〜500秒である
炭素含有材料。
【請求項2】
前記分散したグラファイトとして、球状グラファイトが利用される
請求項1に記載の炭素含有材料。
【請求項3】
前記分散したグラファイトとして、複数のグラファイトファイバが利用される
請求項1に記載の炭素含有材料。
【請求項4】
前記分散した複数のカーボンナノ構造として、複数の単層ナノチューブが利用される
請求項1に記載の炭素含有材料。
【請求項5】
前記分散した複数のカーボンナノ構造として、複数の多層ナノチューブが利用される
請求項1に記載の炭素含有材料。
【請求項6】
正側電極、負側電極、電解質およびセパレータを備えるリチウムイオン蓄電池であって、
複数の電極の少なくとも1つが炭素含有材料を用いて形成されており、当該炭素含有材料は、分散したグラファイトおよび/または複数のカーボンナノ構造を有し、当該分散したグラファイトおよび/または複数のカーボンナノ構造は1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスを媒体とする気体プラズマによって処理され、当該処理は、放電の周波数は13〜40MHzの範囲内にあり、放電電力は0.01〜0.1W/cmであり、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスの圧力は0.2〜1.13Torrの範囲内にあり、処理時間は300〜500秒である
蓄電池。
【請求項7】
前記正側電極は、前記炭素含有材料を用いて形成されている
請求項6に記載の蓄電池。
【請求項8】
前記負側電極は、前記炭素含有材料を用いて形成されている
請求項6に記載の蓄電池。
【請求項9】
前記分散したグラファイトとして、球状グラファイトが利用される
請求項6に記載の蓄電池。
【請求項10】
前記分散したグラファイトとして、複数のグラファイトファイバが利用される
請求項6に記載の蓄電池。
【請求項11】
前記分散した複数のカーボンナノ構造として、複数の単層ナノチューブが利用される
請求項6に記載の蓄電池。
【請求項12】
前記分散した複数のカーボンナノ構造として、複数の多層ナノチューブが利用される
請求項6に記載の蓄電池。
【請求項13】
1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスを媒体とする気体プラズマによって処理されたセパレータを含み、
当該処理は、放電の周波数は13〜40MHzの範囲内にあり、放電電力は0.01〜0.1MHzであり、1種類の無機ガスまたは複数種類の無機ガスから成る混合ガスの圧力は0.2〜1.13Torrの範囲内にあり、処理時間は300〜500秒である
請求項6に記載の蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−510689(P2009−510689A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533284(P2008−533284)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際出願番号】PCT/RU2006/000215
【国際公開番号】WO2007/037717
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(508092613)
【出願人】(508092624)
【出願人】(508092635)
【Fターム(参考)】