説明

リチウムイオン電池セパレータ用塗工液およびリチウムイオン電池セパレータ

【課題】本発明の課題は、耐熱性の高いリチウムイオン電池セパレータを製造するにあたり、安定性の高い塗工液を提供すること、かつ、アルミナ水和物、バインダーポリマー、水溶性分散剤を含有してなる層の粉落ちが少なく、抵抗の低いリチウムイオン電池セパレータを提供することにある。
【解決手段】アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤を含有してなり、該アルミナ水和物が、平均粒子径が2.0μm以下、比表面積が40m/g以下、アスペクト比が5未満のベーマイトの単粒子であることを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ用塗工液、及び、該塗工液を、不織布に塗工、乾燥してなることを特徴とする、リチウムイオン電池セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池セパレータ用塗工液およびリチウムイオン電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子のひとつであるリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという特徴を有し、携帯電話、携帯型音楽プレーヤー、ノート型パーソナルコンピューター等の携帯型電気機器の電源として広く利用されている。また、電気自転車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の大型機器にも、リチウムイオン二次電池を利用する動きが広がっている。そのため、リチウムイオン二次電池には高容量化、大電流での充放電特性といった性能が求められているが、リチウムイオン二次電池は非水系電池であるため、水系電池と比較して、発煙、発火、破裂等の危険性が高いことが知られており、安全性の向上も要求されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、外熱による温度上昇、過充電、内部短絡、外部短絡等によって発煙等の危険性が高まる。これらは、外部保護回路によってある程度防ぐことが可能である。また、リチウムイオン電池セパレータとして使用されているポリオレフィン系樹脂の多孔質フィルムが120℃付近で溶融し、孔が閉塞して電流やイオンの流れを遮断することによって、電池の温度上昇が抑制される。これは、シャットダウン機能と呼ばれている。しかし、外熱によって温度が上昇した場合や温度上昇によって電池内部で化学反応が起きた場合には、シャットダウン機能が働いても電池温度はさらに上昇し、電池温度が150℃以上にまで達すると、多孔質フィルムが収縮して内部短絡が起こり、発火等が起きることがあった。
【0004】
このように、セパレータのシャットダウン機能では電池の発火を抑制することができ難くなっている。また、電池の高容量化に伴って充放電における大電流化も進んでおり、その際に発生するジュール熱を抑制するために、電解液を含浸したセパレータの抵抗値そのものを下げることも必要になっている。そのため、ポリオレフィン系樹脂の多孔質フィルムよりも熱収縮温度を上げることによって、内部短絡を起こり難くして電池の発火を抑制すると共に、抵抗値を下げることを目的として、金属酸化物微粒子を用いたセパレータが開発されている。このセパレータでは、金属酸化物微粒子によって細孔径をコントロールし、内部短絡の抑制、耐熱性の向上、抵抗値の低下が可能となっている。
【0005】
例えば、擬似ベーマイトとバインダーとを混合し、別に準備したフィルム上にコーティング後に乾燥及び剥離することによって、多孔質フィルムとして得られた微細多孔擬似ベーマイト層を有するセパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このセパレータは、熱収縮温度は向上しているものの、粉落ちやひび割れが起こり易いために、巻き取り状のセパレータとして単独で取り出すのが難しく、電池製造時のハンドリングが悪いという問題があった。
【0006】
また、不織布上及び不織布中に多孔性の無機被覆を有し、該無機被覆がアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)及び/またはジルコニウム(Zr)の酸化物粒子を有しているセパレータが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このセパレータは、基材として不織布を利用しているため、ハンドリングが向上しているものの、ゾルゲル法によって生成するシリカ微粒子によって他の金属酸化物を目止めしているために、衝撃や変形による粉落ちやひび割れが発生し易く、これがピンホールの生成につながって内部短絡の原因となり、有用なセパレータとはいい難かった。
【0007】
さらに、耐熱性を有する絶縁性微粒子と、増粘剤と、分散媒とを含む塗工液、および該塗工液を基材上に塗工したセパレータが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、該塗工液には、塗工液の安定性が十分でない問題があり、また、該塗工液を基材上に塗工したセパレータにおいては、絶縁性微粒子として一次粒子が凝集した二次粒子を用いた場合には、基材との接着性が十分でないために、基材上から絶縁性微粒子が脱落する場合があった。また、平板状の絶縁性微粒子を用いた場合には、平板状の絶縁性微粒子がセパレータの細孔を塞ぐため、リチウムイオンの通過を妨げ、内部抵抗が上昇するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−527274号公報
【特許文献2】特表2005−536658号公報
【特許文献3】国際公開第2009/096451号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐熱性の高いリチウムイオン電池セパレータを製造するにあたり、安定性の高い塗工液を提供すること、かつ、アルミナ水和物、バインダーポリマー、水溶性分散剤を含有してなる層(以下、「塗工層」と略す場合がある)の粉落ちが少なく、抵抗の低いリチウムイオン電池セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、
(1)アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤を含有してなり、該アルミナ水和物が、平均粒子径が2.0μm以下、比表面積が40m/g以下、アスペクト比が5未満のベーマイトの単粒子であることを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ用塗工液、
(2)上記塗工液を、不織布に塗工、乾燥してなることを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ、
を見いだした。
【発明の効果】
【0011】
アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤を含有してなり、該アルミナ水和物が、平均粒子径が2.0μm以下、比表面積が40m/g以下、アスペクト比が5未満のベーマイトの単粒子であることによって、リチウムイオン電池セパレータ用塗工液の安定性を高めることができる。
【0012】
該塗工液を、不織布に塗工することによって、塗工層の粉落ちが少なく、セパレータの空隙度合いがコントロールされたリチウムイオン電池セパレータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1で使用した単粒子アルミナ水和物の電子顕微鏡写真(10000倍率)の一例。
【図2】本発明の比較例1で使用した凝集粒子アルミナ水和物の電子顕微鏡写真(10000倍率)の一例。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の塗工液は、アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤を含有してなり、該アルミナ水和物が、平均粒子径が2.0μm以下、比表面積が40m/g以下、アスペクト比が5未満のベーマイトの単粒子である。
【0015】
本発明のアルミナ水和物の粒子は、微粒子の一次粒子が凝集し、二次粒子となった物ではなく、単粒子である。凝集体であるか単粒子であるかは、アルミナ水和物の水分散液を乾燥させたものを走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像から判断することが可能である。例えば、単粒子とは、図1に示す様にアルミナ水和物が凝集体ではなく、1個の粒子として分散された状態であり、凝集体とは、図2に示す様に微小なアルミナ水和物が集まった状態で分散された状態である。
【0016】
本発明のアルミナ水和物のアスペクト比(粒子の「直径」と粒子の「厚み」の比)は、SEMにより撮影した画像から求めることができる。本発明においてアスペクト比は、アルミナ水和物50個について測定し、その平均値を使用する。ここで粒子の「直径」とは、アルミナ水和物をSEMで観察したときの画像を用いて、画像解析により得られる粒子の投影面積に等しい円の直径を表す。本発明においては、アスペクト比は5未満である。粒子間の空隙を確保する点において、アスペクト比は4以下が好ましい。さらに好ましくは、3以下である。アスペクト比が5以上である場合には、塗工層中において層状に重なることで粒子間の空隙を確保できなくなり、抵抗が高くなることがある。
【0017】
本発明のアルミナ水和物の粒子径は、水分散時の平均粒子径が2.0μm以下である。
塗工層の空隙のコントロールと粉落ちのバランスの点から水分散時の平均粒子径が1.5μm以下が好ましい。より好ましくは1.0μm以下である。平均粒子径が2.0μmを超えた場合には、塗工液中のアルミナ水和物が沈降を起こし、問題となる場合がある。また、平均粒子径はより小さい場合では特に問題はないが、塗工液の粘度が高くなりすぎる場合もあるため、0.3μm以上あれば十分である。なお、本発明における平均粒子径とは、レーザー回折法による粒度分布測定から求められる平均粒子径である。
【0018】
本発明におけるBET比表面積は、40m/g以下である。塗工液の液性、粉落ちの点において30m/g以下が好ましい。さらに好ましくは20m/g以下である。BET比表面積が40m/gを超えると、塗工液の安定性が低下したり、不織布との接着性が落ちる場合がある。また、BET比表面積は小さくても特に問題はないが、2.5m/g以上あれば十分である。
【0019】
本発明の塗工液に用いるアルミナ水和物は、組成式AlOOHで示されるベーマイトであり、ドイツNabaltec社製APYRAL(登録商標) AOH、ACTILOX(登録商標)や河合石灰社製セラシュール(登録商標)BMBなどを挙げることができる。
【0020】
本発明の塗工液に用いるバインダーポリマーの水性分散液としては、スチレン−ブタジエンラテックス等の各種ラテックスを用いることができるが、かかるバインダーポリマーの水性分散液の一例としては、JSR製タックロード(登録商標)2001を例示することができる。
【0021】
本発明の塗工液に用いるバインダーポリマーの添加量としては、アルミナ水和物に対し、5質量%以上25質量%以下が好ましい。塗工層の粉落ちと塗工層中の空隙のバランスの点から、7.5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0022】
本発明の塗工液に用いる水溶液性分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸塩などの高分子系分散剤などを用いることができるが、アルミナ水和物とバインダーポリマーの双方に対する混和性の点からカルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0023】
本発明の塗工液に用いる水溶液性分散剤の添加量としては、アルミナ水和物に対し、0.05質量%以上3.0質量%以下が好ましい。塗工液の安定性および塗工層の粉落ちの点から0.1質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。
【0024】
本発明の塗工液は、好ましくは不織布に塗工される。不織布は従来公知の方法によって製造したものを用いることができる。例えば、スパンボンド法、メルトブロー法、乾式法、湿式法、エレクトロスピニング法などの方法によって製造したものを使用することができる。
【0025】
本発明において、不織布表面の平坦化や厚みをコントロールする目的で、カレンダー処理や熱カレンダー処理により不織布を平滑化しても良い。
【0026】
不織布の構成材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びそれらの誘導体、芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルなどのポリエステル、ポリオレフィン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、脂肪族ポリケトン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリ(パラ−フェニレンベンゾビスチアゾール)、ポリ(パラ−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン及びポリ塩化ビニルなどの樹脂からなる繊維並びにセルロース繊維などが挙げられる。該不織布はこれらの構成材料の2種以上を含有していても構わない。
【0027】
本発明のリチウムイオン電池セパレータに用いる不織布としては、目付が5.0〜30.0g/mであるのが好ましい。目付が30.0g/mを超えると、不織布だけでセパレータの大半を占めることとなり、塗工層による効果が得られにくい場合がある。5.0g/m未満であると不織布としての均一性を得ることが難しい場合がある。不織布の目付としては、7.0〜20.0g/mがより好ましい。なお、目付はJIS P 8124(紙及び板紙−坪量測定法)に規定された方法に基づく坪量を意味する。
【0028】
本発明の塗工液を不織布に塗工する方法に特に制限は無く、例えば、従来公知のエアドクターコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、含浸コーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、スプレーコーター等が挙げられる。
【0029】
本発明において、塗工層の付着量としては、1.0〜20.0g/mが好ましく、更に4.0〜15.0g/mがより好ましい。塗工層の付着量が1.0g/m未満であると、不織布表面を十分被覆することができず、細孔径が大きくなり、ショートが発生するなど良好な電池特性が発現しなくなる場合がある。一方、塗層の付着量が20.0g/mを超えると、セパレータの薄膜化が困難となる場合がある。
【0030】
上記の塗布方法により、均一な塗工層を作製するために、必要に応じて、増粘剤、消泡剤、ぬれ剤等を塗工液中に適宜添加することができる。
【0031】
本発明において、塗工後に乾燥する方法は特に限定されず、公知の乾燥方法を用いることができるが、特に熱風を吹きつける方法、赤外線を照射する方法など、加熱により乾燥する方法は、生産性が良く好ましく用いられる。
【0032】
本発明のリチウムイオン電池セパレータにおいて、セパレータの坪量は10.0〜50.0g/mが好ましく、15.0〜40.0g/mがより好ましい。また、セパレータの厚みは10.0〜50.0μmが好ましく、15.0〜40.0μmがより好ましい。セパレータの密度としては0.4〜1.2g/cmが好ましく、0.6〜1.0g/cmがより好ましい。
【0033】
本発明において、塗工、乾燥後、塗工層表面の平坦化や厚みをコントロールする目的で、カレンダー処理によりリチウムイオン電池セパレータを平滑化しても良い。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を示す。
【0035】
<不織布の作製>
繊度0.06dtex(平均繊維径2.4μm)、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)系短繊維45質量部と繊度0.1dtex(平均繊維径3.0μm)、繊維長3mmの配向結晶化PET系短繊維15質量部と繊度0.2dtex(平均繊維径4.3μm)、繊維長3mmの単一成分型バインダー用PET系短繊維(軟化点120℃、融点230℃)40質量部とを一緒に混合し、パルパーにより水中で離解させ、アジテーターによる撹拌のもと、濃度1質量%の均一な抄造用スラリーを調製した。円網抄紙機を用い、この抄造用スラリーを湿式方式で抄き上げ、120℃のシリンダードライヤーによって、バインダー用PET系短繊維を接着させて不織布強度を発現させ、目付15.2g/mの不織布とした。更に、この不織布を金属ロール−金属ロールからなる1ニップの熱カレンダーを使用して、ロール温度185℃、線圧740N/cm、搬送速度20m/分で加熱処理を実施し、厚み27μmの不織布を作製した。
【0036】
実施例1
アルミナ水和物A(ベーマイト、単粒子、平均粒子径0.9μm、比表面積5.5m/g、アスペクト比2.5、ナバルテック社製、商品名:APYRAL(登録商標)−AOH60)を固形分換算で90質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(1質量%水溶液B粘度200mPa・s、エーテル化度0.65)を固形分換算で0.2質量部をホモジナイザーにて混合、撹拌し、次いでカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(1質量%水溶液B粘度7000mPa・s、エーテル化度0.7)を固形分換算で0.2質量部を混合、撹拌し、次にスチレン−ブタジエンラテックスを固形分換算で9部を混合、撹拌し、更にイオン交換水を加えて、固形分濃度25質量%の塗工液Aを作製した。上記熱カレンダー処理後の不織布に、グラビアコーターにて、乾燥固形分10.2g/mとなるように、不織布片面にこの塗工液を均一に塗工して、厚み30.2μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0037】
実施例2
実施例1においてアルミナ水和物Aの代わりにアルミナ水和物B(ベーマイト、単粒子、平均粒子径1.8μm、比表面積3.6m/g、アスペクト比3.1、ナバルテック社製、商品名:APYRAL(登録商標)−AOH30)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工液Bを調製、塗工し、塗工層の乾燥固形分10.5g/m、厚み31.0μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0038】
実施例3
実施例1においてアルミナ水和物Aの代わりにアルミナ水和物C(ベーマイト、単粒子、平均粒子径0.4μm、比表面積38m/g、アスペクト比4.2、ナバルテック社製、商品名:ACTILOX(登録商標)−400SM)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工液Cを調製、塗工し、塗工層の乾燥固形分10.5g/m、厚み29.3μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0039】
実施例4
実施例1においてアルミナ水和物Aの代わりにアルミナ水和物D(ベーマイト、単粒子、平均粒子径0.6μm、比表面積18m/g、アスペクト比3.4、ナバルテック社製、商品名:APYRAL(登録商標)−AOH180)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工液Dを調製、塗工し、塗工層の乾燥固形分10.7g/m、厚み29.9μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0040】
実施例5
実施例1においてアルミナ水和物Aの代わりにアルミナ水和物E(ベーマイト、単粒子、平均粒子径0.5μm、比表面積21m/g、アスペクト比1.7、河合石灰工業社製、商品名:セラシュール(登録商標)BMB)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工液Eを調製、塗工し、塗工層の乾燥固形分10.5g/m、厚み30.1μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0041】
(比較例1)
実施例1においてアルミナ水和物Aの代わりにアルミナ水和物F(ベーマイト、凝集粒子、平均粒子径1.6μm、比表面積3.0m/g、アスペクト比4.7、大明化学工業社製、商品名:C20)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工液Fを調製、塗工し、塗工層の乾燥固形分10.1g/m、厚み29.7μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0042】
(比較例2)
実施例1においてアルミナ水和物Aの代わりにアルミナ水和物G(ベーマイト、単粒子、平均粒子径6.0μm、比表面積3.0m/g、アスペクト比3.5、ナバルテック社製、商品名:APYRAL(登録商標)−AOH20Y)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工液Gを調製、塗工し、塗工層の乾燥固形分10.6g/m、厚み32.7μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0043】
(比較例3)
実施例1においてアルミナ水和物Aの代わりにアルミナ水和物H(ベーマイト、単粒子、平均粒子径1.9μm、比表面積5.0m/g、アスペクト比6.8、河合石灰工業社製、商品名:セラシュール(登録商標)BMT)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工液Hを調製、塗工し、塗工層の乾燥固形分10.5g/m、厚み31.2μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0044】
(比較例4)
実施例1においてアルミナ水和物Aの代わりにアルミナ水和物I(擬ベーマイト、凝集粒子、平均粒子径0.4μm、比表面積71m/g、アスペクト比7.5、サソール社製、商品名:DISPERAL(登録商標) 80)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工液Iを調製、塗工し、塗工層の乾燥固形分10.2g/m、厚み28.9μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0045】
<評価>
実施例及び比較例で得られた塗工液およびリチウムイオン電池セパレータについて、下記の評価を行い、結果を表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
[塗工液の安定性]
作製した塗工液について、それぞれ静置した状態で48時間放置し、その時のアルミナ水和物の沈降状態を目視で確認し、次の度合いで評価した。
◎:全く沈降は見られない。
○:底に若干のアルミナ水和物の沈降は見られるが、撹拌により元の状態に戻る。
△:底に若干のアルミナ水和物の沈降が見られ、撹拌しても若干のアルミナ水和物の凝集物が見られる。
×:大量のアルミナ水和物の沈降が見られ、撹拌しても大量のアルミナ水和物の凝集物が見られる。
【0048】
[粉落ち]
作製したセパレータについて、50mm幅×200mmの短冊状に切り、上端をテープにて固定し、その上を50gの重りを載せた黒色の布を滑らせて、その時の黒色の布およびセパレータについて目視で確認し、次の度合いで評価した。
◎:黒色の布の表面に全く塗工層がつかず、塗工層に剥がれも見られない。
○:若干、黒色の布の表面に塗工層がついているが、塗工層に剥がれは見られない。
△:若干、黒色の布の表面に塗工層がついており、塗工層に剥がれが見られる。
×:黒色の布の表面に大量に塗工層がついており、塗工層に剥がれが見られる。
【0049】
[セパレータの空隙度合い]
作製したセパレータについて、ガーレー透気抵抗度計を用いてセパレータの空隙状態の指標とし、次の度合いで評価した。
◎:測定値が90sec/100cc以上150sec/100cc以下
○:測定値が75sec/100cc以上90sec/100cc未満、又は150sec/100ccより大きく175sec/100cc以下
△:50sec/100cc以上75sec/100cc未満、又は175sec/100ccより大きく250sec/100cc以下
×:50sec/100cc未満、又は250sec/100ccより大きい
【0050】
実施例で得られた塗工液およびそれを不織布に塗工・乾燥してなるセパレータは、アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤を含有してなり、該アルミナ水和物が、平均粒子径が2.0μm以下、比表面積が40m/g以下、アスペクト比が5未満のベーマイトの単粒子であるため、塗工液の安定性に優れ、これを塗工・乾燥して作製したセパレータにおいても、塗工層の粉落ちとセパレータの空隙度合いのバランスに優れるという良好な結果が得られた。
【0051】
一方、比較例1では、使用したアルミナ水和物が、平均粒子径が2.0μm以下、比表面積が40m/g以下、アスペクト比が5未満のベーマイトではあるが、凝集体であるため、実施例よりも塗工液の安定性が低下し、これを不織布に塗工・乾燥して作製したセパレータにおいても粉落ちが悪化する傾向が見られた。
【0052】
また、比較例2では、アルミナ水和物の平均粒子径が2.0μm超であるため、実施例よりも塗工液の安定性が低下し、これを不織布に塗工・乾燥して作製したセパレータにおいても空隙度合いが高く、不織布の空間径が大きくなる傾向が見られた。
【0053】
比較例3では、アスペクト比が5以上であるため、実施例よりも塗工液の安定性が低下し、これを不織布に塗工・乾燥して作製したセパレータにおいても空隙度合いが低く、不織布の空隙を詰めすぎる傾向が見られた。
【0054】
比較例4では、アルミナ水和物が凝集体の擬ベーマイトであり、比表面積が大きいため、実施例よりも塗工液の安定性が低下し、これを不織布に塗工・乾燥して作製したセパレータにおいても粉落ちが悪化し、空隙度合いが高く、不織布の空間径が大きくなる傾向が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用塗工液及びリチウムイオン電池セパレータは、リチウムイオン二次電池用途以外にも、マンガン乾電池、アルカリマンガン電池、酸化銀電池、リチウム一次電池、鉛蓄電池、ニッケル−カドミウム蓄電池、ニッケル−水素蓄電池、ニッケル−亜鉛蓄電池、酸化銀−亜鉛蓄電池、リチウムポリマー電池、各種のゲル電解質電池、亜鉛−空気蓄電池、鉄−空気蓄電池、アルミニウム−空気蓄電池、燃料電池、太陽電池、ナトリウム硫黄電池、ポリアセン電池、電解コンデンサー、電気二重層キャパシター、リチウムイオンキャパシター等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤を含有してなり、該アルミナ水和物が、平均粒子径が2.0μm以下、比表面積が40m/g以下、アスペクト比が5未満のベーマイトの単粒子であることを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ用塗工液。
【請求項2】
請求項1の塗工液を、不織布に塗工、乾燥してなることを特徴とする、リチウムイオン電池セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−84367(P2013−84367A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221873(P2011−221873)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】