説明

リチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材およびその製造方法

【目的】加工硬化性が低減されて、プレス加工後の熱処理が不要となるとともに、防爆弁の作動圧の増加を抑制でき且つケースの高強度化を達成することを可能とするリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材を提供する。
【構成】質量%で、Mn0.8%以上1.5%以下、Si0.6%以下、Fe0.7%以下、Cu0.20%以下、Zn0.20%以下を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなる組成を有し、元板の厚みをT0、プレス加工後の厚みをT1とし、冷間加工度R(%)=[(T0−T1)/T0]×100としたとき、Rが80%の時の引張強さTS80(MPa)とRが96%の時の引張強さTS96(MPa)を比較した場合、(TS96−TS80)が15MPa未満であり、TS80が200MPa以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に自動車用として用いられるリチウムイオン電池のケース封口材として好適な、防爆弁作動圧を低下できるアルミニウム合金板材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池用ケースは、アルミニウム板もしくは鉄板を深絞り成形してなる缶材とアルミニウム板をプレス成形してなる封口材を組み合わせ、電極などの内部構造体を封入した後、缶と接合部の周囲をレーザー溶接することにより作製され、電解液を注入して使用される。
【0003】
封口材には、ケースの強度を高めるため、プレス加工後の強度が高いことが要求されるが、一方で、過充電などでリチウムイオン電池が熱暴走した際、電池が破裂する前に内部の圧力を抜く目的で、防爆弁(局所的に板厚を薄くした部位)が配置されている。
【0004】
この防爆弁の形成手法としては、封口材からプレス加工で一体成形する手法と、穴あけ加工した封口材に箔材をレーザー溶接などで貼り付ける手法があるが、後者はコスト面、安全性の面で不利であり、前者の手法が好ましいとされている。また、自動車用のリチウムイオン電池は民生用と比較して大型であり、内圧に対する強度確保の観点から封口材の厚板化が進行しているため、防爆弁の一体成形が困難であり、防爆弁加工時に加工硬化し難く、厚板から防爆弁を一体成形できる材料の開発が求められている。
【0005】
封口材の材質としては、これまで純アルミニウム系のA1050やAl−Mn系のA3003が主に使用されてきたが、A1050は加工性に優れるものの、加工後の強度が低い点が問題であり、一方、A3003は加工後の強度が高いものの、プレス加工中に防爆弁部が加工硬化するため、防爆弁の作動圧を調整するために熱処理が必要であり、コスト面で大きな問題となっていた。
【0006】
これらの問題を解決するため、防爆弁部の亀裂伝播性を改善したAl−Mn−Si−Fe系合金や、加工硬化性の低減(プレス加工後の熱処理工程減)を狙ったAl−Fe−Mn系合金などが提案されてきた。しかしながら、上記提案のものでは、A3003と比較して亀裂伝播性が向上、もしくは加工硬化性が低減され、プレス加工後の熱処理が不要となるものの、加工硬化の低減幅が小さく防爆弁の作動圧低減効果が不十分であるため、要求特性に対し十分なものではない。
【0007】
また、内圧に対する強度確保の観点から、封口材の厚板化が進められているが、厚板化に伴い、プレス加工時の加工硬化により防爆弁部の硬さが増大し、防爆弁の作動圧が設計圧力を超えてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−037129号公報
【特許文献2】特許第4281727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者らは、リチウムイオン電池のケース封口材における上記従来の問題点を解消するために、従来のAl−Mn系合金において、その加工硬化には、主に合金成分であるMnの固溶度が影響することを考慮し、汎用合金であるA3003の成分範囲内で製造工程を最適化して、Mnを微細析出させMnの固溶度を低下させることにより、防爆弁加工域以外では加工硬化し、防爆弁加工域では加工硬化を抑制できることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づいて、さらに試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、加工硬化性が低減されて、プレス加工後の熱処理が不要となるとともに、防爆弁の作動圧が高くなるのを抑制でき且つケースの高強度化を達成することを可能とするリチウムイオン電池のケース封口材として好適なリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための請求項1によるリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材は、質量%で(以下、合金成分は質量%で示す)、Mn0.8%以上1.5%以下、Si0.6%以下、Fe0.7%以下、Cu0.20%以下、Zn0.20%以下を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなる組成を有し、元板の厚みをT0、プレス加工後の厚みをT1とし、冷間加工度R(%)=[(T0−T1)/T0]×100としたとき、Rが80%の時の引張強さTS80(MPa)とRが96%の時の引張強さTS96(MPa)を比較した場合、(TS96−TS80)が15MPa未満であり、TS80が200MPa以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項2によるリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材は、請求項1において、マトリックス中の最大長1.0μm未満のMnを含む金属間化合物において、該金属間化合物の数が、0.25個/μm以上であり、5400μmの視野を画像解析した場合の前記金属間化合物の最大長の平均値が0.35μm未満であることを特徴とする。
【0013】
請求項3によるリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材は、請求項1または2において、25℃における導電率が45〜55IACS%であることを特徴とする。
【0014】
請求項4によるリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材の製造方法は、請求項1に記載の組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を、400〜550℃で1〜48h均質化処理した後、開始温度を400〜550℃、終了温度を200〜300℃とする熱間圧延を行い、加工度70%以上の冷間圧延を行って所定の厚さとした後、バッチ式焼鈍炉で、焼鈍温度を350〜500℃、焼鈍時間を1〜48hとする最終焼鈍を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本技術によれば、プレス加工を行った際、約80%の冷間加工度までは加工硬化して硬くなるが、90〜96%の防爆弁加工域の冷間加工度においては加工硬化し難く、従って、プレス加工後の熱処理を行うことなく、ケースの高強度化と、防爆弁作動圧の増加抑制を両立させることを可能とするリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材の合金成分の意義および限定理由について説明する。
Mn:
Mnは、固溶状態で封口材の強度を高めるために機能する元素であるが、同時に加工硬化も促進する働きがある。そこで、加工硬化を抑制するためには、Al−Mn系金属間化合物、あるいはSiとの共存によるAl−Mn−Si系金属間化合物、あるいはSiとFeとの共存によるAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物の析出により、Mnの固溶度を低下させる必要がある。そのためのMnの好ましい含有量は0.8%以上1.5%以下の範囲である。0.8%未満では封口材の強度を高める効果が十分ではなく、1.5%を超えて含有すると、鋳造時に最大長数10μmの粗大な晶出物が生成するために、防爆弁加工域である96%の冷間加工後に当該晶出物の周囲にクラックが発生してしまい、電池特性を阻害するほどの防爆弁作動圧の極端な低下を招いてしまう。
【0017】
Si:
Siは、鋳塊の均質化処理時に、Al−Mn−Si系金属間化合物を生成し、Mnの固溶度を低下させる効果があるが、Si含有量が0.6%を超えると、Siが固溶状態で残留し、加工硬化し易くなる。加工硬化し難い特性を得るためには、Si含有量を0.6%以下とするのが好ましく、0.35%以下とするのがより好ましい。
【0018】
Fe:
Feが存在することにより、溶湯中のMnの溶解度が低下して、鋳造時にAl−Mn系金属間化合物を晶出し易くなり、Mnの固溶度を低下させる効果や、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物を生成しMnの固溶度を低下させる効果があるが、Fe含有量が0.7%を超えると、鋳造時に最大長数10μmの粗大な晶出物が生成するために、防爆弁加工域である96%の冷間加工後に当該晶出物の周囲にクラックが発生してしまい防爆弁作動圧の低下を招いてしまう。
【0019】
Cu:
Cuは材料表面の電位調整を目的として添加される。Cuの好ましい含有量は0.20%以下の範囲であり、0.20%を超えて含有すると、加工硬化を助長するとともに、析出したAl−Cu系金属間化合物を起点とした局所腐食を起こし易くなる。0.05%未満では粒界腐食を起こし易くなるため、0.05%以上含有させるのがより好ましい。
【0020】
Zn:
Znの好ましい含有量は0.20%以下の範囲であり、Zn含有量が0.20%を超えると、加工硬化を助長するとともに、材料表面の電位が卑になり、全面腐食を起こし易くなる。
【0021】
前記のように、固溶Mnにより加工硬化性が促進されるため、Mnを含む金属化合物を積極的に析出させる必要がある。Mnを含む金属間化合物とは、Al−Mn系金属間化合物、Al−Mn−Si系金属間化合物、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物などをいう。
【0022】
Mnを含む金属間化合物(以下、単に「金属間化合物」という)の最大長を1.0μm未満とする理由は、最大長1.0μm以上の金属間化合物は、鋳造時に生成した晶出物であり、加工硬化性の低減に寄与しないためである。金属間化合物の数を0.25個/μm2以上とする理由は、加工硬化性を促進する固溶Mnの析出を十分に行うためである。0.25個/μm2未満では、固溶Mnの析出が不十分となるため好ましくない。
【0023】
さらに、5400μmの視野を画像解析した場合の金属間化合物の最大長の平均値を0.35μm未満とすることにより、加工硬化性を促進する固溶Mnの析出が十分なものとなる。Mn含有量が多過ぎたり、過度の熱処理により金属間化合物の形で析出したMnが再固溶すると、金属間化合物の最大長の平均値は0.35μm以上になるため好ましくない。
【0024】
導電率が45IACS%未満の場合は、Mnの固溶度が高く、加工硬化しやすいため好ましくない。一方、55IACS%以上の場合は、強度に寄与するMnの固溶度が低く、目的の強度が得られないため好ましくない。
【0025】
本発明のリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材の製造工程について説明すると、防爆弁加工時の加工硬化を抑制するためには、Mnの固溶量を低下させることが重要であり、鋳造は一般的な半連続鋳造で行い、得られた鋳塊の均質化処理は、金属間化合物を析出させるために、400〜550℃の温度で1〜48h行うのが好ましい。
【0026】
均質化処理温度が400℃未満では、金属間化合物の析出が十分でなく、Mnの固溶度が低下し難い。550℃を超える温度ではMnの再固溶が生じる。また、均質化処理時間が1時間未満では金属間化合物の析出が不十分となり、48時間を超えて均質化処理すると、析出の効果に対する均質化処理のコストが大きくなるため好ましくない。
【0027】
均質化処理に続いて、熱間圧延を行う。熱間圧延の開始温度は熱間圧延中の金属間化合物の析出を促進するために、400〜550℃とする。熱間圧延は200〜300℃で終了するのが好ましい。
【0028】
熱間圧延の後、所定の厚さとするため、冷間圧延を行う。冷間圧延によって導入された歪を金属間化合物の析出サイトとして使用するために、冷間圧延の加工度は70%以上とするのが好ましい。
【0029】
最終焼鈍条件は、金属間化合物の析出を更に促進させるために、焼鈍温度を350〜500℃、焼鈍時間を1〜48hとするのが好ましい。最終焼鈍温度が350℃未満では再結晶が十分でなく、500℃を超えるとMnの再固溶が生じる。最終焼鈍時間が1時間未満では、金属間化合物の析出が十分でなく、48時間以上では、析出の効果に対する均質化処理のコストが大きくなるため好ましくない。最終焼鈍はバッチ式焼鈍炉を使用して行う。連続式焼鈍炉(CAL)を用いて最終焼鈍を行うと、再結晶組織にするために500℃超えの温度にする必要があるが、これでは金属間化合物の形で析出したMnの再固溶が生じてしまい加工硬化を促進してしまうため好ましくない。
【0030】
上記の工程で製造した場合、最大長1.0μm未満の金属間化合物の数が、0.25個/μm以上、5400μmの視野を画像解析した場合の金属間化合物の最大長の平均値が0.35μm未満の板材が得られ、得られた板材の導電率は45〜55IACS%となる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0032】
実施例1、比較例1
表1に示す合金成分値に調整したアルミニウム合金(A〜L)を常法に従って半連続鋳造法により厚さ500mmの鋳塊に造塊し、得られた鋳塊を450℃で6h均質化処理した後、圧延面を各8mm面削、除去し、その後、450℃で熱間圧延を開始し、230℃で熱間圧延を終了して、厚さ5.0mmの熱間圧延板を得た。
【0033】
熱間圧延の後、厚さ1.5mmまで冷間圧延し(加工度70%)、さらに400℃で3hの最終焼鈍を施して試験材1〜12を作製した。なお、最終焼鈍時の400℃までの加熱速度は50℃/hとした。試験材1〜6は、本発明の合金成分からなる試験材である(実施例1)。試験材7〜12は、本発明の合金成分を外れたものからなる試験材である(比較例1)。表1において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例1、比較例1で得られた試験材1〜12について、以下の方法に従って、晶出物の観察、金属間化合物の分布、加工硬化特性、導電率を評価した。評価結果を表2に示す。表2において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0036】
SEMによる晶出物の観察:
晶出物の観察は、試験材に対して冷間加工度を96%とする冷間圧延を行い、得られた冷間圧延板の表面を、SEM(走査型電子顕微鏡)にて、1000倍で晶出物の周囲を観察し、クラックがあるか否か観察した。クラックが認められる場合は、防爆作動圧の低下を招いてしまい評価に値しないため、以下の評価を取り止めた。
【0037】
画像解析による金属間化合物の分布の評価:
金属間化合物の分布数と最大長の平均値は、1000倍の光学顕微鏡写真(各3視野、5400μm)に対し、NIRECO製画像解析装置LUZEX−APを用いて、最大長1.0μm以上の金属間化合物を除外した後に、最大長1.0μm未満の金属間化合物数(個/μm)と、5400μmの視野の金属間化合物の最大長の平均値を計測した。
【0038】
加工硬化特性の評価:
試験材の加工硬化特性は、試験材に対して冷間加工度を80%、96%とする冷間圧延を行い、得られた冷間圧延板を使用して、引張試験を行うことにより評価した。JIS Z2201による5号試験片を用い、JIS Z2241に準拠して引張試験を行った。
【0039】
導電率の評価:
試験材の25℃における導電率を、日本フェルスター製シグマテスト2.069により各5点測定し、最大値、最小値を除外した3点の平均値を測定値とした。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、本発明に従う試験材1〜6においては、冷間加工度R(%)([(T0−T1)/T0]×100)が80%の時の引張強さTS80は200MPa以上で、Rが80%の時の引張強さTS80(MPa)とRが96%の時の引張強さTS96(MPa)を比較した場合、冷間加工度96%(防爆弁加工域)の時の引張強さTS96は、冷間加工度80%の時の引張強さTS80と比較して、その増加量(TS96−TS80)は15MPa未満であり、良好な加工硬化特性を示した。
【0042】
これに対して、試験材7はMn含有量が少ないため、TS80が不足し、十分な封口板の強度が得られず、最大長1.0μm未満の金属間化合物数が少なくかつ導電率も高くなった。試験材8はMn含有量が多いため、96%の冷間圧延後の表面SEM観察により、多数の粗大晶出物の周囲にクラックが観察された。防爆弁作動圧の低下を招いてしまうため、その後の評価は取り止めた。試験材9はSi含有量が多いため、(TS96−TS80)が15MPaを超えており加工硬化し易く、防爆弁作動圧が上昇する特性をそなえていた。
【0043】
試験材10はFe含有量が多いため、96%の冷間圧延後の表面SEM観察により、多数の粗大晶出物の周囲にクラックが観察された。電池特性を阻害するほどの防爆弁作動圧の極端な低下を招いてしまうため、その後の評価は取り止めた。試験材11はCu含有量が多いため、(TS96−TS80)が15MPaを超えており、かつ導電率が低いため加工硬化し易く、防爆弁作動圧が上昇する特性をそなえていた。また試験材12はZn含有量が多いため、(TS96−TS80)が15MPaを超えており、かつ導電率が低いため加工硬化し易く、防爆弁作動圧が上昇する特性をそなえていた。
【0044】
実施例2、比較例2
表1の合金Aの成分値に調整したアルミニウム合金を常法に従って半連続鋳造法により厚さ500mmの鋳塊に造塊し、得られた鋳塊を表3に示す条件で均質化処理した後、圧延面を各8mm面削、除去し、その後、表3に示す条件で、熱間圧延、冷間圧延、および最終焼鈍を施して、試験材13〜35を作製した。試験材13〜24は、本発明の製造条件からなる試験材である(実施例2)。試験材25〜35は、本発明の製造条件を外れたものからなる試験材である(比較例2)。表3において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0045】
【表3】

【0046】
実施例2、比較例2で得られた試験材13〜35について、実施例1、比較例1と同じ方法に従って、金属間化合物の分布、加工硬化特性、導電率を評価した。評価結果を表4に示す。なお、合金Aの成分値では、鋳造時に粗大晶出物は生成されず、製造条件変更による試験材13〜35について、96%の冷間圧延後の表面をSEM観察しても晶出物周囲にクラックが発生することはないので、晶出物の観察は省いた。表4において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0047】
【表4】

【0048】
表4に示すように、本発明に従う試験材13〜24においては、冷間加工度R(%)([(T0−T1)/T0]×100)が80%の時の引張強さTS80は200MPa以上で、Rが80%の時の引張強さTS80(MPa)とRが96%の時の引張強さTS96(MPa)を比較した場合、冷間加工度96%(防爆弁加工域)の時の引張強さTS96は、冷間加工度80%の時の引張強さTS80と比較して、その増加量(TS96−TS80)は15MPa未満であり、良好な加工硬化特性を示した。
【0049】
これに対して、試験材25は、均質化処理温度が低いため、金属間化合物の析出が十分でなく、(TS96−TS80)が15MPaを超え、かつ最大長1.0μm未満の金属間化合物数も少ない。試験材26は、均質化処理温度が高いため、Mnの再固溶が生じた結果、(TS96−TS80)が15MPaを超え、最大長1.0μm未満の金属間化合物数は少なく、当該金属間化合物最大長の平均値は大きく、かつ導電率も小さくなった。試験材27は、均質化処理時間が短いため、金属間化合物の析出が不十分で、(TS96−TS80)が15MPaを超え、最大長1.0μm未満の金属間化合物も少ない。
【0050】
試験材28は、熱間圧延開始温度が低いため、熱間圧延時の金属間化合物の析出が十分でなく、(TS96−TS80)が15MPaを超えた。試験材29は、熱間圧延開始温度が高いため、熱間圧延時にMnの再固溶が生じた結果、(TS96−TS80)が15MPaを超え、最大長1.0μm未満の金属間化合物数は少なく、当該金属間化合物最大長の平均値は大きく、かつ導電率も小さくなった。試験材30は、熱間圧延終了温度が低いため、熱間圧延時の金属間化合物の析出が十分でなく、(TS96−TS80)が15MPaを超え、最大長1.0μm未満の金属間化合物数は少なく、かつ導電率も小さくなった。試験材31は、熱間圧延終了温度が高いため、熱間圧延時にMnの再固溶が生じた結果、(TS96−TS80)が15MPaを超えた。
【0051】
試験材32は、冷間圧延の加工度が小さいために、歪の導入が不十分で、金属間化合物の析出サイトが少なくなり、その後の最終焼鈍での金属間化合物の析出が十分でなく、(TS96−TS80)が15MPaを超え、最大長1.0μm未満の金属間化合物数は少なくなった。試験材33は、最終焼鈍温度が低いため、再結晶が十分でなく、最終焼鈍後にも冷間圧延で導入された歪が残留したことにより、90%以上の冷間加工度で加工硬化し易くなった結果、(TS96−TS80)が15MPaを超えた。試験材34は、最終焼鈍温度が高いため、Mnの再固溶が生じた結果、(TS96−TS80)が15MPaを超え、金属間化合物の最大長の平均値は大きくなった。試験材35は、最終焼鈍時間が短いため、金属間化合物の析出が十分でなく、(TS96−TS80)が15MPaを超えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mn0.8%以上1.5%以下、Si0.6%以下、Fe0.7%以下、Cu0.20%以下、Zn0.20%以下を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなる組成を有し、元板の厚みをT0、プレス加工後の厚みをT1とし、冷間加工度R(%)=[(T0−T1)/T0]×100としたとき、Rが80%の時の引張強さTS80(MPa)とRが96%の時の引張強さTS96(MPa)を比較した場合、(TS96−TS80)が15MPa未満であり、TS80が200MPa以上であることを特徴とするリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材。
【請求項2】
マトリックス中の最大長1.0μm未満のMnを含む金属間化合物において、該金属間化合物の数が、0.25個/μm以上であり、5400μmの視野を画像解析した場合の前記金属間化合物の最大長の平均値が0.35μm未満であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材。
【請求項3】
25℃における導電率が45〜55IACS%であることを特徴とする請求項1または2記載のリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材。
【請求項4】
請求項1に記載の組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を、400〜550℃で1〜48h均質化処理した後、開始温度を400〜550℃、終了温度を200〜300℃とする熱間圧延を行い、加工度70%以上の冷間圧延を行って所定の厚さとした後、バッチ式焼鈍炉で、焼鈍温度を350〜500℃、焼鈍時間を1〜48hとする最終焼鈍を施すことを特徴とするリチウムイオン電池封口材用アルミニウム合金板材の製造方法。

【公開番号】特開2013−104072(P2013−104072A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247158(P2011−247158)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】