説明

リチウムイオン電池正極用バインダー、それを含有するリチウムイオン電池正極用ペーストおよびリチウムイオン電池正極の製造方法

【課題】アルミとコバルト酸リチウム、カーボンブラックを強固に接着させるとともに高温でも接着力が低下しない高出力を取り出すリチウムイオン二次電池に適したバインダーを提供する。
【解決手段】式(1)に示すジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリイミドおよび/上記ジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリイミド前駆体を含有するリチウムイオン電池正極用バインダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池正極用バインダー、それを含有するリチウムイオン電池正極用ペーストおよびリチウムイオン電池正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、充電可能な高容量電池として、電子機器の高機能化、長時間動作を可能にした。さらに自動車などに搭載され、ハイブリッド車、電気自動車の電池として有力視されている。現在広く使われているリチウムイオン電池は、コバルト酸リチウムなどの活物質とポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーを含むペーストをアルミ箔上に塗布して形成される正極と、炭素系の活物質とPVDFやスチレン・ブタジエン・ゴム(SBR)などのバインダーを含むペーストを銅箔上に塗布して形成される負極を有する。
【0003】
リチウムイオン電池の正極にはコバルト酸リチウム、さらにニッケルなどを加えたセラミック材料が用いられ、これを導電性のアルミ箔に電気的な導通をとり接触させることで正極になる。コバルト酸リチウムなどの正極の活物質は電気抵抗が大きいために、アルミと導通を取るためにカーボンブラックなどを添加する。このため、正極は、活物質とカーボンブラックをアルミにうまく接触させることが重要となる。これまで、正極については、ポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液に活物質とカーボンブラックを混合してペーストを作り、これをアルミ箔に塗布して、高温で乾燥して形成していた(特許文献1)。しかしながら、ポリフッ化ビニリデンは接着力が弱く、そのため各種の検討が行われている(特許文献2)。また、スチレンブタジエンラバー系の材料を正極用のバインダーとして使うことも検討されている(特許文献3)。さらに、耐酸化性を高めるための検討が行われている(特許文献4、5)。また、少量のシリコン系のジアミンを共重合したバインダーがニッケルを含んだ正極活物質のバインダーに向いていることが報告されている(特許文献6)。
【0004】
しかしながら、これらのバインダー材料は特にアルミ箔に対する接着力が低く、またバインダーによってはガラス転移温度が室温以下と低いために、急速な充放電を行うと電極が高温になり、バインダーのガラス転移温度より高くなるために、接着力が大幅に低下し、活物質がアルミ箔より剥がれるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−346806号公報
【特許文献2】再表2004−49475号公報
【特許文献3】特開2004−55493号公報
【特許文献4】特開2006−269386号公報
【特許文献5】特開2010−3703号公報
【特許文献6】特開2011−86480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、ガラス転移温度が高く、優れた接着力を有したリチウムイオン電池正極用バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリイミドおよび/または下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリイミド前駆体を含有するリチウムイオン電池正極用バインダーである。
【0008】
また本発明は、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜50モル%有するポリアミドイミドを含有するリチウムイオン電池正極用バインダーである。
【0009】
【化1】

【0010】
上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェニル基または水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換したフェニル基を示し、複数のR、Rはそれぞれ同じでも異なってもよい。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキレン基、フルオロアルキレン基、炭素数4〜10のシクロアルキレン基、フルオロシクロアルキレン基、フェニレン基またはフルオロフェニレン基を示す。mは1〜10より選ばれる整数を示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、活物質や金属との接着性に優れるとともに、高いガラス転移温度を有するリチウムイオン電池正極用バインダーを得ることができる。また電極が高温になっても接着力が低下せず、高出力を取り出すことができるリチウムイオン二次電池を容易に得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリチウムイオン電池電極用バインダー(以下、バインダーと称する場合がある)は、前記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリイミドおよび/または前記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリイミド前駆体を含有する。
【0013】
また本発明のリチウムイオン電池電極用バインダーは、前記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリアミドイミドを含有する。
【0014】
なお通常、リチウムイオン電池電極用バインダーは溶媒に溶解した溶液の状態で用いられることが多く、その状態の場合、本発明のリチウムイオン電池電極用バインダーとは、溶媒を除いた固形分のことを言う。
【0015】
以下、各樹脂について説明する。
【0016】
本発明において、ポリイミド前駆体とは加熱処理や化学処理によりポリイミドに変換できる樹脂を指し、例えば、ポリアミド酸、ポリアミド酸エステル、ポリイソイミドなどが挙げられる。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合させることにより得られ、テトラカルボン酸残基とジアミン残基を有する。ポリアミド酸エステルは、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重合させることにより、またはポリアミド酸のカルボキシル基にエステル化試薬を反応させることにより得られ、ジカルボン酸ジエステル残基とジアミン残基を有する。エステル化試薬の例としては、ジメチルホルムアミドジアルキルアセタールなどのアセタール化合物、ジヒドロピラン、ハロゲン化アルキル、ビニルエーテルなどが挙げられる。ポリイソイミドは、ポリアミド酸をジシクロヘキシルカルボジイミド、無水トリフルオロ酢酸などを用いて脱水閉環することにより得られ、ジイソイミド残基とジアミン残基を有する。
【0017】
本発明において、ポリイミド前駆体に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば下記一般式(2)、(3)で表される構造からなる残基を有しているものであり、無水ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。またヘキサフルオロプロピリデンビス(フタル酸無水物)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などを用いてもよい。
【0018】
また、ジカルボン酸ジエステルとしては、前記テトラカルボン酸二無水物のジエステル化物を挙げることができる。
【0019】
これらはポリアミド酸のテトラカルボン酸残基、ポリアミド酸エステルのジカルボン酸ジエステル残基、ポリイソイミドのジイソイミド残基を構成する。以下、テトラカルボン酸残基、ジカルボン酸ジエステル残基、ジイソイミド残基をあわせて酸残基とする。
【0020】
【化2】

【0021】
式中R11は、単一のものであっても異なるものが混在していても良く、炭素数1〜10の有機基、ニトロ基、Cl、Br、IまたはFを示す。qは0〜2より選ばれる整数を示す。
【0022】
【化3】

【0023】
12は、直接結合、−O−、−S−、−SO−、−SO―、−CONH−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−COO−、−NH−CO−NH−、−CO−NH−CO−、−PO−または下記一般式(4)で表される基を示す。
【0024】
式中R13、R14は、それぞれ単一のものであっても異なるものが混在していても良く、炭素数1〜10の有機基、ニトロ基、Cl、Br、IまたはFを示す。r、sは0〜3より選ばれる整数を示す。
【0025】
【化4】

【0026】
Xは、直接結合、−O−、−S−、−SO−、−SO―、−CONH−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−COO−、−NH−CO−NH−、−CO−NH−CO−または−PO−を示す。
【0027】
式中R19、R20は、それぞれ単一のものであっても異なるものが混在していても良く、炭素数1〜10の有機基、ニトロ基、Cl、Br、IまたはFを示す。w、yは0〜4より選ばれる整数を示す。
【0028】
また、上記テトラカルボン酸二無水物やジカルボン酸ジエステルとともに、トリメリット酸、トリメシン酸などのトリカルボン酸やその誘導体、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、ヘキサメチレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボン酸やその誘導体などを共重合してもよい。これらの残基の含有量は、前記酸残基100モル部に対して50モル部以下が好ましい。
【0029】
本発明において、ポリイミドおよびポリイミド前駆体は、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有することを特徴とする。かかるジアミンの残基を全ジアミン残基中20モル%以上有することにより、集電体であるアルミ、正極活物質であるコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、あるいはこれらにアルミ、チタンなどを添加したものなどの接着性を飛躍的に向上させることができる。より好ましくは25モル以上含むことである。一方、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基含有量が40モル%を超えると、得られるリチウムイオン電池正極用バインダーのガラス転移温度が低下する。このため急速な放電などで電極が加熱したときのアルミや正極活物質に対する接着性が低下する。また、電解液に対する耐性や機械特性が低下する。これよりより好ましくは35モル%以下含むことである。
【0030】
また本発明において、ポリアミドイミドは、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有することを特徴とする。かかるジアミンの残基を全ジアミン残基中20モル%以上有することにより、集電体であるアルミ、正極活物質であるコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、あるいはこれらにアルミ、チタンなどを添加したものなどの接着性を飛躍的に向上させることができる。より好ましくは25モル以上含むことである。一方、下記一般式(1)で表されるジアミンの残基含有量が40モル%を超えると、得られるリチウムイオン電池正極用バインダーのガラス転移温度が低下する。このため急速な放電などで電極が加熱したときのアルミや正極活物質に対する接着性が低下する。また、電解液に対する耐性や機械特性が低下する。これよりより好ましくは35モル%以下含むことである。
【0031】
【化5】

【0032】
上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェニル基または水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換したフェニル基を示し、複数のR、Rはそれぞれ同じでも異なってもよい。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキレン基、フルオロアルキレン基、炭素数4〜10のシクロアルキレン基、フルオロシクロアルキレン基、フェニレン基またはフルオロフェニレン基を示す。mは1〜10より選ばれる整数を示す。
【0033】
前記一般式(1)で表されるジアミンとしては、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラエチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメトキシジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラプロピルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)ジメチルジフェニルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)トリメチルヒドロジシロキサン、ビス(4−アミノフェニル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)テトラフェニルジシロキサン、α、ω−ビス(3−アミノプロピル)ヘキサメチルトリシロキサン、α、ω−ビス(3−アミノプロピル)パーメチルポリシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラフェニルジシロキサン、1,5−ビス(2−アミノエチル)テトラフェニルジメチルトリシロキサンなどが挙げられる。なお上記、α、ω−ビス(3−アミノプロピル)パーメチルポリシロキサンは前記一般式(1)においてmの平均値が9.8程度となる。
【0034】
前記一般式(1)において、mは1〜10より選ばれる整数を示すが、接着性や耐熱性をより向上させる観点から、1〜3より選ばれる整数であることが好ましい。
【0035】
なお、本発明において、ポリイミド、ポリイミド前駆体、ポリアミドイミドにおける一般式(1)で表されるジアミンの残基の含有量は、次の方法で測定することができる。まず、ポリイミド、ポリイミド前駆体、ポリアミドイミドを、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液中、100〜300℃の温度で加熱処理することにより加水分解する。加水分解したサンプルを、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、NMRまたはガスクロマトグラフィーに質量分析を結合したGC−MSを用いて分析することにより、ジアミン残基の含有量を求めることができる。また、前駆体溶液の場合は、NMRにより分析することが出来る。
【0036】
本発明において、ポリイミドおよび/もしくはポリイミド前駆体またはポリアミドイミドは、前記一般式(1)で表されるジアミンの残基に加えて他のジアミンの残基を有する。本発明において用いられる他のジアミンとしては、例えば下記一般式(5)、(6)で表される残基を有するものが挙げられる。下記一般式(5)で表されるジアミンとして、芳香族環を1つ有するフェニレンジアミン、そのアルキル基置換体であるジアミノトルエン、ジアミノキシレン、ジアミノエチルベンゼン、フッ素化アルキル置換体であるジアミノトリフルオロメチルベンゼン、ジアミノビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ジアミノペンタフルオロエチルベンゼン、シアノ基置換体であるジアミノシアノベンゼン、ジアミノジシアノベンゼン、カルボキシル基を有するジアミンであるジアミノ安息香酸、ジアミノジカルボキシベンゼン、フェノール性水酸基を有するジアミンであるジアミノフェノール、ジアミノジヒドロキシベンゼンが挙げられる。また下記一般式(6)で表される残基を有するジアミンとして、芳香族環を2つ有するジアミンであるジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルフィド、ジアミノジフェニルスルホン、ベンチジン、ジアミノベンズアニリド、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンが挙げられる。また他に芳香族環を3つ有するジアミンである1,4−ビス[1−(4−アミノフェニル)−1−メチルエチル]ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、芳香族環を4つ有するジアミンであるビス(アミノフェノキシフェニル)スルホン、ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス(アミノフェノキシフェニル)、あるいはこれらのジアミンの芳香族環の水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、フェニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはエステル基で置換したものが挙げられる。またエチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサンジアミン、ヘプタンジアミン、オクタンジアミン、ジアミノエチレングリコール、ジアミノプロピレングリコール、ジアミノポリエチレングリコール、ジアミノポリプロピレングリコール、シクロペンチルジアミン、シクロヘキシルジアミンなどの脂肪族ジアミンなどを挙げることもできる。これらはポリイミドおよび/もしくはポリイミド前駆体またはポリアミドイミドのジアミン残基を構成する。これらのジアミンは、前記一般式(1)で表されるジアミンと共重合することが好ましく、ランダム共重合でもブロック共重合でもかまわない。
【0037】
【化6】

【0038】
式中R15は、単一のものであっても異なるものが混在していても良く、炭素数1〜10の有機基、ニトロ基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、Cl、Br、IまたはFを示す。tは0〜4より選ばれる整数を示す。
【0039】
【化7】

【0040】
16は、直接結合、−O−、−S−、−SO−、−SO―、−CONH−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−COO−、−NH−CO−NH−、−CO−NH−CO−、−PO−または下記一般式(4)で表される基を示す。
【0041】
式中R17、R18は、それぞれ単一のものであっても異なるものが混在していても良く、炭素数1〜10の有機基、ニトロ基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、Cl、Br、IまたはFを示す。u、vは0〜4より選ばれる整数を示す。
【0042】
【化8】

【0043】
Xは、直接結合、−O−、−S−、−SO−、−SO―、−CONH−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−COO−、−NH−CO−NH−、−CO−NH−CO−または−PO−を示す。
【0044】
式中R19、R20は、それぞれ単一のものであっても異なるものが混在していても良く、炭素数1〜10の有機基、ニトロ基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、Cl、Br、IまたはFを示す。w、yは0〜4より選ばれる整数を示す。
【0045】
これらの中でも、耐熱性、耐薬品性をより向上させる観点から芳香族ジアミンが好ましい。
【0046】
また、ジアミンとともに、トリアミノベンゼン、トリアミノジフェニルエーテル、トリアミノベンズアミドなどのトリアミン類、テトラアミノベンゼン、テトラアミノジフェニルエーテル、テトラアミノビフェニルなどのテトラアミン類を共重合してもよい。トリアミンとテトラジアミン残基の合計量は、ジアミン残基100モル部に対して30モル部以下が好ましい。
【0047】
本発明において、ポリイミド、ポリイミド前駆体、ポリアミドイミドの数平均分子量は、機械強度をより向上させる観点から5,000以上が好ましく、7,500以上がより好ましく、10,000以上がより好ましい。一方、粘度を適切な範囲に調整するために、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000がより好ましい。本発明におけるポリイミドポリイミド前駆体、ポリアミドイミドの数平均分子量とは、GPC法により、ポリスチレンを基準として、展開溶媒にリン酸、塩化リチウムを各0.05モル/Lの濃度で添加したジアミンをN−メチルピロリドン(NMP)を用いて測定した値をいう。
【0048】
本発明のバインダーは、前記ポリイミドおよび/もしくはポリイミド前駆体またはポリアミドイミドを含有する。これらを2種以上含有してもよい。また、これらの樹脂に加えて、スチレン・ブタジエン・ゴム(SBR)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの比較的低温で分解する樹脂を含有してもよい。後述する電極の製造方法において、熱処理によりかかる樹脂を分解することで、気孔が内部にある電極を得ることができる。前記ポリイミド、ポリイミド前駆体およびポリアミドイミドの総量と、低温分解樹脂の比率は重量比で100:1〜50:50の範囲が好ましい。
【0049】
さらに、必要に応じ、界面活性剤、粘性調整剤などを含有してもよい。粘性調整剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げることができる。また、アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリメトキシグリシドトキシシランなどのシランカップリング剤、チタン系のカップリング剤、トリアジン系化合物、フェナントロリン系化合物、トリアゾール系化合物などを、ポリイミド、ポリイミド前駆体およびポリアミドイミドの総量100重量部に対して0.1〜10重量部含有してもよい。これらを含有することにより、活物質との接着性をさらに高めることができる。
【0050】
次に、本発明のバインダーの製造方法について説明する。
【0051】
ポリアミド酸の場合、ジアミンをN−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒に溶解し、テトラカルボン酸二無水物を添加して反応させる方法が一般的である。反応温度は−20℃〜100℃が一般的であり、0℃〜50℃が好ましい。反応時間は1分間〜100時間が一般的であり、2時間〜24時間が好ましい。反応中は窒素を流すなどして水分が系内に入らないようにすることが好ましい。
【0052】
ポリアミド酸エステルの場合、テトラカルボン酸二無水物をエタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールとピリジンやトリエチルアミンなどの塩基触媒と混合し、室温〜100℃で数分間〜10時間程度反応させ、ジカルボン酸ジエステル化合物を得る。また、テトラカルボン酸二無水物を直接アルコールに分散させてもよいし、テトラカルボン酸二無水物をNMP、DMAC、DMF、DMSO、GBLなどの溶媒に溶解し、アルコールと塩基触媒を作用させてもよい。得られたジカルボン酸ジエステルを、チオニルクロリド中で加熱処理したり、オキザロジクロリドを作用させたりしてジカルボン酸クロリドジエステルにする。得られたジカルボン酸クロリドジエステルを蒸留などの手法で回収し、ピリジンやトリエチルアミンの存在下、ジアミンをNMP、DMAC、DMF、DMSO、GBLなどの溶媒に溶解した溶液に滴下する。滴下は−20℃〜30℃で実施することが好ましい。滴下終了後、−20℃〜50℃で1時間〜100時間反応させてポリアミド酸エステルを得る。なお、ジカルボン酸クロリドジエステルを用いると副生成物として塩酸塩ができるため、ジカルボン酸ジエステルを、チオニルクロリド中で加熱処理したり、オキザロジクロリドを作用させたりする代わりに、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのペプチドの縮合試薬によりジアミンと反応させてもよい。また、先に説明したポリアミド酸にジメチルホルムアミドジアルキルアセタールなどのアセタール化合物を反応させることによってもポリアミド酸エステルを得ることができる。アセタール化合物の添加量により、エステル化率を調整することができる。
【0053】
ポリイソイミドの場合、ポリアミド酸をジシクロカルボジイミド、無水トリフルオロ酢酸などを用いて脱水閉環させることにより得ることができる。
【0054】
ポリイミドの場合、上記ポリイミド前駆体を加熱処理や化学処理によりイミド閉環することにより得ることができる。化学処理としては、無水酢酸とピリジンによる処理、トリエチルアミン、ドデシルウンデセンなどの塩基処理、無水酢酸、無水コハク酸などの酸無水物処理などが挙げられる。
【0055】
ポリアミドイミドの場合、ジアミンをNMP、DMF、DMAC、GBL、DMSOなどの溶媒に溶解し、トリカルボン酸を添加して反応させる方法が一般的である。反応温度は−20℃〜100℃が一般的であり、0℃〜50℃が好ましい。反応時間は1分間〜100時間が一般的であり、2時間〜24時間が好ましい。反応中は窒素を流すなどして水分が系内に入らないようにすることが好ましい。一般的な反応としては、ジアミン溶液にトリカルボン酸クロリドを作用させ、その後、100℃〜300℃の加熱処理を1分〜24時間行い、ポリアミドイミドを得るような方法が挙げられる。この場合、イミド化のために無水酢酸などの酸無水物やトリエチルアミン、ピリジン、ピコリンなどの塩基を触媒としてポリマー量に対して0.l〜10重量%添加して反応を促進することもできる。また、ジアミンと無水トリメリット酸クロリドをピリジン、トリエチルアミンなどの存在下、ポリアミド酸アミドを重合し、このポリマーを固体で取り出し、その後、固体を100〜300℃の温度で1分〜24時間加熱してポリアミドイミドを得ることもできる。さらにジアミン化合物のアミノ基をイソシアネートに変え、トリカルボン酸と場合によってはスズ系触媒の存在下に室温〜200℃の温度範囲で1分〜24時間反応させることでポリアミドイミドを得ることも出来る。
【0056】
本発明のバインダーは、前記ポリイミド、ポリイミド前駆体またはポリアミドイミドを含むものであり、これらを2種以上含有する場合や、低温分解樹脂を含む場合には、公知の方法でこれらを混合すればよい。また、界面活性剤、粘性調整剤、シランカップリング剤、トリアジン系化合物、フェナントロリン系化合物、トリアゾール系化合物などの添加剤を含有する場合、これらの添加剤を添加して混合すればよく、後述するバインダー溶液に添加してもよい
本発明のバインダーは、溶液として用いられる場合もある。バインダー溶液の濃度と粘度の範囲は、濃度1〜50重量%で粘度1mPa・秒〜1000Pa・秒の範囲が好ましく、より好ましくは濃度5〜30重量%で粘度10mPa・秒〜100Pa・秒である。
【0057】
バインダー溶液に用いられる溶媒としては、NMP、DMAC、DMF、DMSO、GBL、プロピレングリコールジメチルエーテル、エチルラクテート、シクロヘキサノン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。また、バインダー溶液の塗布性を向上させる目的で、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、各種アルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの溶媒を、好ましくは全溶媒中1〜30重量%含有することもできる。
【0058】
次に、本発明のリチウムイオン電池電極用ペーストについて説明する。
【0059】
本発明のリチウムイオン電池正極用ペースト(以下、正極用ペーストと称する場合がある)は、本発明のバインダーおよびコバルト原子を含むリチウムイオン電池正極活物質を含有し、コバルト酸リチウムを含有することが好ましい。また他のリチウムイオン電池正極活物質としてニッケル酸リチウム、リン酸鉄を含有してもよい。またさらにカーボンブラックよりなる導電助剤を含有してもよい。
【0060】
正極活物質の平均粒径は0.1〜20μmが好ましい。また、正極活物質の表面には、シランカップリング剤などによる処理が施されていてもよい。
【0061】
本発明の正極用ペーストにおいて、バインダーの含有量は、正極活物質100重量部に対して3重量部以上が好ましく、接着性をより向上させることができる。5重量部以上がより好ましく、10重量部以上がより好ましい。一方、電気抵抗を低減し、正極活物質の充填量を増加させるためには20重量部以下が好ましい。
【0062】
電気抵抗を低下させるために、本発明の正極用ペーストに、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラックなどの導電性粒子を含有してもよい。これらの含有量は、正極活物質100重量部に対して0.1重量部以上20重量部以下が好ましい。
【0063】
本発明の正極用ペーストは、本発明のバインダー、上記正極活物質、必要により界面活性剤、溶媒、架橋剤などの添加剤を混練することにより得ることができる。混練方法は本発明のリチウムイオン電池正極用バインダーを溶媒であるNMPなどで適当な粘度に調整し、そこに活物質と導電助剤を加え、よく混錬することで得ることが出来る。混錬は、自公転ミキサーを用いたり、ビーズミル、ボールミルなどのメディア分散を行ったり、三本ロールなどを用いて、均一に分散させるのが好ましい。さらに、正極活物質は水に非常に不安定であり、特に水の混入に注意する必要がある。このため、溶媒としてはNMPに加え、吸水性の低いものが好ましく、特にGBL、プロピレングリコールジメチルエーテル、エチルラクテート、シクロヘキサノン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。また、バインダー溶液の塗布性を向上させる目的で、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、各種アルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの溶媒を、好ましくは全溶媒中1〜30重量%含有することもできる。
【0064】
次に、本発明のリチウムイオン電池電極の製造方法について例を挙げて説明する。
【0065】
リチウム電池正極(以下、正極と称する場合がある)の場合、本発明の正極用ペーストを金属箔上に1〜500μmの厚みで塗布する。金属箔としては、アルミ箔、ニッケル箔、チタン箔、銅箔などが挙げられ、アルミ箔が一般的に用いられる。
【0066】
本バインダー樹脂組成物を用いた電極ペーストを金属箔に塗布するには、スピンコート、ロールコート、スリットダイコート、スプレーコート、ディップコート、スクリーン印刷などの手法で金属箔に塗布する。塗布は通常、両面ともに行われるため、まず片面を塗布して、溶媒を50−400℃の温度で1分〜20時間、空気中、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中、真空中で処理した後に、逆の面に塗布して乾燥させるのが一般的であるが、両面を同時にロールコートなどの手法で塗布することもできる。
【0067】
バインダーとしてポリイミド前駆体を用いる場合、塗布後、100〜500℃で1分間〜24時間熱処理することにより、ポリイミド前駆体をポリイミドに変換し、信頼性のある正極を得ることができる。好ましくは200〜450℃で30分間〜20時間である。また、バインダーとしてポリイミドまたはポリアミドイミドを用いる場合、塗布後、100〜500℃で1分間〜24時間熱処理することにより、溶媒を除去することが好ましい。イミド化する必要がないため、120〜300℃で10分間〜24時間がより好ましい。いずれの場合においても、水分の混入を抑えるために、窒素ガスなどの不活性ガス中または真空中で加熱することが好ましい。
【0068】
バインダーに低温分解樹脂を含む場合、熱処理により低温分解樹脂を分解することで、気孔が内部にある正極を得ることができる。この場合、低温分解樹脂の分解温度より高く、バインダーの分解温度より低い温度で熱処理することが好ましく、300〜450℃で30分間〜20時間が好ましい。
【0069】
次に、本発明のリチウムイオン電池正極の製造方法により得られるリチウムイオン電池について説明する。本発明のリチウムイオン電池正極と負極の間にセパレーターを挟み、極性有機溶媒を入れることにより、リチウムイオン電池を得ることができる。極性有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動することができる媒質の役割を果たす。極性有機溶媒としては、カーボネート系、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系、非陽子性溶媒を挙げることができる。前記カーボネート系溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などを挙げることができる。前記エステル系溶媒としては、メチルアセテート、エチルアセテート、n−プロピルアセテート、メチルプロピオン酸塩、エチルプロピオン酸塩、γ−ブチロラクトン、テカノライド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトンなどを挙げることができる。前記エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラグライム、ジグライム、ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。前記ケトン系溶媒としては、シクロヘキサノンなどを挙げることができる。前記アルコール系溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどを挙げることができる。前記非陽子性溶媒としては、トリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3−ジオキソランなどのジオキソラン類、スルホラン類などを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよく、含有量比は目的とする電池の性能に応じて適宜選択できる。例えば、前記カーボネート系溶媒の場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートを1:1〜1:9の体積比で組み合わせて使用することが好ましく、電解液の性能を向上させることができる。
【実施例】
【0070】
本発明をさらに詳細に説明するために実施例を以下に挙げるが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されるものではない。なお、各実施例中の特性は、以下の方法で評価した。
【0071】
(1)接着性
エチレンカーボネート(三井化学(株)製)15g、ジエチルカーボネート(三井化学(株)製)29g、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本合成化学(株)製)44g、6フッ化リチウム(東京化成(株)製)12g、1,3−プロパンスルトン(ハイケム(株)製)3gを混合して電解液を得た。得られた電解液に、各実施例および比較例で得られた電極を80℃で10時間浸漬した後(高温薬液処理)、50℃のオーブン中に入れて表面を乾燥させ、ニチバン製セロハンテープによる剥離試験(JIS−K5600−5−6(1999年)に準拠)を行った。剥がれの有無を目視で評価し、剥がれた個数を計数した。格子幅は1mm、マス目数は100とした。全く剥がれなければ0個、全て剥がれれば100個となる。
【0072】
(2)硬化膜のガラス転移温度
得られたポリイミド溶液、ポリアミド酸溶液またはポリアミドイミド溶液を4インチシリコンウェハー上に350℃焼成後の膜厚が10μm±1μmになるようにスピンコートした。これを窒素雰囲気下、80℃で1時間加熱した後、3.5℃/分で350℃まで昇温し、350℃で1時間加熱して硬化膜を得た。得られた硬化膜を45%のフッ化水素酸水溶液に室温で7分処理した後、水洗してウェハーから剥がした。この膜を200℃で30分乾燥後、示差熱分析装置(DSC、島津製作所製 DSC−50)を用いて昇温速度20℃/分で室温から400℃まで変化させ、その後、急速に室温に冷却して、再度昇温速度20℃/分で室温から400℃まで変化させ、放熱、吸熱の変化を求め、不連続になる点をガラス温度とした。
【0073】
実施例・比較例において略号で示した化合物の内容を以下に示す。
PMDA:無水ピロメリット酸(ダイセル(株)製)
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(ダイセル(株)製)
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学(株)
ODPA:3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(JSRトレーディング(株)製)
TMC :トリメリット酸クロライド(東京化成(株)製)
DAE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和歌山精化工業(株)製)
DDS:3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(東京化成工業(株)製)
PDA:パラフェニレンジアミン(東京化成工業(株)製)
TFMB:4,4‘−ビス(アミノ)−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(和歌山精化工業(株)製)
BAPP:2,2−ビス(4−[4−アミノフェノキシ]フェニル)プロパン(和歌山精化工業(株)製)
APDS:1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(東レダウコーニングシリコーン(株)製)
KF8010:平均アミン価430の両末端3−アミノプロピルジメチルポリシロキサン(信越シリコーン(株)製)
実施例1
よく乾燥させた4つ口セパラブルフラスコ中、窒素置換雰囲気下、DAE 16.02g(80ミリモル)とAPDS 4.97g(20ミリモル)をNMP 150gに溶解させた。ここにBPDA 28.24g(98ミリモル)をNMP 39.3gとともに加えて、50℃以上にならないように冷却しながら撹拌した。その後、40℃で4時間撹拌し、リチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミド酸溶液(固形分濃度20重量%)を得た。前記(2)記載の方法でポリイミドの硬化膜を作製し、ガラス転移温度を測定したところ、255℃であった。
【0074】
コバルト酸リチウム粉末(宝泉(株)製、C−10N)とアセチレンブラック(三菱化学(株)製)との85:10(重量比)の混合物51gをポリアミド酸溶液30gと混合した。これを3本ロールに3回通して正極用ペーストを得た。この正極用ペーストをアルミ箔(宝泉(株)製、20μm厚)に厚み25μmとなるようにドクターブレードで塗布した。正極用ペーストを塗布したアルミ箔を、イナートオーブン(光洋サーモシステム製、INH−9)で酸素濃度20ppm以下になるように窒素を流しながら、80℃で1時間加熱後、サンプルの一部を取り出し、正極(高温処理前)を得た。またイナートオーブンに残ったサンプルについては、さらに3.5℃/分で温度を200℃まで上げ、200℃で1時間加熱(焼成)した。その後、オーブン内の温度が50℃以下になったところで取り出し、正極(高温処理後)を得た。
【0075】
前記方法で正極(高温処理前)および正極(高温処理後)の接着性を評価した結果、剥がれは認められなかった。
【0076】
実施例2、3、比較例1、2
DAE、APDSの配合量を表1に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミド酸溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0077】
実施例4
DAE 16.02g(80ミリモル)の代わりにDDS 19.86g(80ミリモル)を用い、またBPDA 28.24g(98ミリモル)の代わりにPMDA 10.69g(49ミリモル)およびBTDA 15.79g(49ミリモル)を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミド酸溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0078】
実施例5、比較例3、4
DDS、APDSの配合量を表1に記載のとおりとした以外は実施例4と同様にして、リチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミド酸溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0079】
実施例6
DAE 16.02g(80ミリモル)およびAPDS 4.97g(20ミリモル)の代わりにPDA 4.06g(37.5ミリモル)、DAE 7.51g(37.5ミリモル)およびAPDS 6.21g(25ミリモル)を用いた以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミド酸溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0080】
実施例7、比較例5、6
PDA、DAE、APDSの配合量を表1に記載のとおりとした以外は実施例6と同様にして、リチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミド酸溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0081】
実施例8
よく乾燥させた4つ口セパラブルフラスコ中、窒素置換雰囲気下、TFMB 12.81g(40ミリモル)、BAPP 16.42g(40ミリモル)とAPDS 4.97g(20ミリモル)をNMP 150gに溶解させた。ここにODPA 30.38g(98ミリモル)をNMP 39.3gとともに加えて、50℃以上にならないように冷却しながら撹拌した。その後、40℃で1時間撹拌し、その後、イソキノリン(和光純薬製)1滴とトルエン(東京化成(製)30mLを加えて、溶液の温度を200℃まで30分かけて昇温し、200℃で4時間攪拌を続け、リチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリイミド溶液を得た。本溶液にNMPを追加して、濃度20%のポリイミド溶液を調整し、前記(2)記載の方法でポリイミドの硬化膜を作製し、ガラス転移温度を測定したところ、210℃であった。
【0082】
コバルト酸リチウム粉末(宝泉(株)製、C−10N)とアセチレンブラック(三菱化学(株)製)との85:10(重量比)の混合物51gをポリイミド溶液30gと混合した。これを3本ロールに3回通して正極用ペーストを得た。この正極用ペーストをアルミ箔(宝泉(株)製、20μm厚)に厚み25μmとなるようにドクターブレードで塗布した。正極用ペーストを塗布したアルミ箔を、イナートオーブン(光洋サーモシステム製、INH−9)で酸素濃度20ppm以下になるように窒素を流しながら、80℃で1時間加熱後、サンプルの一部を取り出し、正極(高温処理前)を得た。またイナートオーブンに残ったサンプルについては、さらに3.5℃/分で温度を200℃まで上げ、200℃で1時間加熱(焼成)した。その後、オーブン内の温度が50℃以下になったところで取り出し、正極(高温処理後)を得た。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0083】
実施例9、比較例7、8
TFMB、BAPP、APDSの配合量を表1に記載のとおりとした以外は実施例8と同様にしてリチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリイミド溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0084】
実施例10
DDS 19.86g(80ミリモル)、APDS 4.97g(20ミリモル)の代わりに、TPE−Q 23.38g(80ミリモル)およびKF8010 17.2g(20ミリモル)を用いた以外は実施例4と同様にして、リチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミド酸溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0085】
実施例11
TFMB 12.81g(40ミリモル)、BAPP 16.42g(40ミリモル)およびAPDS 4.97g(20ミリモル)の代わりにBAPP 32.84g(80ミリモル)およびKF8010 17.2g(20ミリモル)を用いた以外は実施例8と同様にして、リチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリイミド溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0086】
比較例9
BAPP、KF8010の配合量を表1に記載のとおりとした以外は実施例11と同様にして、リチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリイミド酸溶液(固形分濃度20重量%)、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0087】
実施例12
500mLの4つ口フラスコに窒素導入管、攪拌器、温度計を取り付け、DAE14.02g(70mmol)とAPDS7.44g(30mmol)を入れ、NMP150gに溶解させ、トリエチルアミン(和光純薬(株)製)10.1g(100mmol)を加えた。その後、溶液を10℃以下になるように氷浴中で冷却し、無水トリメリット酸クロリド(TMC)22.66g(100mmol)をアセトン80gに溶解させた溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液を室温にゆっくりと戻し、2時間攪拌を続けた。反応終了後、溶液をろ過して、ろ液を水2Lに投入して、黄色の固体を得た。さらに水で洗浄を繰り返し、200℃のオーブンで24時間乾燥とイミド化を行い、ポリアミドイミドを得た。その後、オーブンからポリアミドイミドの粉体を取り出し、20gを秤量して80gのNMPに室温で攪拌しながら溶解させてリチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミドイミド溶液を得た。この溶液を用いて、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0088】
実施例13、比較例10
DAEおよびAPDSの配合量を表2に記載のとおりとした以外は、実施例12と同様にしてリチウムイオン電池正極用バインダーを含有するポリアミドイミド溶液、正極(高温処理前)および正極(高温処理後)を作製した。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリイミドおよび/または下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリイミド前駆体を含有するリチウムイオン電池正極用バインダー。
【化1】

(上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェニル基または水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換したフェニル基を示し、複数のR、Rはそれぞれ同じでも異なってもよい。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキレン基、フルオロアルキレン基、炭素数4〜10のシクロアルキレン基、フルオロシクロアルキレン基、フェニレン基またはフルオロフェニレン基を示す。mは1〜10より選ばれる整数を示す。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるジアミンの残基を全ジアミン残基中20〜40モル%有するポリアミドイミドを含有するリチウムイオン電池正極用バインダー。
【化2】

(上記一般式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェニル基または水素原子の少なくとも1つを炭素数1〜10のアルキル基で置換したフェニル基を示し、複数のR、Rはそれぞれ同じでも異なってもよい。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキレン基、フルオロアルキレン基、炭素数4〜10のシクロアルキレン基、フルオロシクロアルキレン基、フェニレン基またはフルオロフェニレン基を示す。mは1〜10より選ばれる整数を示す。)
【請求項3】
請求項1または2記載のリチウムイオン電池電極用バインダーおよびリチウムイオン電池正極活物質を含有するリチウムイオン電池正極用ペースト。
【請求項4】
請求項3記載のリチウムイオン電池正極用ペーストを金属箔上に1〜500μmの厚みで塗布し、100〜500℃で1分間〜24時間熱処理することを特徴とするリチウムイオン電池正極の製造方法。

【公開番号】特開2013−69466(P2013−69466A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205701(P2011−205701)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】