説明

リチウムイオン電池用正極材粒子の製造方法

【解決手段】硫酸マンガン(II)と硫酸鉄(II)とリン酸リチウム及び/又はリン酸水素リチウムとを水に混合分散したpHが5以上9以下の懸濁液を気密圧力容器に封入して、130℃以上180℃以下で水熱合成してLiMnxFe1-xPO4(xは0.05以上0.5以下の正数)で示されるリチウム化合物の一次粒子を合成し、一次粒子と一次粒子に対し4質量%以上40質量%以下の有機物とを含む粒子分散液を霧状に噴霧し、造粒し、乾燥して、平均粒径が0.5μm以上4μm以下の造粒粒子を形成し、造粒粒子を600℃以上780℃以下で焼成し、有機物を炭化させて、炭素量が焼成前に対して30質量%以上70質量%以下であるリチウムイオン電池用正極材二次粒子を製造する。
【効果】リチウムイオン電池の正極材として、上記式で示されるポリアニオン系の正極材粒子を、高電流条件で優れた充放電容量を与える正極材粒子として製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極材粒子、特には、大電流用途に供されるリチウムイオン電池に適した正極材粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鉛蓄電池、Ni−Cd電池といった二次電池が、水系電解液中で水素の電離反応(H→H++e-)と、プロトンの移動とにより充放電を行っているのに対し、リチウムイオン電池は、有機電解液中におけるリチウムの電離(Li→Li++e-)と、生じたリチウムイオンの移動により充放電動作がなされる。このようなリチウムイオン電池では、リチウム金属が標準酸化還元電位に対して3Vの電位をもつため、従来の二次電池に比べ高い電圧での放電が可能である。
【0003】
加えて、酸化還元を担うリチウムは軽量であるため、放電電圧の高さと相俟って、従来の二次電池を大きく超える単位質量当たりのエネルギー密度を得ることができる。軽量大容量を特徴とするリチウムイオン電池は、昨今のノートパソコン、携帯電話といった充電池を必要とするモバイル機器の普及に伴い、広く用いられている。更に、近年はその利用分野がパワーツール、ハイブリッド自動車、電気自動車といった、屋外にて大電流の放電を必要とする領域まで拡大しつつある。
【0004】
リチウムイオン電池正極材料、とりわけPO4、SiO4、BO4といった酸化物を骨格とするポリアニオン系正極材料は、繰り返しの充放電を行った際の寿命、過充電耐性、電池が高温に曝された際の安定性に優れており、大電流の放電と共に、耐久性が要求される屋外使用電池、自動車用電池などの正極材料として好適な特性を有している。一方で、ポリアニオン系材料は、その材料特性上、電気伝導性が低いため、電池材料として用いるに当たっては、粒子表面に電気伝導層となる炭素被覆を施し、個々の正極材粒子を導電化することが必須である。
【0005】
ポリアニオン系正極材料のうち、特にLiMnxFe1-xPO4で示される材料は、熱分解温度が1,000℃近い堅固なPO4骨格を有しており、SiO4骨格のポリアニオン系正極材料と比べると、正極材としての充放電特性も比較的良好であることから、屋外使用電池への本格的な利用が期待されている材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−032241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、リチウムイオン電池の正極材として、LiMnxFe1-xPO4で示されるポリアニオン系の正極材粒子を、高電流条件で優れた充放電容量を与える正極材粒子として得ることができるリチウムイオン電池の正極材粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、
(1)硫酸マンガン(II)と、硫酸鉄(II)と、リン酸リチウム及び/又はリン酸水素リチウムとを水に混合分散して、pHが5以上9以下の懸濁液を調製し、
(2)得られた懸濁液を気密圧力容器に封入して、130℃以上180℃以下の温度で水熱合成することにより、下記式(1)
LiMnxFe1-xPO4 (1)
(式中、xは0.05以上0.5以下の正数である。)
で示されるリチウム化合物を一次粒子として合成し、
(3)得られた一次粒子と、この一次粒子に対し4質量%以上40質量%以下の有機物とを含む粒子分散液を調製し、この粒子分散液を、流体噴霧式スプレードライヤなどによって、霧状に噴霧し、造粒し、乾燥して、平均粒径が0.5μm以上4μm以下の造粒粒子を形成し、更に、
(4)得られた造粒粒子を600℃以上780℃以下の温度で焼成し、造粒粒子に含まれる有機物を炭化させて、炭素量を焼成前の造粒粒子に対して30質量%以上70質量%以下とした二次粒子が、LiMnxFe1-xPO4で示される正極材粒子として、リチウムイオン電池において、高電流条件で優れた充放電容量を与えるものであることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、以下のリチウムイオン電池用正極材粒子の製造方法を提供する。
請求項1:
硫酸マンガン(II)と、硫酸鉄(II)と、リン酸リチウム及び/又はリン酸水素リチウムとを水に混合分散して、pHが5以上9以下の懸濁液を調製する工程、
上記懸濁液を気密圧力容器に封入して、130℃以上180℃以下の温度で水熱合成することにより、下記式(1)
LiMnxFe1-xPO4 (1)
(式中、xは0.05以上0.5以下の正数である。)
で示されるリチウム化合物を一次粒子として合成する工程、
上記一次粒子と、該一次粒子に対し4質量%以上40質量%以下の有機物とを含む粒子分散液を調製し、該粒子分散液を霧状に噴霧し、造粒し、乾燥して、平均粒径が0.5μm以上4μm以下の造粒粒子を形成する工程、及び
上記造粒粒子を600℃以上780℃以下の温度で焼成し、造粒粒子に含まれる有機物を炭化させて、炭素量が焼成前の造粒粒子に対して30質量%以上70質量%以下である二次粒子を得る工程
を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用正極材粒子の製造方法。
請求項2:
上記噴霧、造粒及び乾燥を流体噴霧式スプレードライヤで行うことを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池用正極材粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リチウムイオン電池の正極材として、LiMnxFe1-xPO4で示されるポリアニオン系の正極材粒子を、高電流条件で優れた充放電容量を与える正極材粒子として製造することができる。また、この正極材粒子を用いたリチウムイオン電池は、大電流用途に供されるリチウムイオン電池として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られた正極材粒子(二次粒子)の走査型電子顕微鏡像である。
【図2】実施例1及び比較例1,3の評価用電池の放電レートに対する正極材粒子単位質量当りの放電電力容量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
本発明においては、リチウムイオン電池の正極材として、下記式(1)
LiMnxFe1-xPO4 (1)
(式中、xは0.05以上0.5以下の正数である。)
で示されるリチウム化合物を合成する。
【0013】
LiMnxFe1-xPO4で示されるポリアニオン系の正極材の場合、含有するMn及びFeのうち、Mnに対してのFeの割合が増加すると、充放電時の放電電圧が低下し、特に、マンガンを含有しない(x=0)の場合には、初期放電電圧が3.4V(対Li負極)となる結果、これを用いた電池の起電力は低いものとなってしまう。この一方で、Feを含有しない(x=1)場合には、初期放電電圧は4.1V(対Li負極)と高くなるものの、満充電時、即ち、Liが完全にイオン化して脱離し、正極材がMnPO4単層となった際に、Mnの溶出が生じやすくなるため、電池寿命の観点では好ましくない。このような理由により、実用上の組成として、Fe及びMnの総量に対するMnの割合は5mol%以上50mol%以下、即ち、上記式(1)におけるxの値は0.05以上0.5以下とする。
【0014】
本発明のリチウムイオン電池用正極材粒子の製造では、まず、硫酸マンガン(II)と、硫酸鉄(II)と、リン酸リチウム及び/又はリン酸水素リチウムとを水に混合分散して、懸濁液を調製する。硫酸マンガン(II)、硫酸鉄(II)、並びにリン酸リチウム及び/又はリン酸水素リチウムの量は、合成する上記式(1)で示されるリチウム化合物の組成に相当する量で用いればよく、特に、硫酸マンガン(II)、硫酸鉄(II)が溶解する範囲の水を用いて混合分散させることが好ましい。
【0015】
この原料懸濁液のpHは、原料懸濁液の溶液部分のpHとして5以上、特に6.5以上であり、9以下、特に8以下とする。原料懸濁液のpHが5未満の場合は、後述する水熱合成において、上記式(1)で示されるリチウム化合物の合成が極端に遅くなる一方、pHが9を超える場合は、水熱合成中に多量の水酸化物が生成することによって、スラリーが半固形のゲルとなってしまい、均一な反応が不可能となる。懸濁液のpHは、必要に応じて、水酸化リチウム、アンモニアなどによって調整することができる。
【0016】
次に、原料懸濁液を気密圧力容器(オートクレーブ)に封入して、水熱合成を行い、上記式(1)で示されるリチウム化合物の一次粒子を合成する。この水熱合成の温度は、130℃以上、特に135℃以上で、180℃以下、特に170℃以下とする。水熱合成の温度が130℃未満では、反応速度が極めて遅くなる。一方、温度が高い場合は、得られるリチウム化合物の特性上では、特段の不都合はないものの、180℃を超える温度では、反応容器に1MPaを超える耐圧が必要となるため、実用上の観点から180℃以下とする。水熱合成の反応時間は、特に限定されるものではないが、通常、1時間以上72時間以下である。この水熱合成により、上記式(1)で示されるリチウム化合物の一次粒子として合成する。水熱合成後のスラリーから、生成した上記式(1)で示されるリチウム化合物の粒子は、遠心分離、ろ過等の方法で固液分離すればよい。この一次粒子の平均粒径は、通常、0.2μm以上2μm以下である。本発明において、粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定できるメディアン径(D50:積算値50%の粒度)が適用される。
【0017】
次に、得られた上記式(1)で示されるリチウム化合物の一次粒子と有機物とを含む粒子分散液を調製し、この粒子分散液を霧状に噴霧し、造粒し、乾燥して平均粒径が0.5μm以上4μm以下の造粒粒子を形成する。
【0018】
水分散した上記式(1)で示されるリチウム化合物の一次粒子のスラリーに炭素源であるショ糖等の有機物を混合した後、遠心分離又はろ過により水分を取り除くと、混合した有機物の多くが水分と共に除去されるため、焼成して炭化を行った際に、正極材粒子表面の炭素が不足して導電性が低下してしまう。また、得られる正極材粒子のロット間での導電性の差が大きくなってしまう。更に、水熱合成により得られた一次粒子は、極めて微細なため、有機物を混合して焼成を行う過程、その後の電池製造各工程で、容易に凝集したり、圧縮固化したりするなど、取り扱いが困難である。
【0019】
本発明においては、水熱合成後に、一旦分離した上記式(1)で示されるリチウム化合物の一次粒子を、再度、水に分散し、この分散液に一次粒子に対し、4質量%以上、特に5質量%以上で、40質量%以下、特に30質量%以下の有機物を混合する。そして、この一次粒子と有機物とを焼成して炭化処理する際、焼成前に、この有機物を添加した分散液を、噴霧乾燥することにより、一次粒子が複数個凝集した造粒粒子(有機物混合造粒粒子)を形成し、これを焼成すれば、有機物と一次粒子とがほぼ均一に混合された状態で炭化が進行し、導電性が良好で、かつ、ばらつきの小さい正極材粒子(二次粒子)を得ることができる。分散液に添加する有機物としては、ショ糖、グルコース等の糖類、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどが挙げられ、水溶性有機物、特に、炭素、水素及び酸素のみを構成元素とする水溶性有機物が好適である。
【0020】
造粒粒子の粒径は、大粒径化すると、電池電極製造工程での取り扱い性は良好になるものの、正極材としての充放電特性は粒径の増大に比例し劣化してしまう。このような充放電特性劣化の理由としては、特に限定されるものではないが、大径の造粒粒子では焼成時に内部と表層部とで炭化の状況に差異が生じてしまうためと考えられる。一方、造粒粒子の粒径が小さすぎる場合は、電池電極製造工程での取り扱いが困難となり、なおかつ、後述する焼成工程において、隣接する造粒粒子の間で、部分的な固着が生じることで、焼成後の粒度分布が著しく不均一となってしまうためである。そのため、造粒粒子の平均粒径は0.5μm以上4μm以下とする。
【0021】
粒子分散液を霧状に噴霧し、造粒し、乾燥して平均粒径が0.5μm以上4μm以下の造粒粒子を形成する方法としては、スプレードライヤによる方法が好適であり、流体噴霧式(流体ノズル噴霧式)のスプレードライヤによる方法が特に好適である。
【0022】
流体噴霧式乾燥法は圧縮空気の噴射により流体を微細な霧状としつつ温風乾燥する方法で、アトマイザ方式等の機械式造粒乾燥法に比べ、微細な二次粒子が得られる。噴射ノズルの本数により2流体式、4流体式等の方式があり、本発明においては、いずれの方式も用いることができる。いずれの方式であっても、平均粒径が0.5μm以上4μm以下の造粒粒子を得ることができるが、均一で微細な二次粒子を製造する観点からは、4流体式のスプレードライヤがより優れている。スプレードライヤによる粒子分散液の噴霧乾燥条件(一次粒子濃度、有機物濃度、分散液流量、乾燥ガス流量、乾燥温度など)は、スプレードライヤの構造等に応じて、造粒粒子の平均粒径が所定の範囲内になるように適宜設定される。
【0023】
また、平均粒径が0.5μm以上4μm以下の造粒粒子をより確実に得る観点からは、分散液に添加する有機物の量を上述した範囲とすることも重要である。有機物の量が少なすぎると、噴霧乾燥時に一次粒子を結びつける粘結力が不足して造粒粒子の形成が困難となる一方、有機物の量が多すぎると、乾燥中の造粒粒子同士の粘着が生じやすくなり、二次粒子の粒度の均一性が低下すると共に、多くの造粒粒子が凝集して極度に肥大化した集合粒子の発生頻度が増加する。
【0024】
本発明においては、得られた造粒粒子を焼成して、正極材粒子としての二次粒子を得る。この焼成工程は、造粒粒子中、一次粒子同士を結着している有機物を炭化させ、導電性の炭素被覆とするために実施する。焼成は、加熱時の有機物及び一次粒子の燃焼酸化を防ぐために、無酸素雰囲気下、例えば、Ar等の不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。焼成温度は、600℃以上、特に650℃以上で、780℃以下、特に750℃以下とする。焼成温度が600℃未満の場合は、有機物から生成した炭素の結晶化度が不足し十分な導電性を得ることが困難である一方、焼成温度が780℃を超えると、炭化反応、再結晶化反応と共に、正極材材料である上記式(1)で示されるリチウム化合物の還元、分解反応が起こるため好ましくない。
【0025】
また、焼成工程では、造粒粒子に含まれる有機物を炭化させて、正極材粒子(二次粒子)に残留する炭素量を、焼成前の造粒粒子に対して30質量%以上、特に40質量%以上で、70質量%以下、特に60質量%以下とする必要がある。焼成工程における炭素の残留量が上記範囲とならない炭化処理を行った場合、得られた正極材粒子を用いたリチウムイオン電池において、1Cを超える高効率の充放電、特に、満充電した電気量を1時間以内で放電させるような高電流値での放電を行った際の充放電容量が著しく少なくなってしまう。
【0026】
このように焼成工程における炭素の揮散量の多少で正極材としての特性に差異が生じる理由は定かではなく、その理由を限定するものではないが、炭素の揮散量が70質量%を超える場合、焼成後に得られる二次粒子の表層部の一次粒子近傍の炭素がほぼ消失してしまうことで、電気伝導性が局部的に低下してしまうためと推定される。一方、炭素の揮散量が30質量%未満の場合、有機物の分解成分が揮散することで生成する炭化物組織内に形成されるナノサイズの空孔が少なく、緻密な炭素膜が形成されてしまい、この緻密な膜が正極材の一次粒子表面を覆って、電解液やLi+イオンの拡散性が低下することが原因と推定される。
【0027】
焼成工程における均熱時間、特に、上記処理温度範囲内での定温処理時間は、昇温及び降温のパターン、焼成容器、不活性雰囲気ガスの流量、ガス圧力など、種々の因子により異なるため、特に限定するものではないが、一般的には、数十分間から数時間程度である。
【0028】
このようにして得られる正極材粒子(二次粒子)の含有炭素量は、正極材材料(リチウム化合物)の質量に対して、通常、2%以上15%以下である。また、正極材粒子(二次粒子)の平均粒径は、通常、0.5μm以上4μm以下である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0030】
[実施例1]
リン酸リチウム1mol、硫酸鉄(II)0.5mol、及び硫酸マンガン(II)0.5molを、1Lの水で混合し、これを30分間撹拌し、pHが6.7の混合懸濁液とした。この懸濁液を、オートクレーブに封入し、150℃で20時間の水熱合成を行うことで、LiMn0.5Fe0.5PO4で示されるリチウム化合物の一次粒子を合成した。
【0031】
次に、得られたリチウム化合物の一次粒子を、その質量の20%のショ糖と共に、1.5Lの水に分散させて混合した後、4流体ノズル式スプレードライヤ(藤崎電機(株)製)を用い、20ml/minの分散液滴下速度、80L/minのエアブロー流量で霧状に噴霧し、造粒し、乾燥して、平均粒径2μmのショ糖混合造粒粒子を得た。このショ糖混合造粒粒子の含有炭素量を測定したところ、正極材(リチウム化合物)の質量の8.1%であった。
【0032】
次に、得られたショ糖混合造粒粒子を、Ar気流中、740℃で60分間焼成し、平均粒径が2.5μmの正極材粒子(二次粒子)を得た。得られた二次粒子の走査型電子顕微鏡像を図1に示す。この二次粒子の含有炭素量を測定したところ、正極材(リチウム化合物)の質量の4.6%となり、初期炭素量の43.1%が揮散していることが確認された。
【0033】
また、正極材粒子(二次粒子)中の炭化の状態をX線回折法により評価した。炭化物の結晶性は高結晶ではないが、[002]面の格子面間隔は、0.39±0.01nmであり、黒鉛の格子面間隔である0.335nmより広いものであった。
【0034】
次に、得られた正極材粒子(二次粒子)を、ケッチェンブラック(御国色素(株)製)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)と共に、N−メチル−2−ピロリドンに混合し、Al集電体に塗布し、乾燥して、電池正極材シートとした。金属リチウムを負極とし、得られた正極材シートを正極として、評価用のCR2032型コイン電池を組み立て、低率充放電及び高率充放電における正極材粒子(二次粒子)の単位質量当りの電力容量を評価した。結果を図2に示す。その結果、0.1Cの低率充放電における容量は580mWh/gであった。一方、5Cの高率放電時では容量276mWh/gとなり、低率充放電時の容量の48%を維持した。
【0035】
[比較例1]
リン酸リチウム1mol、硫酸鉄(II)0.5mol、及び硫酸マンガン(II)0.5molを、1Lの水で混合し、これを30分間撹拌し、pHが6.7の混合懸濁液とした。この懸濁液を、オートクレーブに封入し、150℃で20時間の水熱合成を行うことで、LiMn0.5Fe0.5PO4で示されるリチウム化合物の一次粒子を合成した。
【0036】
次に、得られたリチウム化合物の一次粒子を、その質量の20%のショ糖と共に、1.5Lの水に分散させて混合した後、50℃に維持したロータリーキルン((株)モトヤマ製 ラボ用ロータリーキルン RK−0330)を用い、24時間乾燥し、得られたフレーク状の混合物を乳鉢で粉砕した後、篩分級し、平均粒径4.2μmのショ糖混合造粒粒子を得た。このショ糖混合造粒粒子の含有炭素量を測定したところ、正極材(リチウム化合物)の質量の8.3%であった。
【0037】
次に、得られたショ糖混合造粒粒子を、Ar気流中、780℃で30分間焼成し、平均粒径が4.5μmの正極材粒子(二次粒子)を得た。この二次粒子の含有炭素量を測定したところ、正極材(リチウム化合物)の質量の6.0%となり、初期炭素量の28.2%が揮散していることが確認された。
【0038】
次に、得られた正極材粒子(二次粒子)を用い、実施例1と同様にして、評価用のCR2032型コイン電池を組み立て、低率充放電及び高率充放電における正極材粒子(二次粒子)の単位質量当りの電力容量を評価した。結果を図2に示す。その結果、0.1Cの低率充放電における容量は実施例1の約88%の510mWh/gであった。一方、5Cの高率放電時では容量80mWh/gとなり、実施例1の約29%であった。
【0039】
[比較例2]
リン酸リチウム1mol、硫酸鉄(II)0.5mol、及び硫酸マンガン(II)0.5molを、1Lの水で混合し、これを30分間撹拌し、pHが6.7の混合懸濁液とした。この懸濁液を、オートクレーブに封入し、150℃で20時間の水熱合成を行うことで、LiMn0.5Fe0.5PO4で示されるリチウム化合物の一次粒子を合成した。
【0040】
次に、得られたリチウム化合物の一次粒子を、その質量の20%のショ糖と共に、1.5Lの水に分散させて混合した後、ロータリーアトマイザ式のスプレードライヤ(GEAプロセスエンジニアリング(株)(GEA Niro)製)を用い、造粒し、乾燥して、平均粒径4.8μmのショ糖混合造粒粒子を得た。このショ糖混合造粒粒子の含有炭素量を測定したところ、正極材(リチウム化合物)の質量の7.8%であった。
【0041】
次に、得られたショ糖混合造粒粒子を、Ar気流中、800℃で30分間焼成し、平均粒径が5μmの正極材粒子(二次粒子)を得た。この二次粒子の含有炭素量を測定したところ、正極材(リチウム化合物)の質量の2.2%となり、初期炭素量の72%が揮散していることが確認された。
【0042】
次に、得られた正極材粒子(二次粒子)を用い、実施例1と同様にして、評価用のCR2032型コイン電池を組み立て、低率充放電及び高率充放電における正極材粒子(二次粒子)の単位質量当りの電力容量を評価した。その結果、0.1Cの低率充放電における容量は実施例1の約60%の350mWh/gであった。一方、5Cの高率放電時では容量30mWh/gとなり、実施例1の約11%であった。
【0043】
[比較例3]
市販の炭素被覆LiFePO4粒子(エス・イー・アイ(株)製)を正極材粒子とし、実施例1と同様にして、評価用のCR2032型コイン電池を組み立て、低率充放電及び高率充放電における正極材粒子(二次粒子)の単位質量当りの電力容量を評価した。結果を図2に示す。その結果、0.1Cの低率充放電における容量は実施例1の約87%の504mWh/gであった。一方、5Cの高率放電時では容量がほぼ0mWh/gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸マンガン(II)と、硫酸鉄(II)と、リン酸リチウム及び/又はリン酸水素リチウムとを水に混合分散して、pHが5以上9以下の懸濁液を調製する工程、
上記懸濁液を気密圧力容器に封入して、130℃以上180℃以下の温度で水熱合成することにより、下記式(1)
LiMnxFe1-xPO4 (1)
(式中、xは0.05以上0.5以下の正数である。)
で示されるリチウム化合物を一次粒子として合成する工程、
上記一次粒子と、該一次粒子に対し4質量%以上40質量%以下の有機物とを含む粒子分散液を調製し、該粒子分散液を霧状に噴霧し、造粒し、乾燥して、平均粒径が0.5μm以上4μm以下の造粒粒子を形成する工程、及び
上記造粒粒子を600℃以上780℃以下の温度で焼成し、造粒粒子に含まれる有機物を炭化させて、炭素量が焼成前の造粒粒子に対して30質量%以上70質量%以下である二次粒子を得る工程
を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用正極材粒子の製造方法。
【請求項2】
上記噴霧、造粒及び乾燥を流体噴霧式スプレードライヤで行うことを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池用正極材粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−256592(P2012−256592A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104391(P2012−104391)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】