説明

リチウムイオン電池用正極活物質及びその製造方法

【課題】リチウム金属塩の複合体の焼成時間を短縮し、低コストで高品質のリチウムイオン電池用正極活物質を提供する
【解決手段】リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、リチウム塩と、酸化剤を含有する金属塩、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩とを含むリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、リチウム金属塩溶液スラリーを乾燥して、酸化剤を含有するリチウム金属塩の複合体の粉末、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩を含有するリチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、粉末を焼成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギ−密度電池として非水系のリチウムイオン二次電池の需要が急増しており、その性能向上に関して様々な観点からの研究が行われている。
【0003】
このリチウムイオン二次電池は、正極及び負極、並びに両電極間に介在する電解質を保持したセパレ−タの3つの基本要素によって構成されており、正極及び負極には活物質、導電材、結着材及び必要に応じて可塑剤を分散媒に混合分散させて成るスラリ−を金属箔や金属メッシュ等の集電体に塗工したものが使用されている。
【0004】
このうちの正極活物質としてはコバルト系複合酸化物(LiCoO2)、ニッケル系複合酸化物(LiNiO2)、マンガン系複合酸化物(LiMn24)といったリチウムと遷移金属との複合酸化物が適用されており、これまでにもこれらを基本とした種々の材料が提案されている。
【0005】
リチウムイオン二次電池用の正極材料として用いられる上記リチウム複合酸化物は、一般に、リチウムイオン二次電池用正極材料の主体となる元素の化合物(Co、Ni及びMn等の炭酸塩や酸化物など)とリチウム化合物(炭酸リチウム等)とを所定の割合で混合し、それを熱処理することにより合成されている。このようなリチウム複合酸化物の合成方法として、例えば、特許文献1には、炭酸リチウム懸濁液に、Ni、Mn又はCoの硝酸塩の1種以上を含む水溶液、あるいはこの水溶液とMg、Al、Ti、Cr、Fe、Cu又はZrの硝酸塩の1種以上を含む水溶液との混合液を投入してLiを含有する複合金属炭酸塩を析出させ、得られたLi含有複合金属炭酸塩を固液分離によって溶液中から分離した後、焼成させることを特徴とするリチウムイオン二次電池正極材料用前駆体材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−004724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン電池用正極活物質の製造工程には、上述のようにリチウムイオン電池用正極活物質の中間原料(前駆体、焼成原料)となるリチウム金属塩の複合体の焼成工程があるが、この焼成工程には多くの時間を要し、そのため製造コストの増大を引き起こしている。
【0008】
そこで、本発明は、リチウム金属塩の複合体の焼成時間を短縮し、低コストで高品質のリチウムイオン電池用正極活物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、焼成原料となるリチウム金属塩の複合体中に酸化剤を含有させる、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩を含有させることで、焼成時に金属の酸化を効率的に行い、それにより焼成時間を短縮させることができることを見出した。
【0010】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、リチウム塩と、酸化剤を含有する金属塩、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩とを含むリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、前記リチウム金属塩溶液スラリーを乾燥して、酸化剤を含有するリチウム金属塩の複合体の粉末、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩を含有するリチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、前記粉末を焼成する工程とを含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法である。
【0011】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は一実施形態において、前記金属塩に含まれる金属が、Ni、Mn及びCoから選択された1種以上である。
【0012】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は別の実施形態において、前記金属塩に少なくともNiが含まれ、前記粉末に含有される金属中のNiのモル比率が0.3以上である。
【0013】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は更に別の実施形態において、前記金属塩に少なくともNi及びMnが含まれ、前記粉末に含有される金属中のNiのモル比率がMnのモル比率より大きい。
【0014】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は更に別の実施形態において、酸化剤が硝酸塩である。
【0015】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は更に別の実施形態において、金属塩が硝酸塩である。
【0016】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は更に別の実施形態において、前記リチウム塩が炭酸リチウムである。
【0017】
本発明は、別の側面において、リチウム塩と、金属の硝酸塩とを含むリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、前記リチウム金属塩溶液スラリーを乾燥して、硝酸塩を主成分とする金属塩及び硝酸リチウムを主成分とするリチウム塩の複合体の粉末を得る工程と、前記粉末を焼成する工程とを含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法である。
【0018】
本発明は、更に別の側面において、リチウム塩と、金属の硝酸塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩、金属のオキシ水酸化物から選ばれる1種以上とを含むリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、前記リチウム金属塩溶液スラリーを乾燥して、金属の硝酸塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩、金属のオキシ水酸化物から選ばれる1種以上を含むリチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、前記粉末を焼成する工程とを含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法である。
【0019】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は一実施形態において、前記リチウム金属塩の複合体が、塩基性の金属の硝酸塩を含む。
【0020】
本発明は、更に別の側面において、組成式:LixNi1-yy2+α
(前記式において、MはMn及びCoであり、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、α>0.1である。)
で表されるリチウムイオン電池用正極活物質である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、焼成原料中に酸化剤を含有させることで、焼成中に原料内部から酸素を補うことができ、リチウム塩の複合体の焼成時間を短縮することができる。また、焼成中の雰囲気制御も不要となり、低コストで高品質のリチウムイオン電池用正極活物質を提供することができる。また、焼成原料中に酸化剤を含有させることで、作製されたリチウムイオン電池用正極活物質が酸素過剰となり、それを用いたリチウムイオン電池の種々の特性が良好となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、
組成式:LixNi1-yy2+α
(前記式において、MはMn及びCoであり、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、α>0.1である。)
で表される。
リチウムイオン電池用正極活物質における全金属に対するリチウムの比率が0.9〜1.2であるが、これは、0.9未満では、安定した結晶構造を保持し難く、1.2超では電池の高容量が確保できなくなるためである。
【0023】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、酸素が組成式において上記のようにO2+α(α>0.1)と示され、過剰に含まれており、リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となる。ここで、αについて、好ましくはα>0.15であり、より好ましくはα>0.20である。
【0024】
(リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
まず、酸化剤を含有する金属塩、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩の水溶液を作製する。金属塩は、硝酸塩、水酸化物、炭酸塩あるいはオキシ水酸化物等を用いることができ、なかでも硝酸塩が酸化剤としての作用が大きいためより好ましい。金属塩に含まれる金属は、Ni、Mn及びCoから選択された1種以上である。酸化剤としてはどのようなものを用いてもよいが、例えば硝酸塩が使用しやすいため好ましい。なかでも金属の硝酸塩がより好ましく、例えば、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、及び、硝酸マンガン等を用いることができる。酸化作用を呈するイオンを有する金属塩としては、溶解度の高い硝酸塩が好ましい。また、このとき、金属塩溶液に含まれる各金属を所望のモル比率となるように調整しておく。これにより、正極活物質中の各金属のモル比率が決定する。金属塩溶液にNiが含まれる場合、当該金属中のNiのモル比率が0.3以上であるのが好ましい。Niのモル比率が0.3未満では正極材1モルを焼成するために必要な酸素量の絶対量が少なく、金属塩中の酸化剤や酸化作用を呈するイオンの効果が十分に得られないためである。また、金属塩溶液に少なくともNi及びMnが含まれる場合、含まれる金属中のNiのモル比率がMnのモル比率より大きいことが好ましい。Niのモル比率がMnのモル比率以下の場合は、Niの価数が2価となり、熱処理中にNiを酸化する必要が無く、金属塩中の酸化剤や酸化作用を呈するイオンの効果が十分に得られないためである。
【0025】
次に、リチウム源として、例えば炭酸リチウムを純水に懸濁させ、その後、上記の金属の金属塩溶液を投入してリチウム金属塩溶液スラリーを調整する。
次に、リチウム金属塩溶液スラリーを、マイクロミストドライヤーで噴霧乾燥することにより、酸化剤を含有するリチウム金属塩の複合体の粉末を得る。このときの反応は、金属塩の金属を「M」と表すと、次のいくつかの化学式で示される。すなわち、酸化剤を含有するリチウム金属塩の複合体は、硝酸塩、水酸化物、炭酸塩あるいはオキシ水酸化物のいずれかである。
当該工程について、以下に金属塩が硝酸塩である場合を例に挙げて説明する。一般的に、金属の硝酸塩は、加熱により硝酸を失い、塩基性塩となることが知られており、乾燥時にこの反応が進行している。
M(NO32+1/2Li2CO3
→1/2MCO3+1/2M(NO32+LiNO3 (1)
M(NO32+1/2Li2CO3+5/6H2
→1/3M3(NO32(OH)4+LiNO3+1/3HNO3+1/2CO2 (2)
M(NO32+1/2Li2CO3+H2O+1/4O2
→MOOH+LiNO3+HNO3+1/2CO2 (3)
M(NO32+1/2Li2CO3+3/2H2
→1/2(M(NO32(OH)2・2H2O)+LiNO3+1/2CO2 (4)
マイクロミストドライヤーは、微粒化装置を利用した噴霧乾燥機であり、リチウム金属塩溶液スラリーを複数経路で高速気流によって薄く延ばし、それらを所定の衝突焦点で衝突させることにより衝撃波を起こし、これによって数μmのミストを形成することができる。微粒化装置としては、例えば四流体ノズルを備えたものが好ましい。四流体ノズルを備えた微粒化装置は、ノズルエッジを対称に、液体及び気体の系路が2つずつ設けられ、例えばエッジ先端での流体流動面と衝突焦点により微粒化を行う。
生成したミストはマイクロミストドライヤー内の乾燥室で乾燥されて、主に上記の式の右辺の化合物からなる微小粒径(数μm)を有するリチウム金属塩の複合体の乾燥粉末が生成する。
このように、マイクロミストドライヤーを用いることによって、少なくとも以下の効果が得られる:
(1)シングルミクロン液滴の大量噴霧が可能となる。
(2)気液比を変化させることで液滴平均径のコントロールが可能となる。
(3)粒子の粒度分布がシャープになって粒径のバラツキが良好に抑制される。
(4)外部混合方式で生じていたノズル詰まりが抑制されて長時間連続噴霧が可能となる。
(5)エッジ長さの調整により容易に必要噴霧量が得られる。
(6)通常乾燥では20〜30μmの粒径であった乾燥粉末を数μmの微小粒径に形成することができる。
(7)乾燥と微小粒子化とを同時に行うことができ、製造効率が良好となる。
【0026】
次に、上記乾燥粉末を、所定の大きさの焼成容器に所定の厚みとなるように充填し、大気中などの酸化性を保持しうる雰囲気中の大気圧下で所定時間加熱保持する酸化処理及び粉砕を行うことにより正極活物質の粉体を得る。このときの反応は、金属塩の金属を「M」と表すと、次の化学式で示される。いずれの式でも右辺に酸素項があり、焼成原料から酸素を発生することを表している。
1/2MCO3+1/2M(NO32+LiNO3
→LiMO2+2NO2+1/2CO2+1/4O2 (5)
1/3M3(NO32(OH)4+LiNO3
→LiMO2+5/3NO2+2/3H2O+1/6O2 (6)
MOOH+LiNO3
→LiMO2+NO2+1/2H2O+1/4O2 (7)
1/2(M2(NO32(OH)2・2H2O)+LiNO3
→LiMO2+2NO2+3/2H2O+1/4O2 (8)
酸化処理は、通常の静置炉の他、連続炉やその他の炉でも実施が可能である。
このように、本発明では、酸化剤を含有する金属塩、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩とを含むリチウム金属塩溶液スラリーを、マイクロミストドライヤーで噴霧乾燥して作製したリチウム金属塩の複合体の粉末を焼成している。このため、水以外の投入した原料が全て正極材の合成に使用され、ろ過等の、不要成分や不純物の分離作業が不要である。従って、良好な製造効率及び製造コストで高品位の正極活物質を作製することができる。さらに、はじめに混合する金属塩溶液中に酸化剤が含まれており、これがそのまま焼成するリチウム金属塩の複合体の粉末に含まれるため、酸化剤を別に投与しなくてもよい。また、酸素雰囲気での焼成も不要である。従って、焼成時間が短縮され、良好な製造効率及び製造コストで高品位の正極活物質を作製することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0028】
(実施例1〜3)
まず、炭酸リチウム517gを純水1.06リットルに懸濁させた後、4.8リットルの金属塩溶液を投入した。ここで、金属塩溶液は、硝酸ニッケル、硝酸コバルト及び硝酸マンガンの各水和物をNi、Mn及びCoが所定の比率になるように調整し、またNi、Mn及びCoの各モル数の合計が14モルになるように調整した。なお、炭酸リチウムの懸濁量は製品の化学式をLixNi1-yy2+αで表した際のx=1.0となる量であり、次式で算出されたものである。
W(g)=炭酸リチウム分子量×(Ni、Mn、Co全モル数)×0.5
=73.9×14×0.5=517
この式における「0.5」は製品(LixNi1-yy2+α)と炭酸リチウム(Li2CO3)とのLi含有量の比である。
このように作製した炭酸リチウム懸濁液に金属の硝酸塩溶液を投入することで、微小粒の金属塩を含有するスラリーが生成した。
続いて、このスラリーを藤崎電機社製マイクロミストドライヤー(MDL−100M)で噴霧乾燥し、酸化剤として硝酸塩を含むリチウム含有複合体(リチウムイオン二次電池正極材料用前駆体材料)3100gを得た。
この複合体のXRD回折から、複合体は硝酸リチウム(LiNO3)及び塩基性金属硝酸塩{M3(NO32(OH)4:Mは金属成分}から形成されていることを確認した。
次に、内部が縦×横=280mm×280mm、且つ、容器高さ=100mmの大きさに形成された焼成容器を準備し、この焼成容器内に複合体の高さが55mmになるように生成した複合体を充填し、空気雰囲気下で所定の温度、加熱保持時間を種々変更して(10〜48時間)酸化処理した。次に、それぞれの条件で得られた酸化物を同一条件で解砕し、リチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。
得られた正極材の粉末はXRD回折で層状構造であることを確認し、ICP法により、Li、Ni、Mn及びCoの含有量を測定した。分析結果から、製品をLixNi1-yy2+αの化学式で表した場合の、x、y及びαを求めた。化学式中のMはMn及びCoに該当する。得られたNi、Mn及びCoの比率を表1に記載した。
各加熱時間で得られた粉末の粉末X線回折測定を行い、(003)及び(104)のピーク強度比が0.8以下で良好な結晶性を得られる最短の加熱時間を決定した。
電池特性評価用の電極は、活物質:バインダー:導電材=85:8:7の比率で有機溶媒であるNMP(N−メチルピロリドン)に混錬したものをAl箔に塗布し、乾燥後にプレスして作製した。
これらを用いて対極をLiとした評価用の2032型コイン電池を作製し、電解液に1MのLiPF6を用い、電解質にはエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1となるように溶解したものを使用し、充電は定電流定電圧モードで電圧を4.3V、放電は定電流モードで電圧を3.0Vとして充放電を行った。初期容量と初期効率(放電量/充電量)との確認は0.1Cでの充放電で確認し、電池特性(放電容量及びレート特性)を評価した。
【0029】
(比較例1〜3)
まず、炭酸リチウム517gを純水3.2リットルに懸濁させた後、4.8リットルの金属塩溶液を投入した。ここで、金属塩溶液は、塩化ニッケル、塩化コバルト及び塩化マンガンの各水和物をNi、Mn及びCoが所定の比率になるように調整し、またNi、Mn及びCoの各モル数の合計が14モルになるように調整した。なお、炭酸リチウムの懸濁量は製品の化学式をLixNi1-yy2+αで表した際のx=1.0となる量であり、次式で算出されたものである。
W(g)=炭酸リチウム分子量×(Ni、Mn、Co全モル数)×0.5
=73.9×14×0.5=517
この式における「0.5」は製品(LixNi1-yy2+α)と炭酸リチウム(Li2CO3)とのLi含有量の比である。
このように作製した炭酸リチウム懸濁液に金属の塩化物溶液を投入することで微小粒の金属塩を含有するスラリーが生成した。
続いて、このスラリーを藤崎電機社製マイクロミストドライヤー(MDL−100M)で噴霧乾燥し、リチウム含有複合体(リチウムイオン二次電池正極材料用前駆体材料)3100gを得た。
この複合体のXRD回折から、複合体は塩化リチウム(LiCl)及び金属炭酸塩{MCO3:Mは金属成分}から形成されていることを確認した。
次に、内部が縦×横=280mm×280mm、且つ、容器高さ=100mmの大きさに形成された焼成容器を準備し、この焼成容器内に複合体の高さが55mmになるように生成した複合体を充填し、空気雰囲気下で所定の温度、加熱保持時間を種々変更して(10〜48時間)酸化処理した。次に、それぞれの条件で得られた酸化物を同一条件で解砕し、リチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。
得られた正極材の粉末はICP法により、Li、Ni、Mn及びCoの含有量を測定した。分析結果から、製品をLixNi1-yy2+αの化学式で表した場合の、x、y及びαを求めた。化学式中のMはMn及びCoに該当する。得られたNi、Mn及びCoの比率を表1に記載した。
各加熱時間で得られた粉末の粉末X線回折測定を行ったが、結晶性が低く、(003)及び(104)のピーク強度比が0.8以下で良好な結晶性を得られる最短の加熱時間を決定するに至らなかった。
【0030】
(比較例4〜6)
まず、炭酸リチウム1552gを純水3.2リットルに懸濁させた後、4.8リットルの金属塩溶液を投入した。ここで、金属塩溶液は、塩化ニッケル、塩化コバルト及び塩化マンガンの各水和物をNi、Mn及びCoが所定の比率になるように調整し、またNi、Mn及びCoの各モル数の合計が14モルになるように調整した。なお、炭酸リチウムの懸濁量は製品の化学式をLixNi1-yy2+αで表した際のx=1.0となる量であり、次式で算出されたものである。
W(g)=炭酸リチウム分子量×(Ni、Mn、Co全モル数)×1.5
=73.9×14×1.5=1552
この式における「1.5」は製品(LiNi1-yy2+α)と炭酸リチウム(Li2CO3)とのLi含有量の比である0.5に洗浄で除去される分(1.0)を加えた数値である。
このように作製した炭酸リチウム懸濁液に金属の塩化物溶液を投入することで、溶液中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出した。
この析出物を濾過・分離してから、さらに濃度13.8g/Lの飽和炭酸リチウム溶液で洗浄した。洗浄は、フィルタープレスを使用し、濾液の塩素濃度が飽和炭酸リチウム溶液中の飽和塩素濃度と同レベルとなるまで実施した。この洗浄には飽和炭酸リチウム溶液20リットルを要した。
析出物を洗浄後、乾燥して2160gのリチウム含有炭酸塩(リチウムイオン二次電池正極材料用前駆体材料)を得た。
この複合体のXRD回折から、複合体は主に金属炭酸塩(MCO3:Mは金属成分)から形成されていることを確認した。
次に、内部が縦×横=280mm×280mm、且つ、容器高さ=100mmの大きさに形成された焼成容器を準備し、この焼成容器内に複合体の高さが55mmになるように生成した複合体を充填し、空気雰囲気下で所定の温度、加熱保持時間を種々変更して(10〜48時間)酸化処理した。次に、それぞれの条件で得られた酸化物を同一条件で解砕し、リチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。
得られた正極材の粉末はXRD回折で層状構造であることを確認し、ICP法により、Li、Ni、Mn及びCoの含有量を測定した。分析結果から、製品をLixNi1-yy2+αの化学式で表した場合の、x、y及びαを求めた。化学式中のMはMn及びCoに該当する。得られたNi、Mn及びCoの比率を表1に記載した。
各加熱時間で得られた粉末の粉末X線回折測定を行い、(003)及び(104)のピーク強度比が0.8以下で良好な結晶性を得られる最短の加熱時間を決定した。
電池特性評価用の電極は、活物質:バインダー:導電材=85:8:7の比率で有機溶媒であるNMP(N−メチルピロリドン)に混錬したものをAl箔に塗布し、乾燥後にプレスして作製した。
これらを用いて対極をLiとした評価用の2032型コイン電池を作製し、電解液に1MのLiPF6を用い、電解質にはエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を体積比1:1となるように溶解したものを使用し、充電は定電流定電圧モードで電圧を4.3V、放電は定電流モードで電圧を3.0Vとして充放電を行った。初期容量と初期効率(放電量/充電量)とは0.1Cでの充放電で確認し、電池特性(放電容量及びレート特性)を評価した。
実施例及び比較例の各試験条件及び評価結果を、表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1〜3では、いずれも焼成時間が短く、且つ、放電容量及びレート特性が良好であった。
比較例1〜3では、リチウム金属塩溶液スラリーに対して、塩素イオンを除去せずに乾燥したことで、焼成原料中に塩素イオンが多量に混入し、これを焼成時に完全に除去することができなかった。このため、優れた電池特性を実現する良好な正極活物質の結晶が得られなかった。
比較例4〜6では、良好な結晶が得られた。しかしながら、塩素イオンは洗浄によって除去されているが、焼成原料中に酸化剤が含有されておらず、Niの酸化を有効に進行させるための焼成時間が、実施例1〜3と比較して長かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩と、酸化剤を含有する金属塩、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩とを含むリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、
前記リチウム金属塩溶液スラリーを乾燥して、酸化剤を含有するリチウム金属塩の複合体の粉末、又は、酸化作用を呈するイオンを有する金属塩を含有するリチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、
前記粉末を焼成する工程と、
を含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記金属塩に含まれる金属が、Ni、Mn及びCoから選択された1種以上である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記金属塩に少なくともNiが含まれ、前記粉末に含有される金属中のNiのモル比率が0.3以上である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記金属塩に少なくともNi及びMnが含まれ、前記粉末に含有される金属中のNiのモル比率がMnのモル比率より大きい請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記酸化剤が硝酸塩である請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記金属塩が硝酸塩である請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム塩が炭酸リチウムである請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
リチウム塩と、金属の硝酸塩とを含むリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、
前記リチウム金属塩溶液スラリーを乾燥して、硝酸塩を主成分とする金属塩及び硝酸リチウムを主成分とするリチウム塩の複合体の粉末を得る工程と、
前記粉末を焼成する工程と、
を含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
リチウム塩と、金属の硝酸塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩、金属のオキシ水酸化物から選ばれる1種以上とを含むリチウム金属塩溶液スラリーを準備する工程と、
前記リチウム金属塩溶液スラリーを乾燥して、金属の硝酸塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩、金属のオキシ水酸化物から選ばれる1種以上を含むリチウム金属塩の複合体の粉末を得る工程と、
前記粉末を焼成する工程と、
を含むリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム金属塩の複合体が、塩基性の金属の硝酸塩を含む請求項9に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
組成式:LixNi1-yy2+α
(前記式において、MはMn及びCoであり、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、α>0.1である。)
で表されるリチウムイオン電池用正極活物質。

【公開番号】特開2012−243572(P2012−243572A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112590(P2011−112590)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】