説明

リチウムイオン電池用電極とその製造方法

【課題】電極活物質層(下層)と多孔質層(上層)とが集電体上に積層されてなるリチウムイオン電池用電極であって、当該多孔質層自体の強度が高く、かつ当該電極活物質層(下層)と当該多孔質層(上層)との間の接着性が強いリチウムイオン電池用電極を提供する。また、当該リチウムイオン電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な電極活物質とバインダとを含有する下層と、繊維とバインダとを含有し多孔質である上層とが、集電体上に、積層されてなるリチウムイオン電池用電極であって、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとが、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布されることにより、当該下層及び上層が形成されたことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質層(下層)と多孔質層(上層)とが集電体上に積層されてなるリチウムイオン電池用電極とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル−水素電池に代わる二次電池として、リチウムイオン電池の普及が進んでいる。この電池の電極は集電体上に電極活物質粉末を含有する電極スラリーを塗布、乾燥することで製造されている。さらに、この電極とセパレータを積層し、電池缶内へ収納される。この工程において、電極とセパレータとの積層工程や断裁工程など多数の工程を経る。
【0003】
この各種工程における電極活物質粉末の脱落、及び再付着した粉末によるセパレータの貫通によるショート防止のために、電極表面に繊維からなる多孔質層を形成することが特許文献1に提案されている。
【0004】
さらに、高分子からなる多孔質層を塗工法、ラミネート法、又は転写法により形成する製造法が特許文献2に提案されている。
【0005】
さらに、多孔質層をスパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法により形成する製造法が特許文献3に提案されている。
【0006】
ところで、高分子からなる多孔質層を電極表面に塗布形成する場合、多孔質層の強度が低いという問題があった。これは、塗布においては高分子を延伸することによる機械強度の強化ができないことによる。さらに、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法による成膜は生産に劣るものであった。
【0007】
一方、繊維からなる多孔質層はそれぞれ最適なバインダを選択することで強度は得られる。しかし、一繊維と電極活物質の表面物性は大きく異なり、各層において最適なバインダを選択すると、多孔質層を形成するバインダと電極活物質バインダは一般的に異なることとなる。このように多孔質層と電極活物質層のバインダが異なる場合、多孔質層と電極との接着性が弱く繊維の脱落が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−220759号公報
【特許文献2】特開平10−50348号公報
【特許文献3】特開2005−183179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題・状況にかんがみてなされたものであり、その解決課題は、電極活物質層(下層)と多孔質層(上層)とが集電体上に積層されてなるリチウムイオン電池用電極であって、当該多孔質層自体の強度が高く、かつ当該電極活物質層(下層)と当該多孔質層(上層)との間の接着性が強いリチウムイオン電池用電極を提供することである。また、当該リチウムイオン電池用電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
1.リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な電極活物質とバインダとを含有する下層と、繊維とバインダとを含有し多孔質である上層とが、集電体上に、積層されてなるリチウムイオン電池用電極であって、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとが、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布されることにより、当該下層及び上層が形成されたことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
【0012】
2.前記繊維の平均繊維径が、1μm以下であることを特徴とする前記第1項に記載のリチウムイオン電池用電極。
【0013】
3.前記下層形成用スラリーが、バインダとして、スチレン−ブタジエンゴムを含有していることを特徴とする前記第1項又は第2項に記載のリチウムイオン電池用電極。
【0014】
4.リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な電極活物質とバインダとを含有する下層と繊維とバインダとを含有し多孔質である上層とが、集電体上に、積層されてなるリチウムイオン電池用電極の製造法であって、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとを、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布する塗布工程を経て、当該下層及び上層を形成することを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記手段により、電極活物質層(下層)と多孔質層(上層)とが集電体上に積層されてなるリチウムイオン電池用電極であって、当該多孔質層自体の強度が高く、かつ当該電極活物質層(下層)と当該多孔質層(上層)との間の接着性が強いリチウムイオン電池用電極を提供することができる。また、当該リチウムイオン電池用電極の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウムイオン電池用電極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な電極活物質とバインダとを含有する下層と、繊維とバインダとを含有し多孔質である上層とが、集電体上に、積層されてなるリチウムイオン電池用電極であって、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとが、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布されることにより、当該下層及び上層が形成されたことを特徴とする。
【0017】
この特徴は、請求項1から請求項4までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0018】
本発明の実施形態としては、前記繊維の平均繊維径が、1μm以下であることが好ましい。また、前記下層形成用スラリーが、バインダとして、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)を含有していることが好ましい。
【0019】
本発明のリチウムイオン電池用電極の製造法としては、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとを、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布する塗布工程を経て、当該下層及び上層を形成する態様の製造方法であることを要する。
【0020】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。
【0021】
(リチウムイオン電池用電極の概要)
本発明のリチウムイオン電池用電極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な電極活物質とバインダを含有する下層と繊維とバインダとを含有し多孔質である上層とが、集電体上に、積層されてなるリチウムイオン電池用電極であることを特徴とする。また、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとが、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布されることにより、当該下層及び上層が形成されたことを特徴とする。
【0022】
したがって、本発明のリチウムイオン電池用電極の製造法としては、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとを、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布する塗布工程を経て、当該下層及び上層を形成する態様の製造方法であることを要する。これにより、電極活物質層(下層)と多孔質層(上層)とが強固に接着したリチウムイオン電極を製造することができる。
【0023】
一般的に、上層と下層のバインダが異なる場合、逐次塗布を行うと上層と下層の接着性が問題になるが、本発明においては、同時重層塗布を行うことにより界面が強固に接着した電極を製造することを可能とする。これにより、各層のバインダの選択幅が広がり、各層の強度が高く、かつ層の接着性の高い電極を作製することができる。この電極を用いて、リチウムイオン電池を作製する場合、セパレータを用いてもよい。
【0024】
また、本発明において形成される多孔質層は十分な強度と電極への接着性を兼ね備えているため、セパレータも兼ねることが十分可能である。
【0025】
(上層:多孔質層)
本発明に係る上層(「多孔質層」ともいう。)は、後述する集電体上に設けられた下層(電極活物質層)の上に積層される層であって、後述する繊維とバインダとを含有し、多孔質であることを特徴とする。
【0026】
本願において、「多孔質」とは、当該上層が、少なくともリチウムイオンが貫通可能な程度の微細孔(空隙)を多数有している性状をいう。
【0027】
空隙率としては、40〜95%の範囲であることが好ましく、より好ましくは50%以上90%以上が強度及び、電解液の含浸が良好であり好ましく用いることができる。
【0028】
なお、空隙率は、下記式に基づく計算により求めることができる。
【0029】
見かけの密度=多孔質層の質量/多孔質層の見かけの(外見の形状の)体積
空隙率=見かけの密度/多孔質層の真密度(多孔質層の組成より求めた多孔質層構成材料の実際の密度)×100(%)
多孔質の孔径は、50nm〜1μmが好ましく、100〜500nmであることが電気化学的性質及び強度が両立できることからより好ましい。
【0030】
また、当該上層は可撓性を有することが好ましい。
【0031】
本発明に係る上層(多孔質層)の厚さは、1〜40μmの範囲内であることが好ましい。この範囲の多孔質層とすることで、特に大電流充放電における安定性を確保できる。
【0032】
〈上層形成用スラリー〉
本発明における「上層形成用スラリー(上層スラリーともいう。)」とは、少なくとも繊維及びバインダを含有する流動体をいい、適宜、溶媒、分散剤等を含有してもよい。
【0033】
本発明において用いる「繊維」については、特に繊維径(直径)に制限はないが、1〜2000nm(2μm)の範囲にある単繊維が好ましく、数平均繊維径としては、1μm(1000nm)以下であることが好ましい。なお、繊維長や断面形状などには限定がないものである。
【0034】
ここで、数平均による単繊維直径は、以下のようにして求めることができる。すなわち、単繊維又は単繊維束(繊維状凝集体)の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM;例えば、日立社製H−7100FA型)で観察し、同一横断面内で無作為抽出した100本以上の単繊維の円相当直径で測定し、これらを単純に平均することで求めることとする。なお、TEMによる繊維横断面写真を、画像処理ソフト(例えばWINROOF)を用いて直径を計算し、それの単純な平均値を求めることができる。
【0035】
繊維長の測定については、走査型電子顕微鏡(SEM;例えば、日立社製S−4000型)により2000倍程度に微細繊維状物質を拡大した写真を撮影し、ついで、この写真画像の解析を行うことにより測定できる。
【0036】
本発明において用いられる繊維は、熱可塑性ポリマーからなることが好ましい。これは、繊維(ファイバー)を、溶融紡糸法を利用して製造することができるために、生産性が高くできる。さらに、繊維(ファイバー)同士を熱接着により接着することが可能となる。
【0037】
本発明において用いることができる「熱可塑性ポリマー」としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステルやナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリスチレン(以下、「PS」と略記することがある。)、ポリプロピレン(以下、「PP」と略記することがある。)などのポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられるが、ポリエステルやポリアミドが、耐熱性が高い点で、好ましい。
【0038】
繊維(ファイバー)の製造方法は特に限定されず、溶融紡糸法を用いての製造法としては特開2004−162244号公報に記載されている公知の方法を採用することができる。さらに、特開2005−273067号公報に記載されているようにエレクトロスピニングを用いてもよい。
【0039】
本発明に係るスラリーは、前記製造法によって得られた繊維(ファイバー)をギロチンカッターやスライスマシンで所望の繊維長にカットする。分散液中でのナノファイバー(繊維)単繊維の分散性を向上させるためには、繊維(ファイバー)の絡み合いの程度、強度等の観点から、繊維長としては0.01〜30mmにカットすること好ましく、より好ましくは0.1〜10mmである。
【0040】
また、特開2004−162244号公報に記載されているように、繊維(ファイバー)前駆体であるポリマーアロイ繊維の状態で所望の繊維長にカットしてから断面の海島構造の海ポリマーを溶解してカットしてもよい。カットした繊維(ファイバー)は単繊維レベルで分散媒中に分散させる。分散媒としては水だけでなく、繊維(ファイバー)との親和性も考慮してヘキサンやトルエンなどの炭化水素系、クロロホルムやトリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素系、エタノールやイソプロピルアルコールなどのアルコール系、エチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系、酢酸メチルや酢酸エチルなどのエステル系、エチレングリコールやプロピレングリコールなどの多価アルコールなどの一般的な有機溶媒を好適に用いることができるが、安全性や環境等に考慮すると水を用いることが望ましい。
【0041】
繊維(ファイバー)を単繊維レベルで分散媒中に分散させる方法としては、ミキサーやホモジナイザー等の撹拌機を用いればよい。また、撹拌による分散の前処理工程として、分散媒中で叩解することが好ましく、ナイアガラビーター、リファイナー、カッター、ラボ用粉砕器、バイオミキサー、家庭用ミキサー、ロールミル、乳鉢、あるいはPFI叩解機などでせん断力を与え、繊維1本1本まで分散させ分散媒中に投与することができる。
【0042】
さらに、繊維(ファイバー)分散液中での繊維(ファイバー)単繊維の分散性を均一にしたり、多孔膜とした際に構造体の力学的強度を向上させるために、分散液中の繊維濃度は分散液全質量に対して0.001〜30質量%にすることが好ましい。より好ましくは0.01〜10質量%であり、さらに好ましくは0.05〜5質量%である。分散のために必要に応じて分散剤を用いてよい。分散剤の種類としては例えば、水系で用いる場合、ポリカルボン酸塩などのアニオン系、第四級アンモニウム塩などのカチオン系、ポリオキシエチレンエーテルやポリオキシエチレンエステルなどのノニオン系の物から選択することが好ましい。分散剤の分子量としては1000〜50000であることが望ましい。
【0043】
(下層:電極活物質層)
本発明に係る下層(「電極活物質層」ともいう。)は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な電極活物質とバインダを含有することを特徴とする。
【0044】
ここで、「電極活物質」とは、充電反応及び放電反応等の電極反応に直接寄与する物質のことをいい、電池システムの中心的役割を果たすものである。例えば、後述する正極活物質や負極活物質が電極活物質である。
【0045】
本発明に係る下層の電極活物質層の厚さは、20〜150μmの範囲内であることが好ましい。この範囲の厚さであれば、塗布速度を落とすことなく同時重層塗布が可能となる。
【0046】
〈下層形成用スラリー〉
本発明における「下層形成用スラリー(下層スラリーともいう。)」とは、電極活物質、導電助剤、バインダ、溶媒からなるスラリーをいう。電極活物質としては、正極においては正極活物質、負極においては負極活物質を用いる。これらの各構成成分を遊星ボールミルなどにより均一に分散することにより下層形成用スラリーを得る。
【0047】
(正極活物質)
正極活物質としては、無機系活物質、有機系活物質、これらの複合体が例示できるが、無機系活物質あるいは無機系活物質と有機系活物質の複合体が、特にエネルギー密度が大きくなる点から好ましい。
【0048】
無機系活物質として、例えば、Li0.3MnO、LiMn12、V、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePOLiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1.2(Fe0.5Mn0.50.8、Li1.2(Fe0.4Mn0.4Ti0.20.8、Li1+x(Ni0.5Mn0.51−x、LiNi0.5Mn1.5、LiMnO、Li0.76Mn0.51Ti0.49、LiNi0.8Co0.15Al0.05、Fe、等の金属酸化物、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、LiMPOF(M=Fe,Mn)、LiMn0.875Fe0.125PO、LiFeSiO、Li2−xMSi1−x(M=Fe,Mn)、LiMBO(M=Fe,Mn)などのりん酸、ケイ酸、ほう酸系が上げられる。なお、これらの化学式中、xは0〜1の範囲であることが好ましい。
【0049】
さらに、FeF、LiFeF、LiTiFなどのフッ素系、LiFeS、TiS、MoS、FeS等の金属硫化物、これらの化合物とリチウムの複合酸化物が挙げられる。有機系活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、等の導電性高分子、有機ジスルフィド化合物、有機イオウ化合物DMcT(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)、ベンゾキノン化合物PDBM(ポリ2,5−ジヒドロキシ−1,4−ベンゾキノン−3,6−メチレン)、カーボンジスルフィド、活性硫黄等の硫黄系正極材料、有機ラジカル化合物等が用いられる。
【0050】
また、正極活物質の表面には、無機酸化物が被覆されていることが電池の寿命を延ばす点で好ましい。無機酸化物を被覆するに当たっては、正極活物質の表面にコーティングする方法が好ましく、コーティングする方法としては、例えばハイブリタイザーなどの表面改質装置を用いてコーティングする方法などが挙げられる。
【0051】
かかる無機酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン等のIIA〜VA族、遷移金属、IIIB、IVBの酸化物、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸鉛、γ−LiAlO、LiTiO等が挙げられ、特に酸化ケイ素が好ましい。
【0052】
(負極活物質)
負極については、特に制限は無く、集電体に負極活物質を密着させたものが利用できる。黒鉛系やスズ合金系などの粉末を、スチレンブタジエンゴムやポリフッ化ビニリデンなどの結着材とともにペースト状として、集電体上に塗布して、乾燥後、プレス成形して作製したものが利用できる。物理蒸着(スパッタリング法や真空蒸着法など)によって3〜5ミクロンのシリコン系薄膜を、集電体上に直接形成したシリコン系薄膜負極なども利用できる。リチウム金属負極の場合は、銅箔上に10〜30ミクロンのリチウム箔を付着させたものが好適である。高容量化の観点からは、シリコン系薄膜負極やリチウム金属負極からなるものであることが好ましい。
【0053】
(導電助剤)
前記導電助剤は、構成された二次電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば何を用いてもよい。通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人工黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維や金属粉(銅、ニッケル、アルミニウム、銀(特開昭63−148,554号に記載)等)、金属繊維あるいはポリフェニレン誘導体(特開昭59−20,971号に記載)などの導電性材料を1種又はこれらの混合物として含ませることができる。その中でも、黒鉛とアセチレンブラックの併用がとくに好ましい。前記導電剤の添加量としては、1〜50質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましい。カーボンや黒鉛の場合は、2〜15質量%が特に好ましい。
【0054】
(バインダ)
本発明ではバインダを用いるが、本発明においては上層スラリーと下層スラリーに用いられるバインダは化学種(化学構造)が異なることを要する。
【0055】
このようなバインダとしては、多糖類、熱可塑性樹脂及びゴム弾性を有するポリマーなどが挙げられ、その中でも、例えば、でんぷん、カルボキシメチルセルロース、セルロース、ジアセチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルフェノール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシ(メタ)アクリレート、スチレン−マレイン酸共重合体等の水溶性ポリマー、ポリビニルクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド−テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、ポリビニルアセタール樹脂、メチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルを含有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、ビニルアセテート等のビニルエステルを含有するポリビニルエステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ネオプレンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等のエマルジョン(ラテックス)あるいはサスペンジョンが好ましく、ポリアクリル酸エステル系のラテックス、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデンが、より好ましい。
【0056】
前記バインダは、一種単独又は二種以上を混合して用いることができる。バインダの添加量が少ないと、バインダの保持力・凝集力が弱くなる。多すぎると電極体積が増加し電極単位体積あるいは単位質量あたりの容量が減少する。このような理由でバインダの添加量は1〜30質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0057】
(溶媒)
溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エトキシエタノール、ジメチルフォルムアミド、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、キシレン、シクロヘキサン、N−メチル−2−ピロリドン、トリクロロメタン、ジクロロメタンなどを使うことができる。特に、N−メチル−2−ピロリドンが、沸点が高く臭気が低い点で、好ましく用いることができる。
【0058】
(集電体)
本発明に係る正・負極の集電体としては、非水二次電池において化学変化を起こさない電子伝導体が用いられる。
【0059】
正極の集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンなどの他にアルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、その中でも、アルミニウム、アルミニウム合金がより好ましい。
【0060】
負極の集電体としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、又はチタンが好ましく、銅若しくは銅合金がより好ましい。
【0061】
前記集電体の形状としては、通常フィルムシート状のものが使用されるが、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。前記集電体の厚さとしては、特に限定されないが、1〜500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0062】
(同時重層塗布)
本発明では、集電体上に上層形成用スラリーと下層形成用スラリーを同時重層塗布することを特徴とする。
【0063】
本発明における同時重層塗布とは、例えば、単独ヘッド(スロット)で構成されるコーターで集電体上に下層スラリーを塗布し、下層スラリーが乾燥する前に、別の塗布機に下層スラリーを塗布した集電体を移管して、下層スラリーに上層スラリーを塗布することで重層する(2コーター2ヘッド方式)、上記のような単独ヘッドを二つ隣接して設置し、同一コーターで各ヘッドにより下層スラリーと上層スラリーとを集電体上に塗布する方式(1コーター2ヘッド方式)、複数の流路をそなえた単独ヘッドで構成されるエクストルージョンダイによって、一工程で下層スラリーと上層スラリーとを集電体上に塗布する方法(1コーター1ヘッド方式)が挙げられる。
【0064】
下層スラリーを塗布し一度乾燥工程を経てから、積層すると下層と上層の間に明確な界面ができ、この界面部分の接着性が悪くなる。また、本願のように下層が活物質を含有した層の場合には、乾燥後は表面に凹凸が出来やすく、より上層との接着性が悪くなるだけでなく、乾燥時に層内に空隙ができることで、第2の層を塗布したときにこの空隙内の気泡の影響で接着性や均一性が悪くなる。
【0065】
本発明に係る塗布方法としては、Edward Cohen,Edgar Gutoff著「MODERN COATING AND DRYING TECHNOLOGY」に述べられている如く、各種の方法があり、例えば、ディップ塗布法、ブレード塗布法、エアーナイフ塗布法、ワイヤーバー塗布法、グラビア塗布法、リバース塗布法、リバースロール塗布法、エクストルージョン塗布法、スライドビード塗布法、カーテン塗布法等が知られている。そして、これらの塗布方法において、支持体の幅方向に均一な乾燥膜厚にするため、塗布時の塗布膜厚精度、均一性等に注意が払われ塗布を行っている。
【0066】
近年、流量規制型のダイスを有する塗布装置は、多層同時塗布が可能であり、その特徴により写真感光材料や磁気記録材料等の塗布装置として広く用いられており、その好ましい一例としては、Russell等により米国特許第2,761,791号に提案された多層スライドビード塗布装置を用いる方法があげられる。このタイプのコーターは、塗布装置先端(単に「リップ」ともいう。)と走行する可撓性支持体(「ウェブ」ともいう。)の間にビードと称する塗布液溜まりをつくり、このビードを介して塗布が行われる。本発明においては、これらの装置を用いて同時積層塗布を行う。
【0067】
同時重層塗布工程の後に、乾燥工程に通したり、プレス工程に通しても良い。乾燥方法としては、特に制限は無く公知の乾燥方法を用いればよい。プレス方法としては、特に制限は無く、ローラー間を加圧しながら通すロールプレスや、金属板の間に挟みこんで上下から油圧ポンプ等プレスする方法等で行えばよい。また、プレス時に加熱しながら行ってもいい。
【0068】
塗布は、0.1〜100m/分の速度で実施されることが好ましい。この際、合剤の溶液物性、乾燥性に合わせて、上記塗布方法を選定することにより、良好な塗布層の表面状態を得ることができる。
【0069】
さらに、前記同時重層塗布は、連続でも間欠でもストライプでもよい。その塗布層の厚さ、長さ及び巾は、電池の形状や大きさにより決められる。
【0070】
乾燥及び脱水方法としては、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線及び低湿風を、単独あるいは組み合わせた方法を用いることできる。乾燥温度は、80〜350℃が好ましく、100〜250℃がより好ましい。含水量としては、電池全体で2000ppm以下が好ましく、正極合剤、負極合剤や電解質では、それぞれ500ppm以下にすることが好ましい。
【0071】
シートのプレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特にカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は特に限定されないが、0.2〜3t/cmが好ましい。前記カレンダープレス法のプレス速度としては、0.1〜50m/分が好ましく、プレス温度は室温〜200℃が好ましい。正極シートに対する負極シート幅の比としては、0.9〜1.1が好ましく、0.95〜1.0が特に好ましい。正極活物質と負極活物質との含有量比は、化合物種類や合剤処方により異なる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって、何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0073】
[上層形成用スラリーの作製]
(繊維の作製)
溶融粘度57Pa・s(240℃、せん断速度2432sec−1)、融点220℃のナイロン6(20質量%)と重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(240℃、せん断速度2432sec−1、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)(80質量%)を二軸押出混練機で220℃において溶融混練してポリマーアロイチップを得た。
ポリマー供給 :ナイロン6(「N6」と略記する。)と共重合ポリエチレンテレフタレート(「PET」と略記する。)を別々に軽量し、別々に混練機に共有した。
スクリュー型式:同方向完全噛合型 2条ネジ
スクリュー :直径37mm、有効長さ1670mm
L/D=45
混練部長さはスクリュー有効長さの1/3より吐き出し側に位置させた。
温度 :220℃
ベント :2箇所
このポリマーアロイチップを230℃の溶融部で溶融し、紡糸温度230℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度215℃とした口金から溶融紡糸した。この時、口金としては口金孔径0.3mm、孔長0.55mmの物を用いた。この時の単孔あたりの吐出量は0.94g/分とした。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金から1.8m下方に設置した給油ガイドで給油された後、非加熱の第一引き取りローラーの温度を90℃、第二ホットローラーの温度を130℃として延伸加熱処理した。この時、第一ホットローラーと第二ホットローラーの延伸倍率を1.5倍とした。
【0074】
得られたポリマーアロイ繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM;日立社製H−7100FA型)で観察したところ、ポリL乳酸が海、N6が島の海島構造を示し、島N6の数平均による直径は55nmであり、N6が超微分散化したN6ナノファイバー(繊維)の前駆体であるポリマーアロイ繊維が得られた。
【0075】
得られたポリマーアロイ繊維を95℃の5質量%水酸化ナトリウム水溶液にて1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99質量%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、N6ナノファイバー(繊維)の繊維束を得た。この繊維束をTEM写真から解析した結果、N6ナノファイバー(繊維)の数平均直径は60nmであった。
【0076】
なお、数平均繊維径は、単繊維又は単繊維束(繊維状凝集体)の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM;日立社製H−7100FA型)で観察し、同一横断面内で無作為抽出した100本以上の単繊維の円相当直径で測定し、これらを単純に平均することで求めた。すなわち、TEMによる繊維横断面写真を、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて直径を計算し、それの単純な平均値を求めた。
【0077】
(分散液1、2、3の作製)
得られた繊維(ファイバー)を0.5mm長に切断して、カット繊維を得た。ナイヤガラビータ(熊谷理機工業(株)製)に水10Lと先に得られたカット繊維30gを仕込み、5分間予備叩解し、その後、余分な水を切って繊維を回収した。この繊維の質量は250gであり、その含水率は88質量%であった。含水状態のN6ファイバー250gをそのまま自動式PFIミル(熊谷理機工業(株)製)に仕込み、回転数1500rpm、クリアランス0.2mmで6分間叩解して粘度状の含水繊維を得た。オスターブレンダー(オスター社製)にタネを210g、分散剤としてアニオン系分散剤であるシャロール(登録商標)AN−103P(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、水500gを仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌し、N6ファイバーの含有率が5質量%のN6ファイバー分散液を得た。ここに、アクリロニトリルーブタジエンゴム(NBR)の水系ディスパージョン(アクリロニトリルーブタジエンゴムの濃度42%)を0.5g添加した。これを分散液1とする。
【0078】
さらに、上記繊維の作製においてナイロン6をポリプロピレンとした以外は同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。このポリマーアロイチップを溶融温度230℃、紡糸温度230℃(口金面温度215℃)、単孔吐出量1.5g/分、紡糸温度900m/分で前記スラリー作製と同様に溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率2.7倍、熱セット温度130℃として延伸熱処理した。
【0079】
得られたポリマーアロイ繊維を98℃の5質量%水酸化ナトリウム水溶液にて1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99質量%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、PPナノファイバー(繊維)繊維束を得た。
【0080】
この繊維束をTEM写真から解析した結果、数平均直径は240nmであった。得られたPPナノファイバー(繊維)の繊維束を1mm長さに切断して、PPナノファイバー(繊維)のカット繊維を得た。これを上記、スラリー作製と同様に叩解した。この叩解したタネを100g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株):分子量10000)を5g、NMP500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PPナノファイバー(繊維)の含有率が5%のPPナノファイバー(繊維)スラリーを得た。ここに、ここにマレイン酸・酸変性PPを5g添加した。これを分散液2とする。
【0081】
さらに、上記、タネを100gに、純水500gを加えオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PPナノファイバー(繊維)の含有率が5%のPPナノファイバー(繊維)スラリーを得た。ここにアクリロニトリル−ブタジエンゴムの水系ディスパージョン(アクリロニトリル−ブタジエンゴムの濃度42%)を0.5g添加した。これを分散液3とする。
【0082】
[分散液4の作製]
ナイロン6ペレットを、押出機で加熱溶融後、300℃に加熱したダイに送りこんだ。
【0083】
溶融PETを、直径0.3mmのノズルが1.0mmピッチで一列に配列された紡口から、ノズル当りの吐出量0.2g/分で吐出し、この紡口の開口端近傍から360℃に加熱された空気を0.24MPaの圧力で噴射させ、生成した単糸群を紡口下60cmに位置せしめた移動する補修面上に連続的に集積した。この繊維を0.5mm長にカットした。こうして得られた繊維の数平均繊維径は1.2μmであった。
【0084】
こうして得られた繊維と分散剤としてアニオン系分散剤であるシャロール(登録商標)AN−103P(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を用いてオスターブレンダー(オスター社製)で回転数13900rpmで30分間撹拌し、N6ファイバーの含有率が5質量%N6ファイバー分散液4を得た。
【0085】
[下層形成用スラリーの作製]
(正極用スラリー)
正極活物質として、LiMnを43質量部、鱗片状黒鉛2質量部、アセチレンブラック2質量部、更にバインダとしてPVDF3質量部を加え、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適宜加えてディスパーザーで分散させた。
【0086】
(負極用スラリー)
負極かつ人造黒鉛粉末KS−44(ティムカル社製、商品名)98質量部に、増粘剤、バインダとしてそれぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)100質量部、及び、スチレン−ブタジエンゴム(「SBR」と略記する。)の水性ディスパージョン(スチレン−ブタジエンゴムの濃度50%)2質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。
【0087】
[実施例1]
集電体である20μm厚さのCu箔を60cm×210cmサイズに裁断し、ダイコーターの塗布基盤に設置した。ダイコーターのカーテンコーター部を塗布開始端まで移動させてから、塗布ギャップ100μmのSUS製アプリケーターブロックを、塗布方向に対してカーテンコーターよりも手前の位置になるようにCu箔上に設置した。下層スラリー(負極用)の厚さを基準として、分散液1の塗布厚さを200μmに設定した。アプリケーターブロックで下層スラリー(負極用)、カーテンコーターで上層スラリーを塗布した。重層塗布を行った後、Cu箔を130℃の乾燥ゾーンで水分を蒸発させた。その後、炉内温度を100℃に設定した真空乾燥機で10時間真空乾燥をおこなった。
【0088】
[実施例2]
集電体である20μm厚さのAl箔を60cm×210cmサイズに裁断し、ダイコーターの塗布基盤に設置した。ダイコーターのカーテンコーター部を塗布開始端まで移動させてから、塗布ギャップ100μmのSUS製アプリケーターブロックを、塗布方向に対してカーテンコーターよりも手前の位置になるようにAl箔上に設置した。下層スラリー(正極用)の厚さを基準として、上層スラリーの塗布厚さを200μmに設定した。アプリケーターブロックで下層スラリー(負極用)、カーテンコーターで分散液1を塗布した。重層塗布を行った後、Cu箔を130℃の乾燥ゾーンで水分を蒸発させた。その後、炉内温度を100℃に設定した真空乾燥機で10時間真空乾燥をおこなった。
【0089】
[実施例3]〜[実施例6]
実施例3は分散液3、実施例4は分散液2、実施例5は分散液2、実施例6は分散液4を上層スラリーとして用い、表1に記載の厚さになるように塗布ギャップを調整し、同時重層しサンプルを作製した。
【0090】
[比較例1]
集電体である20μm厚さのCu箔を60cm×210cmサイズに裁断した。続いて、ギャップ100μmのアプリケーターバーを用いて下層スラリーを塗布した。下層スラリー塗布後に130度の乾燥ゾーンで水分を蒸発させた。その後、膜厚を測定し、測定厚さを基準として塗布ギャップが100μmになるように設定したアプリケーターバーを用いた分散液1を200μm厚で塗布した。分散液1を塗布後に130℃の乾燥ゾーンで水分を蒸発させた。その後、炉内温度を100℃に設定した真空乾燥機で10時間真空乾燥をおこなった。
【0091】
[比較例2、3]
上記、比較例1において、上層スラリーをそれぞれ分散液2、分散液4に変更し、それぞれ比較例2、3とした。
【0092】
測定条件について以下に説明する。
【0093】
〈目視試験〉
電極表面の多孔質層に欠陥(下層が上層表面に露出していないことを含む。)を確認した。
【0094】
〈SEM観察〉
上層及び下層の断面の走査型電子顕微鏡(SEM;日立社製S−4000型)観察により、上層と下層の接着状態(ひび割れの存否)を確認した。
【0095】
〈耐久性試験〉
作製した電極の耐久性試験は以下のように行った。それぞれ、作製した電極に対応する容量を持った、正極、又は負極を用いて電池を作製し、電圧4.2V及び充電レート0.125C/hで3時間充電した電池を50℃の恒温室の中で5日間保存し、電圧が3Vになるまで放電した。この二次電池の外装用積層体を切除し、電極を取り出し、電解液を取り除いてから表面の観察を行い、下記基準に基づき評価した。
◎:ひび割れ、脱落がなく、表面が平滑である
○:ひび割れ、脱落がない。表面に若干の凹凸がある
△:ひび割れ、脱落がないが部分的に電極表面との剥離が見られる
×:のひび割れ、脱落がある
上記評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係る実施例では、比較例に比べ、電極表面の多孔質層に欠陥が無く、上層及び下層の断面観察ではひび割れが無く、かつ耐久性において優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な電極活物質とバインダとを含有する下層と、繊維とバインダとを含有し多孔質である上層とが、集電体上に、積層されてなるリチウムイオン電池用電極であって、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとが、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布されることにより、当該下層及び上層が形成されたことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
【請求項2】
前記繊維の平均繊維径が、1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項3】
前記下層形成用スラリーが、バインダとして、スチレン−ブタジエンゴムを含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項4】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な電極活物質とバインダとを含有する下層と繊維とバインダとを含有し多孔質である上層とが、集電体上に、積層されてなるリチウムイオン電池用電極の製造法であって、前記電極活物質及びバインダを含有する下層形成用スラリーと、前記繊維及び下層のバインダと異なるバインダからなる上層形成用スラリーとを、当該下層形成用スラリーが前記集電体側となるように、同時に重層塗布する塗布工程を経て、当該下層及び上層を形成することを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造方法。

【公開番号】特開2011−243345(P2011−243345A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112909(P2010−112909)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】