説明

リチウムイオン電池

【課題】 外装体のヒートシール層に亀裂が入っても、電池内部でアルミニウム箔面と電解液が接触することを防止し、長期に亘って絶縁性を保持することのできるリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】 正極活物質及び正極集電体からなる正極と、負極活物質及び負極集電体からなる負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質とを含むリチウム電池本体と、該リチウム電池本体を収納し周縁部をヒートシールすることにより前記リチウム電池本体を密封する外装体と、前記正極及び負極に連結されるとともに前記外装体により先端が突出するように挟持され、該挟持部分をヒートシールされる金属製のリチウムイオン電池タブとからなるリチウムイオン電池であって、前記外装体5を、少なくとも基材層11、バリア層12、化成処理層15、絶縁層13及びヒートシール層14が順次積層された積層体10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料との安定した密封性を示すリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池とは、リチウム二次電池ともいわれ、液状、ゲル状および高分子ポリマー状の電解質を持ち、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。このリチウムイオン電池は、充電時には正極活物質であるリチウム遷移金属酸化物中のリチウム原子(Li)がリチウムイオン(Li+)となって負極の炭素層間に入り込み(インターカレーション)、放電時にはリチウムイオン(Li+)が炭素層間から離脱(デインターカレーション)して正極に移動し、元のリチウム化合物となることにより充放電反応が進行する電池であり、ニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池より出力電圧が高く、高エネルギー密度である上、浅い放電と再充電を繰り返すことにより見掛け上の放電容量が低下する、いわゆるメモリー効果がないという優れた特長を有している。そのため、近年、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ、小型ビデオカメラ等のポータブル機器用の電源として広く使われている。
【0003】
リチウムイオン電池の構成は、正極集電材(アルミニウム、ニッケル)/正極活性物質層(金属酸化物、カーボンブラック、金属硫化物、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子正極材料)/電解質層(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、炭酸ジメチル、エチレンメチルカーボネート等のカーボネート系電解液、リチウム塩からなる無機固体電解質、ゲル電解質等)/負極活性物質層(リチウム金属、合金、カーボン、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子負極材料)/負極集電材(銅、ニッケル、ステンレス)及び、これらを包装する外装体からなる。外装体としては、従来、金属をプレス加工し円筒状または直方体状等に容器化した金属製缶、あるいは、最外層アルミニウムシーラント層から構成される多層フィルムを袋状にしたものが用いられていた。
【0004】
しかるに、従来のリチウムイオン電池の外装体として、次のような問題があった。金属製缶においては、容器外壁がリジッドであるため、電池自体の形状が決められてしまう。そのため、ハード側を電池に合わせる設計をするため、該電池を用いるハードの寸法が電池により決定されてしまい形状の自由度が少なくなる。そこで、積層体を袋状にしてリチウムイオン電池本体を収納するパウチタイプまたは、前記積層体をプレス成形して凹部を形成し、該凹部にリチウムイオン電池を収納するエンボスタイプが開発されている。エンボスタイプは、パウチタイプと比較して、よりコンパクトな包装が得られる。いずれのタイプの外装体であっても、リチウムイオン電池としての防湿性あるいは耐突き刺し性等の強度、絶縁性等は、リチウムイオン電池の外装体として欠かせないものであるが、エンボスタイプとする場合には、用いられる積層体としては、さらにプレス成形における適性が重要である。例えば、エンボスタイプのリチウムイオン電池の外装体材料として、具体的には、図8に示すように、ナイロン等から成る基材層11、接着層16、アルミニウム等から成るバリア層12、接着層16、キャストポリプロピレン等から成るヒートシール層14から構成される積層体10を挙げることができる。そして、前記接着層16が、安定して接着強度の大きい接着が得られるドライラミネート法を用いても、エンボス成形の際、リチウムイオン電池を外装体に収納してその周縁部をヒートシールする際に、基材層11とバリア層12との間においてデラミネーションが発生することがあった。また、リチウムイオン電池の電解質成分と水分との反応により生成するフッ化水素によりバリア層12とヒートシール層14との間においてもデラミネーションが発生することがあった。
【0005】
そこで、このような問題を解決し、リチウムイオン電池の外装体材料としてリチウムイオン電池の保護物性とともに、成形加工性に優れた材料を、安定した製造法により提供するため、特許文献1には、図9に示すように、アルミニウム両面に施された化成処理を施すことにより、基材層11、接着層16、化成処理層15、バリア層12、化成処理層15、接着層16、ヒートシール層14から構成される積層体10とすることが提案されている。
【特許文献1】特開2001−176460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載のリチウムイオン電池の外装体材料においては、最内層であるヒートシール層に、ヒートシール時の熱と圧力、或いは電解液注入工程や側端部折り曲げ工程で加わる外力によって亀裂が入ることがある。
【0007】
また、このような製造工程に限らず、リチウムイオン電池が製品となった後に加わる外力も亀裂の原因となる。例えば、現在、携帯電話等のポータブル機器の電源用のエンボスタイプのリチウムイオン電池の多くは、外装体を保護するため、その全体を硬質の樹脂ケースに収めた形で製品化されているが、機器の小型軽量化の要請から樹脂ケースを撤廃する動きが見られる。この場合、外装体が露出した状態でリチウムイオン電池は取り扱われることになるため、ポータブル機器の携行時や電池交換時等に外力が伝わりやすくなる。或いは、複数のエンボスタイプのリチウムイオン電池を端子面を揃えて配列し、正極端子同士及び負極端子同士を直列に接続することで、電気自動車の電力貯蔵用として実用化する試みが推進されている。この場合、端子同士の接続作業は、専用の工具を用いて行われるため、このとき外装体に外力が伝わりやすい。
【0008】
このようなことが原因となり、ヒートシール層に亀裂が入ると、電池内部でアルミニウム箔面と電解液が接触し、リチウムイオン電池自体の絶縁性が保持できなくなるという問題がある。また、リチウムイオン電池の大型化に伴い、要求される耐用年数も十年以上となるため、長期の使用においてもリチウムイオン電池としての絶縁性が問題となる。
【0009】
本発明の目的は、外装体のヒートシール層に亀裂が入っても、電池内部でアルミニウム箔面と電解液が接触することを防止し、長期に亘って絶縁性を保持することのできるリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、正極活物質及び正極集電体からなる正極と、負極活物質及び負極集電体からなる負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質とを含むリチウム電池本体と、該リチウム電池本体を収納し周縁部をヒートシールすることにより前記リチウム電池本体を密封する外装体と、前記正極及び負極に連結されるとともに前記外装体により先端が突出するように挟持され、該挟持部分をヒートシールされる金属製のリチウムイオン電池タブとからなるリチウムイオン電池であって、前記外装体が、少なくとも基材層、バリア層、化成処理層、絶縁層及びヒートシール層が順次積層された積層体であることを特徴としている。
【0011】
また本発明は、上記構成のリチウムイオン電池において、前記絶縁層が、ガラス転移点が少なくとも200℃以上の耐熱性ポリマーであることを特徴としている。
【0012】
また本発明は、前記耐熱性ポリマーが、ポリイミド系樹脂,ポリアミドイミド系樹脂若しくはポリエーテルイミド系樹脂又はこれらの2つ以上の混合物であることを特徴としている。
【0013】
また本発明は、上記構成のリチウムイオン電池において、前記絶縁層が、水酸基を含有するフッ素含有共重合体と硬化剤とから形成されるフッ素系樹脂であることを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記構成のリチウムイオン電池において、前記化成処理層が、リン酸クロメート処理で形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の構成によれば、リチウムイオン電池の外装体を、基材層、バリア層、化成処理層、絶縁層及びヒートシール層が順次積層された積層体としたことにより、最内層であるヒートシール層に、ヒートシール時の熱と圧力、或いは電解液注入工程や側端部折り曲げ工程で加わる外力、又は製品となった後に加わる外力によって亀裂が入っても、堅牢な絶縁層によりバリア層が保護されているため、電池内部でバリア層と電解液が接触することが防止され、長期に亘って絶縁性を保持することのできるリチウムイオン電池を提供することができる。
【0016】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成のリチウムイオン電池において、絶縁層をガラス転移点が少なくとも200℃以上の耐熱性ポリマーとすることにより、リチウムイオン電池の絶縁性をより高めてフッ化水素酸による腐食を確実に防止することができる。
【0017】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第2の構成のリチウムイオン電池において、耐熱性ポリマーを、ポリイミド系樹脂,ポリアミドイミド系樹脂若しくはポリエーテルイミド系樹脂又はこれらの2つ以上の混合物とすることにより、絶縁層のガラス転移点を高めて、二次電池が蓄熱したときに、軟化するのを防止することができる。
【0018】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1の構成のリチウムイオン電池において、絶縁層を水酸基を含有するフッ素含有共重合体と硬化剤とから形成されるフッ素系樹脂とすることにより、リチウムイオン電池の絶縁性をより高めてフッ化水素酸による腐食を確実に防止することができる。
【0019】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成のリチウムイオン電池において、化成処理層をリン酸クロメート処理で形成することにより、高い耐フッ化水素性、及び外装体内面との安定したヒートシール性の両方を兼ね備えた化成処理層を有するリチウムイオン電池となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のリチウムイオン電池を図面を参照しながら説明する。図1(a)は本発明のリチウムイオン電池の斜視図であり、図1(b)はリチウムイオン電池を分解した状態を示す斜視図である。図1(a)及び(b)に示すように、リチウムイオン電池1は、リチウムイオン電池本体2及び外装体5から構成されており、外装体5に収納されたリチウムイオン電池本体2は、その周縁を密封することにより、防湿性が付与される。
【0021】
リチウムイオン電池本体2は、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質と(いずれも図示せず)を含むセル(蓄電部)3と、セル3内の正極及び負極に連結されるとともに先端が外装体5の外部に突出するタブ(電極端子)4から構成されている。タブ4はアルミニウム製であり、厚さが50〜200μm、幅が5〜100mm程度である。
【0022】
まず、本発明のリチウムイオン電池に用いられる外装体ついて説明する。図3は、本発明に用いられる外装体の積層構造を示す断面図である。外装体を形成する積層体10は、図3(a)に示すように、少なくとも、基材層(最外層)11、バリア層12、化成処理層15、絶縁層13、ヒートシール層(最内層)14からなり、基材層11とバリア層12の間に接着層16を設け、ドライラミネート法、サンドイッチラミネート法、押出ラミネート法、熱ラミネート法等の方法でラミネートして積層する。なお、図3(b)に示すように、バリア層12の両面に化成処理層15を形成してもよい。
【0023】
最外層は、延伸ポリエステル又はナイロンフィルムからなるが、この時、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロン樹脂としては、ポリアミド系樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,6とナイロン6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0024】
前記最外層は、リチウムイオン電池として用いられる場合、ハードと直接接触する部位であるため、基本的に絶縁性を有する樹脂層がよい。フィルム単体でのピンホールの存在、および加工時のピンホールの発生等を考慮すると、最外層は6μm以上の厚さが必要であり、好ましい厚さとしては12〜25μmである。
【0025】
前記最外層は耐ピンホール性および電池の外装体とした時の絶縁性を向上させるために、積層化することも可能である。最外層を積層体化する場合、最外層が2層以上の樹脂層を少なくとも一つを含み、各層の厚みが6μm以上、好ましくは、12〜25μmである。最外層を積層化する例としては、図示はしないが次の1)〜7)が挙げられる。
1)延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
2)延伸ナイロン/延伸ポリエチレンテレフタレート
また、包装材料の機械適性(包装機械、加工機械の中での搬送の安定性)、表面保護性(耐熱性、耐電解質性)、二次加工とてリチウムイオン電池用の外装体をエンボスタイプ(図2参照)とする際に、エンボス時の金型と最外層との摩擦抵抗を小さくする目的で、最外層を多層化、最外層表面にフッ素系樹脂層、アクリル系樹脂層、シリコーン系樹脂層等を設けることが好ましい。例えば、
3)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(フッ素系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
4)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(シリコーン系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
5)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
6)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
7)アクリル系樹脂/延伸ナイロン(アクリル系樹脂はフィルム状、または液状コーティング後乾燥で硬化)
【0026】
積層構造の外装体を形成する際の積層方法は、ドライラミネート法、熱ラミネート法、押出ラミネート法、サンドイッチラミネート法、共押出ラミネート法等を利用することができる。
【0027】
バリア層12は、外装体5を通して外部からリチウムイオン電池の内部に特に水蒸気が進入することを防止するための層で、バリア層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形)を安定化し、かつ耐ピンホール性をもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウム、ニッケルなどの金属、または、無機化合物、例えば酸化珪素、アルミナ等を蒸着したフィルム等も挙げられるが、バリア層としては、好ましくは15μm〜100μmのアルミニウムである。
【0028】
バリア層の材質として、鉄含有量が0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%のアルミニウムを用いることにより、鉄を含有していないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、積層体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり、かつエンボスタイプの外装体をエンボス加工する時に側壁の形成も容易にできる。前記鉄含有量が0.3重量%未満の場合は、ピンホールの発生の防止、エンボス成形性の改善等の効果が認められず、また、前記アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は、アルミニウムとしての柔軟性が阻害され、積層体として製袋性が悪くなる。
【0029】
また、冷間圧延で製造されるアルミニウムは焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性・腰の強さ・硬さが変化するが、本実施例で用いられるアルミニウムは焼きなましをしていない硬質処理品より、焼きなましを適宜行った、柔軟性がある軟質処理品が好ましい。また、柔軟性・腰の強さ・硬さの度合い、すなわち焼きなましの条件は、加工適性(パウチ化、エンボス適性)に合わせ適宜選定すればよい。たとえば、エンボス成形時のピンホールやしわを防止するためには、焼きなましをしていない硬質アルミニウムより多少または完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウムが良好である。
【0030】
さらに、バリア層12の片面には、酸化性皮膜から成る化成処理層15が設けられている。化成処理層15は、リチウムイオン電池の電解質と水分により発生するフッ化水素によるバリア層12表面の腐食、溶解を防止するとともに、バリア層12表面の接着性(濡れ性)を向上させて積層体形成時のバリア層12と基材層11及び最内層14との接着力を安定化させる。
【0031】
絶縁層13は、バリア層12の片面に形成された化成処理層15に絶縁性樹脂を含む溶液を塗布して絶縁性樹脂皮膜としたものである。なお、図3(b)のようにバリア層12の両面に、化成処理層15が設けられる場合は、その一方の表面にのみ前記絶縁層を形成する。絶縁性樹脂皮膜の形成法としては、(1)ガラス転移点が少なくとも200℃以上の耐熱性ポリマーとカップリング剤とを含む溶液を、塗布し乾燥させる方法と、(2)水酸基を含有するフッ素含有共重合体と該フッ素含有共重合体の水酸基と反応する硬化剤とにより形成されているフッ素系樹脂を溶媒に溶解又は分散させて溶液化したものを、塗布し乾燥させる方法とを好適に用いることができる。以下、それぞれの方法について説明する。
【0032】
まず、上記(1)の方法について説明する。ガラス転移点が少なくとも200℃以上の耐熱性ポリマーとしては、従来公知のポリイミド系樹脂,ポリアミドイミド系樹脂又はポリエーテルイミド系樹脂が単独で又は混合して用いられる。ガラス転移点が260℃以上のものを用いるのが好ましい。ガラス転移点の高い耐熱性ポリマーを用いる理由は、二次電池が蓄熱したときに、軟化するのを防止するためである。一方、カップリング剤としては、従来公知のシラン系カップリング剤,チタネート系カップリング剤,アルミニウムカップリング剤等が用いられる。このカップリング剤は、絶縁層と化成処理皮層との密着性を向上させるために使用される。
【0033】
このような耐熱性ポリマーとカップリング剤とを、溶媒に溶解又は分散させて溶液化したものを用いる。溶媒としては、耐熱性ポリマーを溶解させやすい、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド,テトラヒドロフラン等の極性溶媒を用いるのが好ましい。このような溶液を、化成処理層15の表面に塗布し、乾燥(焼付)することによって、絶縁層13を得ることができる。乾燥(焼付)条件は、温度180〜250℃程度であるのが好ましく、時間は5〜50秒であるのが好ましい。
【0034】
次に、上記(2)の方法について説明する。水酸基を含有するフッ素含有共重合体としては、有機溶剤可溶性で分子中に架橋部位を有するものであり、架橋部位としてはアルコール性水酸基(OH基)などである。このようなフッ素含有共重合体としては、たとえば、1)式:CF2=CFX〔式中、Xはフッ素原子、水素原子ないしトリフルオロメチル基である〕で表されるフルオロオレフィン単量体、2)式:CH2=CR(CH2)〔式中、Rは炭素数1〜8のアルキル基である〕で表されるβ−メチル置換α−オレフィン単量体、3)式:CH2=CHR1〔式中、R1は−OR2又は−CH2OR2(但し、R2は水酸基を有するアルキル基)である〕で表される水酸基含有単量体、および、4)架橋性官能基を有さず、かつ、前記単量体1)、2)、3)と共重合し得る他の単量体から導かれるフッ素含有共重合体を挙げることができる。
【0035】
フルオロオレフィン単量体としては、例えば、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等を挙げることができる。また、前記β−メチル置換α−オレフィン単量体としては、例えば、イソブチレン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン等を挙げることができる。また、水酸基含有単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル等を挙げることができる。また、前記フルオロオレフィン単量体、前記β−メチル置換α−オレフィン単量体、水酸基含有単量体と共重合し得る他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,(イソ)酪酸ビニル,カプロン酸ビニル,ラウリン酸ビニル,ステアリン酸ビニル,安息香酸ビニル,キサフルオロプロピオン酸ビニル,リフルオロ酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、マレイン酸又はフマル酸ジメチル,ジエチル,ジプロピル,ジブチル,ジトリフルオロメチル,ジトリフルオロメチル,ジヘキサフルオロプロピルなどのマレイン酸又はフマル酸のジエステル、メチルビニルエーテル,エチルビニルエーテル,n−プロピルビニルエーテル,iso−ブチルビニルエーテル,tert−ブチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、シクロペンチルビニルエーテル,シクロヘキシルビニルエーテルなどのシクロアルキルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル等の芳香族基を有するビニルエーテル類、あるいは、パーフルオロエチルビニルエーテル,パーフルオロプロピルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル類等の他に、クロトン酸、ビニル酢酸、マレイン酸、スチレン等を挙げることができる。
【0036】
前記水酸基を有するフッ素含有共重合体は、上記1)〜4)の単量体を乳化重合、溶液重合、懸濁重合等の周知の方法で共重合することにより得ることができる。前記水酸基を有するフッ素含有共重合体はGPCで測定する数平均分子量が1,000〜500,000、好ましくは、3,000〜100,000のものが用いられる。
【0037】
また、前記硬化剤としては、架橋部位である水酸基との反応性の高い有機ポリイソシアネート化合物が適当であり、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、n−ペンタン−1,4−ジイソシアネート、および、これらの三量体、これらのアダクト体やビューレット体、あるいは、これらの重合体で2個以上のイソシアネート基を有するもの、さらに、ブロック化されたイソシアネート類等を挙げることができる。
【0038】
このような水酸基を含有するフッ素含有共重合体と硬化剤とを反応させてフッ素系樹脂を形成する。例えば、前記フッ素含有共重合体を溶媒に溶解し、該フッ素含有共重合体中の水酸基(−OH基)1当量に対して0.1〜5.0当量、好ましくは0.5〜1.5当量となるように前記硬化剤を添加する。このようにして得たフッ素系樹脂を溶媒に溶解又は分散させて溶液化したものを、ロールコート法、グラビアコート法、バーコート法等の周知の塗布方法を用いて化成処理層15の表面に塗布し、乾燥することによって、絶縁層13を得ることができる。前記フッ素系樹脂の塗布量としては、乾燥後に3.0〜5.0g/m2となるように塗布するのが適当である。理由としてはラミネート強度を確保する上から3.0g/m2以上は必要であり、端面からの水分透過およびコストを考慮すると5.0g/m2以下が適当だからである。
【0039】
本発明に用いられる外装体の最内層は、最内層同士がヒートシール性を有するとともに、タブを形成している金属に対してもヒートシール性を示し、かつ、内容物により変質、劣化しない材質を検討した結果、厚さ10μm以上、好ましくは20〜100μmであって融点80℃以上、ビカット軟化点が70℃以上の不飽和カルボングラフトポリエチレン、不飽和カルボン酸グラフトポリプロピレン、不飽和カルボングラフトポリメチルペンテンなどの不飽和カルボングラフトポリオレフィン系樹脂、金属イオン架橋ポリエチレン、またはエチレンまたはプロピレンとアクリル酸、またはメタクリル酸との共重合物、およびこれらの変性物の少なくとも一つを含むものが良好な結果を示した。
【0040】
最内層には、金属接着性を持たないポリオレフィン等を用いることもできるが、この場合には、電極と最内層との間に不飽和カルボングラフトポリオレフィン、金属架橋ポリエチレン、エチレンまたはプロピレンとアクリル酸、またはメタクリル酸との共重合物から形成される熱接着性タブ材(厚さ15μm以上)を用いることによって、タブと包装材料とが完全に接着され、密封することができる。タブ4と最内層14との間に接着性フィルム6を介在させることにより、密封性を確保することができる。
【0041】
また、接着性フィルムとして、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムの両面に、少なくとも一方が酸変性ポリオレフィンであるポリオレフィン層を積層したフィルムを用いることがより好ましい。この場合、ポリエチレンナフタレートフィルムは耐熱性に優れるためヒートシール時に薄肉化することがなく、バリア層12とタブ4との短絡を防止することができる。
【0042】
ヒートシール部への接着性フィルムのセット方法は、図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、タブ4と最内層14との間に、タブ4(金属)と最内層14(ヒートシール層)との双方に対してシール性を有する接着性フィルム6を介在させてもよいし、また、図5(a)、図5(b)、図5(c)に示すように、タブ4の所定の位置に巻き付けても良い。前記接着性フィルム6としては、ポリオレフィン樹脂を不飽和カルボン酸でグラフト変性した不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィン、金属架橋ポリエチレン、エチレンまたはプロピレンとアクリル酸、またはメタクリル酸との共重合体からなるフィルム等を用いることができる。なお、本発明の積層体における最内層14は、前記の樹脂からなる単層でもよいし、また、前記樹脂を含む2層以上の複層としてよい。
【0043】
不飽和カルボングラフトポリオレフィン系樹脂は、電極との接着性、耐熱性、耐寒性、加工適性(パウチ化、エンボス成形性)のいずれにも適している。最内層の厚さが20μm未満では、電極をヒートシールした時、その端部部分に隙間ができバリア性がなくなる。また、最内層の厚さが100μmを超えても、ヒートシール強度は変わらず、積層体としての厚さが増して、本発明の課題である省スペースに逆行する。また、融点、ビカット軟化点が低い場合、耐熱性、耐寒性がなくなりフィルム同士および電極との接着強度が低下し破袋する。また、前記各種の不飽和カルボングラフトポリマーは、それぞれ単体で用いてもよいが、2種以上の樹脂をブレンドすることでもその性質は満足される。
【0044】
本発明の積層体の前記各層には、適宜、製膜性、積層化加工、最終製品二次加工(パウチ化、エンボス成形)適性を向上、安定化する目的のために、コロナ処理、ブラスト処理、酸化処理、オゾン処理等の表面活性化処理をしてもよい。
【0045】
本発明の積層体の最外層、バリア層、絶縁層、最内層の各層を形成する、または、各層間の積層方法等は、具体的にはTダイ法、インフレーション法、共押出し法等を用いて製膜することができる。必要に応じて、コーティング、蒸着、紫外線硬化、電子線硬化等の方法によって二次膜を形成してもよい。また、貼り合わせの方法としては、ドライラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、熱ラミネート法等の方法を用いることができる。
【0046】
ドライラミネート法により貼り合わせを行う際には、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリエーテル系、シアノアクリレート系、ウレタン系、有機チタン系、ポリエーテルウレタン系、エポキシ系、ポリエステルウレタン系、イミド系、イソシアネート系、ポリオレフィン系、シリコーン系の各種接着剤を用いることができる。また、これらの接着層には適宜、酸化珪素、炭酸カルシウム、亜鉛、鉛丹、亜酸化鉛、酸化鉛、シアナミド鉛、ジンククロメート、クロム酸バリウムカリウム、クロム酸バリウム亜鉛の少なくとも一つを含有することを特徴とした添加剤を添加し、耐薬品性、耐有機溶剤性をさらに向上させることも可能である。特に、酸化珪素、炭酸カルシウム、亜鉛、鉛丹、亜酸化鉛、酸化亜鉛、シアナミド鉛、ジンククロメート、クロム酸バリウムカリウム、クロム酸バリウム亜鉛などは電解液と水分との反応で発生するフッ化水素を吸収・吸着する効果があり、各層、特にバリア層(アルミニウム)に対するフッ化水素の腐食を防止する効果がある。
【0047】
また、押出ラミネート法を用いる場合、接着する各層間の接着力を安定化する接着促進化方法として、ポリエステル系、ポリエーテ系、ウレタン系、ポリエーテルウレタン系、ポリエステルウレタン系、イソシアネート系、ポリオレフィン系、ポリエチレンイミン系、シアノアリレート系、有機チタン化合物系、エポキシ系、イミド系、シリコーン系、およびこれらの変性物、または、混合物等の樹脂を1μm程度塗布したり、オゾン処理による表面活性化処理を行うことができる。また、押出ラミネート法あるいはサーマルラミネート法により貼り合わせる際の樹脂として不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを用いることによって、接着性とともに耐内容物性も向上する。
【0048】
次に、本発明のリチウムイオン電池に用いられるリチウムイオン電池タブについて説明する。図6は、リチウムイオン電池のタブ周辺の構成を示す断面拡大図である。外装体5は、上述したように複数の層から成る積層構造を有しており、最内層14として金属接着性フィルムがラミネートされ、金属製のタブ4と外装体5とのヒートシール性を高めている。最内層14が金属に対してヒートシール性を持たない外装体5を用いてもよいが、その場合には、金属製のタブ4と外装体5の最内層との双方にヒートシール性を有する接着性フィルム(図3、図4参照)を介し、ヒートシールされ溶着する。
【0049】
タブ4の外装体5がヒートシールされる部分(以下、挟持部分という)7及び外装体5の内側に配置され電解液と接触する部分の全体には、酸化皮膜から成る絶縁層4b(図示せず)と、耐フッ化水素層から成る化成処理層4cとが積層形成されている。また、外装体5内に収納されたタブ4の先端には、正極(図示せず)とタブ4とを電気的に接続する正極集電体8が連結されている。なお、ここでは正極側のタブ周辺の構造について説明したが、負極側も全く同様の構成である。
【0050】
この構成により、リチウムイオン電池の電解質と水分との反応で生成するフッ化水素(化学式:HF)に起因するタブ表面の溶解、腐食を防止し、かつ外装体5の最内層または接着性フィルムとタブ4との接着性(濡れ性)を向上させ、タブにおける接着力の安定化を図ることが可能となる。
【0051】
なお、リチウムイオン電池は、リチウムイオン電池本体を包装する外装体のタイプにより、図1に示すようなピロー状の外装体5を用いるパウチタイプと、図2に示すようなエンボス部が形成されたトレイ5aとシート5bとから成る外装体5を用いてリチウムイオン電池本体2を密封収納するエンボスタイプとがあるが、本発明はいずれのタイプにも適用し得るものである。
【0052】
次に、タブの構成について詳細に説明する。図7(a)はリチウムイオン電池タブの断面図(図1のX−X断面)、図7(b)は外装体に収納した状態での断面図、図7(c)は外装体をタブと共にヒートシールした状態での断面図である。図7に示すように、タブ4は、所定幅のタブ材4aの挟持部分に絶縁層4bが形成され、さらに絶縁層4bの外側に化成処理層4cが積層形成されている。なお、絶縁層4bには開口部4dが形成されており、タブ材4aは開口部4dを介して化成処理層4cと接触している。
【0053】
絶縁層4bは、アルミニウム箔、銅箔(ニッケルメッキを含む)又はニッケル箔等の金属箔で形成されたタブ材4aの表面の所定箇所に絶縁性樹脂を含む溶液を塗布して絶縁性樹脂皮膜としたものである。絶縁性樹脂皮膜の形成法としては、(1)ガラス転移点が少なくとも200℃以上の耐熱性ポリマーとカップリング剤とを含む溶液を、塗布し乾燥させる方法と、(2)水酸基を含有するフッ素含有共重合体と該フッ素含有共重合体の水酸基と反応する硬化剤とにより形成されているフッ素系樹脂を溶媒に溶解又は分散させて溶液化したものを、塗布し乾燥させる方法とを好適に用いることができる。これらの方法については、上記外装体材料の積層体10における絶縁性13の形成方法と重複するので、説明を省略する。
【0054】
なお、絶縁層4bは、何らの処理を施さないタブ材4aの表面に直接形成しても構わないが、タブ材4aと絶縁層4bとの接着性を向上させるために、あらかじめタブ材4aの表面に金属接着性オレフィン系樹脂層を形成しておき、この金属接着性オレフィン系樹脂層を介して絶縁層4bを形成するのが望ましい。この場合、金属接着性オレフィン系樹脂層の表出面には、前記フッ素系樹脂層との接着性を考慮して、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理等の易接着処理が施される。
【0055】
金属接着性オレフィン系樹脂としては、酸変性ポリオレフィン系樹脂、たとえば、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体等の酸変性ポリオレフィン樹脂、特に好ましくは不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。この理由としては、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂はエチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体等の酸変性ポリオレフィン樹脂に比べて、耐熱性に優れるからである。前記金属接着性オレフィン系樹脂層の厚さとしては、5〜20μm、好ましくは10〜15μmであり、5μm未満では十分なラミネート強度を得ることができず、20μm超では端面からの水分透過が多くなり、電池としての性能を低下させる虞があるからである。
【0056】
なお、絶縁層4bをタブ材4aの表面全体に形成すると、タブ4を介してセル3からの放電とセル3への再充電が行えなくなる。そのため、絶縁層4bの所定箇所には開口部4dが設けられており、セル3とタブ材4aとの間の電子の授受は開口部4d及び化成処理層4cを介して行われる。開口部4dは、図7のようにパターン状に設けても良いし、正極集電体8(図6参照)が連結される部分のみに設けても良い。
【0057】
化成処理層4cは、タブ材4aの表面の挟持部分7及び電解液と接触する部分をリン酸クロム、クロム酸等で化成処理(以下、リン酸クロメート処理と記載する)を行うことにより形成される。この化成処理層4cと、前述した絶縁層4bとにより、リチウムイオン電池内の電解質成分と外部から侵入した水分との反応で発生するフッ化水素酸によるタブ表面の腐食、溶解を効果的に防止する。さらに、化成処理層4cは、外装体5の最内層14(図3参照)またはタブ4に対する接着性フィルム6(図4参照)とタブ4とを確実にヒートシールさせる作用も兼ね備えている。
【0058】
次に、本発明に用いられるリチウムイオン電池タブの製造方法について説明する。先ず、タブ製造用のアルミニウムシートを、スリッターを用いて最終使用幅の長尺状態のタブ材にスリットする(スリット工程)。次に、所定幅にスリットされたタブ材の表裏面及び側面を脱脂する(脱脂工程)。その後、タブ材の所定箇所(挟持部分及び電解液と接触する部分)を絶縁性樹脂皮膜から成る絶縁層を形成する(絶縁層形成工程)。最後に、絶縁層を含む挟持部分全体を覆うように耐フッ化水素性の化成処理層を形成し(化成処理工程)、所定の長さに切断してリチウムイオン電池タブが製造される。
【0059】
タブ材の原料となるアルミニウムシートを形成する際、その表面に油性成分が付着することがあり、また、広幅のシートからスリッターによって所定幅のタブ材に断裁する際に、切断刃の保護のために用いられるオイルが付着することもある。これらの油性成分やオイルは以後の絶縁層や化成処理層の形成に悪影響を及ぼすため、油性成分やオイルを除去する脱脂工程が必要となる。なお、脱脂工程の前に、バフ研磨等によりタブ材表面を前処理する工程を設けても良く、エッチング、デスマット処理等によりタブ材表面を洗浄、溶解する工程をさらに設けても良い。
【0060】
脱脂処理は、タブ材に酸またはアルカリ液をコーティングするか、タブ材を酸またはアルカリ液中に浸漬することにより行うことができる。脱脂に用いる酸性物質としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、リン酸、スルファミン酸などの無機酸、クエン酸、グルコン酸、シュウ酸、酒石酸、ギ酸、ヒドロオキシ酢酸、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)およびその誘導体、チオグリコール酸アンモニウム等が挙げられる。
【0061】
また、アルカリ性物質としては、カセイソーダ(NaOH)、ソーダ灰(Na2CO3)、重曹(NaHCO3)、ボウ硝(Na2SO4・10H2O)、セスキ炭酸ソーダ(Na2CO3・NaHCO3・2H2O)などのソーダ塩類、オルソケイ曹(2Na2O・SI2、水分10〜40%)、メタケイ曹(2Na2O・SI2・9H2O)、一号ケイ曹(Na2O・2SI2、水分42〜44%)、二号ケイ曹(Na2O・3SI2、水分65%)等のケイ酸塩、第一リン酸ソーダ(NaH2PO4)、ピロリン酸ソーダ(Na427)、第二リン酸ソーダ(Na2HPO4)、ヘキサメタリン酸ソーダ{(NaPO36}、第三リン酸ソーダ(Na3PO4)、トリポリリン酸ソーダ(Na5310)等のリン酸塩類が挙げられる。
【0062】
絶縁層形成工程は、上述したように耐熱性ポリマーとカップリング剤とを、溶媒に溶解又は分散させて溶液化したもの、又は水酸基を含有するフッ素含有共重合体と硬化剤とから形成されるフッ素系樹脂を溶媒に溶解又は分散させて溶液化したものを、タブ材4aの表面に塗布し、乾燥(焼付)することにより行うことができる。なお、溶媒の種類、塗布方法、乾燥(焼付)方法等は、要求される絶縁層の層厚や品質に応じて最適条件となるように選択すれば良い。
【0063】
なお、前述したように、タブの導電性を確保するため、絶縁性樹脂皮膜にはタブ材表面が露出する開口部(図7参照)を形成しておく必要がある。開口部の形成方法としては、予め印刷等により開口部に該当する箇所にレジスト膜をパターン形成しておき、必要箇所にのみ酸性やアルカリ性の電解液を処理した後、レジスト膜を除去して絶縁性樹脂皮膜を形成する方法や、表面全体を酸性やアルカリ性の電解液に浸漬処理して絶縁性樹脂皮膜を全面に形成した後、不要部分を削り取る方法等が挙げられる。
【0064】
化成処理工程は、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、トリアジンチオール化合物から成る溶液をタブ材表面に塗布し、加熱や遠近赤外線の照射等により皮膜を乾燥硬化させて化成処理層を形成するものである。特に、処理液として、フェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸からなる水溶液を用いるリン酸クロメート処理が好適に用いられる。
【0065】
化成処理の方法は、少なくともタブ部における挟持部分を処理できればよいが、クロム酸塩液にタブ材を浸漬する浸漬法、タブ材にクロム酸塩液を吹き付けるシャワー法、ロールを用いて、タブ材にクロム酸塩液をコートするロールコート法等を用いてタブ材の全周を処理することが望ましい。その後、タブ材に塗布されたクロム酸塩液を乾燥し、さらに、皮膜温度が180℃以上となる温度条件において焼付けることにより、タブ材の表裏面および側面を化成処理する。クロム酸塩液の塗布量は2〜20mg/m2(乾燥重量)程度が適当である。
【0066】
本発明のリチウムイオン電池について、実施例により説明する。以下の実施例1、2ともに共通条件は以下の通りである。
(1)外装体は、片面エンボスタイプとし、凹部は35mm×50mm、凹部の深さは3.5mm、フランジ部(シール部)の幅は5mmとした。
(2)タブは、陽極をニッケル、陰極をアルミニウムとし、いずれも、幅8mm、長さ50mm、厚さ100μmである。
(3)実施例におけるタブの脱脂処理、陽極酸化処理および化成処理は、リチウムイオン電池本体に装着するサイズに断裁したものに対して処理した。実際の製造においては、前述のように、タブ材の金属シートをスリッターした長尺状態で処理することができる。
【実施例1】
【0067】
<外装体>
厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に、アミノ化フェノール重合体、フッ化クロム(III)および、リン化合物を含有する化成処理液をロールコート法により2μmの化成処理皮膜を形成し、絶縁ワニスとして、芳香族ポリアミドイミド樹脂20重量部、シランカップリング剤3重量部、N−メチル−2−ピロリドンとキシレンからなる混合溶媒80重量部からなるものを準備し、前記化成処理皮膜面に、絶縁ワニスをバーコーターで塗布し、190℃で10秒間の条件で乾燥(焼付)し絶縁層を形成した。続いて、30μm厚さの未延伸ポリプロピレンフィルムを絶縁層面に加熱圧着し、さらにアルミニウム箔の他方面と25μm厚さの二軸延伸ナイロンフィルムとを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して積層して外装体材料を得た。そして、この外装体材料をプレス加工し、エンボスタイプの外装体を得た。
<タブ>
陰極用のタブ材として厚さ30μmのアルミニウム箔、陽極用のタブ材として厚さ30μmのニッケル箔を準備し、これらのタブ材を0.1規定の硝酸液に5分間浸漬してから水洗いして乾燥した。絶縁ワニスとして、芳香族ポリアミドイミド樹脂20重量部、シランカップリング剤3重量部、N−メチル−2−ピロリドンとキシレンからなる混合溶媒80重量部からなるものを準備する。そして、タブ材の両面にレジスト膜をパターン形成した後、絶縁ワニスをバーコーターで塗布し、190℃で10秒間の条件で乾燥(焼付)し、水洗後レジスト膜を除去することにより、タブ材の両面に所定パターンの厚さ2μmの絶縁層を形成した。続いて、絶縁層を形成したタブ材の両面にコロナ放電処理を施した後、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する化成処理液を用いてロールコート法により2μmの化成処理層を形成し、リチウムイオン電池タブを得た。
<電池本体>
上記のようにして得られた陽極用及び陰極用のタブ材をリチウムイオン電池のセル端部に接合して、電池本体とした。
<リチウムイオン電池>
接着性フィルムとして、酸変性LLDPE100μmによってタブを挟持した状態として、電池本体を外装体のエンボス部の中に収納して、蓋体を被覆して周縁をヒートシールしてエンボスタイプのリチウムイオン電池を得た。
【実施例2】
【0068】
<外装体>
厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に、アミノ化フェノール重合体、フッ化クロム(III)及びリン化合物を含有する化成処理液をロールコート法により2μmの化成処理層を形成し、化成処理層面にフッ素系ポリオールにイソシアネート系硬化剤をポリオールの水酸基(−OH基)1当量に対して1.1当量となるように添加したフッ素系樹脂溶液を乾燥後に3.0g/m2となるように塗布・乾燥し絶縁層を形成した。続いて、30μm厚さの未延伸ポリプロピレンフィルムを絶縁層面に加熱圧着し、さらにアルミニウム箔の他方面と25μm厚さの二軸延伸ナイロンフィルムとを2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介して積層して積層して外装体材料を得た。そして、この外装体材料をプレス加工し、エンボスタイプの外装体を得た。
<タブ>
陰極用のタブ材として厚さ30μmのアルミニウム箔、陽極用のタブ材として厚さ30μmのニッケル箔を準備し、これらのタブ材を0.1規定の硝酸液に5分間浸漬してから水洗いして乾燥した。続いて、タブ材の両面にレジスト膜をパターン形成した後、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン(以下、PPaと呼称する)を15μm厚さとなるようにTダイ押出機で加熱溶融押出しし、その後にPPa面にコロナ放電処理を施し、該コロナ放電処理した前記PPa面にフッ素系ポリオールにイソシアネート系硬化剤をポリオールの水酸基(−OH基)1当量に対して1.1当量となるように添加したフッ素系樹脂溶液を乾燥後に3.0g/m2となるように塗布・乾燥し、水洗後レジスト膜を除去することにより、タブ材の両面に所定パターンの絶縁層を形成した。そして、絶縁層を形成したタブ材の両面にコロナ放電処理を施した後、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する化成処理液を用いてロールコート法により2μmの化成処理層を形成し、リチウムイオン電池タブを得た。
<電池本体>
上記のようにして得られた陽極用及び陰極用のタブ材をリチウムイオン電池のセル端部に接合して、電池本体とした。
<リチウムイオン電池>
接着性フィルムとして、酸変性LLDPE100μmによってタブを挟持した状態として、電池本体を外装体のエンボス部の中に収納して、蓋体を被覆して周縁をヒートシールしてエンボスタイプのリチウムイオン電池を得た。
【0069】
実施例1、2のリチウムイオン電池の外装体においては、成形時、ヒートシール時ともにヒートシール層に亀裂はなく、堅牢な絶縁層によりバリア層が保護されているため、電池内部でバリア層と電解液が接触することが防止され、リチウムイオン電池自体の絶縁性を長期に亘って維持することができた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】は、本発明のリチウムイオン電池(パウチタイプ)の斜視図及び分解斜視図である。
【図2】は、本発明のリチウムイオン電池(エンボスタイプタイプ)の斜視図及び分解斜視図である。
【図3】は、本発明に用いられる外装体の積層構造を示す断面図である。
【図4】は、リチウムイオン電池タブと外装体とのヒートシールにおける接着フィルムの装着方法を説明する斜視図である。
【図5】は、接着フィルムの他の装着方法を説明する斜視図である。
【図6】は、本発明のリチウムイオン電池のタブ周辺の構造を示す断面拡大図である。
【図7】は、本発明に用いられるリチウムイオン電池タブの断面図(a)、リチウムイオン電池本体を外装体に収納した状態での断面図(b)、タブの挟持部分をヒートシールした後の断面図(c)である。
【図8】は、従来のリチウムイオン電池に用いられる外装体の積層構造の一例を示す断面図である。
【図9】は、従来のリチウムイオン電池に用いられる外装体の積層構造の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 リチウムイオン電池
2 リチウムイオン電池本体
3 セル(蓄電部)
4 タブ
4a タブ材
4b 絶縁層
4c 化成処理層(タブ)
4d 開口部
5 外装体
6 接着性フィルム
7 挟持部分
8 正極集電体
10 積層体
11 基材層
12 バリア層
13 絶縁層
14 最内層(ヒートシール層)
15 化成処理層(バリア層表面)
16 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質及び正極集電体からなる正極と、負極活物質及び負極集電体からなる負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質とを含むリチウム電池本体と、該リチウム電池本体を収納し周縁部をヒートシールすることにより前記リチウム電池本体を密封する外装体と、前記正極及び負極に連結されるとともに前記外装体により先端が突出するように挟持され、該挟持部分をヒートシールされる金属製のリチウムイオン電池タブとからなるリチウムイオン電池であって、
前記外装体が、少なくとも基材層、バリア層、化成処理層、絶縁層及びヒートシール層が順次積層された積層体であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記絶縁層が、ガラス転移温度が少なくとも200℃以上の耐熱性ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記耐熱性ポリマーが、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂もしくはポリエーテルイミド樹脂又はこれら2つ以上の混合物であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記絶縁層が、水酸基を含有するフッ素含有共重合体と硬化剤とから形成されるフッ素系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記化成処理層が、リン酸クロメート処理で形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−95426(P2007−95426A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281543(P2005−281543)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】