説明

リチウムイオン電池

【課題】
着目すべきリチウムイオン電池の性能に応じて、セパレータの配置を考慮することにより、より性能の向上を図ることが可能なリチウムイオン電池を提供すること。
【解決手段】
正極、セパレータ、負極が順次重ねられた電極群を有し、セパレータの透気度の高い側が正極に対向して配置されるか、正極側から負極側への流れの方が、負極側から正極側への流れよりも、物質が流れやすいようにセパレータが配置されるリチウムイオン電池とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に係り、特に、正極と負極との間に介在させるセパレータの配置を工夫したリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に使用される電極群は、一般的に、捲回タイプと積層タイプとに大別される。捲回タイプの場合、電極群が収納される缶は円筒形や角形がある。いずれにしても、電池缶の内部に、正極、セパレータ、負極、セパレータが交互に重なるように捲回され、電解液が満たされる構造となっている。また、積層タイプの場合、電極群が収納される缶は角形である場合が多く、正極、負極の各電極群は、正極、セパレータ、負極、セパレータと交互に積層され、電解液と共に電池缶に収納される構造となっている。
【0003】
従来は、セパレータの表裏面の性能の違いについて一切考慮しておらず、例えば特許文献1に開示されるように、セパレータは、単に正極と負極との間に介在するものでしかなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−272266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の通り、セパレータには表裏面で性能に違いがある。いずれの面が正極にまたは負極に接しているかによって、リチウムイオン電池の各種性能を左右する影響を及ぼすため、本発明においては、着目すべきリチウムイオン電池の性能に応じて、セパレータの配置を考慮することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、次に示すような構成が有効と考えられる。
【0007】
正極、セパレータ、負極が順次重ねられた電極群を有し、セパレータの透気度の高い側が、正極に対向して配置されるリチウムイオン電池。
【0008】
または、正極、セパレータ、負極が順次重ねられた電極群を有し、正極側から負極側への流れの方が、負極側から正極側への流れよりも、物質が流れやすいようにセパレータが配置されるリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によって、正極側に依存する異物が溶解して負極側に拡散した後、正極側に再析出する短絡パスの形成を抑制することができるため、耐短絡性の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用可能な実施形態のリチウムイオン電池の外観を示す図である。
【図2】本発明が適用可能な実施形態のリチウムイオン電池に摘要することが可能な電極群を示す図である。
【図3】本発明が適用可能な実施形態のリチウムイオン電池を保存する際の電圧推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0012】
<リチウムイオン電池の作製>
正極には、例えば正極活物質としてスピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン複酸化物粉末と、導電材として鱗片状黒鉛と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、固体難燃剤としてホスファゼン化合物とを重量比80:10:5:5で混合し、これに分散溶媒のN−メチルピロリドン(NMP)を添加、混練したスラリを厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、その後、乾燥、プレス、裁断することにより所定の厚さ(例えば170μm)の正極を用いることができる。なお、アルミニウム箔の長手方向一側を矩形状に切り欠き、切り欠き残部を正極リード片9とした。
【0013】
負極には、例えば負極活物質として非晶質炭素粉末90質量部に対し、結着剤としてPVdFを負極活物質に対し10質量部添加し、これに分散溶媒のNMPを添加、混練したスラリを、厚さ10μmの電解銅箔の両面に塗布し、その後乾燥プレス、裁断することにより所定の厚さ(例えば130μm)の負極を用いることができる。なお、電解銅箔の長手方向一側を矩形状に切り欠き、切り欠き残部を負極リード片9’とした。
【0014】
正極と負極とを絶縁するセパレータは、厚さが20μmのものを使用し、表1に示す条件で正極負極に対向する透気度を変化させた。セパレータがある一定量(例えば100cc)の空気を通す際にかかる時間が短い面を透気度の高い側とする。
【0015】
電極群を作製する際に異物として約40μmの金属粉(例えばFe)を正極とセパレータとの間に添加し、電池容量約700mAhの電極群を作製した。その電極群を非水電解液と共に電池缶に収納した。
【0016】
図1に、例として、角型積層タイプのリチウムイオン電池の外観を示す。
【0017】
電池缶5に蓋部6が設けられた構造である。ここでは、一例として、角型積層タイプのリチウムイオン電池を示したが、本発明は、円筒形であっても、捲回形であってもよく、リチウムイオン電池の外観形状には限定されない。
【0018】
また図2は、本発明に適用可能な電極捲回群展開図である。
【0019】
本実施形態の捲回群は、帯状の負極3と帯状の正極1とをセパレータ2を介して軸芯4に捲回したものである。
【0020】
図2では、捲回形のリチウムイオン電池を示したが、軸心を使用して捲回せずに、正極、セパレータ、負極、セパレータと積層していけば、積層タイプのリチウムイオン電池となる。本発明はリチウムイオン電池の電極構成には限定されない。
【0021】
<リチウムイオン電池の50℃放置試験>
4.2Vに充電したセルを環境温度50℃にて放置し、放置期間中の電圧を測定し、電圧が4Vを下回った時点で解体調査を行った。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
表1に示す通り、正極および負極に対向するセパレータの透気度を変化させた。
【0023】
【表1】

【0024】
この結果に基づき、4.2V−50℃での保存時の電圧推移を図3に示す。
【0025】
実施例1で得られたリチウムイオン電池の耐短絡性が、比較例1および比較例2で得られたリチウムイオン電池と比較して、優れていることがわかる。比較例1および比較例2で得られたリチウムイオン電池は、負極へ析出された異物痕が大きかった。一方、実施例1で得られたリチウムイオン電池で確認された異物痕は小さかった。このことから、実施例1で得られたリチウムイオン電池は、短絡パスができにくくなっていることがわかる。
【0026】
この要因については、酸化雰囲気にある正極の異物が溶解し、溶解した異物が拡散することによって負極側へ到達した後、還元雰囲気である負極で異物が析出し、析出した異物が成長することによって正極側へ到達して短絡パスが形成されることによって短絡が起きると考えられる。負極側の透気度が低いため、析出後の成長を妨げていると考えられる。正極側の透気度が高いため端面が鈍角な異物成長となり、セパレータの貫通が抑えられていると考えられる。
【0027】
前述の正極活物質として、リチウムマンガン複酸化物に代えて、化学式LiMO2(Mは少なくとも1種の遷移金属)で表されるものを用いることができる。マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムなどの正極活物質中のMn、Ni、Coなどの一部を1種あるいは2種以上の遷移金属で置換えして用いることができる。さらには遷移金属の一部をMg、Alなどの金属元素で置換えして用いることも可能である。
【0028】
また導電剤は、鱗片状黒鉛に限らず、公知の導電剤、例えば黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、炭素繊維などの炭素系導電剤を用いればよく、特に限定されない。
【0029】
そして結着剤は、PVdFのほかにも、公知の結着剤、例えばフッ素ゴムなどを用いればよく、特に限定されない。本発明で好ましい結着剤は、例えばポリフッ化ビニリデンである。
【0030】
さらに溶剤は、NMPに限ることなく、公知の種々の溶剤を適宜選択して使用することができる。
【0031】
正極合剤における正極活物質、導電剤および結着剤の混合比は、特に限定されないが、例えば正極活物質を1とした場合、重量比で1:0.05〜0.20:0.02〜0.10が好ましい。また、前述の例では、固体難燃剤を使用しているが、難燃剤を使用するか否かは本発明の本質とするところではなく、難燃剤を使用する場合でも、その種類は限定されるものではない。
【0032】
一方負極活物質については、非晶質炭素のほか、黒鉛などの炭素系の材料であればよい。結着剤としては、例えば上記正極と同様のものが用いられ、特に限定されない。好ましいものは、例えばポリフッ化ビニリデンである。好ましい溶剤は、例えばNMP等の有機溶剤である。負極活物質および結着剤の混合比は、特に限定されないが、例えば負極活物質を1とした場合、重量比で1:0.05〜0.20が好ましい。
【0033】
また非水電解液としては、公知のものを用いれば良く、特に限定はされない。例えば非水溶媒としてプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、1,2−ジエトキシエタン、イオン液体等がある。これらの溶媒の1種以上に、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiB(C6H5)4、LiCH3SO3、LiCF3SO3等から選ばれた1種以上のリチウム塩を溶解させて非水電解液を調整することができる。
【0034】
さらにセパレータ、電池ケース等の構造材料等の他の要素についても従来公知の各種材料が使用でき、特に制限はない。セパレータは、一般的にポリオレフィン系多孔質膜が使用され、材質はポリエチレンとポリプロピレンとの複合膜が使用されている。
【0035】
難燃化剤にホスファゼン化合物を使用した例を示したが、一般的な難燃化剤を用いてよく、難燃化剤は特に制限されない。例えば、リン酸トリエチル、リン酸エステル系、フッ化アルキル基を含む化合物、イオン液体などの難燃化剤またはこれらを2種類以上混合したものを使用してもよく、混合配合比についても限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1…正極、2…セパレータ、3…負極、4…軸心、5…電池缶、6…蓋部、9…正極リード片、9’…負極リード片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、セパレータ、負極が順次重ねられた電極群を有するリチウムイオン電池であって、前記セパレータの透気度の高い側が、前記正極に対向して配置されることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
正極、セパレータ、負極が順次重ねられた電極群を有するリチウムイオン電池であって、前記正極側から前記負極側への流れの方が、前記負極側から前記正極側への流れよりも、物質が流れやすいように前記セパレータが配置されることを特徴とするリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−216397(P2012−216397A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80423(P2011−80423)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】