リチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法
【課題】長期間の充放電サイクルにおいて3V以上の平均放電電圧を保持でき、且つリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等若しくはそれ以上の放電容量を有する材料であって、資源的な制約が少なく且つ安価な原料を使用して得ることができ、更に、公知の低価格の正極材料と比較して、より優れた充放電特性を発揮できる新規な材料を提供する。
【解決手段】組成式:Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2 (0<x<1/3, 0≦m≦0.53, 0≦n≦0.53, 0<m+n≦0.53)で表され、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含むリチウムマンガン系複合酸化物であって、マンガン元素の平均価数が3.9価以下であることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
【解決手段】組成式:Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2 (0<x<1/3, 0≦m≦0.53, 0≦n≦0.53, 0<m+n≦0.53)で表され、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含むリチウムマンガン系複合酸化物であって、マンガン元素の平均価数が3.9価以下であることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次世代低コストリチウムイオン二次電池の正極材料として有用なリチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国において、携帯電話、ノートパソコンなどのポータブル機器に搭載されている二次電池のほとんどは、リチウムイオン二次電池である。また、リチウムイオン二次電池は、今後、電気自動車、電力負荷平準化システムなどの大型電池としても実用化されるものと予想されており、その重要性はますます高まっている。
【0003】
現在、リチウムイオン二次電池においては、正極材料としては主にリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)材料が使用され、負極材料としては黒鉛などの炭素材料が使用されている。充電によりリチウムコバルト酸化物内のコバルトが3価から4価に酸化されつつLi脱離をして負極にLiを供給し、放電時には負極の炭素材料からLi脱離し、4価のコバルトが3価に還元することにより正極側にLi挿入されることにより電池として動作する。
【0004】
この様なリチウムイオン二次電池では、正極材料において可逆的に脱離(充電に相当)、挿入(放電に相当)するリチウムイオン量が電池の容量を決定づけ、脱離・挿入時の電圧が電池の作動電圧を決定づけるために、正極材料であるLiCoO2は、電池性能に関連する重要な電池構成材料である。このため、今後のリチウムイオン二次電池の用途拡大・大型化に伴い、リチウムコバルト酸化物は、一層の需要増加が予想されている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト酸化物は、希少金属であるコバルトを多量に含むために、リチウムイオン二次電池の素材コストを上昇させる要因の一つとなっている。さらに、現在コバルト資源の約20%が電池産業に用いられていることを考慮すれば、LiCoO2からなる正極材料のみでは今後の需要拡大に対応することは困難と考えられる。
【0006】
現在、より安価で資源的に制約の少ない正極材料として、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)等が報告されており、一部代替材料として実用化されている。しかしながらリチウムニッケル酸化物には充電時に電池の安全性を低下させるという問題があり、リチウムマンガン酸化物には高温(約60℃)充放電時に3価のマンガンが電解液中に溶出し、それが電池性能を著しく劣化させるという問題があり、これらの材料への代替はあまり進んでいない。またリチウムマンガン酸化物のなかでLiMnO2という正極材料も提案されているが、この材料も充放電に伴いもとの構造から徐々に上記LiMn2O4に代表されるスピネル型の結晶構造に変化し、充放電曲線の形状が充放電サイクルの進行に伴い大きく変化することから実用化には至っていない。
【0007】
また、マンガンおよびニッケルに比べて、資源的により一層豊富であり、毒性が低く、安価な鉄を含むリチウムフェライト(LiFeO2)について、電極材料としての可能性が検討されている。しかしながら、通常の製造法、すなわち鉄源とリチウム源とを混合し高温焼成することによって得られるリチウムフェライトは、ほとんど充放電しないので、リチウムイオン二次電池正極材料として用いることはできない。
【0008】
一方、イオン交換法により得られるLiFeO2が充放電可能であることが報告されているが(下記特許文献1および2参照)、これらの材料の平均放電電圧は2.5V以下でありLiCoO2の値(約3.7V)に比べて著しく低いため、LiCoO2の代替とすることは困難である。
【0009】
本発明者らは、すでに、鉄に次いで安価かつ資源的に豊富なリチウムマンガン酸化物(Li2MnO3)とリチウムフェライトとからなる層状岩塩型構造の固溶体(Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2、(0<x<1/3, 0<y<1)、以下「鉄含有Li2MnO3」という)が、室温での充放電試験においてはリチウムコバルト酸化物並の4V近い平均放電電圧を有することを見出している(下記特許文献3および4参照)。
【0010】
更に、本発明者らは、特定の条件を満足するリチウム−鉄−マンガン複合酸化物が、高温サイクル試験時にLiMn2O4より高容量(150mAh/g)かつ安定した充放電サイクル特性を示すことを見出している(下記特許文献5参照)。
【0011】
加えて、本発明者らは、鉄とともに資源的に豊富で安価なチタンを含有するリチウムマンガン酸化物(チタン含有Li2MnO3や鉄およびチタン含有Li2MnO3)が、高容量を示し、特に、特定の化学組成、遷移金属イオン分布において、室温における高電流密度下での放電特性や低温での放電特性に優れることを見出している。(下記特許文献6-8参照)
以上の通り、リチウムコバルト系正極材料に代わり得るリチウムマンガン系正極材料について種々の報告がなされているが、より一層の充放電特性改善のためには、遷移金属価数制御を含む正極材料の化学組成や製造条件についての最適化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10-120421号公報
【特許文献2】特開平8-295518号公報
【特許文献3】特開2002-68748号公報
【特許文献4】特開2002-121026号公報
【特許文献5】特開2005-154256号公報
【特許文献6】特開2008-63211号公報
【特許文献7】特開2009-179501号公報
【特許文献8】特開2009-274940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、長期間の充放電サイクルにおいて3V以上の平均放電電圧を保持でき、且つリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等若しくはそれ以上の放電容量を有する材料であって、資源的な制約が少なく且つ安価な原料を使用して得ることができ、更に、公知の低価格の正極材料と比較して、より優れた充放電特性を発揮できる新規な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の組成を有する鉄および/またはチタンを含むリチウムマンガン系酸化物固溶体において、製造方法を工夫してMn価数を3.9以下という低い値に制御することによって、得られる酸化物は、従来の方法で得られるMn価数が高い酸化物と比較して優れた放電特性を有するものとなり、特に、初期充放電効率(初期充電容量に対する初期放電容量の割合)が高くなることを見出した。その結果、該酸化物をリチウムイオン二次電池用の正極材料として用いることによって、初期充電時の正極からのリチウム脱離を受け入れるために必要とする負極材料の量を減少させることができ、結果としてエネルギー密度の高い電池を作製できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記のリチウムマンガン系複合酸化物、その製造方法、リチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池正極材料及びリチウムイオン二次電池を提供するものである。
【0016】
項1. 組成式:Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2 (0<x<1/3, 0≦m≦0.53, 0≦n≦0.53, 0<m+n≦0.53)で表され、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含むリチウムマンガン系複合酸化物であって、マンガン元素の平均価数が3.9価以下であることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
項2. 単斜晶層状岩塩型構造の結晶相に加え、立方晶岩塩型構造の結晶相を含む上記項1に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
項3. チタン化合物及び鉄化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物と、マンガン化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物と共に、アルカリ性条件下で水熱処理することを特徴とする、上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項4. 水熱処理に用いる水溶液が、更に、還元剤を含有するものである、上記項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項5. 上記項3又は4の方法によって水熱処理を行った後、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
項6. 上記項3又は4の方法によって水熱処理を行った後、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に焼成し、次いで、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
項7. マンガン化合物、チタン化合物及び鉄化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物及び酸化剤と共に、アルカリ性条件下で水熱処理し、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
項8. マンガン化合物、チタン化合物及び鉄化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物及び酸化剤と共に、アルカリ性条件下で水熱処理し、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に焼成し、次いで、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
項9. 上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
項10.上記項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【0017】
以下、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物及びその製造方法について具体的に説明する。
(1)リチウムマンガン系複合酸化物本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、組成式Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2(但し、0<x<1/3, 0≦m≦0.53, 0≦n≦0.53, 0<m+n≦0.53)で表される化合物であって、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とし、公知物質であるLi2MnO3に類似する単斜晶
【0018】
【数1】
【0019】
層状岩塩型構造の結晶相を含むものである。図1は、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相(Li2MnO3)の結晶構造を模式的に示す図面である。この構造においては、酸化物イオンの層を介してLi単独層とLi-Mn混合層が交互に積層されている。Li-Mn層内ではMnイオンが六角網目状に規則配列している構造を有する。
【0020】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含んでいればよく、陽イオン分布の異なる他の岩塩型構造(例えば立方晶岩塩型構造など)の結晶相を含む混合相であっても良い。後述する製造方法によれば、得られるリチウムマンガン系複合酸化物は、通常、層状岩塩型構造の結晶相の他に、α-LiFeO2に類似する立方晶岩塩型構造の結晶相を含む混合相からなる場合があり、いずれの結晶相の複合酸化物も優れた充放電性能を発揮するものと考えられる。この場合、層状岩塩型構造の結晶相と立方晶岩塩型構造の結晶相の割合は、通常、層状岩塩型構造結晶相:立方晶岩塩型構造結晶相(重量比)=10:90〜100:0程度の範囲となる。
【0021】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、上記した組成式で表されるものであって、マンガン原子の平均価数が3.9以下であることを特徴とするものである。
【0022】
従来知られているリチウムマンガン系複合酸化物では、マンガン原子は、基本的には4価の元素として、単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3を構成する成分として存在する。Li2MnO3に関しては、「C. S. Johnson, J. S. Kim, C. Lefief, J. T. Vaughey and M. M. Thackeray, Electrochemistry Communication, vol.6 p.1085-1091 (2004).」(以下、「参考文献1」という)において、初期充電時に4.5 V付近にLi2O脱離に伴う電位平坦部が出現するが、5.0Vまでの充電容量が383m Ah/gであるのに対し、4.5 Vに達するまでの容量は20 mAh/gであると報告されている。更に、参考文献1には、Li2MnO3の放電容量は208 mAh/gであり、初期充放電効率は54%という低い値であることが記載されている。
【0023】
これに対して、本願発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、後述のように製造方法を工夫することによって得られるものであり、マンガンの平均価数が3.9価以下という低い値を有する新規な化合物である。この様な特徴を有する本願発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、従来知られている4価のマンガンを含むLi2MnO3で表されるリチウムマンガン系複合酸化物と比較して優れた充放電特性を有するものであり、特に、初期充電効率が高い値となる。この理由については明確ではないが、平均価数3.9価以下のマンガンを含むリチウムマンガン系複合酸化物は、4.5V以下の低い電圧でLi脱離が可能であり、これにより初期充放電効率が改善されるものと考えられる。
【0024】
本願発明では、組成式Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2で表される化合物におけるマンガンの平均価数は、3.9価以下であることが必要であり、3.87価以下であることが好ましい。マンガンの平均価数は、低下とともに組成式中のLi含有量が低くなるので、十分な充放電容量とするために、2.5価以上であることが望ましく、3.0価以上であることがより好ましい。
【0025】
尚、マンガンの平均価数とは、後述する実施例で示す通り、マンガンを含む遷移金属元素(Tiを除く)の価数をヨウ素滴定法によって測定し、別途測定した遷移金属成分の含有量と鉄の平均価数に基づいて、下記式により算出した値である。
マンガンの平均価数
=(MnおよびFeの平均価数×組成式中のFeとMn量の和(1-n)値―(鉄含有量m値×鉄の平均価数))/マンガン含有量(1-m-n)。
【0026】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、上記した組成式に示す通り、Li及びMnを必須の元素として含む酸化物であって、更に、Fe及びはTiから選ばれた少なくとも一種の元素を固溶させたものである。
【0027】
固溶させるFe量(m値:Fe/(Fe+Mn+Ti))は、Li以外の金属量の53モル%程度以下(0≦Fe/(Fe+Mn+Ti)≦0.53)であり、好ましくは52モル%程度以下(0≦Fe/(Fe+Mn+Ti) ≦0.52)である。資源的に豊富で安価な鉄を含む場合には、安価であって、しかも優れた充放電性能を有する正極材料とすることができる。Feの固溶量が過剰となる場合には、FeのMnによる希釈が不十分となり、結果として充放電に関与しないFeが多くなるので、電池特性上好ましくない。
【0028】
本発明リチウムマンガン系複合酸化物に固溶させるTiも、基本的にFeと同様に、MnやLiを置換する形で層状岩塩型構造中に存在していると思われる。Tiは、4価状態で存在しており、特許文献6で記述したようなLi欠損の抑制や粉体特性の変化に寄与しているものと思われる。本発明複合酸化物に固溶させるTi量(n値:Ti/(Fe+Mn+Ti))は、Li以外の金属量の53モル%程度以下(0≦ Ti/(Fe+Mn+Ti)≦0.53)であり、好ましくは52モル%程度以下(0≦Ti/(Fe+Mn+Ti)≦0.52)である。Mnに比べてさらに充放電に関与させることが困難なTiを多量に使用する場合には、充放電容量の低下を招くので好ましくない。
【0029】
本発明リチウムマンガン系複合酸化物に固溶させるFeとTiの合計量は、前記組成式において0<m+n≦0.53程度の範囲内であり、好ましくは0.2≦m+n≦0.52程度の範囲内である。
【0030】
また、本発明リチウムマンガン系複合酸化物において、層状および立方晶岩塩型の結晶構造を保つことができる限り、Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2のxは、遷移金属の平均価数によって0と1/3の間の値をとることができる。好ましくは0.05〜0.30の範囲である。
【0031】
さらに、本発明複合酸化物は、充放電特性に重大な影響を及ぼさない範囲の水酸化リチウム、炭酸リチウム、チタン化合物、鉄化合物、マンガン化合物(それらの水和物および複合化合物も含む)などの不純物相を含んでいても良い。また、後述する有機物の存在下での焼成処理を行う場合には、焼成時に残留することのある非晶質又は結晶質の炭素などの不純物相が生成物中に含まれることがあるが、このような不純物相についても、本発明複合酸化物中に存在してもよい。立方晶岩塩型構造と層状岩塩型構造の結晶相からなる岩塩型構造の結晶相以外の不純物相の量については、リチウムマンガン系複合酸化物中に10重量%程度まで存在してもよい。
【0032】
リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法
本発明の複合酸化物の製造方法については特に限定はないが、例えば、水熱反応を利用した方法によれば、優れた充放電性能を有する複合酸化物を容易に形成できる。以下の項の方法について具体的に説明する。
【0033】
(i)水熱反応を使用した製造方法の内で、まず、第一の方法は、鉄イオン、マンガンイオン及びチタンイオンの生成源となる金属化合物を水、水/アルコール混合物などに溶解させた混合溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、次いで、これに水溶性リチウム化合物を添加してアルカリ性条件下で水熱処理を行う方法である。この際、酸化剤を添加することなく、水熱処理を行うことによって、目的とするマンガン元素の平均価数が3.9以下のリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0034】
鉄化合物、マンガン化合物及びチタン化合物としては、これらの化合物を含む混合水溶液を形成できる成分であれば特に限定なく使用できる。通常、水溶性の化合物を用いればよい。この様な水溶性化合物の具体例としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などの水溶性塩、水酸化物などを挙げることができる。これらの水溶性化合物は、無水物および水和物のいずれであってもよい。また、酸化物などの非水溶性化合物であっても、例えば、塩酸などの酸を用いて溶解させて水溶液として用いることが可能である。これらの各原料化合物は、各金属源について、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
該混合水溶液における鉄化合物、マンガン化合物及びチタン化合物の混合割合は、目的とする複合酸化物における各元素比と同様の元素比となるようにすればよい。
【0036】
混合水溶液中の各化合物の濃度については、特に限定的ではなく、均一な混合水溶液を形成でき、且つ円滑に共沈物を形成できるように適宜決めればよい。通常、鉄化合物、マンガン化合物及びチタン化合物の合計濃度を、0.01〜5mol/l程度、好ましくは0.1〜2mol/l程度とすればよい。
【0037】
該混合水溶液の溶媒としては、水を単独で用いる他、メタノール、エタノールなどの水溶性アルコールを含む水−アルコール混合溶媒を用いても良い。水−アルコール混合溶媒を用いることにより、0℃を下回る温度での沈殿生成が可能となる。アルコールの使用量は、目的とする沈殿生成温度などに応じて適宜決めればよいが、通常、水100重量部に対して、50重量部程度以下の使用量とすることが適当である。
【0038】
該混合水溶液から沈殿物(共沈物)を生成させるには、該混合水溶液をアルカリ性とすればよい。良好な沈殿物を形成する条件は、混合水溶液に含まれる各化合物の種類、濃度などによって異なるので一概に規定出来ないが、通常、pH8程度以上とすることが好ましく、pH11程度以上とすることがより好ましい。
【0039】
該混合水溶液をアルカリ性にする方法については、特に限定はなく、通常は、該混合水溶液にアルカリ又はアルカリを含む水溶液を添加すればよい。また、アルカリを含む水溶液に該混合水溶液を添加する方法によっても共沈物を形成することができる。 該混合水溶液をアルカリ性にするために用いるアルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどを用いることができる。これらのアルカリを水溶液として用いる場合には、例えば、0.1〜20mol/l程度、好ましくは0.3〜10mol/l程度の濃度の水溶液として用いることができる。また、アルカリは、上記した金属化合物の混合水溶液と同様に、水溶性アルコールを含む水−アルコール混合溶媒に溶解しても良い。
【0040】
沈殿生成の際には、混合水溶液の温度を-50℃から+15℃程度、好ましくは-40℃から+10℃程度にすることにより、反応時の中和熱発生に伴うスピネルフェライトの生成が抑制され微細かつ均質な共沈物が形成されやすくなる。
【0041】
該混合水溶液をアルカリ性とした後、更に、0〜150℃程度(好ましくは10〜100℃程度)で、1〜7日間程度(好ましくは2〜4日間程度)にわたり、反応溶液に空気を吹き込みながら、沈殿物の酸化・熟成処理を行うことが好ましい。
【0042】
得られた沈殿を蒸留水等で洗浄して、過剰のアルカリ成分、残留原料等を除去し、濾別することによって、沈殿を精製することができる。 次いで、上記した方法で得られた沈殿物を、水溶性リチウム化合物とともにアルカリ性条件下で水熱処理に供する。水熱処理は、該沈殿物及び水溶性リチウム化合物を含む水溶液をアルカリ性条件下で加熱することによって行うことができる。加熱は、通常、密閉容器中で行えばよい。第一の方法では、水熱処理は、酸化剤の不存在下において行うことが必要である。これにより、目的とするマンガンの平均価数が3.9以下のリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0043】
水熱反応に用いる水溶液では、鉄、マンガン及びチタンを含む沈殿物の含有量は、水1リットルあたり1〜100g程度とすることが好ましく、10〜80g程度とすることがより好ましい。
【0044】
水溶性リチウム化合物としては、例えば、塩化リチウム、硝酸リチウム等の水溶性リチウム塩、水酸化リチウム等を用いることができる。これらの水溶性リチウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、無水物および水和物の何れを用いても良い。
【0045】
水溶性リチウム化合物の使用量は、沈殿生成物中のFe、Mn及びTiの合計モル数に対するリチウム元素モル比として、Li/(Fe+Mn+Ti)=1〜10程度とすることが好ましく、3〜7程度とすることがより好ましい。
【0046】
水溶性リチウム化合物の濃度は、0.1〜10mol/l程度とすることが好ましく、1〜8mol/l程度とすることがより好ましい。
【0047】
水熱反応に用いる水溶液には、更に、還元剤を添加することができる。還元剤を添加した水溶液を用いて水熱合成反応を行うことによって、リチウムマンガン系複合酸化物中のマンガンの平均価数を、還元剤を添加しない場合と比べてより低減させることができる。
【0048】
還元剤としては、水熱反応時に分解して酸素吸収するものであれば、特に限定無く使用でき、具体例として、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウムやそれらの水和物等を挙げることができる。これらの還元剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0049】
還元剤の濃度は、0.1〜10mol/l程度とすることが好ましく、0.5〜5mol/l程度とすることがより好ましい。
【0050】
水熱反応を行う際の水溶液のpHについては、通常、pH8程度以上とすることが好ましく、pH11程度以上とすることがより好ましい。
【0051】
沈殿物及び水溶液リチウム化合物を含む水溶液がアルカリ性条件下にある場合には、そのまま加熱すればよいが、pH値が低い場合には、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどを添加してpH値を上げればよい。
【0052】
水熱反応は、通常の水熱反応装置(例えば、市販のオートクレーブ)を用いて行うことができる。
【0053】
水熱反応条件は、特に限定されるものではないが、通常100〜300℃程度で0.1〜150時間程度とすればよく、好ましくは150〜250℃程度で1〜100時間程度とすればよい。
【0054】
水熱反応終了後、通常、残存するリチウム化合物などの残存物を除去するために、反応生成物を洗浄する。洗浄には、例えば、水、水-アルコール混合溶液、アルコール、アセトンなどを用いることができる。次いで、生成物を濾過し、例えば、80℃以上の温度(通常は100℃程度)で乾燥することにより、目的とするリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0055】
上記した方法でリチウムマンガン系複合酸化物を得た後、更に、必要に応じて、得られたリチウムマンガン系複合酸化物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することによって、Li含有量、Mn価数および粉体特性を制御して目的とするリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0056】
焼成工程で用いるリチウム化合物としては、リチウム元素を含む化合物であれば特に限定なく使用でき、具体例として、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等のリチウム塩、水酸化リチウム、これらの水和物等を挙げることができる。これらのリチウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。リチウム化合物の使用量は、水熱法で得られたリチウムマンガン系複合酸化物1モルに対して0.01〜2モル程度とすればよい。
【0057】
通常、反応性を向上させるために、水熱法で得られたリチウムマンガン系複合酸化物にリチウム化合物を加えて粉砕混合した後、焼成することが好ましい。粉砕の程度については、粗大粒子が含まれず、混合物が均一な色調となっていればよい。
【0058】
リチウム化合物は、粉末形態、水溶液形態等として用いることができるが、反応の均一性を確保するために、水溶液の形態で使用することが好ましい。この場合、水溶液の濃度については、通常、0.1〜10mol/l程度とすればよい。
【0059】
還元性雰囲気下で焼成する方法については、特に限定はないが、例えば、不活性雰囲気下において、有機物、炭素粉末などの存在下に焼成することによって、還元性雰囲気下における焼成が可能である。
【0060】
有機物としては、特に限定はなく、後述する焼成温度において分解して還元性雰囲気とすることができる炭素含有化合物であればよい。特に、水溶性の有機物を用いる場合には、水溶液状態でリチウムマンガン複合酸化物粉末と分散混合できるので有利である。このような有機物の具体例としては、ショ糖、ブドウ糖、デンプン、酢酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、アミノ酢酸などを挙げることができる。
【0061】
炭素粉末としては、例えば、有機物の熱分解によって得られた炭素粉末、例えば、黒鉛、アセチレンブラックなどを用いることができる。
【0062】
上記した有機物及び炭素粉末は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0063】
有機物及び炭素粉末からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分(以下、「有機物等」ということがある)の使用量は、リチウムマンガン系複合酸化物に対して、炭素のモル量換算で0.001倍〜5倍モル程度とすることが好ましく、0.01倍〜1倍モル程度とすることがより好ましい。水溶液として用いる場合には有機物等の濃度は、上記した使用量の範囲となるように適宜決めればよい。
【0064】
有機物等の存在下で焼成する方法については、特に限定はないが、例えば、水熱法で得られたリチウムマンガン系複合酸化物に、上記したリチウム化合物及び有機物等を加えて混合した後、80℃以上の温度、好ましくは100℃程度の温度で加熱乾燥し、粉砕して、焼成すればよい。焼成温度は、150〜1200℃程度とすることが好ましく、200〜1000℃程度とすることがより好ましい。
【0065】
焼成の際の雰囲気は、有機物等の分解によって強い還元性の雰囲気となるように、窒素ガス中などの不活性ガス雰囲気とすればよい。焼成時間は、焼成温度まで達する時間を含めて0.1〜100時間程度とすることが好ましく、0.5〜60時間程度とすることがより好ましい。
【0066】
上記した方法で焼成することによって、目的とするマンガン元素の平均価数が3.9以下のリチウムマンガン系複合酸化物について、Li含有量、Mn価数、粉体特性等を制御することができる。例えば、焼成の際に添加するリチウム化合物の量を適宜設定することによって、リチウムマンガン系複合酸化物中のリチウム含有量を調整することができる。また、焼成温度を高くすることによって、リチウムマンガン系複合酸化物の粒径を大きくすることができる。更に、有機物等の添加量を増加させ、更に、焼成温度を上昇することによって、マンガン元素の平均価数をより低下させることが可能となる。
【0067】
上記した焼成処理は、リチウムマンガン系複合酸化物にリチウム化合物を添加して、焼成した後、還元性雰囲気下で焼成する二段階の焼成処理としてもよい。二段階の焼成処理を行う場合には、Li含有量、Mn価数、粉体特性等の制御をより精密に行うことができる。
【0068】
この場合、リチウムマンガン系複合酸化物にリチウム化合物を添加して行う一段階目の焼成処理については、リチウム化合物の使用量などは上記した焼成処理と同様とすればよい。一段階目の焼成処理の条件については、焼成雰囲気は、大気中、酸化性雰囲気中、不活性雰囲気中、還元雰囲気中等任意の雰囲気を選択できる。焼成温度は、200〜1200℃程度とすることが好ましく、300〜1000℃程度とすることがより好ましい。焼成時間は、焼成温度まで達する時間を含めて0.1〜100時間程度とすることが好ましく、0.5〜60時間程度とすることがより好ましい。
【0069】
上記した方法で一段階目の焼成処理を行った後、還元性雰囲気下において二段階目の焼成処理を行えばよい。二段階目の焼成処理の条件は、上記したリチウム化合物を添加して還元性雰囲気下で焼成処理を行う場合と同様の条件とすればよい。 (ii)水熱反応を使用したリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法の第二の方法は、第一の方法と同様にして、鉄イオン、マンガンイオン及びチタンイオンの生成源となる金属化合物を溶解させた混合溶液をアルカリ性として沈殿物を形成した後、これに水溶性リチウム化合物と酸化剤を添加してアルカリ性条件下で水熱処理を行い、その後、得られたリチウムマンガン系複合酸化物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成を行う工程を含む方法である。
【0070】
この方法は、酸化剤の存在下に水熱処理を行うことが、第一の方法と異なる点である。酸化剤の存在下に水熱処理を行う場合には、充放電特性上好ましくない不純物相である斜方晶LiMnO2の副生を抑制することができる。特に、マンガン元素の比率の比較的高いリチウムマンガン系複合酸化物、例えば、組成式Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2において、Mnの比率である(1−m−n)の値が0.6程度以上の酸化物を得る場合には、斜方晶LiMnO2が副生し易くなるが、これを抑制できる点で有効である。
【0071】
酸化剤としては、水熱反応時に分解して酸素発生するものであれば、特に限定無く使用でき、具体例として、塩素酸カリウム、塩素酸リチウム、塩素酸ナトリウム、過酸化水素水等を挙げることができる。酸化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。酸化剤の濃度は、0.1〜10mol/l程度とすることが好ましく、0.5〜5mol/l程度とすることがより好ましい。 第二の方法では、鉄、マンガン及びチタンを含む沈殿物に、酸化剤と水溶性リチウムを加えた水溶液を用いて水熱処理を行うことを除いて、その他の条件は、第一の方法の水熱処理と同様である。
【0072】
上記した方法によって水熱処理を行った後、得られたリチウムマンガン系複合酸化物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することによって、目的とするマンガン元素の平均価数が3.9以下のリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0073】
焼成処理の条件については、第一の方法と同様とすればよい。また、第一の方法と同様に、リチウムマンガン系複合酸化物にリチウム化合物を添加して、焼成した後、還元性雰囲気下で焼成する二段階の焼成処理としてもよい。
【0074】
上記した第一の方法又は第二の方法でリチウムマンガン系複合酸化物を得た後、通常、過剰のリチウム化合物を除去するために、焼成物を水洗処理、溶媒洗浄処理等に供する。その後、濾過を行い、例えば、80℃以上の温度、好ましくは100℃程度の温度で加熱乾燥してもよい。
【0075】
更に、必要に応じて、この加熱乾燥物を粉砕し、リチウム化合物、有機物を加えて、焼成し、洗浄し、乾燥するという一連の操作を繰り返し行うことにより、リチウムマンガン系複合酸化物の優れた特性(リチウムイオン二次電池用正極材料としての作動電圧領域における安定的な充放電特性、高容量など)をより一層改善することができる。
【0076】
リチウムイオン二次電池
本発明によるリチウムマンガン系複合酸化物を用いるリチウムイオン二次電池は、公知の手法により製造することができる。例えば、正極材料として、本発明による新規な複合酸化物を使用し、負極材料として、公知の金属リチウム、炭素系材料(活性炭、黒鉛)、珪素、酸化珪素などを使用し、電解液として、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどからなる混合溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF6などのリチウム塩を溶解させた溶液(有機電解液)を使用し、さらにその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てればよい。
【発明の効果】
【0077】
本発明によれば、安価な原料及び元素を使用して、平均放電電圧が3V以上を保持でき、且つリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等またはそれ以上の放電容量(200mAh/g以上)および重量エネルギー密度(600mWh/g以上)を有する、正極材料として有用な新規な複合酸化物を得ることができる。
【0078】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物がこのような大容量を有するのは、従来の正極材料とは異なり、放電曲線が放電終止電圧(2.0Vまたは1.5V)に向かって緩やかに低下していく形状であることによるものであり、放電終止電圧を2.0V程度又は1.5V程度まで下げることによって、容易に大容量化を実現することができ、小型民生用のみならず車載用などの大型リチウムイオン二次電池用正極材料としてきわめて有用である。
【0079】
特に、本発明の複合酸化物は、従来の同様の組成を有する複合酸化物と比較して、初期充放電効率が高いという特徴を有するものである。このため、所定の初期放電量を得るために必要な負極材料の量を減少することができ、物質自身の高いエネルギー密度の寄与に加えて負極量低減によって電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0080】
本発明によるリチウムマンガン系複合酸化物は、上記の優れた性能を有するものであり、高容量で、かつ低コストのリチウムイオン二次電池用正極材料として、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のリチウムマンガン系複合酸化物を構成する結晶相の内で、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相(Li2MnO3)の結晶構造を模式的に示す図面。
【図2】実施例1および比較例1で得られた試料のX線回折図。
【図3】実施例1又は比較例1で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧1.5V)。
【図4】実施例1又は比較例2で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図5】実施例2よび比較例2で得られた試料のX線回折図。
【図6】実施例2又は比較例2で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図7】実施例3及び比較例3で得られた試料のX線回折図。
【図8】実施例3又は比較例3で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図9】実施例4及び比較例4で得られた試料のX線回折図。
【図10】実施例4及び比較例4で得られた試料の室温における57Feメスバウワ分光スペクトルであり、黒丸が実測値、実線が計算値を示す。
【図11】実施例4又は比較例4で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧1.5V)。
【図12】実施例4又は比較例4で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図13】実施例5及び比較例5で得られた試料のX線回折図。
【図14】実施例5又は比較例5で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および20サイクル後の充放電曲線(下限電圧1.5V)。
【図15】実施例6及び比較例6で得られた試料のX線回折図。
【図16】実施例6及び比較例6で得られた試料の室温における57Feメスバウワ分光スペクトルであり、黒丸が実測値、実線が計算値を示す。
【図17】実施例6又は比較例6で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および20サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図18】実施例7及び比較例7で得られた試料のX線回折図。
【図19】実施例7及び比較例7で得られた試料の室温における57Feメスバウワ分光スペクトルであり、黒丸が実測値、実線が計算値を示す。
【図20】実施例7又は比較例7で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および20サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例、比較例に限定されるものではない。
【0083】
実施例1
30%硫酸チタン(IV)水溶液40.00 g、及び塩化マンガン(II)4水和物39.58 g (全量0.25 mol、Ti:Mnモル比=2:8)を500 mlの蒸留水に加え、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水1000 mlに無水水酸化リチウム60 gを溶解させた溶液)を作製した。この水酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ攪拌した。攪拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけ、室温にて徐々に滴下して、Ti-Mn沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で1日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0084】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50 g、及び蒸留水600 mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220 ℃で5時間水熱処理した。
【0085】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過および100 ℃で乾燥することにより、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0086】
比較例1
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例1と同様にして行い、、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。
【0087】
次いで、得られた粉末を窒素中で一時間かけて500 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。 X線回折による評価
図2に、実施例1および比較例1で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表1に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0088】
【表1】
【0089】
図2に示す実施例1で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0090】
【数2】
【0091】
a=4.937(1) Å , b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å ,β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩塩型構造を有するLi2TiO3の単位胞(空間群
【0092】
【数3】
【0093】
a=4.1405(3)Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H. Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表1から72:28であった。
【0094】
一方、比較例1で得られた試料のXRD回折図は、上記単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3結晶相単相で問題なくフィット可能であった。
【0095】
以上のことから、実施例1及び比較例1で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0096】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例1および比較例1で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表2に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0097】
【表2】
【0098】
表2に示す元素分析結果から、上記方法で得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0099】
Mnの価数については、実施例1で得られた試料では、比較例1で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例1で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0100】
比較例1で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0101】
充放電特性評価
実施例1および比較例1で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、以下の電池構成及び充放電試験条件で充放電試験を行った。結果を下記表3及び図3に示す。
電池構成及び充放電試験条件:
正極:活物質5 mg+AB 5mg+PTFE 0.5mgを混合しAlメッシュ上に圧着
負極:金属リチウム
電解液:LiPF6をEC+DMC溶媒中に溶解させたもの
試験温度:30 ℃
電流密度(活物質あたり):40 mA/g、
電位範囲:1.5-4.8 V(初期充電のみ5.0Vまでの定電流―定電圧充電(10 mA/gに下がるまで))
AB:アセチレンブラック、PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、EC:エチレンカーボネート、DMC:ジメチルカーボネート
【0102】
【表3】
【0103】
図3および表3に示す結果より、実施例1で得られた試料は、比較例1で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は同等であった。その結果、実施例1で得られた試料は、初期充放電効率が97%であり、比較例1で得られた試料(初期充放電容量67 %)と比較して、初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0104】
尚、実施例1で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、平均初期放電電圧、及び10サイクル後放電容量が、比較例1で得られた試料とほぼ同等であることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例1で得られた試料は、比較例1で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0105】
また、実施例1で得られた試料は、初期充電曲線の形状が比較例1の試料と大きく異なるものである。前述した参考文献1によると、Li2MnO3は初期充電時に4.5 V付近にLi2O脱離に伴う電位平坦部が出現するが、4.5Vに達するまでの容量は20 mAh/gと報告されている。これに対して、実施例1で得られた試料は、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が53 mAh/gに達し、参考文献1に記載されたLi2MnO3の値(20 mAh/g)および比較例1の試料の値(19 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0106】
次いで、図3に示す実施例1の試料の初期放電曲線をみると、2.0 V以下の容量はかなり小さいことが判明したので、より狭い電位範囲、具体的には放電下限電圧を1.5 Vから2.0 Vに上げて充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、上記充放電試験と同様である。結果を図4および表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
図4及び表4から明らかなように、実施例1で得られた試料は、下限電圧を2.0 Vとしても初期充放電効率は78%を確保しており、比較例1で得られた試料の値(54 %)より大きく、初期平均放電電圧は3.3 Vに向上していることがわかる。また10サイクル後の放電容量も219 mAh/gを確保しており、比較例1で得られた試料の値(191 mAh/g)より大きく、初期放電エネルギー密度も実施例1で得られた試料の方が大きいことが判る。
【0109】
以上のことから、実施例1で得られた3.9価以下のMn価数を有する試料は、より電位範囲の狭い2.0-4.8 Vの条件でも、比較例1で得られたMn価数が3.9価を超える試料と比較して充放電特性上優れたものであることが明らかである。
【0110】
実施例2
30%硫酸チタン(IV)水溶液を100.00 gと塩化マンガン(II)4水和物を24.74 g (全量0.25mol、Ti:Mnモル比=5:5)用い、水熱処理時に、沈殿物及び水酸化リチウムに、更に、水酸化カリウム309gを加えた水溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、粉末状生成物(リチウムマンガン酸化物)を得た。
【0111】
比較例2
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例2と同様にして行い、、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで、得られた粉末を窒素中で一時間かけて600 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0112】
X線回折による評価
図5に、実施例2および比較例2で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表5に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0113】
【表5】
【0114】
図5に示す実施例2で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0115】
【数4】
【0116】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩塩型構造を有するLi2TiO3の単位胞(空間群
【0117】
【数5】
【0118】
a=4.1405(3) Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H. Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表5から33:67であった。
【0119】
一方、比較例2で得られた試料のXRD回折図は、同様の2相構造モデルで問題なくフィット可能であった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表5から52:48であった。
【0120】
以上のことから、実施例2及び比較例2で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0121】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例2および比較例2で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表6に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0122】
【表6】
【0123】
表6に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0124】
Mnの価数については、実施例2で得られた試料では、比較例2で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例2で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0125】
比較例2で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0126】
充放電特性評価
実施例2及び比較例2で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、実施例1における上記充放電試験と同様とした。結果を下記表7及び図6に示す。
【0127】
【表7】
【0128】
図6よび表7に示す結果より、実施例2で得られた試料は、比較例2で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例2で得られた試料は、初期充放電効率が70%であり、比較例2で得られた試料(初期充放電容量44 %)と比較して初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0129】
尚、実施例2で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、平均初期放電電圧、及び10サイクル後放電容量が、比較例2で得られた試料とほぼ同等であることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例2で得られた試料は、比較例2で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0130】
また、実施例2で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例2の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が34 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載されたLi2MnO3の値(20 mAh/g)および比較例2の試料の値(14 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0131】
実施例3
実施例2と同様にして、Mn原料およびTi原料の秤量、共沈物作製、及び沈殿熟成処理を行った。
【0132】
次いで、得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿物を水酸化リチウム1水和物50g、水酸化カリウム309g、亜硫酸ナトリウム7水和物50g、及び蒸留水600mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れて、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で8時間水熱処理した。
【0133】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過および100℃で乾燥することにより、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0134】
比較例3
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例3と同様にして行い、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加し、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで得られた粉末を窒素中で一時間かけて600 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0135】
X線回折による評価
図7に、実施例3および比較例3で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表8に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0136】
【表8】
【0137】
図7に示す実施例3で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0138】
【数6】
【0139】
a=4.937(1) Å , b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å ,β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩塩型構造を有するLi2TiO3の単位胞(空間群
【0140】
【数7】
【0141】
a=4.1405(3)Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H. Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表8から31:69であった。
【0142】
一方、比較例3で得られた試料のXRD回折図は、同様の2相構造モデルで問題なくフィット可能であった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表8から51:49であった。
【0143】
以上のことから、実施例3及び比較例3で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0144】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例3よび比較例3で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表9に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0145】
【表9】
【0146】
表9に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0147】
Mnの価数については、実施例3で得られた試料では、比較例3で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例3で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0148】
比較例3で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0149】
また、実施例3では、水熱処理の際に、沈殿物を含む水溶液中に、還元剤である亜硫酸ナトリウム7水和物を添加して水熱処理を行っている。このため、得られた粉末状生成物では、Mnの価数は、3.78であり、実施例2で得られた試料と比較して、Mn価数が低減されている。この結果から、水熱処理時に還元剤を添加することによって、Mn価数を低減する効果が大きくなることが判る。
【0150】
充放電特性評価
実施例3及び比較例3で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、実施例1における上記充放電試験と同様とした。結果を下記表10及び図8に示す。
【0151】
【表10】
【0152】
図8よび表10に示す結果より、実施例3で得られた試料は、比較例3で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例3で得られた試料は、初期充放電効率が78%であり、比較例3で得られた試料(初期充放電容量45 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0153】
尚、実施例3で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、及び10サイクル後放電容量が、比較例3で得られた試料より優れており、平均初期放電電圧は、比較例3で得られた試料に近い値であることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例3で得られた試料は、比較例3で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0154】
また、実施例3で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例3の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が41 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載されたLi2MnO3の値(20 mAh/g)および比較例3の試料の値(12 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0155】
また、還元剤を添加した水溶液を用いて水熱処理を行って得られた実施例3の試料は、還元剤を添加することなく、水熱処理を行って得られた実施例2の試料と比較して、初期充放電効率、及び初期放電容量が大きく向上している。このことからも水熱処理時に還元剤を添加して処理することによりMn還元が進行し、結果としてさらに充放電特性に優れた材料が得られることが明らかである。
【0156】
実施例4
塩化鉄(III)6水和物13.52g、及び塩化マンガン(II)4水和物39.58g (全量0.25mol、Fe:Mnモル比=2:8)を500 mlの蒸留水に加え、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水1000 mlに無水水酸化リチウム60 gを溶解させた溶液)を作製した。これらの水溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン酸化物)を得た。
【0157】
比較例4
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例4と同様にして行い、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで得られた粉末を窒素中で一時間かけて500 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0158】
X線回折による評価
図9に、実施例4および比較例4で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表11に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0159】
【表11】
【0160】
図9に示す実施例4で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0161】
【数8】
【0162】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0163】
一方、比較例4で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデルで問題なくフィット可能であった。
【0164】
以上のことから、実施例4及び比較例4で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0165】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例4および比較例4で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表12に示す。
【0166】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、室温において57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、MnとFeの平均価数とそれぞれの含有量からMn価数を求めた。結果を下記表12に示す。
【0167】
具体的には、MnとFeの平均価数は、下記式で表される。
【0168】
MnとFeの平均価数
=(鉄含有量m値×鉄の価数)+(マンガン含有量(1-m)×マンガンの価数)
故に、マンガンの価数は、下記式となる。
マンガンの価数
=(MnとFeの平均価数―(鉄含有量m値×鉄の価数))/マンガン含有量(1-m)
鉄の価数は、実施例4および比較例4で得られた両試料とも、図10に示される57Feメスバウワ分光スペクトルが対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が実施例4で+0.3223(5) mm/s、比較例4で+0.3357(8) mm/sと、典型的な鉄3価の酸化物LiCo0.8Fe0.2O2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。
【0169】
従ってMn価数は、上記式に下記表12に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量m、鉄の価数を適用することにより計算できる。
【0170】
【表12】
【0171】
表12示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびm値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0172】
Mnの価数については、実施例4で得られた試料では、比較例4で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例4で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0173】
比較例4で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0174】
充放電特性評価
実施例4及び比較例4で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 V)。結果を下記表13及び図11に示す。
【0175】
【表13】
【0176】
図11よび表13に示す結果より、実施例4で得られた試料は、比較例4で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例4で得られた試料は、初期充放電効率が87%であり、比較例4で得られた試料(初期充放電容量71 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0177】
尚、実施例4で得られた試料は、平均初期放電電圧は、比較例4で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度、及び10サイクル後放電容量が、比較例4で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例4で得られた試料は、比較例4で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0178】
また、実施例4で得られた試料は、初期充電曲線の形状が比較例4の試料と大きく異なるものである。実施例4で得られた試料及び比較例4で得られた試料は、共にFeを含んでおり、Feは4V付近から酸化によるLi脱離を引き起こすために、4.0Vを超える部分の容量に寄与するものと考えられるが、両試料は、4.0 Vまでの電位における容量が大きく異なるものである。具体的には、実施例4で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまでの容量が36 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載された値(20 mAh/g)および比較例4の試料の値(11 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.0 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0179】
次いで、上記した充放電試験について、放電下限電圧を1.5 Vから2.0 Vに上げて、より狭い電位範囲において充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、上記充放電試験と同様である。結果を図12および表14に示す。
【0180】
【表14】
【0181】
図12及び表14から明らかなように、実施例4で得られた試料は、下限電圧を2.0 Vとしても初期充放電効率は71%を確保しており、比較例4で得られた試料の値(59 %)より大きく、初期平均放電電圧は、下限値1.5Vの場合と比較して、0.3 V向上していることがわかる。また10サイクル後の放電容量も221 mAh/gを確保しており、比較例4で得られた試料の値(177 mAh/g)より大きく、初期放電エネルギー密度も実施例4で得られた試料の方が大きい値であった。
【0182】
以上のことから、実施例4で得られた3.9価以下のMn価数を有する試料は、電位範囲の狭い2.0-4.8 Vの電位範囲でも、比較例4で得られたMn価数が3.9価を超えるの試料と比較して充放電特性上優れたものであることが明らかである。
【0183】
実施例5
30%硫酸チタン(IV)水溶液60.00g、及び塩化マンガン(II)4水和物34.63g (全量0.25mol、Ti:Mnモル比=3:7)を500mlの蒸留水に加えて、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水500mlに水酸化リチウム一水和物50gを溶解させた溶液)を作製した。この水酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、200mlのエタノールを加えた後、-10℃に冷却された恒温槽内に静置後、攪拌した。この撹拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけて徐々に滴下して、Ti-Mn沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、撹拌下に共沈物を含む反応液に室温で2日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0184】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50g、及び蒸留水600mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で48時間水熱処理した。
【0185】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過した。濾過して得た粉末を、水酸化リチウム1水和物5.25gを蒸留水100mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液と混合し、攪拌後、100℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。
【0186】
次いで、得られた粉末を大気中で一時間かけて750℃まで昇温後、その温度で20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。
【0187】
その後、スクロース粉末0.71gを蒸留(炭素元素量として、リチウムマンガン系酸化物仕込みモル量の0.1倍モルに相当)水100mlに溶解させたものに焼成物を加え、よく撹拌後、乾燥した。乾燥物を粉砕し、窒素気流中で3時間かけて500℃まで昇温後、その温度で窒素中において1時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。
【0188】
残留するリチウム塩等を蒸留水洗浄の繰り返しで除き、濾過後、100℃乾燥して、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0189】
比較例5
沈殿作製、水熱処理、その後の750℃での大気中での焼成までの工程を実施例5と同様にして行い、その後、スクロース粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0190】
X線回折による評価
図13に、実施例5および比較例5で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表15に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0191】
【表15】
【0192】
図13に示す実施例5で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0193】
【数9】
【0194】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0195】
一方、比較例5で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデルで問題なくフィット可能であった。
【0196】
以上のことから、実施例5及び比較例5で得られた粉末状生成物は、ともに本発明の単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0197】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例5よび比較例5で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表16に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0198】
【表16】
【0199】
表16に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0200】
Mnの価数については、実施例5で得られた試料では、比較例5で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例5で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0201】
比較例5で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0202】
これに対して、実施例5では、比較例5と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9を下回る価数となったと考えられる。
【0203】
充放電特性評価
実施例5及び比較例5で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲:1.5-4.8 V)。結果を下記表17及び図14に示す。
【0204】
【表17】
【0205】
図14よび表17に示す結果より、実施例5で得られた試料は、比較例5で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例5で得られた試料は、初期充放電効率が63%であり、比較例5で得られた試料(初期充放電容量54 %)と比較して初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0206】
尚、実施例5で得られた試料は、平均初期放電電圧は、比較例5で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度、及び20サイクル後放電容量が、比較例5で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例5で得られた試料は、比較例5で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0207】
また、実施例5で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例5の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が28 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載されたLi2MnO3の値(20 mAh/g)および比較例5の試料の値(8 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0208】
実施例6
硝酸鉄(III)9水和物30.30g、及び塩化マンガン(II)4水和物34.63g (全量0.25mol、Fe:Mnモル比=3:7)を500mlの蒸留水に加えて、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水1000mlに無水水酸化リチウム60gを溶解させた溶液)を作製した。この水酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、室温で攪拌した。この攪拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけて徐々に滴下して、Fe-Mn沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で1日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0209】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50g、塩素酸カリウム50g及び蒸留水600mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で5時間水熱処理した。
【0210】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過した。濾過して得た粉末を、水酸化リチウム1水和物5.25gを蒸留水100mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液と混合し、攪拌後、100℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。次いで得られた粉末を大気中で一時間かけて650℃まで昇温後、その温度で20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。その後、スクロース粉末0.71g(炭素元素量として、リチウムマンガン系酸化物仕込みモル量の0.1倍モルに相当)を蒸留水100mlに溶解させたものに焼成物を加え、よく攪拌後、100℃乾燥した。乾燥後粉砕し、窒素気流中で3時間かけて500℃まで昇温後、その温度で窒素気流中において1時間焼成した。その後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。残留するリチウム塩等を蒸留水洗浄を繰り返して除き、濾過後、100℃乾燥して、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0211】
比較例6
沈殿作製、水熱処理、その後の650℃での大気中での焼成までの工程を実施例6と同様にして行い、その後、スクロース粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0212】
X線回折による評価図15に、実施例6および比較例6で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表18に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0213】
【表18】
【0214】
図15に示す実施例6で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0215】
【数10】
【0216】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0217】
一方、比較例6で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデルで問題なくフィット可能であった。
【0218】
以上のことから、実施例6及び比較例6で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0219】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例6および比較例6で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。
【0220】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、実施例4と同様にして、室温において57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、遷移金属価数とそれぞれの遷移金属含有量からMn価数を求めた。結果を下記表19に示す。
【0221】
尚、鉄の価数は、実施例6の試料が図16に示される57Feメスバウワ分光スペクトルが対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が+0.3402(8) mm/sと典型的な鉄3価の酸化物LiCo0.8Fe0.2O2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。一方、比較例6の試料は、非対称なダブレット成分を示し、面積比95.6%を占める主成分の異性体シフト値が+0.3450(10) mm/sと上述のような典型的な鉄3価の酸化物の値と一致することから、ほとんどが鉄3価であるが、わずかに残り4.4%の成分があり、その異性体シフト値-0.120(17) mm/sは、典型的な鉄4価の酸化物Li0.28Ni0.9Fe0.1O2の値(-0.11 mm/s, C. Delmas, M. Menetrier, L. Croguennec, I. Saadoune, A. Rougier, C. Pouillerie, G, Prado, M. Grune, and L. Fournes, Electrochim. Acta., 45, 243-253 (1999).)成分と帰属できる。従って両成分の面積比がそのまま価数比と考えると鉄の価数は3.044と推定される。
【0222】
従ってMn価数は、上記式に下記表19に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量y、鉄の価数を適用することにより、実施例4と同様にして計算できる。
【0223】
【表19】
【0224】
表19に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびm値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0225】
Mnの価数については、実施例6で得られた試料では、比較例6で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例6で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0226】
比較例6で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0227】
これに対して、実施例6では、比較例6と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9を下回る価数となったと考えられる。
【0228】
充放電特性評価
実施例6及び比較例6で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 Vとし、初期充電のみ4.8Vまでの定電流―定電圧充電(10 mA/gに下がるまで)を行った)。結果を下記表20及び図17に示す。
【0229】
【表20】
【0230】
図17及び表20に示す結果より、実施例6で得られた試料は、比較例6で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例6で得られた試料は、初期充放電効率が72%であり、比較例6で得られた試料(初期充放電容量64 %)と比較して、初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0231】
尚、実施例6で得られた試料は、平均初期放電電圧は比較例6で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度及び20サイクル後放電容量は、比較例6で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例6で得られた試料は、比較例6で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0232】
また、実施例6で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例6の試料と大きく異なるものである。実施例6で得られた試料は及び比較例6で得られた試料は、共にFeを含むため、4.0Vを超える部分の容量は鉄の酸化に伴うものと考えられるが、4.0 Vまでの電位における容量が両者で大きく異なる。比較例6で得られた試料は、4.0 Vに達するまでの容量が12mAh/gと小さいが、実施例6で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまでの容量が19 mAh/gに達し、比較例6で得られた試料の値に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0233】
実施例7
硝酸鉄(III)9水和物及び塩化マンガン(II)4水和物を含む水溶液に代えて、硝酸鉄(III)9水和物20.20g、塩化マンガン(II)4水和物29.69g、及び30%硫酸チタン(IV)溶液40.00g(全量0.25mol、Fe:Mn:Tiモル比=2:6:2)を含む水溶液を用いること以外は、実施例6と同様の操作を行い、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0234】
比較例7
沈殿作製、水熱処理、その後の650℃での大気中での焼成までの工程を実施例7と同様にして行い、その後、スクロール粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0235】
X線回折による評価
図18に、実施例7および比較例7で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表21に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0236】
【表21】
【0237】
図18に示す実施例7で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0238】
【数11】
【0239】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0240】
一方、比較例7で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデルで問題なくフィット可能であった。
【0241】
以上のことから、実施例7及び比較例7で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0242】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例7及び比較例7で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。
【0243】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、実施例4と同様にして、室温において57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、遷移金属価数とそれぞれの遷移金属含有量からMn価数を求めた。結果を下記表22に示す。
【0244】
具体的には、下記表22に記載した組成式の記号を用いると、MnとFeの平均価数は、下記式で表される。
MnおよびFeの平均価数
=(鉄含有量m値÷組成式中のFeとMn量の和(1-n)値×鉄の価数)+(マンガン含有量(1-m-n)÷組成式中のFeとMn量の和(1-n)値×マンガンの価数)
故に
マンガンの価数
=(MnおよびFeの平均価数×組成式中のFeとMn量の和(1-n)値―(鉄含有量m値×鉄の価数))/マンガン含有量(1-m-n)
尚、鉄の価数は、実施例7の試料が図19に示される57Feメスバウワ分光スペクトルが対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が+0.3273(9) mm/sと典型的な鉄3価の酸化物LiCo0.8Fe0.2O2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。一方比較例7の試料は、非対称なダブレット成分を示し、面積比95.2%を占める主成分の異性体シフト値が+0.3457(13) mm/sと上述のような典型的な鉄3価の酸化物の値と一致することから、ほとんどが鉄3価であるが、わずかに残り4.8%の成分があり、その異性体シフト値-0.07(2) mm/sより典型的な鉄4価の酸化物Li0.28Ni0.9Fe0.1O2の値(異性体シフト値-0.11 mm/s, C. Delmas, M. Menetrier, L. Croguennec, I. Saadoune, A. Rougier, C. Pouillerie, G, Prado, M. Grune, and L. Fournes, Electrochim. Acta., 45, 243-253 (1999).)成分と帰属できる。従って両成分の面積比がそのまま価数比と考えると鉄の価数は3.048と推定される。
【0245】
従ってMn価数は、上記式に下記表22に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量m、FeとMn量の和(1-n)、鉄の価数を適用することにより計算できる。
【0246】
【表22】
【0247】
表22に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値、m値及びn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0248】
Mnの価数については、実施例7で得られた試料では、比較例7で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例7で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0249】
比較例7で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0250】
これに対して、実施例7では、比較例7と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9価を下回る価数となったと考えられる。
【0251】
充放電特性評価
実施例7及び比較例7で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 Vとし、初期充電のみ4.8Vまでの定電流―定電圧充電(10 mA/gに下がるまで)を行った)。結果を下記表23及び図20に示す。
【0252】
【表23】
【0253】
図20及び表23に示す結果より、実施例7で得られた試料は、比較例7で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例7で得られた試料は、初期充放電効率が78%であり、比較例7で得られた試料(初期充放電容量62 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0254】
尚、実施例7で得られた試料は、平均初期放電電圧、初期放電エネルギー密度、及び20サイクル後放電容量は、比較例7で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例7で得られた試料は、比較例7で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0255】
また、実施例7で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例7の試料と大きく異なるものである。実施例7で得られた試料及び比較例7で得られた試料は、共にFeを含むため、4.0Vを超える部分の容量は鉄の酸化に伴うものと考えられるが、4.0 Vまでの電位における容量が両者で大きく異なる。比較例7で得られた試料は、4.0 Vに達するまでの容量が14mAh/gと小さいが、実施例7で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまでの容量が23 mAh/gに達し、比較例7で得られた試料の値に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0256】
以上の実施例及び比較例の結果から、マンガン元素の平均価数が3.9価以下という特徴を有する本願発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、優れた充放電特性を有する正極材料であることが明らかである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、次世代低コストリチウムイオン二次電池の正極材料として有用なリチウムマンガン系複合酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国において、携帯電話、ノートパソコンなどのポータブル機器に搭載されている二次電池のほとんどは、リチウムイオン二次電池である。また、リチウムイオン二次電池は、今後、電気自動車、電力負荷平準化システムなどの大型電池としても実用化されるものと予想されており、その重要性はますます高まっている。
【0003】
現在、リチウムイオン二次電池においては、正極材料としては主にリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)材料が使用され、負極材料としては黒鉛などの炭素材料が使用されている。充電によりリチウムコバルト酸化物内のコバルトが3価から4価に酸化されつつLi脱離をして負極にLiを供給し、放電時には負極の炭素材料からLi脱離し、4価のコバルトが3価に還元することにより正極側にLi挿入されることにより電池として動作する。
【0004】
この様なリチウムイオン二次電池では、正極材料において可逆的に脱離(充電に相当)、挿入(放電に相当)するリチウムイオン量が電池の容量を決定づけ、脱離・挿入時の電圧が電池の作動電圧を決定づけるために、正極材料であるLiCoO2は、電池性能に関連する重要な電池構成材料である。このため、今後のリチウムイオン二次電池の用途拡大・大型化に伴い、リチウムコバルト酸化物は、一層の需要増加が予想されている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト酸化物は、希少金属であるコバルトを多量に含むために、リチウムイオン二次電池の素材コストを上昇させる要因の一つとなっている。さらに、現在コバルト資源の約20%が電池産業に用いられていることを考慮すれば、LiCoO2からなる正極材料のみでは今後の需要拡大に対応することは困難と考えられる。
【0006】
現在、より安価で資源的に制約の少ない正極材料として、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)等が報告されており、一部代替材料として実用化されている。しかしながらリチウムニッケル酸化物には充電時に電池の安全性を低下させるという問題があり、リチウムマンガン酸化物には高温(約60℃)充放電時に3価のマンガンが電解液中に溶出し、それが電池性能を著しく劣化させるという問題があり、これらの材料への代替はあまり進んでいない。またリチウムマンガン酸化物のなかでLiMnO2という正極材料も提案されているが、この材料も充放電に伴いもとの構造から徐々に上記LiMn2O4に代表されるスピネル型の結晶構造に変化し、充放電曲線の形状が充放電サイクルの進行に伴い大きく変化することから実用化には至っていない。
【0007】
また、マンガンおよびニッケルに比べて、資源的により一層豊富であり、毒性が低く、安価な鉄を含むリチウムフェライト(LiFeO2)について、電極材料としての可能性が検討されている。しかしながら、通常の製造法、すなわち鉄源とリチウム源とを混合し高温焼成することによって得られるリチウムフェライトは、ほとんど充放電しないので、リチウムイオン二次電池正極材料として用いることはできない。
【0008】
一方、イオン交換法により得られるLiFeO2が充放電可能であることが報告されているが(下記特許文献1および2参照)、これらの材料の平均放電電圧は2.5V以下でありLiCoO2の値(約3.7V)に比べて著しく低いため、LiCoO2の代替とすることは困難である。
【0009】
本発明者らは、すでに、鉄に次いで安価かつ資源的に豊富なリチウムマンガン酸化物(Li2MnO3)とリチウムフェライトとからなる層状岩塩型構造の固溶体(Li1+x(FeyMn1-y)1-xO2、(0<x<1/3, 0<y<1)、以下「鉄含有Li2MnO3」という)が、室温での充放電試験においてはリチウムコバルト酸化物並の4V近い平均放電電圧を有することを見出している(下記特許文献3および4参照)。
【0010】
更に、本発明者らは、特定の条件を満足するリチウム−鉄−マンガン複合酸化物が、高温サイクル試験時にLiMn2O4より高容量(150mAh/g)かつ安定した充放電サイクル特性を示すことを見出している(下記特許文献5参照)。
【0011】
加えて、本発明者らは、鉄とともに資源的に豊富で安価なチタンを含有するリチウムマンガン酸化物(チタン含有Li2MnO3や鉄およびチタン含有Li2MnO3)が、高容量を示し、特に、特定の化学組成、遷移金属イオン分布において、室温における高電流密度下での放電特性や低温での放電特性に優れることを見出している。(下記特許文献6-8参照)
以上の通り、リチウムコバルト系正極材料に代わり得るリチウムマンガン系正極材料について種々の報告がなされているが、より一層の充放電特性改善のためには、遷移金属価数制御を含む正極材料の化学組成や製造条件についての最適化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10-120421号公報
【特許文献2】特開平8-295518号公報
【特許文献3】特開2002-68748号公報
【特許文献4】特開2002-121026号公報
【特許文献5】特開2005-154256号公報
【特許文献6】特開2008-63211号公報
【特許文献7】特開2009-179501号公報
【特許文献8】特開2009-274940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、長期間の充放電サイクルにおいて3V以上の平均放電電圧を保持でき、且つリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等若しくはそれ以上の放電容量を有する材料であって、資源的な制約が少なく且つ安価な原料を使用して得ることができ、更に、公知の低価格の正極材料と比較して、より優れた充放電特性を発揮できる新規な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の組成を有する鉄および/またはチタンを含むリチウムマンガン系酸化物固溶体において、製造方法を工夫してMn価数を3.9以下という低い値に制御することによって、得られる酸化物は、従来の方法で得られるMn価数が高い酸化物と比較して優れた放電特性を有するものとなり、特に、初期充放電効率(初期充電容量に対する初期放電容量の割合)が高くなることを見出した。その結果、該酸化物をリチウムイオン二次電池用の正極材料として用いることによって、初期充電時の正極からのリチウム脱離を受け入れるために必要とする負極材料の量を減少させることができ、結果としてエネルギー密度の高い電池を作製できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記のリチウムマンガン系複合酸化物、その製造方法、リチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池正極材料及びリチウムイオン二次電池を提供するものである。
【0016】
項1. 組成式:Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2 (0<x<1/3, 0≦m≦0.53, 0≦n≦0.53, 0<m+n≦0.53)で表され、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含むリチウムマンガン系複合酸化物であって、マンガン元素の平均価数が3.9価以下であることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
項2. 単斜晶層状岩塩型構造の結晶相に加え、立方晶岩塩型構造の結晶相を含む上記項1に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
項3. チタン化合物及び鉄化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物と、マンガン化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物と共に、アルカリ性条件下で水熱処理することを特徴とする、上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項4. 水熱処理に用いる水溶液が、更に、還元剤を含有するものである、上記項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
項5. 上記項3又は4の方法によって水熱処理を行った後、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
項6. 上記項3又は4の方法によって水熱処理を行った後、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に焼成し、次いで、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
項7. マンガン化合物、チタン化合物及び鉄化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物及び酸化剤と共に、アルカリ性条件下で水熱処理し、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
項8. マンガン化合物、チタン化合物及び鉄化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物及び酸化剤と共に、アルカリ性条件下で水熱処理し、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に焼成し、次いで、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
項9. 上記項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
項10.上記項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【0017】
以下、本発明のリチウムマンガン系複合酸化物及びその製造方法について具体的に説明する。
(1)リチウムマンガン系複合酸化物本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、組成式Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2(但し、0<x<1/3, 0≦m≦0.53, 0≦n≦0.53, 0<m+n≦0.53)で表される化合物であって、酸化物の一般的な結晶構造である岩塩型構造を基本とし、公知物質であるLi2MnO3に類似する単斜晶
【0018】
【数1】
【0019】
層状岩塩型構造の結晶相を含むものである。図1は、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相(Li2MnO3)の結晶構造を模式的に示す図面である。この構造においては、酸化物イオンの層を介してLi単独層とLi-Mn混合層が交互に積層されている。Li-Mn層内ではMnイオンが六角網目状に規則配列している構造を有する。
【0020】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含んでいればよく、陽イオン分布の異なる他の岩塩型構造(例えば立方晶岩塩型構造など)の結晶相を含む混合相であっても良い。後述する製造方法によれば、得られるリチウムマンガン系複合酸化物は、通常、層状岩塩型構造の結晶相の他に、α-LiFeO2に類似する立方晶岩塩型構造の結晶相を含む混合相からなる場合があり、いずれの結晶相の複合酸化物も優れた充放電性能を発揮するものと考えられる。この場合、層状岩塩型構造の結晶相と立方晶岩塩型構造の結晶相の割合は、通常、層状岩塩型構造結晶相:立方晶岩塩型構造結晶相(重量比)=10:90〜100:0程度の範囲となる。
【0021】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、上記した組成式で表されるものであって、マンガン原子の平均価数が3.9以下であることを特徴とするものである。
【0022】
従来知られているリチウムマンガン系複合酸化物では、マンガン原子は、基本的には4価の元素として、単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3を構成する成分として存在する。Li2MnO3に関しては、「C. S. Johnson, J. S. Kim, C. Lefief, J. T. Vaughey and M. M. Thackeray, Electrochemistry Communication, vol.6 p.1085-1091 (2004).」(以下、「参考文献1」という)において、初期充電時に4.5 V付近にLi2O脱離に伴う電位平坦部が出現するが、5.0Vまでの充電容量が383m Ah/gであるのに対し、4.5 Vに達するまでの容量は20 mAh/gであると報告されている。更に、参考文献1には、Li2MnO3の放電容量は208 mAh/gであり、初期充放電効率は54%という低い値であることが記載されている。
【0023】
これに対して、本願発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、後述のように製造方法を工夫することによって得られるものであり、マンガンの平均価数が3.9価以下という低い値を有する新規な化合物である。この様な特徴を有する本願発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、従来知られている4価のマンガンを含むLi2MnO3で表されるリチウムマンガン系複合酸化物と比較して優れた充放電特性を有するものであり、特に、初期充電効率が高い値となる。この理由については明確ではないが、平均価数3.9価以下のマンガンを含むリチウムマンガン系複合酸化物は、4.5V以下の低い電圧でLi脱離が可能であり、これにより初期充放電効率が改善されるものと考えられる。
【0024】
本願発明では、組成式Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2で表される化合物におけるマンガンの平均価数は、3.9価以下であることが必要であり、3.87価以下であることが好ましい。マンガンの平均価数は、低下とともに組成式中のLi含有量が低くなるので、十分な充放電容量とするために、2.5価以上であることが望ましく、3.0価以上であることがより好ましい。
【0025】
尚、マンガンの平均価数とは、後述する実施例で示す通り、マンガンを含む遷移金属元素(Tiを除く)の価数をヨウ素滴定法によって測定し、別途測定した遷移金属成分の含有量と鉄の平均価数に基づいて、下記式により算出した値である。
マンガンの平均価数
=(MnおよびFeの平均価数×組成式中のFeとMn量の和(1-n)値―(鉄含有量m値×鉄の平均価数))/マンガン含有量(1-m-n)。
【0026】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、上記した組成式に示す通り、Li及びMnを必須の元素として含む酸化物であって、更に、Fe及びはTiから選ばれた少なくとも一種の元素を固溶させたものである。
【0027】
固溶させるFe量(m値:Fe/(Fe+Mn+Ti))は、Li以外の金属量の53モル%程度以下(0≦Fe/(Fe+Mn+Ti)≦0.53)であり、好ましくは52モル%程度以下(0≦Fe/(Fe+Mn+Ti) ≦0.52)である。資源的に豊富で安価な鉄を含む場合には、安価であって、しかも優れた充放電性能を有する正極材料とすることができる。Feの固溶量が過剰となる場合には、FeのMnによる希釈が不十分となり、結果として充放電に関与しないFeが多くなるので、電池特性上好ましくない。
【0028】
本発明リチウムマンガン系複合酸化物に固溶させるTiも、基本的にFeと同様に、MnやLiを置換する形で層状岩塩型構造中に存在していると思われる。Tiは、4価状態で存在しており、特許文献6で記述したようなLi欠損の抑制や粉体特性の変化に寄与しているものと思われる。本発明複合酸化物に固溶させるTi量(n値:Ti/(Fe+Mn+Ti))は、Li以外の金属量の53モル%程度以下(0≦ Ti/(Fe+Mn+Ti)≦0.53)であり、好ましくは52モル%程度以下(0≦Ti/(Fe+Mn+Ti)≦0.52)である。Mnに比べてさらに充放電に関与させることが困難なTiを多量に使用する場合には、充放電容量の低下を招くので好ましくない。
【0029】
本発明リチウムマンガン系複合酸化物に固溶させるFeとTiの合計量は、前記組成式において0<m+n≦0.53程度の範囲内であり、好ましくは0.2≦m+n≦0.52程度の範囲内である。
【0030】
また、本発明リチウムマンガン系複合酸化物において、層状および立方晶岩塩型の結晶構造を保つことができる限り、Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2のxは、遷移金属の平均価数によって0と1/3の間の値をとることができる。好ましくは0.05〜0.30の範囲である。
【0031】
さらに、本発明複合酸化物は、充放電特性に重大な影響を及ぼさない範囲の水酸化リチウム、炭酸リチウム、チタン化合物、鉄化合物、マンガン化合物(それらの水和物および複合化合物も含む)などの不純物相を含んでいても良い。また、後述する有機物の存在下での焼成処理を行う場合には、焼成時に残留することのある非晶質又は結晶質の炭素などの不純物相が生成物中に含まれることがあるが、このような不純物相についても、本発明複合酸化物中に存在してもよい。立方晶岩塩型構造と層状岩塩型構造の結晶相からなる岩塩型構造の結晶相以外の不純物相の量については、リチウムマンガン系複合酸化物中に10重量%程度まで存在してもよい。
【0032】
リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法
本発明の複合酸化物の製造方法については特に限定はないが、例えば、水熱反応を利用した方法によれば、優れた充放電性能を有する複合酸化物を容易に形成できる。以下の項の方法について具体的に説明する。
【0033】
(i)水熱反応を使用した製造方法の内で、まず、第一の方法は、鉄イオン、マンガンイオン及びチタンイオンの生成源となる金属化合物を水、水/アルコール混合物などに溶解させた混合溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、次いで、これに水溶性リチウム化合物を添加してアルカリ性条件下で水熱処理を行う方法である。この際、酸化剤を添加することなく、水熱処理を行うことによって、目的とするマンガン元素の平均価数が3.9以下のリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0034】
鉄化合物、マンガン化合物及びチタン化合物としては、これらの化合物を含む混合水溶液を形成できる成分であれば特に限定なく使用できる。通常、水溶性の化合物を用いればよい。この様な水溶性化合物の具体例としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などの水溶性塩、水酸化物などを挙げることができる。これらの水溶性化合物は、無水物および水和物のいずれであってもよい。また、酸化物などの非水溶性化合物であっても、例えば、塩酸などの酸を用いて溶解させて水溶液として用いることが可能である。これらの各原料化合物は、各金属源について、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
該混合水溶液における鉄化合物、マンガン化合物及びチタン化合物の混合割合は、目的とする複合酸化物における各元素比と同様の元素比となるようにすればよい。
【0036】
混合水溶液中の各化合物の濃度については、特に限定的ではなく、均一な混合水溶液を形成でき、且つ円滑に共沈物を形成できるように適宜決めればよい。通常、鉄化合物、マンガン化合物及びチタン化合物の合計濃度を、0.01〜5mol/l程度、好ましくは0.1〜2mol/l程度とすればよい。
【0037】
該混合水溶液の溶媒としては、水を単独で用いる他、メタノール、エタノールなどの水溶性アルコールを含む水−アルコール混合溶媒を用いても良い。水−アルコール混合溶媒を用いることにより、0℃を下回る温度での沈殿生成が可能となる。アルコールの使用量は、目的とする沈殿生成温度などに応じて適宜決めればよいが、通常、水100重量部に対して、50重量部程度以下の使用量とすることが適当である。
【0038】
該混合水溶液から沈殿物(共沈物)を生成させるには、該混合水溶液をアルカリ性とすればよい。良好な沈殿物を形成する条件は、混合水溶液に含まれる各化合物の種類、濃度などによって異なるので一概に規定出来ないが、通常、pH8程度以上とすることが好ましく、pH11程度以上とすることがより好ましい。
【0039】
該混合水溶液をアルカリ性にする方法については、特に限定はなく、通常は、該混合水溶液にアルカリ又はアルカリを含む水溶液を添加すればよい。また、アルカリを含む水溶液に該混合水溶液を添加する方法によっても共沈物を形成することができる。 該混合水溶液をアルカリ性にするために用いるアルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどを用いることができる。これらのアルカリを水溶液として用いる場合には、例えば、0.1〜20mol/l程度、好ましくは0.3〜10mol/l程度の濃度の水溶液として用いることができる。また、アルカリは、上記した金属化合物の混合水溶液と同様に、水溶性アルコールを含む水−アルコール混合溶媒に溶解しても良い。
【0040】
沈殿生成の際には、混合水溶液の温度を-50℃から+15℃程度、好ましくは-40℃から+10℃程度にすることにより、反応時の中和熱発生に伴うスピネルフェライトの生成が抑制され微細かつ均質な共沈物が形成されやすくなる。
【0041】
該混合水溶液をアルカリ性とした後、更に、0〜150℃程度(好ましくは10〜100℃程度)で、1〜7日間程度(好ましくは2〜4日間程度)にわたり、反応溶液に空気を吹き込みながら、沈殿物の酸化・熟成処理を行うことが好ましい。
【0042】
得られた沈殿を蒸留水等で洗浄して、過剰のアルカリ成分、残留原料等を除去し、濾別することによって、沈殿を精製することができる。 次いで、上記した方法で得られた沈殿物を、水溶性リチウム化合物とともにアルカリ性条件下で水熱処理に供する。水熱処理は、該沈殿物及び水溶性リチウム化合物を含む水溶液をアルカリ性条件下で加熱することによって行うことができる。加熱は、通常、密閉容器中で行えばよい。第一の方法では、水熱処理は、酸化剤の不存在下において行うことが必要である。これにより、目的とするマンガンの平均価数が3.9以下のリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0043】
水熱反応に用いる水溶液では、鉄、マンガン及びチタンを含む沈殿物の含有量は、水1リットルあたり1〜100g程度とすることが好ましく、10〜80g程度とすることがより好ましい。
【0044】
水溶性リチウム化合物としては、例えば、塩化リチウム、硝酸リチウム等の水溶性リチウム塩、水酸化リチウム等を用いることができる。これらの水溶性リチウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、無水物および水和物の何れを用いても良い。
【0045】
水溶性リチウム化合物の使用量は、沈殿生成物中のFe、Mn及びTiの合計モル数に対するリチウム元素モル比として、Li/(Fe+Mn+Ti)=1〜10程度とすることが好ましく、3〜7程度とすることがより好ましい。
【0046】
水溶性リチウム化合物の濃度は、0.1〜10mol/l程度とすることが好ましく、1〜8mol/l程度とすることがより好ましい。
【0047】
水熱反応に用いる水溶液には、更に、還元剤を添加することができる。還元剤を添加した水溶液を用いて水熱合成反応を行うことによって、リチウムマンガン系複合酸化物中のマンガンの平均価数を、還元剤を添加しない場合と比べてより低減させることができる。
【0048】
還元剤としては、水熱反応時に分解して酸素吸収するものであれば、特に限定無く使用でき、具体例として、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウムやそれらの水和物等を挙げることができる。これらの還元剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0049】
還元剤の濃度は、0.1〜10mol/l程度とすることが好ましく、0.5〜5mol/l程度とすることがより好ましい。
【0050】
水熱反応を行う際の水溶液のpHについては、通常、pH8程度以上とすることが好ましく、pH11程度以上とすることがより好ましい。
【0051】
沈殿物及び水溶液リチウム化合物を含む水溶液がアルカリ性条件下にある場合には、そのまま加熱すればよいが、pH値が低い場合には、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどを添加してpH値を上げればよい。
【0052】
水熱反応は、通常の水熱反応装置(例えば、市販のオートクレーブ)を用いて行うことができる。
【0053】
水熱反応条件は、特に限定されるものではないが、通常100〜300℃程度で0.1〜150時間程度とすればよく、好ましくは150〜250℃程度で1〜100時間程度とすればよい。
【0054】
水熱反応終了後、通常、残存するリチウム化合物などの残存物を除去するために、反応生成物を洗浄する。洗浄には、例えば、水、水-アルコール混合溶液、アルコール、アセトンなどを用いることができる。次いで、生成物を濾過し、例えば、80℃以上の温度(通常は100℃程度)で乾燥することにより、目的とするリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0055】
上記した方法でリチウムマンガン系複合酸化物を得た後、更に、必要に応じて、得られたリチウムマンガン系複合酸化物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することによって、Li含有量、Mn価数および粉体特性を制御して目的とするリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0056】
焼成工程で用いるリチウム化合物としては、リチウム元素を含む化合物であれば特に限定なく使用でき、具体例として、塩化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等のリチウム塩、水酸化リチウム、これらの水和物等を挙げることができる。これらのリチウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。リチウム化合物の使用量は、水熱法で得られたリチウムマンガン系複合酸化物1モルに対して0.01〜2モル程度とすればよい。
【0057】
通常、反応性を向上させるために、水熱法で得られたリチウムマンガン系複合酸化物にリチウム化合物を加えて粉砕混合した後、焼成することが好ましい。粉砕の程度については、粗大粒子が含まれず、混合物が均一な色調となっていればよい。
【0058】
リチウム化合物は、粉末形態、水溶液形態等として用いることができるが、反応の均一性を確保するために、水溶液の形態で使用することが好ましい。この場合、水溶液の濃度については、通常、0.1〜10mol/l程度とすればよい。
【0059】
還元性雰囲気下で焼成する方法については、特に限定はないが、例えば、不活性雰囲気下において、有機物、炭素粉末などの存在下に焼成することによって、還元性雰囲気下における焼成が可能である。
【0060】
有機物としては、特に限定はなく、後述する焼成温度において分解して還元性雰囲気とすることができる炭素含有化合物であればよい。特に、水溶性の有機物を用いる場合には、水溶液状態でリチウムマンガン複合酸化物粉末と分散混合できるので有利である。このような有機物の具体例としては、ショ糖、ブドウ糖、デンプン、酢酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、アミノ酢酸などを挙げることができる。
【0061】
炭素粉末としては、例えば、有機物の熱分解によって得られた炭素粉末、例えば、黒鉛、アセチレンブラックなどを用いることができる。
【0062】
上記した有機物及び炭素粉末は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0063】
有機物及び炭素粉末からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分(以下、「有機物等」ということがある)の使用量は、リチウムマンガン系複合酸化物に対して、炭素のモル量換算で0.001倍〜5倍モル程度とすることが好ましく、0.01倍〜1倍モル程度とすることがより好ましい。水溶液として用いる場合には有機物等の濃度は、上記した使用量の範囲となるように適宜決めればよい。
【0064】
有機物等の存在下で焼成する方法については、特に限定はないが、例えば、水熱法で得られたリチウムマンガン系複合酸化物に、上記したリチウム化合物及び有機物等を加えて混合した後、80℃以上の温度、好ましくは100℃程度の温度で加熱乾燥し、粉砕して、焼成すればよい。焼成温度は、150〜1200℃程度とすることが好ましく、200〜1000℃程度とすることがより好ましい。
【0065】
焼成の際の雰囲気は、有機物等の分解によって強い還元性の雰囲気となるように、窒素ガス中などの不活性ガス雰囲気とすればよい。焼成時間は、焼成温度まで達する時間を含めて0.1〜100時間程度とすることが好ましく、0.5〜60時間程度とすることがより好ましい。
【0066】
上記した方法で焼成することによって、目的とするマンガン元素の平均価数が3.9以下のリチウムマンガン系複合酸化物について、Li含有量、Mn価数、粉体特性等を制御することができる。例えば、焼成の際に添加するリチウム化合物の量を適宜設定することによって、リチウムマンガン系複合酸化物中のリチウム含有量を調整することができる。また、焼成温度を高くすることによって、リチウムマンガン系複合酸化物の粒径を大きくすることができる。更に、有機物等の添加量を増加させ、更に、焼成温度を上昇することによって、マンガン元素の平均価数をより低下させることが可能となる。
【0067】
上記した焼成処理は、リチウムマンガン系複合酸化物にリチウム化合物を添加して、焼成した後、還元性雰囲気下で焼成する二段階の焼成処理としてもよい。二段階の焼成処理を行う場合には、Li含有量、Mn価数、粉体特性等の制御をより精密に行うことができる。
【0068】
この場合、リチウムマンガン系複合酸化物にリチウム化合物を添加して行う一段階目の焼成処理については、リチウム化合物の使用量などは上記した焼成処理と同様とすればよい。一段階目の焼成処理の条件については、焼成雰囲気は、大気中、酸化性雰囲気中、不活性雰囲気中、還元雰囲気中等任意の雰囲気を選択できる。焼成温度は、200〜1200℃程度とすることが好ましく、300〜1000℃程度とすることがより好ましい。焼成時間は、焼成温度まで達する時間を含めて0.1〜100時間程度とすることが好ましく、0.5〜60時間程度とすることがより好ましい。
【0069】
上記した方法で一段階目の焼成処理を行った後、還元性雰囲気下において二段階目の焼成処理を行えばよい。二段階目の焼成処理の条件は、上記したリチウム化合物を添加して還元性雰囲気下で焼成処理を行う場合と同様の条件とすればよい。 (ii)水熱反応を使用したリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法の第二の方法は、第一の方法と同様にして、鉄イオン、マンガンイオン及びチタンイオンの生成源となる金属化合物を溶解させた混合溶液をアルカリ性として沈殿物を形成した後、これに水溶性リチウム化合物と酸化剤を添加してアルカリ性条件下で水熱処理を行い、その後、得られたリチウムマンガン系複合酸化物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成を行う工程を含む方法である。
【0070】
この方法は、酸化剤の存在下に水熱処理を行うことが、第一の方法と異なる点である。酸化剤の存在下に水熱処理を行う場合には、充放電特性上好ましくない不純物相である斜方晶LiMnO2の副生を抑制することができる。特に、マンガン元素の比率の比較的高いリチウムマンガン系複合酸化物、例えば、組成式Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2において、Mnの比率である(1−m−n)の値が0.6程度以上の酸化物を得る場合には、斜方晶LiMnO2が副生し易くなるが、これを抑制できる点で有効である。
【0071】
酸化剤としては、水熱反応時に分解して酸素発生するものであれば、特に限定無く使用でき、具体例として、塩素酸カリウム、塩素酸リチウム、塩素酸ナトリウム、過酸化水素水等を挙げることができる。酸化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。酸化剤の濃度は、0.1〜10mol/l程度とすることが好ましく、0.5〜5mol/l程度とすることがより好ましい。 第二の方法では、鉄、マンガン及びチタンを含む沈殿物に、酸化剤と水溶性リチウムを加えた水溶液を用いて水熱処理を行うことを除いて、その他の条件は、第一の方法の水熱処理と同様である。
【0072】
上記した方法によって水熱処理を行った後、得られたリチウムマンガン系複合酸化物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することによって、目的とするマンガン元素の平均価数が3.9以下のリチウムマンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0073】
焼成処理の条件については、第一の方法と同様とすればよい。また、第一の方法と同様に、リチウムマンガン系複合酸化物にリチウム化合物を添加して、焼成した後、還元性雰囲気下で焼成する二段階の焼成処理としてもよい。
【0074】
上記した第一の方法又は第二の方法でリチウムマンガン系複合酸化物を得た後、通常、過剰のリチウム化合物を除去するために、焼成物を水洗処理、溶媒洗浄処理等に供する。その後、濾過を行い、例えば、80℃以上の温度、好ましくは100℃程度の温度で加熱乾燥してもよい。
【0075】
更に、必要に応じて、この加熱乾燥物を粉砕し、リチウム化合物、有機物を加えて、焼成し、洗浄し、乾燥するという一連の操作を繰り返し行うことにより、リチウムマンガン系複合酸化物の優れた特性(リチウムイオン二次電池用正極材料としての作動電圧領域における安定的な充放電特性、高容量など)をより一層改善することができる。
【0076】
リチウムイオン二次電池
本発明によるリチウムマンガン系複合酸化物を用いるリチウムイオン二次電池は、公知の手法により製造することができる。例えば、正極材料として、本発明による新規な複合酸化物を使用し、負極材料として、公知の金属リチウム、炭素系材料(活性炭、黒鉛)、珪素、酸化珪素などを使用し、電解液として、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどからなる混合溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF6などのリチウム塩を溶解させた溶液(有機電解液)を使用し、さらにその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てればよい。
【発明の効果】
【0077】
本発明によれば、安価な原料及び元素を使用して、平均放電電圧が3V以上を保持でき、且つリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等またはそれ以上の放電容量(200mAh/g以上)および重量エネルギー密度(600mWh/g以上)を有する、正極材料として有用な新規な複合酸化物を得ることができる。
【0078】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物がこのような大容量を有するのは、従来の正極材料とは異なり、放電曲線が放電終止電圧(2.0Vまたは1.5V)に向かって緩やかに低下していく形状であることによるものであり、放電終止電圧を2.0V程度又は1.5V程度まで下げることによって、容易に大容量化を実現することができ、小型民生用のみならず車載用などの大型リチウムイオン二次電池用正極材料としてきわめて有用である。
【0079】
特に、本発明の複合酸化物は、従来の同様の組成を有する複合酸化物と比較して、初期充放電効率が高いという特徴を有するものである。このため、所定の初期放電量を得るために必要な負極材料の量を減少することができ、物質自身の高いエネルギー密度の寄与に加えて負極量低減によって電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0080】
本発明によるリチウムマンガン系複合酸化物は、上記の優れた性能を有するものであり、高容量で、かつ低コストのリチウムイオン二次電池用正極材料として、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明のリチウムマンガン系複合酸化物を構成する結晶相の内で、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相(Li2MnO3)の結晶構造を模式的に示す図面。
【図2】実施例1および比較例1で得られた試料のX線回折図。
【図3】実施例1又は比較例1で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧1.5V)。
【図4】実施例1又は比較例2で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図5】実施例2よび比較例2で得られた試料のX線回折図。
【図6】実施例2又は比較例2で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図7】実施例3及び比較例3で得られた試料のX線回折図。
【図8】実施例3又は比較例3で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図9】実施例4及び比較例4で得られた試料のX線回折図。
【図10】実施例4及び比較例4で得られた試料の室温における57Feメスバウワ分光スペクトルであり、黒丸が実測値、実線が計算値を示す。
【図11】実施例4又は比較例4で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧1.5V)。
【図12】実施例4又は比較例4で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および10サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図13】実施例5及び比較例5で得られた試料のX線回折図。
【図14】実施例5又は比較例5で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および20サイクル後の充放電曲線(下限電圧1.5V)。
【図15】実施例6及び比較例6で得られた試料のX線回折図。
【図16】実施例6及び比較例6で得られた試料の室温における57Feメスバウワ分光スペクトルであり、黒丸が実測値、実線が計算値を示す。
【図17】実施例6又は比較例6で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および20サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【図18】実施例7及び比較例7で得られた試料のX線回折図。
【図19】実施例7及び比較例7で得られた試料の室温における57Feメスバウワ分光スペクトルであり、黒丸が実測値、実線が計算値を示す。
【図20】実施例7又は比較例7で得られた試料を正極材料とし、金属リチウムを負極材料としたリチウムイオン二次電池の初期および20サイクル後の充放電曲線(下限電圧2.0V)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例、比較例に限定されるものではない。
【0083】
実施例1
30%硫酸チタン(IV)水溶液40.00 g、及び塩化マンガン(II)4水和物39.58 g (全量0.25 mol、Ti:Mnモル比=2:8)を500 mlの蒸留水に加え、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水1000 mlに無水水酸化リチウム60 gを溶解させた溶液)を作製した。この水酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ攪拌した。攪拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけ、室温にて徐々に滴下して、Ti-Mn沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で1日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0084】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50 g、及び蒸留水600 mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220 ℃で5時間水熱処理した。
【0085】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過および100 ℃で乾燥することにより、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0086】
比較例1
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例1と同様にして行い、、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。
【0087】
次いで、得られた粉末を窒素中で一時間かけて500 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。 X線回折による評価
図2に、実施例1および比較例1で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表1に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0088】
【表1】
【0089】
図2に示す実施例1で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0090】
【数2】
【0091】
a=4.937(1) Å , b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å ,β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩塩型構造を有するLi2TiO3の単位胞(空間群
【0092】
【数3】
【0093】
a=4.1405(3)Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H. Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表1から72:28であった。
【0094】
一方、比較例1で得られた試料のXRD回折図は、上記単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3結晶相単相で問題なくフィット可能であった。
【0095】
以上のことから、実施例1及び比較例1で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0096】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例1および比較例1で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表2に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0097】
【表2】
【0098】
表2に示す元素分析結果から、上記方法で得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0099】
Mnの価数については、実施例1で得られた試料では、比較例1で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例1で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0100】
比較例1で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0101】
充放電特性評価
実施例1および比較例1で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、以下の電池構成及び充放電試験条件で充放電試験を行った。結果を下記表3及び図3に示す。
電池構成及び充放電試験条件:
正極:活物質5 mg+AB 5mg+PTFE 0.5mgを混合しAlメッシュ上に圧着
負極:金属リチウム
電解液:LiPF6をEC+DMC溶媒中に溶解させたもの
試験温度:30 ℃
電流密度(活物質あたり):40 mA/g、
電位範囲:1.5-4.8 V(初期充電のみ5.0Vまでの定電流―定電圧充電(10 mA/gに下がるまで))
AB:アセチレンブラック、PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、EC:エチレンカーボネート、DMC:ジメチルカーボネート
【0102】
【表3】
【0103】
図3および表3に示す結果より、実施例1で得られた試料は、比較例1で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は同等であった。その結果、実施例1で得られた試料は、初期充放電効率が97%であり、比較例1で得られた試料(初期充放電容量67 %)と比較して、初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0104】
尚、実施例1で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、平均初期放電電圧、及び10サイクル後放電容量が、比較例1で得られた試料とほぼ同等であることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例1で得られた試料は、比較例1で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0105】
また、実施例1で得られた試料は、初期充電曲線の形状が比較例1の試料と大きく異なるものである。前述した参考文献1によると、Li2MnO3は初期充電時に4.5 V付近にLi2O脱離に伴う電位平坦部が出現するが、4.5Vに達するまでの容量は20 mAh/gと報告されている。これに対して、実施例1で得られた試料は、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が53 mAh/gに達し、参考文献1に記載されたLi2MnO3の値(20 mAh/g)および比較例1の試料の値(19 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0106】
次いで、図3に示す実施例1の試料の初期放電曲線をみると、2.0 V以下の容量はかなり小さいことが判明したので、より狭い電位範囲、具体的には放電下限電圧を1.5 Vから2.0 Vに上げて充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、上記充放電試験と同様である。結果を図4および表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
図4及び表4から明らかなように、実施例1で得られた試料は、下限電圧を2.0 Vとしても初期充放電効率は78%を確保しており、比較例1で得られた試料の値(54 %)より大きく、初期平均放電電圧は3.3 Vに向上していることがわかる。また10サイクル後の放電容量も219 mAh/gを確保しており、比較例1で得られた試料の値(191 mAh/g)より大きく、初期放電エネルギー密度も実施例1で得られた試料の方が大きいことが判る。
【0109】
以上のことから、実施例1で得られた3.9価以下のMn価数を有する試料は、より電位範囲の狭い2.0-4.8 Vの条件でも、比較例1で得られたMn価数が3.9価を超える試料と比較して充放電特性上優れたものであることが明らかである。
【0110】
実施例2
30%硫酸チタン(IV)水溶液を100.00 gと塩化マンガン(II)4水和物を24.74 g (全量0.25mol、Ti:Mnモル比=5:5)用い、水熱処理時に、沈殿物及び水酸化リチウムに、更に、水酸化カリウム309gを加えた水溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、粉末状生成物(リチウムマンガン酸化物)を得た。
【0111】
比較例2
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例2と同様にして行い、、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで、得られた粉末を窒素中で一時間かけて600 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0112】
X線回折による評価
図5に、実施例2および比較例2で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表5に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0113】
【表5】
【0114】
図5に示す実施例2で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0115】
【数4】
【0116】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩塩型構造を有するLi2TiO3の単位胞(空間群
【0117】
【数5】
【0118】
a=4.1405(3) Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H. Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表5から33:67であった。
【0119】
一方、比較例2で得られた試料のXRD回折図は、同様の2相構造モデルで問題なくフィット可能であった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表5から52:48であった。
【0120】
以上のことから、実施例2及び比較例2で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0121】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例2および比較例2で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表6に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0122】
【表6】
【0123】
表6に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0124】
Mnの価数については、実施例2で得られた試料では、比較例2で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例2で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0125】
比較例2で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0126】
充放電特性評価
実施例2及び比較例2で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、実施例1における上記充放電試験と同様とした。結果を下記表7及び図6に示す。
【0127】
【表7】
【0128】
図6よび表7に示す結果より、実施例2で得られた試料は、比較例2で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例2で得られた試料は、初期充放電効率が70%であり、比較例2で得られた試料(初期充放電容量44 %)と比較して初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0129】
尚、実施例2で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、平均初期放電電圧、及び10サイクル後放電容量が、比較例2で得られた試料とほぼ同等であることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例2で得られた試料は、比較例2で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0130】
また、実施例2で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例2の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が34 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載されたLi2MnO3の値(20 mAh/g)および比較例2の試料の値(14 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0131】
実施例3
実施例2と同様にして、Mn原料およびTi原料の秤量、共沈物作製、及び沈殿熟成処理を行った。
【0132】
次いで、得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿物を水酸化リチウム1水和物50g、水酸化カリウム309g、亜硫酸ナトリウム7水和物50g、及び蒸留水600mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れて、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で8時間水熱処理した。
【0133】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過および100℃で乾燥することにより、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0134】
比較例3
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例3と同様にして行い、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加し、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで得られた粉末を窒素中で一時間かけて600 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0135】
X線回折による評価
図7に、実施例3および比較例3で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表8に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0136】
【表8】
【0137】
図7に示す実施例3で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0138】
【数6】
【0139】
a=4.937(1) Å , b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å ,β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩塩型構造を有するLi2TiO3の単位胞(空間群
【0140】
【数7】
【0141】
a=4.1405(3)Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H. Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表8から31:69であった。
【0142】
一方、比較例3で得られた試料のXRD回折図は、同様の2相構造モデルで問題なくフィット可能であった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表8から51:49であった。
【0143】
以上のことから、実施例3及び比較例3で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0144】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例3よび比較例3で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表9に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0145】
【表9】
【0146】
表9に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0147】
Mnの価数については、実施例3で得られた試料では、比較例3で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例3で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0148】
比較例3で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0149】
また、実施例3では、水熱処理の際に、沈殿物を含む水溶液中に、還元剤である亜硫酸ナトリウム7水和物を添加して水熱処理を行っている。このため、得られた粉末状生成物では、Mnの価数は、3.78であり、実施例2で得られた試料と比較して、Mn価数が低減されている。この結果から、水熱処理時に還元剤を添加することによって、Mn価数を低減する効果が大きくなることが判る。
【0150】
充放電特性評価
実施例3及び比較例3で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、実施例1における上記充放電試験と同様とした。結果を下記表10及び図8に示す。
【0151】
【表10】
【0152】
図8よび表10に示す結果より、実施例3で得られた試料は、比較例3で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例3で得られた試料は、初期充放電効率が78%であり、比較例3で得られた試料(初期充放電容量45 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0153】
尚、実施例3で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、及び10サイクル後放電容量が、比較例3で得られた試料より優れており、平均初期放電電圧は、比較例3で得られた試料に近い値であることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例3で得られた試料は、比較例3で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0154】
また、実施例3で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例3の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が41 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載されたLi2MnO3の値(20 mAh/g)および比較例3の試料の値(12 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0155】
また、還元剤を添加した水溶液を用いて水熱処理を行って得られた実施例3の試料は、還元剤を添加することなく、水熱処理を行って得られた実施例2の試料と比較して、初期充放電効率、及び初期放電容量が大きく向上している。このことからも水熱処理時に還元剤を添加して処理することによりMn還元が進行し、結果としてさらに充放電特性に優れた材料が得られることが明らかである。
【0156】
実施例4
塩化鉄(III)6水和物13.52g、及び塩化マンガン(II)4水和物39.58g (全量0.25mol、Fe:Mnモル比=2:8)を500 mlの蒸留水に加え、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水1000 mlに無水水酸化リチウム60 gを溶解させた溶液)を作製した。これらの水溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン酸化物)を得た。
【0157】
比較例4
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例4と同様にして行い、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで得られた粉末を窒素中で一時間かけて500 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0158】
X線回折による評価
図9に、実施例4および比較例4で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表11に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0159】
【表11】
【0160】
図9に示す実施例4で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0161】
【数8】
【0162】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0163】
一方、比較例4で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデルで問題なくフィット可能であった。
【0164】
以上のことから、実施例4及び比較例4で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0165】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例4および比較例4で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表12に示す。
【0166】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、室温において57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、MnとFeの平均価数とそれぞれの含有量からMn価数を求めた。結果を下記表12に示す。
【0167】
具体的には、MnとFeの平均価数は、下記式で表される。
【0168】
MnとFeの平均価数
=(鉄含有量m値×鉄の価数)+(マンガン含有量(1-m)×マンガンの価数)
故に、マンガンの価数は、下記式となる。
マンガンの価数
=(MnとFeの平均価数―(鉄含有量m値×鉄の価数))/マンガン含有量(1-m)
鉄の価数は、実施例4および比較例4で得られた両試料とも、図10に示される57Feメスバウワ分光スペクトルが対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が実施例4で+0.3223(5) mm/s、比較例4で+0.3357(8) mm/sと、典型的な鉄3価の酸化物LiCo0.8Fe0.2O2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。
【0169】
従ってMn価数は、上記式に下記表12に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量m、鉄の価数を適用することにより計算できる。
【0170】
【表12】
【0171】
表12示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびm値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0172】
Mnの価数については、実施例4で得られた試料では、比較例4で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例4で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0173】
比較例4で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0174】
充放電特性評価
実施例4及び比較例4で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 V)。結果を下記表13及び図11に示す。
【0175】
【表13】
【0176】
図11よび表13に示す結果より、実施例4で得られた試料は、比較例4で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例4で得られた試料は、初期充放電効率が87%であり、比較例4で得られた試料(初期充放電容量71 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0177】
尚、実施例4で得られた試料は、平均初期放電電圧は、比較例4で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度、及び10サイクル後放電容量が、比較例4で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例4で得られた試料は、比較例4で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0178】
また、実施例4で得られた試料は、初期充電曲線の形状が比較例4の試料と大きく異なるものである。実施例4で得られた試料及び比較例4で得られた試料は、共にFeを含んでおり、Feは4V付近から酸化によるLi脱離を引き起こすために、4.0Vを超える部分の容量に寄与するものと考えられるが、両試料は、4.0 Vまでの電位における容量が大きく異なるものである。具体的には、実施例4で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまでの容量が36 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載された値(20 mAh/g)および比較例4の試料の値(11 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.0 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0179】
次いで、上記した充放電試験について、放電下限電圧を1.5 Vから2.0 Vに上げて、より狭い電位範囲において充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、上記充放電試験と同様である。結果を図12および表14に示す。
【0180】
【表14】
【0181】
図12及び表14から明らかなように、実施例4で得られた試料は、下限電圧を2.0 Vとしても初期充放電効率は71%を確保しており、比較例4で得られた試料の値(59 %)より大きく、初期平均放電電圧は、下限値1.5Vの場合と比較して、0.3 V向上していることがわかる。また10サイクル後の放電容量も221 mAh/gを確保しており、比較例4で得られた試料の値(177 mAh/g)より大きく、初期放電エネルギー密度も実施例4で得られた試料の方が大きい値であった。
【0182】
以上のことから、実施例4で得られた3.9価以下のMn価数を有する試料は、電位範囲の狭い2.0-4.8 Vの電位範囲でも、比較例4で得られたMn価数が3.9価を超えるの試料と比較して充放電特性上優れたものであることが明らかである。
【0183】
実施例5
30%硫酸チタン(IV)水溶液60.00g、及び塩化マンガン(II)4水和物34.63g (全量0.25mol、Ti:Mnモル比=3:7)を500mlの蒸留水に加えて、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水500mlに水酸化リチウム一水和物50gを溶解させた溶液)を作製した。この水酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、200mlのエタノールを加えた後、-10℃に冷却された恒温槽内に静置後、攪拌した。この撹拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけて徐々に滴下して、Ti-Mn沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、撹拌下に共沈物を含む反応液に室温で2日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0184】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50g、及び蒸留水600mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で48時間水熱処理した。
【0185】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過した。濾過して得た粉末を、水酸化リチウム1水和物5.25gを蒸留水100mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液と混合し、攪拌後、100℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。
【0186】
次いで、得られた粉末を大気中で一時間かけて750℃まで昇温後、その温度で20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。
【0187】
その後、スクロース粉末0.71gを蒸留(炭素元素量として、リチウムマンガン系酸化物仕込みモル量の0.1倍モルに相当)水100mlに溶解させたものに焼成物を加え、よく撹拌後、乾燥した。乾燥物を粉砕し、窒素気流中で3時間かけて500℃まで昇温後、その温度で窒素中において1時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。
【0188】
残留するリチウム塩等を蒸留水洗浄の繰り返しで除き、濾過後、100℃乾燥して、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0189】
比較例5
沈殿作製、水熱処理、その後の750℃での大気中での焼成までの工程を実施例5と同様にして行い、その後、スクロース粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0190】
X線回折による評価
図13に、実施例5および比較例5で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表15に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0191】
【表15】
【0192】
図13に示す実施例5で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0193】
【数9】
【0194】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0195】
一方、比較例5で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデルで問題なくフィット可能であった。
【0196】
以上のことから、実施例5及び比較例5で得られた粉末状生成物は、ともに本発明の単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0197】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例5よび比較例5で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表16に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0198】
【表16】
【0199】
表16に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0200】
Mnの価数については、実施例5で得られた試料では、比較例5で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例5で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0201】
比較例5で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0202】
これに対して、実施例5では、比較例5と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9を下回る価数となったと考えられる。
【0203】
充放電特性評価
実施例5及び比較例5で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲:1.5-4.8 V)。結果を下記表17及び図14に示す。
【0204】
【表17】
【0205】
図14よび表17に示す結果より、実施例5で得られた試料は、比較例5で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例5で得られた試料は、初期充放電効率が63%であり、比較例5で得られた試料(初期充放電容量54 %)と比較して初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0206】
尚、実施例5で得られた試料は、平均初期放電電圧は、比較例5で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度、及び20サイクル後放電容量が、比較例5で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例5で得られた試料は、比較例5で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0207】
また、実施例5で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例5の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が28 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載されたLi2MnO3の値(20 mAh/g)および比較例5の試料の値(8 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0208】
実施例6
硝酸鉄(III)9水和物30.30g、及び塩化マンガン(II)4水和物34.63g (全量0.25mol、Fe:Mnモル比=3:7)を500mlの蒸留水に加えて、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水1000mlに無水水酸化リチウム60gを溶解させた溶液)を作製した。この水酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、室温で攪拌した。この攪拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけて徐々に滴下して、Fe-Mn沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で1日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0209】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50g、塩素酸カリウム50g及び蒸留水600mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で5時間水熱処理した。
【0210】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過した。濾過して得た粉末を、水酸化リチウム1水和物5.25gを蒸留水100mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液と混合し、攪拌後、100℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。次いで得られた粉末を大気中で一時間かけて650℃まで昇温後、その温度で20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。その後、スクロース粉末0.71g(炭素元素量として、リチウムマンガン系酸化物仕込みモル量の0.1倍モルに相当)を蒸留水100mlに溶解させたものに焼成物を加え、よく攪拌後、100℃乾燥した。乾燥後粉砕し、窒素気流中で3時間かけて500℃まで昇温後、その温度で窒素気流中において1時間焼成した。その後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。残留するリチウム塩等を蒸留水洗浄を繰り返して除き、濾過後、100℃乾燥して、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0211】
比較例6
沈殿作製、水熱処理、その後の650℃での大気中での焼成までの工程を実施例6と同様にして行い、その後、スクロース粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0212】
X線回折による評価図15に、実施例6および比較例6で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表18に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0213】
【表18】
【0214】
図15に示す実施例6で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0215】
【数10】
【0216】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0217】
一方、比較例6で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデルで問題なくフィット可能であった。
【0218】
以上のことから、実施例6及び比較例6で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0219】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例6および比較例6で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。
【0220】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、実施例4と同様にして、室温において57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、遷移金属価数とそれぞれの遷移金属含有量からMn価数を求めた。結果を下記表19に示す。
【0221】
尚、鉄の価数は、実施例6の試料が図16に示される57Feメスバウワ分光スペクトルが対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が+0.3402(8) mm/sと典型的な鉄3価の酸化物LiCo0.8Fe0.2O2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。一方、比較例6の試料は、非対称なダブレット成分を示し、面積比95.6%を占める主成分の異性体シフト値が+0.3450(10) mm/sと上述のような典型的な鉄3価の酸化物の値と一致することから、ほとんどが鉄3価であるが、わずかに残り4.4%の成分があり、その異性体シフト値-0.120(17) mm/sは、典型的な鉄4価の酸化物Li0.28Ni0.9Fe0.1O2の値(-0.11 mm/s, C. Delmas, M. Menetrier, L. Croguennec, I. Saadoune, A. Rougier, C. Pouillerie, G, Prado, M. Grune, and L. Fournes, Electrochim. Acta., 45, 243-253 (1999).)成分と帰属できる。従って両成分の面積比がそのまま価数比と考えると鉄の価数は3.044と推定される。
【0222】
従ってMn価数は、上記式に下記表19に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量y、鉄の価数を適用することにより、実施例4と同様にして計算できる。
【0223】
【表19】
【0224】
表19に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびm値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0225】
Mnの価数については、実施例6で得られた試料では、比較例6で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例6で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0226】
比較例6で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0227】
これに対して、実施例6では、比較例6と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9を下回る価数となったと考えられる。
【0228】
充放電特性評価
実施例6及び比較例6で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 Vとし、初期充電のみ4.8Vまでの定電流―定電圧充電(10 mA/gに下がるまで)を行った)。結果を下記表20及び図17に示す。
【0229】
【表20】
【0230】
図17及び表20に示す結果より、実施例6で得られた試料は、比較例6で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例6で得られた試料は、初期充放電効率が72%であり、比較例6で得られた試料(初期充放電容量64 %)と比較して、初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0231】
尚、実施例6で得られた試料は、平均初期放電電圧は比較例6で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度及び20サイクル後放電容量は、比較例6で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例6で得られた試料は、比較例6で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0232】
また、実施例6で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例6の試料と大きく異なるものである。実施例6で得られた試料は及び比較例6で得られた試料は、共にFeを含むため、4.0Vを超える部分の容量は鉄の酸化に伴うものと考えられるが、4.0 Vまでの電位における容量が両者で大きく異なる。比較例6で得られた試料は、4.0 Vに達するまでの容量が12mAh/gと小さいが、実施例6で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまでの容量が19 mAh/gに達し、比較例6で得られた試料の値に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0233】
実施例7
硝酸鉄(III)9水和物及び塩化マンガン(II)4水和物を含む水溶液に代えて、硝酸鉄(III)9水和物20.20g、塩化マンガン(II)4水和物29.69g、及び30%硫酸チタン(IV)溶液40.00g(全量0.25mol、Fe:Mn:Tiモル比=2:6:2)を含む水溶液を用いること以外は、実施例6と同様の操作を行い、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0234】
比較例7
沈殿作製、水熱処理、その後の650℃での大気中での焼成までの工程を実施例7と同様にして行い、その後、スクロール粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0235】
X線回折による評価
図18に、実施例7および比較例7で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表21に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0236】
【表21】
【0237】
図18に示す実施例7で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi2MnO3の単位胞(空間群
【0238】
【数11】
【0239】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0240】
一方、比較例7で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデルで問題なくフィット可能であった。
【0241】
以上のことから、実施例7及び比較例7で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0242】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi2MnO3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施例7及び比較例7で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。
【0243】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、実施例4と同様にして、室温において57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、遷移金属価数とそれぞれの遷移金属含有量からMn価数を求めた。結果を下記表22に示す。
【0244】
具体的には、下記表22に記載した組成式の記号を用いると、MnとFeの平均価数は、下記式で表される。
MnおよびFeの平均価数
=(鉄含有量m値÷組成式中のFeとMn量の和(1-n)値×鉄の価数)+(マンガン含有量(1-m-n)÷組成式中のFeとMn量の和(1-n)値×マンガンの価数)
故に
マンガンの価数
=(MnおよびFeの平均価数×組成式中のFeとMn量の和(1-n)値―(鉄含有量m値×鉄の価数))/マンガン含有量(1-m-n)
尚、鉄の価数は、実施例7の試料が図19に示される57Feメスバウワ分光スペクトルが対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が+0.3273(9) mm/sと典型的な鉄3価の酸化物LiCo0.8Fe0.2O2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。一方比較例7の試料は、非対称なダブレット成分を示し、面積比95.2%を占める主成分の異性体シフト値が+0.3457(13) mm/sと上述のような典型的な鉄3価の酸化物の値と一致することから、ほとんどが鉄3価であるが、わずかに残り4.8%の成分があり、その異性体シフト値-0.07(2) mm/sより典型的な鉄4価の酸化物Li0.28Ni0.9Fe0.1O2の値(異性体シフト値-0.11 mm/s, C. Delmas, M. Menetrier, L. Croguennec, I. Saadoune, A. Rougier, C. Pouillerie, G, Prado, M. Grune, and L. Fournes, Electrochim. Acta., 45, 243-253 (1999).)成分と帰属できる。従って両成分の面積比がそのまま価数比と考えると鉄の価数は3.048と推定される。
【0245】
従ってMn価数は、上記式に下記表22に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量m、FeとMn量の和(1-n)、鉄の価数を適用することにより計算できる。
【0246】
【表22】
【0247】
表22に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値、m値及びn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0248】
Mnの価数については、実施例7で得られた試料では、比較例7で得られた試料やLi2MnO3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例7で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0249】
比較例7で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0250】
これに対して、実施例7では、比較例7と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9価を下回る価数となったと考えられる。
【0251】
充放電特性評価
実施例7及び比較例7で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 Vとし、初期充電のみ4.8Vまでの定電流―定電圧充電(10 mA/gに下がるまで)を行った)。結果を下記表23及び図20に示す。
【0252】
【表23】
【0253】
図20及び表23に示す結果より、実施例7で得られた試料は、比較例7で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例7で得られた試料は、初期充放電効率が78%であり、比較例7で得られた試料(初期充放電容量62 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0254】
尚、実施例7で得られた試料は、平均初期放電電圧、初期放電エネルギー密度、及び20サイクル後放電容量は、比較例7で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例7で得られた試料は、比較例7で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0255】
また、実施例7で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例7の試料と大きく異なるものである。実施例7で得られた試料及び比較例7で得られた試料は、共にFeを含むため、4.0Vを超える部分の容量は鉄の酸化に伴うものと考えられるが、4.0 Vまでの電位における容量が両者で大きく異なる。比較例7で得られた試料は、4.0 Vに達するまでの容量が14mAh/gと小さいが、実施例7で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまでの容量が23 mAh/gに達し、比較例7で得られた試料の値に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi2MnO3系正極が作製できていると考えられる。
【0256】
以上の実施例及び比較例の結果から、マンガン元素の平均価数が3.9価以下という特徴を有する本願発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、優れた充放電特性を有する正極材料であることが明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2 (0<x<1/3, 0≦m≦0.53, 0≦n≦0.53, 0<m+n≦0.53)で表され、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含むリチウムマンガン系複合酸化物であって、マンガン元素の平均価数が3.9価以下であることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項2】
単斜晶層状岩塩型構造の結晶相に加え、立方晶岩塩型構造の結晶相を含む請求項1に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項3】
チタン化合物及び鉄化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物と、マンガン化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物と共に、アルカリ性条件下で水熱処理することを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
水熱処理に用いる水溶液が、更に、還元剤を含有するものである、請求項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4の方法によって水熱処理を行った後、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4の方法によって水熱処理を行った後、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に焼成し、次いで、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
【請求項7】
マンガン化合物、チタン化合物及び鉄化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物及び酸化剤と共に、アルカリ性条件下で水熱処理し、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
【請求項8】
マンガン化合物、チタン化合物及び鉄化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物及び酸化剤と共に、アルカリ性条件下で水熱処理し、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に焼成し、次いで、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【請求項1】
組成式:Li1+x(Mn1-m-nFemTin)1-xO2 (0<x<1/3, 0≦m≦0.53, 0≦n≦0.53, 0<m+n≦0.53)で表され、単斜晶層状岩塩型構造の結晶相を含むリチウムマンガン系複合酸化物であって、マンガン元素の平均価数が3.9価以下であることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項2】
単斜晶層状岩塩型構造の結晶相に加え、立方晶岩塩型構造の結晶相を含む請求項1に記載のリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項3】
チタン化合物及び鉄化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物と、マンガン化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物と共に、アルカリ性条件下で水熱処理することを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
水熱処理に用いる水溶液が、更に、還元剤を含有するものである、請求項3に記載のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4の方法によって水熱処理を行った後、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4の方法によって水熱処理を行った後、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に焼成し、次いで、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
【請求項7】
マンガン化合物、チタン化合物及び鉄化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物及び酸化剤と共に、アルカリ性条件下で水熱処理し、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
【請求項8】
マンガン化合物、チタン化合物及び鉄化合物を含む混合水溶液をアルカリ性として沈殿物を形成し、得られた沈殿物を水溶性リチウム化合物及び酸化剤と共に、アルカリ性条件下で水熱処理し、水熱処理後の生成物をリチウム化合物と共に焼成し、次いで、還元性雰囲気下において焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のリチウムマンガン系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−41257(P2012−41257A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242064(P2010−242064)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/高容量・低コスト新規酸化物正極材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(592197418)株式会社田中化学研究所 (34)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/高容量・低コスト新規酸化物正極材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(592197418)株式会社田中化学研究所 (34)
【Fターム(参考)】
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