説明

リチウム一次電池

【課題】 ホウ素を添加した二酸化マンガンを正極活物質として用い、保存特性に優れたリチウム一次電池を得る。
【解決手段】 正極活物質を含む正極1と、リチウムからなる負極活物質を含む負極3と、非水電解質と、正極1及び負極3及び非水電解質を収納する電池缶7,9とを備えるリチウム一次電池において、正極活物質として、ホウ素を添加した二酸化マンガンを用い、電池缶7,9として、ヘリウムリーク速度が1×10-8Pa・m3/s以下となるように封口された電池缶を用いることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メモリーバックアップ用途などに用いられるリチウム一次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム一次電池は、極めて高い起電力を有し、この特性を生かした多くの用途に使用されている。特に、正極活物質として二酸化マンガンが用いられたリチウム一次電池は、高率放電特性、低温放電特性に優れ、カメラ用などの種々の用途に使用されている。しかしながら、用途が拡大するにつれ、メモリーバックアップ用などの用途において、さらに高い保存特性が要望されるようになってきている。
【0003】
正極活物質として二酸化マンガンを用いたリチウム一次電池においては、保存中に二酸化マンガンが電解液中に溶解し、溶解した二酸化マンガンが負極に析出するため、保存特性が悪くなるという問題があった。このため、メモリーバックアップ用途などの優れた保存特性を必要とされる用途においては、二酸化マンガンの電解液への溶解を抑制する必要があった。二酸化マンガンの溶解を抑制するため、種々の方法が検討されている。1つの方法として、二酸化マンガンにホウ素を添加することにより、二酸化マンガンの電解液中への溶解を抑制することができる。特許文献1には、二酸化マンガンにホウ素を添加することが提案されている。
【0004】
しかしながら、二酸化マンガンにホウ素を添加した従来のリチウム一次電池では、十分な保存特性が得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平11−339794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ホウ素を添加した二酸化マンガンを正極活物質として用い、保存特性に優れたリチウム一次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、正極活物質を含む正極と、リチウムからなる負極活物質を含む負極と、非水電解質と、正極、負極及び非水電解質を収納する電池缶とを備えるリチウム一次電池であり、正極活物質として、ホウ素を添加した二酸化マンガンを用い、電池缶として、ヘリウムリーク速度が1×10-8Pa・m3/s以下となるように封口された電池缶を用いることを特徴としている。なお、sは秒(second)である。
【0007】
本発明者らは、ホウ素を添加した二酸化マンガンを正極活物質として用いた従来のリチウム一次電池において、十分な保存特性が得られない原因は、保存時に電池内部に水分が浸入し、ホウ素がホウ酸になり、ホウ素が有効に作用しないためであることを見出した。このような保存時における電池内部への水分の浸入を抑制するため、本発明においては、電池缶として、ヘリウムリーク速度が1×10-8Pa・m3/s以下となるように封口された電池缶を用いている。本発明によれば、密閉性に優れた電池缶を用いているので、保存時における電池内部への水分の浸入を抑制することができ、ホウ素がホウ酸になる反応を抑制することができ、ホウ素を有効に作用させて、二酸化マンガンの電解液中への溶解を抑制することができる。従って、本発明によれば、保存特性を飛躍的に向上させることができる。
【0008】
ヘリウムリーク速度が1×10-8Pa・m3/s以下となるように封口することができる電池缶としては、例えば、レーザ溶接方式で封口された電池缶を挙げることができる。レーザ溶接方式で封口された電池缶は、従来のクリンプ方式で封口された電池缶に比べ、ガスケット(パッキング)の封口部分の密着面積が大きく、より密閉性の高い電池缶とすることができる。
【0009】
また、電池缶として、オーステナイト系ステンレス鋼製の電池缶を用いることにより、さらに保存特性を高めることができる。
【0010】
本発明におけるホウ素を添加した二酸化マンガンにおけるホウ素の含有量としては、0.1〜2重量%が好ましい。ホウ素の添加量が少ないと、二酸化マンガンの電解液への溶解を抑制するという効果が十分に得られず、保存特性の向上が十分に得られない場合がある。また、ホウ素の含有量が多すぎると、電池容量が低下する場合がある。
【0011】
二酸化マンガンにホウ素を添加する方法としては種々の方法が挙げられるが、例えば、酸化ホウ素を添加することにより、二酸化マンガンにホウ素を添加することができる。
【0012】
本発明のリチウム一次電池における負極は、リチウムからなる負極活物質を含むものであり、リチウムからなる負極活物質としては、アルミニウムを添加したリチウム(Li−Al)合金、インジウムを添加したリチウム(Li−In)合金、スズを添加したリチウム(Li−Sn)合金などが挙げられる。アルミニウムを添加したリチウム合金としては、例えば、アルミニウムを0.01〜2重量%添加したリチウム合金が挙げられる。
【0013】
本発明のリチウム一次電池の非水電解質に用いる溶媒としては、リチウム一次電池に用いられる溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートが挙げられる。好ましくは、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒や、上記環状カーボネートと、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどのエーテル系溶媒、またはγ−ブチロラクトン、スルホラン、酢酸メチル等の鎖状エステル等との混合溶媒が用いられる。
【0014】
非水電解質の溶質としては、リチウム一次電池に用いられる溶質であれば特に限定されるものではなく、例えば、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C25SO2)2、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C25SO2)3、LiAsF6、LiClO4、Li210Cl10、Li212Cl12などが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従い、正極活物質として、ホウ酸を添加した二酸化マンガンを用い、電池缶として、ヘリウムリーク速度が1×10-8Pa・m3/s以下となるように封口された電池缶を用いることにより、保存特性に優れたリチウム一次電池とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0017】
<実験1>
(実施例1)
〔正極の作製〕
ホウ素が0.2重量%となるように酸化ホウ素(B23)を添加した二酸化マンガンを、空気中にて400℃で20時間熱処理(焼成)し、粉砕して正極活物質としてのホウ素含有二酸化マンガンを得た。
【0018】
このホウ素含有二酸化マンガン(粉末)と、導電剤としてのカーボンブラック(粉末)と、結着剤としてのフッ素樹脂とを重量比85:10:5となるように混合して正極合剤を得た。この正極合剤をステンレス箔上に塗布し、真空中にて250℃で2時間乾燥して、正極を作製した。
【0019】
〔負極の作製〕
アルミニウムを0.5重量%添加したリチウム(Li−Al)合金箔を切断し、負極を作製した。
【0020】
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(PC)と、1,2−ジメトキシエタン(DME)との体積比率50:50の混合溶媒に、溶質としてのトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)を1モル/リットル溶解して、非水電解液を調製した。
【0021】
〔電池の組立〕
上記の正極、負極及び非水電解液を使用して、レーザ溶接方式でオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)製電池缶を封口し、円筒形の本発明電池A1(リチウム一次電池:電池寸法:外径15mm、高さ40mm)を組み立てた。なお、セパレータとしては、ポリプロピレン製の微多孔膜を使用し、これに非水電解液を含浸させた。
【0022】
図1は、組み立てた本発明電池A1の模式的断面図である。図1に示すように、セパレータ2を介して正極1と負極3が重ねられ、これを巻回した状態で電極体を形成し、この電極体を正極缶7内に収納している。正極缶7と電極体の間には絶縁シート6が設けられている。
【0023】
電極体の正極1には正極タブ4が取り付けられており、正極タブ4は正極缶7の上方において正極缶7と電気的に接続されている。負極3には、負極タブ5が取り付けられており、負極タブ5は上方に設けられる負極端子8に電気的に接続されている。正極缶7の上部には、蓋体9が設けられ、蓋体9の中心に穴が形成されており、この穴を通り負極端子8が負極タブ5と接続されている。負極端子8と蓋体9の間にはガスケット(パッキング)10が設けられている。蓋体9の周囲は、正極缶7の上方部とレーザ溶接により封口されており、レーザ溶接封口部11が形成されている。
【0024】
図1に示すリチウム一次電池において、電極缶は、正極缶7及び蓋体9から構成されている。正極1は正極タブ4を介して正極缶7に接続され、負極3は負極タブ5を介して負極端子8に接続され、電池内部に生じた化学エネルギーを正極缶7及び負極端子8の両端子から電気エネルギーとして外部に取り出し得るようになっている。
【0025】
〔電池缶のヘリウムリーク速度の測定〕
図2は、電池缶のヘリウムリーク速度を測定する装置を示す模式図である。図2に示すように、正極、負極、セパレータ、電解液を含まない空の容器に1気圧のヘリウムを満たした後、封口した電池缶30を真空チャンバー31内に入れ、真空チャンバー31内にヘリウムガスボンベ33からのヘリウムを送り1気圧で充填し、その後真空チャンバー31内を真空にし、電池缶30からリークされたヘリウムの量を質量分析計であるヘリウムリークディテクター32によって検出する。
【0026】
上記のようにして測定した結果、図1に示すレーザ溶接方式で封口した電池缶のヘリウムリーク速度は、8×10-9Pa・m3/sであった。
【0027】
(比較例1−1)
実施例1と同様の正極、負極、非水電解液及びセパレータを用い、図3に示す構造のクリンプ方式で封口したリチウム一次電池を作製した。
【0028】
図3に示すように、セパレータ2を介して重ね合わされた正極1及び負極3を巻回し電極体とし、この電極体を負極缶21に収納している。電極体と負極缶21の間には絶縁板20が設けられている。負極3に接続された負極タブ5は、負極缶21に接続されている。また、正極1に接続された正極タブ4は接続板23に接続され、接続板23の上にはPTC素子24を介して正極端子22が設けられている。正極端子22と接続板23の周囲をガスケット25を介し、負極缶21の上部をかしめることにより電池缶がクリンプ方式で封口されている。
【0029】
正極1は正極タブ4を介して正極端子22に接続され、負極3は負極タブ5を介して負極缶21に接続され、電池内部に生じた化学エネルギーを正極端子22及び負極缶21の両端子から電気エネルギーとして外部に取り出し得るようになっている。
【0030】
〔電池缶のヘリウムリーク速度の測定〕
上記と同様にして、図3に示す電池缶のヘリウムリーク速度を測定した。このクリンプ方式で封口した電池缶のヘリウムリーク速度は、1×10-7Pa・m3/sであった。
【0031】
(比較例1−2)
ホウ素を含まない二酸化マンガンを正極活物質として用いる以外は、実施例1と同様にして比較電池X2を組み立てた。
【0032】
(比較例1−3)
ホウ素を含まない二酸化マンガンを正極活物質として用いる以外は、比較例1−1と同様にして比較電池X3を組み立てた。
【0033】
〔容量維持率(保存特性)の測定〕
電池作製直後の各電池、すなわち本発明電池A1及び比較電池X1〜X3を、25℃において電流値100mAで2Vまで放電し、保存前の放電容量を測定した。また、電池作製直後の各電池を、70℃、相対湿度90%において1ヶ月保存後、25℃において、電流値100mAで2Vまで放電し、保存後の放電容量を測定した。保存前の放電容量と保存後の放電容量から、次式に従い自己放電率(%)を求めた。
【0034】
自己放電率=〔(保存後の放電容量)/(保存前の放電容量)〕×100
測定結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、正極活物質としてホウ素を添加した二酸化マンガンを用い、かつ電池缶としてヘリウムリーク速度が1×10-8Pa・m3/s以下である電池缶を用いた本発明電池A1は、比較電池X1〜X3に比べ優れた保存特性を示している。これは、ヘリウムリーク速度が1×10-8Pa・m3/s以下の電池缶を用いることにより、電池内部への水分の浸入を抑制することができ、ホウ素がホウ酸になる反応を抑制でき、ホウ素を有効に作用させて、二酸化マンガンの電解液中への溶解が抑制され、これによって保存特性が飛躍的に向上したものと考えられる。
【0037】
<実験2>
(実施例2−1)
実施例1と同様に、電池缶としてオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)製電池缶を用い、実施例1と同様にして、本発明電池B1(本発明電池A1)を組み立てた。
【0038】
(実施例2−2)
電池缶として、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)製電池缶を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、本発明電池B2を組み立てた。
【0039】
(実施例2−3)
電池缶として、フェライト系ステンレス鋼(SUS430)製電池缶を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、本発明電池B3を組み立てた。
【0040】
〔電池缶のヘリウムリーク速度の測定〕
上記と同様にして、実施例2−1〜2−3の電池缶について、ヘリウムリーク速度を測定したところ、いずれも8×10-9Pa・m3/sであった。
【0041】
〔容量維持率(保存特性)の測定〕
上記と同様にして、本発明電池B1〜B3について、自己放電率を測定し、その結果を表2に示した。
【0042】
【表2】

【0043】
また、オーステナイト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼の化学成分を表3及び表4に示した。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
表2に示すように、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316及びSUS304)製の電池缶を用いた本発明電池B1及びB2は、フェライト系ステンレス鋼(SUS430)製電池缶を用いた本発明電池B3に比べ、特に優れた保存特性を示している。これは、フェライト系ステンレス鋼(SUS430)製電池缶においては、レーザ溶接時の温度上昇により、封口部の粒界の組成が変化し、保存時に粒界腐食が起きたため、電池内への水分の浸入が生じたためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に従う実施例において作製したレーザ溶接方式で封口した電池缶を示す断面図。
【図2】電池缶のヘリウムリーク速度の測定方法を説明するための模式図。
【図3】比較例において作製したクリンプ方式で封口した電池缶を示す断面図。
【符号の説明】
【0048】
1…正極
2…電解液を含浸したセパレータ
3…負極
4…正極タブ
5…負極タブ
6…絶縁シート
7…正極缶
8…負極端子
9…蓋体
10…ガスケット(パッキング)
11…レーザ溶接封口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、リチウムからなる負極活物質を含む負極と、非水電解質と、前記正極、前記負極及び前記非水電解質を収納する電池缶とを備えるリチウム一次電池において、
前記正極活物質として、ホウ素を添加した二酸化マンガンを用い、前記電池缶として、ヘリウムリーク速度が1×10-8Pa・m3/s以下となるように封口された電池缶を用いることを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項2】
前記電池缶が、レーザ溶接方式で封口された電池缶であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム一次電池。
【請求項3】
前記電池缶が、オーステナイト系ステンレス鋼製であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム一次電池。
【請求項4】
前記二酸化マンガンが、酸化ホウ素を添加することにより、ホウ素が添加された二酸化マンガンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム一次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−42544(P2007−42544A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227929(P2005−227929)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】