説明

リチウム一次電池

【課題】100℃以上の高温環境下において負極の表面に形成したカーボン層による非水電解液の還元分解反応を抑制し、広い温度範囲で電池特性が安定し、高出力のリチウム一次電池を提供する。
【解決手段】リチウムまたはリチウム合金で構成された負極1の、正極2との対向面に炭素材料からなるカーボン層7を形成する。そして、負極1の電位で還元されて被膜を形成し、カーボン層7の表面での非水電解液の分解を抑制することで、非水電解液の分解生成物がカーボン層7の表面へ堆積することを抑制する化合物を非水電解液に、更に含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムまたはリチウム合金を負極活物質として含有する負極を用いたリチウム一次電池に関し、より詳しくは、リチウム一次電池における低温環境下でのパルス放電特性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液電池はエネルギー密度が高く、保存性、耐漏液性などの信頼性に優れ、また、小型化、軽量化が可能なことから、各種電子機器の主電源、メモリーバックアップ用電源などとして用いられ、その需要は増加の一途を辿っている。非水電解液電池の中でも正極とリチウムまたはリチウム合金を負極活物質として含有する負極およびセパレータを含む非水電解液リチウム一次電池(以下単に「リチウム一次電池」とする)が汎用されている。最近では、リチウム一次電池を自動車、産業機器などのより厳しい環境下で使用することが要望され、それと共に、さらなる高性能化のための改良が進められている。
【0003】
たとえば、リチウム電池においては、リチウムのデンドライト、その他のリチウム化合物のような電気化学的に不活性な化合物が負極の表面に付着し、電池容量を低下させるという問題がある。電気化学的に不活性な化合物の負極への付着を防止するために、負極の表面に炭素質粉末の層を設けることが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
また、正極、負極、セパレータおよび非水電解液を含み、負極のセパレータを介して正極に対向する面に、その面の面積の10〜50%にカーボンブラックが埋め込まれたリチウム一次電池が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−135116号公報
【特許文献2】特開2006−339046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、負極の表面に食い込んだ状態の炭素質粉末層が形成されることでリチウムのデンドライト、その他のリチウム化合物のような電気化学的に不活性な化合物が負極の表面への付着を抑制することが可能である。しかしながら、極めて卑な電位を持つリチウムもしくはリチウム合金を負極に使用することから、非水電解液に用いている非プロトン性溶媒が負極の表面で還元分解されてしまうため、炭素質粉末層表面に非水電解液の分解生成物が堆積し、負極の表面を覆うことで十分な放電特性が得られなくなる虞がある。特に高温環境下では非水電解液の還元分解が加速されることから高温保存特性において課題がある。
【0006】
次に特許文献2においてはカーボンブラックの埋め込み面積を負極の表面の面積の10〜50%の範囲とすることで非水電解液が負極表面で還元分解によって起こる放電特性の低下を軽減し、初期特性および高温保存後の特性に優れた実用性の高いリチウム一次電池が得られると報告されている。しかしながら、特許文献2においても自動車、産業機器など100℃以上での厳しい環境下で使用される用途においては十分であるとは言えず、特許文献1と同様に100℃以上の高温環境下で保存されることで非水電解液の分解生成物が堆積し、十分な放電特性が得られなくなる虞がある。
【0007】
本発明は、100℃以上の高温環境下で保存された後であっても低温環境下でのパルス放電特性に優れたリチウム一次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、正極活物質を含有する正極と、リチウムまたはリチウム合金で構成された負極と、この負極の正極に対向する面に形成されたカーボン層と、非プロトン性溶媒とリチウム塩からなる非水電解液と、を含むリチウム一次電池であって、負極の電位で還元されて被膜を形成し、カーボン層表面での非水電解液の分解を抑制することで、分解生成物のカーボン層表面への堆積を抑制する化合物を非水電解液が更に含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウム一次電池は、100℃以上の高温環境下での保存後においても低温環境下での放電特性が高水準で安定したリチウム一次電池の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による第1の発明は、正極活物質を含有する正極と、リチウムまたはリチウム合金で構成された負極と、この負極の正極に対向する面に形成されたカーボン層と、非プロトン性溶媒とリチウム塩からなる非水電解液と、を含むリチウム一次電池である。そして負極の電位で還元されて被膜を形成し、カーボン層表面での非水電解液の分解を抑制することで、非水電解液の分解生成物がカーボン層表面へ堆積することを抑制する化合物を更に含有することを特徴とする。この構成により、従来のリチウム一次電池に比べて100℃以上の高温環境下での保存後においても低温環境下でのパルス放電特性が高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。
【0011】
本発明による第2の発明は、第1の発明において、化合物がビニレンカーボネート(VC)もしくはビニルエチレンカーボネート(VEC)またはその混合物であることを特徴とするリチウム一次電池である。上記化合物にこれらを使用することにより、少量の添加で100℃以上の高温環境下での保存後においても低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。
【0012】
本発明による第3の発明は、第1または第2の発明において、カーボン層を形成するカーボン粉末がカーボンブラックであることを特徴とするリチウム一次電池である。非晶質炭素であるカーボンブラックをカーボン層に用いることにより、リチウムイオンがカーボン層を移動する際の抵抗が小さくなり、低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定するため好ましい。
【0013】
本発明による第4の発明は、正極活物質を含有する正極と、リチウムまたはリチウム合金で構成された負極と、この負極の正極に対向する面に形成されたカーボン層と、非プロトン性溶媒とリチウム塩からなる非水電解液と、を含むリチウム一次電池である。そして電池構成前もしくは電池構成時に、負極の電位で還元されて被膜を形成し、カーボン層表面での非水電解液の分解を抑制することで、非水電解液の分解生成物がカーボン層表面へ堆積することを抑制する化合物を非水電解液に含有させて用いたことを特徴とする。
【0014】
本発明による第5の発明は、第4の発明において、上記化合物を0.1質量%以上、15質量%以下の範囲で非水電解液に含有させて用いたリチウム一次電池である。上記化合物をこの範囲で含有させて用いることにより、100℃以上の高温環境下での保存後においても低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定するだけでなく、保存前においても低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。
【0015】
本発明による第6の発明は、第4または第5の発明において、化合物がビニレンカーボネート(VC)もしくはビニルエチレンカーボネート(VEC)またはその混合物であることを特徴とするリチウム一次電池である。上記化合物にこれらを使用することにより、少量の添加で100℃以上の高温環境下での保存後においても低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。
【0016】
本発明による第7の発明は、第4から第6の発明において、カーボン層を形成するカーボン粉末がカーボンブラックであることを特徴とするリチウム一次電池である。非晶質炭素であるカーボンブラックをカーボン層に用いることにより、リチウムイオンがカーボン層を移動する際の抵抗が小さくなり、低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定するため好ましい。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施の形態は本発明を具現化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態の一つであるリチウム一次電池の構成を模式的に示す縦断面図である。このリチウム一次電池はコイン形状を有し、負極1、正極2、セパレータ3、負極ケース4、正極ケース5、絶縁パッキング6、カーボン層7および図示しない非水電解液を含む。カーボン層7は負極1の表面に圧接されている。非水電解液を保持するセパレータ3は負極1と正極2の間に介在している。負極1と正極2とセパレータ3は発電要素を構成している。正極ケース5の上部は開口しており、この発電要素を収納している。断面形状がL字状の絶縁パッキング6が負極ケース4に装着され、負極ケース4を正極ケース5の内部に組み合わせた後に正極ケース5の開口部を内側にかしめて封口することでこの電池は製造される。
【0019】
非水電解液はγ−ブチロラクトンなどの非プロトン性溶媒を含む。また溶質としてホウフッ化リチウムなどのリチウム塩が溶解されている。非水電解液にはさらに、負極1の電位で還元されて被膜を形成する化合物が所定の比率となるように添加されている。この化合物はカーボン層表面での非水電解液の分解を抑制し、非水電解液の分解生成物がカーボン層表面へ堆積することを抑制する。この構成により、従来のリチウム一次電池に比べて100℃以上の高温環境下での保存後においても低温環境下でのパルス放電特性が高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。
【0020】
このような化合物としては不飽和結合を有する環状炭酸エステル化合物であるビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、及びその誘導体が挙げられ、更に詳しくはビニレンカーボネート(VC)、3−メチルビニレンカーボネート、3,4−ジメチルビニレンカーボネート、3−エチルビニレンカーボネート、3,4−ジエチルビニレンカーボネート、3−プロピルビニレンカーボネート、3,4−ジプロピルビニレンカーボネート、3−フェニルビニレンカーボネート、3,4−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等が挙げられる。また、含硫黄環状化合物であるエチレンサルファイト等も挙げられる。なかでもVCまたはVECは少量の添加で100℃以上の高温環境下での保存後においても低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。そのため、これらを単独もしくは混合物として用いることが好ましい。
【0021】
またこのような化合物を0.1質量%以上、15質量%以下の範囲で非水電解液に含有させて用いることが好ましい。この範囲で含有させて用いることにより、100℃以上の高温環境下での保存後においても低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定するだけでなく、保存前においても低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。
【0022】
従来、リチウムイオン二次電池にVCやVECなどを適用する技術が提案されている。炭素材料を負極に用いたリチウムイオン二次電池では、充電時に溶媒和されたリチウムイオンが炭素材料に挿入される。その際、炭素材料の剥離が起こり、容量の不可逆的損失を引き起こす。VCやVECは、炭素材料の表面に被膜を形成することで溶媒和されたリチウムイオンの挿入を阻止し、炭素材料の剥離を軽減するために添加されている。一方、本実施の形態では、VCやVECに起因する被膜は、負極1である金属リチウム表面に形成されたカーボン層7の表面での非水電解液の分解を抑制する。これによって非水電解液の分解が進行してその生成物がカーボン層7の表面へ堆積することを抑制している。したがってこれらの目的は全く異なるものである。
【0023】
正極2は、正極活物質、導電材および結着剤を含み、セパレータ3を介して負極1に対向するように設けられる。
【0024】
正極活物質としてはリチウム一次電池の分野で常用されるものを使用でき、その中でも、フッ化黒鉛、金属酸化物などが好ましい。フッ化黒鉛としては、化学式CF(0.8≦x≦1.1)で表されるものが好ましい。フッ化黒鉛は、長期信頼性、安全性、高温安定性などの点で優れている。フッ化黒鉛は、石油コークス、人造黒鉛などをフッ素化して得られる。金属酸化物としては、二酸化マンガン、酸化銅などが挙げられる。正極活物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
導電材としてもリチウム一次電池の分野で常用されるものを使用でき、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、人造黒鉛などの黒鉛類などを使用できる。導電材は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
結着材としてもリチウム一次電池の分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFの変性体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、変性アクリロニトリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。結着材は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
負極1は、リチウムまたはリチウム合金を含有し、セパレータ3を介して正極2に対向するように設けられる。リチウム合金としては、リチウム一次電池の分野で常用されるものを使用でき、たとえば、Li−Al、Li−Sn、Li−NiSi、Li−Pbなどが挙げられる。
【0028】
負極1の、セパレータ3を介して正極2に対向する負極面1aにはカーボン層7が設けられている。カーボン層7の厚さは300μm以下が好ましく、さらに好ましくは厚さ50μm以上、300μm以下の範囲である。この範囲とすることで低温環境下でのパルス放電特性などの電池特性がより高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。カーボン層7は、厚み方向の一部が負極1中に埋め込まれ、その他の部分が負極面1aから負極1の外方に突出するように設けられている。また、カーボン層7全体を負極1中に埋め込み、カーボン層7の表面と負極面1aとが1つの平面を形成するようにカーボン層7を設けてもよい。カーボン層7を用いずに電解液と接触した際に負極1表面には低温環境下で高抵抗の被膜が形成される。しかしながら、このようにカーボン層7を一部、もしくは全体を負極1に埋め込むことにより、負極1の表面の被膜の形成が抑制されることによって低温環境下でのパルス放電特性が向上する。
【0029】
なお、カーボン層7の厚さは、カーボン層7を形成した負極1の厚み方向の断面を5つ求め、各断面について任意の5点でカーボン層7の厚さを測定し、得られた25個の測定値の平均値として求めた。断面については集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工観察装置によって確認することができる。FIBは、加速されたGa(ガリウム)のイオンビームを静電レンズ系により集束し、試料表面を走査して、発生した二次電子や二次イオンを検出して画像(SIM:Scanning Ion Microscopy像)として観測できる装置である。
【0030】
また、カーボン層7の表面の面積の負極面1aの面積に対する割合(被覆率)は、百分率としては、好ましくは80%以上100%以下、さらに好ましくは90%以上100%以下であり、この範囲とすることで低温環境下での放電特性などの電池特性がより高水準で安定したリチウム一次電池が得られる。なお、負極面1aの面積は、負極1における正極2と対向する面の面積である。
【0031】
カーボン層7を形成するカーボンとしては、カーボンブラックとして公知のものを使用でき、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、コンタクトブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが挙げられる。他のカーボンとしては黒鉛やグラファイトも挙げられるが、非晶質炭素であるカーボンブラックの方がカーボン層を移動するリチウムイオンの移動抵抗が小さく、低温環境下でのパルス放電特性がより高水準で安定する。カーボンブラック16は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。カーボンブラックの粒径も特に制限されないが、負極面1aへの均一分布性などの観点から、一次粒子の平均粒径(メディアン径)が好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.03μm〜0.1μmである。また、カーボンブラックは、電解液との反応性などの観点から、窒素吸着によるBET比表面積が好ましくは20m/g以上、さらに好ましくは50m/g〜100m/gである。また、カーボンブラックは、負極面1aに圧接される前に、150℃〜250℃の熱風で乾燥または減圧乾燥を行うことが好ましい。乾燥により、カーボンブラックに吸着している揮発性分、吸着水などが除去される。
【0032】
また、負極面1aへカーボンブラックを載置する方法は、カーボンブラックを負極面1a上に置くことだけに限定されず、たとえば、ローラプレス機を用いてカーボンブラックを負極面1aに引き伸ばす方法も含む。この時、負極面1a上のカーボンブラックにポリエチレンシートを被せ、その上からローラプレス機によりカーボンブラックを負極面1aの全面に引き伸ばしてもよい。さらに、カーボンブラックを含むペーストを調製し、このペーストを塗布して乾燥し、必要に応じてローラプレス機で適度に加圧する方法でも良い。
【0033】
セパレータ3としては、リチウム一次電池の分野で常用されるものを使用でき、正極2と負極1とが短絡することを防止できるものであれば特に制限されない。さらに非水電解液の浸透性に優れ、イオンの移動抵抗とならないことが望ましい。代表的な素材としてはポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンなどが挙げられ、形状としては不織布、微多孔フィルムなどが挙げられる。
【0034】
非水電解液は、溶質および非水溶媒を含有する。溶質としては、リチウム一次電池の分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロ硼酸リチウム(LiBF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウム・ビスペンタフルオロエチルスルホン酸イミド(LiN(SO)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド(LiC(CFSO)、過塩素酸リチウム(LiClO)などが挙げられる。溶質は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
非水溶媒としても、リチウム一次電池の分野で常用されるものを使用でき、たとえば、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、γ−バレロラクトン(γ−VL)、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などの環状炭酸エステル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、1,3−ジオキソラン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体などが挙げられる。非水溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0036】
非水電解液における溶質濃度は特に制限されないが、好ましくは、0.5モル/L以上1.5モル/L以下である。溶質濃度が0.5モル/L未満では、室温での放電特性または長期保存後の放電特性が低下するおそれがある。溶質濃度が1.5モル/Lを超えると、−40℃程度の低温環境下では、非水電解液の粘度上昇およびイオン伝導度の低下が顕著になる虞がある。
【0037】
負極ケース4は、負極集電体および負極端子を兼ねる。正極ケース5は、正極集電体および正極端子を兼ねる。絶縁パッキング6は、主に、負極ケース4と正極ケース5とを絶縁する。負極ケース4、正極ケース5および絶縁パッキング6は、リチウム一次電池の分野で常用されるものを使用できる。負極ケース4および正極ケース5には、たとえば、ステンレス鋼製のものを使用できる。絶縁パッキング6には、たとえば、ポリプロピレンなどの合成樹脂製のものを使用できる。
【0038】
リチウム一次電池は、たとえば、次のようにして作製できる。まず、正極2が正極ケース5の内面に接触するように正極ケース5内に収容し、その上にセパレータ3を載置する。さらに、非水電解液を注液し、正極2およびセパレータ3に非水電解液を含浸させる。一方、負極ケース4のフラット部内面に負極1を圧着し、負極1の正極2に対抗する負極面1aにカーボン層7を形成する。次いで、負極ケース4の周縁部に絶縁パッキング6を装着した状態で、負極ケース4と正極ケース5とを組み合わせる。この時、負極1のカーボン層7が形成された負極面1aはセパレータ3と接触状態になる。さらに、正極ケース5の開口部を内側にかしめて封口することにより、コイン形状のリチウム一次電池が得られる。なお前述の化合物は予め電池構成前に非水電解液に混合して用いてもよいし、電池構成時に非水電解液に混合して用いてもよい。
【0039】
本実施の形態では、コイン形状のリチウム一次電池について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、円筒型、角型形状のリチウム一次電池も本発明の範囲に包含される。
【実施例】
【0040】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0041】
(実施例1)
1)正極の作製
フッ化炭素(正極活物質)100重量部およびアセチレンブラック(導電材)10重量部を乾式混合し、得られた乾式混合物にメタノールを添加して混練した。この混練物に、スチレンブタジエンゴム(結着材)5重量部を添加してさらに混練し、得られた混練物を乾燥および粉砕して、粉末状の正極合剤を調製した。この正極合剤1.0gを、直径17.0mmの円柱状金型に充填し、加圧成形してディスク状の正極2を作製した。
【0042】
2)負極の作製
負極活物質には、リチウム金属を用い、カーボンブラックには、電気化学工業(株)製のアセチレンブラック(AB)を用いた。アセチレンブラックの一次粒子の平均粒径は35nmであり、BET比表面積は60m/gであった。アセチレンブラックは200℃で減圧乾燥を行った後、アルゴングローブボックス内に導入した。
【0043】
厚み1.0mmのリチウム金属のフープを打ち抜いてディスク状の負極1とし、アルゴングローブボックス内に導入し、絶縁パッキング6を装着した負極ケース4のフラット部内面に圧着した。この負極1の表面にアセチレンブラック1.0mgを載せ、超音波ウェルダ(商品名:SONOPET302S、精電舎電子工業(株)製)を用い、振幅5μmおよび圧力0.5kNで振動および圧力を同時に付与した。振動および圧力の付与時間は、1.0秒であった。このようにして、負極1の表面に、厚さ50μmおよび被覆率100%のカーボン層7を形成した。なお、被覆率は、得られた負極1をマイクロスコープにより観察してアセチレンブラックで遮蔽された部分の面積を求め、負極1の正極2との対向予定面の面積(=正極面積)に対する割合(百分率)として求めた。
【0044】
3)セパレータ
厚さ200μmのポリプロピレン製不織布を円形に打ち抜き、セパレータ3を作製した。
【0045】
4)非水電解液の調製
溶媒としてγ−BLにVCを0.1質量%の比率で混合したものを用い、溶質としてホウフッ化リチウムを1mol/Lの比率で溶解させたものを用いた。
【0046】
5)電池の組立
正極ケース5の内底面上に正極2を載置し、その上にセパレータ3を被せた後、非水電解液0.9gを正極ケース5内に注液し、正極2とセパレータ3に非水電解液を含浸させた。次に、負極1が圧着された負極ケース4を、負極1と正極2とが対向するように正極ケース5に装着し、正極ケース5の周縁端部を負極ケース4に装着された絶縁パッキング6にかしめ、本発明のコイン形リチウム一次電池(直径24.5mm、厚さ5.0mm)を作製した。電池のサイズは、直径24.5mm、高さ5.0mmで、設計容量550mAhとした。上記組立工程は、露点−50℃以下のドライエア中で行った。
【0047】
(実施例2)
VCを0.5質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例2のリチウム一次電池を作製した。
【0048】
(実施例3)
VCを1.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例3のリチウム一次電池を作製した。
【0049】
(実施例4)
VCを5.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例4のリチウム一次電池を作製した。
【0050】
(実施例5)
VCを10.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例5のリチウム一次電池を作製した。
【0051】
(実施例6)
VCを15.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例6のリチウム一次電池を作製した。
【0052】
(実施例7)
VCの代わりにVECを0.1質量%の含有率で混合した以外は、実施例1と同様にして、実施例7のリチウム一次電池を作製した。
【0053】
(実施例8)
VECを0.5質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例8のリチウム一次電池を作製した。
【0054】
(実施例9)
VECを1.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例9のリチウム電池を作製した。
【0055】
(実施例10)
VECを5.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例10のリチウム一次電池を作製した。
【0056】
(実施例11)
VECを10.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例11のリチウム一次電池を作製した。
【0057】
(実施例12)
VECを15.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例12のリチウム一次電池を作製した。
【0058】
(実施例13)
VCを0.05質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例13のリチウム一次電池を作製した。
【0059】
(実施例14)
VCを20.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例14のリチウム一次電池を作製した。
【0060】
(実施例15)
VECを0.05質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例15のリチウム一次電池を作製した。
【0061】
(実施例16)
VECを20.0質量%の含有率に変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例16のリチウム一次電池を作製した。
【0062】
(実施例17)
VCの代わりにVCとVECをそれぞれ0.5質量%の含有率で混合した以外は、実施例1と同様にして、実施例17のリチウム一次電池を作製した。
【0063】
(実施例18)
VCの代わりに3−メチルビニレンカーボネート(3−MVC)を1.0質量%の含有率で混合した以外は、実施例1と同様にして、実施例18のリチウム一次電池を作製した。
【0064】
(実施例19)
VCの代わりにエチレンサルファイト(ES)を1.0質量%の含有率で混合した以外は、実施例1と同様にして、実施例19のリチウム一次電池を作製した。
【0065】
(比較例1)
カーボン層7を形成していない金属リチウムのみの負極1と非水電解液の非プロトン性溶媒としてγ−BLのみを用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例1のリチウム一次電池を作製した。
【0066】
(比較例2)
カーボン層7を形成していない金属リチウムのみの負極1を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例2のリチウム一次電池を作製した。
【0067】
(比較例3)
非水電解液の非プロトン性溶媒としてγ−BLのみを用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例3のリチウム一次電池を作製した。
【0068】
始めに、実施例1〜19および比較例1〜3で得られたリチウム一次電池各20個について、高温環境下での保存前に低温環境下での放電試験を行い、パルス電圧の平均値および標準偏差(σ)を求めた。平均値についてはより高い値が望ましく、標準偏差(σ)については被膜を形成する化合物を含有していない比較例1もしくはカーボン層7を形成していない比較例3と同程度のばらつきであることが望ましい。パルス電圧の平均値および標準偏差(σ)は、試験温度:−40℃、パルス負荷:3mA・1秒on/59秒off、サイクル数:20サイクルの条件で、20サイクル目の最低電圧を測定した。結果を(表1)に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
(表1)では、実施例1〜19においてカーボン層7を形成していない比較例1に比べて大幅なパルス電圧の向上が見られた。なおカーボン層7を形成した比較例3でも同様にパルス電圧は比較例1に比べて優れている。実施例17においても被膜を形成する化合物を単独で用いている他の実施例と同様、大幅なパルス電圧の向上が見られていることから、混合して使用する場合においても効果が得られていることが分かる。
【0071】
しかしながら、実施例14、16においてはパルス電圧の向上は見られるが、他の実施例に比べてパルス電圧はやや低く、ばらつきも大きくなっている。このことから、カーボン層7の表面での非水電解液の分解を抑制し、分解生成物のカーボン層7の表面への堆積を抑制する化合物の含有量は化合物の種類に関わらず15質量%以下の比率とすることが好ましいことがわかる。また、比較例2においてはカーボン層7の表面での非水電解液の分解を抑制し、分解生成物のカーボン層表面への堆積を抑制する化合物を含有させているも関わらず、このような化合物を含有させていない比較例1と同様に、パルス電圧、標準偏差共に大きな差は見られなかった。したがって高温保存前の状態ではこのような化合物による効果は認められなかった。
【0072】
次に実施例1〜19および比較例1〜3で得られたリチウム一次電池各20個を125℃で10日間保存した後、低温環境下での放電試験を行い、パルス電圧の平均値および標準偏差(σ)を求めた。平均値についてはより高い値が望ましく、標準偏差(σ)については不動態被膜を形成する化合物を含有していない比較例1と同程度のばらつきであることが望ましい。パルス電圧の平均値および標準偏差(σ)は、前述の条件で測定した。結果を(表2)に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
(表2)では、比較例3において125℃の高温環境下で保存することで大幅なパルス電圧の低下が見られた。この理由としては非水電解液が負極1の表面に形成されているカーボン層7によって還元分解し、分解生成物がカーボン層7の表面に堆積することで放電特性が低下したものと推察される。しかしながら、実施例1〜19においては比較例3に比べて大幅にパルス電圧の低下およびばらつきが軽減されていることが分かる。このことから、正極2に対向する負極面1aにカーボン層7が形成された負極1を用いた場合において、非水電解液に含有させた化合物がカーボン層7の表面での非水電解液の分解を抑制し、分解生成物のカーボン層7の表面への堆積を抑制していると推察される。その結果、100℃以上の高温環境下での過剰な非水電解液の分解が大幅に抑制されていると推察される。また、実施例13、実施例15においては添加量が少ないことから効果が小さくなっている。したがってカーボン層7の表面での非水電解液の分解を抑制し、分解生成物のカーボン層7の表面への堆積を抑制する化合物の添加量は少なくとも0.1質量%であることが好ましい。さらに実施例18、19においては同様の含有量である実施例3、実施例9と比較してパルス電圧が低下していることから負極1に被膜を形成する化合物としてはVC、VEC、またはその混合物を使用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のリチウム一次電池は、従来のリチウム一次電池と同様の用途に使用でき、たとえば、各種電子機器、輸送機器、産業機器などの主電源、メモリーバックアップ用電源などの用途が挙げられる。特に高温環境での用途に適している。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態の一つであるリチウム一次電池の構成を模式的に示す縦断面図
【符号の説明】
【0077】
1 負極
1a 負極面
2 正極
3 セパレータ
4 負極ケース
5 正極ケース
6 絶縁パッキング
7 カーボン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極と、
リチウムまたはリチウム合金で構成された負極と、
前記負極の前記正極に対向する面に形成されたカーボン層と、
非プロトン性溶媒とリチウム塩とを含む非水電解液と、を備え、
前記負極の電位で還元されて被膜を形成し、前記カーボン層の表面での前記非水電解液の分解を抑制することで、前記非水電解液の分解生成物が前記カーボン層の表面へ堆積することを抑制する化合物を前記非水電解液がさらに含むことを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項2】
前記化合物がビニレンカーボネートもしくはビニルエチレンカーボネートまたはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載のリチウム一次電池。
【請求項3】
前記カーボン層を形成するカーボン粉末がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1または2記載のリチウム一次電池。
【請求項4】
正極活物質を含有する正極と、
リチウムまたはリチウム合金で構成された負極と、
前記負極の前記正極に対向する面に形成されたカーボン層と、
非プロトン性溶媒とリチウム塩とを含む非水電解液と、を備えたリチウム一次電池であって、
電池構成前もしくは電池構成時に、前記負極において還元されて被膜を形成し、前記カーボン層の表面での前記非水電解液の分解を抑制することで、前記非水電解液の分解生成物が前記カーボン層の表面へ堆積することを抑制する化合物を前記非水電解液に含有させて用いたことを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項5】
前記化合物を0.1質量%以上、15.0質量%以下の範囲で前記非水電解液に含有させて用いたことを特徴とする請求項4記載のリチウム一次電池。
【請求項6】
前記化合物がビニレンカーボネートもしくはビニルエチレンカーボネートまたはそれらの混合物であることを特徴とする請求項4または5記載のリチウム一次電池。
【請求項7】
前記カーボン層を形成するカーボン粉末がカーボンブラックであることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載のリチウム一次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−165498(P2010−165498A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5485(P2009−5485)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】