説明

リチウム一次電池

【課題】初期および高温保存後のハイレート放電に優れたリチウム一次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】二酸化マンガンを正極活物質とした正極1と、リチウムまたはリチウム合金を負極活物質とした負極2とをセパレータ3を介して対向配置した発電要素を電解液とともにケース9に封入してなるリチウム一次電池において、上記正極1の正極活物質が、0.2質量%以上0.6質量%以下のナトリウムを含有し、比表面積が20m/g以上40m/g以下の二酸化マンガンであることと、電解液に環状カーボネートを20体積%以上40体積%以下含有させたことを特徴とするリチウム一次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器の電源として利用されるリチウム一次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムなどのアルカリ金属を負極活物質とし、二酸化マンガンなどの金属酸化物などを正極活物質とするリチウム一次電池は、正負極の起電力差が大きく、高電圧および高エネルギー密度を有することから、カメラ等の電源として広く普及している。
【0003】
また、リチウム一次電池は、車載の防犯アラームや緊急通報システム等の電源としても注目されている。これらの車載機器の電源として数百から数千mAの電流出力が要求されること、また夏場の車内では80℃以上の高温環境下になることを考えると、電池に求められる特性としては、初期はもとより高温保存後のハイレート放電特性が挙げられる。
【0004】
また、リチウム一次電池の正極活物質としては、上記のとおり安価、豊富である二酸化マンガンが多く用いられ、その中でも放電性能および長期保存性能が良好な電解二酸化マンガンを使用するのが一般的である。
【0005】
また、電解液としては、誘電率の高いプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートと、低粘度のジメトキシエタンなどを組み合わせて使用するのが一般的である。
【0006】
そして、初期のハイレート放電特性を向上させる方法として、正極に用いられている二酸化マンガンの熱処理後の比表面積を大きくすることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−132029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記熱処理後の比表面積が大きい二酸化マンガンを正極に用いたリチウム一次電池において、電解液に環状カーボネートが多く含まれる場合には、電池の高温保存中に環状カーボネートが分解して二酸化炭素が発生し、負極の表面に炭酸リチウムが多量に形成される。その結果、高温保存後のハイレート放電にて電池電圧が低下するという課題を有していた。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、初期および高温保存後のハイレート放電時に電圧低下を抑制することができるリチウム一次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決するために本発明のリチウム一次電池は、二酸化マンガンを正極活物質とした正極と、リチウムまたはリチウム合金を負極活物質とした負極とをセパレータを介して対向配置した発電要素を電解液とともにケースに封入してなるリチウム一次電池において、上記正極の正極活物質が、0.2質量%以上0.6質量%以下のナトリウムを含有し、比表面積が20m/g以上40m/g以下の二酸化マンガンであることと、電解液に環状カーボネートを20体積%以上40体積%以下含有させたことを特徴とす
るリチウム一次電池である。
【0011】
本発明のリチウム一次電池は、電池の高温保存中に負極の表面に絶縁抵抗となる炭酸リチウム被膜の形成を抑制することで、高温保存後のハイレート放電での電圧低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、初期だけでなく、高温保存後のハイレート放電において優れた放電特性を示すリチウム一次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係るリチウム一次電池の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、二酸化マンガンを正極活物質とした正極と、リチウムまたはリチウム合金を負極活物質とした負極とをセパレータを介して対向配置した発電要素を電解液とともにケースに封入してなるリチウム一次電池において、上記正極の正極活物質が、0.2質量%以上0.6質量%以下のナトリウムを含有し、比表面積が20m/g以上40m/g以下の二酸化マンガンであることと、電解液に環状カーボネートを20体積%以上40体積%以下含有させたことを特徴とするリチウム一次電池である。この構成により初期だけでなく、高温保存後のハイレート放電において優れた放電特性を示すリチウム一次電池を得ることができる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施の形態は本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態によるリチウム一次電池の概略断面図である。
【0017】
このリチウム一次電池は二酸化マンガンを正極活物質とした正極1と、負極2にリチウムを用いた円筒形リチウム一次電池である。
【0018】
二酸化マンガンは、酸性の電解槽で電解された後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、熱処理を行った。得られた二酸化マンガンは、0.2質量%以上0.6質量%以下のナトリウムを含有し、比表面積を20m/g以上40m/g以下とする必要がある。
【0019】
二酸化マンガンに含まれるナトリウム含有量は、中和する水酸化ナトリウムの濃度によってコントロールすることができる。また二酸化マンガンの比表面積は、熱処理温度によってコントロールすることができる。
【0020】
正極1は以下のようにして作製される。上記の二酸化マンガンと導電剤とを混合した後、結着剤と水とを添加して混練することにより正極合剤が得られる。導電剤であるカーボンとしては、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが挙げられ、その配合量は二酸化マンガンの充填量が高く、かつ導電経路が形成されて正極中の電気抵抗が低減される量であればよいが、特に、二酸化マンガン100重量部に対して導電剤が4〜8重量部であると好ましい。
【0021】
次に、この正極合剤をエキスパンドメタル、ネット、パンチングメタルなどの網目状あるいは細孔を有する帯状の電極芯材に充填、圧延した後、定寸に裁断し、正極合剤の一部分を剥離し、その部分にリード4を溶接することで帯状の正極1が得られる。
【0022】
帯状の負極2は金属リチウム、Li−Al、Li−Sn、Li−NiSi、Li−Pbなどのリチウム合金からなる。
【0023】
上記正極1、負極2は、これらの間に介在されたセパレータ3と渦巻状に捲回することで電極群を構成している。この電極群は、非水系の電解液(図示せず)とともにケース9に収納されている。電解液としては、通常リチウム電池の電解液に用いられる有機溶媒であるγ−ブチルラクトン、1,2−ジメトキシエタン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートを用いることができるが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネートを20体積%以上40体積%以下とする必要がある。
【0024】
電解液を構成する支持電解質には、LiBF、LiPF、LiSOCF、および分子構造内にイミド結合を有するLiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)などを用いることができる。
【0025】
ケース9の開口部にはガスケット10を介して封口板8が装着されている。封口板8には、正極1の芯材に接続されたリード4が連結されている。負極2に接続されたリード5は、ケース9に連結されている。また、電極群の上部と下部には、内部短絡防止のためにそれぞれ上部絶縁板6、下部絶縁板7が配備されている。
【0026】
正極に二酸化マンガンを用いたリチウム一次電池の初期における放電電圧は、二酸化マンガンの比表面積が大きいほど反応面積が大きくなるため高くなる。
【0027】
そして、上記リチウム一次電池を高温で保存すると、電解液が分解して炭酸ガスが発生し、その炭酸ガスによってリチウムの表面に放電を阻害する炭酸リチウムの被膜が形成される。そのため、比表面積が40m/gよりも大きい二酸化マンガンを用いた場合には、上記電解液の分解反応は活発となり、高温保存後にハイレート放電を実施した時の電池電圧は初期と比較して大幅に低下する。一方、比表面積が20m/gよりも小さい二酸化マンガンを用いた場合には、比表面積が小さいために、初期ハイレート放電での電池電圧が低下する。よって、二酸化マンガンの比表面積は、20m/g以上40m/g以下とする必要がある。
【0028】
また、電解液の溶媒には、溶質を電離するために誘電率の高い材料と、電解液の粘度を下げるために低粘度の材料を組み合わせて使用するのが一般的であるが、誘電率の高い環状カーボネートが40体積%よりも多い場合には、高温保存時に電解液が分解して二酸化炭素が発生し、その二酸化炭素によって負極表面に放電を阻害する炭酸リチウムの被膜が多量に形成するので、高温保存後のハイレート放電において電池電圧が急激に低下する。一方、環状カーボネートが20体積%よりも少ない場合には、電解液の伝導度が低くなりハイレート放電において電圧が低下する。よって、電解液に含まれる環状カーボネートは、20体積%以上40体積%以下とする必要がある。
【0029】
以上のように、上記二酸化マンガンの比表面積を20m/g以上40m/g以下とし、電解液に環状カーボネートを20体積%以上40体積%以下を含有させた処方の場合も、初期ハイレート放電の電池電圧は高く、高温保存後の放電特性を向上させることができる。しかし、高温保存中に電解液が分解し、放電を阻害する炭酸リチウムの皮膜形成を抑制する上記の効果だけでは、高温保存後のハイレート放電特性を十分に改良するには至らない。
【0030】
そこで、比表面積が20m/g以上40m/g以下の二酸化マンガンであることと、電解液に環状カーボネートを20体積%以上40体積%以下含有させたことに加えて、
正極の正極活物質に、0.2質量%以上0.6質量%以下のナトリウムを含有する二酸化マンガンを用いることで、放電を阻害する炭酸リチウムの形成をさらに抑制することができ、その結果、高温保存後のハイレート放電にて電圧低下をさらに抑制することができる。
【0031】
これは高温保存した場合に正極に存在するナトリウムが負極リチウムの表面に移動することで、負極表面の大部分は、リチウムではなくナトリウムで覆われ、その結果、高温保存中に電解液が分解して二酸化炭素が発生しても、負極表面の大部分は、リチウムではなくナトリウムで覆われているため、放電を阻害する炭酸リチウムの形成を抑制することができるためと考えられる。
【0032】
ただし、正極に含まれるナトリウム含有量が0.2質量%未満の場合には、高温保存後に負極の表面に存在するナトリウムが少なく、放電を阻害する炭酸リチウムの被膜形成の抑制力が低いためにハイレート放電において電圧が低下する。
【0033】
また、ナトリウム含有量が0.6質量%より多い場合には、高温保存後の負極の表面にナトリウムが多量に存在するため負極リチウムの反応面積が低下し、高温保存後のハイレート放電において電圧が低下する。
【0034】
以下、具体的な実施例を用いて本実施の形態の効果を説明する。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
硫酸槽での電解により得られた二酸化マンガンを、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。その後、二酸化マンガン中の水分を除去するために熱処理を行った。得られた二酸化マンガンのナトリウム含有量は0.2質量%、比表面積は30m/gであった。
【0036】
得られた二酸化マンガンを正極活物質として、この二酸化マンガンに対し導電材としてカーボン、結着剤としてポリテトラフルオロエチレンを混合後、この混合物に対し純水を加えて混練し、湿潤状態の正極合剤を作製した。この湿潤状態の正極合剤をステンレス製エキスパンドメタルとともに等速回転を行う2本の回転ロール間を通し充填を行った。乾燥後、圧延ローラプレスにより合剤シートの圧延を行った。これを所定の寸法に切断し、正極1を作製した。
【0037】
負極2は、リチウム金属板を用い、このリチウム金属板を所定の寸法に切断したものを使用した。これらの正極1と負極2との間にポリプロピレン製のセパレータ3を介在させて渦巻状に巻き取り、これをケース9内に挿入した後、正極1の芯材に接続されたリード4を封口板8に接続し、負極2に接続されたリード5をケース9に接続した。この後、非水溶媒としてのプロピレンカーボネートとジメトキシエタンを体積比で30:70の混合溶媒に、電解質としてのトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを0.5モル/リットルの濃度で溶解させたものを電解液としてケース9内に注液し、ケース9の開口部を封口板8で封口して図1に示す直径17mm、高さ33.5mmの円筒形二酸化マンガンリチウム電池を作製した。その後、高温でエージングを実施した電池を電池Aとした。
【0038】
(実施例2〜19)
実施例1と同様に、硫酸槽での電解により得られた二酸化マンガンを水酸化ナトリウム水溶液により中和し、その後、ろ過、乾燥、熱処理を行ってナトリウム含有量および比表面積が(表1)に示した値である二酸化マンガンを作製した。次いで、電解質としてのトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを0.5モル/リットルの濃度で溶解させた(表1)に示す電解液組成をもつ電解液を用いて、電池A〜Sを作製した。
【0039】
(比較例1〜6)
実施例1と同様に、硫酸槽での電解により得られた二酸化マンガンを水酸化ナトリウム水溶液により中和し、その後、ろ過、乾燥、熱処理を行ってナトリウム含有量および比表面積が(表1)に示した値である二酸化マンガンを作製した。次いで、電解質としてのトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを0.5モル/リットルの濃度で溶解させた(表1)に示す電解液組成をもつ電解液を用いて、電池T〜Yを作製した。
【0040】
以上のようにして作製した電池A〜Y、各30個を用いて20℃にて5A、0.5msecの放電を行った。その後、85℃1ヶ月保存後に20℃にて5A、0.5msecの放電を行った。結果を(表1)に示す。
【0041】
なお、(表1)では、プロピレンカーボネートをPC、エチレンカーボネートをEC、ブチレンカーボネートをBC、ジメトキシエタンをDMEと表記する。
【0042】
【表1】

【0043】
比較例2、3の電池U、Vは初期放電時の電池電圧が低い。
【0044】
比較例2の電池Uは、正極活物質である二酸化マンガンの比表面積が小さく、正極での反応面積が小さくなったためと考えられる。
【0045】
比較例3の電池Vは、環状カーボネートであるプロピレンカーボネートの配合比が低く、電解液の伝導度が低いためと考えられる。
【0046】
また、比較例1、4、5、6の電池T、W、X、Yは、初期放電時の電池電圧は高いも
のの、85℃1ヶ月保存後の放電時の電池電圧は低い。
【0047】
比較例1の電池Tは、二酸化マンガンに含まれるナトリウム含有量が少ないため、85℃1ヶ月保存後には、負極の表面に放電を阻害する炭酸リチウムの被膜形成の抑制力が小さいために、放電時の電池電圧が低くなったと考えられる。
【0048】
比較例4の電池Wは、環状カーボネートであるプロピレンカーボネートの配合比が高いため、85℃1ヶ月保存後には電解液が分解して発生する炭酸ガスが多く発生する。その炭酸ガスによって負極の表面に放電を阻害する炭酸リチウムの被膜が多量に形成されるために、放電時の電池電圧が低くなったと考えられる。
【0049】
比較例5の電池Xは、正極二酸化マンガンの比表面積が大きいため、85℃1ヶ月保存後に電解液が分解して炭酸ガスなどが多量に発生する。その炭酸ガスによって負極の表面に放電を阻害する炭酸リチウムの被膜が多量に形成されるために、放電時の電池電圧が低くなったと考えられる。
【0050】
比較例6の電池Yは二酸化マンガンに含まれるナトリウムが多く、85℃1ヶ月保存後には負極の表面にナトリウムが多量に存在し、リチウムの反応面積が低下したために放電時の電池電圧が低くなったと考えられる。
【0051】
これらに対して、実施例1〜19の電池A〜Sは、初期および85℃1ヵ月保存後のハイレート特性が優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、初期だけでなく高温保存後のハイレート放電において優れた放電特性を示すリチウム一次電池として有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4,5 リード
6 上部絶縁板
7 下部絶縁板
8 封口板
9 ケース
10 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化マンガンを正極活物質とした正極と、リチウムまたはリチウム合金を負極活物質とした負極とをセパレータを介して対向配置した発電要素を電解液とともにケースに封入してなるリチウム一次電池において、前記正極の正極活物質が、0.2質量%以上0.6質量%以下のナトリウムを含有し、比表面積が20m/g以上40m/g以下の二酸化マンガンであることと、電解液に環状カーボネートを20体積%以上40体積%以下含有させたことを特徴とするリチウム一次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−159414(P2011−159414A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18166(P2010−18166)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】