説明

リチウム二次電池及びその製造方法

【課題】積層型の電池において、電極間のずれなどの発生が少なく且つ容易に製造できるリチウム二次電池を提供すること。
【解決手段】シート状のセパレータ13と、セパレータ13を介して交互に積層された複数の正負極板11、12とを備える発電要素(11、12、13)と、表裏面間を連通する連通孔が形成され、発電要素(11、12、13)の周囲を一周以上巻回して覆っており、表面が親水性である被覆材14とを有することにある。発電要素を被覆する被覆材として表面が親水性であるものを採用することにより電解液の浸透性が向上するとの知見に基づき本発明は完成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力および高エネルギー密度であり、耐久性に優れたリチウム二次電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話などの携帯型電子機器の急速な市場拡大に伴い、これらに用いるための、エネルギー密度が大きく、充放電サイクル特性に優れた小型大容量二次電池への要求が高まっている。この要求に応えるためにリチウムイオンを荷電担体として用い、その荷電粒子による電荷授受に伴う電気化学反応を利用した二次電池が開発されている。
【0003】
ところで、リチウム二次電池の発電要素の構造としては帯状の正負極をセパレータを介して巻回するジェリーロール構造や、複数組の正負極を積層する積層構造などが知られている。ジェリーロール構造は巻回内周部において過度な応力が発生しやすく充分なサイクル特性を発揮することが困難であった。積層構造をもつ電池は応力などの問題は発生し難いものの、電極間の固定が難しく発電要素の形態を長期間にわたって保つことが困難であった。
【0004】
積層型のリチウム二次電池における課題を解決するために、電極の端面部のうち、電極端子が形成されていない3つの端面部にて接着テープなどにて固定する方法が開示されている(特許文献1)。
【0005】
そして、順次に正極、分離膜、及び負極が位置するフルセルが基本単位である複数個の電気化学セルが重なり、それぞれの重畳部は分離フイルムが介在する電気化学素子において、分離フイルムは電気化学セルを包むことができる単位長さを有し、単位長さごとに外側に折れて最初端の電気化学セルから始まって最終端の電気化学セルまで連続的にそれぞれの電気化学セルをZ字型にたたみ、余分の分離フイルムが重畳セルの外周部を包んで電気化学セルの重畳部に介在する電気化学素子を提供することが開示されている(特許文献2)。
【0006】
また、リチウム二次電池は電極群を備えており、電極群には、正極板及び負極板が多孔質ポリエチレン樹脂製のセパレータを介して積層されている。電極群の積層方向の両端には負極板が配置されている。電極群の積層方向の両端面及びこの両端面に直交し互いに対面する2つの側面の周囲には、ポリエチレン樹脂製の多孔質フィルムが1周以上捲かれている。多孔質フィルムには、セパレータに形成されている孔径より大きい孔径の多数の孔が形成されている。多孔質フィルムの緊束力により電極群の積層構造が維持される。といった構成をもつリチウム二次電池が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−204706号公報(要約など)
【特許文献2】特表2003−523061号公報(要約など)
【特許文献3】特開2005−294150号公報(要約など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示のリチウム二次電池ではテープにて固定することが煩雑である上にテープが直接的に電極を固定しているためテープにて固定されている部分とそれ以外の部分との間において応力が不均衡になるといった問題点がある。そして、特許文献2に開示のリチウム二次電池では発電要素の周囲がセパレータと同じ素材の薄膜にて覆われているため、電池製造時に内部への電解液の浸透が充分でない場合があるとの問題点がある。また、特許文献3に開示のリチウム二次電池でも電解液の浸透が充分であるとは言い難かった。
【0009】
以上の実情に鑑み、本発明では正負極を積層する積層型の電池において、電極間のずれなどの発生が少なく且つ容易に製造できるリチウム二次電池及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1に係るリチウム二次電池の特徴は、シート状のセパレータと、前記セパレータを介して交互に積層された複数の正負極板とを備える発電要素と、
表裏面間を連通する連通孔が形成され、前記発電要素の周囲を一周以上巻回して覆っており、表面が親水性である被覆材と、
を有することにある。発電要素を被覆する被覆材として表面が親水性であるものを採用することにより電解液の浸透性が向上するとの知見に基づき本発明は完成されたものである。
【0011】
上記課題を解決する請求項2に係るリチウム二次電池の特徴は、前記セパレータは帯状の部材であり、自身の一端部から他端部に向け、積層した前記正負極の積層方向の端から順番にその間に長手方向に折り返しながら介装されており、
前記他端部は前記被覆材と一体化していることにある。被覆材としてセパレータと一体化しているものを採用することにより、セパレータの介装に続いて発電要素の周囲を巻回して被覆することが可能になり、電池の製造が容易になる。
【0012】
上記課題を解決する請求項3に係るリチウム二次電池の特徴は、前記被覆材は前記セパレータの前記他端部近傍を親水化処理して形成されることにある。親水化処理を行ったセパレータを被覆材に用いることによりセパレータを介装した後、そのまま発電要素の周囲に巻回して固定することで簡単に製造することができる。ここで、親水化処理は正負極間に介装する部分には行わず、被覆材に相当する部分にのみ行うことが望ましい。
【0013】
上記課題を解決する請求項4に係るリチウム二次電池の特徴は、前記親水化処理は、コロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせた処理であることにある。これらの処理は比較的緩和な条件にてセパレータを親水化処理することが可能であり、発電要素に巻回した状態でも発電要素にあまり影響を与えずに親水化処理ができる。また、これらの処理は処理を行う部分を選択してその部分にのみ行うことも可能であるから、発電要素に巻回する前に親水化処理を行う場合でも、被覆材に相当する部分のみに処理を行うことも容易である。
【0014】
上記課題を解決する請求項5に係るリチウム二次電池の特徴は、前記被覆材は前記セパレータがもつ孔よりも孔径が大きい連通孔をもつことにある。被覆材にはセパレータよりも孔径が大きい連通孔を設けることができる。孔径の大きい連通孔があると、その連通孔を介して電解液が浸透する。ここで、被覆材はセパレータのように、正負極間の短絡の防止を実現する必要がないため、孔径の大きい連通孔を設けることができるのである。
【0015】
上記課題を解決する請求項6に係るリチウム二次電池の特徴は、前記被覆材は前記発電要素の周囲を一周巻回した後、端部にて自身に融着乃至接着して前記発電要素を拘束することにある。被覆材の部分にて融着乃至接着することで被覆材を固定することで発電要素に影響を与えずに発電要素をしっかりと固定することができる。
【0016】
上記課題を解決する請求項7に係るリチウム二次電池の製造方法の特徴は、帯状のセパレータと、前記セパレータを介して交互に積層された複数の正負極板とを備える発電要素を有するリチウム二次電池の製造方法であって、
前記セパレータの一端部から他端部に向けて折り返しながら前記正負極間に順次介装させて前記発電要素を形成する発電要素形成工程と、
前記発電要素から延びる前記セパレータにて前記発電要素の周囲を一周以上巻回し、巻回した前記セパレータの他端部を固定する巻回工程と、を備え、
電解液を注液するまでに、前記セパレータの前記発電要素の周囲を巻回する部分を親水化処理する親水化処理工程を有することにある。発電要素を被覆する被覆材として、表面を親水化処理したセパレータを採用することにより電解液の浸透性を向上させることができる。
【0017】
上記課題を解決する請求項8に係るリチウム二次電池の製造方法の特徴は、前記親水化処理工程は前記巻回工程前に前記セパレータに対してコロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせた処理を行う工程であることにある。特に巻回工程前に親水化処理を行うことにより、発電要素に影響を与えずに親水化処理ができる。
【0018】
上記課題を解決する請求項9に係るリチウム二次電池の製造方法の特徴は、前記親水化処理工程は前記巻回工程後に前記発電要素の周囲に巻回された前記セパレータに対してコロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせた処理を行う工程であることにある。発電要素の周囲に巻回した後に親水化処理を行うことにより巻回工程時に被覆材に加わる力などを考慮せずに親水化処理を充分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態のリチウム二次電池の概略断面図である。
【図2】実施形態のリチウム二次電池を製造する方法(発電要素形成工程、親水化処理工程)の1つの概略図である。
【図3】実施形態のリチウム二次電池を製造する方法(発電要素形成工程)の1つの概略図である。
【図4】実施形態のリチウム二次電池を製造する方法(親水化処理工程)の1つの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のリチウム二次電池及びその製造方法について実施形態に基づき、以下詳細に説明を行う。なお、説明に用いる図は説明の容易化のために縮尺や部材の数などを正確に書いていない部分がある。
【0021】
(リチウム二次電池)
本実施形態のリチウム二次電池は正負極とセパレータとを有する発電要素と被覆材とその他必要な部材とを備える。その他必要な部材としては電解液、ケースなどが挙げられる。
【0022】
本実施形態のリチウム二次電池は、図1に例示するように、発電要素(11、12、13)と発電要素(11、12、13)の周囲を巻回する被覆材14とを備える。被覆材14にて被覆された発電要素(11、12、13)はその状態でケース(図略)などに電解液と共に挿入される。
【0023】
発電要素(11、12、13)における正負極11、12は板状体であって、それぞれ複数あり、セパレータ13を介して交互に積層されている。
【0024】
正負極はリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な活物質を備える。正極活物質としてはリチウム含有遷移金属酸化物が例示できる。リチウム含有遷移金属酸化物は、Liを脱挿入できる材料であり、層状構造又はスピネル構造のリチウム−金属複合酸化物が例示できる。具体的にはLi1−ZNiO、Li1−ZMnO、Li1−ZMn、Li1−ZCoOなどの金属酸化物系材料、Li1−ZβPO(βがFeであるLiFePOなど)などがあり、それらのうちの1種以上含むことができる。この例示におけるZは0〜1の数を示す。各々にLi、Mg、Al、又はCo、Ti、Nb、Cr等の遷移金属を添加または置換した材料等であってもよい。また、これらのリチウム−金属複合酸化物を単独で用いるばかりでなくこれらを複数種類混合して用いることもできる。また、導電性高分子材料やラジカルを有する材料などを単独で採用又は混在させることもできる。
【0025】
負極活物質としてはグラファイトや非晶質炭素などの炭素材料、リチウムと合金を形成できる金属材料、チタン酸化物、及びバナジウム酸化物からなる群より選択される1以上の化合物が採用できる。これらの活物質は電池反応の進行に伴い、リチウム(イオン)の挿入・脱離が進行する。
【0026】
これらの正極活物質、負極活物質を採用して電極を形成する場合、その他必要な部材と共に合材とした上で集電体上に合材層を形成した状態で用いることができる。その他必要な部材としては導電材、結着材などである。
【0027】
導電材としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、非晶質炭素等などが例示できる。また、アスペクト比が限定されない導電性高分子(ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセンなど)が例示できる。
【0028】
結着材は高分子材料から形成されることが望ましく、二次電池内の雰囲気において化学的・物理的に安定な材料であることが望ましい。例えばフッ素系の高分子材料(ポリフッ化ビニリデンなど)が挙げられる。また、結着材としては導電性高分子を用いることもできる。
【0029】
このような合材層は適正な集電体の表面に形成される。集電体としては電気化学的に安定な金属から形成される箔が例示できる。集電体の表面に電極合材層を形成する方法としては合材層を構成する材料を適正な分散媒中に分散又は溶解させた後、集電体の表面に塗布・乾燥する方法が例示できる。
【0030】
セパレータは積層された正負極間に介装されるシート状の部材であり、電気的な絶縁作用とイオン伝導作用とを両立する部材である。電解液が液状である場合にはセパレータは、液状の支持電解質を保持する役割をも果たす。セパレータは、正極及び負極の間の絶縁を担保する目的で、正極及び負極の面積よりも更に大きい形態を採用することが好ましい。セパレータは正負極の間が1つに対して1つずつバラバラに介装される形態を採用しても良いし、図1に示すように、セパレータとして帯状のものを採用し、正負極の間に折り返しながら介装しても良い。セパレータは表裏面を連通する連通孔をもつ多孔質膜や、イオン伝導性をもつもの、例えば固体電解質、などから形成できる。多孔質膜としてはポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンや、ポリエステル、ポリアミド、フッ素樹脂からなる多孔質膜が例示できる。
【0031】
被覆材は発電要素の周囲を一周以上巻回して覆っている部材である。特に必要(強度、その他の必要)が無ければ巻回は一周にすることが望ましい。この巻回は一方向を巻回軸として行うことが好ましい。従って、巻回後の発電要素は巻回された被覆材の巻回軸方向が開放されていることが望ましい。この開放された部分に端子を形成することにより外部への電力の授受を行うことが望ましい。
【0032】
被覆材は表裏面を連通する連通孔を備え、且つ、表面が親水性である部材である。表面を親水性にすることにより電解液が発電要素に浸透しやすくなっている。ここで本明細書中において「表面が親水性である」とは、何らかの表面処理によって被覆材を構成する素材自身より親水性になっている場合であるか、セパレータと比較して親水性である素材を用いて形成されているかの何れかである。親水性の程度は、水、又は、使用する電解液との親和性で判断する。親和性は接触角により判断できる。被覆材の厚みは特に限定されない。例えば5μm〜50μm程度の厚みが採用できる。連通孔の大きさは特に限定しない。例えば、セパレータと同程度の孔径から、それ以上の孔径を採用できる。被覆材はセパレータとは異なり正負極間の絶縁は行わなくても良いため、セパレータがもつ連通孔よりも大きな連通孔を採用することで電解液の浸透が促進できる。具体的には0.1μm〜100μm程度の孔径が採用できる。
【0033】
被覆材としてはセパレータと一体化しているものが採用できる。被覆材としてセパレータとは別の部材から形成した上でセパレータの端部と接続したもの、セパレータの一部を加工して被覆材としたものがある。この中でセパレータの一部を加工する方法としてはコロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせる方法、酸化剤などにより表面を改質する方法などが挙げられる。コロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせる方法が望ましい。
【0034】
被覆材は発電要素を周囲から巻回して覆うことで、発電要素内で積層された正負極板の間のズレを防止する。発電要素内でのズレを防ぐため、被覆材は発電要素の周囲を巻回した後に固定される。被覆材の固定は、発電要素の周囲を巻回した後に被覆材の端部をその一周前の被覆材に融着乃至接着することで確実に固定できる。ここで、融着は被覆材の端部を加熱などにより溶融させた後に融着相手の被覆材に押しつけることで行われる。接着は被覆材の端部と接着相手の被覆材との間に接着剤を付けて行われる。また、テープなどにより接着することもできる。発電要素の周囲を一周以上巻回した後であるため、テープを用いて固定しても、テープで留める位置の偏りに由来する応力の不均一化の影響が発電要素に与える影響を少なくできる。
【0035】
電解液としては特に限定しないが、有機溶媒などの溶媒に電解質を溶解させたもの、自身が液体状であるイオン液体、そのイオン液体に対して更に電解質を溶解させたものが例示できる。
【0036】
有機溶媒としては、通常リチウム二次電池の電解液に用いられる有機溶媒が例示できる。例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等及びそれらの混合溶媒が適当である。 例に挙げたこれらの有機溶媒のうち、特に、カーボネート類、エーテル類からなる群より選ばれた一種以上の非水溶媒を用いることにより、電解質の溶解性、誘電率および粘度において優れ、電池の充放電効率も高いので、好ましい。
【0037】
イオン液体は、通常リチウム二次電池の電解液に用いられるイオン液体であれば特に限定されるものではない。例えば、イオン液体のカチオン成分としては、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムや、ジメチルエチルメトキシアンモニウムカチオン等が挙げられ、アニオン成分としは、BF4−、N(SOCF2−等が挙げられる。
【0038】
電解質としては、特に限定されない。例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiSbF、LiSCN、LiClO、LiAlCl、NaClO、NaBF、NaI、これらの誘導体等の塩化合物が挙げられる。これらの中でも、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiCFSOの誘導体、LiN(CFSOの誘導体及びLiC(CFSOの誘導体からなる群から選ばれる1種以上の塩を用いることが、電気特性の観点からは好ましい。
【0039】
ケースは発電要素、電解液などを内部に収納する部材である。電解液は水分の存在により劣化するため、外部からの水分の侵入を防止できる構造・素材から形成することが望ましい。ケースは外部との電力のやりとりを行う電極端子としての作用を発揮させても良い。
【0040】
(リチウム二次電池の製造方法)
本実施形態のリチウム二次電池の製造方法は帯状のセパレータと、そのセパレータを介して交互に積層された複数の正負極板とを備える発電要素を有する図1に示すようなリチウム二次電池を製造する方法である。
【0041】
本実施形態のリチウム二次電池の製造方法は発電要素形成工程と巻回工程と親水化処理工程とその他必要な工程とを備える。発電要素形成工程は発電要素を形成する工程であり、巻回工程は発電要素の周囲に被覆材を巻回する工程であり、親水化処理工程は被覆材を親水化処理する工程である。なお、本実施形態において採用される正負極、セパレータ、被覆材、及びその他必要な部材は、本実施形態のリチウム二次電池の欄にて説明した部材をそのまま採用することができるため、その説明を省略する。
【0042】
(発電要素形成工程)
本工程はセパレータ13の一端部131から他端部132に向けて折り返しながら正負極11、12間に順次介装させて発電要素(11、12、13)を形成する工程である。
【0043】
正負極間にセパレータを介装する方法としては特に限定しない。例えば、図2に示すように、セパレータ13の表裏面に正負極11、12を重ね合わせた後、セパレータ12を折り返す、といった工程Aを繰り返すことにより必要な数の正負極を備える発電要素を得ることができる。また、図3に示すように、正負極11、12をセパレータ13の表裏面の互い違いに重ね合わせていき、その状態でセパレータ13を折り返す工程Bを繰り返すことで発電要素を形成することもできる。
【0044】
(巻回工程)
本工程は発電要素から延びるセパレータ13にて発電要素(11、12、13)の周囲を一周以上巻回し、巻回したセパレータ13(最終的には被覆材14となる)の他端部142を固定する工程である。つまり、被覆材14はセパレータ13から形成されており、セパレータ13と一体化している。セパレータの他端部の固定は熱による溶着や接着剤による接着、テープなどの接続部材による接着が例示できる。セパレータ13(被覆材14)に相当の他端部142は被覆材14の一端部141近傍にて固定されることが望ましい。
【0045】
(親水化処理工程)
本工程はセパレータ13(被覆材14に相当)の発電要素(11、12、13)の周囲を巻回する部分を親水化処理して被覆材14とする工程である。親水化処理としてはコロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせる方法、酸化剤などにより表面を改質する方法が例示できる。特に、コロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせる方法が好ましい処理である。
【0046】
親水化処理を行うことにより電解液が発電要素に浸透しやすくなる。従って、親水化処理工程は電解液を注液するまでに行えば充分である。例えば、発電要素の周囲をセパレータ(親水化処理により被覆材となる)にて被覆した状態(図1)で発電要素と共に親水化処理を行うことができる。コロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射は材料の最表面のみを親水化するように条件を設定することができるため、好ましい親水化処理である。また、図4に示すように、発電要素(11、12、13)にセパレータを13を巻回する前に親水化処理を行う親水化処理装置5によりセパレータ13を処理して被覆材14にすることができる。この場合にはセパレータ13にのみ親水化処理を行うので発電要素(11、12、13)に影響を与えるような親水化処理の処理条件を選択しても発電要素(11、12、13)への影響はない。
【0047】
(その他必要な工程)
その他必要な工程としては、被覆材14にて被覆した発電要素(11、12、13)をケース(図略)に挿入する工程、電解液を注液する工程、ケースを封止する工程、初期充電を行いコンディショニングする工程などが挙げられる。これらの工程は一般的なものを採用することができる。ここで、電解液を注液する工程は被覆材を親水化処理したことにより円滑に行うことが可能になると共にしっかり固定されるため、製造されたリチウム二次電池の耐久性は高い。
【0048】
以下、本発明のリチウム二次電池について実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0049】
(試験電池の作成)
実施例1、比較例1〜3の試験電池をそれぞれ作成した。各試験電池は、組成式LiNiOで表されるリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用い、グラファイトを負極活物質として用いたリチウム二次電池である。
【0050】
各試験電池の正極は以下のように製造した。まず、上記LiNiOを87質量部と、導電材としてのカーボンブラックを10質量部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3質量部とを混合し、適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加して混練することでペースト状の正極合材を得た。この正極合材を厚さ15μmのアルミニウム箔製正極集電体の両面に塗布、乾燥し、プレス工程を経て、シート状の正極を作製した。この正極を幅100mm、長さ100mmに切断して正極板とした。
【0051】
負極は、グラファイトを95質量部と、結着材としてのPVdFを5質量部とを混合し、適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加して混練することでペースト状の負極合材を得た。この負極合材を厚さ10μmの銅箔製負極集電体の両面に塗布、乾燥し、プレス工程を経て、シート状の負極を作製した。この負極を幅105mm、長さ105mmに切断して負極板とした。
【0052】
セパレータとして帯状の形態を持つものを採用し、図2に示すようにセパレータの表裏面に正負極板を重ね合わせた後にセパレータを折り返す行程を繰り返して発電要素を形成した。正負極板の数はいずれの試験電池も同じにした。
【0053】
作成した発電要素の周囲に被覆材を巻回した(実施例1、比較例1及び2)。巻回は1周とし、被覆材の端部間で熱により融着した。被覆材は正負極間に介装して余ったセパレータをそのまま発電要素の周囲に巻回した。発電要素の周囲を一周巻回した後、セパレータの端部を熱融着した。比較例3の試験電池では被覆材にて発電要素を巻回しなかった。
【0054】
発電要素の周囲にセパレータを巻回した状態そのままで比較例1の試験電池とした。実施例1の試験電池では発電要素の周囲にセパレータを巻回した状態でコロナ放電を行い、発電要素の周囲に巻回したセパレータ(被覆材に相当)に対して親水化処理を行い被覆材とした。比較例2の試験電池では被覆材の部分に加え、正負極板の間に介装される部分(従来からのセパレータに相当する部分)についても正負極板間に介装する前にじょうきしたコロナ放電により処理を行い親水化した。
【0055】
その後、この発電要素をケース内に挿入し、電解液を注液後、封止することにより試験電池とした。
【0056】
(注液試験)
実施例1及び比較例1の試験電池について電解液の注液の様子を検討した。電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で3:7に混合した混合溶媒にLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。注液の様子はケース中に発電要素を挿入した後、電解液を注入したときの挙動を評価した。所定量の電解液を注入した後、電解液の液面が観察されなくなるまでに要した時間を測定した。
【0057】
その結果、実施例1の試験電池では300秒、比較例1の試験電池では500秒であり、被覆材として親水化処理を行った多孔質膜を採用することにより大幅(40%の減少)に電解液の浸透性を向上させることができた。これは被覆材を親水化したことにより、電解液が被覆材を透過しやすくなったため、発電要素内に電解液が浸透しやすくなったものと思われる。
【0058】
(サイクル試験)
電解液を注液した後の実施例1及び比較例2の試験電池について初期充放電を行いコンディショニングした後、60℃で500サイクルの充放電を行った。サイクル試験における充放電は3.0Vから4.2Vまでの間で行い、充電は1/3CでCC−CV充電を、放電は1CでCC放電を行った。そして1サイクル目の放電容量と500サイクル目の放電容量との比を比較した。
【0059】
その結果、実施例1の試験電池は500サイクル目の放電容量が85%であったのに対して比較例2の試験電池は500サイクル目の放電容量が75%であった。これは比較例2の試験電池では被覆材に加えて、セパレータについても親水化処理を行っているため、親水化処理によりセパレータに何らかの損傷が加わったものと考えられる。つまり、セパレータには親水化処理を行わず、被覆材のみに親水化処理を行うことで電池のサイクル特性の低下を抑制できることが分かった。
【0060】
(落下試験)
実施例1の試験電池と比較例3の試験電池とについて電解液を注液後、初期充放電を行ってコンディショニングを行った。充電が完了した状態で落下試験として1mの高さからの落下を10回繰り返した。落下試験前後の端子電圧と、その前後に行った充放電時の放電容量を測定した。
【0061】
その結果、落下試験前後において端子電圧の変化は実施例1及び比較例3の試験電池共に認められなかった。放電容量は実施例1の試験電池では変化が認められなかったが、比較例3の試験電池では99%となって1%の容量低下が認められた。これは、被覆材によって発電要素を巻回していることにより正負極板間のズレが効果的に抑制できたためであると考えられる。
【0062】
以上の試験から、正負極板を積層して形成した発電要素を採用するリチウム二次電池において、その発電要素の周囲を被覆材にて巻回することが望ましいこと、その被覆材には親水化処理を行うことが望ましいこと、親水化処理はセパレータ(正負極間に介装される部分)には行わないことが望ましいこと、が明らかになった。
【符号の説明】
【0063】
11…正極板
12…負極板
13…セパレータ
14…被覆材
5…親水化処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のセパレータと、前記セパレータを介して交互に積層された複数の正負極板とを備える発電要素と、
表裏面間を連通する連通孔が形成され、前記発電要素の周囲を一周以上巻回して覆っており、表面が親水性である被覆材と、
を有することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記セパレータは帯状の部材であり、自身の一端部から他端部に向け、積層した前記正負極の積層方向の端から順番にその間に長手方向に折り返しながら介装されており、
前記他端部は前記被覆材と一体化している、
請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記被覆材は前記セパレータの前記他端部近傍を親水化処理して形成される請求項2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記親水化処理は、コロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせた処理である請求項3に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記被覆材は前記セパレータがもつ孔よりも孔径が大きい連通孔をもつ請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記被覆材は前記発電要素の周囲を一周巻回した後、端部にて自身に融着乃至接着して前記発電要素を拘束する請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
帯状のセパレータと、前記セパレータを介して交互に積層された複数の正負極板とを備える発電要素を有するリチウム二次電池の製造方法であって、
前記セパレータの一端部から他端部に向けて折り返しながら前記正負極間に順次介装させて前記発電要素を形成する発電要素形成工程と、
前記発電要素から延びる前記セパレータにて前記発電要素の周囲を一周以上巻回し、巻回した前記セパレータの他端部を固定する巻回工程と、を備え、
電解液を注液するまでに、前記セパレータの前記発電要素の周囲を巻回する部分を親水化処理する親水化処理工程を有することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記親水化処理工程は前記巻回工程前に前記セパレータに対してコロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせた処理を行う工程である請求項7に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記親水化処理工程は前記巻回工程後に前記発電要素の周囲に巻回された前記セパレータに対してコロナ放電、プラズマ照射、及び紫外線照射のうちの1つ又は2つ以上を組み合わせた処理を行う工程である請求項7に記載のリチウム二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216408(P2011−216408A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85296(P2010−85296)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】