説明

リチウム二次電池正極用のリチウム含有複合酸化物の製造方法

【課題】体積容量密度が大きく、安全性が高く、均一塗工性に優れ、高い充電電圧においても充放電サイクル耐久性、低温特性に優れたリチウム二次電池用の正極活物質を提供する。
【解決手段】リチウム源、Q元素源、N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を含む混合物を酸素含有雰囲気で焼成する、一般式Li(但し、Qはジルコニウム、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれるいずれか1種の元素であり、NはCoであり、Mは、Q及びN以外の遷移金属元素、Al及びアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。0.9≦p≦1.1、0<q≦0.03、0.97≦x<1.00、0≦y<0.03、1.9≦z≦2.1、q+x+y=1、0≦a≦0.02)で表されるリチウム含有複合酸化物の製造方法であって、上記Q元素源として、pH0.5〜11のQ元素化合物水溶液を使用することを特徴とするリチウム二次電池正極用リチウム含有複合酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積容量密度が大きく、安全性が高く、充放電サイクル耐久性、及び低温特性に優れた、リチウム二次電池正極用のリチウム含有複合酸化物の製造方法、製造されたリチウム含有複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機器のポータブル化、コードレス化が進むにつれ、小型、軽量でかつ高エネルギー密度を有するリチウム二次電池などの非水電解液二次電池に対する要求がますます高まっている。かかる非水電解液二次電池用の正極活物質には、LiCoO2、LiNiO2、LiNi0.8Co0.22、LiMn24、LiMnO2などのリチウムと遷移金属の複合酸化物が知られている。
【0003】
なかでも、リチウム含有複合酸化物(LiCoO2)を正極活物質として用い、リチウム合金、グラファイト、カーボンファイバーなどのカーボンを負極として用いたリチウム二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として広く使用されている。
【0004】
しかしながら、LiCoO2を正極活物質として用いた非水系二次電池の場合、正極電極層の単位体積当たりの容量密度及び安全性の更なる向上が望まれるとともに、充放電サイクルを繰り返し行うことにより、その電池放電容量が徐々に減少するというサイクル特性の劣化、重量容量密度の問題、あるいは低温での放電容量低下が大きいという問題などがあった。
【0005】
これらの問題を解決するために、特許文献1には、正極活物質であるLiCoO2の平均粒径を3〜9μm、及び粒径3〜15μmの粒子群の占める体積を全体積の75%以上とし、かつCuKαを線源とするX線回折によって測定される2θ=約19°と2θ=45°との回折ピーク強度比を特定値とすることにより、塗布特性、自己放電特性、サイクル性に優れた活物質とすることが提案されている。更に、特許文献1には、LiCoO2の粒径が1μm以下又は25μm以上の粒径分布を実質的に有さないものが好ましい態様として提案されている。しかし、かかる正極活物質では、塗布特性ならびにサイクル特性は向上するものの、安全性、体積容量密度、重量容量密度を充分に満足するものは得られていない。
【0006】
また、電池特性に関する課題を解決するために、特許文献2にCo原子の5〜35%をW、Mn、Ta、Ti又はNbで置換することがサイクル特性改良のために提案されている。また、特許文献3には、格子定数のc軸長が14.051Å以下であり、結晶子の(110)方向の結晶子径が45〜100nmである、六方晶系のLiCoO2を正極活物質とすることによりサイクル特性を向上させることが提案されている。
【0007】
更に、特許文献4には、式LixNi1-m2(式中、0<x<1.1、0≦m≦1である。)を有し、一次粒子が板状ないし柱状であり、かつ(体積基準累積95%径−体積基準累積5%径)/体積基準累積5%径が3以下で、平均粒径が1〜50μmを有するリチウム複合酸化物が、重量あたりの初期放電容量が高く、また充放電サイクル耐久性に優れることが提案されている。
【0008】
また、特許文献5には、平均粒子径0.01〜2μmを有する、コバルト水酸化物やコバルトオキシ水酸化物やコバルト酸化物の一次粒子を凝集させて平均粒子径0.5〜30μmの二次粒子を形成したコバルト化合物粉末をリチウム化することが提案されている。しかし、この場合にも高い体積容量密度の正極物質は得られず、また、サイクル特性、安全性や大電流放電特性の点でもなお充分ではない。
【0009】
上記のように、上記従来の技術では、リチウム複合酸化物を正極活物質に用いたリチウム二次電池において、体積容量密度、安全性、塗工均一性、サイクル特性更には低温特性などの全てを充分に満足するものは未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−243897号公報
【特許文献2】特開平3−201368号公報
【特許文献3】特開平10−312805号公報
【特許文献4】特開平10−72219号公報
【特許文献5】特開2002−60225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、体積容量密度が大きく、安全性が高く、平均作動電圧が高く、充放電サイクル耐久性に優れ、更には、低温特性に優れた、リチウム二次電池正極用リチウム含有複合酸化物の製造方法、製造されたリチウム含有複合酸化物を含む、リチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究を続けたところ、以下の知見を通じて本発明に到達した。即ち、コバルト酸リチウムなどのリチウム含有複合酸化物は、基本的には、体積容量密度に優れた特性を有するが、充放電時のリチウムの出入りに伴い結晶構造が六方晶と単斜晶との相転移を起こし、膨張と収縮を繰り返すため、結晶構造の破壊が生じサイクル特性が劣化するという問題がある。この問題は、上記のように、従来、コバルト酸リチウムのコバルトの一部をW、Mn、Ta、Ti又はNbなどの特定の添加元素で置換し、結晶構造の安定化を通じて解決することが図られている。しかし、上記した従来法による場合には、後記する例(比較例2、3、5、7、13、14、15、17、19及び21に示されるように必ずしも狙いどおりの結果は得られていない。
【0013】
本発明者は、上記のコバルト酸リチウムなどのリチウム含有複合酸化物中のコバルト、マンガン又はニッケル(本発明ではN元素)を置換する元素として、チタン、ジルコニウム、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(本発明ではQ元素という)を選択し、かつかかるQ元素源として、pH0.5〜11を有するQ元素含有化合物水溶液を使用することによって上記目的が達成されることを見出した。かかる場合、リチウム含有複合酸化物中のコバルトなどのN元素は、置換元素である上記Q元素により、極めて充分にかつ均一に置換されることにより、この目的が達成されるものと思われる。
【0014】
更に、本発明では、上記Q元素に加えて、コバルト、マンガン及びニッケル以外の遷移金属元素、Al及びアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(本発明ではM元素という)が添加元素として含有される場合、特に該M元素を水溶液の形態で使用する場合には、体積容量密度が大きく、安全性が高く、平均作動電圧が高く、充放電サイクル耐久性に優れた、リチウム二次電池用のリチウム含有複合酸化物が得られることも見出された。
【0015】
かくして、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
(1)リチウム源、Q元素源、N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を含む混合物を酸素含有雰囲気で焼成する、一般式Li(但し、Qはチタン、ジルコニウム、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれるいずれか1種の元素、NはCo、Mn及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mは、Q及びN以外の遷移金属元素、Al及びアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。0.9≦p≦1.1、0<q≦0.03、0.97≦x<1.00、0≦y<0.03、1.9≦z≦2.1、q+x+y=1、0≦a≦0.02)で表されるリチウム含有複合酸化物の製造方法であって、上記Q元素源として、pH0.5〜11のQ元素化合物水溶液を使用することを特徴とするリチウム二次電池正極用リチウム含有複合酸化物の製造方法。
(2)Q元素化合物水溶液が、pH1.0〜9.5のチタン化合物水溶液である上記(1)に記載の製造方法。
(3)チタン化合物水溶液が、乳酸チタンキレート及び/又はトリエタノールアミンチタンキレートの水溶液である上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)Q元素源水溶液が、pH2〜11のジルコニウム、ニオブ又はタンタル化合物のいずれかの水溶液である上記(2)に記載の製造方法。
(5)ジルコニウム化合物水溶液が、炭酸ジルコニウムアンモニウム及び/又はハロゲン化ジルコニウムアンモニウムの水溶液である上記(4)に記載の製造方法。
(6)ニオブ化合物水溶液が、ニオブアルコキシドのアセチルアセトネート及び/又はシュウ酸水素ニオブの水溶液である請求項4に記載の製造方法。
の水溶液である上記(4)に記載の製造方法。
(7)タンタル化合物水溶液が、タンタルアルコキシドのアセチルアセトネートの水溶液である上記(4)に記載の製造方法。
(8)リチウム源、Q元素化合物水溶液、N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を混合し、得られる混合物から水媒体を除去した後、酸素含有雰囲気において800〜1080℃で焼成する上記(1)1に記載の製造方法。
(9)Q元素化合物水溶液と、N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を混合し、得られる混合物から水媒体を除去した後、リチウム源と必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を混合し、得られる混合物を酸素含有雰囲気において800〜1080℃で焼成する上記(1)に記載の製造方法。
(10)N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を含むリチウム複合酸化物粉末を予め製造し、該リチウム複合酸化物粉末並びにQ元素化合物水溶液と、必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源とを混合し、得られる混合物から水媒体を除去した後、酸素含有雰囲気において300〜1080℃で焼成する上記(1)に記載の製造方法。
(11)M元素源が、M元素化合物の水溶液である上記(1)〜(10)のいずれかに記載の製造方法。
(12)M元素が、Hf、Mg、Cu、Sn、Zn、及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である上記(1)〜(11)のいずれかに記載の製造方法。
(13)M元素が、AlとMgとからなり、Al/Mgが原子比で1/3〜3/1であり、かつ0.005≦y≦0.025である上記(1)〜(11)のいずれかに記載の製造方法。
(14)M元素がMgであり、Q元素/Mgが原子比で1/40〜2/1であり、かつ0.005≦y≦0.025である上記(1)〜(12)のいずれかに記載の製造方法。
(15)リチウム含有複合酸化物の、CuKαを線源とするX線回折によって測定される、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピークの積分幅が0.08〜0.14、表面積が0.2〜0.7m2/gである上記(1)〜(14)のいずれかに記載の製造方法。
(16)リチウム含有複合酸化物の平均粒径が、3〜20μmである請求項1〜15のいずれかに記載の製造方法。
(17)上記(1)〜(16)のいずれかに記載の製造方法により製造されたリチウム含有複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極。
(18)上記(17)に記載された正極を使用したリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、体積容量密度が大きく、安全性が高く、平均作動電圧が高く、充放電サイクル耐久性に優れ、更には、低温特性に優れる等、リチウム二次電池正極用として優れた特性を有するリチウム含有複合酸化物を得ることができる。また、製造されたリチウム含有複合酸化物を含むリ優れたチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で製造されるリチウム二次電池正極用のリチウム含有複合酸化物は、一般式Li で表される。かかる一般式における、p、q、x、y、z及びaは上記に定義される。なかでも、p、q、x、y、z及びaは下記が好ましい。0.97≦p≦1.03、1、0<q≦0.03、0.97≦x<1.00、0≦y<0.03、1.9≦z≦2.1、q+x+y=1、0≦a≦0.02。ここで、aが0より大きいときには、酸素原子の一部がフッ素原子で置換された複合酸化物になるが、この場合には、得られた正極活物質の安全性が向上する。
【0018】
N元素は、Co、Mn及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、なかでも、Co、Ni、CoとNi、MnとNi、又は、CoとNiとMnである場合が好ましい。また、M元素は、本発明では添加元素とも呼ばれるが、上記Q元素及びN元素を除く遷移金属元素、Al及びアルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。なお、上記遷移金属元素は周期表の4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族又は11族の遷移金属を表す。なかでも、M元素は、Hf、Mg、Cu、Sn、Zn、及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が好ましい。なかでも、容量発現性、安全性、サイクル耐久性などの見地より、Hf、Mg又はAlが好ましい。
【0019】
本発明において、M元素がAlとMgからなり、AlとMgが原子比で好ましくは1/3〜3/1、特に好ましくは2/3〜3/2であり、かつyが好ましくは、0.005≦y≦0.025、特に好ましくは0.01≦y≦0.02である。この場合には、電池性能のバランス、即ち、初期重量容量密度、安全性、充放電サイクル安定性のバランスが良いので特に好ましい。
【0020】
また、本発明において、M元素がMgであり、Q元素とMgが原子比で好ましくは1/40〜2/1、特に好ましくは1/30〜1/5であり、かつ yが好ましくは0.005≦y≦0.025、特に好ましくは 0.01≦y≦0.02である。この場合には、電池性能のバランス、即ち、初期重量容量密度、初期体積容量密度、安全性、充放電サイクル安定性のバランスが良いので特に好ましい。
【0021】
本発明において、上記M元素及び/又はフッ素を含有せしめる場合は、M元素はリチウム含有複合酸化物粒子の内部及び表面に均一に存在していることが好ましい。また、フッ素はリチウム含有複合酸化物粒子の表面に存在していることが好ましい。フッ素が表面に存在することにより、少量の添加で電池性能の低下を招来することなく、好ましい。また、M元素が粒子の内部及び表面に均一に存在することで、安全性、充放電サイクル特性等の重要な電池特性を改良できる。これらの元素が表面に存在するか否かは正極粒子について、分光分析、例えば、XPS分析を行うことにより判断できる。
【0022】
本発明において、Q元素は、pH0.5〜11を有する、Q元素化合物を含む水溶液として使用される。Q元素がチタン化合物の場合、好ましくは、pH1.0〜9.5のチタン化合物水溶液が使用される。該チタン化合物の好ましい例は、乳酸チタンキレート(OH)Ti(C、及び/又はトリエタノールアミンチタンキレート(C14N)−Ti(CO)である。
【0023】
また、Q元素がジルコニウム、ニオブ又はタンタル化合物の場合、好ましくはpH2〜11を有する、それぞれの化合物を含む水溶液が使用される。ジルコニウム化合物の好ましい例は、炭酸ジルコニウムアンモニウム(NH[Zr(CO(OH)]、及び/又はハロゲン化ジルコニウムアンモニウム(NHZrX (但し、Xはハロゲン元素)、塩基性炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムなどである。ニオブ化合物の好ましい例は、ニオブエトキシドアセチルアセトネート、ニオブブトキシドアセチルアセネートなどのニオブアルコキシドのアセチルアセトネート、シュウ酸水素ニオブ:Nb(HCなどである。タンタル化合物の好ましい例は、タンタルエトキシドアセチルアセトネートタンタルブトキシドアセチルアセトネートなどのタンタルアルコキシドのアセチルアセトネートである。
【0024】
上記に例示したQ元素化合物は、いずれも水に対する溶解性が大きく、いずれも高濃度の水溶液が得られる。Q元素化合物水溶液の濃度は、後の工程で乾燥により水媒体を除去する必要がある点から高濃度の方が好ましい。しかし、高濃度過ぎると粘度が高くなり、正極活物質を形成する他の元素含有化合物粉末との均一混合性が低下するので、好ましくは1〜30質量%、特には4〜20質量%が好ましい。
【0025】
上記Q元素化合物のそれぞれの水溶液を形成する媒体には、必要に応じて、錯体を形成させるためになどのために、クエン酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、又はマロン酸などの有機酸を含有させることができる。これらの有機酸の含有量としては、好ましくは1〜20質量%である。
【0026】
本発明で使用されるN元素源としては、N元素がコバルトの場合には、炭酸コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、又は酸化コバルトが好ましく使用される。特に水酸化コバルト及びオキシ水酸化コバルトは、性能が発現しやすいので好ましい。また、N元素がニッケルの場合には、水酸化ニッケル、又は炭酸ニッケルが好ましく使用される。また、N元素がマンガンの場合には、炭酸マンガンが好ましく使用される。
【0027】
また、N元素源がニッケルとコバルトを含む化合物の場合は、Ni0.8Co0.2OOH、Ni0.8Co0.2(OH)などが、N元素がニッケルとマンガンを含む化合物の場合はNi0.5Mn0.5OOHなどが、N元素がニッケルとコバルトとマンガンを含む化合物の場合はNi0.4Co0.2Mn0.4(OH)、Ni1/3Co1/3Mn1/3OOHなどがそれぞれ好ましく例示される。
【0028】
本発明で使用されるリチウム源としては、炭酸リチウムあるいは水酸化リチウムが好ましく使用される。特に炭酸リチウムが安価で好ましい。フッ素源としては、金属フッ化物が好ましく、特にLiF、MgFなどが好ましい。
【0029】
本発明で使用されるM元素源としては、固体の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の無機塩;、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩等の有機塩;有機金属キレート錯体や、金属アルコキシドをキレート等で安定化した化合物でもよい。しかし、本発明では、M元素源としては水溶液に均一に溶解するものが好ましく、水溶性の炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、又は、酒石酸塩がより好ましい。なかでもクエン酸塩、酒石酸塩が溶解度が大きく好ましい。また、シュウ酸塩やクエン酸塩水溶液はpHが低いのでコバルト塩などが溶解する場合があるが、その場合はその水溶液にアンモニアを添加して、pHを6〜10の水溶液にすることが特に好ましい。
【0030】
本発明においては、上記したQ元素化合物水溶液、リチウム源、N元素源、並びに必要に応じて使用されるM元素源及び/又はフッ素源とを使用して、リチウム含有複合酸化物が製造する好ましい具体的手段として、次の(A)、(B)、又は、(C)の如き手段が挙げられる。
(A)Q元素化合物水溶液、リチウム源、N元素源、及び必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を混合し、得られる混合物から水媒体を除去した後、酸素含有雰囲気において800〜1080℃で焼成する。
(B)Q元素化合物水溶液と、N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源とを混合し、得られる混合物から水媒体を除去したものに、リチウム源と必要に応じてM元素源及びフッ素源とを混合し、得られる混合物を酸素含有雰囲気において800〜1080℃で焼成する。
(C)N元素及び必要に応じてM元素及び/又はフッ素を含むリチウム複合酸化物粉末を予め製造し、該リチウム複合酸化物粉末とQ元素化合物並びに、必要に応じてM元素源及び/又はフッ素を含む水溶液とを混合し、得られる混合物から水媒体を除去した後に酸素含有雰囲気において300〜1080℃で焼成する。
【0031】
上記(A)、(B)又は(C)の如き手段において、M元素源は、粉末の形態ばかりでなく、上記したように、M元素化合物の水溶液が好ましく使用される。また、各元素源を粉末として使用する場合は、これらの粉末の平均粒径(D50)は、特に制限されるものではないが、良好な混合が達成されるために、好ましくは0.1〜20μm、特に好ましくは0.5〜15μmが選択される。また、各元素の混合比率は、本発明で製造する正極活物質の一般式である上記Liの範囲内で所望とする各元素の比率になるようにされる。
【0032】
上記(A)、(B)又は(C)の手段におけるQ元素化合物の水溶液と、他の元素源粉末との混合は、好ましくはアキシアルミキサー、パドルミキサーなどを使用し、スラリーを形成するように充分に均一に混合することが好ましい。スラリー中の固形分濃度としては、均一に混合される限り高い濃度の方が好ましいが、通常、固体/液体比は50/50〜90/10、特に好ましくは60/40〜80/20が好適である。
【0033】
得られる混合物からの水媒体の除去は、好ましくは50〜200℃、特に好ましくは80〜120℃にて、通常1〜10時間乾燥することにより行われる。混合物中の水媒体は、後の焼成工程で除去されるために、この段階で必ずしも完全に除去する必要はないが、焼成工程で水分を蒸発させるのに多量のエネルギーが必要になるので、できる限り除去しておくのが好ましい。
【0034】
水媒体を除去した後の焼成は、上記(A)又は、(B)の手段においては、酸素含有雰囲気下において800〜1080℃で行われる。かかる焼成温度が、800℃より低い場合にはリチウム含有複合酸化物化が不完全となり、逆に1080℃を超える場合には充放電サイクル耐久性や初期容量が低下してしまう。特に、焼成温度は900〜1080℃が好適である。また、上記(C)の手段では、既にリチウム複合酸化物粉末が形成されているので比較的低温度でもよく、酸素含有雰囲気下において300〜1080℃で行われる。
【0035】
このようにして製造されるリチウム含有複合酸化物は、その平均粒径D50が好ましくは5〜15μm、特に好ましくは8〜12μm、比表面積が好ましくは0.2〜0.7m/g、特に好ましくは0.3〜0.5m/g、CuKαを線源とするX線回折によって測定される2θ=66.5±1°の(110)面回折ピーク半値幅が好ましくは0.08〜0.14°特に好ましくは0.08〜0.12°、かつプレス密度が好ましくは3.05〜3.50g/cm、特に好ましくは3.10〜3.40g/cmであるのが好適である。また、本発明のリチウム含有複合酸化物は、含有される残存アルカリ量が0.03質量%以下が好ましく、特には0.01質量%以下であるのが好適である。なお、本発明において、プレス密度とはリチウム複合酸化物粉末を0.3t/cmでプレスしたときの見かけ密度を意味する。
【0036】
かかるリチウム含有複合酸化物からリチウム二次電池用の正極を製造する場合には、かかる複合酸化物の粉末に、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチエンブラックなどのカーボン系導電材と結合材を混合することにより形成される。上記結合材には、好ましくは、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂等が用いられる。本発明のリチウム含有複合酸化物の粉末、導電材及び結合材を溶媒又は分散媒を使用し、スラリー又は混練物とされる。これをアルミニウム箔、ステンレス箔などの正極集電体に塗布などにより担持せしめてリチウム二次電池用の正極が製造される。
【0037】
本発明のリチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池において、セパレータとしては、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレンのフィルムなどが使用される。また、電池の電解質溶液の溶媒としては、種々の溶媒が使用できるが、なかでも炭酸エステルが好ましい。炭酸エステルは環状、鎖状いずれも使用できる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)などが例示される。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネートなどが例示される。
【0038】
本発明では、上記炭酸エステルを単独で又は2種以上を混合して使用できる。また、他の溶媒と混合して使用してもよい。また、負極活物質の材料によっては、鎖状炭酸エステルと環状炭酸エステルを併用すると、放電特性、サイクル耐久性、充放電効率が改良できる場合がある。
【0039】
また、本発明のリチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池においては、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(例えばアトケム社製:商品名カイナー)あるいはフッ化ビニリデン−パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体を含むゲルポリマー電解質としても良い。上記の電解質溶媒又はポリマー電解質に添加される溶質としては、ClO、CFSO、BF、PF、AsF、SbF、CFCO、(CFSOなどをアニオンとするリチウム塩のいずれか1種以上が好ましく使用される。上記リチウム塩からなる溶質は、上記の電解質溶媒又はポリマー電解質に対して、0.2〜2.0mol/l(リットル)の濃度で添加するのが好ましい。この範囲を逸脱すると、イオン伝導度が低下し、電解質の電気伝導度が低下する。なかでも、0.5〜1.5mol/lが特に好ましい。
【0040】
本発明のリチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム電池において、負極活物質には、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料が用いられる。この負極活物質を形成する材料は特に限定されないが、例えばリチウム金属、リチウム合金、炭素材料、周期表14、又は15族の金属を主体とした酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン、炭化ホウ素化合物などが挙げられる。炭素材料としては、種々の熱分解条件で有機物を熱分解したものや人造黒鉛、天然黒鉛、土壌黒鉛、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛などを使用できる。また、酸化物としては、酸化スズを主体とする化合物が使用できる。負極集電体としては、銅箔、ニッケル箔などが用いられる。かかる負極は、上記活物質を有機溶媒と混練してスラリーとし、該スラリーを金属箔集電体に塗布、乾燥、プレスして得ることにより好ましくは製造される。
【0041】
本発明のリチウム含有複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム電池の形状には特に制約はない。シート状、フィルム状、折り畳み状、巻回型有底円筒形、ボタン形などが用途に応じて選択される。
【実施例】
【0042】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはもちろんである。
【0043】
[例1]
硫酸コバルト水溶液と水酸化アンモニウムの混合液と苛性ソーダ水溶液を連続的に混合して、連続的に水酸化コバルトスラリーを既知の方法により合成し、凝集、ろ過及び乾燥工程を経て水酸化コバルト粉末を得た。得られた水酸化コバルトは、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=19±1°の(001)面の回折ピーク半値幅は0.27°であり、2θ=38°±1の(101)面の回折ピーク半値幅は0.23°であり、走査型電子顕微鏡観察の結果、微粒子が凝集して、略球状の二次粒子から形成されていることが判った。
【0044】
走査型電子顕微鏡観察の画像解析から求めた体積基準の粒度分布解析の結果、平均粒径D50が13.5μm、D10が6.7μm、D90が18.5μmであった。水酸化コバルトのコバルト含量は61.0%であった。
上記水酸化コバルト196.47gと、比表面積が1.2m/gの炭酸リチウム粉末75.86gとを混合した。
一方、Ti含量8.2質量%の乳酸チタン(OH)Ti(C水溶液5.97gを、クエン酸2.86gを水71.17gに溶かした溶液に混合して30分攪拌することによりpHが1であるチタン化合物水溶液を得た。該水溶液を、上記水酸化コバルトと炭酸リチウムとの混合物に加えてスラリー状にした。
【0045】
このスラリーを120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、空気中、950℃で12時間焼成することにより、LiCo0.995Ti0.005を得た。焼成物を解砕し得られた1次粒子が凝集してなるリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布をレーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて水溶媒中にて測定した結果、平均粒径D50が14.0μm、D10が6.6μm、D90が18.0μmであり、BET法により求めた比表面積が0.33m2/gの略球状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。
【0046】
このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.110°であった。この粉末のプレス密度は3.11g/cmであった。このリチウムコバルト複合酸化物粉末10gを純水100g中に分散し、濾過後0.1NHClで電位差滴定して残存アルカリ量を求めたところ、0.02質量%であった。
【0047】
上記のリチウム含有複合酸化物粉末と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン粉末とを90/5/5の質量比で混合し、N−メチルピロリドンを添加してスラリーを作製し、厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて片面塗工した。乾燥し、ロールプレス圧延を5回行うことによりリチウム電池用の正極体シートを作製した。
【0048】
そして、上記正極体シートを打ち抜いたものを正極に用い、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体にニッケル箔20μmを使用し、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、さらに電解液には、濃度1MのLiPF6/EC+DEC(1:1)溶液(LiPF6を溶質とするECとDECとの質量比(1:1)の混合溶液を意味する。後記する溶媒もこれに準じる。)を用いてステンレス製簡易密閉セル型リチウム電池をアルゴングローブボックス内で2個組み立てた。
【0049】
上記1個の電池については、25℃にて正極活物質1gにつき75mAの負荷電流で4.3Vまで充電し、正極活物質1gにつき75mAの負荷電流にて2.5Vまで放電して初期放電容量を求めた。さらに電極層の密度を求めた。また、この電池について、引き続き充放電サイクル試験を30回行なった。その結果、25℃、2.5〜4.3Vにおける正極電極層の初期重量容量密度は、163mAh/gであり、30回充放電サイクル後の平均放電電圧は3.98Vであり、容量維持率は98.5%であった。
【0050】
また、他方の電池については、それぞれ4.3Vで10時間充電し、アルゴングローブボックス内で解体し、充電後の正極体シートを取り出し、その正極体シートを洗滌後、径3mmに打ち抜き、ECとともにアルミカプセルに密閉し、走査型差動熱量計にて5℃/分の速度で昇温して発熱開始温度を測定した。その結果、4.3V充電品の発熱開始温度は162℃であった。
【0051】
[例2]比較例
例1において、チタン化合物水溶液を加えない他は、例1と同様な方法で、焼成後LiCoOとなるように配合したリチウム含有酸化物を合成した。これにより、平均粒径D50が13.3μm、D10が6.8μm、D90が18.2μmであり、BET法により求めた比表面積が0.30m/gの塊状のLiCoO粉末を得た。LiCoO粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.114°であった。得られたLiCoO粉末のプレス密度は3.08g/cmであった。
【0052】
例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は、161mAh/gであり、30回充放電サイクル後の平均放電電圧は3.94Vであり、容量維持率は96.0%であった。4.3V充電品の発熱開始温度は157℃であった。
【0053】
[例3]比較例
例1において、チタン化合物水溶液の代わりに、酸化チタン粉末を0.82g用いた他は例1と同様に実施し、焼成後LiCo0.995Ti0.005となるように配合したリチウム含有複合酸化物を合成した。これにより、平均粒径D50が13.6μm、D10が7.1μm、D90が18.8μmであり、BET法により求めた比表面積が0.33m/gの塊状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.120°であった。得られたリチウム含有複合酸化物粉末のプレス密度は3.00g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は160mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.95V、容量維持率は97.5%、発熱開始温度159℃であった。
【0054】
[例4]
水酸化コバルト粉末194.57gと炭酸リチウム粉末76.44gを混合した。一方、塩基性乳酸アルミニウム粉末3.12gと炭酸マグネシウム粉末1.98gとクエン酸14.86gとを水57.64gに溶かした溶液を混合した液に対して、Ti含量8.2質量%の乳酸チタン(OH)Ti(C水溶液2.41gを添加して、pH2.3の水溶液(添加元素溶液)を得た。該水溶液を上記水酸化コバルトと炭酸リチウムとの混合物に加えてスラリー状にした他は、例1と同様に実施し、LiAl0.01Co0.978Mg0.01Ti0.002となるリチウム含有複合酸化物を合成した。
【0055】
これにより、平均粒径D50が13.1μm、D10が6.9μm、D90が18.5μmであり、BET法により求めた比表面積が0.29m/gの塊状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.111°であった。得られたリチウム含有複合酸化物粉末のプレス密度は3.14g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は162mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.97V、容量維持率は99.2%、発熱開始温度173℃であった。
【0056】
[例5]比較例
例4において、添加元素溶液の代わりに、水酸化マグネシウム粉末を1.20g、水酸化アルミニウム粉末を1.61g、及び酸化チタン粉末を0.33gを使用した他は、例1と同様に実施し、焼成後LiAl0.01Co0.978Mg0.01Ti0.002となるリチウム含有複合酸化物を得た。これにより、平均粒径D50が13.0μm、D10が6.8μm、D90が18.6μmであり、BET法により求めた比表面積が0.35m/gの塊状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。
【0057】
この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.121°であった。得られたリチウム含有複合酸化物粉末のプレス密度は3.05g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は162mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.95V、容量維持率は98.6%、発熱開始温度165℃であった。
【0058】
[例6]
例2にて合成したLiCoO2を95.72gと、例4にて調合した添加元素溶液を37.69gとを混合してスラリー化した。このスラリーを脱溶媒した後、空気中900℃で12時間焼成し、Li0.978Al0.01Co0.978Mg0.01Ti0.002となるリチウム含有複合酸化物を得た。これにより、平均粒径D50が13.3μm、D10が7.0μm、D90が18.4μmであり、BET法により求めた比表面積が0.31m/gの塊状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.117°であった。得られたリチウム含有複合酸化物粉末のプレス密度は3.08g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は159mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.96V、容量維持率は99.3%、発熱開始温度169℃であった。
【0059】
[例7]比較例
例6にて、添加元素溶液を用いる代わりに水酸化アルミニウム粉末0.78g、水酸化マグネシウム粉末0.58g、及び酸化チタン粉末0.16gを混合し、空気中900℃で12時間焼成し、Li0.978Al0.01Co0.978Mg0.01Ti0.002となるリチウムリチウムコバルト複合酸化物を得た。これにより、平均粒径D50が13.5μm、D10が7.2μm、D90が18.3μmであり、BET法により求めた比表面積が0.37m/gの塊状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.125°であった。得られたリチウム含有複合酸化物粉末のプレス密度は2.98g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は157mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.95V、容量維持率は96.7%、発熱開始温度162℃であった。
【0060】
[例8]
塩基性乳酸アルミニウム粉末3.12gと炭酸マグネシウム粉末1.98gとクエン酸14.86gとを、水57.64gに溶かした溶液に、Ti含量8.2質量%の乳酸チタン(OH)Ti(C水溶液2.41gを添加してpH2.3の添加元素溶液を得た。水酸化コバルト粉末194.57gにこの添加元素溶液を加えることによって得たスラリーを、120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、炭酸リチウム76.44gと混合し、950℃で12時間焼成し、LiAl0.01Co0.978Mg0.01Ti0.002となるリチウム含有複合酸化物を得た。
【0061】
これにより、平均粒径D50が13.1μm、D10が7.0μm、D90が18.1μmであり、BET法により求めた比表面積が0.29m/gの塊状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.108°であった。得られたリチウム含有複合酸化物粉末のプレス密度は3.15g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は162mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.97V、容量維持率は99.1%、発熱開始温度175℃であった。
【0062】
[例9]
塩基性乳酸アルミニウム粉末3.11gと炭酸マグネシウム粉末1.95gと酒石酸16.45gとを、水46.47gに溶かした溶液に、Ti含量8.2質量%のトリエタノールアミンチタンキレート(C14N)−Ti(CO)水溶液12.03gを添加してpH3.0の添加元素溶液を得た。水酸化コバルト粉末193.03gにこの添加元素溶液を加えることによって得たスラリーを、120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、炭酸リチウム76.44gと混合し、950℃で12時間焼成し、LiAl0.01Co0.97Mg0.01Ti0.01となるリチウム含有複合酸化物を得た。
【0063】
これにより、平均粒径D50が13.5μm、D10が6.7μm、D90が18.7μmであり、BET法により求めた比表面積が0.30m/gの塊状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.109°であった。得られたリチウム含有複合酸化物粉末のプレス密度は3.12g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は161mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.98V、容量維持率は99.3%、発熱開始温度174℃であった。
【0064】
[例10]
水酸化コバルト粉末194.57gに対して、添加液として、塩基性乳酸アルミニウム粉末3.12gと炭酸マグネシウム粉末1.98gとクエン酸14.86gとを水57.64に溶かした溶液にTi含量8.2質量%の乳酸チタン(OH)Ti(C水溶液2.41gを添加した。この添加元素溶液はpH2.5であった。得られたスラリーを、120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、炭酸リチウム76.04gとフッ化リチウム0.26gとを混合し、950℃で12時間焼成し、LiAl0.01Co0.978Mg0.01Ti0.0021.9950.005となるリチウム含有複合酸化物を得た。これにより、平均粒径D50が13.5μm、D10が6.9μm、D90が18.9μmであり、BET法により求めた比表面積が0.33m/gの塊状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。
【0065】
この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.107°であった。得られたリチウム含有複合酸化物粉末のプレス密度は3.17g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は161mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.98V、容量維持率は99.0%、発熱開始温度177℃であった。
【0066】
[例11]
硫酸コバルト水溶液と水酸化アンモニウムの混合液と苛性ソーダ水溶液を連続的に混合して、連続的に水酸化コバルトスラリーを既知の方法により合成し、凝集、ろ過及び乾燥工程を経て水酸化コバルト粉体を得た。得られた水酸化コバルトは、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=19±1°の(001)面の回折ピーク半値幅は0.27°であり、2θ=38°±1の(101)面の回折ピーク半値幅は0.23°であり、走査型電子顕微鏡観察の結果、微粒子が凝集して、略球状の二次粒子から形成されていることが判った。走査型電子顕微鏡観察の画像解析から求めた体積基準の粒度分布解析の結果、平均粒径D50が17.5μm、D10が7.1μm、D90が26.4μmであった。水酸化コバルトのコバルト含量は61.5%であった。
上記水酸化コバルト193.07gと、比表面積が1.2m2/gの炭酸リチウム粉末75.66gとを混合した。
【0067】
一方、Zr含量15.1質量%の炭酸ジルコニルアンモニウム(NH42[Zr(CO32(OH)2]水溶液の12.29gを水67.71gに混合して30分攪拌することによりpH9.0の添加元素溶液を得た。上記溶液を、上記水酸化コバルトと炭酸リチウムとの混合物に加えてスラリー状にした。
【0068】
このスラリーを120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、空気中、950℃で12時間焼成することにより、LiCo0.99Zr0.012を得た。焼成物を解砕し得られた1次粒子が凝集してなるリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布をレーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて水溶媒中にて測定した結果、平均粒径D50が17.1μm、D10が7.3μm、D90が26.0μmであり、BET法により求めた比表面積が0.31m2/gの略球状のリチウム含有複合酸化物粉末を得た。このリチウム含有複合酸化物粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.116°であった。この粉末のプレス密度は3.07g/cm3であった。このリチウムコバルト複合酸化物粉末10gを純水100g中に分散し、濾過後0.1NHClで電位差滴定して残存アルカリ量を求めたところ、0.02質量%であった。
【0069】
上記のリチウム含有複合酸化物粉末と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン粉末とを90/5/5の質量比で混合し、N−メチルピロリドンを添加してスラリーを作製し、厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて片面塗工した。乾燥し、ロールプレス圧延を5回行うことによりリチウム電池用の正極体シートを作製した。
【0070】
そして、上記正極体シートを打ち抜いたものを正極に用い、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体にニッケル箔20μmを使用し、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、さらに電解液には、濃度1MのLiPF6/EC+DEC(1:1)溶液(LiPF6を溶質とするECとDECとの質量比(1:1)の混合溶液を意味する。後記する溶媒もこれに準じる。)を用いてステンレス製簡易密閉セル型リチウム電池をアルゴングローブボックス内で2個組み立てた。
【0071】
上記1個の電池については、25℃にて正極活物質1gにつき75mAの負荷電流で4.3Vまで充電し、正極活物質1gにつき75mAの負荷電流にて2.5Vまで放電して初期放電容量を求めた。さらに電極層の密度を求めた。また、この電池について、引き続き充放電サイクル試験を30回行なった。その結果、25℃、2.5〜4.3Vにおける正極電極層の初期重量容量密度は、160mAh/gであり、30回充放電サイクル後の平均放電電圧は3.98Vであり、容量維持率は98.4%であった。
【0072】
また、他方の電池については、それぞれ4.3Vで10時間充電し、アルゴングローブボックス内で解体し、充電後の正極体シートを取り出し、その正極体シートを洗滌後、径3mmに打ち抜き、ECとともにアルミカプセルに密閉し、走査型差動熱量計にて5℃/分の速度で昇温して発熱開始温度を測定した。その結果、4.3V充電品の発熱開始温度は160℃であった。
【0073】
[例12]
例11において、添加元素液を炭酸ジルコニルアンモニウム水溶液の代わりに、Zr含量4.4質量%のフッ素化ジルコンアンモニウム(NH42ZrF6水溶液の42.40gを水37.60gに混合して30分攪拌することで、pH3.3の添加元素水溶液を得た。
【0074】
上記水溶液を、上記水酸化コバルトと炭酸リチウムとの混合物に加えてスラリー状にし、例11と同様にして正極活物質を合成し、LiCo0.99Zr0.011.990.01を得た。得られた1次粒子が凝集してなるリチウム含有複合酸化物粉末の粒度分布をレーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した結果、平均粒径D50が17.2μm、D10が6.9μm、D90が26.0μmであり、BET法により求めた比表面積が0.30m2/gの略球状の粉末を得た。この粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.107°であった。上記粉末のプレス密度は3.10g/cm3であった。また、上記粉末10gを純水100g中に分散し、濾過後0.1NHClで電位差滴定して残存アルカリ量を求めたところ、0.02質量%であった。
【0075】
上記のリチウム含有複合酸化物粉末を使用し、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は、162mAh/gであり、30回充放電サイクル後の平均放電電圧は3.98Vであり、容量維持率は98.5%であった。4.3V充電品の発熱開始温度は168℃であった。
【0076】
[例13]比較例
例11において、添加元素溶液を加えない他は例11と同様な方法で、焼成後LiCoO2となるように配合したリチウム含有酸化物を合成した。平均粒径D50が17.3μm、D10が7.8μm、D90が26.2μmであり、BET法により求めた比表面積が0.27m2/gの塊状のLiCoO2粉末を得た。LiCoO2粉末について、X線回折装置(理学電機社製RINT 2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.110°であった。得られたLiCoO2粉末のプレス密度は3.10g/cm3であった。
【0077】
例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電層の初期重量容量密度は、161mAh/gであり、30回充放電サイクル後の平均放電電圧は3.94Vであり、容量維持率は96.3%であった。4.3V充電品の発熱開始温度は158℃であった。
【0078】
[例14]比較例
例11において、添加元素溶液の代わりに、酸化ジルコニウムを2.51g用いた他は例12と同様に実施し、LiCo0.99Zr0.012を合成した。この粉末のプレス密度は2.97g/cm3であった。
また、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は161mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.93Vであり、容量維持率は97.1%、発熱開始温度159℃であった。
【0079】
[例15]比較例
例12において、炭酸リチウム72.43g、フッ化リチウム2.64g、水酸化コバルト194.01g混合して、添加元素溶液の代わりに、酸化ジルコニウムを2.51g、用いたほかは例12と同様にして正極活物質を合成した結果、LiCo0.99Zr0.011.990.01が得られた。この粉末のプレス密度は2.95g/cm3であった。また、この粉末10gを純水100g中に分散し、濾過後0.1NHClで電位差滴定して残存アルカリ量を求めたところ、0.02質量%であった。
例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は160mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.92Vであり、容量維持率は97.6%、発熱開始温度は162℃であった。
【0080】
[例16]
例11において、水酸化コバルト190.61gと炭酸リチウム76.24gを混合し、添加液として、クエン酸アルミニウム4.85gと炭酸マグネシウム1.97gとクエン酸10.77gとを水62.41gに溶かした溶液に、Zr含量15.1質量%の炭酸ジルコニルアンモニウム(NH42[Zr(CO32(OH)2]水溶液を12.39g添加して得たpH3.5の添加元素溶液を用いた他は例12と同様に実施し、LiAl0.01Co0.97Mg0.01Zr0.01を得た。この粉末のプレス密度は3.06g/cm3であった。
また、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は162mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.97Vであり、容量維持率は99.3%、発熱開始温度173℃であった。
【0081】
[例17]比較例
例16において、添加元素溶液の代わりに、水酸化マグネシウムを1.20g、水酸化アルミニウムを1.60g、酸化ジルコニウムを2.53g用いた他は例16と同様に実施し、LiAl0.01Co0.97Mg0.01Zr0.01を得た。この粉末のプレス密度は2.95g/cm3であった。
また、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は160mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.91Vであり、容量維持率は98.0%、発熱開始温度162℃であった。
【0082】
[例18]
例13にて合成したLiCoO2の100.35gと、例16にて調合した添加液を30.86gとを混合してスラリー化した。このスラリーを脱溶媒した後、空気中900℃で12時間焼成し、Li0.97Al0.01Co0.97Mg0.01Zr0.01を得た。この粉末のプレス密度は3.07g/cm3であった。
また、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は161mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.96Vであり、容量維持率は99.1%、発熱開始温度169℃であった。
【0083】
[例19]比較例
例18にて、添加液を用いる代わりに水酸化アルミニウム0.80g、水酸化マグネシウム0.60g、酸化ジルコニウム1.26gとを混合し、空気中900℃で12時間焼成し、Li0.97Al0.01Co0.97Mg0.01Zr0.01となるリチウムリチウムコバルト複合酸化物を得た。この粉末のプレス密度は2.92g/cm3であった。
また、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は159mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.92Vであり、容量維持率は97.0%、発熱開始温度158℃であった。
【0084】
[例20]
前記水酸化コバルト194.71g、水酸化マグネシウム1.20gと炭酸リチウム76.30gとを混合し、空気中950℃で12時間焼成することにより、LiCo0.99Mg0.01粉末を得た。この粉末100gと、水酸化アルミニウム0.80gとの混合粉末に、添加液として、Zr含量15.1質量%の炭酸ジルコニルアンモニウム6.20gを33.8gの水と混合したpH9.0の水溶液を混合してスラリー化し、焼成後LiAl0.01Co0.97Mg0.01Zr0.01となるように配合した。このスラリーを脱水した後、空気中900℃で12時間焼成して目的のリチウム含有複合酸化物を得た。この粉末のプレス密度は3.09g/cm3であった。
また、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は161mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.97Vであり、容量維持率は99.0%、発熱開始温度173℃であった。
【0085】
[例21]比較例
例20において、炭酸ジルコニルアンモニウムを用いる代わりに、酸化ジルコニウム1.26gを用いて、混合紛を空気中900℃で12時間することにより、LiAl0.01Co0.97Mg0.01Zr0.01組成の粉末を得た他は、例20と同様にしてリチウム含有複合酸化物を得た。この粉末のプレス密度は2.90g/cm3であった。
また、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は158mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.93Vであり、容量維持率は96.7%、発熱開始温度157℃であった。
【0086】
[例22]
例16において、水酸化コバルト190.61gに対して、添加液として、クエン酸アルミニウム4.80gと炭酸マグネシウム1.97gとクエン酸10.77gとを水50.02gに溶かした溶液に、Zr含量15.1質量%の炭酸ジルコニルアンモニウム(NH42[Zr(CO32(OH)2]水溶液を12.39g添加した。この添加元素溶液はpH3.5であった。得られたスラリーを、120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、炭酸リチウム76.24gと混合し、950℃で12時間焼成し、LiAl0.01Co0.97Mg0.01Zr0.01を得た。この粉末のプレス密度は3.08g/cm3であった。
また、例11と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定した。正極電極層の初期重量容量密度は160mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.96Vであり、容量維持率は99.1%、発熱開始温度171℃であった。
【0087】
[例23]
コバルト含量が61.5%のオキシ水酸化コバルト粉末192.96gに対して、塩基性乳酸アルミニウム粉末4.63g、炭酸マグネシウム粉末0.97gと、クエン酸8.51gとを、水64.65gに溶解した溶液にZr含量15.1%の炭酸ジルコニウムアンモニウム1.24gを添加して得た、pH3.2の添加元素溶液を混合した。得られたスラリーを120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、炭酸リチウム76.42gと混合し、990℃で12時間焼成し、LiAl0.015Co0.979Mg0.005Zr0.0012となるリチウム含有複合酸化物を得た。
【0088】
このリチウム含有複合酸化物は、平均粒径D50が13.1μm、D10が6.8μm、D90が18.5μmであり、BET法により求めた比表面積が0.30m/gであった。この粉末のX線回折における(110)面の回折ピーク半値幅は0.106であり、プレス密度は3.19g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定したところ、初期容量は160mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.97Vであり、かつ容量維持率は99.1%、発熱開始温度は175℃であった。
【0089】
[例24]
コバルト含量が61.5%のオキシ水酸化コバルト粉末195.48gに対して、塩基性乳酸アルミニウム粉末4.63g、炭酸マグネシウム粉末0.97gと、シュウ酸水素ニオブ0.14g、クエン酸18.37gとを水55.89gに溶解して得た、pH2.7の添加元素溶液を混合した。得られたスラリーを120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、炭酸リチウム76.35gと混合し、990℃で12時間焼成し、LiAl0.015Co0.979Mg0.005Nb0.001O2となるリチウム含有複合酸化物を得た。
【0090】
このリチウム含有複合酸化物は、平均粒径D50が13.7μm、D10が7.2μm、D90が18.8μmであり、BET法により求めた比表面積が0.34m/gであった。この粉末のX線回折における(110)面の回折ピーク半値幅は0.113であり、プレス密度は3.07g/cmであった。
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定したところ、初期容量は159mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.98Vであり、かつ容量維持率は99.4%、発熱開始温度は171℃であった。
【0091】
[例25]
タンタルエトキシド0.83gにアセチルアセトン0.41gを加え、70℃で1時間環留した後、エタノール2.48gを加えて、Ta含量が10質量%のタンタルエトキシドアセチルアセトネート溶液を得た。
【0092】
次いで、塩基性乳酸アルミニウム粉末4.62g、炭酸マグネシウム粉末0.97gと、クエン酸18.35gとを、水52.34gに溶解した溶液に、前期タンタルエトキシドアセチルアセトネート溶液を加えて、pH3.4の添加元素溶液を得た。この溶液と、コバルト含量が61.5%のオキシ水酸化コバルト粉末195.31gとを混合した。得られたスラリーを120℃で2時間、乾燥機にて脱水した後、炭酸リチウム76.28gと混合し、990℃で12時間焼成し、LiAl0.015Co0.979Mg0.005Ta0.001O2となるリチウム含有複合酸化物を得た。
【0093】
このリチウム含有複合酸化物は、平均粒径D50が14.0μm、D10が7.4μm、D90が18.7μmであり、BET法により求めた比表面積が0.33m/gであった。この粉末のX線回折における(110)面の回折ピーク半値幅は0.113であり、プレス密度は3.04g/cmであった。
【0094】
また、例1と同様にして、正極体を製造し、電池を組み立てて、その特性を測定したところ、初期容量は160mAh/g、30回サイクル後の平均放電電圧は3.98Vであり、かつ容量維持率は99.3%、発熱開始温度は172℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、体積容量密度が大きく、安全性が高く、及び充放電サイクル耐久性に優れたリチウム二次電池正極用のリチウム含有複合酸化物の製造方法、製造されたリチウム含有複合酸化物などを含む、リチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源、Q元素源、N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を含む混合物を酸素含有雰囲気で焼成する、一般式Li(但し、Qはジルコニウム、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれるいずれか1種の元素であり、NはCoであり、Mは、Q及びN以外の遷移金属元素、Al及びアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。0.9≦p≦1.1、0<q≦0.03、0.97≦x<1.00、0≦y<0.03、1.9≦z≦2.1、q+x+y=1、0≦a≦0.02)で表されるリチウム含有複合酸化物の製造方法であって、上記Q元素源として、pH0.5〜11のQ元素化合物水溶液を使用することを特徴とするリチウム二次電池正極用リチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
Q元素化合物水溶液が、pH2〜11を有する、ジルコニウム化合物水溶液、ニオブ化合物水溶液又はタンタル化合物水溶液である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ジルコニウム化合物水溶液が、炭酸ジルコニウムアンモニウム及び/又はハロゲン化ジルコニウムアンモニウムの水溶液である請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
ニオブ化合物水溶液が、ニオブアルコキシドのアセチルアセトネート及び/又はシュウ酸水素ニオブの水溶液である請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
タンタル化合物水溶液が、タンタルアルコキシドのアセチルアセトネートの水溶液である請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
リチウム源、Q元素化合物水溶液、N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を混合し、得られる混合物から水媒体を除去した後、酸素含有雰囲気において800〜1080℃で焼成する請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
Q元素化合物水溶液と、N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を混合し、得られる混合物から水媒体を除去した後、リチウム源と、必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源とを混合し、得られる混合物を酸素含有雰囲気において800〜1080℃で焼成する請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
N元素源、並びに必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源を含むリチウム複合酸化物粉末を予め製造し、該リチウム複合酸化物粉末と、Q元素化合物水溶液と、必要に応じてM元素源及び/又はフッ素源とを混合し、得られる混合物から水媒体を除去した後、酸素含有雰囲気において300〜1080℃で焼成する請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
M元素源が、M元素化合物水溶液である請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
M元素が、Hf、Mg、Cu、Sn、Zn、及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
M元素が、AlとMgとからなり、Al/Mgが原子比で1/3〜3/1であり、かつ0.005≦y≦0.025である請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
M元素がMgであり、Q元素/Mgが原子比で1/40〜2/1であり、かつ0.005≦y≦0.025である請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
リチウム含有複合酸化物の、CuKαを線源とするX線回折によって測定される、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピークの積分幅が0.08〜0.14°表面積が0.2〜0.7m2/gである請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
リチウム含有複合酸化物の平均粒径が、3〜20μmである請求項1〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法により製造されたリチウム含有複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項16】
請求項15に記載された正極を使用したリチウム二次電池。

【公開番号】特開2010−67614(P2010−67614A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248963(P2009−248963)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【分割の表示】特願2006−512855(P2006−512855)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】