説明

リチウム二次電池用正極およびその製造方法

【課題】ハイレート充放電に対しても層間剥離し難く、正極集電体の腐食の要因となる高電気抵抗性化合物の生成が防止されたリチウム二次電池用の正極を提供する。
【解決手段】本発明により提供されるリチウム二次電池用の正極は、正極集電体の表面に積層された導電層と、該導電層上に積層された活物質層とを備える正極であって、該導電層には、結着材として有機溶剤に対して可溶性である少なくとも一種の非水溶性ポリマーと、導電材とが含まれており、該活物質層には、結着材として水に可溶又は分散する少なくとも一種の水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーと、正極活物質とが含まれており、該活物質層における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、該導電層における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が、0.06≦B/A≦0.35を満たしていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極集電体の表面に導電層と、該導電層上に積層された活物質層とを備えるリチウム二次電池用の正極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池やニッケル水素電池等の二次電池は、電気を駆動源とする車両搭載用電源、あるいはパソコン及び携帯端末その他の電気製品等に搭載される電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。
この種のリチウム二次電池の一つの典型的な構成では、電極集電体の表面にリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る電極活物質層(具体的には、正極活物質層および負極活物質層)を有する。例えば、正極の場合、リチウム遷移金属複合酸化物等の正極活物質が、高導電性材料の粉末(導電材)および結着材等と適当な溶媒の中で混合されて調製された正極活物質層形成用のペースト状組成物(スラリー状組成物、インク状組成物を包含する。以下「電極ペースト」と略称する。)が正極集電体に塗布されることにより正極活物質層が形成される。
【0003】
ここで、有機溶剤を溶媒として電極ペーストが調製される場合、上記結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の有機溶剤に対して可溶性の非水溶性ポリマーが用いられる。他方、水系溶媒を溶媒として電極ペーストが調製される場合にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やカルボキシメチルセルロース(CMC)等の水溶性ポリマー若しくは水分散性ポリマーが結着材として好適に用いられる。このうち、後者の水系溶媒を使用する電極ペースト(以下、「水系電極ペースト」という。)は、有機溶剤等の産業廃棄物が少なくて済み、尚且つそのための設備及び処理コストが発生しないことから総じて環境負荷が低減される利点を有する。
【0004】
しかしながら、上記水系電極ペーストは、正極活物質の内容によっては(例えば、リチウムニッケル系複合酸化物であって、式:LiNiOで表される組成の酸化物)、水との反応性の高さに起因してpHが高くなる傾向がある。かかる高pHの水系電極ペーストを金属製正極集電体(例えばアルミニウム)に塗布すると、集電体の表面に高電気抵抗性を示す化合物(例えば酸化物、水酸化物)が生成されるため、正極集電体が腐食し電池の内部抵抗が増大する原因となり得る。
この種の水系電極ペーストを用いたリチウム二次電池の正極に関する従来技術として、特許文献1が挙げられる。特許文献1に記載の技術では、正極集電体と水系電極ペーストで形成される活物質層との間に、非水系電極ペーストで形成される導電材を含む導電層を介在させることによって、正極集電体の腐食の要因となる高電気抵抗性化合物の生成を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−4739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、リチウム二次電池の用途のなかには、ハイレート充放電(急速充放電)を繰り返す態様で長期に亘って使用されることが想定されるものがある。車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車)の動力源として用いられるリチウム二次電池は、かかる使用態様が想定される代表例である。ここで、上記特許文献1では、導電層の結着材としては水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーが用いられるのに対し、活物質層の結着材としては非水溶性ポリマーが用いられており、このように異なる種類の結着材からなる層同士が積層されているため、車両搭載用高出力電源としてハイレート充放電を繰り返す態様で長期に亘って使用されると互いの層間の接合力が弱まり層間剥離を生じる虞がある。
【0007】
そこで、本発明はリチウム二次電池用の正極に関する従来の問題点を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、異なる結着材を含む層が互いに積層された構造を備えるリチウム二次電池用の正極であって、ハイレート充放電に対しても層間剥離し難く(層間の接着性が高い)、内部抵抗の上昇が抑制された品質に優れた正極およびその製造方法を提供することである。また、このような正極を備えるリチウム二次電池および該電池を備える車両を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく本発明により、正極集電体の表面に積層された導電層と、該導電層上に積層された活物質層とを備えるリチウム二次電池用の正極が提供される。本発明に係るリチウム二次電池用の正極は、上記導電層には、結着材として有機溶剤に対して可溶性である少なくとも一種の非水溶性ポリマーと、導電材とが含まれており、上記活物質層には、結着材として水に可溶又は分散する少なくとも一種の水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマー(以下、これらを総称して「水性ポリマー」という。)と、正極活物質とが含まれている。また、上記活物質層における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、上記導電層における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が、0.06≦B/A≦0.35を満たしていることを特徴とする。
【0009】
なお、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間のリチウムイオンの移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
また、本明細書において「正極活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種(ここではリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および脱離)可能な正極側の活物質をいう。
【0010】
本発明によって提供されるリチウム二次電池用の正極は、正極集電体と水系電極ペーストから成る活物質層との間に非水系電極ペーストから成る導電材を含む導電層が介在された積層構造を備えており、活物質層に含有する結着材と導電層とは異なる種類の材料が用いられている。すなわち、活物質層に含有する結着材は水に可溶又は分散するタイプの水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーが用いられ、他方、導電層に含有する結着材は有機溶剤に対して可溶性である非水溶性ポリマーが用いられている。そして、活物質層における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、導電層における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が、0.06≦B/A≦0.35を満たしている。互いの層における単位面積当たりの結着材の質量比が上記範囲を満たすように積層されているリチウム二次電池用の正極では、異なる種類の結着材を各々含む二つの層が積層されていても、かかる層間の接着性が非常に優れているため、ハイレート充放電に対しても層間剥離し難い。そのため正極集電体の腐食の要因となる高電気抵抗性化合物の生成が抑制される。これにより、層間が強固に結着した品質に優れたリチウム二次電池用の正極を提供することができる。
【0011】
また、発明によって提供されるリチウム二次電池用の正極の好ましい他の一態様では、上記導電層における上記非水溶性ポリマーと上記導電材との合計量を100質量%としたとき、該導電層における該導電材の含有率は、20質量%以上50質量%以下である。上記導電層には、水(典型的には水系電極ペースト中に含まれる水分)と正極集電体との直接接触を阻む役割とともに、活物質層と正極集電体との間の抵抗を過度に上昇させない程度の導電性を保持することが求められる。ここで、導電層における導電材の含有割合を多くすることは導電性向上につながるが、上記割合を単に多くするのでは結着材の含有割合が相対的に少なくなり層間の接着性が低下してしまう。しかし逆に、結着材の含有割合を多くすると、導電材の含有割合が相対的に少なくなり導電性が低下する。そこで、上記導電層における非水溶性ポリマーである結着材と上記導電材との合計量を100質量%としたとき、該導電層における該導電材の含有率が20質量%以上50質量%以下を備える正極、換言すると、導電層に含有する導電材の含有量を全体の半分以下にすることにより、導電性を保ちながら接着性を向上させることができる。その結果、層間の接着性が高く、内部抵抗の上昇が抑制された高品質のリチウム二次電池用の正極を提供することができる。
【0012】
さらに、本発明によって提供されるリチウム二次電池用の正極の好ましい他の一態様では、上記導電層には結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)が含まれており、上記活物質層には結着材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれていることを特徴とする。かかる結着材がそれぞれ含まれた層を備えることにより、より高い接着性が得られる。その結果、ハイレート充放電に対しても層間剥離し難い積層構造を備えるリチウム二次電池用の正極を提供することができる。
【0013】
また、好ましく提供されるリチウム二次電池用の正極の他の一態様では、上記活物質層には導電材が含まれていることを特徴とする。活物質層に含有する組成物として、上記結着材および正極活物質に導電材がさらに添加されることにより、かかる組成物から成る活物質層と、導電層との導電パスが向上する。これにより、内部抵抗の上昇が抑制されたリチウム二次電池用の正極を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、他の側面として、リチウム二次電池用の正極を製造する方法を提供する。すなわち、本発明によって提供される製造方法は、正極集電体の表面に導電層と、該導電層上に積層された活物質層との積層構造を備えるリチウム二次電池用の正極を製造する方法であって、結着材として有機溶剤に対して可溶性である少なくとも一種の非水溶性ポリマーと導電材とを含む組成物を用いて前記導電層を形成すること、および、結着材として水に可溶又は分散する少なくとも一種の水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマー(水性ポリマー)と、正極活物質とを含む組成物を用いて前記活物質層を形成することを包含する製造方法である。そして、本発明の製造方法では、前記活物質層における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、前記導電層における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が、0.06≦B/A≦0.35を満たすように前記積層構造を形成することを特徴とする。
水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーを結着材として含む組成物からなる活物質層と、非水溶性ポリマーを結着材として含む組成物からなる導電層との二層構造においては、長期間の電池の使用、特にハイレート充放電下での使用により、層同士の接着力が低下し層間剥離し易くなる。しかしながら、互いの層における単位面積当たりの結着材の質量比を上記のような関係を満たすように積層構造を形成することにより、ハイレート充放電に対しても層間剥離し難い高い接着性を備える。これにより、正極集電体の腐食の要因となる高電気抵抗性化合物の生成が抑制され、品質に優れたリチウム二次電池用の正極を製造する方法を提供することができる。
【0015】
また、本発明によって提供される好ましい一態様のリチウム二次電池用の正極を製造する方法では、上記導電層における上記非水溶性ポリマーと上記導電材との合計量を100質量%としたときの該導電層における該導電材の含有率が20質量%以上50質量%以下となるように該導電層を積層する。上記導電層における導電材の含有割合を多くすることは導電性の向上につながるが、結着材の含有割合が相対的に少なくなり層間の接着性が低下してしまう。そこで、該導電層における導電材の含有率が20質量%以上50質量%以下となるように導電層を正極集電体の上に積層することにより、導電性を保ちながら導電層と活物質層との接着性が向上する。その結果、層間の接着性が高く、内部抵抗の上昇が抑制された高品質のリチウム二次電池用の正極を製造する方法を提供することができる。
【0016】
さらに、本発明によって提供されるリチウム二次電池用の正極を製造する方法の好ましい他の一態様では、上記導電層における結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用し、上記活物質層における結着材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を使用することを特徴とする。かかる結着材がそれぞれ含まれた組成物を使用して導電層および活物資層から成る積層構造を形成すると、ハイレート充放電に対しても層間剥離し難い正極となり得る。これにより、内部抵抗の上昇が抑制されたリチウム二次電池用の正極を提供することができる。
【0017】
また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの正極(ここに開示されるいずれかの方法により製造された正極であり得る。)を備えるリチウム二次電池が提供される。さらに、上記リチウム二次電池を備える車両が提供される。本発明によって提供されるリチウム二次電池用の正極は、車両に搭載されるリチウム二次電池として適した品質(例えば内部抵抗の上昇抑制)を示すものであり得る。したがって、かかるリチウム二次電池は、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用の電源として好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、一実施形態に係るリチウム二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、図1におけるII−II線断面図である。
【図3】図3は、一実施形態に係る捲回電極体を構成する正負極およびセパレータを示す断面図である。
【図4】図4は、実施例で作製したリチウム二次電池用の正極の活物質層および導電層における単位面積あたりの結着材の質量比に対する抵抗上昇率を示したグラフである。
【図5】図5は、本発明のリチウム二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
本発明に係るリチウム二次電池用の正極は、正極集電体の表面に導電層と、該導電層上に積層された活物質層とを備えることによって特徴付けられる。以下、ここに開示される上記積層構造を備える正極を用いて構築される角型形状のリチウム二次電池(リチウムイオン電池)を例にして詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。電荷担体としてのリチウムイオンの移動により充放電が実現される電池であればよく、すなわち、負極、電池ケース、電解質等の構成は特に限定されない。例えば、電池ケースは直方体状、扁平形状、円筒形状等の形状であり得、負極または電解質の構成は、用途(典型的には車載用)によって適切に変更することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0021】
図1は、一実施形態に係る角型形状のリチウム二次電池100を模式的に示す斜視図である。また、図2は、図1中のII−II線断面図である。さらに、図3は、一実施形態に係る捲回電極体を構成する正負極およびセパレータを示す断面図である。
図1に示されるように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、直方体形状の角型の電池ケース10と、該ケース10の開口部12を塞ぐ蓋体14とを備える。この開口部12より電池ケース10内部に扁平形状の電極体(捲回電極体20)及び電解質を収容することができる。また、蓋体14には、外部接続用の正極端子38と負極端子48とが設けられており、それら端子38,48の一部は蓋体14の表面側に突出している。
【0022】
図2に示されるように、本実施形態では該ケース10内に捲回電極体20が収容されている。該電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に導電層34および活物質層36が形成された正極シート30、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40、及び長尺シート状のセパレータ50A,50Bからなる。そして、図3に示されるように、正極シート30及び負極シート40を2枚のセパレータ50A,50Bと共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体20を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。
【0023】
また、捲回される正極シート30において、その長手方向に沿う一方の端部には導電層34および活物質層36が形成されずに正極集電体32が露出しており、一方、捲回される負極シート40においても、その長手方向に沿う一方の端部は負極活物質層44が形成されずに負極集電体42が露出している。そして、正極集電体32の該露出端部に正極端子38が、負極集電体42の該露出端部には負極端子48がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。正負極端子38,48と正負極集電体32,42とは、例えば超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合され得る。
【0024】
まず、本実施形態に係るリチウム二次電池100の正極の各構成要素について説明する。ここで開示されるリチウム二次電池用の正極(典型的には正極シート30)は、正極集電体32の表面に積層された導電層34と、該導電層34上に形成された活物質層36とを備え、上記導電層34および上記活物質層36は、それぞれ異なる組成物から成る。そして、導電層34には、結着材として有機溶剤に対して可溶性である少なくとも一種の非水溶性ポリマーと、導電材とが含まれている。また他方、活物質層36には、結着材として水に可溶又は分散する少なくとも一種の水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーと、正極活物質とが含まれている。
【0025】
上記正極集電体32としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウム二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状のアルミニウム製の正極集電体32が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウム二次電池100に好ましく使用され得る。
【0026】
ここで開示されるリチウム二次電池100の正極に用いられる導電材は、従来この種の二次電池で用いられているものであればよく、特定の導電材に限定されない。例えばカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末、等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用して用いてもよい。
また、上記導電材として好ましい平均粒径(TEM像による。以下同じ。)は、1μm以下(例えば500nm以下、好ましくは100nm以下)である。かかる平均粒径を備える導電材を用いて形成される導電層では導電性が向上されるため、該導電層の抵抗が凡そ20mΩ・cm以下に抑えられる。特に平均粒径が1μm以下のアセチレンブラックを主とするカーボンブラックでは、上記効果が顕著に得られる。
【0027】
また、本実施形態に係る上記導電層34に含まれる結着材は、有機溶剤に対して可溶性であり且つ水に対して不溶性である非水溶性ポリマーである。この種のポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(PEO−PPO)等が挙げられる。特に好ましく用いられる結着材はPVDFである。
他方、本実施形態に係る活物質層36に含まれる結着材は、水性ポリマー、即ち有機溶剤に対して不溶性であり且つ水に可溶又は分散する水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーである。例えば、水に溶解するポリマーとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等、種々のセルロース誘導体が挙げられる。また、水に分散するポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類が挙げられる。特に好ましく用いられる結着材はCMCである。
【0028】
さらに、ここで開示されるリチウム二次電池100の正極に用いられる活物質層36に含まれる正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な粒状の活物質材料が用いられる。この種のリチウム二次電池の正極活物質として知られている層状構造の酸化物系正極活物質や、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を好ましく用いることができる。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
ここで、リチウムニッケル系複合酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、リチウムおよびニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を典型的にはニッケルよりも少ない割合(原子数換算。LiおよびNi以外の金属元素を二種以上含む場合にはそれらの合計量としてNiよりも少ない割合)で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、コバルト(Co),アルミニウム(Al),マンガン(Mn),クロム(Cr),鉄(Fe),バナジウム(V),マグネシウム(Mg),チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),タングステン(W),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),インジウム(In),スズ(Sn),ランタン(La)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される一種または二種以上の金属元素であり得る。なお、リチウムコバルト系複合酸化物およびリチウムマンガン系複合酸化物についても同様の意味である。
また、一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素;例えばLiFePO、LiMnPO)で表記されるオリビン型リン酸リチウムを上記正極活物質として用いてもよい。
【0029】
上記リチウム遷移金属酸化物としては、例えば、従来公知の方法で調製・提供されるリチウム遷移金属酸化物粉末(以下、粒状活物質ということもある。)をそのまま使用することができる。例えば、原子組成に応じて適宜選択されるいくつかの原料化合物を所定のモル比で混合し、適当な手段で焼成することによって該酸化物を調製することができる。また、焼成物を適当な手段で粉砕、造粒および分級することにより、所望する平均粒径および/または粒径分布を有する二次粒子によって実質的に構成された粒状のリチウム遷移金属酸化物粉末を得ることができる。なお、リチウム遷移金属酸化物粉末の調製方法自体は本発明を何ら特徴付けるものではない。
【0030】
以下、本実施形態に係る正極の製造方法について説明する。ここで開示される方法は、正極集電体32の表面(形状・用途に応じて集電体の両面又は一方の面であり得る。)に導電層形成用組成物を付与し、次いで、形成された導電層34上に活物質層形成用組成物を付与して活物質層36を積層する。
まず、導電層形成用組成物は、結着材として有機溶剤に対して可溶性であり且つ水に対して不溶性である少なくとも一種の非水溶性ポリマーと導電材と有機溶媒とが混合されることにより調製されるペースト状組成物(スラリー状組成物、インク状組成物を包含する。以下「非水系電極ペースト」と略称する。)である。例えば、適当な導電材(例えば炭素粉末)と、結着材(例えばPVDF)とを適当な質量割合で適当な非水系溶媒に添加し混合することによって、導電層形成用の非水系電極ペーストを調製することができる。かかる非水系電極ペーストを調製するにあたり添加する好ましい非水系溶媒(有機溶剤)としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン、トルエン等が例示される。
【0031】
上記導電層形成用の非水系電極ペーストを用いて接着性能に優れた導電層34を形成するため、導電材と非水溶性ポリマー(結着材)の合計量を100質量%としたときの該導電材の含有率が20質量%以上50質量%以下(より好ましくは20質量%以上40質量%、特に好ましくは20質量%以上35質量%)となるように導電材と非水溶性ポリマーとを配合することが好ましい。導電材の含有率が50質量%よりも多い場合、導電性は良くなるが接着性低下による剥離を生じ、電池の内部抵抗が増大するため好ましくない。他方、導電材の含有率が20質量%よりも小さい場合は、導電性低下(すなわち導電パスの減少)を招くため好ましくない。しかしながら、導電層34に含有する導電材の含有量を上記範囲、すなわち全体の半分以下にすることにより、導電性を保ちながら接着性を向上させることができる。
【0032】
そして、調製した導電層形成用の非水系電極ペーストを、正極集電体32の表面に付与し、該ペーストに含まれる溶媒を乾燥させることにより導電層34を形成することができる。かかる導電層形成用の非水系電極ペーストを正極集電体32に付与するにあたっては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、スリットコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター等の塗布装置が挙げられる。また、必要に応じて、乾燥後、圧縮することにより、導電層34を所望の厚みに調整することができる。かかる圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。また、膜厚測定器で該厚みを測定し、プレス圧を調整して所望の厚さになるまで複数回圧縮してもよい。
なお、塗布する厚みは、導電層34における十分な導電経路(導電パス)を確保することができれば特に限定しないが、例えば、正極集電体32の片面あたり0.1μm以上5.0μm以下(好ましくは、1.0μm以上4.0μm以下)の厚みとなるように塗布することが好ましい。上記塗布厚みが5.0μm以上の場合では、導電性が低下し電池容量維持率が小さくなる。他方、0.1μm以下の厚みでは、正極集電体32と活物質層36との間に介在する導電層34としては薄すぎるため、集電体32が腐食する虞があり好ましくない。
さらに、好ましい正極集電体32の単位面積あたりの被覆量、すなわち導電材および非水溶性ポリマーの総量[g/m]は、集電体の片面あたり0.25g/m以上5.0以下g/m(好ましくは、集電体の片面あたり1.7g/m以上3.2以下g/m)である。
上記導電層形成用の非水系電極ペーストを正極集電体32に塗布した後、適当な乾燥機を用いて、最高温度が140〜150℃の範囲内となるまで該集電体を加熱することが好ましい。かかる加熱処理により、導電層形成用組成物の有機溶剤を速やかに除去し得るとともに、導電層形成用組成物に含まれる非水溶性ポリマーの結晶化度が好適な程度に高められる。こうして集電体表面に所定の厚みの導電層34を形成することができる。
【0033】
上述のようにして導電層34を正極集電体32の表面に積層した後、該導電層34上に活物質形成用組成物を付与し、活物質層36を形成する。上記活物質層形成用組成物は、正極活物質と、結着材として有機溶剤に対して不溶性であり且つ水に可溶又は分散する少なくとも一種の水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーと、水系溶媒(典型的には水)とが混合されることにより調製されるペースト状組成物(水系電極ペースト)である。かかる活物質層形成用の水系電極ペーストは、例えば、少なくとも一種の適当な正極活物質(例えばLiNiO、LiCoO、LiMn等のリチウム遷移金属複合酸化物)と、結着材(例えばCMC)とを適当な質量割合で水(例えばイオン交換水)に添加し、混合することによって調製することができる。なお、活物質層36を構成する好ましい組成物に導電材を添加してもよい。上記活物質層36と上記導電層34との導電パスを向上することができる。
かかる水系電極ペーストを調製するための水系溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒であることが好ましい。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系溶媒の凡そ80質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上、さらに好ましくは凡そ95質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒(例えば水)が挙げられる。
【0034】
さらに、ここで開示されるリチウム二次電池100の正極は、活物質層36における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、導電層34における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が、0.06≦B/A≦0.35(好ましくは0.08≦B/A≦0.33、特に好ましくは0.13≦B/A≦0.30)の関係を満たしている。上記導電層34を形成する非水系電極ペーストと、上記活物質層36を形成する水系電極ペーストとは、相対する性状の結着材からなる層同士が積層されているため、長期間の使用やハイレート充放電の使用下では、層同士の接着性が低下し層間剥離する虞がある。しかしながら、活物質層36における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、導電層34における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が、上記関係を満たす組成物によって積層された正極を備える電池では、活物質層36および導電層34の互いの接着性が非常に優れているため、ハイレート充放電に対しても層間剥離し難くい。そのため、正極集電体32の腐食の要因となる高電気抵抗性化合物の生成が防止され、内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0035】
そして、調製した活物質層形成用の水系電極ペーストを、上記導電層34上に付与し、該ペーストに含まれる溶媒を乾燥させることにより活物質層36を形成することができる。かかる活物質層形成用の水系電極ペーストを導電層32上に付与するにあたっては、上記列挙した方法と同様の技法を適宜採用することができる。また、活物質層36は、導電層34表面のほぼ全範囲に形成されていてもよく、導電層34表面のうち一部範囲のみに形成されていてもよい。通常は、活物質層36を形成することによる効果および該活物質層36の耐久性等の観点から、少なくとも導電層34表面のほぼ全範囲を覆うように活物質層36が形成された構成とすることが好ましい。なお、正極集電体32上に導電層34が形成された態様の正極において正極集電体32の一部に導電層34の形成されていない部分が残されている場合、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、上記活物質層36の一部が導電層34の未形成部分にまで延長して設けられた構成としてもよい。
【0036】
本発明により提供され得る正極を備えるリチウム二次電池100は、上述の導電層34および活物質層36から成る正極を備える以外は、従来のこの種のリチウム二次電池に備えられるものと同様でよく、特に制限はない。以下、その他の構成要素について説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。
【0037】
例えば、負極シート40は、長尺状の負極集電体42(例えば銅箔)の上に負極活物質層44が形成された構成であり得る。負極活物質層44を構成するリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、好適な負極活物質としてカーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。特に黒鉛粒子は、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことからよりハイレート充放電に適した負極活物質となり得る。
【0038】
負極活物質層44には、上記負極活物質の他に、一般的なリチウム二次電池に配合され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有させることができる。そのような材料として、上述の導電層34および活物質層36の構成材料として列挙したような結着材として機能し得る各種のポリマー材料を同様に使用し得る。
かかる負極活物質層44は、負極活物質と結着材等とを適当な溶媒(水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒)に添加し、分散または溶解させて調製したペーストまたはスラリー状の組成物を負極集電体42に塗布し、溶媒を乾燥させて圧縮することにより好ましく作製され得る。
【0039】
また、セパレータ50A,50Bは、正極シート30および負極シート40の間に介在するシートであって、正極シート30の導電層34と活物質層36と、負極シート40の負極活物質層44にそれぞれ接するように配置される。そして、正極シート30と負極シート40における活物質層36,44の接触に伴う短絡防止や、該セパレータ50A,50Bの空孔内に上記電解質を含浸させることにより電極間の伝導パス(導電経路)を形成する役割を担っている。かかるセパレータ50A,50B構成材料としては、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の多孔質ポリオレフィン系樹脂が特に好ましい。
【0040】
本実施形態に係る電解質は、リチウムイオンを含む非水電解質(典型的には非水系液体電解質)であって、非水溶媒(有機溶媒)にリチウム塩を支持塩として溶解させた非水溶媒系電解液であり、例えば一般的なリチウム二次電池に用いられる電解質を用いることができる。上記電解質を構成する非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート等の一種または二種以上を好ましく使用することができる。また、支持塩であるリチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiAsF、Li(CFSON、LiBF、LiCFSO等の一種または二種以上を使用することができる。
【0041】
上記作製した正極シート30及び負極シート40を2枚のセパレータ50A,50Bと共に積重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体20を電池ケース10に収容するとともに、上記電解質を注入して封止することによって本実施形態のリチウム二次電池100を構築することができる。
なお、電池ケース10の構造、大きさ、材料(例えば金属製またはラミネートフィルム製であり得る)、および正負極を主構成要素とする電極体の構造(例えば捲回構造や積層構造)等について特に制限はない
【0042】
以下、本発明に関する試験例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0043】
活物質層における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、導電層における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が異なるリチウム二次電池用の正極に対して、インピーダンスを測定することによりその抵抗に相違があるか否かを評価した。その具体的方法を以下に示す。
【0044】
[リチウム二次電池用の正極の作製]
リチウム二次電池用の正極を作製した。すなわち、正極における導電層を形成するにあたり、結着材としのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電材としてのアセチレンブラックとを、これら材料の質量%比が72:28となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて混合し、ペースト状の導電層形成用組成物を調製した。
そして、該組成物を正極集電体としての厚み約10μmのアルミニウム箔の両面に塗布装置を用いて塗布した。塗布後、乾燥させてローラプレス機にてシート状に引き伸ばし、正極集電体の表面に導電層を形成した。
【0045】
次いで、該導電層の上に活物質層を積層した。そこで、活物質層に含む正極活物質を調製した。すなわち、反応晶析法を用いて、金属コバルトおよびアルミニウムを予め懸濁させた水溶液に、ニッケル塩水溶液および水酸化アルカリ水溶液を添加して水酸化ニッケルを晶析させた。そして、該水酸化ニッケルと水酸化リチウムとを焼成し、リチウムニッケル複合酸化物LiNiOを得た。
上記調製した正極活物質としてのLiNiOと、導電材としてのアセチレンブラックと、結着材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量%比が100:10:1となるようにイオン交換水と混合して、ペースト状の活物質層形成用組成物を調製した。塗布装置を用いて調製した該組成物を導電層に塗布し、上記水分を除去した後、ローラプレス機にてシート状に引き伸ばして活物質層を形成した。
このとき、活物質層における単位面積当たりの結着材CMCの質量(B)と、導電層における単位面積当たりの結着材PVDFの質量(A)との質量比(B/A)が、それぞれ異なる11種類のサンプルを用意した。表1にサンプル1〜11の質量比を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記導電層上に活物質層を積層して作製した2枚の正極シートの間に厚さ約30μmの多孔性のポリプロピレン製のセパレータを挟み込み、正極シート端部に外部端子を接合した。接合した正極シートおよびセパレータの積層体をラミネート製のケースに収容し、電解質を該ケース内に注入した。電解質としては、体積比1:1:1のエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒に1mol/Lの濃度で支持塩LiPFを溶解したものを使用した。そして、上記電解質を注入後、ケースの開口部分を封口した。
【0048】
その後、適当な電解質の含浸処理(例えば、200Torrまでの真空含浸処理)を行い、正極細孔中に電解質が十分に含浸されたのち、サンプル1〜11のインピーダンスを測定した。測定周波数をスイープしてインピーダンス測定を行い、Cole−Coleプロットから直流抵抗を読み取った。
なお、上記インピーダンス測定は、サンプル1〜11を60℃、3日間保存した後、同様に実施した。その結果を図4に示す。なお、図4中の横軸は活物質層における単位面積当たりの結着材CMCの質量(B)と、導電層における単位面積当たりの結着材PVDFの質量(A)との質量比(B/A)を示し、縦軸はインピーダンス測定結果から得られた60℃、3日間保存後の直流抵抗値の上昇率を表す。
【0049】
図4に示されるように、活物質層における単位面積当たりの結着材CMCの質量(B)と、導電層における単位面積当たりの結着材PVDFの質量(A)との質量比(B/A)が、0.06以上0.35以下のサンプルでは、上昇率は1.2以下を示した。特に、質量比(B/A)が0.0800(サンプル4)、0.1333(サンプル3)、0.2667(サンプル1およびサンプル2)0.3333(サンプル8)、および0.3509(サンプル11)は、いずれも上昇率が1.2より小さく、剥離による抵抗増加が小さいことが示された。
【0050】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上述した捲回型の電池に限られず、種々の形状のリチウム二次電池に適用することができる。また、該電池の大きさおよびその他の構成についても、用途(典型的には車載用)によって適切に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るリチウム二次電池100の正極は、上述のような正極集電体32の表面に導電層34と、該導電層上に積層された活物質層36とを備えることにより、ハイレート充放電に対しても層間剥離し難く、正極集電体32の腐食の要因となる高電気抵抗性化合物が生成され難いものとなり得る。かかる特性により、本発明に係る正極を備えるリチウム二次電池100は、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って、図5に示されるように、かかるリチウム二次電池100(当該リチウム二次電池100を複数個直列に接続して形成される組電池の形態であり得る。)を電源として備える車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)を提供する。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
10 電池ケース
12 開口部
14 蓋体
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 導電層
36 活物質層
38 正極端子
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
48 負極端子
50A,50B セパレータ
100 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の表面に積層された導電層と、該導電層上に積層された活物質層とを備えるリチウム二次電池用の正極であって、
前記導電層には、結着材として有機溶剤に対して可溶性である少なくとも一種の非水溶性ポリマーと、導電材とが含まれており、
前記活物質層には、結着材として水に可溶又は分散する少なくとも一種の水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーと、正極活物質とが含まれており、
ここで、前記活物質層における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、前記導電層における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が、0.06≦B/A≦0.35を満たしていることを特徴とする、正極。
【請求項2】
前記導電層における前記非水溶性ポリマーと前記導電材との合計量を100質量%としたとき、該導電層における該導電材の含有率は、20質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記導電層には結着材としてポリフッ化ビニリデンが含まれており、前記活物質層には結着材としてカルボキシメチルセルロースが含まれていることを特徴とする、請求項1または2に記載の正極。
【請求項4】
前記活物質層には導電材が含まれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の正極。
【請求項5】
正極集電体の表面に導電層と、該導電層上に積層された活物質層との積層構造を備えるリチウム二次電池用の正極を製造する方法であって、
結着材として有機溶剤に対して可溶性である少なくとも一種の非水溶性ポリマーと、導電材とを含む組成物を用いて前記導電層を形成すること、および、
結着材として水に可溶又は分散する少なくとも一種の水溶性ポリマー及び/又は水分散性ポリマーと、正極活物質とを含む組成物を用いて前記活物質層を形成すること、
を包含し、
ここで、前記活物質層における単位面積当たりの結着材の質量(B)と、前記導電層における単位面積当たりの結着材の質量(A)との質量比(B/A)が、0.06≦B/A≦0.35を満たすように前記積層構造を形成することを特徴とする、製造方法。
【請求項6】
前記導電層における前記非水溶性ポリマーと前記導電材との合計量を100質量%としたときの該導電層における該導電材の含有率が20質量%以上50質量%以下となるように該導電層を積層する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記導電層における結着材としてポリフッ化ビニリデンを使用し、前記活物質層における結着材としてカルボキシメチルセルロースを使用することを特徴とする、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の正極、又は請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法により製造された正極、を備えるリチウム二次電池。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウム二次電池を備える車両。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−170965(P2010−170965A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14706(P2009−14706)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【特許番号】特許第4487220号(P4487220)
【特許公報発行日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】