説明

リチウム二次電池用正極合剤ペースト

【課題】リチウム二次電池用正極合剤ペーストにおいて、正極活物質の導電性を阻害せずに分散安定化を図るとともに、電池材料粉体とバインダー成分の結着力を向上させ、ひいてはこれを用いて作製される電池の電池性能を向上させること。
【解決手段】前記課題は、酸性官能基を有する樹脂と、正極活物質と、を含んでなるリチウム二次電池用正極合剤ペーストにより解決される。更に、バインダー成分、導電助剤、及び溶剤を含んでなる前記ペーストにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池を構成する正極を作製するために使用する正極合剤ペースト及びその製造方法に関する。
又、本発明は、大電流での放電特性あるいは充電特性、サイクル特性、及び電極合剤の導電性に優れ、電極集電体と電極合剤との接触抵抗が小さい電極を具備するリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラや携帯電話のような小型携帯型電子機器が広く用いられるようになってきた。これらの電子機器には、容積を最小限にし、かつ重量を軽くすることが常に求められてきており、搭載される電池においても、小型、軽量かつ大容量の電池の実現が求められている。又、自動車搭載用等の大型二次電池においても、従来の鉛蓄電池に代えて、大型の非水電解質二次電池の実現が望まれている。
【0003】
そのような要求に応えるため、リチウム二次電池の開発が活発に行われている。リチウム二次電池の電極としては、リチウムイオンを含む正極活物質、導電助剤、及び有機バインダー等からなる電極合剤を金属箔の集電体の表面に固着させた正極、及び、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質、導電助剤、及び有機バインダー等からなる電極合剤を金属箔の集電体の表面に固着させた負極が使用されている。
【0004】
一般的に、正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、及びニッケル酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、これらは電子伝導性が低く、単独での使用では十分な電池性能が得られない。そこで、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)等の炭素材料を導電助剤として添加することで導電性を改善し、正極の内部抵抗を低減することが試みられている。又、より少ないカーボンブラック量で効率的に内部抵抗を低減させるために、電極内で正極活物質と導電助剤の炭素材料の両者が、より細かいレベルで均一に混合されていることが求められる。
とりわけ電極の内部抵抗を低減することは、大電流での放電を可能とすることや、充放電の効率を向上させる上で非常に重要となっている。
【0005】
しかしながら、親水性の高い無機成分である正極活物質と、疎水性の高いカーボンブラック等の炭素材料は、粒子表面の物性が大きく異なるため、そのままでは正極合剤ペースト中に均一に分散・混合させることは困難となり、正極活物質及び導電助剤である炭素材料の性能を最大限に生せず、電池性能としての高い向上が期待できない。又、正極合剤中の正極活物質と導電助剤の分散が不十分であると、部分的凝集に起因して電極板上に抵抗分布が生じ、電池として使用した際に電流が集中し、部分的な発熱及び劣化が促進される等の不具合が生ずることがある。
【0006】
又、金属箔等の集電体上に正極合剤層を形成する場合、多数回充放電を繰り返すと、集電体と正極合剤層の界面や、正極合剤内部における正極活物質と導電助剤界面の密着性が悪化し、電池性能が低下する問題がある。これは、充放電におけるリチウムイオンのドープ、脱ドープにより正極活物質及び正極合剤層が膨張、収縮を繰り返すために、正極合剤層と集電体界面及び、正極活物質と導電助剤界面に局部的なせん断応力が発生し界面の密着性が悪化するためと考えられている。そしてこの場合も、正極活物質と導電助剤の分散が不十分であると、密着低下が著しくなる。これは、粗大な凝集粒子が存在すると、応力が緩和されにくくなるためであると考えられる。
【0007】
リチウム二次電池においては、活物質と導電助剤である炭素材料の分散が重要なポイントの一つである。特許文献1、特許文献2には、活物質及びカーボンブラックを溶剤に分散する際に、分散剤として界面活性剤を用いる例が記載されている。しかしながら、界面活性剤は粒子表面への吸着力が弱いため、良好な分散安定性を得るには界面活性剤の添加量を多くしなければならず、この結果、含有可能な活物質の量が少なくなり、電池容量が低下してしまう。又、界面活性剤の粒子への吸着が不十分であると、活物質や炭素材料が凝集してしまう。又、一般的な界面活性剤では、水溶液中での分散と比較して、有機溶剤中での分散効果が著しく低い。
【0008】
又、特許文献3には、負極活物質とカーボンブラックを水に分散する際に、分散樹脂を添加することで分散状態を改善する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、活物質及びカーボンブラックの分散性は向上するものの、分子量の大きな分散樹脂が粒子表面を被覆してしまうことから、導電ネットワークが阻害されやすく電極の抵抗が増大し、結果的に活物質及びカーボンブラックの分散向上による効果を相殺してしまう場合がある。
【0009】
更に、電極材料の分散性の向上と併せて、充放電の効率を向上させる上で重要な要素としては、電極の電解液に対する濡れ性の向上が挙げられる。電極反応は、電極材料表面と電解液との接触界面で起こるため、電解液が電極内部まで浸透し電極材料が良く濡れることが重要となる。電極反応を促進させる方法としては、微細な活物質や導電助剤を用いて電極の表面積を増大させる方法が検討されているが、電解液に対する濡れが悪いため、実際の接触面積が大きくなりにくく、電池性能の向上が難しいといった問題がある。
【0010】
電極の濡れ性を改善する方法として、特許文献4には、負極活物質、炭素粉末に高級脂肪酸アルカリ塩の様な界面活性剤を吸着させ、濡れ性を改善する方法が開示されているが、上述したように界面活性剤は特に非水系での分散性能が十分でないことが多く、均一な電極塗膜が得られない。これらの例では、いずれも電極材料の分散性を含めたトータルでの性能としては不十分であった。
【特許文献1】特開昭63−236258号公報
【特許文献2】特開平8−190912号公報
【特許文献3】特表2006−516795号公報
【特許文献4】特開平6−60877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、リチウム二次電池用正極合剤ペーストにおいて、正極活物質の導電性を阻害せずに分散安定化を図ること、正極活物質の電解液に対する濡れ性を向上させること、並びに、本発明の電池用組成物を用いて作製される電池の電池性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、酸性官能基を有する樹脂と、正極活物質と、を含んでなるリチウム二次電池用正極合剤ペーストにより解決される。
【0013】
又、本発明は、酸性官能基を有する樹脂が、カルボキシル基、スルホン酸基、及び燐酸基からなる群から選ばれる1種類以上の酸性官能基を有する樹脂である前記リチウム二次電池用正極合剤ペーストに関する。
【0014】
又、本発明は、
酸性官能基を有する樹脂が、
酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1)、
分子内に2つの水酸基と1つのチオール基とを有する化合物(s)の存在下、エチレン性不飽和単量体(m)をラジカル重合してなる、片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)中の水酸基と、テトラカルボン酸二無水物(b)中の酸無水物基とを反応させてなるポリビニル系樹脂(A2)、並びに、
下記一般式(1):
(HOOC−)m−R21−(−COO−[−R23−COO−]n−R22t (1)
〔一般式(1)中、R21は、4価のテトラカルボン酸化合物残基であり、R22は、モノアルコール残基であり、R23は、ラクトン残基であり、mは、2又は3であり、nは、1〜50の整数であり、tは、(4−m)である。〕
で表されるポリエステル系樹脂(A3)、
からなる群から選ばれる1種類以上の酸性官能基を有する樹脂である前記リチウム二次電池用正極合剤ペーストに関する。
【0015】
又、正極活物質が、リン酸鉄リチウムである前記リチウム二次電池用正極合剤ペースト
に関する。
【0016】
本発明は、更に、酸性官能基を有する樹脂以外のバインダー成分を含んでなる前記リチウム二次電池用正極合剤ペーストに関する。
【0017】
又、バインダー成分が、分子内にフッ素原子を有する高分子化合物である前記リチウム
二次電池用正極合剤ペーストに関する。
【0018】
本発明は、更に、導電助剤を含んでなる前記リチウム二次電池用正極合剤ペーストに関する。
【0019】
本発明は、更に、溶剤を含んでなる前記リチウム二次電池用正極合剤ペーストに関する。
【0020】
又、本発明は、正極活物質と、酸性官能基を有する樹脂と、を溶剤に分散するリチウム二次電池用正極合剤ペーストの製造方法に関する。
【0021】
更に、本発明は、酸性官能基を有する樹脂で、あらかじめ処理された正極活物質を使用する前記リチウム二次電池用正極合剤ペーストの製造方法に関する。
【0022】
更に、本発明は、集電体上に正極合剤層を有する正極と、集電体上に負極合剤層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウム二次電池であって、正極合剤層が、前記リチウム二次電池用正極合剤ペーストを使用して形成されてなるリチウム二次電池に関する。
【0023】
前記製造方法により製造されたリチウム二次電池用正極合剤ペーストを使用して形成されてなるリチウム二次電池に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の好ましい実施態様によれば、正極活物質の導電性を阻害することなく、分散安定性に優れたリチウム二次電池用正極合剤ペーストを得ることができる。更に、本発明の好ましい実施態様に係るリチウム二次電池用正極合剤ペーストを、リチウム二次電池の正極に使用することにより、正極活物質が、正極合剤中に一次粒子レベルで均一に混合され、集電体と正極合剤との密着性、正極活物質と導電助剤との密着性、並びに正極合剤の電解液に対する濡れ性が、改善されて、正極の内部抵抗の低減を促すと共に、充放電の効率を向上することができ、電池性能を総合的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明におけるリチウム二次電池用正極合剤ペーストは、酸性官能基を有する樹脂と、正極活物質と、を含んでなることを特徴とするが、以下にその詳細を説明する。
【0026】
なお、本願では、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、及び「(メタ)アクリロイルオキシ」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」、「アクリレート及び/又はメタクリレート」、及び「アクリロイルオキシ及び/又はメタクリロイルオキシ」を表すものとする。
【0027】
≪正極活物質≫
本発明のリチウム二次電池用正極合剤ペーストに使用する正極活物質としては特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な、金属酸化物、及び金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、Ti、Fe、Co、Ni、及びMn等の遷移金属の酸化物、前記遷移金属とリチウムとの複合酸化物、並びに、前記遷移金属の硫化物等の無機化合物等が挙げられる。
【0028】
具体的には、
MnO、V25、V613、及びTiO2等の遷移金属酸化物粉末;
層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、及びスピネル構造のマンガン酸リチウム等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末;
オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料;並びに、
TiS2、及びFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。
【0029】
又、上記の無機化合物は2種類以上混合して用いてもよい。
【0030】
用いる正極活物質の比表面積は、値が大きいほど、正極活物質粒子どうしの接触点が増えるため、正極電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、0.1m2/g以上、150m2/g以下、好ましくは1m2/g以上、120m2/g以下、更に好ましくは1.5m2/g以上、100m2/g以下のものを使用することが望ましい。比表面積が0.1m2/gを下回る正極活物質を用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、150m2/gを超える正極活物質は、製造が容易でない場合がある。
【0031】
又、用いる正極活物質の粒径は、一次粒子径で0.01〜500μmが好ましく、特に、0.05〜100μmが好ましい。但し、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡等で測定された粒子径を平均したものである。
【0032】
正極活物質のなかでも、オリビン構造のリン酸鉄リチウムは、コスト面や安全面の観点で好ましい材料である。
【0033】
単なるオリビン構造のリン酸鉄リチウムでは、コバルト酸リチウム等と比較して電子伝導性が非常に低いため優れた電池特性が得られにくい。そこで、電子伝導性を向上させるために、炭素材料等の導電性物質を粒子に担持させたり、一次粒子径を小さくする方法が取られている。
【0034】
炭素材料担持リン酸鉄リチウムは、特に限定されるものではないが、特開2003−292308号公報、及び特開2003−292309号公報等を参考に製造することができる。
【0035】
例えば、リン酸第一鉄八水和物(Fe3(PO42・8H2O)とリン酸リチウム(Li3PO44)とを、リチウムと鉄の元素比率が1:1となるように混合し、これに導電性物質である炭素材料(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、又は焼成することで分解し炭素材料となる有機化合物を、最終品で炭素材料成分が、0.1〜50重量%となるように更に加え、乾式粉砕機等で粉砕混合処理を行ったあと不活性ガス雰囲気下、600℃で数時間焼成を行い、得られた焼成物を粉砕することにより得られる。
【0036】
≪酸性官能基を有する樹脂≫
本発明のリチウム二次電池用正極合剤ペーストは、正極活物質の良好な分散及び分散安定性を得るために、酸性官能基を有する樹脂を添加することが好ましい。又、好ましい酸性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、及び燐酸基である。酸性官能基を有する樹脂は、分散安定性の観点から、(A1)〜(A3)の三つのタイプが好ましい。
【0037】
上記の酸性官能基を有する樹脂は、正極活物質、及び導電助剤としての炭素材料どうしを結着する、又は、正極活物質、及び導電助剤としての炭素材料を集電極に結着するためのバインダーとしても機能するが、更に正極活物質の分散安定性及び、正極合剤層の密着性を更に向上させることができる。
【0038】
すなわち、酸性官能基を有する樹脂の正極活物質表面への吸着が促進され、正極活物質と樹脂成分との密着性が向上すると共に、樹脂の立体障害による反発により、正極活物質の分散安定性が向上するものと考えられる。又、正極活物質とバインダー成分である分子内にフッ素原子を有する高分子化合物との密着性も向上するため、使用するバインダー量を減らすことも期待できる。
【0039】
<酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1)>
酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1)は、特に限定されるものではないが、特公昭52−24959号公報、特開58−136605号公報、特開平2−604号公報、特開平6−172452号公報、WO2004−049475号公報、特許第3121943号公報、又は特許第3784494号公報等を参考に合成することができる。以下、具体例を示すが、モノマーとは、エチレン性不飽和単量体を意味する。
【0040】
例えば、スルホン酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンのホモポリマー(単独重合体)、又は、フッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデン以外のフッ素を有するモノマー、及びフッ素を有しないその他のモノマーからなる群から選ばれた1種類以上のモノマーと、のコポリマー(共重合体)を、スルホン化することにより得られる。
【0041】
フッ化ビニリデン以外のフッ素を有するモノマーとしては、例えばトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。又、その他のモノマーとは、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーであり、例えば、エチレン、クロロエチレン、プロピレン、(メタ)アクリル酸アルキル、及びスチレン等が挙げられる。スルホン化は、例えば濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、アミド硫酸、三酸化硫黄、又はトリエチルホスフェート錯体のようなスルホン化剤により、ポリフッ化ビニリデン系樹脂における重合単位中の水素をスルホン酸基に置換することで行われる。
【0042】
例えば、カルボキシル基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと、カルボキシル基を有するモノマーと、フッ化ビニリデン以外のフッ素を有するモノマー、及びフッ素を有しないその他のモノマーからなる群から選ばれた1種類以上のモノマーと、を共重合することにより、得ることができる。
【0043】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸等の不飽和一塩基酸、並びに、イタコン酸、マレイン酸、及びシトラコン酸等の不飽和二塩基酸(及びそれらのモノエステル)等が挙げられる。
【0044】
又、フッ素を有するモノマーとしては、例えばトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0045】
又、その他のモノマーとは、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーであり、例えば、エチレン、クロロエチレン、プロピレン、(メタ)アクリル酸アルキル、及びスチレン等が挙げられる。
【0046】
又、市販のカルボキシル基含有ポリフッ化ビニリデン系の樹脂としては、KFポリマーW#9100、W#9200、及びW#9300(クレハ社製)等が挙げられる。
例えば、燐酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと、燐酸基を有するモノマーと、フッ化ビニリデン以外のフッ素を有するモノマー、及びフッ素を有しないその他のモノマーからなる群から選ばれた1種類以上のモノマーと、を共重合することにより、得ることができる。
【0047】
燐酸基を有するモノマーとしては、アルキレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性アルコキシリン酸(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性アルコキシリン酸ジ(メタ)アクリレート、グリシジル基を含む(メタ)アクリレートとリン酸とを反応させて得られるアダクト体等が挙げられる。
【0048】
又、フッ素を有するモノマーとしては、例えばトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0049】
又、その他のモノマーとは、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーであり、例えば、エチレン、クロロエチレン、プロピレン、(メタ)アクリル酸アルキル、及びスチレン等が挙げられる。
【0050】
更に、燐酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、水酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂に燐酸化剤である燐酸、五酸化燐、オキシ塩化燐、ポリ燐酸、又はオルト燐酸等を作用させて燐酸エステルとして得ることができる。
【0051】
水酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと、水酸基を有するモノマーと、フッ化ビニリデン以外のフッ素を有するモノマー、及びフッ素を有しないその他のモノマーからなる群から選ばれた1種類以上のモノマーと、を共重合することにより、得ることができる。
【0052】
水酸基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリレート類とアリルエーテル類があり、(メタ)アクリレート類としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート−(メタ)アクリル酸付加物、1,1,1−トリメチロールプロパン又はグリセロールのジ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。水酸基を有するアリルエーテル類としては、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアクリレート、ジプロピレングリコールモノアクリレート、トリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、1,2−ブチレングリコールモノアリルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノアリルエーテル、ヘキシレングリコールモノアリルエーテル、オコチレングリコールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンモノアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル等が挙げられる。
【0053】
又、フッ素を有するモノマーとしては、例えばトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0054】
又、その他のモノマーとは、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーであり、例えば、エチレン、クロロエチレン、プロピレン、(メタ)アクリル酸アルキル、及びスチレン等が挙げられる。
【0055】
酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1)の重量平均分子量は、3,000〜1,000,000が好ましい。ただし、バインダー成分として、酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1)のみを使用する場合は、10,000〜1,000,0000が好ましい。分子量が小さいと、バインダーとしての耐性が低下することがある。又、分子量が大きくなると、バインダーの耐性は向上するものの、バインダー自体の粘度が高くなり作業性が低下するとともに、凝集剤として働き、合剤成分が凝集してしまう場合がある。
【0056】
<酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)>
酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)を製造するための第一の工程は、一般式(2)に示すように、分子内に2つの水酸基と1つのチオール基とを有する化合物(s)の存在下、エチレン性不飽和単量体(m)をラジカル重合して、片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)を製造する工程である。分子内に2つの水酸基と1つのチオール基とを有する化合物(s)のチオール基が連鎖移動剤として働き、エチレン性不飽和単量体(m)が重合した溶媒親和性ビニル重合体部位(M)の末端に、S原子を介して2つの水酸基が導入されたビニル重合体(a)が合成される。
【0057】
一般式(2):
【0058】
【化1】

分子内に2つの水酸基と1つのチオール基とを有する化合物(s)としては、例えば、1−メルカプト−1,1−メタンジオール、1−メルカプト−1,1−エタンジオール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(チオグリセリン)、2−メルカプト−1,2−プロパンジオール、2−メルカプト−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メルカプト−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1−メルカプト−2,2−プロパンジオール、2−メルカプトエチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、及び2−メルカプトエチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0059】
分子内に2つの水酸基と1つのチオール基とを有する化合物(s)を、目的とするビニル重合体(a)の分子量にあわせて、エチレン性不飽和単量体(m)と、任意に重合開始剤とを混合して加熱することでビニル重合体(a)を得ることができる。好ましくは、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、1〜30重量部の水酸基とチオール基とを有する化合物(s)を用い、塊状重合又は溶液重合を行う。反応温度は40〜150℃、好ましくは50〜110℃、反応時間は3〜30時間、好ましくは5〜20時間である。
【0060】
重合の際、エチレン性不飽和単量体(m)100重量部に対して、任意に0.001〜5重量部の重合開始剤を使用することができる。重合開始剤としては、アゾ系化合物及び有機過酸化物を用いることができる。アゾ系化合物の例としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、及び2,2'−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等があげられる。有機過酸化物の例としては、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、及びジアセチルパーオキシド等があげられる。これらの重合開始剤は、単独で、若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0061】
溶液重合の場合には、重合溶媒として、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びN−メチルピロリドン等が用いられるが特にこれらに限定されるものではない。これらの重合溶媒は、2種類以上混合して用いても良い。
【0062】
エチレン性不飽和単量体(m)としては、以下に示す一般的なエチレン性不飽和単量体(m1)が挙げられる。一般的なエチレン性不飽和単量体(m1)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂肪族環を有する(メタ)アクリレート類;
テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート等のヘテロ環を有する(メタ)アクリレート類;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、及びフェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族環を有する(メタ)アクリレート類;
メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、及びエトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、及びアクリロイルモルホリン等のN置換型(メタ)アクリルアミド類;
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びN,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;
スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;
エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;並びに、
酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類等があげられるが、特にこれらに限定されるものではなく、2種類以上を組み合わせたり、必要に応じて、以下に示す単量体を併用しても良い。
【0063】
エチレン性不飽和単量体(m)の一つとして、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(m2)を併用することもできる。カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体(m2)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、イタコン酸、クロトン酸、アクリル酸二量体、アクリル酸のカプロラクトン付加物(付加モル数は1〜5)、及びメタクリル酸のカプロラクトン付加物(付加モル数は1〜5)等から1種又は2種以上を選択することができる。
【0064】
本発明においては、上記に例示したエチレン性不飽和単量体(m)の中でも、ベンジル(メタ)アクリレートを単量体全体の20重量%〜70重量%使用するのが好ましい。20重量%未満では、溶媒親和性が低くなり、十分な立体反発効果が得られず、顔料分散性が低下する場合があり、70重量%を超えると、分散剤自身の溶剤への溶解性が上がるため顔料への吸着が不十分になったり、溶媒親和部同士の絡み合いにより、顔料組成物の粘度が高くなったりする場合がある。
【0065】
又、本発明においては、更に上記に例示したエチレン性不飽和単量体(m)と共に、ブロックイソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体(m3)、オキセタン基を有するエチレン性不飽和単量体(m4)、及びt−ブチル基を有するエチレン性不飽和単量体(m5)の少なくとも1つから選ばれるエチレン性不飽和単量体用いて、ビニル重合体(a)を製造することが出来る。これらの単量体を使用することにより、単量体中の架橋性官能基(それぞれブロックイソシアネート基、オキセタン基、t−ブチル基)が焼きつけにより架橋するため、本発明によるインクジェットインキを用いた展色物を熱硬化した後に耐薬品性、耐溶剤性、耐熱性、耐アルカリ性を更に向上することができる。
【0066】
ブロックイソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体(m3)としては、例えば、カレンズMOI−BM、及びカレンズMOI−BP(昭和電工製)等が挙げられる。オキセタン基を有するエチレン性不飽和単量体(m4)としては、例えば、ETERNACOLL OXMA(宇部興産製)等が挙げられる。t−ブチル基を有するエチレン性不飽和単量体(m5)としては、例えば、t−ブチルメタクリレート、及びt−ブチルアクリレート等が挙げられる。
【0067】
単量体の有するブロックイソシアネート基は、水酸基と併用すると水酸基と架橋反応するためより好ましく、オキセタン基はカルボキシル基と併用するとカルボキシル基と架橋反応するためより好ましく、t−ブチル基は、水酸基と併用すると水酸基と架橋反応し、オキセタン基と併用するとオキセタン基と架橋反応するためより好ましい。
【0068】
カルボキシル基を組み合わせる場合、本発明の硬化性分散剤中には、テトラカルボン酸二無水物(b)由来のカルボキシル基を硬化性部位として利用できるが、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体をエチレン性不飽和単量体(m2)として併用することで、硬化性分散剤にカルボキシル基を容易に導入することができる。
【0069】
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体(m2)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、イタコン酸、クロトン酸、アクリル酸二量体、アクリル酸のカプロラクトン付加物(付加モル数は1〜5)、及びメタクリル酸のカプロラクトン付加物(付加モル数は1〜5)等から1種又は2種以上を選択することができる。
【0070】
又、水酸基を組み合わせる場合、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(m6)をエチレン性不飽和単量体として併用することでも硬化性分散剤に水酸基を導入することができる。
【0071】
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(m6)としては、水酸基を有し、エチレン性不飽和二重結合を有する単量体であればどのようなものでも構わないが、例えば、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2(又は3)−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2(又は3、又は4)−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、及びグリセロール(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、及びN−(2−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等のN−(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド類;
2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−(又は3−)ヒドロキシプロピルビニルエーテル、及び2−(又は3−、又は4−)ヒドロキシブチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;並びに、
2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−(又は3−)ヒドロキシプロピルアリルエーテル、及び2−(又は3−、又は4−)ヒドロキシブチルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル類が挙げられる。
【0072】
又、上記のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、N−(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド類、ヒドロキシアルキルビニルエーテル類、及びヒドロキシアルキルアリルエーテル類にアルキレンオキサイド又はラクトンを付加して得られるエチレン性不飽和単量体も、本発明で用いる水酸基を有するエチレン性不飽和単量体として用いることができる。付加されるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、1,4−、2,3−又は1,3−ブチレンオキサイド、並びに、これらの2種以上の併用系が用いられる。2種以上のアルキレンオキサイドを併用するときの結合形式はランダム及び/又はブロックのいずれでもよい。付加されるラクトンとしては、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、炭素原子数1〜6のアルキル基で置換されたε−カプロラクトン、並びに、これらの2種以上の併用系が用いられる。アルキレンオキサイドとラクトンを両方とも付加したものでも構わない。
【0073】
本発明においては、ビニル重合体(a)に不飽和結合を導入することも出来る。
【0074】
ビニル重合体(a)に不飽和結合を導入する方法としては、ビニル重合体(a)中に水酸基を導入し、後からイソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体(m7)を反応させる方法、ビニル重合体(a)中にカルボキシル基を導入し、後からエポキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(m8)を反応させる方法、ビニル重合体(a)中にエポキシ基を導入し、後からカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体(m2)を反応させる方法が挙げられる。
【0075】
イソシアネート基を有するエチレン性不飽和単量体(m7)としては、カレンズMOI(昭和電工製 2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート)、及びカレンズAOI(昭和電工製 2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート)等が、挙げられる。エポキシ基を有するエチレン性不飽和単量体(m8)としては、グリシジル(メタ)アクリレート、及びサイクロマーM100(ダイセル化学工業製 3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート)等が挙げられる。
【0076】
酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)製造のための第二の工程は、下記一般式(3)に示すように、第一の工程で得られた片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)と、テトラカルボン酸二無水物(b)とを反応させる工程である。
【0077】
一般式(3):
【0078】
【化2】

【0079】
片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)のモル比をα、テトラカルボン酸二無水物(b)のモル比をβとすると、理論上、α=βでは、分子量が無限大に大きくなるので、α>βあるいはα<βとして、α/βの比率を変えて、目的とする分子量にコントロールすることが多い。例えば、α=β+1の場合、両末端が水酸基となり、それ以上分子量が大きくならず、酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2-1)を安定に合成することができる。一方、β=α+1の場合、両末端が酸無水物基となり、安定性が悪くなるため、酸無水物基を加水分解して、末端をカルボキシル基とした酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2-2)を合成することができる。
【0080】
次に、酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)の第二の製造工程における各構成要素について説明する。
【0081】
本発明に使用するテトラカルボン酸二無水物(b)は、片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)と反応してエステル結合を形成し、かつ、生成するポリエステル主鎖上にペンダントカルボキシル基を残すことができる。一般式(17)の生成物中に残っている酸無水物基を加水分解すれば、この反応による生成物は、構造式中のX1部分にカルボキシル基を2個又は3個を有しており、この複数のカルボキシル基が導電助剤である炭素材料への吸着部位として有効である。
【0082】
しかしながら、X0に結合しているカルボキシル基が1個のみである場合(本発明の範囲外)では、高い分散性、流動性、及び保存安定性を発現せず好ましくない。
本発明におけるX0は、テトラカルボン酸ニ無水物(b)が片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)と反応した後の反応残基である。好ましくは、下記一般式(4)、又は一般式(5)で示されるテトラカルボン酸二無水物が、水酸基を有するビニル重合体(a)と反応した後の反応残基である。
【0083】
一般式(4):
【0084】
【化3】

〔一般式(4)中、kは1又は2である。〕
【0085】
一般式(5):
【0086】
【化4】

〔一般式(5)中、Q0は、直接結合、−O−、−CO−、−COOCH2CH2OCO−、−SO2−、−C(CF32−、下記一般式(6):
【0087】
【化5】

で表される基、又は下記一般式(7):
【0088】
【化6】

で表される基である。〕
【0089】
本発明では、片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)とテトラカルボン酸二無水物(b)と、を反応させることにより、上記一般式(3)における生成物中のX0に結合する複数のカルボキシル基部分が正極活物質への吸着部として機能し、ビニル重合体部分が溶媒親和部として機能する。
【0090】
片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)の重量平均分子量は、1,000〜10,000が好ましく、この部位が分散媒である溶剤への親和性部分となる。ビニル重合体(a)の重量平均分子量が1,000未満では、溶媒親和部による立体反発の効果が少なくなるとともに、導電助剤である炭素材料の凝集を防ぐことが困難となり、分散安定性が不十分となる場合がある。又、10、000を超えると、溶媒親和部の絶対量が増えてしまい、分散性の効果自体が低下する場合がある。更に、分散体の粘度が高くなる場合がある。ビニル重合体(a)は、分子量を上記範囲に調整することが容易であり、かつ、溶剤への親和性も良好である。酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)の第一の工程で説明したように、片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)の重量平均分子量は、エチレン性不飽和単量体(m)に対する分子内に2つの水酸基と1つのチオール基とを有する化合物(s)の使用重量、反応温度、反応時間、エチレン性不飽和単量体(m)に対する必要に応じて使用する重合開始剤の使用重量、必要に応じて使用する重合溶剤の種類、及び重合時のエチレン性不飽和単量体(m)濃度によりコントロールできる。
【0091】
テトラカルボン酸ニ無水物(b)としては、
1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、及びビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物等の脂肪族テトラカルボン酸無水物;並びに、
ピロメリット酸無水物、エチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、プロピレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、ブチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3',4,4'−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、3,3',4,4'−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物、3,3',4,4'−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸無水物、3,3',4,4'−テトラフェニルシランテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン無水物、3,3',4,4'−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルエーテル無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルメタン無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン酸無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン酸無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸無水物、及び3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メチル−1−ナフタレンコハク酸無水物等の芳香族テトラカルボン酸無水物が挙げられる。
【0092】
本発明で使用されるテトラカルボン酸二無水物(b)は上記に例示した化合物に限らず、カルボン酸無水物基を2つ持てばどのような構造をしていてもかまわない。これらは単独で用いても、併用してもかまわない。更に、本発明に好ましく使用されるものは、正極活物質分散体の低粘度化の観点から一般式(4)又は一般式(5)で表されるような、芳香族テトラカルボン酸無水物であり、更に好ましくは芳香族環を二つ以上有するテトラカルボン酸無水物である。又、分子中にカルボン酸無水物基を1つ持つ化合物や3つ以上持つ化合物を併用して使用することができる。
【0093】
本発明で用いることのできる酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)の第二の工程で用いられる触媒としては、公知の触媒を使用することができる。触媒としては3級アミン系化合物が好ましく、例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−7−ウンデセン、及び1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]−5−ノネン等が挙げられる。
【0094】
本発明で用いることのできる酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)は、これまで挙げた原料のみで製造することも可能であるが、高粘度になり反応が不均一になる等の問題を回避すべく、溶剤を用いるのが好ましい。使用される溶剤としては、公知のものを使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、アセトニトリル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。反応に使用した溶媒は、反応終了後、蒸留等の操作により取り除くか、あるいはそのまま製品の一部として使用することもできる。
【0095】
本発明で用いることのできる酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)は、片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)、テトラカルボン酸二無水物(b)を反応させることで得られる。テトラカルボン酸無水物(b)中の酸無水物基とビニル重合体(a)中の水酸基とのモル比は、ビニル重合体(a)のモル比をα、テトラカルボン酸二無水物(b)のモル比をβとすると、2β/2α=β/α=0.3〜1.2が、好ましく、更に好ましくはβ/α=0.5〜1.0、最も好ましくはβ/α=0.6〜0.8の場合である。β/α>1で反応させる場合は、残存する酸無水物基を必要量の水で加水分解して使用してもよい。0.3未満であると、正極活物質への吸着部である酸無水物残基が少なくなる場合があり、又、樹脂の酸価も低くなる場合もある。又、1.2を超えるとポリエステルが高分子量化を起こしてしまい、リチウム二次電池用正極合剤ペーストとして使用した時に、樹脂間の相互作用が強くなり逆に増粘が起きる場合がある。
【0096】
酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)の第二の工程の反応温度は80℃〜180℃、好ましくは、90℃〜160℃の範囲で行う。反応温度が80℃以下では反応速度が遅く、180℃以上ではカルボキシル基がエステル化反応してしまい、酸価の減少や、ゲル化を起こしてしまう場合がある。反応の停止は、赤外吸収で酸無水物の吸収がなくなるまで反応させるのが理想であるが、ポリエステルの酸価が5〜200の範囲に入ったとき、又は、水酸基価が20〜200の範囲に入った時に反応を止めてもよい。
【0097】
得られた酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)の重量平均分子量は、好ましくは、2,000〜25,000である。重量平均分子量が2,000未満であればリチウム二次電池用正極合剤ペーストの安定性が低下する場合があり、25,000を超えると樹脂間の相互作用が強くなり、リチウム二次電池用正極合剤ペーストの増粘が起きる場合がある。又、得られた酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)の酸価は、5〜200mgKOH/gが好ましい。更に好ましくは、5〜150mgKOH/gであり、特に好ましくは、5〜100mgKOH/gである。酸価が5未満では、正極活物質への吸着能が低下し分散性に問題がでる場合があり、200mgKOH/gを超えると、樹脂間の相互作用が強くなりリチウム二次電池用正極合剤ペーストの粘度が高くなる場合がある。
【0098】
<酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)>
本発明で用いることのできる酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)は、下記一般式(1)で表される構造を有する限り、その化学構造及び製造方法は特に限定されるものではない。その製造方法は、例えば、モノアルコールを開始剤として、ラクトンを開環重合して片末端に水酸基を有するポリエステルを製造する第一の工程と、該片末端に水酸基を有するポリエステルと、テトラカルボン酸二無水物を反応させる第二の工程とからなる方法であることが好ましい。
【0099】
一般式(1):
(HOOC−)m−R21−(−COO−[−R23−COO−]n−R22t (1)
〔一般式(1)中、R21は、4価のテトラカルボン酸化合物残基であり、R22は、モノアルコール残基であり、R23は、ラクトン残基であり、mは、2又は3であり、nは、1〜50の整数であり、tは、(4−m)である。〕
【0100】
酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)の製造に用いることのできるモノアルコールとしては、水酸基を一つ有する化合物であれば、特に限定されない。脂肪族モノアルコールとしては、例えば、好ましくは炭素原子数1〜30(より好ましくは炭素原子数1〜25)の直鎖状若しくは分岐状の置換若しくは非置換の飽和脂肪族モノアルコール、あるいは炭素原子数1〜30(より好ましくは炭素原子数1〜25)の置換若しくは非置換の飽和脂環式モノアルコールを挙げることができる。飽和脂肪族モノアルコール又は飽和脂環式モノアルコールの置換基としては、例えば、カルボキシル基を挙げることができる。
【0101】
脂肪族モノアルコールを例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール、1−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、1−ノナノール、イソノナノール、1−デカノール、1−ドデカノール、1−ミリスチルアルコール、セチルアルコール、1−ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルデカノール、2−オクチルドデカノール、2−ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、及びオレイルアルコール等を挙げることができる。脂環式モノアルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール等を挙げることができる。
【0102】
脂肪族モノアルコールとしては、分岐脂肪族モノアルコールが好ましく、例えば、2−エチルヘキサノール、イソステアリルアルコール、2−オクチルデカノール、2−オクチルドデカノール、及び2−ヘキシルデカノール等の炭素原子数8〜20のものが好ましい。
【0103】
前記モノアルコールとしては、炭素原子数6〜30(より好ましくは炭素原子数6〜25)の置換若しくは非置換の芳香族モノアルコール、例えば、フェノール又はクミルフェノールを用いることもできる。又、炭素原子数1〜6の脂肪族基部分を有し、炭素原子数6〜10の芳香族基で置換された飽和脂肪族モノアルコール、例えば、ベンジルアルコールを用いることもできる。
【0104】
更に、前記モノアルコールとして、片末端に水酸基を有するモノアルキレングリコールモノエーテル又は片末端に水酸基を有するポリアルキレングリコールモノエーテルを用いることもできる。これらのモノアルキレングリコールモノエーテル又はポリアルキレングリコールモノエーテルとしては、好ましくは、モノ若しくはポリエチレングリコール又はモノ若しくはポリプロピレングリコールの炭素原子数1〜8のアルキルモノエーテルを挙げることができ、具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノプロピルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、及びテトラジエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルを挙げることができる。
【0105】
更に、酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)の製造に用いることのできるモノアルコールとしては、エチレン性不飽和二重結合1つ又はそれ以上を有するモノアルコールを挙げることができる。前記エチレン性不飽和二重結合の例としては、ビニル基又は(メタ)アクリロイル基を挙げることができ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。これらは、1つの化合物中に異なる種類の二重結合を有する化合物であることができる。
【0106】
前記のエチレン性不飽和二重結合を有するモノアルコールとしては、例えば、エチレン性不飽和二重結合1つ、2つ、又は3つ以上を有する不飽和モノアルコール化合物を用いることができる。エチレン性不飽和二重結合の数が1つのモノアルコールとしては、(メタ)アクリル酸の炭素原子数1〜8のヒドロキシアルキルエステル、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、及び1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0107】
エチレン性不飽和二重結合の数が2つのモノアルコールとしては、例えば、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、又はグリセリンジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。エチレン性不飽和二重結合の数が3つのモノアルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレン性不飽和二重結合の数が5つのモノアルコールとしては、例えば、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートを挙げることができる。
【0108】
前記で例示した脂肪族モノアルコール、芳香族モノアルコール、及びエチレン性不飽和二重結合を有するモノアルコールの水酸基を開始基として、アルキレンオキサイドを付加重合して得られるアルコール、すなわち、片末端をエーテル化又はエステル化したポリアルキレングリコールも、酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)の製造に用いることができる。付加重合に用いるアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、又は1,2−、1,4−、2,3−若しくは1,3−ブチレンオキサイド、あるいはこれらの2種以上の混合物を用いることができる。2種以上のアルキレンオキサイドを併用するときの結合形式はランダム及び/又はブロックのいずれでもよい。アルキレンオキサイドの付加数は、一分子中、通常1〜300、好ましくは2〜250、特に好ましくは5〜100である。
【0109】
アルキレンオキサイドの付加は、公知方法、例えばアルカリ触媒の存在下、100〜200℃の温度で行うことができる。こうして得られる付加重合生成物の市販品としては、日本油脂社製ユニオックスシリーズ、又は日本油脂社製ブレンマーシリーズ等がある。
【0110】
具体的に例示すると、ユニオックスM−400、M−550、M−2000、ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350、AE−90、AE−200、AE−400、PP−1000、PP−500、PP−800、AP−150、AP−400、AP−550、AP−800、50PEP−300、70PEP−350B、AEPシリーズ、55PET−400、30PET−800、55PET−800、AETシリーズ、30PPT−800、50PPT−800、70PPT−800、APTシリーズ、10PPB−500B、及び10APB−500B等がある。
【0111】
酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)の製造に用いることができるモノアルコールは、上記例示に限定されることなく、水酸基を一つ有する化合物であればいかなる化合物も用いることができ、又、単独で用いても、2種類以上を併用することもできる。
【0112】
上記モノアルコールのうち、例えば4−メチル−2−ペンタノール、イソペンタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、イソノナノール、イソステアリルアルコール、2−オクチルデカノール、2−オクチルドデカノール、若しくは2−ヘキシルデカノール等の分岐脂肪族モノアルコール、又は片末端に水酸基を有するポリアルキレングリコールを用いることで、結晶性が低下し、室温で液状になる場合があるので、作業性の点と、他の樹脂との相溶性の点で好ましい。
【0113】
前記モノアルコールを開始剤として、ラクトンを開環重合することによって、片末端に水酸基を有し、前記樹脂型分散剤の製造に用いることができるポリエステルを得ることができる。前記開環重合に用いることができるラクトンは、好ましくは4員環〜10員環、より好ましくは5員環〜7員環のラクトンであり、環構成炭素原子は、置換されているかあるいは非置換であることができる。環構成炭素原子の置換基としては、炭素原子数1〜4のアルキル基を挙げることができる。又、環内にエチレン結合1つ又はそれ以上を含む不飽和ラクトン、又は芳香族化合物(例えば、ベンゼン)との縮合ラクトンも用いることができる。
【0114】
好適なラクトンとして、具体的には、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、及びアルキル置換されたε−カプロラクトンを挙げることができ、このうちδ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、又はアルキル置換されたε−カプロラクトンを使用するのが開環重合性の点で好ましい。アルキル置換基としては、例えば、炭素原子数1〜4のアルキル基、特には、メチル基又はエチル基を挙げることができ、これらのアルキル置換基1つ又はそれ以上で置換されていることができる。
【0115】
前記ラクトンは、上記例示に限定されることなく用いることができ、又、単独で用いても、2種類以上を併用することもできる。2種類以上を併用することで結晶性が低下し、室温で液状になる場合があるので、作業性の点と、他の樹脂との相溶性の点で好ましい。
【0116】
前記モノアルコールと前記ラクトンとの開環重合は、公知方法、例えば、脱水管及びコンデンサを接続した反応器に、前記モノアルコール、前記ラクトン、及び重合触媒を仕込み、窒素気流下で行うことができる。前記モノアルコールとして低沸点のモノアルコールを用いる場合には、オートクレーブを用いて加圧下で反応させることができる。又、前記モノアルコールとしてエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を使用する場合は、重合禁止剤を添加し、乾燥空気流下で反応を行うことが好ましい。
【0117】
前記モノアルコール1モルに対する前記ラクトンの付加モル数は、1〜50モル、好ましくは、3〜20モル、最も好ましくは4〜16モルである。付加モル数が、1モルより少ないと、正極活物質を分散させる効果を得ることができず、50モルより大きいと分子量が大きくなりすぎ、正極活物質の分散性やリチウム二次電池用正極合剤ペーストの流動性の低下を招く。
【0118】
前記開環重合用の重合触媒としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨード、テトラブチルアンモニウムヨード、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、及びベンジルトリメチルアンモニウムヨード等の四級アンモニウム塩; テトラメチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラメチルホスホニウムヨード、テトラブチルホスホニウムヨード、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリメチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリメチルホスホニウムヨード、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、及びテトラフェニルホスホニウムヨード等の四級ホスホニウム塩; トリフェニルフォスフィン等のリン化合物; 酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、安息香酸カリウム、及び安息香酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩; ナトリウムアルコラート、及びカリウムアルコラート等のアルカリ金属アルコラート; 三級アミン類; 有機錫化合物; 有機アルミニウム化合物; 有機チタネート化合物; 並びに、塩化亜鉛等の亜鉛化合物等を挙げることができる。触媒の使用量は0.1ppm〜3000ppm、好ましくは1ppm〜1000ppmである。触媒量が3000ppm以上となると、酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)の着色が激しくなり、製品の安定性に悪影響を与える。逆に、触媒の使用量が0.1ppm以下では環状エステルの開環重合速度が極めて遅くなるので好ましくない。
【0119】
前記開環重合反応は、無溶剤で実施するか、又は適当な脱水有機溶媒を使用することもできる。前記開環重合反応に使用した溶媒は、反応終了後、蒸留等の操作により取り除くか、あるいはそのまま電池用組成物の一部として使用することもできる。
【0120】
前記開環重合反応は、好ましくは100℃から220℃、より好ましくは110℃〜210℃の範囲で行う。反応温度が100℃未満では反応速度がきわめて遅く、210℃を超えるとラクトンの付加反応以外の副反応、例えばラクトン付加体のラクトンモノマーへの分解、環状のラクトンダイマーやトリマーの生成等が起こりやすい。
【0121】
エチレン性不飽和二重結合を有するモノアルコールを使用する場合に使用されるラジカル重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノン、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、及びフェノチアジン等が好ましく、これらを単独で用いるかあるいは併用することができ、使用量は、好ましくは0.01%〜6%、より好ましくは0.05%〜1.0%の範囲である。
【0122】
本発明で用いる酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)は、前記の第一の工程で得られた片末端に水酸基を有するポリエステルの水酸基と、テトラカルボン酸二無水物とを反応させる(第二の工程)ことにより得ることが好ましい。
【0123】
第二の工程で使用されるテトラカルボン酸二無水物としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物、複素環式テトラカルボン酸二無水物、及び多環式テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【0124】
具体的には、
1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物;
1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、及びビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物;並びに、
2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、及び5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等の複素環式テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【0125】
更に、ピロメリット酸二無水物、エチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、プロピレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、ブチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3',4,4'−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルメタン二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二酸無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、及び3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メチル−1−ナフタレンコハク酸二無水物等の多環式テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
【0126】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に、芳香族環2つ以上を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、特には、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールジ無水トリメリット酸エステル、及び9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物が好ましい。
【0127】
酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)の製造に用いることができるテトラカルボン酸二無水物は、上記に例示した化合物に限らず、カルボン酸無水物を二つ持てばどのような構造をしていてもかまわない。これらは単独で用いても、併用してもかまわない。更に、酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)の製造に好適に用いることができるテトラカルボン酸二無水物は、リチウム二次電池用正極合剤ペーストの低粘度化の観点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、更に好ましくは芳香族環2つ以上(特には2〜4)を有するテトラカルボン酸二無水物である。
【0128】
第二の工程での反応比率は、片末端に水酸基を有するポリエステルの水酸基のモル数〈H〉に対する、テトラカルボン酸無水物の無水環のモル数〈N〉の比率〔〈H〉/〈N〉〕が、好ましくは0.5<〈H〉/〈N〉<1.2、更に好ましくは0.7<〈H〉/〈N〉<1.1、最も好ましくは〈H〉/〈N〉=1である。〈H〉/〈N〉<1で反応させる場合は、残存する酸無水物を必要量の水で加水分解して使用してもよい。
【0129】
第二の工程には触媒を用いてもかまわない。触媒としては、3級アミン系化合物としては、例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、及び1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]−5−ノネン等を挙げることができる。
【0130】
第一の工程、第二の工程ともに無溶剤で行ってもよいし、適当な脱水有機溶媒を使用してもよい。反応に使用した溶媒は、反応終了後、蒸留等の操作により取り除くか、あるいはそのまま製品の一部として使用することもできる。
【0131】
反応温度は80℃〜180℃、好ましくは、90℃〜160℃の範囲で行う。反応温度が80℃以下では反応速度が遅く、180℃以上ではハーフエステル化したものが、再度環状無水物を生成し、反応が終了しにくくなる場合がある。
【0132】
前記一般式(1)において、nは好ましくは1〜30の整数、より好ましくは2〜20の整数である。前記一般式(1)において、nとtとの少なくとも一方が2以上である場合には、前記一般式(1)に存在する複数のR23は、全てが同じ基であるか、複数種の基を含むことができる。
【0133】
前記一般式(1)で表される酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)として好ましい化合物は、R21が、一般式(8):
【0134】
【化7】

で表される基、一般式(9):
【0135】
【化8】

で表される基、又は一般式(10):
【0136】
【化9】

(一般式(8)〜(10)中、
0は、直接結合、−O−、−CO−、−COOCH2CH2OCO−、−SO2−、−C(CH32−、−C(CF32−、一般式(11):
【0137】
【化10】

で表される基、又は一般式(12):
【0138】
【化11】

で表される基である。)
で表される基であり、R22が、炭素原子数8〜20の脂肪族アルキル基、又は分子量200〜1500の末端エーテル若しくはエステルポリオキシアルキレン(アルキレン部分の炭素原子数が2〜4)基であり、R23が、ヘキサメチレン基、ペンタメチレン基、又はアルキル置換されたヘキサメチレン基であり、mが、2又は3であり、nが、3〜20の整数であり、そしてtが、(4−m)である一般式(1)で表される酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)である。
【0139】
酸性官能基を有する樹脂は、上記記載の三つのタイプのみに限定されるものでなく、三つのタイプ以外のポリビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ホルマリン縮合物、シリコーン系、及びこれらの複合系ポリマー等が挙げられる。更に、これらの酸性官能基を有する樹脂は2種類以上を併用することもできる。
【0140】
<その他の市販の酸性官能基を有する樹脂>
市販の酸性官能基を有する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。これらは単独で用いても、併用してもかまわない。
ビックケミー社製の酸性官能基を有する樹脂としては、 Anti−Terra−U、U100、203、204、205、Disperbyk−101、102、106、107、110、111、140、142、170、171、174、180、2001、BYK−P104、P104S、P105、9076、及び220S等が挙げられる。
【0141】
日本ルーブリゾール社製の酸性官能基を有する樹脂としては、SOLSPERSE3000、21000、26000、36000、36600、41000、41090、43000、44000、及び53095等が挙げられる。
【0142】
エフカアディティブズ社製の酸性官能基を有する樹脂としては、EFKA4510、4530、5010、5044、5244、5054、5055、5063、5064、5065、5066、5070、及び5071等が挙げられる。
【0143】
味の素ファインテクノ社製の酸性官能基を有する樹脂としては、アジスパーPN411、及びアジスパーPA111等が挙げられる。
【0144】
ELEMENTIS社製の酸性官能基を有する樹脂としては、NuosperseFX−504、600、605、FA620、2008、FA−196、及びFA−601等が挙げられる。
【0145】
ライオン社製の酸性官能基を有する樹脂としては、ポリティA−550、及びポリティPS−1900等が挙げられる。
【0146】
楠本化成社製の酸性官能基を有する樹脂としては、ディスパロン2150、KS−860、KS−873SN、1831、1860、PW−36、DA−1200、DA−703−50、DA−7301、DA−325、DA−375、及びDA−234等が挙げられる。
【0147】
BASFジャパン製の酸性官能基を有する樹脂としては、JONCRYL67、678、586、611、680、682、683、690、52J、57J、60J、61J、62J、63J、70J、HPD−96J、501J、354J、6610、PDX−6102B、7100、390、711、511、7001、741、450、840、74J、HRC−1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX−7630、352J、252D、538J7640、7641、631、790、780、及び7610等が挙げられる。
【0148】
三菱レイヨン製の酸性官能基を有する樹脂としては、ダイヤナールBR−60、64、73、77、79、83、87、88、90、93、102、106、113、及び116等が挙げられる。
【0149】
≪導電助剤としての炭素材料≫
本発明におけるリチウム二次電池用正極合剤ペーストに添加する導電助剤としては、炭素材料が最も好ましい。炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、及びフラーレン等を単独で、若しくは2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さ、及びコスト面から、カーボンブラックの使用が好ましい。
【0150】
カーボンブラックとしては、気体若しくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、及び、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラック等の各種のものを単独で、若しくは2種類以上併せて使用することができる。又、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0151】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0152】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m2/g以上、1500m2/g以下、好ましくは50m2/g以上、1500m2/g以下、更に好ましくは100m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。比表面積が20m2/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、1500m2/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0153】
又、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡等で測定された粒子径を平均したものである。
【0154】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、
トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;
プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;
Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;
#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック;
MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;
Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP−Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;
ケッチェンブラックEC−300J、及びEC−600JD等のアクゾ社製ケッチェンブラック; 並びに、
デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35等の電気化学工業社製アセチレンブラック等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0155】
≪溶剤≫
本発明に使用する溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、及び水等が挙げられる。
【0156】
バインダー樹脂成分の溶解性や、導電助剤である炭素材料の分散安定性を得るためには、極性の高い溶剤を使用するのが好ましい。
【0157】
例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN,N−ジエチルアセトアミド等の様な窒素をジアルキル化したアミド系溶剤、N−メチルピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド、並びに、ジメチルスルホキシド等が挙げられるが、これらに限定されない。二種類以上を併用することもできる。
【0158】
≪バインダー≫
本発明のリチウム二次電池用正極合剤ペーストには、更に、酸性官能基を有する樹脂以外のバインダー成分を含有させることができる。
【0159】
使用するバインダーとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース樹脂、スチレン−ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等が挙げられる。又、これらの樹脂の変性体、混合物、又は共重合体でも良い。
【0160】
具体的には、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、及びビニルピロリドン等を構成単位として含む共重合体が挙げられる。
【0161】
特に、耐性面から分子内にフッ素原子を有する高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びポリテトラフルオロエチレン等の使用が好ましい。
【0162】
又、バインダーとしてのこれらの樹脂類の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000が好ましい。分子量が小さいとバインダーの耐性が低下することがある。分子量が大きくなるとバインダーの耐性は向上するものの、バインダー自体の粘度が高くなり作業性が低下するとともに、凝集剤として働き、合剤成分が著しく凝集してしまうことがある。
【0163】
≪リチウム二次電池用正極合剤ペースト≫
本発明の正極合剤ペーストは、リチウム二次電池用正極合剤ペーストとして用いることができる。正極合剤ペーストとして用いる場合は、上記の酸性官能基を有する樹脂と、正極活物質と、溶剤とを含んでなるペースト、更に、を含んでなるペーストに、導電助剤としての炭素材料、及びバインダー成分を含有させ正極合剤ペーストとして使用することが好ましい。
【0164】
正極合剤ペースト中の総固形分に占める正極活物質の割合は、80重量%以上、98.5重量%以下、好ましくは83重量%以上、95重量%以下で使用することが望ましい。正極活物質の割合が80重量%を下回ると、十分な導電性、放電容量を得ることが難しくなる場合があり、98.5重量%を超えると、バインダー成分の割合が低下するため、集電体への密着性が低下し、正極活物質が脱離しやすくなる場合がある。
【0165】
又、正極合剤ペースト中の総固形分に占める、導電助剤としての炭素材料の固形分の割合は、0.5重量%以上、19重量%以下、好ましくは1.0重量%以上、15重量%以下で使用することが望ましい。導電助剤としての炭素材料の割合が、0.5重量%を下回ると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、19重量%を超えると、電池性能に大きく関与する正極活物質の割合が低下するため、放電容量が低下する等の問題が発生する場合がある。
【0166】
又、正極合剤ペースト中の総固形分に占める、バインダー成分(酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂成分)の割合は、1重量%以上、10重量%以下が好ましい、好ましくは2重量%以上、8重量%以下で使用することが望ましい。バインダー成分の割合が1重量%を下回ると、結着性が低下するため、集電体から正極活物質や導電助剤としての炭素材料等が脱離しやすくなる場合があり、10重量%を超えると、正極活物質及び導電助剤としての炭素材料の割合が低下するため、電池性能の低下に繋がる場合がある。
【0167】
又、正極合剤ペーストの適正粘度は、正極合剤ペーストの塗工方法によるが、一般には、100mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0168】
本発明における正極合剤ペーストは、正極活物質の分散性に優れるだけでなく、正極活物質の凝集を緩和する効果もある。正極活物質の分散性が優れるため、正極活物質及び導電助剤としての炭素材料を溶剤に混合・分散する際のエネルギーが、正極活物質の凝集物に阻害されることなく効率よく炭素材料(導電助剤)に伝わり、結果的に炭素材料(導電助剤)の分散性も向上させることができるものと考えられる。
【0169】
本発明の正極合剤ペーストでは、正極活物質の周りに導電助剤である炭素材料粒子を均一に配位・付着させることができ、正極合剤層に優れた導電性及び密着性を付与できる。又、導電性が向上することにより、導電助剤としての炭素材料の添加量を減らすことができるため、正極活物質の添加量を相対的に増やすことができ、電池の大きな特性である容量を大きくすることができる。
【0170】
更に、本発明の正極合剤ペーストは、正極活物質、炭素材料(導電助剤)の凝集が少ないため、集電体に塗布した際に平滑性の高い均一な塗膜を得ることができ、集電体と正極合剤との密着性が改善される。又、酸性官能基を有する樹脂が炭素材料(導電助剤)表面に作用(例えば吸着)しているため、リチウム遷移金属複合酸化物のような正極活物質の表面と炭素材料(導電助剤)表面との相互作用が強まり、酸性官能基を有する樹脂を使用しない場合と比較して正極活物質と炭素材料(導電助剤)との密着性が向上する。
【0171】
≪本発明のリチウム二次電池用正極合剤ペーストの製造方法≫
次に、本発明の正極合剤ペーストの製造方法について説明する。
【0172】
本発明の正極合剤ペーストは、例えば、酸性官能基を有する樹脂と、正極活物質と、を溶剤に分散し、該分散体に、必要に応じて導電助剤としての炭素材料、又は追加のバインダー成分(酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂成分)を混合することにより、製造することができる。各成分の添加順序等については、これに限定されるわけではない。又、必要に応じて更に溶剤を追加しても良い。
【0173】
更に、上記製造方法としては、酸性官能基を有する樹脂を、溶剤中に完全又は一部溶解させ、その溶液中に正極活物質を添加、混合することで、前記酸性官能基を有する樹脂を正極活物質に作用(例えば吸着)させつつ、溶剤に分散するのが好ましい。
【0174】
このときの分散体中における正極活物質の濃度は、使用する正極活物質の比表面積や表面官能基量等の正極活物質固有の特性値等にもよるが、1重量%以上、90重量%以下が好ましく、更に好ましくは10重量%以上、80重量%以下である。正極活物質の濃度が低すぎると、生産効率が悪くなり、更に合剤ペーストの粘度が低くなりやすく経時で正極活物質が沈降しやすくなり、均一な正極が作成しにくい場合がある。一方、正極活物質の濃度が高すぎると、分散体の粘度が著しく高くなり、分散効率や分散体のハンドリング性が低下する場合がある。
【0175】
又、正極活物質に酸性官能基を有する樹脂を添加することが好ましい。そして、酸性官能基を有する樹脂を添加する量としては、正極活物質100重量部に対して0.01重量部以上、30重量部以下、好ましくは0.05重量部以上、25重量部以下、更に好ましくは、0.1重量部以上、20重量部以下で添加する。
【0176】
又、上記酸性官能基を有する樹脂を正極活物質に作用(例えば吸着)させつつ溶剤に分散するための装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機が使用できる。
【0177】
例えば、
ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;
エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;
ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;
湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;又は、
その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0178】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0179】
強い衝撃で粒子が割れたり、潰れたりしやすい正極活物質の場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
【0180】
又、正極活物質の溶剤への濡れ性を向上させ、より溶剤中での分散性を向上させるために、酸性官能基を有する樹脂からなる群から選ばれる1種以上の処理剤で、あらかじめ処理された正極活物質を使用することができる。
【0181】
この時の処理方法は、乾式処理機としては、2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター等が挙げられる。一方、湿式処理機としては、ニーダーが挙げられる。しかし、処理方法は上記方法に限定されるものではない。正極活物質の種類によって、処理時に正極活物質自身が破壊され電池性能を落とす場合があるため、正極活物質にあった処理方法を選択することが好ましい。
又、乾式処理機を使用する際、処理剤は、そのまま直接添加しても良いが、より均一に正極活物質表面に処理を行うために、前もって処理剤を少量の溶剤に溶解、又、分散させておき、正極活物質の凝集粒子を解しながら添加する方法が好ましい。更に、処理効率を上げるために、加温することが好ましい場合もある。
【0182】
追加分のバインダー成分(酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂成分)の添加方法としては、上記酸性官能基を有する樹脂を添加し分散してなる分散体を攪拌しつつ、追加のバインダー成分(酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂成分)を固形のまま添加し、溶解させる方法が挙げられる。又、追加のバインダー成分(酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂成分)を溶剤に溶解させたものを事前に作製しておき、上記分散体と混合する方法が挙げられる。又、追加のバインダー成分(酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂成分)を上記分散体に添加した後に、上記分散装置で再度分散処理を行っても良い。
【0183】
導電助剤としての炭素材料の添加方法としては、上記酸性官能基を有する樹脂と、正極活物質と、を溶剤に分散してなる分散体を攪拌しつつ、導電助剤としての炭素材料を添加し分散させる、又は導電助剤としての炭素材料を前もって溶剤中に分散させた分散体を上記正極活物質分散体に添加し混合する方法が挙げられる。
【0184】
又、酸性官能基を有する樹脂と、正極活物質と、を溶剤に分散するときに、導電助剤としての炭素材料の一部ないしは全量を、同時に添加して共分散処理を行うこともできる。このときの混合、分散を行うための装置としては、通常の顔料分散等に用いられている上述の分散装置が使用できる。
【0185】
正極活物質の分散粒径は、使用する正極活物質の一次粒子径の大きさで変化するが、0.05μm以上、100μm以下、好ましくは、0.1μm以上、70μm以下、更に好ましくは0.15μm以上、50μm以下に微細化することが望ましい。正極活物質の分散粒径が0.05μm未満の正極合剤ペーストは、その作製が難しい場合がある。又、正極活物質の分散粒径が100μmを超える組成物を用いた場合には、電極の抵抗分布のバラつきや、低抵抗化のために導電助剤の添加量を増やさなければならなくなる等の不具合が生じる場合がある。ここでいう分散粒径については、グラインドゲージによる判定(JIS K5600−2−5に準ず)より求めることができる。分散粒径が1.0μm以下の場合は、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0186】
本発明の正極合剤ペーストは、上述するように、通常は溶剤を含む分散体(液)、又はペースト等として、製造、流通、使用される。これは、導電助剤や活物質と酸性官能基を有する樹脂と、を乾燥粉体の状態で混合しても、正極活物質や導電助剤に均一に作用させることは難しく、液相法で、正極活物質や導電助剤を溶剤に分散することにより、正極活物質や導電助剤に、均一に、酸性官能基を有する樹脂と、を作用させることができるからである。又、以下に説明するように、集電体に電極合剤層を形成する場合には、液状の分散体をできるだけ均一に塗布してこれを乾燥させることが好ましいからであ
る。
【0187】
しかしながら、例えば、液相法で作製した分散体を、運搬コスト等の理由から、一度溶剤を除去して乾燥粉体とすることも考えられる。そして、この乾燥粉体を適当な溶剤で再分散させて、電極合剤層の形成に用いることも考えられる。したがって、本発明の正極合剤ペーストは、液状の分散体に限られず、このような、乾燥粉体の状態の組成物であってもよい。
【0188】
≪リチウム二次電池≫
次に、本発明の正極合剤ペーストを用いたリチウム二次電池について説明する。
【0189】
リチウム二次電池は、集電体上に正極合剤層を有する正極と、集電体上に負極合剤層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備する。前記正極合剤層と前記集電体との間や、前記負極合剤層と前記集電体との間には、電極下地層が形成されていてもよい。
電極について、使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が用いられるが、特に正極材料としてはアルミニウムが、負極材料としては銅が、好ましい。又、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及び
メッシュ状のものも使用できる。
【0190】
集電体上に電極下地層を形成する方法としては、導電性材料でカーボンブラックとバインダー成分が溶剤中に分散させた電極下地ペーストを電極集電体に塗布、乾燥する方法が挙げられる。電極下地層の膜厚としては、導電性及び密着性が保たれる範囲であれば特に制限されないが、一般的には0.05μm以上、20μm以下であり、好ましくは0.1μm以上、10μm以下である。
【0191】
集電体上に電極合剤層を形成する方法としては、集電体上に上述の電極合剤ペーストを直接塗布し乾燥する方法、及び集電体上に電極下地層を形成した後に電極合剤ペーストを塗布し乾燥する方法等が挙げられる。又、電極下地層の上に電極合剤層を形成する場合、集電体上に電極下地ペーストを塗布した後、湿潤状態のうちに電極合剤ペーストを重ねて塗布し、乾燥を行っても良い。電極合剤層の厚みとしては、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0192】
塗布方法については、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、又は静電塗装法等が挙げられる。又、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。
【0193】
≪電解液≫
本発明のリチウム二次電池を構成する電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶剤に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、LiC49SO3、Li(CF3SO23C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0194】
非水系の溶剤としては特に限定はされないが、例えば、
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;
γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;
テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;
メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;
ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、
アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。又、これらの溶剤は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0195】
更に上記電解液を、ポリマーマトリクスに保持しゲル状とした高分子電解質とすることもできる。ポリマーマトリクスとしては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するアクリレート系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリホスファゼン系樹脂、及びポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリシロキサン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0196】
本発明の正極合剤ペーストを用いたリチウム二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレータとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0197】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。実施例中、部は重量部を、%は重量%をそれぞれ表す。正極活物質分散体、及び電極合剤ペーストの分散粒度については、グラインドゲージによる判定(JIS K5600−2−5に準ず)より求めた。又、正極活物質分散体の粘度は、E型粘度計(東機産業社製「RE80型粘度計」)で、5rpmの回転速度における25℃での粘度を測定した。
【0198】
又、以下、酸性官能基を有する樹脂の重合平均分子量(Mw)は、装置としてHLC−8320GPC(東ソー株式会社製)を用いて測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。酸価についても通常の酸化滴定により測定した。
【0199】
≪酸性官能基を有する樹脂の合成≫
<酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1)タイプ>
[スルホン酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1−1)の合成]
スルホン酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂の調製は、特許第3784494号公報に準じた。即ち、1Lのセパラブルフラスコ中で各種分子量のポリフッ化ビニリデン系樹脂100gをクロロホルム400mLに分散させ、攪拌しながらクロロスルホン酸100mLを滴下した後に、2時間加熱還流させた。その後、反応液を氷水中に注ぎ、固形物を濾別し、水洗、乾燥を経て、重量平均分子量約1万のスルホン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂を得た。
重量平均分子量約1万のポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、公知の方法で合成した1,1-ジフルオロエチレンのホモポリマーを使用した。
【0200】
[燐酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1−2)の合成]
特開平6−172452号公報に準じて以下の様に、ヒドロキシル基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂を合成した。即ち、2Lのオートクレーブに、イオン交換水1040g、メチルセルロース0.8g、酢酸エチル2.5g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート4g、フッ化ビニリデン396g、2-ヒドロキシエチルアクリレート4gを仕込み、28℃で45時間懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗後、80℃で20時間乾燥して重合体を得た。次に、窒素ガス導入管及び、コンデンサをつけた1Lのセパラブルフラスコ中で上記のヒドロキシル基含有ポリフッ化ビニリデン系樹脂100gをクロロホルム400mLに分散させ、窒素下で攪拌しながらオルトリン酸換算含有量116%のポリリン酸100gを混合した後、2時間加熱還流させた。その後、反応液を氷水中に注ぎ、固形物を濾別し、水洗、乾燥を経て、重量平均分子量約1万の燐酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(A1−2)を得た。
【0201】
<酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)タイプ>
[カルボキシル基を有するポリビニル系樹脂(A2−1)の合成]
ガス導入管、温度計、コンデンサ、攪拌機を備えた反応容器に、n−ブチルメタクリレート100部とベンジルメタクリレート100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を80℃に加熱して、3‐メルカプト‐1,2‐プロパンジオール12部に、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.1部を溶解した溶液を添加して、10時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認した。ピロメリット酸無水物19部、N-メチル−2−ピロリドン231部、触媒として1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−7−ウンデセン0.40部を追加し、120℃で7時間反応させた。酸価の測定で98%以上の酸無水物がハーフエステル化していることを確認し反応を終了し、固形分50%のカルボキシル基を有するポリビニル系樹脂(A2−1)溶液を得た。得られたポリビニル系樹脂(A2−1)の重量平均分子量(Mw)は8,500、酸価は 43mgKOH/gであった。
【0202】
[カルボキシル基を有するポリビニル系樹脂(A2−2)の合成]
ガス導入管、温度計、コンデンサ、攪拌機を備えた反応容器に、メチルメタクリレート180部とメタクリル酸20部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を80℃に加熱して、3‐メルカプト‐1,2‐プロパンジオール12部に、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.1部を溶解した溶液を添加して、10時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認した。ピロメリット酸無水物19部、N-メチル−2−ピロリドン231部、触媒として1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−7−ウンデセン0.40部を追加し、120℃で7時間反応させた。酸価の測定で98%以上の酸無水物がハーフエステル化していることを確認し反応を終了し、固形分50%のカルボキシル基を有するポリビニル系樹脂(A2−2)溶液を得た。得られたポリビニル系樹脂(A2−2)の重量平均分子量(Mw)は8,600、酸価は 93mgKOH/gであった。
【0203】
[カルボキシル基を有するポリビニル系樹脂(A2−3)の合成]
ガス導入管、温度計、コンデンサ、攪拌機を備えた反応容器に、エチルアクリレート160部とメチルメタクリレート30部とメタクリル酸10部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を80℃に加熱して、3‐メルカプト‐1,2‐プロパンジオール12部に、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.1部を溶解した溶液を添加して、10時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認した。ピロメリット酸無水物19部、N-メチル−2−ピロリドン231部、触媒として1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−7−ウンデセン0.40部を追加し、120℃で7時間反応させた。酸価の測定で98%以上の酸無水物がハーフエステル化していることを確認し反応を終了し、固形分50%のカルボキシル基を有するポリビニル系樹脂(A2−3)溶液を得た。得られたポリビニル系樹脂(A2−3)の重量平均分子量(Mw)は8,400、酸価は 70mgKOH/gであった。
【0204】
<酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)タイプ>
[カルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(A3−1)の合成]
ガス導入管、温度計、コンデンサ、及び攪拌機を備えた反応容器に、1−ドデカノール62.6部、ε−カプロラクトン287.4部、及び触媒としてモノブチルスズ(IV)オキシド0.1部を仕込み、窒素ガスで置換した後、120℃で4時間加熱、撹拌した。固形分測定により98%が反応したことを確認したのち、無水ピロメリット酸36.6部を加え、120℃で2時間反応させカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(A3−1)を得た。得られたポリエステル系樹脂(A3−1)は、常温で白色ワックス状固体であった。
【0205】
[カルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(A3−2)の合成]
ガス導入管、温度計、コンデンサ、及び攪拌機を備えた反応容器に、メトキシPEG400(片末端メトキシ化ポリエチレングリコール;分子量400)169.0部、ε−カプロラクトン96.4部、δ−バレロラクトン84.6部、及び触媒としてモノブチルスズ(IV)オキシド0.1部を仕込み、窒素ガスで置換した後、120℃で4時間加熱、撹拌した。固形分測定により98%が反応したことを確認したのち、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物62.2部を加え、120℃で2時間反応させカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂(A3−2)を得た。得られたポリエステル系樹脂(A3−2)は、常温で淡黄色透明液体であった。
【0206】
≪酸性官能基を有する樹脂で表面処理された正極活物質の調整≫
表1に示す組成及び処理方法に従って、酸性官能基を有する樹脂による正極活物質の表面処理を行った。酸性基を有する樹脂の使用量は、固形分換算で表記した。
【0207】
[表面処理正極活物質(1)]
正極活物質であるコバルト酸リチウム(HLC−17、平均一次粒径2.5μm、比表面積0.54m2/g、本荘ケミカル社製)100部、酸性官能基を有する樹脂(A1−1)0.2部、及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を25部仕込み、2本ロールにて処理し、乾燥することで表面処理正極活物質(1)を得た。
【0208】
[表面処理正極活物質(2)]
ニーダーに、正極活物質であるマンガン酸リチウム(CELLSEED S-LM、平均一次粒径12.0μm、比表面積0.48m2/g、日本化学工業社製)100部、酸性官能基を有する樹脂(A2−1)溶液0.2部(固形分0.1部)、及びNMPを25部仕込み、混練処理を行った。得られた処理物を乾燥、粉砕し、表面処理正極活物質(2)を得た。
【0209】
[表面処理正極活物質(3)]
ニーダーに、正極活物質となるリン酸鉄リチウム(平均一次粒径0.2μm、比表面積15m2/g、TIANJIN STL ENERGY TECHNOLOGY社製)100部、酸性官能基を有する樹脂(A2−2)溶液0.2部(固形分0.1部)、及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を43部仕込み、混練処理を行った。得られた処理物をヘキサン1000部中に添加して攪拌した後、凝集物を濾取、乾燥、粉砕して表面処理正極活物質(3)を得た。
【0210】
[表面処理正極活物質(4)]
正極活物質となるリン酸鉄リチウム(平均一次粒径0.2μm、比表面積15m2/g、TIANJIN STL ENERGY TECHNOLOGY社製)100部に対して、酸性官能基を有する樹脂(A3−1)0.75部をNMP15部に溶解させ、乾式ジェットミルにて解砕しながら処理し、乾燥することで表面処理正極活物質(4)を得た。
【0211】
[表面処理正極活物質(5)]
正極活物質であるリン酸鉄リチウム(平均一次粒径0.2μm、比表面積15m2/g、TIANJIN STL ENERGY TECHNOLOGY社製)100部、酸性官能基を有する樹脂(A3−2)1.5部、及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を25部仕込み、2本ロールにて処理し、乾燥することで表面処理正極活物質(5)を得た。
【0212】
<表面処理の有無による正極活物質の濡れ性評価>
分散剤未処理の各種正極活物質及び、各種分散剤処理正極活物質を80℃で10時間減圧乾燥した。続いて乾燥物をメノウ製の乳鉢で粉砕した後、更に80℃で12時間減圧乾燥した。得られた乾燥物を再度メノウ製乳鉢で粉砕した後、錠剤成型器(Specac社製)にて500kgf/cm2で荷重をかけ、正極活物質のペレットを作製(直径10mm、厚0.5mm)した。このペレットにマイクロシリンジにて、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1混合した液滴を落とし、液滴がペレットに浸透する時間を測定した。この測定を各サンプルとも5回行い、それらの平均浸透時間が1秒未満であったものを「◎」、1秒以上、5秒未満であったものを「○」、5秒以上、10秒未満であったものを「△」、10秒以上であったものを「×」とした。正極活物質の濡れ性評価の結果を表1に示した。
【0213】
【表1】

表1中、略称は以下に示す通りである。
酸性樹脂:酸性官能基を有する樹脂
【0214】
≪正極活物質分散体の調製≫
[正極活物質分散体(1)]
容器に、溶剤として、N−メチル−2−ピロリドン 28.6部、酸性分散樹脂(A1−1)1.4部を仕込み、混合攪拌して該誘導体を完全ないしは一部溶解させた。次に、正極活物質として、コバルト酸リチウムLiCoO2 70部を加え、メディアレス分散機であるホモジナイザーで分散し、正極活物質分散体(1)を得た。
【0215】
[正極活物質分散体(2)〜(8)の調整]
正極活物質分散体(1)の調整と同様の方法で、表2の組成になるように分散体の調整を行い、正極活物質分散体(2)〜(8)を得た。
【0216】
[正極活物質分散体(9)]
容器に、溶剤として、 N−メチル−2−ピロリドン 29.70部、酸性官能基を有する樹脂(A3−1)30%溶液0.23部(固形分0.07部)を仕込み、混合攪拌して該樹脂を完全ないしは一部溶解させた。次に、表面処理正極活物質(3) 70.07部加え、メディアレス分散機であるホモジナイザーで分散し、正極活物質分散体(9)を得た。
【0217】
[正極活物質分散体(10)の調整]
容器に、溶剤として、精製水 29.47部、表面処理正極活物質(4)70.53部を仕込み、メディアレス分散機であるホモジナイザーで分散し、正極活物質分散体(10)を得た。
【0218】
[正極活物質分散体(11)]
容器に、溶剤として、精製水 29.22部、バインダーとして、60%ポリテトラフルオロエチレンPTFE水系分散体(PTFE、30−J、三井・デュポンフルオロケミカル製)0.78部(固形分0.47部)を仕込み、混合攪拌して該樹脂を完全ないしは一部溶解させた。次に、正極活物質として、リン酸鉄リチウムLiFePO4 70部加え、メディアレス分散機であるホモジナイザーで分散し、正極活物質分散体(11)を得た。
【0219】
[正極活物質分散体(12)の調整]
容器に、溶剤として、 N−メチル−2−ピロリドン 30部、リン酸鉄リチウムLiFePO4 70部加え、メディアレス分散機であるホモジナイザーで分散し、正極活物質分散体(12)を得た。
【0220】
【表2】

【0221】
表2中、略称は以下に示す通りである。
酸性樹脂:酸性官能基を有する樹脂
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0222】
[正極活物質分散体(1)〜(12)の分散評価]
得られた正極活物質分散体(1)〜(12)の分散評価結果を、表3に示す。
【0223】
【表3】

【0224】
表1及び2に記載した材料、並びに、実施例及び比較例で使用した材料について以下に示す。
【0225】
≪正極活物質≫
LiCoO2:コバルト酸リチウム HLC−17(本荘ケミカル社製);平均一次粒径2.5μm、比表面積0.54m2/g。
LiMn24:マンガン酸リチウム CELLSEED S-LM(日本化学工業社製);平均一次粒径12.0μm、比表面積0.48m2/g。
LiFePO4:リン酸鉄リチウム(TIANJIN STL ENERGY TECHNOLOGY社製);平均一次粒径0.2μm、比表面積15m2/g。
【0226】
≪酸性官能基を有する樹脂≫
<酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1)タイプ>
(A1−1):スルホン酸基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂;重量平均分子量約1万。
(A1−2):燐酸基含有ポリフッ化ビニリデン系樹脂;重量平均分子量約1万。
(A1−3):KFポリマーW#9100(クレハ社製);カルボキシル基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂、重量平均分子量約28万。
【0227】
<酸性官能基を有するポリビニル系樹脂(A2)タイプ>
(A2−1):カルボキシル基を有するポリビニル系樹脂;重量平均分子量8,500、酸価43mgKOH/g。固形分50%の樹脂(A2−1)N−メチル−2−ピロリドン溶液。
(A2−2):カルボキシル基を有するポリビニル系樹脂;重量平均分子量8,600、酸価は 93mgKOH/g。固形分50%の樹脂(A2−2)N−メチル−2−ピロリドン溶液。
(A2−3):カルボキシル基を有するポリビニル系樹脂;重量平均分子量8,400、酸価 70mgKOH/g。固形分50%の樹脂(A2−3)N−メチル−2−ピロリドン溶液。
【0228】
<酸性官能基を有するポリエステル系樹脂(A3)タイプ>
(A3−1):カルボキシル基を有するポリエステル系樹脂;常温で白色ワックス状固体。
(A3−2):カルボキシル基を有するポリエステル系樹脂;常温で淡黄色透明液体。
【0229】
<(A1)〜(A3)タイプ以外の酸性官能基を有する樹脂(B2)>
(B1):Disperbyk−111(ビックケミー社製);燐酸基を有する樹脂。
【0230】
≪バインダー≫
PVDF:KFポリマーW#1100(クレハ社製);ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、重量平均分子量約28万。
PTFE:PTFE30−J(三井・デュポンフロロケミカル社製);固形分60%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水系分散体
【0231】
≪導電助剤用カーボンブラック≫
HS−100:デンカブラックHS−100(電気化学工業社製);アセチレンブラック、一次粒径48nm、比表面積48m2/g。
【0232】
<リチウム二次電池用正極合剤ペーストの調製>
下記のように、正極活物質分散体(1)〜(12)、前記カーボンブラック、バインダー、及び溶剤を用いて、正極合剤ペースト(1)〜(12)、及び比較正極合剤ペースト(1)〜(2)を調整した。
【0233】
[実施例1]
正極活物質分散体(1) 64.3部に対して、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、KFポリマーW#11000、クレハ社製)1.6部、及びN−メチル−2−ピロリドン31.6部をプラネタリーミキサーで混合した後に、導電助剤として、デンカブラックHS−100 2.5部を加え、更に、プラネタリーミキサーで混練し、正極合剤ペースト(1)〔固形分:50%、固形分組成重量比:正極活物質/カーボンブラック/その他(酸性官能基を有する樹脂+バインダー)=90/5/5〕を得た。
【0234】
[実施例2〜9、比較例2]
実施例1と同様の方法で、表4の組成に従い、正極合剤ペースト(2)〜(9)、及び比較正極合剤ペースト(2)〔固形分:50%、固形分組成重量比:正極活物質/カーボンブラック/その他(酸性官能基を有する樹脂+バインダー)=90/5/5〕を得た。
【0235】
[実施例10]
正極活物質分散体(10)64.3部に対して、バインダーとして、60%ポリテトラフルオロエチレンPTFE水系分散体(PTFE 30−J、三井・デュポンフロロケミカル社製)3.87部(固形分2.32部)、及び精製水29.33部をプラネタリーミキサーで混合した後に、導電助剤として、デンカブラックHS−100 2.5部を加え、更にプラネタリーミキサーにより混練し、正極合剤ペースト(10)〔固形分:50%、固形分組成重量比:正極活物質/カーボンブラック/その他(酸性官能基を有する樹脂+バインダー)=90/5/5〕を得た。
【0236】
[比較例1]
正極活物質分散体(11)を用いた以外は実施例10と同様の方法で表4の組成に従い、比較正極合剤ペースト(1)〔固形分:50%、固形分組成重量比:正極活物質/カーボンブラック/その他(酸性官能基を有する樹脂+バインダー)=90/5/5〕を得た。
【0237】
正極合剤ペースト(1)〜(10)、並びに、比較正極合剤ペースト(1)及び(2)の分散安定性の評価結果(初期及び50℃3日経過後の分散粒径)を示す。
【0238】
【表4】

【0239】
表4中、略称は以下に示す通りである。
PVDF:ポリフッ化ビニリデン
PEFE:ポリテトラフルオロエチレン
【0240】
<リチウム二次電池用負極合剤ペーストの調製>
カーボンブラックHS1002部に対して、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンPVDF(KFポリマーW#1100、クレハ社製)4.9部、N−メチル−2−ピロリドン82.1部を高速ディスパーで混合した後に、負極活物質としてメソフェーズカーボン(MCMB 6−28、平均粒径5〜7μm、比表面積4m2/g大阪ガスケミカル社製)93部を加えプラネタリーミキサーにより混練し、負極合剤ペースト(固形分:50%、固形分組成重量比:負極活物質/カーボンブラック/その他(塩基性官能基を有する分散樹脂+バインダー)=93/2/5)を得た。
【0241】
<リチウム二次電池用正極の作製>
[実施例1〜12、比較例1〜2]
先に調製した正極合剤ペースト(1)〜(12)、比較正極合剤ペースト(1)〜(2)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧加熱乾燥し、ロールプレス等による圧延処理を行い、厚さ50μmの正極合剤層を作製した。(表4を参照)
<リチウム二次電池用負極の作製>
先に調製した負極合剤ペーストを、集電体となる厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧加熱乾燥し、ロールプレス等による圧延処理を行い、厚さ50μmの負極合剤層を作製した。
【0242】
<リチウム二次電池正極評価用セルの組み立て>
先に作製した正極を、直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製 #2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製 HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグロ−ボックス内で行い、セル組み立て後、所定の電池特性評価を行った。
【0243】
<リチウム二次電池負極評価用セルの組み立て>
先に作製した負極を、直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製 #2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPF6 を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製 HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグロ−ボックス内で行い、セル組み立て後、所定の電池特性評価を行った。
【0244】
<リチウム二次電池正極特性評価>
[充放電サイクル特性 実施例1〜12、比較例1〜2]
作製した電池評価用セルを室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電サイクル特性評価(評価装置:北斗電工社製SM−8)を行った。又、評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観を目視にて確認した。評価結果を表5に示した。
【0245】
[直流内部抵抗測定 実施例1〜12、比較例1〜2]
作製した電池評価用セルを室温(25℃)、充電レート0.2Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、0.1C、0.2C、0.5C、1.0Cのレートの定電流で5秒放電後、電池電圧を測定した。電流値に対し電圧値をプロットし、得られた直線関係の傾きを内部抵抗とした。評価結果を表5に示すが、実施例1の内部抵抗測定値を100としたときの相対値として示した。
【0246】
【表5】

【0247】
表1〜5から分かるように、実施例では、酸性官能基を有する分散樹脂を使用することで、正極活物質の分散性が向上したため、比較例に比べて正極合剤ペーストでの分散性及び経時安定性が向上した。又、比較例に比べて、内部抵抗の低下傾向が見られるとともに、電池容量及び、20サイクル容量維持率が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性官能基を有する樹脂と、正極活物質と、を含んでなるリチウム二次電池用正極合剤ペースト。
【請求項2】
酸性官能基を有する樹脂が、カルボキシル基、スルホン酸基、及び燐酸基からなる群から選ばれる1種類以上の酸性官能基を有する樹脂である請求項1記載のリチウム二次電池用正極合剤ペースト。
【請求項3】
酸性官能基を有する樹脂が、
酸性官能基を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(A1)、
分子内に2つの水酸基と1つのチオール基とを有する化合物(s)の存在下、エチレン性不飽和単量体(m)をラジカル重合してなる、片末端に2つの水酸基を有するビニル重合体(a)中の水酸基と、テトラカルボン酸二無水物(b)中の酸無水物基とを反応させてなるポリビニル系樹脂(A2)、並びに、
下記一般式(1):
(HOOC−)m−R21−(−COO−[−R23−COO−]n−R22t (1)
〔一般式(1)中、R21は、4価のテトラカルボン酸化合物残基であり、R22は、モノアルコール残基であり、R23は、ラクトン残基であり、mは、2又は3であり、nは、1〜50の整数であり、tは、(4−m)である。〕
で表されるポリエステル系樹脂(A3)、
からなる群から選ばれる1種類以上の酸性官能基を有する樹脂である請求項1又は2記載のリチウム二次電池用正極合剤ペースト。
【請求項4】
正極活物質が、リン酸鉄リチウムである請求項1〜3いずれか記載のリチウム二次電池用正極合剤ペースト。
【請求項5】
更に、酸性官能基を有する樹脂以外のバインダー成分を含んでなる請求項1〜4いずれか記載のリチウム二次電池用正極合剤ペースト。
【請求項6】
バインダー成分が、分子内にフッ素原子を有する高分子化合物である請求項5記載のリチウム二次電池用正極合剤ペースト。
【請求項7】
更に、導電助剤を含んでなる請求項1〜6いずれか記載のリチウム二次電池用正極合剤ペースト。
【請求項8】
更に、溶剤を含んでなる請求項1〜7いずれか記載のリチウム二次電池用正極合剤ペースト。
【請求項9】
正極活物質と、酸性官能基を有する樹脂と、を分散するリチウム二次電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項10】
酸性官能基を有する樹脂で、あらかじめ処理された正極活物質を使用する請求項9記載のリチウム二次電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項11】
集電体上に正極合剤層を有する正極と、集電体上に負極合剤層を有する負極と、リチウムを含む電解質と、を具備するリチウム二次電池であって、前記正極合剤層が、請求項1〜8いずれか記載のリチウム二次電池用正極合剤ペーストを使用して形成されてなるリチウム二次電池。
【請求項12】
請求項9又は10記載の製造方法により製造されたリチウム二次電池用正極合剤ペーストを使用して形成されてなる請求項11記載のリチウム二次電池。

【公開番号】特開2010−97817(P2010−97817A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267650(P2008−267650)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】