説明

リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及びリチウム二次電池

【課題】 リチウム二次電池に、特に優れたサイクル特性を付与することができるリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を用いたリチウム二次電池用正極活物質、該正極活物質を工業的に有利な方法で製造する方法及び該正極活物質を用いた、特にサイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】Al原子を含有する正極活物質であって、下記一般式(1)
LiNi1−y−zCoMn(1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0<y≦0.5、zは0<z≦0.5を示し、但し、y+z<1を示す。)で表されるリチウム複合酸化物と、α−LiAlOを含有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及び特にサイクル特性に優れたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の正極活物質として、コバルト酸リチウムが用いられてきた。しかし、コバルトは希少金属であるため、コバルトの含有率が低いリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(例えば、特許文献1〜3参照)が開発されている。
【0003】
このリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池は、複合酸化物中に含まれるニッケル、マンガン、コバルトの原子比を調製することで、低コスト化が可能で、安全性の要求に対しても優れたものになることが知られているが、更に、サイクル特性に優れたものが要望されている。
【0004】
また、下記特許文献4には、主にLi1.04Ni0.86Co0.15等の複合酸化物と、該複合酸化物の表面に粒子として、または層状に載置されるLiAlO等のAl含有化合物からなり、特定の諸物性を有するNaFeO型結晶構造を有する正極活物質を用いることが提案されている。しかし、特許文献4によれば、LiAlOは単なるAl含有化合物の例示に過ぎず、また、本発明にかかる正極活物質に関する具体的な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−106875号公報
【特許文献2】国際公開第2004/092073号パンフレット
【特許文献3】特開2005−25975号公報
【特許文献4】特開2007−103141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記実情を鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物と、α-LiAlOを含有した正極活物質を用いたリチウム二次電池は、特にサイクル特性が優れたものになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の目的は、リチウム二次電池に、特に優れたサイクル特性を付与することができるリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を用いたリチウム二次電池用正極活物質、該正極活物質を工業的に有利な方法で製造する方法及び該正極活物質を用いた、特にサイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が提供しようとする第1の発明は、Al原子を含有する正極活物質であって、下記一般式(1)
LiNi1−y−zCoMn(1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0<y≦0.5、zは0<z≦0.5を示し、但し、y+z<1を示す。)で表されるリチウム複合酸化物と、α−LiAlOを含有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質である。
【0009】
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を原子比でニッケル原子1モルに対してコバルト原子0.1〜1.0、マンガン原子0.1〜1.0含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムとを、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子の原子比(Li/{Ni+Co+Mn+Al})で0.95以上で混合物する第1工程、次いで、得られる混合物を焼成して下記一般式(1)
LiNi1−y−zCoMn(1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0<y≦0.5、zは0<z≦0.5を示し、但し、y+z<1を示す。)で表されるリチウム複合酸化物と、α−LiAlOを含有する正極活物質を得る第2工程を有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0010】
また、本発明が提供しよとする第3の発明は、前記第1の発明のリチウム二次電池用正極活物質を用いたことを特徴とするリチウム二次電池である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質によれば、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物からなる正極活物質を用いて、特に優れたサイクル特性を有するリチウム二次電池を提供することができる。
また、該リチウム二次電池用正極活物質の製造方法によれば、該正極活物質を工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】参考実験1で得られた正極活物質試料のX線回折図。
【図2】参考実験1で得られた正極活物質試料のSEM写真。
【図3】参考実験2で得られた正極活物質試料のX線回折図。
【図4】参考実験2で得られた正極活物質試料のSEM写真。
【図5】実施例1で得られた正極活物質試料のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係るリチウム二次電池用正極活物質(以下、特に断らない限りは単に「正極活物質」と呼ぶ。)は、Al原子を含有する正極活物質であって、下記一般式(1)
LiNi1−y−zCoMn(1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0<y≦0.5、zは0<z≦0.5を示し、但し、y+z<1を示す。)で表されるリチウム複合酸化物(以下、単に「リチウム複合酸化物」と呼ぶこともある。)と、α−LiAlOを含有することを特徴とするものであり、かかる構成を有する正極活物質は、該正極活物質を用いたリチウム二次電池に、特に優れたサイクル特性を付与することができる。
【0014】
前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物の式中のxは0.98以上1.20以下であり、好ましくは式中のxが1.00以上1.10以下の範囲であるとリチウム二次電池の初期放電容量が高くなる傾向があることから好ましい。式中のyは0より大きく、0.5以下であり、好ましくは式中のyが0より大きく、0.4以下の範囲であるとリチウム二次電池の安全性の点から好ましい。式中のzは0より大きく、0.5以下であり、好ましくは式中のzが0より大きく、0.4以下の範囲であるとリチウム二次電池の初期放電容量が高くなる傾向があることから好ましい。
前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物において、特に好ましくは式中のxが1.00以上1.05以下、yが0.1以上0.3以下、zが0.1以上0.3以下である。
【0015】
また、前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物は、一次粒子が集合して二次粒子を形成した凝集状リチウム複合酸化物であると、塗料中での分散性が良好である点で好ましい。
該凝集状リチウム複合酸化物は、走査型電子顕微鏡観察から求められる一次粒子の平均粒径が0.2〜4μm、好ましくは0.5〜2μmであると、該正極活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性が良好となる点で好ましい。更に、レーザー法粒度分布測定法から求められる二次粒子の平均粒径が4〜25μm、好ましくは5〜20μmであると、塗布性及び塗膜特性がよく、更に該正極活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性も良好となる点で好ましい。
【0016】
一方の成分のα−LiAlOの物性は、特に制限はないが、一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物より微細なものが、リチウム複合酸化物と均一分散可能である点で好ましい。なお、前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物より微細とは、一般式(1)で表わされるリチウム複合酸化物の二次粒子より平均粒径が小さいことを言う。
【0017】
本発明の正極活物質は、Al原子を含有し、そのAl原子の存在形態が少なくともα−LiAlOの状態で存在するものである。即ち、本発明の正極活物質は、該正極活物質に含有されるAl原子が全てα−LiAlOとして存在していてもよく、α−LiAlO以外にAl原子が一部リチウム複合酸化物に固溶されていてもよい。
【0018】
また、本発明の正極活物質において、Al原子の含有量は、Al原子として0.025〜0.90重量%、好ましくは0.05〜0.70重量%とすることが好ましい。この理由はAl原子の含有量がAl原子として0.025重量%未満では、該正極活物質を用いたリチウム二次電池において、十分なサイクル特性が得られなくなる傾向があり、一方、Al原子の含有量がAl原子として0.9重量%を超えると、該正極活物質を用いたリチウム二次電池において、十分な初期放電容量が得られなくなる傾向があるためである。
【0019】
Al原子を含有するリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物の製造方法において、通常、アルミニウム源として水酸化アルミニウム等を用いると優先的にアルミニウム原子はリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物中に固溶されて存在するようになるが、これに対して、本発明者は前記アルミニウム源として、燐酸アルミニウムを用い、また、原料混合物中のニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子を特定以上に高めて反応を行うことに、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物の他、α−LiAlOが生成されること、また、これを正極活物質を用いたリチウム二次電池は、特にサイクル特性の向上が認められることを見出した。
本発明の正極活物質は上記知見のもと、(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムとを、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子の原子比(Li/{Ni+Co+Mn+Al})で0.95以上、好ましくは1.00〜1.10の範囲で混合し、得られる混合物を950℃以下、好ましくは870〜940℃で焼成して生成されたものであることが特に好ましい。
かかる製法で得られる正極活物質は、前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物とα−LiAlOとの均一混合が得られ、また、該正極活物質を用いたリチウム二次電池は、特にサイクル特性が優れたものになる観点から好ましい。
【0020】
更に、本発明の正極活物質は、残存するLiOHが0.1重量%以下、好ましくは、0.05重量%以下、且つ残存するLiCOが0.5重量%以下、好ましくは0.3重量%以下であると、塗料のゲル化抑制、電池膨れ抑制の観点から特に好ましい。
【0021】
なお、本発明にかかる正極活物質は、更に、製法上、不可逆的に混入するLiPOが、本発明の効果を損なわない範囲で含有されていてもよい。
【0022】
次いで、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。
【0023】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を原子比でニッケル原子1モルに対してコバルト原子0.1〜1.0、マンガン原子0.1〜1.0含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムとを、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子の原子比(Li/{Ni+Co+Mn+Al})で0.95以上で混合物する第1工程、次いで、得られる混合物を焼成して前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物と、α−LiAlOを含有する正極活物質を得る第2工程を有することにより工業的に有利に製造することができる。
【0024】
第1工程に係る(a)リチウム化合物は、例えば、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩及び有機酸塩等が挙げられ、この中、炭酸リチウムが安価で生産作業性に優れる観点から特に好ましく用いられる。また、このリチウム化合物はレーザー法粒度分布測定法から求められる平均粒径が1〜100μm、好ましくは5〜80μmであると反応性が良好であるため特に好ましい。
【0025】
第1工程に係る(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物は、例えば、これらの複合水酸化物、複合オキシ水酸化物、複合炭酸塩又は複合酸化物が好ましく用いられる。前記の複合水酸化物は、例えば共沈法によって調製することができる。具体的には、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液と、アルカリの水溶液とを混合することで、複合水酸化物を共沈させることができる(特開平10−81521号公報、特開平10−81520号公報、特開平10−29820号公報、2002−201028号公報等参照。)。また、複合オキシ水酸化物を用いる場合には、前述の共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、反応液に空気を吹き込み酸化を行えばよい。また、複合酸化物を用いる場合には、共沈操作に従い複合水酸化物の沈殿を得た後、これを例えば200〜500℃で加熱処理することにより複合酸化物を得ることができる。また、複合炭酸塩を用いる場合には、前述の共沈操作と同様に前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液を調製し、前記アルカリ水溶液を炭酸アルカリ又は炭酸水素アルカリの水溶液としてこれを混合することで複合炭酸塩を得ることができる。
本発明において、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物は、これらの各原子を含む複合水酸化物であることが(a)リチウム化合物との反応性が高い観点から好ましい。
【0026】
本発明において、この(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物は、一次粒子が集合して二次粒子を形成した凝集体を用いると、凝集体の形状を保持した凝集状リチウム複合酸化物が得られ、また、この凝集状リチウム複合酸化物とα−LiAlOを含有する正極活物質を用いることで、特にサイクル特性が向上したリチウム二次電池が得られる点で好ましい。この場合、凝集状のニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物は、走査型電子顕微鏡観察により求められる一次粒子の平均粒径が0.2〜4μm、好ましくは0.5〜2μmで、レーザー法粒度分布測定法により求められる二次粒子の平均粒径が4〜25μm、好ましくは5〜20μmであると、得られる正極活物質は、塗布性及び塗膜特性が良く、更に該正極活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性も良好になる点で好ましい。
【0027】
更に、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物の組成は、前述した一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物の式中のニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子のモル比の範囲である。即ち、ニッケル原子1モルに対してコバルト原子0.1〜1.0、好ましくは0.2〜0.7、マンガン原子0.1〜1.0、好ましくは0.2〜0.7である。
【0028】
第1工程に係る(c)燐酸アルミニウムとしては、工業的に入手可能なものであれば、その物性等は特に制限されるものではないが、レーザー法粒度分布測定法から求められる平均粒径が1〜30μm、好ましくは5〜20μmであると(a)リチウム化合物との反応性が良好であるという観点から特に好ましい。
【0029】
なお、前記原料の(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムは、高純度の正極活物質を製造するために、可及的に不純物含有量が少ないものが好ましい。
【0030】
第1工程に係る反応操作は、まず、(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムを所定量混合し、均一混合物を得る。
【0031】
(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムの配合割合は、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子の原子比(Li/(Ni+Co+Mn+Al))で0.95以上、好ましくは1.00〜1.10であることが、サイクル特性に優れた正極活物質を得る上で、1つの重要な要件となる。この理由は、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子の原子比が0.95より小さくなると、該方法により得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池において、サイクル特性が良好で、更には十分な初期放電容量を持ったものを得ることができないからである。
【0032】
また、(b)ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムの配合割合は、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子に対するアルミニウム原子の原子比(Al/{Ni+Co+Mn})で0.001〜0.03、好ましくは0.005〜0.02とすることが、該方法により得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池において、初期放電容量とサイクル特性の両方が優れたものになる観点から特に好ましい。
一方、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子に対するアルミニウム原子の原子比(Al/{Ni+Co+Mn})が0.001未満では、該方法により得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル特性が低下する傾向があり、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子に対するアルミニウム原子の原子比が0.03より大きくなると、該方法により得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池の初期放電容量が低下する傾向があり、好ましくない。
【0033】
混合は、乾式又は湿式のいずれの方法でもよいが、製造が容易であるため乾式が好ましい。乾式混合の場合は、原料が均一に混合するようなブレンダー等を用いることが好ましい。
【0034】
第1工程で得られた原料が均一混合された混合物は、次いで第2工程に付して、前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物とα−LiAlOとを含む正極活物質を得る。
【0035】
本発明にかかる第2工程は、第1工程で得られた原料が均一混合された混合物を焼成しリチウム複合酸化物とα−LiAlOとを含む正極活物質を得る工程である。
第2工程における焼成温度は950℃以下、好ましくは870〜940℃である。この理由は、焼成温度が950℃より大きくなると、該方法により得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池の初期放電容量及びサイクル特性が低下する傾向があるためである。
【0036】
本発明において焼成は、所定の焼成温度に達する前まで、昇温速度を適宜調整しながら行うことが好ましい。即ち、室温(25℃)〜600℃まで400〜800℃/hr、好ましくは500〜700℃/hrで昇温し、次いで所定の焼成温度まで50〜150℃/hr、好ましくは75〜125℃/hrで昇温することが、生産効率がよく、また、該方法により得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池において、特にサイクル特性に優れたものが得られる観点から好ましい。
また、焼成は、大気中又は酸素雰囲気中で、1〜30時間焼成することが好ましい。
【0037】
また、本発明において、焼成は所望により何度行ってもよい。或いは、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、次いで再焼成を行ってもよい。
焼成後、適宜冷却し、必要に応じ粉砕すると、本発明の正極活物質が得られる。
【0038】
本発明では、更に、得られた正極活物質を溶媒で洗浄処理する第3工程、次いで、洗浄処理後の正極活物質をアニール処理する第4工程を施すことにより、残存するLiOH及び/又はLiCOを低減し、更に、塗布性及び塗膜特性を向上させ、また、リチウム二次電池の電池膨れを、更に抑制した正極活物質を得ることができる。
【0039】
第2工程終了後に、得られる正極活物質には、残存するLiOHが0.1重量%より大きく、LiCOが0.5重量%より大きい量で含有されている。本発明にかかる第3工程では、残存するLiOHを0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下、LiCOを0.5重量%以下、好ましくは0.4重量%以下まで低減し、LiOH及びLiCOを実質的に含有しない正極活物質を得る。
該LiOH及びLiCOを実質的に含有しない正極活物質は、正極材を製造する際のバインダー樹脂との混練の際のゲル化を抑制し、塗布性を向上させることができる。
【0040】
第3工程に係る溶媒は、例えば、水、温水、エタノール、メタノール、アセトン等を1種又は2種以上の混合溶媒として用いることができる。この中、水が安価で洗浄効率が高い観点から好ましい。また、第3工程において、洗浄する方法としては、特に制限はないが、溶媒と正極活物質とを攪拌下に接触させる方法、或いはリパルプ等の常法の方法を用いることができる。
【0041】
洗浄処理後は、第4工程に付して、洗浄処理を施した正極活物質をアニール処理する。
このアニール処理により、該アニール処理を施した正極活物質を用いたリチウム二次電池は、洗浄処理のみを施した正極活物質を用いたリチウム二次電池に比べ、初期放電容量及びサイクル特性が向上し、また、該アニール処理を施した正極活物質は、リチウム二次電池の電池膨れを更に抑制することができる。
【0042】
アニール処理の条件は、400〜800℃、好ましくは500〜700℃で加熱処理することにより行われる。この理由は加熱処理温度が400℃未満では、該方法により得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池において、十分なサイクル特性が得られない傾向があり、一方、800℃を超えると、該方法により得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池において、初期放電容量が低下する傾向があり好ましくない。アニール処理を行う雰囲気は、特に制限されるものではなく、大気中又は酸素雰囲気中のいずれであってもよい。
【0043】
アニール処理の時間は、通常、3時間以上、好ましくは5〜10時間である。また、アニール処理は所望により何度行ってもよい。或いは、粉体特性を均一にする目的で、一度アニール処理したものを粉砕し、次いで再アニール処理を行ってもよい。
アニール処理終了後は、必要により解砕或いは粉砕を行い、次いで分級を行って製品とする。
【0044】
本発明に係るリチウム二次電池は、上記リチウム二次電池用正極活物質を用いるものであり、正極、負極、セパレータ、及びリチウム塩を含有する非水電解質からなる。正極は、例えば、正極集電体上に正極合剤を塗布乾燥等して形成されるものであり、正極合剤は正極活物質、導電剤、結着剤、及び必要により添加されるフィラー等からなる。本発明に係るリチウム二次電池は、正極に本発明の前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物とα−LiAlOを含有する正極活物質が均一に塗布されている。このため本発明に係るリチウム二次電池は、特にサイクル特性に優れる。
【0045】
正極合剤に含有される正極活物質の含有量は、70〜100重量%、好ましくは90〜98重量%が望ましい。
【0046】
正極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化して用いてもよく、表面処理により集電体表面に凹凸を付けて用いてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。集電体の厚さは特に制限されないが、1〜500μmとすることが好ましい。
【0047】
導電剤としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に限定はない。例えば、天然黒鉛及び人工黒鉛等の黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、或いはポリフェニレン誘導体等の導電性材料が挙げられ、天然黒鉛としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。導電剤の配合比率は、正極合剤中、1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%である。
【0048】
結着剤としては、例えば、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフロオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、ポリエチレンオキシドなどの多糖類、熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー等が挙げられ、これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、多糖類のようにリチウムと反応するような官能基を含む化合物を用いるときは、例えば、イソシアネート基のような化合物を添加してその官能基を失活させることが好ましい。結着剤の配合比率は、正極合剤中、1〜50重量%、好ましくは5〜15重量%である。
【0049】
フィラーは正極合剤において正極の体積膨張等を抑制するものであり、必要により添加される。フィラーとしては、構成された電池において化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができるが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素等の繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、正極合剤中、0〜30重量%が好ましい。
【0050】
負極は、負極集電体上に負極材料を塗布乾燥等して形成される。負極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、アルミニウム、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの及びアルミニウム−カドミウム合金等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化して用いてもよく、表面処理により集電体表面に凹凸を付けて用いてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。集電体の厚さは特に制限されないが、1〜500μmとすることが好ましい。
【0051】
負極材料としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素質材料、金属複合酸化物、リチウム金属、リチウム合金、ケイ素系合金、錫系合金、金属酸化物、導電性高分子、カルコゲン化合物、Li−Co−Ni系材料等が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、難黒鉛化炭素材料、黒鉛系炭素材料等が挙げられる。金属複合酸化物としては、例えば、SnP(M11-p(M2qr(式中、M1はMn、Fe、Pb及びGeから選ばれる1種以上の元素を示し、M2はAl、B、P、Si、周期律表第1族、第2族、第3族及びハロゲン元素から選ばれる1種以上の元素を示し、0<p≦1、1≦q≦3、1≦r≦8を示す。)、LixFe23(0≦x≦1)、LixWO2(0≦x≦1)、チタン酸リチウム等の化合物が挙げられる。金属酸化物としては、GeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb23、Pb34、Sb23、Sb24、Sb25、Bi23、Bi24、Bi25等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等が挙げられる。
【0052】
セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。耐有機溶剤性と疎水性からポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマーあるいはガラス繊維あるいはポリエチレンなどからつくられたシートや不織布が用いられる。セパレーターの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01〜10μmである。セパレターの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5〜300μmである。なお、後述する電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には、固体電解質がセパレーターを兼ねるようなものであってもよい。
【0053】
リチウム塩を含有する非水電解質は、非水電解質とリチウム塩とからなるものである。非水電解質としては、非水電解液、有機固体電解質、無機固体電解質が用いられる。非水電解液としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0054】
有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、リン酸エステルポリマー、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のイオン性解離基を含むポリマー、イオン性解離基を含むポリマーと上記非水電解液の混合物等が挙げられる。
【0055】
無機固体電解質としては、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩、硫化物等を用いることができ、例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N−LiI−LiOH、LiSiO4、LiSiO4−LiI−LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、P25、Li2S又はLi2S−P25、Li2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−Ga23、Li2S−B23、Li2S−P25−X、Li2S−SiS2−X、Li2S−GeS2−X、Li2S−Ga23−X、Li2S−B23−X、(式中、XはLiI、B23、又はAl23から選ばれる少なくとも1種以上)等が挙げられる。
【0056】
更に、無機固体電解質が非晶質(ガラス)の場合は、リン酸リチウム(Li3PO4)、酸化リチウム(Li2O)、硫酸リチウム(Li2SO4)、酸化リン(P25)、硼酸リチウム(Li3BO3)等の酸素を含む化合物、Li3PO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li4SiO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li4GeO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li3BO3-x2x/3(xは0<x<3)等の窒素を含む化合物を無機固体電解質に含有させることができる。この酸素を含む化合物又は窒素を含む化合物の添加により、形成される非晶質骨格の隙間を広げ、リチウムイオンが移動する妨げを軽減し、更にイオン伝導性を向上させることができる。
【0057】
リチウム塩としては、上記非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO22NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、四フェニルホウ酸リチウム、イミド類等の1種または2種以上を混合した塩が挙げられる。
【0058】
また、非水電解質には、放電、充電特性、難燃性を改良する目的で、以下に示す化合物を添加することができる。例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グライム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N−置換オキサゾリジノンとN,N−置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ポリエチレングルコール、ピロール、2−メトキシエタノール、三塩化アルミニウム、導電性ポリマー電極活物質のモノマー、トリエチレンホスホンアミド、トリアルキルホスフィン、モルフォリン、カルボニル基を持つアリール化合物、ヘキサメチルホスホリックトリアミドと4−アルキルモルフォリン、二環性の三級アミン、オイル、ホスホニウム塩及び三級スルホニウム塩、ホスファゼン、炭酸エステル等が挙げられる。また、電解液を不燃性にするために含ハロゲン溶媒、例えば、四塩化炭素、三弗化エチレンを電解液に含ませることができる。また、高温保存に適性を持たせるために電解液に炭酸ガスを含ませることができる。
【0059】
本発明に係るリチウム二次電池は、電池性能、特にサイクル特性に優れたリチウム二次電池であり、電池の形状はボタン、シート、シリンダー、角、コイン型等いずれの形状であってもよい。
【0060】
本発明に係るリチウム二次電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ノートパソコン、ラップトップパソコン、ポケットワープロ、携帯電話、コードレス子機、ポータブルCDプレーヤー、ラジオ、液晶テレビ、バックアップ電源、電気シェーバー、メモリーカード、ビデオムービー等の電子機器、自動車、電動車両、ゲーム機器等の民生用電子機器が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物>
本発明の実施例においては、下記諸物性を有する市販のニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物(田中化学研究所製)を用いた。なお、一次粒子の平均粒径は、任意に抽出した100個の凝集粒子について、走査型電子顕微鏡観察により求めた。また、二次粒子の平均粒子はレーザー法粒度分布測定方法により求めた。複合酸化物中のNi:Co:Mnのモル比は、ICPによりNi原子、Co原子及びMn原子の含有量を測定し、その測定値から算出した。
複合水酸化物の物性
(1)複合水酸化物中のNi:Co:Mnのモル比=0.60:0.20:0.20
(2)複合水酸化物の一次粒子の平均粒径;0.2μm
(3)複合水酸化物の二次粒子の平均粒径;10.9μm
(4)複合水酸化物のBET比表面積;2.3m/g
【0062】
{参考実験1}
炭酸リチウム(平均粒子;7μm)、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物及び燐酸アルミニウム(平均粒径;16.2μm、純正化学社製)とを表1に示す量添加し、十分乾式で混合して、これら原料の均一混合物を得た。次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成した。焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、正極活物質試料を得た。
【表1】

参考実験1で得られた正極活物質試料についてCuKα線によるX線回折分析を行った。その結果、LiNi0.6Co0.2Mn0.2の回折ピークの他、2θ=18.64°、45.16°にα-LiAlOの回折ピークが確認された(図1参照)。
従って、本発明の製法で得られる正極活物質は、LiNi0.6Co0.2Mn0.2とα−LiAlOを含有するものであることが確認できた。
また、該正極活物質試料を走査型電子顕微鏡観察及びEPMAによる元素マッピングを行った結果、該正極活物質試料は一次粒子が集合し二次粒子を形成した凝集体であり、凝集粒子にAl原子が均一に分布していることが確認された。該該正極活物質試料のSEM写真を図2に示す。
該正極活物質試料は、走査型電子顕微鏡観察から求められる一次粒子の平均粒径が0.5μmで、レーザー法粒度分布測定法により求められる二次粒子の平均粒径が8.3μmであり、BET比表面積が0.92m/gであった。なお、一次粒子の平均粒径は、任意に抽出した100個の凝集粒子について、走査型電子顕微鏡観察により求めた。
【0063】
{参考実験2}
燐酸アルミニウムを水酸化アルミニウム(平均粒径;1.4μm)とした以外は参考実験1と同じ条件で反応を行って正極活物質試料を得た。
【表2】

参考実験2で得られた正極活物質試料をCuKα線によるX線回折分析を行った。その結果、LiNi0.60Co0.20Mn0.20Al0.10であることが確認された(図3参照)。
また、該正極活物質試料は、走査型電子顕微鏡観察から求められる一次粒子の平均粒径が0.5μmで、レーザー法粒度分布測定法により求められる二次粒子の平均粒径が9.6μmであり、BET比表面積が0.40m/gであった。なお、一次粒子の平均粒径は、任意に抽出した100個の凝集粒子について、走査型電子顕微鏡観察により求めた。また、該正極活物質試料のSEM写真を図4に示す。
【0064】
参考実験1及び参考実験2の結果から、アルミニウム源として水酸化アルミニウムを用いた場合は、アルミニウムはリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物に固溶して含有されるのに対して、アルミニウム源として燐酸アルミニウムを用いたときは、優先的にα−LiAlOが個別に生成されることが分かる。
【0065】
{実施例1}
<第1工程・第2工程>
炭酸リチウム(平均粒子;7μm)、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物及び燐酸アルミニウム(平均粒径;16.2μm、純正化学社製)とを表3に示す量添加し、十分乾式で混合して、これら原料の均一混合物を得た。次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成した。焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、LiNi0.6Co0.2Mn0.2とα−LiAlOを含有する正極活物質試料(A)を得た。また、得られ正極活物質試料(A)のSEM写真を図5に示す。
【0066】
{実施例2}
<第3工程・第4工程>
実施例1で得られた正極活物質試料(A)を18重量部及び純水45重量部をビーカーに仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌を行って洗浄処理を行った。
洗浄終了後、常法により固液分離して正極活物質(B)をウェト状態で回収した。
次いで、ウェト状態の正極活物質(B)をウェト状態のまま、600℃で5時間、大気雰囲気で加熱処理し、加熱処理品を粉砕、次いで分級してLiNi0.6Co0.2Mn0.2とα−LiAlOを含有する正極活物質試料(C2)を得た。
【0067】
{実施例3}
燐酸アルミニウムの添加量を表3のとおりに変えた以外は、実施例1と同様にして第1工程〜第2工程を実施し、更に実施例2と同様にして第3工程〜第4工程を実施し、LiNi0.6Co0.2Mn0.2とα−LiAlOを含有する正極活物質試料(C3)を得た。
【0068】
{比較例1}
燐酸アルミニウムを添加しない以外は、実施例1と同様にして第1工程及び第2工程を実施し、更に実施例2と同様にして第3工程〜第4工程を実施し、LiNi0.6Co0.2Mn0.2を含有する正極活物質試料(c1)を得た。
【0069】
{比較例2}
<第1工程・第2工程>
炭酸リチウム(平均粒子;7μm)、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物及び酸化マグネシウム(平均粒径;5.3μm)とを表3に示す量添加し、十分乾式で混合して、これら原料の均一混合物を得た。次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成した。焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、正極活物質(a2)を得た。
<第3工程・第4工程>
得られた正極活物質(a2)を18重量部及び純水45重量部をビーカーに仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌を行って洗浄処理を行った。
洗浄終了後、常法により固液分離して正極活物質試料(b2)をウェト状態で回収した。
次いで、ウェト状態の正極活物質(b2)をウェト状態のまま、600℃で5時間、大気雰囲気で加熱処理し、加熱処理品を粉砕、次いで分級して正極活物質試料(c3)を得た。
【0070】
{比較例3}
<第1工程・第2工程>
炭酸リチウム(平均粒子;7μm)、前記ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合酸化物及び水酸化アルミニウム(平均粒径;1.4μm)とを表3に示す量添加し、十分乾式で混合して、これら原料の均一混合物を得た。次いで600℃まで1時間で昇温、更に925℃まで3時間で昇温し、次に925℃で10時間保持し大気中で焼成した。焼成終了後、冷却し得られた焼成物を粉砕し、正極活物質(a3)を得た。
<第3工程・第4工程>
得られた正極活物質(a3)を18重量部及び純水45重量部をビーカーに仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌を行って洗浄処理を行った。
洗浄終了後、常法により固液分離して正極活物質試料(b3)をウェト状態で回収した。
次いで、ウェト状態の正極活物質(b3)をウェト状態のまま、600℃で5時間、大気雰囲気で加熱処理し、加熱処理品を粉砕、次いで分級して正極活物質試料(c3)を得た。
【表3】

【0071】
<物性評価>
上記で得られた正極活物質試料について、一次粒子の平均粒径、二次粒子の平均粒径、BET比表面積、Alの含有量、残存するLiOH及びLiCOの量を求めた。なお、得られた正極活物質の粒子性状は、SEM写真観察から求めた。
(平均粒径の評価)
一次粒子の平均粒径は、任意に抽出した100個の凝集粒子の平均値として、走査型電子顕微鏡観察により測定した。また、二次粒子の平均粒径はレーザー粒度分布測定法により求めた。
(Al含有量及びMg含有量の評価)
ICP発光分析法によりAl原子の量として求めた。なお、Mg含量量もICP発光分析法により求めた。
(LiOH、LiCO含有量の評価)
試料5g、純水100gをビーカーに計り採りマグネチックスターラーを用いて5分間分散させる。次いでこの分散液をろ過し、そのろ液30mlを自動滴定装置(型式COMTITE−2500)にて0.1N−HClで滴定し残留LiOH及びLiCOを算出した。
【0072】
【表4】

【0073】
<リチウム二次電池の評価>
(1)リチウム二次電池の作成
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた正極活物質95重量%、黒鉛粉末2.5重量%、ポリフッ化ビニリデン2.5重量%を混合して正極剤とし、これをN−メチル−2−ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
この正極板を用いて、セパレーター、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液等の各部材を使用してリチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、電解液にはエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの1:1混練液1リットルにLiPF61モルを溶解したものを使用した。
【0074】
(2)電池の性能評価
作製したリチウム二次電池を室温(25℃)で下記条件で作動させ、下記の電池性能を評価した。
<サイクル特性の評価>
正極に対して定電流電圧(CCCV)充電により1.0Cで5時間かけて、4.3Vまで充電した後、放電レート0.2Cで2.7Vまで放電させる充放電を行い、これらの操作を1サイクルとして1サイクル毎に放電容量を測定した。このサイクルを20サイクル繰り返し、1サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電容量から、下記式により容量維持率を算出した。なお、1サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。結果を表5に示す。
容量維持率(%)=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0075】
(3)塗料安定性の評価
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた正極活物質95重量%、黒鉛粉末2.5重量%、ポリフッ化ビニリデン2.5重量%を混合して正極剤とし、これをN−メチル−2−ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。この混錬ペーストを、斜めにしたガラス板に落としゲル化の指標となる流動性について下記に沿って目視で評価した。その結果を表5に併記した。
塗料安定性の評価基準
評価 流動性
◎・・・良好
○・・・やや良好
×・・・不良
【0076】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のリチウム二次電池正極活物質によれば、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物からなる正極活物質を用いて、特に優れたサイクル特性を有するリチウム二次電池を提供することができる。
また、該リチウム二次電池用正極活物質の製造方法によれば、該正極活物質を工業的に有利な方法で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al原子を含有する正極活物質であって、下記一般式(1)
LiNi1−y−zCoMn(1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0<y≦0.5、zは0<z≦0.5を示し、但し、y+z<1を示す。)で表されるリチウム複合酸化物と、α-LiAlOを含有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物は、一次粒子が集合して二次粒子を形成した凝集状リチウム複合酸化物であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムとを、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子の原子比(Li/{Ni+Co+Mn+Al})で0.95以上で混合し、得られる混合物を焼成して生成されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
Al原子の含有量が0.025〜0.90重量%であることを特徴とする請求項1乃至3記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
残存するLiOHが0.1重量%以下で、且つ残存するLiCOが0.5重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
(a)リチウム化合物、(b)ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を原子比でニッケル原子1モルに対してコバルト原子0.1〜1.0、マンガン原子0.1〜1.0含む化合物及び(c)燐酸アルミニウムとを、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及びアルミニウム原子に対するリチウム原子の原子比(Li/{Ni+Co+Mn+Al})で0.95以上で混合物する第1工程、次いで、得られる混合物を焼成して下記一般式(1)
LiNi1−y−zCoMn(1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0<y≦0.5、zは0<z≦0.5を示し、但し、y+z<1を示す。)で表されるリチウム複合酸化物と、α-LiAlOを含有する正極活物質を得る第2工程を有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程の焼成は950℃以下で行うことを特徴とする請求項6記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含む化合物が凝集状複合水酸化物であることを特徴とする請求項6又は7記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
更に、得られた正極活物質を溶媒で洗浄処理する第3工程、次いで、洗浄処理後の正極活物質をアニール処理する第4工程を有することを特徴とする請求項6記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒が水であることを特徴とする請求項9記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記アニール処理は400〜800℃で行うことを特徴とする請求項9記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−23121(P2011−23121A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164542(P2009−164542)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】