説明

リチウム二次電池用正極活物質及びリチウム二次電池

【課題】高容量で良好な放電レート特性が実現される、オリビン型のリチウム金属リン酸塩と炭素の複合体からなるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、組成式LiMPO(元素MはFe、Mn、又はTi、V、Cr、Co、Ni、Nb、Ta、Mo、Wのいずれか一種又は二種以上の遷移金属である)で表されるリン酸化合物の組成比を測定して前記組成比がLi:M:P=1:1:1に満たない元素を特定する工程と、前記特定された元素に対応する元素源としてリチウム源、金属(M)源、又はリン酸源と、前記リン酸化合物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とを混練して第1炭素含有混合物を得る工程と、前記第1炭素含有混合物を焼成する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
オリビン型のリチウム金属リン酸塩であるLiMPO(Mは遷移金属)は、比較的大きな電気容量を有し、リチウム二次電池の正極活物質として従来広く用いられてきたLiCoOよりも安価な電池が作れる可能性があることから、リチウム二次電池、特に自動車用などの大型のリチウム二次電池の正極活物質として期待されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
オリビン型のリチウム金属リン酸塩を用いた正極活物質はLiCoOに比べて導電性が低く、充放電に伴い電極反応分極が増大する等の理由から、それを用いたリチウム二次電池は十分な容量が得られていない。そのため、容量の増大を図るための様々な提案がなされている。
【0004】
特許文献3には、結晶成長抑制剤を用いてLiMPOの結晶成長を抑制して小さく形成することにより、正極活物質材料内部と電解質との間でリチウムイオンの出入りを促進させて電極反応分極を抑制するとともに、正極材料と導電性付与材との接触面積を増大させて導電性を改善し、容量増大を図るという提案がなされている。
【0005】
特許文献4には、ソルボサーマル法や噴霧熱分解法によりオリビン型リチウム金属リン酸塩の結晶子径を35nm以下に小さく形成して、リン・酸素(P・O)四面体間のリチウムイオンの移動距離を短縮するとともに、金属の価数を変化させるための電子の移動距離を短縮し、リチウムイオンの挿入脱離効率を向上させ、その結果、容量増大を図るという提案がなされている。この提案により、LiCoPOで105mAh/g程度、LiFePOで135mAh/g程度の容量が得られている。
【0006】
オリビン型リチウム金属リン酸塩は表面の結晶性が悪いために2価の金属が酸化されて高抵抗の3価リン酸塩に変化するという問題があり、また、二次凝集により粗大粒子ができやすく、その電気伝導性が悪いために容量が出にくいという問題がある。特許文献5には、その問題に対して、リチウム金属リン酸塩の焼結体をボールミルなどで粉砕して炭素源を添加し、焼成する方法が提案されている。しかしながら、ボールミリングは固液分離、廃液処理などが必要になるため、高コストであり、また、コンタミネーションの問題があるため、生産性が低いという課題がある。
【0007】
特許文献6には、オリビン型リチウム金属リン酸塩を、還元性を有する酸等で洗浄し、リチウム金属リン酸塩粒子表面に高抵抗な不純物として存在するリン酸鉄またはリン酸リチウムを除去して電気抵抗を低減する方法が提案されている。しかしながら、この方法には、仕込んだリチウムやリンや鉄が洗い流されるので生産性が落ちるという問題がある。
【0008】
特許文献7には、オリビン型リチウム鉄リン酸塩を固相法で生成する場合、原料に含まれる2価のFeが原料に含まれる空気や水分により酸化され、活物質として機能しない3価のFeに変化して容量が低下するという問題を解消する方法として、2段階の焼成条件をとることにより、3価のFeの量を低減させる方法が提案されている。しかしながら、本発明者らが追試したところ、十分な容量が得られなかった。
【0009】
特許文献8には、リチウムイオンの存在するサイトに遷移金属イオンが存在するとリチウムイオンの移動の妨げになるため、異種元素により置換するという方法が提案されている。しかしながら、リチウムイオンの存在するサイトに別のイオンが存在していると、リチウムイオンの移動の妨げになるため、満足できる容量が得られなくなるおそれがある。
【0010】
特許文献9には、LiFePO原料と炭素物質微粒子の混合物を焼成して、LiFePOに炭素物質微粒子が複合された正極活物質を作製することにより、容量増大及びサイクル特性の改善を図るという提案がなされている。この方法により、110mAh/g程度の容量が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−171827号公報
【特許文献2】特開平9−134725号公報
【特許文献3】特開2003−45430号公報
【特許文献4】特許第4190912号公報
【特許文献5】特開2009−81002号公報
【特許文献6】特開2009−200013号公報
【特許文献7】特開2005−190882号公報
【特許文献8】特表2010−524820号公報
【特許文献9】特許第4186507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、これまで容量を増大するための様々な方法によって提案がなされてきたが、理論容量(LiFePOでは170mAh/g)に比較すると十分な容量は得られていなかった。
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、リチウム金属リン酸塩を焼成して正極活物質を製造する製造方法において、その出発原料であるリチウム金属リン酸塩(LiMPO(Mは遷移金属))の組成比がLi:M:P=1:1:1に満たない場合にその不足分の元素又は原料を補充した上で焼成を行うことにより、高容量の正極活物質が得られることを見出し、本発明に想到した。組成比Li:M:P=1:1:1に満たない不足元素又は原料がある場合には、焼成された正極活物質は不完全な結晶構造になってしまうが、その不足分を補うことにより、より完全な結晶構造になると考えられる。そして、この結晶構造の完全性が活物質における迅速なリチウムイオンの挿入・脱離を可能にし、結果として高容量につながったものと推測している。すなわち、本発明者は、容量増大という課題に対して、正極活物質の結晶構造の完全性をどのように確保するかという視点を持ち込み、本発明に想到したのである。
また、本発明者は、リチウム金属リン酸塩に炭素質材料を複合化することにより、正極活物質の導電性を改善して、さらに高容量化を図り、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、高容量で良好な放電レート特性が実現されうる、オリビン型のリチウム金属リン酸塩と炭素の複合体からなるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、高容量で良好な放電レート特性が実現されうるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって得られた、オリビン型のリチウム金属リン酸塩と炭素の複合体からなる正極活物質及びその正極活物質を備えたリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 組成式LiMPO(元素MはFe、Mn、又はTi、V、Cr、Co、Ni、Nb、Ta、Mo、Wのいずれか一種又は二種以上の遷移金属である)で表されるリン酸化合物の組成比を測定して前記組成比がLi:M:P=1:1:1に満たない元素を特定する工程と、
前記特定された元素に対応する元素源としてリチウム源、金属(M)源、又はリン酸源と、前記リン酸化合物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とを混練して第1炭素含有混合物を得る工程と、
前記第1炭素含有混合物を焼成する工程と、
を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって製造されたことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
〔2〕 上記〔1〕に記載のリチウム二次電池用正極活物質を備えたことを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高容量で良好な放電レート特性が実現される、オリビン型のリチウム金属リン酸塩と炭素の複合体からなるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供できる。
また、本発明は、高容量で良好な放電レート特性が実現されるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって得られた、オリビン型のリチウム金属リン酸塩と炭素の複合体からなる正極活物質及びその正極活物質を備えたリチウム二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態であるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質及びリチウム二次電池について説明する。
【0018】
(リチウム二次電池用正極活物質の製造方法(第1の実施形態))
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、組成式LiMPOで表されるリン酸化合物の組成比を測定して前記組成比がLi:M:P=1:1:1に満たない元素を特定する工程(不足元素の特定工程)と、特定された元素に対応する元素源としてリチウム源、金属(M)源、又はリン酸源と、リン酸化合物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とを混練して第1炭素含有混合物を得る工程と、第1炭素含有混合物を焼成する工程と、を有する。ここで、LiMPOの元素MはFe、Mn、又はTi、V、Cr、Co、Ni、Nb、Ta、Mo、Wのいずれか一種又は二種以上の遷移金属である。
【0019】
<不足元素の特定工程>
本工程は、出発原料である組成式LiMPOで表されるリン酸化合物の組成比を測定して前記組成比がLi:M:P=1:1:1(所望の組成比)に満たない元素を特定する工程である。
【0020】
活物質LiMPOの構成元素であるLi、M、Pの比を測定する方法としては特に限定されないが、例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光法、原子吸光法が挙げられる。また、EPMA(Electron Probe Micro-Analysis)や蛍光X線分析などの分光法を用いてもよい。精度の出る複数の分析方法を組み合わせてもよく、例えば、Liについては原子吸光法、MとPについては蛍光X線分析法といった手法でそれぞれ得られた分析値を用いてもよい。
【0021】
出発原料である組成式LiMPOで表されるリン酸化合物の製造方法は特に限定されないが、水熱合成法、固相合成法、ゾルゲル法等を用いることができる。
【0022】
<第1炭素含有混合物を得る工程>
本工程は、前工程でLi:M:P=1:1:1に満たないことが特定された元素源(リチウム源又は金属(M)源)又は原料源(リン酸源)(以下適宜、原料源を省略して「元素源」という)と、測定されたリン酸化合物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とを混練して混合物(第1炭素含有混合物)を生成する工程である。
【0023】
活物質の構成元素の組成比を測定し、所望の組成比に満たない元素分を補充する際の各元素源としては特に限定されないが、焼成温度においてカウンターアニオンが分解して揮発するものが望ましい。さらに、固相反応を行うという観点からは、各元素源は水や有機溶媒などの液体に溶解するものであることが望ましい。不足元素の添加を行う前のリン酸化合物は固相であり、これと各元素源を均一に混合するためである。
具体的には、リチウム源としては例えば、LiOH、LiCl、LiCO、CHCOOLiまたは(COO)Liのいずれか1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
金属(M)源としては、金属(M)がFeの場合、例えば、FeCl、FeSO、Fe(NOまたは(COO)Feのいずれか1種又は2種以上の化合物を用いることができる。金属(M)がMnの場合、例えば、MnCl、MnSO、Mn(NOまたは(COO)Mnのいずれか1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
リン酸源としては特に限定されないが、例えば、HPO、NHPO、(NHHPOのいずれか1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
【0024】
炭素質材料としては、焼成工程を経て導電性を有する炭素からなる材料であれば、特に限定されない。たとえば、リチウムイオン電池負極材料として用いられるような人造黒鉛や天然黒鉛、高配向性熱分解黒鉛HOPGのような配向性のグラファイト、コークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、アセチレンブラックやケッチェンブラック、ブラックパールのようなカーボンブラック、アモルファス炭素やガラス状炭素、あるいはこれらの炭素材料を黒鉛化したもの等をいずれも用いることができる。
特に、グラファイト、カーボンナノチューブ、アモルファス炭素、ガラス状炭素、又はグラフェンのいずれか1種又は2種以上を用いることが好ましい。いずれも高伝導性であるからであり、特にグラファイト、カーボンナノチューブ及びグラフェンについては黒鉛構造がはっきりしているため、高伝導性であるからである。
【0025】
金属(M)は2種類以上の遷移金属であってもよい。この場合、例えば、LiFe0.75Mn0.25POでは、所望の組成比はLi:Fe:Mn:P=1:0.75:0.25:1となり、この組成比から不足している元素分の各元素源を補うことになる。
【0026】
不足の元素源を補うために添加されるリチウム源、金属(M)源、及びリン酸源の添加量は、添加の結果、各元素源の組成比がLi:M:P=1:1:1となるように調整されることが好ましいが、これに限定されない。例えば、不足の元素源としてリチウム源が添加される場合には、0超かつ1未満の組成比で添加することが好ましい。リチウム源の添加量として上記範囲が好ましい理由は、リチウム源の添加量は、鉄が酸化されていると0〜1の範囲を動きうるからである。不足の元素源として金属(M)源が添加される場合には、0超かつ0.33以下の組成比で添加することが好ましい。金属(M)源の添加量として上記範囲が好ましい理由は、金属(M)源が不足してLi:M:P=3:2:3の組成比をもつ化合物が生成する可能性があり不足の金属(M)源を補う必要があるからである。不足の元素源としてリン酸源が添加される場合には、0超かつ0.2以下の組成比で添加することが好ましい。リン酸源の添加量として上記範囲が好ましい理由は、リン酸源の添加量が0.2の組成比を超えるとオリビン型構造を保てなくなる可能性があるからである。
【0027】
炭素質材料前駆体としては例えば、ショ糖、ラクトース、グルコース、マルトース、フルクトースなどの糖類;メタン、エチレン、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、イソブタンなどの炭化水素ガス;ガス状でなく、液状あるいは固体の炭化水素;オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、リノレン酸などの不飽和・飽和脂肪酸;エーテル類、エステル類、1価、2価、3価、1級、2級、3級アルコール類、チオール類、ケトン類、油脂、コールタール、タールなどのピッチ類、また、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ゴム、合成繊維、合成樹脂、共重合体、メラミン、ウレアなど、有機物一般をいずれも用いることができる。
特に、糖類、炭化水素、脂肪酸、エーテル、エステル、アルコール、チオール、油脂、ピッチ、又はポリマーのいずれか1種又は2種以上を用いることが好ましい。上記のもののうち特に液状のものは、被覆率高くコーティングでき、ハンドリング性に優れ、さらに比較的コストが低いからである。
【0028】
炭素質材料又は炭素質材料前駆体の添加量は、電池活物質の容量を著しく下げないことが必須である。そのためには、最終的に得られる、リチウム金属リン酸塩と炭素とからなる電池活物質において、電池活物質に対する炭素の比率が0.5wt%以上かつ5wt%以下となる量を添加することが好ましく、0.6wt%以上かつ4wt%以下となる量を添加することがより好ましく、0.7wt%以上かつ3wt%以下となる量を添加することがもっとも好ましい。5wt%より炭素の比率が大きいと容量が低下するからであり、0.5wt%よりも少ないと導電性が低すぎて活物質として使えなくなってしまうからである。
【0029】
リン酸化合物と、各元素源及び炭素質材料又は炭素質材料前駆体との混合方法は特に限定されない。ただし、前者は固体(通常は粉体)であるため、後者2つとしては液体、あるいは溶媒に溶解させた溶液を混合することが好ましい。また、後者として固体を用いることもできる。この場合は、例えば、ボールミルや強力な攪拌機で十分な混合を行うことにより、後の焼成工程において固相反応を起こして均一な組成を得ることができる。
【0030】
得られた混合物(第1炭素含有混合物)は乾燥機等を用いて乾燥させる。乾燥の際は混合物を酸化させないように条件を選択することが好ましい。乾燥には真空乾燥法が好ましく用いられる。
【0031】
<第1炭素含有混合物を焼成する工程>
本工程は、前工程で得られた混合物(第1炭素含有混合物)を焼成して、リチウム金属リン酸塩と炭素とからなるリチウム二次電池用正極活物質を製造する工程である。
【0032】
本工程における焼成温度としては、炭素質材料を用いる場合は120℃以上、700℃以下とするのが好ましく、炭素質材料前駆体を用いる場合は200℃以上、700℃以下とするのが好ましい。炭素質材料を用いる場合に焼成温度が120℃未満ではLiMPOの再合成が実質的に起こらないと考えられるからであり、炭素質材料前駆体を用いる場合に焼成温度が200℃未満では炭素質材料前駆体を炭素質材料に十分に転化することができないからである。また、焼成温度が700℃を超えると焼結が起こり始め、粒子径が大きくなってしまうからである。
また、本工程における焼成時間は焼成を完了させることができると共に、材料がダメージ(焼結も含む)を受けない範囲であればよく、例えば、2時間以上、100時間以下が好ましい。
【0033】
また、焼成は、オリビン型リチウム金属リン酸塩が酸化しやすい材料の場合、例えばLiFePOの場合、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0034】
(リチウム二次電池用正極活物質の製造方法(第2の実施形態))
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、組成式LiMPOで表されるリン酸化合物の組成比を測定して前記組成比がLi:M:P=1:1:1に満たない元素を特定する工程(不足元素の特定工程)と、前記特定された元素に対応する元素源としてリチウム源、金属(M)源、又はリン酸源と、前記リン酸化合物とを混練して第1混合物を得る工程と、前記第1混合物を焼成する工程と、前記工程で得られた焼成物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とを混練して第2炭素含有混合物を得る工程と、前記第2炭素含有混合物を焼成する工程と、を有する。ここで、LiMPOの元素MはFe、Mn、又はTi、V、Cr、Co、Ni、Nb、Ta、Mo、Wのいずれか一種又は二種以上の遷移金属である。
【0035】
<不足元素の特定工程>
本工程は、第1の実施形態と同様である。
【0036】
<第1混合物を得る工程>
本実施形態ではまず、不足が特定された元素源と、測定されたリン酸化合物とだけを混練して混合物(第1混合物)を得る。
元素源(原料源)としては第1の実施形態と同様のものを用いることができる。
リン酸化合物と、不足が特定された元素源との混合方法は特に限定されない。ただし、前者は固体(通常は粉体)であるため、後者としては液体、あるいは溶媒に溶解させた溶液を混合することが好ましい。また、後者として固体を用いることもできる。この場合は、例えば、ボールミルや強力な攪拌機で十分な混合を行うことにより、後の焼成工程において均一な組成で固相反応を起こすことができる。
【0037】
得られた混合物(第1混合物)は乾燥機等を用いて乾燥させる。乾燥の際は混合物を酸化させないように条件を選択することが好ましい。乾燥には真空乾燥法が好ましく用いられる。
【0038】
<第1混合物を焼成する工程>
次に、得られた混合物(第1混合物)を焼成する。
本工程における焼成温度としては、120℃以上、700℃以下とするのが好ましい。焼成温度が120℃未満ではLiMPOの再合成が実質的に起こらないと考えられるからであり、700℃を超えるとLiMPOが焼結し始めるからである。
また、本工程における焼成時間は、焼成をさせることができると共に、材料がダメージ(焼結も含む)を受けない範囲であればよく、例えば、1時間以上、100時間以下が好ましい。
【0039】
また、焼成は、混合物(第1混合物)が酸化しやすい材料である場合、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0040】
<第2炭素含有混合物を得る工程>
次に、前工程で得られた混合物(第1混合物)と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とを混練して炭素含有の混合物(第2炭素含有混合物)を得る。
混合物(第1混合物)と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体との混合方法は特に限定されない。ただし、前者は固体であり、通常は粉体であるため、後者としては液体、あるいは溶媒に溶解させた溶液を用いることが好ましい。また、固体を用いることもできる。この場合は、例えば、ボールミルや強力な攪拌機で十分な混合を行うことにより、後の焼成工程において均一な組成で固相反応を起こすことができる。
【0041】
得られた炭素含有の混合物(第2炭素含有混合物)は乾燥機等を用いて乾燥させる。乾燥の際は混合物を酸化させないように条件を選択することが好ましい。乾燥には真空乾燥法が好ましく用いられる。
【0042】
<第2炭素含有混合物を焼成する工程>
次は、前工程で得られた炭素含有の混合物(第2炭素含有混合物)を焼成して、リチウム金属リン酸塩と炭素とからなるリチウム二次電池用正極活物質を製造する工程である。
本工程における焼成温度としては、炭素質材料を用いる場合は120℃以上、700℃以下とするのが好ましく、炭素質材料前駆体を用いる場合は200℃以上、700℃以下とするのが好ましい。炭素質材料を用いる場合に焼成温度が120℃未満ではLiMPOの再合成が実質的に起こらないと考えられるからであり、炭素質材料前駆体を用いる場合に焼成温度が200℃未満では上記の炭素質材料前駆体が十分に熱分解しないからである。また、焼成温度が700℃を超えるとLiMPOの焼結が始まるからである。
また、本工程における焼成時間は、焼成を完了させることができると共に、材料がダメージ(焼結も含む)を受けない範囲であればよく、例えば、1時間以上、100時間以下が好ましい。
なお、この焼成工程において、炭素質材料又は炭素質材料前駆体から供給される炭素がリチウム金属リン酸塩(LiMPO)の表面に存在する微量の三価金属を還元するのに寄与するものと考えられる。この反応の最適温度は300℃以上700℃以下である。300℃より低いと、炭素−リチウム金属リン酸塩(LiMPO)の複合体を形成しかつリチウム金属リン酸塩(LiMPO)の表面に存在する微量の三価金属を還元するという反応が起こらないからであり、700℃を超えるとLiMPOの焼結が始まるからである。
【0043】
また、焼成は、炭素含有の混合物(第2炭素含有混合物)が酸化しやすい材料である場合、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0044】
得られた混合物(第2炭素含有混合物)は乾燥機等を用いて乾燥させる。乾燥の際は混合物を酸化させないように条件を選択することが好ましい。乾燥には真空乾燥法が好ましく用いられる。
【0045】
(リチウム二次電池用正極活物質の製造方法(第3の実施形態))
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、組成式LiMPOで表されるリン酸化合物の組成比を測定して前記組成比がLi:M:P=1:1:1に満たない元素を特定する工程(不足元素の特定工程)と、前記リン酸化合物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とを混練して第3炭素含有混合物を得る工程と、前記第3炭素含有混合物を焼成する工程と、前記工程で得られた焼成物と、前記特定された元素に対応する元素源としてリチウム源、金属(M)源、又はリン酸源とを混練して第4炭素含有混合物を得る工程と、前記第4炭素含有混合物を焼成する工程と、を有する。ここで、LiMPOの元素MはFe、Mn、又はTi、V、Cr、Co、Ni、Nb、Ta、Mo、Wのいずれか一種又は二種以上の遷移金属である。
【0046】
<不足元素の特定工程>
本工程は、第1の実施形態と同様である。
【0047】
<第3炭素含有混合物を得る工程>
本実施形態ではまず、測定されたリン酸化合物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とだけを混練して混合物(第3炭素含有混合物)を得る。
リン酸化合物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体との混合方法は特に限定されない。ただし、前者は固体であり、通常は粉体であるため、後者としては液体、あるいは溶媒に溶解させた溶液を用いることが好ましい。また、固体を用いることもできるが。この場合は、例えば、ボールミルや強力な攪拌機で十分な混合を行うことにより、後の焼成工程において均一な組成で固相反応を起こすことができる。
【0048】
得られた混合物(第3炭素含有混合物)は乾燥機等を用いて乾燥させる。乾燥の際は混合物を酸化させないように条件を選択することが好ましい。乾燥には真空乾燥法が好ましく用いられる。
【0049】
<第3炭素含有混合物を焼成する工程>
次に、前工程で得られた炭素含有の混合物(第3炭素含有混合物)を焼成する。
本工程における焼成温度としては、炭素質材料を用いる場合は120℃以上、700℃以下とするのが好ましく、炭素質材料前駆体を用いる場合は200℃以上、700℃以下とするのが好ましい。炭素質材料を用いる場合に焼成温度が120℃未満ではLiMPOの再合成が実質的に起こらないと考えられるからであり、炭素質材料前駆体を用いる場合に焼成温度が200℃未満では上記の炭素質材料前駆体が十分に熱分解しないからである。また、焼成温度が700℃を超えると700℃を超えるとLiMPOの焼結が始まるからである。
また、本工程における焼成時間は焼成を完了することができると共に、材料がダメージ(焼結も含む)を受けない範囲であればよく、例えば、1時間以上、100時間以下が好ましい。
【0050】
また、焼成は、炭素含有の混合物(第3炭素含有混合物)が酸化しやすい材料である場合、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0051】
<第4炭素含有混合物を得る工程>
次に、前工程で得られた焼成物と、上記特定された元素のリチウム源、金属(M)源、又はリン酸源とを混練して炭素含有の混合物(第4炭素含有混合物)を得る。
焼成物と各元素源との混合方法は特に限定されない。ただし、前者は固体であり、通常は粉体であるため、後者は液体、あるいは溶媒に溶解させた溶液であることが好ましい。また、後者として固体を用いることもできる。この場合は、例えば、ボールミルや強力な攪拌機で十分な混合を行うことにより、後の焼成工程において均一な組成で固相反応を起こすことができる。
【0052】
得られた混合物(第4炭素含有混合物)は乾燥機等を用いて乾燥させる。乾燥の際は混合物を酸化させないように条件を選択することが好ましい。真空乾燥法が好ましく用いられる。
【0053】
<第4炭素含有混合物を焼成する工程>
次は、前工程で得られた炭素含有の混合物(第4炭素含有混合物)を焼成して、リチウム金属リン酸塩と炭素とからなるリチウム二次電池用正極活物質を製造する工程である。
本工程における焼成温度としては、120℃以上、700℃以下とするのが好ましい。焼成温度が120℃未満ではLiMPOの再合成が実質的に起こらないと考えられるからであり、700℃を超えるとLiMPOが焼結し始めるからである。
また、本工程における焼成時間は、焼成を完了させることができると共に、材料がダメージ(焼結も含む)を受けない範囲であればよく、例えば、2時間以上、100時間以下が好ましい。
【0054】
また、焼成は、炭素含有の混合物(第2炭素含有混合物)が酸化しやすい材料である場合、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0055】
(リチウム二次電池)
本発明の実施形態に係るリチウム二次電池は、正極と負極と非水電解質とを具備して構成されている。このリチウム二次電池においては、正極に含まれる正極活物質として、上記の方法によって製造されたものが用いられる。このような正極活物質が備えられることによって、リチウム二次電池の容量及び放電レートを向上させることが可能になる。以下、リチウム二次電池を構成する正極、負極及び非水電解質について順次説明する。
【0056】
(正極)
本実施形態のリチウム二次電池では、正極として、正極活物質と導電助材と結着剤とが含有されてなる正極合材と、正極合材に接合される正極集電体とからなるシート状の電極を用いることができる。また、正極として、上記の正極合材を円板状に成形させてなるペレット型若しくはシート状の正極も用いることができる。
【0057】
正極活物質には、上記の方法によって製造されたリチウム金属リン酸塩が用いられるが、このリチウム金属リン酸塩に、従来公知の正極活物質を混合して用いても良い。
【0058】
結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンコポリマー、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリファスファゼン、ポリアクリロニトリル、等を例示できる。
【0059】
更に導電助材としては、銀粉などの導電性金属粉;ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどの導電性カーボン粉;カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相法炭素繊維などが挙げられる。導電性助剤としては気相法炭素繊維が好ましい。気相法炭素繊維は、その繊維径が5nm以上0.2μm以下であることが好ましい。繊維長さ/繊維径の比が5〜1000であることが好ましい。気相法炭素繊維の含有量は正極合材の乾燥質量に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0060】
更に正極集電体としては、導電性金属の箔、導電性金属の網、導電性金属のパンチングメタルなどが挙げられる。導電性金属としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましい。
【0061】
更に、正極合材には、必要に応じて、イオン伝導性化合物、増粘剤、分散剤、滑材などが含まれていてもよい。イオン伝導性化合物としては、キチン、キトサンなどの多糖類、または前記多糖類の架橋物などが挙げられる。増粘剤としては、カルボキシルメチルセルロール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0062】
正極は、例えば、ペースト状の正極合材を正極集電体に塗布し、乾燥させ、加圧成形することによって、または粉粒状の正極合材を正極集電体上で加圧成形することによって得られる。正極の厚さは、通常、0.04mm以上0.15mm以下である。成形時に加える圧力を調整することによって任意の電極密度の正極を得ることができる。成形時に加える圧力は1t/cm2〜3t/cm2程度が好ましい。
【0063】
(負極)
負極は、負極活物質、結着剤及び必要に応じて添加される導電助材が含有されてなる負極合材と、負極合材に接合される負極集電体とからなるシート状の電極を用いることができる。また、負極として、上記の負極合材を円板状に成形させてなるペレット型若しくはシート状の負極も用いることができる。
【0064】
負極活物質としては、従来公知の負極活物質を用いることができ、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛などの炭素材料や、Sn、Si等の金属または半金属材料を用いることができる。
【0065】
結着剤としては、正極で使用する結着剤と同様のものを用いることができる。
更に導電助材は、必要に応じて添加してもよく、添加しなくても良い。例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどの導電性カーボン粉;カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相法炭素繊維などを用いることができる。導電助剤としては気相法炭素繊維が特に好ましい。気相法炭素繊維は、その繊維径が5nm以上0.2μm以下であることが好ましい。繊維長さ/繊維径の比が5〜1000であることが好ましい。気相法炭素繊維の含有量は負極合材の乾燥質量に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0066】
更に負極集電体としては、導電性金属の箔、導電性金属の網、導電性金属のパンチングメタルなどが挙げられる。導電性金属としては銅または銅の合金が好ましい。
【0067】
負極は、例えば、ペースト状の負極合材を負集電体に塗布し、乾燥させ、加圧成形することによって、または粉粒状の負極合材を負極集電体上で加圧成形することによって得られる。負極の厚さは、通常、0.04mm以上0.15mm以下である。成形時に加える圧力を調整することによって任意の電極密度の負極を得ることができる。成形時に加える圧力は1t/cm2〜3t/cm2程度が好ましい。
【0068】
(非水電解質)
次に、非水電解質としては、例えば、非プロトン性溶媒にリチウム塩が溶解されてなる非水電解質を例示できる。
【0069】
非プロトン性溶媒は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、およびビニレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上の混合溶媒が好ましい。
また、リチウム塩には、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3、CH3SO3Li、CF3SO3Li等が挙げられる。
【0070】
また非水電解質として、いわゆる固体電解質またはゲル電解質を用いることもできる。
固体電解質またはゲル電解質としては、スルホン化スチレン−オレフィン共重合体などの高分子電解質、ポリエチレンオキシドとMgClO4を用いた高分子電解質、トリメチレンオキシド構造を有する高分子電解質などが挙げられる。高分子電解質に用いられる非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、およびビニレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0071】
更に、本実施形態のリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解質のみに限られず、必要に応じて他の部材等を備えていても良く、例えば正極と負極を隔離するセパレータを具備しても良い。セパレータは、非水電解質がポリマー電解質でない場合には必須であり、例えば、不織布、織布、微細孔質フィルムなどや、それらを組み合わせたものなどが挙げられ、より具体的には、多孔質のポリプロピレンフィルム、多孔質のポリエチレンフィルム等を適宜使用できる。
【0072】
本実施形態に係るリチウム二次電池は、種々な分野において用いることができる。例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型コンピュータ、ノート型コンピュータ、携帯電話、無線機、電子手帳、電子辞書、PDA(Personal Digital Assistant)、電子メーター、電子キー、電子タグ、電力貯蔵装置、電動工具、玩具、デジタルカメラ、デジタルビデオ、AV機器、掃除機などの電気・電子機器;電気自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク、ハイブリッドバイク、電動自転車、電動アシスト自転車、鉄道機関、航空機、船舶などの交通機関;太陽光発電システム、風力発電システム、潮力発電システム、地熱発電システム、熱差発電システム、振動発電システムなどの発電システムなどが挙げられる。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
実施例1は本発明の第1の実施形態に係るリチウム二次電池用正極活物質を用いたものである。
(1)リン酸化合物の合成
まず、水熱合成法により以下の手順で、出発原料であるリン酸鉄リチウム塩(LiFePO)を合成した。
973.11gのFeSO・7HO(関東化学株式会社製 特級)および6.52gのL−アスコルビン酸(C、関東化学株式会社製)を1リットルの脱イオン水に溶解した。次に、322.80gのHPO(関東化学株式会社製 特級85.0%水溶液)と92.44gの(NHHPO(関東化学株式会社製 特級)を1リットルの脱イオン水に溶解した。440.63gのLiOH・HO(関東化学株式会社製 特級)を2リットルの脱イオン水に溶解した。それら2液を混合し、均一な溶液が得られるまでよく振りまぜた。次に、LiOH水溶液をこの混合液に加え、よく振り混ぜることで、水熱合成用原料スラリーを得た。器壁を洗いながら、さらに合計1リットルの脱イオン水を加えた。これを8リットルのオートクレーブに入れ、蓋を閉じた。
次いで、オートクレーブを1時間で220℃まで昇温し、220℃で7時間保持することにより、水熱合成反応を進行させた。7時間保持後、加熱をやめて室温まで冷却した。
その後、オートクレーブの蓋を開け、水熱合成物を含む懸濁液を取り出し、遠心分離および洗浄後に、95℃に制御された真空乾燥機で乾燥を行った。このようにして、リン酸鉄リチウムLiFePOを得た。
【0074】
(2)正極活物質の製造
上記のようにして得たリン酸鉄リチウム塩について、ICP発光分光法によりその組成比を測定したところ、Li:Fe:P=0.972:1:0.964であり、Li及びPOについて不足していることが特定された。
そこで、測定したリン酸鉄リチウム塩に、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)をFeに対して0.028の組成比で、またリン酸源としてのHPOをFeに対して0.036の組成比で加え、さらに炭素質材料前駆体としてショ糖を全体の4.3wt%添加して混練して炭素含有混合物(第1炭素含有混合物)を生成し、それを乾燥させた。
次に、得られた炭素含有混合物を700℃で48時間焼成して、リン酸鉄リチウム塩と炭素とからなる正極活物質を得た。得られた正極活物質について、正極活物質に対する炭素の比率は2.5wt%であった。
【0075】
(3)リチウム二次電池の製造
リン酸鉄リチウム塩と炭素とからなる正極活物質と、導電助剤としてのアセチレンブラック(デンカブラックHS−100 電気化学工業製)と、結着剤としてPVdF(#1300 クレハ化学製)を質量比7:2:1にてそれぞれ秤量した。
これにN−メチル−2−ピロリジノン(以下NMPと略記)を添加し、十分に混合して固形分濃度25〜45wt%のスラリーを得た。
こうして得られたスラリーを縦10cm、横20cm、厚み20μmのアルミ箔上に、テストコーターとアプリケーターを用いて厚み0.1mmとなるように塗布した。
次に、スラリーを塗布したアルミ箔からNMPを乾燥させた後、縦2cm×横2cmでタブ部しろ(タブ用のスペース)が形成されるように打ち抜いて電極を作製した。電極の面積は2cm×2cm=4cmである。
さらに、この電極を5MPaの圧力でプレスし、50℃の温度で24時間真空乾燥して、正極として用いた。この正極の質量は0.045gであり、正極のうち、アルミ箔を除いた部分、すなわち正極合材の質量は0.023gであった。対極である負極には21mm×21mm×0.023mm厚のリチウム箔を用い、参照極には3mm×3mmのリチウム箔を用い、セパレーターには30mm×50mmのセルガード2400(ヘキストセラニーズ社製、商品名)を用いて、3極式セルを評価用電池とした。
アルゴンで充満され露点が−75℃以下に制御されたグローブボックスにおいて、以下のようにして評価用電池を作製した。
上記の通り得られた正極と、セパレーターを二つ折りにして挟み込まれた負極とを、正極の塗膜面と負極とが向かい合うように重ね合わせ、それを30mm×30mm×1mmのガラス板2枚で挟み込んだ。
これを150mlの密閉型ガラス容器に入れ、正極及び負極それぞれのリードを、密閉型ガラス容器の外側とつながったクリップで固定した。ガラス板で挟み込んだ部分が完全に浸かるように電解液(1MのLiPFを溶解したEC+EMC溶液(EC:EMC=(2:3)V/V)を密閉型ガラス容器に入れ、蓋をして評価用電池とした。
こうして得られた評価用電池の蓋を閉めた部分にパラフィルムを巻いて気密性を高めた。
【0076】
(4)電池評価
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
まず、電解液を電極にしみこませるために2時間、充放電を行わず、参照極を基準とした正極の電位をモニターするだけとした。
次に、各セルに用いた正極活物質が150mAh/gの容量を持つと仮定したときの0.2Cの電流値を計算し、この電流値で定電流充放電を3サイクル行った。このときの充放電電流値を「0.2C相当」の電流値と称する。各充放電の間には10分の休止時間を挟んだ。各実施例及び比較例につき、3個セルを作製し、2サイクル目の放電容量の平均をその活物質の「初期容量」とした。
実施例1の初期容量は165mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
正極活物質が150mAh/gの容量を持つと仮定し、充電は0.2C相当で行い、放電を0.5C相当、1.0C相当、2.0C相当、3.0C相当で行った。100×(3.0C相当の電流値で放電したときの容量)/(初期容量)=放電レート特性(%)とした。
実施例1の放電レートは90%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの結果は、実際にリチウムイオンの挿入・脱離反応が起こる活物質のLiFePO結晶の表面の反応活性を反映するものと考えられる。すなわち、CV試験において、活物質のLiFePOの表面および表面近傍の結晶構造が完全な結晶構造に近いほどLiFePOでの迅速なリチウムイオンの挿入・脱離が行われ、より大きな電流値及び出力値が得られると考えられる。そこで、正極活物質のLiFePO結晶の結晶構造の完全性を評価するためにCV試験を行った。
具体的には、走査速度0.1mV/s、走査範囲はリチウム電極基準で2.5V〜4.2Vで充電側から変化させて電流値を測定し、CVのグラフから出力値(閉曲線が囲む面積)を求めた。
実施例1のCVの出力値は107mW/gであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
CVにおいて、ピーク間の電位差は充放電時の抵抗成分による電圧降下を反映した値である。評価用電池の構造を全て同じにすると、ピーク間電位差はその評価用電池に用いられている正極活物質の特性を反映したものと考えることができる。そこで、この電位差についても実測して比較を行った。この場合、ピーク間電位差が小さいものほど、正極活物質の結晶構造の完全性が高いと推測される。
実施例1のピーク間電位差は0.18Vであった。
【0077】
(実施例2)
実施例2は本発明の第2の実施形態に係るリチウム二次電池用正極活物質を用いたものである。
(1)リン酸化合物の合成、及び(3)リチウム二次電池の製造は実施例1と同様に行った。
(2)正極活物質の製造については以下の通りである。
組成比を測定したリン酸鉄リチウム塩に、リチウム源として水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)をFeに対して0.028の組成比で、またリン酸源としてのHPOをFeに対して0.036の組成比で加えて混練して混合物(第1混合物)を生成し、それを乾燥させた。
次に、得られた混合物を700℃で48時間焼成した。
次に、得られた焼成物と、炭素質材料前駆体としてショ糖を全体の4.3wt%添加して混練して炭素含有の混合物(第2炭素含有混合物)を生成し、それを乾燥させた。
次に、得られた炭素含有の混合物を700℃で48時間焼成して、リン酸鉄リチウム塩と炭素とからなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質について、正極活物質に対する炭素の比率は2.5wt%であった。
(4)電池評価
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は165mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは89%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
実施例1と同様に、CVのグラフから出力値(閉曲線が囲む面積)を求めた。CVの出力値は105mW/gであった。
次いで、その出力値を、「第1混合物を焼成する工程」後に得られた焼成物(リン酸鉄リチウム塩(LiFePO))の表面積(BET比表面積)で除して、規格化されたCVの出力値(mW/m)を得た。
CVのグラフから得られた出力値には、結晶構造の完全性以外に、表面積の大きさの影響が含まれている。このため、表面積(BET比表面積)で除して規格化されたCVの出力値(mW/m)は、結晶構造の完全性の評価の精度を高めたものになる。
規格化されたCVの出力値は7.00mW/mであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.17Vであった。
【0078】
(実施例3)
実施例3は本発明の第3の実施形態に係るリチウム二次電池用正極活物質を用いたものである。
(1)リン酸化合物の合成、及び(3)リチウム二次電池の製造は実施例1と同様に行った。
(2)正極活物質の製造については以下の通りである。
組成比を測定したリン酸鉄リチウム塩に、炭素質材料前駆体としてショ糖を全体の4.3wt%添加して混練して混合物(第3炭素含有混合物)を生成し、それを乾燥させた。
次に、得られた混合物を700℃で48時間焼成した。
次に、得られた焼成物に、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)をFeに対して0.028の組成比で、またリン酸源としてのHPOをFeに対して0.036の組成比で加えて混練して炭素含有の混合物(第4炭素含有混合物)を生成し、それを乾燥させた。
次に、得られた炭素含有の混合物を700℃で48時間焼成して、リン酸鉄リチウム塩と炭素とからなる正極活物質を得た。
(4)電池評価
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は165mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは88%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は103mW/gであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.20Vであった。
【0079】
(実施例4)
実施例4は本発明の第1の実施形態に係るリチウム二次電池用正極活物質を用いたものである。
(1)リン酸化合物の合成、及び(3)リチウム二次電池の製造は実施例1と同様に行った。また、(2)正極活物質の製造では、実施例1においてショ糖を全体の4.3wt%添加した代わりに、アセチレンブラックを全体の2.5wt%添加し、それ以外は、実施例1と同様に行った。
(4)電池評価
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は163mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは88%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は108mW/gであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.21Vであった。
【0080】
(比較例1)
比較例1は、元素の不足が特定されたリチウム源及びリン酸源を添加しなかった以外は、実施例1と全く同じ条件で製造した。
(電池評価)
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は140mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは80%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は90mW/gであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.30Vであった。
【0081】
(比較例2)
比較例2は、元素の不足が特定されたリチウム源及びリン酸源を添加しなかった以外は、実施例2と全く同じ条件で製造した。
(電池評価)
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は138mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは75%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は91mW/gであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.31Vであった。
【0082】
(比較例3)
比較例3は、元素の不足が特定されたリチウム源及びリン酸源を添加しなかった以外は、実施例3と全く同じ条件で製造した。
(電池評価)
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は141mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは78%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は89mW/gであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.32Vであった。
【0083】
(比較例4)
比較例4は、元素の不足が特定されたリチウム源及びリン酸源を添加しなかった以外は、実施例4と全く同じ条件で製造した。
(電池評価)
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は135mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは80%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は89mW/gであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.29Vであった。
【0084】
(比較例5)
比較例5は、炭素質材料前駆体としてショ糖を添加しなかった以外は、実施例1と全く同じ条件で製造した。
(電池評価)
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は136mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは79%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は90mW/gであった。
この出力値を、最終的に得られた焼成物(リン酸鉄リチウム塩(LiFePO))の表面積(BET比表面積)で除して得られた規格化されたCVの出力値(mW/m)は6.00mW/mであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.34Vであった。
【0085】
(比較例6)
比較例6は、炭素質材料前駆体としてショ糖を添加しなかった以外は、実施例2と全く同じ条件で製造した。
(電池評価)
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は144mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは76%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は87mW/gであった。
この出力値を、最終的に得られた焼成物(リン酸鉄リチウム塩(LiFePO))の表面積(BET比表面積)で除して得られた規格化されたCVの出力値(mW/m)はは6.21mW/mであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差0.30Vであった。
【0086】
(比較例7)
比較例7は、炭素質材料前駆体としてショ糖を添加しなかった以外は、実施例3と全く同じ条件で製造した。
(電池評価)
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は142mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは77%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は88mW/gであった。
この出力値を、最終的に得られた焼成物(リン酸鉄リチウム塩(LiFePO))の表面積(BET比表面積)で除して得られた規格化されたCVの出力値(mW/m)は5.50mW/mであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.28Vであった。
【0087】
(比較例8)
比較例8は、炭素質材料前駆体としてショ糖を添加しなかった以外は、実施例4と全く同じ条件で製造した。
(電池評価)
上記のように製造したリチウム二次電池についてその性能を評価した。評価結果を表1に示した。
(i)初期容量試験
初期容量は139mAh/gであった。
(ii)放電レート特性試験
放電レートは76%であった。
(iii)サイクリックボルタンメトリー(CV)試験
CVの出力値は88mW/gであった。
この出力値を、最終的に得られた焼成物(リン酸鉄リチウム塩(LiFePO))の表面積(BET比表面積)で除して得られた規格化されたCVの出力値(mW/m)はは5.50mW/mであった。
(iv)CVにおけるピーク間電位差
ピーク間電位差は0.33Vであった。
【0088】
【表1】

【0089】
以上の結果より、実施例1〜4の初期容量、放電レート、CVの出力値、規格化されたCVの出力値及びピーク間電位差は、比較例1〜8の結果に比較して優れていることが確認された。これは、最終的な焼成前に、リチウム金属リン酸塩に組成比Li:M:P=1:1:1に満たない不足分の元素又は原料を補充した上で焼成することによりリチウム金属リン酸塩の結晶構造をより完全なものとし、さらに、リチウム金属リン酸塩に炭素を複合化することにより、正極活物質の導電性の改善を図った結果、容量増大、高放電レート、高出力及び低抵抗が実現されたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、高容量で良好な放電レート特性が実現される、オリビン型のリチウム金属リン酸塩と炭素の複合体からなるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供できる。また、本発明は、高容量で良好な放電レート特性が実現されるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって得られた、オリビン型のリチウム金属リン酸塩と炭素の複合体からなる正極活物質及びその正極活物質を備えたリチウム二次電池を提供できる。よって、本発明は、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質及びリチウム二次電池において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式LiMPO(元素MはFe、Mn、又はTi、V、Cr、Co、Ni、Nb、Ta、Mo、Wのいずれか一種又は二種以上の遷移金属である)で表されるリン酸化合物の組成比を測定して前記組成比がLi:M:P=1:1:1に満たない元素を特定する工程と、
前記特定された元素に対応する元素源としてリチウム源、金属(M)源、又はリン酸源と、前記リン酸化合物と、炭素質材料又は炭素質材料前駆体とを混練して第1炭素含有混合物を得る工程と、
前記第1炭素含有混合物を焼成する工程と、
を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法によって製造されたことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質を備えたことを特徴とするリチウム二次電池。

【公開番号】特開2013−80709(P2013−80709A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−266588(P2012−266588)
【出願日】平成24年12月5日(2012.12.5)
【分割の表示】特願2012−541251(P2012−541251)の分割
【原出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】