説明

リチウム二次電池用負極材料及びその製造方法

【課題】従来技術に比して製造が容易であり、高い放電容量を維持しつつ、優れたサイクル特性を発揮できるリチウム二次電池用負極材料を提供する
【解決手段】下記(1)〜(4)の条件を満足する複合粉末からなるリチウム二次電池用負極材料;
(1)該複合粉末が、Cu等の金属であるA成分、SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、Sn金属、炭素材料、並びにA成分とSn金属との合金からなる
(2)該複合粉末全体におけるA成分とSn金属の割合が、両者の合計量を100原子%として、A成分30〜70原子%とSn金属70〜30原子%
(3)A成分とSn金属の合計、B成分、及び炭素材料の割合が、これらの合計量を100mass%として、A成分とSn金属の合計20〜95mass%、B成分5〜80mass%、炭素材料0〜20mass%
(4)10%以上の個数の一次粒子径が1μm以下、10%以上の個数の平均二次粒子径が1μm〜10μmの範囲内

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等のリチウム二次電池は、高いエネルギー密度を有するものであり、近年、移動体通信機器、携帯用電子機器等の主電源としての利用が拡大している。
【0003】
このリチウム二次電池の負極としては、黒鉛、結晶化度の低い炭素等の各種炭素材料が広く用いられている。しかしながら、炭素材料からなる電極は、使用可能な電流密度が低く、理論容量も不十分である。例えば、炭素材料のひとつである黒鉛は、理論容量が372mAh/gに過ぎないため、より一層の高容量化が望まれている。
【0004】
リチウム金属をリチウム二次電池の負極材料とする場合には、高い理論容量が得られるが、充電時に負極にデンドライトが析出し、充放電を繰り返すことによって正極側に達して、内部短絡の現象が起こるというという大きな欠点がある。その上、析出したデンドライトは、比表面積が大きいために反応活性度が高く、その表面で電子伝導性のない溶媒の分解生成物からなる界面被膜が形成され、これにより電池の内部抵抗が高くなって充放電効率の低下を生じる。このような理由により、リチウム金属(以後Liと記載する。)を用いるリチウム二次電池は、信頼性が低く、サイクル寿命が短いという欠点があり、広く実用化される段階には達していない(特許文献1)。
【0005】
このような背景から、汎用の炭素材料よりも放電容量の大きい物質であって、Li以外の材料からなる負極材料が望まれている。例えば、錫、珪素などの元素、これらの窒化物、酸化物等は、Liと合金を形成することによってLiを吸蔵することができ、その吸蔵量は炭素よりはるかに大きい値を示すことが知られており、これらの物質を含む各種の合金負極が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、Li複合錫酸化物を負極、遷移金属複合酸化物を正極とする非水電解質二次電池が提案されている。また、特許文献3には、錫合金とLi含有窒化物との混合負極が提案されている。さらに、特許文献4には、LixSnOを負極、金属Liを正極とする非水電解質二次電池が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの物質を負極材料とする場合には、充放電のサイクルを繰り返すうちに、Liの吸蔵・放出に伴って大きな膨張・収縮が生じ、電極そのものが瓦解することがある。
【0008】
その対策として、Liを吸蔵・放出しやすい金属と、吸蔵・放出を行わない金属とからなる合金を負極材料とすることが試みられている。この様な合金によれば、Liの吸蔵・放出を行わない金属が存在することによって、膨潤、微細化を抑制することが可能になると考えることができ、各種の合金が提案されている。
【0009】
特許文献5には、例えば、急冷凝固させた組織を有する合金が開示されている。また、特許文献6には、A相とB相のどちらか一方の相が他方の相のマトリックス中に平均粒子径0.05〜20μmの島状に分散した構造の合金が開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの合金材料についても、大きな初期放電容量は得られるものの、充放電を繰り返すうちに膨張、微細化することは避けられず、放電容量の低下を十分に抑制できる段階には達していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−302741号公報
【特許文献2】特開平7−201318号公報
【特許文献3】特開2001−52699公報
【特許文献4】特開平6−275268号公報
【特許文献5】特開2001−297757号公報
【特許文献6】特開2001−93524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高い放電容量を維持しつつ、優れたサイクル特性を発揮できるリチウム二次電池用負極材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記した従来技術の現状に留意しつつ鋭意研究を重ねてきた。その結果、Liを吸蔵しない金属、Liを吸蔵するSn金属やSnやCuの酸化物、及び必要に応じて炭素材料を含むマイクロメーター(μm)オーダー以下の一次粒子径を有する複合粉末をリチウム二次電池の負極材料とする場合には、Liの吸蔵・放出に伴う膨張及び収縮が緩和されて、電極の劣化を防止できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記のリチウム二次電池用負極材料及びその製造方法を提供するものである。
【0015】
項1. 下記(1)〜(4)の条件を満足する複合粉末からなるリチウム二次電池用負極材料:
(1)該複合粉末が、(i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属であるA成分、(ii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、(iii) Sn金属、(iv) A成分とSn金属との合金、並びに(v) 必要に応じて炭素材料からなるものであること、
(2)該複合粉末全体におけるA成分とSn金属の割合が、両者の合計量を100原子%として、A成分30〜70原子%とSn金属70〜30原子%であること、
(3)A成分とSn金属の合計、B成分、及び炭素材料の割合が、これらの合計量を100mass%として、A成分とSn金属の合計20〜95mass%、B成分5〜80mass%、炭素材料0〜20mass%であること、
(4)10%以上の個数の一次粒子径が1μm以下、10%以上の個数の平均二次粒子径が1μm〜10μmの範囲内にあること。
項2. 前記複合粉末全体中の各成分の組成比が、Snが40〜60原子%、A成分が7〜55原子%、Oが3〜43原子%である項1に記載のリチウム二次電池用負極材料。
項3.(i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属であるA成分、(ii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、(iii) Sn金属、並びに(iv) 必要に応じて炭素材料からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を形成することを特徴とする項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
項4. (i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属であるA成分、並びに(ii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、並びに(iv) 必要に応じて炭素材料からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を形成する工程を有することを特徴とする項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
項5. A成分、Sn金属及び前記B成分の合計量を100mass%として、A成分及びSn金属の割合が20〜95mass%、B成分の割合が5〜80mass%である項3又は4に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
項6. 前記A成分の粉末及びSn金属の粉末を均一に混合し、130〜200℃の温度範囲で部分的に合金化した複合粉末を形成する工程、該工程で得られた複合粉末を酸素雰囲気下、200℃以上の温度で酸化する工程を有する項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
項7. 前記A成分の粉末、Sn金属の粉末を均一に混合し、メカニカルアロイング処理を行って部分的に合金化した複合粉末を形成する工程、該工程で得られた複合粉末を酸素雰囲気下、300℃以上の温度で酸化する工程を有する項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
項8. 項1又は2に記載の二次電池用負極材料を搭載したリチウム二次電池であって、初充電を経た後の該負極材料がLixAySn型中間化合物(但し、Aは前記A成分を示し、0<x、y≦2である)を含むリチウム二次電池。
【0016】
本発明のリチウム二次電池用負極材料は、下記(1)〜(4)の条件を満足する複合粉末である。
(1)該複合粉末が、(i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属であるA成分、(ii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、(iii) Sn金属、(iv) A成分とSn金属との合金、並びに(v) 必要に応じて炭素材料からなるものであること、
(2)該複合粉末全体におけるA成分とSn金属の割合が、両者の合計量を100原子%として、A成分30〜70原子%とSn金属70〜30原子%であること、
(3)A成分とSn金属の合計、B成分、及び炭素材料の割合が、これらの合計量を100mass%として、A成分とSn金属の合計20〜95mass%、B成分5〜80mass%、炭素材料0〜20mass%であること、
(4)10%以上の個数の一次粒子径が1μm以下、10%以上の個数の平均二次粒子径が1μm〜10μmの範囲内にあること。
【0017】
以下、本発明のリチウム二次電池用負極材料として使用される複合粉末について詳述する。
【0018】
本発明の複合粉末に含まれるA成分は、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属である。
【0019】
該A成分の希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を例示できる。
【0020】
本発明の複合粉末においては、A成分は、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属が好ましく、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ag及びSbからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属がより好ましい。A成分を2種以上使用する場合、特に好ましいA成分同士の組合せは、例えば、Cu−Co、Cu−Ni、Cu−Zn、Cu−Ge、Cu−Ag、Cu−Sb、Ag−Ti、Ag−Fe、Ag−Co、Ag−Ni、Ag−Ge、Ag−Sb、Ge−Sb等の各組合せが挙げられる。
【0021】
本発明において、B成分は、SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなる。すなわち、B成分は、Sn酸化物とCu酸化物の両成分からなる。
【0022】
該複合粉末全体量中のB成分の割合が、約50mass%以下である場合には、B成分は複合粉末全体に分布、分散し、約50mass%以上の場合は、B成分は複合粉末中の主成分となり、基地として存在する。
【0023】
本発明において、前記複合粉末中のSnCuO成分系では、SnとCuとOが複合したSn-Cu-O系酸化物が存在すると考えられる。複合粉末は、1回目の充電でLiを吸蔵して、LiCuOとSnに分相する。LiCuO相は、Liに対しておよそ2V以上の高電位になるとLiを放出し可逆性を示す。一方、1V程度の電位ではLiCuO相は不可逆成分となり、以後の充放電反応に関与せず、複合粉末中に骨格として存在し、充放電反応に関与するSnやLi中間化合物が体積変化をしても、複合粉末全体としての体積変化を効果的に抑制できる。分相したSnは、更にLiを吸蔵していくとLiSn系相になり、可逆的な容量成分相になる。一部存在するCu酸化物も、Liを吸蔵して、LiCuO相になる。また、一部存在するSn酸化物相は、1回目の充電でLiを吸蔵して、SnとLiO相に分相する。このLiO相も不可逆成分であり、複合粉末中に骨格として存在し、充放電反応に関与するSnやLi中間化合物が体積変化をしても、複合粉末全体としての体積変化を効果的に抑制できる。このときのLiO相はイオン伝導性に優れる。A成分は主に金属成分であり、電気伝導性に優れる。よって、本発明の複合粉末の充放電過程では、イオン伝導性と電気伝導性の両方の点で優れた伝導性が得られる。分相したSnは、更にLiを吸蔵していくとLiSn系相になり、可逆的な容量成分相になる。以上から、本発明の複合粉末は、SnやLi中間化合物のもつ可逆的な電気容量と、LiCuO相や一部LiO相のもつ不可逆成分の骨格構造をもつことで、高容量でサイクル寿命に優れた特性を示す。
【0024】
また、本発明の複合粉末には、Sn金属が含まれる。
【0025】
さらに、本発明の複合粉末は、必要に応じて炭素材料を含んでいてもよい。炭素材料を含む場合、炭素材料の種類(構造等)は特に限定されないが、複合粉末中に導電性の3次元網目構造を形成できるものが好ましい。導電性の3次元網目構造が形成されていれば、リチウム二次電池用負極材料として十分な集電効果が得られるとともに、Li吸蔵時の電極(特に合金成分)の体積膨張を効果的に抑制できる。
【0026】
好ましい炭素材料としては、例えば、微細炭素材料が挙げられる。具体的には、径50〜300nm程度、好ましくは75〜200nm程度、且つ、長さ1〜20μm程度、好ましくは2〜10μm程度の微細炭素材料が挙げられる。このような形状特性は、導電性の3次元網目構造を形成し易いため有利である。
【0027】
微細炭素材料としては、具体的には、カーボンファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとの混合物等が挙げられる。これらの微細炭素材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの微細炭素材料の中でも、特にカーボンファイバー、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとの混合物を好適に使用できる。尚、多層カーボンナノチューブは、チューブ径の異なる大小の単層カーボンナノチューブが入れ子状に数層重なったものである。
【0028】
炭素材料としてカーボンナノチューブを用いる場合には、金属的な導電性が発現されるため高い集電機能が得られる。また、カーボンナノチューブはしなやかな柔軟構造を有しているため、Li吸蔵時の体積膨張を緩和させる機能が得られ、高容量且つサイクル特性の維持に寄与する。単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとの混合物であれば、多層カーボンナノチューブを単独で用いる場合に比して、複合粉末のより内部(微細)にまで3次元網目構造を形成し得るため好ましい。
【0029】
また、炭素材料としては、リチウム二次電池の負極材料に用いられている黒鉛系材料等を使用してもよい。負極用炭素材料には、天然黒鉛材料、合成黒鉛材料、難黒鉛化炭素材料等がある。合成黒鉛材料としては、例えば、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)があり、一般の炭素系材料に比べて粉体としての取扱性に優れる。
【0030】
さらに、炭素材料としては、前記微細炭素材料に加えて、カーボンブラックを併用することがより好ましい。カーボンブラックを併用することにより、複合粉末のより内部(細部)にまで導電性を付与できる。カーボンブラックの粒子径は特に限定されないが、一次粒子径が通常15〜60nm程度、好ましくは25〜50nm程度である。カーボンブラックを併用する場合、炭素材料中のカーボンブラックの割合は特に限定されず、所望の導電性の程度に応じて適宜設定できる。
【0031】
本発明の複合粉末において、A成分とSn金属との合金とは、A成分にSn金属が固溶した合金相、A成分とSn金属の金属間化合物相、Sn金属にA成分が固溶した合金相などからなるものである。
【0032】
本発明における複合粉末は、複合粉末全体におけるA成分とSn金属の割合(但し、A成分及びSn金属には、A成分とSn金属の合金成分中のA成分及びSn金属も含む)が、両者の合計量を100mass%として、A成分30〜70原子%程度、Sn金属70〜30原子%程度である。この中でも、特に、A成分40〜60原子%程度、Sn金属60〜40原子%程度であることが好ましい。
【0033】
また、A成分とSn金属の合計、B成分、及び炭素材料の割合が、これらの合計量を100mass%として、A成分とSn金属の合計20〜95mass%程度、B成分5〜80mass%程度、炭素材料0〜20mass%程度とすることが必要である。さらに、A成分とSn金属の合計、B成分、及び炭素材料の割合が、これらの合計量を100mass%として、A成分とSn金属の合計50〜90mass%程度、B成分5〜40mass%程度、炭素材料5〜15mass%程度とすることが好ましい。
【0034】
A成分とSn金属の合計、B成分、及び炭素材料の合計量中のB成分の含有量を、5〜80mass%程度の範囲内に設定すれば、A成分及びSn金属を含む組織中にB成分が均一に分散され易くなり、放電容量の低下を抑制できる。また、A成分とSn金属の合計、B成分及び炭素材料の合計量中の炭素材料の含有量を、1〜20mass%程度の範囲内に設定すれば、複合粉末中に導電性の3次元網目構造が形成され易く、且つ、炭素材料(特にカーボンナノチューブ)の凝集及び放電容量の低下を抑制できる。また、負極性能に優れた炭素材料は、放電容量低下の問題がほとんど無いことから、複合粉末の放電容量の低下を効果的に抑制できる。
【0035】
本発明における複合粉末全体中の各成分の組成比は、Snが40〜60原子%程度、A成分が7〜55原子%程度、Oが3〜43原子%程度である。好ましくはSnが43〜58原子%程度、A成分が10〜45原子%程度、Oが5〜40原子%程度であり、より好ましくはSnが45〜55原子%程度、A成分が20〜40原子%程度、Oが10〜35原子%程度である。この組成比を満たせば、複合粉末中にSnの酸化物とA成分の酸化物、或いはSnとA成分とOが複合したSn-A-O系酸化物が存在できるものと考えられる。
【0036】
本発明の複合粉末は、一次粒子径、特に、A成分とSn金属が複合合金化した粒子の少なくとも一部の一次粒子径が1μm以下のナノメーターオーダーであることによって、後述する様な優れた特性を発揮できる。
【0037】
なお、後述するメカニカルアロイング法で該複合粒子を製造すると、A成分とSn金属の組合せによっては、該複合粒子中にマイクロメーターオーダーの一次粒子が含まれる場合があるが、この様なマイクロメーターオーダーの一次粒子が存在することは許容できる。この様なマイクロメーターオーダーの一次粒子は、微粉化の防止や導電性の向上に寄与する。この様な点から、本発明においては、複合粉末の約10%以上の個数の一次粒子径が1μm以下、約10%以上の個数の平均二次粒子径が1μm〜10μm程度の範囲内にあればよく、約10%以上の個数の一次粒子径が800nm以下程度であることが好ましい。この場合、特に、ナノメーターオーダーの一次粒子が多く存在するとLiの吸蔵放出に伴う体積変化の抑制効果が大きく、電極を長寿命化することができる。また、電極を高容量化するためには、複合粉末の約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは90%以上の個数の一次粒子径が800nm以下程度、特に好ましくは500nm以下程度であることが好適である。
【0038】
本発明の複合粉末は、約10%以上の個数の一次粒子の粒子径が上記した範囲内にあることによって、Li吸蔵時の原子の再配列が可逆的に生じ易くなり、所期の特性を発揮することが可能となる。
【0039】
上記した粒子径を上回る一次粒子は、Li吸蔵時の原子の再配列が生じ難くなるとともにLiの吸蔵放出に伴う体積変化が大きくなるので、好ましくない。尚、本願明細書では、一次粒子の粒子径の測定は、走査型電子顕微鏡の視野内に観察される一つの複合粉末を構成する複数個の粒子の長径を測定したもので、視野内の10個以上の複合粉末を測定した。
【0040】
本発明においては、この様なナノオーダーの複合粉末を含む負極材料に用いることによって、充電時には、材料全体が容易にリチウムと化合してリチウムを吸蔵することができ、その後、放電時には不可逆の骨格を残して容易にLiを放出して、微粉化を防止することが可能となる。
【0041】
本発明のリチウム二次電池用負極材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、下記工程を有する製造方法1〜4により好適に製造できる。
【0042】
製造方法1
本発明の製造方法1は、(i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属である前記A成分、(ii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、(iii) 前記Sn金属、並びに(iv) 必要に応じて前記炭素材料からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を製造する方法である。
【0043】
製造方法2
本発明の製造方法2は、(1)(i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属である前記A成分、(ii) 前記Sn金属からなる原料物質を混合後、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を形成する工程、さらに、
(2)工程(1)で得られた複合粉末に、(iii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、並びに(iv) 必要に応じて前記炭素材料からなる原料物質を混合後、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を形成する工程を有する製造方法である。
【0044】
製造方法1では、A成分、B成分、Sn金属、並びに必要に応じて炭素材料からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を得る。この場合、各材料の組織の微細化、分散化が同時に進め易くなるが、A成分とSn金属との間で合金化に要する処理時間は、製造方法2よりも長くなりやすい。
【0045】
製造方法2では、まずB成分と任意成分である炭素材料以外の原料を混合し、メカニカルアロイング処理を行った後、得られる複合粉末にB成分と必要に応じて炭素材料を加えてさらにメカニカルアロイング処理を行う。
【0046】
即ち、製造方法2では、メカニカルアロイング処理により、A成分(1成分以上)及びSn金属の一部を合金化した後、さらにB成分と必要に応じて炭素材料を加え、メカニカルアロイング処理を施して複合粉末を得る。製造方法2によれば、複合粉末中のA成分とSn金属の間で合金化が容易になり、更に炭素材料を使用する場合には、炭素材料からなる導電性の3次元網目構造が形成され易いため好ましい。
【0047】
製造方法3
製造方法3は、前記A成分の粉末、Sn金属の粉末、及び必要に応じて炭素材料の粉末を均一に混合し、130〜200℃程度(好ましくは140〜190℃程度、より好ましくは150〜180℃程度)の温度範囲で部分的に合金化した複合粉末を形成し、その後、酸素雰囲気下で該複合粉末を200℃以上(好ましくは225〜500℃程度、より好ましくは225〜400℃程度)の温度で酸化する方法である。A成分の粉末とSn金属の粉末とを、2段階で加熱するこの製造方法を採用することにより、前記B成分を原料に使用しなくても、本発明のリチウム二次電池用負極材料が得られる。130〜200℃程度の温度範囲で部分的に合金化した複合粉末を形成する1段階目の加熱工程は、非酸素雰囲気化で行うのがよい。2段階目の加熱工程において、熱処理炉中に酸素或いは大気を供給することや大気雰囲気中で熱処理することで容易に酸化処理することができる。1段階目とは、雰囲気を変えることで連続した加熱工程とすることができる。
【0048】
製造方法4
製造方法4は、前記A成分の粉末、Sn金属の粉末を均一に混合し、メカニカルアロイング処理を行って部分的に合金化した複合粉末を形成し、その後、酸素雰囲気下で該複合粉末を200℃以上(好ましくは225〜500℃程度、より好ましくは225〜400℃程度)の温度で酸化する方法である。加熱工程において、熱処理炉中に酸素或いは大気を供給することや大気雰囲気中で熱処理することで容易に酸化処理することができる。
製造方法4を採用することにより、前記B成分を原料に使用しなくても、本発明のリチウム二次電池用負極材料が得られる。
【0049】
なお、前記製造方法1〜4において、原料として使用されるA成分、B成分、Sn金属、必要に応じて使用される炭素材料の使用割合は、前記と同じである。
【0050】
メカニカルアロイング処理は公知の方法を適用できる。例えば、機械的接合力により原料成分の混合・付着を繰返しながら全体を複合化(一部合金化)する装置を用いて処理すればよい。処理装置としては、メカニカルアロイング処理が可能な、一般に粉体分野で使用される混合機、分散機、粉砕機等が使用できる。具体的には、ライカイ機、ボールミル、振動ミル、アジテーターミル等が例示される。特に、ネットワーク間に存在する電池活物質を主成分とする粉末の積み重なりを少なくするためには、複合化操作中に重なり合ったり、凝集したりした粉末を1粒子ずつに効率良く分散させる必要があるので、せん断力を与えることのできる混合機を用いることが望ましい。これらの装置の操作条件は特に限定されるものではない。
【0051】
処理装置の操作条件は特に限定されないが、遠心加速度(投入エネルギー)としては、通常5〜20G程度、好ましくは7〜15G程度とすればよい。処理時間は各成分の種類に応じて適宜設定できる。例えば、A成分−Sn金属の混合物の処理では、A成分−Sn金属が混合し、且つ、A成分−Sn金属が一部合金化する限り処理時間は特に限定されないが、通常1〜10時間程度である。また、B成分と必要に応じて炭素材料を添加した後の処理では、A成分−Sn及びB成分と炭素材料を使用する場合は炭素材料の全てが複合化する限り特に限定されないが、通常0.5〜10時間程度である。
【0052】
メカニカルアロイング処理に供するA成分、B成分、Sn金属及び炭素材料の粒子径は限定的ではないが、通常1〜40μm程度、好ましくは2〜20μm程度である。上記範囲内であれば、メカニカルアロイング処理において各成分を均一に分散させ易く、1μm以下、好ましくは粒子径10〜800nm程度の微細な複合粉末一次粒子が得られ易い。
【0053】
上記処理により得られる微細な一次粒子は、通常は凝集して二次凝集物となっている。例えば、メカニカルアロイング法で複合粉末を製造する場合には、レーザー回折法により調べると、二次凝集物の粒子径は最大で38〜150μm程度である。
【0054】
該二次凝集物の粒度は特に限定されないが、負極材料として用いる場合には、二次凝集物の個数の90%以上、好ましくは99.9%以上が粒子径1〜105μmの範囲内にあることが好ましく、1〜50μmの範囲内がより好ましい。
【0055】
また、二次凝集物の平均粒子径は、5〜50μm程度の範囲内が好ましく、5〜10μm程度の範囲内がより好ましい。二次凝集物の粒子径が上記範囲内であれば、電極の作製を高精度に行うことができる。尚、本願明細書では、顕微鏡による二次凝集物の個数の観察は、走査型電子顕微鏡の視野内に観察される複合粉末の長径を測定したもので、視野内の100個以上の複合粉末を測定した。また、二次凝集物である複合粉末の粒子径の測定方法として、レーザー回折法を用いた。具体的には、溶媒中に複合粉末を分散させたところに、レーザー光を照射し、複合粉末からの回折光から統計処理をして粒子径を求めた。
【0056】
本発明のリチウム二次電池用負極は、本発明のリチウム二次電池用負極材料からなる層を集電体上に有する。負極の構成としては、前記した本発明における複合粉末を負極材料とする他は、公知のものが使用できる。例えば、該複合粉末に必要に応じて樹脂系バインダー、導電助材等を配合し合剤化後、金属箔集電体等の公知の集電体上に合剤層(負極層)を形成して一体化(乾燥・プレス等)することにより負極を作製できる。
【0057】
樹脂系バインダーとしては、例えば、ポリビリニデンフルオライド(PVdF)をN−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたペースト等が使用できる。導電助材としては、例えば、カーボンブラック等が使用できる。金属箔集電体としては、例えば、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト等の少なくとも1種からなる金属箔が使用できる。
【0058】
負極層の厚みは特に限定されないが、一般に2〜100μm程度、好ましくは5〜60μm程度とすればよい。厚みが2μm未満では、実用的な電気容量を得ることが困難な場合がある。厚みが100μm超過では、集電体が負極材料を支持できない場合がある。
【0059】
上記の方法で得られた負極では、初期の充電と放電の容量差に相当する不可逆容量分が生じるが、予めリチウムを負極中にドープすることで、その容量分を補うことができる。負極表面層に箔状のLiをローラなどで貼り合わせることで、負極表面にLi層を被覆し、更に電解液に浸漬してエージングすることにより、負極中にLiをドープすることができる。
【0060】
該負極を搭載したリチウム二次電池を作製する場合には、公知のリチウム二次電池の電池要素(正極、セパレーター、電解液等)を用いて、常法に従って、角型、円筒型、コイン型等のリチウム二次電池に組み立てればよい。
【0061】
正極材料としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn等のリチウム含有酸化物等を使用できる。セパレーターとしては、公知のリチウム二次電池に用いられるものが使用できる。電解液を構成する溶媒としては、公知のリチウム塩を溶解できる非プロトン性及び低誘電率の溶媒が好ましい。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチレンカーボネート、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の少なくとも1種が挙げられる。電解質リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiB(C654、LsiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Li等の少なくとも1種が挙げられる。
【0062】
得られた本発明のリチウム二次電池は、負極材料として前記所定成分を所定割合で含むため、初充電によるリチウム吸蔵時に、負極材料中にLixAySn型中間化合物(0<x、y≦2)を形成する。このリチウム含有三元化合物は、合金の分相がなくリチウム吸蔵することが可能であり、リチウム吸蔵時の体積変化の抑制に寄与する。これにより、単に従来法のようにリチウムを吸蔵・放出する金属と吸蔵・放出しない金属との合金からなる負極材料とは異なる効果が得られる。
【0063】
即ち、初充電で前記Li含有三元化合物を形成することにより、高容量を長期にわたり維持できる。予めメカニカルアロイング処理で作製したリチウム中間化合物のみを使用した電極では、Li吸蔵量が本来合金のもつ容量まで得られず、低容量になる問題がある。これは充放電反応、即ち電気化学的に形成されるLi中間化合物と異なり、Liに対して不活性の容量分が多いためと考えられる。例えば、LiAgSnやLiAgSnの場合、50サイクル後で、約100mAh/g程度の低い放電容量になる。
【0064】
これに対して、本発明の負極材料では、初充電(Li吸蔵)時に上記リチウム含有三元化合物を形成し、次の放電(Li放出)時に元の複合材料に戻り、一部Liを含む不可逆な化合物が残る。かかるメカニズムにより、初充電(1回目)で形成した不可逆なLi含有三元化合物が骨格として存在し、2回目以後の充放電では、そのLi含有三元化合物を介してLiの吸蔵・放出が行われる。これにより、充放電による電極の体積変化・微粉化が抑制されつつ、電極の劣化抑制・サイクル特性寿命向上の効果が実現される。
【0065】
以下、本発明においてLi含有三元化合物を介して行われるLiの吸蔵・放出のメカニズムについて、具体的に説明する。
【0066】
本発明の負極材料では、Liの吸蔵放出過程が、主にリチウム含有三元化合物LiA2SnやLi2ASnを代表とするLixAySn型中間化合物(但し、Aは前記A成分を示し、0<x、y≦2である)を介して行われる。
【0067】
上記した複合粉末からなる負極材料では、初充電(Li吸蔵)時にLiを含む三元化合物であるLixAySn型中間化合物が形成され、次の放電(Li放出)時に元の複合材料に戻るが、Liを含む不可逆な化合物が一部残存する。このことから、Liの吸蔵・放出が、このLiを含む化合物を介して行われ、初充電(1回目)に形成された不可逆なLi化合物が骨格として存在し、2回目以後の充放電では、このLi化合物中にLiが吸蔵されて、放出されるものと思われる。これにより、充放電による体積変化が緩和されて微粉化が抑制され、電極の劣化が防止されてサイクル特性寿命が向上するものと考えられる。またLi吸蔵量の大きなSnが、充電時にLiSn系化合物を形成し、Li4.4Snまで、Liを吸蔵すると大きな体積膨張が生じてしまう。放電時には、徐々にLiを放出し、一部xの小さな数のLiSn系化合物が残るものの大きな可逆容量を示す。
【0068】
次に、上記複合粉末を負極材料として用いる場合の充放電反応について説明する。本発明の負極材料の充電時においては、前記Sn−Cu−O複合酸化物等が関与する下式(1)に示す反応等、多くの反応が関係していると考えられる。一般式(1)において、初回の充電では、Liを吸蔵して、LiCuOとSnに分相する。LiCuO相は不可逆相となり、以後の充放電過程では反応しない。Sn相は更にLiを吸蔵して、LiSn相になる。一部存在するSn酸化物相は、Liを吸蔵して、LiOとSn相に分相し、このLiO相も不可逆相となり、以後の充放電過程では反応しない。Sn相は更にLiを吸蔵して、LiSn相になる。また、一部存在するCu酸化物は、Liを吸蔵して、LiCuO相になり、以後の充放電過程では反応しない。
【0069】
また、Sn相や式(1)のLiSnは式(2)で示すようにLiSn相に変化する。ASn合金相は式(3)式で示すように、Li吸蔵量が増加するに従って、LiASn相に変化する。式(4)で示すように、式(3)のLiASn相から分相したA相とLiSn相は、相互に拡散することで、相変態が生じる。この場合、LiASn相とLiASn相が生成する。また、式(4)のように、LiSn相は、LiSn相へとLi化が進む。式(5)のように、LiASn相とLiSn相の反応が、LiSn相へのSnの拡散によって生じ、LiASn相とLiSn相の形成をもたらす。更にLiの吸蔵化が進むと、式(6)式で示すように、Li2+y1−ZSn相へと変わる。その後、この相は、ある範囲で固溶体か非晶質相になると考えられる。式(7)に示すように、完全に充電状態、即ちLi4.4Snになると大きな体積膨張から材料の微粉化が生じて、電極特性が劣化するので、Li吸蔵を式(6)までにしておくことで、電極特性の向上ができると考えられる。
【0070】
SnCuO+Li → Li2CuO+Sn
2Li+CuO → Li2CuO 又は 4Li+Cu2O+O→ 2Li2CuO (1)
3Li+SnO → LiSn+LiO 又は 5Li+SnO → LiSn+2LiO
xLi +Sn → LiSn (x≦4.4) (2)
Li + ASn → LiASn + A (3)
A+LiSn → LiASn/LiASn + LiSn (x≦4.4, y≦2.4) (4)
LiSn +LiASn →LiASn + LiSn (y≦2.4, z≦1.4) (5)
(y + z)Li + LiASn → Li2+yA1−ZSn + zLiA (y≦2.4,z≦1.4) (6)
(2.4−y + z)Li + Li2+yA1−ZSn →Li4.4Sn + LiA (y≦2.4,z≦1) (7)
本発明の負極材料では、Liの吸蔵放出過程が三元系化合物LiA2SnとLi2ASnを経て行われることが重要である。例えば、Ag/Sn(原子比)=52/48が90mass%、SnOが10mass%の複合材料を用いた負極では、2サイクル目の放電容量は約440mAh/gを超えるが、1サイクルに比べて容量が約400mAh/g低下する。この不可逆な容量変化は、1回目の充電で生成したLiO相や有機電解液の分解で表面皮膜(SEI)の形成などに起因すると考えられる。リチウムの吸蔵放出過程がLiAg2Sn(密度7.920 g/cm)及びLi2AgSn(密度5.630 g/cm)を経て行われることにより、Ag3Sn(密度9.932 g/cm)に対する体積変化は、それぞれ、1.25倍(LiAg2Sn)と1.76倍(Li2AgSn)となる。Sn(密度7.286 g/cm)がLiを吸蔵してLi4.4Sn(密度1.920 g/cm)になる場合には体積変化が3.8倍であることと比較すると、上記した三元化合物が形成される場合には体積増加が非常に少なくなる。このため、電極の膨潤や微細化による容量低下が抑制されてサイクル寿命が向上するものと思われる。その結果、該複合粉末は、放電容量が高く、充放電に伴う劣化が少なく、リチウム電池用負極材料として用いた場合に、高い放電容量と優れたサイクル特性を両立することができる。
【発明の効果】
【0071】
本発明の負極材料は、初期放電容量が大きく、サイクル特性に優れた材料であり、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池などのリチウム二次電池用の負極材料として有用性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例4、5、6、8、9及び10並びに比較例5及び7のサイクル寿命を示す図である。
【図2】実施例17、18及び19並びに比較例5及び8のサイクル寿命を示す図である。
【図3】実施例22及び23並びに比較例5のサイクル寿命を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0074】
実施例1〜3
電解法で作製したCu粉末、ガスアトマイズ法で作製したSn粉末をそれぞれ、平均粒子径を10μm以下に調整した。SnO粉末は関東化学(株)製を用いた。下記表1に示す比率となるようにCu、Sn、SnOの各材料粉末を混合し、金属粉末100重量部に対して滑剤としてステアリン酸を0.5重量部添加し、フリッチェ製遊星ボ−ルミルに投入し、メカニカルアロイング処理を行うことによって複合粉末を得た。得られた複合粉末の一次粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡で測定した結果、全ての一次粒子の粒子径が、1μm以下の範囲内であった。また、得られた複合粉末の二次粒子の粒子径をレーザー回折法で測定した結果、全ての二次粒子の最大粒子径が、75μm以下であった。
【0075】
このようにして得られた複合粉末85重量部、バインダー(ポリビニリデンフルオライド:PVdF)が5mass%溶解したN-メチルピロリドン(NMP)溶液をPVdF換算分として10重量部、及びカ−ボンブラック5重量部を混合してスラリ−状の合剤を調製した。
【0076】
次いで、厚さ18μmの電解銅箔に上記合剤をドクターブレードで塗布し、均一な塗膜(約4〜5mg/cm)を形成した。これを80℃で約10分間乾燥してNMPを揮発・除去した後、ロ−ルプレス機により、電解銅箔と塗膜とを密着接合させ、電極活物質層の平均厚さが約10μmのシートを作製した。このシートを1cmの円形ポンチで抜き取り、120℃で3時間、減圧乾燥させて試験電極(負極)とした。
【0077】
作製した負極を用い、さらに試験電極計算容量の約20倍以上の容量を有している金属リチウムを対極(正極)として、1モルのLiPF/エチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)(EC:DEC=1:1(体積比))溶液を電解液として用い、コイン型試験セル(CR2032タイプ)を作製した。次に、作製した試験セルを、約0.2mA/cmの定電流密度で0Vに達するまで充電し、10分間の休止後、約0.2mA/cm の定電流密度で1.0Vに達するまで放電した。これを1サイクルとして、繰り返し充放電を行うことにより評価した。
【0078】
各実施例の負極材料を用いた試験セルについて、50サイクル数目の放電容量と放電容量維持率を表1に示す。放電容量維持率(%)は、1サイクル数目の放電容量に対する50サイクル数目の放電容量の割合を示す。
【0079】
実施例4〜19
電解法で作製したCu粉末とAg粉末、カーボニル法で作製したFe粉末、ガスアトマイズ法で作製したSn粉末をそれぞれ、平均粒子径を10μm以下に調整した。SnO粉末とSnO粉末は関東化学(株)製を用いた。下記表1に示す比率となるようにA成分とSnの各材料粉末を混合し、金属粉末100重量部に対して滑剤としてステアリン酸を0.5重量部添加し、フリッチェ製遊星ボ−ルミルに投入し、メカニカルアロイング処理を行うことによってCu−Sn系、Ag−Fe−Sn系複合粉末を得た。更に、作製した複合粉末に所定の配合でSnO粉末又はSnO粉末を混合し、フリッチェ製遊星ボ−ルミルに投入し、メカニカルアロイング処理を行うことによって、所定の成分の複合合金粉末を得た。得られた複合合金粉末の一次粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡で測定した結果、全ての一次粒子の粒子径が、1μm以下の範囲内であった。また、得られた複合粉末の二次粒子の粒子径をレーザー回折法で測定した結果、全ての二次粒子の最大粒子径が、75μm以下であった。以下、実施例1〜3と同様の方法で負極を作製し、評価した。
【0080】
実施例20〜21
電解法で作製したCu粉末、ガスアトマイズ法で作製したSn粉末をそれぞれ、平均粒子径を10μm以下に調整した。SnO粉末は関東化学(株)製、カーボンブラック粉末はケチェンブラックインターナショナル(株)製を用いた。下記表1に示す比率となるようにA成分とSnの各材料粉末を混合し、金属粉末100重量部に対して滑剤としてステアリン酸を0.5重量部添加し、フリッチェ製遊星ボ−ルミルに投入し、メカニカルアロイング処理を行うことによってCu−Sn系複合粉末を得た。更に、作製した複合粉末に所定の配合でSnO粉末とカーボンブラック粉末を混合し、フリッチェ製遊星ボ−ルミルに投入し、メカニカルアロイング処理を行うことによって、所定の成分の複合合金粉末を得た。得られた複合合金粉末の一次粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡で測定した結果、全ての一次粒子の粒子径が、1μm以下の範囲内であった。また、得られた複合粉末の二次粒子の粒子径をレーザー回折法で測定した結果、全ての二次粒子の最大粒子径が、75μm以下の範囲内であった。以下、実施例1〜3と同様の方法で、負極を作製し、評価した。
表1から明らかなように、各実施例の複合粉末を負極とした試験セルでは、充放電50サイクル後の放電容量が300mAh/g以上の高い値を示し、しかも50サイクル後の放電容量維持率も70%以上あることから、十分に容量が維持されていることが判る。
【0081】
比較例1〜8
比較例1〜2では、電解法で作製したCu粉末、ガスアトマイズ法で作製したSn粉末をそれぞれ、平均粒子径を10μm以下に調整した(表1)。比較例3〜6では、表1に示す比率となるようにし、実施例1と同様の方法で、複合粉末を得た。得られた複合粉末の一次粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡で測定した結果、全ての一次粒子の粒子径が、1μm以下の範囲内であった。比較例7〜8では、SnOとSnOの粉末(関東化学(株)製)を用いた。また、得られた複合粉末の二次粒子の粒子径をレーザー回折法で測定した結果、全ての二次粒子の最大粒子径が、75μm以下の範囲内であった。以下、比較例1〜8においても、実施例1〜3と同様の方法で負極を作製し、評価した。
【0082】
単独金属(比較例1〜2)、2成分系合金(比較例3〜5)、又は3成分系合金(比較例6)、Sn酸化物(比較例7〜8)を負極として用いた場合について、50サイクル数目の放電容量と放電容量維持率を表1に示す。表1から明らかなように、各比較例を負極とした試験セルでは、充放電50サイクル後の放電容量は低く、しかも50サイクル後の放電容量維持率は70%以下であり、サイクル寿命が不十分であることが判る。
【0083】
図1は、実施例4、5、6、8、9及び10並びに比較例5及び7の負極を用いた試験セルについて、放電容量と充放電サイクル数との関係であるサイクル寿命を示すグラフである。図1から明らかなように、各実施例の負極を用いた試験セルについては、100サイクル後でも約300mAh/g以上の容量を維持しており、比較例の負極材料を用いた電池と比較して、優れたサイクル寿命を有することが判る。
【0084】
図2は、実施例17、18及び19並びに比較例5及び8の負極材料を用いた試験セルについて、放電容量と充放電サイクル数との関係であるサイクル寿命を示すグラフである。図2から明らかなように、実施例の負極材料を用いた試験セルについては、100サイクル後でも約300mAh/g以上の容量を維持しており、比較例の負極を用いた電池と比較して、優れたサイクル寿命を有することが判る。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例22〜23
電解法で作製したCu粉末、ガスアトマイズ法で作製したSn粉末をそれぞれ、平均粒子径を10μm以下に調整した。組成比がSn50Cu50となるようにCu、Snの各材料粉末を混合した。これら金属粉末100重量部に対して滑剤としてステアリン酸を0.5重量部添加し、フリッチェ製遊星ボ−ルミルに投入し、メカニカルアロイング処理を行うことによってSn−Cuの複合粉末化を行い、その後に、大気雰囲気中で225、300℃の温度でそれぞれ加熱処理を行うことによって複合粉末を得た。得られた複合粉末の一次粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡で測定した結果、全ての一次粒子の粒子径が、1μm以下の範囲内であった。また、得られた複合粉末の二次粒子の粒子径をレーザー回折法で測定した結果、全ての二次粒子の最大粒子径が、75μm以下であった。以下、実施例1〜3と同様の方法で負極を作製し、評価した。
【0087】
実施例22(225℃の加熱処理)と23(300℃の加熱処理)の複合粉末を負極とした試験セルについて、充放電50サイクル後の放電容量が351mAh/g、346mAh/g以上の高い値を示し、しかも50サイクル後の放電容量は、実施例22、実施例23とも、初回の放電容量とほぼ同等の容量であった。このことから、容量が十分に維持されていることが分かる。
【0088】
実施例22及び23の負極を用いた試験セルについて、放電容量と充放電サイクル数との関係であるサイクル寿命を示すグラフを図3に示す。図3から明らかなように、各実施例22及び23の負極材料を用いた試験セルについては、100サイクル後でも約300mAh/g以上の容量を維持しており、比較例5の負極を用いた試験セルと比較して、優れたサイクル寿命を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)の条件を満足する複合粉末からなるリチウム二次電池用負極材料:
(1)該複合粉末が、(i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属であるA成分、(ii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、(iii) Sn金属、(iv) A成分とSn金属との合金、並びに(v) 必要に応じて炭素材料からなるものであること、
(2)該複合粉末全体におけるA成分とSn金属の割合が、両者の合計量を100原子%として、A成分30〜70原子%とSn金属70〜30原子%であること、
(3)A成分とSn金属の合計、B成分、及び炭素材料の割合が、これらの合計量を100mass%として、A成分とSn金属の合計20〜95mass%、B成分5〜80mass%、炭素材料0〜20mass%であること、
(4)10%以上の個数の一次粒子径が1μm以下、10%以上の個数の平均二次粒子径が1μm〜10μmの範囲内にあること。
【請求項2】
前記複合粉末全体中の各成分の組成比が、Snが40〜60原子%、A成分が7〜55原子%、Oが3〜43原子%である請求項1に記載のリチウム二次電池用負極材料。
【請求項3】
(i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属であるA成分、(ii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、(iii) Sn金属、並びに(iv) 必要に応じて炭素材料からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項4】
(i) Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sb、Hf、Ta、W、Bi及び希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属であるA成分、並びに(ii) Sn金属からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を形成する工程、
前記工程で得られた複合粉末に(iii) SnO及びSnOから選ばれた少なくとも一種と、CuO及びCuOから選ばれた少なくとも一種とからなるB成分、並びに(iv) 必要に応じて炭素材料からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って複合粉末を形成する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項5】
A成分、Sn金属及び前記B成分の合計量を100mass%として、A成分及びSn金属の割合が20〜95mass%、B成分の割合が5〜80mass%である請求項3又は4に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項6】
前記A成分の粉末及びSn金属の粉末を均一に混合し、130〜200℃の温度範囲で部分的に合金化した複合粉末を形成する工程、該工程で得られた複合粉末を酸素雰囲気下、200℃以上の温度で酸化する工程を有する請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項7】
前記A成分の粉末、Sn金属の粉末を均一に混合し、メカニカルアロイング処理を行って部分的に合金化した複合粉末を形成する工程、該工程で得られた複合粉末を酸素雰囲気下、300℃以上の温度で酸化する工程を有する請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の二次電池用負極材料を搭載したリチウム二次電池であって、初充電を経た後の該負極材料がLixAySn型中間化合物(但し、Aは前記A成分を示し、0<x、y≦2である)を含むリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−232161(P2010−232161A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269906(P2009−269906)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】