説明

リチウム二次電池用電解液、及び当該電解液を備えるリチウム二次電池

【課題】優れたリチウムイオン伝導性を発揮するリチウム二次電池用電解液、及び当該電解液を備えるリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートを含有することを特徴とする、リチウム二次電池用電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたリチウムイオン伝導性を発揮するリチウム二次電池用電解液、及び当該電解液を備えるリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、化学反応に伴う化学エネルギーの減少分を電気エネルギーに変換し、放電を行うことができる他に、放電時と逆方向に電流を流すことにより、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄積(充電)することが可能な電池である。二次電池の中でも、リチウム二次電池は、エネルギー密度が高いため、ノート型のパーソナルコンピューターや、携帯電話機等の電源として幅広く応用されている。
【0003】
リチウム二次電池においては、負極活物質としてグラファイト(Cと表現する)を用いた場合、放電時において、負極では下記式(I)の反応が進行する。
LiC→C+xLi+xe (I)
(上記式(I)中、0<x<1である。)
上記式(I)で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、正極に到達する。そして、上記式(I)で生じたリチウムイオン(Li)は、負極と正極に挟持された電解質内を、負極側から正極側に電気浸透により移動する。
【0004】
また、正極活物質としてコバルト酸リチウム(Li1−xCoO)を用いた場合、放電時において、正極では下記式(II)の反応が進行する。
Li1−xCoO+xLi+xe→LiCoO (II)
(上記式(II)中、0<x<1である。)
充電時においては、負極及び正極において、それぞれ上記式(I)及び式(II)の逆反応が進行し、負極においてはグラファイトインターカレーションによりリチウムが入り込んだグラファイト(LiC)が、正極においてはコバルト酸リチウム(Li1−xCoO)が再生するため、再放電が可能となる。
【0005】
従来のリチウム二次電池においては、電解液に可燃性、揮発性を有する有機溶媒を用いていたため、安全性の向上に対して限界があった。
これに対し、安全性を高めるための取り組みとして、イオン液体を電解液に用いたリチウム二次電池が、従来から知られている。ここでイオン液体とは、100℃以下で液体の塩のことをいい、一般に難燃性、不揮発性を有する。このような難燃性の電解液は、安全性を向上させることができるだけでなく、電位窓(電位領域)が比較的広く、さらに比較的高いイオン伝導性を示すという長所がある。
【0006】
イオン液体を備えたリチウムイオン二次電池の技術として、特許文献1には、有機溶媒と常温溶融塩(イオン液体)との混合溶媒に、リチウム塩及びKPF(Cを溶解してなる非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−305574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の請求項1には、非水電解液中に有機溶媒を含むことが記載されている。また、特許文献1の実施例には、非水電解液中に、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒を使用した電池が開示されている。一般的に有機溶媒は揮発しやすいため、イオン液体と有機溶媒との混合溶液を非水電解液として使用した電池における長時間運転後の性能は、主にイオン液体の性能に依存する。イオン液体を含有する従来の電解液は、有機溶媒のみを含有する電解液と比較してリチウムイオン伝導性に劣るため、実用的ではなかった。
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、優れたリチウムイオン伝導性を発揮するリチウム二次電池用電解液、及び当該電解液を備えるリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリチウム二次電池用電解液は、下記式(1)で表される1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートを含有することを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
本発明のリチウム二次電池は、少なくとも正極と、負極と、当該正極と当該負極との間に介在する電解液とを備えるリチウム二次電池であって、前記電解液が上記リチウム二次電池用電解液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記式(1)で表される1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートを含むため、イオン液体固有の難揮発性に加えて、優れたリチウムイオン伝導性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るリチウム二次電池の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。
【図2】実施例1及び2、並びに比較例1及び2の電解液のリチウムイオン輸率を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.リチウム二次電池用電解液
本発明のリチウム二次電池用電解液(以下、本発明に係る電解液と称する場合がある)は、下記式(1)で表される1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートを含有することを特徴とする。
【0015】
【化2】

【0016】
以下、本発明に使用される1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートの製造方法の一例について説明する。ただし、本発明に使用される1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートの製造方法は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
本製造例は、以下の工程(1)〜(3)からなる。
(1)1位にブチル基を有するテトラゾール−5−チオン誘導体を製造する工程
(2)5位にチオエステル基を有するチオテトラゾール誘導体を製造する工程
(3)1位にブチル基、且つ3位にメチル基を有するテトラゾリウム−5−オレートを製造する工程
【0017】
以下、上記工程(1)〜(3)について、詳しく説明する。
まず工程(1)において、下記反応式(a)に示すように、アルカリアジド(MN;Mはアルカリ金属)とブチルイソチオシアナート(CNCS)とを反応させ、1位にブチル基を有するテトラゾール−5−チオン誘導体を合成する。
【0018】
【化3】

【0019】
次に工程(2)において、下記反応式(b)に示すように、上記工程(1)で合成したテトラゾール−5−チオン誘導体と、ハロゲン化アルキル(RX)とを、塩基の存在下で反応させて、5位にチオエステル基を有するチオテトラゾール誘導体を合成する。
ハロゲン化アルキルとしては、例えば、臭化アルキル等を用いることができる。この場合、ハロゲン化アルキルの炭素数は4以下のものが好ましい。臭化オクチル等の炭素数が5以上のハロゲン化アルキルを用いると、後述する工程(3)における加水分解が困難となるからである。塩基は特に限定されず、例えば、ナトリウムアルコラート等を用いることができる。
【0020】
【化4】

【0021】
続いて、工程(3)において、下記反応式(c)に示すように、上記工程(2)で合成したチオテトラゾール誘導体をメチル化剤でメチル化し、さらに塩基で加水分解することにより、1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートを合成する。
メチル化剤は、メチル基をテトラゾール環の3位に導入できるものであれば特に限定されず、例えば、ジメチル硫酸、メチルトリフラート等を用いることができる。塩基は、余剰のメチル化剤を失活させ、且つ、メチル化されたチオテトラゾール誘導体を加水分解できるものであれば、特に限定されない。
【0022】
【化5】

【0023】
本発明に係る電解液は、上記1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートの他に、さらに支持塩としてリチウム塩を含有することが好ましい。リチウム塩としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO及びLiAsF等の無機リチウム塩;LiCFSO、LiN(SOCF(Li−TFSI)、LiN(SO及びLiC(SOCF等の有機リチウム塩が挙げられる。このようなリチウム塩を2種以上組み合わせて用いてもよい。また、テトラゾリウムメソイオン化合物に対するリチウム塩の添加量は特に限定されないが、0.1〜1.5mol/kg程度とすることが好ましい。
【0024】
本発明に係る電解液は、上記1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレート及びリチウム塩の他に、非水系電解質を含んでいてもよい。
非水系電解質としては、非水系電解液及び非水ゲル電解質を用いることができる。
非水系電解液は、通常、上述したリチウム塩及び非水溶媒を含有する。上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン及びこれらの混合物等を挙げることができる。また、溶存した酸素を効率良く反応に用いることができるという観点から、上記非水溶媒は、酸素溶解性が高い溶媒であることが好ましい。非水系電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5mol/L〜3mol/Lの範囲内である。
【0025】
また、本発明に用いられる非水ゲル電解質は、通常、非水系電解液にポリマーを添加してゲル化したものである。例えば、上述した非水系電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルニトリル(PAN)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加し、ゲル化することにより、得ることができる。本発明においては、例えば、LiTFSI(LiN(CFSO)−PEO系の非水ゲル電解質を用いることができる。
【0026】
2.リチウム二次電池
本発明のリチウム二次電池は、少なくとも正極と、負極と、当該正極と当該負極との間に介在する電解液とを備えるリチウム二次電池であって、前記電解液が上記リチウム二次電池用電解液であることを特徴とする。
【0027】
図1は、本発明に係るリチウム二次電池の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明に係るリチウム二次電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
リチウム二次電池100は、正極活物質層2及び正極集電体4を備える正極6と、負極活物質層3及び負極集電体5を備える負極7と、正極6及び負極7に挟持される電解液1を有する。
本発明に係るリチウム二次電池のうち、電解液については上述した通りである。以下、本発明に係るリチウム二次電池の構成要素である、正極、負極、セパレータ、電池ケースについて、詳細に説明する。
【0028】
(正極)
本発明に係るリチウム二次電池の正極は、好ましくは正極活物質を有する正極活物質層を有するものであり、通常、これに加えて、正極集電体、及び当該正極集電体に接続された正極リードを有するものである。なお、本発明に係るリチウム二次電池がリチウム空気電池である場合には、上記正極の替わりに、空気極層を含む空気極を有する。
【0029】
(正極活物質層)
以下、正極として、正極活物質層を有する正極を採用した場合について説明する。
本発明に用いられる正極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNiPO、LiMnPO、LiNiO、LiMn、LiCoMnO、LiNiMn、LiFe(PO及びLi(PO等を挙げることができる。これらの中でも、本発明においては、LiCoOを正極活物質として用いることが好ましい。
【0030】
本発明に用いられる正極活物質層の厚さは、目的とするリチウム二次電池の用途等により異なるものであるが、10μm〜250μmの範囲内であるのが好ましく、20μm〜200μmの範囲内であるのが特に好ましく、特に30μm〜150μmの範囲内であることが最も好ましい。
【0031】
正極活物質の平均粒径としては、例えば1μm〜50μmの範囲内、中でも1μm〜20μmの範囲内、特に3μm〜5μmの範囲内であることが好ましい。正極活物質の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなる可能性があり、正極活物質の平均粒径が大きすぎると、平坦な正極活物質層を得るのが困難になる場合があるからである。なお、正極活物質の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される活物質担体の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0032】
正極活物質層は、必要に応じて導電化材及び結着剤等を含有していても良い。
本発明において用いられる正極活物質層が有する導電化材としては、正極活物質層の導電性を向上させることができれば特に限定されるものではないが、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を挙げることができる。また、正極活物質層における導電化材の含有量は、導電化材の種類によって異なるものであるが、通常1質量%〜10質量%の範囲内である。
【0033】
本発明において用いられる正極活物質層が有する結着剤としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。また、正極活物質層における結着剤の含有量は、正極活物質等を固定化できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。結着剤の含有量は、通常1質量%〜10質量%の範囲内である。
【0034】
(正極集電体)
本発明において用いられる正極集電体は、上記の正極活物質層の集電を行う機能を有するものである。上記正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、SUS、ニッケル、鉄及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウム及びSUSが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、中でも箔状が好ましい。
【0035】
前記正極及び前記負極のうち少なくとも一方の電極の電極活物質層が、少なくとも電極活物質及び電極用電解質を含有するという構成をとることもできる。この場合、電極用電解質としては、固体酸化物電解質、固体硫化物電解質等の固体電解質や、上述したゲル電解質等を用いることができる。
【0036】
本発明に用いられる正極を製造する方法は、上記の正極を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。なお、正極活物質層を形成した後、電極密度を向上させるために、正極活物質層をプレスしても良い。
【0037】
(空気極層)
以下、正極として、空気極層を有する空気極を採用した場合について説明する。本発明に用いられる空気極層は、少なくとも導電性材料を含有するものである。さらに、必要に応じて、触媒及び結着剤の少なくとも一方を含有していても良い。
【0038】
本発明に用いられる空気極層に用いられる導電性材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料等を挙げることができる。さらに、炭素材料は、多孔質構造を有するものであっても良く、多孔質構造を有しないものであっても良いが、本発明においては、多孔質構造を有するものであることが好ましい。比表面積が大きく、多くの反応場を提供することができるからである。多孔質構造を有する炭素材料としては、具体的にはメソポーラスカーボン等を挙げることができる。一方、多孔質構造を有しない炭素材料としては、具体的にはグラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバー等を挙げることができる。空気極層における導電性材料の含有量としては、例えば65質量%〜99質量%の範囲内、中でも75質量%〜95質量%の範囲内であることが好ましい。導電性材料の含有量が少なすぎると、反応場が減少し、電池容量の低下が生じる可能性があり、導電性材料の含有量が多すぎると、相対的に触媒の含有量が減り、充分な触媒機能を発揮できない可能性があるからである。
【0039】
本発明に用いられる空気極層に用いられる触媒としては、例えばコバルトフタロシアニン及び二酸化マンガン等を挙げることができる。空気極層における触媒の含有量としては、例えば1質量%〜30質量%の範囲内、中でも5質量%〜20質量%の範囲内であることが好ましい。触媒の含有量が少なすぎると、充分な触媒機能を発揮できない可能性があり、触媒の含有量が多すぎると、相対的に導電性材料の含有量が減り、反応場が減少し、電池容量の低下が生じる可能性があるからである。
電極反応がよりスムーズに行われるという観点から、上述した導電性材料は触媒を担持していることが好ましい。
【0040】
上記空気極層は、少なくとも導電性材料を含有してれば良いが、さらに、導電性材料を固定化する結着剤を含有することが好ましい。結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。空気極層における結着剤の含有量としては、特に限定されるものではないが、例えば30質量%以下、中でも1質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0041】
上記空気極層の厚さは、空気電池の用途等により異なるものであるが、例えば2μm〜
500μmの範囲内、中でも5μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0042】
(空気極集電体)
本発明に用いられる空気極集電体は、空気極層の集電を行うものである。空気極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、カーボン等を挙げることができる。空気極集電体の形状としては、例えば箔状、板状及びメッシュ(グリッド)状等を挙げることができる。中でも、本発明においては、空気極集電体の形状がメッシュ状であることが好ましい。集電効率に優れているからである。この場合、通常、空気極層の内部にメッシュ状の空気極集電体が配置される。さらに、本発明のリチウム二次電池は、メッシュ状の空気極集電体により集電された電荷を集電する別の空気極集電体(例えば箔状の集電体)を備えていても良い。また、本発明においては、後述する電池ケースが空気極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
空気極集電体の厚さは、例えば10μm〜1000μmの範囲内、中でも20μm〜400μmの範囲内であることが好ましい。
【0043】
(負極)
本発明に係るリチウム二次電池中の負極は、好ましくは負極活物質を含有する負極活物質層を有するものであり、通常、これに加えて負極集電体、及び当該負極集電体に接続された負極リードを有するものである。
【0044】
(負極活物質層)
本発明に係るリチウム二次電池中の負極層は、金属及び合金材料を含む負極活物質を含有する。負極活物質層に用いられる負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に限定されないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金、リチウム元素を含有する金属酸化物、リチウム元素を含有する金属硫化物、リチウム元素を含有する金属窒化物、及びグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。
リチウム合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属酸化物としては、例えばリチウムチタン酸化物等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。また、負極層には、固体電解質をコートしたリチウムを用いることもできる。
【0045】
また、上記負極層は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電性材料及び結着剤の少なくとも一方を含有するものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極層とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質及び結着剤を有する負極層とすることができる。なお、導電性材料及び結着剤については、上述した「正極活物質層」又は「空気極層」の項に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
負極活物質層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、例えば10μm〜100μmの範囲内、中でも10μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
(負極集電体)
負極集電体の材料及び形状としては、上述した正極集電体の材料及び形状と同様のものを採用することができる。
【0047】
(セパレータ)
本発明に係るリチウム二次電池が、正極−電解質−負極の順番で配置されている積層体を、繰り返し何層も重ねる構造を取る場合には、安全性の観点から、異なる積層体に属する正極及び負極の間に、セパレータを有することが好ましい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及び樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
セパレータに使用できるこれらの材料は、上述した電解液を含浸させることにより、電解液の支持材として使用することもできる。
【0048】
(電池ケース)
本発明に係るリチウム二次電池は、通常、正極、電解液及び負極等を収納する電池ケースを有する。電池ケースの形状としては、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。
本発明に係る電池がリチウム空気電池である場合には、電池ケースは、大気開放型の電池ケースであっても良く、密閉型の電池ケースであっても良い。大気開放型の電池ケースは、少なくとも空気極層が十分に大気と接触可能な構造を有する電池ケースである。一方、電池ケースが密閉型電池ケースである場合は、密閉型電池ケースに、気体(空気)の導入管及び排気管を設けることが好ましい。この場合、導入・排気する気体は、酸素濃度が高いことが好ましく、純酸素であることがより好ましい。また、放電時には酸素濃度を高くし、充電時には酸素濃度を低くすることが好ましい。
【実施例】
【0049】
1.1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートの合成
工程(1)として、下記反応式(a)に従って、1−ブチルテトラゾール−5−チオンの合成を行った。
【0050】
【化6】

【0051】
すなわち、ナスフラスコに水10mL、アジ化ナトリウム487mg(7.5mmol)、ブチルイソチオシアナート0.60mL(5.0mmol)を加え8時間還流条件下で反応させた。反応液をエーテル抽出した後、水相を濃塩酸で酸性にして再びエーテル抽出、無水硫酸ナトリウム乾燥、溶媒留去するとうすい黄色の液体707mg(1−ブチルテトラゾール−5−チオン、収率90%)を得た。
HNMR(200MHz,CDCl)δ 0.98(t,J=7.4Hz,3H),133−1.51(m,2H),1.84−2.01(m,2H),4.32(t,J=7.4Hz,2H).
【0052】
次に工程(2)として、下記反応式(b)に従って、5−ブチルチオ−1−ブチルテトラゾールを合成した。
【0053】
【化7】

【0054】
すなわち、二口ナスフラスコに1−ブチルテトラゾール−5−チオン4.97g(30mmol)、ナトリウムメトキシド1.44g(26mmol)を加えアルゴン置換した。メタノール8mL、臭化ブチル2.80mL(26mmol)を加え16時間還流した。溶媒留去した後、エーテル希釈、1N塩酸洗浄、無水硫酸ナトリウム乾燥、溶媒留去するとうすい黄色の液体を得た。この液体をカラムクロマトグラフィー(アミノ化シリカ/ヘキサン:酢酸エチル=20:1〜アセトン)にて分離し、うす黄色の液体3.0g(5−ブチルチオ−1−ブチルテトラゾール、収率47%)を得た。
IR(neat,cm−1)3584,3054,2875,2305,1434,1392,703.
HNMR(200MHz,CDCl)δ 0.90(t,J=7.4Hz,3H),1.26−1.60(m,4H),1.72−1.98(m,4H),3.32(t,J=7.4Hz,2H),4.20(t,J=7.4Hz,2H).
13CNMR(50MHz,CDCl)δ 13.2,13.3,19.3,21.5,30.6,31.1,32.7,46.7,153.1.
EIMS(70eV)m/z 215(64),214(M,28),168(16),167(100),159(25),125(51),103(89).
【0055】
<第3工程>
最後に工程(3)として、下記反応式(c)に従って、1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートを得た。
【0056】
【化8】

【0057】
すなわち、二口ナスフラスコに5−ブチルチオ−1−ブチルテトラゾール339mg(1.6mmol)を加えアルゴン置換した。硫酸ジメチル165μL(1.8mmol)を加え、90℃で1時間加熱した。放冷した後、水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム126mg、水3mL)を加え還流条件下で30分加熱した。塩化メチレン抽出、無水硫酸ナトリウム乾燥、溶媒留去し、うすい黄色の液体を得た。この液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン〜アセトン)により分離し、うす黄色の液体109mg(1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレート、収率44%)を得た。このイオン液体は3mmHg、250℃で蒸留を行うことができた。
IR(neat,cm−1)3584,3390,2687,1565,1380,1153,1078,895,736.
HNMR(200MHz,CDCl)δ 0.92(t,J=7.4Hz,3H),1.28−1.42(m,2H),1.70−1.92(m,2H),4.02(t,J=7.4Hz,2H),4.16(s,3H).
13CNMR(50MHz,CDCl)δ 14.0,22.4,26.1,28.5,31.1,42.3,44.5,161.3.
EIMS(70eV)m/z 157(100),156(M,74),114(81),101(63).
HRMS(EI)[M]:calcd for C12O 156.1858 found 156.1012
【0058】
2.電解液の調製
[実施例1]
上記方法により合成した1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレート(以下、BMTOと称する場合がある)に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、LiTFSIと称する場合がある)を濃度が0.32mol/kgとなるように溶解させ、実施例1の電解液を調製した。
【0059】
[実施例2]
上記方法により合成したBMTOに、LiTFSIを濃度が1.5mol/kgとなるように溶解させ、実施例2の電解液を調製した。
【0060】
[比較例1]
有機溶媒の一種であるプロピレンカーボネート(以下、PCと称する場合がある)に、LiTFSIを濃度が1Mとなるように溶解させ、比較例1の電解液を調製した。
【0061】
[比較例2]
イオン液体の一種であるN−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、PP13TFSIと称する場合がある)に、LiTFSIを濃度が0.32mol/kgとなるように溶解させ、比較例2の電解液を調製した。
【0062】
3.電解液のリチウム伝導性評価
上記実施例1及び2、並びに比較例1の電解液について磁場勾配NMR測定を行い、測定結果からLi(リチウムカチオン)の拡散係数DLi、及び19F(フッ素アニオン)の拡散係数Dを算出した。磁場勾配NMRの主な測定条件は以下の通りである。
NMR:Varian製、INOVA 300
測定温度:60℃
g:60(G/cm)
δ:6(ms)(Li)、4(ms)(H,F)
Δ:50(ms)
拡散係数DLi及びDは、それぞれ、下記Stejskalの式(d)に基づき算出した。
【0063】
【数1】

(上記式(d)中、Eはピーク強度比、Sはピーク強度、Sは磁場勾配が無い状態で測定したピーク強度、γは核スピンの磁気回転比、gは磁場勾配強度、δは磁場勾配の照射時間、Dは拡散係数DLi又はD、Δは磁場勾配の照射時間間隔である。)
実施例1及び2並びに比較例1の電解液のリチウムイオン輸率(tLi)は、DLi及びDの値を用いて、下記式(e)により決定した。
Li=DLi/(DLi+D) 式(e)
【0064】
上記比較例2の電解液について磁場勾配NMR測定を行い、測定結果から拡散係数DLi及びD、並びにH(プロトン)の拡散係数Dを算出した。
比較例2の電解液のリチウムイオン輸率(tLi)は、DLi、D及びDの値、並びにLiTFSIの濃度CLiTFSI、LiTFSIの分子量MLiTFSI及びPP13TFSIの分子量MPP13TFSIの各値を用いて、下記式(f)により決定した。
【0065】
【数2】

【0066】
図2は、実施例1及び2、並びに比較例1及び2の電解液のリチウムイオン輸率を比較したグラフであり、縦軸にリチウムイオン輸率を、横軸に温度T(K)をとったグラフである。
図2から分かるように、イオン液体を含有する従来の電解液(比較例2)のリチウムイオン輸率は、313K(40℃)において0.033、333K(60℃)において0.035、353K(80℃)において0.038であった。また、有機溶媒を含有する従来の電解液(比較例1)のリチウムイオン輸率は、313K(40℃)において0.39、333K(60℃)において0.42、353K(80℃)において0.47である。
これに対し、実施例1の電解液のリチウムイオン輸率は、313K(40℃)において0.29、333K(60℃)において0.33、353K(80℃)において0.39であり、いずれの温度においても、比較例2のリチウムイオン輸率よりも1ケタ高い結果である。また、実施例1の5倍の塩濃度を有する実施例2の電解液のリチウムイオン輸率は、333K(60℃)において0.27である。実施例1と実施例2の結果から、リチウム塩濃度が高くなることによるリチウムイオン輸率の低下はほとんど生じないことが分かる。さらに、実施例1及び実施例2の電解液は、比較例1の電解液に匹敵するリチウムイオン伝導性を有することが分かる。
【符号の説明】
【0067】
1 電解液
2 正極活物質層
3 負極活物質層
4 正極集電体
5 負極集電体
6 正極
7 負極
100 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される1−ブチル−3−メチルテトラゾリウム−5−オレートを含有することを特徴とする、リチウム二次電池用電解液。
【化1】

【請求項2】
少なくとも正極と、負極と、当該正極と当該負極との間に介在する電解液とを備えるリチウム二次電池であって、
前記電解液が、前記請求項1に記載のリチウム二次電池用電解液であることを特徴とする、リチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−94278(P2012−94278A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238513(P2010−238513)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】