説明

リチウム二次電池用非水電解液及びそれを備えたリチウム二次電池

【課題】高い難燃性と導電率とを有するリチウム二次電池用非水電解液、並びに優れた負荷特性と安全性とを有するリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】非水溶媒及び支持塩を含み、リチウム又はその合金を負極に用いたリチウム二次電池用の非水電解液であって、下記一般式(I):
【化1】


[式中、R1は、それぞれ独立してフッ素、アルコキシ基又はアリールオキシ基であり、2つのRlのうち少なくとも一つはアルコキシ基又はアリールオキシ基であり、但し、2つのR1は互いに結合して環を形成してもよい]で表されるフルオロリン酸エステル化合物を20体積%以上含むことを特徴とするリチウム二次電池用非水電解液、並びに、該非水電解液と、正極と、リチウム又はその合金を用いた負極とを備えたリチウム二次電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用非水電解液及びそれを備えたリチウム二次電池に関し、特に高い導電率と難燃性とを有するリチウム二次電池用非水電解液及び優れた負荷特性と安全性とを有するリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
負極として黒鉛等の炭素材料を用い、正極としてLiCoO2等のリチウム遷移金属複合酸化物を用いたリチウムイオン電池は、高い電圧と高エネルギー密度を有する二次電池として、現在ノート型パソコン及び携帯電話等の駆動電源として広く用いられている。更に今後は、上記の炭素系の負極材料に比ベ、単位重量或いは単位体積当りの理論エネルギー密度の大きなリチウムやリチウム合金を負極活物質として用いたリチウム二次電池が、さらなる高エネルギー二次電池として実用化されることが期待されている。
【0003】
しかしながら、リチウムやリチウム合金を負極活物質として用いた場合、充放電の繰返しによりリチウム金属の不均一な電析・溶解が進行し、リチウムが樹枝状に成長するデンドライトの問題がある。発生したデンドライトは、電池性能の低下を招くだけでなく、正負極間に配置したセパレーターを貫通して電池をショートさせることもある。一般に、これら二次電池の電解液としては、エステル化合物及びエーテル化合物等の可燃性有機溶媒が使用されており、最悪の場合には発熱、発火に至ることがあるため、リチウム二次電池実用化にあたっては、上述のリチウムイオン電池よりさらに高い安全性が求められる。
【0004】
これに対して、電池の安全性を向上させるために、電解液を難燃化する方法が検討されており、例えば、電解液にリン酸トリメチル等のリン酸エステル類を用いたり、非プロトン性有機溶媒にリン酸エステル類を添加したりする方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、これら一般的なリン酸トリエステル類は、必ずしも難燃性が高くないため、十分な難燃効果を発現させるためには、その配合量を増加させる必要がある。
【0005】
ところが、電解液中の上記リン酸トリエステル類の配合量が増大するに従い電解液の導電率が低下すると共に、上記リン酸トリエステル類は電気化学的に安定な物質ではないため、充放電を繰り返すことで徐々に負極で還元分解され、充放電効率などの電池特性が大きく劣化してしまう問題がある。特に、高負荷条件である高い電流密度(ハイレート)での充放電においては、低配合量であってもリン酸トリエステルの還元分解が進行し易く充放電容量の低下が著しい。
【0006】
このように、従来の技術では、リチウム二次電池の負荷特性と安全性とを高度に両立することができなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平4−184870号公報
【特許文献2】特開平8−22839号公報
【特許文献3】特開2000−182669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、高い難燃性と導電率とを有するリチウム二次電池用非水電解液及び優れた負荷特性と安全性とを有するリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定構造のリン酸エステルを含む非水溶媒を利用することにより、高い難燃性と高い導電率とを併せ持つ電解液が得られるとともに、これを用いることで、リチウム二次電池の安全性及び負荷特性を大幅に改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明のリチウム二次電池用非水電解液は、非水溶媒及び支持塩を含み、リチウム又はその合金を負極に用いたリチウム二次電池用の非水電解液であって、
下記一般式(I):
【化1】


[式中、R1は、それぞれ独立してフッ素、アルコキシ基又はアリールオキシ基であり、2つのRlのうち少なくとも一つはアルコキシ基又はアリールオキシ基であり、但し、2つのR1は互いに結合して環を形成してもよい]で表されるフルオロリン酸エステル化合物を20体積%以上含むことを特徴とする。
【0011】
本発明のリチウム二次電池用非水電解液の好適例においては、前記一般式(I)中の2つのRlのうち1つがフッ素であり、他の1つがアルコキシ基又はアリールオキシ基である。この場合、非水電解液が、特に低粘度で且つ安全性に優れる。
【0012】
本発明のリチウム二次電池用非水電解液は、更に下記一般式(II):
【化2】


[式中、R2は、それぞれ独立して水素、フッ素又は炭素数1〜2のアルキル基である]で表される不飽和環状エステル化合物を含むことが好ましい。この場合、リチウム二次電池の負荷特性を更に向上させることができる。ここで、上記一般式(II)で表される不飽和環状エステル化合物の含有量は、前記非水電解液全体の0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のリチウム二次電池は、上記の非水電解液と、正極と、リチウム又はその合金を用いた負極とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解液に上記式(I)のフルオロリン酸エステル化合物を用いることにより、配合量が増加しても導電率及び電気化学的安定性に優れ、かつ高い難燃性を発現する電解液が得られる。これにより負荷特性に優れ、破裂、発火、引火の危険性が大幅に抑制された、すなわち安全性が著しく改善されたリチウム二次電池を提供することができる。
【0015】
理由は必ずしも明らかではないが、上記式(I)のフルオロリン酸エステル化合物は、通常のリン酸トリエステルより分子サイズが小さく、またリン−フッ素結合による分子間力の低減効果が低粘度化に寄与し、さらには特有の分子構造がリチウムイオンの解離を高め、電解液の導電率を向上させるものと考えられる。さらに、式(I)のフルオロリン酸エステル化合物が有するリン−フッ素結合がリン酸エステル分子全体の耐還元性を向上させると共に、熱分解時には不燃化に有効なガス成分を発生し、高い難燃性を発現するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<リチウム二次電池用非水電解液>
以下に、本発明のリチウム二次電池用非水電解液を詳細に説明する。本発明のリチウム二次電池用非水電解液は、上記一般式(I)で表されるフルオロリン酸エステル化合物を含む非水溶媒と支持塩とからなり、更に非水溶媒として非プロトン性溶媒を含んでもよい。
【0017】
本発明のリチウム二次電池用非水電解液に含まれるフルオロリン酸エステル化合物は、上記一般式(I)で表される。式(I)において、Rlは、それぞれ独立してフッ素、アルコキシ基又はアリールオキシ基であり、2つのRlのうち少なくとも一つはアルコキシ基又はアリールオキシ基である。
【0018】
式(I)のRlにおけるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等や、二重結合を含むアリルオキシ基等、更にはメトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基等のアルコキシ置換アルコキシ基等が挙げられる。これらのアルコキシ基中の水素元素は、ハロゲン元素で置換されていてもよく、フッ素で置換されていることが好ましい。これらの中でも、難燃性、低粘度に優れる点で、メトキシ基、エトキシ基、トルフルオロエトキシ基、プロポキシ基が好ましい。
【0019】
式(I)のRlにおけるアリールオキシ基としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、メトキシフェノキシ基等が挙げられる。これらアリールオキシ基中の水素元素は、ハロゲン元素で置換されていてもよく、フッ素で置換されていることが好ましい。これらの中でも、難燃性に優れる点で、フェノキシ基、フルオロフェノキシ基が好ましい。
【0020】
上記一般式(I)の2つのR1は、同一でも異なってもよい。また、2つのR1は連結していてもよく、この場合、2つのR1は、互いに結合して、アルキレンジオキシ基、アリーレンジオキシ基又はオキシアルキレンアリーレンオキシ基を形成し、かかる二価の基としては、エチレンジオキシ基、プロピレンジオキシ基等が挙げられる。特に、上記一般式(I)のフルオロリン酸エステル化合物の中でも、2つのR1のうち1つがフッ素であり、他の1つがアルコキシ基又はアリールオキシ基であるジフルオロリン酸エステルが、低粘度、難燃性の点で最も好ましい。
【0021】
式(I)のフルオロリン酸エステル化合物の具体例としては、フルオロリン酸ジメチル、フルオロリン酸ジエチル、フルオロリン酸ビストリフルオロエチル、フルオロリン酸エチレン、フルオロリン酸プロピレン、フルオロリン酸ジプロピル、フルオロリン酸ジブチル、フルオロリン酸ジフェニル、フルオロリン酸ジフルオロフェニル、ジフルオロリン酸メチル、ジフルオロリン酸エチル、ジフルオロリン酸トリフルオロエチル、ジフルオロリン酸プロピル、ジフルオロリン酸ブチル、ジフルオロリン酸シクロへキシル、ジフルオロリン酸メトキシエチル、ジフルオロリン酸メトキシエトキシエチル、ジフルオロリン酸フェニル、ジフルオロリン酸フルオロフェニル等が挙げられる。このらの中でも、ジフルオロリン酸メチル、ジフルオロリン酸エチル、ジフルオロリン酸トリフルオロエチル、ジフルオロリン酸プロピル、ジフルオロリン酸フェニルがより好ましい。これら式(I)のフルオロリン酸エステル化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
上記式(I)のフルオロリン酸エステル化合物の含有量は、本発明の目的から、非水電解液中20体積%以上であることを要する。式(I)のフルオロリン酸エステル化合物の含有量が20体積%未満でも難燃性の点では満足できるが、本発明の目的である高い導電性すなわち負荷特性の改良の効果が低い。一方、式(I)のフルオロリン酸エステル化合物を電解液中20体積%以上用いることで、電解液が不燃性を示す上、負荷特性の改良効果が顕著に現れる。
【0023】
本発明のリチウム二次電池用非水電解液には、上記式(I)のフルオロリン酸エステル化合物と併用して上記一般式(II)で表される不飽和環状エステル化合物を用いることが好ましく、この場合、さらに優れた負荷特性を得ることができる。理由は必ずしも明らかではないが、式(I)のフルオロリン酸エステル化合物と式(II)の不飽和環状エステル化合物とを用いることにより、よりリチウムイオン導電性の高い保護膜が電極表面に形成されるものと考えられる。なお、式(II)において、R2は、それぞれ独立して水素、フッ素又は炭素数1〜2のアルキル基であり、該アルキル基中の水素元素は、フッ素で置換されていてもよい。
【0024】
式(II)の不飽和環状エステル化合物の具体例としては、ビニレンカーボネート、カテコールカーボネート、4-フルオロビニレンカーボネート、4,5-ジフルオロビニレンカーボネート、4-メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、4-フルオロメチルビニレンカーボネート、4-ジフルオロメチルビニレンカーボネート、4-トリフルオロメチルビニレンカーボネート、4-エチルビニレンカーボネート、4,5-ジエチルビニレンカーボネート、4-フルオロエチルビニレンカーボネート、4-ジフルオロエチルビニレンカーボネート、4-トリフルオロエチルビニレンカーボネート、4,5-ビストリフルオロメチルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、ビニレンカーボネート、4-フルオロビニレンカーボネートが好ましい。これら不飽和環状エステル化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
上記不飽和環状エステル化合物の含有量は、非水電解液全体の0.1〜10質量%の範囲が好ましく、電池性能のバランスの観点から、0.5〜8質量%の範囲が更に好ましい。
【0026】
本発明のリチウム二次電池用非水電解液を調製するにあたり、上記化合物以外に使用する非水溶媒としては、従来より電池用の非水電解液に使用されている種々の非プロトン性溶媒を使用することができる。該非プロトン性溶媒として具体的には、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジフェニルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等の炭酸エステル類、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(DEE)等のエーテル類、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン、メチルフォルメート(MF)等のカルボン酸エステル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホン類、P=N結合を有するホスファゼン化合物等が挙げられる。これら非プロトン性溶媒の中でも、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)が好ましい。これら非プロトン性溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
また、本発明のリチウム二次電池用非水電解液には、本発明の目的を損なわない範囲で、デンドライトの成長の抑制等に効果があるとされるチオフェンやフランのような不飽和ヘテロ環状化合物、ナフタレンやビフェニル誘導体のような芳香族炭化水素等を添加してもよい。また、リチウム二次電池の形成に際して本発明の電解液は、そのまま用いることも可能であるが、例えば適当なポリマーや多孔性支持体、あるいはゲル状物質に含浸させるなどして保持させて用いることもできる。
【0028】
本発明のリチウム二次電池用非水電解液に用いる支持塩としては、リチウムイオンのイオン源となる支持塩が好ましい。該支持塩としては、特に制限はないが、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiCF3SO3、LiAsF6、LiC49SO3、Li(CF3SO2)2N及びLi(C25SO2)2N等のリチウム塩が好適に挙げられる。これらの中でも、不燃性に優れる点で、LiPF6が更に好ましい。これら支持塩は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記非水電解液中の支持塩の濃度としては、0.2〜1.5mol/L(M)が好ましく、0.5〜1mol/L(M)が更に好ましい。支持塩の濃度が0.2mol/L未満では、電解液の導電性を充分に確保することができず、電池の放電特性及び充電特性に支障をきたすことがあり、1.5mol/Lを超えると、電解液の粘度が上昇し、リチウムイオンの移動度を充分に確保できないため、前述と同様に電解液の導電性を充分に確保できず、電池の放電特性及び充電特性に支障をきたすことがある。
【0030】
<リチウム二次電池>
次に、本発明のリチウム二次電池を詳細に説明する。本発明のリチウム二次電池は、上述のリチウム二次電池用非水電解液と、正極と、リチウム又はその合金を用いた負極とを備え、必要に応じて、セパレーター等の電池の技術分野で通常使用されている他の部材を備える。
【0031】
本発明のリチウム二次電池の負極には、リチウムや、リチウムとAl、In、Sn、Si、Pb又はZn等との合金を用いることができる。これら負極材料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
本発明のリチウム二次電池の正極活物質としては、特に限定は無いが、V25、V613、MnO2、MnO3等の金属酸化物、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiFeO2及びLiFePO4等のリチウム含有複合酸化物、TiS2、MoS2等の金属硫化物、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が好適に挙げられる。上記リチウム含有複合酸化物は、Fe、Mn、Co及びNiからなる群から選択される2種又は3種の遷移金属を含む複合酸化物であってもよく、この場合、該複合酸化物は、LiFexCoyNi(1-x-y)2[式中、0≦x<1、0≦y<1、0<x+y≦1]、或いはLiMnxFey2-x-y等で表される。これらの中でも、高容量で安全性が高く、更には電解液の濡れ性に優れる点で、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24が特に好適である。これら正極活物質は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記正極には、必要に応じて導電剤、結着剤を混合することができ、導電剤としてはアセチレンブラック等が挙げられ、結着剤としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。これらの添加剤は、従来と同様の配合割合で用いることができる。
【0034】
本発明のリチウム二次電池に使用できる他の部材としては、リチウム二次電池において、正負極間に、両極の接触による電流の短絡を防止する役割で介在させるセパレーターが挙げられる。セパレーターの材質としては、両極の接触を確実に防止し得、且つ電解液を通したり含んだりできる材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース系、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂製の不織布、薄層フィルム等が好適に挙げられる。これらは、単体でも、混合物でも、共重合体でもよい。これらの中でも、厚さ20〜50μm程度のポリプロピレン又はポリエチレン製の微孔性フィルム、セルロース系、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のフィルムが特に好適である。本発明では、上述のセパレーターの他にも、通常電池に使用されている公知の各部材が好適に使用できる。
【0035】
以上に説明した本発明のリチウム二次電池の形態としては、特に制限はなく、コインタイブ、ボタンタイプ、ペーパータイプ、角型又はスパイラル構造の円筒型電池等、種々の公知の形態が好適に挙げられる。ボタンタイプの場合は、シート状の正極及び負極を作製し、該正極及び負極でセパレーターを挟む等して、リチウム二次電池を作製することができる。また、スパイラル構造の場合は、例えば、シート状の正極を作製して集電体を挟み、これにシート状の負極を重ね合わせて巻き上げる等して、リチウム二次電池を作製することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
ジフルオロリン酸メチル 20体積%、エチレンカーボネート 40体積%、メチルエチルカーボネート 40体積%からなる混合溶媒にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、導電率計を用いて25℃における導電率を測定した。また、難燃性評価を下記(1)の方法で実施した。結果を表1に示す。
【0038】
(1)難燃性の評価
UL(アンダーライティングラボラトリー)規格のUL94HB法をアレンジした方法で、大気環境下において着火した炎の燃焼長及び燃焼時間を測定・評価した。具体的には、UL試験基準に基づき、127mm×12.7mmのSiO2シートに上記電解液1.0mLを染み込ませて試験片を作製して評価を行った。以下に不燃性・難燃性・自己消火性・燃焼性の評価基準を示す。
<不燃性の評価>試験炎を点火しても全く着火しなかった場合(燃焼長:0mm)を不燃性ありと評価した。
<難燃性の評価>着火した炎が、装置の25mmラインまで到達せず且つ網からの落下物にも着火が認められなかった場合を難燃性ありと評価した。
<自己消火性の評価>着火した炎が25〜100mmラインで消火し且つ網からの落下物にも着火が認められなかった場合を自己消火性ありと評価した。
<燃焼性の評価>着火した炎が、100mmラインを超えた場合を燃焼性と評価した。
【0039】
次に、正極活物質としでリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)を用い、該酸化物と、導電剤であるアセチレンブラックと、結着剤であるフッ素樹脂とを、質量比で90:5:5で混合し、これをN-メチルピロリドンに分散させてスラリーとしたものを、正極集電体としてのアルミニウム箔に塗布・乾燥した後、直径12.5mmの円板状に打ち抜いて、正極を作製した。一方、負極としては、直径12.5mm、厚さ1.0mmのリチウム金属シートを用いた。次いで、正極端子を兼ねたステンレスケース内に、正極と負極とを、電解液を含浸したセパレーター(微孔性フィルム:ポリプロピレン製)を介して重ねて収容し、ポリプロピレン製ガスケットを介して負極端子を兼ねるステンレス製封口板で密封して、直径20mm、厚さ1.6mmのコイン型電池(リチウム二次電池)を作製した。
【0040】
(2)コイン型電池による充放電試験
上記のようにして作製したコイン型電池を用い、20℃の環境下で、4.2〜3.0Vの電圧範囲で、0.2mA/cm2の電流密度による充放電サイクルを2回繰り返し、この時の放電容量を既知の正極質量で除することにより初期放電容量(mAh/g)を求めた。その後、2.0mA/cm2の電流密度に変えて、さらに充放電サイクルを2回行い、その放電容量の平均値から次式:
負荷特性(%)=(2.0mA/cm2の電流密度による放電容量の平均値)/(0.2mA/cm2の電流密度による放電容量の平均値)×100
を用いて負荷特性(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例2)
ジフルオロリン酸エチル 50体積%と、エチレンカーボネート 25体積%と、メチルエチルカーボネート 25体積%とからなる混合溶媒にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させて、更に4-フルオロビニレンカーボネート 3質量%を添加して非水電解液を調製し、実施例1と同様にして得られた非水電解液の導電率及び難燃性を評価した。また、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、充放電試験における初期放電容量及び負荷特性を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例3)
ジフルオロリン酸プロピル 100体積%からなる溶媒にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させて、更にビニレンカーボネート 3質量%を添加して非水電解液を調製し、実施例1と同様にして得られた非水電解液の導電率及び難燃性を評価した。また、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、充放電試験における初期放電容量及び負荷特性を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1)
エチレンカーボネート 50体積%と、メチルエチルカーボネート 50体積%とからなる混合溶媒にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を調製し、実施例1と同様にして得られた非水電解液の導電率及び難燃性を評価した。また、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、充放電試験における初期放電容量及び負荷特性を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例2)
リン酸トリメチル 20体積%と、エチレンカーボネート 40体積%と、エチルメチルカーボネート 40体積%とからなる混合溶媒にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させて、更にビニレンカーボネート 3質量%を添加して非水電解液を調製し、実施例1と同様にして得られた非水電解液の導電率及び難燃性を評価した。また、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、充放電試験における初期放電容量及び負荷特性を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0045】
(比較例3)
リン酸トリエチル 50体積%と、エチレンカーボネート 25体積%と、エチルメチルカーボネート 25体積%とからなる混合溶媒にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させて、更にビニレンカーボネート 3質量%を添加して非水電解液を調製し、実施例1と同様にして得られた非水電解液の導電率及び難燃性を評価した。また、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、充放電試験における初期放電容量及び負荷特性を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の実施例1〜3に示すように、式(I)、または式(I)と式(II)の化合物を含む非水電解液が難燃性又は不燃性を示すと共に、高い導電率を示し、また、それを用いた電池が負荷特性に優れていることがわかる。このように本発明のリチウム二次電池用非水電解液は、高い難燃性と導電率を有しており、また、該非水電解液をリチウム二次電池に用いることで、安全性及び負荷特性に優れたリチウム二次電池が得られることが確認された。
【0048】
一方、表1の比較例2、3に示すように、通常のリン酸トリエステルを添加した非水電解液は、添加量が増すにつれて難燃性が向上するものの、導電率が低下する上、リン酸トリエステルの還元分解により、電池の初期放電容量及び負荷特性が低下してしまうことがわかる。
【0049】
以上の結果から、式(I)で表されるフルオロリン酸エステル化合物を含有することを特徴とする非水電解液を用いることにより、高い難燃性と電池性能とを両立させたリチウム二次電池を提供できることが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒及び支持塩を含み、リチウム又はその合金を負極に用いたリチウム二次電池用の非水電解液において、
前記非水電解液が下記一般式(I):
【化1】


[式中、R1は、それぞれ独立してフッ素、アルコキシ基又はアリールオキシ基であり、2つのRlのうち少なくとも一つはアルコキシ基又はアリールオキシ基であり、但し、2つのR1は互いに結合して環を形成してもよい]で表されるフルオロリン酸エステル化合物を20体積%以上含むことを特徴とするリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項2】
前記一般式(I)において、2つのRlのうち1つがフッ素であり、他の1つがアルコキシ基又はアリールオキシ基であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項3】
前記非水電解液が、更に下記一般式(II):
【化2】


[式中、R2は、それぞれ独立して水素、フッ素又は炭素数1〜2のアルキル基である]で表される不飽和環状エステル化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項4】
前記一般式(II)で表される不飽和環状エステル化合物の含有量が前記非水電解液全体の0.1〜10質量%であることを特徴とする請求項3に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解液と、正極と、リチウム又はその合金を用いた負極とを備えたリチウム二次電池。

【公開番号】特開2006−286570(P2006−286570A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108691(P2005−108691)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】