説明

リチウム二次電池

【課題】優れたサイクル特性を示し、かつ過充電防止などの安全性に優れるリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】コバルトまたはニッケルとリチウムとを含有する複合金属酸化物からなる正極、リチウム金属、リチウム合金もしくはリチウムを吸蔵、放出可能な材料からなる負極を備えたリチウム二次電池の非水電解液を、その非水溶媒が鎖状カーボネートと二種類以上の環状カーボネートとを含むように調製し、そして非水電解液を、電解液に対して合計含有量が0.1〜10質量%のシクロヘキシルベンゼン及びtert−アルキルベンゼン誘導体を含有するように調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過充電防止などの安全性、サイクル特性、電気容量、および保存特性などの電池特性に優れたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池は小型電子機器などの駆動用電源として広く使用されている。また、小型ビデオカメラ、携帯電話、ノート型パソコンなどの携帯用電子・通信機器のみならず、自動車用の電源としての期待も大きい。このリチウム二次電池は、主に正極、非水電解液および負極から構成されており、特に、LiCoO2などのリチウム複合酸化物を正極とし、炭素材料又はリチウム金属を負極としたリチウム二次電池が好適に使用されている。そして、そのリチウム二次電池用電解液の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類が好適に使用されている。
【0003】
このようなリチウム二次電池は、通常の作用電圧を上回るような過充電時に、正極からは過剰なリチウムが放出されると同時に、負極では過剰なリチウムの析出が生じて、デンドライトが生じる。そのため、正・負極の両極が化学的に不安定化する。正・負極の両極が化学的に不安定になると、やがては非水電解液中のカーボネート類と作用して分解し、急激な発熱反応が起こる。これによって、電池が異常に発熱し、電池の安全性が損なわれるという問題を生じる。このような状況は、リチウム二次電池のエネルギー密度が増加するほど重要な問題となる。
【0004】
このような問題を解決するため、電解液中に添加剤として少量の芳香族化合物を添加することによって、過充電に対して安全性を確保できるようにしたものが、例えば、特許文献1において提案された。この特許文献1では、電解液の添加剤として、分子量500以下で満充電時の正極電位よりも貴な電位に可逆性酸化還元電位を有するようなπ電子軌道を持つアニソール誘導体などを使用している。このようなアニソール誘導体は、電池内でレドックスシャトルすることにより、過充電に対して電池の安全性を確保している。
【0005】
また、特許文献2では、負極に炭素材料を用い、電解液の添加剤として、ビフェニル、3−R−チオフェン、3−クロロチオフェン、フランを約1〜4%使用して、電池の最大作動電圧を超える電圧でビフェニルなどが重合することによって、電池の内部抵抗を大きくして、過充電に対して電池の安全性を確保する方法が提案されている。また、特許文献3では、同様に、ビフェニル、3−R−チオフェン、3−クロロチオフェン、フランを使用して、電池の最大作動電圧を超える電圧でビフェニルなどが重合することによって気体を発生させ、内部電気切断装置を作動させることにより内部短絡を生じさせて、過充電に対して電池の安全性を確保する方法が提案されている。また、特許文献4では、同様に、ビフェニル、3−R−チオフェン、3−クロロチオフェン、フランを使用して、電池の最大作動電圧を超える電圧でビフェニルなどが重合することによって、導電性ポリマーを発生させることにより、内部短絡を生じさせて過充電に対して電池の安全性を確保する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献5では、ビフェニルなどを添加した電池において、4.1Vを越える電圧上限までサイクルが繰り返されたり、40℃以上の高温で長期間暴露される充放電状態では、サイクル特性などの電池特性を悪化させる傾向があり、添加量の増大に伴って、その傾向は顕著になるという問題点があることが記載されている。そこで、2,2−ジフェニルプロパンなどを添加する電解液が提案され、電池の最大作動電圧を超える電圧で2,2−ジフェニルプロパンなどが重合することによって、気体を発生させて内部電気切断装置を作動させたり、導電性ポリマーを発生させることにより、内部短絡を生じさせて、過充電に対して電池の安全性を確保する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平7−302614号公報
【特許文献2】特開平9−106835号公報
【特許文献3】特開平9−171840号公報
【特許文献4】特開平10−321258号公報
【特許文献5】特開平11−162512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に提案されたアニソール誘導体は、レドックスシャトルにより過充電に対して有効に作用するのに対して、サイクル特性や保存特性に悪影響を及ぼすという問題を生じた。提案されているアニソール誘導体は、40℃以上の高温や通常作動電圧で使用している場合に、局部的に少し高い電圧にさらされると充放電と共に徐々にアニソール誘導体が分解し、本来の電池特性が低下するという問題がある。したがって、通常の充放電と共に徐々にアニソール誘導体が分解して少なくなってしまうために、300サイクル後に過充電試験を行うと、安全を十分確保できないこともある。
【0008】
また、特許文献2、特許文献3、特許文献4に提案されたビフェニル、3−R−チオフェン、3−クロロチオフェン、フランも同様に、過充電に対しては有効に作用するのに対して、特許文献5で指摘されているように、サイクル特性や保存特性に悪影響を及ぼし、ビフェニル添加量と共に顕著になるという問題を生じた。これは、ビフェニルなどが4.5V以下の電位で酸化分解されるために、40℃以上の高温や通常作動電圧で使用している場合にも局部的に少し高い電圧にさらされると、徐々にビフェニルなどが分解して少なくなってしまうためにサイクル寿命が低下してしまう。更には、充放電と共に徐々にビフェニルなどが分解して少なくなってしまうために、300サイクル後に過充電試験を行うと、安全を十分確保できないこともある。
【0009】
更には、特許文献5に提案された2,2−ジフェニルプロパンを添加した電池は、ビフェニルを添加した電池ほど過充電に対する安全性は良くないものの、何も添加しない電池よりも過充電に対する安全性は良い。また、2,2−ジフェニルプロパンを添加した電池は、ビフェニルを添加した電池より優れたサイクル特性が得られるものの、何も添加しない電池よりもサイクル特性は悪いことが記載されている。よって、ビフェニルを添加した電池よりも良好なサイクル特性を得るためには、安全性の一部を犠牲にすることが許容できることが述べられている。このため、過充電防止などの安全性およびサイクル特性、電気容量、保存特性などの電池特性は必ずしも満足なものではないのが現状である。
【0010】
本発明は、前記のようなリチウム二次電池用電解液に関する課題を解決し、過充電防止などの安全性、サイクル特性、電気容量、保存特性などの電池特性にも優れたリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コバルトまたはニッケルとリチウムとを含有する複合金属酸化物からなる正極、リチウム金属、リチウム合金もしくはリチウムを吸蔵、放出可能な材料からなる負極、および非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液からなるリチウム二次電池であって、該非水溶媒が、鎖状カーボネートと二種類以上の環状カーボネートとを含み、そして非水電解液が、該電解液に対して合計含有量が0.1〜10質量%のシクロヘキシルベンゼン及びtert−アルキルベンゼン誘導体を含有することを特徴とするリチウム二次電池にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電池の過充電防止などの安全性、サイクル特性、電気容量、保存特性などの電池特性にも優れたリチウム二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の電解液に含有されるtert−アルキルベンゼン誘導体としては、以下のような化合物が挙げられる。なお、後記する実施例に記載した方法により測定したリチウムに対する酸化電位をカッコ内に示す。
【0014】
tert−ブチルベンゼン(4.9V)、1−フロオロ−4−tert−ブチルベンゼン(4.9V)、1−クロロ−4−tert−ブチルベンゼン(4.9V)、1−ブロモ−4−tert−ブチルベンゼン(4.9V)、1−ヨード−4−tert−ブチルベンゼン(4.9V)、5−tert−ブチル−m−キシレン(4.6V)、4−tert−ブチルトルエン(4.7V)、3,5−ジ−tert−ブチルトルエン(4.8V)、1,3−ジ−tert−ブチルベンゼン(4.9V)、1,4−ジ−tert−ブチルベンゼン(4.9V)、1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼン(5.0V)などのtert−ブチルベンゼン誘導体、そしてtert−ペンチルベンゼン(4.8V)、1−メチル−4−tert−ペンチルベンゼン、(4.7V)、5−tert−ペンチル−m−キシレン(4.6V)、1−エチル−1−(メチルプロピル)ベンゼン(4.8V)、(1,1−ジエチルプロピル)ベンゼン(4.8V)、1,3−ジ−tert−ペンチルベンゼン(4.7V)、1,4−ジ−tert−ペンチルベンゼン(4.7V)などのtert−アルキルペンチル誘導体が挙げられる。
【0015】
すなわち、本発明のリチウム二次電池の電解液には上記のようなtert−アルキルベンゼン誘導体とシクロヘキシルベンゼン(4.7V)とが含有される。そして、前記tert−ブチルベンゼン等の酸化電位が4.8〜5.0Vとtert−アルキルベンゼン誘導体の一部を酸化電位が4.7Vと低いシクロヘキシルベンゼンに代えることにより、過充電防止効果を向上させることができる。なお、例えばtert−アルキルベンゼン誘導体の一部をシクロヘキシルベンゼンに代える場合、tert−アルキルベンゼン誘導体(特に、tert−ブチルベンゼン誘導体)の含有量はシクロヘキシルベンゼンの重量に対して4倍量以下が好ましく、さらに好ましくは0.3〜3倍量、特に0.5〜2.5倍量が好ましい。前記したように酸化電位の異なる少なくとも2種類の有機化合物であるtert−アルキルベンゼン誘導体とシクロヘキシルベンゼンとを併用することにより、過充電防止効果を高めることができる。
【0016】
本発明のリチウム二次電池の電解液においてtert−アルキルベンゼン誘導体とシクロヘキシルベンゼンとの合計含有量は、過度に多いと、電解液の電導度などが変わり、電池性能が低下することがあり、過度に少ないと、十分な過充電効果が得られないので、電解液の重量に対して0.1重量%〜10重量%、特に1〜5重量%の範囲が好ましい。
【0017】
本発明のリチウム二次電池の電解液で使用される非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート類や、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネート類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリルなどのニトリル類、プロピオン酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸オクチルなどのエステル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。
【0018】
これらの非水溶媒は、1種類で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。非水溶媒の組み合わせは特に限定されないが、例えば、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせ、環状カーボネート類とラクトン類との組み合わせ、環状カーボネート類3種類と鎖状カーボネート類との組み合わせなど種々の組み合わせが挙げられる。
【0019】
本発明のリチウム二次電池の電解液で使用される電解質としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso−C、LiPF(iso−C)などが挙げられる。これらの電解質は、1種類で使用してもよく、2種類以上組み合わせて使用してもよい。これらの電解質は、前記の非水溶媒に通常0.1〜3M、好ましくは0.5〜1.5Mの濃度で溶解されて使用される。
【0020】
本発明のリチウム二次電池の電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質を溶解し、これにtert−アルキルベンゼン誘導体とシクロヘキシルベンゼンとを溶解することにより得られる。
【0021】
本発明のリチウム二次電池において、電解液以外の構成部材については特に限定されず、従来使用されている種々の構成部材を使用できる。
【0022】
例えば、正極活物質としてはコバルトまたはニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiCo1−xNi(0.01<x<1)などが挙げられる。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように適当に混ぜ合わせて使用しても良い。
【0023】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラックなどの導電剤およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着剤と混練して正極合剤とした後、この正極材料を集電体としてのアルミニウムやステンレス製の箔やラス板に圧延して、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製される。
【0024】
負極(負極活物質)としては、リチウム金属やリチウム合金、またはリチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛など)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、または複合スズ酸化物などの物質が使用される。特に、格子面(002)の面間隔(d002)が0.335〜0.340nm(ナノメーター)である黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが好ましい。なお、炭素材料のような粉末材料はエチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着剤と混練して負極合剤として使用される。
【0025】
リチウム二次電池の構造は特に限定されるものではなく、単層又は複層の正極、負極、セパレータを有するコイン型電池やポリマー電池、さらに、ロール状の正極、負極およびロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池などが一例として挙げられる。なお、セパレータとしては公知のポリオレフィンの微多孔膜、織布、不織布などが使用される。
【0026】
本発明におけるリチウム二次電池は、最大作動電圧が4.2Vより大きい場合にも長期間にわたり、優れたサイクル特性を有しており、特に最大作動電圧が4.3Vのような場合にも優れたサイクル特性を有している。カットオフ電圧は、2.0V以上とすることができ、さらに2.5V以上とすることができる。電流値については特に限定されるものではないが、通常0.1〜3Cの定電流放電で使用される。また、本発明におけるリチウム二次電池は、−40〜100℃と広い範囲で充放電することができるが、好ましくは0〜80℃である。
【実施例】
【0027】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
[比較例1]
〔酸化電位の測定〕
プロピレンカーボネートの非水溶媒にLiPFを1Mの濃度になるように溶解して電解液を調製した後、これにtert−ブチルベンゼンを電解液に対して2重量%となるように加えた。ALS社製電気化学アナライザー(モデル608A)を用いて、室温(20℃)で酸化電位を測定した。参照電極には金属リチウム箔、作用極には白金棒電極(直径1mm)を用いた。毎秒10mVの速度で+3Vから+6Vまで掃引した。0.1mAの電流変化が認められた時の電位の値をもって酸化電位と規定した。ただし、小数点2位は四捨五入した。その結果、tert−ブチルベンゼンの酸化電位は4.9Vであった。
【0028】
〔電解液の調製〕
EC/PC/DEC(容量比)=30/5/65の非水溶媒を調製し、これにLiPFを1Mの濃度になるように溶解して電解液を調製した後、さらにtert−ブチルベンゼンを電解液に対して2重量%となるように加えた。
【0029】
〔リチウム二次電池の作製および電池特性の測定〕
LiCoO(正極活物質)を90重量%、アセチレンブラック(導電剤)を5重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状にしてアルミ箔上に塗布した。その後、これを乾燥し、加圧成形して正極を調製した。人造黒鉛(負極活物質)を95重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状にして銅箔上に塗布した。その後、これを乾燥し、加圧成形して負極を調製した。そして、ポリプロピレン微多孔性フィルムのセパレータを用い、上記の電解液を注入して18650サイズの円筒型電池(直径18mm、高さ65mm)を作製した。電池には、圧力開放口および内部電流遮断装置を設けた。
【0030】
この18650電池を用いて、サイクル試験するために、高温(45℃)下、1.45A(1C)の定電流で4.2Vまで充電した後、終止電圧4.2Vとして定電圧下に合計3時間充電した。次に1.45A(1C)の定電流下、終止電圧2.5Vまで放電し充放電を繰り返した。初期放電容量は、1M LiPF+EC/PC/DEC(容量比)=30/5/65を電解液として用いた場合(比較例1)と比較して同等であった。300サイクル後の電池特性を測定したところ、初期放電容量を100%としたときの放電容量維持率は85.5%であった。また、高温保存特性も良好であった。さらに、サイクル試験を300回繰り返した18650電池を用いて、常温(20℃)下、満充電状態から2.9A(2C)の定電流で続けて充電することにより、過充電試験を行った。この時、電流遮断時間は25分、電流遮断後の電池の最高表面温度は68℃であった。18650サイズの円筒型電池の材料条件および電池特性を表1に示す。
【0031】
[実施例1]
2重量%のtert−ブチルベンゼンの代わりに、tert−ブチルベンゼンとシクロヘキシルベンゼン(酸化電位:4.7V)とを電解液に対してそれぞれ1重量%ずつ使用したほかは比較例1と同様に酸化電位を測定した。結果を表1に示す。また、18650サイズの円筒型電池の材料条件および300サイクル後の放電容量維持率、電流遮断時間、電流遮断後の電池の最高表面温度を表1に示す。比較例1に比べて電流遮断後の温度が低く、また、電流遮断時間も短く、比較例1に比べてさらに過充電防止効果に優れていることが分る。
【0032】
[比較例2]
tert−ブチルベンゼンを全く添加しなかったほかは比較例1と同様に酸化電位を測定した。結果を表1に示す。また、18650サイズの円筒型電池の材料条件および300サイクル後の放電容量維持率、電流遮断時間、電流遮断後の電池の最高表面温度を表1に示す。
【0033】
表1
────────────────────────────────────
添加化合物(wt%) 電流遮断 電池の 放電容量
時間 最高温度 維持率
────────────────────────────────────
比較例1 t−ブチルベンゼン(2) 25分 68℃ 85.5%
────────────────────────────────────
実施例1 t−ブチルベンゼン(1) 18分 64℃ 85.3%
シクロヘキシルベンゼン(1)
────────────────────────────────────
比較例2 なし 31分 熱暴走 82.8%
────────────────────────────────────
正極:LiCoO
負極:人造黒鉛
電解液組成(容量比):1M LiPF
EC/PC/DEC(30/5/65)
【0034】
[比較例3]
正極活物質として、LiCoOに代えてLiNi0.8Co0.2を使用し、また、EC/PC/VC/DEC(容量比)=30/5/2/63の非水溶媒を調製し、これにLiPFを1Mの濃度になるように溶解して電解液を調製した後、さらにtert−ブチルベンゼンを電解液に対して3重量%使用したほかは比較例1と同様に、18650サイズの円筒型電池を作製し、電池性能を測定した。18650サイズの円筒型電池の材料条件および電池特性を表2に示す。
【0035】
[実施例2]
正極活物質として、LiCoOに代えてLiNi0.8Co0.2を使用し、また、EC/PC/VC/DEC(容量比)=30/5/2/63の非水溶媒を調製し、これにLiPFを1Mの濃度になるように溶解して電解液を調製した後、さらにtert−ブチルベンゼンを電解液に対して2重量%とシクロヘキシルベンゼンを電解液に対して1重量%使用したほかは比較例1と同様に、18650サイズの円筒型電池を作製し、電池性能を測定した。18650サイズの円筒型電池の材料条件および電池特性を表2に示す。
【0036】
[比較例4]
正極活物質として、LiCoOに代えてLiNi0.8Co0.2を使用したほかは比較例2と同様に、18650サイズの円筒型電池を作製し、電池性能を測定した。18650サイズの円筒型電池の材料条件および電池特性を表2に示す。
【0037】
表2
────────────────────────────────────
添加化合物(wt%) 電流遮断 電池の 放電容量
時間 最高温度 維持率
────────────────────────────────────
比較例3 t−ブチルベンゼン(3) 24分 67℃ 84.7%
────────────────────────────────────
実施例2 t−ブチルベンゼン(2) 19分 65℃ 84.3%
シクロヘキシルベンゼン(1)
────────────────────────────────────
比較例4 なし 31分 熱暴走 80.4%
────────────────────────────────────
正極:LiNi0.8Co0.2
負極:人造黒鉛
電解液組成(容量比):1M LiPF
EC/PC/VC/DEC(30/5/2/63)
(但し、比較例4では、EC/PC/DEC(30/5/65))
【0038】
[比較例5]
tert−ブチルベンゼンに代えてtert−ペンチルベンゼン(酸化電位:4.8V)を電解液に対して2重量%使用したほかは比較例1と同様に、18650サイズの円筒型電池を作製し、電池性能を測定した。18650サイズの円筒型電池の材料条件および電池特性を表3に示す。
【0039】
[実施例3]
2重量%のtert−ブチルベンゼンの代わりに、tert−ペンチルベンゼンおよびシクロヘキシルベンゼンを電解液に対してそれぞれ2重量%、1重量%使用したほかは比較例1と同様に、18650サイズの円筒型電池を作製し、電池性能を測定した。18650サイズの円筒型電池の材料条件および電池特性を表3に示す。
【0040】
[実施例4]
2重量%のtert−ブチルベンゼンの代わりに、tert−ブチルベンゼン、tert−ペンチルベンゼンおよびシクロヘキシルベンゼンを電解液に対してそれぞれ2重量%、2重量%、1重量%使用したほかは比較例1と同様に、18650サイズの円筒型電池を作製し、電池性能を測定した。18650サイズの円筒型電池の材料条件および電池特性を表3に示す。
【0041】
表3
────────────────────────────────────
添加化合物(wt%) 電流遮断 電池の 放電容量
時間 最高温度 維持率
────────────────────────────────────
比較例5 t−ペンチルベンゼン(2) 22分 66℃ 85.3%
────────────────────────────────────
実施例3 t−ペンチルベンゼン(2) 17分 63℃ 84.7%
シクロヘキシルベンゼン(1)
────────────────────────────────────
実施例4 t−ブチルベンゼン(2) 17分 63℃ 84.9%
t−ペンチルベンゼン(2)
シクロヘキシルベンゼン(1)
────────────────────────────────────
正極:LiCoO
負極:人造黒鉛
電解液組成(容量比):1M LiPF
EC/PC/DEC(30/5/65)
【0042】
以上の実施例では、過充電時にいずれも負極上に十分なコバルトまたはニッケルが析出していた。
【0043】
なお、本発明は記載の実施例に限定されず、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせが可能である。特に、上記実施例の溶媒の組み合わせは限定されるものではない。更には、上記実施例は18650サイズの円筒型電池に関するものであるが、本発明は角型、アルミラミネート型、コイン型の電池にも適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトまたはニッケルとリチウムとを含有する複合金属酸化物からなる正極、リチウム金属、リチウム合金もしくはリチウムを吸蔵、放出可能な材料からなる負極、および非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液からなるリチウム二次電池であって、該非水溶媒が、鎖状カーボネートと二種類以上の環状カーボネートとを含み、そして非水電解液が、該電解液に対して合計含有量が0.1〜10質量%のシクロヘキシルベンゼン及びtert−アルキルベンゼン誘導体を含有することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
環状カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、およびビニレンカーボネートからなる群より選ばれる環状カーボネートを二種類以上含有している請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
鎖状カーボネートが、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、およびジエチルカーボネートからなる群より選ばれる請求項1もしくは2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
環状カーボネートがビニレンカーボネートを含む請求項1もしくは2に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
負極が負極活物質として炭素材料を含有する請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
炭素材料が格子面(002)の面間隔(d002)が0.335〜0.340nmの黒鉛型結晶構造を有する炭素材料である請求項5に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
tert−アルキルベンゼン誘導体が、tert−ブチルベンゼン誘導体もしくはtert−ペンチルベンゼン誘導体である請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
tert−アルキルベンゼン誘導体が、tert−ブチルベンゼン、1−ブロモ−4−tert−ブチルベンゼン、もしくはtert−ペンチルベンゼンである請求項1乃至7のうちのいずれかの項に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
tert−アルキルベンゼン誘導体がtert−ペンチルベンゼンである請求項1乃至8のうちのいずれかの項に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
tert−アルキルベンゼン誘導体の含有量がシクロヘキシルベンゼンの含有量の0.3〜4倍量の範囲にある請求項1乃至9のうちのいずれかの項に記載のリチウム二次電池。

【公開番号】特開2010−56091(P2010−56091A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254584(P2009−254584)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【分割の表示】特願2006−86237(P2006−86237)の分割
【原出願日】平成13年10月3日(2001.10.3)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】