説明

リチウム二次電池

【課題】低温での出力特性を向上可能なリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、マンガン酸リチウムと正極導電材と炭酸リチウムとを含む正極合剤をアルミニウム箔に塗着した正極と、非晶質炭素を含む負極合剤を圧延銅箔に塗着した負極とがセパレータを介して捲回された電極群を有しており、電極群は非水電解液に浸潤されて電池容器内に密封されている。正極導電材には、黒鉛系炭素材の人造黒鉛と非晶質炭素のカーボンブラックが用いられており、重量比割合で、黒鉛系炭素材:非晶質炭素=60:40〜90:10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池に係り、特に、リチウム含有複酸化物と正極導電材と添加剤とを含む正極合剤を正極集電体に塗着した正極と、負極と、非水電解液とを備えたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高エネルギー密度であるメリットを活かして、VTRカメラやノート型パソコン、携帯電話などのポータブル機器の電源や、高充電受入性であるメリットを活かして据置電源等に広く使用されている。一方、自動車産業界においては、環境問題に対応すべく、動力源を電池のみとする電気自動車や、内燃機関エンジンと電池との両方を動力源とするハイブリッド式電気自動車の開発が加速され、一部は実用化されている。
【0003】
リチウム二次電池を、上述した電気自動車の電源として使用する場合には、高容量化だけではなく(例えば、特許文献1、2参照)、加速性能などを左右する高出力化や内部抵抗の抑制が求められる(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−308829号公報
【特許文献2】特開2005−174586号公報
【特許文献3】特開2007−257890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウム二次電池を用いた蓄電デバイスは寒冷地でも使用されることがある。例えば、上述した電気自動車は移動体のため、その電源となるリチウム二次電池は寒冷地で使用されること予め考慮しておく必要があり、そのためには、低温での出力特性の確保が重要である。
【0006】
本発明は上記事案に鑑み、低温での出力特性を向上可能なリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、リチウム含有複酸化物と正極導電材と添加剤とを含む正極合剤を正極集電体に塗着した正極と、充放電によりリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材を含む負極合剤を負極集電体に塗着した負極と、前記正負極を浸潤する非水電解液とを備えたリチウム二次電池において、前記正極導電材は、黒鉛系炭素材と非晶質炭素であることを特徴とする。
【0008】
本発明において、黒鉛系炭素材と非晶質炭素の割合が、重量比割合で、黒鉛系炭素材:非晶質炭素=60:40〜90:10であることが好ましい。このとき、例えば、非晶質炭素にはカーボンブラックが選択可能であり、黒鉛系炭素には人造黒鉛が選択可能である。また、添加剤には炭酸リチウムが選択可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正極導電材に黒鉛系炭素材と非晶質炭素を用いたので、低温での出力特性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明をハイブリッド自動車用の円柱状リチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。
【0011】
(構成)
<正極>
図1に示すように、電極群6を構成する正極は、アルミニウム箔(正極集電体)W1の両面に正極合剤W2を略均等、均一に塗着することで構成されている。このような正極を作製するには、例えば、リチウム含有複酸化物としてマンガン酸リチウム粉末と、黒鉛系炭素材の人造黒鉛と非晶質炭素のカーボンブラックとを後述する所定割合で配合した正極導電材と、添加剤として炭酸リチウムと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、を重量(質量)比85:10:2:8となるように混合し、これに分散溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加、混練したスラリを作製する。作製したスラリを、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗着するとともに、アルミニウム箔の長手方向の一側に幅8mmの未塗布部を形成する。スラリが塗着された正極を乾燥、プレス、裁断することで、幅90mm、アルミニウム箔を含まない正極合剤厚さ70μmの帯状の正極を得る。なお、未塗布部を櫛状に切り欠くことで正極リード片2を形成する。
【0012】
<負極>
一方、負極は、圧延銅箔(負極集電体)W3の両面に負極合剤W4を略均等、均一に塗着することで構成されている。このような負極を作製するには、例えば、充放電によりリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質としての非晶質炭素と、負極導電材としてカーボンブラックと、結着剤としてPVDFと、を重量(質量)比80:10:10となるように混合し、これに分散溶媒のNMPを添加、混練したスラリを作製する。作製したスラリを、厚さ10μmの圧延銅箔の両面に塗着するとともに、圧延銅箔の長手方向の一側に幅5mmの未塗布部を形成する。スラリが塗着された負極を乾燥、プレス、裁断することで、幅91mm、圧延銅箔を含まない負極合剤厚さ70μmの帯状の負極を得る。なお、未塗布部を櫛状に切り欠くことで負極リード片3を形成する。
【0013】
<極板群>
正極と負極とは、両極が直接接触しないように、幅94mm、厚さ40μmの多孔質ポリエチレン製のセパレータW5を介して、グラスファイバーを30%含有したポリプロピレン製で中空円筒状の軸芯1を中心として断面渦巻き状に捲回され、電極群6が構成されている。上述した正極リード片2と負極リード片3とは、それぞれ電極群6の互いに反対側に配置されており、セパレータW5の端から4mmはみ出している。電極群6は、正極、負極、セパレータW5の長さを調整することで、内直径9mm、外直径38±0.1mmに設定されている。なお、電極群6の捲回端部は、巻き解けを防止するために、粘着テープを貼り付けることで固定されている。電極群6は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器7に収容されている。電池容器7の外形は40mm、内径は39mmである。
【0014】
電極群6外周は、全周に亘って、電池容器7の内周面との絶縁を確保するための絶縁被覆が施されている。絶縁被覆には、例えば、ポリイミド性の基材の片面にメキサメタアクリレートの粘着剤が塗布された粘着テープが用いられている。なお、粘着テープは電極群6外周面に亘って一重以上巻かれている。
【0015】
<電池構造>
電池容器7の内底面には、負極の電池容器7への電気的導通のため、銅製で断面略逆ハット状の負極リード板8のハット部が抵抗溶接で接合されている。負極リード板8の上部には、負極からの電位を集電するための銅製の負極集電リング5が電極群6の下端面と対向するように配置されている。負極集電リング5の内周側は軸芯1の下端部で軸芯1に嵌合している。また、負極集電リング5の外縁部(フランジ部)は負極リード板8のハット周縁部(フランジ部)上面および立ち上がり部に当接しており、負極集電リング5の立ち下がり部端面(外周部先端)も負極リード板8に当接している。負極集電リング5の立ち下がり部(外周部)には、負極から導出された負極リード片3の先端部が集められて超音波溶接されている。従って、本実施形態では、電池容器7が負極外部端子として機能する。
【0016】
一方、軸芯1の上端部には、正極からの電位を集電するためのアルミニウム製の正極集電リング4が電極群6の上端面と対向するように配置されている。正極集電リング4の中央部は縮径されており、この縮径部が軸芯1の上端部に挿入されることで軸芯1との合決(あいじゃくり)構造で正極集電リング4が固定されている。正極集電リング4の外周部には、正極から導出された正極リード片2の先端部が超音波溶接で接合されている。
【0017】
正極集電リング4の上方には、正極外部端子を兼ねる電池蓋12が配置されている。電池蓋12は、鉄製でニッケルメッキが施された円板状の上蓋キャップと、電池内圧の上昇で開裂する開裂溝が形成された開裂板と、開裂板を下部側で支持する円環状の押さえと、皿状で外縁部が開裂板を介して上蓋キャップの周縁部とかしめられた蓋ケースとを有し、これらが一体に構成されている。
【0018】
正極集電リング4の上面には、リボン状のアルミニウム箔を積層した2本の正極リード板9のうち1本の一側が接合されている。正極リード板9のもう1本の一側は、電池蓋12(蓋ケース)の底面に接合されている。また、2本の正極リード板9の他端同士も接合されている。
【0019】
電池蓋12は、絶縁性および耐熱性のEPDM樹脂製ガスケット10を介して電池容器7の上部にかしめ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池20の内部は密封されている。また、電池容器7内には、電極群6全体を浸潤可能な非水電解液(不図示)が注液されている。非水電解液には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を1:1:1の割合で混合した溶媒中にリチウム塩として6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル溶解したものが用いることができる。リチウムイオン二次電池20の定格容量は14Ahである。
【0020】
なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池20は、大容量大型電池のため、小型民生用リチウムイオン二次電池で用いられているような、電池温度の上昇に応じて電気的に作動する、例えば、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子や、電池内圧の上昇に応じて正極または負極の電気的リードが切断される電流遮断機構は配置されていない。
【実施例】
【0021】
次に、上記実施形態に従って、正極導電材として、黒鉛系炭素材の人造黒鉛と非晶質炭素のカーボンブラックとの配合割合を変えて作製した実施例の電池について説明する。なお、比較のために作製した比較例の電池についても併記する。
【0022】
実施例および比較例では、黒鉛系炭素材の人造黒鉛に日本黒鉛工業製JSP(以下、Aと略称する。)、非晶質炭素のカーボンブラックに電気化学工業製のHS−100(以下、Bと略称する。)を用いた。
【0023】
(比較例)
下表1に示すように、比較例1の電池では、正極導電材を構成するA、Bの重量比を、A:B=100:0とした(これ以外は上記実施形態の電池と同じとした。以下、他の比較例、実施例においても同じ。)。比較例2の電池では、A:B=95:5とした。
【0024】
【表1】

【0025】
(実施例)
実施例1の電池ではA:B=90:10、実施例2の電池ではA:B=80:20、実施例3の電池ではA:B=70:30、実施例4の電池ではA:B=60:40とした。
【0026】
(試験・評価)
作製した実施例および比較例の電池について、以下の試験を実施し低温特性を評価した。各電池を充電した後放電し、環境温度23〜27°Cの雰囲気下で初期放電容量を測定した。充電条件は、4.2V定電圧、制限電流5A、充電時間2.5時間とした。放電条件は、5A定電流、終止電圧2.7Vとした。
【0027】
また、初期放電容量を測定後、上述した充電条件で充電し、25A定電流放電を行い、更に再度、上述した充電条件で充電し、50A定電流放電した。それぞれの10秒目電圧より出力を計算した結果を下表2に示す。なお、表2では比較例1の電池の出力を100%とした。
【0028】
【表2】

【0029】
その後、上述した充電条件で充電し、−30°Cの雰囲気下で25A定電流放電を行い、低温特性を測定した。容量を下表3、放電開始1秒後の電圧の落ち込み量を図1に示す。なお、表3でも比較例1の電池の容量を100%とした。
【0030】
【表3】

【0031】
表2より、常温での出力性能には大きな差が見られない。しかし、図2より、A:B=90:10〜60:40であると、1秒後の電圧落ち込みを抑えることができ、低温での始動性能を維持し低温出力が向上することが判った。また、表3より、黒鉛系炭素材:非晶質炭素物=90:10〜60:40であると、容量も向上することが判った。以上の評価結果から、正極導電材として、黒鉛系炭素材と非晶質炭素物を用いることで、低温でも高出力のリチウム二次電池を得ることができることが判明した。
【0032】
なお、上記実施形態では、リチウム含有複酸化物にマンガン酸リチウムを示したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、組成が異なるリチウム遷移金属複酸化物を用いてもよい。また、リチウム遷移金属複酸化物の結晶構造についても特に制限されるものではなく、例えば、スピネル結晶構造や層状結晶構造であってもよい。
【0033】
また、上記実施形態では、電気自動車用の電源に用いられる比較的大型のリチウム二次電池を例示したが、本発明に係るリチウム二次電池は、電池の容量、サイズ、形状等に制限されるものではない。さらに、本実施形態は電極群を捲回式に構成する例を示したが、本発明はこれに限ることなく、例えば、扁平状に電極群を構成した電池や正極、負極、セパレータを積層状に配置した電池に適用可能なことは論を待たない。
【0034】
さらに、本実施形態では、正極導電材の非晶質炭素にカーボンブラック、黒鉛系炭素に人造黒鉛を例示したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、非晶質炭素としてはケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等を用いることができ、黒鉛系炭素としては天然黒鉛や、コークス、炭素繊維などの炭素質材料等でよく、その粒子形状においても、鱗片状、球状、繊維状、塊状等、特に制限されるものではない。
【0035】
また、本実施形態では、負極活物質として非晶質炭素を例示したが、本発明はこれに制約されることなく、例えば、ピッチコークス、石油コークス、黒鉛、炭素繊維、活性炭等や又はこれらの混合物を使用するようにしてもよい。
【0036】
そして、本実施形態では、非水電解液にエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートを体積比1:1:1で混合した混合溶媒中にLiPFを1モル/リットル溶解したものをそれぞれ用いたリチウム二次電池を例示したが、本発明はリチウム二次電池において通常用いられる非水電解液を用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は低温での出力特性を向上可能なリチウム二次電池を提供するものであるため、リチウム二次電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明が適用可能な実施形態のリチウムイオン二次電池の断面図である。
【図2】正極導電材の黒鉛系炭素材の割合を横軸、電圧を縦軸にとったときの実施例、比較例の各電池の放電開始1秒後の電圧落ち込み量を示すプロット図である。
【符号の説明】
【0039】
20 リチウムイオン二次電池(リチウム二次電池)
W1 アルミニウム箔(正極集電体)
W2 正極合剤
W3 圧延銅箔(負極集電体)
W4 負極合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有複酸化物と正極導電材と添加剤とを含む正極合剤を正極集電体に塗着した正極と、充放電によりリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材を含む負極合剤を負極集電体に塗着した負極と、前記正負極を浸潤する非水電解液とを備えたリチウム二次電池において、前記正極導電材は、黒鉛系炭素材と非晶質炭素であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記黒鉛系炭素材と前記非晶質炭素の割合が、重量比割合で、黒鉛系炭素材:非晶質炭素=60:40〜90:10であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記非晶質炭素は、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記黒鉛系炭素は、人造黒鉛であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記添加剤は、炭酸リチウムであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−80233(P2010−80233A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246587(P2008−246587)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】