説明

リチウム二次電池

【課題】本発明の目的は、50℃以上の高温貯蔵時の劣化を抑制できるリチウム二次電池を提供することにある。
【解決手段】本発明は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータと、電解液とを有するものであって、電解液が分子内に重合性官能基を複数有する化合物を含む電解液であることを特徴とする。
ここで、電解液は、(式3)で表される化合物
【化1】


(式中、Z1,Z2は、アリル基,メタリル基,ビニル基,アクリル基,メタクリル基のいずれかを含む重合性官能基を表わす。)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保護,省エネルギーの観点から、エンジンとモーターとを動カ源として併用したハイブリッド自動車が開発,製品化されている。また、将来的には、燃料電池をエンジンの替わりに用いる燃料電池ハイブリッド自動車の開発も盛んになっている。
【0003】
このハイブリッド自動車のエネルギー源として、電気を繰返し充電放電可能な二次電池は必須の技術である。
【0004】
なかでも、リチウム二次電池は、その動作電圧が高く、高い出力を得やすい高エネルギー密度の特徴を有する電池であり、今後、ハイブリッド自動車の電源として益々重要性が増している。
【0005】
ハイブリッド自動車用電源として、リチウム二次電池は、50℃以上の高温貯蔵時の抵抗上昇の抑制が、一つの技術課題である。
【0006】
従来、高温貯蔵時の抵抗上昇の抑制策として、ビニレンカーボネート等の化合物を電解液に添加する対策が提案されている。
【0007】
例えば、LiPF6,エチレンカーボネート、及びジメチルカーボネートから構成される電解液に、ビニレンカーボネートを2wt%添加することで、高温(60℃)貯蔵時の抵抗上昇(劣化)を抑制できる電池が、非特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society, 151(10) A1659-A1669 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来提案されているビニレンカーボネートでは、添加量を増加させると高温貯蔵時の抵抗上昇(劣化)は抑制できるものの、室温での出力低下を招くおそれがある。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、室温での出力特性を損なうことなく、50℃以上の高温貯蔵時の抵抗上昇(劣化)を抑制できるリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータと、電解液とを有するリチウム二次電池であって、電解液が、分子内に重合性官能基を複数有する化合物を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、電解液は、溶媒として、
(式1)で表される環状カーボネート
【0013】
【化1】


(式中、R1,R2,R3,R4は、水素,フッ素,塩素,炭素数1〜3のアルキル基,フッ素化されたアルキル基のいずれかを表わす。)と、
(式2)で表される鎖状カーボネート
【0014】
【化2】


(式中、R5,R6は、水素,フッ素,塩素,炭素数1〜3のアルキル基,フッ素化された
アルキル基のいずれかを表わす。)と、
(式3)で表される化合物
【0015】
【化3】


(式中、Z1,Z2は、アリル基,メタリル基,ビニル基,アクリル基,メタクリル基のいずれかを含む重合性官能基を表わす。)と、を含むことを特徴とする。
【0016】
また、電解液が、溶媒として、ジメタリルカーボネートを含むことが好ましく、前記(式3)で表される化合物が、ジメタリルカーボネートであることが好ましい。
【0017】
ジメタリルカーボネートの添加量は、0.1−2.0vol%であることが好ましい。
【0018】
また、正極の正極活物質は、組成式LiαMnxM1yM2z2(式中、M1は、Co,Niから選ばれる少なくとも1種、M2は、Co,Ni,Al,B,Fe,Mg,Crから選ばれる少なくとも1種であり、x+y+z=1,0<α<1.2,0.2≦x≦0.6,0.2≦y≦0.4,0.05≦z≦0.4)で表されるリチウム複合酸化物を含むことが好ましい。
【0019】
また、負極の負極活物質は、炭素質材料,IV属元素を含む酸化物,IV属元素を含む窒化物の少なくとも1種からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、室温での出力特性を損なうことなく、50℃以上の高温貯蔵時の抵抗上昇(劣化)を抑制できるリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施例に関わる捲回型電池の片側断面図。
【図2】容量維持率と添加濃度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態にかかるリチウム二次電池(以下、「電池」と称する。)は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータと、電解液とを有するものである。
【0023】
そして、電解液が、溶媒として、
(式1)で表される環状カーボネート
【0024】
【化4】


(式中、R1,R2,R3,R4は、水素,フッ素,塩素,炭素数1〜3のアルキル基,フッ素化されたアルキル基のいずれかを表わす。)と、
(式2)で表される鎖状カーボネート
【0025】
【化5】


(式中、R5,R6は、水素,フッ素,塩素,炭素数1〜3のアルキル基,フッ素化された
アルキル基のいずれかを表わす。)と、
(式3)で表される化合物
【0026】
【化6】


(式中、Z1,Z2は、アリル基,メタリル基,ビニル基,アクリル基,メタクリル基のいずれかを含む重合性官能基を表わす。)と、を含むことを特徴とする。
【0027】
ここで、正極は、正極合剤と、正極集電体とを有し、正極合剤層とは、正極活物質,導電性材料及び結着剤を含む正極合剤が、正極集電体に塗布されることにより形成される合剤層をいう。
【0028】
また、負極は、負極合剤と、負極集電体とを有し、負極合剤層とは、負極活物質,導電性材料及び結着剤を含む負極合剤が、負極集電体に塗布されることにより形成される合剤層をいう。
【0029】
ここで、本実施形態の実施例にかかる正極は、正極活物質を有しており、正極活物質は、組成式LiαMnxM1yM2z2(式中、M1は、Co,Niから選ばれる少なくとも1種、M2は、Co,Ni,Al,B,Fe,Mg,Crから選ばれる少なくとも1種であり、x+y+z=1,0<α<1.2,0.2≦x≦0.6,0.2≦y≦0.4,0.05≦z≦0.4)で表されるリチウム複合酸化物を含むことが好ましい。
【0030】
また、本実施形態の実施例にかかる負極は、負極活物質を有しており、負極活物質は、炭素質材料,IV属元素を含む酸化物,IV属元素を含む窒化物の少なくとも1種からなることが好ましい。
【0031】
さらに(式1)で表される化合物(環状カーボネート)の組成比率が18.0〜30.0vol%であり、(式2)で表される化合物(鎖状カーボネート)の組成比率が74.0〜81.8vol%であり、(式3)で表される化合物の組成比率が0.1〜2.0vol%であることが好ましい。なお、(式3)で表される化合物の組成比率が0.4〜1.6vol%であることが更に好ましい。
【0032】
ここで(式3)で表される化合物の組成比率が2.0vol%より多くなると、電池の内部抵抗が上昇し、電池の出力低下を招くため好ましくない。
【0033】
また、(式1)で表される化合物がエチレンカーボネートであり、(式2)で表される化合物がエチルメチルカーボネート又はジメチルカーボネートの少なくとも一つであり、(式3)で表される化合物がジメタクリルカーボネートであることが好ましい。
【0034】
(式1)で表される化合物としては、エチレンカーボネート(EC),トリフロロプロピレンカーボネート(TFPC),クロロエチレンカーボネート(ClEC),フルオロエチレンカーボネート(FEC),トリフロロエチレンカーボネート(TFEC),ジフロロエチレンカーボネート(DFEC),ビニルエチレンカーボネート(VEC)等を用いることができる。
【0035】
特に、負極合剤層上の被膜形成の観点からECを用いることが好ましい。
【0036】
また、少量(2vol%以下)のClECやFECやTFECやVECの添加も、負極合剤層上の被膜形成に関与し、良好なサイクル特性を提供する。
【0037】
更に、少量(2vol%以下)のTFPCやDFECも、正極合剤層上の被膜形成に関与し、添加してもよい。
【0038】
(式2)で表される化合物としては、ジメチルカーボネート(DMC),エチルメチルカーボネート(EMC),ジエチルカーボネート(DEC),メチルプロピルカーボネート(MPC),エチルプロピルカーボネート(EPC),トリフロロメチルエチルカーボネート(TFMEC),1,1,1−トリフロロエチルメチルカーボネート(TFEMC)等を用いることができる。
【0039】
DMCは、相溶性の高い溶媒であり、EC等と混合して用いるのに好適である。
【0040】
DECは、DMCよりも融点が低く、低温(−30℃)特性には好適である。
【0041】
EMCは、分子構造が非対称であり、融点も低いので低温特性には好適である。
【0042】
EPC,TFMECは、プロピレン側鎖を有し、非対称な分子構造であるので、低温特性の調整溶媒として好適である。
【0043】
TFEMCは、分子の一部をフッ素化し、双極子モーメントが大きくなっており、低温でのリチウム塩の解離性を維持するためには好適であり、低温特性には好適がある。
【0044】
また、ビニレンカーボネート(VC),メチルビニレンカーボネート(MVC),ジメチルビニレンカーボネート(DMVC),エチルビニレンカーボネート(EVC),ジエチルビニレンカーボネート(DEVC)等を用いることができる。
【0045】
VCは、分子量が小さく、緻密な電極被膜を形成すると考えられる。VCにアルキル基を置換したMVC,DMVC,EVC,DEVC等は、アルキル鎖の大きさに従い、密度の低い電極被膜を形成すると考えられ、低温特性向上には有効に作用するものと考えられる。
【0046】
(式3)で表される化合物としては、例えば、ジメタリルカーボネート(DMAC)を用いることができる。
【0047】
つまり、本実施形態に係る電池は、電解液が、溶媒として(式3)で表される化合物
【0048】
【化7】


(式中、Z1,Z2は、アリル基,メタリル基,ビニル基,アクリル基,メタクリル基のいずれかを含む重合性官能基を表わす。)を含むことを特徴とする。
【0049】
(式3)で表される化合物としては、ジメタリルカーボネート(DMAC)が最も好ましい。
【0050】
また、(式1)で表される化合物がエチレンカーボネートであり、(式3)で表される化合物がジメタクリルカーボネートであるとき、高温貯蔵時の劣化抑制の観点から、これらの混合割合(EC/DMAC)が、0.005〜0.1であることが好ましく、特に、0.02〜0.08であることが好ましい。
【0051】
次に、電解液に用いるリチウム塩としては、特に限定はないが、無機リチウム塩としては、LiPF6,LiBF4,LiClO4,LiI,LiCl,LiBr等、また、有機リチウム塩としては、LiB[OCOCF34,LiB[OCOCF2CF34,LiPF4(CF32,LiN(SO2CF32,LiN(SO2CF2CF32等を用いることができる。
【0052】
特に、電池に多く用いられているLiPF6は、品質の安定性から好適な材料である。
【0053】
また、LiB[OCOCF34は、解離性,溶解性が良好で、低い濃度で高い導電率を示すので有効な材料である。
【0054】
正極としては、正極活物質、及びバインダから構成される正極合剤層が集電体であるアルミニウム箔上に塗布されることにより形成される。
【0055】
また、電子抵抗の低減のため更に正極合剤層に導電剤(電子導電性材料)を加えても良い。
【0056】
正極活物質は、組成式LiαMnxM1yM2z2(式中、M1は、Co,Niから選ばれる少なくとも1種、M2は、Co,Ni,Al,B,Fe,Mg,Crから選ばれる少なくとも1種であり、x+y+z=1,0<α<1.2,0.2≦x≦0.6,0.2≦y≦0.4,0.05≦z≦0.4)で表されるリチウム複合酸化物が好ましい。
【0057】
また、その中でも、M1がNi又はCoであって、M2がCo又はNiであることがより好ましい。LiMn1/3Ni1/3Co1/32であればさらに好ましい。
【0058】
組成中、Niを多くすると容量が大きくなり、Coを多くすると低温での出力が向上し、Mnを多くすると材料コストが抑制できる。
【0059】
また、添加元素は、サイクル特性を安定させるために効果がある。
【0060】
他に、一般式LiMxPO4(M:Fe又はMn、0.01≦X≦0.4)やLiMn1-xxPO4(M:Mn以外の2価のカチオン、0.01≦X≦0.4)である空間群Pmnbの対称性を有する斜方晶のリン酸化合物を用いても良い。
【0061】
特に、LiMn1/3Ni1/3Co1/32は、低温特性とサイクル安定性とが高く、ハイブリット自動車(HEV)用リチウム電池材料として好適である。
【0062】
バインダ(結着剤)は、正極を構成する材料と正極用集電体とを密着させるものであればよく、例えば、フッ化ビニリデン,四フッ化エチレン,アクリロニトリル,エチレンオキシドなどの単独重合体又は共重合体,スチレン−ブタジエンゴムなどを用いることができる。
【0063】
導電剤は、例えば、カーボンブラック,グラファイト,カーボンファイバー及び金属炭化物などのカーボン材料であり、それぞれ単独でも混合して用いても良い。
【0064】
負極としては、負極活物質、及びバインダから構成される負極合剤層が集電体である銅箔上に塗布されることにより形成される。
【0065】
また、電子抵抗の低減のため更に負極合剤層に導電剤(電子導電性材料)を加えても良い。
【0066】
負極活物質は、負極活物質として用いる材料には、天然黒鉛,天然黒鉛に乾式のCVD(Chemical Vapor Deposition)法や湿式のスプレイ法で形成される被膜を形成した複合炭素質材料,エポキシやフェノール等の樹脂原料若しくは石油や石炭から得られるピッチ系材料を原料として焼成して造られる人造黒鉛,非晶質炭素材料などの炭素質材料、又は、リチウムと化合物を形成することでリチウムを吸蔵放出できるリチウム金属,リチウムと化合物を形成し、結晶間隙に挿入されることでリチウムを吸蔵放出できる珪素,ゲルマニウム,錫など第四族元素の酸化物若しくは窒化物を用いることができる。
【0067】
なお、これらを一般的に負極活物質と称する場合がある。
【0068】
特に、炭素質材料は、導電性が高く、低温特性,サイクル安定性の面から優れた材料である。
【0069】
炭素質材料の中では、炭素網面層間(d002)の広い材料が急速充放電や低温特性に優れ、好適である。しかし、d002が広い材料は、充電の初期での容量低下や充放電効率が低いことがあるので、d002は0.390nm以下が好ましく、このような炭素質材料を、擬似異方性炭素と称する場合がある。
【0070】
更に、電極を構成するには黒鉛質,非晶質,活性炭などの導電性の高い炭素質材料を混合しても良い。
【0071】
または、黒鉛質材料として、以下(1)〜(3)に示す特徴を有する材料を用いても良い。
(1)ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm-1の範囲にあるピーク強度(ID)とラマン分光スペクトルで測定される1580〜1620cm-1の範囲にあるピーク強度(IG)との強度比であるR値(ID/IG)が、0.20以上0.40以下
(2)ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm-1の範囲にあるピークの半値幅Δ値が、40cm-1以上100cm-1以下
(3)X線回折における(110)面のピーク強度(I(110))と(004)面のピーク強度(I(004))との強度比X値(I(110)/I(004))が0.10以上0.45以下
【0072】
バインダ(結着剤)は、負極を構成する材料と負極用集電体とを密着させるものであればよく、例えば、フッ化ビニリデン,四フッ化エチレン,アクリロニトリル,エチレンオキシドなどの単独重合体又は共重合体、スチレン−ブタジエンゴムなどを挙げることができる。
【0073】
導電剤は、例えば、カーボンブラック,グラファイト,カーボンファイバー及び金属炭化物などのカーボン材料であり、それぞれ単独でも混合して用いても良い。
【0074】
以上より、本実施態様であるリチウム二次電池は、これまでのリチウム二次電池にくらべ、室温での出力特性を損なうことなく、つまり、出力特性を維持した状態で、室温での出力低下を招くことなく、50℃以上の高温貯蔵時の抵抗上昇(劣化)を抑制したリチウム二次電池を提供できる。
【0075】
このため、50℃以上の高温にさらされる可能性のあるハイブリッド自動車の電源,自動車の電動制御系の電源やバックアップ電源として広く利用可能であり、電動工具,フォークリフトなどの産業用機器の電源としても好適である。
【実施例1】
【0076】
以下、本実施形態を実施するための最良の形態を具体的な実施例によって説明する。
【0077】
(捲回型電池の作製)
以下に示す方法で、本実施例の捲回型電池を作製した。
【0078】
図1は、本実施例に関わる捲回型電池の片側断面図を示す。
【0079】
まず、正極活物質としてLiMn1/3Ni1/3Co1/32を用い、電子導電性材料としてカーボンブラック(CB1)と黒鉛(GF2)とを用い、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いて、乾燥時の固形分重量を、LiMn1/3Ni1/3Co1/32:CB1:GF2:PVDF=86:9:2:3の比となるように、溶剤としてNMP(N−メチルピロリドン)を用いて正極材ペーストを調製した。
【0080】
この正極材ペーストを、正極集電体1となるアルミニウム箔に塗布し、80℃で乾燥,加圧ローラでプレス、120℃で乾燥して正極合剤層2を正極集電体1に形成した。
【0081】
次に、負極活物質として非晶質炭素である擬似異方性炭素を用い、電子導電材料としてカーボンブラック(CB2)を用い、バインダとしてPVDFを用いて、乾燥時の固形分重量を、擬似異方性炭素:CB2:PVDF=88:5:7の比となるように、溶剤としてNMPを用いて、負極材ペーストを調製した。
【0082】
この負極材ペーストを、負極集電体3となる銅箔に塗布し、80℃で乾燥,加圧ローラでプレス、120℃で乾燥して負極合剤層4を負極集電体3に形成した。
【0083】
電解液として、溶媒を容積組成比EC:DMAC:DMC:EMC=20:0.4:39.8:39.8で混合したものを用い、リチウム塩としてLiPF6を1M溶解して電解液を作製した。
【0084】
ここで、電解液として特に重要な関係としては、ECとDMACとの混合割合であり、実施例1では、EC:DMAC=20:0.4である。つまり、DMAC/ECが0.02である。高温保存時においても電解液が安定であり、性能劣化が小さくなる。
【0085】
作製した電極間にセパレータ7を挟み込み、捲回群を形成し、負極電池缶13に挿入した。
【0086】
そして、負極の集電をとるためにニッケル製の負極リード9の一端を負極集電体3に溶接し、他端を負極電池缶13に溶接した。
【0087】
また、正極の集電をとるためにアルミニウム製の正極リード10の一端を正極集電体1に溶接し、他端を電流遮断弁8に溶接し、さらに、この電流遮断弁8を介して、正極電池蓋15と電気的に接続した。
【0088】
さらに、電解液を注液し、かしめることで捲回型電池を作製した。
【0089】
なお、図1において、11は正極インシュレータ、12は負極インシュレータ、14はガスケットである。
【0090】
(電池評価)
図1に示す捲回型電池の70℃保存時の容量維持率及び直流抵抗(DCR)を、それぞれ以下の手順で評価した。
【0091】
・容量維持率の評価方法
電池を定電流0.7Aで4.1Vまで充電し、定電圧4.1Vで電流値が20mAになるまで充電し、30分の運転休止の後、0.7Aで2.7Vまで放電した。
【0092】
この操作を5回繰返した。
【0093】
5回目の放電容量を初期容量とした。
【0094】
次に、70℃保存後の電池を、定電流0.7Aで4.1Vまで充電し、定電圧4.1Vで電流値が20mAになるまで充電し、30分の運転休止の後、0.7Aで2.7Vまで放電した。
【0095】
この操作を2回繰返した。
【0096】
2回目の放電容量を保存後の容量とした。
【0097】
保存日数は14日、及び、30日とした。
【0098】
測定時温度は25℃である。初期容量に対する保存後の容量を容量維持率と定義し、本結果を表1及び図2に示す。
【0099】
図2は、容量維持率と添加濃度との関係を示す図である。
【0100】
・DCRの評価方法
電池を定電流0.7Aで4.1Vまで充電し、定電圧4.1Vで電流値が20mAになるまで充電し、30分の運転休止の後、0.7Aで2.7Vまで放電した。
【0101】
この操作を3回繰返した。
【0102】
次に、電池を3.8Vまで定電流0.7Aで充電し、10Aで10s放電し、再度、3.8Vまで定電流で充電し、20Aで10s放電し、再度、3.8Vまで充電し、30Aで10s放電した。
【0103】
この際のI−V特性から、電池のDCRを評価した。
【0104】
測定時温度は25℃である。
【0105】
初期DCRに対する保存後のDCRをDCR変動率と定義し、本結果を表1に示す。
【0106】
(負極表面皮膜評価)
別途作製した電池を解体し、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)により、負極表面の生成物を評価した。m/z=83のピーク強度は9×10-5であった。
【実施例2】
【0107】
電解液として、溶媒を容積組成比EC:DMAC:DMC:EMC=20:0.8:39.6:39.6で混合したものを用いた以外は実施例1と同様の方法で、電池作製・評価を行った。それらの結果を表1及び図2に示す。
【0108】
ここで、電解液として特に重要な関係としては、ECとDMACとの混合割合であり、実施例2では、EC:DMAC=20:0.8である。つまり、DMAC/ECが0.04である。高温保存時においても電解液が安定であり、性能劣化が小さくなる。
【0109】
また、別途作製した電池を解体し、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)により、負極表面の生成物を評価した。m/z=83のピーク強度は1×10-4であった。
【実施例3】
【0110】
電解液として、溶媒を容積組成比EC:DMAC:DMC:EMC=20:1.6:39.2:39.2で混合したものを用いた以外は実施例1と同様の方法で、電池作製・評価を行った。それらの結果を表1及び図2に示す。
【0111】
ここで、電解液として特に重要な関係としては、ECとDMACとの混合割合であり、実施例3では、EC:DMAC=20:1.6である。つまり、DMAC/ECが0.08である。高温保存時においても電解液が安定であり、性能劣化が小さくなる。
【0112】
また、別途作製した電池を解体し、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)により、負極表面の生成物を評価した。m/z=83のピーク強度は2×10-4であった。
【0113】
〔比較例1〕
電解液として、溶媒を容積組成比EC:DMAC:DMC:EMC=20:0:40:40で混合したものを用いた以外は実施例1と同様の方法で、電池作製・評価を行った。それらの結果を表1及び図2に示す。
【0114】
また、別途作製した電池を解体し、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)により、負極表面の生成物を評価した。m/z=83のピーク強度は8×10-5であった。
【0115】
〔比較例2〕
電解液として、溶媒を容積組成比EC:VC:DMC:EMC=19.2:0.8:40:40で混合したものを用いた以外は実施例1と同様の方法で、電池作製・評価を行った。それらの結果を表1及び図2に示す。
【0116】
〔比較例3〕
電解液として、溶媒を容積組成比EC:DMAC:DMC:EMC=0:100:0:0で混合したものを用いた以外は実施例1と同様の方法で、電池作製・評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
つまり、電解液として特に重要な関係として、ECとDMACとの混合割合があるが、この混合割合DMAC/ECが0.02〜0.08であることが好ましく、これにより、高温保存時においても電解液が安定であり、性能劣化が小さくなる。
【0119】
このように、電解液にDMACを添加した実施例1〜3記載の電池は、混合しない比較例1〜2記載の電池に比べ、高温保存時の性能劣化が小さいことがわかる。
【0120】
また、DMAC単独の電解液では性能劣化が大きい。
【0121】
以上、実施例1〜3によれば、50℃以上の高温貯蔵時の劣化を抑制した電池を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、特に、ハイブリッド自動車の電源,自動車の電動制御系の電源やバックアップ電源として広く利用可能である。
【符号の説明】
【0123】
1 正極集電体
2 正極合剤層
3 負極集電体
4 負極合剤層
7 セパレータ
8 電流遮断弁
9 負極リード
10 正極リード
11 正極インシュレータ
12 負極インシュレータ
13 負極電池缶
14 ガスケット
15 正極電池蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、電解液とを有するリチウム二次電池において、
前記電解液が、分子内に重合性官能基を複数有する化合物を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
請求項1において、
前記正極が、正極活物質として、組成式LiαMnxM1yM2z2(式中、M1は、Co,Niから選ばれる少なくとも1種、M2は、Co,Ni,Al,B,Fe,Mg,Crから選ばれる少なくとも1種であり、x+y+z=1,0<α<1.2,0.2≦x≦0.6,0.2≦y≦0.4,0.05≦z≦0.4)で表されるリチウム複合酸化物を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項3】
請求項1において、
前記負極が、負極活物質として、炭素質材料,IV属元素を含む酸化物,IV属元素を含む窒化物の少なくとも1種からなることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項4】
請求項1において、
前記電解液が、溶媒として、
(式1)で表される環状カーボネート
【化1】


(式中、R1,R2,R3,R4は、水素,フッ素,塩素,炭素数1〜3のアルキル基,フッ素化されたアルキル基のいずれかを表わす。)と、
(式2)で表される鎖状カーボネート
【化2】


(式中、R5,R6は、水素,フッ素,塩素,炭素数1〜3のアルキル基,フッ素化された
アルキル基のいずれかを表わす。)と、
(式3)で表される化合物
【化3】


(式中、Z1,Z2は、アリル基,メタリル基,ビニル基,アクリル基,メタクリル基のいずれかを含む重合性官能基を表わす。)と、を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項5】
請求項1において、
前記電解液が、溶媒として、ジメタリルカーボネートを含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項6】
請求項4において、
前記(式3)で表される化合物が、ジメタリルカーボネートであることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項7】
請求項5または6において、
前記ジメタリルカーボネートの添加量が、0.1−2.0vol%であることを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−165449(P2011−165449A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26052(P2010−26052)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】