説明

リチウム二次電池

【課題】デンドライトによる短絡が高度に防止されたリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウム二次電池は、正極と、負極10と、正極と負極10との間に介在するセパレータ40とを備えたリチウム二次電池である。正極20及び負極10のうちの少なくとも一方の電極とセパレータ40との間に配置された多孔質絶縁層50をさらに備える。多孔質絶縁層50は、相対的にリチウム吸収性の低い低吸収性無機フィラー58と、相対的にリチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラー56とを含んでいる。ここで多孔質絶縁層50の電極10と接する電極側表面部分54は、低吸収性無機フィラー58により構成されており、且つ、前記高吸収性無機フィラーは、前記多孔質絶縁層の前記電極側表面部分を除いたセパレータ側部分に偏在していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極とセパレータとの間に多孔質絶縁層を備えたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池(蓄電池)は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。この種のリチウム二次電池の一つの典型的な構成では、正極と、負極と、正極と負極との間に介在する多孔質のセパレータとを備える。セパレータは、正極と負極との接触に伴う短絡を防止するとともに、該セパレータの空孔内に電解液を含浸させることにより、両電極間のイオン伝導パスを形成する役割を担っている。
【0003】
リチウム二次電池においては、セパレータと電極との間に多孔質絶縁層を配置することで、内部短絡等の不具合を防止することが提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/143005号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム二次電池においては、使用条件等により、負極上にリチウム金属が析出し、樹枝(デンドライト)状に成長する場合がある。かかるデンドライトが成長し続けると、セパレータを突き破って正極と接触し、電池に内部短絡が生じてしまう。この点に関し、特許文献1には、多孔質層に板状粒子を含有させることにより、多孔質層内での細孔の曲路率を大きくし、デンドライトによる負極と正極との短絡を生じにくくする技術が記載されている。しかし、かかる技術では、特殊形状の粒子を用いるため製造処理が煩雑になるとともに、その効果も十分であるとはいえない。本発明は、かかる課題を解決するものである。
【0006】
上記課題を解決するべく、本発明によって提供されるリチウム二次電池は、正極と、負極と、上記正極と上記負極との間に介在するセパレータとを備えたリチウム二次電池である。上記正極及び上記負極のうちの少なくとも一方の電極と上記セパレータとの間に配置された多孔質絶縁層をさらに備える。上記多孔質絶縁層は、相対的にリチウム吸収性の低い低吸収性無機フィラーと、相対的にリチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラーとを含んでいる。ここで上記多孔質絶縁層の上記電極と接する電極側表面部分は、上記低吸収性無機フィラーにより構成されており、且つ、上記高吸収性無機フィラーは、上記多孔質絶縁層の上記電極側表面部分を除いたセパレータ側部分に偏在していることを特徴とする。
【0007】
なお、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0008】
本発明の構成によると、多孔質絶縁層が低吸収性無機フィラーと高吸収性無機フィラーとを含んでいるので、充放電の過程で負極上にリチウムが析出して樹枝(デンドライト)状に成長した場合でも、その成長したデンドライトが多孔質絶縁層の内部に含まれる高吸収性無機フィラーまで到達すると、当該高吸収性無機フィラーに吸収される。したがって、成長したデンドライトがそのまま伸びて正極まで到達する事態が回避され、内部短絡の発生を防止することができる。ここで、高吸収性無機フィラーを電極と接した状態で配置すると、当該高吸収性無機フィラーが電極内のリチウムを吸収するため、電池容量が低下する虞がある。そのため、本発明の構成では、相対的にリチウム吸収性の低い低吸収性無機フィラーを電極に接する電極側表面部分に配置し、相対的にリチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラーを電極から離れたセパレータ側部分に配置する。このことによって、上記高吸収性無機フィラーによる電極内リチウムの吸収を抑制し、電池容量の低下を防止することができる。したがって、本発明によると、電池容量を低下させることなく、負極で発生したデンドライトによる短絡が有効に防止された、高性能なリチウム二次電池を得ることができる。
【0009】
ここで開示される多孔質絶縁層のセパレータ側部分に含まれる高吸収性無機フィラーを構成する材料としては、リチウムに対して高い吸収性を示す無機材料であることが好ましい。また、使用するセパレータよりも融点が高い無機材料を用いることが好ましい。さらに、電気絶縁性が高い無機材料であることが好ましい。そのような条件を満たす無機材料の一種または二種以上を特に制限なく使用することができる。かかる無機材料としては、リチウムを吸収可能な層状構造の金属酸化物が挙げられる。例えば、周期表の第2族、第4族、第5族、第8族、第9族、第12族、第13族及び第14族に属するいずれかの金属の金属酸化物を用いることができる。典型例として、チタニア、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化インジウム、シリカ、ムライト、酸化スズおよび酸化カルシウム、等の金属酸化物が例示される。
【0010】
ここで開示される多孔質絶縁層の電極側表面部分に含まれる低吸収性無機フィラーを構成する材料としては、セパレータ側部分に含まれる高吸収性無機フィラーよりもリチウム吸収性が低く、かつ電極と接触した状態で使用しても電気化学的に安定である(例えば酸化還元されない)無機材料であることが好ましい。また、使用するセパレータよりも融点が高い無機材料を用いることが好ましい。さらに、電気絶縁性が高い無機材料であることが好ましい。そのような条件を満たす無機材料の一種または二種以上を特に制限なく使用することができる。かかる無機材料としては、アルミナ、ベーマイトおよびマグネシア、等の金属酸化物が挙げられる。これらの金属酸化物は、リチウムを吸収しにくく、かつ、電気化学的に安定であるため、本発明の目的に適した低吸収性無機フィラーとして好適に使用し得る。
【0011】
ここで開示されるリチウム二次電池の好適な一態様では、多孔質絶縁層の電極側表面部分の厚みが1μm以上(例えば1μm〜10μm)である。電極側表面部分の厚みが1μmより薄すぎると、セパレータ側部分の高吸収性無機フィラーが電極に近づきすぎるため、上述した容量低下抑制効果が十分に発揮されないことがある。一方、電極側表面部分の厚みが10μmより厚すぎると、上述した容量低下抑制効果が鈍化するためメリットがあまりないことに加えて、多孔質絶縁層全体のイオン透過性が低下するため好ましくない。従って、通常は1μm〜10μmの範囲が適当であり、好ましくは2μm〜8μmであり、特に好ましくは2μm〜5μmである。
【0012】
ここで開示されるリチウム二次電池の好適な一態様では、多孔質絶縁層のセパレータ側部分の厚みが1μm〜10μmである。セパレータ側部分の厚みが1μmより薄すぎると、セパレータ側部分に含まれる高吸収性無機フィラーの量が減るため、負極で発生したデンドライトによる短絡を有効に防止できないことがある。一方、セパレータ側部分の厚みが10μmより厚すぎると、多孔質絶縁層全体のイオン透過性が低下傾向になるため好ましくない。従って、通常は1μm〜10μmの範囲が適当であり、好ましくは2μm〜8μmであり、特に好ましくは2μm〜5μmである。
【0013】
ここで開示されるリチウム二次電池の好適な一態様では、セパレータ側部分の厚みに対する電極側表面部分の厚みの比(電極側表面部分/セパレータ側部分)が0.8〜1.2であり、好ましくは0.9〜1.1であり、特に好ましくは1.0(電極側表面部分とセパレータ側部分の厚みが等しい)である。かかる構成によると、電極側表面部分の厚みとセパレータ側領域の厚みとが適切なバランスにあるので、リチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラーをセパレータ側部分に配置することによる容量低下抑制効果を適切に発揮しつつ、負極で発生したデンドライトの成長を防止することができる。したがって、より高性能なリチウム二次電池が実現され得る。
【0014】
ここで開示されるリチウム二次電池の好適な一態様では、上記セパレータ側部分に含まれる高吸収性無機フィラーのレーザ散乱法に基づく平均粒径(D50)が、0.1μm〜3μmである。このような平均粒径(D50)を有する無機フィラーを用いれば、リチウムを効率よく吸収してデンドライトの成長を適切に抑制することができる。
【0015】
ここで開示されるリチウム二次電池の好適な一態様では、上記多孔質絶縁層は、上記セパレータの一方の面であって上記負極と対向する側の面に形成されている。多孔質絶縁層を負極と対向する側の面に配置することによって、負極で発生したデンドライトをより早く(デンドライトがセパレータを突き破る前に)吸収することができる。したがって、より高性能なリチウム二次電池が実現され得る。
【0016】
ここに開示される何れかのリチウム二次電池は、上記のとおり、負極で発生したデンドライトによる短絡を防止することができることから、例えば自動車等の車両に搭載される電池(典型的には駆動電源用途の電池)として好適である。したがって本発明によると、ここに開示される何れかのリチウム二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、該リチウム二次電池を動力源として備える車両(例えば家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)等)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体の要部断面を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体の要部断面を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の構造の一例を示す模式図である。
【図4】図3のIV−IV断面を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体を説明するための模式図である。
【図6】図5のVI−VI断面を模式的に示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体を模式的に示す正面図である。
【図8】各例で用いた無機フィラーと温度上昇速度との関係を示すグラフである。
【図9】各例で用いた無機フィラーと内圧上昇率との関係を示すグラフである。
【図10】各例で用いた無機フィラーとLi吸収量との関係を示すグラフである。
【図11】リチウム二次電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極活物質および負極活物質の製造方法、セパレータや電解質の構成および製法、非水電解質二次電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0019】
本実施形態に係るリチウム二次電池の要部構成を図1及び図2に示す。なお、図1は、リチウム二次電池に用いられる捲回電極体80を径方向(正負極シートおよびセパレータの積層方向)に切断した断面の一部を拡大して示す模式的断面図である。図2は、本実施形態に用いられるセパレータ40と、該セパレータ40上に形成された多孔質絶縁層50と、該多孔質絶縁層50に対向配置された負極10とを模式的に示す断面図である。
【0020】
図1に模式的に示すように、本実施形態に係るリチウム二次電池は、正極20と負極10がセパレータ40を介して積層した構造を有する電極体80を備えている。電極体80は、典型的なリチウム二次電池と同様、所定の電池構成材料(正負極それぞれの活物質、正負極それぞれの集電体、セパレータ等)を含んで構成されている。この実施形態では、正極20は、正極集電体(ここではアルミニウム製)22と、該正極集電体の両面に形成された正極活物質を含む正極活物質層24とを有する。また、負極10は、負極集電体12(ここでは銅製)と、該負極集電体の両面に形成された負極活物質を含む負極活物質層14とを有する。
【0021】
<多孔質絶縁層>
本実施形態に用いられるリチウム二次電池は、正極20と負極10のうちの少なくとも一方の電極と、セパレータ40との間に、多孔質絶縁層50をさらに備えている。この実施形態では、多孔質絶縁層50は、セパレータ40の片面であって負極10と対向する側の表面に形成されている。多孔質絶縁層50は、セパレータ40のうち、負極10の負極活物質層14と対向する領域を少なくとも包含する範囲に形成されている。多孔質絶縁層50は、無機フィラー(粉末状)とバインダとを有する。多孔質絶縁層50は、セパレータ40の熱収縮を防止するとともに、過充電時にセパレータ40が熱収縮した際に正極20と負極10とが直接接触するのを阻む機能を発揮する。
【0022】
多孔質絶縁層50は、図2に模式的に示すように、相対的にリチウム吸収性の低い低吸収性無機フィラー58と、相対的にリチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラー56とを含んでいる。そして、多孔質絶縁層50の負極10(負極活物質層14)と接する電極側表面部分54は、低吸収性無機フィラー58により構成されている。また、高吸収性無機フィラー56は、多孔質絶縁層50の電極側表面部分54を除いたセパレータ40側の部分52に偏在している。なお、多孔質絶縁層50の電極側表面部分54とは、多孔質絶縁層50の電極(ここでは負極10)と接する表面領域を包含する部分をいい、例えば、多孔質絶縁層50の電極10と接する表面からセパレータ40側に向かって多孔質絶縁層50の厚みの10%〜80%(好ましくは30%〜60%)に当たる部分をいう。多孔質絶縁層50のセパレータ側部分52とは、多孔質絶縁層50の電極側表面部分54を除いたセパレータ40側の部分52をいう。
【0023】
<高吸収性無機フィラー>
ここで開示される多孔質絶縁層50のセパレータ側部分52に含まれる高吸収性無機フィラー56を構成する材料としては、リチウムに対して高い吸収性を示す無機材料であることが好ましい。また、使用するセパレータ40よりも融点が高い無機材料を用いることが好ましい。さらに、電気絶縁性が高い無機材料であることが好ましい。そのような条件を満たす無機材料の一種または二種以上を特に制限なく使用することができる。かかる無機材料としては、リチウムを吸収可能な層状構造の金属酸化物が挙げられる。例えば、周期表の第2族(カルシウム等のアルカリ土類金属)、第4族(チタン等の遷移金属)、第5族(バナジウム、ニオブ等の遷移金属)、第8族(鉄、ルテニウム等の遷移金属)、第9族(コバルト等の遷移金属)、第12族(亜鉛等の卑金属)、第13族(インジウム等の卑金属)及び第14族(半金属元素であるケイ素、若しくはスズ等の卑金属)に属するいずれかの金属の層状構造金属酸化物を用いることができる。典型例として、チタニア、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化インジウム、シリカ、ムライト、酸化スズおよび酸化カルシウム、等の層状構造金属酸化物が例示される。このうち、チタニア、シリカおよびムライトのうちのいずれか、あるいはこれらのいずれか2種以上の組み合わせが好ましい。これらの層状構造金属酸化物は層間にリチウムを吸蔵可能であり、リチウムに対して高い吸収性を示すので、本発明の目的に適した高吸収性無機フィラーとして好適に使用し得る。これらの金属酸化物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
<低吸収性無機フィラー>
ここで開示される多孔質絶縁層50の電極側表面部分54に含まれる低吸収性無機フィラー58を構成する無機材料としては、セパレータ側部分52に含まれる高吸収性無機フィラー56よりもリチウム吸収性が低く、かつ電極と接触した状態で使用しても電気化学的に安定である(酸化還元されない)無機材料であることが好ましい。また、使用するセパレータよりも融点が高い無機材料を用いることが好ましい。さらに、電気絶縁性が高い無機材料であることが好ましい。かかる無機材料としては、アルミナ、ベーマイトおよびマグネシア、等の金属酸化物が挙げられる。このうち、アルミナおよびマグネシアのうちのいずれか、あるいはこれらのいずれか2種の組み合わせが好ましい。これらの金属酸化物は、リチウムを吸収しにくく、かつ、電気化学的に安定であるため、本発明の目的に適した無機フィラーとして好適に使用し得る。これらの無機フィラーは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ここで開示される多孔質絶縁層50の好適例として、多孔質絶縁層50の電極側表面部分54を構成する低吸収性無機フィラー58がアルミナ、ベーマイトおよびマグネシアのうちの少なくとも1種であり、かつセパレータ側部分52を構成する高吸収性無機フィラー56がチタニア、シリカ、ムライトおよび酸化スズのうちの少なくとも1種であるもの、多孔質絶縁層50の電極側表面部分54を構成する低吸収性無機フィラー58がアルミナおよびマグネシアのうちの少なくとも1種であり、かつセパレータ側部分52を構成する高吸収性無機フィラー56がシリカおよびムライトのうちの少なくとも1種であるもの、多孔質絶縁層50の電極側表面部分54を構成する低吸収性無機フィラー58がアルミナであり、かつセパレータ側部分52を構成する高吸収性無機フィラー56がシリカであるもの、等が挙げられる。このような組み合わせの無機フィラーを上下二層に分けて使用することにより、従来得ることができなかった優れた内部短絡防止効果と高い容量維持率とを両立させたリチウム二次電池を実現することができる。
【0026】
なお、多孔質絶縁層50の電極側表面部分およびセパレータ側部分に含まれる無機フィラーのリチウム吸収性は、次のようにして評価することができる。まず、無機フィラー及びバインダを含む多孔質絶縁層を片側表面に配置したセパレータを用いて評価用リチウム二次電池(例えば18650型セル)を構築する。その際、多孔質絶縁層を配置したセパレータの面を負極と対向配置させる。次いで、得られたリチウム二次電池に対し、充放電サイクル試験を行い、各サイクルの充電電荷量及び放電電荷量を測定する。また、リファレンスとして、多孔質絶縁層をセパレータの片側表面に配置していないリファレンス用電池についても同様の手順で充放電サイクル試験を行い、各サイクルの充電電荷量及び放電電荷量を測定する。そして、各サイクルの[評価用リチウム二次電池の(充電電荷量−放電電荷量)]−[リファレンス用電池の(充電電荷量−放電電荷量)]の積算電荷量から、評価用リチウム二次電池の不可逆電荷量を求め、この不可逆電荷量を無機フィラーのリチウム吸収性(Li吸収量)の指標とすることができる。
【0027】
ここで、リチウム二次電池においては、大電流若しくは低温環境下で繰り返し充電すると、負極10上にリチウム金属が析出し、樹枝(デンドライト)状に成長する場合がある。かかるデンドライトが成長し続けると、セパレータ40を突き破って正極20と接触し、電池に内部短絡が生じてしまう。これに対し、本実施形態の構成によれば、多孔質絶縁層50を上下の2層構造とし、相対的にリチウム吸収性の低い低吸収性無機フィラー58を電極側表面部分54に配置し、相対的にリチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラー56をセパレータ側部分52に配置しているので、充放電の過程で負極10上にリチウムが析出して樹枝(デンドライト)状に成長した場合でも、その成長したデンドライトがセパレータ側部分52に含まれる高吸収性無機フィラー56まで到達すると、当該高吸収性無機フィラー56に吸収される。したがって、成長したデンドライトがそのまま伸びて正極20まで到達する事態が回避され、内部短絡の発生を防止することができる。
ここで、セパレータ側部分52に含まれるリチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラー56を負極10と接した状態で配置すると、当該高吸収性無機フィラー56が負極10内のリチウムを吸収するため、電池容量が低下する虞がある。そのため、本実施形態の構成では、相対的にリチウム吸収性の低い低吸収性無機フィラー58を負極10に接する電極側表面部分54に配置し、相対的にリチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラー56を負極10から離れたセパレータ側部分52に配置する。このことによって、高吸収性無機フィラー56による負極10内リチウムの吸収を抑制し、電池容量の低下を防止することができる。したがって、本構成によると、電池容量を低下させることなく、負極で発生したデンドライトによる短絡が有効に防止された、高性能なリチウム二次電池を得ることができる。
【0028】
<厚み>
ここで開示される好適な一態様では、多孔質絶縁層50の電極側表面部分54の厚みが1μm以上(例えば1μm〜10μm)である。電極側表面部分の厚みが1μmより薄すぎると、セパレータ側部分52の高吸収性無機フィラー56が負極10に近づきすぎるため、上述した容量低下抑制効果が十分に発揮されないことがある。一方、電極側表面部分54の厚みが10μmより厚すぎると、上述した容量低下抑制効果が鈍化するためメリットがあまりないことに加えて、多孔質絶縁層50全体のイオン透過性が低下するため好ましくない。従って、通常は1μm〜10μmの範囲が適当であり、好ましくは2μm〜8μmであり、特に好ましくは2μm〜5μmである。
【0029】
また、多孔質絶縁層50のセパレータ側部分52の厚みとしては、概ね1μm〜10μmである。セパレータ側部分52の厚みが1μmより薄すぎると、該セパレータ側部分52に含まれる高吸収性無機フィラー56の量が減るため、負極10で発生したデンドライトによる短絡を有効に防止できないことがある。一方、セパレータ側部分52の厚みが10μmより厚すぎると、多孔質絶縁層50全体のイオン透過性が低下傾向になるため好ましくない。従って、通常は1μm〜10μmの範囲が適当であり、好ましくは2μm〜8μmであり、特に好ましくは2μm〜5μmである。
【0030】
ここで開示される多孔質絶縁層50は、セパレータ側部分52の厚みに対する電極側表面部分54の厚みの比(電極側表面部分/セパレータ側部分)が、概ね0.8〜1.2であり、好ましくは0.9〜1.1であり、特に好ましくは1.0(電極側表面部分とセパレータ側部分の厚みが等しい)である。かかる構成によると、電極側表面部分54の厚みとセパレータ側部分52の厚みとが適切なバランスにあるので、リチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラーをセパレータ側部分52に配置することによる容量低下抑制効果を適切に発揮しつつ、負極10で発生したデンドライトの成長を防止することができる。したがって、より高性能なリチウム二次電池が実現され得る。なお、多孔質絶縁層50(セパレータ側部分52及び電極側表面部分54)の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することによって求めることができる。
【0031】
<目付け>
特に限定されるものではないが、セパレータ40の単位面積あたりのセパレータ側部分52の重さ(目付け)は、概ね0.3mg/cm〜1.2mg/cm程度であることが好ましく、0.5mg/cm〜1.0mg/cm程度であることがより好ましい。セパレータ側部分52の重さ(目付け)が小さすぎると、負極10で発生したデンドライトを吸収する効果が小さくなり、短絡を有効に防止できないことがある。一方、セパレータ側部分52の重さ(目付け)が大きすぎると、イオン透過抵抗が大きくなり、電池特性(充放電特性等)が低下するおそれがある。
【0032】
また、セパレータ40の単位面積あたりの電極側表面部分54の重さ(目付け)は、概ね0.3mg/cm〜1.2mg/cm程度であることが好ましく、0.5mg/cm〜1.0mg/cm程度であることがより好ましい。電極側表面部分54の重さ(目付け)が小さすぎると、上述した容量低下抑制効果が十分に発揮されないことがある。一方、電極側表面部分54の重さ(目付け)が大きすぎると、イオン透過抵抗が大きくなり、電池特性(充放電特性等)が低下するおそれがある。
【0033】
<多孔度>
特に限定されるものではないが、多孔質絶縁層50を構成するセパレータ側部分52の多孔度としては、通常は45%以上であり、好ましくは50%以上であり、特に好ましくは55%以上であり得る。多孔度の上限値としては特に限定されないが、概ね70%以下であり、好ましくは65%以下である。また、多孔質絶縁層50を構成する電極側表面部分54の多孔度としては、通常は45%以上であり、好ましくは50%以上であり、特に好ましくは55%以上であり得る。多孔度の上限値としては特に限定されないが、概ね70%以下であり、好ましくは65%以下である。
【0034】
なお、低吸収性無機フィラー58は、多孔質絶縁層50の電極側表面部分54だけでなく、セパレータ側部分52に配置することもできる。すなわち、セパレータ側部分52は、高吸収性無機フィラー56と低吸収性無機フィラー58とが混在する層であってもよい。例えば、多孔質絶縁層50を厚さ方向に5等分したときに、電極側に位置する1/5が低吸収性無機フィラー58のみを含む電極側表面部分54であり、中央側に位置する3/5が高吸収性無機フィラー56と低吸収性無機フィラー58とが混在する層であり、セパレータ側に位置する1/5が高吸収性無機フィラー56のみを含む層であってもよい。
【0035】
また、多孔質絶縁層50は、セパレータ40の正極20と対向する側の面に形成することもできる。多孔質絶縁層50を正極20と対向する側の面に配置した場合でも、負極10から伸びてきたデンドライトがセパレータ40を突き破った後、正極20に到達する前に、セパレータ側部分に含まれる無機フィラーに吸収される。したがって、成長したデンドライトが正極20まで到達する事態が回避され、内部短絡の発生を防止することができる。ただし、上述した実施形態の如く、多孔質絶縁層50を負極10と対向する側の面に配置した方が、負極10で発生したデンドライトをより早く(デンドライトがセパレータ40を突き破る前に)吸収できる点で好ましい。正極側と負極側の両方に多孔質絶縁層50を設けることもできる。
【0036】
<無機フィラーの形状、粒径>
多孔質絶縁層に用いられる高吸収性無機フィラー56及び低吸収性無機フィラー58の形状(外形)は特に制限されない。機械的強度、製造容易性等の観点から、通常は、略球形の無機フィラーを好ましく使用し得る。また、無機フィラーのサイズ(平均粒径)は、セパレータの平均細孔径よりも大きいことが好ましい。例えば、平均粒径が凡そ0.1μm〜3μmの無機フィラーの使用が好ましく、より好ましくは凡そ0.2μm〜2μmであり、特に好ましくは0.2μm〜1.8μmある。無機フィラーの平均粒径は当該分野で公知の方法、例えばレーザ回折散乱法に基づく測定によって求めることができる。
【0037】
<BET比表面積>
ここに開示される高吸収性無機フィラー56及び低吸収性無機フィラー58は、BET比表面積が概ね1.0m/g〜30m/gの範囲にあることが好ましい。このようなBET比表面積を満たす無機フィラーは、リチウム二次電池の多孔質絶縁層50に用いられて、より高い性能を安定して発揮する電池を与えるものであり得る。例えば、充放電サイクル(特に、ハイレートでの放電を含む充放電サイクル)によっても抵抗の上昇の少ないリチウム二次電池が構築され得る。BET比表面積の好適範囲は材質によっても異なるが、通常は1.3m/g〜27m/gの範囲内が適当であり、好ましくは1.8m/g〜22m/gであり、特に好ましくは2.8m/g〜22m/gである。なお、比表面積の値としては、一般的な窒素吸着法による測定値を採用することができる。
【0038】
<バインダ>
本実施形態に係るリチウム二次電池は、このような高吸収性無機フィラー56及び低吸収性無機フィラー58がバインダ55とともに多孔質絶縁層50の電極側表面部分54及びセパレータ側部分52に含有されている。バインダ55としては、後述する多孔質絶縁層形成用塗料が水系の溶媒(バインダの分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた溶液)の場合には、水系の溶媒に分散または溶解するポリマーを用いることができる。水系溶媒に分散または溶解するポリマーとしては、例えば、アクリル系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート等のモノマーを1種類で重合した単独重合体が好ましく用いられる。また、アクリル系樹脂は、2種以上の上記モノマーを重合した共重合体であってもよい。さらに、上記単独重合体及び共重合体の2種類以上を混合したものであってもよい。上述したアクリル系樹脂のほかに、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。これらポリマーは、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。バインダの形態は特に制限されず、粒子状(粉末状)のものをそのまま用いてもよく、溶液状あるいはエマルション状に調製したものを用いてもよい。二種以上のバインダを、それぞれ異なる形態で用いてもよい。
【0039】
多孔質絶縁層50は、上述した無機フィラー56、58およびバインダ55以外の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、後述する多孔質絶縁層形成用塗料の増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。特に水系溶媒を使用する場合、上記増粘剤として機能するポリマーを含有することが好ましい。該増粘剤として機能するポリマーとしてはカルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)が好ましく用いられる。
【0040】
特に限定するものではないが、多孔質絶縁層全体に占める無機フィラー(すなわちセパレータ側部分及び電極側表面部分の無機フィラーの合計量)の割合は凡そ50質量%以上(例えば50質量%〜99質量%)が適当であり、好ましくは80質量%以上(例えば80質量%〜99質量%)であり、特に好ましくは凡そ90質量%〜99質量%である。また、多孔質絶縁層50中のバインダの割合は凡そ40質量%以下が適当であり、好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下(例えば凡そ0.5質量%〜3質量%)である。また、無機フィラー及びバインダ以外の多孔質絶縁層形成成分、例えば増粘剤を含有する場合は、該増粘剤の含有割合を凡そ3質量%以下とすることが好ましく、凡そ2質量%以下(例えば凡そ0.5質量%〜1質量%)とすることが好ましい。上記バインダの割合が少なすぎると、多孔質絶縁層自体の強度(保形性)が低下して、ヒビや剥落等の不具合が生じることがある。上記バインダの割合が多すぎると、多孔質絶縁層の粒子間の隙間が不足し、多孔質絶縁層のイオン透過性が低下する場合がある。
【0041】
<多孔質絶縁層の形成>
次に、多孔質絶縁層50の形成方法について説明する。多孔質絶縁層50を形成するための多孔質絶縁層形成用塗料としては、無機フィラー、バインダおよび溶媒を混合分散したペースト状(スラリー状またはインク状を含む。以下同じ。)のものが用いられる。まず、多孔質絶縁層のセパレータ側部分52に用いられる高吸収性無機フィラー、バインダおよび溶媒を混合分散したペースト状の塗料を、セパレータ40の表面(ここでは片面)に適当量塗布しさらに乾燥することによって、多孔質絶縁層のセパレータ側部分52を形成する。次いで、多孔質絶縁層の電極側表面部分54に用いられる低吸収性無機フィラー、バインダおよび溶媒を混合分散したペースト状の塗料を、上記セパレータ側部分52の表面に適当量塗布し乾燥することによって、積層構造の多孔質絶縁層50を形成することができる。
【0042】
多孔質絶縁層形成用塗料に用いられる溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒が挙げられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。あるいは、N‐メチルピロリドン(NMP)、ピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、等の有機系溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせであってもよい。多孔質絶縁層形成用塗料における溶媒の含有率は特に限定されないが、塗料全体の40〜90質量%、特には50質量%程度が好ましい。
【0043】
上記無機フィラー及びバインダを溶媒に混合させる操作は、ボールミル、ホモディスパー、ディスパーミル(登録商標)、クレアミックス(登録商標)、フィルミックス(登録商標)、超音波分散機などの適当な混練機を用いて行うことができる。
【0044】
多孔質絶縁層形成用塗料を塗布する操作は、従来の一般的な塗布手段を特に限定することなく使用することができる。例えば、適当な塗布装置(グラビアコーター、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、ディップコート等)を使用して、所定量の多孔質絶縁層形成用塗料を均一な厚さにコーティングすることにより塗布され得る。その後、適当な乾燥手段で塗布物を乾燥(典型的にはセパレータ40の融点よりも低い温度、例えば110℃以下、例えば30〜80℃)することによって、多孔質絶縁層形成用塗料中の溶媒を除去するとよい。
【0045】
<セパレータ>
続いて、積層構造を有する多孔質絶縁層50が形成されるセパレータ40について説明する。セパレータ40の材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系の樹脂を好適に用いることができる。セパレータ40の構造は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。ここでは、セパレータ40はPE系樹脂によって構成されている。PE系樹脂としては、エチレンの単独重合体が好ましく用いられる。また、PE系樹脂は、エチレンから誘導される繰り返し単位を50質量%以上含有する樹脂であって、エチレンと共重合可能なα‐オレフィンを重合した共重合体、あるいはエチレンと共重合可能な少なくとも一種のモノマーを重合した共重合体であってもよい。α‐オレフィンとして、プロピレン等が例示される。他のモノマーとして共役ジエン(例えばブタジエン)、アクリル酸等が例示される。
【0046】
また、セパレータ40は、シャットダウン温度が120℃〜140℃(典型的には、125℃〜135℃)程度のPEから構成されることが好ましい。上記シャットダウン温度は、電池の耐熱温度(例えば、約200℃以上)よりも十分に低い。かかるPEとしては、一般に高密度ポリエチレン、あるいは直鎖状(線状)低密度ポリエチレン等と称されるポリオレフィンが例示される。あるいは中密度、低密度の各種の分岐ポリエチレンを用いてもよい。また、必要に応じて、各種可塑剤、酸化防止剤等の添加剤を含有することもできる。
【0047】
セパレータ40として、一軸延伸または二軸延伸された多孔性樹脂シートを好適に用いることができる。中でも、長手方向(MD方向:Machine Direction)に一軸延伸された多孔性樹脂シートは、適度な強度を備えつつ幅方向の熱収縮が少ないため、特に好ましい。例えば、かかる長手方向一軸延伸樹脂シートを有するセパレータを用いると、長尺シート状の正極および負極とともに捲回された態様において、長手方向の熱収縮も抑制され得る。したがって、長手方向に一軸延伸された多孔性樹脂シートは、かかる捲回電極体を構成するセパレータの一材料として特に好適である。
【0048】
セパレータ40の厚みは、10μm〜30μm程度であることが好ましく、16μm〜20μm程度であることがより好ましい。セパレータ40の厚みが大きすぎると、セパレータ40のイオン伝導性が低下するおそれがある。一方、セパレータ40の厚みが小さすぎると、破膜が生じるおそれがある。なお、セパレータ40の厚みは、SEMにより撮影した画像を画像解析することによって求めることができる。
【0049】
セパレータ40の多孔度は、概ね30%〜70%程度であることが好ましく、例えば40%〜60%程度であることがより好ましい。セパレータ40の多孔度が大きすぎると、強度が不足し、破膜が起こりやすくなるおそれがある。一方、セパレータ40の多孔度が小さすぎると、セパレータ40に保持可能な電解液量が少なくなり、イオン伝導性が低下する場合がある。なお、セパレータ40の多孔度は、セパレータの見掛けの体積をVとし、その質量をWとし、セパレータを構成する材料の真密度(空孔を含まない材料の実体積によって質量Wを割った値)をρとした場合に、(1−W/ρ)×100により把握することができる。
【0050】
なお、ここではセパレータ40は、PE層の単層構造によって構成されているが、多層構造の樹脂シートであってもよい。例えば、PP層と、PP層上に積層されたPE層と、PE層上に積層されたPP層との3層構造により構成してもよい。この場合、多孔質絶縁層50は、セパレータ40の表面に現れたPP層上に積層することができる。多層構造の樹脂シートの層数は3に限られず、2であってもよく、4以上であってもよい。
【0051】
<リチウム二次電池>
以下、上下二層を有する多孔質絶縁層50がそれぞれ片面に形成された2枚のセパレータ40A,40Bを用いて構築されるリチウム二次電池の一形態を、図面を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。即ち、積層構造を有する多孔質絶縁層50及びセパレータ40A,40Bが採用される限りにおいて、構築されるリチウム二次電池の形状(外形やサイズ)には特に制限はない。以下の実施形態では、捲回電極体および電解液を角型形状の電池ケースに収容した構成のリチウム二次電池を例にして説明する。
【0052】
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成を図3〜図7に示す。このリチウム二次電池100は、長尺状の正極シート20と長尺状の負極シート10とが長尺状のセパレータ40A,40Bを介して積層されて捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、該電極体に含浸させた非水電解質90(図4)とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(箱型)の電池ケース60に収容された構成を有する。
【0053】
電池ケース60は、上端が開放された箱型のケース本体62と、その開口部を塞ぐ蓋体64とを備える。電池ケース60を構成する材質としては、アルミニウム、スチール、NiめっきSUS等の金属材料が好ましく用いられる。あるいは、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなる電池ケース60であってもよい。電池ケース60の上面(すなわち蓋体64)には、捲回電極体80の正極20と電気的に接続する正極端子72および捲回電極体80の負極10と電気的に接続する負極端子70が設けられている。
【0054】
<電流遮断機構>
電池ケース60の内部には、電池ケースの内圧上昇により作動する電流遮断機構30が設けられている。この実施形態では、電流遮断機構30は、電池ケース60の内圧が上昇した場合に、正極端子72から電極体80に至る導電経路を切断するように構成されている。上記電流遮断機構30は、変形金属板32と、該変形金属板32に接合された接続金属板34とを備えている。変形金属板32は、中央部分が下方へ湾曲したアーチ形状を有し、その周縁部分が集電リード端子35を介して正極端子72の下面と接続されている。また、変形金属板32の湾曲部分33の先端が接続金属板34の上面と接合されている。接続金属板34の下面(裏面)には正極集電板76が接合され、かかる正極集電板76が電極体80の正極シート20に接続されている。また、電流遮断機構30は、絶縁ケース38を備えている。絶縁ケース38は、変形金属板32を囲むように設けられ、変形金属板32の上面を気密に密閉している。この気密に密閉された湾曲部分33の上面には、電池ケース60の内圧が作用しない。また、絶縁ケース38は、変形金属板32の湾曲部分33を嵌入する開口部を有しており、該開口部から湾曲部分33の下面を電池ケース60の内部に露出させている。この電池ケース60の内部に露出した湾曲部分33の下面には、電池ケース60の内圧が作用する。
【0055】
かかる構成の電流遮断機構30において、電池ケース60の内圧が高まると、該内圧が変形金属板32の湾曲部分33の下面に作用し、下方へ湾曲した湾曲部分33が上方へ押し上げられる。この湾曲部分33の上方への押し上げ力は、電池ケース60の内圧が上昇するに従い増大する。そして、電池ケース60の内圧が設定圧力を超えると、湾曲部分33が上下反転し、上方へ湾曲するように変形する。かかる湾曲部分33の変形によって、変形金属板32と接続金属板34との接合点36が切断される。このことにより、正極端子72から電極体80に至る導電経路が切断され、電流が遮断されるようになっている。
【0056】
ここに開示される構成により実現され得る他の効果として、過充電時の電池の発熱を抑えつつ、電流遮断機構30を的確に作動させ得るリチウム二次電池を提供することが挙げられる。すなわち、多孔質絶縁層50のセパレータ側部分52に含有される無機フィラー(例えば層状構造金属酸化物)56は、リチウムだけでなく水分を吸収(吸着)しやすい性質がある。そのため、かかる高吸収性無機フィラー56をセパレータ側部分52に配置した電池では、過充電時に電池温度が上昇すると、高吸収性無機フィラー56に吸収された水分が周囲から熱を奪って蒸発する。かかる水分の気化熱を利用することで、電池内を冷却する効果が実現され得る。さらに、かかる電池が、電池の内圧上昇に伴い作動する電流遮断機構30を備える場合、上記水分の蒸発により電池の内圧が速やかに上昇する。かかる内圧上昇のアシストにより過充電時に電流遮断機構30を的確に作動させることができる。したがって、本構成によれば、過充電時の電池の発熱を抑えつつ、電流遮断機構30を的確に作動させ得るリチウム二次電池を提供することができる。
【0057】
電流遮断機構30の作動能を高める観点からは、多孔質絶縁層50のセパレータ側部分52に含まれる高吸収性無機フィラー56は、水分吸収性の高い無機材料であることが好ましい。かかる無機材料の好適例として、チタニア、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化インジウム、シリカ(ゲル)、ムライト、酸化スズおよび酸化カルシウム、等の層状構造金属酸化物が例示される。このうち、チタニア、シリカおよびムライトのうちのいずれか、あるいはこれらのいずれか2種以上の組み合わせが特に好ましい。
【0058】
ここで開示される多孔質絶縁層50の好適例として、多孔質絶縁層の電極側表面部分54を構成する低吸収性無機フィラー58がアルミナ、ベーマイトおよびマグネシアのうちの少なくとも1種であり、かつセパレータ側部分52を構成する高吸収性無機フィラー56がチタニア、シリカ(ゲル)およびムライトのうちの少なくとも1種であるもの、多孔質絶縁層の電極側表面部分54を構成する低吸収性無機フィラー58がアルミナおよびマグネシアのうちの少なくとも1種であり、かつセパレータ側部分52を構成する高吸収性無機フィラー56がシリカ(ゲル)およびムライトのうちの少なくとも1種であるもの、多孔質絶縁層の電極側表面部分54を構成する低吸収性無機フィラー58がアルミナであり、かつセパレータ側部分52を構成する高吸収性無機フィラー56がシリカ(ゲル)であるもの、等が挙げられる。このような組み合わせの無機フィラーを上下二層に分けて使用することにより、従来得ることができなかった優れた電池発熱抑制効果と高い容量維持率とを両立させたリチウム二次電池を実現することができる。
【0059】
<捲回電極体>
電池ケース60の内部には、扁平形状の捲回電極体80が非水電解質90とともに収容される。本実施形態に係る捲回電極体80の構成は、前述した積層構造を有する多孔質絶縁層50を備える点を除いては通常のリチウム二次電池の捲回電極体と同様であり、図5に示すように、捲回電極体80を組み立てる前段階において長尺状のシート構造(シート状電極体)を有している。
【0060】
<正極シート>
正極シート20は、長尺シート状の箔状の正極集電体22の両面に正極活物質を含む正極活物質層24が保持された構造を有している。ただし、正極活物質層24は正極シート20の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図5では上側の側縁部分)には付着されず、正極集電体22を一定の幅にて露出させた正極活物質層非形成部が形成されている。正極集電体22にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。ここに開示される技術の好ましい適用対象として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等の、リチウムと一種または二種以上の遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質が挙げられる。
【0061】
正極活物質層24は、正極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電材が挙げられる。該導電材としては、カーボン粉末(例えば、アセチレンブラック(AB))やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。その他、正極活物質層の成分として使用され得る材料としては、正極活物質の結着剤(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))が挙げられる。
【0062】
<負極シート>
負極シート10も正極シート20と同様に、長尺シート状の箔状の負極集電体12の両面に負極活物質を含む負極活物質層14が保持された構造を有している。ただし、負極活物質層14は負極シート10の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図5では下側の側縁部分)には付着されず、負極集電体12を一定の幅にて露出させた負極活物質層非形成部が形成されている。負極集電体12には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム遷移金属酸化物(リチウムチタン酸化物等)、リチウム遷移金属窒化物等が例示される。
【0063】
負極活物質層14は、負極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において負極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、負極活物質の結着剤(バインダ)として機能し得るポリマー材料(例えばスチレンブタジエンゴム(SBR))、負極活物質層形成用ペーストの増粘剤として機能し得るポリマー材料(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))等が挙げられる。
【0064】
捲回電極体80を作製するに際しては、図5及び図6に示すように、セパレータ40Bと正極シート20とセパレータ40Aと負極シート10とが順次積層される。このとき、正極シート20の正極活物質層非形成部分と負極シート10の負極活物質層非形成部分とがセパレータ40A,40Bの幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート20と負極シート10とを幅方向にややずらして重ね合わせる。また、その際、正極シート20と負極シート10との間に挟まれたセパレータ40Aは、該セパレータ40Aの片面に形成された多孔質絶縁層50が負極シート10と対向するように配置される。また、正極シート20の下面に重ね合わされたセパレータ40Bは、該セパレータ40Bの片面に形成された多孔質絶縁層50(図6)が正極シート20とは反対側を向くように(積層体の表面に現れるように)配置される。このようにセパレータ40Bと正極シート20とセパレータ40Aと負極シート10とを重ね合わせ、各々のシート10、20、40A、40Bにテンションをかけながら該シートの長手方向に捲回することにより捲回電極体80が作製され得る。
【0065】
捲回電極体80の捲回軸方向における中央部分には、捲回コア部分82(即ち正極シート20の正極活物質層24と負極シート10の負極活物質層14とセパレータ40A,40Bとが密に積層された部分)が形成される。また、捲回電極体80の捲回軸方向の両端部には、正極シート20および負極シート10の電極活物質層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分82から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層24の非形成部分)86および負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層14の非形成部分)84には、正極集電板76および負極集電板74がそれぞれ付設されており、上述の正極端子72および負極端子70とそれぞれ電気的に接続される。
【0066】
<非水電解質>
そして、ケース本体62の上端開口部から該本体62内に捲回電極体80を収容するとともに、適当な非水電解質90をケース本体62内に配置(注液)する。かる非水電解質は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。
【0067】
その後、上記開口部を蓋体64との溶接等により封止し、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立てが完成する。ケース60の封止プロセスや電解質の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。このようにして本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築が完成する。
【0068】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0069】
(1)試験例1
<実施例1>
[多孔質絶縁層付セパレータ]
本例では、高吸収性無機フィラーとしてチタニアを、低吸収性無機フィラーとしてアルミナを使用した。そして、多孔質絶縁層を積層構造とし、相対的にリチウム吸収性の低いアルミナを電極側表面部分に配置し、相対的にリチウム吸収性の高いチタニアをセパレータ側部分に配置した。具体的には、上記高吸収性無機フィラーとしてのチタニア粉末と、バインダとしてのアクリル系ポリマーと増粘剤としてのCMCとを、それらの材料の質量比が固形分比で98:1:1となるように水と混合し、多孔質絶縁層(セパレータ側部分)形成用塗料を調製した。この多孔質絶縁層(セパレータ側部分)形成用塗料を、セパレータ(厚み18μmのPP/PE/PPの三層構造のものを使用した。)の片面にグラビアロールにより塗布して乾燥することにより、多孔質絶縁層のセパレータ側部分を形成した。また、上記低吸収性無機フィラーとしてのアルミナ粉末と、バインダとしてのアクリル系ポリマーと増粘剤としてのCMCとを、それらの材料の質量比が固形分比で98:1:1となるように水と混合し、多孔質絶縁層(電極側表面部分)形成用塗料を調製した。この多孔質絶縁層(電極側表面部分)形成用塗料を、前記得られた多孔質絶縁層のセパレータ側部分の上にグラビアロールにより塗布して乾燥することにより、セパレータの片面に多孔質絶縁層(電極側表面部分及びセパレータ側部分)が形成された多孔質絶縁層付セパレータを作製した。なお、多孔質絶縁層の電極側表面部分及びセパレータ側部分の厚みは、それぞれ3μmとした。
【0070】
<実施例2>
多孔質絶縁層のセパレータ側部分に配置される高吸収性無機フィラーとしてシリカを用いたこと以外は実施例1と同様にして多孔質絶縁層付セパレータを作製した。
【0071】
<実施例3>
多孔質絶縁層のセパレータ側部分に配置される高吸収性無機フィラーとしてムライトを用いたこと以外は実施例1と同様にして多孔質絶縁層付セパレータを作製した。
<比較例>
セパレータの片面にアルミナの単層構造を有する多孔質絶縁層が形成された多孔質絶縁層付セパレータを作製した。具体的には、アルミナ粉末と、バインダとしてのアクリル系ポリマーと増粘剤としてのCMCとを、それらの材料の質量比が固形分比で98:1:1となるように水と混合し、多孔質絶縁層形成用塗料を調製した。この多孔質絶縁層形成用塗料を、セパレータ(厚み18μmのPP/PE/PPの三層構造のものを使用した。)の片面にグラビアロールにより塗布して乾燥することにより、セパレータの片面に単層構造の多孔質絶縁層が形成された多孔質絶縁層付セパレータを作製した。多孔質絶縁層の厚みは、6μmとした。
【0072】
このようにして作製した各例の多孔質絶縁層付セパレータを用いて評価試験用のリチウム二次電池を作製した。評価試験用のリチウム二次電池は、以下のようにして作製した。
【0073】
[正極シート]
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3粉末とAB(導電材)とPVDF(バインダ)とを、これらの材料の質量比が87:10:3となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、正極活物質層形成用ペーストを調製した。この正極活物質層形成用ペーストを厚み15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に帯状に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。正極活物質層形成用ペーストの塗布量は、両面合わせて約10.2mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0074】
[負極シート]
負極活物質としてのアモルファスコートグラファイト粉末(グラファイト粒子の表面にアモルファスカーボンがコートされたグラファイト粉末)と、SBRと、CMCとを、これらの材料の質量比が98:1:1となるように水と混合して負極活物質層形成用ペーストを調製した。この負極活物質層形成用ペーストを厚み10μmの長尺状の銅箔(負極集電体)の両面に塗布して乾燥することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が設けられた負極シートを作製した。負極活物質層用ペーストの塗布量は、両面合わせて約7.5mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0075】
[リチウム二次電池]
そして、正極シート及び負極シートを2枚の多孔質絶縁層付セパレータを介して積層した。その際、正極シートと負極シートとの間に挟まれたセパレータは、該セパレータの片面に形成された多孔質絶縁層が負極シートと対向するように配置した。一方、正極シートの下面に重ね合わされたセパレータは、該セパレータの片面に形成された多孔質絶縁層が正極シートとは反対側を向くように(積層体の表面に現れるように)配置した。次いで、積層体を捲回して捲回電極体を作製した。この捲回電極体を非水電解質とともに円筒型の電池ケース(18650型)に収容し、電池ケースの開口部を気密に封口した。非水電解質としては、ECとDECとを3:7の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを使用した。このようにしてリチウム二次電池を組み立てた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って、試験用リチウム二次電池を得た。
【0076】
[過充電試験]
上記得られた各例の試験用リチウム二次電池に対し、過充電試験を行った。過充電試験は、室温(約25℃)環境雰囲気下において、5Cの電流値にて10Vに達するまで充電した。そして、そのときの電池温度(電池の表面温度)を測定し、電池温度が100℃に到達した後の電池温度の上昇速度(℃/sec)を評価した。この温度上昇速度が大きいほど、過充電時の発熱量が多い電池と云える。さらに、上記過充電試験前における電池内圧と、上記過充電試験により電池温度が100℃に到達した時点での電池内圧とから、内圧上昇率(=[電池温度100℃到達時の電池内圧/過充電試験前の電池内圧]×100)を算出した。結果を図8および図9に示す。
【0077】
図8に示すように、多孔質絶縁層をアルミナの単層構造とした比較例に係る電池では、上記過充電試験において電池温度が100℃に到達した後の電池温度の上昇速度が大きく、電池の発熱量が多かった。これに対し、多孔質絶縁層を上下二層とし、リチウム吸収性の高い無機フィラー(チタニア、シリカ、ムライト)を多孔質絶縁層のセパレータ側部分に配置した実施例1〜3に係る電池は、比較例の電池に比べて、温度上昇速度が小さく、電池の発熱量が少なかった。これは、(1)多孔質絶縁層のセパレータ側部分に配置した高吸収性無機フィラーが負極に析出した金属リチウムを吸収することで、金属リチウムと電解液との発熱を伴う反応が抑制され、更なる電池の発熱が抑制されたこと、および、(2)多孔質絶縁層のセパレータ側部分に配置した高吸収性無機フィラーが水分を含むため、発熱のエネルギーが水分の蒸発に利用されることで電池温度の上昇が抑制されたこと、が主な原因として考えられる。さらに、図9に示すように、実施例1〜3に係る電池では、過充電の進行に伴い、高吸収性無機フィラー(チタニア、シリカ、ムライト)に吸収された水分が蒸発したため、電池の内圧が速やかに上昇した。かかる内圧上昇のアシストにより、実施例1〜3に係る電池では、過充電時に電流遮断機構を的確に作動させることができる。
【0078】
(2)試験例2
さらに、高吸収性無機フィラー(チタニア、シリカ、ムライト)のリチウム吸収性を確認するため、以下の試験を行った。
【0079】
<参考例1>
すなわち、上記チタニア粉末と、バインダとしてのアクリル系ポリマーと増粘剤としてのCMCとを、それらの材料の質量比が固形分比で98:1:1となるように水と混合し、多孔質絶縁層形成用塗料を調製した。この多孔質絶縁層形成用塗料を、セパレータ(厚み18μmのPP/PE/PPの三層構造のものを使用した。)の片面にグラビアロールにより塗布して乾燥することにより、セパレータの片面に単層構造の多孔質絶縁層が形成された多孔質絶縁層付セパレータを作製した。多孔質絶縁層の厚みは、6μmとした。
【0080】
<参考例2>
無機フィラーとしてシリカを用いたこと以外は参考例1と同様にして多孔質絶縁層付セパレータを作製した。
【0081】
<参考例3>
無機フィラーとしてムライトを用いたこと以外は参考例1と同様にして多孔質絶縁層付セパレータを作製した。
【0082】
上記得られた各例の多孔質絶縁層付セパレータを用いて、実施例1と同様にして評価試験用のリチウム二次電池を作製した。また、リファレンスとして、多孔質絶縁層が片側表面に形成されていないセパレータを用いて、実施例1と同様にしてリファレンス用のリチウム二次電池を作製した。
【0083】
上記得られたリチウム二次電池のそれぞれに対し、室温(約25℃)環境下において、1/5Cの定電流で4.1Vまで充電を行い、次いで、1/5Cの定電流で3.0Vまで放電を行う充放電サイクルを3回連続して繰り返した。そして、各サイクルの充電電荷量及び放電電荷量を測定し、各サイクルの[評価用リチウム二次電池の(充電電荷量−放電電荷量)]−[リファレンス用電池の(充電電荷量−放電電荷量)]の積算電荷量から、評価用リチウム二次電池の不可逆電荷量を求め、これを各材料のLi吸収量とした。図10に各材料の単位質量当たりのLi吸収量(mAh/g)を示す。このLi吸収量が大きいほどリチウム吸収性の高い材料であると云える。
【0084】
図10から明らかなように、チタニア、シリカ、ムライトは、いずれも単位質量当たりのLi吸収量が80mAh/gを超えており、リチウム吸収性の高い材料であることが確認できた。これに対し、アルミナ、ベーマイト、マグネシアはLi吸収性の無い安定な材料である。この結果から、ここで開示される多孔質絶縁層のセパレータ側部分に好適に使用され得る高吸収性無機フィラーとしては、チタニア、シリカおよびムライトのうちのいずれか、あるいはこれらのいずれか2種以上の組み合わせが好ましく、シリカおよびムライトのうちのいずれかの使用がさらに好ましく、シリカの使用が特に好ましい。
【0085】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0086】
ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池100は、上述したように電池容量を高度に保ちつつ負極で発生したデンドライトによる短絡を防止することができることから、車両に搭載される電池として適した性能を備える。したがって本発明によると、図11に示すように、ここに開示されるリチウム二次電池100(複数のリチウム二次電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両1が提供される。特に、該リチウム二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【符号の説明】
【0087】
1 車両
10 負極シート
12 負極集電体
14 負極活物質層
20 正極シート
22 正極集電体
24 正極活物質層
30 電流遮断機構
32 変形金属板
33 湾曲部分
34 接続金属板
35 集電リード端子
36 接合点
38 絶縁ケース
40,40A,40B セパレータ
50 多孔質絶縁層
52 セパレータ側部分
54 電極側表面部分
55 バインダ
56 高吸収性無機フィラー
58 低吸収性無機フィラー
70 負極端子
72 正極端子
74 負極集電板
76 正極集電板
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
90 非水電解質
100 リチウム二次電池



【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータとを備えたリチウム二次電池であって、
前記正極及び前記負極のうちの少なくとも一方の電極と前記セパレータとの間に配置された多孔質絶縁層をさらに備え、
前記多孔質絶縁層は、相対的にリチウム吸収性の低い低吸収性無機フィラーと、相対的にリチウム吸収性の高い高吸収性無機フィラーとを含んでおり、
ここで前記多孔質絶縁層の前記電極と接する電極側表面部分は、前記低吸収性無機フィラーにより構成されており、且つ、前記高吸収性無機フィラーは、前記多孔質絶縁層の前記電極側表面部分を除いたセパレータ側部分に偏在していることを特徴とする、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記高吸収性無機フィラーは、前記リチウムを吸収可能な層状構造の金属酸化物から構成されている、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記高吸収性無機フィラーは、周期表の第2族、第4族、第5族、第8族、第9属、第12族、第13族及び第14族の中から選択された少なくとも一種の金属の金属酸化物から構成されている、請求項2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記高吸収性無機フィラーは、チタニア、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化インジウム、シリカ、ムライト、酸化スズ及び酸化カルシウムからなる群から選択された少なくとも一種の金属酸化物から構成されている、請求項3に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記低吸収性無機フィラーは、アルミナ、ベーマイト及びマグネシアからなる群から選択された少なくとも一種の金属酸化物から構成されている、請求項1〜4の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記多孔質絶縁層の電極側表面部分の厚みが1μm〜10μmであり、かつ前記多孔質絶縁層のセパレータ側部分の厚みが1μm〜10μmである、請求項1〜5の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記多孔質絶縁層のセパレータ側部分に対する電極側表面部分の厚みの比が0.8〜1.2である、請求項1〜6の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記多孔質絶縁層のセパレータ側部分に含まれる高吸収性無機フィラーのレーザ散乱法に基づく平均粒径(D50)が、0.1μm〜3μmである、請求項1〜7の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記多孔質絶縁層は、前記セパレータの一方の面であって前記負極と対向する側の面に形成されている、請求項1〜8の何れか一つに記載のリチウム二次電池。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−109866(P2013−109866A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252054(P2011−252054)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】