説明

リチウム二次電池

【課題】低SOC域においても高い出力を安定して発揮し得るリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウム二次電池は、集電体と、該集電体に保持された活物質粒子10を含む活物質層とを備える。活物質粒子10は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子12が複数集合した二次粒子14であって、該二次粒子14の内側に形成された中空部16と、該中空部16を囲む殻部15とを含む中空構造を有する。二次粒子14には、外部から中空部16まで貫通する貫通孔18が形成されている。ここで、活物質粒子10の粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が次式:(A/B)≦0.7を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池に関する。詳しくは、リチウム遷移金属酸化物により構成された活物質粒子を含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池その他の二次電池は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。リチウム二次電池は、リチウムイオン(Liイオン)を可逆的に吸蔵および放出し得る材料(活物質)を正負の電極に備えており、正負の電極の間をLiイオンが行き来することによって充電及び放電が行われる。かかるリチウム二次電池の正極に用いられる活物質(正極活物質)の代表例として、リチウムと遷移金属元素とを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。例えば、上記遷移金属元素として少なくともニッケル(Ni)を含むリチウム遷移金属酸化物(ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物)であって層状結晶構造を有するものが好ましく用いられる。リチウム二次電池の活物質に関する技術文献として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−321300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、いわゆるハイブリッド車、電気自動車など、電気モータで車輪を駆動させる車両では、電池に蓄えられた電力のみでの走行が可能である。かかる電池には、SOC(State of Chrge;充電状態)が減るにつれて出力が低下する傾向がある。走行を安定させるためには、電池を所定のSOC範囲内で使用することが望ましい。かかる車両に搭載される電池が、低SOC域においても所要の出力を発揮できれば、ハイブリッド車、電気自動車などの走行性能を向上させることができる。また、低SOC域においても所要の出力を発揮できれば、必要なエネルギー量を確保するための電池の数を減らすことができ、コストダウンを図ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るリチウム二次電池は、集電体と、上記集電体に保持された活物質粒子を含む活物質層とを備える。上記活物質粒子は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子であって、該二次粒子の内側に形成された中空部と、該中空部を囲む殻部とを有する中空構造を構成している。上記二次粒子には、外部から上記中空部まで貫通する貫通孔が形成されている。ここで、上記活物質粒子の粉末X線回折(CuKα線を用いたX線回折)パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が次式:(A/B)≦0.7を満たす。
【0006】
一般に、LiNiO等のリチウム遷移金属酸化物は、Li層、O層、遷移金属層、O層が繰り返し重なった積層構造を有しており、その層が重ねられる方向(c軸)に直交する方向からLiイオンが吸蔵および放出される。かかるc軸に直交する方向の結晶の厚さが厚すぎると、Liイオンの拡散距離が長くなるため、結晶内部へのイオン拡散が遅くなる。また、上記結晶からなる一次粒子が複数集合して二次粒子を形成する場合、該粒子内に粒界があることで、Liイオンの拡散が阻害される。このようなLiイオン拡散性の低下は、電池の性能低下(例えば出力特性の低下)の要因になり得る。特に、低SOC域では活物質内のLiイオン濃度が高く、放電時に活物質内部へのイオン拡散が律速となるため、上記性能劣化が起こりやすい。
【0007】
本発明によると、活物質粒子の粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下であることから、上記半値幅比(A/B)が0.7を上回るような従来の活物質粒子と比較して、結晶のc軸に直交する方向の厚さが非常に薄い。そのため、Liイオンの拡散距離が短く、結晶内部へのLiイオンの拡散が速い。さらに、上記結晶からなる一次粒子が複数集合した二次粒子の内部に中空部が形成されていることから、中実の緻密構造に比べて一次粒子の凝集が少ない。そのため、粒子内の粒界が少なく、粒子内へのLiイオンの拡散がさらに速い。このため、該活物質粒子を用いて構築されたリチウム二次電池は、低SOC域(例えば、SOCが30%以下のとき)においても高い出力を安定して発揮することができる。
【0008】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記半値幅比(A/B)が、(A/B)≦0.7を満たす。好ましくは(A/B)≦0.65であり、さらに好ましくは(A/B)≦0.6である。半値幅比(A/B)が大きすぎると、結晶のc軸に直交する方向の厚さが厚くなり結晶内部へのイオン拡散が遅くなるため、所要の出力特性が得られないことがある。その一方、上記半値幅比(A/B)が小さすぎる活物質粒子は、生成(合成)が難しくなってくることに加えて結晶成長(特にc軸に直交する方向への成長)が不十分になるため、高温保存時に活物質中のメタルが電解液中に溶出する虞がある。電解液中にメタルが溶出すると電池容量が低下する原因となり得る。高温保存時の容量劣化を抑制する観点からは、0.45≦(A/B)が適当であり、好ましくは0.5≦(A/B)である。
【0009】
ここに開示されるリチウム二次電池の好ましい一態様では、上記活物質粒子のうち上記中空部を囲む殻部の平均厚さが、2.2μm以下である。かかる構成によると、活物質粒子の中空部を囲む殻部の厚さが非常に薄い。このため、活物質粒子の殻部内部へのLiイオンの拡散が速く、上述した効果がより適切に発揮され得る。上記殻部の平均厚さの下限値は特に制限されないが、概ね0.1μm以上であるとよい。殻部の平均厚さを0.1μm以上とすることにより、活物質粒子に所要の耐久性が確保され、リチウム二次電池の性能が安定する。
【0010】
ここに開示されるリチウム二次電池の好ましい一態様では、上記リチウム遷移金属酸化物は、少なくともニッケルを構成元素として含む層状結晶構造の化合物である。かかるリチウム遷移金属酸化物は、例えば、ニッケル、コバルトおよびマンガンを構成元素として含む層状結晶構造の化合物でもよい。また、上記リチウム遷移金属酸化物は、タングステンを含む層状結晶構造の化合物でもよい。この場合、上記タングステンの含有量は、上記化合物中のタングステン以外の全ての遷移金属元素の合計をモル百分率で100モル%としたとき、0.05モル%〜1モル%であることが望ましい。このようなタングステンの含有量であると、上述した半値幅比(A/B)をここに開示される好ましい範囲に適切に制御できる。
【0011】
好ましくは、上記リチウム遷移金属酸化物は、以下の一般式:
Li1+xNiCoMn(1−y−z)αβ2 (1)
で示される層状結晶構造の化合物である。
ここで、上記式(1)中のxの値は0≦x≦0.2であり、yの値は0.1<y<0.9であり、zの値は0.1<z<0.4であり、αの値は0.0005≦α≦0.01であり、βの値は0≦β≦0.01である。上記式中のMは添加元素であり、存在しないか若しくはZr、Mg、Ca、Na、Fe、Cr、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFのうちの1種または2種以上の元素である。特に上記式中のxが0.05≦x≦0.2を満足する実数であることが好ましい。また上記式中のαが0.001≦α≦0.01(さらには0.002≦α≦0.01、さらには0.005≦α≦0.01、)を満足する実数であることが特に好ましい。
【0012】
また、本発明は、上述したような活物質粒子を好適に製造する方法を提供する。即ち、本発明の製造方法は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子であって、該二次粒子の内側に形成された中空部と、該中空部を囲む殻部とを有し、前記二次粒子には外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されている孔空き中空構造の活物質粒子を製造する方法である。
具体的には、ここで開示される活物質粒子製造方法は、遷移金属化合物の水性溶液(典型的には水溶液)にアンモニウムイオンを供給して、遷移金属水酸化物の粒子を上記水性溶液から析出させる工程(原料水酸化物生成工程)を包含する。ここで、上記水性溶液は、上記リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素を少なくとも一つ含む。上記製造方法は、また、上記遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを含む未焼成の混合物を、リチウム(Li)と他の全ての構成金属元素の合計(Mall)とのモル比(Li/Mall)が、1.05〜1.2(1.05以上1.2以下)の範囲となるようにリチウム過剰に調製する工程(混合工程)を包含する。さらに、上記混合物を700℃〜1000℃の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成して上記活物質粒子を得る工程(焼成工程)を包含する。この製造方法によると、該活物質粒子の粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が次式:(A/B)≦0.7を満たす活物質粒子を適切に製造することができる。この製造方法は、例えば、ここに開示される何れかの活物質粒子を製造する方法として好適に採用され得る。
【0013】
上記焼成工程は、最高焼成温度が850℃〜950℃となり、かつ、焼成時間が3〜20時間となるように行うことが好ましい。このことによって、上記半値幅比(A/B)が0.45≦(A/B)≦0.7を満たす孔空き中空構造の活物質粒子がより容易に製造され得る。
【0014】
上記遷移金属水酸化物は、タングステンを含んでもよい。この場合、上記タングステンの含有量は、上記遷移金属水酸化物中のタングステン以外の全ての遷移金属元素の合計をモル百分率で100モル%としたとき、0.05モル%〜1モル%であることが好ましい。このことによって、上記半値幅比(A/B)が(A/B)≦0.7を満たす孔空き中空構造の活物質粒子がより容易に製造され得る。
【0015】
上記原料水酸化物生成工程は、上記水性溶液から上記遷移金属水酸化物を析出させる核生成段階と、上記核生成段階よりも上記水性溶液のpHを減少させた状態で、上記遷移金属水酸化物を成長させる粒子成長段階とを含んでもよい。この場合、上記核生成段階での、上記水性溶液のpHが12以上13以下であることが好ましい。また、上記粒子成長段階での、上記水性溶液のpHが11以上12未満であることが好ましい。
【0016】
ここに開示される何れかのリチウム二次電池は、上記のとおり、低SOC域(例えば、SOCが30%以下のとき)であっても高い出力を安定して発揮し得ることから、例えば自動車等の車両に搭載される電池(典型的には駆動電源用途の電池)として好適である。したがって本発明によると、ここに開示される何れかのリチウム二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、該リチウム二次電池を動力源として備える車両(例えば家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)等)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に用いられる活物質粒子を模式的に示す断面図である。
【図2】層状結晶構造リチウム遷移金属酸化物の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池を模式的に示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体を説明するための図である。
【図5】半値幅比(A/B)と出力特性との関係を示すグラフである。
【図6】半値幅比(A/B)と高温保存後容量維持率との関係を示すグラフである。
【図7】最高焼成温度と半値幅比(A/B)との関係を示すグラフである。
【図8】焼成時間と半値幅比(A/B)との関係を示すグラフである。
【図9】W添加量と半値幅比(A/B)との関係を示すグラフである。
【図10】Li/Mall比と半値幅比(A/B)との関係を示すグラフである。
【図11】リチウム二次電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。各図面は、模式的に描いており、必ずしも実物を反映しない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
本実施形態に係るリチウム二次電池に用いられる正極活物質粒子10(図1)は、結晶構造が六方晶系に属する層状岩塩型構造のリチウム遷移金属酸化物からなり、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)が次式:(A/B)≦0.7を満たすことにより特徴付けられる。
【0020】
<粉末X線回折パターン>
ここで、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD:X-ray diffraction)測定は、X線発生源から照射されX線(CuKα線)を試料の試料面に入射することにより行うとよい。試料面は、正極活物質粒子(典型的には粉体)10からなる面であってもよく、該正極活物質粒子10をバインダで結着させて実際に正極を形成した面(正極活物質層の表面)であってもよい。この際、試料を所定の走査軸で回転走査しながら試料に対する入射角度をステップ的または連続的に変化させてX線を照射し、試料によって回析されたX線を検査器でとらえるとよい。そして、X線の回析方向と入射方向の角度差(回折角2θ)と、回析X線強度を測定する。かかるX線回折測定は、種々の測定装置メーカーから市販されているX線回折測定装置を用いて行うことができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折測定装置MultiFlexを用いることができる。
【0021】
図2に、正極活物質粒子10がLiNi1/3Co1/3Mn1/32である場合のX線回折パターンを示している。LiNi1/3Co1/3Mn1/32の回折パターンでは、回折角18℃付近に(003)面に由来する回折ピークが生じる。また、回折角45℃付近に(104)面に由来する回折ピークが生じる。このようにして得られた回折パターンから、(003)面に由来する回折ピークの半値幅Aと、(104)面に由来する回折ピークの半値幅Bとを算出するとよい。かかる半値幅A,Bの算出は、種々の測定装置メーカーから市販されているX線回折測定装置付属の解析ソフトを用いて行うことができる。例えば、株式会社リガク製X線回折測定装置付属の解析ソフトJADEを用いることができる。
【0022】
本発明によって提供される正極活物質粒子10は、上記粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下であることが適当であるが、0.65以下が好ましく、0.6以下が特に好ましい。
このように上記半値幅比(A/B)が0.7以下である活物質粒子10は、半値幅比(A/B)が0.7を上回るような従来の活物質粒子と比較して、結晶のc軸方向の厚さがより厚く、かつc軸に直交する方向の厚さがより薄くなる。そのため、Liイオンが挿入可能な面が増大し、かつ結晶内のイオン拡散距離が短くなる。かかる構成の活物質粒子によると、結晶内部へのLiイオンの拡散が速いため、充電時には結晶の内部からLiイオンが放出されやすく、放電時にはLiイオンが結晶の内部まで吸収されやすい。従って、上記のような半値幅比(A/B)を有する正極活物質粒子を採用することにより、リチウム二次電池の出力特性(特に低SOC域における出力特性)を向上させることができる。
【0023】
<半値幅比(A/B)>
ここで開示される正極活物質粒子としては、上記半値幅比(A/B)が、0.45≦(A/B)≦0.7を満足するものが好ましく、0.45≦(A/B)≦0.65を満足するものがさらに好ましく、0.45≦(A/B)≦0.6を満足するものが特に好ましい。その一方、上記半値幅比(A/B)が0.45を下回る活物質粒子は、生成(合成)が難しくなってくることに加えて結晶成長(特にc軸に垂直な方向への成長)が不十分になるため、高温保存時に活物質中のメタルが電解液中に溶出する虞があるため好ましくない。電解液中にメタルが溶出すると電池容量が低下する原因となり得る。高温保存時の容量劣化を抑制する観点からは、0.45≦(A/B)≦0.7(特には0.5≦(A/B)≦0.7)を満足するものが好ましい。例えば、上記半値幅比(A/B)が0.5以上0.7以下(特に0.55以上0.65以下)の活物質粒子が、出力特性の向上と高温保存劣化の抑制を両立するという観点から適当である。
【0024】
なお、上記半値幅比(A/B)の調節は、種々の手法により行うことができる。例えば、半値幅比(A/B)をより小さくする手法として:ここに開示されるリチウム遷移金属酸化物を合成する際の原料(後述する遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを含む未焼成の混合物)におけるLi/Mallをより大きくする;上記合成時の焼成温度をより低くする;上記合成時の焼成時間をより短くする;上記原料に添加元素としてのタングステン(W)を少量添加する;等の手法を例示することができる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて採用することができる。
【0025】
<中空構造>
かかる正極活物質粒子10は、図1に示すように、二次粒子14とその内側に形成された中空部16とを有する中空構造であって、その二次粒子14に外部から中空部16まで貫通する貫通孔18が形成された孔開き中空活物質粒子である。二次粒子14は、上述したような結晶からなる一次粒子12が球殻状に集合した形態を有する。好ましい一態様では、活物質粒子10は、その断面SEM(Scanning Electron Microscope)像において、一次粒子12が環状(数珠状)に連なった形態を有する。かかる活物質粒子10は、一次粒子が単独(単層)で連なった形態であってもよく、2つ以上の一次粒子が積み重なって(多層で)連なった形態であってもよい。2つ以上の一次粒子が積み重なって連なった形態を採る場合、一次粒子12の積層数は、凡そ5個以下(例えば2〜5個)であることが好ましく、凡そ3個以下(例えば2〜3個)であることがより好ましい。実質的に一次粒子12が単層で連なった形態を採ることが特に好適である。
【0026】
このように一次粒子12が単層または多層で連なった中空活物質粒子(二次粒子)10は、内部に空洞のない緻密構造に比べて一次粒子12の凝集が少ない。そのため、粒子内の粒界が少なく(ひいてはLiイオンの拡散距離がより短く)、粒子内部へのLiイオンの拡散がさらに速い。従って、このような粒界の少ない中空活物質粒子10を用いれば、上述した半値幅比(A/B)の規定により結晶内部へのLiイオンの拡散が速いことと相俟って(相乗効果により)、リチウム二次電池の出力特性を格段に向上させることができる。例えば、活物質内部へのイオン拡散が律速となる低SOC域(例えば、SOCが30%以下のとき)においても良好な出力を示すリチウム二次電池が構築され得る。
【0027】
なお、本発明者らの検討によれば、上記半値幅比(A/B)をここに開示される好ましい範囲に規定することによる低SOC域での出力向上については、内部に空洞のない緻密構造の活物質粒子を用いた場合では同程度の効果が得られないことが後述する試験例により確認された。したがって、上記半値幅比(A/B)の規定と、中空構造の活物質粒子とを組み合わせて適用することにより、かかる組み合わせによる相乗効果として、低SOC域(例えば、SOCが27%のとき)の出力特性が大きく向上したリチウム二次電池が提供され得る。
【0028】
<殻部の平均厚さ>
この場合、中空部16を囲む殻部15(一次粒子12が球殻状に集合した部分)の平均厚さは、例えば、2.2μm以下が適当であり、より好ましくは1.5μm以下であるとよい。殻部15の厚さが薄ければ薄いほど、Liイオンの拡散距離がより短く、かつ、殻部15内部へのLiイオンの拡散が速くなる。そのため、より内部抵抗(特に低SOC域における内部抵抗)の低いものとなり得る。殻部15の平均厚さの下限値は特に限定されないが、概ね0.1μm以上であるとよい。殻部15の平均厚さを0.1μm以上とすることにより、正極活物質粒子10に所要の強度が得られる。正極活物質粒子10は、Liイオンの放出と吸収が繰り返されると、膨張と収縮が生じる。かかる膨張収縮に対しても十分な強度を確保できる。このため、正極活物質粒子10の耐久性が向上し、リチウム二次電池の性能が経時的に安定し得る。内部抵抗低減効果と耐久性とを両立させる観点からは、殻部15の平均厚さが凡そ0.1μm〜2.2μmであることが好ましく、より好ましくは0.2μm〜1.5μmであり、特に好ましくは0.5μm〜1μmである。
【0029】
なお、上記殻部の平均厚さは、正極活物質粒子の断面をSEMで観察することにより把握することができる。例えば、正極活物質粒子の任意の断面SEM像において、殻部15の内側面15aの任意の位置kにおける殻部15の厚さを、該殻部15の内側面15aの任意の位置kから殻部15の外側面15bへの最短距離T(k)とする。殻部15の平均厚さの値は、例えば、少なくとも10か所の内側面の任意の位置kについて上記厚さを把握し、それらの算術平均値を求めることにより得られる。
【0030】
<一次粒子の平均粒径>
なお、好ましい殻部15の平均厚さは、一次粒子12の平均粒径によっても異なり得る。通常は、殻部15の平均厚さが一次粒子12の平均粒径の5倍以下であることが好ましく、凡そ4倍以下(例えば凡そ2倍以下)であることがより好ましい。ここに開示される正極活物質粒子を構成する一次粒子の平均粒径は、凡そ0.1μm〜0.6μmの範囲にあるものであり得る。平均粒径が凡そ0.2μm〜0.5μmの一次粒子であることが好ましい。かかる態様によると、殻部15の平均厚さが非常に薄いので、上述した効果がより適切に発揮され得る。なお、一次粒子の平均粒径は、当該分野で公知の方法、例えば活物質の表面SEM測定により把握することができる。
【0031】
<二次粒子の平均粒径>
正極活物質粒子10の平均粒径(ここではメジアン径(D50)をいう。以下、同じ。)は、凡そ2μm〜25μmであることが好ましい。かかる構成を有する正極活物質粒子10によると、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。例えば、平均粒径が小さすぎると、中空部16の容積が小さいため、電池性能を向上させる効果が低下傾向になり得る。平均粒径が凡そ3μm以上であることがより好ましい。また、正極活物質粒子の生産性等の観点からは、平均粒径が凡そ25μm以下であることが好ましく、凡そ15μm以下(例えば凡そ10μm以下)であることがより好ましい。好ましい一態様では、正極活物質粒子の平均粒径が凡そ3μm〜10μmである。なお、正極活物質粒子の平均粒径は当該分野で公知の方法、例えばレーザ回折散乱法に基づく測定によって求めることができる。
【0032】
<貫通孔>
かかる正極活物質粒子10は、図1に示すように、二次粒子14(殻部15)に外部から中空部16まで貫通するか貫通孔18を有する。かかる正極活物質粒子10によれば、貫通孔18を通して中空部16と外部とで電解液が行き来し易くなり、中空部16の電解液が適当に入れ替わる。このため、中空部16内で電解液が不足する液枯れが生じ難い。このため、中空部16内部で、正極活物質の一次粒子12がより活発に活用され得る。かかる構成によると、上述した半値幅比(A/B)の規定により結晶内部へのLiイオンの拡散が速いことと、その結晶からなる一次粒子12に電解液が素早く行き渡ることとが相俟って(相乗効果により)、二次電池の出力特性(特に低SOC域における出力特性)をさらに向上させることができる。
【0033】
この場合、正極活物質層の平均において、貫通孔18の開口幅hが平均0.01μm以上であるとよい。ここで、貫通孔18の開口幅は、該貫通孔18が正極活物質粒子10の外部から中空部16に至る経路で最も狭い部分における差渡し長さである。貫通孔18の開口幅が平均0.01μm以上であると、貫通孔18を通して外部から中空部16に電解液90(図3参照)が十分に入り得る。これにより、リチウム二次電池の電池性能を向上させる効果をより適切に発揮することができる。なお、複数の貫通孔18がある場合には、複数の貫通孔18のうち、最も大きい開口幅を有する貫通孔で評価するとよい。また、貫通孔18の開口幅hは平均2.0μm以下、より好ましくは平均1.0μm以下、さらに好ましくは平均0.5μm以下であってもよい。
【0034】
また、貫通孔18の数は、正極活物質粒子10の一粒子当たり平均1〜20個程度でもよく、より好ましくは、平均1〜5個程度でもよい。かかる構造の正極活物質粒子10によると、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。なお、孔開き中空構造の正極活物質粒子10の貫通孔18の数は、例えば、任意に選択した少なくとも10個以上の正極活物質粒子について一粒子当たりの貫通孔数を把握し、それらの算術平均値を求めるとよい。
【0035】
<リチウム遷移金属酸化物の組成>
ここに開示される正極活物質粒子を構成するリチウム遷移金属酸化物は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な層状結晶構造のリチウム遷移金属酸化物であり得る。層状結晶構造のリチウム遷移金属酸化物としては、上記遷移金属として少なくともニッケルを含む酸化物(ニッケル含有リチウム複合酸化物)、少なくともコバルトを含む酸化物、少なくともマンガンを含む酸化物等が例示される。
【0036】
層状結晶構造のリチウム遷移金属酸化物の一好適例として、少なくともニッケルを構成元素として含むニッケル含有リチウム複合酸化物が挙げられる。かかるニッケル含有リチウム複合酸化物は、LiおよびNi以外に、他の一種または二種以上の金属元素(すなわち、リチウムおよびニッケル以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含むものであり得る。例えば、ニッケル、コバルトおよびマンガンを構成元素として含むニッケル含有リチウム複合酸化物でもよい。これらの遷移金属元素のうちの主成分がNiであるか、あるいはNiとCoとMnとを概ね同程度の割合で含有するニッケル含有リチウム複合酸化物が好ましい。
【0037】
さらに、これらの遷移金属元素のほかに、付加的な構成元素(添加元素)として、他の1種又は2種以上の元素を含むものであってもよい。かかる付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、若しくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。典型例として、W、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Cr、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFが例示される。特に、タングステン(W)を添加元素として含む化合物であることが好ましい。Wを添加元素として含むことにより、上述した半値幅比(A/B)をここに開示される好ましい範囲に容易に制御することができる。これら付加的な構成元素は、ニッケル、コバルトおよびマンガンの構成遷移金属元素の20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で添加され得る。
【0038】
ここに開示される正極活物質粒子を構成する層状結晶構造リチウム遷移金属酸化物の好ましい組成として、下記一般式(I):
Li1+xNiCoMn(1−y−z)αβ2 (I);
で表されるLiNiCoMnW酸化物が例示される。ここで、上記式(I)において、Mは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Cr、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり得る。xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.9を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.4を満たす実数であり得る。αは、0.0005≦α≦0.01を満たす実数であることが好ましい。好ましい一態様では、0.001≦α≦0.01である。βは、0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、Mを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、本明細書中のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示しているが厳密ではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容するものである。
【0039】
<リチウム遷移金属酸化物の製造方法>
ここに開示されるいずれかの中空活物質粒子は、例えば、該活物質粒子を構成するリチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属元素の少なくとも一つ(好ましくは、該酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の全部)を含む水性溶液から、該遷移金属の水酸化物を適切な条件で析出させ、その遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを混合して焼成する方法により製造され得る。
以下、かかる活物質粒子製造方法の一実施態様につき、層状結晶構造のLiNiCoMnW酸化物からなる中空活物質粒子を製造する場合を例として詳しく説明するが、この製造方法の適用対象をかかる組成の中空活物質粒子に限定する意図ではない。例えば、Wを添加していないLiNiCoMn酸化物により、上記半値幅比(A/B)の所定範囲を満たす活物質粒子を製造することもできる。この場合、上記半値幅比(A/B)の所定範囲を満たすように、後述するLi/Mall、焼成温度及び焼成時間の各条件を適宜調整するとよい。
【0040】
<原料水酸化物生成工程>
ここに開示される活物質粒子製造方法は、遷移金属化合物の水性溶液にアンモニウムイオン(NH)を供給して、該水性溶液から遷移金属水酸化物の粒子を析出させる工程(原料水酸化物生成工程)を含む。上記水性溶液を構成する溶媒(水性溶媒)は、典型的には水であり、水を主成分とする混合溶媒であってもよい。この混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール等)が好適である。上記遷移金属化合物の水性溶液(以下、「遷移金属溶液」ともいう。)は、製造目的たる活物質粒子を構成するリチウム遷移金属酸化物の組成に応じて、該リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素(ここではNi,Co,MnおよびW)の少なくとも一つ(好ましくは全部)を含む。例えば、水性溶媒中にNiイオン,Coイオン,MnイオンおよびWイオンを供給し得る一種または二種以上の化合物を含む遷移金属溶液を使用する。Ni,CoおよびMnの金属イオン源となる化合物としては、該金属の硫酸塩、硝酸塩、塩化物等を適宜採用することができる。例えば、水性溶媒(好ましくは水)に硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが溶解した組成の遷移金属溶液を好ましく使用し得る。また、Wの金属イオン源となる化合物としては、例えばタングステン酸塩ナトリウムを好ましく使用し得る。
【0041】
上記NHは、例えば、NHを含む水性溶液(典型的には水溶液)の形態で上記遷移金属溶液に供給されてもよく、該遷移金属溶液にアンモニアガスを直接吹き込むことにより供給されてもよく、これらの供給方法を併用してもよい。NHを含む水性溶液は、例えば、NH源となり得る化合物(水酸化アンモニウム、硝酸アンモニウム、アンモニアガス等)を水性溶媒に溶解させることにより調製することができる。本実施態様では、水酸化アンモニウム水溶液(すなわちアンモニア水)の形態でNHを供給する。
【0042】
上記原料水酸化物生成工程は、pH12以上(典型的にはpH12以上14以下、例えばpH12.2以上13以下)かつNH濃度25g/L以下(典型的には3〜25g/L)の条件下で上記遷移金属溶液から遷移金属水酸化物を析出させる段階(核生成段階)を含み得る。上記pHおよびNH濃度は、上記アンモニア水とアルカリ剤(液性をアルカリ性に傾ける作用のある化合物)との使用量を適切にバランスさせることにより調整することができる。アルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を、典型的には水溶液の形態で用いることができる。本実施態様では水酸化ナトリウム水溶液を使用する。なお、本明細書中において、pHの値は、液温25℃を基準とするpH値をいうものとする。
【0043】
上記原料水酸化物生成工程は、さらに、上記核生成段階で析出した遷移金属水酸化物の核(典型的には粒子状)を、pH12未満(典型的にはpH10以上12未満、好ましくはpH10以上11.8以下、例えばpH11以上11.8以下)かつNH濃度1g/L以上、好ましくは3g/L以上(典型的には3〜25g/L)で成長させる段階(粒子成長段階)を含み得る。通常は、核生成段階のpHに対して、粒子成長段階のpHを0.1以上(典型的には0.3以上、好ましくは0.5以上、例えば0.5〜1.5程度)低くすることが適当である。
【0044】
上記pHおよびNH濃度は、核生成段階と同様にして調整することができる。この粒子成長段階は、上記pHおよびNH濃度を満たすように行われることにより、好ましくは上記pHにおいてNH濃度を15g/L以下(例えば1〜15g/L、典型的には3〜15g/L)、より好ましくは10g/L以下(例えば1〜10g/L、典型的には3〜10g/L)の範囲とすることにより、遷移金属水酸化物(ここでは、Ni,Co,MnおよびWを含む複合水酸化物)の析出速度が速くなり、ここに開示される孔開き中空活物質粒子の形成に適した原料水酸化物粒子(換言すれば、孔開き中空構造の焼成物を形成しやすい原料水酸化物粒子)が生成し得る。即ち、ここで開示される技術では、核生成段階と粒子成長段階で遷移金属溶液のpHおよびアンモニア濃度(アンモニウムイオン濃度)を適宜調整することによって、粒子成長段階における遷移金属水酸化物(ここではNiCoMnW(OH))の析出速度を、核生成段階における遷移金属水酸化物(ここではNiCoMnW(OH))の析出速度よりも速くする。このことにより、前駆体になる遷移金属水酸化物の粒子の外表面近傍部の密度を、遷移金属水酸化物の粒子の内部の密度よりも高くする。
【0045】
上記粒子成長段階におけるNH濃度を7g/L以下(例えば1〜7g/L、より好ましくは3〜7g/L)としてもよい。粒子成長段階におけるNH濃度は、例えば、核生成段階におけるNH濃度と概ね同程度としてもよく、核生成段階におけるNH濃度より低くしてもよい。なお、遷移金属水酸化物の析出速度は、例えば、反応液に供給される遷移金属溶液に含まれる遷移金属イオンの合計モル数に対して、反応液の液相中に含まれる遷移金属イオンの合計モル数(合計イオン濃度)の推移を調べることにより把握され得る。
【0046】
核生成段階および粒子成長段階のそれぞれにおいて、反応液の温度は、凡そ30℃〜60℃の範囲のほぼ一定温度(例えば、所定の温度±1℃)となるように制御することが好ましい。核生成段階と粒子成長段階とで反応液の温度を同程度としてもよい。また、反応液および反応槽内の雰囲気は、核生成段階および粒子成長段階を通じて非酸化性雰囲気に維持することが好ましい。また、反応液に含まれるNiイオン,CoイオンおよびMnイオンの合計モル数(合計イオン濃度)は、核生成段階および粒子成長段階を通じて、例えば凡そ0.5〜2.5モル/Lとすることができ、凡そ1.0〜2.2モル/Lとすることが好ましい。また、反応液に含まれるWイオンのモル数(イオン濃度)は、核生成段階および粒子成長段階を通じて、例えば凡そ0.01〜1.0モル/Lとすることができる。かかるイオン濃度が維持されるように、遷移金属水酸化物の析出速度に合わせて遷移金属溶液を補充(典型的には連続供給)するとよい。反応液に含まれるNiイオン,Coイオン、MnイオンおよびWイオンの量は、目的物たる活物質粒子の組成(すなわち、該活物質粒子を構成するLiNiCoMnW酸化物におけるNi,Co,Mn,Wのモル比)に対応する量比とすることが好ましい。
【0047】
<Wの添加量>
上述のとおり、ここで開示される中空活物質粒子(LiNiCoMnW酸化物)は、該活物質粒子のCuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下である一次粒子を含むものであり、かかる半値幅比(A/B)を実現する好適な条件の一つとして、タングステンの含有量(添加量)が、上記遷移金属水酸化物に含まれるタングステン以外の全ての遷移金属元素(ここではNi,CoおよびMn)の合計をモル百分率で100モル%としたときに、0.05モル%〜1モル%となるように各金属イオン源を混合して調製することが挙げられる。
好ましくは、タングステンの含有量が他の全ての遷移金属元素の合計に対して0.1モル%〜1モル%となるように、Wイオン源を他の金属イオン源と混合するとよい。これにより、後述する焼成工程において、結晶のc軸に直交する方向の成長が適切に抑制され、上述した半値幅比(A/B)が所定値を満たす活物質粒子とすることができる。
一方、タングステンの含有量が1モル%を大幅に上回るように大量に添加すると、タングステンが活物質の粒界に偏析し過ぎてしまい抵抗増大を引き起こすため、好ましくない。
【0048】
<混合工程>
本実施態様では、このようにして生成した遷移金属水酸化物粒子(ここでは、Ni,Co,MnおよびWを含む複合水酸化物粒子)を反応液から分離し、洗浄して乾燥させる。そして、この遷移金属水酸化物粒子とリチウム化合物とを所望の量比で混合して未焼成の混合物を調製する(混合工程)。この混合工程では、典型的には、目的物たる活物質粒子の組成(すなわち、該活物質粒子を構成するLiNiCoMnW酸化物におけるLi,Ni,Co,Mn,Wのモル比)に対応する量比で、リチウム化合物と遷移金属水酸化物粒子とを混合する。上記リチウム化合物としては、加熱により溶解し、酸化物となり得るリチウム化合物、例えば炭酸リチウム,水酸化リチウム等を好ましく用いることができる。
【0049】
<Li/Mallのモル比>
ここで開示される半値幅比(A/B)を実現する他の好適な条件の一つとして、遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを含む未焼成の混合物を、リチウム(Li)と他の全ての構成金属元素の合計(Mall)とのモル比(Li/Mall)が、1.05〜1.2の範囲となるようにリチウム過剰に調製することが挙げられる。好ましくは、リチウム(Li)と他の全ての構成金属元素の合計(Mall)とのモル比が1.1≦Li/Mall≦1.2となるように、リチウム化合物を比較的過剰に遷移金属水酸化物粒子と混合するとよい。これにより、該混合物を焼成した際に、c軸に直交する方向の結晶成長が抑制され、上述した半値幅比(A/B)が所定値を満たす活物質粒子とすることができる。
一方、LiとMallとのモル比(Li/Mall)が1.2を大幅に上回るようにリチウム化合物を大量に混合すると、層状結晶構造のLiNiCoMnW酸化物を構成しない過剰なリチウム成分(アルカリ成分)が活物質中に残留するため好ましくない。
【0050】
<焼成工程>
上記のようにLi/Mallが1.05以上となるように、リチウム化合物と遷移金属水酸化物粒子とを混合した後、該混合物を焼成することにより活物質粒子を得る(焼成工程)。この焼成工程は、大気中や大気よりも酸素がリッチな雰囲気中で行うことが望ましい。焼成温度及び焼成時間は、上述した半値幅比(A/B)の所定値を実現するという観点から一つの重要なファクターである。
【0051】
<焼成条件>
好ましくは、酸化雰囲気中において700℃以上1000℃以下の範囲内に最高焼成温度を決定する。これにより、焼結時にc軸に直交する方向の結晶成長が抑制され、上述した半値幅比(A/B)が0.7以下を満たす活物質粒子を製造することができる。最高焼成温度が800℃以上(好ましくは850℃〜1000℃、例えば850℃〜950℃)となるように行われることが好ましい。この範囲の最高焼成温度によると、上述した半値幅比(A/B)が0.45以上0.7以下を満たす活物質粒子を製造することができる。また、焼成時間(最高焼成温度での焼成時間)は、概ね3時間〜20時間(好ましくは5時間〜20時間、特に好ましくは10時間〜20時間)とするとよい。焼成時間が長すぎると、焼結時に結晶が成長しすぎるため、上述した半値幅比(A/B)が0.7を超えてしまう場合があり、一方、焼成時間が短すぎると、焼結時に結晶の成長が不十分となるため、上述した半値幅比(A/B)が0.45を下回る場合がある。
【0052】
好ましい一態様では、上記混合物を700℃以上900℃以下の温度T1(すなわち700℃≦T1≦900℃、例えば700℃≦T1≦800℃、典型的には700℃≦T1<800℃)で焼成する第一焼成段階と、その第一焼成段階を経た結果物を800℃以上1000℃以下の温度T2(すなわち800℃≦T2≦1000℃、例えば850℃≦T2≦950℃)で焼成する第二焼成段階とを含む態様で行う。このような多段階の焼成スケジュールによって混合物を焼成することにより、上記半値幅比(A/B)が所定値となる中空活物質粒子をより効率よく形成することができる。T1およびT2は、T1<T2となるように設定することが好ましい。
【0053】
第一焼成段階と第二焼成段階とは、連続させ(例えば、上記混合物を第一焼成温度T1に保持した後、引き続き第二焼成温度T2まで昇温して該温度T2に保持し)てもよく、或いは、第一焼成温度T1に保持した後、いったん冷却(例えば、常温まで冷却)し、必要に応じて解砕と篩い分けを行ってから第二焼成段階に供してもよい。
【0054】
なお、ここに開示される技術において、上記第一焼成段階は、目的とするリチウム遷移金属酸化物の焼結反応が進行し且つ融点以下の温度域であって第二焼成段階よりも低い温度T1で焼成する段階として把握することができる。また、上記第二焼成段階は、目的とするリチウム遷移金属酸化物の焼結反応が進行し且つ融点以下の温度域であって第一焼成段階よりも高い温度T2で焼成する段階として把握することができる。T1とT2との間には50℃以上(典型的には100℃以上、例えば150℃以上)の温度差を設けることが好ましい。
【0055】
上記のような焼成工程により得られたリチウム遷移金属酸化物(LiNiCoMnW酸化物)を、好ましくは冷却後、ミルがけ等により粉砕し適当に分級することによって、活物質粒子を得ることができる。ここで、正極活物質粒子の前駆体である遷移金属水酸化物の粒子は、内部の密度が小さく、外表面近傍部の密度が大きい。このため、焼成工程において、前駆体である遷移金属水酸化物の粒子のうち密度が小さい内部が、密度が高く機械強度が強い外表面近傍部に取り込まれるように焼結する。このため、正極活物質粒子10の殻部15が形成されるとともに、中空部16が形成される。さらに、焼結時に結晶が成長する際に、殻部15の一部に殻部15を貫通した貫通孔18が形成される。これにより、図1に示すように、殻部15と、中空部16と、貫通孔18とを有する正極活物質粒子10が形成される。
【0056】
かかる正極活物質粒子10は、好適な一形態として、上述した活物質粒子10のBET比表面積を、凡そ0.5m/g〜1.9m/g程度にすることが可能である。活物質粒子10のBET比表面積は、より好ましくは、凡そ0.6m/g以上、さらに好ましくは、凡そ0.8m/g以上にしてもよい。また、活物質粒子10のBET比表面積は、例えば、凡そ1.7m/g以下、さらに好ましくは1.5m/g以下にしてもよい。
【0057】
また、かかる活物質粒子10は、他の製法(例えば、噴霧焼成製法(スプレードライ製法とも称される))と比べても硬く、形態安定性が高い活物質粒子10が得られる。活物質粒子10は、例えば、直径50μmの平面ダイヤモンド圧子を使用して負荷速度0.5mN/秒〜3mN/秒の条件で行われるダイナミック硬度測定において、平均硬度が0.5MPa以上である。ここで、平均硬度とは、直径50μmの平面ダイヤモンド圧子を使用して負荷速度0.5mN/秒〜3mN/秒の条件で行われるダイナミック硬度測定により得られる値をいう。このように、中空構造であって且つ平均硬度の高い(換言すれば、形状維持性の高い)活物質粒子は、より高い性能を安定して発揮する電池を与えるものであり得る。このため、例えば、内部抵抗が低く(換言すれば、出力特性が良く)、且つ充放電サイクル(特に、ハイレートでの放電を含む充放電サイクル)によっても抵抗の上昇の少ないリチウム二次電池を構築するのに寄与し得る。
【0058】
かかる活物質粒子10の製造では、特に、遷移金属溶液がニッケルを含んでいるとよい。遷移金属溶液がニッケルを含んでいる場合、核生成段階、粒子成長段階で遷移金属水酸化物が析出する際に、微小な一次粒子が複数集合した二次粒子の形態で、遷移金属水酸化物の粒子が生成される。また、焼成時の温度範囲において、かかる遷移金属水酸化物の一次粒子の形状を概ね維持しつつ結晶が成長する。なお、遷移金属溶液がニッケルを全く含んでおらず、コバルトを含んでおり、焼成によりコバルト酸リチウム(LiCoO)の粒子が生成される場合には、一次粒子の形状を維持することができずに、粒子全体が焼結されてしまう。このため、上述したような中空部16を有する活物質粒子10(図1参照)を得られ難い。
【0059】
ここに開示される技術では、前述したように、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、(003)回折面ピークの半値幅Aと、(104)回折面ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下である中空活物質粒子を正極活物質として利用することによって特徴づけられる。したがって、ここで開示される正極活物質粒子を使用する以外は、従来と同様の材料とプロセスを採用してリチウム二次電池を構築することができる。
【0060】
例えば、ここで開示される正極活物質粒子に、導電材としてアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の粉末状カーボン材料を混合することができる。また、正極活物質と導電材の他に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の結着材(バインダ)を添加することができる。これらを適当な分散媒体に分散させて混練することによって、正極活物質層形成用組成物を調製することができる。この組成物を、好ましくはアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成される正極集電体上に適当量塗布しさらに乾燥ならびにプレスすることによって、リチウム二次電池用正極を作製することができる。
【0061】
他方、対極となるリチウム二次電池用負極は、従来と同様の手法により作製することができる。例えば負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵且つ放出可能な材料であればよい。典型例として黒鉛(グラファイト)等から成る粉末状の炭素材料が挙げられる。特に黒鉛粒子は、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことからより急速充放電(例えば高出力放電)に適した負極活物質となり得る。
そして正極と同様、かかる粉末状材料を適当な結着材(バインダ)とともに適当な分散媒体に分散させて混練することによって、ペースト状の負極活物質層形成用組成物を調製することができる。この組成物を、好ましくは銅やニッケル或いはそれらの合金から構成される負極集電体上に適当量塗布しさらに乾燥ならびにプレスすることによって、リチウム二次電池用負極を作製することができる。
【0062】
ここで開示されるリチウム遷移金属酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池において、従来と同様のセパレータを使用することができる。例えばポリオレフィン樹脂から成る多孔質のシート(多孔質フィルム)等を使用することができる。
【0063】
また、電解質としては従来からリチウム二次電池に用いられる非水系の電解質(典型的には電解液)と同様のものを特に限定なく使用することができる。典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成である。上記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
また、ここで開示されるリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として用いる構成が採用される限りにおいて、構築されるリチウム二次電池の形状(外形やサイズ)には特に制限はない。外装がラミネートフィルム等で構成される薄型シートタイプであってもよく、電池外装ケースが円筒形状や直方体形状の電池でもよく、或いは小型のボタン形状であってもよい。
【0064】
以下、捲回電極体を備えるリチウム二次電池を例にして、ここで開示される正極活物質の使用態様を説明するが、本発明の構成を、かかる実施形態に限定することを意図したものではない。
【0065】
図3に示すように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、長尺状の正極シート30と長尺状の負極シート20とが長尺状のセパレータ40を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(扁平な箱型)の容器50に収容された構成を有する。
【0066】
容器50は、上端が開放された扁平な直方体状の容器本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。容器50を構成する材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましく用いられる(本実施形態ではアルミニウム)。あるいは、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなる容器50であってもよい。容器50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する正極端子70および該電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72が設けられている。容器50の内部には、扁平形状の捲回電極体80が図示しない非水電解液とともに収容される。
【0067】
上記構成の捲回電極体80を構成する材料および部材自体は、正極活物質として本実施形態の方法により得られたリチウム遷移金属酸化物を採用する以外、従来のリチウム二次電池の電極体と同様でよく、特に制限はない。本実施形態に係る捲回電極体80は、図4に示すように、捲回電極体80を組み立てる前段階において長尺状(帯状)のシート構造を有している。
【0068】
正極シート30は、長尺シート状の箔状の正極集電体32の両面に正極活物質を含む正極活物質層34が保持された構造を有している。ただし、正極活物質層34は正極シート30の幅方向の一方の側縁(図4では上側の側縁部分)には付着されず、正極集電体32を一定の幅にて露出させた正極活物質層非形成部が形成されている。負極シート20も正極シート30と同様に、長尺シート状の箔状の負極集電体22の両面に負極活物質を含む負極活物質層24が保持された構造を有している。ただし、負極活物質層24は負極シート20の幅方向の一方の側縁(図4では下側の側縁部分)には付着されず、負極集電体22を一定の幅にて露出させた負極活物質層非形成部が形成されている。
【0069】
捲回電極体80を作製するに際しては、正極シート30と負極シート20とがセパレータ40を介して積層される。このとき、正極シート30の正極活物質層非形成部分と負極シート20の負極活物質層非形成部分とがセパレータ40の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート30と負極シート20とを幅方向にややずらして重ね合わせる。このように重ね合わせた積層体を捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平状の捲回電極体80が作製され得る。
【0070】
捲回電極体80の捲回軸方向における中央部分には、捲回コア部分82(即ち正極シート30の正極活物質層34と負極シート20の負極活物質層24とセパレータ40とが密に積層された部分)が形成される。また、捲回電極体80の捲回軸方向の両端部には、正極シート30および負極シート20の電極活物質層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分82から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層34の非形成部分)84および負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層24の非形成部分)86には、正極リード端子74および負極リード端子76がそれぞれ付設されており、上述の正極端子70および負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0071】
かかる構成の捲回電極体80を容器本体52に収容し、その容器本体52内に適当な非水電解液90を配置(注液)し、捲回電極体80に染み込ませる。そして、容器本体52の開口部を蓋体54との溶接等により封止することにより、本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築(組み立て)が完成する。なお、容器本体52の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。その後、該電池のコンディショニング(初期充放電)を行う。必要に応じてガス抜きや品質検査等の工程を行ってもよい。
【0072】
以下の試験例において、ここで開示される正極活物質粒子を使用して試験用リチウム二次電池を構築し、その性能評価を行った。
【0073】
(試験例1)
<中空構造を有する活物質粒子(サンプル1〜16)の製造>
オーバーフローパイプを備え槽内温度40℃に設定された反応槽内に、イオン交換水を入れ、攪拌しつつ窒素ガスを流通させて、該イオン交換水を窒素置換するとともに反応槽内を酸素ガス(O)濃度2.0%の非酸化性雰囲気に調整した。次いで、25%水酸化ナトリウム水溶液と25%アンモニア水とを、液温25℃を基準として測定するpHが12.0となり且つ液中NH濃度が15g/Lとなるように加えた。
【0074】
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、Ni:Co:Mnのモル比が0.33:0.33:0.33となり且つこれら金属元素の合計モル濃度が1.8モル/Lとなるように水に溶解させて、混合水溶液W1を調製した。また、タングステン酸ナトリウムをタングステン元素のモル濃度が0.05モル/Lとなるように水に溶解させて、混合水溶液W2を調製した。この混合水溶液W1と混合水溶液W2と25%NaOH水溶液と25%アンモニア水とを上記反応槽内に一定速度で供給することにより、反応液をpH12.5、NH濃度5g/Lに制御しつつ、該反応液からNiCoMnW複合水酸化物を晶析させた(核生成段階)。なお、サンプル1では、上記反応液に含まれるタングステンの含有量(W添加量)は、該反応液中のタングステン以外の全ての遷移金属元素(ここではNi,Co,Mn)の合計をモル百分率で100モル%としたとき、0.5モル%となるように調節した。
【0075】
上記混合水溶液の供給開始から2分30秒経過したところで、25%NaOH水溶液の供給を停止した。上記混合水溶液および25%アンモニア水については引き続き一定速度で供給を行った。反応液のpHが11.6まで低下した後、25%NaOH水溶液の供給を再開した。そして、反応液をpH11.6且つNH濃度5g/Lに制御しつつ、上記混合水溶液、25%NaOH水溶液および25%アンモニア水を供給する操作を4時間継続してNiCoMnW複合水酸化物粒子を成長させた(粒子成長段階)。その後、生成物を反応槽から取り出し、水洗して乾燥させた。このようにして、Ni0.33Co0.33Mn0.330.005(OH)2+α(ここで、式中のαは0≦α≦0.5である。)で表わされる組成の複合水酸化物粒子を得た。
【0076】
上記複合水酸化物粒子に対し、大気雰囲気中、150℃で12時間の熱処理を施した。次いで、リチウム源としてのLi2CO3と上記複合水酸化物粒子とを、リチウムのモル数(Li)と上記複合水酸化物を構成するNi,Co,MnおよびWの総モル数(Mall)との比(Li/Mall比)が約1.15となるように混合した。この混合物を760℃で4時間焼成し、次いで950℃(最高焼成温度)で20時間焼成した。その後、焼成物を解砕し、篩分けを行った。このようにして、Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.330.0052で表わされる組成の活物質粒子サンプルを得た。
【0077】
上記の活物質粒子サンプル作製過程において、W添加量、最高焼成温度の条件を調節することにより、より具体的には、W添加量を0モル%〜0.7モル%の間で異ならせ、また、最高焼成温度を750℃〜1000℃の間で異ならせることにより、表1に示すサンプル1〜16の活物質粒子を作製した。これらの活物質粒子サンプルにつき表面SEM観察を行った。その結果、いずれの活物質粒子サンプルにおいても、一次粒子が複数集合した二次粒子にいくつかの貫通孔が形成されていることが確認された。
【0078】
サンプル1〜16の活物質粒子サンプルの粉末X線回折パターンを上記方法により測定し、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)を算出したところ、0.38〜1.12の範囲にあることが確認された。得られた活物質粒子サンプルを篩いにかけ、平均粒径(メジアン径D50)を凡そ3〜8μmとし、比表面積が凡そ0.5〜1.9m/gの範囲で調整した。
【0079】
<中実構造の活物質粒子(サンプル17〜21)の製造>
オーバーフローパイプを備え槽内温度40℃に設定された反応槽内に、イオン交換水を入れ、攪拌しつつ窒素ガスを流通させて、該イオン交換水を窒素置換するとともに反応槽内を酸素ガス(O)濃度2.0%の非酸化性雰囲気に調整した。次いで、25%水酸化ナトリウム水溶液と25%アンモニア水とを、液温25℃を基準として測定するpHが12.0となり且つ液中NH濃度が15g/Lとなるように加えた。
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを、Ni:Co:Mnのモル比が0.33:0.33:0.33となり且つこれら金属元素の合計モル濃度が1.8モル/Lとなるように水に溶解させて、混合水溶液W1を調整した。また、タングステン酸ナトリウムをタングステン元素のモル濃度が0.05モル/Lとなるように水に溶解させて、混合水溶液W2を調製した。この混合水溶液W1と混合水溶液W2と25%NaOH水溶液と25%アンモニア水とを上記反応槽内に、該反応槽内に析出するNiCoMnW複合水酸化物粒子の平均的な滞留時間が10時間となる一定速度で供給し、且つ反応液をpH12.0、NH濃度15g/Lになるように制御して連続的に晶析をさせ、反応槽内が定常状態になった後に、上記オーバーフローパイプよりNiCoMnW複合水酸化物(生成物)を連続的に採取し、水洗して乾燥させた。このようにして、Ni0.33Co0.33Mn0.330.005(OH)2+α(ここで、式中のαは0≦α≦0.5である。)で表わされる組成の複合水酸化物粒子を得た。
【0080】
上記複合水酸化物粒子に対し、大気雰囲気中、150℃で12時間の熱処理を施した。次いで、リチウム源としてのLi2CO3と上記複合水酸化物粒子とを、リチウムのモル数(Li)と上記複合水酸化物を構成するNi,Co,MnおよびWの総モル数(Mall)との比(Li:Mall)が1.15:1となるように混合した。この混合物を760℃で4時間焼成し、次いで980℃で20時間焼成した。その後、焼成物を解砕し、篩分けを行った。このようにして、Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.330.0052で表わされる組成の活物質粒子サンプルを得た。
【0081】
上記の活物質粒子サンプル作製過程において、W添加量、最高焼成温度の条件を調節することにより、表1に示すサンプル17〜21の活物質粒子を作製した。これらのサンプルの外観を上記走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、いずれのサンプルについても緻密構造であることが確認された。また、これらの活物質粒子サンプルの粉末X線回折パターンを上記方法により測定し、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)を算出したところ、0.42〜0.85の範囲にあることが確認された。
【0082】
上記サンプル1〜21の活物質粒子サンプルを用いて試験用リチウム二次電池を構築し、その性能評価を行った。ここでは正極活物質粒子のみが異なる複数サンプルの試験用リチウム二次電池を構築して、その性能を比較検討した。
【0083】
<正極シート>
上記で得られた活物質粒子サンプルと、AB(導電材)と、PVDF(結着材)とを、これらの材料の質量比が90:8:2となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、正極活物質層形成用組成物を調製した。この正極活物質層形成用組成物を厚さ15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に帯状に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。正極活物質層用組成物の塗布量は、両面合わせて約11.8mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、正極活物質層の密度が約2.3g/cmとなるようにプレスした。
【0084】
<負極シート>
負極活物質としての天然黒鉛粉末と、SBRと、CMCとを、これらの材料の質量比が98.6:0.7:0.7となるように水に分散させて負極活物質層形成用組成物を調製した。この負極活物質層形成用組成物を厚さ10μmの長尺状の銅箔(負極集電体)の両面に塗布して乾燥することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が設けられた負極シートを作製した。負極活物質層用組成物の塗布量は、両面合わせて約7.5mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、負極活物質層の密度が約1.0g/cm〜1.4g/cmとなるようにプレスした。
【0085】
<リチウム二次電池>
正極シート及び負極シートを2枚のセパレータ(多孔質ポリエチレン製の単層構造のものを使用した。)を介して積層して捲回し、その捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平状の捲回電極体を作製した。この捲回電極体を非水電解液とともに箱型の電池容器に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。非水電解液としては、ECとEMCとDMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを使用した。なお、任意にジフルオロリン酸塩(LiPO)とリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を、それぞれ単体または混合体を凡そ0.05mol/Lの割合にて溶解させた電解液を使用することもできる。このようにしてリチウム二次電池を組み立てた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って、試験用リチウム二次電池を得た。この試験用電池では、正極の充電容量と、負極の充電容量とから算出される対向容量比が1.5〜1.9に調整されている。
【0086】
<定格容量(初期容量)の測定>
次に、上記のように構築した試験用リチウム二次電池について、温度25℃、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で、次の手順1〜3によって定格容量を測定した。
手順1:1Cの定電流で3.0Vまで放電し、続いて2時間、定電圧で放電し、10秒間休止する。
手順2:1Cの定電流で4.1Vまで充電し、続いて2.5時間、定電圧で充電し、10秒間休止する。
手順3:0.5Cの定電流で3.0Vまで放電し、続いて2時間、定電圧で放電し、10秒間停止する。
そして、手順3における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を定格容量(初期容量)とした。この試験用リチウム二次電池では、定格容量が凡そ4Ahとなった。
【0087】
<SOC調整>
各試験用リチウム二次電池について、次の1、2の手順によりSOCを調整した。なお、温度による影響を一定にするため、25℃の温度環境下でSOC調整を行った。
手順1:3Vから1Cの定電流で充電し、定格容量の凡そ60%の充電状態(SOC60%)にする。ここで、「SOC」は、State of Chargeを意味する。
手順2:手順1の後、2.5時間、定電圧で充電する。
これにより、試験用リチウム二次電池は、所定の充電状態に調整することができる。
【0088】
<−30℃、SOC27%の充電状態での出力特性>
各試験用リチウム二次電池について、−30℃、かつ、SOC27%の充電状態での出力特性を測定した。該出力特性は、以下の手順で測定した。
手順1:常温(ここでは、25℃)の温度環境において、3.0Vから1Cの定電流充電でSOC27%に調整し、続いて1時間、定電圧で充電する。
手順2:上記SOC27%に調整した電池を−30℃の恒温槽にて6時間放置する。
手順3:手順2の後、−30℃の温度環境において、SOC27%から定ワット(W)にて放電する。この際、放電開始から電圧が2.0Vになるまでの秒数を測定する。
手順4:手順3の定ワット放電電圧を80W〜200Wの条件で変えながら、上記手順1〜3を繰り返す。ここでは、手順3の定ワット放電電圧を、1回目80W、2回目90W、3回目100W・・・と、定ワット放電電圧を10Wずつ上げていきながら、手順3の定ワット放電電圧が200Wになるまで、上記手順1〜3を繰り返す。
手順5:上記手順4での定ワットの条件にて測定された2.0Vまでの秒数を横軸にとり、その時のWを縦軸にとったプロットの近似曲線から2秒時のWを出力特性として算出する。
かかる出力特性は、SOC27%程度の低い充電量で、−30℃という極めて低い低温の環境に所定時間放置された場合でも、試験用リチウム二次電池が発揮し得る出力を示している。このため、上記出力特性は、Wの値が高いほど、低SOC状態でも高い出力を安定して得られることを示している。結果を表1及び図5に示す。図5は、半値幅比(A/B)と出力特性(W)との関係を示すグラフである。
【0089】
【表1】

【0090】
表1及び図5に示されるように、活物質粒子に中空部が有る場合でも中空部が無い場合でも、半値幅比(A/B)が小さいほど出力特性は向上した。ただし、活物質粒子に中空部が有る場合は、中空部が無い場合に比べて、半値幅比(A/B)の変化に対する出力の上昇率(傾き)が大きかった。特に半値幅比(A/B)が0.7以下の領域では、活物質粒子に中空部を設けることによって、110W以上という極めて高い出力の値が得られ、より出力性能に優れるものとなった(サンプル1〜11)。このことから、上記半値幅比(A/B)をここに開示される好ましい範囲に規定することによる低SOC域における出力向上については、内部に空洞のある中空構造の活物質粒子(二次粒子)を用いた場合に特に有効に発揮されることが確認された。低SOC域における出力特性向上の観点からは、活物質粒子に中空部を設け、かつ、半値幅比(A/B)を0.7以下にすることが適当であり、好ましくは0.6以下であり(サンプル1〜8)、より好ましくは0.5以下であり(サンプル1〜4)、特に好ましくは0.4以下である(サンプル1)。
【0091】
<高温保存耐久性>
各試験用リチウム二次電池について、SOC80%の充電状態で60℃保存した後の容量維持率を測定した。該測定は、以下の手順で行った。
手順1:常温(ここでは、25℃)の温度環境において、1Cの定電流充電によってSOC80%に調整し、続いて2.5時間、定電圧で充電した。
手順2:上記SOC80%に調整した電池を60℃の恒温槽に入れ、60日間保存した。
手順3:手順2の後、上述した「定格容量(初期容量)の測定」と同様の手順で容量測定を行い、これを60℃保存後容量とした。そして、次式:[(60℃保存後容量/初期容量)×100]により、60℃保存後における容量維持率(%)を算出した。結果を表1及び図6に示す。図6は、サンプル1〜16の中空構造活物質粒子を用いた電池について、半値幅比(A/B)と60℃保存後容量維持率(%)との関係を示すグラフである。
【0092】
表1及び図6に示されるように、半値幅比(A/B)が0.48〜0.71であるサンプル1〜12の活物質粒子を用いた電池によると、60℃で60日間保存した高温保存試験における容量維持率はいずれも90%以上と良好であり、極めて高い耐久性性能を示した。一方、半値幅比(A/B)が0.43以下であるサンプル1〜3の活物質粒子を用いた電池では、上記高温保存試験における容量維持率が90%を下回り、耐久性に欠けるものであった。さらに、半値幅比(A/B)が0.78以上であるサンプル13〜16に係る電池はいずれも容量維持率が90%未満であった。このことから、高温保存耐久性能を向上させる観点からは、半値幅比(A/B)は0.45〜0.75が適当であり(サンプル4〜12)、好ましくは0.5〜0.70である(サンプル5〜11)。出力特性と高温保存耐久性能との双方を満足させる観点では、半値幅比(A/B)は0.45〜0.7が適当であり(サンプル4〜11)、好ましくは0.45〜0.60である(サンプル4〜8)。
【0093】
さらに、中空構造の活物質粒子を製造するときの製造条件(最高焼成温度、焼成時間、W添加量、Li/Mall比)が半値幅比(A/B)に及ぼす影響を確認するため、以下の試験を行った。
【0094】
(試験例2)
本例では、上述したサンプル1〜16の中空構造の活物質粒子作製過程において、最高焼成温度を700〜1000℃の間で異ならせて活物質粒子を作製した。焼成時間は20時間、W添加量は0.5モル%、Li/Mall比は1.15で一定とした。得られた活物質粒子サンプルの粉末X線回折パターンを上記方法により測定し、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)を算出した。結果を図7に示す。図7は、最高焼成温度と半値幅比(A/B)の関係を示すグラフである。
【0095】
図7から明らかなように、最高焼成温度が低下するに従い半値幅比(A/B)は低下傾向を示した。ここで供試した活物質粒子サンプルの場合、半値幅比(A/B)を0.45〜0.7にするためには、最高焼成温度を850℃〜950℃にすることが好ましい。
【0096】
(試験例3)
本例では、上述したサンプル1〜16の中空構造の活物質粒子作製過程において、焼成時間(最高焼成温度のときの焼成時間)を3〜20時間の間で異ならせて活物質粒子を作製した。最高焼成温度は950℃、W添加量は0.5モル%、Li/Mall比は1.15で一定とした。得られた活物質粒子サンプルの粉末X線回折パターンを上記方法により測定し、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)を算出した。結果を図8に示す。図8は、焼成時間と半値幅比(A/B)の関係を示すグラフである。
【0097】
図8から明らかなように、焼成時間が低下するに従い半値幅比(A/B)は低下傾向を示した。ここで供試した活物質粒子サンプルの場合、半値幅比(A/B)を0.45〜0.7にするためには、焼成時間を20時間以下にすることが好ましい。
【0098】
(試験例4)
本例では、上述したサンプル1〜16の中空構造の活物質粒子作製過程において、W添加量を0〜1モル%の間で異ならせて活物質粒子を作製した。最高焼成温度は950℃、焼成時間は20時間、Li/Mall比は1.15で一定とした。得られた活物質粒子サンプルの粉末X線回折パターンを上記方法により測定し、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)を算出した。結果を図9に示す。図9は、W添加量と半値幅比(A/B)の関係を示すグラフである。
【0099】
図9から明らかなように、Wの添加により半値幅比(A/B)が顕著に低下することが確かめられた。また、W添加量が増大するに従い半値幅比(A/B)は低下傾向を示した。ここで供試した活物質粒子サンプルの場合、半値幅比(A/B)を0.45〜0.7にするためには、W添加量を0.05モル%〜1モル%にすることが好ましい。
【0100】
(試験例5)
本例では、上述したサンプル1〜16の中空構造の活物質粒子作製過程において、Li/Mall比を1.05〜1.1の間で異ならせて活物質粒子を作製した。最高焼成温度は950℃、焼成時間は20時間、W添加量は0.5モル%で一定とした。得られた活物質粒子サンプルの粉末X線回折パターンを上記方法により測定し、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)を算出した。結果を図10に示す。図10は、Li/Mall比と半値幅比(A/B)の関係を示すグラフである。
【0101】
図10から明らかなように、Li/Mall比が増大するに従い半値幅比(A/B)は低下傾向を示した。ここで供試した活物質粒子サンプルの場合、半値幅比(A/B)を0.45〜0.7にするためには、Li/Mall比を1.05以上にすることが好ましい。
【0102】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0103】
ここに開示される技術により提供されるリチウム二次電池は、上記のように優れた性能を示すことから、各種用途向けのリチウム二次電池として利用可能である。例えば、自動車等の車両に搭載されるモータ(電動機)用電源として好適に使用され得る。かかるリチウム二次電池は、それらの複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態で使用されてもよい。したがって、ここに開示される技術によると、図11に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池(組電池の形態であり得る。)100を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1が提供され得る。
【符号の説明】
【0104】
10 正極活物質粒子
12 一次粒子
14 二次粒子
15 殻部
15a 内側面
15b 外側面
16 中空部
18 貫通孔
20 負極シート
22 負極集電体
24 負極活物質層
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
40 セパレータ
50 電池容器
52 容器本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極リード端子
76 負極リード端子
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
90 非水電解液
100 リチウム二次電池




【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体に保持された活物質粒子を含む活物質層と
を備え、
前記活物質粒子は、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子であって、該二次粒子の内側に形成された中空部と、該中空部を囲む殻部とを有する中空構造を構成しており、
前記二次粒子には、外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されており、
ここで前記活物質粒子の粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が次式:(A/B)≦0.7を満たす、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記半値幅比(A/B)が次式:0.45≦(A/B)≦0.7を満たす、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記活物質粒子のうち前記中空部を囲む殻部の平均厚さが、0.1μm〜2.2μmである、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属酸化物は、少なくともニッケルを構成元素として含む層状結晶構造の化合物である、請求項1〜3の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属酸化物は、タングステンを含む層状結晶構造の化合物であり、
前記タングステンの含有量は、前記化合物中のタングステン以外の全ての遷移金属元素の合計をモル百分率で100モル%としたとき、0.05モル%〜1モル%である、請求項1〜4の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属酸化物は、以下の一般式:
Li1+xNiCoMn(1−y−z)αβ2 (1)
(式(1)中のx,y,z,αおよびβは、
0≦x≦0.2、
0.1<y<0.9、
0.1<z<0.4、
0.0005≦α≦0.01、
0≦β≦0.01を全て満足する実数であり、
Mは、存在しないか或いはZr、Mg、Ca、Na、Fe、Cr、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFから成る群から選択される1種又は2種以上の元素である。)
で示される層状結晶構造の化合物である、請求項1〜5の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記活物質粒子は、
遷移金属化合物の水性溶液にアンモニウムイオンを供給して、遷移金属水酸化物の粒子を前記水性溶液から析出させる原料水酸化物生成工程、ここで、前記水性溶液は、前記リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素の少なくとも一つを含む;
前記遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを混合して未焼成の混合物を調製する混合工程;および、
前記混合物を焼成して前記活物質粒子を得る焼成工程;
を包含する製造方法によって製造された活物質粒子である、請求項1〜6の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が複数集合した二次粒子であって、該二次粒子の内側に形成された中空部と、該中空部を囲む殻部とを有し、前記二次粒子には外部から前記中空部まで貫通する貫通孔が形成されている孔空き中空構造の活物質粒子を製造する方法であって:
遷移金属化合物の水性溶液にアンモニウムイオンを供給して、遷移金属水酸化物の粒子を前記水性溶液から析出させる原料水酸化物生成工程、ここで、前記水性溶液は、前記リチウム遷移金属酸化物を構成する遷移金属元素を少なくとも一つ含む;
前記遷移金属水酸化物とリチウム化合物とを含む未焼成の混合物を、リチウム(Li)と他の全ての構成金属元素の合計(Mall)とのモル比(Li/Mall)が、1.05〜1.2の範囲となるようにリチウム過剰に調製する工程;および、
前記混合物を700℃〜1000℃の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成して前記活物質粒子を得る焼成工程;
を包含する、該活物質粒子の粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が次式:(A/B)≦0.7を満たす活物質粒子の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程は、焼成時間が3〜20時間となるように行われる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程は、最高焼成温度が850℃〜950℃となるように行われる、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属水酸化物は、タングステンを含み、
前記タングステンの含有量は、前記遷移金属水酸化物中のタングステン以外の全ての遷移金属元素の合計をモル百分率で100モル%としたとき、0.05モル%〜1モル%である、請求項8〜10の何れか一つに記載の製造方法。
【請求項12】
前記原料水酸化物生成工程は、
前記水性溶液から前記遷移金属水酸化物を析出させる核生成段階と、
前記核生成段階よりも前記水性溶液のpHを減少させた状態で、前記遷移金属水酸化物を成長させる粒子成長段階と
を含み、
前記核生成段階での、前記水性溶液のpHが12以上13以下、および、
前記粒子成長段階での、前記水性溶液のpHが11以上12未満である、請求項8〜11の何れか一つに記載の製造方法。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−51172(P2013−51172A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189422(P2011−189422)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】