説明

リチウム化電極製造方法、本方法により得られるリチウム化電極、ならびに、この使用

本発明は、リチウム化電極の製造方法に関し:
基材上での、複数層の非リチウム化電極材料および複数層のリチウムの沈着であって、交互の非リチウム化電極材料層およびリチウム層からなり、1層の非リチウム化電極材料で始まり終わっている積層体を形成させるための沈着;
こうして形成された積層体の熱アニール化
を含む。
本発明は、本方法により得られるリチウム化電極、ならびに、本電極の使用にも関する。薄層リチウム電池の実現であり、特に、マイクロ電池の実現であり、チップカード、<<知能>>タグ、ホログラム物品、微細化通信機器、マイクロシステム;エレクトロクロミズム電池もしくは薄層超容量コンデンサーの実現である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム化電極の製造方法、本方法により得られるリチウム化電極、ならびに、本電極の使用に関する。
【0002】
第1に、このような電極は、薄層リチウム電池の、特に、チップカード構造中に入るよう意図される、特にその安全性を強化する観点におけるマイクロ電池の実現に使用され得、<<知能>>タグ、ホログラム物品もしくは微細化通信機器、携帯電話および携帯マイクロコンピューターのようなものであり、または、他にも、物理的、化学的、もしくはバイオセンサータイプのマイクロシステム、駆動機器、マイクロ流体回路、および類似したものに使用され得る。
【0003】
本発明は、エレクトロクロミズム電池もしくは薄層超容量コンデンサーの実現にも、使用され得る。
【背景技術】
【0004】
<<全固体>>マイクロ電池は、その全成分(電流コレクター、陽極および陰極、電解質)が薄層の形をしており、合わせて10〜15μmのオーダーの厚さである活性な積層体を構成する電池である。この活性な積層体は、その周りの媒体、特に湿気から保護するのに適する材料中でカプセル化され、これも、薄いフィルムの形をしている。
【0005】
これらのマイクロ電池の機能の原則は、その陽極における、アルカリ金属イオンもしくはプロトンの挿入および脱挿入(インターカレーション−脱インターカレーション)上で成り立っている。最も多くの場合、金属リチウム電極から出るリチウムイオンである。
【0006】
これら薄層は、蒸気相中での物理的沈着(つまり、PVD、物理的蒸着)により、もしくは、蒸気相中での化学的沈着(つまり、CVD、化学的蒸着)により実現され、これらを構成する材料の性質によっている。種々の材料が実際、使用され得る。これゆえ、例えば:
その電流コレクターは金属であり、白金、クロム、金、もしくはチタン主体たり得る
その陽極は、LiCoO、LiNiO、LiMn、CuS、CuS、WOySz、TiOySz、もしくはVで構成され得る
その電解質は、良好なイオン伝導体および電子絶縁体の両方でなければならず、酸化硼素、酸化リチウム、もしくはリチウム塩主体のガラス材料であり得、特に、LiPONもしくはLiSiPONのようなリチウム化燐酸主体であり、これらは今日、最も有能な電解質を代表している
その陰極は、金属リチウム、リチウム主体の合金、または、SiTON、SnNx、InNx、もしくはSnOタイプの挿入化合物から形成され得る
そのカプセル化材料は、セラミック、ヘキサメチルジシロキサンもしくはペリレンタイプのポリマー、または金属であり得、さもなければ、これら材料により構成される種々の層の重なりにより形成され得る。
【0007】
使用される材料により、<<全固体>>マイクロ電池の作動電圧は、1〜4ボルトであり、一方、その表面容量は、数十マイクロアンペア時/cmのオーダー(桁)である。
【0008】
これらマイクロ電池は、数多くの利点を持つ。特に、それらを構成する部品の、固体であるとの特徴およびより具体的には薄層であるとの特徴が、大きく種々の形および表面においてそれらを生産することを可能ならしめ、高速これゆえ低コストでのオートメーション化された産業生産の潜在性を有する。加えて、マイクロ電池の再充電は一般的に、数分の充電後に、完全になる。
【0009】
実際提案されている殆どのマイクロ電池が、イオン種としてリチウムイオンを使用し、その電極を形成している材料の1つにより与えられる。一般的に、これは、金属リチウムでできた陰極(陽極)、または、例えば、混合酸化物コバルト/リチウム、ニッケル/リチウム、もしくはマンガン/リチウムのようなリチウム化挿入材料からなっている陽極(陰極)である。
【0010】
今、これらの解決案の各々が、主要な不便さを持つ。リチウムの融点が181℃であるので、金属リチウム陽極は、上昇した温度においてマイクロ電池を使用する可能性を強く限ってしまう。加えて、金属リチウムが非常に、周りの媒体に対して反応性であり、このタイプの陽極はカプセル化を必要とし、コストがかかっている。
【0011】
該混合酸化物タイプのリチウム化挿入材料の陰極としての使用は、これ自体が、この材料の、非常な高温での、つまり600℃のオーダー(桁)以上での、熱アニール化を実施することを必要とし、その結晶化を促進し、リチウムイオンを挿入/脱挿入する適合性を増加させる。今、このようなアニール化は、マイクロ電池の、マイクロシステム中での組み立てには相容れず、<<IC上>>と言われる手法により、これは、これらのマイクロ電池を、集積回路上部に入れることを狙い、これらは実際、このような温度に耐えることができていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らはこれゆえ、前述した不便のない、リチウムマイクロ電池、一般的には全ての薄層リチウム電池構造体中に入るようなリチウム化電極の取り付け目的に向かう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの目的も他の目的も、リチウム化電極の製造方法により達成され、これは:
基材上での、複数の非リチウム化電極材料層および複数のリチウム層の沈着であって、交互の非リチウム化電極材料層およびリチウム層からなっている積層体を形成し、この積層体が、非リチウム化電極材料層により始まり終わっている沈着;ならびに
こうして形成された積層体の熱アニール化
を含む。
【0014】
こうして、本発明による方法は、リチウム電池中で従来から使用されるタイプの非リチウム化電極材料を使用することを予見し、こうして、300℃を超える温度においてアニールすることを必要とせず、これをin situでリチウム化し、複数層のこの非リチウム化電極材料を、複数層のリチウム(これはもはや、上昇した温度に頼ることを必要としない)に組み合わせていき、次いで、これらの層の組み合わせを、熱アニール化に付していって、こうして、該リチウムの、該非リチウム化電極材料中での拡散を促進させる。
【0015】
こうして、最終的に、リチウム含有単一材料から形成される電極を得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一般的に、該基材上での非リチウム化電極材料層およびリチウム層の沈着後、該電極が、均一な組成を持つのが望ましい。
【0017】
本発明によれば、均一な組成が、該熱アニール化により、該リチウムの拡散を促進していって得られるが、該基材上で沈着させる非リチウム化電極材料層およびリチウム層の数を多くしていっても、得られる。
【0018】
また、本発明による方法はこれゆえ好ましくは、該基材上での:
a)非リチウム化電極材料層の
b)リチウム層の
c)非リチウム化電極材料層の
沈着を含み、ステップb)およびc)の、1〜30回の繰り返しが、探求される組成の均一さのレベルにより、これは結果的に、3〜32層の非リチウム化電極材料を、2〜31層のリチウムにつき含んでいる積層体に至る。
【0019】
好ましくはまた、該熱アニール化は、100〜300℃に亘っている温度において、中性雰囲気、例えばアルゴン下で実施され、このような温度が、その融点のために、該リチウムの拡散を促進するのに充分である。
【0020】
特に、該熱アニール化は、温度約200℃において約1時間、in situであり、つまり非リチウム化電極材料層およびリチウム層の沈着が該基材上で実施されるのと同一チャンバー中であり、または、もう1つ別のチャンバー中である。
【0021】
該基材上での、非リチウム化電極材料層およびリチウム層の沈着は、従来の薄層沈着手法により、特にPVD手法により、実施され得る。特に、該非リチウム化電極材料層を、ラジオ周波数(つまりRF)スパッタによるかもしくは直流(つまりDC)スパッタにより、沈着させ、一方、該リチウム層を、真空下での熱エバポレーションにより、沈着させる。
【0022】
本発明による方法が、300℃を上回る温度を必要としていない操作を全く包含しないとの事実のために、薄層電池の第1もしくは第2の電極を、異なることなく製造することを可能ならしめ、これら電極は、陰極もしくは陽極の役割を演じることができる。また、該基材は、電流コレクター(第1の電極の製造)でもあり得、電解質が既に、電極および電流コレクターに組み合わされている(第2の電極の製造)。
【0023】
本発明によれば、該非リチウム化電極材料は当初はリチウムを含有していない全ての材料であり得るが、この元素を挿入でき、特に、リチウム電池中の陽極もしくは陰極として従来から使用される全ての非リチウム化材料であり得、但し、層として、特に薄層として、つまり厚さが厚くとも5μmに等しい層として、沈着され得るものである。
【0024】
従来から陽極として使用される非リチウム化材料の例としては、酸化バナジウム、例えばV、酸化マンガン、硫化銅(CuS、CuS等)、オキシ硫化チタンTiOySz、およびオキシ硫化タングステンWOySzに触れることができ、一方、従来から陰極として使用される非リチウム化材料の例としては、硅素およびこの合金(NiSi、FeSi等)、錫およびこの合金(CuSn、SnSb、NiSn等)、炭素、窒化インジウムInNx、窒化錫SnNx、酸化錫、例えばSnO、酸化コバルト、例えばCo、および、オキシ窒化錫およびオキシ窒化硅素(SiTON)に触れることができる。
【0025】
本発明によれば、脱有機化構造を有するアモルファス(非晶質)炭素(a:CH)、CxN、もしくはCxSを、非リチウム化電極材料として使用することも、できる。
【0026】
有利には、該非リチウム化電極材料層が各々、厚さ約50nm〜1μmを持ち、一方、該リチウム層が各々、厚さ約10nm〜0.5μmを持つ。
【0027】
本発明による方法は、多くの利点を持つ。特に、2種の異なる材料の、層の形での、基材上での沈着を包含するが、リチウム電池中での陰極もしくは陽極として働き得る均一なリチウム化材料が生産されるのを可能ならしめる。該電極の製造の間、該非リチウム化電極材料に加えられるリチウム量を制御できる可能性をも提供し、この量を、使用される非リチウム化電極材料のタイプに従い、最適化する。
【0028】
作動させるのに簡単であるという、約300℃を上回る温度を必要としている如何なる操作をも包含していないという、そして結果的に、マイクロエレクトロニクスにおいて使用される産業生産プロセスと、特に、マイクロシステム中の<<IC上>>配置で組み立てられるマイクロ電池と完全に相容れるという利点をも持つ。
【0029】
本発明の主題は、上で定義されたようなプロセスにより得られるリチウム化電極でもある。
【0030】
本発明の尚もう1つ別の主題は、上で定義されたようなリチウム化電極を包含する薄層リチウム電池であり、その電極は、陰極として、もしくは、陽極として、作用し得る。
【0031】
特に、このリチウム電池は、マイクロ電池である。
【0032】
本発明の他の特徴および利点が、下の残りの記述を読むと、より明確に明らかとなり、これは、本発明により製造されたリチウム化電極を含んでいるマイクロ電池の実施形態の2つの例に関する。
【0033】
勿論、これらの実施例は単に、本発明の構成要件を例示するのに与えられるだけであり、いずれにしても、本構成要件の限定を構成しない。
【実施例】
【0034】
実施例1:V/LiPON/Li22Siマイクロ電池の生産
*第1の電極として、V
*電解質として、LiPON層
*第2の電極として、Li22Si
を含んでいるマイクロ電池が、多標的ALCATEL650チャンバー(スッパタの標的の直径:150mm)中で生産された。
【0035】
層が従来どおり、つまりRFもしくはDCスパッタにより生産され、バナジウムもしくはV標的を使用し、酸素存在下、白金上、それ自体が、シリコン基板上で沈着された。LiPON層も、従来どおり、RFスパッタにより、LiPO標的を窒素存在下に使用しながら、生産された。
【0036】
Li22Si層自体が、沈着により、LiPON層上で生産され、5層のシリコン層が各々150nmの厚さであり、互いから、厚さ100nmのリチウム層により分離され、こうして得られた多層を、200℃アルゴン雰囲気中でのアニール化操作に1時間付していくことによった。
【0037】
本硅素層が、RFスパッタにより沈着され、硅素標的を使用し、以降の条件下であった。
電力:200W
1.3Paアルゴン雰囲気
基材/標的距離:90mm
沈着速度:0.6μm/時間
【0038】
本リチウム層が、熱エバポレーションにより沈着され、金属リチウム標的を使用し、以降の条件下であった。
冷やされていない基材
基材/標的距離:95mm
残存圧力:10−6ミリバール
電力:110A
沈着速度:0.8μm/時間
【0039】
同一のマイクロ電池を、電流コレクター上でLi22Si層を生成させることから始めて、次いで引き続き、LiPON層およびV層を沈着させていくことにより製造することが完全に可能であることが、特記される。
【0040】
実施例2:LiTiOS/LiPON/Siマイクロ電池生産
*第1の電極として、LiTiOS層
*電解質として、LiPON層
*第2の電極として、硅素層
を含んでいるマイクロ電池が、多標的ALCATEL650チャンバー(スッパタの標的の直径:150mm)中で生産された。
【0041】
LiTiOS層が、沈着により白金上で生産され、それ自体が、シリコン基板上で沈着され、10層のTiOS層が各々100nmの厚さであり、互いから、厚さ50nmのリチウム層により分離され、こうして得られた多層を、200℃アルゴン雰囲気中でのアニール化操作に1時間付していくことによった。
【0042】
本TiOS層が、RFスパッタにより沈着され、チタン標的およびアルゴン/HS雰囲気を使用し、以降の条件下であった。
電力:500W
0.2Paアルゴン/HS雰囲気
基材/標的距離:90mm
沈着速度:0.67μm/時間
【0043】
本リチウム層が、熱エバポレーションにより沈着され、金属リチウム標的を使用し、実施例1において使用されたのと同一条件下であった。
【0044】
次に、本LiPON層および硅素層が、従来どおり、つまりRFスパッタにより生成され、本LiPON層の場合、窒素存在下にLiPO標的を使用してRFもしくはDCスパッタにより、本硅素層の場合、アルゴン雰囲気下に硅素標的を使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化電極の製造方法であって:
基材上での、複数層の非リチウム化電極材料および複数層のリチウムの沈着であって、交互の非リチウム化電極材料層およびリチウム層からなり、非リチウム化電極材料層で始まり終わっている積層体を形成させるための沈着;ならびに
こうして形成された多層の熱アニール化
を含む、方法。
【請求項2】
前記基材上での:
a)非リチウム化電極材料層の;
b)リチウム層の;および
c)非リチウム化電極材料層の
沈着を含み、ステップb)およびc)が1〜30回繰り返される、請求項1の方法。
【請求項3】
前記熱アニール化が、100〜300℃に亘っている温度において、中性雰囲気下で実施される、請求項1もしくは2の方法。
【請求項4】
前記熱アニール化が、温度約200℃において約1時間実施されることを特徴とする、請求項3の方法。
【請求項5】
前記非リチウム化電極材料層が、スパッタにより沈着される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
前記リチウム層が、真空下での熱エバポレーションにより沈着される、請求項1〜5のいずれか1項の方法。
【請求項7】
前記非リチウム化電極材料が、酸化バナジウム、酸化マンガン、硫化銅、オキシ硫化チタン、およびオキシ硫化タングステンから選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項の方法。
【請求項8】
前記非リチウム化電極材料が、硅素およびこの合金、錫およびこの合金、炭素、窒化インジウム、窒化錫、酸化錫、酸化コバルト、およびSiTONから選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項の方法。
【請求項9】
前記非リチウム化電極材料層が各々、厚さ約50nm〜1μmを持つ、請求項1〜8のいずれか1項の方法。
【請求項10】
前記リチウム層が各々、厚さ約10nm〜0.5μmを持つ、請求項1〜9のいずれか1項の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項の方法により得られる、リチウム化電極。
【請求項12】
請求項11のリチウム化電極を含んでいる、薄層リチウム電池。
【請求項13】
マイクロ電池である、請求項12のリチウム電池。

【公表番号】特表2008−508671(P2008−508671A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523136(P2007−523136)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050633
【国際公開番号】WO2006/021718
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】