リチウム混合金属酸化物カソード組成物及びそれを組み込んだリチウムイオン電気化学セル
式Li[LixMnaNibCocMd]O2(式中、MはMn、Ni又はCo以外の金属であり、x+a+b+c+d+e=1であり、x≧0であり、b>aであり、0<a≦0.4であり、0.4≦b<0.5であり、0.1≦c≦0.3であり、0≦d≦0.1である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物を提供する。組成物は、2族又は13族の元素から少なくとも2種のドーパントを有することができる、リチウム遷移金属酸化物を含むことができる。遷移金属酸化物は、マンガン、コバルト及びニッケルから選択される1種又はそれ以上の物質を含むことができる。提供される組成物は、高い比容量及び高い熱安定性を有するカソード材料を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本案件は、2007年5月7日に出願された米国仮特許出願第60/916,472号及び2008年1月25日に出願された米国仮出願特許第61/023,447号、並びに2008年3月27日に出願された米国特許出願第12/056,769号に対する優先権を主張し、それらの全文を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0002】
(発明の分野)
リチウムイオン電池のカソードとして有用な組成物並びにそれを調製及び使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
2次リチウムイオン電池は、典型的には、アノード、電解質及びリチウム遷移金属酸化物の形態のリチウムを含有するカソードを含む。用いられてきた遷移金属酸化物の例としては、リチウムコバルト二酸化物、リチウムニッケル二酸化物、及びリチウムマンガン二酸化物が挙げられる。カソードに用いられてきた他の代表的なリチウム遷移金属酸化物材料としては、コバルト、ニッケル及び/又はマンガン酸化物の混合物が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのリチウム遷移金属酸化物材料はいずれも、高初期容量、高熱安定性、及び充放電サイクルを繰り返した後の良好な容量保持の最適な組み合わせを示さない。提示するカソード材料の目的は、エネルギー密度が高く、かつ熱安定性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン正極組成物を提供することである。提示するカソード材料の別の目的は、これらの正極を使用して、同様の特性を有するリチウムイオン電池を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様では、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物であって、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、カソード組成物を提供する。提供されるカソード組成物は、リチウムイオン電気化学セルに組み込まれたとき、既知の材料と比べて、容量安定性とともに改善された電気化学サイクル性能を呈することができる。
【0006】
別の態様では、アノードと、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0である)を有する組成物を含むカソードとを含む、リチウムイオン電気化学セルであって、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、リチウムイオン電気化学セルを提供する。また、少なくとも2つの電気化学セルを含むリチウムイオン電池を提供する。
【0007】
更に別の態様では、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2を有するカソード組成物の前駆体を混合する工程と、該前駆体を加熱して、組成物を生成する工程と、を含むカソード組成物の製造方法であって、式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0であり、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態であるカソード組成物の製造方法を提供する。
【0008】
本明細書では、
冠詞「a」、「an」、及び「the」は、「少なくとも1つの」と互換的に用いられ、記載される要素の1つ以上を意味する。
【0009】
用語「リチオ化する」及び「リチオ化」とは、リチウムを電極材料に加えるプロセスを指す。
【0010】
用語「脱リチオ化する」及び「脱リチオ化」とは、電極材料からリチウムを除去するプロセスを指す。
【0011】
用語「充電する」及び「充電」は、電気化学エネルギーをセルに供給するためのプロセスを指す。
【0012】
用語「放電する」及び「放電」は、例えばセルを使用して所望の作業を実行するときに、セルから電気化学エネルギーを取り除くためのプロセスを指す。
【0013】
語句「正極」とは、放電プロセス中に電気化学的還元及びリチオ化が生じる電極(多くの場合、カソードと呼ばれる)を指す。
【0014】
語句「負極」とは、放電プロセス中に電気化学的酸化及び脱リチオ化が生じる電極(多くの場合、アノードと呼ばれる)を指す。
【0015】
提供される正極(又はカソード)組成物及びこれらの組成物を組み込んだリチウムイオン電気化学セルは、高い性能特性と優れた安全特性の相乗的組み合わせを呈することができる。高い性能特性としては、例えば、高い初期比容量及び充放電サイクルを繰り返した後の良好な比容量保持が挙げられる。優れた安全特性としては、高温において相当量の熱を発生しない、低い自己発熱速度、及び高い発熱開始温度のような特性が挙げられる。いくつかの実施形態では、提供される組成物は、これらの特性のうちのいくつか、又は更には全てを呈する。
【0016】
1つ以上の実施形態の詳細は、添付図面及び以下の明細書に記載される。他の特徴、目的及び利点は、明細書及び図面により、並びに請求の範囲により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1a】比較の目的で含まれる3種の組成物の自己発熱速度対温度のグラフ。
【図1b】比較の目的で含まれる3種の組成物の自己発熱速度対温度のグラフ。
【図2a】Mn0.33Ni0.49Co0.18(OH)2の走査電子顕微鏡(SEM)の顕微鏡写真。
【図2b】Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の走査電子顕微鏡(SEM)の顕微鏡写真。
【図3】3つの実施形態の、電位(V)対比容量(mAh/g)のグラフ。
【図4】2つの実施形態の、比放電容量(mAh/g)対電流(mA/g)のグラフ。
【図5】提供されるカソード組成物を含む2種のコイン型セルの比放電容量(mAh/g)対サイクル数のグラフ。
【図6a】カソード組成物の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図6b】カソード組成物の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図7】予備実施例1で生成した化合物の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図8a】予備実施例3及び4に従って生成した2種の組成物の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図8b】予備実施例5及び6により生成した、提供されるカソード組成物の2つの追加実施形態の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図9】提供されるカソード材料を含有する4種のコイン型セルの比放電容量(mAh/g)対サイクル数のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
数字範囲の詳細説明には、その範囲内の全ての数が包含される(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4及び5を含む)。本明細書の全ての数値は、「約」という用語により修飾されると見なされる。
【0019】
1つの態様では、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物であって、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、カソード組成物を提供する。提供されるカソード組成物は、リチウムイオン電気化学セルに組み込まれたとき、既知の材料と比べて、容量安定性とともに改善された電気化学サイクル性能を呈することができる。いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2(式中、M1及びM2は2族及び13族の元素から選択される異なる金属であり、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0.02≦d+e≦0.30であり、各d及びeは>0である)を有することができ、前記組成物は層状O3結晶構造を有する単相の形態である。これらのカソード組成物は、リチウムイオン電気化学セルに組み込まれたとき、既知の材料と比べて、改善された電気化学サイクル性能及び容量安定性を呈することができる。いくつかの実施形態では、組成物は、組成物中に、MnaNibCocM1dM2eのモル量に基づいて、約0.5当量〜約1.2当量のリチウムを含有することができる。当量とは、組成物中のMnaNibCocM1dM2e 1モル当たり、約0.5〜約1.2モルのリチウムが存在することを意味する。他の実施形態では、組成物中のMnaNibCocM1dM2e 1モル当たり、約0.9当量〜約1.2当量のリチウムが存在する。組成物中のリチウムの量は、リチウムイオン電池に組み込んだときのカソードの充放電状態に応じて変動することができる。リチウムは、充放電中カソードからアノードへ、及びアノードからカソードへ移動することができる。リチウムが最初にカソードからアノードへ移動した後、元々カソード材料内にあったリチウムの一部はアノードに残ることができる。このリチウム(不可逆容量として測定される)は、通常、カソードには戻らず、通常、電池を更に充放電にするのに有益ではない。その後の充放電サイクル中、より多くのリチウムがサイクルで利用できなくなる可能性がある。(Li+Lix)は、上式に示すような提供されるカソード組成物中のリチウムのモル量を表す。電池中のカソードの充電のいくつかの状態では、−0.5≦x≦0.2、−0.3≦x≦0.2、−0.1≦x≦0.2、又は0≦x≦0.2である。
【0020】
いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)並びにこれらの組み合わせから選択される遷移金属を含むことができる。Mnの量は、リチウム及び酸素を除いた、カソード組成物の総質量を基準として、約0〜約80モルパーセント(モル%)、20モル%超〜80モル%、又は約30モル%〜約36モル%の範囲であることができる。Niの量は、リチウム及び酸素を除いた、カソード組成物の、約0〜約75モル%、20モル%超〜約65%、又は約46モル%〜約52モル%の範囲であることができる。Coの量は、リチウム及び酸素を除いた、カソード組成物の、約0〜約88モル%、20モル%超〜約88モル%、又は約15モル%〜約21モル%の範囲であることができる。
【0021】
提供される組成物は、少なくとも2種の追加材料M1及びM2を含有することができ、これらを以後ドーパントと呼ぶ。ドーパントは周期表の2族及び13族の元素から選択することができる。2族の元素としては、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaが挙げられ、いくつかの実施形態ではMg及び/又はCaが好ましい。13族の元素としては、例えば、B、Al、Ga、In及びTlが挙げられ、いくつかの実施形態ではAlが好ましい。いくつかの実施形態では、ドーパントは、アルミニウム、ホウ素、カルシウム及びマグネシウムから選択することができる。提供される組成物には、少なくとも2種のドーパントが存在する。ドーパントは、ドーパントの総量がLixMnaNibCocM1dM2e(式中、x、a、b、c、d及びeは上記のように定義され、x+a+b+c+d+e=1である)のモル数を基準として、約2モル%〜約30モル%の範囲であるように、提供される組成物中に存在することができる。
【0022】
いくつかの他の実施形態では、カソード組成物は遷移金属としてNi及びCoのみを含有することができる(a=0、b>0、及びc>0)。他の実施形態では、組成物は遷移金属としてMn及びCoのみを含有することができる(b=0、a>0、及びc>0)。更に他の実施形態では、組成物は遷移金属としてNi及びMnのみを含有することができる(c=0、a>0、及びb>0)。Mn、Ni及びCoのうち少なくとも1種が、提供される組成物中に存在することができる。少なくとも2種のドーパント、M1及びM2が、提供される組成物中に存在することができる。
【0023】
d及びeの濃度は独立に変動することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約0.1、少なくとも約0.2、少なくとも約1.0、少なくとも約2.0、少なくとも約3.0、少なくとも約5.0、少なくとも約10.0、又は更には少なくとも12.0(全てモル%)の第1材料(例えば、「d」)が用いられ、残部は第2材料(例えば「e」)からなる。それらが異なるとき、d又はeのうちより少量のものは、≧0であり、好ましくは少なくとも約0.1、0.2、0.5、0.75、1.0、2.0又は更に多い(全てモル%)。e又はdのうちより多量のものは、それらが異なるとき、<30、<25、<20、<15、<12、<10.0、<8.0、<5.5、又は更に少ない。他の実施形態では、dのeに対する比(又は逆も同様)は、少なくとも約2、3、5、10又は更に大きい場合がある。
【0024】
別の実施形態では、式Li[LixMnaNibCocM1d]O2(式中、M1はMn、Ni又はCo以外の金属であり、x+a+b+c+d=1であり、x≧0であり、b>aであり、0<a≦0.4であり、0.4≦b<0.5であり、0.1≦c≦0.3であり、及び0≦d≦0.1である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物であって、前記組成物がO3結晶構造を有する単相の形態であることを特徴とするカソード組成物を提供する。M1は、Al、Ti、Mg及びこれらの組み合わせから成る群から選択してよい。カソード組成物の具体例としては、式Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2及びLi[Li0.04Mn0.29Ni0.48Co0.19]O2を有するものが挙げられる。
【0025】
X線回折(XRD)試験法を用いて、これらの材料がO3結晶構造を有する単相の形態であることを示すことができる。
【0026】
カソード組成物は、任意の好適な方法、例えば、ジェットミリングにより、又は金属元素の前駆体(例えば、水酸化物、硝酸塩等)を混合し、続いて加熱してカソード組成物を生成させることにより、合成されることができる。加熱は、好ましくは、空気中で、少なくとも約600℃、例えば少なくとも約800℃であるが、好ましくは約950℃を超えない最高温度で行う。いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物の製造方法は、最終組成物(リチウム及び酸素を除いた)中に所望される金属の可溶性塩の化学量論的量をとり、それを水性混合物に溶解させることによる、所望の組成物の可溶性前駆体の共沈を含むことができる。例として、硫酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物塩を利用することができる。組成物を提供するための前駆体として有用な代表的な硫酸塩としては、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム及び硫酸カルシウムが挙げられる。次いで、水酸化アンモニウム又は当業者に既知である別の好適な塩基を添加することにより、水性混合物を塩基性(約9を超えるpH)にすることができる。高pHで可溶性ではない金属水酸化物は析出し、十分に濾過、洗浄及び乾燥してブレンドを形成することができる。このブレンドに、炭酸リチウム、水酸化リチウム、又は組み合わせを添加して、混合物を形成することができる。いくつかの実施形態では、混合物は、それを約750℃超かつ約950℃未満の温度に、1〜10時間の間加熱することにより、焼結することができる。次いで、混合物を約1000℃超の温度に、安定な組成物が形成されるまでの更なる期間加熱することができる。この方法は、例えば、米国特許公開第2004/0179993号(ダーン(Dahn)ら)に開示されており、当業者に既知である。
【0027】
あるいは、いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、例えば、米国特許第7,211,237号(エバーマン(Eberman)ら)に開示されている固体状態合成により生成されることができる。この方法を用いて、所望の組成物の金属酸化物前駆体は、共に湿式粉砕されると同時に、粉砕された成分にエネルギーを付与して、それを、リチウムを含むよく分散した金属を含有する超微粒子状スラリーに形成することができる。提供される組成物を生成するために好適な金属酸化物としては、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウム、ホウ素、カルシウム及びマグネシウムの酸化物、並びにそれら金属の水酸化物及び炭酸塩が挙げられる。代表的な前駆体物質としては、水酸化コバルト(Co(OH)2)、酸化コバルト(CoO及びCo3O4)、炭酸マンガン(Mn2Co3)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、炭酸ニッケル(Ni2Co3)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、炭酸アルミニウム(Al2Co3)、酸化ホウ素(B2O3)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、酸化カルシウム(CaO)及び炭酸カルシウム(CaCO3)が挙げられる。炭酸リチウム(Li2Co3)及び水酸化リチウム(LiOH)のような、好適なリチウム含有酸化物及び/又は酸化物前駆体を用いて、リチウムをカソード組成物に組み込むことができる。必要に応じて、上記で指名した前駆体のいずれかの水和物を、この方法で使用することができる。米国特許第5,900,385号(ダーン(Dahn)ら)、同第6,660,432号(ポールセン(Paulsen)ら)、同第6,964,828号(ルー(Lu)ら)、米国特許公開第2003/0108793号(ダーン(Dahn)ら)、及び米国特許出願第60/916,472号(チャン(Jiang))に論じられているもののような、錯体混合金属酸化物を、添加された追加の金属酸化物前駆体とともに用いて、化学量論の所望の最終カソード組成物を形成できることも考えられる。所望の最終カソード組成物(リチウムを含む)の化学量論に基づいた所望の適切な量の前駆体を湿式粉砕してスラリーを形成することができる。粉砕したスラリーを、十分な時間、十分な温度で燃やす、焼成する、焼結する又は別の方法で加熱して、所望の単相化合物を形成することができる。代表的な加熱サイクルは、空気雰囲気中にて、少なくとも10℃/分で、約900℃の温度にすることである。更なる選択肢は、例えば、米国特許第7,211,237号(エバーマン(Eberman)ら)で論じられている。
【0028】
いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、リチウムイオン電池に組み込まれ、複数の充放電サイクルを繰り返したとき、高い比容量(mAh/g)保持を有することができる。例えば、提供されるカソード組成物は、電池がLiに対して2.5〜4.3Vで充放電サイクルし、温度がおよそ室温(25℃)に維持されているとき、C/2レートにおいて50回、75回、90回、100回又は更に多い回数の充放電サイクルの後、約130mAh/gを超える、約140mAh/gを超える、約150mAh/gを超える、約160mAh/gを超える、約170mAh/gを超える、又は更には180mAh/gを超える比容量を有することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、以下の実施例の項に記載するような加速速度熱量計(ARC)における自己発熱の発熱開始温度を有することができる。ARC試験は、例えば、J.チャン(J.Jiang)ら、Electrochemistry Communications、第6巻、39〜43頁(2004年)に記載されている。提供される組成物は、約140℃超、約150℃超、約160℃超、約170℃超、約180℃超、約190℃超、又は更には約200℃超の発熱開始温度を有することができる。提供されるカソード組成物は、約300℃未満の温度で、約20℃/分未満、約15℃/分未満、約10℃/分未満、又は約5℃/分未満である最大自己発熱速度を有することができる。自己発熱速度、したがって最大自己発熱速度は、ARC試験で測定することができ、例えば図1、2A及び2Bに示し、以下の実施例の項で説明するように、dT/dt対温度のグラフ上に、最大値として可視化することができる。
【0030】
LixMnaNibCocM1dM2e(x、a、b、c、d及びeは上記定義の通りであり、合計1である)のモル数を基準として、全てのドーパントの総量が約2モル%〜約30モル%の範囲であるような量で、リチウム金属酸化物カソード組成物に組み込まれるとき、2族及び13族の元素から選択される少なくとも2種の異なるドーパントを含む、提供される材料を用いて、サイクル後に高い比容量を保持すると同時に高い発熱開始温度も維持する驚くべき相乗的組み合わせを示し、リチウムイオン電気化学セル又は電気化学セルの電池内で低い最大自己発熱速度を有するカソードを生成することができる。したがって、高い熱安定性及び良好な容量保持はともに、他の所望の電池特性とともに実現することができる。
【0031】
提供されたカソード組成物からカソードを生成するために、結合剤、導電性希釈剤、充填剤、接着促進剤、カルボキシメチルセルロース(CMC)のようなコーティング粘度を変化させるための増粘剤、及び当業者に既知である他の添加剤のような任意の選択した添加剤を、水又はN−メチルピロリドン(NMP)のような好適なコーティング溶媒中で混合して、コーティング分散液又はコーティング混合物を形成することができる。コーティング分散液又はコーティング混合物を十分に混合し、次いでナイフコーティング、切欠き棒コーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、電気スプレーコーティング、又はグラビアコーティングのような任意の適切なコーティング技術により、箔集電器に適用することができる。集電器は、典型的には、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、又はニッケル箔のような、導電性金属の薄箔であることができる。スラリーを集電器箔上にコーティングして、次に空気中で乾燥させ、これに続き、通常は、加熱したオーブン内で典型的には約80℃〜約300℃にて約1時間乾燥させて、溶媒を全て取り除くことができる。
【0032】
提供されるカソード組成物から作られたカソードは、結合剤を含むことができる。代表的なポリマー結合剤としては、エチレン、プロピレン、又はブチレンモノマーから調製したもののようなポリオレフィン;フッ化ビニリデンモノマーから調製したもののようなフッ素化ポリオレフィン;ヘキサフルオロプロピレンモノマーから調製したもののような全フッ素化(perfluorinated)ポリオレフィン;全フッ素化ポリ(アルキルビニルエーテル);全フッ素化ポリ(アルコキシビニルエーテル);芳香族、脂肪族若しくは脂環式ポリイミド又はこれらの組み合わせが挙げられる。ポリマー結合剤の具体例としては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、及びプロピレンのポリマー又はコポリマー、並びにフッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンのコポリマーが挙げられる。本開示のカソード組成物で用いることができる他の結合剤としては、共同出願された(co-owned application)米国特許出願第11/671,601号(レー(Le)ら)に開示されているようなリチウムポリアクリレートが挙げられる。リチウムポリアクリレートは、水酸化リチウムによって中和したポリ(アクリル酸)から生成することができる。米国特許出願第11/671,601号は、ポリ(アクリル酸)が、アクリル酸若しくはメタクリル酸の任意のポリマー若しくはコポリマー、又は少なくとも約50モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約80モル%、若しくは少なくとも約90モル%のコポリマーが、アクリル酸又はメタクリル酸を使用して生成されている場合、それらの誘導体を含むことを開示している。これらのコポリマーを形成するために使用できる有用なモノマーとしては、例えば、1〜12個の炭素原子を持つアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル(分枝状又は非分枝状)、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、ヒドロキシルアルキルアクリレート等が挙げられる。
【0033】
提供されるカソード組成物の実施形態はまた、粉末化されたカソード組成物から集電器への電子の移動を促進するために、導電性希釈剤を含むことができる。導電性希釈剤としては、炭素(例えば、負極用カーボンブラック、並びに正極用のカーボンブラック及び一次黒鉛等)、金属、金属窒化物、金属炭化物、金属ケイ化物及び金属ホウ化物が挙げられるが、これらに限定されない。代表的導電性炭素希釈剤としては、スーパーP及びスーパーSカーボンブラック(共にMMMカーボン社(MMM Carbon)、ベルギー)のようなカーボンブラック、シャワニガンブラック(SHAWANIGAN BLACK)(シェヴロン・ケミカル社(Chevron Chemical Co.)、テキサス州ヒューストン(Houston))、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、グラファイト、炭素繊維及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
いくつかの実施形態では、カソード組成物は、カソード組成物又は導電性希釈剤の結合剤への接着を促進する、接着促進剤を含むことができる。接着促進剤と結合剤との組み合わせにより、繰り返されるリチオ化/脱リチオ化のサイクル中に、粉末化された材料中で発生することがある体積変化に、カソード組成物がより適応するのを助けることができる。結合剤は、接着促進剤の添加を必要としないように、金属及び合金に十分に良好な接着性をもたらすことができる。用いる場合、接着促進剤は、米国特許出願第60/911,877号(ファム(Pham))に開示されているもののような、リチウムポリスルホネートフルオロポリマー結合剤の一部とすることができるか(例えば、付加された官能基の形態で)、粉末化された材料上のコーティングとすることができるか、導電性希釈剤に添加することができるか、又はこのような用途の組み合わせであることができる。接着促進剤の例としては、米国特許出願公開第2004/0058240号(クリステンセン(Christensen))に記載されているようなシラン、チタン酸塩、及びホスホネートが挙げられる。
【0035】
カソード組成物は、アノード及び電解質と組み合わせて、リチウムイオン電池を形成することができる。好適なアノードの例としては、例えば、「リチウム電池用の電極(Electrode for a Lithium Battery)」と題されたターナー(Turner)の米国特許第6,203,944号及び「電極材料及び組成物(Electrode Material and Compositions)」と題されたターナーの国際公開第00/03444号に記載されている種類の、リチウム金属、グラファイト、及びリチウム合金組成物が挙げられる。提供されるカソード組成物から作られたカソードを、アノード及び電解質と組み合わせて、リチウムイオン電気化学セル又は2つ以上の電気化学セルから作られる電池を形成することができる。好適なアノードの例は、リチウムを含む組成物、炭素質材料、ケイ素合金組成物及びリチウム合金組成物から作られることができる。代表的な炭素質材料としては、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)(イーワン・モリ/エナジー・カナダ社(E-One Moli/Energy Canada Ltd.)(ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(Vancouver))から入手可能)のような合成グラファイト、SLP30(ティムカル社(TimCal Ltd.)(ボディオ、スイス(Bodio Switzerland))から入手可能)、天然グラファイト及び硬質炭素を挙げることができる。有用なアノード材料はまた、合金粉末又は薄膜を含むことができる。このような合金は、ケイ素、スズ、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉛、ビスマス、及び亜鉛のような電気化学的に活性のある成分を含んでもよく、鉄、コバルト、遷移金属ケイ化物及び遷移金属アルミナイドのような電気化学的に不活性な成分を含んでもよい。有用な合金アノード組成物は、Sn−Co−C合金、Si60Al14Fe8TiSn7Mm10及びSi70Fe10Ti10C10(式中、Mmはミッシュメタル(希土類元素の合金)である)のような、スズ又はケイ素の合金を含むことができる。ノードを生成するために用いられる金属合金組成物は、ナノ結晶又は非晶質ミクロ構造を有することができる。このような合金は、例えば、スパッタリング、ボールミリング、超急冷(rapid quenching)又は他の手段により、製造することができる。有用なアノード材料にはまた、Li4Ti5O12のような金属酸化物、WO2、SiOx、酸化スズ、又はTiS2及びMoS2のような金属亜硫酸塩が挙げられる。他の有用なアノード材料としては、米国特許出願第2005/0208378号(ミズタニ(Mizutani)ら)に開示されているもののような、スズ系非晶質アノード材料が挙げられる。
【0036】
好適なアノードを生成するために用いることができる代表的なケイ素合金としては、約65〜約85モル%のSi、約5〜約12モル%のFe、約5〜約12モル%のTi及び約5〜約12モル%のCを含む組成物を挙げることができる。有用なケイ素合金の追加例としては、米国特許公開第2006/0046144 A1号(オブロバック(Obrovac)ら)で論じられているもののような、ケイ素、銅及び銀又は銀合金;米国特許公開第2005/0031957号(クリステンセン(Christensen)ら)で論じられているもののような、多相ケイ素含有電極;米国特許公開第2007/0020521号、同第2007/0020522号及び同第2007/0020528号(全てオブロバック(Obrovac)ら)に記載されているもののような、スズ、インジウム、及びランタニド、アクチニド元素又はイットリウムを含有するケイ素合金;米国特許公開第2007/0128517号(クリステンセン(Christensen)ら)で論じられているもののような、高いケイ素含量を有する非晶質合金;並びに米国特許出願第11/419,564号(クラウス(Krause)ら)及び国際公開第2007/044315号(クラウス(Krause)ら)で論じられているもののような、負極に用いられる他の粉末化材料を含む組成物が挙げられる。アノードはまた、米国特許第6,203,944号及び同第6,436,578号(ともにターナー(Turner)ら)並びに米国特許第6,255,017号(ターナー)に記載されている種類のもののような、リチウム合金組成物から生成することができる。
【0037】
提供される電気化学セルは、電解質を含有することができる。代表的な電解質は、固体、液体又はゲルの形態であることができる。代表的な固体電解質としては、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素含有コポリマー、ポリアクリロニトリル、これらの組み合わせ、及び当業者によく知られる他の固体媒体のような高分子媒体を挙げることができる。液体電解質の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン(butylrolactone)、メチルジフルオロアセテート、エチルジフルオロアセテート、ジメトキシエタン、ジグリム(ビス(2−メトキシエチル)エーテル)、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、これらの組み合わせ及び当業者によく知られる他の媒体が挙げられる。電解質は、リチウム電解質塩により供給されることができる。代表的なリチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiAsF6、LiC(CF3SO2)3、及びこれらの組み合わせが挙げられる。代表的な電解質ゲルとしては、米国特許第6,387,570号(ナカムラ(Nakamura)ら)及び同第6,780,544号(ノー(Noh))に記載されているものが挙げられる。電荷保持媒体の可溶化力は、好適な共溶媒を添加することによって改善できる。代表的な共溶媒としては、選択した電解質を含有するリチウムイオンセルに適合する芳香族物質が挙げられる。代表的な共溶媒としては、トルエン、スルホラン、ジメトキシエタン、これらの組み合わせ及び当業者によく知られる他の共溶媒が挙げられる。電解質は、当業者によく知られる他の添加剤を含むことができる。例えば、電解質は、米国特許第5,709,968号(シミズ(Shimizu))、同第5,763,119号(アダチ(Adachi))、同第5,536,599号(アラムギール(Alamgir)ら)、同第5,858,573号(アブラハム(Abraham)ら)、同第5,882,812号(ヴィスコ(Visco)ら)、同第6,004,698号(リチャードソン(Richardson)ら)、同第6,045,952号(カー(Kerr)ら)、及び同第6,387,571号(レイン(Lain)ら)、並びに米国特許出願公開第2005/0221168号、同第2005/0221196号、同第2006/0263696号、及び同第2006/0263697号(全てダーン(Dahn)ら)に記載されてるもののようなレドックスケミカルシャトル(redox chemical shuttle)を含有することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物を含むリチウムイオン電気化学セルは、上記のような正極及び負極をそれぞれ少なくとも1種取り、電解質中に定置することにより、生成できる。典型的には、セルガード(Celgard)2400微多孔性材料(セルガード社(Celgard LLC)(ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))から入手可能)のような微多孔性セパレータを使用して、負極が正極に直接接触するのを防ぐことができる。これは、例えば、当該技術分野において既知である2325コイン型セルのようなコイン型セルにおいて特に重要であり得る。
【0039】
また、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2を有するカソード組成物の前駆体を混合する工程と、前駆体を加熱して組成物を生成する工程と、を含むカソード組成物の製造方法であって、式中、M1及びM2は2族及び13族の元素から選択される異なる金属であって、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0.02≦d+e≦0.30であり、d及びeのそれぞれが>0であり、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、方法を提供する。
【0040】
開示した電気化学セルは、ポータブルコンピュータ、タブレット型表示器、携帯情報端末、携帯電話、電動式装置(例えば、個人又は家庭電化製品及び自動車)、機器、照明装置(例えば、懐中電灯)、及び加熱装置を含む、種々の装置で使用することができる。本発明の1つ以上の電気化学セルを組み合わせて、電池パックを提供することができる。提供されるリチウムイオンセル及び電池パックの構築及び使用に関する更なる詳細は、当業者によく知られている。
【0041】
本発明の目的及び利点は、下記の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に本発明を過度に制限するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0042】
電気化学セルの調製
電気化学的試験のための薄膜カソード電極
電極を以下のように調製した。10重量%の二フッ素化ポリビニリデン(PVDF、アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.)のN−メチルピロリドン(NMP、アルドリッチ・ケミカル社)溶液を、10gのPVDFを90gのNMPに溶解させることにより調製した。7.33gのスーパーPカーボン(Super P carbon)(MMMカーボン(MMM Carbon)、ベルギー)、73.33gの10重量%のPVDFのNMP溶液、及び200gのNMPを、ガラスジャー内で混合した。混合した溶液は、それぞれNMP中に約2.6重量%のPVDF及びスーパーPカーボンを含有する。5.25gのこの溶液を、マゼルスター混合機(Mazerustar mixer machine)(クラボー・インダストリーズ社(Kurabo Industries Ltd.)、日本)により2.5gのカソード材料と3分間混合して、均一なスラリーを形成した。次いで、0.25mm(0.010インチ)の切欠き棒延展器(notch-bar spreader)を用いて、このスラリーを、ガラス板上に支持されたアルミニウム薄箔上に延展した。次いで、コーティングされた電極を、80℃に設定したオーブン内で約30分間乾燥させた。次いで、電極を120℃に設定した真空オーブン内に1時間入れた。電極コーティングは、約90重量%のカソード材料及びそれぞれ5重量%のPVDF及びスーパーPを含有する。活性カソード材料の質量負荷は、約8mg/cm2であった。
【0043】
薄膜電極のためのセル構築
得られたカソード電極及びLi金属アノードを用いて、乾燥した室内にて、2325サイズ(直径23mm及び厚さ2.5mm)のコイン型セル機械設備で、コイン型セルを製作した。セパレータは、セルガード(Celgard)番号2400微多孔性ポリプロピレンフィルム(セルガード社(Celgard, LLC)、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))であり、これはエチレンカーボネート(EC)(アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.))及びジエチルカーボネート(DEC)(アルドリッチ・ケミカル社)を体積比1:2で混合したものに溶解させた、LiPF6(ステラ・ケミファ社(Stella Chemifa)、日本)の1M溶液で湿らせてあった。
【0044】
加速速度熱量計(ARC)
ARCを用いて、充電した電極と電解質との間の発熱活性を試験した。異なるカソード組成物の発熱活性を比較するために重要なパラメータは、ARC試験中のサンプルの発熱開始温度及びサンプルの最高自己発熱速度を測定することにより、評価した。ARC熱安定性試験のためにペレット電極を調製した。
【0045】
ARCのためのペレット電極の調製
ARCによる熱安定性試験のための充電したカソード材料を調製する方法は、J.チャン(J.Jiang)ら、Electrochemistry Communications、第6号、39〜43頁(2004年)に記載されていた。通常、ARCに用いられるペレット電極の質量は、数百ミリグラムである。数グラムの活性電極材料を、それぞれ7重量%のスーパーPカーボン、PVDF及び過剰なNMPと混合して、スラリーを生成し、続いてA.1.に記載されているものと同じ手順を行った。120℃で一晩、電極スラリーを乾燥させた後、電極粉末をモルタル中で僅かに細砕し、次いで300μmのふるいに通した。測定した量の電極粉末を、次いで、ステンレス鋼ダイ内に定置し、これに13.8MPa(2000psi)を適用して、厚さ約1mmのペレット電極を製造した。2325サイズのコイン型セルを、正極ペレットを用いて構築し、アノードとして用いたメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)(イーワン・モリ/エナジー・カナダ社(E-One Moli/Energy Canada Ltd.)、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(Vancouver))ペレットを、両方の電極の容量の平衡をとる大きさにした。セルを、1.0mAの電流で、Liに対して4.4Vのような所望の電圧に充電した。4.4Vに達した後、セルをLiに対して4.1Vに緩和(relax)させた。次いで、元の電流の半分である0.5mAを用いて、セルを4.4Vに再充電した。各連続充放電サイクルで電流を半分に低下させながら、更に4回の充放電サイクルを行った後、充電したセルをグローブボックスに移動させて、隠した。充電したカソードペレットを取り出し、アルゴンを充填したグローブボックス内で、ジメチルカーボネート(DMC)で4回すすいだ。次いで、サンプルをグローブボックスの副室で2時間乾燥させて、残留DMCを除去した。最後に、サンプルを再度軽く細砕して、ARC試験に用いた。
【0046】
ARC発熱開始温度の測定
ARCによる安定性試験は、J.チャン(J.Jiang)ら、Electrochemistry Communications、第6号、39〜43頁(2004年)に記載されていた。サンプルホルダーは、壁厚0.015mm(0.006インチ)の304ステンレス鋼製シームレスチューブ(マイクログループ(Microgroup)、マサチューセッツ州ミッドウェイ(Medway))で作製した。チューブの外径は6.35mm(0.250インチ)であり、ARCサンプルホルダー用に切断した試験片の長さは39.1mm(1.540インチ)であった。ARCの温度を110℃に設定して、試験を開始した。サンプルを15分間平衡させ、自己発熱速度を10分間にわたって測定した。自己発熱速度が0.04℃/分未満である場合、サンプル温度を5℃/分の加熱速度で10℃ずつ上昇させた。サンプルをこの新たな温度で15分間平衡させ、自己発熱速度を再度測定した。自己発熱速度が0.04℃/分超に維持されたとき、ARC発熱開始温度を記録した。サンプル温度が350℃に達したとき又は自己発熱速度が20℃/分を超えたとき、試験を停止した。
【0047】
脱リチオ化LiCoO2、脱リチオ化LiNi0.80Co0.15Al0.05O2及び脱リチオ化LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2と電解質のARC発熱開始温度
LiCoO2(平均粒径約5μm)は、イーワン・モリ/エナジー・カナダ社(E-One Moli/Energy Canada Ltd.)(ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(Vancouver))から入手した。LiNi0.80Co0.15Al0.05O2(平均粒径約6μm)は、トダ・コンゴー社(Toda Kongo Corp.)(日本)製であった。LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2(BC−618、平均粒径10μm)は、3M社により生成された。脱リチオ化LiCoO2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2のLiPF6EC/DEC(体積比1:2)中での熱安定性試験を実施し、熱安定性比較データを図1a及び1b並びに表1に示す。LiCoO2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2カソード材料をそれぞれ4.4V、4.2V、及び4.4Vに充電したが、それは、これらのカソード材料がこのような電圧で同様の量の可逆容量(およそ180mAh/g)を供給したためである。EC/DECにおける、充電したLiCoO2(4.4V)、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2(4.2V)及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2(4.4V)とLiPF6のARC発熱開始温度は、図1a〜1bに示すように、それぞれ110℃、110℃及び180℃である。これは、180℃までEC/DEC電解質中ではLiMn1/3Ni1/3Co1/3O2(4.4V)とLiPF6との間に著しい発熱反応が起こらないこと、並びに、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2(4.4V)が、LiCoO2(4.4V)及びLiNi0.80Co0.15Al0.05O2(4.2V)材料の両方より優れた熱安定性を有すること、を示唆する。
【0048】
ARC最大自己発熱速度の測定
最大自己発熱速度は、ARC試験中サンプルが達した最高発熱速度dT/dtであった。dT/dtのARCデータのグラフを評価し、ARC試験中に観察された最高又は最大自己発熱速度を記録することにより、決定された。最大自己発熱速度は、ARCサンプルの温度上昇の速度を表すが、これはサンプルの熱反応によるものである。最大自己発熱速度が高いことは、最大自己発熱速度が低いものより、熱安定性が低い材料であることを示す。
【0049】
予備実施例1.Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の合成
129.32gのNiSO4.6H2O(アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.))、55.44gのMnSO4.H2O(アルドリッチ・ケミカル社)及び50.60gのCoSO4.H2O(アルドリッチ・ケミカル社)を、500mLのメスフラスコ内で蒸留水に溶解させて、2モル/Lの遷移金属硫酸塩溶液を形成した。Mn0.33Ni0.49Co0.18(OH)2を、pH値約10で、遷移金属硫酸塩溶液とNaOH溶液からの共沈法により調製した。沈殿物を濾過により回収し、真空濾過を用いて繰り返し洗浄した。次いで、120℃に設定した箱形炉内に定置し、乾燥させた。細砕後、8.00gの沈殿物の粉末(約3%の水分を含有する)を、3.536gのLi2Co3と混合した。混合物の粉末を4℃/分の速度で750℃に加熱し、次いでその温度で4時間ソークした。混合物の粉末を、次いで4℃/分で850℃に加熱し、4時間ソークした。その後、粉末を4℃/分で室温に冷却した。粉砕後、粉末を110μmのふるいに通した。
【0050】
予備実施例2−Li[Li0.04Mn0.29Ni0.48Co0.19]O2の合成
Li[Li0.04Mn0.29Ni0.48Co0.19]O2を、適宜試薬を調節して、予備実施例1の手順を用いて調製した。焼結したMn0.33Ni0.49Co0.18(OH)2及びLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2のSEM写真を、それぞれ図2a及び図2bに示す。Mn0.33Ni0.49Co0.18(OH)2及びLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の平均粒径は、およそ6μmであった。
【0051】
予備実施例3−Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2
Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2を、予備実施例1の手順を用いて調製したが、試薬は適宜調節した。
【0052】
予備実施例4−Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2
Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2を比較予備実施例1の手順を用いて調製したが、試薬は適宜調節した。
【0053】
予備実施例5−Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2
Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2を比較予備実施例1の手順を用いて調製したが、試薬は適宜調節した。
【0054】
予備実施例6−Li[Mn0.31Ni0.46Co0.17Al0.03Mg0.03]O2
Li[Mn0.31Ni0.46Co0.17Al0.03Mg0.03]O2を比較予備実施例1の手順を用いて調製したが、試薬は適宜調節した。
【0055】
性能
図3は、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2及びLiNi0.80Co0.15Al0.05O2材料の、電位(V)対比容量(mAh/g)の比較を示す。明らかに、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2が178mAh/g以下の高い放電容量を供給したことが示された。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の平均放電電圧は、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2の平均放電電圧に近く、これはLiNi0.80Co0.15Al0.05O2材料の平均電圧より約0.16V高い。
【0056】
図4は、Li金属に対する2.5〜4.3Vの、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2の間の速度比較を示す。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2は、136mAh/gのLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2と比べて、300mA/gの電流で約155mAh/gの放電容量を供給した。
【0057】
図5は、2.5〜4.3Vの、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2の間のサイクル性能比較を示す。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2は、明らかに、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2よりも、75mAh/gの電流で100サイクル後、高い容量及び良好な容量保持を示した。
【0058】
図6aは、ARCにより、30mgの1M LiPF6EC/DEC電解質と反応する、Li金属に対して4.4Vに充電した、100mgのLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の自己発熱速度対温度を示す。充電されたLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2及びLiNi0.80Co0.15Al0.05O2のARC曲線を、比較のために図6bに追加した。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2(4.4V)は、180℃のARC発熱開始温度を有し、これはLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2(4.4V)のARC発熱開始温度に類似している。これは、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2が、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2の熱安定性と類似の熱安定性を有することを示唆する。
【0059】
表2は、放電容量、平均電圧及びARC発熱開始温度における、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2及びLiNi0.80Co0.15Al0.05O2の性能比較を要約する。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2は、2.5〜4.3Vで高い比放電容量(178mAh/g)、高い平均放電電圧(3.78V)、及び優れた熱安定性(180℃のARC発熱開始温度)を有する。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
図7は、およそ30mgの1M LiPF6EC/DEC(体積比1:2)と反応する、100mgの充電したLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2(Li金属に対して4.4V)の自己発熱速度(℃/分)対温度を示す。充電した材料は、ARC試験で良好な熱安定性を示し、発熱開始温度はおよそ180℃であると測定された。充電したLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2と電解質との間の発熱反応がおよそ240℃で急速に上昇し始め、その後およそ260℃で熱暴走した(20℃/分より高い最大自己発熱速度)。
【0063】
図8aは、比較例である2種の充電したカソード材料、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2(12モル%Mgドーパント)及びLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2(12モル%Alドーパント)(1MのLiPF6EC/DEC(体積比1:2)と反応した)の自己発熱速度(℃/分)対温度を示す。図は、両方の充電した材料が、およそ230℃の高い発熱開始温度を有していたことを示す。充電したLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2の自己発熱速度は速やかに上昇し、およそ260℃で熱暴走した。しかしながら、充電したLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2材料は、充電したLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2より著しく低い自己発熱速度を示し、最大自己発熱速度はおよそ0.8℃/分でしかなかった。このデータは、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2が、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2より非常に高い熱安定性を有することを示唆する。
【0064】
図8bは、提供されるカソード組成物の1つの実施形態のARC試験結果を示す。Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2は、およそ1.0℃/分の最大自己発熱速度を示した。
【0065】
図9は、カソード組成物Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2、Li[Mn0.31Ni0.46Co0.17Al0.03Mg0.03]O2及びLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2のサイクル性能比較を示す。ドープされていない材料、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2は、C/2レートにおいて、2.5V〜4.3Vで、およそ164mAh/gの容量を有すると測定された。他のドープされたカソード材料は全て、ドーパント(Al及びMg)が電気化学的に活性ではないため、低い放電容量を示した。Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2(12%Alドーパント)は、およそ107mAh/gの最低の放電容量を有すると測定され、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2(それぞれ6%のAl及びMgドーパント)及びLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2(12%Mgドーパント)の両方がC/2レートにおいて、およそ140mAh/gの類似の容量を示した。
【0066】
ARC試験から、アルミニウムドーパントはリチウム混合金属酸化物カソード材料の最大自己発熱温度及び発熱開始温度を上昇させるが、比容量を低下させることが明らかである。アルミニウム及びマグネシウムドーパントの混合物の使用は、アルミニウム単独での容量損失の一部を補うと同時に、混合物の熱安定性を維持する。Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2は、高い熱安定性及び高い放電容量の特性の相乗的組み合わせを有することを示す。
【0067】
本発明の様々な変更及び修正は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱せずに、当業者に明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではないこと、また、こうした実施例及び実施形態は、本明細書において以下に記述する特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図する本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。本出願に引用した全ての文書及び参考文献は、その全文を参照することにより本明細書に組み込むものとする。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本案件は、2007年5月7日に出願された米国仮特許出願第60/916,472号及び2008年1月25日に出願された米国仮出願特許第61/023,447号、並びに2008年3月27日に出願された米国特許出願第12/056,769号に対する優先権を主張し、それらの全文を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0002】
(発明の分野)
リチウムイオン電池のカソードとして有用な組成物並びにそれを調製及び使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
2次リチウムイオン電池は、典型的には、アノード、電解質及びリチウム遷移金属酸化物の形態のリチウムを含有するカソードを含む。用いられてきた遷移金属酸化物の例としては、リチウムコバルト二酸化物、リチウムニッケル二酸化物、及びリチウムマンガン二酸化物が挙げられる。カソードに用いられてきた他の代表的なリチウム遷移金属酸化物材料としては、コバルト、ニッケル及び/又はマンガン酸化物の混合物が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのリチウム遷移金属酸化物材料はいずれも、高初期容量、高熱安定性、及び充放電サイクルを繰り返した後の良好な容量保持の最適な組み合わせを示さない。提示するカソード材料の目的は、エネルギー密度が高く、かつ熱安定性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン正極組成物を提供することである。提示するカソード材料の別の目的は、これらの正極を使用して、同様の特性を有するリチウムイオン電池を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様では、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物であって、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、カソード組成物を提供する。提供されるカソード組成物は、リチウムイオン電気化学セルに組み込まれたとき、既知の材料と比べて、容量安定性とともに改善された電気化学サイクル性能を呈することができる。
【0006】
別の態様では、アノードと、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0である)を有する組成物を含むカソードとを含む、リチウムイオン電気化学セルであって、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、リチウムイオン電気化学セルを提供する。また、少なくとも2つの電気化学セルを含むリチウムイオン電池を提供する。
【0007】
更に別の態様では、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2を有するカソード組成物の前駆体を混合する工程と、該前駆体を加熱して、組成物を生成する工程と、を含むカソード組成物の製造方法であって、式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0であり、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態であるカソード組成物の製造方法を提供する。
【0008】
本明細書では、
冠詞「a」、「an」、及び「the」は、「少なくとも1つの」と互換的に用いられ、記載される要素の1つ以上を意味する。
【0009】
用語「リチオ化する」及び「リチオ化」とは、リチウムを電極材料に加えるプロセスを指す。
【0010】
用語「脱リチオ化する」及び「脱リチオ化」とは、電極材料からリチウムを除去するプロセスを指す。
【0011】
用語「充電する」及び「充電」は、電気化学エネルギーをセルに供給するためのプロセスを指す。
【0012】
用語「放電する」及び「放電」は、例えばセルを使用して所望の作業を実行するときに、セルから電気化学エネルギーを取り除くためのプロセスを指す。
【0013】
語句「正極」とは、放電プロセス中に電気化学的還元及びリチオ化が生じる電極(多くの場合、カソードと呼ばれる)を指す。
【0014】
語句「負極」とは、放電プロセス中に電気化学的酸化及び脱リチオ化が生じる電極(多くの場合、アノードと呼ばれる)を指す。
【0015】
提供される正極(又はカソード)組成物及びこれらの組成物を組み込んだリチウムイオン電気化学セルは、高い性能特性と優れた安全特性の相乗的組み合わせを呈することができる。高い性能特性としては、例えば、高い初期比容量及び充放電サイクルを繰り返した後の良好な比容量保持が挙げられる。優れた安全特性としては、高温において相当量の熱を発生しない、低い自己発熱速度、及び高い発熱開始温度のような特性が挙げられる。いくつかの実施形態では、提供される組成物は、これらの特性のうちのいくつか、又は更には全てを呈する。
【0016】
1つ以上の実施形態の詳細は、添付図面及び以下の明細書に記載される。他の特徴、目的及び利点は、明細書及び図面により、並びに請求の範囲により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1a】比較の目的で含まれる3種の組成物の自己発熱速度対温度のグラフ。
【図1b】比較の目的で含まれる3種の組成物の自己発熱速度対温度のグラフ。
【図2a】Mn0.33Ni0.49Co0.18(OH)2の走査電子顕微鏡(SEM)の顕微鏡写真。
【図2b】Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の走査電子顕微鏡(SEM)の顕微鏡写真。
【図3】3つの実施形態の、電位(V)対比容量(mAh/g)のグラフ。
【図4】2つの実施形態の、比放電容量(mAh/g)対電流(mA/g)のグラフ。
【図5】提供されるカソード組成物を含む2種のコイン型セルの比放電容量(mAh/g)対サイクル数のグラフ。
【図6a】カソード組成物の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図6b】カソード組成物の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図7】予備実施例1で生成した化合物の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図8a】予備実施例3及び4に従って生成した2種の組成物の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図8b】予備実施例5及び6により生成した、提供されるカソード組成物の2つの追加実施形態の、自己発熱速度対温度のグラフ。
【図9】提供されるカソード材料を含有する4種のコイン型セルの比放電容量(mAh/g)対サイクル数のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
数字範囲の詳細説明には、その範囲内の全ての数が包含される(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4及び5を含む)。本明細書の全ての数値は、「約」という用語により修飾されると見なされる。
【0019】
1つの態様では、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物であって、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、カソード組成物を提供する。提供されるカソード組成物は、リチウムイオン電気化学セルに組み込まれたとき、既知の材料と比べて、容量安定性とともに改善された電気化学サイクル性能を呈することができる。いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2(式中、M1及びM2は2族及び13族の元素から選択される異なる金属であり、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0.02≦d+e≦0.30であり、各d及びeは>0である)を有することができ、前記組成物は層状O3結晶構造を有する単相の形態である。これらのカソード組成物は、リチウムイオン電気化学セルに組み込まれたとき、既知の材料と比べて、改善された電気化学サイクル性能及び容量安定性を呈することができる。いくつかの実施形態では、組成物は、組成物中に、MnaNibCocM1dM2eのモル量に基づいて、約0.5当量〜約1.2当量のリチウムを含有することができる。当量とは、組成物中のMnaNibCocM1dM2e 1モル当たり、約0.5〜約1.2モルのリチウムが存在することを意味する。他の実施形態では、組成物中のMnaNibCocM1dM2e 1モル当たり、約0.9当量〜約1.2当量のリチウムが存在する。組成物中のリチウムの量は、リチウムイオン電池に組み込んだときのカソードの充放電状態に応じて変動することができる。リチウムは、充放電中カソードからアノードへ、及びアノードからカソードへ移動することができる。リチウムが最初にカソードからアノードへ移動した後、元々カソード材料内にあったリチウムの一部はアノードに残ることができる。このリチウム(不可逆容量として測定される)は、通常、カソードには戻らず、通常、電池を更に充放電にするのに有益ではない。その後の充放電サイクル中、より多くのリチウムがサイクルで利用できなくなる可能性がある。(Li+Lix)は、上式に示すような提供されるカソード組成物中のリチウムのモル量を表す。電池中のカソードの充電のいくつかの状態では、−0.5≦x≦0.2、−0.3≦x≦0.2、−0.1≦x≦0.2、又は0≦x≦0.2である。
【0020】
いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)並びにこれらの組み合わせから選択される遷移金属を含むことができる。Mnの量は、リチウム及び酸素を除いた、カソード組成物の総質量を基準として、約0〜約80モルパーセント(モル%)、20モル%超〜80モル%、又は約30モル%〜約36モル%の範囲であることができる。Niの量は、リチウム及び酸素を除いた、カソード組成物の、約0〜約75モル%、20モル%超〜約65%、又は約46モル%〜約52モル%の範囲であることができる。Coの量は、リチウム及び酸素を除いた、カソード組成物の、約0〜約88モル%、20モル%超〜約88モル%、又は約15モル%〜約21モル%の範囲であることができる。
【0021】
提供される組成物は、少なくとも2種の追加材料M1及びM2を含有することができ、これらを以後ドーパントと呼ぶ。ドーパントは周期表の2族及び13族の元素から選択することができる。2族の元素としては、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaが挙げられ、いくつかの実施形態ではMg及び/又はCaが好ましい。13族の元素としては、例えば、B、Al、Ga、In及びTlが挙げられ、いくつかの実施形態ではAlが好ましい。いくつかの実施形態では、ドーパントは、アルミニウム、ホウ素、カルシウム及びマグネシウムから選択することができる。提供される組成物には、少なくとも2種のドーパントが存在する。ドーパントは、ドーパントの総量がLixMnaNibCocM1dM2e(式中、x、a、b、c、d及びeは上記のように定義され、x+a+b+c+d+e=1である)のモル数を基準として、約2モル%〜約30モル%の範囲であるように、提供される組成物中に存在することができる。
【0022】
いくつかの他の実施形態では、カソード組成物は遷移金属としてNi及びCoのみを含有することができる(a=0、b>0、及びc>0)。他の実施形態では、組成物は遷移金属としてMn及びCoのみを含有することができる(b=0、a>0、及びc>0)。更に他の実施形態では、組成物は遷移金属としてNi及びMnのみを含有することができる(c=0、a>0、及びb>0)。Mn、Ni及びCoのうち少なくとも1種が、提供される組成物中に存在することができる。少なくとも2種のドーパント、M1及びM2が、提供される組成物中に存在することができる。
【0023】
d及びeの濃度は独立に変動することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約0.1、少なくとも約0.2、少なくとも約1.0、少なくとも約2.0、少なくとも約3.0、少なくとも約5.0、少なくとも約10.0、又は更には少なくとも12.0(全てモル%)の第1材料(例えば、「d」)が用いられ、残部は第2材料(例えば「e」)からなる。それらが異なるとき、d又はeのうちより少量のものは、≧0であり、好ましくは少なくとも約0.1、0.2、0.5、0.75、1.0、2.0又は更に多い(全てモル%)。e又はdのうちより多量のものは、それらが異なるとき、<30、<25、<20、<15、<12、<10.0、<8.0、<5.5、又は更に少ない。他の実施形態では、dのeに対する比(又は逆も同様)は、少なくとも約2、3、5、10又は更に大きい場合がある。
【0024】
別の実施形態では、式Li[LixMnaNibCocM1d]O2(式中、M1はMn、Ni又はCo以外の金属であり、x+a+b+c+d=1であり、x≧0であり、b>aであり、0<a≦0.4であり、0.4≦b<0.5であり、0.1≦c≦0.3であり、及び0≦d≦0.1である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物であって、前記組成物がO3結晶構造を有する単相の形態であることを特徴とするカソード組成物を提供する。M1は、Al、Ti、Mg及びこれらの組み合わせから成る群から選択してよい。カソード組成物の具体例としては、式Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2及びLi[Li0.04Mn0.29Ni0.48Co0.19]O2を有するものが挙げられる。
【0025】
X線回折(XRD)試験法を用いて、これらの材料がO3結晶構造を有する単相の形態であることを示すことができる。
【0026】
カソード組成物は、任意の好適な方法、例えば、ジェットミリングにより、又は金属元素の前駆体(例えば、水酸化物、硝酸塩等)を混合し、続いて加熱してカソード組成物を生成させることにより、合成されることができる。加熱は、好ましくは、空気中で、少なくとも約600℃、例えば少なくとも約800℃であるが、好ましくは約950℃を超えない最高温度で行う。いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物の製造方法は、最終組成物(リチウム及び酸素を除いた)中に所望される金属の可溶性塩の化学量論的量をとり、それを水性混合物に溶解させることによる、所望の組成物の可溶性前駆体の共沈を含むことができる。例として、硫酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物塩を利用することができる。組成物を提供するための前駆体として有用な代表的な硫酸塩としては、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム及び硫酸カルシウムが挙げられる。次いで、水酸化アンモニウム又は当業者に既知である別の好適な塩基を添加することにより、水性混合物を塩基性(約9を超えるpH)にすることができる。高pHで可溶性ではない金属水酸化物は析出し、十分に濾過、洗浄及び乾燥してブレンドを形成することができる。このブレンドに、炭酸リチウム、水酸化リチウム、又は組み合わせを添加して、混合物を形成することができる。いくつかの実施形態では、混合物は、それを約750℃超かつ約950℃未満の温度に、1〜10時間の間加熱することにより、焼結することができる。次いで、混合物を約1000℃超の温度に、安定な組成物が形成されるまでの更なる期間加熱することができる。この方法は、例えば、米国特許公開第2004/0179993号(ダーン(Dahn)ら)に開示されており、当業者に既知である。
【0027】
あるいは、いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、例えば、米国特許第7,211,237号(エバーマン(Eberman)ら)に開示されている固体状態合成により生成されることができる。この方法を用いて、所望の組成物の金属酸化物前駆体は、共に湿式粉砕されると同時に、粉砕された成分にエネルギーを付与して、それを、リチウムを含むよく分散した金属を含有する超微粒子状スラリーに形成することができる。提供される組成物を生成するために好適な金属酸化物としては、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウム、ホウ素、カルシウム及びマグネシウムの酸化物、並びにそれら金属の水酸化物及び炭酸塩が挙げられる。代表的な前駆体物質としては、水酸化コバルト(Co(OH)2)、酸化コバルト(CoO及びCo3O4)、炭酸マンガン(Mn2Co3)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、炭酸ニッケル(Ni2Co3)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、炭酸アルミニウム(Al2Co3)、酸化ホウ素(B2O3)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、酸化カルシウム(CaO)及び炭酸カルシウム(CaCO3)が挙げられる。炭酸リチウム(Li2Co3)及び水酸化リチウム(LiOH)のような、好適なリチウム含有酸化物及び/又は酸化物前駆体を用いて、リチウムをカソード組成物に組み込むことができる。必要に応じて、上記で指名した前駆体のいずれかの水和物を、この方法で使用することができる。米国特許第5,900,385号(ダーン(Dahn)ら)、同第6,660,432号(ポールセン(Paulsen)ら)、同第6,964,828号(ルー(Lu)ら)、米国特許公開第2003/0108793号(ダーン(Dahn)ら)、及び米国特許出願第60/916,472号(チャン(Jiang))に論じられているもののような、錯体混合金属酸化物を、添加された追加の金属酸化物前駆体とともに用いて、化学量論の所望の最終カソード組成物を形成できることも考えられる。所望の最終カソード組成物(リチウムを含む)の化学量論に基づいた所望の適切な量の前駆体を湿式粉砕してスラリーを形成することができる。粉砕したスラリーを、十分な時間、十分な温度で燃やす、焼成する、焼結する又は別の方法で加熱して、所望の単相化合物を形成することができる。代表的な加熱サイクルは、空気雰囲気中にて、少なくとも10℃/分で、約900℃の温度にすることである。更なる選択肢は、例えば、米国特許第7,211,237号(エバーマン(Eberman)ら)で論じられている。
【0028】
いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、リチウムイオン電池に組み込まれ、複数の充放電サイクルを繰り返したとき、高い比容量(mAh/g)保持を有することができる。例えば、提供されるカソード組成物は、電池がLiに対して2.5〜4.3Vで充放電サイクルし、温度がおよそ室温(25℃)に維持されているとき、C/2レートにおいて50回、75回、90回、100回又は更に多い回数の充放電サイクルの後、約130mAh/gを超える、約140mAh/gを超える、約150mAh/gを超える、約160mAh/gを超える、約170mAh/gを超える、又は更には180mAh/gを超える比容量を有することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物は、以下の実施例の項に記載するような加速速度熱量計(ARC)における自己発熱の発熱開始温度を有することができる。ARC試験は、例えば、J.チャン(J.Jiang)ら、Electrochemistry Communications、第6巻、39〜43頁(2004年)に記載されている。提供される組成物は、約140℃超、約150℃超、約160℃超、約170℃超、約180℃超、約190℃超、又は更には約200℃超の発熱開始温度を有することができる。提供されるカソード組成物は、約300℃未満の温度で、約20℃/分未満、約15℃/分未満、約10℃/分未満、又は約5℃/分未満である最大自己発熱速度を有することができる。自己発熱速度、したがって最大自己発熱速度は、ARC試験で測定することができ、例えば図1、2A及び2Bに示し、以下の実施例の項で説明するように、dT/dt対温度のグラフ上に、最大値として可視化することができる。
【0030】
LixMnaNibCocM1dM2e(x、a、b、c、d及びeは上記定義の通りであり、合計1である)のモル数を基準として、全てのドーパントの総量が約2モル%〜約30モル%の範囲であるような量で、リチウム金属酸化物カソード組成物に組み込まれるとき、2族及び13族の元素から選択される少なくとも2種の異なるドーパントを含む、提供される材料を用いて、サイクル後に高い比容量を保持すると同時に高い発熱開始温度も維持する驚くべき相乗的組み合わせを示し、リチウムイオン電気化学セル又は電気化学セルの電池内で低い最大自己発熱速度を有するカソードを生成することができる。したがって、高い熱安定性及び良好な容量保持はともに、他の所望の電池特性とともに実現することができる。
【0031】
提供されたカソード組成物からカソードを生成するために、結合剤、導電性希釈剤、充填剤、接着促進剤、カルボキシメチルセルロース(CMC)のようなコーティング粘度を変化させるための増粘剤、及び当業者に既知である他の添加剤のような任意の選択した添加剤を、水又はN−メチルピロリドン(NMP)のような好適なコーティング溶媒中で混合して、コーティング分散液又はコーティング混合物を形成することができる。コーティング分散液又はコーティング混合物を十分に混合し、次いでナイフコーティング、切欠き棒コーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、電気スプレーコーティング、又はグラビアコーティングのような任意の適切なコーティング技術により、箔集電器に適用することができる。集電器は、典型的には、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、又はニッケル箔のような、導電性金属の薄箔であることができる。スラリーを集電器箔上にコーティングして、次に空気中で乾燥させ、これに続き、通常は、加熱したオーブン内で典型的には約80℃〜約300℃にて約1時間乾燥させて、溶媒を全て取り除くことができる。
【0032】
提供されるカソード組成物から作られたカソードは、結合剤を含むことができる。代表的なポリマー結合剤としては、エチレン、プロピレン、又はブチレンモノマーから調製したもののようなポリオレフィン;フッ化ビニリデンモノマーから調製したもののようなフッ素化ポリオレフィン;ヘキサフルオロプロピレンモノマーから調製したもののような全フッ素化(perfluorinated)ポリオレフィン;全フッ素化ポリ(アルキルビニルエーテル);全フッ素化ポリ(アルコキシビニルエーテル);芳香族、脂肪族若しくは脂環式ポリイミド又はこれらの組み合わせが挙げられる。ポリマー結合剤の具体例としては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、及びプロピレンのポリマー又はコポリマー、並びにフッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンのコポリマーが挙げられる。本開示のカソード組成物で用いることができる他の結合剤としては、共同出願された(co-owned application)米国特許出願第11/671,601号(レー(Le)ら)に開示されているようなリチウムポリアクリレートが挙げられる。リチウムポリアクリレートは、水酸化リチウムによって中和したポリ(アクリル酸)から生成することができる。米国特許出願第11/671,601号は、ポリ(アクリル酸)が、アクリル酸若しくはメタクリル酸の任意のポリマー若しくはコポリマー、又は少なくとも約50モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約80モル%、若しくは少なくとも約90モル%のコポリマーが、アクリル酸又はメタクリル酸を使用して生成されている場合、それらの誘導体を含むことを開示している。これらのコポリマーを形成するために使用できる有用なモノマーとしては、例えば、1〜12個の炭素原子を持つアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル(分枝状又は非分枝状)、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、ヒドロキシルアルキルアクリレート等が挙げられる。
【0033】
提供されるカソード組成物の実施形態はまた、粉末化されたカソード組成物から集電器への電子の移動を促進するために、導電性希釈剤を含むことができる。導電性希釈剤としては、炭素(例えば、負極用カーボンブラック、並びに正極用のカーボンブラック及び一次黒鉛等)、金属、金属窒化物、金属炭化物、金属ケイ化物及び金属ホウ化物が挙げられるが、これらに限定されない。代表的導電性炭素希釈剤としては、スーパーP及びスーパーSカーボンブラック(共にMMMカーボン社(MMM Carbon)、ベルギー)のようなカーボンブラック、シャワニガンブラック(SHAWANIGAN BLACK)(シェヴロン・ケミカル社(Chevron Chemical Co.)、テキサス州ヒューストン(Houston))、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、グラファイト、炭素繊維及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
いくつかの実施形態では、カソード組成物は、カソード組成物又は導電性希釈剤の結合剤への接着を促進する、接着促進剤を含むことができる。接着促進剤と結合剤との組み合わせにより、繰り返されるリチオ化/脱リチオ化のサイクル中に、粉末化された材料中で発生することがある体積変化に、カソード組成物がより適応するのを助けることができる。結合剤は、接着促進剤の添加を必要としないように、金属及び合金に十分に良好な接着性をもたらすことができる。用いる場合、接着促進剤は、米国特許出願第60/911,877号(ファム(Pham))に開示されているもののような、リチウムポリスルホネートフルオロポリマー結合剤の一部とすることができるか(例えば、付加された官能基の形態で)、粉末化された材料上のコーティングとすることができるか、導電性希釈剤に添加することができるか、又はこのような用途の組み合わせであることができる。接着促進剤の例としては、米国特許出願公開第2004/0058240号(クリステンセン(Christensen))に記載されているようなシラン、チタン酸塩、及びホスホネートが挙げられる。
【0035】
カソード組成物は、アノード及び電解質と組み合わせて、リチウムイオン電池を形成することができる。好適なアノードの例としては、例えば、「リチウム電池用の電極(Electrode for a Lithium Battery)」と題されたターナー(Turner)の米国特許第6,203,944号及び「電極材料及び組成物(Electrode Material and Compositions)」と題されたターナーの国際公開第00/03444号に記載されている種類の、リチウム金属、グラファイト、及びリチウム合金組成物が挙げられる。提供されるカソード組成物から作られたカソードを、アノード及び電解質と組み合わせて、リチウムイオン電気化学セル又は2つ以上の電気化学セルから作られる電池を形成することができる。好適なアノードの例は、リチウムを含む組成物、炭素質材料、ケイ素合金組成物及びリチウム合金組成物から作られることができる。代表的な炭素質材料としては、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)(イーワン・モリ/エナジー・カナダ社(E-One Moli/Energy Canada Ltd.)(ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(Vancouver))から入手可能)のような合成グラファイト、SLP30(ティムカル社(TimCal Ltd.)(ボディオ、スイス(Bodio Switzerland))から入手可能)、天然グラファイト及び硬質炭素を挙げることができる。有用なアノード材料はまた、合金粉末又は薄膜を含むことができる。このような合金は、ケイ素、スズ、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉛、ビスマス、及び亜鉛のような電気化学的に活性のある成分を含んでもよく、鉄、コバルト、遷移金属ケイ化物及び遷移金属アルミナイドのような電気化学的に不活性な成分を含んでもよい。有用な合金アノード組成物は、Sn−Co−C合金、Si60Al14Fe8TiSn7Mm10及びSi70Fe10Ti10C10(式中、Mmはミッシュメタル(希土類元素の合金)である)のような、スズ又はケイ素の合金を含むことができる。ノードを生成するために用いられる金属合金組成物は、ナノ結晶又は非晶質ミクロ構造を有することができる。このような合金は、例えば、スパッタリング、ボールミリング、超急冷(rapid quenching)又は他の手段により、製造することができる。有用なアノード材料にはまた、Li4Ti5O12のような金属酸化物、WO2、SiOx、酸化スズ、又はTiS2及びMoS2のような金属亜硫酸塩が挙げられる。他の有用なアノード材料としては、米国特許出願第2005/0208378号(ミズタニ(Mizutani)ら)に開示されているもののような、スズ系非晶質アノード材料が挙げられる。
【0036】
好適なアノードを生成するために用いることができる代表的なケイ素合金としては、約65〜約85モル%のSi、約5〜約12モル%のFe、約5〜約12モル%のTi及び約5〜約12モル%のCを含む組成物を挙げることができる。有用なケイ素合金の追加例としては、米国特許公開第2006/0046144 A1号(オブロバック(Obrovac)ら)で論じられているもののような、ケイ素、銅及び銀又は銀合金;米国特許公開第2005/0031957号(クリステンセン(Christensen)ら)で論じられているもののような、多相ケイ素含有電極;米国特許公開第2007/0020521号、同第2007/0020522号及び同第2007/0020528号(全てオブロバック(Obrovac)ら)に記載されているもののような、スズ、インジウム、及びランタニド、アクチニド元素又はイットリウムを含有するケイ素合金;米国特許公開第2007/0128517号(クリステンセン(Christensen)ら)で論じられているもののような、高いケイ素含量を有する非晶質合金;並びに米国特許出願第11/419,564号(クラウス(Krause)ら)及び国際公開第2007/044315号(クラウス(Krause)ら)で論じられているもののような、負極に用いられる他の粉末化材料を含む組成物が挙げられる。アノードはまた、米国特許第6,203,944号及び同第6,436,578号(ともにターナー(Turner)ら)並びに米国特許第6,255,017号(ターナー)に記載されている種類のもののような、リチウム合金組成物から生成することができる。
【0037】
提供される電気化学セルは、電解質を含有することができる。代表的な電解質は、固体、液体又はゲルの形態であることができる。代表的な固体電解質としては、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素含有コポリマー、ポリアクリロニトリル、これらの組み合わせ、及び当業者によく知られる他の固体媒体のような高分子媒体を挙げることができる。液体電解質の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン(butylrolactone)、メチルジフルオロアセテート、エチルジフルオロアセテート、ジメトキシエタン、ジグリム(ビス(2−メトキシエチル)エーテル)、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、これらの組み合わせ及び当業者によく知られる他の媒体が挙げられる。電解質は、リチウム電解質塩により供給されることができる。代表的なリチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiAsF6、LiC(CF3SO2)3、及びこれらの組み合わせが挙げられる。代表的な電解質ゲルとしては、米国特許第6,387,570号(ナカムラ(Nakamura)ら)及び同第6,780,544号(ノー(Noh))に記載されているものが挙げられる。電荷保持媒体の可溶化力は、好適な共溶媒を添加することによって改善できる。代表的な共溶媒としては、選択した電解質を含有するリチウムイオンセルに適合する芳香族物質が挙げられる。代表的な共溶媒としては、トルエン、スルホラン、ジメトキシエタン、これらの組み合わせ及び当業者によく知られる他の共溶媒が挙げられる。電解質は、当業者によく知られる他の添加剤を含むことができる。例えば、電解質は、米国特許第5,709,968号(シミズ(Shimizu))、同第5,763,119号(アダチ(Adachi))、同第5,536,599号(アラムギール(Alamgir)ら)、同第5,858,573号(アブラハム(Abraham)ら)、同第5,882,812号(ヴィスコ(Visco)ら)、同第6,004,698号(リチャードソン(Richardson)ら)、同第6,045,952号(カー(Kerr)ら)、及び同第6,387,571号(レイン(Lain)ら)、並びに米国特許出願公開第2005/0221168号、同第2005/0221196号、同第2006/0263696号、及び同第2006/0263697号(全てダーン(Dahn)ら)に記載されてるもののようなレドックスケミカルシャトル(redox chemical shuttle)を含有することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、提供されるカソード組成物を含むリチウムイオン電気化学セルは、上記のような正極及び負極をそれぞれ少なくとも1種取り、電解質中に定置することにより、生成できる。典型的には、セルガード(Celgard)2400微多孔性材料(セルガード社(Celgard LLC)(ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))から入手可能)のような微多孔性セパレータを使用して、負極が正極に直接接触するのを防ぐことができる。これは、例えば、当該技術分野において既知である2325コイン型セルのようなコイン型セルにおいて特に重要であり得る。
【0039】
また、式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2を有するカソード組成物の前駆体を混合する工程と、前駆体を加熱して組成物を生成する工程と、を含むカソード組成物の製造方法であって、式中、M1及びM2は2族及び13族の元素から選択される異なる金属であって、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、0.02≦d+e≦0.30であり、d及びeのそれぞれが>0であり、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、方法を提供する。
【0040】
開示した電気化学セルは、ポータブルコンピュータ、タブレット型表示器、携帯情報端末、携帯電話、電動式装置(例えば、個人又は家庭電化製品及び自動車)、機器、照明装置(例えば、懐中電灯)、及び加熱装置を含む、種々の装置で使用することができる。本発明の1つ以上の電気化学セルを組み合わせて、電池パックを提供することができる。提供されるリチウムイオンセル及び電池パックの構築及び使用に関する更なる詳細は、当業者によく知られている。
【0041】
本発明の目的及び利点は、下記の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に本発明を過度に制限するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0042】
電気化学セルの調製
電気化学的試験のための薄膜カソード電極
電極を以下のように調製した。10重量%の二フッ素化ポリビニリデン(PVDF、アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.)のN−メチルピロリドン(NMP、アルドリッチ・ケミカル社)溶液を、10gのPVDFを90gのNMPに溶解させることにより調製した。7.33gのスーパーPカーボン(Super P carbon)(MMMカーボン(MMM Carbon)、ベルギー)、73.33gの10重量%のPVDFのNMP溶液、及び200gのNMPを、ガラスジャー内で混合した。混合した溶液は、それぞれNMP中に約2.6重量%のPVDF及びスーパーPカーボンを含有する。5.25gのこの溶液を、マゼルスター混合機(Mazerustar mixer machine)(クラボー・インダストリーズ社(Kurabo Industries Ltd.)、日本)により2.5gのカソード材料と3分間混合して、均一なスラリーを形成した。次いで、0.25mm(0.010インチ)の切欠き棒延展器(notch-bar spreader)を用いて、このスラリーを、ガラス板上に支持されたアルミニウム薄箔上に延展した。次いで、コーティングされた電極を、80℃に設定したオーブン内で約30分間乾燥させた。次いで、電極を120℃に設定した真空オーブン内に1時間入れた。電極コーティングは、約90重量%のカソード材料及びそれぞれ5重量%のPVDF及びスーパーPを含有する。活性カソード材料の質量負荷は、約8mg/cm2であった。
【0043】
薄膜電極のためのセル構築
得られたカソード電極及びLi金属アノードを用いて、乾燥した室内にて、2325サイズ(直径23mm及び厚さ2.5mm)のコイン型セル機械設備で、コイン型セルを製作した。セパレータは、セルガード(Celgard)番号2400微多孔性ポリプロピレンフィルム(セルガード社(Celgard, LLC)、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))であり、これはエチレンカーボネート(EC)(アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.))及びジエチルカーボネート(DEC)(アルドリッチ・ケミカル社)を体積比1:2で混合したものに溶解させた、LiPF6(ステラ・ケミファ社(Stella Chemifa)、日本)の1M溶液で湿らせてあった。
【0044】
加速速度熱量計(ARC)
ARCを用いて、充電した電極と電解質との間の発熱活性を試験した。異なるカソード組成物の発熱活性を比較するために重要なパラメータは、ARC試験中のサンプルの発熱開始温度及びサンプルの最高自己発熱速度を測定することにより、評価した。ARC熱安定性試験のためにペレット電極を調製した。
【0045】
ARCのためのペレット電極の調製
ARCによる熱安定性試験のための充電したカソード材料を調製する方法は、J.チャン(J.Jiang)ら、Electrochemistry Communications、第6号、39〜43頁(2004年)に記載されていた。通常、ARCに用いられるペレット電極の質量は、数百ミリグラムである。数グラムの活性電極材料を、それぞれ7重量%のスーパーPカーボン、PVDF及び過剰なNMPと混合して、スラリーを生成し、続いてA.1.に記載されているものと同じ手順を行った。120℃で一晩、電極スラリーを乾燥させた後、電極粉末をモルタル中で僅かに細砕し、次いで300μmのふるいに通した。測定した量の電極粉末を、次いで、ステンレス鋼ダイ内に定置し、これに13.8MPa(2000psi)を適用して、厚さ約1mmのペレット電極を製造した。2325サイズのコイン型セルを、正極ペレットを用いて構築し、アノードとして用いたメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)(イーワン・モリ/エナジー・カナダ社(E-One Moli/Energy Canada Ltd.)、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(Vancouver))ペレットを、両方の電極の容量の平衡をとる大きさにした。セルを、1.0mAの電流で、Liに対して4.4Vのような所望の電圧に充電した。4.4Vに達した後、セルをLiに対して4.1Vに緩和(relax)させた。次いで、元の電流の半分である0.5mAを用いて、セルを4.4Vに再充電した。各連続充放電サイクルで電流を半分に低下させながら、更に4回の充放電サイクルを行った後、充電したセルをグローブボックスに移動させて、隠した。充電したカソードペレットを取り出し、アルゴンを充填したグローブボックス内で、ジメチルカーボネート(DMC)で4回すすいだ。次いで、サンプルをグローブボックスの副室で2時間乾燥させて、残留DMCを除去した。最後に、サンプルを再度軽く細砕して、ARC試験に用いた。
【0046】
ARC発熱開始温度の測定
ARCによる安定性試験は、J.チャン(J.Jiang)ら、Electrochemistry Communications、第6号、39〜43頁(2004年)に記載されていた。サンプルホルダーは、壁厚0.015mm(0.006インチ)の304ステンレス鋼製シームレスチューブ(マイクログループ(Microgroup)、マサチューセッツ州ミッドウェイ(Medway))で作製した。チューブの外径は6.35mm(0.250インチ)であり、ARCサンプルホルダー用に切断した試験片の長さは39.1mm(1.540インチ)であった。ARCの温度を110℃に設定して、試験を開始した。サンプルを15分間平衡させ、自己発熱速度を10分間にわたって測定した。自己発熱速度が0.04℃/分未満である場合、サンプル温度を5℃/分の加熱速度で10℃ずつ上昇させた。サンプルをこの新たな温度で15分間平衡させ、自己発熱速度を再度測定した。自己発熱速度が0.04℃/分超に維持されたとき、ARC発熱開始温度を記録した。サンプル温度が350℃に達したとき又は自己発熱速度が20℃/分を超えたとき、試験を停止した。
【0047】
脱リチオ化LiCoO2、脱リチオ化LiNi0.80Co0.15Al0.05O2及び脱リチオ化LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2と電解質のARC発熱開始温度
LiCoO2(平均粒径約5μm)は、イーワン・モリ/エナジー・カナダ社(E-One Moli/Energy Canada Ltd.)(ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(Vancouver))から入手した。LiNi0.80Co0.15Al0.05O2(平均粒径約6μm)は、トダ・コンゴー社(Toda Kongo Corp.)(日本)製であった。LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2(BC−618、平均粒径10μm)は、3M社により生成された。脱リチオ化LiCoO2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2のLiPF6EC/DEC(体積比1:2)中での熱安定性試験を実施し、熱安定性比較データを図1a及び1b並びに表1に示す。LiCoO2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2カソード材料をそれぞれ4.4V、4.2V、及び4.4Vに充電したが、それは、これらのカソード材料がこのような電圧で同様の量の可逆容量(およそ180mAh/g)を供給したためである。EC/DECにおける、充電したLiCoO2(4.4V)、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2(4.2V)及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2(4.4V)とLiPF6のARC発熱開始温度は、図1a〜1bに示すように、それぞれ110℃、110℃及び180℃である。これは、180℃までEC/DEC電解質中ではLiMn1/3Ni1/3Co1/3O2(4.4V)とLiPF6との間に著しい発熱反応が起こらないこと、並びに、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2(4.4V)が、LiCoO2(4.4V)及びLiNi0.80Co0.15Al0.05O2(4.2V)材料の両方より優れた熱安定性を有すること、を示唆する。
【0048】
ARC最大自己発熱速度の測定
最大自己発熱速度は、ARC試験中サンプルが達した最高発熱速度dT/dtであった。dT/dtのARCデータのグラフを評価し、ARC試験中に観察された最高又は最大自己発熱速度を記録することにより、決定された。最大自己発熱速度は、ARCサンプルの温度上昇の速度を表すが、これはサンプルの熱反応によるものである。最大自己発熱速度が高いことは、最大自己発熱速度が低いものより、熱安定性が低い材料であることを示す。
【0049】
予備実施例1.Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の合成
129.32gのNiSO4.6H2O(アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co.))、55.44gのMnSO4.H2O(アルドリッチ・ケミカル社)及び50.60gのCoSO4.H2O(アルドリッチ・ケミカル社)を、500mLのメスフラスコ内で蒸留水に溶解させて、2モル/Lの遷移金属硫酸塩溶液を形成した。Mn0.33Ni0.49Co0.18(OH)2を、pH値約10で、遷移金属硫酸塩溶液とNaOH溶液からの共沈法により調製した。沈殿物を濾過により回収し、真空濾過を用いて繰り返し洗浄した。次いで、120℃に設定した箱形炉内に定置し、乾燥させた。細砕後、8.00gの沈殿物の粉末(約3%の水分を含有する)を、3.536gのLi2Co3と混合した。混合物の粉末を4℃/分の速度で750℃に加熱し、次いでその温度で4時間ソークした。混合物の粉末を、次いで4℃/分で850℃に加熱し、4時間ソークした。その後、粉末を4℃/分で室温に冷却した。粉砕後、粉末を110μmのふるいに通した。
【0050】
予備実施例2−Li[Li0.04Mn0.29Ni0.48Co0.19]O2の合成
Li[Li0.04Mn0.29Ni0.48Co0.19]O2を、適宜試薬を調節して、予備実施例1の手順を用いて調製した。焼結したMn0.33Ni0.49Co0.18(OH)2及びLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2のSEM写真を、それぞれ図2a及び図2bに示す。Mn0.33Ni0.49Co0.18(OH)2及びLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の平均粒径は、およそ6μmであった。
【0051】
予備実施例3−Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2
Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2を、予備実施例1の手順を用いて調製したが、試薬は適宜調節した。
【0052】
予備実施例4−Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2
Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2を比較予備実施例1の手順を用いて調製したが、試薬は適宜調節した。
【0053】
予備実施例5−Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2
Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2を比較予備実施例1の手順を用いて調製したが、試薬は適宜調節した。
【0054】
予備実施例6−Li[Mn0.31Ni0.46Co0.17Al0.03Mg0.03]O2
Li[Mn0.31Ni0.46Co0.17Al0.03Mg0.03]O2を比較予備実施例1の手順を用いて調製したが、試薬は適宜調節した。
【0055】
性能
図3は、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2及びLiNi0.80Co0.15Al0.05O2材料の、電位(V)対比容量(mAh/g)の比較を示す。明らかに、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2が178mAh/g以下の高い放電容量を供給したことが示された。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の平均放電電圧は、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2の平均放電電圧に近く、これはLiNi0.80Co0.15Al0.05O2材料の平均電圧より約0.16V高い。
【0056】
図4は、Li金属に対する2.5〜4.3Vの、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2の間の速度比較を示す。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2は、136mAh/gのLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2と比べて、300mA/gの電流で約155mAh/gの放電容量を供給した。
【0057】
図5は、2.5〜4.3Vの、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2及びLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2の間のサイクル性能比較を示す。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2は、明らかに、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2よりも、75mAh/gの電流で100サイクル後、高い容量及び良好な容量保持を示した。
【0058】
図6aは、ARCにより、30mgの1M LiPF6EC/DEC電解質と反応する、Li金属に対して4.4Vに充電した、100mgのLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2の自己発熱速度対温度を示す。充電されたLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2及びLiNi0.80Co0.15Al0.05O2のARC曲線を、比較のために図6bに追加した。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2(4.4V)は、180℃のARC発熱開始温度を有し、これはLiMn1/3Co1/3Ni1/3O2(4.4V)のARC発熱開始温度に類似している。これは、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2が、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2の熱安定性と類似の熱安定性を有することを示唆する。
【0059】
表2は、放電容量、平均電圧及びARC発熱開始温度における、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2及びLiNi0.80Co0.15Al0.05O2の性能比較を要約する。Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2は、2.5〜4.3Vで高い比放電容量(178mAh/g)、高い平均放電電圧(3.78V)、及び優れた熱安定性(180℃のARC発熱開始温度)を有する。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
図7は、およそ30mgの1M LiPF6EC/DEC(体積比1:2)と反応する、100mgの充電したLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2(Li金属に対して4.4V)の自己発熱速度(℃/分)対温度を示す。充電した材料は、ARC試験で良好な熱安定性を示し、発熱開始温度はおよそ180℃であると測定された。充電したLi[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2と電解質との間の発熱反応がおよそ240℃で急速に上昇し始め、その後およそ260℃で熱暴走した(20℃/分より高い最大自己発熱速度)。
【0063】
図8aは、比較例である2種の充電したカソード材料、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2(12モル%Mgドーパント)及びLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2(12モル%Alドーパント)(1MのLiPF6EC/DEC(体積比1:2)と反応した)の自己発熱速度(℃/分)対温度を示す。図は、両方の充電した材料が、およそ230℃の高い発熱開始温度を有していたことを示す。充電したLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2の自己発熱速度は速やかに上昇し、およそ260℃で熱暴走した。しかしながら、充電したLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2材料は、充電したLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2より著しく低い自己発熱速度を示し、最大自己発熱速度はおよそ0.8℃/分でしかなかった。このデータは、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2が、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2より非常に高い熱安定性を有することを示唆する。
【0064】
図8bは、提供されるカソード組成物の1つの実施形態のARC試験結果を示す。Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2は、およそ1.0℃/分の最大自己発熱速度を示した。
【0065】
図9は、カソード組成物Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2、Li[Mn0.31Ni0.46Co0.17Al0.03Mg0.03]O2及びLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2のサイクル性能比較を示す。ドープされていない材料、Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2は、C/2レートにおいて、2.5V〜4.3Vで、およそ164mAh/gの容量を有すると測定された。他のドープされたカソード材料は全て、ドーパント(Al及びMg)が電気化学的に活性ではないため、低い放電容量を示した。Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.12]O2(12%Alドーパント)は、およそ107mAh/gの最低の放電容量を有すると測定され、Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2(それぞれ6%のAl及びMgドーパント)及びLi[Mn0.29Ni0.43Co0.16Mg0.12]O2(12%Mgドーパント)の両方がC/2レートにおいて、およそ140mAh/gの類似の容量を示した。
【0066】
ARC試験から、アルミニウムドーパントはリチウム混合金属酸化物カソード材料の最大自己発熱温度及び発熱開始温度を上昇させるが、比容量を低下させることが明らかである。アルミニウム及びマグネシウムドーパントの混合物の使用は、アルミニウム単独での容量損失の一部を補うと同時に、混合物の熱安定性を維持する。Li[Mn0.29Ni0.43Co0.16Al0.06Mg0.06]O2は、高い熱安定性及び高い放電容量の特性の相乗的組み合わせを有することを示す。
【0067】
本発明の様々な変更及び修正は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱せずに、当業者に明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではないこと、また、こうした実施例及び実施形態は、本明細書において以下に記述する特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図する本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。本出願に引用した全ての文書及び参考文献は、その全文を参照することにより本明細書に組み込むものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2
(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、
x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、
0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物であって、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、カソード組成物。
【請求項2】
M1及びM2が2族及び13族の元素から選択され、0.02≦d+e≦0.30であり、d及びeのそれぞれが>0であり、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用のカソード組成物。
【請求項3】
−0.1≦x≦0.2である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
0.20<a≦0.80、0.20<b≦0.65、及び
0.20<c≦0.88である、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
a=0、b>0及びc>0である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
b=0、a>0及びc>0である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
c=0、a>0及びb>0である、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
M1及びM2が、アルミニウム、ホウ素、カルシウム、マグネシウム及びこれらの組み合わせから選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
M1及びM2が、アルミニウム及びマグネシウムである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物から作られた電極をリチウムイオン電池に組み込み、Liに対して約2.5〜約4.3VでC/2レートにおいて充電/再充電サイクルするとき、90回の充電/再充電サイクル後の、25℃における比容量が約130mAh/gを超える、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
ARC試験における自己発熱の発熱開始温度が約170℃を超える、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
ARC試験における発熱開始温度が約200℃を超える、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
最大自己発熱速度が約20℃/分未満である、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
x≧0であり、b>aであり、0<a≦0.4であり、0.4≦b<0.5であり、0.1≦c≦0.3であり、0≦d≦0.1であり、e=0であり、
前記組成物がO3結晶構造を有する単相の形態であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池用のカソード組成物。
【請求項15】
M1が、Al、Ti、Mg及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項14に記載のカソード組成物。
【請求項16】
式Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2又はLi[Li0.04Mn0.29Ni0.48Co0.19]O2を有する、請求項14に記載のカソード組成物。
【請求項17】
アノードと、
カソードと、
前記アノード及び前記カソードを分離する電解質と、
を含むリチウムイオン電気化学セルであって、
前記カソードが、Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2
(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、
x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、
0≦d+e≦0.30であり、d及びeの少なくとも1つが>0である)を有する組成物を含み、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、リチウムイオン電気化学セル。
【請求項18】
請求項17に記載の電気化学セルを含む、電子装置。
【請求項19】
ポータブルコンピュータ、個人又は家庭電化製品、自動車、機器、照明装置、懐中電灯及び加熱装置から選択される、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2を有するカソード組成物の前駆体を混合する工程と、
該前駆体を加熱して、該組成物を生成する工程と、
を含むカソード組成物の製造方法であって、
式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、
x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、
0≦d+e≦0.30であり、d及びeの少なくとも1つが>0であり、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、方法。
【請求項1】
式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2
(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、
x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、
0≦d+e≦0.30であり、d及びeのうち少なくとも1つは>0である)を有するリチウムイオン電池用のカソード組成物であって、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、カソード組成物。
【請求項2】
M1及びM2が2族及び13族の元素から選択され、0.02≦d+e≦0.30であり、d及びeのそれぞれが>0であり、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用のカソード組成物。
【請求項3】
−0.1≦x≦0.2である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
0.20<a≦0.80、0.20<b≦0.65、及び
0.20<c≦0.88である、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
a=0、b>0及びc>0である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
b=0、a>0及びc>0である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
c=0、a>0及びb>0である、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
M1及びM2が、アルミニウム、ホウ素、カルシウム、マグネシウム及びこれらの組み合わせから選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
M1及びM2が、アルミニウム及びマグネシウムである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物から作られた電極をリチウムイオン電池に組み込み、Liに対して約2.5〜約4.3VでC/2レートにおいて充電/再充電サイクルするとき、90回の充電/再充電サイクル後の、25℃における比容量が約130mAh/gを超える、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
ARC試験における自己発熱の発熱開始温度が約170℃を超える、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
ARC試験における発熱開始温度が約200℃を超える、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
最大自己発熱速度が約20℃/分未満である、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
x≧0であり、b>aであり、0<a≦0.4であり、0.4≦b<0.5であり、0.1≦c≦0.3であり、0≦d≦0.1であり、e=0であり、
前記組成物がO3結晶構造を有する単相の形態であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池用のカソード組成物。
【請求項15】
M1が、Al、Ti、Mg及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項14に記載のカソード組成物。
【請求項16】
式Li[Li0.06Mn0.31Ni0.46Co0.17]O2又はLi[Li0.04Mn0.29Ni0.48Co0.19]O2を有する、請求項14に記載のカソード組成物。
【請求項17】
アノードと、
カソードと、
前記アノード及び前記カソードを分離する電解質と、
を含むリチウムイオン電気化学セルであって、
前記カソードが、Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2
(式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、
x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、
0≦d+e≦0.30であり、d及びeの少なくとも1つが>0である)を有する組成物を含み、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、リチウムイオン電気化学セル。
【請求項18】
請求項17に記載の電気化学セルを含む、電子装置。
【請求項19】
ポータブルコンピュータ、個人又は家庭電化製品、自動車、機器、照明装置、懐中電灯及び加熱装置から選択される、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
式Li[LixMnaNibCocM1dM2e]O2を有するカソード組成物の前駆体を混合する工程と、
該前駆体を加熱して、該組成物を生成する工程と、
を含むカソード組成物の製造方法であって、
式中、M1及びM2は異なる金属であって、Mn、Ni又はCoではなく、a、b及びcのうち少なくとも1つは>0であり、
x+a+b+c+d+e=1であり、−0.5≦x≦0.2であり、0≦a≦0.80であり、0≦b≦0.75であり、0≦c≦0.88であり、
0≦d+e≦0.30であり、d及びeの少なくとも1つが>0であり、前記組成物が層状O3結晶構造を有する単相の形態である、方法。
【図1a】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【公表番号】特表2010−527111(P2010−527111A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507497(P2010−507497)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/059713
【国際公開番号】WO2008/137241
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/059713
【国際公開番号】WO2008/137241
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]