説明

リチウム硫黄電池およびリチウム硫黄電池の製造方法

【課題】充放電効率をより高めることができるリチウム硫黄電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】コイン型電池20は、カップ形状の電池ケース21と、この電池ケース21の内部に設けられた負極22と、負極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた正極23と、支持塩を含む非水電解液27と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。ここで、負極22はカルボン酸リチウム被膜が形成されたリチウム系材料を含む負極活物質を有している。正極23は硫黄を含む正極活物質を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池およびリチウム硫黄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫黄を正極活物質として使用する硫黄電池が知られている。硫黄は1672mAh/gという極めて高い理論容量密度を有するものであり、高容量電池として期待されている。しかし、電解液系の硫黄電池では、充放電時等に硫黄分子やポリ硫化物イオンなどが電解液中へ溶解して拡散し、これが負極金属と反応して自己放電を生じたり負極を劣化させることで、電池の容量や充放電効率(クーロン効率)を劣化させることがあった。
【0003】
そこで、例えば、電気活性硫黄材料を含むカソードと、リチウムを含むアノードと、非水性電解質であって、非環式エーテル、環式エーテル、ポリエーテル、およびスルホンからなる群より選択される一種以上の非水性溶媒と、一種以上のリチウム塩と、一種以上のN−O添加剤を含むものとを備えた電気化学セルが提案されている(特許文献1参照)。この電気化学セルでは、低自己放電率、高カソード利用率、高充電−放電効率、高比容量のいずれかを示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−518229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、非水性電解質中に拡散したポリ硫化物イオンがN−O添加剤により酸化されるなどして、活物質として電池反応に寄与し得る硫黄量が減少することがあった。これにより、充放電効率が低下することがあり、充放電効率をより高めることが望まれていた。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、充放電効率をより高めることができるリチウム硫黄電池及びリチウム硫黄電池の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、カルボン酸リチウム被膜を形成したリチウム系材料を負極材に用いてリチウム硫黄電池を作製したところ、充放電効率をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った
【0008】
即ち、本発明のリチウム硫黄電池は、
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
カルボン酸リチウム被膜が形成されたリチウム系材料を含む負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0009】
また、本発明のリチウム硫黄電池の製造方法は、
(a)カルボン酸を含む処理液にリチウム系材料を浸漬して該リチウム系材料にカルボン酸リチウム被膜を形成する被膜形成工程と、
(b)硫黄を含む正極活物質を有する正極と、前記カルボン酸リチウム被膜を形成したリチウム系材料を含む負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在するイオン伝導媒体とを備えた電池を構成する電池構成工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
このリチウム硫黄電池では、充放電効率をより高めることができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、負極表面にカルボン酸リチウム被膜が形成されていることで、負極での自己放電や、負極の劣化が抑制されるためと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コイン型電池20の構成の概略を表す断面図
【図2】評価セル30の説明図。
【図3】実験例1〜3の負極のIRスペクトル。
【図4】浸漬液の酢酸濃度と放電容量及び充放電効率との関係を示すグラフ。
【図5】充放電回数と充放電容量及び充放電効率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を具現化した一実施形態について説明する。本発明のリチウム硫黄電池は、硫黄を含む正極活物質を有する正極と、カルボン酸リチウム被膜が形成されたリチウム系材料を含む負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在するイオン伝導媒体と、を備えている。
【0013】
本発明のリチウム硫黄電池において、正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、硫黄を含むものである。硫黄はどのような形態で含まれていてもよいが、単体硫黄及び金属硫化物の両方又は一方であることが好ましい。なお、本発明において、金属硫化物とは金属多硫化物をも含むものとする。即ち、金属をMeとすると金属硫化物はMexy(x≧0,y≧0)で表すことのできるものとする。
【0014】
本発明のリチウム硫黄電池において、負極は、負極活物質を有している。この負極活物質は、カルボン酸リチウム被膜が形成されたリチウム系材料を含むものである。この負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよいが、導電材や結着材、集電体を用いなくてもよい。
【0015】
ここで、リチウム系材料とは、リチウムを含む材料をいい、金属リチウムやリチウム合金のほか、リチウム酸化物、リチウム複合酸化物、リチウム硫化物、リチウム複合硫化物などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウムやシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。このリチウム系材料は、リチウムを主成分とする材料であることが好ましい。ここで、主成分とは、含まれる成分全体のうち原子量比が最も多い成分をいうものとすることができるが、例えば、50at%以上含まれる成分や、70at%以上含まれる成分、90at%以上含まれる成分などを主成分としてもよい。リチウム系材料は、金属リチウムであることが好ましい。金属リチウムを負極として用いると、理論電圧や電気化学当量を高めることが可能であり、高容量化を図ることができると考えられるからである。なお、リチウム系材料は、リチウムを吸蔵放出可能なものであることが好ましい。
【0016】
リチウム系材料に形成されたカルボン酸リチウム被膜は、リチウム系材料の表面に形成されていることが好ましく、リチウム系材料の表面を覆うように形成されていることが好ましいが、表面の一部が覆われていなくてもよい。例えば、リチウム材料の表面に網状や島状に形成されていもよい。
【0017】
カルボン酸リチウムは、モノカルボン酸およびジカルボン酸のうちの少なくとも一方のリチウム塩であることが好ましい。なかでも、RCOOLiおよびRx(COOLi)2 、Rx(COOH)(COOLi)のうちの1種以上であることが好ましく、RCOOLiおよび(COOLi)2のうちの少なくとも一方であることがより好ましい。ここで、xは0又は1である。なお、x=0の場合には(COOLi)の炭素同士が結合したシュウ酸リチウムとなる。また、Rは、水素基又は炭化水素基である。ここで、炭化水素基としては、鎖状(直鎖でもよいし分岐鎖を有していてもよい)の炭化水素基や環状の炭化水素基が好ましく、炭素数は1〜20が好ましい。鎖状の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基などの飽和炭化水素基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基などの不飽和炭化水素基などが挙げられる。また、環状の炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などの環状飽和炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられる。これらの炭化水素基はその構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。置換基としては、ハロゲン、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。炭化水素基は、同じ種類の置換基を複数有していてもよいし、異なる種類の置換基を複数有していてもよい。カルボン酸リチウムは、このうち、ギ酸リチウム(HCOOLi)、酢酸リチウム(CH3COOLi)、シュウ酸リチウム(COOLi)2 、トリフルオロ酢酸リチウム(CF3COOLi)のうちの1種以上であることが好ましい。
【0018】
カルボン酸リチウムは、カルボン酸を含む処理液に上述したリチウム系材料を浸漬することにより形成されたものであることが好ましい。この処理液は、カルボン酸を溶媒に溶解したものとしてもよい。処理液に含まれるカルボン酸は、上述したカルボン酸リチウムを形成できるものであればよく、モノカルボン酸およびジカルボン酸のうちの少なくとも一方であることが好ましい。なかでも、RCOOHおよびRx(COOH)2のうちの少なくとも一方であることが好ましい。ここで、xは0又は1である。また、Rは、上述した水素基又は炭化水素基と同様のものとすることができる。このようなカルボン酸としては、ギ酸(HCOOH)、酢酸(CH3COOH)、シュウ酸(COOH)2 、トリフルオロ酢酸リチウム(CF3COOH)のうちの1種以上が好ましい。この処理液の詳細や、リチウム系材料を処理液に浸漬する際の条件については、後述するリチウム硫黄電池の製造方法の説明で詳述するから、ここでは記載を省略する。なお、リチウム硫黄電池のイオン伝導媒体(電解液)にカルボン酸を添加したものなどを処理液として用いてもよい。
【0019】
カルボン酸リチウムは、上述したカルボン酸を添加剤として電解液に添加し、この電解液とリチウム系材料とを接触させることにより、電池内でリチウム系材料に被膜として形成されたものでもよい(以下では添加する態様とも称する)。また、カルボン酸リチウムは、電池を構成する前にリチウム系材料を処理液に浸漬することで、予めリチウム系材料の表面に被膜として形成されたものでもよい(以下では浸漬する態様とも称する)。このように、添加する態様や浸漬する態様で被膜を形成することで、充放電効率を高めることができる。このうち、浸漬する態様がより好ましい。浸漬する態様とすれば、電池系内にカルボン酸リチウム被膜の形成に必要な添加剤を添加しなくてよく、添加剤による電池反応の阻害などを抑制可能なため、容量をより高めることができると考えられるからである。例えば、被膜の形成に用いられる添加剤が活物質として電池反応に寄与し得る硫黄成分と反応することなどによる硫黄成分の量の減少などを抑制できるため、容量をより高めることができると考えられる。
【0020】
本発明のリチウム硫黄電池において、正極及び負極に用いられる導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばエタノール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0021】
本発明のリチウム硫黄電池において、イオン伝導媒体は、溶媒に支持塩を溶解した溶液であってもよい。支持塩としては、通常のリチウム二次電池に用いられるリチウム塩であれば特に限定されるものではなく、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、Li(C25SO22N、LiPF6,LiClO4,LiBF4,などの公知の支持塩を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。溶媒としては、特に限定されないが、非水系溶媒であることがこのましく、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びプロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類、ジメトキシエタン(DME)、トリグライム及びテトラグライムなどのエーテル類、ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフランなどの環状エーテル及び、それらの混合物が好適である。また、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどのイオン液体を用いることもできる。イオン伝導媒体は、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類又はアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてゲル化されていてもよい。
【0022】
本発明のリチウム硫黄電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムや、ポリイミド三次元多孔フィルムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0023】
本発明のリチウム硫黄電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0024】
次に、リチウム硫黄電池の製造方法について説明する。この製造方法は、(a)負極に用いるリチウム系材料にカルボン酸リチウム被膜を形成する被膜形成工程と、(b)電池を構成する電池構成工程とを含む。
【0025】
(a)被膜形成工程
この工程では、カルボン酸を含む処理液にリチウム系材料を浸漬してリチウム系材料にカルボン酸リチウム被膜を形成する。リチウム系材料としては、上述したリチウム硫黄電池の説明で示したものを適用することができる。
【0026】
カルボン酸を含む処理液としては、カルボン酸を溶媒に溶解したものとしてもよい。処理液に含まれるカルボン酸は、上述したカルボン酸リチウムを形成できるものであればよく、モノカルボン酸およびジカルボン酸のうちの少なくとも一方であることが好ましい。なかでも、RCOOHおよびRx(COOH)2のうちの少なくとも一方であることが好ましい。このようなカルボン酸を含む処理液としては、上述したリチウム硫黄電池の説明で示したものを適用することができる。
【0027】
処理液に含まれる溶媒は、特に限定されないが、非水系溶媒であることが好ましく、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びプロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類、ジメトキシエタン(DME)、トリグライム及びテトラグライムなどのエーテル類、ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフランなどの環状エーテル及び、それらの混合物が好適である。また、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどのイオン液体を用いることもできる。このうち、エーテル類や環状エーテルなどが好ましい。なお、このような溶媒として、リチウム硫黄電池に用いるイオン伝導媒体の溶媒などを用いてもよい。この場合、イオン伝導媒体に含まれる支持塩をも含むものとしてもよいが、支持塩を含まないものが好ましい。副生成物を生じにくいと考えられるからである。
【0028】
処理液におけるカルボン酸の濃度は特に限定されないが、0Mより大きく5.0M以下が好ましい。このうち、0.1M以上4M以下が好ましく、0.2M以上3M以下がより好ましく、0.5M以上2.0M以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、容量をより高めることができ、また、充放電効率をより高めることができる。また、上述のようにカルボン酸の濃度を規定してもよいが、(COOH)構造1つを1molとして、(COOH)構造の濃度を規定してもよい。この場合、(COOH)構造の濃度が0Mより大きく5.0M以下であることが好ましく、0.1M以上4.0M以下であることがより好ましく、0.2M以上3.0M以下であることがさらに好ましい。なお、Mはmol/Lと同義である。
【0029】
リチウム系材料を処理液に浸漬する際の条件については、処理液におけるカルボン酸の種類や濃度に応じて経験的に定めることができる。このため、特に限定されるものではないが、浸漬時間は、例えば1分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。1分以上であれば被膜が形成されると考えられるからである。また、浸漬時間は、120時間以下が好ましく、48時間以下がより好ましく、24時間以下がさらに好ましい。120時間処理すれば、その後の被膜の形成量は微量と考えられるからである。浸漬する際の温度は、処理液が凍結する温度以上揮発する温度以下であればよいが、例えば、5℃以上80℃以下としてもよいし、10℃以上60℃以下としてもよいし、20℃以上30℃以下としてもよい。
【0030】
(b)電池構成工程
この工程では、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えた電池を構成する。構成する電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。ここでは、図1に示すコイン型電池を構成する場合について、電池構成工程の一例として説明する。図1はコイン型電池20の構成の概略を表す断面図である。この電池構成工程では、まず、カップ形状の電池ケース21を準備し、この電池ケース21の内部に負極22を配設する。この負極22は、上述した被膜形成工程でカルボン酸リチウム被膜を形成したリチウム系材料を含む負極活物質を有するものである。次に、イオン伝導媒体27を電池ケース21に注入しながら、セパレータ24を負極22に重ねて配置する。注入するイオン伝導媒体27は、正極23と負極22との間に介在する。このイオン伝導媒体は、上述したリチウム硫黄電池のイオン伝導媒体と共通するから、ここでは詳細な説明を省略する。続いて、負極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に正極23を配設する。ここで、正極23は、硫黄を含む正極活物質を有するものである。この正極は、上述したリチウム硫黄電池の正極と共通するから、ここでは詳細な説明を省略する。続いて、絶縁材により形成されたガスケット25を配設し、必要に応じてイオン伝導媒体27を追加注入する。最後に、電池ケース21の開口部に封口板26を配置し、電池ケース21の端部をかしめ加工することにより、電池ケース21を密封してコイン型電池20を作成する。なお、上述の方法は電池構成工程の一例であり、電池構成工程は、ここに例示したものに限定されない。
【0031】
このような本発明のリチウム硫黄電池の製造方法では、負極表面にカルボン酸リチウム被膜を形成することができる。このため、負極での自己放電や、負極の劣化が抑制することが可能である。また、イオン伝導媒体にカルボン酸を添加しなくても被膜が形成されているため、イオン伝導媒体中に含まれるカルボン酸と硫黄とが反応するなどして硫黄の活性が低下することを抑制できる。このようにして、容量や充放電効率をより高めることのできるリチウム硫黄電池を提供することができる。なお、上述した本発明のリチウム硫黄電池は、この製造方法で製造したものに限定されない。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0033】
以下には、本発明のリチウム硫黄電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0034】
(1)評価セルの作製
[実験例1]
正極材は以下のように作製した。活物質としての硫黄粉末(高純度化学製、純度99.99%)を50重量%、結着材としてのポリテトラフルオロエチレンを10重量%、導電材としてのカーボン(ECP600JD、ライオン社製)を40重量%配合し、乳鉢で混練後シート状に成形した。このシートを直径12mmの円形状に切り出し、真空加熱乾燥して正極材とした。負極材は以下のように作製した。後述する充放電試験に用いる評価セル1に厚さ0.4mm、直径18mmの円形状に切り出したリチウム箔を固定し、1.0Mのギ酸を含む1,3−ジオキソラン(DOL)溶液中に24時間浸漬し、リチウム箔の表面にギ酸リチウム被膜を形成した。この浸漬処理は、25℃に保持した恒温相内で行った。なお、以下では、カルボン酸を含むDOL溶液を浸漬液とも称する。このようにして得られた、ギ酸リチウム被膜を表面に有するリチウム箔を負極材とした。電解液は以下のように調整した。1,2−ジメトキシエタン(DME)と1,3−ジオキソラン(DOL)とを体積比が9:1となるように混合したDME/DOL溶液に1Mリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を溶解し、これを電解液とした。このようにして得られた負極材と正極材と電解液と、セパレータとしてのポリエチレン製多孔膜とを用い、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で図2の評価セルを作成しこれを実験例1とした。ここでは、被膜の形成に用いた評価セルを、被膜を形成した負極材をセットしたまま溶液を捨てて、後述する組み立てに用いた。
【0035】
図2は評価セル30の説明図であり、図2(a)は評価セル30の組立前の断面図、図2(b)は評価セル30の組立後の断面図である。評価セル30を組み立てるにあたり、まず、外周面にねじ溝が刻まれたステンレス製の円筒基体32の上面中央に設けられたキャビティ34に、負極36と、ポリエチレン製セパレータ38(微多孔性ポリエチレン膜、東燃化学(株)製)と、正極40とを、この順に、100μlの電解液をキャビティ34に注入しながら積層した。さらに、ポリプロピレン製の絶縁リング49を入れ、次いで絶縁性のリング42の穴に液密に固定された導電性の円柱44を正極40の上に配置し、導電性のコップ状の蓋46を円筒基体32にねじ込んだ。さらに、円柱44の上に絶縁用樹脂リング47を配置し、蓋46の上面中央に設けられた開口46aの内周面に刻まれたねじ溝に貫通孔45aを持つ加圧ボルト45をねじ込み、負極36とセパレータ38と固体電解質膜38と正極40とを加圧密着させた。このようにして、評価セル30を作製した。なお、円柱44は、リング42の上面より下に位置し絶縁用樹脂リング47を介して蓋46と接しているため、蓋46と円柱44とは電気的に非接触な状態となっている。また、キャビティ44の周辺にはパッキン48が配置されているため、キャビティ34内に注入された電解液が外部に漏れることはない。この評価セル30では、蓋46と加圧ボルト45と円筒基体32とが負極36と一体化されて全体が負極側となり、円柱44が正極40と一体化されると共に負極36と絶縁されているため正極側となる。このようにして得られた評価セルを実験例1とした。
【0036】
[実験例2〜4]
ギ酸にかえて酢酸を含む浸漬液を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例2とした。また、ギ酸にかえてシュウ酸を含む浸漬液を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例2とした。また、ギ酸にかえてトリフルオロ酢酸を含む浸漬液を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例4とした。
【0037】
[実験例5〜8]
浸漬液の酢酸濃度を0.2Mとした以外は実験例2と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例5とした。また、浸漬液の酢酸濃度を0.4Mとした以外は実験例2と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例6とした。また、浸漬液の酢酸濃度を2.0Mとした以外は実験例2と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例7とした。また、浸漬液の酢酸濃度を5.0Mとした以外は実験例2と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例8とした。
【0038】
[実験例9〜12]
負極材であるリチウム箔の表面に予め被膜を形成しておかなかったこと、および、電解液の調整に際し0.5Mのギ酸を添加剤として添加したこと以外は、実験例1と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例9とした。ギ酸にかえて酢酸を用いて電解液を調整した以外は実験例9と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例10とした。また、ギ酸にかえてシュウ酸を用いて電解液を調整した以外は実験例9と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例11とした。また、ギ酸にかえてトリフルオロ酢酸を用いて電解液を調整した以外は実験例9と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを実験例12とした。
【0039】
[比較例1]
負極材であるリチウム箔の表面に被膜を形成しなかったこと以外は、実験例1と同様の工程を経て評価セルを作製し、これを比較例1とした。
【0040】
(2)IR測定
被膜を形成した実験例1〜3の負極材について、IRスペクトルを測定した。測定装置はニコレー社製AVATAR360型フーリエ変換赤外分光計を用いた。また、波数分解能は1.929cm-1、積算回数は32回とし、測定方法は反射法を採用した。図3は、実験例1〜3の負極材のIRスペクトルである。これらより、実験例1の負極材の表面にはギ酸リチウムが、実験例2の負極材の表面には酢酸リチウムが、実験例3の負極材の表面にはシュウ酸リチウムが形成されていることが分かった。なお、被膜成分の同定には、独立行政法人産業技術総合研究所の提供する有機化合物のスペクトルデータベース(SDBS)を用いた。
【0041】
(3)電気化学特性の評価
上述のようにして得られた実験例1〜12および比較例1の評価セルを用いて、電気化学特性の評価を行った。電気化学特性の評価では、負極材単位重量あたりの容量(mAh/g)および充放電効率(%)について検討した。まず、評価セルを25℃に保持した恒温層内に設置して2.8Vから1.5Vまでの領域で0.5mAの定電流放電を行い、その後定電流充電を行った。この放電と充電を1サイクルとして50サイクル繰り返した。そして、このときの放電容量および充電容量を測定した。以下では、nサイクル目の充電容量をCn(mAh/g)、nサイクル目の放電容量をDn(mAh/g)とする。表1には、実験例1〜8および実験例9〜12の放電容量D1(mAh/g)および、充放電効率(%)=(D2/C1)×100を示した。
【0042】
【表1】

【0043】
(4)考察
表1より、浸漬する態様で予め表面に被膜を形成した実験例1〜7のものや、添加する態様で電解液に添加剤としてカルボン酸を添加して負極表面に被膜を形成する実験例9〜12のものでは、これをしない比較例1のものと比較して充放電効率が高いことが分かった。このような効果が得られた理由は、リチウム表面に被膜が形成されることにより、シャトル効果を抑制することができたためと推察された。また、浸漬する態様の実験例1〜8のものでは、添加する態様の実験例9〜12のものより放電容量が高いことが分かった。このような効果が得られた理由は、電解液中に拡散したポリスルフィドなどが添加剤として含まれるカルボン酸と反応するなどして消費されることを抑制できたためと推察された。以上のことから、浸漬する態様が、放電容量を高め、充放電効率を高める観点から好ましいことが分かった。なお、ここでは、金属リチウム表面に被膜を形成したが、リチウムを含むものであれば、同様の効果が得られるものと推察された。
【0044】
また、表1より、放電容量は、浸漬液に酢酸を含む実験例2が最も高く、シュウ酸を含む実験例3が次に高く、トリフルオロ酢酸を含む実験例4がその次に高く、ギ酸を含む実験例1がその次に高いことが分かった。このことから、放電容量を高める観点からは浸漬液は酢酸を含むものであることが特に好ましいことが分かった。また、酢酸は、添加する態様のものより、浸漬する態様のもののほうが放電容量が特に高くなっており、浸漬する態様を採用する意義が特に高いことが分かった。充放電効率の観点では、浸漬液にシュウ酸を含む実験例3が最も充放電効率が高いことから、浸漬液はシュウ酸を含むものであることが好ましいことが分かった。
【0045】
図4は、被膜を形成するときの溶液中の酢酸の濃度と放電容量及び充放電効率との関係を示すグラフである。図4には、これらの近似曲線も示した。図4より、酢酸リチウム被膜を形成する際には、溶液中の酢酸の濃度は、0Mより大きく5.0M以下であることが好ましく、0.1M以上4.0M以下であることがより好ましく、0.2M以上3.0M以下であることがさらに好ましいことが分かった。また、ギ酸やシュウ酸、トリフルオロ酢酸など、酢酸以外を用いる場合であっても、好適な濃度範囲があるものと推察された。具体的には、(COOH)構造の1つを1molとして、(COOH)構造の濃度が0Mより大きく5.0M以下であることが好ましく、0.1M以上4.0M以下であることがより好ましく、0.2M以上3.0M以下であることがさらに好ましいと推察された。
【0046】
図5は、実験例1〜3、9〜11及び比較例1の充放電回数と充放電容量及び充放電効率との関係を示すグラフである。このグラフより、添加する態様や浸漬する態様によりカルボン酸リチウム被膜が形成されたものでは、いずれも充放電効率が高いことが分かった。また、添加する態様のものでは、全体的に容量が低いものの、容量の劣化が少ないことが分かった。これに対して、浸漬する態様のものでは、充放電を繰り返すことにより容量が劣化することがあるものの、全体的に容量が高く初期の容量を特に高めることができ、好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0047】
20 コイン型電池、21 電池ケース、22 負極、23 正極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体、30 評価セル、32 円筒基体、34 キャビティ、36 負極、38 セパレータ、40 正極、42 リング、44 円柱、45 加圧ボルト、45a 貫通孔、46 蓋、46a 開口、47 絶縁用樹脂リング、48 パッキン、49 絶縁リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
カルボン酸リチウム被膜が形成されたリチウム系材料を含む負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウム硫黄電池。
【請求項2】
前記カルボン酸リチウムは、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、トリフルオロ酢酸リチウム、ギ酸リチウムのうちの1以上である、請求項1に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項3】
前記カルボン酸リチウム被膜が形成されたリチウム系材料は、カルボン酸を含む処理液に前記リチウム系材料を浸漬して、該リチウム系材料にカルボン酸リチウム被膜を予め形成したものである、請求項1又は2に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項4】
(a)カルボン酸を含む処理液にリチウム系材料を浸漬して該リチウム系材料にカルボン酸リチウム被膜を形成する被膜形成工程と、
(b)硫黄を含む正極活物質を有する正極と、前記カルボン酸リチウム被膜を形成したリチウム系材料を含む負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在するイオン伝導媒体とを備えた電池を構成する電池構成工程と、
を含むリチウム硫黄電池の製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸を含む処理液は、カルボン酸の濃度が5.0M以下である、請求項4に記載のリチウム硫黄電池の製造方法。
【請求項6】
前記カルボン酸を含む処理液は、前記カルボン酸として、ギ酸、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸のうち1以上を含む、請求項4又は5に記載のリチウム硫黄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−142101(P2012−142101A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292188(P2010−292188)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】