説明

リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法

【課題】炭化水素や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源としたガス焼成炉を使用した場合においても、高品質なリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる方法を提供する。
【解決手段】リチウム化合物と、遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られた原料混合物を、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を熱源としたガス焼成炉で焼成するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、前記支燃性ガスが、炉内を加熱した後の燃焼排ガスとの熱交換によって予熱されているリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム二次電池などの非水電解質二次電池における正極中における正極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話やノートパソコン等の電源として実用化されており、更に自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型用途においても、適用が試みられている。
【0003】
リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム化合物と遷移金属化合物等の原料を混合し、焼成することによって得ることができる。例えば、特許文献1にはニッケル化合物とリチウム化合物とを混合し、空気雰囲気下、600℃で加熱処理するリチウム−ニッケル複合酸化物の製造方法が開示されている。
【0004】
リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法においては、焼成時の雰囲気中に二酸化炭素が存在することにより、正極の活性が低下することが問題となっていた。従来のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法においては、電気炉など、必要に応じて空気を流通させ、または雰囲気を制御できる加熱炉本体を用い、できるだけ二酸化炭素を含まない条件での焼成が行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
一方、非水電解質二次電池用正極活物質として需要が急増しているリチウム遷移金属複合酸化物を多量に生産するにあたり、リチウム遷移金属複合酸化物の量産性向上やコスト削減という観点から、リチウム遷移金属複合酸化物を得るための焼成炉として、プロパン等の炭化水素や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源とした汎用性のあるガス焼成炉を使用することが望まれており、検討が行われている。
しかしながら、このようなガス焼成炉は、プロパン等の炭化水素燃料を燃焼させて加熱するため、炉内には高濃度のCO2(通常、5〜10体積%)を含む。そのため、このようなガス焼成炉を用いて従来の温度条件で焼成を行うと、電気炉焼成品に比べて正極活性が低いリチウム遷移金属複合酸化物が合成され、該リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いて非水電解質二次電池を作製しても、十分な電池性能を得ることが出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−290851号公報
【特許文献2】特開2000−58053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる状況下、本発明の目的は、炭化水素や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源としたガス焼成炉を使用した場合においても、高品質なリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> リチウム化合物と、遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られた原料混合物を、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を熱源としたガス焼成炉で焼成するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、
前記支燃性ガスが、炉内を加熱した後の燃焼排ガスとの熱交換によって予熱されていることを特徴とするリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<2> 前記ガス焼成炉が、蓄熱体と一体化した一対のリジェネバーナを備え、該リジェネバーナを交互に燃焼させ、一方のリジェネバーナにて火炎を噴射して炉内を加熱すると共に、他方のリジェネバーナに燃焼排ガスを吸引させて、燃焼排ガスの熱により前記蓄熱体を加熱することで燃焼排ガス中の熱を蓄熱体に回収し、この回収した熱を燃焼時の支燃性ガスの加熱に利用する排熱回収型ガス焼成炉である前記<1>記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<3> 前記ガス焼成炉が、少なくとも2つの蓄熱体を備えたセルフリジェネバーナを備え、該セルフリジェネバーナを燃焼させ、1つの蓄熱体を通過させた高温支燃性ガスを使用して火炎を噴射して炉内を加熱すると共に、他の蓄熱体に燃焼排ガスを吸引させて、燃焼排ガスの熱により前記蓄熱体を加熱することで燃焼排ガス中の熱を蓄熱体に回収し、次に燃焼用支燃性ガスを通過させるように支燃性ガスの進行方向を変更し、この回収した熱を燃焼時の支燃性ガスの加熱に利用する排熱回収型ガス焼成炉である前記<1>に記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<4> 前記ガス焼成炉内部の温度が650℃以上であって、該ガス焼成炉内部の温度と該ガス焼成炉の外に排出される燃焼排ガスの温度との差が250℃以上である前記<1>から<3>のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<5> 前記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素を含む前記<1>から<4>のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<6> 前記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素に加え、CoおよびFeから選ばれる1以上の元素を含む前記<1>から<5>のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<7> 二酸化炭素濃度を4体積%以下に保ったまま焼成を行うことを特徴とする前記<1>から<6>のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<8> 前記支燃性ガスは、酸素を18体積%以上含むことを特徴とする前記<1>から<7>のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭化水素や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源としたガス焼成炉を使用した場合においても、高品質なリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る排熱回収型ガス焼成炉を扉開放状態で示す一部切欠正面図である。
【図2】図1に示す排熱回収型ガス焼成炉の一部切欠平面図である。
【図3】図1に示す排熱回収型ガス焼成炉を構成するセルフリジェネバーナを示す斜視図である。
【図4】図3示すセルフリジェネバーナの機能を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、リチウム化合物と、遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られた原料混合物を、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料を支燃性ガスにより燃焼させた火炎を熱源としたガス焼成炉で焼成するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、前記支燃性ガスが、炉内を加熱した後の燃焼排ガスとの熱交換によって予熱されていることを特徴とするリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法に係るものである。
【0013】
まず、原料混合物の製造方法について説明する。
上記リチウム化合物としては、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウムおよび炭酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物および/または該1種以上の水和物を挙げることができる。
この中でも、低コストであり、加熱の際に腐食性ガスが発生しない水酸化リチウムまたは炭酸リチウムが好適に使用される。
【0014】
上記遷移金属元素としては、その化合物がリチウム化合物と混合され、焼成されることにより二次電池の正極活物質となりうる遷移金属元素であれば制限がない。このような遷移金属元素として、具体的には、Ni、Mn、Co、Fe、Cr、Ti等を挙げることができ、これらの元素を1種あるいは2種以上含んでいてもよい。
この中でも、高容量の二次電池用正極を得るという観点からは、上記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素を含有することが好ましい。さらに、より高容量の二次電池用正極を得るという観点からは、上記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素に加えて、さらにCoおよびFeから選ばれる1以上の元素を含有することが好ましい。
【0015】
原料として使用される遷移金属元素の形態としては、それぞれの金属単体、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、アルコキシドなどが挙げられる。
【0016】
リチウム化合物と遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られる原料混合物(以下、単に「原料混合物」と呼ぶ場合がある。)は、乾式混合、湿式混合、液相混合、あるいはこれらの組み合わせのいずれの混合方法で得られてもよく、その混合順序も特に制限されない。
また、原料であるリチウム化合物、遷移金属化合物を単に物理的に混合するのみならず、これらの原料のうち一部を、混合したのちに反応させて得られた反応生成物と、残りの原料とを混合してもよい。
特に2種類以上の遷移金属元素を原料として含む場合には、焼成の際における反応性を高め、より均一なリチウム遷移金属複合酸化物を合成できるという観点から、複合遷移金属化合物を合成した後にリチウム化合物と混合することが好ましい。
なお、この複合遷移金属化合物の合成方法は特に限定されないが、それぞれの元素を含有する水溶液とアルカリとを接触(液相混合)させて得た共沈物スラリーを固液分離したのちに、乾燥することにより製造された複合金属水酸化物であることが好ましい。
【0017】
以下、上記複合遷移金属化合物の代表的な製造方法として、遷移金属元素を含む溶液とアルカリとを接触させて、複合遷移金属水酸化物を製造する場合を例として具体的に説明する。
【0018】
遷移金属元素を含む溶液は、原料となる遷移金属元素それぞれの金属単体、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、アルコキシドなどを、水やこれらを溶解することが可能なアルコール等の有機溶剤などの溶媒に溶解して作製することができ、溶媒としては通常、水が用いられ、好ましくは純水、イオン交換水などが用いられる。
なお、前記遷移金属元素の単体または化合物が前記溶媒に溶解し難い場合には、それらを塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などを含有する溶液に溶解させて作製してもよい。
この中でも遷移金属元素の硫酸塩、例えば、Niの硫酸塩、Mnの硫酸塩、Coの硫酸塩およびFeの硫酸塩を水に溶解して得られる水溶液であることが好ましい。Feの硫酸塩としては、2価のFeの硫酸塩であることが好ましい。
【0019】
アルカリとしては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li2CO3(炭酸リチウム)、Na2CO3(炭酸ナトリウム)、K2CO3(炭酸カリウム)および(NH42CO3(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物並びに該1種以上の水和物を挙げることができる。
アルカリとして、アンモニアを挙げることもできる。
アルカリは通常水溶液として用いられる。このアルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、通常0.5〜10モル/L程度、好ましくは1〜8モル/L程度である。また、製造コストの面から、用いるアルカリとして好ましくはNaOHまたはKOHの、無水物または水和物を用いることが好ましい。また、上述のアルカリは2つ以上併用してもよい。
【0020】
これらの溶媒として使用されるアルカリ水溶液に使用される水は、好ましくは純水および/またはイオン交換水である。また、本発明の効果を損なわない範囲で、アルコールなど水以外の有機溶媒や、pH調整剤などを含んでいてもよい。
【0021】
遷移金属元素を含む溶液と、アルカリとを接触(液相混合)させることで、遷移金属水酸化物を含有する共沈物スラリーを得る。なお、「共沈物スラリー」とは、大部分が、遷移金属水酸化物からなる共沈物と水とからなるスラリーであり、共沈物作製の過程で残った原料、副生塩(例えば、KCl、K2SO4等)添加剤、あるいは有機溶剤等を含んでいてもよいが、純水や有機溶媒等で洗浄し、除去しても良い。
接触(液相混合)の方法としては、遷移金属元素を含む溶液にアルカリ水溶液を添加して混合する方法、アルカリ水溶液に遷移金属元素を含む溶液を添加して混合する方法、並びに遷移金属元素を含む溶液およびアルカリ水溶液を混合する方法を挙げることができる。これらの混合時には、攪拌を伴うことが好ましい。また、上記の接触(液相混合)の方法の中では、アルカリ水溶液に遷移金属元素を含む溶液を添加して混合する方法が、pHを一定範囲に保ちやすい点で好ましく用いることができる。この場合、アルカリ水溶液に、遷移金属元素を含む溶液を添加混合していくに従い、混合された液のpHが低下していく傾向にあるが、このpHが9以上、好ましくは10以上となるように調節しながら、遷移金属元素を含む溶液を添加するのがよい。また、遷移金属元素を含む溶液およびアルカリ水溶液のうち、いずれか一方または両方の水溶液を40〜80℃の温度に保持しながら接触(液相混合)させると、より均一な組成の共沈物を得ることができる傾向にあるため好ましい。
【0022】
次いで、上記共沈物スラリーを固液分離して乾燥することにより、遷移金属水酸化物の乾燥物(以下、単に「乾燥物」と記載する場合がある。)を得る。
乾燥は、通常、熱処理によって行うが、送風乾燥、真空乾燥等によってもよい。また、乾燥の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガス等を用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。乾燥を熱処理によって行う場合には、通常50〜300℃で行い、好ましくは100〜200℃程度である。
【0023】
乾燥物のBET比表面積は、通常、10m2/g以上150m2/g以下程度である。乾燥物のBET比表面積は、後述の焼成時の反応性を促進させる意味で、20m2/g以上であることが好ましい。また、操作性の観点では、乾燥物のBET比表面積は、130m2/g以下であることが好ましい。
【0024】
次いで、原料混合物を製造するために、上記乾燥物とリチウム化合物とは混合される。
乾燥物と、リチウム化合物との混合は、乾式混合、湿式混合のいずれによってもよいが、簡便性の観点では、乾式混合が好ましい。混合装置としては、攪拌混合、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等を挙げることができる。
【0025】
次に、本発明の製造方法における焼成工程について説明する。
本発明の製造方法における焼成工程(以下、単に「焼成工程」と称す場合がある。)は、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を熱源としたガス焼成炉を使用し、かつ、支燃性ガスが、加熱後の燃焼排ガスとの熱交換によって予熱されていることを特徴とする。
炭化水素燃料としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン等や、これらのガスの混合物が挙げられる。また、ブタン及びプロパン等の炭化水素を主成分とし、圧縮することで容易に液化し、可搬性に優れた液化石油ガス(LPG)を用いることもできる。
また、含酸素炭化水素燃料としては、エタノール等のアルコール類や、ジエチルエーテル等のエーテル類、が挙げられる。
炭化水素や含酸素炭化水素は、2種以上を任意の割合で混合して使用することもできる。また、灯油などの炭化水素や含酸素炭化水素を含む各種燃料油も用いることもできる。
これら燃料の中でも、液化石油ガス(LPG)は、燃焼時の熱量が大きく、かつ、比較的安価であるため、好適である。
なお、「支燃性ガス」は、物質が燃焼するのを助ける性質を有するガスであり、具体的には、空気、酸素、またはこれらと不活性ガスとの混合ガス等が挙げられる。焼成工程における支燃性ガスとして、好適には酸素18体積%以上を含むガスであり、通常、空気が用いられる。
【0026】
一般にリチウム遷移金属複合酸化物の焼成工程では、焼成温度は、通常、600℃以上の高温を要する。
ここで、炭化水素や含酸素炭化水素燃料(以下、単に「燃料」と記載する場合がある。)と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を熱源としたガス焼成炉を使用する場合、通常、使用される燃料の50〜100倍程度の体積の支燃性ガスが炉内に供給される。
例えば、燃料と支燃性ガスとして、主成分の体積比ブタン:プロパン=7:3の液化石油ガス(LPG)と空気を使用した場合、不完全燃焼なく燃焼を行わせるために、ガス焼成炉に供給されるLPGと空気の割合(体積比)は、LPG:空気=1:29であり、ここに過剰空気を追加することにより炉内温度を目標温度へ調節しつつ、CO2濃度を低減することができるが、過剰空気の供給量を多くすると到達可能最高温度が下がってしまうため、温度を600℃以上の高温に保つ場合の限界は実質上50〜100倍程度である。
【0027】
ここで、ガス焼成炉内に、外部から直接予熱なしで支燃性ガスを供給すると、予熱されていない支燃性ガスを炉内温度まで加熱する必要があるために、目的の温度とするためには余分な燃料が必要となる。その結果、ガス焼成炉内の二酸化炭素濃度が増加してしまい、リチウム遷移金属複合酸化物の品質が低下する。
これに対し、本発明の製造方法における焼成工程では、支燃性ガスが、炉内を加熱した後の燃焼排ガスとの熱交換によって予熱されているため、支燃性ガスを直接ガス焼成炉に供給して加熱する場合と比較して、炉内の加熱に使用される燃料の量が減少するため、燃料の燃焼に起因する炉内の二酸化炭素発生量を減少させることができる。また同時に、過剰空気を増やすことによる炉内温度低下の度合が小さいため、過剰空気比を大きくすることができる。本発明の製造方法における焼成工程では、LPGを使用した場合にLPGと空気の割合(体積比)は、LPG:空気=1:150〜250程度である。
その結果、高品質なリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【0028】
なお、本発明の焼成工程において、焼成温度は、反応促進の観点より、好ましくは650℃以上であり、より好ましくは750℃以上、さらに好ましくは830℃以上である。なお、上限温度は、特に限定はないが、高温で焼成するとリチウム遷移金属複合酸化物が焼結しやすくなるため、通常、1100℃以下、好ましくは1000℃以下である。
なお、前記焼成における保持温度により、リチウム遷移金属複合酸化物のBET比表面積を調整することができる。通常、保持温度が高くなればなるほど、BET比表面積は小さくなる傾向にある。保持温度を低くすればするほど、BET比表面積は大きくなる傾向にある。
【0029】
本発明における焼成工程において、支燃性ガスを加熱後の燃焼排ガスによって予熱する方式については特に限定されないが、より効率よく燃焼排ガスと支燃性ガスとの熱交換を行うことができるという点で、前記ガス焼成炉が、リジェネバーナを備える排熱回収型ガス焼成炉であることが好ましい。リジェネバーナの方式としては、1つのバーナに1つの蓄熱体を有する方式と、1つのバーナに少なくとも2つの蓄熱体を有する方式がある。前者においては、蓄熱体と一体化したリジェネバーナを2つ1セットとして備え、該リジェネバーナを交互に燃焼させ、一方のリジェネバーナにて火炎を噴射して炉内を加熱すると共に、他方のリジェネバーナにて燃焼排ガスを吸引させて、燃焼排ガスの熱により前記蓄熱体を加熱することで燃焼排ガス中の熱を蓄熱体に回収し、この回収した熱を燃焼時の支燃性ガスの加熱に利用する。後者は「セルフリジェネバーナ」と呼ばれ、少なくとも2つの蓄熱体と一体化したリジェネバーナを備え、該リジェネバーナは燃焼し続けるが、燃焼用の支燃性ガスは複数の蓄熱体を、時間切り替えにて順に通過し、予熱される。排ガスも、燃焼用の支燃性ガスが現に通過していない蓄熱体を順に通過することで、蓄熱体を加熱する。セルフリジェネバーナの中では2つの蓄熱体を備えるセルフリジェネバーナが最も簡便な構造であり、この場合、蓄熱体は排ガスにより加熱される役割と支燃性ガスを予熱する役割を交互に繰り返す。
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の製造方法における焼成工程に好適な排熱回収型ガス焼成炉の一実施形態を具体的に説明する。なお、以下に説明する排熱回収型ガス焼成炉に係る実施形態に示したものに本発明は限定されず、発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施できるものである。
【0031】
図1は本発明の実施形態に係る排熱回収型ガス焼成炉を扉(図示せず)を開放した状態で示す一部切欠正面図、図2は前記排熱回収型ガス焼成炉の一部切欠平面図である。図1,図2に示す排熱回収型ガス焼成炉10は、被焼成物である原料混合物を収容するための加熱炉本体1と、加熱炉本体1を構成する左右側壁1L,1Rの天井1C寄りの部分にそれぞれ水平方向に開設された断面四角形の貫通孔1H内に配置されたセルフリジェネバーナ2L,2Rと、を備えている。セルフリジェネバーナ2L,2Rはいずれも同じ構造、機能を有しており、図2に示すように、左側壁1Lのセルフリジェネバーナ2Lは加熱炉本体1の背壁1B近くに配置され、右側壁1Rのセルフリジェネバーナ2Rは加熱炉本体1の扉1F近くに配置されている。
【0032】
図3に示すように、セルフリジェネバーナ2L,2Rは、隔壁3で区画された二つの蓄熱室4a,4bを有するバーナ本体5と、蓄熱室4a,4b内に充填された蓄熱体(アルミナボール)Bと、バーナ本体5の正面側に取り付けられたバーナタイル部6と、を備えている。蓄熱室4a,4bの上面には、開閉蓋7を有する蓄熱体投入口8が設けられ、蓄熱室4a,4bの側面には、同じく開閉蓋7を有する蓄熱体取出口9が設けられている。
バーナ本体5は、炭化水素ガスを導入するガス導入口20と、支燃性ガス(空気)を導入する給気口21と、燃焼排ガスを排出する排気口22と、を備えている。蓄熱体Bは、単位容積当たりの熱交換率が高く、空気及び燃料排ガスが通過する際の圧力損失が小さい形状であるものが好ましいので、本実施形態では、直径8〜20mm程度のアルミナボールを使用しているが、これに限定するものではなく、その他の種類のセラミックス製のボールあるいはハニカム構造体などを用いることもできる。
【0033】
バーナタイル部6の先端部6aは八角柱形状を成し、基端部6bは四角柱形状を成しており、先端部6の正面中央には、ガス導入口20から供給される炭化水素ガスを噴出する火炎口11が開設され、この火炎口11を取り囲むように4つのエア噴出口12,13,14,15が開設されている。エア噴出口12,13は蓄熱室4a内と連通し、メインエア噴出口14,15は蓄熱室4b内と連通している。また、バーナタイル部6の先端部6aの8つの外周面には、その1面置きに合計4つの排気口16,17,18,19(図1参照)が開設されている。
【0034】
図1,図2に示すように、セルフリジェネバーナ2L,2Rはそれぞれのバーナタイル部6が側壁1L,1Rの貫通孔1Hを貫通した状態で設置されている。加熱炉本体1の側壁1L,1Rの厚さは、セルフリジェネバーナ2L,2Rのバーナタイル部6の軸心6c方向の長さより小さいが、それに近い寸法であるので、バーナタイル部6の正面は側壁1L,1Rの内面と略同一平面を成している。また、バーナタイル部6の先端部6aの6つの外周面のうち、排気口16,17,18,19が存在する外周面と貫通孔1Hの内周面との間に、排気経路16a,17a,18a,19aが形成されている。
【0035】
セルフリジェネバーナ2L,2Rのガス導入口20を経由してバーナ本体5内へ供給される燃料としては、上述の炭化水素や含酸素炭化水素を用いることができる。好適な燃料としてはLPGが挙げられる。なお、燃料としてのLPGは、上述した主成分の体積比ブタン:プロパン=7:3のLPG以外にも、通常LPGとして使用されるガスであればよい。
支燃性ガスとしては、酸素を含むガス、通常、空気が用いられる。なお、雰囲気の酸化性を高めるために、酸素濃度を高めた空気を用いる場合もある。
【0036】
加熱炉本体1は、ステンレス等の耐熱性金属、耐熱性セラミック等によって形成され、1500℃程度まで加熱することができる。その炉内の寸法は、温度分布が不均一にならない限り特に制限はない。
なお、排熱回収型ガス焼成炉1において、炉内で予熱により膨張した支燃性ガスと燃料が接触し、火炎を形成するため、炉内に燃焼のための空間を通常のバーナより大きくとる必要がある。
【0037】
なお、本実施形態では、加熱炉本体1は、いわゆるバッチ式であるが、これに限定されない。例えば、ベルト炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルン等の連続炉であってもよい。また、焼成容器を多段に積み重ねた台車を炉内で移動させて焼成する台車炉でもよい。
【0038】
次に、図3,図4を参照し、排熱回収型ガス焼成炉10の機能について説明する。排熱回収型ガス焼成炉10は、バーナ本体5に内蔵されたダンパ(図示せず)を一定時間経過する度に切り換えることにより、支燃性ガスの導入流路と、燃焼排ガスの排出経路と、を、図4(a)の状態と、図4(b)の状態と、に交互に切り替えながら加熱焼成を行う。
【0039】
図4(a)に示す状態では、給気口21から導入された支燃性ガスFAは、蓄熱室4b内を通過して蓄熱体Bとの接触によって加熱された後、メインエア噴出口14,15から噴出し、火炎口11から噴出する炭化水素ガスとの燃焼反応によって火炎を形成し、加熱炉本体1内を加熱する。このとき、燃料(炭化水素ガス)が燃焼されて発生した二酸化炭素や未反応の燃料及び支燃性ガスを主成分とする燃焼排ガスEGは、排気経路16a,17aを経由して排気口16,17からバーナタイル部6内に吸引され、蓄熱室4a内を通過する際に蓄熱体Bを加熱した後、100〜450℃程度の温度となって排気口22から排出される。
【0040】
予め設定された時間が経過すると、バーナ本体5に内蔵されたダンパ(図示せず)が切り替わり、図4(b)に示す状態となるので、給気口21から導入された支燃性ガスFAは、蓄熱室4a内を通過して蓄熱体Bとの接触によって加熱された後、メインエア噴出口12,13から噴出し、火炎口11から噴出する炭化水素ガスとの燃焼反応によって火炎を形成し、加熱炉本体1内を加熱する。このとき、加熱炉本体1内に発生する燃焼排ガスEGは、排気経路18a,19aを経由して排気口18,19からバーナタイル部6内に吸引され、蓄熱室4b内を通過する際に蓄熱体Bを加熱した後、100〜450℃程度の温度となって排気口22から排出される。以下、一定時間ごとに、図4(a)の状態と図4(b)の状態とに交互に切り替えながら加熱を行う。なお、セルフリジェネバーナ1L,1Rの切替周期は、蓄熱体Bの加熱が効率的に行われるように設定されるが、例えば、セルフリジェネレイティブガスバーナーSRB−25型(株式会社横井機械工作所)の場合、切替周期は15秒/回である。
【0041】
このように、排熱回収型ガス焼成炉10は、それぞれ2つの蓄熱室4a,4bを備えたセルフリジェネバーナ2L,2Rを備え、これらのセルフリジェネバーナ2L,2Rの稼動中に、1つの蓄熱室4aを通過させた高温の支燃性ガスFAを使用して火炎を噴射して加熱炉本体1内を加熱すると共に、他の蓄熱室4bに燃焼排ガスEGを吸引させて、燃焼排ガスの熱により蓄熱室4b内の蓄熱体Bを加熱することで燃焼排ガス中の熱を蓄熱体Bに回収し、次に、ダンパを切り替えることにより、燃焼用支燃性ガスを通過させるように支燃性ガスの進行方向を変更し、この回収した熱を燃焼時の支燃性ガスの加熱に利用する機能を有する。
【0042】
なお、火炎にて炉内温度を調節するバーナは、炉のサイズが大きくなると、炉内での均熱性が悪化する場合がある。このような場合には、加熱炉上部にバーナを設けて炉内温度が均一になるように調節してもよい。また、上記実施形態では、一対のリジェネバーナ2L,2Rをそれぞれ加熱炉本体1の対向する左右側壁1L,1Rにおいて前後に変位した状態に設置しているが、この配置に限定されないので、例えば、省スペース化するために、2つのリジェネバーナを片方の壁面のみに配置してもよい。
【0043】
以下、本発明の製造方法の焼成工程における他の条件について説明する。
【0044】
上述のように本願発明の製造方法において、原料の反応促進の観点より、焼成温度は、好ましくは650℃以上であり、より好ましくは750℃以上、さらに好ましくは830℃以上であるが、支燃性ガスの予熱による加熱炉内の二酸化炭素濃度を軽減させるという本願発明の効果を十分に得るためには、該ガス焼成炉内部の温度と該ガス焼成炉の外に排出される燃焼排ガスの温度との差が250℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがより好ましい。
【0045】
なお、加熱炉内の二酸化炭素濃度は、4体積%以下であることが好ましく、3体積%以下であることが特に好ましい。二酸化炭素濃度を3体積%以下(例えば、2〜3体積%)とすることにより、より活性の高いリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【0046】
焼成工程における原料混合物の保持時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜8時間である。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃〜400℃/時間であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃〜400℃/時間である。
【0047】
前記焼成の際に、混合物は、反応促進剤を含有していてもよい。
反応促進剤として、具体的には、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、CaCl2、MgCl2、SrCl2、BaCl2及びNH4Clなどの塩化物、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、CaCO3、MgCO3、SrCO3及びBaCO3などの炭酸塩、K2SO4、Na2SO4などの硫酸塩、NaF、KF、NH4Fなどのフッ化物、が挙げられる。この中でも、好ましくはNa、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群から選ばれる1種以上の元素の塩化物、炭酸塩または硫酸塩を挙げることができ、より好ましくはKCl、K2CO3、K2SO4である。また、反応促進剤を2種以上併用することもできる。
混合物が反応促進剤を含有することで、混合物の焼成時の反応性を向上させ、得られるリチウム遷移金属複合酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。
反応促進剤を混合物に含有させるには、例えば遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合するときに反応促進剤を添加すればよい。
なお、混合物と反応促進剤との混合割合は、混合物100重量部中0.1重量部以上100重量部以下が好ましく、1.0重量部以上25重量部以下がより好ましい。
【0048】
また、前記焼成によりリチウム遷移金属複合酸化物を得るが、このリチウム遷移金属複合酸化物はボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕してもよい。粉砕によって、リチウム遷移金属複合酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。また、粉砕と焼成を2回以上繰り返してもよい。また、リチウム遷移金属複合酸化物は必要に応じて洗浄あるいは分級することもできる。
【0049】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、二次電池、中でも非水電解質二次電池に有用な正極活物質となる。
【0050】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、通常、0.05μm以上1μm以下の平均粒径の一次粒子から構成され、一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された0.1μm以上100μm以下の平均粒径の二次粒子との混合物からなる。一次粒子及び二次粒子の平均粒径は、それぞれSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することにより、測定することができる。
【0051】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、その構造が通常α-NaFeO2型結晶構造、すなわちR−3mの空間群に帰属される結晶構造である。結晶構造は、リチウム遷移金属複合酸化物について、CuKαを線源とする粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定することができる。
【0052】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物におけるLiの組成としては、Ni、Mn、Fe,Co等の遷移金属元素Mの合計量(モル)に対し、Liの量(モル)は、通常、0.5以上1.5以下であり、容量維持率をより高める意味で、0.95以上1.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.0以上1.4以下である。以下の式(A)として表したときには、yは、通常、0.5以上1.5以下であり、好ましくは0.95以上1.5以下、より好ましくは1.0以上1.4以下である。
Liy(Ni1-xx)O2 (A)
(ここで、Mは、1種以上の遷移金属元素を表し、xは、0<x<1である。)
【0053】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の方法により得られる本発明のリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属元素の一部を、他元素で置換してもよい。ここで、他元素としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mg、Sc、Y、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Tc、Ru、Rh、Ir、Pd、Cu、Ag、Zn等の元素を挙げることができる。
【0054】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物を構成する粒子の表面に、リチウム遷移金属複合酸化物とは異なる化合物を付着させてもよい。このような化合物としては、例えば、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mgおよび遷移金属元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、好ましくはB、Al、Mg、Ga、InおよびSnからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、より好ましくはAlの化合物を挙げることができ、化合物として具体的には、前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩を挙げることができ、好ましくは、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物である。また、これらの化合物を混合して用いてもよい。これら化合物の中でも、特に好ましい化合物はアルミナである。また、付着後に加熱を行ってもよい。
【0055】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、正極活物質として有用であり、二次電池、特に非水電解質二次電池の正極に好適である。この二次電池に用いられる正極活物質は、上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物が主成分であればよい。
【0056】
二次電池用の正極は、上記の方法により得られたリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として、公知の方法、例えば、国際公開第09/041722号パンフレットに記載の方法にて作製することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
<粉末X線回折測定>
粉末X線回折測定(XRD)は、株式会社リガク製 Ultima IVASC-10を用いて行った。測定は、粉末試料を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、電圧40kV、電流40mAの条件で回折角2θ=10°〜90°の範囲にて行い、粉末X線回折図形を得た。
<BET比表面積測定>
粉末1gを窒素雰囲気中150℃、15分間乾燥した後、マイクロメトリックス製フローソーブII2300を用いて測定した。
【0059】
(実施例1)
攪拌槽内で、水酸化カリウム100重量部を、蒸留水535重量部に添加して、攪拌により水酸化カリウムを完全に溶解させ、水酸化カリウム水溶液(アルカリ水溶液)を調整した。
また、別の攪拌槽内で、蒸留水255重量部に、硫酸ニッケル(II)六水和物98.4重量部、硫酸マンガン(II)一水和物64.6重量部および硫酸鉄(II)七水和物11.1重量部を添加して、攪拌により溶解し、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。
次いで、別の攪拌槽に、蒸留水936重量部と前記水酸化カリウム水溶液15.8重量部を仕込んだ後、液温度を30℃にて攪拌しながら、前記水酸化カリウム水溶液165重量部と前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液95.1重量部を滴下することにより、遷移金属水酸化物からなる沈殿物を生成させ、原液スラリーを得た。反応終点のpHを測定したところ、pHは13であった。
次いで、フィルタープレスにて得られたスラリーの固液分離を行った。フィルタープレスには、「ロールフィット フィルタープレス・ドライヤー」(販売元:株式会社 ユーロテック)を使用した。スラリー100重量部をフィルタープレスに供給し、室温下、ろ過圧力0.4MPaG、ろ過時間50分の条件にてろ過した。
次いで、蒸留水を室温下、洗浄圧力0.4〜0.6MPaGにて供給し、水洗を行った。水洗後、圧搾圧力0.7MPaGにて、15分間の圧搾脱水を行った。次いで、減圧フィルタープレスのろ過室内を圧力10kPaとし、フィルタープレスの各ろ過室の流体供給路に90℃温水を通水して、170分間、予備乾燥を行った。予備乾燥後、フィルタープレスから排出したウェットケーク4.62重量部を回収した。この時のウェットケークの含水量は湿潤基準で29.5重量%であった。
得られたウェットケークを、乾燥用バットに仕込み、棚段乾燥機(汎用乾燥装置AT−20(製造元:旭科学株式会社))を用いて120℃、8時間の条件で乾燥後、フェザーミル粉砕を行い、粉末状の乾燥物X1を得た。得られた乾燥物X1の含水率は、3重量%であった。
乾燥物P1100重量部に対し、炭酸リチウム52.2重量部と、硫酸カリウム18.0重量部とを、アルミナボールを入れたロッキングミルで4時間混合し、原料混合物M1を得た。
【0060】
次いで、該原料混合物(M1)1.8kgをアルミナ製焼成容器に入れ、リジェネバーナとして、2機のセルフリジェネバーナ2L,2R(セルフリジェネレイティブガスバーナーSRB−25,株式会社横井機械工作所)を備えた図1,図2に示す排熱回収型ガス焼成炉10(高砂工業株式会社)にて焼成を行った。なお、加熱炉本体1の炉内の寸法は、縦2.1m×横2.1m×高さ1.6mである。
それぞれのセルフリジェネバーナにおいて、火炎の形成時には、燃料ガスのLPG(主成分はブタン約70体積%、プロパン約30体積%)を2〜3m3/h供給し、支燃性ガスの空気を400m3/h供給し、切換周期を15秒/回として運転を行った。焼成条件は、炉の設定温度880℃、排出ガス温度250℃、保持時間6時間である。なお、炉内の二酸化炭素濃度は、最高で3体積%であった。
上記条件にて原料混合物を焼成後、室温まで自然冷却し、焼成品を得た。次いで、焼成品を解砕し、純水でヌッチェろ過による洗浄を行い、ろ過した後に、300℃で6時間乾燥して、粉末B1を得た。
粉末B1のBET比表面積は、10.4m2/gであった。また、粉末X線回折測定の結果、粉末B1の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属される結晶構造であることがわかった。
【0061】
(比較例1)
実施例1にて作製した原料混合物(M1)1.8kgをアルミナ製焼成容器に入れ、通常のバーナを備えたガス炉(高砂工業株式会社製)にて焼成を行った。焼成条件は、炉の設定温度880℃、保持時間6時間である。なお、炉内の二酸化炭素濃度は、最高6体積%であった。
次いで、焼成品を粉砕し、蒸留水でデカンテーションによる洗浄を行い、ろ過した後に、300℃で6時間乾燥して、粉末B2を得た。
粉末B2のBET比表面積は9.0m2/gであった。また、粉末X線回折測定の結果、粉末B2の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属される結晶構造であることがわかった。
【0062】
<非水電解質二次電池の作製>
作製した粉末B1,B2を正極活物質として使用したコイン型の非水電解質二次電池を作製し、充放電試験を実施した。
正極活物質(粉末B1,B2)と導電材(アセチレンブラックと黒鉛を9:1で混合したもの)の混合物に、バインダーとしてPVdFのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)溶液を、活物質:導電材:バインダー=87:10:3(重量比)の組成となるように加えて混練することによりペーストとし、集電体となる厚さ40μmのAl箔に該ペーストを塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、正極を得た。
得られた正極に、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の30:35:35(体積比)混合液にLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解したもの(LiPF6/EC+DMC+EMC)、セパレータとして積層フィルムを、また、負極として金属リチウムを組み合わせてコイン型電池(R2032)を作製した。
上記のコイン型電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。結果を表1に示す。
【0063】
<充放電試験>
充電最大電圧4.3V、充電時間8時間、充電電流0.176mA/cm2
放電時は放電最小電圧を2.5Vで一定とし、各サイクルにおける放電電流を下記のように変えて放電を行った。各サイクルおける放電による放電容量が高ければ高いほど、高出力を示すことを意味する。
1サイクル目の放電(0.2C):放電電流0.176mA/cm2
2サイクル目の放電(1C) :放電電流0.879mA/cm2
3サイクル目の放電(2C) :放電電流1.76mA/cm2
4サイクル目の放電(5C) :放電電流4.40mA/cm2
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、炭化水素や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源としたガス焼成炉を使用した場合においても、リチウム電池の正極活物質として高品質なリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 加熱炉本体
1B 背壁
1C 天井
1F 扉
1H 貫通孔
2L,2R セルフリジェネバーナ
3 隔壁
4a,4b 蓄熱室
5 バーナ本体
6 バーナタイル部
6a 先端部
6b 基端部
7 開閉蓋
8 蓄熱体投入口
9 蓄熱体取出口
10 排熱回収型ガス焼成炉
11 火炎口
12,13,14,15 エア噴出口
16,17,18,19 排気口
16a,17a,18a,19a 排気経路
20 ガス導入口
21 給気口
22 排気口
B 蓄熱体
EG 燃焼排ガス
FA 支燃性ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物と、遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られた原料混合物を、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を熱源としたガス焼成炉で焼成するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、
前記支燃性ガスが、炉内を加熱した後の燃焼排ガスとの熱交換によって予熱されていることを特徴とするリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記ガス焼成炉が、蓄熱体と一体化した一対のリジェネバーナを備え、該リジェネバーナを交互に燃焼させ、一方のリジェネバーナにて火炎を噴射して炉内を加熱すると共に、他方のリジェネバーナに燃焼排ガスを吸引させて、燃焼排ガスの熱により前記蓄熱体を加熱することで燃焼排ガス中の熱を蓄熱体に回収し、この回収した熱を燃焼時の支燃性ガスの加熱に利用する排熱回収型ガス焼成炉である請求項1記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記ガス焼成炉が、少なくとも2つの蓄熱体を備えたセルフリジェネバーナを備え、該セルフリジェネバーナの燃焼中に、1つの蓄熱体を通過させた高温支燃性ガスを使用して火炎を噴射して炉内を加熱すると共に、他の蓄熱体に燃焼排ガスを吸引させて、燃焼排ガスの熱により前記蓄熱体を加熱することで燃焼排ガス中の熱を蓄熱体に回収し、次に燃焼用支燃性ガスを通過させるように支燃性ガスの進行方向を変更し、この回収した熱を燃焼時の支燃性ガスの加熱に利用する排熱回収型ガス焼成炉である請求項1に記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記ガス焼成炉内部の温度が650℃以上であって、該ガス焼成炉内部の温度と該ガス焼成炉の外に排出される燃焼排ガスの温度との差が250℃以上である請求項1から3のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素を含む請求項1から4のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素に加え、CoおよびFeから選ばれる1以上の元素を含む請求項1から5のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
二酸化炭素濃度を4体積%以下に保ったまま焼成を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記支燃性ガスは、酸素を18体積%以上含むことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−201585(P2012−201585A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70910(P2011−70910)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】