説明

リチウム電池用の二硫化鉄含有カソードの作製方法

リチウム又はリチウム合金を含むアノードと、二硫化鉄(FeS)又は二硫化鉄(FeS)と硫化鉄(FeS)との混合物を含むカソードと、導電性炭素粒子とを有する一次電池。カソードスラリーは、FeS又はFeS+FeS粉末、導電性炭素、結合剤、及び溶媒を含んで作製される。結合剤は、好ましくはスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマーである。カソードスラリーを形成するための、ヒドロナフタレン溶媒の使用における利点が発見されている。好ましい溶媒は、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン又はデカヒドロナフタレン、及びこれらの混合物である。このスラリー混合物を導電性基材の上にコーティングして、溶媒を蒸発させると、乾燥カソードコーティングが基材上に残る。より高い乾燥温度を使用することができ、クラックに耐性を有する乾燥カソードコーティングが得られる。アノード及びカソードは、それらの間のセパレータと共に螺旋状に巻き付けられ、電池ケーシング内に挿入された後、電解質が添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムを含むアノードと、二硫化鉄(FeS)を含むカソードとを有するリチウム一次電池、及びこのような電池のカソードの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムのアノードを有する電気化学一次(非充電式)電池は既知であり、また広範囲にわたって商業化されている。アノードは、本質的にリチウム金属から構成されている。かかる電池は、典型的に、二酸化マンガンを含むカソードと、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)のようなリチウム塩を有機溶媒に溶解させて含む電解質と、を有している。電池は、当該技術分野ではリチウム一次電池(一次Li/MnO電池)として参照されており、一般には充電式を意図していない。リチウム金属アノードを備えるが、異なるカソードを有する、代替的なリチウム一次電池も知られている。このような電池は例えば、二硫化鉄(FeS)を含むカソードを有し、Li/FeS電池と呼ばれている。二硫化鉄(FeS)はまた、黄鉄鉱としても知られている。Li/MnO電池又はLi/FeS電池は典型的には円筒形電池の形態を有し、一般に単3サイズ又は単4サイズ電池であるが、他のサイズの円筒形電池であってもよい。Li/MnO電池は、従来のZn/MnOアルカリ電池の2倍である約3.0Vの電圧を有し、かつ、エネルギー密度(電池体積1cm当たりのW時)もアルカリ電池のエネルギー密度より高い。Li/FeS電池は、約1.2〜1.8Vの電圧(未放電)を有し、これは従来のZn/MnOアルカリ電池とほぼ同じである。しかしながら、Li/FeS電池のエネルギー密度(電池体積1cm当たりのW時)は、同程度のサイズのZn/MnOアルカリ電池よりも高い。リチウム金属の理論比容量は、3861.4ミリアンペア時/gと高く、FeSの理論比容量は、893.6ミリアンペア時/gである。FeSの理論容量は、鉄元素Fe及び2LiSの反応生成物をもたらす、FeSの1分子当たり4Liからの4個の電子移動に基づく。すなわち、4個の電子のうち2個が、FeSのFe+2における+2の酸化状態を鉄元素(Fe)の0に変え、そして残りの2個の電子が、硫黄の酸化状態をFeSの−1からLiSの−2に変える。
【0003】
全般的なLi/FeS電池は、同じサイズのZn/MnOアルカリ電池よりもかなり強力である。すなわち、所与の連続電流ドレインの場合、特に200ミリアンペアを超える高い電流ドレインでは、電圧対時間放電特性において明白であり得るように、Li/FeS電池の電圧は、Zn/MnOアルカリ電圧よりも長い時間安定している。この結果、Li/FeS電池から得られるエネルギー出力は、同じサイズのアルカリ電池で得られるエネルギー出力より高くなる。Li/FeS電池のより高いエネルギー出力はまた、エネルギー(W−時)対定電力(W)での連続放電のグラフに更にはっきりとより直線的に示されており、この場合、新品の電池は、0.01W程度〜5W程度の低い範囲の一定の連続出力を最後まで放電する。そのような試験において、電力ドレインは、0.01W〜5Wから選択される一定の連続電力出力に維持される(放電中に電池の電圧が降下するにつれ、負荷抵抗が徐々に低下して電流放電を上昇させ、固定された一定の電力出力を維持する)。Li/FeS電池に関するエネルギー(ワット時)対電力出力(W)のグラフプロットは、同じサイズのアルカリ電池のものを超える。それにもかかわらず、両方の電池(未放電)の起動電圧はほぼ同じ、すなわち約1.2〜1.8Vの間である。
【0004】
それ故、Li/FeS電池は、Li/FeS電池が従来のZn/MnOアルカリ電池と交換可能に使用することができ、かつより長い耐用年数を有する点で、特により高い電力要求に関して、同じサイズのアルカリ電池、例えば、単4、単3、単2若しくは単1サイズ又は任意の他のサイズの電池を凌ぐ利点を有する。同様に、一次(非充電式)電池であるLi/FeS電池もまた、Li/FeS電池とほぼ同じ電圧(未放電)を有する同じサイズの充電式ニッケル水素電池の代替物として使用することができる。したがって、Li/FeS一次電池は、高パルス電力を要求する動作を必要とするデジタルカメラに電力供給するために使用することができる。
【0005】
Li/FeS電池のカソード材料は、最初はスラリー混合物(カソードスラリー)などの形態で作製されてもよく、これは従来のコーティング方法によって金属基材の上に容易にコーティングすることができる。電池に添加される電解質は、必要な電気化学反応を、所望の高い出力範囲にわたって効率良く引き起こすことができる、Li/FeS系に好適な有機電解質でなければならない。電解質は、良好なイオン伝導度を示すと同時に十分に安定なものでなければならず、未放電電極材料(アノード及びカソード構成成分)に対して非反応性であると同時に放電生成物に対しても非反応性でなければならない。これは、電解質材料と電極材料(放電されたもの又は放電されていないもののいずれか)との間の望ましくない酸化/還元反応によって、電解質が徐々に汚染されて、その有効性が軽減されるか又は過剰にガスが発生する可能性があるためである。この結果、突発的な電池の故障が生じる可能性がある。したがって、Li/FeS電池中で用いられる電解質は、必要な電気化学反応を促進することに加えて、更に、放電済みの電極材料及び未放電の電極材料に対して安定でなければならない。更に、電解質は、良好なイオン移動性とリチウムイオン(Li)のアノードからカソードへの移送とを可能にすべきであり、その結果、リチウムイオンは必要な還元反応に関与し、カソードでLiS生成物を生じることができる。
【0006】
FeS活物質含有カソード及びカソード組成物それ自体の作製方法もまた、重要な検討事項である。カソードは一般的に、FeS活物質を含む固体、導電性炭素粒子、及び結合剤を含有するスラリーの形態で作製される。結合剤を溶解し、スラリー中の固体構成成分の良好な分散及び混合をもたらすために、溶媒が添加される。カソードスラリーを薄型導電性基材の一方の面又は両方の面上にコーティングし、次いで乾燥することで溶媒が蒸発し、この基材の一方の面又は両方の面上に乾燥カソードコーティングが残る。これはカソード複合体シートを形成する。スラリーを形成するために使用される溶媒は、乾燥媒体、乾燥時間、及び乾燥温度のように重要な検討事項である。これらの検討事項の全てが、基材上の乾燥カソードコーティングの特性に影響を及ぼし得る。カソードスラリー用の溶媒の選択が悪かった場合、又は乾燥プロセスが最適化されていない場合、カソードコーティング内にクラックが発生する場合があり、これは次に電池の性能を低減させる場合がある。
【0007】
電池の電極アセンブリは、リチウムのシート、FeS活物質含有のカソード複合体のシート、及びそれらの間のセパレータで形成される。電極アセンブリは、例えば、米国特許第4,707,421号に示されるように、螺旋状に巻き付けて、電池ケーシング内に挿入することができる。Li/FeS電池の代表的なカソードコーティング混合物は、米国特許第6,849,360号に記載されている。通常は、アノードシートの一部が電池ケーシングと電気的に接続されて、電池の負極端子を形成している。電池は、ケーシングから絶縁されたエンドキャップで閉じられている。カソード複合体シートは、電池の正極端子を形成するエンドキャップと電気的に接続させることができる。ケーシングは、一般に、端部キャップの周囲端部上で曲げられて、ケーシングの開放端部を封止する。電池には、万一、電池が短絡放電や過熱などの過酷な条件にさらされた場合には電池をシャットダウンするために、PTC(正の熱係数)デバイスなどを内部に設けることができる。
【0008】
Li/FeS一次電池に用いられる電解質は、「有機溶媒」に溶解された「リチウム塩」から形成される。Li/FeS一次電池の電解質に用いることのできる代表的なリチウム塩は、米国特許第5,290,414号及び同第6,849,360(B2)号で言及されており、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS);リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI);ヨウ化リチウム、LiI;臭化リチウム、LiBr;テトラフルオロ臭素酸リチウム、LiBF;六フッ化リン酸リチウム、LiPF;六フッ化ヒ酸リチウム、LiAsF;Li(CFSOC、及び様々な混合物などの塩が挙げられる。Li/FeS電気化学の分野において、リチウム塩は必ずしも交換可能ではないが、これは特定の塩が特定の電解質溶媒混合物と共に最良に働くためである。
【0009】
米国特許第5,290,414号(Marple)にはFeS電池に関する有益な電解質の使用が報告されており、ここで、電解質は、非環式(環式でない)エーテルベースの溶媒である第二の溶媒との混合物での1,3−ジオキソラン(DX)を含む溶媒に溶解したリチウム塩を含む。言及されている非環式(環式でない)エーテルベースの溶媒は、ジメトキシエタン(DME)、エチルグリム、ジグリム及びトリグリムであってよく、好ましくは1,2−ジメトキシエタン(DME)である。実施例に示されるように、ジオキソランと1,2−ジメトキシエタン(DME)は、電解質中に実質的な量、すなわち1,3−ジオキソラン(DX)50体積%とジメトキシエタン(DME)40体積%又は1,3−ジオキソラン(DX)25体積%とジメトキシエタン(DME)75体積%で含まれている(7段目、47〜54行)。このような溶媒混合物中でイオン化可能な具体的なリチウム塩は、実施例に示されるように、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSOである。他のリチウム塩、すなわちリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSONも7段目、18〜19行目に言及されている。この引用は、3,5−ジメチルイソオキサゾール(DMI)、3−メチル−2−オキサゾリドン、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ブチレン(BC)、テトラヒドロフラン(THF)、炭酸ジエチル(DEC)、エチレングリコールサルファイト(EGS)、ジオキサン、硫酸ジメチル(DMS)及びスルホラン(請求項19)から選択される第三の溶媒、好ましくは3,5−ジメチルイソオキサゾールを場合により添加し得ること、を教示する。
【0010】
米国特許第6,218,054号(Webber)には、ジオキソラン系溶媒とジメトキシエタン系溶媒とを約1:3の重量比(ジオキソラン1重量部対ジメトキシエタン3重量部)で含む、電解質溶媒系が開示されている。
【0011】
米国特許第6,849,360(B2)号(Marple)には、Li/FeS電池用の電解質が開示されており、この電解質は、1,3−ジオキソラン(DX)、1,2−ジメトキシエタン(DME)及び少量の3,5ジメチルイソオキサゾール(DMI)を含む有機溶媒混合物に溶解されたヨウ化リチウム塩を含む(6段目、44〜48行)。
【0012】
米国特許出願公開第2007/0202409(A1)号(Yamakawa)には、33段落目に、Li/FeS電池用の電解質溶媒に関して、「有機溶媒の例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、及びジプロピルカーボネートが挙げられ、それらのうちいずれか1つ、あるいはそれらのうち2つ以上を単独で又は混合溶媒の形態で使用することができる。」と記載されている。
【0013】
そのような明言は、当技術分野が、溶媒に溶解される具体的なリチウム塩に応じて、電解質溶媒の特定の組み合わせのみがLi/FeS電池を働かせ得るであろうことを教示しているため、誤解を招く恐れがある。(例えば、上記の米国特許第5,290,414号及び同第6,849,360号を参照されたい。)Yamakawaの参照は、上記のリストからの、溶媒のどの組み合わせが、いずれか所与のリチウム塩と共に使用されるべきであるかということは教示していない。
【0014】
米国特許出願公開第2006/0046152号(Webber)は、その中にFeS及びFeSを含むカソードを有することができるリチウム電池の電解質系を開示している。開示された電解質は、1,2−ジメトキシプロパン及び1,2−ジメトキシエタンの混合物を含む溶媒系中に溶解したヨウ化リチウム塩を含有する。
【0015】
いずれかの1つ以上のリチウム塩と併用してLi/FeS電池に好適な電解質を製造するために、特定の有機溶媒又は異なる有機溶媒の混合物を選択することは困難である。このことは、リチウム塩と有機溶媒との多くの組み合わせが、全く使い物にもならないLi/FeS電池を作り出すということではない。むしろ、既知のリチウム塩と有機溶媒とのいずれかの組み合わせを用いて形成される電解質を使用するかかる電池に関する課題は、生じる問題が非常に本質的である可能性が高いことから、電池の商業利用が非実用的になることである。一般に、リチウム電池の開発史が示すように、例えば非充電式Li/MnO又はLi/FeS電池のようなリチウム一次電池であれ、充電式リチウム電池若しくはリチウムイオン電池であれ、リチウム塩と有機溶媒とをただ組み合わせるだけでは、良好な電池、すなわち良好で信頼性のある性能を示すものは得られないと予想できる。したがって、Li/FeS電池で使用可能な有機溶媒を長々と羅列するだけの参考文献は、特定の効果又は予期せぬ効果を示す溶媒の組み合わせ、又は特定の溶媒混合物中の特定のリチウム塩の組み合わせを教示しているとは必ずしも言えない。
【0016】
リチウム又はリチウム合金を含むアノードと、二硫化鉄(FeS)を含むカソードとを有するリチウム電池を製造することが望ましい。リチウム又はリチウム合金を含むアノードと、二硫化鉄(FeS)及びその中に別の共活性(放電可能な)材料、好ましくは、本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/148,030号(2008年4月16日出願)に記載のような二硫化鉄(FeS)を含むカソードとを有するリチウム電池を製造することも望ましい。この後者のアプリケーションでは、FeSとの混合物中にFeS材料を添加することは、電池を通常の動作で使用するとき、例えばデジタルカメラへの電力供給のために使用するときに、電池性能において何らかの有意な犠牲を払うことなく、カソードの作製に関する確実な利益を導き得るということが指摘されている。表記の便宜上、カソード内にFeSを含有するリチウム電池は、本明細書においてLi/FeS電池として表すことができ、カソード内にFeS及びFeSの両方を含有するリチウム電池は、Li/(FeS+FeS)電池として表すことができる。
【0017】
したがって、Li/FeS電池又はLi/(FeS及びFeS)電池のカソードを作製する改善された方法を見出すことが望ましい。改善された方法が、FeS(又はFeS及びFeS)粉末、導電性炭素、及び結合剤材料が好適な溶媒と一緒に全て混合された混合物から形成されたカソードスラリーの都合のよい作製法となることが望ましい。カソードスラリーは、アルミニウム若しくはステンレス鋼などの、しかしこれらに限られない基材の一方の面若しくは両方の面上に、所望のコーティング厚さで、都合よくコーティングされ得るということが望ましく、湿式コーティングは、都合よく乾燥され、基材上に欠陥のない(又はほとんど欠陥のない)乾燥カソードコーティングを残すことができる。基材上の乾燥コーティングは、基材上の乾燥カソードコーティングを圧縮するためのカレンダー工程にも耐性を有さなければならない。
【0018】
有益な結果につながる特性の組み合わせを有するカソードスラリーの形成に使用するための、改善された溶媒又は溶媒系を見出すことが望ましい。カソードスラリーの形成に使用される、改善された溶媒系は、結合剤に対して強力な溶媒であるべきであり、スラリー中のカソード固体物の良好な混合を可能にし、溶媒/結合剤のマトリックス中の粒子の安定した懸濁液となる。
【0019】
カソードスラリーのための溶媒又は溶媒系が比較的高い沸点を有し、基材上のカソードコーティングがより高い温度で、かつより速い乾燥時間で乾燥できることが望ましい。溶媒は基材上のカソードコーティングの熱風乾燥を許容すべきであり、ここで溶媒は容易に乾燥されて、基材の一方の面又は両方の面上に、乾燥した、欠陥のないカソードコーティングを残す。
【0020】
結合剤溶液が、乾燥プロセスを通じてFeS(又はFeS+FeS粒子)を保護し、乾燥空気若しくはその中に含まれるいずれかの水分とのFeS(又はFeS+FeS粒子)の直接曝露を可能な限り阻害するか、その直接曝露の量を低減させることが望ましい。空気及び水分の、FeS及びFeS粒子表面との長期の直接的接触は、酸性の汚染物質を生じさせ、これらの粒子の電気化学的な有効性を低減させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第4,707,421号
【特許文献2】米国特許第6,849,360号
【特許文献3】米国特許第5,290,414号
【特許文献4】米国特許第6,849,360(B2)号
【特許文献5】米国特許第6,218,054号
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0202409(A1)号
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0046152号
【特許文献8】米国特許出願第12/148,030号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
デジタルカメラ及び類似の電子機器に電力を供給するために、電池が充電式電池の代わりに使用され得るような、良好な出力容量を有するLi/FeS又はLi/(FeS+FeS)一次(非充電式)電池のカソードを製造することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、アノードがリチウム金属を含むリチウム一次電池を目的する。リチウムは、少量のその他の金属、例えばアルミニウムとの合金とすることができ、この金属は通常、リチウム合金の約1又は2重量%未満を構成するが、リチウムの5重量%ほどに高くてもよい。アノード活物質を形成するリチウムは、好ましくは薄い箔の形態である。電池は、通常「黄鉄鉱」として公知のカソード活性材料である二硫化鉄(FeS)を含むカソードを有する。カソードはまた、別の共活物質(coactivematerial)、好ましくは硫化鉄(FeS)共活物質を含んでもよく、これはFeSと適合性がある。各カソード共活物質は放電可能でなければならず、すなわち、電池が通常の動作で使用されるとき、有用な電気エネルギーを生成するために、有用な電気化学反応に関与しなければならない。「適合性のあるカソード共活物質」は、このカソード共活物質が、直接的には、FeS又は他の共活物質とは、電気化学容量の全て若しくは相当量を失ってしまうような直接酸化−還元又は他の反応での反応をしないことを意味する。共活物質がFeSカソード混合物に添加された場合、それは電解質中で安定であるべきであり、カソード添加物又はカソードのカレントコレクタあるいは電池の構成要素のいずれか他のものと反応すべきではない。カソード共活物質の全ては、約10パーセント以内で同一又は類似のOCV(開回路電圧)を有するべきである。リチウムアノードに対する各カソード共活物質のOCVは、望ましくは約1.75VのOCV(未放電)を有するFeSと密接な適合性があるように、約1.7〜1.8Vであるべきである。リチウム電池では、FeS及び共活物質を含有するカソードは、同じ負荷に対して電池が放電されたときに、カソード活物質としてFeSのみを有する同じ電池と類似の負荷電圧プロファイルを呈するべきである(約10パーセント以内)。硫化鉄(FeS)は、609.8ミリアンペア時/グラムの固有の理論容量を有し、これはFeSの固有の理論容量の893.6ミリアンペア時/グラムよりも低い。しかしながら、本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/148,030号に示されているように、FeSをFeSカソードに添加することは、特に高率放電の状況でのカソードの放電の全体的効率を改善することができる。
【0024】
FeSがFeSカソード混合物に添加された場合、上記の本発明の譲受人に譲渡された出願に示されているように、FeS含有量は望ましくは、使用された電解質に関係なく、カソード中のFeS及びFeSの総重量の約5〜30重量%を構成する。好ましくは、FeSは、約20〜35マイクロメートルの平均中位径(D50)を有し、FeSは約5〜15マイクロメートルの平均中位径(D50)を有する。乾燥カソードコーティング中のFeS+FeS含有量の合計は、乾燥カソードの約83〜94重量%、好ましくは、約83〜93重量%、典型的には乾燥カソードの約85〜92重量%を構成し得る。
【0025】
リチウム電池が、カソード(Li/(FeSFeS)電池)中に、FeS及びFeSの両方を有する場合、FeS及びFeSの分子量が等しいと仮定すると、電池は以下の基本的な放電反応を有する(一段階)。
アノード:
4Li=4Li+4e 式1
2Li=2Li+2e 式1A
カソード:
FeS+4Li+4e=Fe+2LiS 式2
FeS+2Li+2e=Fe+2LiS 式2A
全体:
FeS+FeS+6Li=2Fe+3LiS 式3
【0026】
Li/FeS電池は、望ましくは、それらの間のセパレータと共に螺旋状に巻き付けられたアノードシート及びカソード複合体シートを含む、螺旋状に巻き付けられた電池の形態である。しかしながら、アノードシート及びカソード複合体電池は、ボタン若しくはコイン電池内に、又は少なくとも1つの平坦な面を有する電池内に、巻き出された形態で適用されてもよい。カソード複合体シートは、基材(好ましくは導電性基材)の少なくとも一方の面上にコーティングされた二硫化鉄(FeS)カソード活物質を含む、カソードスラリーの形態であってもよい。(特に指示がない限り、カソードスラリーは、周囲条件、例えば約22℃で形成される。)あるいは、カソードスラリーは、二硫化鉄(FeS)粉末及び硫化鉄(FeS)粉末の混合物を含んでもよい。この後者の場合では、FeS含有量は典型的には、カソードスラリー中に存在するFeS及びFeSの合計量の約5〜30重量%であってもよい。カソードスラリーは、導電性炭素粒子(例えば、アセチレンブラック及びグラファイト)、高分子結合剤材料、及び溶媒を更に含む。(本明細書で使用される用語「スラリー」は、その通常の辞書の意味を有し、したがって液体中の固体粒子の分散及び懸濁を意味すると理解される。)
カソードスラリーは、湿式カソード複合体シートを形成するアルミニウム又はステンレス鋼のシートなどの、導電性基材の上にコーティングされ得る。導電性基材は、カソード集電体として機能する。次いで溶媒を蒸発させて、FeS(又はFeSとFeSとの混合物)、並びに導電性炭素粒子及び互いに結合された高分子結合剤を、基材に結合させた基材乾燥コーティングと共に含む、乾燥カソードコーティング混合物を残す。好ましくは、導電性基材の反対側の面を次いでカソードスラリーで同様にコーティングし、この第2のコーティングから溶媒を蒸発させる。これは乾燥カソード複合体を形成し、この複合体は、カレンダー工程に供されて、基材の各面上のカソードコーティングを圧縮され得る。
【0027】
本発明の主要な態様では、カソードスラリーは、ヒドロナフタレン溶媒、好ましくは1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン溶媒)を、FeS(又はFeS+FeS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBSエラストマーブロックコポリマー結合剤)、好ましくはKRATON G1651エラストマー(Kraton Polymers,Houston,Texas)、並びに導電性炭素、好ましくはアセチレンブラック及びグラファイトを含む混合物に添加することによって形成される。このKRATONポリマーは皮膜形成剤であり、FeS(又はFeS+FeS)粒子、並びにカソード混合物中の導電性炭素粒子に対して良好な親和性及び凝集特性を有する。
【0028】
本発明の別の主要な態様では、カソードスラリーは、デカヒドロナフタレン(デカリン溶媒)を使用することによって形成される。カソードスラリーは、FeS(又はFeS+FeS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBSエラストマーブロックコポリマー結合剤)、好ましくはKRATON G1651エラストマー、及び導電性炭素(好ましくはアセチレンブラック及びグラファイト含有)の全てを、デカヒドロナフタレン(デカリン溶媒)との混合物として含むように形成される。カソードスラリー混合物にはまた、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)とデカヒドロナフタレン(デカリン)溶媒との混合物を使用してもよい。この後者の場合では、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)とデカヒドロナフタレン(デカリン)の重量比は、望ましくは約4:6〜1:4の範囲であってもよい。
【0029】
1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン溶媒)は、化学式C1012及び分子量132.21を有する。これはChem.Abstracts登録番号119−64−2を有する。これは沸点206℃、密度0.981g/cm、及び以下の構造式を有する無色の液体である。
【化1】

【0030】
デカヒドロナフタレン(デカリン溶媒)は化学式C1018及び138.26の分子量を有する脂環式炭化水素である。これはChem.Abstracts登録番号493−01−6を有する。これは沸点192℃、密度0.896g/cm、及び以下の構造式を有する液体である。
【化2】

【0031】
カソードスラリーを導電性基材の上にコーティングした後、コーティングされた基材には対流式オーブンを通過させて、溶媒が蒸発するまで高温で加熱する。得られる生成物は、導電性基材に結合させた二硫化鉄及び炭素粒子を含む乾燥カソードコーティングであり、したがって乾燥カソード複合体シートを形成する。乾燥量を基準として、カソードは、好ましくは83〜94%、望ましくは約83〜93重量%、好ましくは約85〜92重量%のFeS又は(FeS+FeS)カソード活物質を含有する。固体分含有量、すなわち、湿式カソードスラリー中のFeS(又はFeS+FeS)及び導電性炭素粒子、並びに結合剤は、55〜75重量%である。カソードスラリーの粘度範囲は、約20000〜35000mPasである。(1mPas=1ミリニュートン×秒/m=1センチポアズ)。リチウム金属を含むアノード及び二硫化鉄を含むカソードが、それらの間のセパレータと共に、電池ハウジング内に挿入された後、電解質が電池に添加される。
【0032】
リチウムアノードと、FeS電池(Li/FeS電池)若しくはFeS及びFeS(Li/FeS+FeS)の混合電池を含むカソードとを含む、本発明の電池に好ましい電解質は、約75〜85体積%、好ましくは約80体積%の1,3−ジオキソラン(DX)及び約15〜25体積%のスルホラン、好ましくは約20体積%スルホラン(SL)を含む溶媒混合物中に溶解された、約0.1〜1.0モル(モル/リットル)、好ましくは約0.8モル(0.8モル/リットル)の濃度のリチウム塩、例えばリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)塩若しくはヨウ化リチウム、LiI、又はこれらの混合物から構成される。次いで、約0.1重量%のピリジンを添加して最終電解質溶液を形成することができる。ピリジンは主に、ジオキソランの重合を阻止する、又はこの重合の速度を遅らせるために機能する。この電解質のヨウ化リチウム塩を超えるより大きな割合での、Li(CFSON(LiTFSI)塩の使用が好ましいが、なぜならば、それがより高い伝導度をもたらすためである。前述のカソード中のFeS含有量は、望ましくは前述のカソード中の約5〜30重量%のFeS+FeSを構成する。Li/FeS電池に適用されるような、このような電解質は、本発明の譲受人に譲渡された同時係属の米国特許出願第11/494,244号(2006年7月27日出願)に開示され、米国特許出願第12/148,030号(2008年4月16日出願)のようにLi/(FeS+FeS)電池に適用される。
【0033】
好適な電解質溶媒の1,3−ジオキソラン及びスルホランは、以下の化学式及び構造式を有する。
【0034】
1,3−ジオキソラン(DX)は、環状ジエーテルであり、複素環式アセタールとしても分類される。それは、化学式C及び構造式(I)を有する。
【化3】

【0035】
スルホランは、分子式CSであり、Chemical Abstracts Service(CAS)登録番号126−33−0の環状化合物である。スルホランは、沸点285℃、粘度10.28センチポアズ(30℃)及び誘電率43.26(30℃)の無色透明の液体である。スルホランの構造式は、次のように表される。
【化4】

【0036】
他の電解質系は、リチウムアノードと、FeS又はFeS+FeS粉末の混合物を含むカソードとを有する電池に非常に効果的であり得る。FeSがFeSに添加された場合、前述カソード中のFeS含有量は、望ましくは、前述のカソード中のFeS+FeSの重量の約5〜30重量%を構成する。Li/FeS又はLi(FeS2+FeS)電池のこのような好適な電解質系は、本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/148,030号(2008年4月16日)に与えられている。1つの、そのような電解質は、本発明の譲受人に譲渡された同時係属の米国特許出願第12/069,953号(2008年2月14日出願)に開示されているような、ジオキソラン(DX)、ジメトキシエタン(DME)、及びスルホランの混合物中に溶解されたヨウ化リチウム(LiI)塩の混合物を含む電解質溶液である。この参照は、FeS活物質を含む、アノード及びカソードを備える電池を開示する。この後者の電解質のLi/(FeS+FeS)電池への適用は、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第12/148,030号(2008年4月16日)にも開示されている。ジオキソランは、好ましくは1,3−ジオキソランであるが、用語「ジオキソラン」は、アルキル置換ジオキソラン類も包含してもよい。好ましいジメトキシエタンは、1,2−ジメトキシエタンである。この電解質には、所望により、溶媒混合物の約0.1〜1重量%の量で3,5−ジメチルイソオキサゾール(DMI)を含ませて、ジオキソラン重合の速度を遅らせてもよい。ジオキソランとジメトキシエタンの重量比は、米国特許出願第12/069,953号に教示されているように、約0.82〜9.0、望ましくは約0.82〜2.3の範囲である。この同じ範囲は、共活性のFeS及びFeSの混合物を有するカソードを備えるリチウム電池に適用可能である。後者の電解質中のスルホラン含有量は、溶媒混合物の約4.8重量%超を構成してもよい。スルホランはまた、更に多量に、例えば前記溶媒混合物の約25重量%まで含まれていてもよく、この場合、ジオキソランとジメトキシエタンとの重量比は約0.82〜9.0の範囲内である。好ましくは、スルホランは、溶媒混合物の約4.8〜6.0重量%超を構成してもよい。これらの同じ範囲は、FeS及びFeSの混合物を有するカソードを備えるリチウム電池に適用可能である。電解質は、望ましくは約0.9〜1.5センチポアズの粘度を有する。電解質中の水分含量は、電解質百万重量部当たり約100〜2000重量部の水であってもよい。望ましくは、電解質中の水分含量は、電解質百万重量部当たり約600〜2000重量部の水であってもよい。電解質は、電解質百万重量部当たり約600〜1000重量部、望ましくは電解質百万重量部当たり約100〜300重量部の水を含んでよい。
【0037】
後者の電解質中の1,2−ジメトキシエタン(DME)は、沸点85.2℃、粘度約0.455センチポアズ、及び誘電率7.20を備える透明な液体である。これは、Chemical Abstracts Service登録(CAS)番号110−71−4を有する。1,2−ジメトキシエタン(DME)(エチレングリコールジメチルエーテルとしても既知)は、以下の構造式の非環式(環状ではない)、有機溶媒である。
CHOCHCHOCH (III)
【0038】
スルホランは後者の電解質において好ましいが、同様に高誘電率を備える他の電解質もスルホランの代わりに使用することができる。かかる溶媒は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、3−メチル−2−オキサゾリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルサルファイト、エチレングリコールサルファイト、アセトニトリル、N−メチルピロリジノン、又はこれらの組み合わせである。
【0039】
概して、リチウムアノードと、FeS及びFeSカソード活物質の混合物を含むカソードとを有する本発明の電池の水分含量は一般的に、全電解質百万重量部当たり約100部未満であってもよい。しかしながら、リチウムアノードと、FeS活物質を備えるカソードとを有する電池に関して報告されているように(2008年1月23日出願の、本発明の譲受人に譲渡された特許出願第12/009858号を参照)、好ましい試験結果に基づくと、カソード中にFeS及びFeS活物質の混合物を有するリチウム電池に関して、全電解質中の水分含量は100ppm超であってもよいということが予想される。Li/(FeS+FeS)電池の電解質中の水分含量が、約1000ppmまで、更には約2000ppmまでであってよいため、水(脱イオン)が電解質溶媒に添加されてもよいと考えられる。(Li/FeS電池中の水分含量について言及している、2008年1月23日出願の、本発明の譲受人に譲渡された特許出願第12/009858号を参照)。したがって、本明細書のLi/(FeS+FeS)電池の電解質中の水分含量は、約100〜1000ppm、例えば約500〜1000ppm、又は約600〜1000ppm、及び約2000ppmまで、例えば約600〜2000ppmであってよいと考えられる。Li/(FeS+FeS)電池の電解質中の水分含量の好ましい濃度は、2008年4月16日出願の、本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/148,030号に開示されるように、約100〜300ppmである。
【0040】
電解質は、望ましくはLi/(FeS)電池又はLi/(FeS+FeS)に、Li/FeS電池に関しては、FeS1グラム当たり約0.4グラムに相当する量の電解質溶液で、Li/(FeS+FeS)電池に関してはFeS+FeS1グラム当たり約0.4グラムに相当する量の電解質溶液で添加されてもよい。
【0041】
上記の電解質は、Li/FeS又はLi/(FeS+FeS)電池システム用の巻き付けられた電池若しくはコインボタン電池で有益に使用することができる。
【0042】
本発明の改善された方法は、導電性基材の上のコーティング用のカソードスラリーの作製に用途を有し、カソードスラリーは、FeS(又はFeS+FeS)、導電性炭素、及び結合剤材料を含み、結合剤はスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマーを含む。上記のように、主な態様では、本発明の改善された方法は、ヒドロナフタレン溶媒、好ましくは1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、又はデカヒドロナフタレン溶媒を、カソードスラリーの形成に使用し、本方法は、電池中に使用される電解質によって制限されることを意図しない。これら2つのヒドロナフタレン溶媒は、カソードスラリーの形成に、単体又は混合で使用されてもよい。溶媒が混合された場合、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンは望ましくは、残余部分がデカヒドロナフタレン溶媒である溶媒混合物の約10〜50重量%、好ましくは約10〜30重量%を構成する。Li/FeS又はLi/(FeS+FeS)電池のカソードの作製における本発明の改善された方法は、特に上記に参照された任意の電解質も含有するような電池で使用されるカソードの作製に使用することができる。
【0043】
本発明の態様では、上記のヒドロナフタレン溶媒を使用するカソードスラリーが作製され、基材、特にアルミニウムのシートの上にコーティングされて、上記のように湿式カソード複合体シートを形成する。カソード複合体シートは次いで、好ましくは乾燥媒体として強制熱風を使用する乾燥オーブンを通される。好ましくは、このオーブンはその中に2つ以上の別個のゾーンを有し、各ゾーンは湿式カソード複合体シートの通過の方向において、漸進的に、より高い温度で維持される。オーブンを通る加熱された空気は、典型的には約75〜140℃である。好ましくは、オーブンは3つの加熱ゾーンを有する。第1ゾーンは望ましくは、約60〜80℃で、典型的には約75℃で維持され、第2ゾーンは約75〜105℃、典型的には約95℃で維持されてもよく、第3ゾーンは約130〜140℃、典型的には約135℃で維持されてもよい。このような3つのゾーンを通る湿式カソード複合体シートの乾燥の全滞留時間(total drying residence time)は、典型的には約2.3〜3.8分であり得る。基材上の乾燥カソードコーティングは、次いでカレンダー工程に供して、コーティング厚さを圧縮することができる。乾燥カソード複合体シートが、巻き付けられた電極アセンブリの一部に使用される場合(例えば、円筒形ハウジング内への挿入のために)、基材の各面上にカソードコーティングを備える、カソード複合体シートを作製することが好ましい。この後者の場合では、最終的な乾燥カソード複合体シートは、典型的には約0.170〜0.186mmの全厚を有してもよい。望ましい基材は、典型的には約0.015〜0.040mmの厚さを有するアルミニウム製であってもよい。上記のヒドロナフタレン溶媒及び乾燥プロトコルを使用するこの方法で作製されたカソード複合体シートは、クラックに耐性を有する乾燥カソードコーティングとなる。また、好ましい溶媒(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン又はデカヒドロナフタレン)は、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックコポリマー結合剤のための非常に良好な溶媒であることに加えて、このように良好な結合剤/溶媒溶液を形成する。結合剤/溶媒溶液はまた、FeS(又はFeS2及びFeS粒子)のための強力な表面親和性を有するように思われる。これはFeS(又はFeS+FeS粒子)が、乾燥空気又はその中に含まれるいずれかの水分へと、任意の長期にわたって直接曝露されるのを防ぎ、ひいては酸性汚染物質(例えば硫酸)が、乾燥プロセス中にこれらの粒子の表面上に形成される可能性を低減する。
【0044】
好ましい単3サイズのLi/FeS電池は、本発明の上記のカソード作製方法によって作製されたカソードを有する。好ましい実施形態では、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン又はデカヒドロナフタレン溶媒のいずれも、上記のとおり使用されてカソードスラリーを形成することができ、これは基材、好ましくはアルミニウムのシートの上にコーティングされる。上記のように、対流式オーブン内のカソードコーティングを乾燥させた後、完成したカソード複合体シートは、アルミニウム基材の両方の面上に乾燥カソードコーティングを備えて形成される。乾燥カソードコーティングは、FeS粒子、結合剤、好ましくはスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)エラストマー結合剤、例えばKRATON G1651結合剤、及び好ましくはアセチレンブラック及びグラファイトを含む導電性炭素を含む。アノードは、好ましくはリチウム金属のシート、好ましくは非合金のシートから形成される。電極アセンブリは、アノードシート及びカソード複合体シートから形成され、それらはそれらの間のセパレータシートと共に螺旋状に巻き付けられている。セパレータシートは、好ましくはミクロ孔質のポリプロピレン製である。巻かれた電極アセンブリは、単3サイズの電池ケーシング内に挿入され、電解質が添加される。好ましい電解質は、約75〜85体積%の1,3−ジオキソラン(DX)及び約15〜25体積%のスルホラン(SL)を含む溶媒混合物中に溶解された、約0.1〜1.0モル(モル/リットル)の、好ましくは約0.8モル(0.8モル/リットル)の濃度のリチウム塩、好ましくはリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)から構成される。約0.1重量%のピリジンを電解質に添加して、ジオキソランの重合を遅らせることができる。電池のケーシングの開口端部は、破裂可能な(ventable)エンドキャップで密閉され、このように好ましい、未放電の単3サイズのLi/FeS電池を形成する。
【0045】
本発明の好ましい単3サイズのLi/FeS電池は、以下のプロトコルに従って試験される。未放電の電池を予備放電して電池の容量を3%減少させ、次いでこの電池を室温(20℃)で2週間保管する。電池は次いで、デジカメ試験に供される(室温、20℃で実施される)。デジカメ試験は、電池にパルス放電を数サイクル印加して各試験電池に電流を流す、次のパルス試験手順からなり、各「パルスサイクル」は、1.5Wパルスを2秒間、その後すぐに0.65Wパルスを28秒間の両方から構成される。これらのパルスサイクルは10回繰り返され(5分かかる)、続いて55分間休止される。その後、所望の終止電圧に達するまでこのサイクルを繰り返す。(この試験は、デジタルカメラで撮影し、画像を見るために必要な電力を模倣することを志向している。)終止電圧が1.05Vに到達するまでサイクルは続けられ、次いで、終止電圧が0.9Vに達するまで更に続けられる。1.05Vの終止電圧に到達するために及び0.9Vの終止電圧に到達するために必要とされるパルスサイクルの合計数(1.5Wパルスの数に相当する)が、電池のために記録される。約1.05Vの終止電圧まで放電された、好ましい単3サイズのLi/FeS電池に関して得られたパルスサイクルの平均数は、容易に約550超であり、典型的には約550〜630であった。0.9Vの終止電圧まで放電された、好ましい単3サイズのLi/FeS電池に関して得られたパルスサイクルの平均数は、容易に650超であり、典型的には約650〜750、例えば650〜700である。
【0046】
デジタルカメラのシャッター及び望遠機能が機能するためには、一般的に1電池当たり1.5Wが必要とされる。電池が、1.05Vまで放電した後には本質的に使い果たされているように設計されている場合、シャッター及び望遠機能が閉じない危険性がある。これは、これらの機能にとって潜在的な損害であり、一般的には消費者が良くない経験をすることになる。他方では、提案されたように電池が最適化された場合、そのような損害は著しく減少される。これは、カメラのシャッター及び望遠機能を閉じるために、1.05V〜0.9Vの終止電圧で十分な容量が残されているためである。更に、1.05Vでの電池不足(low battery)の警告の後、好ましい電池設計は、消費者に対して、カメラを閉じるために適切な時間を与えるだけでなく、電池が追加の1.5Wパルスを0.9V〜1.05Vで印加されるのを可能にするため、更に写真を撮るのに十分な容量を提供する。記述されたこの手法は、電気化学電池(すなわち単3、単4等)の物理的設計に限られないことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】円筒形電池の実施形態で提示される、本発明の改良されたLi/FeS電池の斜視図。
【図2】電池の上部及び内部を示すために図1の透視線2−2で切断された電池の部分横断立面図。
【図3】図1の透視線2−2で切断された電池の、螺旋状に巻き付けられた電解質アセンブリを示す部分横断立面図。
【図4】電極アセンブリを構成する層の配置を示す模式図。
【図5】図4の電極アセンブリの、それぞれの層をその下にある層が見えるように部分的に剥離した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1に示される電池10は、FeSを含むカソードを有するリチウム電池、すなわちLi/FeS電池であってもよく、あるいは、電池10は、FeS+FeSを含むカソードを有するリチウム電池、すなわちLi/(FeS+FeS)電池であってもよい。代表的な電池10は図1に示されるような、螺旋状に巻き付けられた円筒形電池の形態であってもよい。アノード40とカソード複合体シート62との間にセパレータ50を備える、リチウムアノード40及びカソード複合体シート62を含む、巻き付けられた電池10の構成は、図2に示される。カソード複合体シート62は、典型的には基材65の両方の面上にコーティングされたFeS(又はFeS+FeS活物質)を含むカソードコーティング60を有する。
【0049】
カソード組成物中の差異を除けば、カソード内にFeS又はFeS+FeSを使用する電池10の内部構成は、米国特許第6,443,999号に示され、記載されている螺旋状に巻き付けられた構成と類似であり得る。アノードシート40は図に示すように、リチウム金属を含み、カソードシート60は一般に「黄鉄鉱」として知られる二硫化鉄(FeS)を含む。電池は、好ましくは前記の図に示されるように円筒形であって、例えば、単6(42×8mm)、単4(44×9mm)、単3(49×12mm)、単2(49×25mm)、及び単1(58×32mm)サイズのどの大きさであってもよい。したがって、図1に示される電池10はまた、2/3A電池(35×15mm)であってもよい。ただし、これは、電池構造を円筒形に制限することは意図しない。あるいは、電池は、本明細書に記載されているように、リチウム金属又はリチウム合金を含むアノードと、二硫化鉄(FeS)及び硫化鉄を含むカソードと、電解質系を有する、螺旋状に巻き付けられた平坦な電池の形態、例えば、全体的に立方体形状の矩形の電池であってもよい。
【0050】
螺旋状に巻き付けられた電池の場合、電池ケーシング(ハウジング)20の好ましい形は、図1に示すような円筒形である。電池ケーシング20(図1)は、連続的な円筒形表面を有する。アノード40と、カソード複合体62と、をそれらの間のセパレータ50と共に含む、螺旋状に巻き付けられた電極アセンブリ70(図3)は、平板状の電極複合体13(図4及び5)を螺旋状に巻き付けることによって作製することができる。カソード複合体62は、金属基材65上にコーティングされた二硫化鉄(FeS)を含むカソード層60を含む(図4)。
【0051】
電極複合体13(図4及び5)は、次の方法で作製することができる:その中に分散された二硫化鉄(FeS)及び硫化鉄粉末を含むカソード60を、先ず湿式スラリーの形態で作製することができ、これは基材65、好ましくは導電性基材シート又は金属箔65の上にコーティングされる。導電性基材65は、アルミニウム又はステンレス鋼のシート、例えば、アルミニウム又はステンレス鋼のエキスパンドメタル箔であってもよい(図4)。アルミニウムシート65が使用される場合、これは、これを通る開口部のない中実のアルミニウムシートであってもよく、あるいは開口部又は穿孔を備えるシートであってもよい。アルミニウムシート65は、これを通る開口部を備えるエキスパンドアルミ箔(EXMETアルミニウム箔)であってもよく、このようにグリッド又はスクリーンを形成する。(Dexmet Company,Branford,ConnからのEXMETアルミニウム又はステンレス鋼箔)。エキスパンドメタル箔は、約0.024g/cmの坪量を有することができ、開口部をその中に備えるメッシュ又はスクリーンを形成する。典型的に、アルミニウムシート65は、約15〜40マイクロメートルの厚さを有し得る。
【0052】
基材65の上に塗布されるカソードスラリー60は、望ましくは、約2〜5重量%の結合剤(好ましくは、Kraton Polymers,Houston TexasからのKRATON G1651エラストマー結合剤)、約55〜70重量%の活性FeS粉末(又はFeS+FeS粉末)、約4〜7重量%の、典型的には約4〜6重量%の導電性炭素(カーボンブラック及びグラファイト)、並びに約25〜35重量%の溶媒、典型的には約30〜35重量%の溶媒を含む。したがって、固体スラリー(slurry solids)、すなわちFeS(又はFeS+FeS粉末)、導電性炭素、及び結合剤は、スラリーの約55〜75重量%、典型的にはスラリーの約65〜75重量%を構成する。スラリーは望ましくは、約20000〜35000センチポアズの粘度を有することができる。乾燥させたカソードコーティング60は、望ましくは約5重量%以下の結合剤、典型的には約2〜5重量%の結合剤、約83〜93重量%のFeS(又はFeSが添加されているときは、FeS+FeS)、典型的には、85〜92重量%のFeS2(又はFeS2+FeSを含む。カソードが所望によりFeS及びFeS粉末を含有する場合、FeSは典型的には、本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/148,030号(2008年4月16日出願)に記載のように、FeS及びFeSの混合物の約5〜30重量%を構成してもよい。
【0053】
例えば、表1に示されるように、二硫化鉄(FeS)、結合剤、導電性炭素、及び溶媒を含むカソードスラリー混合物は、均質な混合物が得られるまで構成成分を混合することによって作製することができる。表1に示されるカソードスラリー混合物は、ヒドロナフタレン溶媒を使用する、代表的な望ましい特定のカソードスラリー混合組成物である。表1に示される特定のカソード混合組成物は、例として提供され、したがって制限することは意図されていない。
【0054】
構成成分の上記の量(表1)は、当然、少量又は大量のバッチのカソードスラリーが作製できるように、比例的に増減することができる。カソードスラリーは、したがって以下の代表的な組成物を有してもよい:FeS粉末(62.9重量%);結合剤、KRATON G1651(2.0重量%);グラファイト、Timrex KS6(5.1重量%)、アセチレンブラック、Super P(0.8重量%)、炭化水素テトラリン溶媒(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン)。(注記:デカリン溶媒(デカヒドロナフタレン)をテトラリン溶媒に置き換えてもよく、あるいは溶媒はまた、デカリン及びテトラリン溶媒の混合物から構成されてもよい。)
カソードスラリー(表1)が形成された後、湿式スラリーは次いで、導電性基材65の一方の面上にコーティングされて、湿式カソード複合体シート62を形成する。その上に湿式カソードスラリーがコーティングされた導電性基材65は、次いで、熱風(若しくは不活性ガス中に)を対流式オーブンに通すことによって対流式オーブン(図示せず)内で乾燥させ、スラリー中の溶媒を蒸発させ、これによって導電性基材65の一方の面上に乾燥カソードコーティング60を含有する乾燥カソード複合体シート62を形成する(図4及び5)。この工程は、望ましくは、導電性基材65の反対側の面も湿式カソードスラリーでコーティングするために繰り返される(表1)。導電性基材65の反対側の面上の湿式カソードスラリーを次に、同じ対流式オーブン内で乾燥させ、溶媒を蒸発させ、これによって、乾燥カソードコーティング60を導電性基材65の反対側の面上にも形成することができる。好ましくは、このオーブンは2つ以上の別個のゾーンを有し、各ゾーンは湿式カソード複合体シートの通過の方向において、漸進的に、より高い温度で維持される。湿式カソード複合体シートは、アイドラー(ローラー)上でこれらのゾーンを通り、そこでは各ゾーンの温度を維持するために、コーティングは予備加熱された空気によって衝突される。好ましくは、オーブンは3つの加熱ゾーンを有する。第1ゾーンは望ましくは、約60〜80℃で、典型的には約75℃で維持され、第2ゾーンは約75〜105℃、典型的には約95℃で維持されてもよく、第3ゾーンは約130〜140℃、典型的には約135℃で維持されてもよい。このような3つのゾーンを通る湿式カソード複合体シートの乾燥工程の全滞留時間は、典型的には約2.3〜3.8分であり得る。基材上の乾燥カソードコーティングは、次いでカレンダー工程に供されて、コーティング厚さを圧縮することができる。乾燥カソードコーティング60が、カソード複合体シート65を形成するために、アルミニウム基材65の両方の面上にある場合、次いで、カレンダー工程の後に、カソード複合体シート62は、典型的には約0.170〜0.186mmの厚さを有してもよい。これは、アルミニウム基材65の厚さ、典型的には約0.015〜0.040mmを含むカレンダー工程後の乾燥カソードコーティングは、典型的には約17〜23パーセントの多孔度を有してもよい。
【0055】
上記のカソード混合物中のカーボンブラックは、アセチレンカーボンブラックであることが好ましい。しかしながら、カーボンブラックは、その他のカーボンブラック、例えば天然ガス又は石油の不完全燃焼又は熱分解によって生成されるカーボンブラックの全部又は一部を含み得る。それ故、本明細書で使用される用語「カーボンブラック」は、アセチレンブラック及びそのような他のカーボンブラックに拡大され、またこれらを含むと理解されよう。
【0056】
KRATON G1651結合剤は、エラストマーブロックコポリマー(スチレン−エチレン/ブチレン(SEBS)ブロックコポリマー)であって、皮膜形成剤である。この結合剤は、活性FeS、FeS及び導電性炭素粒子に対して十分な親和性を有し、カソードスラリーの作製を促進し、溶媒が蒸発した後、粒子と粒子との接触を維持する。KRATON結合剤はまた、電解質中で安定であり、これはアノード40、カソード複合体62がそれらの間のセパレータ50と共に巻き付けられ、電池ケーシング内に挿入された後で、電池に添加される。
【0057】
ヒドロナフタレン(部分的又は完全な水素化ナフタレン)がSEBSエラストマーブロックコポリマー、特にKRATON結合剤に対する特に良好な溶媒であることができ、したがってカソードスラリー60の作製及び乾燥を促進するということが判明した。特に、芳香族炭化水素1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン又は脂環式炭化水素デカヒドロナフタレンの単体又は混合物が、SEBSエラストマーブロックコポリマー、特にKRATONポリマー結合剤に対して優れた溶媒であり得るということが判明した。非常に望ましいカソードスラリー配合物は、FeS(又はFeS+FeS)粉末、アセチレンブラック及びグラファイトを含む導電性炭素、並びにKRATON G1651結合剤+ヒドロナフタレン溶媒を含む。好ましいヒドロナフタレン溶媒は1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン若しくはデカヒドロナフタレンのいずれか、又はこれらの後者の2つの溶媒の混合物である。1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンは、テトラリン炭化水素(TETRALIN hydrocarbon)の商品名で市販されており、デカヒドロナフタレンは、デカリン炭化水素(DECALIN hydrocarbon)の商品名で市販されており、両方ともE.I.DuPontから、及びまたBaytown TXのAdvanced Aromaticsからも市販されている。カソードスラリーは、FeS(又はFeS+FeS)、カーボンブラック、及びグラファイト粉末をTurbula型ミキサーなどのミキサーで先ず混合することによって作製することができる。混合した粉末は次いで、プラネタリーミキサー内のKRATON結合剤と上記のヒドロナフタレン溶媒との混合物に添加することができる。
【0058】
好ましいヒドロナフタレン溶媒、すなわち、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン溶媒又はデカヒドロナフタレン溶媒は、FeSを含むカソードスラリーの形成において、溶媒としてこれまで使用されてきたShell Sol OMS又はShell Sol A100溶媒よりも高い沸点を有するということが判明した。(FeSを含む湿式カソードスラリーの形成におけるShell Sol OMS又はShell Sol A100溶媒の使用は、例えば、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第11/516,534号(2006年9月6日出願)に記載されている。)SEBS(KRATON)ブロックコポリマー結合剤に対して非常に良好な溶媒であることに加えて、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン又はデカヒドロナフタレン溶媒は、FeSを含むカソードスラリーの形成に使用されるとき、固有の特性を有するということが判明した。上述のとおり、カソードスラリー60は、導電性基材65の少なくとも一方の面上にコーティングされてカソード複合体シート62を形成する。カソード複合体シート62は、次いで対流式乾燥機に通し、湿式カソードコーティング内の溶媒を蒸発させ、基材65上に乾燥カソードコーティング60を残させる。FeS、導電性炭素、及びKRATON結合剤を含む上述の湿式カソードスラリーの形成に、溶媒1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン又はデカヒドロナフタレンが使用されるとき、カソードコーティング60は、乾燥させることでクラックに耐性を有するようになることが判明した。1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン又はデカヒドロナフタレン溶媒もまた、混合物に使用することで同一又は同様な効果を得ることができる。これらの溶媒が混合された場合、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンは望ましくは、残余部分がデカヒドロナフタレン溶媒である溶媒混合物の約10〜50重量%、好ましくは約10〜30重量%を構成する。しかしながら、所望の効果を達成し、カソードスラリーの作製を簡略化するためには、2つの溶媒のうちのいずれか1つのみの使用で十分であるということが判明している。また、これらの溶媒は、FeS粉末がFeSとの混合物で添加される、カソードスラリーの形成に効果的に使用することができる。これはFeS粒子が溶媒と非反応性であり、FeSと比較して、同様な混合特性を有するためである。
【0059】
作製時にヒドロナフタレン溶媒1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン又はデカヒドロナフタレンを使用したカソードコーティング60は、導電性基材65上で乾燥すると、改善されたカソードコーティングモルフォロジーと、欠陥のない傾向のテクスチャーとが得られる。カソードコーティング60は、したがって、クラックに耐性を有する。この結果、改善された放電性能をもたらす可能性がある。
【0060】
これらのヒドロナフタレン溶媒は、KRATON結合剤の、より速い溶解速度をもたらし、したがって、結合剤溶液中のポリマー鎖間の絡み合いの程度を低減させる。ポリマーと溶媒間の、より効果的な相互作用のために、KRATONは、ヒドロナフタレン溶媒中により容易に溶媒和する。どちらのヒドロナフタレンも、9[cal/cm3]1/2以上のヒルデブランド溶解度パラメータを有する。前述の配合物に使用されるShellsol溶媒は、7.5〜8.5[cal/cm3]1/2のヒルデブランドパラメータを有する。十分に溶媒和されたポリマー鎖は、立体障害メカニズムによって分散を安定されるのにより効果的である。ポリマー溶液の大部分が、粘弾性でありながらも非線形の挙動を呈するため、結合剤溶液のレオロジーを完全に評価することは難しい。しかしながら、典型的なSEBS−溶媒溶液が、完全に溶媒化したランダムコイル及びミセルの動的平衡であるということは既知である。溶液中に形成されたポリマー構造体は錯体であり、典型的には異なるモルフォロジーのために多相ダイアグラムで表わされる。結果として、溶液は異なる程度のエネルギーを有し、これはコーティング及び乾燥プロセス中の、溶液及び分散液における可撓性の増加の原因となる。これは、デカリンなどの選択的溶媒(KRATON中のたった1つのブロックのための本当の溶媒であるもの)が使用されるときには、特に当てはまる。ミセルの集団は、ブロックがミセルのコアを形成する形態を好む。これらのミセルは、複雑な流体(complex fluids)と呼ばれ、いくつかのミセル相が動的に遷移している。
【0061】
ヒドロナフタレンは、数週間にわたって凝集に耐性のある安定した分散をもたらす。これは、立体障害による、全粉末粒子の効果的な濡れ及び安定化によるものである。ヒドロナフタレンの高沸点及び低蒸気圧から、それらの蒸発速度はゆっくりである。湿式コーティングの効果的な乾燥が達成される場合、これは重要である。コーティング層が厚くなり始め、固化する前に湿式コーティング中の溶媒の大部分のアリコートが溶媒から取り除かれる場合、乾燥プロセスは効果的であると見られる。溶媒は、乾燥機中で、湿式コーティングを一定の速度で移動する熱風に同時に供することによって、湿式コーティングから取り除かれる。乾燥機ゾーンの温度の勾配は、湿式コーティングのバルクから、液体/空気境界面を経て移動空気流の経路へと、溶媒の物質移動を促進する。この境界面が長いほど、流体状態に保持され、したがって乾燥プロセスの早い段階で、より多くの溶媒が蒸発され、乾燥プロセスはより効率的となる。粘稠で、高固体なスラリーに関連する最も一般的な乾燥の欠陥の一つは、泥クラック(mud-cracking)である。この名称は記述的であるが、なぜならば、その最も極端なものとして、欠陥は閉じた多角形パターンに深い粗いクラックを呈するからである。クラックの形成は、同時に発生する2つのプロセス、すなわち湿式コーティングのゆっくりとした凝固と、境界面に向かっての溶媒分子の強制拡散とによって説明される。湿潤層が可撓性を失うにつれて、応力が蓄積され、応力線に沿ってクラックが形成される。本明細書で記載されるように、カソードスラリーの作製時、及び後に続く基材65上のカソードコーティング60の乾燥時でのヒドロナフタレン溶媒の使用は、改善された表面モルフォロジー及びテクスチャーを有し、応力及びクラックに、より耐性を有するカソードコーティングが得られる。
【0062】
また、206℃で沸騰する1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン及び192℃で沸騰するデカヒドロナフタレンの比較的高い沸点と、SEBSブロックコポリマー(KRATON結合剤)材料のこれらのヒドロナフタレンの全体的に強力な溶媒は、使用される溶媒の量に関連してカソードスラリーの固体含有量を増加させることができる。カソードコーティング内のヒドロナフタレン溶媒の使用は、Shell Sol A100又はShell Sol OMS炭化水素などの他の溶媒とよりも、より高い粘度で、例えば約15000〜35000センチポアズでのコーティングを可能にする。
【0063】
湿式カソードコーティング60の乾燥が、コーティング中のヒドロナフタレン溶媒(例えばテトラリン又はデカリン溶媒)の、より高い沸点のために、より高い温度で達成できるということは利点である。したがって、スループット速度(ライン速度、1分当たりのメートル数)は、より高い乾燥温度のため、また、カソードコーティング60中のより高い固体含有量(低減された量の溶媒)のために、乾燥機を通る湿式カソード複合体シート62に対して増大することができる。すなわち、乾燥機を通過するカソード複合体シート62の滞留時間は縮小され、したがって、カソードコーティングがShell Sol A100及びShell Sol OMS溶媒と共に作製されたとき、典型的な寸法のインラインの乾燥機では、同じ乾燥機では1分当たり約0.5m〜0.6mのライン速度と比較すると、より速い乾燥プロセスがもたらされ、1分当たり約1.2〜2.0mのライン速度が可能となる。カソードコーティングが、ヒドロナフタレン溶媒テトラリン若しくはデカリン溶媒(又はそれらの混合物)を使用して作製されたとき、乾燥機を通過するカソード複合体シート62の滞留時間は、約2.3〜3.8分にまで縮小することができる。これは、Shell Sol A100及びShell Sol OMS溶媒を使用してカソードコーティングが作製されるとき、典型的には約7.5〜9.0の滞留時間を比較する。溶媒を蒸発させるために、熱風が通過する対流式オーブン(乾燥機)にカソード複合体62を通過させることによって、カソード複合体シート62(アルミニウム基材65上のカソードコーティング60)のより速い乾燥時間が達成された。(この空気は、蒸発した溶媒を含んでいるため再利用されない。)好ましくは、アルミニウム導電性基材65の両面はカソード複合体シート62を形成するために、ヒドロナフタレン溶媒含有の、本発明のカソードコーティング60でコーティングされる(2つの別個のパスで)。
【0064】
従来の断続的なロールコーターは、上述のテトラリン若しくはデカリン溶媒(又はこれらの混合物)含有の湿式カソードコーティング60を、導電性基材65の1つの面に塗布するのに使用することができる。カソード複合体シート62は次いで、アイドラーローラー上で移動され、対流式熱風乾燥機を通過される。オーブンは2つ以上の別個のゾーンを中に有し、各ゾーンは漸進的に、より高い温度で維持されていることが好ましい。乾燥機は3つの加熱ゾーンを有することが好ましい。(加熱ゾーンは、大気圧よりわずかに低く維持される。)第1ゾーンは、例えば約75℃で維持されてもよく、第2ゾーンは、約95℃で維持されてもよく、第3ゾーンは、約135℃で維持されてもよい。1分当たり約1.2〜2.0mの所与のライン速度に対して、各ゾーンを通過するカソード複合体シート62の滞留時間は、ほぼ同じであってよく、各ゾーンを通過するカソード複合体シート62の合計滞留乾燥時間は約2.3〜3.8分となる。この方法で作製されたカソード複合体シート62の作製は効果的であり、乾燥カソードコーティング60はクラックに耐性がある。ヒドロナフタレン溶媒(テトラリン若しくはデカリン溶媒又はそれらの混合物)はポリマー溶液を、FeS及びFeS粒子のために強力な表面親和性を有する溶液形態にするように思われる。熱風及び水分の、FeS及びFeS粒子との長期的な直接接触は、酸性汚染物質を生じさせ、これらの粒子の電気化学有効性を低減することがある。導電性基材65の反対側の面は、湿式カソードスラリーで同様にコーティングすることができ、コーティングされた基材65は再び、同じオーブンを通され、上記のように同じ乾燥プロトコルに曝露され、乾燥カソード複合体シート62を形成する(to from)。乾燥カソード複合体シート62は、次いで、基材65の各面上のカソードコーティングの厚さが圧縮される、カレンダーローラーを通過されてもよい。
【0065】
FeS粉末は、約1〜100マイクロメートル、望ましくは約10〜50マイクロメートルの平均粒径を有し、BET表面積は、典型的には約0.8〜1.5m/gであってよい。FeS粉末は、また添加された場合、約1〜100マイクロメートル、望ましくは約5〜50マイクロメートルの平均粒径を有してもよい。好ましくは、FeS粉末は、約20〜35マイクロメートルの粒径を有し、FeS粉末は、添加される場合、約5〜15マイクロメートルの粒径を有する。この後者の場合において、FeS及びFeS粒子の粒径分布は、二峰性であると考えられ得る。所望のFeS粉末は、商品名Pyrox Red 325粉末としてChemetall GmbHから市販されており、このFeS粉末の粒子サイズは、少なくとも90%の粒子がメッシュサイズ325のTylerのふるい(ふるいの開口は0.045mm)を通過するほど十分に小さい。(325メッシュのふるいを通過しないFeS粒子の残留量は最大10%である。)Pyrox Red 325のFeSは、約20〜26マイクロメートルの平均粒子サイズ、典型的には約1.1m/gのBET比表面積、及び4.7g/cmの密度を有していた。純度が99.9%である望ましいFeS粉末は、Alfa Aesar Co.から市販されている。従来のFeS粉末、例えばChemetall GmbHからのPyrox Red 325粉末は、pH上昇添加剤をその中に含有した状態で市販される。このような添加剤は、場合によっては、炭酸カルシウム(CaCO)又は炭酸カルシウム含有化合物を含むことがある。同様に、そのような化合物はまた、FeS粉末に添加されて、同様にこの粉末のpHを上昇させ得る。保管されたFeS及びFeS粉末、並びにFeS及びFeS活物質に基づくカソードは、徐々に大気及び水分と反応し、硫酸及び他の活物質の形成となる。これらの副産物の一部は、デンドライトの形成を促進する能力を有し、デンドライトは、電池の耐用期間を減少させる恐れがあり、かつ電池の通常の使用中の、良好な電池性能の達成を阻害する恐れがある。したがって、FeS及びFeS粉末のpHは、この粉末が空気及び水分を含有する雰囲気に保管される場合には、そのような酸性汚染物質の形成を遅らせるために、上昇させることが望ましい。
【0066】
好適なグラファイトは、Timcal AmericaからTimrex KS6グラファイトという商品名で入手可能である。TIMREXグラファイトはかなり高度に結晶化した合成グラファイトであり、BET比表面積が20m/g、密度が2.25g/cmである。(他のグラファイトも、天然、合成、又はエキスパンドグラファイト及びこれらの混合物から選択して用いてもよいが、Timcal製のTIMREXグラファイトは高純度であるため好適である。)カーボンブラックは、好ましくは、商品名Super P導電性炭素ブラック(62m/gのBET比表面積、袋内の嵩密度0.160g/cm)としてTimcal Co.から市販のアセチレンブラックである。Super Pアセチレンブラックは、ASTMD1512−95によって測定されたように約10のpH値を有する。
【0067】
Li/(FeS+FeS)電池に望ましい電解質系は、上記の「課題を解決するための手段」に記載されているとおりであると判断され、本明細書では繰り返されない。このような電解質混合物は、Li/(FeS+FeS)系には効果的な電解質である。
【0068】
炭化水素溶媒を、FeS粉末、炭素粒子、及び高分子結合剤中に混合し、上記のように基材65上にコーティングする湿式カソードスラリーを形成する。好ましい混合順序では、溶媒類が結合剤と最初に混合され、結合剤/溶媒混合物を形成する。FeS及び炭素粒子を別々に予備混合した後、結合剤/溶媒混合物に加えてよい。所望により、FeSは、プレミックスに添加することもできる。FeSが添加された場合、それは典型的には、FeS及びFeSの合計の約5〜30重量%を含んでもよい。スラリー配合物は、プラネタリーミキサーを用いて分散されてよい。先ず乾燥粉末(FeS粉末及び炭素粒子)をブレンドして均一性を確実にした後、混合ボウル内のKRATON G1651結合剤溶液に加える。溶媒類は次に添加され、均質のスラリー混合物が得られるまで、構成成分がミキサーで混合される。
【0069】
アノード40は、リチウム金属の固体シートから作製することができる。アノード40は、望ましくはリチウム金属(純度99.8%)の連続シートから形成される。アノード40中のリチウム金属は、少量のその他の金属、例えばアルミニウムや、カルシウムとの合金とすることができ、この金属は通常、リチウム合金の約1又は2重量%未満、及び最大約5重量%を構成する。アノード40を形成するリチウムシートは、基材を必要としない。リチウムアノード40は、螺旋状に巻き付けられた電池の場合、厚さが約0.09〜0.20mm、望ましくは約0.09〜0.19mmのリチウム金属の押出成形シートから好都合に形成することができる。
【0070】
電解質透過性セパレータ材料50の個々のシートで、好ましくは、厚さが約0.025mm以下、望ましくは約0.008〜0.025mmのミクロ孔質のポリプロピレン又はポリエチレンの個々のシートが、リチウムアノードシート40の両側に挿入される(図4及び5)。好ましい実施形態において、セパレータシートは、厚さ約0.025mm(1ミル)のミクロ孔質のポリエチレン又はポリプロピレンとすることができる。ミクロ孔質のポリプロピレンの孔径は、望ましくは約0.001〜5マイクロメートルである。第1(上部)セパレータシート50(図4)は、外側のセパレータシートを表すことができ、そして第2のシート50(図4)は、内側のセパレータシートを表すことができる。導電性基材65上にカソードコーティング60を含むカソード複合体シート62を、次に、内側のセパレータシート50の反対方向に配置して、図4に示す平板状の電極複合体13を形成する。平板状の複合体13(図4)は螺旋状に巻き付けられ、電極螺旋状アセンブリ70を形成する(図3)。巻き付けはマンドレルを用いて行い、電極複合体13の延長されたセパレータ縁部50b(図4)をしっかりと掴んだ後、複合体13を時計回りに螺旋状に巻き付けることで、巻き付けられた電極アセンブリ70が形成される(図3)。
【0071】
巻き付けが終了すると、セパレータ部分50bは、図2及び3に示すように、巻き付けた電極アセンブリ70のコア98内に現れる。非限定的な例として、セパレータの各周期の底縁部50aを、図3に示し、及び米国特許第6,443,999号に教示されているように、連続的な膜55へ熱形成してもよい。図3から分かるように、電極螺旋状物70は、アノードシート40とカソード複合体62との間にセパレータ材料50を有する。螺旋状に巻き付けられた電極アセンブリ70は、ケーシング本体の形に適合した構造(図3)を有する。螺旋状に巻き付けられた電極アセンブリ70を、ケーシング20の開口端部30に挿入する(図2)。巻き付けるときに、電極螺旋状物70の外側の層は、図2及び3に示すセパレータ材料50から構成される。追加の絶縁層72、例えば、ポリプロピレンテープなどのプラスチックフィルムを、電極複合体13が巻き付けられる前に、望ましくは外側のセパレータ層50上に配置することもできる。そのような場合、螺旋状に巻き付けられた電極70は、巻き付けた電極複合体をケーシングに挿入するときに、ケーシング20の内面と接触させて絶縁層72を有する(図2及び3)。あるいは、ケーシング20の内面を、巻き付けた電極螺旋状物70をケーシングに挿入する前に、電気絶縁材料72でコーティングすることもできる。
【0072】
上記の「課題を解決するための手段」で記載のような望ましい電解質混合物は、次いで、電池ケーシング20内に挿入された後、巻き付けられた電極螺旋状物70に添加され得る。
【0073】
電池の正極端子17を形成するエンドキャップ18は、金属タブ25(カソードタブ)を有してもよく、金属タブの面のうち一方をエンドキャップ18の内面に溶接することができる。金属タブ25は、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている。カソード基材65の一部分は、図2に示すように、巻き付けられた螺旋の頂部から延びる延長部分64を形成する。延長部分64が金属タブ25の露出側に溶接された後、ケーシング周囲端部22を端部キャップ18の周囲にて曲げ、その間の絶縁円盤80の周囲端部85が電池の開放端部30を閉鎖する。エンドキャップ18は、望ましくは通気口19を有し、この通気口には、電池内ガス圧が予め定められたレベルを超えると破裂してガスを逃すように設計された、破裂可能な膜を収容することができる。正端子17は、望ましくはエンドキャップ18の一体化部分である。あるいは、端子17は、米国特許第5,879,832号に記載されている種類のエンドキャップアセンブリの最上部として形成することができ、このアセンブリは、エンドキャップ18の表面の開口部に挿入してから、それと溶接することができる。
【0074】
金属タブ44(アノードタブ)は、好ましくはニッケルから形成されており、リチウム金属アノード40の一部に押し込むことができる。アノードタブ44は、螺旋状物内のどの部分でもリチウム金属に押し込むことができ、例えば、それは、図5に示すように、螺旋状物の最外層でリチウム金属に押し込むことができる。アノードタブ44は、その一方の面をエンボス加工して、リチウムに押し込もうとするタブのその面に複数の起立部分を形成することができる。タブ44の反対の面は、図3に示すようなケーシング20の、ケーシング側壁24の内面か又はより好ましくは閉口端部35の内面のうちいずれかのケーシングの内面に溶接することができる。アノードタブ44は、ケーシング閉口端部35の内面に溶接することが好ましく、それというのも、これが、電気スポット溶接プローブ(細長い抵抗溶接電極)を電池コア98に挿入することによって容易に達成されるためである。溶接プローブを、電池コア98の外側境界の一部に沿って存在するセパレータ・スタータ・タブ50bと接触させないように注意する必要がある。
【0075】
一次リチウム電池10は、所望により、エンドキャップ18の下に配置されたPTC(正の熱係数)デバイス95を更に備えて、カソード60とエンドキャップ18との間に直列に接続されてもよい(図2)。かかるデバイスは、予め定められたレベルよりも高い電流ドレインでの放電から電池を保護する。したがって、電池に、並外れて高い電流、例えば、約6〜8アンペアよりも高い電流が長時間流れると、PTCデバイスの抵抗が劇的に増加し、それによって異常な高ドレインを停止する。当然のことながら、通気口19及びPTCデバイス95以外のデバイス類を用いて、誤用又は放電から電池を保護してもよい。
【0076】
好ましいヒドロナフタレン溶媒、すなわち1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンを使用する好ましいカソードスラリー混合物が表Iに示される。
【表1】

【0077】
好ましいヒドロナフタレン溶媒、すなわちデカヒドロナフタレンを使用する本発明の別の好ましいカソード湿式スラリー混合物が表IIに示される。
【表2】

【0078】
比較用電池及び試験電池の作製
単3サイズのLi/FeS比較用試験電池(49×12mm)を上述のように未放電で作製した。湿式カソードコーティング60は、それを通るいずれの開口部もない、厚さ20マイクロメートル(0.020mm)のアルミホイル基材65のシートの両方の面上にコーティングされた。基材65上のカソードコーティング60は、試験電池及び比較用電池のそれぞれに対して、以下に記載のように乾燥された。セパレータは、厚さ約0.025mm(1ミル)のミクロ孔質のポリプロピレン(Celgard 2500)であった。各電池用のアノード40は、厚さ約0.015mm(6ミル)のリチウム金属のシートを含んでいた。カソードは、4.5グラムの二硫化鉄(FeS)をカソード活物質として含有していた。具体的には、試験電池をアノード(ミリアンペア時)の理論容量のカソード(ミリアンペア時)の理論容量に対する比が約1.08となるようバランスが取られた。
【0079】
螺旋状に巻き付けられたアノード40、カソード60、及びそれらの間のセパレータ50を含む乾燥電極アセンブリ70を、上記に記載した電池の形成と同様、円筒形のケーシング20内に挿入した。次いで、電解質を電池に添加した。電池に添加される電解質は、同一出願人による米国特許出願第11/494,244号にあるように、1,3ジオキソラン(80体積%)及びスルホラン(20体積%)の溶媒混合物中に溶解されたLi(CFSON(LiTFSI)塩(0.8モル/リットル)の混合物を含むものとした。約0.1重量%のピリジンが電解質に添加された。電解質混合物は、螺旋状に巻き付けられた電池(図2)に関して、FeS1グラム当たり約0.4グラムの電解質溶液に基づき添加された。
【0080】
特に、3つの単3電池、すなわち、比較用電池、試験電池A及び試験電池Bが作製され、試験された。導電性基材65の各面上にカソードコーティング60を形成するために使用されたカソードスラリーは、FeS粉末、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックコポリマー結合剤、すなわちKRATON G1651結合剤、アセチレンブラック、グラファイト、及び溶媒を含有した。カソードスラリーは、厚さ約20マイクロメートルを有するアルミニウム基材65の一方の面上にコーティングされ、湿式コーティングは次いで、対流式エアオーブン内で乾燥されて溶媒を蒸発させ、アルミニウム基材65の一方の面上に乾燥カソードコーティング60を残した。同じカソードスラリーが次いで、アルミニウム基材の反対側の面上にコーティングされて、その面は同様に乾燥されてカソード複合体シート62を形成した。カソード複合体シート62は次いで、カレンダーローラーに通され、アルミニウム基材65の各面上の乾燥カソードコーティング60を圧縮された。導電性基材65の各面上の乾燥カソードコーティング60の多孔度は、約17〜23%だった。試験電池及び比較用電池のそれぞれに対して、カソードコーティング60の形成で使用されたカソードスラリーの溶媒が異なるという点を除いては、単3電池は、あらゆる点で同一であり、同一のアノード、カソード、セパレータ、及び電解質組成物を含んだ。試験電池A及びB用の湿式カソードコーティングはまた、以下に記載されるように比較用電池よりも、高い温度、及びより短い滞留時間で乾燥された。
【0081】
特に、試験電池Aのカソードコーティング60を形成するのに使用されたカソードスラリーは、テトラリン溶媒(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン)を含有し、表Iに示される組成物を有した。試験電池Bのカソードコーティング60を形成するのに使用されたカソードスラリーは、デカリン溶媒(デカヒドロナフタレン)を含有し、表IIに示される組成物を含有した。また、比較用電池のカソードコーティング60を形成するのに使用されたカソードスラリーは、先行技術のShell Sol A100及びShell Sol OMS溶媒の混合物を含有した。試験電池Aの乾燥後の、カソードスラリー及びカソード60の組成物が表Iに示される。試験電池Bの乾燥後の、カソードスラリー及びカソード60の組成物が表IIに示される。それとは対照的に、比較用電池のカソードコーティング60を形成するカソードスラリーで使用された溶媒は、Shell SolA−100とShell Sol OMS炭化水素溶媒の混合物を含有した。Shell Sol溶媒は、ShellSol A100炭化水素溶媒(Shell Chemical Co.)として市販されている、C〜C11(主にC)芳香族炭化水素の混合物、及びShell Sol OMS炭化水素溶媒として市販されている(Shell Chemical Co.)主にイソパラフィン(平均分子量166、0.25重量%未満の芳香族含有量)の混合物を含んだ。ShellSol A100とShellSol OMS溶媒の重量比は、4:6であった。ShellSol A100溶媒は、ほとんど芳香族炭化水素(90重量%を超える芳香族炭化水素)、主にC〜C11芳香族炭化水素を含む炭化水素混合物である。ShellSol OMS溶媒は、芳香族炭化水素含有量が0.25重量%未満のイソパラフィン炭化水素の混合物(98重量%のイソパラフィン、分子量約166)の混合物である。カソードスラリーの固体含有量(FeS、アセチレンブラック、グラファイト、及び結合剤)は66.4重量%だった。乾燥させると、比較用電池のカソード組成物は、試験電池に関して表I又はIIに示されているのと本質的に同じ組成物を、同じ重量%のFeSすなわち89重量%をその中に備えて有した。
【0082】
したがって、試験電池A及び試験電池Bそれぞれの湿式カソードコーティングを形成するのに使用された溶媒、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)及びデカヒドロナフタレン(デカリン)は、比較用電池のカソードを形成するのに使用された先行技術の溶媒(Shell Sol溶媒)とは異なっていた。また、コーティング中の固体含有量に対して使用された溶媒の量は、試験電池対比較用電池では異なっていた。(試験電池Aの湿式コーティング中の固体含有量は70.2重量%であり、試験電池Bの湿式カソードコーティング中の固体含有量は70.9重量%であり、比較用電池の湿式カソードコーティング中の固体含有用は66.4重量%だった。)しかしながら、アルミニウム基材65の各面上の湿式カソードコーティング60が各電池(比較用電池、試験電池A及び試験電池B)に対して乾燥されたとき、各電池中の残りの乾燥カソードコーティングは、アルミニウム基材65の面当たり24mg/cmの合計固体(すなわちFeS、アセチレンブラック、グラファイト、及び結合剤)を同様に有した。また、各ケース(比較用電池、試験電池A及び試験電池B)中の乾燥カソードコーティングは、その中にFeSの同一組成物を、すなわち89重量%を有した。
【0083】
比較用電池、試験電池A、及び試験電池Bに関するアルミニウム基材65の各面上の湿式カソードコーティング60用の乾燥プロトコルは、以下のとおり。
【0084】
試験電池Aに関して、カソード複合体シート62は、表Iに示されるようにテトラリン(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン)溶媒を使用して配合された湿式カソードコーティング60で、最初にアルミニウム基材65の一方の面上にコーティングされた湿式カソードコーティング60で形成された。湿式カソードがコーティングされた基材65は、熱風の対流式オーブンの3つの乾燥ゾーンを連続して通された。次いで、同じアルミニウム基材65の反対面が同様に、同じ湿式コーティング60でコーティングされ、コーティングされた基材は、基材の反対面を乾燥させるために再び同じ3つの乾燥ゾーンを通された。
【0085】
基材65にコーティングされた湿式カソードは、以下の3つの乾燥ゾーンを通過した。対流式オーブンのゾーン1は、75℃の温度で維持され、ゾーン2は95℃の温度で維持され、ゾーン3は135℃の温度で維持された。湿式カソードがコーティングされた基材の1回のオーブン通過当たりの合計滞留時間は、約2.3〜3.8分だった(1分当たり1.2〜2.0メートルのライン速度)。湿式カソードがコーティングされた基材が各ゾーンを通過する、実際の滞留時間は、ゾーン1:0.7〜1.3分、ゾーン2:0.7〜1.3分、及びゾーン3:0.7〜1.3分だった。
【0086】
試験電池Bに関して、カソード複合体シート62は、アルミニウム基材65の各面上に、表IIに示されるようなデカリン(デカヒドロナフタレン)溶媒を使用して配合された湿式カソードコーティング60を備える、湿式カソードコーティング60で形成された。
【0087】
湿式カソードがコーティングされた基材65は、熱風の対流式オーブンの3つの乾燥ゾーンを連続して通された。次いで、同じアルミニウム基材65の反対面が同様に、同じ湿式コーティング60でコーティングされ、コーティングされた基材は、基材の反対面を乾燥させるために再び同じ3つのゾーンを通された。
【0088】
基材65にコーティングされた湿式カソードは、以下の3つの乾燥ゾーンを通過した。対流式オーブンのゾーン1は、75℃の温度で維持され、ゾーン2は95℃の温度で維持され、ゾーン3は135℃の温度で維持された。湿式カソードがコーティングされた基材の1回のオーブン通過当たりの合計滞留時間は、約2.3〜3.8分だった(1分当たり1.2〜2.0メートルのライン速度)。各ゾーンを通過する、湿式カソードがコーティングされた基材の実際の滞留時間は、ゾーン1:0.7〜1.3分、ゾーン2:0.7〜1.3分、及びゾーン3:0.7〜1.3分だった。
【0089】
比較用電池に関して、カソード複合体シート62は、アルミニウム基材65の各面上の湿式カソードコーティング60で形成され、カソードコーティング60は、上記のようにShell Sol A−100及びShell Sol OMS溶媒(重量比4:6)の混合物を使用して配合された。
【0090】
湿式カソードがコーティングされた基材65は、熱風の対流式オーブンの3つの乾燥ゾーンを連続して通された。次いで、同じアルミニウム基材65の反対面が同様に、同じ湿式コーティング60でコーティングされ、コーティングされた基材は、基材の反対面を乾燥させるために再び同じ3つの乾燥ゾーンを通された。
【0091】
基材65にコーティングされた湿式カソードは、以下の3つの乾燥ゾーンを通過した。ゾーン1は、40℃の温度で維持され、ゾーン2は60℃の温度で維持され、ゾーン3は135℃の温度で維持された。湿式カソードがコーティングされた基材の1回のオーブン通過当たりの合計滞留時間は、約7.5〜9.0分だった(1分当たり約0.5〜0.6メートルのライン速度)。各ゾーンを通過する、カソード複合体シート62の実際の滞留時間は、ゾーン1:2.5〜3.0分、ゾーン2:2.5〜3.0分、及びゾーン3:2.5〜3.0分だった。
【0092】
基材65の両面が乾燥された後、各電池の得られた最終カソード複合体シート62は、カレンダーローラーを通され、基材65の各面上の乾燥カソードコーティングの厚さを圧縮された。試験電池A、試験電池B、及び比較用電池の最終的なカソード複合体シート62(カレンダー工程後)は、約0.170〜0.186mmの厚さを有した。これは約0.020mmだったアルミニウム基材65の厚さも含んだ。
【0093】
使用された乾燥オーブン(図示せず)は、改良された浮遊タイプの対流式乾燥オーブンだった。乾燥媒体は加熱空気であり、オーブン内の空気雰囲気は、ほぼ大気圧であった。比較用電池、試験電池A及び試験電池Bのカソード複合体シート62は、次に、乾燥オーブンを通る複合体シート62を支持したアイドラー(フリーホイールローラー)のセット上に配置された。オーブンを通過する熱風の一部は、アイドラーからカソード複合体シート62を部分的に持ち上げ、これによってアイドラー上の複合体シートの接触重力を低減させる。これは、アイドラーに面するアルミニウム基材の面上のカソードコーティング60を加熱するのに役立つ。(好適なオーブンは本質的に閉じられた対流式オーブンであり、これは強制空気を加熱し、強制空気は対流式オーブンを通過して、アイドラーを用いてオーブンを通過する複合体シート62上の湿式カソードコーティング60中の溶媒を蒸発させる。)アルミニウム基材65の各面上にコーティングされた湿式カソードコーティング60を備える上記のカソード複合体シート62は、カソードコーティング60中に含有された溶媒を効果的に蒸発させるために、上記のとおり、3つの加熱ゾーンを通された。要するに、試験電池A及び試験電池Bそれぞれに対して、カソードコーティング60中に使用されたテトラリン及びデカリン溶媒は、比較用電池のカソードコーティング60を作製するのに使用された先行技術のShell Sol溶媒よりも高い沸点を有した。テトラリン及びデカリン溶媒は、KRATON結合剤に対して一般的により強力な溶媒であり、比較用電池の湿式カソードコーティングの作製で使用されたShell Sol溶媒よりも、カソード固体に対してより良好な媒体だった。結果として、カソード複合体シート62は、より高いオーブン温度で、かつより速いライン速度で乾燥されることができ、すなわち、比較用電池で使用されるカソード複合体シート62よりも、滞留時間がより短い。テトラリン又はデカリン溶媒をそれぞれ使用して、試験電池A及び試験電池Bのために作製された湿式カソードコーティング60は、欠陥のない乾燥カソードコーティング60を作り、これは、カソード複合体シートがカレンダーローラーに通された後でさえも、いずれかの顕著なクラックがなく、欠陥がないように思われた。これとは対照的に、Shell Sol溶媒を使用して作製されたカソードコーティング60(比較用電池のための)は、カソード複合体シート62が乾燥オーブンを通過するときに、より低いオーブン温度及びより長い(higher)滞留時間を必要とした。乾燥カソードコーティングはクラックに耐性があるように思われたが、カソード複合体シート62を、カレンダーローラーに通過させ、アルミニウム基材65の一方の面上のコーティング60を圧縮した後に、乾燥コーティング中に微小の細かいクラックを観察することができたため、カソードコーティングは無欠陥ではなかった。
【0094】
特に、各電池(比較用電池、試験電池A及び試験電池B)の電解質は、1,3ジオキソラン(80体積%)及びスルホラン(20体積%)の溶媒混合物中に溶解されたLi(CFSON(LiTFSI)塩(0.8モル/リットル)を含んだ。電解質添加剤0.1重量%のピリジンが電解質中に含まれた。電解質は、FeS1グラム当たり電解質0.5グラムに基づいて添加された。
【0095】
試験プロトコル
単3電池(上記の試験電池A、試験電池B、及び比較用電池)が充填された後、それらは電池の容量の約3%の放電深度まで、わずかに予備放電された。電池の容量の3%の削減を伴う予備放電後に、電池は次いで室温(20℃)で2週間保管された。次いで電池を、以下に説明するデジカメ試験に供した。デジタルカメラ放電試験(デジカメ試験)を用い、単3試験電池を約1.05Vの終止電圧まで放電させた。
【0096】
デジタルカメラ試験(デジカメ試験)(室温、20℃で)は、電池にパルス放電を数サイクル印加して各試験電池に電流を流す、次のパルス試験手順からなり、各「パルスサイクル」は1.5Wパルスを2秒間、その直後の0.65Wパルスを28秒間の両方から構成される。これらのサイクルを10回繰り返した後、55分間静置する。その後、終止電圧に達するまでこのサイクルを繰り返す。(この試験は、デジタルカメラで撮影し、画像を見るために必要な電力を模倣することを志向している。)
1.05Vの終止電圧に達するまでこのサイクルを継続する。各バッチに関して、終止電圧に達するまでに必要とされたパルスサイクルの合計数(1.5Wのパルスの数に相当)を記録した。試験電池が約1.05ボルトの終止電圧に到達するためのパルスサイクルの平均数は、以下のとおりだった。
【表3】

注:
1.湿式カソードコーティングは、Shell Sol A−100及びShell Sol OMS溶媒を含有した。湿式カソードコーティングは、20マイクロメートル厚のアルミニウム基材の各面上にコーティングされ、上記のとおり乾燥された。乾燥カソード組成物は、表I及びIIで示されているように、試験電池用と本質的に同じであった。
2.湿式カソードコーティングは、テトラリン(1,2,3,4−ヒドロナフタレン)溶媒を含有した。湿式カソードコーティングは、20マイクロメートル厚のアルミニウム基材の各面上にコーティングされて、上記のように乾燥された。乾燥カソード組成物が表Iに示される。
3.湿式カソードコーティングはデカリン(デカヒドロナフタレン)溶媒を含有した。
【0097】
湿式カソードコーティングは、20マイクロメートル厚のアルミニウム基材の各面上にコーティングされ、上記のとおり乾燥された。乾燥カソード組成物が表IIに示される。
【0098】
これらの試験結果は、比較用電池と比較したとき、試験電池A及び試験電池Bの比較可能な放電性能(デジカメテスト)を示す。しかしながら、テトラリン又はデカリン溶媒をそれぞれ使用する湿式カソードコーティングを有する試験電池A及び試験電池Bは、比較用電池のカソードを作製するのに使用されるような、先行技術のShell Sol溶媒を使用する湿式カソードコーティングよりも速いライン速度で(より短い乾燥滞留時間)で乾燥させることができる。試験電池A及びBの乾燥カソードコーティングは、本質的に観察可能なクラックが表面上になく、したがって比較用電池のカソードコーティングよりも更に良好である、クラックへの耐性があるように思われた。
【0099】
好ましい単3サイズのLi/FeS電池
以下の表IVに示されるように、本出願人が確認した好ましいパラメータを使用するとき、単3サイズのLi/FeS電池の性能は改善することができる。好ましい単3サイズのLi/FeS電池は、リチウム金属(合金ではない)のシートから構成されるアノードを有した。電池は、FeS粉末(Pyrox Red 325)、グラファイト(Timrex KS6)、結合剤(KRATON G1651)、アセチレンカーボンブラック(Super Pカーボン)を含むスラリー組成物から作製されたカソードを有した。カソードスラリーは、アルミニウム基材65の各面に塗布されて(厚さ約0.015〜0.040mm)、次いで、試験電池Aを参照して本明細書で説明されている上記と同じ方法を使用して乾燥された。(カソードスラリーは、基材65の一方の面に塗布され、対流式オーブン内で乾燥された。カソードスラリーは次いで、基材65の反対側の面に塗布され、次いでオーブン内で乾燥された。基材上の乾燥カソードコーティングは、次いでカレンダー工程に供される。)好ましい単3電池の乾燥カソード組成物も、ほぼ表Iに示されているとおりの組成物を有した。本発明の単3サイズのLi/FeS電池の好ましい電解質は、約75〜85体積%の1,3−ジオキソラン(DX)及び約15〜25体積%のスルホラン(SL)を含む溶媒混合物中に溶解された、約0.1〜1.0モル(モル/リットル)の、好ましくは約0.8モル(0.8モル/リットル)の濃度のリチウム塩、好ましくはリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)から構成される。次いで、ジオキソラン重合を抑制するための、約0.1重量%のピリジンが添加されて最終電解質溶液を形成することができる。
【0100】
試験された、好ましい単3サイズのLi/FeS電池は、アルミニウム基材65の厚さを含め、0.180の厚さの乾燥カソードを有した。アルミニウム基材は、約0.015〜0.040mmの厚さを有した。(カソード60は、試験電池Aに関して上記のように、アルミニウム基材65の両方の面上にコーティングされた。)乾燥カソードコーティングは、約18〜22パーセントの多孔度を有した(平均約20.7パーセント。)FeS、導電性炭素及び結合剤を含む乾燥カソードの充填は、アルミニウム基材の面当たり24.52mg/cmだった。アルミニウム基材の1つの面の面積を基準として、全体の乾燥カソードの充填は、したがって2×24.52=49.04mg/cmである。好ましい電池のFeSカソード活物質の充填は、アルミニウム基材65の1面当たり、約20.72〜22.00mg/cmである。これはFeSの893.6ミリアンペア時/gの理論容量に基づいて、アルミニウム基材の1面当たり、約18.52〜19.66ミリアンペア時/cmのカソード理論容量に換算する。
【0101】
試験された好ましい電池では、アノードは3.93アンペア時の合計入力の理論容量を有し、カソードは、4.22アンペア時の合計入力の理論容量を有した。(これらの理論容量は、それらの間にセパレータを備える、直接互いに面している螺旋状に巻き付けられたアノード及びカソードの部分を基準としている。)好ましい単3サイズのLi/FeS電池は、したがって、アノードとカソードの理論容量比が0.93となるようにバランスが取られた。
【0102】
8個の好ましい単3サイズのLi/FeS電池が組み立てられ、試験された。各電池は、平均充填重量2.08を備える上記の電解質で充填された。好ましい電解質充填重量は1.97g〜2.17gだった。
【0103】
電池は上記と同じ保管及びデジカメ試験プロトコルに供された。特に、未放電の単3サイズのLi/FeS電池は予備放電されて、電池の容量を3%低減させ、次いで電池は室温(20℃)で2週間保管された。次いで電池は、以下の段落で示されるとおりデジカメ試験に供された。単3試験電池は、デジタルカメラ放電試験(デジカメ試験)を使用して、約1.05ボルトの終止電圧まで放電され、次いで0.9ボルトに低下するまでに得られたパルスサイクル数が記録された。
【0104】
室温(約20℃)で実施されるデジタルカメラ試験(デジカメ試験)は、電池にパルス放電を数サイクル印加して各試験電池に電流を流す、次のパルス試験手順からなり、各「パルスサイクル」は1.5Wパルスを2秒間、その直後の0.65Wパルスを28秒間、の両方からなる。これらのパルスサイクルは10回繰り返され(5分かかる)、続いて55分間休止させる。その後、終止電圧に達するまでこのサイクルを繰り返す。(この試験は、デジタルカメラで撮影し、画像を見るために必要な電力を模倣することを志向している。)終止電圧が1.05Vに到達するまでサイクルは続けられ、次いで、終止電圧が0.9Vに達するまで更に続けられる。電池に関して、終止電圧に達するまでに必要とされたパルスサイクルの合計数(1.5Wのパルスの数に相当)を記録した。約1.05Vの終止電圧まで放電された好ましい単3サイズのLi/FeS電池に対して得られるパルスサイクルの平均数は626であり、0.9Vの終止電圧で得られるパルスサイクルの平均数は696だった。
【0105】
Li/FeS電池の他の好ましいパラメータは以下のとおりである(本項又は表IVに特に挙げられていない他のパラメータが、試験電池Aに関して参照される)。
【表4】

注:
1.電解質は、約80体積%の1,3−ジオキソラン(DX)及び20体積%のスルホラン(SL)を含む溶媒混合物中に溶解されたLi(CFSON(LiTFSI)塩である。次いで、約0.1重量%のピリジンが添加されて最終電解質溶液が形成される。
2.電池の予備放電前の、測定されたリチウムアノードシートの厚さであり、ここでは電池は理論容量の約3%が放電される。
3.アルミニウム基材の両方の面上にコーティングされたFeSを含むカソード。
【0106】
電池の性能の指標、R
試験電池A及び試験電池B(表III)についての、並びに表IVの及び類似の電池に関して上記される好ましい電池についてのデジカメ試験の結果に基づいて、パルス比Rを計算することができ、その値の範囲は、本発明の電池の性能を特徴付ける別の指標として示すことができる。上記のデジカメ試験(前述の表IVの第2パラグラフ)を使用して、Rは以下のとおり定義することができる。
=[P0.9V−P1.05V]/P0.9V
式中、P0.9Vは、電池を0.9Vの終止電圧まで放電することによって得られるデジカメパルスサイクル数であり、P1.05Vは、1.05Vの終止電圧まで電池を放電することによって得られるパルスサイクル数である(室温、20℃で)。上記の比、Rは、電池の製造後5年以内になされる、P0.9V及びP1.05Vのデジカメテストから決定される。電池の比、Rは、典型的には約0.08〜0.15、例えば、より典型的には約0.10〜0.13である。デジカメ試験を使用して、0.9Vの終止電圧まで放電することによって得られるパルスサイクル数、P0.9Vは、パルスサイクルが電池の製造後5年以内に適用された場合、一般的に約650〜750であり得る。
【0107】
本発明について特定の実施形態を参照しながら説明してきたが、当然のことながら、本発明の概念から逸脱することなくその他の実施形態も可能であり、すなわち、その他の実施形態は本発明の特許請求及び均等物の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属及びリチウム合金のうちの少なくとも1つを含むアノードと、二硫化鉄(FeS)を含むカソードとを有する電池のためのカソードを作製する方法であって、
a)二硫化鉄(FeS)粉末、導電性炭素、結合剤材料、及び溶媒を混合して、カソードスラリー混合物を製造する工程であって、前記結合剤材料はスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマーを含み、前記溶媒はヒドロナフタレン化合物を含む、工程と、
b)前記カソードスラリーを基材の少なくとも一方の面上にコーティングして、湿式カソード複合体シートを製造する工程と、
c)前記湿式カソード複合体シートをオーブンに通過させて前記溶媒を蒸発させることにより、前記基材の少なくとも一方の面上に乾燥カソードコーティングを含む乾燥カソード複合体シートを製造する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、硫化鉄(FeS)粉末を、二硫化鉄(FeS)粉末、導電性炭素、結合剤材料、及び溶媒と混合してカソードスラリー混合物を製造することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結合剤がエラストマーブロックコポリマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒドロナフタレンが、デカヒドロナフタレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、又はこれらの混合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)が、前記カソードスラリーを前記基材の両方の面上にコーティングして、前記工程(c)における前記基材の各面上に乾燥カソードコーティングをもたらすことを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基材が導電性シートである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
加熱された空気が、前記工程(c)において前記オーブンを通過して、前記カソード複合体中の溶媒を蒸発させることによって、前記乾燥カソードシートを製造する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記湿式カソード複合体シートが、前記オーブン内の複数のゾーンを通され、前記各ゾーンが、空気流の方向において、漸進的に、より高い温度で維持される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
d)前記基材の各面上の前記カソードコーティングが圧縮される、前記乾燥カソードシートをカレンダー工程に通す工程、を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記カレンダー工程後の前記基材の前記各面上の前記乾燥カソードコーティングの多孔度が、約17〜23パーセントである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ハウジングと、正極及び負極端子と、リチウム金属及びリチウム合金のうちの少なくとも1つを含むアノードと、カソードと、該カソード内に挿入された電解質とを含む電気化学一次電池であって、前記カソードは、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって作製される、電気化学一次電池。
【請求項12】
0.9ボルトの終止電圧に到達するまで、前記電池に一連のパルスサイクルを印加することから構成されるパルス放電プロトコルに前記電池を供したときに、前記電池が、得られる前記パルスサイクル数が650を超えるような放電特性を有し、前記パルスサイクルのそれぞれは、前記電池に1.5Wパルスを2秒間印加し、その後すぐに0.65Wパルスを28秒間印加することの両方から構成され、前記0.9Vの終止電圧に到達するまで、連続周期的な方法で、前記パルスサイクルは連続して10回繰り返され、続いて前記電池は55分間休止され、続いて前記パルスサイクルは10回繰り返され、続いて前記休止が行われる、請求項11に記載の電池。
【請求項13】
0.9Vの終止電圧までに得られる前記パルスサイクル数が、約650〜750である、請求項11に記載の電池。
【請求項14】
前記アノード及びカソードが、それらの間のセパレータシートと共に螺旋状に巻き付けられている、請求項11に記載の電池。
【請求項15】
前記電池は、パルス放電プロトコルが適用されたとき、得られる比Rpが約0.08〜0.15である放電特性を有し、ここで、
=[P0.9V−P1.05V]/P0.9V
であり、
式中、P0.9Vは、前記電池を0.9Vの終止電圧まで放電することによって得られる前記パルスサイクル数であり、P1.05Vは、前記電池を1.05Vの終止電圧まで放電することによって得られる前記パルスサイクル数であり、
前記パルス放電プロトコルは、一連のパルスサイクルを前記電池に印加することから構成され、前記パルスサイクルのそれぞれは、前記電池に1.5Wパルスを2秒間印加し、その後すぐに0.65Wパルスを28秒間印加することの両方から構成され、前記1.05V及び0.9Vの終止電圧に到達するまで連続周期的な方法で、前記パルスサイクルは連続して10回繰り返され、続いて前記電池は55分間休止され、続いて前記パルスサイクルは10回繰り返され、続いて前記休止が行われ、前記パルス放電プロトコルは、前記電池が製造されてから約5年以内に前記電池に適用される、請求項11に記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−521430(P2011−521430A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510641(P2011−510641)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/044482
【国際公開番号】WO2009/143128
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(593093249)ザ ジレット カンパニー (349)
【Fターム(参考)】