説明

リチウム電池

リチウムを含むアノードと、二硫化鉄(FeS)と炭素粒子類を含むカソードと、を有する一次電池。電解質は、環状カーボネートを含む非水性溶媒混合物であって、添加物とヨウ素又は臭素とを含有する非水性溶媒混合物に溶解されたリチウム塩を含んでおり、電圧降下を抑制する。二硫化鉄粉末と、炭素と、結合剤と、液体溶媒とを含むカソードスラリーが調製される。この混合物を導電性基材にコーティングして、溶媒を蒸発させると、乾燥カソードコーティングが基材上に残される。アノードとカソードをそれらの間にセパレータを用いてらせん状に巻き付けて、電池ケーシングに挿入した後で、電解質を添加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムを含むアノードと、二硫化鉄を含むカソードと、リチウム塩とヨウ素元素を包含する非水性溶媒とを含む電解質と、を有するリチウム電池類に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムのアノードを有する一次(非充電式)電気化学電池類は知られており、また広範囲に亙って商業化されている。アノードは、本質的にリチウム金属から構成されている。かかる電池類は、典型的に、二酸化マンガンを含むカソードと、非水性溶媒に溶解されたリチウム塩、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)とを含む電解質と、を有する。電池類は、当該技術分野では一次リチウム電池類(一次Li/MnO電池類)として表されており、一般には充電式を意図していない。リチウム金属アノード類を有するが、様々なカソード類を有する、代替の一次リチウム電池類も知られている。かかる電池類は、例えば、二硫化鉄(FeS)を含むカソード類を有しており、Li/FeS電池類と呼ばれている。二硫化鉄(FeS)はまた、黄鉄鉱としても知られている。Li/MnO電池類又はLi/FeS電池類は、典型的に、円筒形電池類、通常は単3サイズの電池又は2/3A Li/MnO電池の形状である。Li/MnO電池類は、従来のZn/MnOアルカリ電池類の二倍の約3.0ボルトの電圧を有し、そしてまた、アルカリ電池類のエネルギー密度よりも高いエネルギー密度(電池体積1cm当たりのワット−時)をも有する。Li/FeS電池類は、約1.2〜1.5ボルトの電圧(新品)を有し、これは従来のZn/MnOアルカリ電池とほぼ同じである。にもかかわらず、Li/FeS電池のエネルギー密度(電池体積1cm当たりのワット−時)もまた、同等の大きさのZn/MnOアルカリ電池よりも非常に高い。リチウム金属の理論比容量は、高めの3861.7ミリアンペア−時/グラムであり、そしてFeSの理論比容量は、893.6ミリアンペア−時/グラムである。FeSの理論比値は、1個のFeS当たり4個のLiからの4個の電子の移動に基づいて、鉄元素Feと2個のLiSとの反応生成物をもたらす。すなわち、4個の電子のうち2個は、FeS中のFe+2の価数状態をFeに低下させて、残りの2個の電子が、硫黄の価数をFeS中の−1からLiS中の−2へ低下させる。
【0003】
Li/FeS電池全体は、同じ大きさのZn/MnOアルカリ電池よりも一層強力である。すなわち、所与の連続電流ドレインの場合、特に、200ミリアンペアを超える高い電流ドレインの場合、電圧vs時間プロファイルでは、Li/FeS電池の電流は、Zn/MnOアルカリ電圧ほど速く下がらない。これにより、Li/FeS電池から得られるエネルギーは、同じ大きさのアルカリ電池で得られるエネルギーよりも高くなる。より高いエネルギー出力のLi/FeS電池はまた、エネルギー(ワット−時)vs定電力(ワット)での連続放電のグラフに更に直線的にはっきりと示されており、この場合、新しい電池は、0.01ワット程度〜5ワット程度の低い範囲の一定の連続出力を最後まで放電する。かかる試験では、電力ドレインは、0.01ワット〜5ワットの間で選択される一定の連続出力で維持される。(電池が放電中に電圧降下すると、負荷抵抗が徐々に低下し、電流ドレインが増加して、一定の定電力を保持する。)Li/FeS電池に関するエネルギー(ワット−時)対電力(ワット)のグラフは、同じ大きさのアルカリ電池よりもかなり上方にある。にもかかわらず、両方の電池(新品)の起動電圧は、ほぼ同じ、すなわち約1.2〜1.5ボルトの間である。
【0004】
従って、Li/FeS電池は、同じ大きさのアルカリ電池類、例えば、単4、単3、単2、又は単1サイズの電池、あるいはいずれかの他のサイズの電池を超える利点を有し、その利点は、Li/FeS電池は、従来のZn/MnOアルカリ電池と互換的に利用でき及び特により高い電力需要について、より長い耐用年数を有するという点である。同様に、一次(非充電式)電池であるLi/FeS電池は、同じ大きさの充電式ニッケル水素電池類の代替品として利用でき、LiFeS電池とほぼ同じ電圧(新品)を有する。
【0005】
Li/MnO電池及びLi/FeS電池はいずれも、リチウムアノードは水との反応性が高いため、非水性電解質類が必要である。Li/FeS電池の製造に関する問題点の一つは、Li/FeSと炭素粒子類とを互いにカソード内で結合するために、良好な結合材をカソード配合物に添加する必要があることである。結合材はまた、カソードコーティングを、それを適用する金属導電性基材に均一に且つ強く接着させるのに十分に接着しなければならない。
【0006】
カソード材料は、最初にスラリー混合物などの形態で調製されてもよく、それを従来のコーティング法で金属基材上に容易にコーティングすることができる。電池に添加される電解質は、必要な電気化学反応類を、所望の高い電力範囲に亙って効率良く引き起こすことができる、Li/FeS系に好適な非水性電解質でなければならない。電解質は、良好なイオン導電性を示さなければならず、そしてまた、放電されていない電極材料類(アノード及びカソード)やその結果得られる放電生成物に対しても十分に安定でなければならない。これは、電解質材料と電極材料(放電されたもの又は放電されていないもののいずれか)との間の望ましくない酸化/還元反応が、それ故に電解質を徐々に汚染されて、その有効性を軽減するか又は過剰にガスを発生させる可能性があるためである。この結果、突発的な電池の故障が生じる可能性がある。そのため、Li/FeS電池中で使用される電解質は、必要な電気化学反応類を促進することに加えて、更に、放電された又は放電されていない電極材料に対して安定でなければならい。
【0007】
一次リチウム電池類は、フラッシュ付きのデジタルカメラ類用の電源として利用されており、個々のアルカリ電池類で供給されるよりも高い電力要求量で作動することが求められている。一次リチウム電池類は、従来、リチウムシートから形成されたアノードと、導電性金属基材(カソード基材)上にFeSを含むカソード活物質のコーティングから形成されたカソードと、それらの間の電解質透過性セパレータ材料のシートと、を含む電極複合体から形成されている。電極複合体は、例えば、米国特許第4,707,421号に示されているように、らせん状に巻き付けて、電池ケーシングに挿入されていてよい。Li/FeS電池のためのカソードコーティング混合物は、米国特許第6,849,360号に記載されている。アノードシートの一部は、典型的に電池ケーシングと電気的に接続されて、電池の負端子を形成している。電池は、ケーシングから絶縁されたエンドキャップで閉じられている。カソードシートは、エンドキャップと電気的に接続されて、電池の正端子を形成している。ケーシングは、典型的には、エンドキャップの周縁部に押し付けることで、ケーシングの開口端部を密封している。
【0008】
Li/FeS電池中のアノードは、銅などの金属基材の上にリチウム層を積層することによって形成することができる。ただし、アノードは、基材を全く用いずにリチウムのシートから形成されてもよい。
【0009】
一次Li/FeS電池類で用いられる電解質は、「有機溶媒」に溶解された「リチウム塩」から形成される。Li/FeS一次電池用の電解質類に利用できる代表的なリチウム塩類は、米国特許第5,290,414号及び米国特許第6,849,360B2号に参照されており、そしてトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS);リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI);ヨウ化リチウム、LiI;臭化リチウム、LiBr;テトラフルオロ臭素酸リチウム、LiBF;六フッ化リン酸リチウム、LiPF;六フッ化ヒ酸リチウム、LiAsF;Li(CFSOC、及び様々な混合物などの塩類が挙げられる。
【0010】
一次Li/FeS電池のための電解質類用の有機溶媒類と関連して使用できる可能性がある、当該技術分野で参照されるいくつかの有機溶媒類の例は、次のとおりである:プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメトキシエタン(DME)、エチルグライム、ジグライム、及びトリグライム、ジメトキシプロパン(DMP)、ジオキソラン(DIOX)、3,5−ジメチルイソキサゾール(DMI)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレングリコールスルファイト(EGS)、ジオキサン、ジメチルスルフェート(DMS)、3−メチル−2−オキサゾリドン、及びスルホラン(SU)、並びに様々な混合物。(例えば、米国特許第5,290,414号及び米国特許第6,849,360B2号を参照のこと。)
【0011】
米国特許第5,290,414号には、特に、FeS電池に有益な電解質の利用が報告されおり、電解質は、非環状(環状ではない)エステル系溶媒と混合してジオキソランを含む溶媒に溶解されたリチウム塩を含む。参照されるような非環状(環状ではない)エステル系溶媒は、ジメトキシエタン、エチルグライム、ジグライム、及びトリグライムであってよく、好ましくは1−2ジメトキシエタン(dimetoxyehtane)(DME)である。かかる溶媒混合物(類)中でイオン化可能な具体的なリチウム塩としては、LiCFSO(LiTFS)もしくはLi(CFSON(LiTFSI)、又はこれらの混合物が挙げられる。共溶媒は、3,5−ジメチルイソキサゾール(DMI)、3−メチル−2−オキサゾリドン、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、及びスルホランから選択された。
【0012】
米国特許第6,849,360B2号には、Li/FeS電池用の電解質が具体的に開示されており、電解質は、1,3−ジオキソラン(DIOX)と、1,2−ジメトキシエタン(DME)と、少量の3,5ジメチルイソキサゾール(DMI)とを含む有機溶媒混合物に溶解されたヨウ化リチウム塩を含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、いずれかの1つ以上のリチウム塩類と併用してLi/FeS電池に好適な電解質を製造するための特定の有機溶媒又は異なる有機溶媒類の混合物を選択することは困難であることが、上記の代表的な参考文献類から明らかであろう。このことは、リチウム塩類と有機溶媒類との多くの組み合わせが、全く使い物にならないLi/FeS電池をもたらすということではない。むしろ、リチウム塩類と有機溶媒類とのどの組み合わせからも形成される電解質を利用したかかる電池類に関する問題は、もたらされる問題が恐らくは極めて根本的であるため、前記電池の商業的な利用について非実用的にならしめるということである。一般には、リチウム一次電池類、例えば、Li/MnO、Li/FeSであれ、又は充電式リチウム電池もしくはリチウムイオン電池であれ、リチウム電池の開発史からも、リチウム塩類と有機溶媒とのいかなる組み合わせによっても良好な電池、すなわち良好で信頼できる性能を示すものがもたらされないと予想され得ることは明らかである。
【0014】
有利な電解質混合物を主張している例として、上記参考文献によれば、従来のリチウム塩類と併用して有効な電解質を製造するために、ジオキソランを、非環状(環状ではない)エステル系溶媒、好ましくは1,2−ジメトキシエタン(DME)と組み合わせて有利に利用することが公開されている。ただし、ジオキソランには費用及び取り扱いの点で不都合がある。
【0015】
従って、ジオキソランよりも費用効率がよく及び取り扱いが容易な、Li/FeS電池の電解質用溶媒類を用いることが望ましい。かかる溶媒類は、例えば、エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)であり、これらはジオキソランよりも安価で及び貯蔵及び取り扱いが容易である。エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)を、単独で又は混合して、そしてさらにはジメトキシエタン(DME)と混合することにより、特に電解質用リチウム塩がLiCFSO(LITFS)を含む場合に、Li/MnO電池類に関して使用するための電解質用の極めて好適な溶媒類が製造されている。(例えば、米国特許第6,443,999B1号を参照のこと。)
【0016】
しかしながら、かかる電解質類及び電解質溶媒系類、すなわち、エチレンカーボネート(EC)溶媒とプロピレンカーボネート(PC)溶媒とを含むものを用いた実験では、Li/MnO電池には有効だが、それ自体がLi/FeS電池と関連して用いられると、欠陥がもたらされる。前記問題点の一つは、かかるエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート電解質溶媒混合物が、リチウムの不動態化の問題を引き起こすか又は悪化させる傾向があることであり、これは通常、Li/FeS電池の放電耐用期間中に少なくともある程度まで生じる。リチウムの不動態化は、アノード中の金属リチウム表面と、電解質、特に電解質溶媒との緩やかな反応の結果として、Li/FeS電池の中で放電中又は貯蔵中に生じる。不溶層が金属リチウム表面上に徐々に形成され、それが金属リチウム表面を不動態化する傾向がある。かかる表面層は、他よりも多少消耗しており、電池の放電中にリチウムアノード金属が関与する電気化学反応の速度を低下させ、それ故に、適切な電池性能を妨げる可能性がある。
【0017】
Li/FeS電池類用のエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート電解質溶媒混合物の使用によってもたらされる別の問題は、かかる溶媒類が、初期電圧遅延(電圧降下)の問題を引き起こすか又はそれを悪化させる傾向があることであり、前記初期電圧遅延は、典型的には、電池利用の初期段階中又は初期期間中に生じる場合がある。かかる電圧降下は、電池の新たな利用期間の開始時に生じることがあり、電池の作動電圧を短期間で低下させ、それ故に、予期される一貫した信頼性のある電池性能の達成を妨げる可能性がある。電圧遅延は、通常、電池の内部抵抗の増加と関連しており、そして通常は、リチウムアノード上の不動態層の抵抗と関連している。
【0018】
従って、リチウムアノードの表面上での消耗性不動態層の形成を回避するか又は遅延させることによってリチウムアノードの不動態化速度を低下又は抑制する有効な電解質をその中に用いた、Li/FeS電池を製造することが望ましい。
【0019】
新たな放電期間の開始時に生じる電圧遅延(電圧降下)の程度を軽減するか又は通常の電池利用中に有意な電圧遅延を生じさせない、有効な電解質をその中に有する、Li/FeS電池を製造することが望ましい。
【0020】
特に、電解質が、環状有機カーボネート溶媒、とりわけ環状グリコールカーボネート、望ましくは、例えば、限定されないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、及びこれらの混合物を含むLi/FeS電池用の電解質を製造することが望まれている。(これら前記カーボネート類は環状グリコールカーボネート類であるが、従来、当該技術分野では、先に言及されたエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びブチレンカーボネートとして記載されていると理解すべきである。)
【0021】
電解質がジオキソランを有しない溶媒を含む、Li/FeS電池用の電解質を製造することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、アノードがリチウム金属を含むリチウム一次電池類を目的する。リチウムは、少量の他の金属、例えば、アルミニウムとの合金であってもよく、これは、典型的に、約1重量%未満のリチウム合金を含む。アノード活物質を形成するリチウムは、好ましくは薄い箔の形態である。電池は、カソード活物質であって、通常「黄鉄鋼」として既知の二硫化鉄(FeS)を含むカソードを有する。電池は、ボタン型(コイン型)電池又は平板状電池の形態であってよい。望ましくは、電池は、アノードシートとカソード複合材料シートとを含み、それらの間にセパレータをらせん状に巻いた、らせん状の巻線形電池の形態であってもよい。カソードシートは、導電性金属基材上に二硫化鉄(FeS)粒子類を含むカソード混合物をコーティングするために、スラリー法を用いて製造される。FeS粒子類は、望ましくはエラストマーブロックコポリマー、好ましくはスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー、例えば、クラトン(Kraton)G1651エラストマー(テキサス州ヒューストン(Houston)のクラトン・ポリマーズ(Kraton Polymers))を用いて導電性金属基材に結合する。このポリマーは、皮膜形成剤であり、FeS粒子類のみならずカソード混合物中の導電性炭素粒子添加物類についても良好な親和性と凝集特性とを有する。
【0023】
本発明の態様では、カソードは、二硫化鉄(FeS)粉末と導電性炭素粒子類と、結合剤材料と、溶媒とを含むカソードスラリーから形成される。(用語「スラリー」は、本明細書で使用するとき、その従来の辞書の意味を有し、そしてそれ故に、固体粒子類を含む湿式混合物をも表すと理解されたい)湿式カソードスラリーは、導電性基材、例えば、アルミニウム又はステンレス鋼のシートの上にコーティングされる。導電性基材は、カソード集電体として機能する。溶媒がその後蒸発すると、二硫化鉄材料と好ましくはカーボンブラックを包含する炭素粒子類とが互いに接着結合されて含まれた乾燥カソードコーティング混合物が残され、この乾燥コーティングは導電性基材と結合している。好ましいカーボンブラックはアセチレンブラックである。炭素は、所望により、その中にブレンドされたグラファイト粒子類を包含してよい。
【0024】
湿式カソードスラリーを導電性基材の上にコーティングした後、コーティングされた基材をオーブンに入れて、溶媒が蒸発するまで高温で加熱する。得られる生成物は、二硫化鉄と炭素粒子類とを含む乾燥カソードコーティングであって、導電性基材に結合されている。乾燥基準で、カソードは、好ましくは4重量%以下の結合剤と、85〜95重量%のFeSを含有する。固形分含有量、すなわち、湿式カソードスラリー中のFeS粒子類と導電性炭素粒子類は、55〜70重量%である。カソードスラリーの粘度範囲は、約3500〜15000mPasである。(mPas=ミリニュートン×秒/m
【0025】
本発明の別の態様では、望ましい非水性の電解質は、有機溶媒に溶解されたリチウム塩を含む。電解質溶媒は、環状有機カーボネート、好ましくは環状グリコールカーボネート、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、又はブチレンカーボネート、及びこれらの混合物を含む。(電解質溶媒はまた、ジメチルカーボネート及び/又はエチルメチルカーボネートも含んでもよい。)
【0026】
好ましい電解質溶媒は、望ましくは、プロピレンカーボネート(PC)(式C)及び/又はエチレンカーボネート(EC)(式C)をジメトキシエタン(DME)(式C10)と混合されて含む。プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートは、環状有機カーボネート類である。これら溶媒類についての基本的な特性データは例えば、実用化学辞典(the Condensed Chemical Dictionary)、第10版、ゲスナー・G・ホーレイ(Gessner G. Hawley)改訂、ファン・ノストランド・ラインホールド・カンパニー(Van Nostrand Reinhold Company)ですぐに入手可能である。更なる特性及び式のデータはまた、例えば、上記溶媒名であるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、及びジメトキシエタンをグーグル(Google)検索ウェブサイト:www.Google.comに入力することによっても入手可能である。好ましい電解質溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)との混合物を1,2−ジメトキシエタン(DME)と混合して含む。これら溶媒類はそれぞれ、FeSによる酸化に対して耐性を有し、そしてLi/FeS系の放電生成物に対して安定である。かかる溶媒混合物は、結合剤材料の特性を不利に妨げない。例えば、かかる溶媒混合物は、エラストマー結合剤、例えば、クラトン(Kraton)G1651スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックコポリマーとは、結合剤の特性を著しく妨害するほど十分に反応しない。好ましくは、電解質溶媒混合物は、ジメトキシエタン(DME)を約50〜95体積%、プロピレンカーボネート(PC)を2〜30体積%、及びエチレンカーボネート(EC)を1〜30体積%含む。電解質溶媒混合物は、ジオキソランを含まなくてよい、すなわち、検出不可能な量のジオキソランを含有してよい。電解質溶媒混合物は、本質的にはジオキソランを含まない、すなわち、微量、例えば、前記溶媒混合物の100ppm未満のジオキソラン、例えば、50ppm未満のジオキソラン、例えば、25ppm未満のジオキソランのみを含有してよい。かかる低濃度では、微量のジオキソランは特別な機能をも全く果たさないと予想されよう。
【0027】
本発明のLi/FeS電池に望ましい電解質混合物は、ジメトキシエタン(DME)とプロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とを含む有機溶媒混合物に溶解されたリチウム塩であるトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS)及びリチウムビトリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI)を含むことが解明された。(ジメトキシエタンは、典型的に、1,2−ジメトキシエタンである。)好ましい電解質混合物は、約75体積%のジメトキシエタン(DME)と15体積%のプロピレンカーボネート(PC)と10体積%のエチレンカーボネート(EC)とを含む有機溶媒混合物に溶解された0.9モル(0.9モル/リットル)濃度のLiCFSO(LiTFS)塩及び/又はLi(CFSON(LiTFSI)塩を含む電解質溶液であることが解明された。ヨウ素元素(I)は、望ましくは、Li/FeS電池用のかかる電解質混合物に添加される。あるいは、臭素元素又はヨウ素元素と臭素元素との混合物を、Li/FeS電池用のかかる電解質混合物に添加してもよい。ヨウ素元素は、好ましくは電解質混合物に、それが約0.01〜5重量%の電解質混合物、好ましくは約0.5重量%の電解質混合物を含むように添加される。(臭素元素又はヨウ素元素と臭素元素との混合物をまた、電解質混合物に、それが電解質混合物の約0.01〜5重量%、好ましくは約0.5重量%の電解質混合物を含むように添加してもよい。)電解質混合物に添加されたヨウ素元素のほぼ全てが元素の形で残っている、すなわち、添加されたときにイオンの形態に転化しない。上記電解質溶媒混合物に添加された場合、添加されたヨウ素(又は臭素)元素の少なくとも90%が元素の形で留まると推測される。(「ヨウ素元素」という用語には、本明細書で使用するとき、ヨウ素Iと標準的な二原子状態のヨウ素Iとが含まれる。)同様に、「臭素元素」という用語には、本明細書で使用するとき、臭素Brと標準的な二原子状態の臭素Brとが含まれる。
【0028】
ヨウ素元素を含むかかる電解質混合物は電圧遅延(電圧降下)問題を解決し、そうでなければ、前記電圧遅延(電圧降下)は、環状有機カーボネート溶媒類、例えば、エチレンカーボネート(EC)及び/又はプロピレンカーボネート(PC)を含む電解質を用いたLi/FeS電池類の新たな放電期間の開始時に生じるかもしれないことが解明された。すなわち、ヨウ素元素(I)を、ジメトキシエタン(DME)とプロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とを含む上記電解質溶媒混合物に添加すると、本質的には電圧遅延が全く観察されないか、あるいは電圧遅延が大幅に軽減される。
【0029】
ヨウ素元素を添加したかかる電解質混合物はまた、エチレンカーボネート及び/又はエチレンプロピレン溶媒類を含むがヨウ素元素が添加されていない同じ電解質混合物と比べて、Li/FeS電池のアノード内でのリチウムの不動態化速度も低下させることが解明された。
【0030】
FeS粉末と導電性炭素とを含むカソードスラリーをアルミニウム基材(カソード集電体)シートにコーティングする場合、電解質中のヨウ素元素の存在はまた、Li/FeS電池の通常の使用中又は貯蔵中に拡張する可能性のあるアルミニウム表面の腐食速度を抑制することも可能である。
【0031】
少量の遊離ヨウ素元素を環状有機カーボネート類、例えばエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを含む電解質溶媒に添加することによって電圧遅延を抑制するのに役立ち、そしてLi/FeS電池内のリチウムアノードの不動態化速度を低下させる理由は、はっきりとは分かっていない。有利な効果は、添加したヨウ素が組成物やLiアノード上の不動態層の耐久性に影響を及ぼすという事実に起因し得ると理論上想定される。これにより、特にLi/FeS電池がとりわけパルス放電法によって放電されているときに有利であると考えられる。これにより、結果として、パルス放電法の初期段階中に電圧遅延(電圧降下)が生じるという不都合が軽減される可能性がある。(Li/FeS電池におけるかかる電圧遅延は、生じる場合、通常は初期段階で、例えば、パルス放電法の最初の50パルス以内で生じる。)
【0032】
環状有機カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを含む電解質溶媒混合物中のヨウ素元素の存在はまた、Li/FeS電池の放電につれてリチウムアノード表面に徐々に拡張する不動態層の化学的性質を変更すると考えられる。リチウムアノード上の表面層の変化した組成は、ヨウ素を添加されていない同じカーボネート電解質溶媒を用いるのと比べて、リチウムアノードの不動態化速度を抑制するとも考えられる。
【0033】
同様の有利な効果は、臭素元素又は少量の臭素元素とヨウ素元素との混合物をエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート電解質溶媒に添加することによって得られる場合があると予測される。Li/FeS電池用のかかる電解質溶媒に臭素を添加した実際の試験はまだ行っていないが、臭素元素の特性がヨウ素元素のそれと類似しているため、ヨウ素を添加した場合に得られるものと同様の有利な効果が予測される。臭素(又は臭素とヨウ素との混合物)は、ヨウ素と同様に、Li上の不動態層の組成にも影響を及ぼすであろうと予測される。
【0034】
本発明の電解質溶媒混合物はまた、電解質材料又は放電生成物と反応しないか、あるいは通常の使用中に過剰のガスを発生させない。本発明の電解質混合物は、Li/FeS電池系におけるコイン型(ボタン型)電池又は巻線形電池に有利に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明のLi/FeS電池は、平板状ボタン型電池又はらせん状の巻線形電池の形態であってよい。リチウムアノード150と、二硫化鉄(FeS)を含むカソード170とを含み、その間にセパレータ160を有する、望ましいボタン型電池100構造を図1Aに示す。
【0036】
電池100としてのLi/FeS電池は、次の基本的な放電反応(一段階機構)を示す:
アノード:
4Li=4Li+4e 式1
カソード:
FeS+4Li+4e=Fe+2LiS 式2
全体:
FeS+4Li=Fe+2LiS 式3
【0037】
Li/FeS試験用ビヒクルの例は、図1Aに示すボタン型電池100であって、一次(非充電式)電池の形態であってよい。ボタン型電池100(図1A)では、ディスク状の円筒形カソードハウジング130は、開口端部132及び閉口端部138を有する形で形成させる。カソードハウジング130は、好ましくはニッケルめっき鋼から形成される。電気絶縁部材140、好ましくは中空コアを有するプラスチック製の円筒形部材は、絶縁部材140の外面がハウジング130の内面と隣接し及び一直線に並ぶようにハウジング130に挿入されている。あるいは、ハウジング130の内面は、高分子材料でコーティングされていてもよく、この高分子材料は、絶縁体140中で凝固されてハウジング130の内面と隣接する。絶縁体140は、様々な熱安定性絶縁材料、例えば、ナイロン又はポリプロピレン。
【0038】
コネチカット州ブランフォード(Branford)のデキスメット・コーポレイション(Dexmet Corporation)製)(316L−SS x−メット(316L-SS x-met)、コネチカット州ブランフォードのデキスメット・コーポレイション製)(316L−SS x−メット、コネチカット州ブランフォードのデキスメット・コーポレイション製)(316L−SS x−メット(316L-SS x-met)、コネチカット州ブランフォードのデキスメット・コーポレイション製)から形成することができる。その中に分散された二硫化鉄(FeS)粉末を含むカソード170は、スラリーの形態で調製することができ、カソード複合体を形成するために導電性基材シート115上にコーティングされる。好ましくは、導電性基材シート115は、先に述べたようなアルミニウム(又はアルミニウム合金)シートから形成され、そこに複数の小さな孔を開けることで、グリッドを形成していてよい。あるいは、導電性基材シート115は、複数の小さな孔が開いたステンレス鋼シート、望ましくはエキスパンド加工されたステンレス鋼金属箔の形態のステンレス鋼シートであってもよい。
【0039】
カソードスラリーは、2〜4重量%の結合剤(テキサス州ヒューストン(Houston)のクラトン・ポリマーズ(Kraton Polymers)製のクラトン(Kraton)G1651エラストマー結合剤)と;50〜70重量%の活性FeS粉末と;4〜7重量%の導電性炭素(カーボンブラック及びグラファイト)と;25〜40重量%の溶媒(類)とを含む。(カーボンブラックは、全部又は一部としてアセチレンブラックカーボン粒子類が包含されていてもよい。従って、カーボンブラックという用語は、本明細書で使用するとき、カーボンブラック及びアセチレンブラックの炭素粒子にまで及び、並びにそれらを包含すると理解すべきである。)クラトン(Kraton)G1651結合剤は、エラストマーブロックコポリマー(スチレン−エチレン/ブチレン(SEBS)ブロックコポリマー)であって、皮膜形成剤である。この結合剤は、活性FeS及びカーボンブラック粒子に対して十分な親和性を有することから、湿式カソードスラリーの調製を促進し、また溶媒を蒸発させた後でこれら粒子類を互いに接触させたままにする。FeS粉末の平均粒径は、約1〜100ミクロン、望ましくは約10〜50ミクロンであってよい。望ましいFeS粉末は、取引表記パイロックス・レッド(Pyrox Red)325粉末としてケメトール社(Chemetall GmbH)から入手可能であり、このFeS粉末の粒径は、粒子がタイラー(Tyler)メッシュ寸法325の篩(ふるいの目0.045mm)を通過できるほど十分に小さい。(325メッシュ篩を通過しないFeS粒子の残量は、最大10%である。)グラファイトは、取引表記ティムレックス(Timrex)KS6グラファイトとしてティムカル社(Timcal Ltd.)から入手可能である。ティムレックス(Timrex)グラファイトは、極めて結晶性の高い合成グラファイトである。(天然グラファイト、合成グラファイト、又はエキスパンド加工されたグラファイト、及びそれらの混合物から選択される他のグラファイト類を利用してもよいが、ティムレックス(Timrex)グラファイトは、その高純度のために、好ましい。)カーボンブラックは、取引表記スーパー(Super)P導電性カーボンブラック(BET表面62m/g)としてティムカル社(Timcal Co.)から入手可能である。
【0040】
溶媒類としては、好ましくは、シェルソル(ShellSol)A100炭化水素溶媒(シェル・ケミカル社(Shell Chemical Co.))として入手可能なC〜C11(主としてC)芳香族炭化水素類の混合物、及びシェルソル(Shell Sol)OMS炭化水素溶媒(シェル・ケミカル社)として入手可能な主としてイソパラフィン類(平均M.W.166、芳香族含有量0.25重量%未満)の混合物が挙げられる。シェルソル(ShellSol)A100溶媒とシェルソルOMS溶媒との重量比は、望ましくは重量比4:6である。シェルソル(ShellSol)A100溶媒は、主として芳香族炭化水素類(芳香族炭化水素90重量%超)、主としてC〜C11芳香族炭化水素を含有する、炭化水素類の混合物である。シェルソル(ShellSol)OMS溶媒は、イソパラフィン炭化水素類(イソパラフィン類98重量%、M.W.約166)と0.25重量%未満の芳香族炭化水素含有量との混合物である。スラリー配合物は、二重遊星ミキサーを用いて分散されてよい。乾燥粉末を最初にブレンドして、均一性を確実にしてから、混合ボウル内の結合剤溶液に添加する。
【0041】
好ましいカソードスラリー混合物を表1に示す:
【表1】

【0042】
湿式カソードスラリー混合物170の合計固体含有量は、上記表1に示され、66.4重量%である。
【0043】
湿式カソードスラリー170を、断続的なロールコーティング法を用いて集電体115に適用する。先に示されたように、集電体シート115は、所望により炭素ベース層172でプレコートしてから、湿式カソードスラリーを適用する。金属基材115上にコーティングされたカソードスラリーを、オーブン内で初期温度40℃〜最終温度約130℃までの温度に徐々に調節又は昇温して、溶媒が全て蒸発するまで乾燥させる。(カソードスラリーをこの方法で乾燥することにより、クラックが回避される。)これにより、FeSと炭素粒子類と結合剤とを含む乾燥カソードコーティング170が金属基材115上に形成される。コーティングされたカソードを、続いて、カレンダ処理ロールの間に通過させて、所望のカソード厚さを達成する。乾燥/カソードコーティング170の代表的な望ましい厚さは、約0.172〜0.188mm、好ましくは約0.176mmである。乾燥カソードコーティング170は、こうして、次の望ましい配合を有する:FeS粉末(89重量%);結合剤(クラトン(Kraton)G1651)、3重量%;グラファイト(ティムレックス(Timrex)KS6)、7重量%、及びカーボンブラック(スーパー(Super)P)、1重量%。カーボンブラック(スーパー(Super)Pカーボンブラック)は、炭素の網状組織を造り出して、導電性を改善する。
【0044】
集電体シート115とカソードベース層172とその上の乾燥カソードコーティング170とを含むカソード複合体を、次に、カソードハウジング130に挿入してよい。好ましくはミクロポアを有するポリプロピレンを含むセパレータシート160を、次に、カソードコーティング170上に挿入してもよい。
【0045】
非水性電解質混合物は、それがセパレータとカソードコーティングとに吸収されるように添加することができる。所望の非水性電解質は、有機溶媒に溶解されたリチウム塩又はリチウム塩の混合物を含む。望ましい溶媒は、ジメトキシエタン(DME)とプロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とを含む。好ましくは、ジメトキシエタン(DME)は、電解質溶媒混合物の、約50〜95体積%を構成し、プロピレンカーボネート(PC)は2〜30体積%を構成し、そしてエチレンカーボネート(EC)は1〜30体積%を構成する。Li/FeS電池に望ましい電解質は、ジメトキシエタン(DME)とプロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とを含む上述のような有機溶媒混合物に溶解されたリチウム塩である式LiCFSOを有するトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(これは単に、LiTFSと記載することができる)及び/又は式Li(CFSONを有するリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド(これは単に、LiTFSIと記載することができる)を、好ましくは混合して含むと解明された。
【0046】
好ましい電解質は、約75体積%のジメトキシエタン(DME)と15体積%のプロピレンカーボネート(PC)と10体積%のエチレンカーボネート(EC)とを含む有機溶媒混合物に溶解された0.9モル(0.9モル/リットル)濃度のLiCFSO(LiTFS)及び/又はLi(CFSON(LiTFSI)塩を含む電解質溶液であると解明された。好ましくは、LiCFSO(LiTFS)塩とLi(CFSON(LiTFSI)の両方のリチウム塩を重量比約4:5で前記の好ましい電解質に溶解する。電解質混合物は、望ましくは、1グラムのFeSにつき電解質溶液約0.4グラムとして添加される。
【0047】
別の実施形態では、Li/FeS電池は、図Iに示すような円筒形電池10の構造であってよい。円筒形電池10は、図2〜5に示すように、らせん状に巻かれたアノードシート40及びカソード60と、それらの間のセパレータシート50とを有していてよい。Li/FeS電池10の内部構造は、カソード組成が異なること以外は、米国特許第6,443,999号に示され且つ説明された、らせん状に巻かれた構造と同じであってよい。図に示されるようなアノードシート40は、リチウム金属を含み、そしてカソードシート60は、通常「黄鉄鉱」として知られる二硫化鉄(FeS)を含む。電池は、好ましくは前記の図に示されるように円筒形であって、例えば、単6(42×8mm)、単4(44×9mm)、単3(49×12mm)、単2(49×25mm)、及び単1(58×32mm)サイズのどの大きさであってもよい。従って、図1に示される電池10はまた、2/3A電池(35×15mm)であってもよい。ただし、それは、電池構造を円筒形に制限する意図ではない。あるいは、本発明の電池は、本明細書に記載されているように、リチウム金属を含むアノードと、二硫化鉄(FeS)を含む組成のカソードと、非水性電解質とを有する、らせん状に巻かれた角柱状の電池の形態、例えば、全体的に立方体形状の矩形の電池であってもよい。
【0048】
らせん状の巻線形電池の場合、電池ケーシング(ハウジング)20の好ましい形は、図1に示すような円筒形である。ケーシング20は、好ましくはニッケルめっき鋼から形成される。電池ケーシング20(図1)は、連続的な円筒形表面を有する。アノード40とカソード複合体62とそれらの間のセパレータ50とを含む、らせん状に巻かれた電極アセンブリ70(図3)は、平板状の電極複合体13(図4及び5)をらせん状に巻き付けることによって調製することができる。カソード複合体62は、金属基材65上にコーティングされた二硫化鉄(FeS)を含むカソード層60を含む(図4)。
【0049】
電極複合体13(図4及び5)は、次の方法で作製することができる:その中に分散された二硫化鉄(FeS)粉末を含むカソード60を、先ず、湿式スラリーの形態で調製し、それを導電性基材シート65、好ましくはアルミニウム又はステンレス鋼のエキスパンドメタル箔のシート上にコーティングして、カソード複合体シート62を形成する(図4)。
【0050】
二硫化鉄(FeS)と、結合剤と、導電性炭素と、溶媒類とを含む、先の表1に示す組成を有する湿式カソードスラリー混合物は、表1に示す構成成分を均一な混合物が得られるまで混合することによって調製される。
【0051】
構成成分の上記の量(表1)は、当然、少量又は大量のバッチのカソードスラリーが調製できるように、比例的に増減することができる。そのため、湿式カソードスラリーは、好ましくは次の組成を有する:FeS粉末(58.9重量%);結合剤、クラトン(Kraton)G1651(2重量%);グラファイト、ティムレックス(Timrex)KS6(4.8重量%)、アセチレンブラック(Actylene Black)、スーパー(Super)P(0.7重量%)、炭化水素溶媒類、シェルソル(ShellSol)A100(13.4重量%)及びシェルソルOMS(20.2重量%)。
【0052】
カソードスラリーを、導電性基材又はグリッド65、好ましくはアルミニウム又はステンレス鋼のエキスパンドメタル箔のシートの片面(所望により、両面)にコーティングする。金属基材65上にコーティングされたカソードスラリーは、オーブン内で、好ましくは40℃の初期温度から130℃以下の最終温度までの温度に徐々に調節又は昇温して、約1/2時間又は溶媒が全て蒸発するまで乾燥させる。これにより、金属基材65上にFeSと炭素粒子類と結合剤とを含む乾燥カソードコーティング60が形成され、これにより、図4に最もよく示された完成カソード複合体シート62が形成される。続いて、カレンダ処理ローラーをこのコーティングに適用して、所望のカソード厚さを達成する。単3サイズの電池の場合、乾燥/カソードコーティング60の所望の厚さは約0.172〜0.188mm、好ましくは約0.176mmである。乾燥カソードコーティングは、そのため、次の望ましい配合を有する:FeS粉末(89.0重量%);結合剤、クラトン(Kraton)G1651エラストマー(3.0重量%);導電性炭素粒子類、好ましくはティムレックス(Timrex)KS6グラファイトとしてティムカル社(Timcal Ltd)から入手可能なグラファイト(7重量%)、及びスーパー(Super)P導電性カーボンブラックとしてティムカル社から入手可能な導電性カーボンブラック(1重量%)。カーボンブラックは、炭素網状組織を造り出して、導電性を改善する。所望により、炭素粒子類全体の約0〜90重量%がグラファイトであってよい。グラファイトは、添加する場合、天然のもしくは合成の又はエキスパンド加工されたグラファイト、及びこれらの混合物であってよい。乾燥カソードコーティングは、典型的に、約85〜95重量%の二硫化鉄(FeS)と;約4〜8重量%の導電性炭素とを含んでいてよく、前記乾燥コーティングの残りは結合剤材料から構成される。
【0053】
カソード基材65は、孔の開いた又は孔のない、導電性金属箔のシート、例えばアルミニウム又はステンレス鋼のシートであり得る。カソード導電性基材65は、好ましくはアルミニウムのシートである。アルミニウムシート65は、望ましくは、そこに複数の小さな孔を有し、これにより、グリッド又はスクリーンを形成していてよい。あるいは、カソード導電性基材65は、約0.024g/cmの坪量を有するステンレス鋼のエキスパンドメタル箔(コネチカット州ブランドフォード(Branford)のデクスメット社(Dexmet Company)製のエクスメット(EXMET)ステンレス鋼箔)のシートから形成されて、そこに開口部を有するメッシュ又はスクリーンを形成してもよい。カソード導電性基材65は、カソードコーティング60を固定して、電池の放電中、カソード集電体として機能する。
【0054】
アノード40は、リチウム金属の固体シートから調製することができる。アノード40は、望ましくはリチウム金属(純度99.8%)の連続シートから形成される。あるいは、アノード40は、リチウムの合金や、合金、例えば、リチウムとアルミニウムとの合金であることも可能である。かかる場合、合金は、極少量、好ましくはリチウム合金1重量%未満で存在する。電池の放電時に、合金中のリチウムは、そのため、純粋なリチウムとして電気化学的に作用する。従って、「リチウム又はリチウム金属」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲において使用するとき、その意味にかかるリチウム合金を包含するものとする。アノード40を形成するリチウムシートは、基材を必要としない。リチウムアノード40は、有利には、らせん状の巻線形電池の場合、厚さが望ましくは約0.10〜0.20mm、望ましくは約0.12〜0.19mm、好ましくは約0.15mmのリチウム金属の押出成形シートから形成することができる。
【0055】
電解質透過性セパレータ材料50の個々のシート、好ましくは厚さが約0.025mmのミクロポアを有するポリプロピレンの個々のシートを、リチウムアノードシート40の両面に挿入させる(図4及び5)。ミクロポアを有するポリプロピレンのポア寸法は、望ましくは約0.001〜5ミクロンである。第1(上部)セパレータシート50(図4)は、外側のセパレータシートを表すことができ、そして第2のシート50(図4)は、内側のセパレータシートを表すことができる。導電性基材65上にカソードコーティング60を含むカソード複合体シート62を、次に、内側のセパレータシート50の反対方向に配置して、図4に示す平板状の電極複合体13を形成する。平板状の複合体13(図4)をらせん状に巻き付けて、電極らせん状アセンブリ70を形成する(図3)。巻き付けはマンドレルを用いて行い、電極複合体13の延長されたセパレータ縁部50b(図4)をしっかりと掴んだ後、複合体13を時計回りにらせん状に巻き付けることで、巻かれた電極アセンブリ70が形成される(図3)。
【0056】
巻き付けが終了すると、セパレータ部分50bは、図2及び3に示すように、巻き付けた電極アセンブリ70のコア98内に現れる。非限定的な例として、セパレータの各周期の底縁部50aを、図3に示し及び米国特許第6,443,999号に教示されているように、連続的な膜55の形状へ熱形成してもよい。図3から分かるように、電極らせん状物70は、アノードシート40とカソード複合体62との間にセパレータ材料50を有する。らせん状に巻き付けた電極アセンブリ70は、ケーシング本体の形に適合した構造(図3)を有する。らせん状に巻き付けた電極アセンブリ70を、ケーシング20の開口端部30に挿入する。巻き付けるときに、電極らせん状物70の外側の層は、図2及び3に示すセパレータ材料50から構成される。追加の絶縁層72、例えば、ポリエステルテープなどのプラスチックフィルムを、電極複合体13を巻き付ける前に、望ましくは外側のセパレータ層50上に配置することもできる。かかる場合、らせん状に巻き付けた電極70は、巻き付けた電極複合体をケーシングに挿入するときに、ケーシング20の内面と接触させて絶縁層72を有する(図2及び3)。あるいは、ケーシング20の内面を、巻き付けた電極らせん状物70をケーシングに挿入する前に、電気絶縁材料72でコーティングすることもできる。
【0057】
非水性電解質混合物は、その後、巻き付けた電極らせん状物70を電池ケーシング20に挿入した後で添加することもできる。所望の非水性電解質は、有機溶媒に溶解されたリチウム塩を含む。
【0058】
望ましい溶媒は、ジメトキシエタン(DME)と、プロピレンカーボネート(PC)と、エチレンカーボネート(EC)とを含む。好ましくは、ジメトキシエタン(DME)は、電解質溶媒混合物の約50〜95体積%を構成し、プロピレンカーボネート(PC)は2〜30体積%を構成し、そしてエチレンカーボネート(EC)は1〜30体積%を構成する。Li/FeS巻線形電池に望ましい電解質は、ジメトキシエタン(DME)とプロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とを含む有機溶媒混合物に溶解されたリチウム塩類LiCFSO(LiTFS)及びLi(CFSON(LiTFSI)を含むと確定された。
【0059】
好ましい電解質は、約75体積%のジメトキシエタン(DME)と15体積%のプロピレンカーボネート(PC)と10体積%のエチレンカーボネート(EC)とを含む有機溶媒混合物に溶解された0.9モル(0.9モル/リットル)濃度のLiTFS塩及び/又はLiTFSI塩を含む電解質溶液であると確定された。電解質混合物は、望ましくは、らせん状の巻線形電池の場合、1グラムのFeSにつき電解質溶液約0.4グラムとして添加する(図2)。
【0060】
電池の正端子17を形成するエンドキャップ18は、金属タブ25(カソードタブ)を有していてよく、前記金属タブの面のうち一方をエンドキャップ18の内面に溶接することができる。金属タブ25は、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている。カソード基材65の一部は、その最上縁部に沿って張り出して、図2に示すように、巻き付けられたらせん状物の最上部から延びる延長部分64を形成してもよい。張り出したカソード基材部分64を金属タブ25の露出面に溶接してから、*ケーシング周縁部22を、エンドキャップ18の周りで、その間にある絶縁ディスク80の周縁部85と一緒に曲げて、電池の開口端部30を閉じることができる。エンドキャップ18は、望ましくは通気口19を有し、この通気口には、電池内ガス圧が予め定められたレベルを超えると破裂してガスを逃すように設計された、破裂可能な膜を収容することができる。正端子17は、望ましくはエンドキャップ18の一体化部分である。あるいは、端子17は、米国特許第5,879,832号に記載されている種類のエンドキャップアセンブリの最上部として形成することができ、このアセンブリは、エンドキャップ18の表面の開口部に挿入してから、それと溶接することができる。
【0061】
金属タブ44(アノードタブ)は、好ましくはニッケルから形成されており、リチウム金属アノード40の一部に押し込むことができる。アノードタブ44は、らせん状物内のどの部分でもリチウム金属に押し込むことができ、例えば、それは、図5に示すように、らせん状物の最外層でリチウム金属に押し込むことができる。アノードタブ44は、その片面をエンボス加工して、リチウムに押し込もうとするタブのその面に複数の起立部分を形成することができる。タブ44の反対の面は、図3に示すようなケーシング20の、ケーシング側壁24の内面か又はより好ましくは閉口端部35の内面のうちいずれかのケーシングの内面に溶接することができる。アノードタブ44は、ケーシング閉口端部35の内面に溶接することが好ましい。というのも、これは、電気スポット溶接プローブ(細長い抵抗溶接電極)を電池コア98に挿入することによって容易に達成されるためである。溶接プローブを、電池コア98の外側境界の一部に沿って存在するセパレータ・スタータ・タブ50bと接触させないように注意する必要がある。
【0062】
一次リチウム電池10は、所望により、エンドキャップ18の下に配置されたPTC(正の熱係数)デバイス95を更に備えて、カソード60とエンドキャップ18との間に直列に接続されてもよい(図2)。かかるデバイスは、予め定めされたレベルよりも高い電流ドレインでの放電から電池を保護する。従って、電池に、並外れて高い電流、例えば、約6〜8アンペアよりも高い電流が長時間流れると、PTCデバイスの抵抗が劇的に増加し、それによって異常な高ドレインを停止する。当然のことながら、通気口19及びPTCデバイス95以外のデバイス類を用いて、誤用又は放電から電池を保護してもよい。
【実施例】
【0063】
FeSを含むカソードを有する
実験用の試験リチウムコイン型電池類
実験用の試験Li/FeSコイン型電池類100(図1A)は、次のようにして調製された:
実験用の試験電池アセンブリ:
ニッケルめっき鋼製のコイン型カソードハウジング130と、ニッケルめっき鋼製のコイン型アノードハウジング(カバー)120とを、図1Aに示されたものと同じような構造で形成する。完成した電池100は、全体直径が約25mm、及び厚さが約3mmであった。カソードハウジング130内のFeSの重さは0.125gであった。リチウムは電気化学的に過剰であった。
【0064】
各電池100を形成する際、1.98cm(0.780インチ)ダイを有するアーバー(Arbor)プレスを用いて、2枚のステンレス鋼グリッド(316L−SS エクスメット(EXMET)エキスパンドメタル箔)を打ち抜いた。一方のステンレス鋼グリッドをコイン型電池カソードハウジング130の内側の中央に置いて、カソード集電体シート115を形成した。もう一方のステンレス鋼グリッド(図示せず)は、アノードハウジング(カバー)120の閉口端部の内面に抵抗溶接した。これらグリッドは、それぞれのハウジングに、ヒューズ(Hughes)対向先端ピンセット型溶接機を用いて溶接した。溶接機は、20ワット−秒及び中程度のパルスに設定した。形成された溶接部は、メッシュストランドの交点を覆って、グリッドの周辺付近に規則正しく間隔を空けて配置された。電池にはそれぞれ、グリッド1枚当たり6〜8個の溶接部が形成された。
【0065】
続いて、プラスチック製の絶縁ディスク(グロメット)140を、アノードカバー120の縁部に付着した(図1A)。厚さ0.813mm(0.032インチ)のリチウム金属シートから形成されたリチウムディスク150を、ドライボックス内でアーバー(Arbor)プレスと1.91cm(0.75インチ)のハンド・パンチを用いて打ち抜いた。次に、電池のアノードを形成するリチウムディスク150をステンレス鋼グリッドに、アノードカバー120の閉口端部の内面とは反対方向に、アーバー(Arbor)プレスを用いて押し込んだ。
【0066】
ミクロポアを有するポリプロピレン製セパレータ160(セルガード社(Celgard, Inc.)製のセルガード(Celgard)CG2400セパレータ)を、20.3cm(8インチ)のストリップに切断し、直径2.38cm(0.9375インチ)のハンド・パンチを用いて打ち抜いて、用意しておいた。
【0067】
カソード導電性ベース層172は、次のようにして調製した:
グラファイト(ティムレックス(Timrex)KS6グラファイト)75gとテトラフルオロエチレン(テフロン(Teflon))粉末25gとをタンブラー(重り付き)に加えて、フード内で一晩放置した。内容物をブレンダー(一度に10g以下(〜10g)づつ)に加えて、「高」で1分間ブレンドした。ブレンドされた内容物を容器に流し込み、ラベルをつけて、使える状態になるまで貯蔵した。カソードベース層172を適用する状態になったときに、カソードハウジング130をダイに入れた。カソードベース層172(0.500g)をステンレス鋼グリッド115上に、カーバー(Carver)液圧プレスに接続された破城槌(ram)を用いて密着させた。カソードベース層172の組成は、グラファイト75重量%及びテフロン(Teflon)粉末25重量%であった。
【0068】
続いて、カソードスラリーを調製して、アルミニウムシート(図示せず)の片面にコーティングした。二硫化鉄(FeS)を含むカソードスラリーの構成成分を合わせて、次の割合で混合した:
FeS粉末(58.9重量%);結合剤、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンエラストマー(クラトン(Kraton)G1651)(2重量%);グラファイト(ティムレックス(Timrex)KS6)(4.8重量%)、カーボンブラック(スーパー(Super)Pカーボンブラック)(0.7重量%)、炭化水素溶媒類、シェルソル(ShellSol)A100溶媒(13.4重量%)、及びシェルソルOMS溶媒(20.2重量%)。
【0069】
アルミニウムシート上の湿式カソードスラリーを次に、40℃〜130℃のオーブンにおいて、カソードスラリー中の溶媒が全て蒸発するまで乾燥させ、こうすることで、FeSと導電性炭素とエラストマー結合剤とを含む乾燥カソードコーティングをアルミニウムシートの片面に形成した。アルミニウムシートは、厚さ20ミクロンのアルミニウム箔であった。同じ組成の湿式カソードスラリーを、続いて、アルミニウムシートの反対の面にコーティングして、同様に乾燥させた。アルミニウムシートの両面上の乾燥カソードコーティングをカレンダ処理することで、合計最終厚さ約0.176mmの乾燥カソード170を形成した。これには、20μm厚のアルミニウム箔が包含されていた。乾燥カソードコーティング170は、次の組成を有していた:
FeS粉末(89.0重量%);結合剤クラトン(Kraton)G1651エラストマー(3.0重量%);導電性炭素粒子類、グラファイトティムレックス(Timrex)KS6(7重量%)、及びカーボンブラック、スーパー(Super)P(1重量%)。
【0070】
アルミニウムシートの両面にコーティングされた乾燥カソードコーティング170の複合体を、次に、カソードハウジング130内のカーボンベース層172の上へ押し込んだ。これは、ダイ内にカソードハウジング130を入れることによって行った。両面に乾燥カソードコーティング170をコーティングされたアルミニウムシートの複合体型の切り抜きを、続いて、ハウジング130内のカソードベース層172上に直接並べた。その後、ハウジング130を保持するダイに破城槌(ram)を挿入して、ダイを液圧プレスまで移動させた。プレスを用いて4メートルトンの力を加えて、複合体がカソードベース層172と密着するように、複合体をカソードハウジング130に押し込んだ。その後、ダイを転倒させて、ハウジング130をダイから静かに取り外した。露出したカソード層170の表面は、平滑なムラのない質感を有していた。完成したカソードコインを、次に、真空オーブンに入れて、150℃で16時間加熱した。
【0071】
本発明の好ましい電解質配合物を調製した。好ましい電解質は、ジメトキシエタン(DME)約75体積%と、プロピレンカーボネート(PC)15体積%と、エチレンカーボネート(EC)10体積%とを含む有機溶媒混合物に溶解された0.9モル(0.9モル/リットル)濃度のLiCFSO(LiTFS)塩及び/又はLi(CFSON(LiTFSI)塩を含んでいた。試験電池に用いた電解質において、LiCFSO(LiTFS)及びLi(CFSON(LiTFSI)はいずれも約0.2〜0.8の重量比で存在していた。試験電池を調製する際に、約0.5重量%の量のヨウ素元素(I)をこの電解質溶液に添加した。
【0072】
カソードコイン、すなわち、乾燥カソード170を中に含むカソードハウジング130を、電解質を真空充填するためにガラス製のコインホルダーに入れた。付属のビュレット充填管を有するゴム栓を、カソードコインホルダーの最上部に載せた。管にある充填弁を閉じて、真空弁を約1分間開放した。
【0073】
ヨウ素元素を0.5重量%含有する本発明の上記配合の電解質を、ピペットを用いて徐々に加えた。真空弁を閉じて、ビュレット弁を開けた。約1分後に、真空弁を閉じ、充填弁を徐々に開けてカソードハウジング130を満たし、カソード170に大部分の電解質を吸収させた。
【0074】
充填されたカソードコインを、プラスチック製ピンセットを用いて取り出し、それがクリンパの底部に固定されるように、クリンパの底部に置いた。ピペットを用いて、ガラスホルダーに残っている過剰の電解質をコインに注いだ。
【0075】
ミクロポアを有するポリプロピレン製セパレータ(セルガード(Celgard)CG2400セパレータ)を、電解質で濡れたカソード層170の最上部に置いて、中心を合わせた。次に、カソードハウジング130に電解質を再び注いだ。
【0076】
アノードコイン、すなわち、リチウムアノードシート150を中に有するアノードカバー120を、カソードハウジング130の最上部に置いて、アノードカバー120がカソードハウジング130の内側に一様に取り付けられるまで、機械式クリンパ内で中心を合わせた。その後、機械式クリンパのアームをあらゆる方向に引き下げて、カソードハウジング130の周縁部135を絶縁ディスク140の縁部で曲げた。電池毎にこのプロセスを繰り返した。各電池を形成した後、電池のハウジングの外面をメタノールで拭いてきれいにした。
【0077】
対照(比較)電池類
一つのことを除いて、実験用試験電池と同じ寸法で、全く同じアノード及びカソードの組成で、同じ電池構造の、同一のコイン型電池の対照群を調製した。対照電池類と先に記載された実験用試験電池類との唯一の相違点は、対照電池類に使用された電解質が添加ヨウ素元素を全く含有していないことであった。電解質の配合は、他の点では、以下の表2に示すものと全く同じであった。
【0078】
対照電池類と比較された実験用試験電池類の電気化学性能:
電池類が成形された後、カソード活物質の重量に基づいて減量してデジタルカメラでの電池の利用を模擬するように意図した試験を用いて、各電池の全放電容量を評価した。
【0079】
デジタルカメラ試験は、次のパルス試験プロトコルからなる:段階1:10サイクルであって、各サイクルは、1500ミリワットパルスを2秒間出した直後に、650ミリワットパルスを28秒間出すことからなる;段階2は、その後、55分間休止する。段階1と2を、カットオフ電圧が1.05ボルトに達するまで続ける。2つのコイン電池群を先の手順で組み立てた。対照群の電池類には、次の電解質を充填した:
電解質
【表2】

【0080】
実験用試験電池群には、ヨウ素元素Iを0.5%含有する先の電解質を充填した。そのため、対照群の電池類と実験群の電池類とは、実験群の電解質が0.5重量%の添加ヨウ素元素Iを含有していたこと以外は、全ての点で同じであった。1つの群につき10個の電池を組み立てた。
【0081】
各コイン型電池の複素インピーダンスを、ソーラートロン(Solartron)電気化学インターフェース1287と周波数応答分析器1255とを用いて測定した。
【0082】
実験用試験電池類と対照群の電池類を、次の放電パルス試験プロトコルに付した:
段階1:10サイクルであって、各サイクルは、1500ミリワットパルスを2秒間出した直後に、650ミリワットパルスを28秒間出すことからなる;段階2は、その後、55分間休止する。段階1と2を、カットオフ電圧が1.05ボルトに達するまで続ける。
【0083】
電池類の放電は、マッコール(Maccor)4000反復装置で行った。電圧遅延は、生じる場合、新しい(放電されていない)電池類に適用すると、パルス放電試験の最初の50パルス以内で生じる。この最初の50パルスの期間後、電圧遅延(電圧降下)があれば、作動電圧はすぐに正常レベルまで回復する。従って、電圧遅延という用語は、本明細書で使用するとき、パルス試験の最初の50パルス中に到達する「電圧の最大降下」を表す。
【0084】
電解質中にIを0.5%含有する実験用試験群の電池では、最初の50パルス中に観察された作動電圧は、平均1.27ボルトであった。実験用試験群の電池類は、最初の50パルス中には目立った電圧降下が本質的には示されなかった。すなわち、最初の50パルス中の実験用電池類の作動電圧は、定常レベルであり、最初の50パルスの期間を超えた直後の電池の作動電圧とほぼ同じ(10ミリボルト以内)であった。一方、対照群の電池類は、試験の最初の50パルス中にはっきりとした電圧降下(電圧遅延)を示し、そして最初の50パルス中の作動電圧は平均1.12ボルトに達した。
【0085】
従って、換言すると、対照群の電池類の、最初の50パルス中の平均作動電圧は、この期間の実験用試験群の平均作動電圧よりも150ミリボルト低かった。電池類を、同じパルス放電試験を用いて1.05ボルトの同じカットオフ電圧まで放電する。電池の寿命中の作動電圧と総供給パルス数は、実験群の場合、対照群に比べて平均して10%高かった。すなわち、先のパルス試験によれば、実験用電池の耐用年数は、対照群の電池類よりも10%長かった。
【0086】
電解質の組成中にIを0.5%有する実験群の電池類のLi不動態層は、平均して10.6Ωの抵抗値を示したが、表2に示す電解質で充填した対照群の電池類のLi不動態層は、約10倍高い抵抗値(平均して105Ω)を示した。この抵抗の差は、リチウム金属アノードと電解質溶媒混合物との間での副反応によって生じるリチウム金属アノード表面上に堆積したコーティング(不動態層)の化学的性質の差やその量の差によって生じる。このコーティングの抵抗値が高いほど、リチウムの不動態化がより多く生じる(リチウムの電気化学反応速度の低下)。電解質溶媒に0.5重量%のヨウ素元素を添加することで、ヨウ素原子を全く有しない対照電池類と比べて、実験用電池内でのリチウムの不動態化が少なくなった。これにより、実験用電池類のリチウム不動態層の抵抗は、対照電池類と比べて、測定できるが非常に小さいことが分かる。
【0087】
電池類を貯蔵又は完全に放電した後もまた、実験用電池類は、対照群の電池類よりも(先に記載したようにしてカソード170がコーティングされた)アルミニウム基材の腐食が少ないことが分かった。
【0088】
本発明について特定の実施形態を参照しながら説明してきたが、その他の実施形態は、本発明の概念から逸脱することなく実行可能であり、そしてそれらは、本発明の特許請求の範囲及び均等物の範囲内にあると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1A】ボタン型電池実施形態で表されるような、本発明の改良されたLi/FeS電池の断面図。
【図1】円筒形電池実施形態で表されるような、本発明の改良されたLi/FeS電池の等角図。
【図2】図1の透視線2〜2で切断された電池の、電池の最上部と内側部分とを示す部分横断立面図。
【図3】図1の透視線2〜2で切断された電池の、らせん状に巻き付けた電解質アセンブリを示す部分横断立面図。
【図4】前記電極アセンブリを構成する層類の配置を示す模式図。
【図5】図4の電極アセンブリの、それぞれの層をその下にある層が見えるように剥離した平面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、正端子及び負端子と、リチウムを含むアノードと、二硫化鉄(FeS)及び導電性炭素を含むカソードと、を含む一次電気化学電池であって、環状有機カーボネートとヨウ素元素とを含む非水性溶媒混合物に溶解されたリチウム塩を含む非水性電解質を更に含む、一次電気化学電池。
【請求項2】
前記リチウム塩が、LiCFSO(LITFS)、Li(CFSON(LiTFSI)、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記環状有機カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
前記電解質が、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメトキシエタン(DME)、及びヨウ素元素を含む非水性溶媒混合物に溶解されたLiCFSO(LITFS)とLi(CFSON(LiTFSI)との混合物を含むリチウム塩を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
前記ヨウ素元素が、0.01重量%〜5重量%の前記電解質を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池。
【請求項6】
二硫化鉄(FeSO)と導電性炭素とを含む前記カソードが、アルミニウムを含む基材シート上にコーティングされている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電池。
【請求項7】
前記アノードが、リチウム又はリチウム合金のシートを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電池。
【請求項8】
前記導電性炭素が、カーボンブラックとグラファイトとの混合物を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電池。
【請求項9】
ハウジングと、正端子及び負端子と、リチウムを含むアノードと、二硫化鉄(FeS)及び導電性炭素を含むカソードと、を含む一次電気化学電池であって、環状有機カーボネートと臭素元素とを含む非水性溶媒混合物に溶解されたリチウム塩を含む非水性電解質を更に含む、一次電気化学電池。
【請求項10】
前記電解質が、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメトキシエタン(DME)、及び臭素元素を含む非水性溶媒混合物に溶解されたLiCFSO(LITFS)とLi(CFSON(LiTFSI)との混合物を含むリチウム塩を含み、前記臭素元素が、0.01重量%〜5重量%の前記電解質を含む、請求項13に記載の電池。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−540521(P2009−540521A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514983(P2009−514983)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【国際出願番号】PCT/IB2007/052546
【国際公開番号】WO2008/004168
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.TEFLON
【出願人】(593093249)ザ ジレット カンパニー (349)
【Fターム(参考)】