説明

リニアエンコーダ

【課題】 温度変化による測定誤差、あるいは測定精度のばらつきの少ないリニアスケールを提供する。
【解決手段】 ガラススケール3と、このガラススケール3を走査して位置測定値を得るスライダユニット4と、これらのガラススケール3とスライダユニット4とを収納する中空状のスケールベース11とを有し、前記ガラススケール3の一部がスケールベース11の取付溝11a内に収納され、この収納されたガラススケール3と取付溝11a側面とが対向する空間の一部領域に弾性部材5が配置され、かつその他の空間領域には接着剤6,8が配置されてガラススケール3が固定されており、前記接着剤6,8は、特定の基準位置に用いられる第1の接着剤8と、その他の領域に用いられる第2の接着剤6とを有し、前記第1の接着剤8は第2の接着剤6よりも接着強度の高い接着剤が用いられている構成のリニアエンコーダとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等の加工時における相対移動量を測定する際に好適な光学式のリニアエンコーダに関するものであり、特に熱膨張の影響による測定誤差を防止する構造を有する光学式リニアエンコーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械等において、被加工物に対する工具の相対移動量を正確に測定することは、精密加工を行う上で極めて重要であり、このための測定装置が種々製品化されている。
【0003】
その1つとして、光学格子を2枚重ね合わせることにより得られるモアレ縞を利用した光学式スケールが従来から知られている。この光学式スケールは、反射性のガラススケールの一面に透光部と非透光部が所定のピッチで配列するよう格子(刻線)を設けたメインスケールと、センサ部の表面に設けた透明ガラスの一面に透光部と非透光部が所定のピッチで配列するよう格子(刻線)を設けたインデックススケールを有し、このメインスケールとインデックススケールを微小な間隔を置いて対向させるとともに、メインスケールの格子に対し微小角度傾けられるようにインデックススケールの格子を配置している。
【0004】
そして、格子が1ピッチP移動すると、モアレ縞は縞の間隔だけ変位することになり、間隔内のスリットの透過光や反射光の変化を読み取ることにより、1ピッチ内の移動量を精密に測定することができるようになる。
【0005】
このような従来の光学式スケール、つまりリニアエンコーダの具体的構成を図5,6に示す。図5は従来のリニアエンコーダ1の正面図、図6はそのA−A’断面矢視図をそれぞれ示している。図示例のリニアエンコーダ1は、ガラススケール3を滑走するスライダユニット4、工作機械等の可動部(図示せず)に取り付けるためのヘッドキャリア6等から構成されている。
【0006】
スライダユニット4は、前記のようにガラススケール3と対向配置され格子(刻線)が設けられたインデックススケールと光学センサとを有するセンサ部41と、ガラススケール3の振れを少なく滑走させるための左右の側部ガイドローラ42、下部ガイドローラ43、および側部下ガイドローラ45とを有する。使用する際は、図6に示されるように、ガラススケール3とスライダユニット4をスケールベース11の内部に収納し、その開口部は第1のシール部材14および第2のシール部材15によって密封して油や埃等が侵入しないような構造となっている。
【0007】
ヘッドキャリア2は、被測定物である工作機械等の可動部に取り付けられ、連結支柱21を介してスライダユニット4と接続されると共に、被測定物の動作にある程度追従できるような自由度をもつ構造になっている。
【0008】
ヘッドキャリア2本体に支柱21を介して保持されるスライダ保持部22には、スライダ保持バネ44の一端側が固定され、その他端側がスライダユニット4に固定されている。このスライダ保持バネ44は、ピアノ線等のような針金状の弾性部材であって、スライダ保持部22からスライダユニット4をガラススケール3側に押しつけるように付勢し保持している。このため、スライダユニット4のセンサ部41は、ガラススケール3に対して恒に一定の距離を保って対向しながら移動することができ、しかも工作機械からの振動に対し追従性をもたせることもできる。
【0009】
ガラススケール3は、図6に示されるように、棒状の丸ゴム5と接着剤6aとにより、スケールベース11内部の取付溝11aに装着されている。すなわち、図示例の構造では、ガラススケール3を取付溝11aの図面左側面に押しつけるようにして収納し、その余った空間部分に接着剤6aと丸ゴム5とをそれぞれ埋め込むことで、ガラススケール3を前記右側面方向にゴムの弾性により付勢しながら接着・保持し、振動や熱膨張の影響にも適応できるようになっている。このとき、ガラススケール3はスケールベース11に対して真直性を維持した状態で取り付けられることが前提となる。
【0010】
この、ガラススケール3の取り付けは、通常製品の工場出荷時、工作機械、測長装置に装着後、振動や衝撃などにより、ガラススケール3が真直性を維持し、取付溝11aから脱落しないように取り付けられる。
【0011】
丸ゴムは、この例ではガラススケール3の中央部と両端部の3箇所にそれぞれ埋め込まれ、その間の空間部分に接着剤が塗布され接着固定される。丸ゴムの取り付け位置や個数は、ガラススケール3の大きさや形状などにより異なる。
【0012】
リニアエンコーダ1は、図示しない工作機械の固定部にスケールベース11が中間サポート12、および両端の取付部13をネジ止め等することにより取り付けられ、また工作機械の可動部にはヘッドキャリア2が取り付けられる。そして、この可動部の移動量(変位)がガラススケール3とスライダユニット4のセンサ部41の相対移動量として検出される。
【0013】
しかし、このような構成のリニアエンコーダ1は、その構成部材であるスケールベース11、ガラススケール3、丸ゴム5、および接着剤6aがそれぞれ異なった熱膨張係数を有している。このため、リニアエンコーダ1の取付環境の温度変化に伴い、各部材でそれぞれ異なった温度係数による伸縮が生じる。そして、この各部材毎の異なる伸縮は、以下のような問題を生じることとなる。
【0014】
(1)温度変化により、ガラススケールは熱膨張係数の大きなスケールベースの伸縮に引っ張られる。
(2)ガラススケール3を面圧接固定する丸ゴムは、取付溝とガラススケールとの間に挿入される際にねじれてしまうことが多く、これが不要な応力を内部に蓄えることになり、また、温度変化により摩擦抵抗やストレスをより多く受けてしまう。
(3)スケールベースの構成部材には、通常アルミニウムが用られるが、このアルミニウムは剛性が低く、温度変化による収縮を抑える機構もないため温度変化の影響を極めて受けやすい。
(4)上記(1)〜(3)の結果、温度変化域から安定域に移行した場合でも、ガラススケールが不規則な位置に挙動する可能性がある。つまり、一旦温度が変化した後、元の温度に戻った場合でも、同じ精度を示さない場合がある。
(5)ガラススケールの精度誤差が温度変化時に大きくなる場合があり、精度誤差が安定しない。
【0015】
このような、リニアエンコーダを構成する部材の熱膨張係数の違いによる影響を排除する試みとして、例えば特開平9−257452号公報に開示されているように低摩擦部材を介してガラススケールを長手方向に摺動自在に固定し、熱膨張差により生じる応力を逃がして、ガラススケールの精度を保つ手法も検討されている。しかし、この文献の手法では、伸縮によるガラススケールの挙動自体を制御することが困難であり、温度サイクル下で安定した測定誤差、あるいは測定精度のばらつきを一定水準以下に保つことは困難である。
【0016】
特許第2979666号公報には、工作機械の位置決め用スケールの取付において熱膨張係数の違い等の影響を排除するため、スケール中央位置において一箇所のみ接着剤あるいはリベットにより固定する手法が開示されている。
【0017】
しかし、この手法は工作機械にスケールを直接取り付けることを前提としているため、これをこのまま構造の異なるエンコーダユニットに適用することは困難である。つまり、この文献では、基台スケールを寝かせた状態で取り付けているが、リニアエンコーダの場合にはスケールベースの取付溝にガラススケールを収納して取り付けるため、一箇所のみを接着しただけでは取付強度が不足してしまいガラススケールを保持することが困難である。また、この構造では振動の影響も受けやすく、ガラススケールがスケールベース内で振動して測定精度に悪影響を与えてしまう。さらに、組み立て時にもリベットによる固定は困難であり、接着剤を用いた場合でも接着剤塗布から硬化させるまで所定の精度でガラススケールを保持、固定する必要があり、作業効率も極めて悪化い。
【0018】
さらに、特許第3172392号公報においても、部材の熱膨張係数の違いによる影響を排除する検討がなされている。この文献の例では、溝内部にV字状の金属を収納して、ガラススケールを固定し、金属の押圧方向にのみ力が加わるようにしてスケールの長さ方向の膨張を阻害しないようにしている。また、好ましい位置により強いバネを挿入して、位置零点を確保できる点についても記載されている。
【0019】
しかし、この文献の手法ではV字状のバネを所定の弾性をもつように製造しなければならず、コストの上昇を招いてしまう。また、零点確保のために強いバネを挿入したとしても、ガラススケールを完全に固定することは困難であり、ガラススケールが不規則な位置に挙動することを制御するには不十分である。また、強いバネを挿入することで局部的に強い応力がガラススケールにかかり、ガラススケールの変形により測定誤差を生じてしまう場合もあった。
【特許文献1】特開平9−257452号公報
【特許文献2】特許第2979666号公報
【特許文献3】特許第3172392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、上記不具合を解消し、温度変化による測定誤差、あるいは測定精度のばらつきの少ないリニアスケールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
すなわち上記目的は、以下の本発明の構成により達成される。
(1) ガラススケールと、このガラススケールを走査して位置測定値を得るスライダユニットと、これらのガラススケールとスライダユニットとを収納する中空状のスケールベースとを有し、
前記ガラススケールの一部がスケールベースの取付溝内に収納され、
この収納されたガラススケールと取付溝側面とが対向する空間の一部領域に弾性部材が配置され、かつその他の空間領域には接着剤が配置されてガラススケールが固定されており、
前記接着剤は、特定の基準位置に用いられる第1の接着剤と、その他の領域に用いられる第2の接着剤とを有し、
前記第1の接着剤は第2の接着剤よりも接着強度の高い接着剤が用いられているリニアエンコーダ。
(2) 前記接着剤は、第1の接着剤がエポキシ系の接着剤であり、第2の接着剤がシリコーン系の接着剤である上記(1)のリニアエンコーダ。
(3) 前記基準位置には、取付溝側面とガラススケールとの間に中間部材が配置され、この中間部材を介して取付溝側面とガラススケールとが接着されている上記(1)または(2)のリニアエンコーダ。
(4) 前記弾性部材は、棒状の丸ゴムである上記(1)〜(3)のいずれかのリニアエンコーダ。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、構成部材であるスケールベース、ガラススケール、弾性部材、および接着剤等のそれぞれ異なった熱膨張係数による伸縮に由来する不具合を解消し、温度変化による測定誤差、あるいは測定精度のばらつきの少ないリニアスケールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のリニアエンコーダは、ガラススケール3と、このガラススケール3を走査して位置測定値を得るスライダユニット4と、これらのガラススケール3とスライダユニット4とを収納する中空状のスケールベース11とを有し、前記ガラススケール3の一部がスケールベース11の取付溝11a内に収納され、この収納されたガラススケール3と取付溝11a側面とが対向する空間の一部領域に弾性部材5が配置され、かつその他の空間領域には接着剤6,7が配置されてガラススケール3が固定されており、前記接着剤6,7は、特定の基準位置に用いられる第1の接着剤7と、その他の領域に用いられる第2の接着剤6とを有し、前記第1の接着剤7は第2の接着剤6よりも接着強度の高い接着剤が用いられているものである。
【0024】
このように、ガラススケール3を固定する領域のうち特定の基準位置に相当する部分に他の部分に用いる第2の接着剤6より接着強度の高い第1の接着剤7を用いることで、基準位置部分のみが強固に固定され、他の領域は熱膨張によりある程度伸縮しても基準位置だけは安定して固定された状態となり、所定の温度サイクル条件下でもスケールベース11とガラススケール3の位置関係を安定して維持することができる。このため、ガラススケールを固定する部材に不要な応力を蓄積することもなく、温度変化による測定誤差、あるいは測定精度のばらつきの少ないリニアエンコーダを提供することができる。
【0025】
本発明では、特定の基準位置に用いられる第1の接着剤7と、その他の領域に用いられる第2の接着剤6とを有し、第1の接着剤に第2の接着剤より接着強度の高い(強い)接着剤を用いる。ここで、接着強度が高いとは、例えばJIS K6850に準拠する引張せん断力、JIS K6854に準拠するT型はく離強さ等において強度が高いことである。
【0026】
また、第2の接着剤が第1の接着剤より、弾性変形しやすいものであってもよい。すなわち、第1の接着剤で特定の基準位置に強固に固定して位置決めし、第2の接着剤は接着強度を保持しながらある程度熱膨張係数の差に起因する伸縮を吸収することにより、全体として精度を保持しつつ必要な接着強度も確保することができる。前記接着強度と弾性変形の関係は両方備えていてもどちらか一方を備えたものでもよい。
【0027】
具体的には、特定基準位置に用いられる接着剤の引張せん断力が、好ましくは11Mpa(N/mm2)を超えるものであり、より好ましくは14Mpa(N/mm2)以上であり、特に15Mpa(N/mm2)以上であることが望ましい。またその上限としては特に規制されるものではないが、一般に40Mpa(N/mm2)程度である。
【0028】
また、その硬さ(ショアD硬度)としては、一般に60以上90以下であり、好ましくは70以上90未満である。硬度が低すぎると精度に悪影響が出やすくなり、硬すぎると脆くなって取付強度の面で問題が生じる場合がある。
【0029】
このような特性を有する接着剤としては、例えばエポキシ樹脂系接着剤を挙げることができる。具体的には、エポキシ樹脂系接着剤としては、例えば、コニシ株式会社の「ボンドクイック5」、「ボンドクイック30」等が挙げられ、また、セメダイン株式会社(CEMEDINE CO.,LTD.)の「EP001」、「EP007」、「EP008」、「EP330」、「EP331」、「CS2340−5」、「1500」、「1590」、「ハイクイック」、「エクセルエポ」等が挙げられ、さらにThree・Bond・Co,Ltd.のエポキシ樹脂系接着剤、「2083」、「2086」、「2082」、「2087」等の2液硬化型接着剤や、「2242」、「2285」、「2270」、「2210」、「2212」等の一液硬化型接着剤等が挙げられる。
【0030】
この第1の接着剤が適用される領域は、ガラススケール上の特定の基準位置であり、通常零点とされている位置や、スケールの中央などとされるが、このような位置に限定されるものではなく、スケールの精度や読み取り誤差を適正に管理する上で重要な任意の位置に決めてもよい。この接着剤を塗布・配置する範囲は、スケールの大きさや接着剤の種類などによっても異なるが、通常は長さにして5〜20mmの範囲である。特定の基準位置は、通常1つのスケールに1箇所のみ規定される。
【0031】
また、この特定の基準位置の固定には、接着剤と併用して中間部材を用いるとより効果的である。すなわち、ガラススケールとスケールベースの間に中間部材を介在させ、この中間部材とガラススケールとスケールベースとを接着するようにするとよい。接着剤だけで、ガラススケールとスケールベースとを接着すると接着層が厚くなり接着剤の脆性等により接着層が破壊されやすくなることがある。中間部材を介在させることで、接着層の厚さを薄くすることができ、強度の面で極めて有利である。
【0032】
このような中間部材の材質としては、特に規制されるものではないが、ガラスに近い熱膨張係数を有するものが好ましく、例えばSUS304等のステンレス鋼が好ましく、その他鉄やアルミニウム、黄銅といった通常用いられている金属材料からなる金属片でもよい。また、金属に限らず、ガラス片やセラミック、さらには所定の強度を有するカーボンや樹脂材料などを用いることもできる。中間部材の大きさも接着面の大きさに依存するため特に規制されるものではないが、通常、長さ5〜20mm、幅1〜5mm、厚さ0.5〜2mm程度である。
【0033】
一方、その他の領域に用いられる第2の接着剤としては、前記特定の基準位置に用いられる接着剤より接着強度が低いものであることが必要であり、具体的には前記引張せん断力が、好ましくは11Mpa(N/mm2)以下であり、より好ましくは10Mpa(N/mm2)以下であり、特に6Mpa(N/mm2)以下、場合によっては3Mpa(N/mm2)以下であることが望ましい。またその下限としてはスケールを規制し、保持できる強度を要求されるが、最低限0.6Mpa(N/mm2)程度であれば使用可能である。
【0034】
また、その硬さ(ショアD硬度)としては、好ましくは70未満10以上であり、より好ましくは50以下20以上である。接着剤が硬すぎるとガラススケールとスケールベースとの熱膨張の差を吸収することが困難になり、内部に応力が蓄積されやすくなる。
【0035】
このような接着剤としては、例えばシリコーン系接着剤がある。シリコーン系接着剤としては、例えば、東レダウコーニング株式会社(旧東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)の「SE 9176 CLEAR」、「SE−555」や、セメダイン株式会社(CEMEDINE CO.,LTD.)の「PM100」、「PM155」、「PM165」、「PM300」、「PM200」、「PM155」、「EP001」等が挙げられ、さらにThree・Bond・Co,Ltd.の「1220」、「1221」、「1230」、GE東芝シリコーン株式会社「TSE392」、「TSE3925」、「TSE397」「TSE3971」、「TSE3972」、「TSE3975」、「TSE399」等が挙げられる。これらのなかでも特に、1成分型で、シーリング用途として用いられるものが好ましい。
【0036】
本発明では、スケールベースの取付溝側面と収納されたガラススケールとが対向する空間領域の一部に弾性部材が配置される。このような弾性部材としては、金属板を折り曲げたようなバネやコイルバネなどの金属バネを用いることも可能であるが、本発明では価格や取り扱いの面からエラストマーを用いた部材が好ましい。このようなエラストマーとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ネオプレンゴム(NR)、オレフィン系エラストマー、ナイロン系エラストマー、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッソゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)または少なくともこれらと同等程度の弾性力を有するものが挙げられる。これらの中でも特にエンコーダの固有振動数に対しかけ離れた固有振動数をもち減衰性に優れたものがよく、特にニトリルブタジエンゴム(NBR)が好ましい。
【0037】
また、その形状としては、断面丸または楕円状の棒状体であり、これを所定の長さにして前記空間内に挿入する。断面の大きさは、隙間に挿入したときに有る程度変形して、その弾性によりガラススケールを固定できるだけの押圧力を生じる程度の大きさとすればよい。
【0038】
このような光学式スケール、つまりリニアエンコーダの具体的構成を図1,2に示す。図1は本発明のリニアエンコーダ1の正面図、図2はそのA−A’断面矢視図をそれぞれ示している。図示例のリニアエンコーダ1は、ガラススケール3を滑走するスライダユニット4、工作機械等の可動部(図示せず)に取り付けるためのヘッドキャリア2等から構成されている。
【0039】
スライダユニット4は、周知のようにガラススケール3と対向配置され格子(刻線)が設けられたインデックススケールおよび光学センサを有するセンサ部41と、ガラススケール3を滑らかに滑走させるための左右の側部ガイドローラ42、下部ガイドローラ43、および側部下ガイドローラ45とを有する。使用する際は、図2に示されるように、ガラススケール3とスライダユニット4をスケールベース11の内部に収納し、その開口部は第1のシール部材14および第2のシール部材15によって密封して油や埃等が侵入しないような構造となっている。
【0040】
ヘッドキャリア2は、被測定物である工作機械等の可動部に取り付けられ、連結支柱21を介してスライダユニット4と接続されると共に、被測定物の動作にある程度追従できるような自由度をもつ構造になっている。
【0041】
ヘッドキャリア2本体に支柱21を介して保持されるスライダ保持部22には、スライダ保持バネ44の一端側が固定され、その他端側がスライダユニット4に固定されている。このスライダ保持バネ44は、ピアノ線等のような針金状の弾性部材であって、そのバネ性によりスライダ保持部22からスライダユニット4をガラススケール3側に押しつけるように付勢し保持している。このため、スライダユニット4のセンサ部41は、ガラススケール3に対して恒に一定の距離を保って対向しながら移動することができ、しかも工作機械からの振動に対し追従性をもたせることもできる。
【0042】
ガラススケール3は、図2に示されるように、棒状の丸ゴム5と接着剤6とにより、スケールベース11内部の取付溝11aに装着されている。すなわち、図示例の構造では、ガラススケール3を取付溝11aの図面左側面に押しつけるようにして収納し、その余った空間部分に第2の接着剤6と丸ゴム5とをそれぞれ埋め込むことで、ガラススケール3を前記右側面方向にゴムの弾性により付勢しながら接着・保持し、振動や熱膨張の影響にも適応できるようになっている。このとき、ガラススケール3はスケールベース11に対して真直性を維持した状態で取り付けられることが前提となる。
【0043】
この、ガラススケール3の取り付けは、通常製品の工場出荷時、工作機械、測長装置に装着後、振動や衝撃などにより、ガラススケール3が真直性を維持し、取付溝11aから脱落しないように取り付けられる。
【0044】
丸ゴムは、この例ではガラススケール3の両端部の2箇所にそれぞれ埋め込まれ、その間の空間部分には、中央部の特定位置を除きシリコーン系などの低接着強度で比較的硬度の低い接着剤が塗布され接着固定される。丸ゴムの取り付け位置や個数は、ガラススケール3の大きさや形状などにより異なる。
【0045】
ガラススケール3の特定基準位置、つまりこの例では中央部には、中間部材として金属片7が配置され、この金属片3を介してガラススケール3と取付溝11aとが、エポキシ系などの第2の接着剤より接着強度の高い第1の接着剤8により強固に固定されている。この金属片7は省略して接着剤8のみとすることも可能である。しかし、上記のように接着剤層を厚くすることで接着層に加わる応力により接着層が破損しやすくなり、強度面で問題が生じる場合がある。
【0046】
このように、特定の基準位置のみ強度の高い第1の接着剤で固定し、その他の部分を比較的接着強度の弱い、あるいは硬度の低い接着剤で固定することで、熱膨張の応力を逃がしつつ、ガラススケールの位置は恒に一定の位置に規制することができ、測定精度や誤差のばらつきを抑制して、極めて精度のよい測定が可能となる。
【0047】
このようなリニアエンコーダ1は、例えば図示しない工作機械の固定部にスケールベース11が中間サポート12、および両端の取付部13をネジ止め等することにより取り付けられ、また工作機械の可動部にはヘッドキャリア2が取り付けられる。そして、この可動部の移動量(変位)がガラススケール3とスライダユニット4のセンサ部41の相対移動量として検出される。
【実施例1】
【0048】
発明サンプルとして図1,2に示すような構成のリニアエンコーダと、比較サンプルとして、図5,6に示すような構成のリニアエンコーダを用意した。ガラススケールの長さは公称読み取り長320mmとし、第1の接着剤として、エポキシ系接着剤、コニシ株式会社製、商品名ボンドクイック30〔A剤:エポキシ100%、B剤:ポリチオール100%〕を用い、前記第1の接着剤より接着用度に劣るが弾性変形しやすい第2の接着剤として、シリコーン系接着剤〔1成分型シリコーンシーラント(アルコール型)〕、東レダウコーニング株式会社(旧東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)製、商品名SE 9176 CLEARを用いた。比較サンプルでは、第2の接着剤のみを用いた。それぞれのサンプルにおいて、図示の所定位置に各接着剤を塗布し、金属片にはSUS304を長さ10mm、幅3mm、厚さ1mmに加工して配置した。また、弾性部材には、NBRゴムの丸い棒状のものを用い、適当な大きさに切断して図示例の位置に収納した。
【0049】
接着剤が完全に硬化した後、これら発明サンプルと比較サンプルを20℃→25℃→20℃→15℃→20℃の温度サイクル下において、スケールの位置ズレを調べた。ズレに検出には、ガラススケールの両端部にそれぞれスライダユニットを配置し、この2つのスライダユニットでスケールベースに対するガラススケールのズレを検出した。結果を図3,4に示す。
【0050】
図3,4から明らかなように、従来のサンプルの図3では、基準温度である20℃から25℃に上昇させ、再び20℃に戻した場合、左右センサ部からの出力は元の位置からそれぞれ右側に数ミクロン程度ズレてしまっていることが判る。このように、従来の構成では、熱サイクルが加わった場合、スケールベースに対してガラススケールが位置ズレを起こしてしまって、元の状態には再現できない。
【0051】
これに対し、図4の発明サンプルでは、20℃→25℃→20℃→15℃→20℃と熱サイクル中およびサイクル後でも、基準温度である20℃の位置では0.1〜0.2μm 程度のズレしかなく、極めて再現性に優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、工作機械等の加工時における相対移動量を測定するリニアエンコーダのみならず、種々の直線距離、移動量、変位量の測定が必要なリニアエンコーダに応用することが可能であり、スライダユニットも上記実施例等の構造に限定されることなく、種々の構造、方式に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のリニアエンコーダの具体的構成を示す正面図である。
【図2】図1のA−A断面矢視図である。
【図3】比較サンプルの熱サイクルにおける左右検出ヘッドのズレを示したグラフである。
【図4】発明サンプルの熱サイクルにおける左右検出ヘッドのズレを示したグラフである。
【図5】従来のリニアエンコーダの具体的構成を示す正面図である。
【図6】図5のA−A断面矢視図である。
【符号の説明】
【0054】
1 リニアエンコーダ
2 ヘッドキャリア
3 ガラススケール
4 スライドユニット
5 弾性部材
6 第2の接着剤
6a 接着剤
7 金属片
8 第1の接着剤
11 スケールベース
11a 取付溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラススケールと、このガラススケールを走査して位置測定値を得るスライダユニットと、これらのガラススケールとスライダユニットとを収納する中空状のスケールベースとを有し、
前記ガラススケールの一部がスケールベースの取付溝内に収納され、
この収納されたガラススケールと取付溝側面とが対向する空間の一部領域に弾性部材が配置され、かつその他の空間領域には接着剤が配置されてガラススケールが固定されており、
前記接着剤は、特定の基準位置に用いられる第1の接着剤と、その他の領域に用いられる第2の接着剤とを有し、
前記第1の接着剤は第2の接着剤よりも接着強度の高い接着剤が用いられているリニアエンコーダ。
【請求項2】
前記接着剤は、第1の接着剤がエポキシ系の接着剤であり、第2の接着剤がシリコーン系の接着剤である請求項1のリニアエンコーダ。
【請求項3】
前記基準位置には、取付溝側面とガラススケールとの間に中間部材が配置され、この中間部材を介して取付溝側面とガラススケールとが接着されている請求項1または2のリニアエンコーダ。
【請求項4】
前記弾性部材は、棒状の丸ゴムである請求項1〜3のいずれかのリニアエンコーダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate