説明

リニアガイド装置およびその使用方法

【課題】リニアガイド装置のスライダ内に供給された潤滑剤を、外部に漏らさずに回収できるようにする。
【解決手段】案内レール1の底面に、長手方向全体に延び両端が開口した溝(潤滑剤回収路)51を形成した。案内レール1の両側面1aに、複数の潤滑剤回収口52を等間隔で形成した。案内レール1の内部に、各潤滑剤回収口52を開口とした第1の通路53と、これに連通して溝51の底面51aで開口する第2の通路54を形成した。案内レール1の両端に潤滑剤回収箱7を設置して使用すると、余分な潤滑剤が、潤滑剤回収口52から案内レール1の内部に入り、第1の通路53および第2の通路54を通って、溝51と機台6の上面で形成された第3の通路に入り、潤滑剤回収箱7に回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置は、通常、スライダ内に潤滑剤を供給して使用されているが、潤滑剤がスライダ外部に漏れだすと汚染の原因となるため、これを防止する必要がある。
特許文献1には、立て置き状態で使用されるリニアガイド装置として、スライダの下部に多孔質構造の潤滑剤吸収プレートを取り付けることが記載されている。
特許文献2には、案内レールの側面の下側(スライダと対向していない面)に長手方向に沿って延びる潤滑剤受け溝を設け、この受け溝で、スライダから漏れて案内レールの側面を伝わって流れ落ちた潤滑剤を受けることが記載されている。また、潤滑剤受け溝で受けた潤滑剤を回収する回収箱を、案内レールの長手方向一端に設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−295840号公報
【特許文献2】特開平5−332358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法では、潤滑剤吸収プレートによる潤滑剤の吸収能力が限界を超えると、潤滑剤がスライダ外部に漏れるという問題点がある。
特許文献2に記載された方法では、スライダから漏れた潤滑剤が受け溝に到達する前に飛び散ったり、受け溝からこぼれたりすることがあるため、潤滑剤による汚染が回避できない可能性が高い。
この発明の課題は、リニアガイド装置のスライダ内に供給された潤滑剤を外部に漏らさずに回収できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、この発明のリニアガイド装置は、案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置であって、案内レールの取り付け状態で露出しない部分(内部または底面)に、案内レールの長手方向全体に沿って延びる潤滑剤回収路が形成され、前記潤滑剤回収路の長手方向両端部の少なくとも一方の端部は開口し、案内レールのスライダとの対向面に潤滑剤回収口が形成され、案内レールの内部に、前記潤滑剤回収路と前記潤滑剤回収口を連通する連通路が形成されていることを特徴とする。
【0006】
この発明のリニアガイド装置によれば、案内レールの長手方向の前記潤滑剤回収路が開口している端部に潤滑剤回収箱を設置することで、この潤滑剤回収箱と前記潤滑剤回収口と前記連通路と前記潤滑剤回収路とからなる潤滑剤回収機構が構成される。そのため、この状態で使用すると、スライダ内に供給されて案内レールとスライダの隙間に溜まった余分な潤滑剤は、前記潤滑剤回収口から案内レール内の前記連通路に入り、前記潤滑剤回収路を通って前記潤滑剤回収箱で回収される。
また、前記潤滑剤回収箱から前記スライダの潤滑剤供給口に潤滑剤を供給する潤滑剤供給機構を設置することにより、回収した潤滑剤を簡単に再利用することができる。
【発明の効果】
【0007】
この発明のリニアガイド装置によれば、案内レールの長手方向の前記潤滑剤回収路が開口している端部に潤滑剤回収箱を設置して使用することにより、スライダ内に供給された潤滑剤を外部に漏らさずに回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態のリニアガイド装置を示す部分破断正面図である。
【図2】第1実施形態のリニアガイド装置の使用状態を示す部分破断側面図であり、破断部分は図1のA−A断面に対応する。
【図3】図2のA部分の拡大図である。
【図4】第1実施形態のリニアガイド装置の使用状態を示す背面図である。
【図5】第2実施形態のリニアガイド装置を示す部分破断正面図である。
【図6】第2実施形態のリニアガイド装置の使用状態を示す部分破断側面図であり、破断部分は図5のB−B断面に対応する。
【図7】図6のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施形態について説明する。
第1実施形態のリニアガイド装置は、図1に示すように、案内レール1とスライダ2と複数個のボール(転動体)3を備えている。案内レール1の両側面1aと、両側面1aと上面1bとの角部に、転動溝(転動面)11が形成されている。
スライダ2は、案内レール1の幅方向両側に配置される脚部2Aと、案内レール1の厚さ方向一端側(図1の配置では上側)に配置されて両脚部2Aを連結する胴部2Bとからなる。スライダ2は、また、図2に示すように、案内レール1に沿った長手方向で、スライダ本体201と、その両端に固定されたエンドキャップ202と、さらにその両端に固定されたサイドシール203とに分けられる。スライダ2の両脚部2Aの先端(下側)に、案内レール1の側面1aとスライダ2の内側面との隙間を塞ぐアンダーシール204が取り付けられている。
【0010】
スライダ本体201の両脚部2Aの内側面と、両脚部2Aと胴部2Bとの角部に、案内レール1の転動溝11と対向する転動溝(転動面)21が形成されている。スライダ2の両脚部2Aのスライダ本体201に、戻し通路22が形成されている。案内レール1およびスライダ2の転動溝11,21からなる転動通路と戻し通路22とを連通させる方向転換路が、スライダ2の両脚部2Aのエンドキャップ202の内面(スライダ本体201側の面)に形成されている。
【0011】
スライダ2の長手方向両端の胴部2Bの中央部に、スライダ2内に潤滑剤を供給する潤滑剤供給口24が形成されている。胴部2Bの潤滑剤供給口24から両脚部2Aの方向転換路に向かう油路が、エンドキャップ202の内面に形成されている。一方の潤滑剤供給口24にグリースニップル25が取り付けられ、他方の潤滑剤供給口24は埋め栓26で塞がれている。
【0012】
前記転動通路、戻し通路、および方向転換路でボール3の循環経路が構成され、この循環経路内をボール3が循環することにより、案内レール1およびスライダ2の一方が他方に対して相対的に直線運動する。その際に、グリースニップル25から供給された潤滑剤が、潤滑剤供給口24からスライダ2内に入り、エンドキャップ202の油路を介して方向転換路に入り、ボール3に付着して移動する。
【0013】
案内レール1には、機台等の被取付部にボルトを用いて取り付けるための取り付け穴4が、案内レール1の厚さ方向(図1の配置では上下方向)に貫通して形成されている。
図1、2、4に示すように、案内レール1の底面に、案内レール1の長手方向全体に沿って延びる2本の溝(潤滑剤回収路)51が形成されている。両溝51の長手方向両端部は開口している。
【0014】
案内レール1の両側面(スライダ2との対向面)1aには、上下の転動溝11の間となる位置に潤滑剤回収口52が形成されている。潤滑剤回収口52は、各側面1aで複数個が長手方向に等間隔で、隣り合う取り付け穴4の間の位置に配置されている。案内レール1の内部に、各潤滑剤回収口52を開口として、案内レール1の上面1bと平行に延びる第1の通路53が形成されている。
【0015】
案内レール1の内部には、また、案内レール1の側面1bと平行に延びる第2の通路54が複数個形成されている。複数の第2の通路54は、案内レール1の長手方向で複数の潤滑剤回収口52と同じ位置に配置されている。第2の通路54の一端は溝51の底面51aで開口し、他端は第1の通路53と連通している。第1の通路53と第2の通路54が、溝(潤滑剤回収路)51と潤滑剤回収口52とを連通する連通路を構成する。
【0016】
このリニアガイド装置は、図2に示すように、取り付け穴4を利用してボルトにより案内レール1を機台6に固定した後、案内レール1の長手方向両端に潤滑剤回収箱7を設置して使用される。潤滑剤回収箱7は、案内レール1の長手方向断面と同じ断面を有する箱体であって、前記断面と平行な一方の面のみが開口している。
潤滑剤回収箱7の開口面を案内レール1の両端面に密着させて配置した状態で、潤滑剤回収箱7を機台6に固定する。図3に示すように、この状態で、潤滑剤回収箱7の底板71の上面71aが、案内レール1の底面に形成されている溝51の底面51aより低くなるように、底板71の厚さを設定する。また、底板71の開口側の端面71bは、下面側が鋭角となる斜面に形成されている。
【0017】
第1実施形態のリニアガイド装置によれば、図2に示す使用状態で、潤滑剤回収箱7と溝51と、潤滑剤回収口52と、第1の通路53と、第2の通路54と、からなる潤滑剤回収機構が構成される。
したがって、リニアガイド装置の使用中に、グリースニップル25からスライダ2内(エンドキャップ202の方向転換路)に供給されてボール3に付着して移動した潤滑剤のうち、案内レール1とスライダ2の隙間に溜まった余分な潤滑剤は、潤滑剤回収口52から案内レール1の内部に入り、第1の通路53および第2の通路54を通って、溝51と機台6の上面で形成された第3の通路に入る。そして、第3の通路から潤滑剤回収箱7に入って回収される。
【0018】
第2実施形態のリニアガイド装置は、図5および6に示すように、第1実施形態と同様の構造を有するが、案内レール1に第1実施形態とは異なる潤滑剤回収機構が形成されている。
図5〜7に示すように、第2実施形態のリニアガイド装置では、案内レール1の幅方向中心であって、厚さ方向で上下の転動溝11の間となる位置に、取り付け穴の座繰り部41を介して案内レール1の長手方向全体に沿って延びる潤滑剤回収路81が形成されている。潤滑剤回収路81の長手方向両端部は開口している。
【0019】
案内レール1の両側面(スライダ2との対向面)1aには、上下の転動溝11の間となる位置に潤滑剤回収口82が形成されている。潤滑剤回収口82は、各側面1aで長手方向で取り付け穴4の位置に配置されている。案内レール1の内部に、全ての潤滑剤回収口82から案内レール1の上面1bと平行に延びて取り付け穴の座繰り部41に至る連通路83が形成されている。
【0020】
このリニアガイド装置は、図6に示すように、取り付け穴を利用してボルト9により案内レール1を機台6に固定し、取り付け穴の座繰り部41の上部をキャップ91で塞いだ後、案内レール1の長手方向両端に潤滑剤回収箱7を設置して使用される。機台6には、ボルト9の軸部を通す貫通穴61が形成されている。貫通穴61は、取り付け穴の軸挿通部42に合わせて開口されている。
【0021】
潤滑剤回収箱7は、案内レール1の長手方向断面と同じ断面を有する箱体であって、前記断面と平行な一方の面のみが開口している。潤滑剤回収箱7の開口面を案内レール1の両端面に密着させて配置した状態で、潤滑剤回収箱7を機台6に固定する。
第2実施形態のリニアガイド装置によれば、使用状態で、図7に示すように、潤滑剤回収箱7と、潤滑剤回収路81と、潤滑剤回収口82と、連通路83と、取り付け穴の座繰り部41内の空間(連結路)と、からなる潤滑剤回収機構が構成される。
【0022】
したがって、リニアガイド装置の使用中にスライダ2内(エンドキャップ202の方向転換路)に供給されてボール3に付着して移動した潤滑剤のうち、案内レール1とスライダ2の隙間に溜まった余分な潤滑剤は、潤滑剤回収口82から案内レール1の内部に入り、連通路83を通って、先ず、取り付け穴の座繰り部41内の空間(座繰り部41とボルト9とキャップ91で形成される空間)に溜まる。この溜まった潤滑剤が、潤滑剤回収路81を通ってそのまま、あるいは隣の座繰り部41内の空間を経由した後に、潤滑剤回収箱7に入って回収される。
【0023】
第2実施形態のリニアガイド装置は、取り付け穴の座繰り部41を連通路の一部として使用しているため、第1実施形態のリニアガイド装置と比較して、潤滑剤回収路81の形成長さを短くできる。また、取り付け穴の座繰り部41で潤滑剤回収路81と連通路83を連結しているため、第1の通路53と第2の通路54のように同径の通路を連結する第1実施形態のリニアガイド装置と比較して、連通穴の加工が容易にできる。
【0024】
第1および第2実施形態のリニアガイド装置において、潤滑剤回収箱7の上部に開口を設けてポンプのくみ上げ管を差し込み、ポンプの供給管をスライダ2の潤滑剤供給口24と接続する(潤滑剤供給機構を設置する)ことで、回収した潤滑剤を簡単に再利用することができる。
なお、潤滑剤回収箱7からスライダ2内に潤滑剤を戻して再使用することを、リニアガイド装置の使用時に行う場合は、前記ポンプの供給管がスライダ2の移動に合わせて伸縮できる構造になっている必要がある。また、そのような構造になっている場合は、グリースニップル25を取り付けずに、最初から潤滑剤回収箱7に入れた潤滑剤をスライダ2内に供給することで、潤滑剤を循環使用することもできる。
【符号の説明】
【0025】
1 案内レール
1a 案内レールの側面
1b 案内レールの上面
11 案内レールの転動溝(転動面)
2 スライダ
201 スライダ本体
202 エンドキャップ
203 サイドシール
204 アンダーシール
2A スライダの脚部
2B スライダの胴部
21 スライダの転動溝(転動面)
22 戻し通路
24 潤滑剤供給口
25 グリースニップル
26 埋め栓
3 ボール(転動体)
4 取り付け穴
41 取り付け穴の座繰り部(連通路)
42 取り付け穴の軸挿通部
51 溝(潤滑剤回収路)
51a 溝の底面
52 潤滑剤回収口
53 第1の通路(連通路)
54 第2の通路(連通路)
6 機台
61 機台の貫通穴
7 潤滑剤回収箱
71 潤滑剤回収箱の底板
71a 底板の上面
71b 底板の開口側の端面
81 潤滑剤回収路
82 潤滑剤回収口
83 連通路
9 ボルト
91 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置であって、
案内レールの取り付け状態で露出しない部分に、案内レールの長手方向全体に沿って延びる潤滑剤回収路が形成され、前記潤滑剤回収路の長手方向両端部の少なくとも一方の端部は開口し、
案内レールのスライダとの対向面に潤滑剤回収口が形成され、
案内レールの内部に、前記潤滑剤回収路と前記潤滑剤回収口を連通する連通路が形成されていることを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項2】
案内レールの長手方向の前記潤滑剤回収路が開口している端部に潤滑剤回収箱を設置して使用する請求項1記載のリニアガイド装置の使用方法。
【請求項3】
前記潤滑剤回収箱から前記スライダの潤滑剤供給口に潤滑剤を供給する潤滑剤供給機構を設置して使用する請求項2記載のリニアガイド装置の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−154462(P2012−154462A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16340(P2011−16340)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】