説明

リニアガイド装置

【課題】長期に渡る潤滑剤供給能力を有する潤滑剤供給体を提供する。
【解決手段】スライダのエンドキャップ2Bとサイドシール10の間に、潤滑剤を含有するポリマーからなり、案内レールに対して摺動する面に微小な凹凸が形成された潤滑剤供給体11を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置は、案内レールおよびスライダに設けた両転動面で構成される転動通路を、転動体が負荷状態で転動することで、スライダが案内レールに沿って相対的に直線移動する装置である。そして、前記転動通路の終点から始点へ転動体を移動させる循環部(方向転換路と戻し通路)を有し、この循環部と前記軌道により転動体の循環経路が構成されている。
【0003】
スライダは、本体とエンドキャップとサイドシールを有し、エンドキャップの本体側の面に、潤滑剤を方向転換路に導く油路が形成されている。また、エンドキャップの油路に潤滑剤を導く貫通穴が、エンドキャップとサイドシールに形成されている。そして、サイドシールの前記貫通穴にグリースニップルを取り付けることで、潤滑剤が両貫通穴を通ってエンドキャップの油路に導入されて方向転換路に供給され、この方向転換路内で転動体に潤滑剤が付着し、この転動体が循環経路内を循環することで、リニアガイド装置の潤滑が行われている。
【0004】
グリースニップルから供給された潤滑剤は、リニアガイド装置の使用に伴って、転動体から案内レールの転動面に移着することで、徐々に減少していく。そのため、潤滑剤の減少分をグリースニップルから定期的に補給する必要がある。リニアガイド装置は、自動車製造設備などの搬送装置や各種の産業用機械設備に用いられているが、このような用途では、グリース補給のために頻繁に設備の稼動を停止することは好ましくない。
【0005】
下記の特許文献1には、グリース補給等のメンテナンス間隔を長くできるリニアガイド装置として、スライダのエンドキャップとサイドシールの間に、潤滑剤を含有するポリマーからなる潤滑剤供給体(潤滑剤含有ポリマ部材)を設け、この潤滑剤供給体の案内レールの転動面と接触する面積を制限することが記載されている。これにより、案内レールと潤滑剤供給体との摩擦熱によって温度が上昇する面積が減少するため、長期間に渡って潤滑剤の供給が継続できると記載されている。
【特許文献1】特開平10−196651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された潤滑剤供給体は、案内レールの転動面と接触する面積を制限することで隙間が生じるため、シール性の点で改善の余地がある。
本発明の課題は、シール性が良好で、特許文献1に記載された潤滑剤供給体よりも長期に渡るグリース供給能力を有する潤滑剤供給体を備えたリニアガイド装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、案内レールと、本体とエンドキャップとサイドシールを有するスライダと、複数個の転動体と、を備え、案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、スライダは、さらに、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有し、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、前記循環経路を転動体が循環することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置において、スライダのエンドキャップとサイドシールの間に、潤滑剤を含有するポリマーからなり、案内レールに対して摺動する面に微小な凹凸が形成された潤滑剤供給体を設けたことを特徴とするリニアガイド装置を提供する。
【0008】
潤滑剤を含有するポリマーからなる潤滑剤供給体を構成するポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロプレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテンが挙げられ、潤滑剤としては、ポリα−オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油のようなエーテル油、フタル酸エステルのようなエステル油などが挙げられる。
潤滑剤供給体は、上述のポリマーに、これらの潤滑剤のいずれかを単独で、もしくは複数種を使用し、必要に応じて各種添加剤を加えて混合したものを射出成形することで作製することができる。
【0009】
ここで、「微小な凹凸が形成された」とは、例えば、幅が700nm〜900nmで深さが200nm程度の溝が、所定の間隔で形成されている状態や、直径20μm〜100μmの円形の凹部が、凹部の面積率が20%の場合、20μm〜147μmの間隔で形成されている状態を指す。
微小な凹凸の形成方法としては、潤滑剤を含有するポリマーを射出成形して潤滑剤供給体を作製する際に、使用する金型に微小な凹凸を設ける方法が挙げられる。これにより、射出成形の際に金型に設けた凹凸が潤滑剤供給体の面に転写される。
【0010】
金型に微小な凹凸を設ける方法としては、精密機械加工、レーザー加工、エッチング、フォトリソグラフィー、マスクショット加工などが挙げられる。また、フェムト秒レーザーなどでパルス幅1ps以上5ps以下の短パルスレーザーを波長700〜900nmの範囲で照射することによって、金型表面に、レーザー波長と同等な幅の微細な溝が形成できる。円形の凹部を形成する方法としては、樹脂テープにパンチングにより多数の微細な円穴を形成し、この樹脂テープを金型に貼り付けた状態でメッキや蒸着を行うことで、多数の微細な円形の凸部を金型表面に形成し、この金型を使用して潤滑剤を含有するポリマーの射出成形を行う方法が挙げられる。
【0011】
本発明のリニアガイド装置においては、潤滑剤を含有するポリマーからなり、案内レールに対して摺動する面に微小な凹凸が形成された潤滑剤供給体を、スライダの一方のエンドキャップとサイドシールの間、他方のエンドキャップとサイドシールの間、の何れか一方または双方に1枚以上設ける。また、2枚以上設けて、そのうちの一枚をポリマーとしてワックス(例えば平均分子量が700〜1×104 のポリエチレンワックス)を含有するものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリニアガイド装置によれば、シール性が良好で、特許文献1に記載された潤滑剤供給体よりも長期に渡るグリース供給能力を有する潤滑剤供給体を備えているため、長期に渡り安定した潤滑状態が維持される。よって、長期間に渡ってメンテナンスフリーとなるリニアガイド装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、この実施形態のリニアガイド装置を示す斜視図である。図2は、潤滑剤供給体をスライダの本体に取り付ける方法を説明する斜視図である。
図1に示すように、この実施形態のリニアガイド装置は、案内レール1とスライダ2と、図示されないボール(転動体)と、グリースニップル7とからなる。スライダ2は、本体2Aと、エンドキャップ2Bと、補強板20と、潤滑剤供給体11と、サイドシール10と、ボルト21aとからなる。ボルト21aにより、スライダ2の本体2Aに、本体側から、エンドキャップ2B、補強板20、潤滑剤供給体11、およびサイドシール10が取り付けられている。
【0014】
案内レール1のボール溝(転動面)3,3’と、スライダ2の図示されないボール溝(転動面)とで、ボールが負荷状態で転動する転動通路が形成され、この転動通路の終点から本体2Aに設けた戻し通路へボールを移動させる方向転換路が、エンドキャップ2B内に形成されている。エンドキャップ2Bとサイドシール10の間に、補強板20と潤滑剤供給体11が配置されている。
【0015】
図2に示すように、サイドシール10は、エンドキャップ2Bの外形に合わせた略コの字状の鋼板と、これに一体化されたニトリルゴム板からなる。ニトリルゴム板の形状は、案内レール1の側面1bに形成されたボール溝3に摺接する突出部10aと、案内レール1の角部に形成されたボール溝3’に摺接する突出部10bと、案内レール1の上面1aに摺接する部分10cとが一体化された形状である。サイドシール10には、また、ボルト21aを通す貫通穴10dと、グリースニップル7を通す貫通穴10eが形成されている。
【0016】
潤滑剤供給体11は、サイドシール10の外形に合わせた略コの字状の部材であって、所定の厚みを有している。潤滑剤供給体11は、案内レール1の側面1bに形成されたボール溝3に摺接する突出部11aと、案内レール1の角部に形成されたボール溝3’に摺接する突出部11bと、案内レール1の上面1aに摺接する部分11cを有する。潤滑剤供給体11のボルト21aを通す貫通穴は、側面が開口された貫通穴11dにスリーブ11A,11Bを嵌めることで形成される。また、グリースニップル7を通す貫通穴は、上面が開口された貫通穴11eにスリーブ11Cを嵌めることで形成される。
【0017】
これらのスリーブ11A,11B,11Cの長さは、潤滑剤供給体11の厚さより少し長く、組み立て時に、ボルト21aの締付けで軸方向に圧縮されて、潤滑剤が絞り出されることがないようにしている。スリーブ11A,11B,11Cの外径は、貫通穴11d,11eの径より大きく、これにより、突出部11a,11bをボール溝3,3’に押し付けて密着させることができ、部分11cを案内レール1の上面1aに押し付けて密着させることができるため、潤滑剤供給体11から潤滑剤を染みださせて安定的に案内レール1の摺動面に供給することができる。また、潤滑剤供給体11の突出部11a,11bおよび部分11cの案内レール1と摺接させる面に、微小な凹凸が形成されている。
【0018】
補強板20は、エンドキャップ2Bの外形に合わせた略コの字状の鋼板であり、ボルト21aを通す貫通孔22aとグリースニップル7を通す貫通孔22cが形成されている。この補強板20は案内レール1に接触しない。
そして、ボルト21aを、サイドシール10の貫通穴10d、潤滑剤供給体11の貫通穴(貫通穴21dに嵌まったスリーブ)11A、補強板20の貫通穴22a、エンドキャップ2Bの貫通穴23aに通して、その先端を本体2Aに螺合することで、このスライダを組み立てる。
【実施例】
【0019】
サンプルNo. 1〜6の潤滑剤供給体11を、ポリエチレンにポリαオレフィン油を混合して各種添加剤を加えて混合し、射出成形により作製した。サンプルNo. 1〜5では、その際に、突出部11a,11bおよび部分11cの案内レール1と摺接させる面に、微小な凹凸が形成されるようにした。
サンプルNo. 1と2ではフェムト秒レーザーでパルス幅1ps以上5ps以下の短パルスレーザーを波長700nmで照射することによって、レーザー波長と同等な幅の微細な溝を表面に形成した金型を用いて射出成形を行った。
【0020】
サンプルNo. 3〜5では、樹脂テープにパンチングにより多数の微細な円穴を形成し、この樹脂テープを金型に貼り付けた状態でメッキを行うことで、多数の微細な円形の凸部を表面に形成した金型を用いて射出成形を行った。円穴の直径は、サンプルNo. 3で100μm、No. 4で50μm、No. 5で100μmとした。また、円穴の面積率は、サンプルNo. 3〜5のいずれも20%とした。
【0021】
サンプルNo. 6では、通常の金型を用いて射出成形を行った。
No. 1の潤滑剤供給体11では、案内レール1との摺動面(突出部11a,11bおよび部分11cの案内レール1と摺接させる面)に、幅が700nmで深さが200nmの溝が軸方向と平行に形成された。図3は、この溝が形成されている面を示す顕微鏡写真である。
No. 2の潤滑剤供給体11では、案内レール1との摺動面(突出部11a,11bおよび部分11cの案内レール1と摺接させる面)に、幅が700nmで深さが200nmの溝が軸方向と直交する方向に形成された。
【0022】
サンプルNo. 3では、案内レール1との摺動面(突出部11a,11bおよび部分11cの案内レール1と摺接させる面)に、直径が100μmの円形の凹部が形成された。隣り合う突起の間隔は147μmであった。
サンプルNo. 4では、案内レール1との摺動面(突出部11a,11bおよび部分11cの案内レール1と摺接させる面)に、直径が50μmの円形の凹部が形成された。隣り合う突起の間隔は49μmであった。
サンプルNo. 5では、案内レール1との摺動面(突出部11a,11bおよび部分11cの案内レール1と摺接させる面)に、直径が20μmの円形の凹部が形成された。隣り合う突起の間隔は20μmであった。
【0023】
図4は、案内レール1との摺動面(突出部11a,11bおよび部分11c)に形成された円形の凹部5の例を示す図である。
No. 1〜6の各潤滑剤供給体11を用いて、図1に示すリニアガイド装置(日本精工(株)製の「LH30」)を組み立て、雰囲気温度60℃で、送り出し量を平均28.4m/min、最大32m/min、ストロークを800mmとして作動させ、プッシュプルゲージで摩擦力を測定した。そして、No. 6の摩擦力を「1」とした摩擦力の比を算出した。
その結果、摩擦力の比は、No. 1では0.5、No. 2では0.7、No. 3では0.6、No. 4では0.5、No. 5では0.6であった。
【0024】
このように、リニアガイド装置において、潤滑剤供給体11の案内レール1に対する摺動面に微小な凹凸を設けることで、このような凹凸を設けない場合と比較して、潤滑剤供給体11の案内レール1に対する摩擦力を低減することができる。また、特許文献1に記載された潤滑剤供給体と比較してシール性が良好になるため、サンプルNo. 1〜5のリニアガイド装置は、長期に渡り安定した潤滑状態が維持される。
【0025】
なお、サンプルNo. 3〜5では、案内レール1との摺動面に円形の凹部が形成されているが、円形の凸部が形成されるようにしてもよい。その方が摩擦力が小さくなる傾向にあるが、案内レール1の転動面との摺動によって、凸部がなくなってしまうという欠点がある。
また、微小な凹凸を設ける範囲は、潤滑剤供給体11の案内レール1に対する摺動面の全面であってもよいし、一部であってもよい。一部とした場合、摩擦力は大きくなるが、シール性は向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態のリニアガイド装置を示す斜視図である。
【図2】潤滑剤供給体をスライダの本体に取り付ける方法を説明する斜視図である。
【図3】潤滑剤供給体の案内レールとの摺動面に形成された溝を示す顕微鏡写真である。
【図4】潤滑剤供給体の案内レールとの摺動面に形成された円形の凹部を示す平面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 案内レール
1a 案内レールの上面
1b 案内レールの側面
2 スライダ
2A 本体
2B エンドキャップ
3,3’ ボール溝(転動面)
7 グリースニップル
10 サイドシール
10d,11d,22a,23a ボルトを通す貫通穴
10e,11C,22c,23c グリースニップルを通す貫通孔
11A,11B,11C スリーブ
11 潤滑剤保持体
11a ボール溝3に摺接する突出部
11b ボール溝3’に摺接する突出部
11c 案内レールの上面に摺接する部分
21a ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、本体とエンドキャップとサイドシールを有するスライダと、複数個の転動体と、を備え、
案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、
スライダは、さらに、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有し、
前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、
前記循環経路を転動体が循環することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置において、
スライダのエンドキャップとサイドシールの間に、潤滑剤を含有するポリマーからなり、案内レールに対して摺動する面に微小な凹凸が形成された潤滑剤供給体を設けたことを特徴とするリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−74614(P2009−74614A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244213(P2007−244213)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】