説明

リニアテープシステム

【課題】単純な構成ながら逆方向走行の場合の記録密度を向上させ、より高記録密度化が図れるリニアテープシステムを提供する。
【解決手段】非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープが該磁性層のカラム傾斜方向(正方向)に走行する場合、前記磁気テープが前記磁性層のカラム傾斜方向とは逆方向(逆方向)に走行する場合それぞれ別個にリニア方式でデータ信号を記録する記録用磁気ヘッド34A1,34B1と、該データ信号を再生する再生用磁気ヘッド34A2,34B2とを備えるリニアテープシステムであって、前記正逆方向走行それぞれの再生用磁気ヘッド34A2,34B2はギャップ長が異なり、前記正逆方向走行それぞれの記録用磁気ヘッド34A1,34B1は同じ線記録密度で記録を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜め蒸着磁気テープを使用した磁気記録再生装置であるリニアテープシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータやインターネットの発達に伴い扱う情報量も格段に増加してきているが、これに伴いそれらの情報のバックアップなどデータストレージに用いられる記録装置の高容量化が必要となってきている。ここで記憶装置としてはHDDやストレージテープが挙げられ、その高容量化を促進するためには面記録密度を上げる必要がある。また、この面記録密度を上げるためには記録波長を狭める方法で線記録密度を高めたり、トラックピッチを狭めてトラック方向の密度を上げたりする方法がある。
【0003】
テープストリーマーでは、記録方式としてDDSやAITに見られるビデオタイプと同じヘリカルスキャン方式と、デジタルリニアテープ(DLT)やリニアテープオープン(LTO)などに見られる、磁気ヘッドをテープ幅方向に複数ならべ長尺形状の磁気テープに対して長手方向に摺動させて信号がリニアにデジタル記録されるリニア方式の2種類がある。
【0004】
また、強磁性金属粉末をバインダー中に分散して得られる磁性塗料を非磁性支持体上に塗布して情報記録層を形成した塗布型メタルテープ(MPテープ)に代わって、高記録密度を実現する磁気テープとしてCo系の斜め蒸着磁気テープが実用化されている。この斜め蒸着磁気テープは線記録密度が飛躍的に高いだけでなく、保存安定性や実用信頼性にも優れ、記録容量も伸びてきている。
【0005】
ただし、斜め蒸着磁気テープの磁性層は、斜方蒸着技術を利用した反応性真空蒸着法によって形成されるが、このようにして形成した磁性層のカラム傾斜方向(磁化容易方向)は、面内方向ではなく、面内から傾いた斜方方向となっており、そのために信号記録を行う磁気ヘッドの走行方向によって、高出力となる方向(正方向)と低出力となる方向(逆方向)が存在する。すなわち、図1に示すように、非磁性テープ11上に磁性層12のカラムは斜めに傾斜して並んでおり、図中A方向を正方向、B方向を逆方向と定義すると、記録再生特性に関して正方向に磁気ヘッド20が相対的に走行する場合には線記録密度が高く、その逆方向に走行する場合には正方向の場合に比べ線記録密度は30%ほど劣る傾向がある。そのため、斜め蒸着磁気テープは一定方向だけ記録するヘリカルスキャン方式に用いられている。
【0006】
しかし、逆方向記録が正方向の場合に比べて30%線記録密度が劣るとしても正方向の線記録密度がMPテープに比べて格段に大きい場合、逆方向での記録再生特性も十分MPテープの当該特性を上回る事が起こりえる。また、最近の動向で再生用磁気ヘッドもインダクティブ型磁気ヘッドから磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)、巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッド(GMRヘッド)と変化し、磁性層の膜厚も薄くなる傾向からますます斜め蒸着の逆方向の特性を大幅に伸ばしてきている。したがって従来双方向走行を使用するリニアテープシステムには不向きとされてきた斜め蒸着磁気テープでもその高い記録密度ゆえリニアテープシステムへの登用も検討されつつある。
【0007】
また、最近では斜め蒸着磁気テープをリニアテープシステムに適用可能にする技術がいくつか提案されている。
例えば、斜め蒸着磁気テープに情報の記録を行う磁気ヘッドの2つのコアギャップ部の一方と他方に飽和磁束密度が異なる金属軟磁性層を形成し、磁性層のカラム傾斜方向(磁化容易方向)が傾いている方向と磁気ヘッドが相対的に移動する方向との関係からこれらのコアギャップ部の配置を決定し、磁気ヘッドの走行が逆方向となる場合でも優れたS/N比を確保する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
また、テープ支持体の両主面それぞれにカラム傾斜方向(磁化容易軸)が相互に逆向きとなるように斜め蒸着磁性層を形成し、それぞれの磁性層に対して磁気ヘッドを配置することにより、該磁気テープの走行において正逆両方向でリニア方式の記録再生ができる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
【特許文献1】特開2003−59007号公報
【特許文献2】特開2003−178414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記いずれの技術においても、磁気記録再生装置として従来とは異なる構成が必要となり、現在汎用されている構成のリニアテープシステムを用いることはできなかった。
【0011】
また、リニアテープシステムでの記録容量を決める上でのキーは如何に斜め蒸着磁気テープの逆方向記録再生の特性を伸ばすかという点であるが、現在のリニアテープシステムではその対応が困難であった。
【0012】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、単純な構成ながら逆方向走行の場合の記録密度を向上させ、より高記録密度化ができるリニアテープシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、リニアテープシステムに用いている再生用磁気ヘッドとして、正方向走行(wind方向)の磁気ヘッドと、逆方向(rewind方向)の磁気ヘッドとが独立して配置されているため、両者が必ずしも同じ仕様の磁気ヘッドを使用しなくても良いということに着目し、鋭意検討を行い本発明を成すに至った。
【0014】
すなわち、前記課題を解決するために提供する本発明は、非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープが該磁性層のカラム傾斜方向(正方向)に走行する場合、前記磁気テープが前記磁性層のカラム傾斜方向とは逆方向(逆方向)に走行する場合それぞれ別個にリニア方式でデータ信号を記録する記録用磁気ヘッドと、該データ信号を再生する再生用磁気ヘッドとを備えるリニアテープシステムであって、前記正逆方向走行それぞれの再生用磁気ヘッドはギャップ長が異なり、前記正逆方向走行それぞれの記録用磁気ヘッドは同じ線記録密度で記録を行うことを特徴とするリニアテープシステムである。
【0015】
ここで、前記線記録密度は200kFCI以上であることが好ましい。
また、前記逆方向走行の再生用磁気ヘッドのギャップ長は、前記逆方向走行の記録用磁気ヘッドで記録された信号を該再生用磁気ヘッドで再生した再生波から算出されるS/N比が18dB以上となるように設計されていることが好ましい。
また、前記正方向走行の再生用磁気ヘッドのギャップ長は0.18μm以下、前記逆方向走行の再生用磁気ヘッドのギャップ長は0.157μm以下であることが好適である。
【0016】
また、前記正逆方向走行それぞれの記録に対応する記録アンプ部が共通であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、正逆方向走行それぞれの再生用磁気ヘッドのギャップ長を異なるようにし、前記正逆方向走行それぞれの記録用磁気ヘッドにより同じ線記録密度で記録を行うことで、逆方向走行の場合でも再生の際に高いS/N比を維持しながら記録密度を向上させることができる。また、正逆方向走行それぞれの記録に対応する記録アンプ部を共通とし、正逆方向走行それぞれの記録条件を同一とすることにより、従来正逆方向走行別々に記録アンプ部をもち異なる記録条件をもっていた従来のシステムよりもシステム構成を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明のリニアテープシステムの実施の形態について説明する。
図2は、本発明に係るリニアテープシステムの構成を示す概略図である。
このリニアテープシステム30Aは、非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープについてリニア方式で信号を記録、再生する磁気記録再生装置である。
リニアテープシステム30は、斜め蒸着磁気テープ10が収納されているカセット100から該斜め蒸着磁気テープ10を巻き出す巻出しロール31と、巻取りロール32と、これらの中間部に斜め蒸着磁気テープ10に対して所定のテンションを与え、所望の方向に走行させるために所定間隔に配設されたガイドロール33とからなる磁気テープの走行機構とを備える。また、これらガイドロール33間には、斜め蒸着磁気テープ10の主面に形成された磁性層12に対して信号の記録、再生を行うための記録用磁気ヘッド及び再生用磁気ヘッドを有する磁気ヘッドユニット34が配置されており、斜め蒸着磁気テープ10の正逆両方向の走行に対して、記録再生が可能となっている。
【0019】
磁気ヘッドユニット34の詳細な構成を図3に示す。
リニア方式おいては、ヘリカルスキャン方式とは異なりテープの記録方向は一方向だけでなく、双方向記録が求められる。しかし、斜め蒸着磁気テープ10はその磁性層12を構成する結晶のカラムが傾斜しているために記録密度に方向性が存在する。そのため、磁気ヘッドユニット34は、記録方向として斜め蒸着磁気テープ10の磁性層12のカラム傾斜方向に該斜め蒸着磁気テープ10を走行させた場合(磁気テープ走行方向が正方向(テープ巻出し方向)の場合)に磁性層12に記録を行う記録用磁気ヘッド34A1と、該磁性層12のカラム傾斜方向とは逆方向に斜め蒸着磁気テープ10を走行させた場合(磁気テープ走行方向が逆方向(テープ巻取り方)の場合)に磁性層12に記録を行う記録用磁気ヘッド34B1とを備えている。また、磁気ヘッドユニット34は、斜め蒸着磁気テープ10の走行方向が正方向(テープ巻出し方向)の場合の磁性層12に対して信号の再生を行うための再生用磁気ヘッド34A2と、斜め蒸着磁気テープ10の走行方向が逆方向(テープ巻取り方向)の場合の磁性層12に対して信号の再生を行うための再生用磁気ヘッド34B2とを備えている。
【0020】
また、磁気ヘッドユニット34は、テープ巻出し方向に対して記録用磁気ヘッド34A1、再生用磁気ヘッド34A2の順で配置して一対の磁気ヘッドとして、その対となった磁気ヘッドが斜め蒸着磁気テープ10の幅方向に複数配置されたテープ巻出し方向用磁気ヘッド34Aを備えている。また、磁気ヘッドユニット34は、テープ巻取り方向に対して記録用磁気ヘッド34B1、再生用磁気ヘッド34B2の順で配置して一対の磁気ヘッドとして、その対となった磁気ヘッドが斜め蒸着磁気テープ10の幅方向に複数配置されたテープ巻取り方向用磁気ヘッド34Bを、テープ巻出し方向に対してテープ巻出し方向用磁気ヘッド34Aの手前に配置している。
【0021】
また、記録用磁気ヘッド34A1,34B1は共通の記録アンプ部35に接続されており、斜め蒸着磁気テープ10の正逆方向走行の記録いずれの場合にも同一条件(同じクロック周波数、同じ走行スピード)で記録が行なわれる。すなわち、正逆方向走行の記録は同じ線記録密度となる。この線記録密度は高記録密度化の観点から200kFCI以上が好ましい。
【0022】
記録用磁気ヘッド34A1,34B1の構成を図4に示す。
記録用磁気ヘッド34A1,34B1は、リング状の部材の一部が開環してギャップ部Gを形成し、コイル34aが巻き付けられたMIG(Metal In Gap)ヘッドであり、磁気ヘッド34のコアギャップ部には金属軟磁性層341が形成されている。
【0023】
また、磁気ヘッド34A1(34B1)は、斜め蒸着磁気テープ10に対して磁気ヘッド34A1(34B1)の相対的な動き一方向とその逆の方向の両方向に動くリニア方式の磁気記録再生装置に適用され、例えば、4〜10m/秒程度のリニア速度で斜め蒸着磁気テープ10を移動させ、マルチチャンネルタイプの磁気ヘッドにより、複数のトラックを同時に記録あるいは再生する。
【0024】
コアギャップ部の金属軟磁性層34bの材料は、飽和磁束密度を高める材料であり、例えば、CoZrNb、FeAlSi、NiFe、FeGaSiRu、FeGaSiRuO、FeTaC、CoNiFeB,CoFeB,CoNiFeS,CoNiFeC,CoNoFeMoC,FeTaN,FeAlN,FeRhN,FeMoN,FeZrN,FeSiN,FeZrO,FeAlNbNOなどを用いることができる。金属軟磁性層34bの材料は、これらの例に限られない。
【0025】
再生用磁気ヘッド34A2,34B2は、磁気抵抗効果型の磁気ヘッド、例えば異方性磁気抵抗効果型ヘッド(AMRヘッド)若しくは巨大磁気抵抗効果型ヘッド(GMRヘッド)を用いる。
【0026】
再生用磁気ヘッド34A2,34B2の構成について、GMRヘッドを例にとり図5に示す。
再生用磁気ヘッド34A2,34B2は、斜め蒸着磁気テープ10からの磁気信号の検出を行う感磁素子として、スピンバルブ膜を利用した巨大磁気抵抗効果素子(以下、GMR素子という。)を備える、いわゆるGMRヘッドである。
【0027】
このGMRヘッドは、電磁誘導を利用して記録再生を行うインダクティブ型磁気ヘッドや異方性磁気抵抗効果型磁気ヘッドよりも感度が高く再生出力が大きいので、高密度記録に適している。したがって、上述したリニアテープシステム30では、このようなGMRヘッドを再生用磁気ヘッド34A2,34B2に用いることで、より高密度記録化を図ることが可能となっている。
【0028】
再生用磁気ヘッド34A2(34B2)は、上下一対の磁気シールド層344,345の間にギャップ層346を介してGMR素子347が挟み込まれた構造を有している。
【0029】
一対の磁気シールド層344,345は、GMR素子347を磁気的にシールドするのに十分な幅を有する軟磁性膜からなり、ギャップ層346を介してGMR素子347を挟み込むことにより、斜め蒸着磁気テープ10からの信号磁界のうち、再生対象外の磁界がMR素子347に引き込まれないように機能する。すなわち、この再生用磁気ヘッド34A2(34B2)では、GMR素子347に対して再生対象外の信号磁界が一対の磁気シールド層344,345に導かれ、再生対象の信号磁界だけがGMR素子347へと導かれる。これにより、GMR素子347の周波数特性及び読み取り分解能の向上が図られている。
【0030】
ギャップ層346は、GMR素子347と一対の磁気シールド層344,345との間を磁気的に隔離する非磁性非導電性膜からなり、一対の磁気シールド層344,345とGMR素子347との間隔がギャップ長(シールド間距離)となる。
【0031】
このギャップ長は、再生用磁気ヘッド34A2と再生用磁気ヘッド34B2とで異なる。また、再生用磁気ヘッド34B2のギャップ長は、記録用磁気ヘッド34A2で記録された信号を該再生用磁気ヘッド34B2で再生した再生波から算出されるS/N比が18dB以上となるように設計されている。
例えば、再生用磁気ヘッド34A2のギャップ長を0.18μm以下、再生用磁気ヘッド34B2のギャップ長を0.157μm以下とするとよい。
【0032】
GMR素子347は、スピンバルブ膜340からなり、このスピンバルブ膜340に対して面内方向に流れるセンス電流のコンダクタンスが、一対の磁性層の磁化の相対角度に依存して変化する、いわゆる巨大磁気抵抗効果を利用したものである。
スピンバルブ膜340としては、例えば、下地層と反強磁性層と磁化固定層と非磁性層と磁化自由層と保護層とが、この順に積層された構造を有するボトム型のスピンバルブ膜や、下地層と磁化自由層と非磁性層と磁化固定層と反強磁性層と保護層とが、この順に積層された構造を有するトップ型のスピンバルブ膜や、下地層と反強磁性層と磁化固定層と非磁性層と磁化自由層と非磁性層と磁化固定層と反強磁性層と保護層とが、この順に積層された構造を有するデュアル型のスピンバルブ膜等を挙げることができる。
【0033】
このうち、下地層及び保護層は、このスピンバルブ膜340の比抵抗の増加を抑制するためのものであり、例えばTa等からなる。
【0034】
反強磁性層には、優れた耐食性を示すPtMnが用いることが好ましい。また、反強磁性層としては、PtMnの他にも、耐食性に優れたNiOや、IrMn、CrMnPt、α−Fe203、RhMn、NiMn、PdPtMn等を用いることができる。
【0035】
また、磁化固定層及び磁化自由層には、優れた耐食性を示し且つ良好な軟磁気特性を示すNiFe又はCoNiFeが用いることが好ましく、更に好ましくは、磁化固定層と磁化自由層のうち、一方をNiFeとし、他方をCoNiFeとすることが好ましい。また、磁化固定層及び磁化自由層は、これらの合金を積層した積層構造、若しくはこれらの合金と、例えばRu等からなる非磁性膜とを交互に積層した積層フェリ構造としてもよい。
【0036】
また、非磁性層には、優れた耐食性を示し且つ高導電性を示すCu、CuAu又はAuが用いることが好ましく、更に好ましくは、GMR素子347のMR比を高くし,出力を上げることができるCu又はCuAuを用いることが好ましい。
【0037】
ここでは、GMR素子347として、例えば下層層となるTaと、磁化自由層となるNi80Fe20及びCo50Ni30Fe20と、非磁性層となるAu70Cu30と、磁化固定層となるCo50Ni30Fe20と、反強磁性層となるPtMnと、保護層となるTaとが順次積層されてなるスピンバルブ膜340を備える構成とした。
【0038】
このスピンバルブ膜340において、磁化固定層は、反強磁性層に隣接して配置されることによって、この反強磁性層との間で働く交換結合磁界により、所定の方向に磁化が固定された状態となっている。一方、磁化自由層は、非磁性層を介して磁化固定層と磁気的に隔離されることによって、微弱な外部磁界に対して磁化方向が容易に変化することが可能となっている。
【0039】
したがって、このスピンバルブ膜340では、外部磁界が印加されると、この外部磁界の大きさや向きに応じて、磁化自由層の磁化方向が変化する。そして、この磁化自由層の磁化方向が磁化固定層の磁化方向に対して、逆方向(反平行)となるとき、このスピンバルブ膜340に流れる電流の抵抗値が最大となる。一方、磁化自由層の磁化方向が磁化固定層の磁化方向に対して、同一方向(平行)となるときに、このスピンバルブ膜340に流れる電流の抵抗値が最小となる。
【0040】
このように、スピンバルブ膜340は、印加される外部磁界に応じて電気抵抗が変化することから、この抵抗変化を読み取ることによって斜め蒸着磁気テープ10からの磁気信号を検出する感磁素子として機能している。
【0041】
また、このGMR素子347の動作の安定化を図るため、スピンバルブ膜340の長手方向の両端部には、図5に示すように、このGMR素子347にバイアス磁界を印加するための一対の永久磁石膜348a,348bが設けられている。そして、これら一対の永久磁石膜348a,348bに挟み込まれた部分の幅が、GMR素子347のトラック幅となっている。
さらに、一対の永久磁石膜348a,348b上には、このGMR素子347の抵抗値を減少させるための一対の低抵抗化膜349a,349bが設けられている。
【0042】
また、GMR素子347には、スピンバルブ膜348にセンス電流を供給するための一対の導体部が、その一端部側をそれぞれ一対の永久磁石膜348a,348b及び低抵抗化膜349a,349bに接続するように設けられている。
【0043】
保護膜342は、再生用磁気ヘッド34A2(34B2)が形成された第1のコア部材341の主面を前記導体部につながった外部接続用端子が外部に臨む部分を除いて被覆すると共に、この再生用磁気ヘッド34A2(34B2)が形成された第1のコア部材341と第2のコア部材343とを接合する。
【0044】
なお、図5に示す再生用磁気ヘッド34A2(34B2)は、特徴をわかりやすくするために、GMR素子347の周辺を拡大して図示されているが、実際には、第1のコア部材341及び第2のコア部材343と比べてMR素子347は非常に微細であり、斜め蒸着磁気テープ10の摺接面において、再生用磁気ヘッド34A2(34B2)が外部に臨むのはほとんど第1のコア部材341と第2のコア部材343とが突き合わされた上部端面だけである。
【0045】
つぎに、本発明で使用される斜め蒸着磁気テープ10(図4を参照)は、ベースフィルムである非磁性テープ11の一主面上に情報記録層として磁性層12が斜め蒸着により形成された構成である。
非磁性テープ11は、一般的に磁気記録媒体に使用されるものをいずれも適用できる。プラスチックフィルム単独で構成してもよく、あるいはプラスチックフィルムの一主面、あるいは両主面に所定の材料により形成された任意の下地層を積層形成した構成としてもよい。
【0046】
非磁性テープ11の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート等が挙げられる。また、これらのポリエステルは、ホモポリエステルであってもコポリエステルであってもよい。
【0047】
さらに非磁性テープ11は、各種表面処理や各種装飾を施してもよい。例えば、適宜微細な凹凸形状を形成したり、表面にコロナ放電処理や電子線照射処理等の前処理を施したりしてもよい。また、表面に易接着層を形成して成膜される層との接着性を向上させるようにしてもよい。
また、走行安定性や耐久性の向上を図るために、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、ポリスチレン等の無機フィラーや有機フィラーを内添させてもよい。
【0048】
磁性層12は、真空下で強磁性金属材料を加熱蒸発させ非磁性テープ11上に所定方向に積層させる斜め蒸着技術によって形成され、一定方向にカラムが傾斜した、すなわち磁化容易軸を有するように形成されている。
【0049】
また、磁性層12は、磁気記録媒体用として従来公知の強磁性金属、合金をいずれも適用して形成することができる。例えば、Co、Ni等の強磁性金属、CoNi、FeCo、FeCoNi、CoCr、CoPt、CoPtB、CoCrPt、CoCrTa、CoCrPtTa等の合金材料や、これらの材料を酸素雰囲気中で成膜し、膜中に酸素を含有させたもの、またはこれらの材料に1種類あるいは2種類以上のその他の元素を含有させたもの等が挙げられる。
【0050】
磁性層12の厚みは、60nm以下が好ましい。とくに、MRヘッドで再生する場合には25nm以上、60nm以下であることが好ましく、GMRヘッドで再生する場合には、その範囲よりもさらに薄いことが好ましい。
【0051】
ここで斜め蒸着技術とは、図6に示すように非磁性テープ11に高真空のチャンバーの中でCo金属の蒸気を被着させるものである。
【0052】
具体的には、非磁性テープ11の搬送に関して、非磁性テープ11は巻き出しロール41から巻き出され、サポートロール42を通過した後、冷却された金属製の円筒であるキャン43の表面に密着した状態で蒸着され、巻き取りロール44の方へ送られる構成となっている。
【0053】
また、蒸着に関しては、マグネシアのるつぼ45に純Coのインゴッド46を入れ、それに電子ビームを当てることにより溶解・蒸発させて非磁性テープ11上に斜め蒸着を行う構成となっている。この時、ある程度Co蒸気47の粒子の方向性を揃えるためマスク48で遮断されており、Co蒸気47はチャンバー内に流される酸素ガスによって酸化されたものが非磁性テープ11に被着する。なお、るつぼ45からの輻射熱や蒸気の熱によって非磁性テープ11が変形または溶け出さないようにキャン43は氷点下以下に冷却されている。
【0054】
また、蒸着された後に、スパッタまたはCVDにてダイヤモンドライクカーボン(DLC)のような保護膜、さらにその上に潤滑剤層、および非磁性テープ11の裏面には走行性を上げるためバック塗料を塗布して、斜め蒸着磁気テープ10とする。
【実施例】
【0055】
リニアテープシステムの高記録密度化は、斜め蒸着磁気テープの逆方向走行記録での記録密度を如何に上げ、その再生を如何に高S/N比で行うかが鍵となる。本発明において従来の記録の方法と異なる方法により逆方向での記録密度を上げることを検討した。
【0056】
すなわち、リニアテープシステムにおいて、今までは塗布型メディアであったため正逆双方向で記録密度は変化しない。しかし、従来のリニアテープシステムでは、斜め蒸着磁気テープを使用する場合には正逆方向走行で記録密度が異なり、そのため転送レートを正逆方向走行で同じにするためには走行スピードを変えなければならないという不具合が起こった。
【0057】
これに対して、本発明のリニアテープシステムでは、斜め蒸着磁気テープを使用し、正逆方向走行でも記録密度を同じとして、走行スピードを変えなくても転送レートを正逆方向走行で同じとすることを基本構成としている。以下、この構成を前提として、高記録密度化を検討した結果を示す。
【0058】
図2に示したリニアテープシステムにおいて、再生用磁気ヘッド34B2としてギャップ長0.18μmのAMRヘッドを用い、斜め蒸着磁気テープを逆方向に走行させた場合(実施例1)の該磁気テープの線記録密度D50、D30、D20を測定した。また、再生用磁気ヘッド34B2としてギャップ長0.18μmのGMRヘッドを用い、斜め蒸着磁気テープを逆方向に走行させた場合(実施例2)の該磁気テープの線記録密度D50、D30、D20を測定した。ここで使用した斜め蒸着磁気テープは45nmの磁性膜厚みを持つCo酸化物系の斜め蒸着磁気テープである。
【0059】
なお、線記録密度D50、D30、D20は再生用磁気ヘッド34B2で上記磁気テープを測定した場合のロールオフカーブから求めた。
ここで、ロールオフカーブは各々の周波数での出力レベルを電圧で調べ、その出力の下がり具合を調べたものである。原理的には、図7に示すようなカーブを描くが、実際はノイズがあるので図8のようなカーブを描く。この場合、例えば最大出力(100%)の50%となる線記録密度をD50、30%となる線記録密度をD30と定義される。
【0060】
図7からわかるように、ほとんどノイズの無いシステムでは最大出力に対する出力レベルは数%の線記録密度の場合まで信号を見極めることが出来るが、実際はノイズがあるため、図8のようにある程度の出力レベルで飽和してしまう。この飽和レベルがノイズレベルということになる。したがって、図8において線記録密度D30までは判別できるが、D20の場合にはノイズに埋もれてしまって判別不能となる。こうなるとD20のレベルの線記録密度を想定しても高域での波形は信頼性がなくなる。もちろんC/N比が向上すれば相対的にノイズレベルが下がることから線記録密度D20やD10も判別可能な領域になる。このように、D30やD20で示される記録密度が線記録密度の限界を示す指針となりうる。
【0061】
上記それぞれの再生用磁気ヘッドで測定した結果を表1に示す。なお、実施例2ではGMRヘッドを用いているが、感度の差は周波数特性には現れてこない。
【0062】
【表1】

【0063】
また、上記斜め蒸着磁気テープと再生用磁気ヘッドとの組み合わせにおいて、127bitで0が最大で7つ並ぶM系列(ランダム信号)を記録し、ついで、その再生波と基準信号とを比較し、最適イコライザーをかけた後にS/N比、すなわちデジタルS/N比を計算した。その結果、デジタルS/N比が18dBとなる線記録密度は、実施例1の場合では約160kFCI、実施例2の場合では約250kFCIであった。
【0064】
以上の結果より、膜厚45nmのCo系酸化物斜め蒸着テープで逆方向走行記録の場合、システムとして使用できる線記録密度はD30ということがわかる。
【0065】
参考として、再生用磁気ヘッド34A2としてギャップ長0.18μmのAMRヘッドを用い、斜め蒸着磁気テープを正方向に走行させた場合の周波数特性の結果を表2に示す。また、デジタルS/N比が18dBとなる線記録密度は、約230kFCIであった。
【0066】
【表2】

【0067】
したがって、本発明のリニアテープシステムにおいて正逆方向走行ともに線記録密度200kFCIという高記録密度化を達成するには、上記結果から逆方向走行でも線記録密度D30が200kFCIを超えるようにすればよい。
【0068】
図9に実施例1,2の結果に基づく再生用磁気ヘッドのギャップ長と逆方向走行の線記録密度D30との関係を示す。
逆方向走行の場合の線記録密度200kFCIを実現するためには再生用磁気ヘッド34B2のギャップ長を0.157μm以下にすれば可能になることがわかる。また、正方向走行の場合の線記録密度200kFCIを実現するためには上記結果より再生用磁気ヘッド34A2のギャップ長を0.18μm以下とすればよい。
【0069】
以上の結果から、再生用磁気ヘッド34B2のギャップ長を0.157μm以下、再生用磁気ヘッド34A2のギャップ長を0.18μm以下と異なるギャップ長とし、正逆方向走行それぞれで同じ記録条件(同じ線記録密度)で記録を行うことにより、簡略化されたシステム構成ながら高記録密度化が可能なリニアテープシステムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】磁気ヘッドのコアギャップ部と斜め蒸着磁気テープの拡大図である。
【図2】本発明に係るリニアテープシステムの実施の形態の構成を示す概略図である。
【図3】図2のリニアテープシステムにおける磁気ヘッドユニットの構成を示す概略図である。
【図4】斜め蒸着磁気テープと記録用磁気ヘッドの構成を示す模式図である。
【図5】GMRヘッドを媒体摺接面から見た端面図である。
【図6】斜め蒸着装置の構成を示す概略図である。
【図7】理論上のロールオフカーブを示す図である。
【図8】実際のロールオフカーブを示す図である。
【図9】再生用磁気ヘッドのギャップ長と逆方向走行の線記録密度D30との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
10…斜め蒸着磁気テープ、11…非磁性テープ、12…磁性層、20,34A1,34B1…記録用磁気ヘッド、30…リニアテープシステム、31…巻き出しロール、32…巻き取りロール、33…ガイドロール、34…磁気ヘッドユニット、34A2,34B2…再生用磁気ヘッド、34A…テープ巻出し方向磁気ヘッド、34B…テープ巻取り方向磁気ヘッド、34a…コイル、34b…金属軟磁性層、35…記録アンプ部、341…第1のコア部材、342…保護膜、343…第2のコア部材、344,345…気シールド層、346…ギャップ層、347…GMR素子、348…永久磁石膜、349…低抵抗化膜、340…スピンバルブ膜、41…巻き出しロール、42…サポートロール、43…キャン、44…巻き取りロール、45…るつぼ、46…Coインゴット、47…Co蒸気、48…マスク、100…テープカセット



【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープが該磁性層のカラム傾斜方向(正方向)に走行する場合、前記磁気テープが前記磁性層のカラム傾斜方向とは逆方向(逆方向)に走行する場合それぞれ別個にリニア方式でデータ信号を記録する記録用磁気ヘッドと、該データ信号を再生する再生用磁気ヘッドとを備えるリニアテープシステムであって、
前記正逆方向走行それぞれの再生用磁気ヘッドはギャップ長が異なり、
前記正逆方向走行それぞれの記録用磁気ヘッドは同じ線記録密度で記録を行うことを特徴とするリニアテープシステム。
【請求項2】
前記線記録密度は200kFCI以上であることを特徴とする請求項1に記載のリニアテープシステム。
【請求項3】
前記逆方向走行の再生用磁気ヘッドのギャップ長は、前記逆方向走行の記録用磁気ヘッドで記録された信号を該再生用磁気ヘッドで再生した再生波から算出されるS/N比が18dB以上となるように設計されていることを特徴とする請求項1に記載のリニアテープシステム。
【請求項4】
前記正方向走行の再生用磁気ヘッドのギャップ長は0.18μm以下、前記逆方向走行の再生用磁気ヘッドのギャップ長は0.157μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のリニアテープシステム。
【請求項5】
前記正逆方向走行それぞれの記録に対応する記録アンプ部が共通であることを特徴とする請求項1に記載のリニアテープシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−134396(P2006−134396A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320342(P2004−320342)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】