説明

リフレクターおよび光源装置

【課題】 長時間点灯しても可視光の遮光性が低下することがなく、高入力の光源ランプを使用してもクラックや破損の発生を防止できるリフレクターを提供すること。また更に、リフレクター外面から可視光が漏れ出ることを長期に亘って防止でき、高い演出効果が得られると共にリフレクターのクラックや破損を防止することができる光源装置を提供すること。
【解決手段】 本発明のリフレクターは集光部を有し、該集光部の内面に可視光域の光を反射し赤外域の光を透過する反射膜が形成され、外面に可視光を吸収する遮光膜が形成されたリフレクターであり、遮光膜はCuOを主成分とする膜からなることを特徴とする。また本願発明にかかる光源装置は前記CuOを主成分とする遮光膜を有するリフレクターと光源ランプとを具備して構成される。CuOを主成分とする膜の膜厚は500nm以上であり遮光膜全体の厚みは50μm以下であるのが良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面に誘電体多層反射膜がコートされているガラスを基板としたリフレクターに関する。また一般照明、店舗照明、スタジオ照明などに使用されるリフレクターと光源ランプとを具備して構成される光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
劇場照明、映像照明、交通照明、遊園地のような屋外照明などでは小さな光源で遠くを照明する投光用照明器具が使われ、その光源には、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、ショートアークキセノンランプ、高圧水銀ランプ、高圧ナトリウムランプなどが使用されている。このような光源ランプからの光を反射するリフレクターは、可視光域を反射し、赤外光域を透過する誘電体多層反射膜が内面に形成されたものであり、コールドミラー、高色温度ミラー、各種カラーミラーなどがある。これらのミラーは、基板に回転楕円や放物面等を有する凹面状の透明なガラスを使用しており、必要な可視域の光をリフレクター前面に反射し、不要な光、主に赤外線をリフレクター背面に逃がすような多層膜設計になっている。このような膜設計にすることで、照明に不要な赤外線がリフレクター前面にほとんど照射されなくなるため、被照射体である商品や人物が熱くなることを回避することができる。
【0003】
而して、カラーミラーや高色温度ミラーなどは、可視域の光の一部を前面に照射し、残りの光はリフレクター背面から放出されるので、リフレクター背後には、前面に照射する色の補色が放出されることになり、舞台や店舗照明の演出上不具合があったり、背後にいる人は眩しく感じたり、見苦しいといった問題がある。
また、可視領域のほぼ全部を反射するコールドミラーであってもコーティングコストの都合上、多層膜総数を低めに抑えたり、斜め入射の効果などにより、可視域における平均の反射率は実用的には85〜90%程度である。このような場合、前方から出射しなかった残りの光は、リフレクターの背後から放出されることになり、上述と同様、演出上不具合を発生させ、眩しさや見苦しさなどの問題がある。
【0004】
図4はコールドミラーと高色温度ミラーコート膜の反射率スペクトルの計算シミュレーション例を示す図であり(a)はコールドミラー、(b)は高色温度ミラーをそれぞれ示している。いずれも赤外域の波長帯の透過率は高くなっており、前方への熱線の放射を極力抑えた設計になっていて、被照射体が熱くならないように設計されている。
図4(a)に示すようにコールドミラーは波長450nm〜700nmの可視領域において高い反射率を示しているが100%ではなく、また(b)の高色温度ミラーにおいては波長約520nmよりも高波長側の光の多くはミラーの基材であるガラスを透過して背面から放射されるようになる。
【0005】
このように反射面で反射されなかった光がリフレクターの背面から放射されるため、従来からリフレクター背面に可視光線を遮光する遮光膜を形成してリフレクター背後への光の漏れを防ぐことが行われていた。
【0006】
例えば、特許文献1には、反射鏡基材の背面側に、可視光を吸収し、赤外線を透過する機能を有する遮光膜を形成し、これによって可視光が後方側に洩れるのを防止することが提案されている。
しかしながらこの技術において、遮光膜は黒色のシリコン等の膜を真空蒸着で50nm〜2μmの膜厚となるように基材の背面側に被着したものである。このため、高温で長時間に亘って加熱されるとシリコン膜が色あせするという現象が生じ、徐々に光源ランプ付近から可視光が後方側に洩れやすくなるといった問題がある。
【0007】
このようなことから、長時間の点灯に耐える耐熱性と安定性に鑑み、市販の耐熱性黒色塗料を塗布することが広く行われていた。
例えば特許文献2には、従来の可視光から赤外光全ての波長域にわたり吸収する銅−クロム系ブラックや銅−マンガン系ブラックなどの複合酸化物黒色顔料を用いて、バインダーとして有機化合物を組み合わせた遮光膜が記載されている。
【特許文献1】特開平10−069808号公報
【特許文献2】特開平10−177855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、従来技術にかかる光源装置の光の経路を図5に示して説明する。
図5に示すように光源ランプ10からリフレクター20に向かって放射される光のうち可視光線については、大部分が実線で示したように凹面反射鏡20における反射膜24によって反射され、そして、一部反射膜24を透過した可視光線が点線で示すようにリフレクター20における基体21を透過して外面に形成された遮光膜30に入射し、吸収される。
【0009】
この遮光膜31は、従来技術においては赤外線吸収性を有する黒色顔料などを用いたものであり、具体的には、粒径数十μm以上のCuCr,Cu(Fe,Mn),Cu(Fe,Cr),(Co,Mn)・(Fe,Cr),Fe,カーボンなどの耐熱性黒色顔料の化合物を配合したものからなる。
リフレクターの光源にハロゲンランプのような赤外線の放射割合の高いランプを使用した場合、光源ランプ10から可視光線と同時に放射される赤外線は、点線で示すようにリフレクター20における反射膜24及びリフレクター20における基体21を透過し、遮光膜31に入射するが、このような黒色顔料の化合物は可視光のみならず赤外線も吸収してしまうため、黒色塗料膜で吸収した赤外線の熱により、リフレクターが高温になってクラックが入り、遂には割れてしまうという問題が発生することがある。
【0010】
このため、従来のリフレクターと光源ランプからなる光源装置においては、光源のランプの入力が制限され、比較的低入力の暗いランプを使用しなければならず、必ずしも期待に沿うものではなかった。また高入力の明るいランプを使用しようとした場合にはミラーの仕様変更は避けられないため、高コストにつながるという問題があった。
近時、劇場照明、映像照明、交通照明、遊園地のような屋外照明など種々の分野において照明による効果がより期待され、高出力の明るいランプを用いることが要求されている。例えばハロゲンランプでは高出力のランプを使用することにより調光の幅が広がり、一層の演出効果が期待できるようになる。
そこで本願発明が解決しようとする課題は、長時間点灯しても可視光の遮光性が低下することがなく、高入力の明るい光源ランプを使用してもクラックや破損の発生を防止できるリフレクターを提供することにある。また更に、光源ランプがリフレクターに組み込まれた光源装置において、リフレクター外面から可視光が漏れ出ることを長時間に亘って防止することができて、明るくて高い演出効果が得られると共にリフレクターのクラックや破損を防止することができる光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本願発明にかかるリフレクターは、前方に向けて光を反射する集光部を有し、該集光部の内面に可視光域の光を反射し赤外域の光を透過する反射膜が形成され、外面に可視光を吸収する遮光膜が形成されたリフレクターであって、
前記遮光膜はCuOを主成分とする膜からなることを特徴とする。
【0012】
また、本願発明にかかる光源装置は、前方に向けて光を反射する集光部を有し、該集光部の内面に可視光域の光を反射し赤外域の光を透過する反射膜が形成されると共に外面に可視光を吸収する遮光膜が形成されたリフレクターと、該リフレクターの集光部内部に配設された光源ランプとを具備した光源装置であって、
前記リフレクターの遮光膜はCuOを主成分とする膜からなることを特徴とする。
また、前記遮光膜の膜厚は500nm以上50μm以下であるのが良い。
また、CuOを主成分とする膜よりも低屈折率の膜が当該CuOを主成分とする膜に積層状態に形成されることによって前記遮光膜が多層膜構造に形成され、
前記CuOを主成分とする膜を積算した厚みが500nm以上であり、当該遮光膜の全体の厚みが50μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
リフレクターを構成するガラス基板の背面から漏れ出る光のうち、可視領域の光を吸収してリフレクター背面からの漏れ光を防止できると共に、赤外線に対して高い透過性を有しているのでリフレクターが赤外線で加熱されることなく、当該リフレクターのクラックや破損を効果的に防止することができる。しかも、CuOは耐熱性が良好であり、色あせが生じることなく、長期間に亘って可視光の遮光性を維持することができる。
よって、従来以上に入力が高い、明るいランプを組み込むことが可能なリフレクターを提供できる。
【0014】
また、本願発明にかかる光源装置によれば、遮光膜の色あせが生じることなく、長期間に亘って可視光の遮光性を維持することができると共に、リフレクター基材の仕様や材質などを変えることなく従来よりも高入力の明るい光源ランプを装着でき、各種照明分野において演出効果性が高い光源装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のリフレクター及びこれを用いた光源装置について詳細に説明する。図1は、本発明のリフレクターを用いた光源装置の一例における構成を示す説明用断面図である。この図において、10はハロゲンランプからなる光源ランプであり、一端に封止部12が形成され、他端に排気管残部13が形成された石英ガラスよりなるバルブ11を有する。このバルブ11内にはコイル状のフィラメント14が当該バルブ11の管軸方向に沿って配置され、リード棒15によって支持されている。リード棒15の後端には金属箔等を介して外部リード棒16が接続されている。
【0016】
符号20はリフレクターであって、回転楕円面又は回転放物面からなる集光用曲面が形成された集光部22と、この集光部22の中央底部に一体的に形成された、当該リフレクター20の軸方向に伸びる円筒状の頸部23とよりなるガラス製の基体21を有し、この基体21の集光部22の内面には、可視光を反射し、赤外線を透過する反射膜24が形成されている。反射膜24には、コールドミラー、高色温度ミラー、各種カラーミラーなどを挙げることができる。反射膜24の分光反射率スペクトルはリフレクター20の用途によって異なり、コールドミラー仕様の場合は前図図4(a)で示したような分光反射率スペクトルが、高色温度ミラー仕様の場合は前図図4(a)で示したような分光反射率スペクトルが得られる。これらの反射膜における薄膜物質としては、高屈折率膜物質では、TiO,Nb,Ta,CeO,ZnS,などがあり、低屈折率膜物質ではSiO,MgF,Alなどがある。
一例としてコールドミラーを挙げると、例えばシリカ(SiO)層およびチタニア(TiO)層が交互に積層されてなる厚さ0.5〜10μmの誘電体多層膜からなるものであって、主として赤外線領域および紫外線領域の光を透過し、かつ可視光を反射する機能を有するものである。
【0017】
リフレクター20における基体21としては、歪点が300〜500℃のホウ珪酸ガラスが用いられる。またその他にも、石英ガラス、結晶化ガラスなどよりなるものを好ましく用いることができる。このリフレクター20における基体21の頸部23の筒孔内には光源ランプ10におけるバルブ11の封止部12が挿入されて接着剤Sにより固定されており、他方、リフレクター20の前面20Aには開口を塞ぐように透明なカバー25が設けられる。
【0018】
リフレクター20における基体21の外面には、該リフレクター20外面に放出された可視光を吸収し、赤外光を透過すると共に、ガラスの歪点以上の高温度に耐える遮光膜30が形成されている。
膜の材質はCuOであり、具体的にはCuOの超微粒子が堆積されて構成されたものである。このCuOは赤外光の透過率が高く、可視光のみを効果的に吸収すると共に耐熱性を有している。最適にはCuO100%が望ましいが、上記効果を低下させない範囲、具体的には50%未満の範囲で、他の耐熱性物質、例えばTiO,SiO,ZnO,Fe,NiO,ZrO,Co,CeO,Al,などが含まれていてもよい。
【0019】
CuO層の形成方法は、スプレーコート法、ディップコート法、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、化学気相蒸着法など、適宜選択できるが、コートされるリフレクターの形状、簡便さ、コストなどを考慮すると、膜形成にはスプレーコート法が好ましい。
スプレーコート用の原料溶液は、水溶液や有機溶媒溶液いずれも使用できるが、できるだけ均質な膜を形成する場合は有機溶媒溶液が望ましい。この有機溶媒溶液には、CuO超微粒子を分散した溶液を効果的に使うことができる。
【0020】
CuO超微粒子粒径は500nm以下のものを使う必要がある。これは超微粒子の粒径が、500nm以上になると、おおよそ1000nm以上の波長の赤外線の散乱が大きくなって膜の赤外線透過率が悪くなり、温度上昇を招くことになったり、また微粒子表面で反射され背面より放出される赤外光の割合が減少したりするからである。
【0021】
なお、光の散乱については、レイリー散乱で説明することができる。レイリー散乱は、粒子の大きさの6乗に比例して大きくなり、波長の4乗に比例して小さくなる(「オプトセラミックス」技報堂出版(1984))ので、波長1000nm以上の赤外域の散乱が問題のない程度にするには、粒子の粒径が500nm以下であればよい。他方、超微粒子のみからなる膜では、膜とガラス基板との密着性が悪くなるので、Cuの有機金属塩を溶解した溶液と混ぜた溶液を用いるのが好適である。
【0022】
最終的な遮光膜30の膜厚は500nm以上50μm、好ましくは500nm〜10μmとされる。
膜厚が500nmよりも薄い場合には可視光線の吸収率が低くなり、十分な遮光機能が得られなくなる。膜厚は500nm以上であれば可視光線の遮光を確実に行えるのでそれ以上に厚く塗布形成すればよいが50μmを越えて形成する場合は基体21から膜が剥がれ易くなるので50μm以下、好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下に形成するのがよい。
【0023】
一方、リフレクター裏面にコートしたCuO層は1.8〜2.0程度の屈折率があるので、ガラスと膜界面および膜と空気界面において赤外線の一部が反射され、リフレクター前方に戻されてしまう。これを最小限に抑えるには、CuO膜よりも低屈折率の膜、すなわち低屈折率膜や中間屈折率膜などをこのCuO膜に積層状態に設けて反射防止機能を具備し、多層膜構造とするのが効果的である。低屈折率膜を構成する物質としては、SiO,MgF,Alなどが、中間屈折率膜を構成する物質としては、Y、MgOなどが好適する。またその中間の低乃至中間屈折率膜としてAlを用いることもできる。
遮光膜はこのように反射防止膜を形成した多層膜構造とすることも可能である。このように多層膜状に形成された場合においても、CuOの層のみを積算した肉厚が500nm以上になるように設計する必要がある。また、全体の厚みとしては50μm以下であるのが望ましい。
【0024】
一般的な塗料のように、顔料の大きさが数μm以上のものでは個々の顔料粒子表面で反射・吸収が生じ、これが膜内で多数の顔料粒子と多重反射してしまい、その物質の光学特性とは全く異なったものとなってしまう。更にまた、本発明のように赤外光を効率よく透過させるためには、膜はクラックや異質相などがない均質な膜にする必要がある。均質な膜を得るには、膜の厚さはできるだけ薄く(望ましくは、10μm以下)、顔料粒子径もできるだけ小さい(望ましくは、200nm以下)ことが望ましい。このように特徴的な膜は、いろいろな要因に制約を受け、いくつかの基礎物性のみで考えることはできなく、実験的手法によって達成できるものである。すなわち、CuO以外に可視光吸収・赤外光透過膜物質の候補には、耐熱性を考慮に入れるとFe,FeO,CuO,Co,Mn,Mnなども実用可能性があると考えられる。
しかしながら、可視域の吸収が小さい物質では、膜厚を極端に厚くする必要が生じてクラックなど膜が不均質になったり、剥離に至り使えなくなる。また吸収が大きすぎる物質では、赤外光の吸収が生じてしまいリフレクターが高温になってしまうといった問題により使えないものであった。本発明者らが鋭意、実験を重ねた結果、CuOを50%を越えて含んだ膜のみが、耐熱性、可視光線の吸収特性、赤外線の吸収特性の全てにおいて適合し、課題を解決できるものであると判明したのである。
【0025】
ここで、リフレクターによる光の反射及び透過経路について説明する。図2は本願発明にかかる光源装置の光の経路を模式的に示した説明図である。なお同図で先に図1で説明した構成については同符号を用いて説明している。
図2に示すように光源ランプ10からリフレクター20に向かって放射される光のうち、可視光線については、大部分が実線で示したように凹面反射鏡20における反射膜24によって反射されるようになる。一方、反射膜24を透過した可視光線は、点線で示すようにリフレクター20における基体21を透過して外面に形成された遮光膜30に入射する。そして可視光線が遮光膜31におけるCuOの超微粒子によって吸収される結果、当該リフレクター20の背後に可視光線が放出されることが確実に防止される。
他方、光源ランプ10から放射される光のうち赤外線については、ほぼ全部が反射膜24を透過して点線で示すようにリフレクター20における基体21を透過し、更にリフレクター外面に形成された遮光膜30に入射する。この赤外線の多くは遮光膜30を透過してそのまま遮光膜30の背後に放出されるため、リフレクター20外面が過剰に加熱されることが防止される。しかも、かかる遮光膜30は赤外線を反射するものではないので、再び基材21に入射して被照明体に照射されることが無く、該被照明体が熱くなることもない。
【0026】
以上、本願発明について説明したが本願の実施形態は上記事項に限定されるものではなく適宜変更が可能であることは言うまでもない。例えば内部に組み込まれる光源ランプはハロゲンランプのような白熱ランプに限定されるものではなくメタルハライドランプ、ショートアークキセノンランプ、高圧水銀ランプ、高圧ナトリウムランプなど、放電ランプでもよい。
本願発明においては赤外線の透過率が高い膜を使用することにより、遮光膜の加熱を防止し、リフレクターの過熱状態を回避することができるようになる。その結果、従来においては消費電力を抑えた、暗いランプを使用して過熱を防止しなければならなかったものが、本願発明においては従来以上に高い入力のランプを組合せることができるようになり、演出効果性の高い光源装置を提供できるようになる。無論、本願の遮光膜においては可視光の吸収は従来と同等の特性を具備しているため、リフレクター背後において眩しさを感じることがなく、照明演出効果を確実に発揮することができる。
【0027】
〔実施例〕
本発明の実施例を以下に示す。
投光用照明リフレクターであるホウ珪酸ガラスよりなる凹面状のガラス基体の内面に、先に図4(a)で示した反射率となるようTiO−SiO23層からなるコールドミラー多層膜をスパッタ蒸着法を用いて形成した。
次に、リフレクター外面に形成する可視光吸収・赤外光透過膜形成用のスプレーコート用溶液を調製した。スプレーコート用溶液は、エタノール72wt%、プロピオン酸10wt%、ノルマルカプリル酸5wt%、プロピオン酸銅13wt%を混合した液100gと、シーアイ化成社製Cuエタ15wt%−G180、CuO超微粒子分散液300gとを混合したものである。これをリフレクター外面にスプレー法を用いて、膜厚が1μm厚となるようにコートした。コート膜を乾燥後、リフレクターを電気炉に入れて500℃で5分間保持し、焼成して膜を形成した。
【0028】
〔比較例1〕
遮光膜の構成のみ実施例のものとは異なるリフレクターを作製し、比較例1とした。
リフレクターの基体および集光部に形成した誘電体多層膜の構成については上述の実施例と同じである。すなわち、凹面状のガラス基体の内面にスパッタ蒸着法を用いて、TiO−SiO23層からなるコールドミラー多層膜を形成した。このリフレクター外面に従来の黒色塗料を塗布形成して遮光膜を形成した。黒色塗料は、日産化学社製ボンドX75であり、膜厚が1μmとなるようにリフレクター外面にスプレーコートした。
【0029】
〔比較例2〕
遮光膜を形成していないこと以外は上記実施例と同様にしてリフレクターを作製し、比較例2とした。
【0030】
〔実験例1〕
一方、本発明の実施例としたリフレクターでは、リフレクター表面温度が300℃以下であり、全く問題は発生しなかった。
実施例1、比較例1及び比較例2のリフレクターの分光透過率スペクトルを測定した。この結果を図3に示す。
上述したように比較例2は遮光膜が形成されていないリフレクターであるが、図3中比較例2の曲線で示すようにリフレクター可視領域の光が反射膜を透過して外部に放出されていることが分かる。
比較例1は、従来の黒色塗料をリフレクター外面に塗布形成したものである。このリフレクターは可視光のみならず赤外線全域にわたり全ての光を吸収し、透過率はほぼ0%であった。
本願発明の実施例の分光透過率スペクトルにおいては、可視光のみを吸収し赤外線はほぼ透過していることがわかる。
【0031】
〔実験例2〕
続いて、本願の赤外透過性遮光膜の効果を実施例1及び比較例1のリフレクターについてランプを実際に装着して検証した。
まず、各リフレクターの内部に、定格消費電力が100V−750Wのダブルエンド型のハロゲンランプをそれぞれ組み込み、電気導入部をバーナーで溶融シールした。さらに、リフレクターの前面にはレンズを取り付け、フランジ部をバーナーで溶融シールした。その後、リフレクター内部を真空排気して窒素ガスを0.5気圧封入して光源装置を作製した。
各光源装置をランプの定格消費電力である750Wで点灯した。
実施例、比較例1のいずれのリフレクターとも背面からの可視光の漏れは全くなかった。
しかしながら従来の黒色塗料をコートした比較例1のリフレクターではフレクター表面温度が500℃以上となり、電気導入部付近からクラックが発生してしまった。
一方、本発明の実施例に係るリフレクターは表面温度が300℃以下であり、基体にクラックが入ることなく、全く問題は発生しなかった。これは、実施例のリフレクターの遮光膜が赤外線に対して高い透過性を有しているため、遮光膜の加熱が防止された結果、リフレクター基体を構成するガラスを耐熱温度以下に維持できた結果による。
さらに本願の実施例にかかる光源装置について点灯実験を重ねたところ3500時間点灯した後も後方への光の洩れがなく、安定した遮光特性を維持できることが確認された。このように本願発明によれば、CuOを主成分とした単一の層によって、耐熱性、可視光線の遮光性、赤外透過性のいずれの点においても所期の特性が得られるので、簡便に所期の特性を具備した遮光膜付きリフレクターを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のリフレクターを用いた光源装置の一例における構成を示す説明用断面図である。
【図2】本願発明にかかる光源装置の光の経路を模式的に示した説明図である。
【図3】実施例1、比較例1及び比較例2のリフレクターの分光透過率スペクトルを示す図である。
【図4】コールドミラーと高色温度ミラーコート膜計算シュミレーション例を示す図であり(a)はコールドミラー、(b)は高色温度ミラーのものである。
【図5】従来技術にかかる光源装置の光の経路を模式的に示した説明図である。
【符号の説明】
【0033】
10 光源ランプ
11 バルブ
12 封止部
13 排気管残部
14 フィラメント
15 リード棒
16 外部リード棒
20 リフレクター
20A 前面
21 基体
22 集光部
23 頸部
24 反射膜
25 カバー
30 遮光膜
31 遮光膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方に向けて光を反射する集光部を有し、該集光部の内面に可視光域の光を反射し赤外域の光を透過する反射膜が形成され、外面に可視光を吸収する遮光膜が形成されたリフレクターであって、
前記遮光膜はCuOを主成分とする膜からなることを特徴とするリフレクター。
【請求項2】
前方に向けて光を反射する集光部を有し、該集光部の内面に可視光域の光を反射し赤外域の光を透過する反射膜が形成されると共に外面に可視光を吸収する遮光膜が形成されたリフレクターと、該リフレクターの集光部内部に配設された光源ランプとを具備した光源装置であって、
前記リフレクターの遮光膜はCuOを主成分とする膜からなることを特徴とする光源装置。
【請求項3】
前記遮光膜の膜厚は500nm以上50μm以下であることを特徴とする請求項2記載の光源装置。
【請求項4】
前記CuOを主成分とする膜よりも低屈折率の膜が当該CuOを主成分とする膜に積層状態に形成されることによって前記遮光膜が多層膜構造に形成され、
前記CuOを主成分とする膜を積算した厚みが500nm以上であり、当該遮光膜の全体の厚みが50μm以下であることを特徴とする請求項2記載の光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−242370(P2007−242370A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61574(P2006−61574)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】