説明

リポソーム含有磁気共鳴造影剤

【課題】
リポソームの安定化と内包された常磁性金属錯体化合物の保持安定性を図るとともにそのリポソームの血中滞留性を高め、その効率的送達および良好なターゲティングを達成する、安全性の高いリポソーム含有磁気共鳴造影剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
脂質膜内外の水相に水溶性常磁性金属またはその化合物を含有するリポソームを含む磁気共鳴造影剤であり、該リポソームが、該脂質膜を構成する脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製され、実質的にクロル系溶剤を含まないリポソームであり、かつ該常磁性金属化合物が、常磁性金属として1mM〜1Mの濃度で含まれることを特徴としている磁気共鳴造影剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム含有磁気共鳴造影剤に関し、詳しくは脂質膜成分と超臨界二酸化炭素とを混合して形成され、脂質膜内に常磁性金属またはその化合物を効率よく安定的に内包させたリポソームを含む磁気共鳴造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI(Magnetic resonance imaging, 磁気共鳴画像法)による検査・診断は、放射線被曝の問題がなく、非侵襲的に生体の任意断面の画像を得られることから、急速に普及している画像診断技術である。コントラストを増強して鮮明な画像を得るために、プロトンなどの緩和時間を変動させるMRI用造影剤が使用される。現在、使用されているMRI用造影剤として、ガドリニウム−ジエチレントリアミン五酢酸(以下、「Gd−DTPA」と略す)錯体化合物が唯一のコントラスト増強剤である。
体内に入った造影剤のGd−DTPAは、循環血流により組織に運ばれる。しかし造影剤自体には、組織を識別する能力を有しない。結局、Gd−DTPAは血液・脳関門破綻部位、血流の多い部位には滞留するが、網内系臓器、炎症部位、動脈硬化部位などには充分に移行しない。またGd−DTPAの血中半減期は、約14分ときわめて短く、投与された量の大部分は、組織や疾患部位と相互作用をすることなく速やかに尿中へ排泄されてしまう。こうしたことから、Gd−DTPA造影剤の単回投与で、組織や疾患部位、特に病巣の血管分布、血流分布、浸潤性などを診断することは困難である。また、血管内から非特異的に組織の細胞間隙に移行して分布するため、正常組織と病巣組織との濃度差がつかず、コントラストが得られない場合がある。撮像時間が核磁気共鳴装置の磁場強度に依存するため、撮像に時間がかかる低磁場装置は、MRI診断上、不利である(特許文献1)。このような実情から、目標とする病変組織または疾患部位、特に動脈硬化病巣、炎症部位、腫瘍組織に選択的に到達し、その周囲またはその他の部位と明瞭なコントラストで区別できる画像を提供する磁気共鳴造影剤が望まれている。
特定組織をターゲットとして送達が可能なMRI用造影剤の開発が種々試みられている。具体的には血管中における滞留性を上げるために、ヒト血清アルブミン(Ogan MDら:Invest. Radiol.,22, 665-671(1987))、デキストラン(Brasch RCら: Radiology, 175, 483-488(1990))、ポリリジン(特開昭64-54028号公報)といった高分子材料を担体として使
用した常磁性金属錯体化合物、あるいは脂肪乳剤(特許文献2)などが提案されている。しかしながら、高分子化合物であるがゆえに血中からの消失半減期が不必要に長くなることがある。抗原性、体内残留性などの問題も残る。脂肪乳剤は、投与量によって脂質代謝、網内系機能の制約を受ける。
他方、生体膜類似の脂質から構成され、低い抗原性であるリポソームに常磁性金属化合物を内包させたものを標的組織へ選択的に送達する方法もまた検討されている。特許文献3では、常磁性金属錯体化合物を含有するリポソームが提案されている。ところが素材としての安全性が高く、生体内で適度な分解性を有するリポソームを用いるにもかかわらず、その製造過程においては、リポソーム膜を構成するリン脂質の溶剤として、有機溶媒、特にクロロホルム、ジクロロメタンといったクロル系溶剤が使用されている。したがって、どうしても残存する溶剤の毒性があるという理由で、実用化に至ることは困難であると思われる。さらに形成されるリポソームは多重層になりやすく、一般に解離性のガドリニウム化合物の内包率も低いために、その調製および送達の効率が悪くなる。他にもリポソームMRI造影剤に関する多数の報告がこれまでなされているが、そのような製剤は現実に上市されていなければ、後期臨床試験の段階にもない(特許文献3)。
特開2003-119120号公報(特許文献4)では、リポソームを含有する化粧料、皮膚外用剤
を、超臨界二酸化炭素を用いて製造する方法が開示されており、親水性薬効成分や親油性薬効成分をリポソームに内包する皮膚外用剤の製造例が示されている。しかし、親水性薬
効成分として、水溶性電解質の例は示されているが、同法により常磁性金属錯体化合物をリポソームに効率よく内包できるか不明であった。
ところで首尾良く常磁性金属化合物をリポソーム内部に内包させても、時間経過とともに外部へ漏出する問題、あるいはリポソームそのものが不安定となる事態も考慮されねばならない。さらにリポソームを生体内へ投与しても、その多くが肝臓、脾臓などの網内系組織で捕捉されるため、所期の効果が得られないことも指摘されている(Cancer Res., 43,
5328(1983))。したがって常磁性金属化合物を効率よく封入し、かつ安定的に保持でき
、しかも安全性に問題のないリポソームの作製方法が望まれている。これらの問題は、実はリポソーム自体の構造(形態およびサイズ)とそれを取り巻く水性環境にも関係している。遊離形態の常磁性金属化合物を用いる従来の磁気共鳴造影剤とは異なって、常磁性金属化合物の種類、存在形態、内包の割合などもまた、リポソーム造影剤の性能に影響するであろう。造影能に優れた常磁性金属化合物を効率よくリポソームに内包させる方法とともに、経時安定的にそれを保持し、血中滞留性を改善することができる剤形、製剤組成の改良ならびに造影剤の安全性向上に対して、引き続き特別の要求が存在する。
【特許文献1】特許2619037号公報
【特許文献2】特開平5-186372号公報
【特許文献3】特開平7-316079号公報
【特許文献4】特開2003-119120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の問題点を解決すべく本発明者らは鋭意研究を進めた。その結果、リポソームによる常磁性金属化合物の保持は、リポソームの構造(通常、脂質二重膜から形成されている)とその安定化ならびに常磁性金属化合物の内包安定化を通じて改善することができることなどを見出して、本発明を完成した。
【0004】
本発明は、常磁性金属錯体化合物として適切に選択された常磁性金属またはその化合物をリポソームに封入することによりその送達の効率および選択性が高い磁気共鳴造影剤を提供することを目的とする。また毒性のある有機溶媒を使用せずに内部に常磁性金属化合物を効率よく安定的に封入できるリポソームを作製し、これを含めてなる磁気共鳴造影剤ならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は脂質膜内に常磁性金属または常磁性金属化合物を含有するリポソームを含み、
該リポソームが、必要であればポリエチレングリコールが存在してもよい条件下で、該脂質膜を構成する脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製され、実質的にクロル系溶剤を含まないリポソームであり、かつ
該常磁性金属または常磁性金属化合物が、1mM〜1Mの濃度で含まれることを特徴とする磁気共鳴造影剤である。
【0006】
前記常磁性金属化合物は、キレート化化合物と化学的に結合した、ランタノイド系またはそれ以外の遷移金属の常磁性金属イオンから構成される常磁性金属錯体化合物であることを特徴としている。
【0007】
前記キレート化化合物が、ジエチレントリアミンペンタ酢酸または1,4,7,10−テト
ラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸の誘導体であることが好ましい。
前記常磁性金属または常磁性金属化合物が、Gd、Dy、MnもしくはFeまたはその錯体化合物であることが好ましい。
【0008】
前記リポソームの血中における滞留時間が半減期として0.5〜5時間であるであることを
特徴としている。
前記常磁性金属またはその化合物の5〜95質量%が、リポソームに内包されていない形
態にあり、リポソームを懸濁する水性媒体中に存在することを特徴としている。
【0009】
全脂質が20〜100mg/mL造影剤の濃度で含まれることを特徴としている。
前記常磁性金属またはその化合物のうちリポソームに内包された部分の前記脂質の量に対する重量比が、1〜8(g/g)であることを特徴としている。
【0010】
前記リポソームが、実質的に一枚膜もしくは数枚膜のリポソームであることが好ましい。
前記磁気共鳴造影剤は、ガドリニウム中性子捕捉療法に併用することができることを特徴としている。
【0011】
本発明の磁気共鳴造影剤の製造方法は、必要であれば、ヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物が存在してもよい条件下で、脂質膜成分としてリン脂質とともに、カチ
オン性脂質、ポリアルキレンオキシド基を有する化合物、ポリエチレングリコール基を有する化合物、ステロール類から少なくとも1種選ばれる化合物を超臨界状態もしくは亜臨
界状態の二酸化炭素に溶解した後、常磁性金属またはその化合物の溶液または懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、常磁性金属またはその化合物を内部に含有するリポソームを作製することを含むことを特徴としている。
【0012】
前記のヒドロキシル基を有する化合物は、ポリエチレングリコールであることが好ましい。
前記のヒドロキシル基を有する化合物を、超臨界状態もしくは亜臨界状態にする二酸化炭素に対して0.1〜10質量%の割合で溶解助剤として用いることを特徴としている。
【0013】
前記の常磁性金属またはその化合物の溶液または懸濁液には、製剤助剤が含まれていることを特徴としている。
[発明の具体的説明]
本明細書における「MRI」には、検出核として水素原子核(プロトン)、31P、23Na、19Fなどの核磁気共鳴(NMR)の他に、電子スピン共鳴(ESR)も含まれる。さらに広義のMRI技術として見なされる各種の測定・検査技術なども含められる。「キレート化化合物」とは、金属原子とキレート結合し得る化合物をいい、多くのキレート化剤が該当する。化合物は遊離形態の他に、その塩、水和物なども含めた形で言及することがある。
磁気共鳴造影剤
本発明の磁気共鳴造影剤は、脂質膜内または脂質膜内外の水相に常磁性金属として常磁性金属錯体化合物を含有しており、実質的にクロル系溶剤を含まないリポソームを含んでなる造影剤である。ここでいう「リポソーム」とは、通常、脂質膜、すなわち脂質二重膜から形成されている構造物である。本明細書では、リポソーム膜を「脂質膜」と言及することもある。このように通常の懸濁剤とも乳化剤とも異なる磁気共鳴造影剤の製剤設計に当たっては、下記の用量に基づく常磁性金属またはその化合物の種類およびその濃度だけでなく、マイクロキャリヤーであるリポソーム内に内包されている常磁性金属またはその化合物の量ならびにリポソームの膜を構成する脂質の量についても考える必要が生じる。これらは常磁性金属化合物の送達効率および保持安定性、造影剤の性状にも関係するパラメータである。
【0014】
各種MRIにおいてコントラスト増強用の常磁性金属として利用されている常磁性金属化合物の至適濃度および必要な造影剤用量は、診断検査の目的、被検者ごとに、あるいは
造影検査のタイプごとに設定するのが通例である。造影MRIの良好なコントラスト性能が得られる必要な所要量は、常磁性金属化合物の種類、態様にも依存するが、当業者にはよく知られている(例えば特許文献3)。血管または実質臓器の造影効果は、主として体重あたりの投与された常磁性金属量(造影剤濃度×投与造影剤量)に規定され、投与常磁性金属量に応じて造影効果は上昇することが多い。造影用常磁性金属またはその化合物の用量については、検査の種類および対象にもよるが、常磁性金属として5〜600mg/kg体重、典型的には5〜300mg/kg体重の範囲、常磁性金属錯体として0.005〜0.1ミリモル/kg体重、典型的には0.01〜0.05ミリモル/kg体重の範囲で投与される。
【0015】
本発明の磁気共鳴造影剤の場合にも、その用量は、基本的には従来のMRI検査において使用される造影剤の用量に準ずるのがよい。リポソーム内の常磁性金属またはその化合物の総量、またはそれとリポソーム外の常磁性金属またはその化合物量の和が、従来の常磁性金属投与量と同程度か、キレート化の影響を考慮して多めになるようにしてもよい。したがって常磁性金属化合物の種類と特性、造影効果、検査方法の種類、臨床上の指標、投与経路および生体からの制約といった諸要因を勘案して決まる用量に基づいて、磁気共鳴造影剤の製剤処方が具体的になされる。
【0016】
まず磁気共鳴造影剤の全常磁性金属化合物の濃度は、通例、0.01mM〜10Mの範囲となるように設定されている。本発明の方法により製造される磁気共鳴造影剤は、全常磁性金属化合物の濃度として、通常、想定される投与容量として10〜300mLの製剤溶液である場
合、1mM〜1Mの範囲が望ましい。リポソーム内への常磁性金属錯体化合物を内包する
効率の観点から、より好ましくは10mM〜0.5Mの範囲である。なお、リポソームを含有
する磁気共鳴造影剤の場合、その全常磁性金属錯体化合物の濃度を高くしても、リポソーム内に内包される常磁性金属化合物の割合が、ある濃度以上では頭打ちの傾向を示すとともに、リポソームを含む造影剤懸濁液が高濃度になるにつれてそのろ過性が悪くなりがちである。
【0017】
本発明の磁気共鳴造影剤における全脂質の濃度は、20〜100 mg/mL、好ましくは40〜90
mg/mL、より好ましくは50〜80mg/mLである。この場合の「全脂質」とは、リポソーム
を構成するリン脂質、ステロール、グリコールなどのあらゆる種類の脂質類を含める意味である。そうした全脂質は、造影剤に含まれるリポソームの量と概ね見なしてもよい。もっとも後記するようにリポソームの形態には種々あるために、全脂質量は単純にリポソームの数には対応しない。本発明の磁気共鳴造影剤が目指す常磁性金属錯体化合物の送達効率からは、常磁性金属化合物を内包するリポソーム量が多い方が望ましいが、余りに高濃度の溶液とすると、リポソーム同士の凝集、造影剤の粘度の増大という不都合な事態も生じてくる。
【0018】
本発明の磁気共鳴造影剤において、リポソームに内包された常磁性金属またはその化合物は、脂質二分子膜中、または脂質膜内の水相のいずれかに存在するが特に限定されるものではない。本発明の磁気共鳴造影剤の好ましい態様は、前記リポソームの脂質膜内部の水相とそのリポソームが分散されている水性媒体との両方に、常磁性金属錯体化合物および製剤助剤を含有している形態である。特に好ましい態様は、前記リポソームの脂質膜内外でそれぞれの濃度が実質的に同一となっている磁気共鳴造影剤である。ここで「実質的に」とは、通常の場合、ほとんど濃度が同一であることをいう。このような態様の造影剤では、オートクレーブ滅菌の際に内包物質のリポソームからの漏洩が防止されることが記載された(特許文献3)。また同一種の常磁性金属またはその化合物がリポソーム膜の内外に存在する場合には、その常磁性金属またはその化合物が同一の磁気共鳴造影剤中で異なる存在形態にあることを意味する。リポソームが分散されている水性媒体中にある常磁性金属化合物は、従来からの遊離形の常磁性金属化合物と同様の挙動で体内を移行する。他方、リポソーム内に内包された常磁性金属またはその化合物もまた、体内でのリポソー
ムの移動とともに移送される。本発明の磁気共鳴造影剤を用いることにより、内包されていない常磁性金属化合物とリポソーム内に内包された常磁性金属化合物との体内拡散時間の違いが、経時的に分布挙動の異なったMRI灌流画像を与えて診断上の有益な情報を提供することができる(特表平9-505821号公報)。
【0019】
「製剤助剤」とは、造影剤の製剤化に際し、常磁性金属錯体化合物とともに添加され、生理学的に許容できる物質であり、これまでの造影剤製造技術に基づいて各種の物質が所望により使用される。具体的には生理学的に許容される各種の緩衝剤、EDTANa2−Ca
、EDTANa2などといったエデト酸系のキレート化剤、薬理的活性物質(例えば血管拡
張剤、凝固抑制剤など)、さらに必要に応じて、浸透圧調節剤、安定化剤、抗酸化剤(例えばα‐トコフェロール、アスコルビン酸)、粘度調節剤、保存剤などが挙げられる。好ましくは、水溶性アミン系緩衝剤およびキレート化剤をともに含めるのがよい。pH緩衝剤としては、アミン系緩衝剤および炭酸塩系緩衝剤が好ましく用いられるが、特に好ましくはアミン系緩衝剤であり、中でもトロメタモールが望ましい。室温での造影剤液の好ましいpH範囲は、6.5〜8.5、好ましくは6.8〜7.8である。上記錯体を不安定化するZn2+
、Cu2+を捕獲するためのキレート化剤は、好ましくはEDTANa2−Ca(エデト酸カル
シウム2ナトリウム)である。
【0020】
また、「水性媒体」とは、常磁性金属化合物、製剤助剤などを溶解する水をベースとし、生理学的に許容できる溶媒である。その水は、滅菌した発熱物質を含まない水を使用する。リポソームの脂質膜内部の水相(脂質膜により封入された水溶液)以外の水溶液(すなわち該リポソームが分散されている水性媒体)にも少なくとも常磁性金属化合物の他に、製剤助剤(例えば水溶性アミン系緩衝剤、キレート化剤など)が含まれている場合には、該膜内外で著しい浸透圧差が生じることはなく、これによりリポソームの構造安定性が保たれる。
常磁性金属またはその化合物
MRI測定装置では、変動磁場コイルにより組織中の各点でわずかに異なる磁場をつくることで、各点での水分子のT1(スピン-格子)緩和時間に影響する、わずかに異なった振動数での共鳴を起こしている。このようなNMR(核磁気共鳴)現象のシグナルの位置と強度の情報を空間的に読みとり、コンピュータ処理することで画像化する。MRIは高いコントラスト分解能を有するため、造影剤の作用によるコントラスト増強効果が大きい。MRIの撮像の際、常磁性イオンが存在すると部分部分の磁場の揺らぎが大きくなるため、その結果、MRIシグナルは大きくなる。
【0021】
例えばMn2+、Fe3+、Gd−DTPA(ガドペンテト酸)中のガドリニウムイオン(
Gd3+)、は常磁性を示し、磁気共鳴現象において薬剤周囲のプロトンの緩和を促進(緩和時間T1を短縮)する結果、MRI画像上でコントラストが増強される。他方、磁性/超常
磁性粒子を基剤とした磁気共鳴造影剤は、T2(スピンースピン緩和時間)を減少させ、
シグナル強度の減少をもたらす。
【0022】
本発明の磁気共鳴造影剤に用いられる常磁性金属化合物の金属原子として、各種の常磁性金属を用いることができる。例えば、原子番号57〜70のランタノイド系元素、特にガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)が好適である。それ以外の金属として、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)の遷移金属種などが挙げられる。特に好ましいのは、Gd3+、Dy3+、Mn2+、Fe3+である。
上記常磁性金属イオンまたは金属塩をそのままリポソーム内に内包させることも考えられる。遊離金属イオンをリポソームに内包させる場合には、特にMn2+が好適である。実際は二価または三価のイオンとキレート化化合物とを反応させて形成された錯体をリポソー
ムに内包させるのがよい。その理由はリポソームが分解を受けたりして、常磁性金属イオンがリポソーム外に出ても、錯体の形態であればその毒性が軽減されるからである。例えば遊離のガドリニウムは組織に沈着し肝臓・骨髄などに強い毒性を示すが、キレート化により腎臓から速やかに排泄される。このようにキレート化化合物は、重金属である常磁性金属の毒性を低下させるとともに、その投与を補助する機能、生体内での移行、排泄、常磁性金属のプロトンとの作用などにおいても有用性を発揮する。
【0023】
キレート化化合物として、常磁性金属原子と錯体を形成でき、かつリポソームに内包できるように適度の親油性をも有するものであれば特に限定されない。このようなキレート化化合物について、種々の有用なマクロ環キレート化剤がこれまで提案されている(例えばWO9008134)。
【0024】
架橋鎖として活性アミノ基を有する鎖式または環式のポリアミノポリカルボン酸であって、金属イオンを捕捉して錯体を形成する能力を有する二官能性構造をもったものが好ましい。例えば、DTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)の誘導体およびその塩が考えられる。
【0025】
具体的にはモノアルキルアミドDTPA、ジアルキルアミドDTPA、モノアリールアミドDTPA、ジアリールアミドDTPA、モノアルキルエステルDTPA、ジアルキルエステルDTPA、モノアリールエステルDTPA、ジアリールエステルDTPA、アルキル化DTPAなどが例示される。これらの化合物のうち、アルキルとして炭素数120の
アルキル基、アリールとしてフェニル、ナフチルが例示される。アリールは、アルキル、ハロゲン原子などで置換されていてもよい。
【0026】
キレート化化合物のほかの例として、
TTHA(トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸)、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、DOTA(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸)、EHPG(N,N-エチレンビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)グリシン])、Cyclam(1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン)、NTA、HEDTA、BOPTA、NOTA、DO3A、HPDO3A、EOB−DTPA、TETA、HAM、DPDP、ポルフィリンおよびその誘導体などが挙げられる。なお、EOBは、エトキシベンジルを意味する。
【0027】
上記常磁性金属原子イオンとキレート化剤とを常法によりキレート結合させる。その結果、生成した常磁性金属またはその化合物の誘導体の例として、次の化合物が例示される:Gd−DTPA,Gd−EOB−DTPA,Yb−EOB−DTPA,Dy−EOB−DTPA,Mn−DTPA,Gd−BOPTA,Gd−DOTA,Gd−HPDO3A 。
【0028】
ガドブトロール(gadobutrol)のような金属含有大環に基づく化合物も適している。超常磁性剤または強磁性剤として、鉄化合物または鉄錯体を封入したリポソームを含有するMRI造影剤が、特許文献3に記載されている。
【0029】
これらの化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。またその例示に限定されるものではない。
本発明の磁気共鳴造影剤に適する常磁性金属またはその化合物として、次の要件を満たすものが望ましい。すなわち造影剤として用い得る物理的、化学的性質を備えた上で、造影剤1mL当たり、重量組成に換算して250mg以上の常磁性金属原子を含有するよう、水溶
液状態に製剤可能な化合物が好ましい。さらには高度に親水性であり、かつ高濃度でも浸透圧が高くならない、安全性の高い造影剤を調製できるものが好ましい。
【0030】
造影剤の高張性による浸透圧の副作用はすでに記載された通りである(特32315703号)。すなわち、造影剤のオスモル濃度が高いと、心臓・循環系の負担が大きい。血液と等張の溶液または懸濁液を得るには、等張液を提供する濃度で、造影剤を媒質中に溶解もしくは懸濁させる。例えば常磁性金属錯体化合物の溶解性が低いために常磁性金属錯体化合物だけでは等張液を提供できない場合、等張の溶液もしくは懸濁液が形成されるように他の非毒性の水溶性物質、例えば塩化ナトリウムのごとき塩類、マンニトール、グルコース、ショ糖、ソルビトールなどの糖類を媒質中に添加してもよい。
【0031】
これらの常磁性金属錯体化合物では、血漿タンパク質との結合が僅かであるか、ほとんど認められないことが望ましい。
造影剤の投与についてまわる問題のうち、深刻かつ克服しなければならない問題は、副作用である。化学毒性に関しては、通常治療用の医薬物質として使用される化合物に比して、投与量が格段に大量であることが主な理由である。体内に入った造影剤の排泄に時間がかかれば残存造影剤、錯体から遊離した常磁性金属による遅発性毒性も問題となってくる。
【0032】
副作用として他の各種造影剤と同様に、造影剤に起因した免疫的刺激に誘発されるアナフィラキシー様全身反応が懸念される(特開平5-208921号公報)。そこで常磁性金属化合物をリポソームに内包させれば、免疫系を刺激する可能性も僅少となる。特にポリエチレングリコール(PEG)化により外表面をステルス化されたリポソーム(後記する)に上記の常磁性金属化合物を内包することは、この方面からも造影剤の安全性が高まるため望ましい。
【0033】
本発明の磁気共鳴造影剤は、通常、リポソームに内包されていない常磁性金属錯体化合物もまた含む。このような造影剤にあっては、リポソーム内に内包されている常磁性金属錯体化合物の割合も考慮されねばならない因子となる。リポソーム内外における常磁性金属またはその化合物の濃度は、その常磁性金属錯体化合物の性質、意図する製剤の投与経路および臨床上の指標といった諸要因に基づき任意に設定することができる。リポソーム内に封入される常磁性金属またはその化合物の量は、典型的には磁気共鳴造影剤における全常磁性金属またはその化合物の5〜95質量%、好ましくは10〜90質量%、より好ましく
は30〜70質量%である。
【0034】
実質的にほとんど、または大半の常磁性金属またはその化合物がリポソーム内に内包された製剤も可能であるが、そうした製剤は、浸透圧差、リポソームの形態と安定性、内包化させる効率、製剤の造影能なども考えると現実の製剤として実用上、特に優れるわけではない。医薬物質の薬物送達システムにおいてはリポソーム内に封入することにより副作用が軽減され、内包化により得る利益を一層増すために、内包されていない医薬物質を分離除去して製剤を調製する場合もある。実際には、リポソーム懸濁薬剤が製造され、分離された直後は、ほぼ100%の封入が達成されても、短時間経過後には封入成分が時間とと
もに漏失する例が報告されている(Betageri, G. V. Drug Devel. Ind. Pharm. 19, 531-539(1993))。この現象は、浸透圧効果によるリポソーム構造の不安定化に基づくもの
である。またWO88/09165のリポソーム調製物のように、リポソーム内部のみに造影物質を有するX線造影剤をオートクレーブ滅菌すると、造影化合物がリポソーム外に漏れ出てしまうことが報告されている(特許文献3)。逆に内包化されていない遊離の造影化合物を含む製剤の診断的意義が論じられた(特表平9-505821号公報)。これは造影剤固有の使用態様に根ざすものであり、リポソームに内包されなかった医薬化合物を所期の目的からは無用のものとする立場とは一線を画すべき事情については既に上記した。検査に役立たない無駄な常磁性金属錯体化合物部分を極力減らす必要性は言うまでもない。
【0035】
特に常磁性金属またはその化合物を効率的に内包化し、常磁性金属またはその化合物を担持するリポソームの経時的不安定化を充分に防止するためには、リポソーム内に封入された常磁性金属化合物の量は、磁気共鳴造影剤における全常磁性金属化合物の30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%であることが望ましい。磁気共鳴造影剤において、リポソーム内に封入された常磁性金属化合物の割合が、全体の30〜70質量%(好ましくは40〜60質量%)であれば、残り70〜30質量%(好ましくは60〜40質量%)が存在するリポソーム外の水性分散液へ流出する量については実質的に無視できる。したがって、常磁性金属化合物をカプセル化したリポソームの浸透圧効果による不安定化を防止でき、リポソームにおける常磁性金属錯体化合物の経時的な保持安定性は向上する。このことは、本発明のリポソーム含有磁気共鳴造影剤においては、製剤調製時における常磁性金属化合物の内包化率と使用時における内包化率が実質的に同一に保たれることを意味し、造影剤の品質管理の観点からも好ましい。リポソームへの内包率が貯蔵・保管の間に低下する結果、製剤ごとに、または保管期間ごとに異なっては、その造影性能に影響する。
リポソーム
本発明の磁気共鳴造影剤において、上記常磁性金属錯体化合物は目標の臓器、組織、疾患部位などの標的部位へ選択的に効率よく送達されるようにマイクロキャリヤーとしてのリポソーム内に封入した形態で使用される。本発明の造影剤は、血中安定性が改善されたリポソームを用いることにより常磁性金属錯体化合物の血中滞留性を適度に向上させて、効率的な薬物の送達ならびにターゲティングの実現を図っている。特に優れた腫瘍描出性を獲得するために有効とされるEPR(Enhanced permeability and retention、透過性
の亢進および滞留)効果を生じさせるためには、リポソームは、リポソーム構造の安定化および封入物質の保持安定性という、キャリヤーとしての担持効率を改善させた上で、血中安定性、血中滞留性といった特性をも有することが求められる。
【0036】
本発明の磁気共鳴造影剤は、常磁性金属錯体化合物を内包するリポソームの粒径(粒子径)およびその二分子膜を適切に設計することによりターゲティング機能を実現することができる。受動的ターゲティングおよび能動的ターゲティングいずれも考慮される。前者は、リポソームの粒径、脂質組成、荷電などの調整を通じてその生体内挙動を制御することができる。リポソーム粒径を狭い範囲に揃える調整は、後述する方法に基づき容易に行われる。リポソーム膜表面の設計は、リン脂質の種類と組成、共存物質を変えることにより所望の特性を付与することができる。
【0037】
投与された造影剤の体内移動に関して、より高度な送達選択性と集積性を可能とする能動的ターゲティングの採用もまた検討されるべきである。一例として、リポソーム膜表面にポリアルキレンオキシド高分子鎖またはポリエチレングリコール(PEG)を導入することは、標的部位までの誘導過程を制御し得るため、極めて有益である。したがって本発明の磁気共鳴造影剤に好適なリポソームとは、その表面にポリアルキレンオキシドまたはポリエチレングリコールを付加することによりその血中滞留性が一層高められ、肝臓などの細網内皮系細胞に貪食されにくくなったリポソームである。がん組織、疾患部位などに到達しなかった磁気共鳴造影剤は、正常部位には集積することなく、速やかにリポソームが分解されて体外に排泄される。このことはリポソームを設計する際にその安定性を体外排出時間との関係で適切にコントロールすることにより可能である。リポソームから出た常磁性金属化合物は、常磁性金属錯体化合物であれば、肝臓などに沈積することなく腎臓を経由して速やかに尿中に排泄される。したがって徒に体内に留まることによる弊害、遅発性の副作用などを防止できる。
磁気共鳴造影剤に含まれるリポソームの形態、サイズ、表面の性状、脂質組成、内包物質の担持量などは、常磁性金属錯体化合物の保持量およびリポソームの安定性、常磁性金属錯体化合物の経時的な保持安定性、送達効率に影響する上記ターゲッティング機能、血液半減期、ならびに製剤の用法・適用上の制約に関わる造影剤の粘度、重量モル浸透圧濃度および脂質含量といった特性などに大いに関係する。以下、本発明の造影剤に使用される
リポソームの脂質組成および形態、ならびにその製造方法について詳述する。
【0038】
本発明の磁気共鳴造影剤に含まれるリポソームは、後記するようにポリエチレングリコールの存在下で該脂質膜を構成する脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製される。また、そのリポソームの血中における滞留時間が半減期として0.5〜5時間であるであることを特徴としている。リポソームを構成する脂質の組成は、脂質膜の強度、表面の電荷分布(ゼータ電位)と親水性に影響を与える。リポソームの脂質膜成分として、一般にリン脂質および/または糖脂質が好ましく使用される。
【0039】
本発明のリポソームにおける好ましい中性リン脂質として、大豆、卵黄などから得られるレシチン、リゾレシチンおよび/またはこれらの水素添加物、水酸化物の誘導体を挙げることができる。
【0040】
その他のリン脂質として、卵黄、大豆またはその他の動植物に由来するか、または半合成のホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、合成により得られるホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、
ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)などを挙げることができる。
【0041】
これらのリン脂質は通常、単独で使用されるが、2種以上併用してもよい。ただし2種以上の荷電リン脂質を使用する場合には、負電荷のリン脂質同士または正電荷のリン脂質同士で使用することが、リポソームの凝集防止の観点から望ましい。中性リン脂質と荷電リン脂質を併用する場合、重量比として通常、200:1〜3:1、好ましくは100:1〜4:1、より好ましくは40:1〜5:1である。
【0042】
糖脂質としては、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステルなどのグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4などのスフィンゴ糖脂質などを挙げることができる。
【0043】
リポソーム膜の構成成分として、上記脂質の他に必要に応じて他の物質を加えることもできる。これは、リポソーム構造の安定化(例えば膜強化)、リポソーム膜表面の性状設計(例えばゼータ電位)と機能化(例えば臓器志向性、選択性)などを目的として行われる。例えば、膜安定化剤として作用するステロール類、例えばコレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、ラノステロールまたは2,4−ジヒドロラノステロールなどが挙げられる。また1−O−ステロールグルコシド,1−O−ステロールマルトシドまたは1−O−ステロールガラクトシドといったステロール誘導体もリポソームの安定化に効果があることが示されている(特開平5-245357号公報)これらのうち、コレステロールが特に好ましい。
【0044】
ステロール類の使用量として、リン脂質1重量部に対して0.05〜1.5重量部、好ましく
は0.2〜1重量部、より好ましくは0.3〜0.8重量部の割合が望ましい。0.05重量部より少ないと混合脂質の分散性を向上させるステロール類による安定化が発揮されず、リポソーム膜の強化につながらない。逆に2重量部より多すぎるとリポソームの形成が阻害されるか
、形成されても不安定となる。あるいは形成されたリポソームの膜が硬くなって後記するエクストルーダに通す際、リポソームの通過性が悪くなるという弊害も生じる。
【0045】
リポソーム膜中のコレステロールは、その膜の強化に貢献するのみならず、ポリアルキレンオキシド導入用のアンカーにもなり得る。具体的にはリポソーム膜構成成分として膜中に含めるコレステロールには、必要に応じリンカーを介してその先にポリアルキレンオキシド基を結合させてもよい。リンカーには、短鎖のアルキレン基、オキシアルキレン基などを用いる。特開平09−3093号公報には、ポリオキシアルキレン鎖の先端に、効率よく種々の機能性物質を共有結合により固定化することができ、リポソーム形成用の成分として利用することができる新規なコレステロール誘導体が開示されている。
上記ステロール類の他にリポソーム膜の構成成分として、グリコール類を加えてもよい。リポソームを作製する際に、リン脂質などともにグリコール類を添加すると、リポソーム内での水溶性常磁性金属化合物の保持効率が上昇する。グリコール類として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ピナコールなどが挙げ
られる。グリコール類の使用量として、脂質全質量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の割合が望ましい。
【0046】
他に添加できる化合物として、負荷電物質であるジセチルホスフェートといったリン酸ジアルキルエステルなど、正電荷を与える化合物としてステアリルアミンなどの脂肪族アミンが例示される。
【0047】
本発明では、リポソーム膜の一成分として、ポリアルキレンオキシド(PAO)基または類似の基を有するリン脂質または化合物を磁気共鳴造影剤の意図する目的に応じて使用してもよい。リポソームが細網内皮系細胞により捕捉されてしまう問題ならびに崩壊、凝集といったリポソーム自体の不安定性を解決する方法として、これまでもリポソーム膜の表面に高分子鎖であるポリエチレングリコール(PEG)鎖、すなわち−(CH2CH2O)n−Hを導入することが試みられている(例えば、特開平1−249717号公報、FEBS letters, 268, 235(1990))。
【0048】
ポリアルキレンオキシド基(ポリオキシアルキレン鎖)またはPEG鎖をリポソーム膜表面に付けることにより、新たな機能をリポソームに付与することができる。例えば、PEG化リポソームには免疫系から認識されにくくなる(いわゆる「ステルス化」された状態である)効果が期待できる。さらにリポソームは親水的傾向を持つことにより血中安定性を増して、長時間にわたり血液中の濃度を維持できることが明らかになっている(Biochim. Biophys. Acta., 1066, 29-36(1991))。リポソームの血中滞留性を向上させるために、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質をリポソームの脂質膜に含有させる手法が開示された(特開2002-37883号公報)。そのようなリポソームでは経時安定性も改善されていることが示されている。
【0049】
上記の性質を利用してMRI用造影剤に臓器志向性を与えることもできる。一例として、脂質成分は肝臓に貯まりやすいことから肝臓の選択的な造影を目的とする場合には、PEG基を使用しないか、あるいはPEG基含有量の少ないリポソームを用いるのが望ましい。また粒径を0.2μm以上に大きくすると、肝臓Kupffer細胞の食作用により取り込まれ
る可能性が高くなり、肝臓のその細胞部位に集積する。肝臓がんの撮像においては、そのがん組織には正常組織に比べてKupffer細胞が少ないために、造影剤リポソームの取込み
量は、相対的に少なくなり造影のコントラストが鮮明となる。
【0050】
他の臓器を造影する場合、PEG基を導入すればリポソームをステルス化して肝臓などに集まりにくくすることができるため、PEG化リポソームの使用が推奨される。PEG基の導入により水和層が形成されてリポソームは安定化し、血中滞留性も向上する。PEG基のオキシエチレン単位の長さと導入する割合を適宜変えることにより、その機能を調節することができる。PEG基として、オキシエチレン単位が10〜3500、好ましくは100
〜2000のポリエチレングリコールが好適である。ポリエチレングリコールを使用する場合の使用量は、該リポソームを構成する脂質に対して0.1〜30質量%、好ましくは1〜15質量%程度含むのがよい。リポソームのPEG化には公知の技術を利用することができる。
【0051】
上記ポリエチレングリコールに代わり、公知の各種ポリアルキレンオキシド基、−(AO)n−Yをリポソーム膜表面に導入してもよい。ここでAOは炭素数2〜4のオキシア
ルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数である。また、Yは、水素原子、アルキル基または機能性官能基を表す。
【0052】
炭素数2〜4のオキシアルキレン基(AOで表される)として、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシテトラメチレン基、オキシ−1−エチルエチレン基、オキシ−1,2−ジメチルエチレン基などが挙げられる。これらのオキシアルキレン基は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタン、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、テトラヒドロフランなどのアルキレンオキシドを付加重合させた基である。
【0053】
nは1〜2000、好ましくは10〜500、さらに好ましくは20〜200の正の整数である。
nが2以上の場合、オキシアルキレン基の種類は、同一のものでも異なるものでもよい。後者の場合、ランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。ポリアルキレンオキシド鎖に親水性を付与する場合、オキシアルキレン基としてはエチレンオキシドが単独で付加したものが好ましく、この場合、nが10以上のものが好ましい。また種類の異なるアルキレンオキシドを付加する場合、エチレンオキシドが20モル%以上、好ましくは50モル%以上付加しているのが望ましい。ポリアルキレンオキシド鎖に親油性を付与する場合には、エチレンオキシド以外のオキシアルキレン基の付加モル数を多くする。例えばポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロック共重合物を含有するリポソームは、本発明の好ましい態様である。
【0054】
Yは、水素原子、アルキル基または機能性官能基である。アルキル基として、炭素数1〜5の、分岐していてもよい脂肪族炭化水素基が挙げられる。上記の機能性官能基は、ポリアルキレンオキシド鎖の先端に糖、糖タンパク質、抗体、レクチン、細胞接着因子といった「機能性物質」を付するためのもので、例えばアミノ基、オキシカルボニルイミダゾール基、N-ヒドロキシコハク酸イミド基といった反応性に富む官能基が挙げられる。
【0055】
先端に「機能性物質」を結合しているポリアルキレンオキシド鎖が固定化されたリポソームは、ポリアルキレンオキシド鎖導入の効果に加えて、ポリアルキレンオキシド鎖に妨げられることなく「機能性物質」の機能、例えば「認識素子」として特定臓器指向性、がん組織指向性などの作用が充分に発揮される。
【0056】
ポリアルキレンオキシド基を有するリン脂質または化合物は、一種類を単独で使用することができ、あるいは二種以上のものを組み合わせて使用することもできる。その含有量は、リポソーム膜構成成分の合計量に対し、0.001〜50モル%、好ましくは0.01〜25モル
%、より好ましくは0.1〜10モル%である。0.001モル%未満では期待される効果が小さくなる。
【0057】
リポソーム膜へのポリアルキレンオキシド鎖の導入は、公知の技術を利用することがで
きる。一例として原料のリン脂質類の中に、予めリン脂質ポリアルキレンオキシド誘導体などを含めてリポソームを作成してもよい。その方法に好適な修飾リン脂質が提案された(特開平7-165770号公報)。具体例として、ホスファチジルエタノールアミンなどのポリエチレンオキシド(PEO)誘導体、例えばジステアロイルホスファチルジルエタノールアミンポリエチレンオキシド(DSPE−PEO)などが挙げられる。さらに特開2002−37883号公報には、血中滞留性を高めた水溶性化高分子修飾リポソームを作製するための
高純度ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が開示されている。そうしたリポソームを作製する際にモノアシル体含量が低いポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を使用すると、リポソーム分散液の経時安定性が良好であったことが記載されている。
リポソームの製造方法
リポソームを作製する方法として、これまで種々の方法が提案されている。作製方法が異なると、最終的に出来上がったリポソームの形態および特性もまた著しく異なることが多い(特開平6-80560号公報)。そのため所望するリポソームの形態、特性に応じて製造
方法を適宜選択することが行なわれている。一般にリポソームは、リン脂質、ステロールといった脂質膜成分を、ほとんど例外なくまず有機溶媒、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、エチルエーテル、四塩化炭素、酢酸エチル、ジオキサン、THFなどとともに容器
中で混合、溶解することから始めて調製される。特にクロル系溶媒がよく用いられている。このようなリポソームの調製品は、必ず有機溶媒を含んでいる。残存するこれらの有機溶媒を除去するために種々の方法が知られている。実際に除去操作が行なわれるが、いずれも多段階の工程および長時間の処理を要しているのが現状である。そうした残留する有機溶媒、特にクロル系有機溶媒については、生体に及ぼす悪影響、例えば副作用が懸念される。
【0058】
本発明の磁気共鳴造影剤の製造方法は、必要であれば、ヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物が存在してもよい条件下で、脂質膜成分としてリン脂質とともに、カチ
オン性脂質、ポリアルキレンオキシド基を有する化合物、ポリエチレングリコール基を有する化合物、ステロール類から少なくとも1種選ばれる化合物を超臨界状態もしくは亜臨
界状態の二酸化炭素に溶解した後、常磁性金属またはその化合物の溶液または懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、常磁性金属またはその化合物を内部に含有するリポソームを作製することを含むことを特徴としている。前記の常磁性金属化合物の溶液または懸濁液には、好ましくは製剤助剤が含まれている。
【0059】
本発明による製造方法では、有機溶媒、特にクロル系有機溶媒を使用せずに上記リポソームを作製するため、超臨界二酸化炭素もしくは亜臨界二酸化炭素を使用するリポソーム調製法を用いる。二酸化炭素の臨界温度が31.1℃、臨界圧力が75.3 kg/cm2と比較的扱い
やすく、不活性なガスゆえ残存しても人体に無害であり、高純度流体が安価で容易に入手できるなどの理由により好適である。この方法により作製されたリポソームは、後記するように磁気共鳴造影剤の常磁性金属またはその化合物を内包するのに種々の好ましい特性および利点を有している。さらに本発明による製造方法では、上記したようにリポソームに内包させることが容易でない水溶性電解質に相当する常磁性金属化合物を、リポソームに効率よく内包できることも注目される。
【0060】
超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素を使用してリポソームを作製する場合、上記脂質膜成分を、超臨界状態(亜臨界状態を含む)にある二酸化炭素に溶解、分散または混合することが必要となる。その際、溶解助剤(または助溶媒)としてヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物の存在下で溶解、分散または混合をすることが好ましい。
実際に溶解助剤として使用できるヒドロキシル基含有化合物としては、リン脂質、コレステロールなどといった脂質膜成分と親和性を示し、これらと容易に混合するものが望ましい。さらに、脂質膜成分を極性の液体二酸化炭素中に良好に分散させ、溶解させるために
は、適度の親水性と疎水性を兼ね備えた両親媒性のものが好適である。
【0061】
上記のヒドロキシル基を有する化合物(すなわちヒドロキシル基含有化合物)は、例えば、ポリエチレングリコール、グリコール、グリコールエーテル(ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類も含む)、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロック共重合物、グリコール以外の多価アルコール(グリセロール、糖アルコールなど)から少なくとも1つ選ばれる化合物である。
【0062】
効力および安全性の両方を勘案してより好ましい溶解助剤は、ポリエチレングリコール基を有する化合物、例えばポリエチレングリコール基を有する(リン)脂質またはポリエチレングリコールである。そのオキシエチレン単位が10〜3500、好ましくは100〜2000の
ポリエチレングリコールが適する。このような溶解助剤を使用することは、超臨界二酸化炭素中への上記脂質膜成分の溶解性が一層向上し、溶解もしくは分散が加速するために望ましい。ヒドロキシル基を有する化合物を、超臨界状態もしくは亜臨界状態にする二酸化炭素の0.1〜10質量%、好ましくは1〜8質量%の割合で溶解助剤として使用するのがよい

【0063】
本発明の製造方法で使用する超臨界状態(亜臨界状態を含む)の二酸化炭素の温度は、通常25〜200℃、好ましくは31〜100℃、さらに好ましくは35〜80℃である。好適な圧力は、通常50〜500 kg/cm2、好ましくは100〜400 kg/cm2、特に好ましくは90〜150 kg/cm2
範囲である。
【0064】
本発明の磁気共鳴造影剤に使用するリポソームの作製方法は、具体的には以下のようにして行なわれる。圧力容器に液体二酸化炭素を加え、上記の好適な圧力および温度のもとにある超臨界状態もしくは亜臨界状態にする。超臨界(もしくは亜臨界)状態の二酸化炭素にリポソームの膜脂質成分としてリン脂質および脂質膜安定化物質を溶解または分散する。膜脂質成分としてカチオン性リン脂質、ポリアルキレンオキシド基を有する化合物(例えばポリアルキレンオキシド修飾リン脂質)、ポリエチレングリコール基を有する化合物、ステロール類、グリコール類から少なくとも1種選ばれた化合物を上記リン脂質とと
もに混合して溶解、分散させる。あるいは予めこれらの化合物を加えた圧力容器に液体二酸化炭素を加え、次いで温度、圧力を調整して超臨界状態にして混合してもよい。引き続き生成したリン脂質および脂質膜安定化物質を含有する超臨界二酸化炭素中に、常磁性金属化合物、必要に応じて前記製剤助剤を含む溶液または懸濁液を導入することによりミセルを形成させる。なお、添加する側と加えられる側を逆にしてもよい。充分に混合した後に、系内に水を加えて減圧し二酸化炭素を排出すると、常磁性金属またはその化合物を内包するリポソームが分散している水性分散液が生成する。この場合、該リポソーム膜内外の水相に常磁性金属またはその化合物が含まれていてもよい。リポソーム内部にも上記水溶液が封入されているため、常磁性金属またはその化合物はリポソームの外部水相(水性媒体)のほか、主としてリポソーム内部の水相に存在し、いわゆる「内包」の状態にある。さらに該リポソームを0.1〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.5μmの孔径を有する濾過膜を通す。次いで、滅菌処理、パッケージングなどの製剤過程を経て、本発明の磁気共鳴造影剤が調製される。
【0065】
超臨界二酸化炭素もしくは亜臨界二酸化炭素を使用するリポソーム調製法は、従来法に比べてリポソームの形成率、封入する物質の内包率、封入物質のリポソーム内の保持率が高いことが示されている(上記特許文献3参照)。さらに工業的スケールでの応用も可能である。実質的に有機溶媒を使用せずに非イオン性かつ水溶性の物質を効率よくリポソームに封入することができる本発明の方法は、本発明の磁気共鳴造影剤の製造には有用な方法である。なお、上記の「実質的に」とは、造影剤における残存有機溶媒濃度の上限値が10μg/Lであることを意味する。
磁気共鳴造影剤の製造方法
本発明の磁気共鳴造影剤に用いられるリポソームは、常磁性金属化合物を内包する効率の観点から、実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなるリポソームであることが望ましい。一枚膜のリポソームとは、リン脂質二重層が一層としてなる膜(unilamellar vesicle)
で構成されるリポソームである。凍結かつ断(Freeze fracture )レプリカ法による透過型電子顕微鏡(TEM)による観察において、レプリカが概ね1つの層として認められる
リン脂質二重層によりリポソームが構成されているものを一枚膜リポソームという。すなわち、観察したカーボン膜に残された粒子の跡について段差がないものが一枚膜と判定され、2つ以上の段差が認められるものは「多重層膜」と判定される。2枚もしくは3枚の膜で構成されるリポソームは、一枚膜リポソームより強度が増している。「実質的に」とは、本発明の磁気共鳴造影剤において、このような一枚膜のリポソームまたは数枚膜で構成されるリポソームを、造影剤中に含まれる全リポソームのうち、少なくとも80%、好ましくは90%以上含むことを意味する。
【0066】
上記の一枚膜リポソームまたは数枚膜からなるリポソームが、脂質類の溶媒として前記超臨界二酸化炭素もしくは亜臨界二酸化炭素を使用し、水による相分離方法により効率よく作製できることは特筆に価する。従来のリポソーム作製方法によれば、リポソーム形成を制御する困難さに起因して、様々なサイズ、形態の多重層膜(multilamellar vesicles; MLV)からなるリポソームがかなりの割合で存在することが多い。一枚膜または数枚膜のリポソームの比率を高めるためには、さらに超音波を照射するか、一定孔サイズのフィルターに何度も通すなどの煩雑な操作を必要としていた。一枚膜または数枚膜のリポソームは、MLVと比較して、リポソームの投与量、換言すると投与脂質量が大きくならないため、生理学的には望ましい。さらに製剤学的観点から重要な点は、磁気共鳴造影剤の単位容量当たりの脂質量が低下し、製剤の粘度上昇をもたらさないことである。同じサイズのリポソームであれば、一枚膜または数枚膜で構成されるリポソームの方が封入容量は大きく、多数の常磁性金属またはその化合物を1個のリポソーム内に内包させることが可
能であるため、必要なリポソームの個数、ひいては脂質量も少なくてすむ。
【0067】
リポソーム膜の脂質膜枚数が少ないリポソーム、特に粒径の大きい一枚膜リポソームであるLUV(Large unilamellar veislcles)は、多重層膜リポソームに比べて、大きい
封入容量を提供するという利点がある。本発明の造影剤に好ましく使用されるリポソームは、粒径が0.2〜1μm のLUVと、粒径が0.05μm 未満の小さい一枚膜リポソームであるSUV(Small unilamellar vesicles)との中間に位置する。このため、保持容積もSUVより大きくなり、常磁性金属化合物のトラップ効率、換言すると内包効率も、後述するように格段に優れたものとなる。また、MLV、LUVと違い、細網内皮系細胞に取り込まれて急速に血流から消失することもない。反面、常磁性金属化合物の内包効率に優れる一枚膜または数枚膜のリポソームでも、内包する常磁性金属化合物の重量が相対的に多過ぎるとリポソームの安定性は低下する。特にイオン強度の急激な変化には脆弱である傾向が観察されていた。本発明の造影剤のリポソームは、比較的小さい粒径に調整されている。さらにリポソーム膜にポリアルキレンオキシド基を有する化合物(例えばリン脂質)、ステロール類、グリコールから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有させて、脂質膜の安定化を図っている。その結果、そうしたリポソームは、塩ショックに対しても安定的であることが判明した。
【0068】
微細粒子としてのリポソームのサイズとその分布の調整は、本発明の磁気共鳴造影剤が目指す、高い血中滞留性、ターゲティング性、送達効率と密接に関わっている。粒径(粒子径)は常磁性金属またはその化合物を内包するリポソームを含む分散液を凍結し、その後破砕した界面をカーボン蒸着し、このカーボンを電子顕微鏡で観察すること(凍結破砕TEM法)により測定することができる。ここで「平均粒径」とは、観察された造影剤粒子の一定の個数、例えば20個の径の単純平均を指している。これは粒径分布で最も出現頻
度の高い粒径を言う「中心粒径」と、通常一致するか、または概ね近似している。粒径の調整は、処方またはプロセス条件を変更することにより行なうことができる。例えば、上記の超臨界状態の圧力を大きくすると形成されるリポソーム粒径は小さくなる。作製するリポソームの粒径分布をより狭い範囲に揃えるには、ポリカーボネート膜、セルロース系の膜などで濾過してもよい。例えば濾過膜として0.1〜1μm 、好ましくは0.1〜0.5μmの
孔径のフィルターを装着したエクストルーダーに通すことにより、平均粒径として0.4μm
以下のリポソームを効率よく調製することができる。押出しろ過法については、例えばBiochim. Biophys.Acta 557巻,9ページ(1979)に記載されている。このような「押出し」操作を取り入れることにより、上記サイジングに加えて、リポソーム外に存在する常磁性金属またはその化合物の濃度の調整、リポソーム分散液の交換、望ましくない物質の除去も併せて可能になるという利点もある。
【0069】
リポソームに受動的ターゲティング能力を持たせるには、その粒径の調整が重要である。特許2619037号公報には、粒径3μm以上のリポソームを排除することにより、肺の毛細
血管における不都合な滞留が回避されると記載されている。しかし、0.5〜3μmの粒径範
囲のリポソームは、必ずしも向腫瘍性とはならない。
【0070】
本発明の造影剤におけるリポソームの平均粒径は、通常0.05〜0.5 μm、好ましくは0.05〜0.3μm 、より好ましくは0.05〜0.2μm 、特に好ましくは0.05〜0.13μm である。X
線撮像の目的に応じて、平均粒径を適切に調整してもよい。例えば腫瘍部分の選択的撮像目的の場合には、特に0.11〜0.13μm が好ましい。リポソームの平均粒径を0.1〜0.2μm 、より好ましくは0.11〜0.13μm の範囲に揃えることによりがん組織へ選択的に磁気共鳴造影剤を集中させることが可能となる。本発明の磁気共鳴造影剤のリポソームは、そのサイズから細網系内皮細胞による捕獲の対象になりにくい。またリポソームがいわば赤血球類似の姿と挙動をしていて腎臓を経由して速やかに排出されることはなく、さらにステルス化されている場合には細網系内皮細胞に貪食されることもなく、血流中に比較的長くとどまる。これにより「EPR効果」が生じることが期待され、EPR効果による腫瘍描出性の改善を可能とする。
【0071】
本発明の磁気共鳴造影剤のように常磁性金属またはその化合物をリポソームというマイクロキャリヤーに封入する場合には、内包された常磁性金属化合物の重量とリポソームの膜脂質の重量との関係も考慮されねばならない。前記した通り、磁気共鳴造影剤における常磁性金属化合物の濃度を高くしてもリポソームに内包できる常磁性金属化合物量は限度があることから、本発明の造影剤では、全常磁性金属化合物濃度の好ましい範囲は、1mM〜1Mである。したがって、その内包効率と保持安定性、リポソームの安定性からは、リポソーム内への常磁性金属化合物の封入量として、リポソーム内に封入された水溶液中に、常磁性金属化合物がリポソーム膜脂質に対して、1〜8、好ましくは3〜8の重量比
(g/g)で含有されていることが望ましい。
【0072】
リポソーム水相に内包された常磁性金属化合物の重量比が1未満であると、比較的多量の脂質を注入することが必要となり、結果的に常磁性金属錯体化合物の送達効率が悪くなる。一枚膜もしくは数枚膜のリポソームは、保持容積および内包効率に優れるだけでなく、磁気共鳴造影剤の粘度がその脂質量によって左右されることからも有利である。反対に、リポソーム膜脂質に対する常磁性金属化合物の封入重量比が8を超えると、リポソームは構造的にも不安定となり、リポソーム膜外への常磁性金属化合物の拡散、漏出は、貯蔵中または生体内に注入された後でも避けられない。
磁気共鳴造影剤の利用
本発明の磁気共鳴造影剤は、注射剤または点滴注入剤として、非経口的に、具体的には血管内投与、好ましくは静脈内投与により被検者に投与されMRI測定装置により撮像される。一般にダイナミックMRI−CT検査、MRI灌流画像診断、特に血管性病変、腫
瘍性病変の描出を目的とする場合には、比較的高濃度の造影剤を大量に短時間で投与されることが多い。このようなボーラス注入を可能とするために、造影剤懸濁液に課せられる要件は、造影剤組成物の流動性と低い粘度である。注入抵抗を少なくして被検者の苦痛を軽減し、血管外漏出の危険を回避するため、本発明の磁気共鳴造影剤懸濁液の粘度(オストワルド法で測定した場合)は、37℃で、20 mPa・s以下、好ましくは18 mPa・s以下、より好ましくは15 mPa・s以下である。なお撮影する身体部位によっては、体液による希釈が緩慢に進むようある程度の粘度を有することが望ましい場合もある。
【0073】
かつて造影MRIは、どちらかというと脳・脊髄領域の血管診断、脳腫瘍の診断などに限定されていた。腫瘍および浮腫・炎症などの病変組織は、細胞内外の水分の移動を伴っていることから、MRI検査・診断技術は、臓器の機能、生理変化の非侵襲的検査のみならず、形態異常、病巣の画像診断に対しても好適である。したがって本発明の磁気共鳴造影剤は、肝臓、脾臓、すい臓などの各種臓器、血管、慢性関節リウマチ、関節炎などの炎症部位、腫瘍組織(特に肝臓腫瘍)、動脈硬化(特にアテローム性の)病巣などの造影に威力を発揮することが期待される。
【0074】
がんの放射線治療法の一つとして中性子捕捉療法が行われている。α線を放出するホウ素化合物が利用されるが、ガドリニウムもまた中性子増感物質である。157Gdは、長飛
程のγ線を放出し、熱中性子に対する捕捉断面積が、10Bの66倍の255,000 barnと大きいため注目されている。そこで、ガドリニウム、例えばGd−DTPAを上記のように調製した腫瘍指向性を有するリポソーム内に内包させ、このリポソームを含む磁気共鳴造影剤を投与して選択的にがん組織内において100ppm濃度以上になるように送達させる。がん病巣を造影するMRIと併用してガドリニウム中性子捕捉療法を施行すると、さらに的確な治療が可能となる。
[発明の効果]
本発明の磁気共鳴造影剤は、常磁性金属として解離性の常磁性金属錯体化合物を使用している。これをオートクレーブ滅菌の工程、貯蔵の間も安定であるリポソーム内に安定的に担持させることによってターゲティング性を付与している。したがって、本発明の磁気共鳴造影剤は、各種臓器疾患のMRI検査・診断に使用される磁気共鳴造影剤として、CT造影撮影にも好適である。
【0075】
上記常磁性金属錯体化合物は、生体内に投与された後は、血中に適度に滞留し、腎臓経由でほとんどが排泄されるため、体内蓄積もほとんどない。本発明の磁気共鳴造影剤は、含有するリポソームが非抗原性で実質的にクロル系有機溶媒を含まず、常磁性金属錯体化合物が目的部位へ選択的に到達することから、低用量化が可能となって被検者の負担が一層軽減される。
[実施例]
以下、本発明を具体な例を示してさらに詳細に説明する。以下の実施例中で用いる装置名、示された使用材料、その濃度、使用量、処理時間、処理温度等の数値的条件、処理方法などはこの発明の範囲内の好適例にすぎない。
【実施例1】
【0076】
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)86mgと、コレステロール38.4mg、PEG−リン脂質(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHT DSPE-020CN)19.2mgの混合物をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱し、次いで液体二酸化炭素13gを加えた。撹拌を行いながら、50kg/cm2であったオートクレーブ内の圧力を、オ
ートクレーブ内の体積を減ずることにより、120kg/cm2にまで上げて、二酸化炭素を超臨
界状態にし、撹拌しながら脂質類を分散・溶解させた。この超臨界二酸化炭素溶液をさらに撹拌しながら、造影剤溶液(日局ガドペンテト酸メグルミン溶液371 mg/mL、メグルミ
ンを99 mg/mL、ジエチレントリアミン五酢酸0.4 mg/mLを含有し、適量の希塩酸および水
酸化ナトリウムにてpHを7前後に調整した。最後に注射用水を加えて5.0mLに仕上げた
溶液)5mLを定量ポンプで連続的に50分間かけて注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、ガドペンテト酸を含有するリポソームの分散液を得た。得られた分散液を60℃まで加熱し、アドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmおよび0.45μmで加圧濾過した。得られたリポソーム含有造影剤の内包率(リポソーム内に内包さ
れているガドリニウムの全常磁性金属化合物量に対する割合)を測定したところ18%であった。
[比較例1]
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)86mgと、コレステロール38.4mg、PEG−リン脂質19.2mg、クロロホルムとエタノールと水との混合物(重量比 100:20:0.1)10mLをメスフラスコ中で混合した。この混合物を湯浴(65℃)上で加熱し、溶液をロータ
リーエバポレータで溶媒を蒸発させた。残渣をさらに2時間、真空乾燥して、脂質フィルムを形成させた。ここに、造影剤溶液(同上)5mLを加え、脂質フィルムを混合し、この混合物を65℃に加熱しながらミキサーで約10分間撹拌した。この混合物をアドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmおよび0.45μmで加圧濾過した。得られたリポソ
ーム含有造影剤の内包率を測定したところ7%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質膜内に常磁性金属または常磁性金属化合物を含有するリポソームを含み、
該リポソームが、必要であればポリエチレングリコールが存在してもよい条件下で、該脂質膜を構成する脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製され、実質的にクロル系溶剤を含まないリポソームであり、かつ
該常磁性金属または常磁性金属化合物が、1mM〜1Mの濃度で含まれることを特徴とする磁気共鳴造影剤。
【請求項2】
前記常磁性金属化合物が、キレート化化合物と化学的に結合した、ランタノイド系またはそれ以外の遷移金属の常磁性金属イオンから構成される常磁性金属錯体化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項3】
前記キレート化化合物が、ジエチレントリアミンペンタ酢酸または1,4,7,10−テト
ラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸の誘導体である請求項2に記載の磁気
共鳴造影剤。
【請求項4】
前記常磁性金属または常磁性金属化合物が、Gd、Dy、MnもしくはFeまたはその錯体化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項5】
前記リポソームの血中における滞留時間が半減期として0.5〜5時間であるであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項6】
前記常磁性金属またはその化合物の5〜95質量%が、リポソームに内包されていない形
態にあり、リポソームを懸濁する水性媒体中に存在することを特徴とする、請求項1〜5
のいずれかに記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項7】
全脂質が20〜100mg/mL造影剤の濃度で含まれることを特徴とする、請求項1〜6のいず
れかに記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項8】
前記常磁性金属またはその化合物のうちリポソームに内包された部分の前記脂質の量に対する重量比が、1〜8(g/g)であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載
の磁気共鳴造影剤。
【請求項9】
前記リポソームが、実質的に一枚膜もしくは数枚膜のリポソームであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項10】
ガドリニウム中性子捕捉療法に併用することができることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項11】
必要であれば、ヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物が存在してもよい条件
下で、脂質膜成分としてリン脂質とともに、カチオン性脂質、ポリアルキレンオキシド基を有する化合物、ポリエチレングリコール基を有する化合物、ステロール類から少なくとも1種選ばれる化合物を超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素に溶解した後、常磁
性金属またはその化合物の溶液または懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、常磁性金属またはその化合物を内部に含有するリポソームを作製することを含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の磁気共鳴造影剤の製造方法。
【請求項12】
前記のヒドロキシル基を有する化合物が、ポリエチレングリコールであることを特徴と
する、請求項11に記載の磁気共鳴造影剤の製造方法。
【請求項13】
前記のヒドロキシル基を有する化合物を、超臨界状態もしくは亜臨界状態にする二酸化炭素に対して0.1〜10質量%の割合で溶解助剤として用いることを特徴とする、請求項11
または12に記載の磁気共鳴造影剤の製造方法。
【請求項14】
前記の常磁性金属またはその化合物の溶液または懸濁液には、製剤助剤が含まれていることを特徴とする、請求項11〜13のいずれかに記載の磁気共鳴造影剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−45132(P2006−45132A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229514(P2004−229514)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】